593 名前:1 :2014/08/15(金) 21:00:18 ID:YSQy/0hU0



第十三話「戦う理由」



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594 名前:1 :2014/08/15(金) 21:03:39 ID:YSQy/0hU0

◇◇◇◇

('A`)「どうやら招かれてるみたいだな」

(*゚ー゚)「鉱山の地下にこんなものを設けているとは……」

ドクオとしぃは目の前に漂う一つ目の魔物についていきながら周囲を警戒する。ここはいわば敵の本拠地、いつ何が起きてもおかしくはない。オサムが不意打ちを仕掛けてこないとも限らないのだ。

明らかに人の手が入った縦長の通路を歩いていくと、開けた場所に出る。ドーム状の空間、その中心に巨大なタワーが建っており、周囲を大規模な術式が囲んでいた。

そこに二つの人影。

( ゚"_ゞ゚)

( ∵)

ドクオはゆっくりと歩いていく。これが最後の戦い。オサムを倒し、神父を救う。これ以上あの人を苦しませてはならない。

('A`)「言われた通り来てやったぞ。随分と悪趣味な秘密基地じゃないか」

静かに、だがはっきりと言葉を紡ぐ。それでも半球状のここではドクオの声が反響していた。

( ゚"_ゞ゚)「どうだ? 俺の研究の成果が全て詰まっているこの場所は。神秘的で、感動的だろう」

('A`)「はっ。お前の美的感覚は壊滅的だな。こんな薄気味悪い場所がお気に入りだなんてどうかしてる」

595 名前:1 :2014/08/15(金) 21:05:41 ID:YSQy/0hU0

( ゚"_ゞ゚)「褒め言葉として受け取っておこう。だが、そんな口を利けるのも今だけだ。すぐに断末魔の嬌声をあげさせてやろう」

(*゚ー゚)「あなたの悪巧みもここまでです。私達があなたの計画を止めてみせます」

( ゚"_ゞ゚)「下らない正義感、だな。本当にくだらない。人間の本質を理解しているのか? 人の歴史とは戦いの中で生まれてきたというのに、君達はそれを否定するのか?」

('A`)「過去のことなんて知らないよ。俺達が生きるのは今で、その先なんだ。たとえ戦いの中で歴史が作られたとしても、これから先もそうやって歩んでいくとは限らない」

(*゚ー゚)「人の心はあなたが言うほど醜いものではありません。誰かを想い、手を伸ばす優しさを誰もが持っているんです。生まれながらの悪なんて、本当はどこにもいないんですよ」

( ゚"_ゞ゚)「綺麗事だな。よほど幸せな生活を送っていたようだ」

('A`)「引くつもりはないんだな?」

( ゚"_ゞ゚)「元よりそのつもりだが」

オサムの言葉にドクオは剣を抜いて答える。もはや言葉ではこの男は止まらない。

( ゚"_ゞ゚)「君達には君達の理想があるように、俺にも俺の信念がある」

('A`)「黙れ。誰かを死なせてまで手に入れる思想なんて、たとえその先に誰もが笑っていられる未来があったとしても、俺は認めない」

ドクオとオサムの視線が交差する。

ドクオの言葉は奴が言う通り綺麗事だ。ドクオ自身貞子を手にかけている。彼女にも未来があったはずで、その未来をドクオは奪ったのだ。自身の手で自分の言葉を否定している以上、こんなことを言うのは間違っているのだろう。

596 名前:1 :2014/08/15(金) 21:06:59 ID:YSQy/0hU0

必要な犠牲だったとは言わない。自分の価値観で人の生死を決めたのだからドクオは立派な罪人だ。だからこそ、ドクオはその事実を受け止めて歩かねばならない。

('A`)「俺もあんたと同じ人間だよ。けどな、いや、だからこそ言ってやる。お前は間違ってる」

( ゚"_ゞ゚)「……ふっ、人を殺すために剣を振るうか。ならば、俺も相応の力で答えるとしよう。来い! 魔剣の主!」

オサムが手を振った。瞬間、人形がこちらに走り出す。

( ∵)

大降りのフック。ドクオは後ろに下がって剣を抜いた。人形はそのまま拳の連撃。その全てをうまく避けて、一瞬の隙を見つけて懐へと入る。

('A`)「らぁっ!」

人形の腹に横一閃。金属がぶつかる音、腹部に少し食い込んだだけでダメージにはならなかった。

踏み込んだ足を軸にそこから体を反転させ、回し蹴りを叩き込む。人形の体が吹っ飛び、ドクオは追いかける。

( ゚"_ゞ゚)「俺を忘れるなよ」

オサムの声と同時に下方から地面が盛り上がった。どのような魔法かは知らないが、ドクオは強引に横へと跳ぶ。

着地した瞬間、体勢を立て直した人形が迫っていた。

('A`)「ちっ!」

(*゚ー゚)「ドクオさん!」

人形の横から高速の水弾が四つ。人形がそちらへ意識を向けた。

('A`)「こん、のぉ!」

胸の辺りを狙って鋭い突きを繰り出す。ほとんど同時の攻撃に人形がわずかに動きを止めた。

だが、二人の攻撃は見事に外れることとなる。

人形の体が半透明になり、光となって霧散。ドクオの剣が空を切り、そのすぐ隣に再び人形が構成された。

攻撃の勢いを殺しきれないドクオに人形の光の礫。さらにオサム側からも黒い槍が狙っている。

(;*゚ー゚)「間に合って!」

597 名前:1 :2014/08/15(金) 21:08:16 ID:YSQy/0hU0

ドクオを覆う水の障壁。光の礫の軌道が逸れた。しかし、黒槍は障壁を突き破りこちらへと侵入する。

突きを戻す勢いを利用して体を返し、槍を消し飛ばす。障壁がなくなるのを見計らって人形の手がこちらに伸ばされるのが見えた。

さらに反転、剣で腕を弾いて全身を前へ。岩に体当たりをしたような反動が返ってきたが、人形との距離が離れた。

中空に光の弾が浮かんでいる。動き出すのを確認してから逆方向へ駆け出し、オサムの位置を確認。あまり離れていない場所に、奴はいた。すでに複数の術式を展開しており、こちらの動向を探っているのだろう。

迷うことなくそちらへ足を動かすと、周囲の床がタワー状にいくつもそびえ立つ。

('A`)「しぃちゃん!」

(*゚ー゚)「了解です!」

ドクオの掛け声で、しぃが用意していたのか広範囲の魔法を発動。巨大な氷の刃が隆起した岩々をまとめて凪ぎ払い、一瞬で凍りつくと粉々に弾けとんだ。

ドクオは最大速度を維持したままあと二歩のところまでオサムに接近、居合いの要領で後ろに流していた剣を目一杯横に振るう。

刹那、視界にノイズが混じった。次の瞬間オサムとドクオの距離が離れ、その中間に人形が現れる。

( ゚"_ゞ゚)「そう簡単に近付かせるほど俺は安くないぞ」

('A`)「くそっ!」

右、左と物理攻撃を交えながら人形は魔法を巧みに操りドクオを攻撃していく。さらにその後方にいるオサムはそこまで強いものではないが魔法で支援。しぃも負けじとオサムの魔法を相殺、攻撃を返していくもののやはり経験の差かドクオ達は徐々に押され始めていた。

