531 名前:1 :2014/08/01(金) 21:06:26 ID:Fg3tJaY20



第十二話「心の在処」





532 名前:1 :2014/08/01(金) 21:09:10 ID:Fg3tJaY20

◇◇◇◇

从;'ー'从ノシ「あ、ツンちゃ〜ん」

ツンを見付けた渡辺は大声をあげて手を振った。街のどこにも魔物がいないことから安心してしまっているのである。本当はどこかに隠れているのかもしれないという不安はあるのだが。

ξ゚听)ξ「あんたね、どこに魔物が潜んでるのか分からないんだから少し自重しさなさいよ」

渡辺より消耗が少ないツンは、多少息を弾ませているものの顔色は良好である。渡辺と同じくドクオを探し回っていたはずだが、やはり黒の魔術団での経験があるからだろう。

从'ー'从「あのね、どっくん見付かったんだぁ〜」

ξ゚听)ξ「本当に? よかった……。本人はしぃのとこに?」

从'ー'从「うん。あとは任せろぉ〜って」

ξ;゚听)ξ「それ死亡フラグよ」

从'ー'从「でもでも、どっくんはやるときはやってくれるんだよぉ〜」

ξ--)ξ=3「信頼するのもいいけど、あれだけいた魔物が急にいなくなったのはおかしいわ。もしかしたら何かあったのかもしれない」

从'ー'从「そういえば、まだ術式が見つかってないよぉ」

ξ゚听)ξ「うん。それに、鉱山の方で大規模な爆発があったわ。もしかしたら中にショボンさん達がいるかも」

533 名前:1 :2014/08/01(金) 21:10:38 ID:Fg3tJaY20

从;'ー'从「ふぇぇ〜、それじゃあ……」

ξ゚听)ξ「まだわからないけど、事態は急を要するわね。多分だけど、この街の至るところに術式が張り巡らされてるみたいだし」

从;'ー'从「ん〜と、え〜と」

ξ゚听)ξ「混乱するな。とにかく、一度宿舎に戻って荷物を回収した方がいいわ。中に魔力探査の道具とかもあるし、全体の構図を把握しないことには私達は動けない」

从'ー'从「それは、うん。そうだね」

ξ゚听)ξ「魔物召喚やら仲間の分断やらうまいことやってくれたみたいだけど、このままやられっぱなしってのは癪だわ。さっさと反撃にでるわよ」

从'ー'从「おー」

走り出すツンに追走する形で渡辺は足を動かしていたが、唐突にツンが速度を緩めると立ち止まった。

ξ゚听)ξ「……あのさ、ちょっと気になったんだけど」

从'ー'从「なぁに?」

ξ゚听)ξ「私達が途中よった街で意味の分からない術式があったの覚えてる?」

飛行馬車を降ろされた際に寄った街に確か用度不明の魔法陣があったのを思い出す。その街は人がいなかったことも印象深い。

从'ー'从「覚えてるよぉ。そこから魔物が一杯出てきたよねぇ」

ξ゚听)ξ「それってさ、この街の状況と似てない?」

从'ー'从「……あ」

渡辺達は自分の目で魔法陣を見たわけではないが、人のいない街で魔物の大量発生。言われてみれば驚くほど酷似している。

だが魔物と戦闘している最中に魔物を喚び出す、もしくは生み出している術式があるのではないかと話をしていた。

ξ゚听)ξ「さらに、魔法ってのは規模の大小に関わらず魔力を使うものよ。これだけ大きい術式なら余計に魔力をくうはず。この魔力は一人で補える量を越えているといってもいい」

534 名前:1 :2014/08/01(金) 21:13:01 ID:Fg3tJaY20

从;'ー'从「人のいない街の魔法陣って……」

渡辺は自分の内に浮かんだ考えを否定しようとするが、叶わない。ツンの憶測はどこまでも筋が通りすぎている。

ξ゚听)ξ「確かドクオ達の話では他の街でも似たようなものを見たってことよね。それらを考慮すれば、ほぼ間違いないと思う」

从;'ー'从「人を魔力に変えたってこと?」

信じたくはない。信じたくないが……。

ξ゚听)ξ「ええ」

無情にもツンはそれを肯定した。黒の魔術団での経験がこの現実を受け止める心を、冷静さを作り出したのだろう。

ξ゚听)ξ「そして、私はこんなことができるやつを一人だけ知ってる。黒の魔術団の中でも有名だったわ。自由奔放、唯我独尊で上からの命令なんかくそ食らえ。もっとも扱いが難しいなんて言われてた」

渡辺は無意識に拳を握りしめていた。

罪のない人々を、懸命に生きる人々の未来をこうも簡単に奪ったのだ。

从'ー'从「許せないよ。そんなの」

感情が昂っていくのを止めることができない。今すぐにでもそいつの前に行って文句の一つでも言ってやりたい気分だ。

ξ゚听)ξ「落ち着きなさい。そいつはオサムっていうんだけど、戦闘はあまり得意じゃなくて、どちらかと言えば頭脳戦がメインよ。けど、こんな風に自分の僕を生み出したりして戦うからある意味貞子より質が悪い」

从'ー'从「どうするの?」

ξ゚听)ξ「ドクオやショボンさん達が戦ってるんなら、私達がやるべきことは敵の術式を解除するのがベストでしょうね」

从'ー'从「それじゃあ!」

ξ゚听)ξ「ええ。まずは魔力を辿りましょう。そのためにも宿舎に急ぐわよ」

敵の正体は分かった。やるべきことも定まった。

渡辺はツンの後ろを走る。こんなこと絶対に許してはならない。

そのためにも渡辺は止まってはならないのだ。

握った拳は、固く固く握られたままだった。

535 名前:1 :2014/08/01(金) 21:16:22 ID:Fg3tJaY20

◇◇◇◇

(゚A゚)「Aaaaaaaaa!!」

ドクオの全身を得体の知れない何かが駆け巡っていく。自我を食い破り、倫理観を破壊し、人としての理性すら闇の底へと沈んでいった。

もう戻れない。いや、戻らない。

大切なものを守らなければならないのだ。そのために必要なら、ドクオは自分すら投げ捨てる覚悟を決めた。

貞子を殺した時、初めて生き物の命を奪った時、ドクオは罪悪感を覚えた。けれど、そうしなければ渡辺やツン、しぃやショボンにモララー、王都に住む人々全てが傷つけられていただろう。

ドクオは自分のせいで誰かが傷つくのを見たくない。

だから強くならなければならない。

今以上に、それ以上に。

(゚A゚)「Foooooooooo!!」

ドクオは立ち上がり、人形へと肉薄する。

(;∵)

一瞬だが人形の顔に焦りが見えた。だが今更そんなことはどうでもいいことだ。

袈裟斬り。斬撃は目で追えないほど早く、空気を切り裂き真空を生む。

刹那、人形の体は肩口から分断された。さらに真空が刃を発生させ、第二波。人形の体のあちこちに深い傷を作っていく。

そこから回し蹴り。分断された人形の上半身は軽く数メートルを越える距離を飛んでいく。

536 名前:1 :2014/08/01(金) 21:18:43 ID:Fg3tJaY20

(゚A゚)

