124 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:11:11 ID:FU16j1e20


第六話 少年と決意




('A`)「...あれ? 家の方が明るいな...」


日が暮れだした頃、ドクオは荒巻堂からの帰り道、ヴィップの中心の丘の隠れ家への道を歩いていた。
普段、ここは立ち入り禁止区域でドクオ以外、誰もいないはずなのだが、誰かが松明でもつけているのか、火で作られた独特の明かりが隠れ家の辺りからぼんやりと見える。

125 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:12:04 ID:FU16j1e20
(;'A`)「まさか、騎士団に隠れ家がバレたのか...?」


もしそうなら不味い。
自分には大した罪はないがあのロマネスクの息子。
捕まること、間違いなしだ。


(;'A`)「どどどどどうしよう...逃げた方がいいのか...?」


見つかれば逃げ切る自信はない。
そもそも騎士は戦闘のプロ。
魔法すら使えないドクオに勝ち目はあるはずがない。

126 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:15:52 ID:FU16j1e20
(;'A`)「...とりあえず、近づけるだけ近づくか...」


覚悟を決め、顔を少し叩き歩き出す。
父親から教わった数少ない怪盗の技術、忍び歩き。
気配を消し、少しずつ近づいていく。


(;'A`)「.........」


呼吸を抑える。足音を抑える。
微かな記憶を頼りに大怪盗の技術を真似る。
うまくできている確証はない。バレているのではないかという不安がドクオの脳裏を掠める。
それでもドクオは歩みを止めない。
あの家には誰にも渡せない大切なモノがあるのだ。


残り100メートル程だろうか。ぼんやりとだが、窓から人影が見える。
身長はそこまで高くはない。ドクオと同じ位であろう。
そして、特徴的なのは動くたびに揺れている長い髪である。

127 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:17:01 ID:FU16j1e20
('A`)「ん? ...髪?」


騎士団は男だけの集団だったはず。
ならば、あれは...


('A`) 「...とりあえず、危険度は少し下がったか」


だが、安心はできない。
そもそも父親、ロマネスクが作った隠れ家の鍵が解除されている時点でおかしいのだ。

128 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:22:22 ID:FU16j1e20
('A`)「...かなりのやり手だな。開け方知ってる俺でさえ3分かかんのに...」


騎士団ではない。高レベルの鍵を開ける。
ここまでくれば答えはただひとつ。
あの影の正体は怪盗。
家のなかにいるのは恐らく名のある怪盗だろう。


('A`)「(大方、大怪盗のことを知りたい連中ってとこか...残念だが、息子の俺でさえ、知らないんだよな)」


そんなことを考え、苦笑いしながら扉をそっと開く。
中にいたのは大体、20歳くらいの黒髪の女。
女は棚などを触っては仕切りに首を傾げていた。どうやら、なにも盗まれてはいないらしい。少しだけ、安心する。

129 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:23:19 ID:FU16j1e20
('A`)「...残念ながら、その棚の鍵は俺しか開けられないよ」


川;゚ -゚)「っ!?」


いきなり声をかけられて驚いたのか、目の前の女は勢いよくこっちに振り向いた。ドクオは、ハッと息をのみその美しさに目を奪われた。
目を奪われたのは女の顔の美しさのせいではない。
視線の先は揺れる二つの山。

130 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:24:15 ID:FU16j1e20
(*'A`)「おお...」


女の神秘だ。
素直にそう感じた。
まるで絵にかいたような黒髪の美人。服も黒のピチッとしたスーツだから体の強弱がよく見える。
そう、山が、男のロマンが。ロマンの詰まった山がそこにある。


(*'A`)「眼福...眼福や...っぅえ?」


体が一気に軽くなる。まるで浮いているかのような浮遊感をその時感じた。
視界が流転する。床が天井に。天井が床に見える。
ちらりと、女の下乳が見えたなぁ...と思ったその瞬間。

131 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:25:40 ID:FU16j1e20
(;゚A゚)「ぐぶげぇ!!」