598 名前:1 :2014/08/15(金) 21:09:49 ID:YSQy/0hU0

特にオサムの魔法で厄介なのは空間操作系の術式だった。距離を操り視界を操り、人形をこちらの完全な死角へと移動させていく。意識の外からではドクオもうまく対応が出来ない。

しぃもオサムと人形の飛び道具をうまく対処していると思うが、絶対的に手数が足りないのだ。二人分の魔法に対し、一人でそのほとんどを阻止しなければならない上にオサムと人形はこの場所にショートカット術式を用意しているようで、展開から発動までの時間が早すぎるのである。

しぃが打ち漏らした魔法の弾幕を避けながらの戦闘にドクオの中で焦燥を募らせていく。人形の攻撃は鋭く、そして重い。まともに食らえば意識を断絶させられるであろうことが容易く予想できた。しかも人形は戦闘が長引くにつれて攻撃のスピードを増し、パターンが多彩になっている。ギリギリのところで捌いているものの、少しずつではあるがドクオの被弾は多くなっていた。

('A`;)(どうなってんだよ……戦ってる中で成長してるってのか? それとも、オサムがなんかやってんのか?)

視認できる範囲では特別な魔力の動きはないはずだ。オサムが身体強化系の魔法を使っている様子もない。つまり、純粋に成長しているということになる。

('A`)(確か、こいつは魔力を吸収する力を持ってる。いや、それもあるけど魔法で定期的に放出してるよな。なら、何が……)

もう少し時間があればこの空間における魔力の流れを追えたかもしれないが、敵はそのからくりを簡単に明かしはしないだろう。

意識が思考の渦に飲み込まれ始めた時だった。突如背中で何かが炸裂した。

(゚A゚)「ぶべらっ!」

(;*゚ー゚)「ドクオさん!? 自分から当たりに来ないでください!!」

('A`;)「わ、わりぃ!」

(;*゚ー゚)「って前向いてください! 前!」

('A`)「あ」

( ∵)

振り向くと、人形がいた。

599 名前:1 :2014/08/15(金) 21:13:20 ID:YSQy/0hU0

腹部に拳がめり込んでいく。

( A )「あ、がっ……」

(;*゚ー゚)「ドクオさん!!」

弧を描き宙を飛ぶドクオ。揺れる視界の中で、人形の方へと魔力が流れていくのが見えた。

( A )(あれ?)

魔法に使われる様子はなく、ただただ人形の体へと吸収されていく。その度に人形の体から魔力が放出、吸収を繰り返していた。

( A )(どういうことだ、あれ)

空中で体を動かし、うまく着地を決める。それを狙ってドクオにトゲ付きの鉄球を模した黒い魔法が降り注ぐ。

それらを大きく剣を降って消し飛ばし、ドクオは立ち尽くした。攻撃に備えていた人形が一瞬動きを止める。

('A`)(魔力は)

一度周囲に展開されたオサムの魔法陣に吸収されると、違う魔力が排出されて人形へと放たれる。

('A`)(もしかして、こいつ……)

ドクオが解を導きだす前に人形が距離を詰めていた。

('A`;)「考え事もできねえのか!!」

ドクオが防御の体勢をとると、右下から鋭利な棘となった床がこちらを狙っていた。

バックステップ、着地。するとドクオの後方から無数の水弾が人形へと飛んでいく。

幾つかが人形の目の前で弾け、隙ができた。ドクオは人形へと近付き一歩踏み込む。

間違いなく当てられる距離。さらに、追加の水弾が人形へと迫っていた。

しかし。

600 名前:1 :2014/08/15(金) 21:16:09 ID:YSQy/0hU0

( ∵)

人形が水弾に向けて軽く手を振ると、水弾が始めから存在しなかったように消失。さらに逆の手でドクオの剣を握って受け止めた。

(;*゚ー゚)「えっ!?」

('A`;)「はっ?」

予想だにしなかった展開に、ドクオも、しぃも絶句する。確かに、敵は魔力を掌握する術を身につけてはいたが、ドクオの魔剣のように魔法そのものを消す力などなかったはずだ。

( ∵)

驚きのあまり動きが止まったドクオに、人形が魔法を消し飛ばした手を額に当ててきた。脳内に警鐘が鳴らされる。

全力で剣を引き抜き、逃れようとするが間に合わず、目の前で魔力が解き放たれた。

( A )「なっ……」

今のは水の魔法だった。しぃが使った魔法を利用したのか、それとも別の力なのか。どちらにせよこちらの動揺を誘うやり方はオサムの入れ知恵だろう。

うまく受け身をとって最小限のダメージに抑えるが、視界がちかちかと明滅していた。さすがのドクオといえど、至近距離で魔法を使われては威力を殺しきれない。

(*゚ー゚)「どういうことかは知りませんが、意識の死角をつけば━━」

しぃが援護のために術式を展開させるのが見えた。

('A+;)「駄目だ! 避けろ!」

ドクオの叫びにしぃが術式を留めた。途端にゆらりと陽炎が揺れる。

( ゚"_ゞ゚)「それを許すと思うかね?」

しぃの目の前にオサムが現れ、黒い霧を発生させる。

(* ー )「え……」

同時、留めていた術式が暴発。標的を失った水のレーザーはドクオへと向かう。

('A`;)「やべぇ!!」

601 名前:1 :2014/08/15(金) 21:17:44 ID:YSQy/0hU0

復活したドクオは剣を構えた。が、それを阻むように人形が魔法を展開。周囲を光の障壁が取り囲んでいく。

さらに障壁の中心からは細い糸が噴射され、ドクオの体に纏わりつくと一気に締め上げた。

('A`;)(動か━━)

動きを封じられたドクオは力任せに体を左へと寄せる。圧力のかかった水のレーザーが右肩を抉っていく。

からん、と音が響いた。肩に力が入らない。いつの間にか剣を落としている。

( ∵)

拾っている暇はない。人形がこちらを向いていた。

( ゚"_ゞ゚)「無様だな」

オサムが手を振ると、砕けた岩石の礫が人形を追い越してこちらへと迫る。剣を拾う暇もなく、ドクオは右へ転がって回避。

('A`;)「くそっ!!」

体を起こした時には人形の足がドクオをとらえていた。抉られた肩口に足が触れると、光が炸裂。驚異的な威力と魔法の力でドクオは端にそびえる壁に激突する。

( ゚"_ゞ゚)「弱い、弱すぎるぞ!」

再びオサムの魔法、ドクオの周囲に陣が浮かび上がり、そこから無数の黒い針が突き刺した。

致命傷にはならない程度に調整されたのか、ご丁寧に急所を外されている。腕や足に空いた穴から鮮血が流れていく。もはや痛みすらない。

( A )(早く、剣を回収しないと……)

床に倒れたドクオは急いで立ち上がろうとするが、うまく力が入らなかった。ちらりとしぃを見るが黒い霧はなおも彼女を覆っており明後日の方を向いている。どうやらこちらを認識してはいないようだった。