それを追ってドクオは走る。一瞬でそれに追い付くと元の形が残らぬほど縦横無尽に斬撃を繰り出し、最後に大きく上方から降り下ろすと、前方広範囲がまとめて消し飛んだ。

ドクオはゆらりと残した下半身へと振り返る。

街全体を覆っているはずの結界が淡く色付いていた。そこから幾筋もの光が人形に集まり、人形は元の形へと再生する。

( ∵)

(゚∀゚)「GYAHAHAHAHAHAHA!!」

笑いが止まらない。楽しい、愉快だ。

壊しても壊してもこいつは戦える。殺しても殺してもこいつは動ける。

ならばもっと徹底的に、もっともっと絶望的に蹂躙してやる。

(゚∀゚)「Haaaaaaaa!!」

( ∵)

人形が動いた。再生した腕をこちらに向け、同時に大量の魔力が収束。全てを殺す絶対的な力が地を抉り、周囲の建物を薙ぎ倒しながらドクオへと向かってくる。

ドクオは片手を前に出し、軽く払った。それだけで魔力は霧散し、沈黙が訪れる。

(゚∀゚)「AHYA!」

ドクオが跳んだ。一瞬で人形の真上に移動し、落下する勢いを利用して剣を降り下ろす。

対応できない人形は数瞬遅れて防御するが、間に合わない。頭から真っ二つになりごみのように転がる。

着地したドクオは人形に近付くと片方を持ち上げた。

(゚A゚)

先程までの笑みはもうない。

がっかりだった。あまりにも面白くない。神を謳いながらこの程度の力、自分の足元にも及ばないなど甚だしい。

これは油断だったのかもしれない。強大すぎる力を持つがゆえの慢心、ドクオは持っていたそれを投げ捨てる。

537 名前:1 :2014/08/01(金) 21:20:51 ID:Fg3tJaY20

だから、ドクオは気付かなかった。気付けなかった。

振り返ったとき、持たなかった半身がいつの間にか消えていた。辺りを見回しても見当たらず、まるで始めからなかったかのように跡すら残っていなかった。

途端、頭上から光が降り注いだ。ドクオの半径数メートルが吹き飛び、砂塵があがる。さらに四方八方から光球が踊り、ドクオは避けることさえできず余すことなく被弾した。

(#A"+)

攻撃が止み、視界が開けた頃にはドクオの体は肉が抉れ骨もひしゃげ、全身から血を流し、本来ならば死んでもおかしくないほどの傷を負っていた。

ドクオから数メートル離れたところに光の粒子が集まり、人形が現れる。切られたはずの体はすでに再生しており、余裕を見せつけるようにこちらの様子をうかがっていた。

(#∀"+)

ドクオが顔を歪めて、笑う。直後、彼を中心として暴風が吹き荒れた。

(( ∵))

人形は微動だにしない。それでもよく見なければ分からないほどではあるが、小さく震えているのをドクオは確認した。

自分達は戦いの権化だ。壊すために生まれ、殺すために存在し、全てを無に帰すために生きている。

泣け、逃げ惑え、恐怖しろ。

それがドクオを更なる存在へと昇らせるのだ。

(#∀"+)「Aaaaaaaa!!」

ドクオと人形の戦いはまた一つ高みへと進む。

もはや人という存在では止められないところまで。

538 名前:1 :2014/08/01(金) 21:23:33 ID:Fg3tJaY20



(*- _-)「ん……」

大気を震わせ地を揺らすほどの爆音でしぃはようやく目を覚ます。

確か、自分は得体の知れない何かに襲撃されて抵抗できずに気絶してしまったはずだ。間違いなく死んだと思っていたのだが、五体満足でいるところからどうやら生き延びているらしい。

ということは、渡辺かツンがドクオを連れてきてくれたのだろう。

(*゚ー゚)「えっと……」

ずきりと体が痛む。人形に掴まれた際体内のマナを根こそぎ奪われた影響か、うまく体が動かず自分の体じゃないような錯覚を覚えてしまう。

(;*゚ー゚)「それより状況は……」

今なお続いている戦闘音はしぃの遥か頭上から聞こえていた。そちらへと視線をやると、宙に浮いた二人の人間が目にも留まらぬ速さで攻防を繰り広げている。

しかも人形は傷一つないのに対し、ドクオの体は目も当てられないほどの傷だった。

なのに、ドクオは歪に笑っている。

攻撃するのが愉しくて仕方ない、傷つけるのが嬉しくて仕方ない。

彼の背中からはっきりと伝わってくる異常とさえいえる感情は、しぃの知っている彼とは似ても似つかない悪魔のような存在へと変貌を遂げていた。

(#∀"+)

(;∵)

(;*゚ー゚)「あれが、ドクオさん?」

539 名前:1 :2014/08/01(金) 21:25:51 ID:Fg3tJaY20

しぃは、何故だかこの戦いを止めなくてはならないと本能的に察する。このままではドクオが手の届かない遠くへと行ってしまうような気がした。

けれどもこの人外としかいいようのない戦闘は、体力も底を尽きた今の自分では、いや、仮に万全の状態で介入したところで止めることなど出来やしないだろう。

ドクオの剣と人形の手が交差し、衝撃波が生じる。

(;*つー゚)「あぅっ……」

未だ嬉々として攻撃を続けるドクオは、あれだけの傷を抱えながらなおも優勢を保っていた。表情のない人形の方があまりの猛攻に焦っているようにも見える。

やはり、あれはドクオではない。

しぃの知っているドクオは戦うことを嫌っている。

しぃの知っているドクオはあんな歪んだ笑みを浮かべたりしない。

あれは、本人の意思ではなく、悪意ある他人の手により操られているに違いないのだ。

しぃはドクオの仲間である前に、一人の人間としてこんなことは止めさせなければならない。

魔物に囲まれたとき、しぃは選んでしまった。過去と向き合う覚悟を決めた。

もう失ってはいけない。そのために、今、しぃは立ち上がらなければならないのだ。

(*゚ー゚)(何ができるか分からないけれど、やらなきゃ)