頭から勢いよく床に落ちた。
かなり、強くぶつけてしまったのか視界が赤に染まる。


川#゚ -゚)「キサマァ...いきなり現れて人の体を視姦とはいい度胸だな...このナイフの錆びにしてくれようか?」


(;'A`)「うぇ!? 俺そこまで重罪!? とりあえず、落ち着こう。ね? ほら、よくあるじゃん。目の前にエロいのあるとムラムラしちゃうこと」


川#゚ -゚)「あるわけねぇだろ、この糞エロ猿がアアア!!」


(;'A`)「なんでえええええ!?」

132 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:26:55 ID:FU16j1e20
喉にナイフが一気に迫ってくる。
終わった...ドクオはそう感じていた。
ドクオは静かに目を閉じ、全てを諦めていた。
永遠のように長い時間、目を閉じ続ける。
閉じて、閉じて、閉じて...


('A`)「...あれ?」


目を少しだけ開けてみる。
ナイフが目の前からなくなっていた。
喉を触れてみても切れていたりナイフが刺さっていたりはしていない。


(;'A`)「...なんで」

133 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:27:53 ID:FU16j1e20
ナイフは弾かれたかのように天井に突き刺さっていた。
それだけでもおかしい。
だというのに、さらに淡い光が目の前の女を包み込み、動きを封じていた。


川;゚ -゚)「なんだこれは...息が...苦しい...」


光は首に集まり、女を締め上げていた。
恐らく魔法、だろう。
しかし、おかしい。


(;'A`)「...俺は魔法を使えないのに」


そう、ドクオは魔法を使えない。
ならこの魔法はなんなのか。

134 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:29:54 ID:FU16j1e20
川; - )「ぐえ...」


(;'A`)「あ、おい!!」


予想以上に光の締め上げが強かったらしい。女はカクリと、糸の切れた人形のように床に倒れこんだ。
胸が上下してるところを見るとどうやら、気絶しているようだ。


(;'A`)「いったい何が...ん?」


不意に、床が小さく揺れた。
地震かと思ったが違った。
何か、床がガタガタ言ってる。
ネズミにしては音がデカイ。
それにこの、何て言うか第六感が危険を告げてる。なんか、めちゃめちゃ嫌な予感しかしない。

135 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:32:47 ID:FU16j1e20
(;'A`)「...」


ガチャン、と床の下から重々しい音が鳴り響く。と、同時に白い指が見え、しょぼくれた眉が見えて、そして、一番穴の奥には見たくないホモ野郎がいやがった。


(´・ω・`)「ヤッホー、ドクオ。拾いに来たぞ」


(;'A`)「ショボン!! できれば会いたくなかったけどナイスタイミング! おい、これはお前の仕業なのか!? ちなみにそこの謎の床の抜け道についてはあとで絶対説明してもらうぞ」

136 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:35:09 ID:FU16j1e20
(´・ω・`)「なにが? 僕なんかした?」


(;'A`)「見りゃわかんだろ! 知らない女がいきなり魔法で苦しんで倒れたんだ! ほら、目の前にいるだろ。それはお前の魔法のせいなのかって聞いてんの!!」


(´・ω・`)「魔法、ねぇ...僕は使ってないけど...ふむ」


しゃがみこみ、倒れた女の観察を始める。
少しすると
ショボンは眺めるのを止めて身体中を触りはじめた。
かなり、危ういラインまで手で触っている。

137 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:36:22 ID:FU16j1e20
(;'A`)「(う、羨ましい...)」


(´・ω・`)「...ドクオ」


作業を続けながらショボンがポツリと呟く。
その作業は複雑なものになり始め、魔法も使い始めていた。
しゃべりながらでも作業を止めないのはやはり、プロの技なのだろう。


('A`)「あん? なんだよ」

138 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:37:28 ID:FU16j1e20
(´・ω・`)「そんな目で見つめなくても僕のお尻やおっぱいならいつでも触らしてあげるよ?」