( ゚"_ゞ゚)「人形よ、これは君の獲物だ」

602 名前:1 :2014/08/15(金) 21:19:09 ID:YSQy/0hU0

オサムが魔剣を差してにやりと笑うのが見えた。

人形が魔剣を拾い上げる。片手で軽く振るい、具合を確かめているようだ。

( A )「てめぇ、それを……離せ!」

( ゚"_ゞ゚)「何、すぐに返すさ」

オサムが言うと同時、人形を魔法陣が囲む。ドクオが見てきたどの魔法陣より複雑で、巨大な術式だった。

( A )「何を……」

( ゚"_ゞ゚)「外の戦いでは君と魔剣の力の解析をさせてもらった。おかげで魔剣という存在の力をいくらか人形に組み込むことが出来た」

( A )「なん、だと……」

先ほどしぃの魔法を消し飛ばしたことをドクオは思い出す。仮にも伝説上の力を解析、組み込みをやってのけるなど信じられことではない。

だが、オサムはそれをやってのけた。あり得ないと言えることさえも、平然と。

( A )(どれだけ狂ってやがる……)

( ゚"_ゞ゚)「おかげで大分面白いことが分かった。魔剣が魔力を食らうのは、どうやらこの人形ととても似た性質を持っているようでね。元々そういった仮説は俺の中も考えてはいたんだ」

ドクオにはオサムが言う言葉の意味を正しく理解することは出来なかった。

その言い方では魔剣と人形は同質の存在だと言っているようなものだ。

生物としての兵器と、意思を持たぬ武器。相反する二つの存在が、同じだなどととても信じられることではない。

( ゚"_ゞ゚)「魔剣の主である君はもう気付いているのではないか? それとも、目を背けているのかね? この魔剣を持つ意味を、力を、理由を、知らないとは言わせない」

( A )「んなもん……知らねえよ」

本当は、薄々分かっている。あの剣は強い自我を持っていること。人を殺せと、世界を壊せと深淵の淵から呼び掛けている。

603 名前:1 :2014/08/15(金) 21:20:13 ID:YSQy/0hU0

あれは絶望を、悲壮をもたらすもの。それに取り憑かれたドクオも、もはや同様の存在なのだろう。

( ゚"_ゞ゚)「まだそんなことを言うか。よく目を開いて見るがいい。人であった存在が、体を欲した魔剣が、本当の悪魔となる瞬間を刮目せよ!」

人形から発せられる光が魔法陣を消し飛ばす。静寂が訪れ、徐々に人形の体に変化が生じていく。

体色が黒へと変わり、筋肉が隆起する。頭には黒い髪が生え、周囲に薄い魔力が漏れだしていた。

そして、肩甲骨の辺りから白く大きな羽がばさりと現れ、

( . )Aaaaaaaaa!!

人形は、更なる高みへと上り詰める。

( ゚"_ゞ゚)「ふははははははははは!! これだ、これだよ俺が求めていたものは!! 今、この瞬間、俺の研究は成就した!! 人も、悪魔も、神さえも凌駕した存在を作り出したのだ!! さぁ、殺せ!! 壊せ!! 全てを━━」

( . )

オサムの言葉は最後まで発せられることはなかった。

音もなく近付いた人形の手により、オサムは切り捨てられ、消えた。

自分が生み出した狂気に、殺されたのだ。

( . )Aaaaaaaaa!!

人形は生まれたことを誇るかのように、存在を誇示するかのように、吠える。到底生き物とは呼べぬほどの声で。

( A )「さすがに、これはねぇわ……」

(* ー )「ドクオ、さん……」

状況は絶望的だった。しぃは未だ解けぬ魔法によって視力を奪われたまま。武器もない、他に味方もいない。ただの人間にすら劣るドクオしか、あれを止める人間は見当たらない。

けれども、それでもドクオはやるしかなかった。人形も、いや、ビコーズ神父はどこまでも被害者で、救いを求めている。

人を愛した人間が救われないなんてドクオには認められない。

('A`)「やらなきゃ。俺がやらなきゃ……」

ドクオは立ち上がる。たとえ命を投げ出すことになるとしても、譲れないものがそこにはあるから。

604 名前:1 :2014/08/15(金) 21:21:19 ID:YSQy/0hU0

◇◇◇◇

(;´ ω `)(さすがに一筋縄ではいかないな)

操られているであろう二人の炭鉱夫にかかっている魔法の術式は酷く難解で、幾重にも渡って解除を妨害する罠が張られていた。

もっと多くの時間が残されていれば簡単とまではいかなくともショボンでも十分に対応できただろう。

しかし、先の鉱山崩壊術式を展開した際に、自身のマナを使用したせいでショボンはまともに動くことができない。

何せ一人の命を全て使うほどの規模だ。最後の最後でモララーが槍を突き立ててくれたお陰で、彼のマナを吸収できたからこそ死ぬことは免れたが、未だ危険な状態に変わりはない。

(;´ ω `)(このタイプの術式はそう簡単に個人で使えるものじゃないんだ。ということは、どこかに大元の術式があるはずだけれど……)

術式の一部を書き換えればご丁寧に魔力の暴走を促す術式を組み込まれているせいで迂闊に手を出せないうえ、魔力の供給元を特定させないように隠蔽術式を展開させているようだ。

その全てを同時に解析、削除しなければ二人の炭鉱夫は死に至る。しかも、マナを利用されてショボンが行った魔法と同規模の破壊を振り撒くだろう。

そもそも、敵が送り出している魔力の量が尋常じゃない。人一人が一度に操れる魔力は最高位の魔法使いですら精々王都の半分ほどである。

だがこの術式は半永久的に作用される仕組みになっていることから見ても、人間が扱う量を大幅に越えていた。

(;´ ω `)(せめて、大元の術式を解除できれば……)

605 名前:1 :2014/08/15(金) 21:22:07 ID:YSQy/0hU0

連鎖的に積み上がる問題に手をつけられる箇所が減っていく。恐らくではあるが世界的に見てもここまで大掛かりで、なおかつ人を陥れるほど酷いこの術式は最高峰レベルだろう。

知識だけでも、技術だけでもこんなものは作れやしない。それに、人の全てを否定するぐらい冷酷な心がなければ平常な精神ではいられないはずだ。

どこまでも人というものを馬鹿にしている。

王都を襲った貞子とやらも随分と狂った人間だったが、彼女でも比較できるものではない。

故にショボンは諦めることをしてはいけない。風前の灯火となった命さえ投げ出さねば騎士団のルールも、自身の心も根本から折れてしまう。

本来であれば今回の件、全てショボン一人で片付けなければならないはずなのに、帰りが遅い自分を心配してドクオも巻き込まれているはずだ。

失敗して、死にかけて、それでもしぶとく生きているのならその穴を埋める必要がある。結局ドクオに全てを投げてしまったのだから、騎士団副団長としての本質を果たすべきだ。

(;´ ω `)(まだまだ、まだまだだ!)

痛む傷口を押さえながら踏ん張っていた時、突如術式の命令が書き変わったことにショボンは気付いた。

これだけの術式に干渉でき、かつ書き換えるなどその辺の汎用な魔法使い、いやしぃほどの術者であっても到底不可能なはず。さらにここにいる者を考えれば本人以外考えられない。

(;´ ω `)(また不穏分子が現れたのか?)

だが、今はありがたい。どこの誰かは知らないが術式の一部が書き換えられたことによりショボンでも手を出せるレベルまで導かれた。

ショボンがこうしている今もものすごい速さで術式が書き換えられている。

(´ ω `)(救ってみせる! 絶対に!)