ぷるぷると震える足腰に渇をいれ、しぃはしっかりと立ち上がる。ステッキを握り締めて━━

540 名前:1 :2014/08/01(金) 21:28:18 ID:Fg3tJaY20

( ゚"_ゞ゚)「どこへいこうというのかね?」

唐突に聞こえた声に振り向いた。

( ゚"_ゞ゚)「興を削ぐようなことは控えてもらおう。大切な実験中なんだ」

(*゚ー゚)「あなたは……」

( ゚"_ゞ゚)「君は今、あれを見て恐怖しているかね? ならばそれが正常な反応だよ。あれは人という領域を越えて神の頂に登り詰めようとしているのだから」

全身黒一色の男は顎に手をやりながら、にやにやと不気味に笑っている。おそらく、敵ではあるのだろうが一切の敵意が感じられない。

ただ新しい玩具を与えられた子供のように、どこまでも純粋に、無邪気に今を楽しんでいる。

(*゚ー゚)「あなたが、今回の首謀者ですか」

( ゚"_ゞ゚)「だとしたら?」

(*゚ー゚)「私はここであなたを討たねばなりません」

( ゚"_ゞ゚)「それは不可能だろう。君は魔物との戦いで消耗している。対して、俺は君一人程度ならば簡単にあしらえる力を持っている」

それに、と男は続けた。

( ゚"_ゞ゚)「この実験を見届けなければならない。やるというなら構わないが、早めに終わらせてもらおう」

瞬間、男の周囲に魔法陣が展開された。並の魔力ではない。街一つならば簡単に消し飛ばせるほどの膨大な魔力、あんなものを放たれてはしぃなど一たまりもない。

(;*゚ー゚)「くっ……」

( ゚"_ゞ゚)「これは忠告だ。余計な真似をせず、大人しくあれを眺めていろ。それが正しい選択だ」

また、だ。しぃは己の無力さを噛み締める。

何かが出来るはずなのに、何も出来ないという矛盾。やることは分かっていても力及ばず、無駄に時間をもて余すしかない。

心なき力は暴力だが、力なき心はなんだというのか。

(*゚ー゚)「……一つお聞きしたいことがあります」

541 名前:1 :2014/08/01(金) 21:30:18 ID:Fg3tJaY20

力はなくとも、心がまだ折れていないのならば、出来ることはあるのではないか。

それだけを信じてしぃは口を開く。

( ゚"_ゞ゚)「何かね?」

(*゚ー゚)「あれはなんですか? そして、ドクオさんはどうなってしまったのですか?」

人のようで人でない存在と、人なのに人を外れた存在。この二つの矛盾がどうにも引っ掛かって仕方がない。

( ゚"_ゞ゚)「簡単な話さ。人のもつ魔力を純度を高めて変換した、いわば人を越えたもの。そして、魔剣の主は言わずとも分かるだろう」

(*゚ー゚)「……分かりません。ドクオさんは今まで人であり続けました。それが、何故今更……」

( ゚"_ゞ゚)「今までは力をうまく伝えていなかったんだろう。彼は力をもて余していた」

(*゚ー゚)「ならば、あれが本来の姿であると?」

( ゚"_ゞ゚)「そういうことだ。神に近しいあれと接触したことで秘められたものが溢れだしたのさ」

(*゚ー゚)「……それと、あの人形は人の魔力をマナに変換したと言いましたが、とさか」

( ゚"_ゞ゚)「元は人だよ」

男が言い終わる前にしぃはステッキを振るった。

しかし、彼は余裕を持ってそれを受け止める。

( ゚"_ゞ゚)「どういうつもりかね?」

(* ー )「あなたは、人を、命をなんだと思っているんですか?」

542 名前:1 :2014/08/01(金) 21:31:44 ID:Fg3tJaY20

あれが元は人だというなら、この男の手により望まぬ戦いを強いられているということ。

争いなどと無縁の人だったのかもしれないし、温厚な人間だったかもしれない。

( ゚"_ゞ゚)「皆決まって同じことを言うんだな。所詮いつかは死を迎える。早いか遅いか、それだけの無意味な生を俺が意味を与えているんだ」

(#*゚ー゚)「あなたは神になったつもりですか!? 力に溺れ、人の命を悪戯に弄ぶなど許されるはずがないでしょう!!」

人の命は他人に決められるものではない。自分で決めて自分で選ぶことにこそ価値がある。

しぃはそのことに気付くまで時間がかかり、後悔を繰り返してきた。

だからこそ、その行動にどれだけの覚悟と意味があるかが分かる。

( ゚"_ゞ゚)「だからどうした。飯を食い糞を垂れ、性に溺れ寝るだけの存在に意味があるのか? そんなものに俺は興味などない」

(#*゚ー゚)「人の価値はそんなところにあるんじゃありません!! それは心に、魂に、歩んだ道にこそ真の価値がある!! 苦しんで、悩んで、涙を流したとしても、道のどこかで振り返ったとき、その時にこそ人は自分の生に、命に価値を見出だすんですよ!!」

(#*゚ー゚)「それを、あなたは、踏みにじった。私は人として、騎士として、あなたを許しません!!」

( ゚"_ゞ゚)「許さない、ときたか。くっくっくっ、いいだろう。遊んでやろう、若き騎士よ。その人の価値とやら、見せてみろ」

543 名前:1 :2014/08/01(金) 21:33:21 ID:Fg3tJaY20

◇◇◇◇

瓦解した鉱山跡地にてモララーは一人槍を振るっていた。

何故自分がこんなところにいるのか、体が本調子ではないのか、疑問は多々あったが熟考する暇もなくモララーは戦闘を余儀なくさせられている。

近くには血塗れのショボンも転がっているというのに、早めに決着をつけねばならない。

( ;・∀・)「しっかし、どうなってんだこりゃ」

( ´W`)

( ・−・ )

虚ろな目をした二人の刺客はうまく連携を取りながらモララーを攻め立てる。

右から一人、華奢な体躯の割りに素早い動きでこちらとの距離を詰めると下から強烈な蹴りが繰り出された。

上体を反らしうまく避けるが、左からもう一人。こちらはハンマーのような大きい鈍器を手にしている。

( ;・∀・)「容赦ねえな、ったくよ!」

モララーは反らした半身を戻さずそのままバク転。返る力でハンマーを持った手を同時に蹴りあげると、男はハンマーを落とした。

不安定な足場だが着地。瞬間、右の男が攻撃の体勢に入っているのが見える。

544 名前:1 :2014/08/01(金) 21:36:29 ID:Fg3tJaY20

( ・∀・)「そら!」

弱い魔法で牽制すると、男は横に跳んだ。それを追ってモララーも跳ぶと、左の男は素早くハンマーを拾い上げ、こちらの斜線上に投擲する。

( ・∀・)「っと」

下から槍を当てて上方に弾き、広範囲に魔法を放った。モララーを中心に半径数メートルを光の槍が降り注ぐ。二人の男は防御すらせずに槍に貫かれ、力なく倒れていった。

( ・∀・)「なんだよ。もう終わりか」

と、モララーが槍を折り畳もうとしたとき━━

( ´W`)

( ・−・ )

何事もなかったかのように立ち上がる男達。依然彼らの体には穴が空いたままだ。常人であればショック死してもおかしくない傷を負いながら、彼らは平然と立ち上がったのである。

さすがのモララーもこの二人に違和感を覚え始めた。

( ;・∀・)(なんだこいつら。敵の魔法なのか?)

