- 648 名前:1 :2014/09/04(木) 22:00:07 ID:JgPwpBr60
第十四話「広がっていく希望」
.
- 649 名前:1 :2014/09/04(木) 22:01:09 ID:JgPwpBr60
◇◇◇◇
从 ー 从「はっ……はっ……」
増えていく敵、熾烈さを増す砲火の中を渡辺は華麗に宙を舞っていく。すでに敵の攻撃のタイミングや、連携のクセなど見切ったものは多々あったが、渡辺はけして反撃をしなかった。
正確にいえば反撃ができない。どれくらいの時間戦っているのか分からないが、敵の攻撃を避けて相殺して操って。けしてツンを傷つけないように、邪魔をしないよう渡辺は出来うる限りの策を駆使してしつこいくらい時間稼ぎに徹している。
魔力が尽きれば箒で飛行することも出来なくなるし、力のない渡辺など一瞬で物言わぬ肉塊に成り果てるだろう。
さらに、先程から魔力消費量が自分の思っているよりも大きく減っていた。敵の術式にそういった作用が働いているのかもしれない。
魔法の使えない渡辺は他の一般人にも劣る矮小な存在でしかなくなってしまう。そうなれば術式の解析に集中しているツンへ意識が向いてしまう。そうなれば黒幕と戦っているドクオ達も劣性を強いられるのだ。
この街では沢山の仲間がそれぞれの想いを胸に戦っている。渡辺にはその手助けが出来るのだ。
- 650 名前:1 :2014/09/04(木) 22:01:56 ID:JgPwpBr60
たかだか魔法使いになったばかりのひよっこだが、誰かのために戦う理由はそれで十分だった。
从 ー 从(それに、まだ最後の手は残ってる)
渡辺の手に握られた楕円形の道具。ツンがくれた一筋の希望。
使い方も、威力も未知数だが戦闘能力に期待できない自分に預けたということはそれなりに期待できるはずだ。
あとはそのタイミング。いつ使うべきか、使ったとして戦闘は終わるのか。攻撃手段がこれしかない現状、魔物の数がなおも増えるのであればまだ使うべきではない。
もちろんこの道具で全てが決する可能性はそこまで高くないだろう。
だからこそ使うタイミングは慎重に選ばなければならない。弾丸は一発。外せば何もかもが終わる。渡辺にはそんな確信があった。
下を見ればケルベロスの他にゴーレムが二体、巨大なゾンビが三体、こちらを睥睨している。ケルベロス以外はいずれも遠距離攻撃を持ってはいない。代わりにそこらに転がっている岩を投げつけて攻撃していた。
直線的な攻撃なうえ、ゴーレムもゾンビもそこまで知性は高くないようで好き勝手に攻撃しているので回避するのは容易い。
- 652 名前:1 :2014/09/04(木) 22:02:58 ID:JgPwpBr60
問題は奴らの防御力だった。硬い鉱石でできているゴーレムは言わずもがな、ゾンビ共も防御力こそ低いもののどれだけ傷がつこうとも死ぬことのない耐久力は火力のない渡辺にとっては厳しい相手である。
ましてや高火力の魔法を制限されている今、対抗する術はない。
故に渡辺は適度に牽制し、かつツンを守りつつ逃げ続けるしか方法がないのだ。
こうして様子を見ている間も防御障壁の維持に魔力を裂かれ、浮いている箒にも魔力は使う。
そのためにはツンが術式を解くことが大前提。おそらく、下にいる魔物を倒したところで次の魔物が現れるのは間違いない。
これだけ強固な守りを施しているのだ。たかだか魔法使いに昇格した程度の小娘に攻略を許すほど甘くはないはず。
現状でさえ手を遍いているのだから、これ以上は渡辺がどうこうできるレベルではないだろう。
だからこそ、この街の出来事を終わらせるための条件をきっちりと整理する必要があった。
極限の戦いの中で、渡辺は自分でも経験したことのないほどに集中力を増しているのを感じた。
从'ー'从(この戦いを終わらせる条件は、三つ。まずはツンちゃんが術式を解除すること)
- 653 名前:1 :2014/09/04(木) 22:03:48 ID:JgPwpBr60
これは最低条件の一つとも言える。オサムが施した魔法はモ・トコだけでなく周辺の街にまで及んでいる以上、目先の敵を潰したところで意味はないのだ。
从'ー'从(次に、これ以上魔物を増やさないこと。多分、術式を解かないと次々出てくるもんね)
ツンは侵入者迎撃の術式だと言っていた。仮にツンが術式の解除に成功したとしても、現れてしまった魔物は消えたりしないだろう。どころか周辺の街に散らばり人々に被害をもたらす可能性もある。
そうならないためにも渡辺は現状を維持したまま時間を徹底的に稼ぐ必要があった。
从'ー'从(最後に、オサムさんを倒すこと。術者がいなくなれば同じ被害は出ない、はず!)