606 名前:1 :2014/08/15(金) 21:23:23 ID:YSQy/0hU0




( ;・∀・)(まずいな)

敵の攻撃をうまく無力化しながら、モララーはショボンへと目を向ける。

(´ ω `)

魔力の解析をしているのだろうが、すでに息はあがり大きく肩を上下させ、膝が笑っていた。

もはや彼は限界だろう。体内のマナを著しく消費している、とモララーは感付いていた。

だがモララーが止めたところで、ショボンがそれを止めないことも痛いほどに理解している。彼は彼の信念に基づいて動いているのだから、誰もそれを阻むことなど出来やしない。

( ;・∀・)(俺にできるのは敵の足止め。そしてあの人を信じることだけだ)

傷付きながら、悔やみながら、尚も歩き続けるなんてモララーには出来ないだろう。本当に大切なもの、譲れないものはモララーにだってある。けれど、失ってまで貫かねばならない信念は経験がものをいうのだ。

だからこそモララーはショボンを信じ続けてきたし、尊敬することができた。背中を見て、この人のために剣を取っていこうと誓うことができた。

失いたくない。

もっとこの人の隣で学びたい。

そのために、モララーは退くことをしない。

( ・∀・)「くそったれが!」

607 名前:1 :2014/08/15(金) 21:24:45 ID:YSQy/0hU0

大きく槍を振るい、衝撃波で二人を吹き飛ばす。先程つけた傷から鮮血が吹き出した。あまり力を込めたつもりはないが、剥き出しになった筋繊維や血管はいとも簡単に破れてしまう。

それでも痛みすら感じず、苦痛に顔を歪めることもない二人の男。一般人であり、生涯炭鉱夫として働き血生臭い戦いとは無縁の人間。

なのに彼らは望まぬ戦いを強いられて傷付いていく。たった一人の心無い人間の手によって。

そもそも一般人を戦闘員に作り変えるなど狂っていなければ出来ることではないだろう。人には人の生活があり、未来があるのだから。

ゾンビのような緩慢な動きと生命力で男達は執拗にモララーへと向かってくる。体のどこかが破損する度に彼らの腕が、手に力がなくなり人間とさえ呼ぶことも躊躇うほどに形を変えていた。

時間が経つだけ振るう刃が重くのし掛かり、自分が騎士であることさえ忘れてしまいそうだ。

モララーは虐げられる弱者のために、大切な人を守れる力が欲しくて騎士になった。目の前にいる二人はまさしく、自分の信念そのものなのに、彼らは自らの不運を嘆くことも、悲嘆に暮れることもなく与えられた命令に従うだけの生き物に成り下がって、モララーはそれを虐げているだけ。

こんなことのために力を身に付けたわけじゃないのに。

心に溜まる汚水はだんだんと行き場をなくし、いつの間にかモララーの瞳を介して流れていく。

( ;∀;)「苦しいよな、悲しいよな。きっと副団長がなんとかしてくれるから。だから諦めるんじゃねえぞ!」

( W )

(  − )

モララーの声は二人に届いたのだろうか。答えはない。

けれどもきっと、届いていると信じるしかない。

これが終わったら土下座でもなんでもしよう。許されるだなんて思っちゃいない。罵りでも嘲りでも好きなだけすればいい。

だから、今だけは、今だけは耐えてほしい。全ての決着をつけるやつらがここには揃っているのだから。

608 名前:1 :2014/08/15(金) 21:25:30 ID:YSQy/0hU0

◇◇◇◇

ツンは一枚の紙を取り出すと、それに魔力を込める。ふわりと浮かび上がり、宙を舞いながらモ・トコの街を進み始めた。

ξ゚听)ξ「ふむふむ、こっちか」

从'ー'从「なんだか可愛いねぇ〜、これ」

ξ゚听)ξ「ただの紙が浮いてるだけじゃない。可愛いもなにもあったもんじゃないわ」

从'ー'从「そうかなぁ〜」

渡辺がまるでお花畑で蝶を追うかのような発言をするのを横目で見ながら、ツンは色をつけ始めた線を確認した。

街中に張り巡らされた大小様々な網目状の線は全て魔法として使われている魔力であり、継続して存在しているということは術式にリンクされているということ。

そして線の太さは魔力の量で、太ければ太いほど魔力が通る量も大きい。つまり、それが術式のメインシステムに繋がっているはずだ。

ツンが使った魔力紙は魔力を視認させると共に最も魔力消費量が多い術式へ誘導するという効果を持つ。ただし速度は遅いので方角を割り出すためにしか使えないのだが、ツンはもう一つアイテムを取り出した。

从'ー'从「それはなぁに?」

ξ゚听)ξ「まぁ見てなさい」

ナイフほどの大きさの棒を地面に突き刺すと、細い魔力の線が棒の先へと収束していき、一本の太い線へと生まれ変わった。

从'ー'从「わぁ、おっきいねぇ〜」

ξ゚听)ξ「驚くのはここからよ」

棒を抜いて手に持ち、先程の魔力紙へと向ける。

609 名前:1 :2014/08/15(金) 21:27:30 ID:YSQy/0hU0

すると、必要以上に魔力を込められた紙は太いパイプとなった線に飲み込まれて一気に加速していった。

ξ゚听)ξ「よし、追うわよ」

从;'ー'从「わわ、ちょっと待ってよぉ〜」

杖に乗って空を飛んでいくツンのあとを渡辺が箒で追従する。そこまで速度は出ていないが、急ぐに越したことはない。

棒を使うためにいくつかの細い魔力の流れを潰してしまったが、おそらく問題はないはずだ。ツンの見立てでは細いラインはあくまで補助機構としての役割しか果たしていない。命令そのものはメインラインを通っているはずなので大きな影響は与えないだろう。

ξ゚听)ξ(ま、こんなもんで簡単に壊れる術式を作るとは思えないしね)

オサムの用心深さと魔法学への執念をツンは間近で見てきたのだ。必要のないものは排除し、徹底的に効率を求める一方できちんと補助的なバックアップシステムくらいは用意する。そういう男だ。

モ・トコの外れへと向かっていく魔力紙は、いくつかの中継点として設置された魔導鉱石を経由してとある場所で止まった。そして、その場所を見てツンは驚きを隠せず呆然とする。

ξ;゚听)ξ「……嘘……」

从;'ー'从「ふわぁ、おっきいねぇ〜」

ツンと渡辺の十倍以上の高さと幅を持つ巨大な岩。さらにその周囲に展開している魔法陣。

これが、オサムが構築した術式なのは間違いない。間違いないが、同時にツンは舌打ちをしてしまう。

ξ;゚听)ξ「まさか貞子と同じ手を使うとは思わなかったわ……」

从'ー'从「ほぇ? どういうこと?」

ξ;゚听)ξ「これ、この街の結界に使われてる魔力炉の役割を持ってる」

ツンが魔法陣を確認しながら言うと、渡辺が小さく嘘、と呟くのが聞こえた。二人にとって結界を利用した魔法というのはあまりいい思い出ではない。

610 名前:1 :2014/08/15(金) 21:29:09 ID:YSQy/0hU0

从'ー'从「えとえと、解除、難しいの〜?」

ξ゚听)ξ「完っ全に結界のシステムを利用してるっぽいし、まずは解析していかないと手の出しようがないわ。しかも」

ツンは鉱石を注意深く観察する。これだけ大きなものだ、暴発防止の術式は組まれているものの下手に手を出せばモ・トコの街一つくらい簡単に消し飛ばすだろう。

ξ;゚听)ξ「とにかく解析に入るから、渡辺は周辺の警戒をよろしく。敵だと判断したら片っ端からぶっ飛ばすのよ!」

从;'ー'从「な、なんとか頑張ってみるよぉ〜」

解析用に持ってきた箱状のアイテムを取りだし、魔法陣のシステムをスキャンしていく。目の前に浮かび上がる魔法モニターには文字の羅列が並び、使用されている術式など情報が細かく表示されていった。