どういうことかは分からないが、この戦いを終わらせるにはこの二人を殺す他ないようだ。

どれだけ切り刻んでも、どれだけ中を掻き回しても、こいつらは体が動く限り戦い続けるのだろう。

( ;・∀・)(とんだことになりやがったぜ)

ゾンビのように酷く緩慢とした動きで向かってくる二人を、モララーは槍でいなしながら考える。

少し離れたところで倒れているショボンと今の状況、さらに正体不明の男と出会ってから定かではない記憶。これらから導き出されるのは、自分が敵に操られショボンと戦わされた。

そして、何らかの方法でショボンはモララーを救いだし倒れてしまった、というところだろう。

545 名前:1 :2014/08/01(金) 21:37:43 ID:Fg3tJaY20

では、この二人はなんだろうか。これまた推測ではあるが、敵の魔法によってモララーと同じく操られた人間、もしくは始めから作られた存在。

どちらにせよ敵であることには変わりないのだから、さっさと終わらせるに限る。

問題はどこまでのダメージが致命傷となるか、だ。

現状、普通の人間であれば死んでいるはずの傷ももろともせず今だ活動している彼らは、早さはなくなったものの十分に戦えるようだった。

( ・∀・)(てことは、本当に動けなくなるまでやらなきゃこいつらは止まらない)

上等だ。目の前に自分を止める奴がいるなら倒すまで。

モララーはそうやって生きてきたし、これからもそうして生きる。

邪魔をするやつは何人たりとも許さない。

( ・∀・)「行くぜ! おらぁ!」

モララーは槍を大きく振って衝撃波を放つ。

男達が吹き飛び、そのうちの武器を持たない男へと肉薄。急所である心臓部へと槍を突き立て、刺さったままぐるりと体を反転させる。

すぐ後ろまで迫っていた男を横から殴り付け槍を引くと、刺さっていた男も数メートルほどバウンドして動きを止めた。

546 名前:1 :2014/08/01(金) 21:40:04 ID:Fg3tJaY20

そこから魔法、一点集中型の巨大な光の槍を展開して止め。大きなクレーターを形成して男は瓦礫へと沈んだ。

( ・∀・)「あらよっと!」

すぐに地を蹴り、宙を舞う。片方の男が拾ったハンマーを振りかぶっていた。

地響きと共にハンマーが誰もいない地を叩き、その隙に後方へ回ったモララーは首を切り飛ばす。

何も出来ずに倒れた男を見下ろし、一息つこうかと煙草を取り出しかけて━━

( ・∀・)「おっと」

振り向き様に槍を分解。巻き付けて男を拘束する。

( ・∀・)「こんなんじゃ不意打ちにもならねえぞ」

男の胸に手を当て、魔法陣を展開。体の内部を破壊する強力な攻撃を使い、そこから槍を振って遠くへ投げる。

( ・∀・)「めんどくせえ。終わらせ━━」

(´ ω `)「やめろ……」

( ・∀・)そ「副団長!?」

魔法陣を展開させかけて、モララーは慌てて止めた。敵の二人はもはや虫の息で、起き上がるのにも相当な時間をかけている。

547 名前:1 :2014/08/01(金) 21:41:03 ID:Fg3tJaY20

( ・∀・)「大丈夫ですか? 俺が油断したせいで……」

(´ ω `)「謝罪は……あとだ。あの二人を、殺してはいけない」

( ・∀・)「はっ?」

(´ ω `)「あれは、一般人だ。間違いなく」

( ・∀・)「一般人て……」

(´ ω `)「僕達は……騎士だ。救わなきゃならない。だから」

満身創痍で立ち上がるショボン。足腰は震え、まるで生まれたての動物のように弱々しい。

( ; ・∀・)「そんな傷で戦うつもりですか!?」

(´ ω `)「当たり、前だ。僕は騎士で、彼らは一般人。命をかけてまで救うべき人達なんだ!! それが、僕の道なんだよ!!」

( ・∀・)「……分かりました。あいつらは敵に操られてるんですよね? なら、副団長は魔法の解析をお願いします。俺は足止めに徹しますから」

(´ ω `)「くれぐれも、殺すなよ」

( ・∀・)「了解」

騎士としての誇りや矜持がショボンを立たせているなら、その部下である自分はそれを支えるために働かねばならない。

尊敬する上司のため、先輩のため、決意新たにモララーは槍を振るう。

( ・∀・)「仕切り直しだよこの野郎」

548 名前:1 :2014/08/01(金) 21:42:01 ID:Fg3tJaY20

◇◇◇◇

ξ;゚听)ξ「何よ、これ」

宿舎までたどり着いたツンと渡辺は、目の前で繰り広げられる戦いに萎縮してしまった。

人を越えた戦いとはまさにこのことだろう。黒の魔術団でさえここまでの実力を持つものはいなかったはずだ。

つまり、これは奴が生み出した戦闘兵器ということなのだろう。

从'ー'从「……どっくん」

渡辺が不安げに目の前の光景を眺めて呟く。

ツンは何かを言わねばならない、と察したがそれよりも大事なことがある今それを言うときではない。

ξ゚听)ξ「渡辺。早く宿舎に入りましょう。私達にはやることがある。優先順位を間違えちゃ駄目よ」

从'ー'从「うん」

戦場を避けて宿舎に侵入すると、中は大分荒らされてはいるもののツンと渡辺の荷物は無事だった。中身も無事だ。

ξ゚听)ξ「これと、これ。あとは、これもね」

必要なものを取り出し、持参したポシェットに入れていく。すると、隣でそれを見ていた渡辺が、

从'ー'从「そういえばしぃちゃんはどこかなぁ?」

ξ゚听)ξ「……確かに見当たらないわね」

彼女も相当消耗しているはずだ。魔物がいなくなったとはいえ、敵は無尽蔵に魔物を生み出すような魔法を操れるのだ。どこかで休んでいるのならばいいのだが。

549 名前:1 :2014/08/01(金) 21:43:33 ID:Fg3tJaY20

ξ゚听)ξ「……一応これ飲みなさい。全快とはいかなくても、魔力は回復するわ」

小さな瓶詰めの液体を渡辺に渡し、自らも同じものを飲み干す。これで魔物と遭遇しても対応できるはずだ。

从'ー'从「……ねえ、やっぱり」

ξ゚听)ξ「分かってる。もしかしたらって可能性もあるしね。念のためこの周辺を━━」

ツンが言い終わる前に、部屋の壁を突き破って何かが飛んできた。二、三度床を跳ねて止まったそれを見て、思わずツンは駆け寄る。

(*#ー")