(゚A゚)「んな目で見てねーよ!!」


(´・ω・`)「そいつは残念。っと、結果が出たな...ま、予想通りか」


魔法による分析の結果が床に写し出されていく。
クー。23歳。怪盗。ヒートの娘...等々の個人情報が羅列されていく。

139 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:39:27 ID:FU16j1e20
(;'A`)「えげつねぇ...個人情報を丸裸にする魔法かよ」


(´・ω・`)「寝てる人にしか使えない魔法なんだけどね...まあ、便利なのには代わりはないけど」


('A`)「...で? 予想通りってのはどういう意味だ?」


(;´・ω・`)「んー、まずどこから説明するべきか...」


珍しくショボンが困った顔をしながら考え出す。いつもは適当な感じのショボンが悩むとは、と少しドクオは内心、驚いていた。
ショボンを悩ますとは余程のことなのだろう。

140 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:41:02 ID:FU16j1e20
('A`)「...教えてくれ、ショボン。俺は何があっても大丈夫だ。心配せずに言ってくれ」


(´・ω・`)「...そうか、わかった。単刀直入に言う。お前、殺人犯として指名手配されてる」


('A`)「...うん? すまん。もう一回言ってくれ。できたら三行で」


(´・ω・`)「教会の人死亡
     犯人はドクオ
     騎士団に指名手配」


(;'A`)「意味わからんわ!!」


殺人? なんだそれ。
全く思い当たる節がない。
そもそも、教会にすら全く行かない自分が教会の人を殺す理由すらない。

141 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:45:08 ID:FU16j1e20
(´・ω・`)「ま、明らかな冤罪なんだけどね」


('A`)「どういうことだ?」


(´・ω・`)「この話の鍵は...っと、あったあった。このページの大粛清...てとこかな? ドクオはさ、この大陸の北の方では未だにその村特有の神様を崇めてるの知ってる?」


ショボンは古くさい手帳を片手に質問してきた。
恐らく、あの手帳にこの疑問の答えが全て載っているのだろう。
ドクオは正直、その手帳を直接見いと言おうとしたがやめた。ショボンのその手帳の扱い方が大切な物を取扱う手つきだったからだ。


('A`)「ああ、そりゃもちろん。有名だろ。しかも、その北の村を騎士団が攻撃して改宗させようとしてんだろ?」


(´・ω・`)「その通り。なんでもね、教会内でもこのやり方に反対する人が多いらしくてね、荒巻の情報だと反対運動をしてた人を教会が秘密裏に処刑したらしい」


(;'A`)「うぇ...ひでぇ...」

142 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:46:54 ID:FU16j1e20
(´・ω・`)「しかも、酷いことにその罪をドクオのせいにしてるわけだ」


('A`)「ん? ちょっとまて。なんでそこで俺が出てくるんだ?」


そこだけが理解できない。
なぜ、ドクオに罪を着せたがるのか。
ショボンは手帳を閉じ、少し頭を掻きながら小さくため息をついた。


(´・ω・`)「ドクオはさ、教会が裏で何してるか知ってる?」


('A`)「?」

143 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:48:51 ID:FU16j1e20
(´・ω・`)「いけない薬の投薬実験や、異形の化け物を神の一部として人間の身体に組み込む実験。さらには家のない少女を保護すると言う名目でその少女を性玩具にしたり...まあ、色々やってんだよ」


(;'A`)「マジかよ...」


(´・ω・`)「やつらはね、恐れてるんだよ。自分達のやってることがバレるのが。それで、せっかくロマネスクがいなくなって悪事がようやくできると思ってたんだろうけど...ロマネスクには息子がいた」


('A`)「...」


(´・ω・`)「ただ、なにもなしにドクオを倒すのは教会としてはしたくなかった。ドクオ自体には大した罪状はないし、この大陸のほとんどの人に期待されてるわけだからね。となると、まずは信用度を落とす必要があったわけだ」


('A`)「...で、ちょうどいいから殺人の罪を着せたわけか」


(´・ω・`)「そゆこと。昔から教会を信仰してた人は確実に信じるだろうね。ドクオより多分、信用度は高い」

144 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:51:21 ID:FU16j1e20
('A`)「最悪だな...くそ、荒巻のやつ、俺にも教えてくれればよかったのに...」