ξ゚听)ξ(やっぱり私の推測は間違ってない。私につけた術式と王都で使った術式を元にしてるんだわ)

さらに別のモニターを作成し、いくつかのコマンドを打ち込む。使用されている術式の詳細が映し出され、ツンはそれらの内容を頭に叩き込んでいく。

自分の知識と照らし合わせながらの作業、もちろん専門ではない。ツンはあくまで戦闘員としての魔法使いだ。学者として完成されたオサムにはほど遠い。

だが、黒の魔術団で培った経験や知識は皮肉にもツンの血肉となり誰かを救うことができる。

後ろで心配そうに見つめる渡辺を、他で戦っているだろう仲間達を。

汚れきった自分は人間としての道を歩いていいのか、ドクオと渡辺に救われてから何度も何度も悩んできた。

自分の肌に刻まれた魔法陣は呪縛となってツンを苦しめている。破壊の力として闇の魔法を叩き込まれ、より効率的に術式を構築することに特化した体は人を壊すためのもの。

そんなものが、果たして人と言えるのかツンには分からない。一生答えは出ないのだろう。

それでも、ツンは誰かを救える。助けることができる。力は、知識はどこまでいっても使う人間の心によるのだから。

その心があるかぎり、ツンはまだ人であれる。今ここにいるのは、それだけで十分だった。

611 名前:1 :2014/08/15(金) 21:31:31 ID:YSQy/0hU0

ξ゚听)ξ(この術式、間違いなく周辺の街の結界と繋がってるわね。しかも街の生体反応を検知して自動的にマナを取り出すようなシステムになってる)

他の街で突如消えた人達は皆マナを取り出されこの術式に集められたのだろう。その行き先は鉱山の地下━━つまりオサムの研究室へと繋がっている。

さらにオサムが使用した魔法を自動で委託し、人が使うよりも効率的に魔力を維持することができるようだ。

集めた魔力の用途はオサムが任意で取り出したり出来るようで、あくまで魔力や魔法の操作、収集、解析がメインのようである。

ξ゚听)ξ(……現在継続中の魔法は、これか。場所は鉱山? オサムとあの変な人形のほかに誰かいるってこと? なら━━)

そこにショボン達がいる可能性が高い。反応を調べれば二つ分。マナの使用量や動向反応から察するに戦闘を行っているのだろう。

ξ゚听)ξ(えっと、詳しい場所と他の反応は……うん。やっぱりドクオとしぃが戦ってる場所とは違うみたいね。四人、ってことはショボンさんとモララーさんで間違いない)

四つの反応のうち、二つはこのシステムで強引に生命力を強化され、自我を奪われているようだ。だが、気になるのは今にも消え入りそうな一つの反応。人間が生きていられる限界までマナが減っていた。

十中八九モララーかショボンのどちらかが生命の危機に瀕しているということ。これではこの術式を解除するまで持つかどうか分からない。

ξ゚听)ξ(助けに行きたいけど、騎士団の二人だから怒られるだろうな。ほんと、男ってのは熱っ苦しいわ。やることやるまで生きてなさいよね)

612 名前:1 :2014/08/15(金) 21:34:24 ID:YSQy/0hU0

とりあえずメインのシステムの外堀から少しずつ削除していこうとして、ツンはあることに気付いた。

誰かがこのメイン術式に干渉している。しかもツンのように専門的な道具を使わずに、自身の魔法によって。

ξ;゚听)ξ(こんなことできるの相当な術者じゃなきゃできるわけない。ということは、ショボンさんが? しかも、これって、人心操作系の魔法を解除しようとしてる?)

無茶だ。こんな大きな術式を、メインの魔法陣の外から取り外そうだなんて普通の魔法使いなら試みようともしないはず。なにせ魔法陣の中枢の詳細が分からない以上、ダミーとして作られた術式の区別がつかないのだから。

だが、干渉している人間はそれらに引っ掛かることなく少しずつ、確実に網を掻い潜っている。

ξ゚听)ξ(こんなこと出来そうなのはショボンさんよね。なら、こっちもとことん利用させてもらうわ。うまく書き換えていけばショボンさんの方が解除してくれるかも)

あくまでツンの目的は街を覆うオサムの術式を解除すること。それだけで奴の戦力は大幅に削減されるはずだ。

从;'ー'从「つ、ツンちゃん!」

ツンがいくつかの術式を書き換えた時、渡辺が焦った声でこちらを呼んだ。

渡辺の方を振り向くと、複数の魔法陣が現れ魔物を吐き出し始めるところだった。先程戦った鳥型の魔物だ。

ξ゚听)ξ「やっぱり侵入者撃退用の術式を組んでたか。渡辺! 何とか堪えなさい! すぐに終わらせるから!」

从;'ー'从「了解だよぉ〜」

すぐに爆発音が聞こえた。渡辺が交戦を始めたのだろう。

あまりいいBGMではないが、ツンはツンのすべきことに全力を傾けねばならない。

ξ゚听)ξ(渡辺は体力がある方じゃない。ましてや見習いから昇級したばかり。時間をかけてられないわね)

もう一度気合いを入れ直し、ツンは表示されているモニターへ集中した。

613 名前:1 :2014/08/15(金) 21:36:51 ID:YSQy/0hU0




目の前の魔物に炎の塊をぶつけ、さらに小さく圧縮した火球をばらまく。

始めに放った炎が広がると同時に、火球が連鎖的に爆発。あまり威力はないが、鳥型の魔物は魔法攻撃への耐性が高くないためにまとめて爆散した。

頭上で飛んでいる魔物には炎の渦をいくつも出して牽制する。掻い潜って近付いた魔物は設置型の炎で迎撃。

渡辺の目的はあくまで時間稼ぎだ。ツンが術式の解除を終えるまで堪えることができればそれでいい。何も出てくる魔物全てを殲滅する必要はないのだ。

ならば作戦は簡単だ。使用する魔力、体力を温存しながら近付けないようにすればいいだけのこと。殺すまではいかなくとも、戦闘不能にすればそれで事足りる。

渡辺は自分が出来ることと出来ないことをある程度理解していた。運動は得意じゃないし、戦闘なんかもっての他。勉強も苦手だし、魔法陣の構築も普通の人間より時間がかかる。