ξ;゚听)ξ「しぃ!?」

从;'ー'从「しぃちゃん!!」

傷だらけのボロボロ。衣服は破れ、露出した肌は裂けて血が滲んでいる。

( ゚"_ゞ゚)「おや、小娘と遊んでいたら忌み子と道具に遭遇するなんてな」

穴の空いた壁から男が顔を出した。

ξ゚听)ξ「棺桶死オサム……」

( ゚"_ゞ゚)「久しいな、貞子の道具。君も俺の研究対象として欲しかったのだが、もはや無用の産物だよ」

ツンはオサムを睨み付ける。この男ほど生理的に嫌悪感を抱かせる人間も珍しい。見ただけで嘔吐感が込み上げてきた。

550 名前:1 :2014/08/01(金) 21:44:56 ID:Fg3tJaY20

ξ゚听)ξ「あんたなんかに体をいじくられなかっただけ不幸中の幸いだったわ」

( ゚"_ゞ゚)「そう嫌わないでくれ。今俺は気分がいいんだ。魔剣を覚醒させ、神を創造した。もはや君達では止められないほどに事態は進展したのさ」

ξ゚听)ξ「冗談じゃない。あんたのやり口くらい私が分からないとでも思ってんの? 止めてみせるわ。こんなくっだらない計画、全部ね」

( ゚"_ゞ゚)「相変わらず威勢だけはいい。王都の連中に感化されたようだ」

ξ゚听)ξ「……渡辺」

ツンは杖を構えてオサムと対峙する。

ξ゚听)ξ「ちょっと野暮用ができたの。しぃを連れて話した通りにできる?」

从;'ー'从「え? でも……」

ξ゚听)ξ「お願い。黒の魔術団とのけじめはきっちりつけときたいの。特にこいつは、私の体に描かれてる魔法陣の考案者だからね」

本来であれば貞子に対するけじめだったのだ。しかし、この男も貞子同様人を弄ぶ、いやそれ以上の屑。黒の魔術団を知るツンとしては何がなんでも止めなければならない。

(*#ー")「駄目……です」

臨戦態勢に入ったツンの後ろから、小さな小江が聞こえた。

从;'ー'从「しぃちゃん!? 立ち上がっちゃ駄目だよ!!」

しぃはよろよろと立ち上がると、ツンの隣でステッキを構える。

(*#ー")「この人は、私が倒さないと……」

551 名前:1 :2014/08/01(金) 21:46:16 ID:Fg3tJaY20

小さな声だが、確かな意思を感じる声色。つい先程までおどおどしていたはずの彼女とはうってかわって、決意が溢れている。

ξ゚听)ξ「無茶よ。何があったかは知らないけど、その体じゃろくに戦えない。休んでなさい」

(*#ー")「人を、命を、この人は弄んでいるんです! たくさんの可能性を、未来を奪い、自分の欲求を満たすための道具にしか思ってない人間を、私は許せません!」

从'ー'从「しぃちゃん……」

しぃの想いは人として、騎士として至極当然のことなのだろう。そして、本人もそうありたいと願うからこそ、ここに立っている。

自分の命を省みずに。

ツンはしぃと自分を重ねてしまった。

自分の理想や思想なんて、黒の魔術団に入った時からどこにもなかったとツンは気づかされる。

どこまでも真っ直ぐで、愚直なほどの理想をツンはどこかに置き忘れてしまったのかもしれない。

ξ゚听)ξ(……子供なのは私なのかも)

全てに絶望した自分と、そこから立ち上がろうと足掻くしぃ。

ツンにはしぃを止める権利などありやしない。

从'ー'从「それなら、私も協力するよぉ〜。一人じゃ出来ないことも、みんなでやれば不可能じゃないよ」

(*#ー")「ですが」

从'ー'从「ね? ツンちゃん」

渡辺に振られツンは少しの間、迷う。

自分は二人の隣に立つ権利があるだろうか?

どこまでも愚かな自分は、正義のために戦えるのだろうか?