日が完全に暮れてしまったのか、部屋のなかは薄暗い。
ぼんやりとショボンの顔が火の光により写し出されている。
その顔はどことなく寂しげで、うっすらと笑っていた。


(´・ω・`)「...というわけで、逃げるぞ。ここにいたらいずれ捕まるだろうし」


('A`)「おいおい...逃げるって言ったってどうすんだよ。いくら逃げても教会の人間なんてどこにでもいるんだぞ? どこいったって捕まるんじゃ...」


(´・ω・`)「勘違いすんな。尻尾巻いて逃げる訳じゃない。これはあくまで準備のための戦略的な逃げだ」


('A`)「戦略...?」


(´・ω・`)「戦うんだよ。糞ったれな教会と」

145 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:54:26 ID:FU16j1e20
(;'A`)「......」


正直に無理だとか無理だとか言ってやりたい気持ちを必死に堪える。
言いたい。しかし、言えない。
ショボンの表情が明らかに何かを決意している顔だった。
こんな顔をしてるやつを、止められるわけがない。
それに、ドクオも逃げるのは無理だと分かっていた。
となれば選択肢はおのずと決まる。


('A`)「...わかった。戦おうぜ、教会と」


(´・ω・`)「そういってくれると思ってたよ」


ショボンが手を差し出してくる。
ドクオはその手を固く握り返す。
一人は生き残るために。もう一人は育て親の願いを叶えるために。

146 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:55:12 ID:FU16j1e20
(´・ω・`)「(見てろよ、じいさん...)」


(´-ω-`)「(絶対、終わらせてやるからさ)」


ショボンは目を閉じ、決意を固める。
これから始まるのは辛い旅になる。
だが、それがどうした。
ドクオのため、そして荒巻のために。
彼は、戦うことを決意する。





川 - )キュウ...


もう一人、忘れてはいけない仲間がいるのだが、この時、二人はすっかり存在を忘れていた。

147 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:56:04 ID:FU16j1e20
ー北限の村シベリアの図書館ー


( ^ν^)「うはwwwこの本マジ面白www」


( ^ν^)「...ん? 伝書鳩? 荒巻から?」


( ^ν^)「...ちっ、面倒なことになりそうだ」


ーとある小さな教会ー


(*゚ー゚)「...おお、神よ。我ら選ばれし民はいつ救われるのでしょうか...?」


(*゚ー゚)「...ダメね。まだ、お告げすらもらえないなんて...シスター失格だわ...」


(*゚ー゚)「ハァ...いつ、神様は復活するのかな?」

148 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:59:04 ID:FU16j1e20
ー荒巻堂ー


川Д川「あらあら...死んで情報を守るなんて男らしくていいわねぇ」


川Д川「でも、残念。私は死体を操るのが仕事なの」


川Д川「さ、全てを話してもらいましょうか」


ーヴィップ大聖堂ー


( ・∀・)「(...同期のセントとマタンキが死んだ。あいつらも俺と同じで神信じてなかったから仲良かったのに...)」


( ・∀・)「(...そーいや、あいつら死んだのほぼ同じじゃなかったか? いくらなんでもタイミングがおかしい。そもそもなんでドクオのせいになっている?)」


( ・∀・)「...まあ、となれば次狙われんのは...」


(  ∀ )「俺、だよな? なあ、ブーン」


( ^ω^)「...」

149 名前:名も無きAAのようです :2012/07/16(月) 18:59:57 ID:FU16j1e20
ーとある民家ー


ノパ�゚)「...そう、荒巻が死んだの。残念だわ。仲良しだったのに...」


ノパ�゚)「...私ね、おあずけってやつが苦手なのよねぇ」


ノパ�゚)「もう、何年も待ったしいいよね?」


ノパ�゚)「ねぇ? ついていってもいいよね?」


ノハ � )「久しぶりに暴れたい気分なの」


ドクオ達はまだ知らない。
自分達を中心にさまざまな物語が動き出したことに。


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