けれども今の渡辺は何でも出来そうな気分だった。十や二十できかない数の魔物を目の前にしても、負ける気がしない。

何故なら渡辺は今誰かのために戦うことが出来ているから。王都で貞子と戦った際、渡辺は何もできず泣いてばかり、守ってもらうだけ。あの時ドクオが駆け付けてくれなければ自分は死んでいただろう。

614 名前:1 :2014/08/15(金) 21:38:38 ID:YSQy/0hU0

だから今、こうしてツンを守ることが出来て、ドクオの手伝いが出来て、とても満ち足りた気持ちが全身を巡っている。

本当は魔物を悪戯に殺生するのだって罪悪感は、ある。

元来争い事を好まない性格だが、何もしないまま死んでしまうなら戦うことを選択できるくらいには彼女も成長したのだ。

ドクオに会う前は自分の命を軽く見ている節があったが、ドクオが戦う姿や騎士団の生きざまは渡辺にいい影響を与えてくれた。少なくとも自分を取り巻く様々な要因を考えて動くことができるのだから。

誰かに優しくして、自身のことを省みない生き方も一つの考え方だろう。感謝されることはなくとも自分の道標として教えてくれた言葉は渡辺の心を大きく占めている。

だが、こうして信頼できる誰かが出来て、そこに自分がいないことを想像して、とても悲しい気持ちになったのだ。

みんなと笑い合えないこと、悲しみを分け合えないこと、辛いことや苦しいことを自分ではない誰かと共有していたら、そう考えるだけで嫌な気持ちになる。

昔の渡辺ならそんなことを思うだけで罪悪感で一杯になっていたが、それは人として当たり前の感情なのだと今は理解している。

いいところも、悪いところもあって初めて人は人であるのだということ。全てを受け止めて笑って許すことができるのは聖人君子でもなければ不可能なのだから。

从'ー'从「えい! ツンちゃんは私が守るんだからぁ!」

615 名前:1 :2014/08/15(金) 21:41:21 ID:YSQy/0hU0

箒を振って魔法が途切れないように陣をいくつも形成していく。使いきらないよう配分を考慮し、最低限で最大の火力を。

空と陸、二つのルートをきっちり抑えられた魔物達は渡辺に近付けないことから少々不満が溜まっているのか闇雲に突撃を繰り返し、自ら戦闘不能に陥っている。

翼を焼かれ、爪を砕かれ、地に伏せていく魔物達。本来一番頭を使う時間稼ぎという役割を渡辺は忠実にこなすことができていた。

そう、その時までは。

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼

从;'ー'从「あれれ〜、三つ首のわんちゃんが出てきたよぉ〜」

嫌な予感がした。鳥型の魔物は数を減らしたままで増えていないな、とは渡辺も気付いていた。このままうまくいくのではないかと少し楽観的になっていた部分も、否定はしない。

しかし、このタイミングで出てきたということはあちらがわもこれが持久戦だと予想していたのだろうか。

从;'ー'从「でもでも、負けないんだから!」

ケルベロスが三体、真ん中の一体が疾駆。迎撃用の魔法が迎え撃つも、強靭な肉体には焦げ痕すら残らない。

从'ー'从「えーい!」

ケルベロスの足元目掛けて爆発系の魔法を三つ。土煙に紛れて渡辺は箒に跨がり宙へと浮いた。ついでに渡辺が陣取った場所へ高出力の魔法を設置。

残りの二体がこちらを視認し、炎を吐き出す。うまくかわしながら渡辺は大量の炎の礫を作り出した。

从'ー'从「いっけぇー!」

616 名前:1 :2014/08/15(金) 21:42:23 ID:YSQy/0hU0

箒を振って魔法が途切れないように陣をいくつも形成していく。使いきらないよう配分を考慮し、最低限で最大の火力を。

空と陸、二つのルートをきっちり抑えられた魔物達は渡辺に近付けないことから少々不満が溜まっているのか闇雲に突撃を繰り返し、自ら戦闘不能に陥っている。

翼を焼かれ、爪を砕かれ、地に伏せていく魔物達。本来一番頭を使う時間稼ぎという役割を渡辺は忠実にこなすことができていた。

そう、その時までは。

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼

从;'ー'从「あれれ〜、三つ首のわんちゃんが出てきたよぉ〜」

嫌な予感がした。鳥型の魔物は数を減らしたままで増えていないな、とは渡辺も気付いていた。このままうまくいくのではないかと少し楽観的になっていた部分も、否定はしない。

しかし、このタイミングで出てきたということはあちらがわもこれが持久戦だと予想していたのだろうか。

从;'ー'从「でもでも、負けないんだから!」

ケルベロスが三体、真ん中の一体が疾駆。迎撃用の魔法が迎え撃つも、強靭な肉体には焦げ痕すら残らない。

从'ー'从「えーい!」

ケルベロスの足元目掛けて爆発系の魔法を三つ。土煙に紛れて渡辺は箒に跨がり宙へと浮いた。ついでに渡辺が陣取った場所へ高出力の魔法を設置。

残りの二体がこちらを視認し、炎を吐き出す。うまくかわしながら渡辺は大量の炎の礫を作り出した。

从'ー'从「いっけぇー!」

617 名前:1 :2014/08/15(金) 21:43:08 ID:YSQy/0hU0

炎弾が地面へと向かって躍り狂う。炎に耐性を持つケルベロスには致命傷にはなり得ない。だが、こちらの目的はどこまでいっても時間稼ぎだ。目隠しでもなんでも攻撃を続ける他方法はない。

さらに地と空、挟み込むように二つの魔法陣を形成。その中心に炎がいくつも上から下へと流れていき、地面に触れた瞬間巨大な爆発が巻き起こる。

現在渡辺が使える魔法の中では最大の威力を持つが、効果は期待できそうにない。立て続けに同じものを放つと、渡辺は周辺に目眩まし用の設置魔法を置いておく。

土煙の中から一つ、黒い影が躍り出た。紙一重で横に回避、そしてターン。横から思いきり体当たりをかましてやると、ケルベロスは短い悲鳴をあげて落下していった。

だがほっとするのも束の間、下から巨大な岩がものすごい早さで飛来する。急いで箒を操るも、避けきれず箒の後ろに当たってバランスを崩してしまった。

从;'ー'从「ふ、踏ん張って〜!」

うまく体を使って落下は免れたものの、敵の攻撃は止まない。失速した渡辺を狙って炎が乱れ飛ぶ。服を焦がし、肌を焼きながら宙を行き交い攻撃のチャンスを窺うが、一度離れたイニシアチブはなかなか戻ってこない。

その間にも魔法を設置していくが、こちらの魔法を認識しているのかケルベロス達は弱い魔法を狙ってそれらを潰していく。

炎系の魔法が得意な渡辺にとってははっきりいって相性が悪すぎた。魔力も無限ではないし、高威力の魔法でさえ敵の表面をほんの少し焼くくらいでろくなダメージになっていないようだった。

从;'ー'从(どうしよう……私の魔法じゃ時間稼ぎもできないよぉ……)

敵の数が時間によって増えていくとしたら、渡辺には抗う術がない。広範囲魔法は例によって威力が低いし、騎士団のほとんどが魔法使いであることを考慮すれば魔法耐性がある魔物を選ぶはずだ。

ケルベロス自体魔物としてはそこまで高位の種類ではないし、ましてや物理攻撃に特化した種族は防御を捨てている場合が多い。にも関わらず見習いを卒業した渡辺の魔法さえ通らないのではまるで話にならなかった。