ξ--)ξ

552 名前:1 :2014/08/01(金) 21:47:35 ID:Fg3tJaY20

そんなもの、ありやしない。けれど、ツンは今自分の意思で決めることができる。

心のままに、歩くことができる。

ξ゚听)ξ「しぃはまず体力と魔力の回復をしなさい。そこの鞄に回復瓶が入ってる。渡辺と私で少し時間を稼ぐわ」

从'ー'从「ツンちゃん!」

ξ゚听)ξ「勘違いしないで。こいつを倒すには三人の方がいいって判断しただけよ。それじゃ、やるわよ!」

( ゚"_ゞ゚)「相談は終わったか? それじゃ心置きなくやらせてもらおう」

オサムの周辺に魔法陣がいくつも出現する。そこから三体の魔物といくつかの光球が現れた。

ξ゚听)ξ「渡辺は右の魔物を、私は真ん中と左のをやる」

从'ー'从「了解だよぉ〜」

ツンは杖を前に振ると、すかさず攻撃を放つ。貞子直伝の闇魔法、巨大な爪を模した黒い塊がオサムのいた辺りをまとめて抉りとった。

さらに頭上から黒雷。敵の立っている場所をまとめて吹き飛ばす。

ξ゚听)ξ「これで終わりじゃないでしょ?」

もくもくとあがる煙の中から浮かんでいた光球が飛来した。

ツンはひらりと横に飛んでそれをかわす。闇魔法では一切の防御魔法を形成することができないため、防御や回避は己の体術次第なのだ。

从'ー'从「えーい!」

渡辺が隣で箒を降っていた。部屋全体を包む莫大な炎の渦がいくつも巻き起こり、周辺の物という物が消し炭になっていく。

553 名前:1 :2014/08/01(金) 21:49:20 ID:Fg3tJaY20

ξ;゚听)ξ「出力間違えてんじゃないの?」

渡辺の攻撃に呆れながらも魔法をいくつも設置していく。部屋から出さないように、しぃに被害が及ばないように考えながら、敵の行動を予測しながら。

( ゚"_ゞ゚)「なかなかやるな」

視界が一気にクリアになる。オサムが何かしたのか、煙が一斉に掻き消えた。

( ゚"_ゞ゚)「だが甘い」

オサムの目の前に生き耐えた魔物が横たわっている。それらはすぐに光となり、魔法となり、凶器となってツンと渡辺に降り注ぐ。

从'ー'从「ツンちゃん!」

渡辺がツンの前に躍り出て防御結界を形成した。結界に弾かれ、光の槍は霧散する。

ξ゚听)ξ「喰らいなさい!」

床が盛り上がり、板を突き破って黒い棘が現れた。それに触れた木の板は瞬時に溶けていく。

オサムの後方にまで及んだ黒い棘は、彼の行動を制限すると同時にこちらの動きを見えなくさせた。

554 名前:1 :2014/08/01(金) 21:52:02 ID:Fg3tJaY20

さらにツンはその棘を起点として黒い霧を噴出させる。

( ゚"_ゞ゚)「これは……」

ξ゚听)ξ「闇毒よ。体内に入れば魔力と臓器を蝕む強力な毒にあんたは耐えられるかしら」

( ゚"_ゞ゚)「戦法としては面白いが、まだまだだな」

不意に、後ろから衝撃。一気に部屋の端まで叩きつけられる。

ξ )ξ「がはっ……」

( ゚"_ゞ゚)「幻も見分けられないとは、やはりまだ子供か」

从'ー'从「ツンちゃん一人じゃないよ」

渡辺の炎がオサムを包んだ。周囲の魔力が瞬時に膨れ上がり、さらに火力を増す。

ξ;゚听)ξ「駄目! それは━━」

( ゚"_ゞ゚)「幻だ」

从;'ー'从「え?」

渡辺の目の前にオサムが現れ、グーで殴り付ける。体を崩した渡辺を、さらに魔法で弾き飛ばす。

ξ゚听)ξ「こんのぉ!」

闇で作られた龍がオサムへと迫る。同時に設置した魔法も発動。四方八方を囲んで動きを封じたはずが━━

( ゚"_ゞ゚)「弱いな」

オサムは手を頭上に掲げる。それだけで魔力に戻された魔法が彼の掌に収束してしまった。

( ゚"_ゞ゚)「君達程度の魔法なら瞬時に解析できる。勝ち目はないと思うぞ」

(*゚ー゚)「それはどうでしょうか」

555 名前:1 :2014/08/01(金) 21:53:13 ID:Fg3tJaY20

しぃの声が静かに、しかしはっきりと響いた。オサムが振り向く前に肉薄していたしぃは彼の体に魔力を放出する。

魔法として論理的に構築されたものではなく、相手を傷つけるだけの暴力的な魔法。

オサムは防ぐ間もなく直撃し、部屋の壁を破り、ツンの設置魔法をいくつかその身に浴びながら彼は外へと押し出された。

从'ー'从「もう大丈夫なの?」

(*゚ー゚)「ええ。大分回復しました。お二人ともありがとうございます」

ξ゚听)ξ「礼を言うより、やることがあるわ。さっさと終わらせてシャワー浴びるわよ」

三人で外へ出ると、ボロボロになったオサムが立ち上がるところだった。肩で息をしながらにやりと笑っている。

( #"_ゞ゚)「さすがに、今のは効いたよ。うまく連携を取られる対処できないものだな」

ξ゚听)ξ「さっさとこの街に張り巡らせた魔法を解きなさい。そうすれば半殺しで勘弁してあげる」

( #"_ゞ゚)「それは無理な相談だ。すでに計画は最終段階に入っている」

从'ー'从「どういうこと?」

( #"_ゞ゚)「さてな。俺はここらで退かせてもらおう。あとは君達の目で確かめるといい」

556 名前:1 :2014/08/01(金) 21:54:35 ID:Fg3tJaY20

そう言ってオサムの姿が薄くなっていく。ツンはすぐに魔法で攻撃するものの、幻を貫通しただけでどこかへいってしまった。

あとには沈黙と破壊の爪痕だけが残る。三人は互いに顔を見合わせるが、言葉はない。

ξ゚听)ξ「計画ってなんなのよ」

やがて、ツンがぼつりと呟いた。

从'ー'从「なんだろう。でもでも、よくないことなのは何となくわかるよぉ〜」

渡辺が気の抜ける間延びした声で言うが、彼女からすれば十分に気を引き締めているのかもしれない。

(*゚ー゚)「……そういえば、ドクオさんは?」

思い出したようにしぃが言うと、ツンもはっとなる。確か、のっぺりとした人形のようなものと戦闘していたはずだが、近くだというのにめっきり音が聞こえない。

ξ゚听)ξ「さすがに死んでないとは思うけど、様子を見に行きましょう」

557 名前:1 :2014/08/01(金) 21:55:58 ID:Fg3tJaY20

◇◇◇◇

貧しい家に生を受け、早くに両親を亡くして物乞いにまで身を堕とし、日々の食事に困るような生活が続いた自分にも目指すものができた。

報われぬ者に救いの手を。

なんといい言葉だろう。

報われぬ自分には誰も救いの手を差し伸べてはくれなかったが、たまたま盗みに入ったきらびやかな建物の中で一人の男が分厚い本を読み上げていたのを聞いた。

幼かった彼にはそれが何なのかは分からなかったが、あれは神の御教を謳う聖書だったのだ。

それを読み上げる時間は決まっていて、朝昼晩の三回。彼は当初の目的も忘れて何度も何度もその男の言葉を聞きに足しげく通うまでになる。

そんなある日、彼はとうとう見つかってしまった。自分が街で悪評高い盗人だということも男は知っていたが、彼は怒られることもなくもてなされてしまう。

『腹が減ったのならいつでも来るといい。だが、人様の物を盗るのはよくないことだ』

彼はそう言って笑顔で自分の頭を撫でてくれた。

報われぬ者に救いの手を。

その日、その時、その瞬間から彼のいく道は決まっていたのかもしれない。

男は教会に務める神父なのだといった。謳いあげたのは聖書という。

彼は熱心に神父の教えを聞き、その言葉の通りに生きていく。

誰も救ってはくれないが、神父はこんな子供を救ってくれた。

だから自分も同じように、誰かを救う人間になろう。

神の御教をどこまでも愚直に守っていこう。

彼に一つの道ができた。

558 名前:1 :2014/08/01(金) 21:57:02 ID:Fg3tJaY20



『そうするほか、我が子達を助ける方法はないんだな』

男の声が静かに響いた。目の前にいるのは男と、女。計三人の人間が神妙な顔つきで話し合っている。

『あなたが協力してくれるというなら、私達が口を利いて差し上げますわ。あなた一人と未来ある子供達の命、考えるまでも思いますが……』

『分かっているさ。私は老い先短い。こんな老いぼれの体でよければ喜んで差し出そう』

『話が分かる御仁で助かりますよ。これで俺の研究も飛躍的に進むでしょう』

男がにたりと笑う。その笑顔がけして善意的なものではないことは分かっていた。それでも、彼は提示された条件を飲む他に子供達を救う手段がないことを知っている。

孤児など食い扶持を減らすお荷物でしかない。

みすぼらしい子供を喜んで引き取るような人間はこの世界にはいないのだ。

誰も彼もが地位と権力に固執し、偽善と欺瞞を振りかざし、人を人とも思わぬ愚行を繰り返す。己を魅せるために金を使い、見せしめのために人をも殺す。人命など路傍の石よりも価値のないごみのような扱い。

それでも彼が善であれたのは、子供達の無垢な心と神の教えがあったから。報われぬ者達に救いの手を、悪しきものは裁きの鉄槌を。

それは彼の矜持であり、信念であり、生きてきた道でもある。

だからこそこうして全てを受け入れる覚悟ができた。

『老兵はただ去り行くのみ。世界が戦場ならば、それもまた一つの真理だ』

『殊勝な心がけでございますわ』

『この教会はどうされるおつもりで?』

『信仰などとっくに廃れている。ならば無くなったところで特に影響はないだろう。好きにするがいい』

『そうですか。ならば好きにさせていただきましょう』

560 名前:1 :2014/08/01(金) 22:03:22 ID:Fg3tJaY20



『神父様、どうして教会の取り壊しを受け入れたんですか?』

幼い少女に尋ねられて、彼は苦笑する。

神父のいない教会に価値はない。子供のいない孤児院に意味はない。

自分が抱えた荷物は自分だけで背負うものだ。ましてや幼い子供達に負い目を感じて欲しくはない。彼女らは自分の、そして未来を担うかけがえのない財産なのだから。

全てを明かすこともできただろう。明かした上で、選択を強いることもできた。だがそうしたところで彼女達の命を自分一人で守ることなどできやしない。

老兵は去るのみ。

彼はもう世界から消える。大切なものを救うために。

『私の役目はもう終わったのさ。君達は君達の道を歩むといい。生きるための道は信頼できる人間が教えてくれるだろう』

『でも……』

『大丈夫。何も恐れることはない。君達は何でもできて、何にでもなれる。そのための下地は十分に教えたはずだ』

少女は首を傾げる。

聡い子だ、今は分からずともきっと近い将来に理解するだろう。その時、自分が言ったことを正しく導いてくれれば、蒔いた種は芽吹くはず。

自然と笑みがこぼれた。

『いつか君は大きな壁の前に立ちすくむかもしれない。今日という日を後悔するかもしれない。けれども、君は君の信じる道を行きなさい。たとえどれだけ辛くとも、悲しもうとも、歩くことをやめてはいけない。その先にこそ、君が君であるための答えを見つけられるはずだから』

神は人を救わない。どれだけ綺麗なお題目を掲げたところで、それは紛れもない事実。

人を救うのはいつだって人なのだ。人は一人で生きていけないから、手を取り合って助け合いながら生きていく。

魔法が繁栄し、その事実を人が知ったとき、神は必要とされなくなった。

けれども、彼には神がいないとは思えないのだ。人の未来は誰にも分からない。だからこそその先にある巡り合わせというのは運命の悪戯だとか、奇跡だとか呼ばれるのだろう。

願わくば、彼女に幸多き人生を。

561 名前:1 :2014/08/01(金) 22:06:33 ID:Fg3tJaY20



『何を……する気だ……』

『何、あなたはこれから神にも等しい存在へと昇華する。そのための準備さ』

『……ならばこれはなんだ!! お前達は人々を救うための組織ではなかったのか!? なのに、なのに━━』

目の前に積まれているのはたくさんの人、人、人。どれもこれも血みどろで息をしていない。

『必要な犠牲だよ、神父様。世界の平和というのは常に犠牲の上に成り立っている。先の戦争も多大な犠牲のお陰で終結したに過ぎない』

『だからといって、罪もない人を手にかけていいはずがないだろう!?』

『綺麗事だよ。それに、この世界は近い内に生まれ変わる』

『……どういうことだ』

『この世界に人間という病原菌がいる限り平和など訪れやしない。だから、一度壊すのさ。そこから世界は新たな歴史を歩むことになる』

『何を……』

『あなたには、全てを壊してもらう。世界から、人という人を』

『やめろ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』

『あははははははははははははは!!』

562 名前:1 :2014/08/01(金) 22:09:16 ID:Fg3tJaY20

◇◇◇◇

( A )「ぐっ……」

間一髪、ドクオは自ら振り下ろした剣を握っていた。

( ∵)

彼の下には傷だらけの人形が横たわっている。驚異的な再生力を見せていたはずが、いつの間にか体中ボロボロで身動き一つしない。

( A )(今のは、こいつの記憶か?)

戦いの最中、突如ドクオの脳裏に浮かんだ映像に出てきた人物はどこか人形の面影があったように思える。

以前にも似たようなことがあった。貞子と戦う前に、ツンのものと思しき記憶が流れ込んできたことが。

何故このようなことが起こっているのか、ドクオには分からない。けれども、この記憶の流出はドクオに何かを伝えているのだということだけは分かる。

ツンも、こいつも、同じく誰かに助けを求めて、助けてもらえなかった。救いの手を差し伸べてもらえなかった。

誰かが手を差し伸べれば、他の道があったかもしれないのに、みんなが笑っていられる幸せな未来が待っていたはずなのに。

( A )(俺は、こいつを斬っていいのか? 殺してしまって、本当に正しいのか?)

剣を握る手に力が入る。

早く殺せと、壊せと内から溢れ出るなにかがドクオに命じていた。

殺せ壊せ殺せ壊せ殺せ壊せ殺せ壊せ殺せ壊せ殺せ壊せコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセ

563 名前:1 :2014/08/01(金) 22:10:06 ID:Fg3tJaY20

( A )(くそっ、静まれ! 静まれ!)

なおも強い殺人衝動と破壊衝動が全身を巡り、体が言うことを利かない。この体も、心もドクオのものだ。他の誰でもない、自分のことは自分で決める。

(゚A゚)「邪魔だ! お呼びじゃねえんだよ糞野郎!」

ドクオが叫ぶと同時、声が聞こえた。集中しなければ聞こえないほどの小さな声。それは悲しみに彩られ、深淵の底から響くような暗い感情を引き起こしてくる。

『━━━━』

何を言っているかは分からない。分からないが、意味だけは分かる。

これは単純なる破壊と殺戮を求めている。そのためにドクオを欲していた。自由に動く体を、血塗られた心を。

( A )「がぁぁぁ……」

軋みをあげながら腕が徐々に下へと落ちていく。同時にドクオの指の肉も少しずつ離れていった。

( A )「俺のことは俺が決める。俺がしたことは俺が背負う。だから勝手に命令すんな。俺は」

( A )「こいつを殺さない!!」

瞬間、ドクオの腕はふっと力が抜けた。

('A`;)「はぁっはぁっ」

滝のような汗が流れ、ドクオはその場にへたりこむ。止めどなく脱力感が押し寄せ、気を抜いたら意識を持っていかれそうだった。

だが、まだ終わらない。もしかしたら、この人形は救えるかもしれないのだ。

('A`)「……お前に聞きたい。お前は、しぃちゃんの探してる神父なのか?」

( ∵)

564 名前:1 :2014/08/01(金) 22:11:19 ID:Fg3tJaY20

ボロボロの人形は答えない。じっとこちらを見つめているだけ。

('A`)「あんたは人を救うために、オサムに利用されたんじゃないのか?」

( ∵)

('A`)「なぁ、答えろよ。しぃちゃんはあんたを探してるんだ。あんたに会いたがってるんだ。あんたに、ありがとうって言いたいんだよ!」

( ∵)

( ;.;)