箒を駆って空を飛ぶのですら魔力は消費されていく。このままではツンに被害が及びかねない。

从;'ー'从(でも、手を休めるわけにはいかないよぉ……。きっとみんなも、どっくんもこんな気持ちで戦ってるんだもん)

618 名前:1 :2014/08/15(金) 21:44:11 ID:YSQy/0hU0

右へ左へ、上へ下へとうまく敵に狙いをつけられないように動き回りながら、この流れを変える一手を思案する。

現在自分が切れるカードはいくつあるのか。まずは状況を整理していかなければならない。

渡辺が使えるのは炎系の魔法、そして空を自由に動き回れるということ。これは陸上しか動けないケルベロス達と相対する上では大きなアドバンテージだろう。

しかしいつまでも逃げ回っていてはいつツンが襲われるか分かったものではない。一応防御障壁を張ってはいるものの、ケルベロスの攻撃力を考えるとすぐにでも壊されてしまう可能性がある。

それとここに来る前ツンからもらった魔法道具もあるのだが、用途の説明を受けることなく受け取ってしまったので使い方はおろかどのような効果があるのかすら分からなかった。

ツンがちらりと言っていたのは攻撃系の道具だそうだが、説明書や仕様書はもちろんながら存在していない。

从;'ー'从(……とにかく使ってみるしかないよね。私がツンちゃんを守るんだから!)

方針は決まった。あとはどのタイミングでそれを使うか。そしてそのチャンスを作れるかどうかにかかっている。

とにかく、今は耐えて天に運を任せるしかない。

从;'ー'从(ツンちゃん、頑張って!)

619 名前:1 :2014/08/15(金) 21:45:19 ID:YSQy/0hU0

◇◇◇◇

( ゚.゚)

魔剣を手にしたビコーズの動きはまさしく、普段のドクオの戦い方を忠実に再現していた。まるで鏡に映る自分を見ているかのようで、ドクオはあの魔剣がどれほどの力を秘めているかを改めて確認させられる。

剣を一振りすれば地面を消し飛ばし、瞬きの間に姿を消して死角から現れる。

幸いなのは敵がこちらの力を計りあぐねているのか致命傷になる攻撃が来ないことだった。

なにせ魔剣が手元にない今のドクオは普通の人間に毛が生えた程度の力しかない。敵の一撃をもらえば簡単に死ぬし、魔剣で斬られれば即消滅するだろう。

確かに魔剣を持って戦闘を行っていた経験は活かされてはいるものの、元のスペックが天と地ほど離れているため精々攻撃を避けることしかできない。

こちらから敵に踏み込んだところでカウンターを食らうだけだろうし、ましてやダメージが通るのかすら怪しいところだ。

それでもなおドクオが戦い続ける理由は、混乱したままのしぃが残っているからだった。

(* ー )

('A`;)(くそ、このままじゃ攻撃をもらっちまう……早く目を覚ましてくれ、しぃちゃん!)

敵もしぃの存在を分かってはいるのだろうが、あれは戦いそのものを嬉々として行っている。つまり、このままドクオを相手取っている限りはしぃに意識が向けられることはないということ。

もちろんドクオの体力が底を尽きればその時点で二人が生存する確率はほとんどないし、その前にドクオが死んでしまう方が現実的ではある。

今の状況をひっくり返すなんて、やはり今のドクオでは力不足だった。

('A`)(しぃちゃんが目を覚ませばまだ可能性はある。だから、それまでもってくれよ俺の体)

目の前を人形の剣が掠める。すんでのところで体を反らして避けるも、さらに一歩踏み込まれ袈裟斬り。

ドクオはそのまま転倒し、横に転がる。すると上空から光の刃が降り注いだ。

体のバネを使って最速で起き上がると、ドクオは一気に駆け出す。ビコーズが隣を並走するが攻撃はない。

620 名前:1 :2014/08/15(金) 21:46:34 ID:YSQy/0hU0

慌てて急ブレーキ。突然止まったドクオにビコーズは着いてこれずに遥か先で停止した。ドクオは手近の石を拾うと思いきり投げつける。

一刀の元切り捨てられ、再びこちらへ。ドクオは振り返るとあっさり逃げ出した。

だが、ビコーズの人を越えた身体能力の前では無意味。一瞬で回り込まれ、剣を突き入れられる。

('A`;)「うぐっ……」

体を九十度回り込ませてギリギリ回避。着ていた服に触れ、その部分が一部消失する。

再び距離を取ってドクオは武器になりそうなものを探したが、そんなものはどこにもなかった。もしドクオに魔法の知識があればオサムが用意した魔法陣を利用できたのかもしれないが、考えたところでどうしようもない。

と、ドクオはすぐに思考を中断。目の前で人形が剣を振りかぶっていた。

('A`;)(避けきれねぇ……っ!)

一か八か、ドクオは人形の腕を掴んで押さえ込む。つっかえ棒の役割を果たし、奇跡的にも腕が振り下ろされることはなかった。

('A`;)(ぐっ……さすがに、押さえきれねぇ……)

徐々に沈んでいく体。全ての筋肉を総動員しても歯が立たない。

努力はした。自分にできる精一杯を続けてきた。けれども、この世界の怪物と真っ正面から相対してみればこの通りだ。所詮非力な一般人などその程度しかない。

逃げ出したかった。全てを投げ捨てて崩れてしまえばどれだけ楽になるか。

こんな世界などドクオになんの関係もない。巻き込まれただけの被害者なのに、どうしてこんな痛い思いをして、怖い思いをしてまで戦う理由などどこにあるというというのか。

けれども、ドクオはこの世界に生きている人達の笑顔を知っている。優しさを、強さを、涙を。

この世界にいる誰もがドクオを人として見てくれた。

元の世界で見捨てられ、孤独に死を待つだけの存在であったドクオを、何も言わずに見返りすら求めず拾い上げてくれた人がいる。

きっとそいつはドクオが死んでしまったら涙を流す。たくさんの人が死んだら心を痛める。

ドクオは、そんな彼女を見たくない。そんな顔をさせたくない。

たとえ一秒足りとも悲しませてはならない。

それが今、ドクオがここにいる理由。

621 名前:1 :2014/08/15(金) 21:47:37 ID:YSQy/0hU0

力がなくとも、どれほど弱くとも戦わなければ彼女は笑ってくれないのだから。

('A`;)「なぁ、ビコーズ神父。あんたは報われない人達をたくさん救ってきたよな。誰かを救うことで、世界は変わっていくんだって信じてたはずだ。醜いとこも、汚いとこも知りながら、それでも人の可能性を信じて手を差し伸べてきたんだ」

('A`;)「色んな人を見てきただろうよ。あんた自身辛酸舐めながら生きてきたんだから。なのに、今のあんたはどうだ! こんな結末で満足なのかよ!? 人を想い、世界を憂いたあんたが、人を殺すための兵器でいいのかよ!?」

('A`;)「あんたのことをまだ慕ってる人達がいるんだ!! あんたに会いたいって、お礼を言いたいって、あんたを待ってる人がいるんだよ!!」

('A`;)「いい加減目を覚ましやがれ!! 馬鹿野郎!!」

叫んだ瞬間、ドクオの体から力が抜けた。体勢が崩れ、前のめりに倒れてしまう。

腕や足の感覚がない。折れているのか、斬られたのかさえ定かではなかった。

殺される。

だが、目を逸らしてはいけない。自分の生きざまを、ビコーズの生き方をきちんと見届ける必要があるから。

('A`)

( ゚.゚)

しかし、ビコーズは動かなかった。切っ先をドクオに向けながら、何かと必死に戦っているようにも見える。

やがて、ビコーズの体が小刻みに揺れ始めた。さらに、宿舎前で戦った時と同じ、彼の瞳から何かが流れていく。

('A`)「……神父」

( ;.;)コロシテクレ

622 名前:1 :2014/08/15(金) 21:48:33 ID:YSQy/0hU0

ビコーズは、はっきりと自分の意思を伝えてくる。

まだ彼の心は残っていた、オサムや魔剣などに負けてはいないのだ。

('A`)「……諦めんなよ。俺だって諦めない。まだ、戦いは終わっちゃいないんだ」

ドクオは心の底から彼を救いだす方法があるはずなのだと信じていた。人の心はそんなに弱くない。

こうして彼と心を通わせていることが何よりの証拠ではないか。

( ;.;)モウイイノダ トックニツキタイノチ

( ;.;)コレイジョウダレカヲテニカケタクハナイ

きっと、彼は自分がしてきた全てを覚えているのだろう。人でありながら、人を救うはずの体は、多くの血に染まって心を凍てつかせてしまった。

本当は、手を差し伸べてあげたかったのに。

('A`)「あんたはまだ人間だろ。その証拠にこうして俺と話して、涙を流してる。人間じゃないなら、俺はとっくに死んでるはずだ」

ここにいるのはただの非力な男。戦うことを知らず、無様に逃げ続けてきた男なのだから。今の彼ならば手にかけることなど実に容易いはずだった。

( ;.;)ナゼキミハソコマデスルノダ

心の底からの疑問が、ドクオに伝わる。

('A`)「簡単な話だろ。報われぬ者に救いの手を。誰かを救うことに理由なんてない。救いたいから救う、目の前に泣いてるやつがいたら助けるのが人間なんだ」

( ;.;)ナンノカンケイモナイキミガナゼ?

('A`)「しぃちゃんにそう教えたのはあんたじゃないか」

彼の想いはしぃに引き継がれ、そしてドクオまでやってきた。

何の関係もない、弱い男を突き動かすほど大きな力となって元の場所へと戻ってきたのだ。

( ;.;)ワタシハ、スクワレテモイイノダロウカ

('A`)「あんたはたくさんの人を救った。だから、今度は俺が、あんたが救ってきた人達が生きているこの世界があんたを救うんだよ」

想いは世界を巡る。

623 名前:1 :2014/08/15(金) 21:50:09 ID:YSQy/0hU0

彼の生き方を見て、どれだけの人が他人に優しくなれだろう。

どれだけの人が誰かを救っただろう。

一人が一人に手を差し伸べて、その一人が他の誰かを助けて、そうやってたくさんの人達が他人に優しくなって、みんながみんなを想えればいい。

彼がそうしたように。

しぃがそうしたように。

だから、ドクオは彼を救いたい。

だから、ドクオは立ち上がらねばならなかった。

彼を、しぃを、人の心を、嘘だと否定しないように。

('A`)「まだ終わりなんかじゃねえ。終わらせやしない。絶対に諦めるもんか。俺はあんたを救ってみせる! だから、あんたの望みを言えよ! 生きたいって、救ってくれって言ってくれ! ビコーズ神父!」

( ;.;)

( ;.;)ナラバ

( ;.;)タノム

( ;.;)ワタシヲコロシテクレ

ビコーズは、

涙を流しながら、

人の心が通った声で、

静かにそう言った。

624 名前:1 :2014/08/15(金) 21:53:22 ID:YSQy/0hU0

( ;.;)モハヤマケンハワタシノココロヲトリコンデイル

( ;.;)カラダヲエタマケンハスベテヲハカイシツクスダロウ

( ;.;)ワタシノジガガアルウチニオワラセテホシイ

('A`;)「だから、まだ諦め━━」

( ;.;)イイカゲンニメヲサマセ!!

( ;.;)マケンハヒトノココロヲムシバムノダ

( ;.;)ワタシハモウモドレ……ナ……

ビコーズの声が段々と小さくなっていく。ここまで口を開くことが出来たのさえ無理をしていたのかもしれない。

('A`;)「ふざ、けんな! 俺は、諦めねえぞ! ここまで来たんだ! 諦めたら、しぃちゃんに申し訳が立たねえだろうが!」

ドクオは立ち上がり、吠えた。不意に視界の隅で何かが動く。

(*゚ー゚)「神父……様?」

そこには、魔法から解き放たれたしぃが立っていた。

('A`;)「しぃ、ちゃん」

(*゚ー゚)「神父様……ですよね?」

625 名前:1 :2014/08/15(金) 21:54:20 ID:YSQy/0hU0

(*;ー;)「しぃ、しぃです。あなたの教会でお世話になった、しぃです! ずっと、ずっと探していました! 教会がなくなってから、ずっと……」

(*;ー;)「姿形が違うとしても、神父様は神父様です。誰よりも優しくて、誰よりも強い私達の父親でした」

(*;ー;)「だから、言わせてください。私達を育ててくれて、愛情をくれて━━」

626 名前:1 :2014/08/15(金) 21:55:04 ID:YSQy/0hU0




(*;ー;)「ありがとう、ございました」




.

627 名前:1 :2014/08/15(金) 21:55:46 ID:YSQy/0hU0

しぃの言葉と同時、ビコーズの体の震えが止まり、彼を中心に空気が変わった。

('A`)「……しぃちゃん。絶対に諦めんな。俺も絶対に諦めないから。諦めたら全部終わりなんだ」

(*うー;)「はい」

('A`)「俺はビコーズ神父を助けたい。そんでしぃちゃんともう一度会わせる」

(*゚ー゚)「……お願いします」

('A`)「戦おう。今のあの人を止めるには、戦うしかない」

ビコーズが、いや、ビコーズを食らった何かが吠えた。魔剣に飲まれ、自我を失い、悪意に囚われた彼は今も悲しんでいるのだろう。

だから、ドクオはまだ戦わねばならない。

彼を救うため、傍らで涙を流す少女のため。

('A`)「来い! 神父!」

628 名前:1 :2014/08/15(金) 21:56:29 ID:YSQy/0hU0



一体自分はどうなってしまったのだろう。

死んでしまったのか、それとも生きているのか判断がつかない。まるで柔らかい綿に包まれているかのような安らぎを覚えた。

同時に風や魔力の流れ、どこで誰が何をして何を思っているかが手に取るように分かる。

様々な情報、様々な想いが種類を問わずに与えられ捨てることさえ出来ない。

だが、こちらにとって好都合だ。そのなかには自らの力では知り得ない隠され、秘匿されてきた情報さえある。

これさえあれば世界の掌握も、神に等しい存在になることも、新たな世界を創造することすら容易いだろう。

今、

この瞬間をもって、

彼は、

世界の全てを手に入れた。


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