('A`)「あんたにもまだ人の心が残ってるんだ。今からだって遅くない。しぃちゃんに会ってやってくれよ」

( ;.;)ソウカ……シィガワタシヲ……

('A`)そ「……」

('A`)「そうだよ! 今この街に来てる! だから」

( ;.;)ダガモウオソイ。ワタシハヒトノミチヲオオキクフミハズシタ

('A`)「どんな姿になったってあんたはあんたじゃないか! あの子が欲しいのはあんたの言葉なんだよ!」

( ;.;)シンネンヲウシナッタワタシハタダノドウグデシカナイ

('A`)「違う! あんたはまだ心を失っていないじゃないか。誰かを心配し、人を想い、安寧を願ってる! それは紛れもない人としての心だろう!」

( ;.;)ワタシハ━━

彼が何かを言いかけたとき、後方から殺気を感じてドクオは振り返る。

( ゚"_ゞ゚)「人形相手におしゃべりとはいい趣味じゃないか」

565 名前:1 :2014/08/01(金) 22:12:29 ID:Fg3tJaY20

('A`)「オサム……」

( ゚"_ゞ゚)「人形にまだ自我があるとは驚いたが、それも些細なことだ。計画はすでに最終段階に入っている」

('A`)「最終段階?」

( ゚"_ゞ゚)「教える義理はないが、俺を追ってこい。そこで全てを見せてやろう」

オサムが指を鳴らすと、人形と共に姿が揺らぐ。

('A`)「ちっ、待ちやがれ!!」

『採掘場に来るといい。君が来るのを待っているよ』

それだけを残して、オサムと人形は消えた。

('A`)「……の野郎」

心の底からあの男への怒りが湧いてくる。

人をあんな風に変えてしまったことを、誰かを想う心を踏みにじったこと、大切なものを奪ったこと。

そのどれもが越えていい領域を踏み外している。

('A`)「お前は絶対に殺す」

誰もいなくなった街で、ドクオは一人呟いた。

そして、ドクオは一つの変化にも気付く。

人の命の重さ、心の在処、その認識が自分の中で価値を変え始めていることに。

从'ー'从「どっくーん!」

遠くから自分を呼ぶ声が聞こえ、そちらに顔を向けると渡辺が手を振りながら走ってきていた。

('A`)「渡辺……」

自分も、人を踏み外した存在なのだろうか。

人形との戦いで力を欲した自分は、ひたすらに破壊と殺戮を望んでいた。それだけが自分の存在価値なのだと信じこんでいた。

果たして、ドクオはまだ人であるのか、自分ですら分からない。

( A )「俺は……」

まだ、人でありたい。

566 名前:1 :2014/08/01(金) 22:13:41 ID:Fg3tJaY20



渡辺、ツン、しぃと合流したドクオは簡単に近況を交換し、これからのことを相談する。

ξ゚听)ξ「私と渡辺はオサムが張ってる術式を解きに行くわ。多分だけど、あいつが使ってる術式は私に使われてる術式を応用しているはずだから」

从'ー'从「私が行っても役に立つかなぁ……」

ξ゚听)ξ「一人じゃどうしようもないかもしれないでしょ。とにかく今は人手が欲しい」

('A`)「……そうだな。ならそっちは任せるよ」

(*゚ー゚)「私はオサムと対決させていただきます。彼の考え方を私は許すことが出来ません」

ξ゚听)ξ「ほんとは私もそっちに行きたいんだけど、ま、今回は任せるわ。私の分もぶん殴っておいて」

(*゚ー゚)「分かりました」

从'ー'从「穏便じゃないよぉ……」

あれこれと話が進む間、ドクオはしぃに話すべきかを迷っていた。

あの人形は、しぃの探し人だ。お礼を言いたいと語るしぃの表情は真剣そのもので、そして、もしかしたら二度と叶わないものかもしれない。

彼はまだ人間だった。けれどもドクオにはそれを救う手だてがない。戦闘になれば彼ともう一度話す機会はないかもしれないのだ。

そうなれば、ドクオは迷うことなく彼を殺すだろう。人に危害を与えるために作り替えられた存在は、否応なく周囲を破壊し尽くす。それは彼の望むことではない。

567 名前:1 :2014/08/01(金) 22:14:31 ID:Fg3tJaY20

そして報われぬ者に救いの手を、という信条を持った彼の教えを受け継いだしぃにそれを見せるのはなんとしても避けたかった。

('A`)「……しぃちゃん。君はツン達と行ってくれないか?」

(*゚ー゚)「敵の数は二人ですよ? いくらドクオさんと言えど数の不利は覆せません」

('A`)「けど、その……」

言い淀むドクオにツンが詰め寄った。思わずドクオは一歩下がってしまう。

ξ゚听)ξ「あんた、なんか隠してない?」

('A`;)「んなことはないけど……」

ξ゚听)ξ「私の目をちゃんと見なさい」

しばしツンと見つめ合う。気恥ずかしさよりも、自分の心を見透かされそうな瞳に、ドクオは視線を逸らしたくなる。

ξ゚听)ξ「……しぃ、ドクオと行きなさい。こいつなんか隠してる」

('A`;)「ちょ、おい!」

ξ゚听)ξ「うっさい! あんたのことだからしぃのこと心配してるんでしょうけど、そういうの余計なお世話っていうのよ? しぃももう子供じゃない。自分の道は自分で決められる。自分の荷物くらいきちんと背負えるわ」

(*゚ー゚)「……はい。それくらい、当然です」

从'ー'从「そうだね。もし、抱えられなくなったら私達が支えてあげればいいもん。しぃちゃんは一人じゃないよ」

女性三人にそう言われると、ドクオはなにも言えなくなってしまう。

小さく溜め息をつくと、ドクオはしぃの頭を撫でてやった。

568 名前:1 :2014/08/01(金) 22:15:23 ID:Fg3tJaY20

(*゚ー゚)?「ドクオさん?」

('A`)「その、なんだ。必ずしぃちゃんのことは守るよ。けど、色々と覚悟はしといてくれ。多分、俺だけじゃ何も出来ないから」

(*゚ー゚)?「はぁ……」

本当は、あの人形のことだけじゃなく、自分のことも心配なのだ。もしかしたら自分はまた力に飲まれてしまうかもしれない。得体の知れない何かに身を任せてしまえば、ドクオはたくさんの大切なものを傷つけてしまう。それだけは何としてでも見られたくなかった。

('A`)「……危なくなったら逃げてくれ」

(*゚ー゚)「分かりました」

ξ゚听)ξ「私達は術式の解除が終わったらショボンさん達の捜索に向かうわ」

('A`)「俺達よりお前らの方が大変そうだけど、しくじるなよ。駄目だったら全部パーだ」

ξ゚听)ξ「誰にもの言ってんのよ。私と渡辺は最高のパートナーよ?」

从;'ー'从「私自信ないなぁ〜……」

(;*゚ー゚)「そこは嘘でも任せてって言いましょうよ……」

('A`)「とにかくやることは決まったな。お互い頑張ろう」

ξ゚听)ξ「もちろんよ」

从'ー'从「おー!」

(*゚ー゚)「はい!」

そうしてドクオ達は二手に別れて行動を開始する。ドクオとしぃはオサムとの決戦を、ツンと渡辺は術式の解除とショボン達の捜索。

四者四様の最終決戦の火蓋が切って落とされた。

('A`)(*゚ー゚)

ξ゚听)ξ从'ー'从


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