ここまで考えたところで、やはり出来ることは変わらないことに気付き、渡辺は少々気落ちした。
ここまで真剣に考えたのに、到達点は一緒だった。
从;'ー'从(うー、一生懸命考えたのにー……)
と、渡辺が自身の思考回路に心底落胆している時、不意に後方から高熱を放つ何かを感じた。
箒を繰り、方向転換。炎を纏った九つの岩弾が目前まで迫っている。
从;'ー'从(ふぇぇ……避けられないよぉ〜!)
- 654 名前:1 :2014/09/04(木) 22:04:43 ID:JgPwpBr60
体を横に傾け、直撃だけは免れるものの、次々に飛んでくるそれらを完全に回避することはできず、幾つかが箒の柄を叩いていった。
錐揉み回転しながら落ちていく自分の体と箒。落下すれば命はない。うまく体勢を立て直そうと踏ん張るものの、さらに炎弾が追撃。たまらず渡辺は魔法を展開させてしまう。
从;'ー'从(あ! 私の馬鹿ぁ〜!)
最低限の防御魔法だったが、咄嗟の展開だったために著しく魔力を消費してしまった。これでは時間稼ぎどころの話ではない。
再び上空へと避難。未だにこれでもかと言わんばかりに飛んでくる炎弾と岩石の嵐の中で、さらに重大な事実に気付いてしまった。
从;'ー'从(あ、ツンちゃんに貰った道具!)
見れば渡辺の元を離れて地面に落下していた。先程体勢を崩した時に落ちてしまったのだろう。ケルベロス達の足元に転がっている。
拾いに行きたいが、今のままでは不可能だ。敵が構えている陣地に無策で飛び込むなど愚の骨頂、それくらい渡辺にだって分かっていた。
从;'ー'从(ふぇぇ……どうしよう……)
最後の希望が絶たれてしまった。勿論あれ一つで全てが決する訳ではないが、重要なファクターの一つであることに違いはない。
- 655 名前:1 :2014/09/04(木) 22:05:31 ID:JgPwpBr60
迷っている間にも危険は迫る。渡辺は決断しなければならない。
从'ー'从(……なくしちゃいけない。あれは最後の希望なんだから!)
砲火の嵐を紙一重の差で交わしながら渡辺は魔物の元へと箒を走らせた。体力も、魔力も残り少ない今、これが最後のチャンスだろう。
物までの距離まで、あと僅か。
▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼
从'ー'从(え……)
離れた位置にいたはずのケルベロス。渡辺が道具に到達する直前、横から割り込んできた。
得意の炎弾ではない。鋭く尖った牙を剥き出しにし、凶悪な形相でこちらを狙っている。
今さら方向転換など不可能。避けきれない。
全ての動きが止まったように感じた。一瞬一瞬が手に取るように分かる。
だがそれに反して体は動かない、言うことを利かない。
渡辺は思わず目を閉じた。これで何もかもが終わってしまう。自分の命も、この戦いも。
从 ー 从(ごめんなさい、みんな。ごめんなさい、どっくん)
- 656 名前:1 :2014/09/04(木) 22:06:19 ID:JgPwpBr60
信じてくれたみんなを裏切る形になってしまった。もう、抗う術はない。
その瞬間、渡辺は強い魔力の奔流を捉えた。自分でもない、ツンでもない、もちろん魔物のものでもない。
もっと別の異質な魔力。渡辺の感覚で言うならば、もっとも近いものは、マナ。
从'ー'从「……ほえ?」
地面を滑り、痛みに半べそをかきつつおそるおそる目を開ける。すると、そこには予想もしなかった光景が広がっていた。
渡辺の魔法を意にも介さなかったケルベロスが、幾つもの肉片となって散らばっている。
さらに渡辺の周りには自らが使うものよりも数段レベルの高い防御魔法が。
そして、渡辺の目の前にはパタパタと羽を羽ばたかせている奇妙な生物。
(*゚∀゚)
从'ー'从「……猫?」
それは一言で言えば羽の生えた黒猫だった。あえて疑問をあげるならば、この猫が一体どこから出てきたのかということ。
そして━━
- 657 名前:1 :2014/09/04(木) 22:07:57 ID:JgPwpBr60
(*゚∀゚)「ニャ」
猫が短く鳴いた。それだけで少し離れた場所に立っていたゴーレムを中心に巨大な爆発が巻き起こる。
从;'ー'从「わわっ」
ゴーレムは木っ端微塵、おまけに大きなクレーターが出来上がっていた。
从;'ー'从「す、すごいよぉ……」
(*゚∀゚)「ニャ、あんたがあたしのご主人かニャ?」
从;'ー'从「しゃ、しゃべったー!」
(*゚∀゚)「そりゃ魔法生物ニャンだからしゃべるに決まってるニャ」
从;'ー'从「魔法生物? って、もしかして」
もしや、ツンにもらったあの道具がこの猫を召喚、いや作り出したというのだろうか。
(*゚∀゚)「ニャニャ。何はともあれ、あたしのご主人はあんたで間違いなさそうニャ。あたしはつー、主人を守る使い魔ニャ」
猫はそれだけ言って、ニヤリと笑った。
- 658 名前:1 :2014/09/04(木) 22:08:41 ID:JgPwpBr60
大きな音に思わずツンは振り返ってしまった。
渡辺では対処しきれないほどの魔物が現れていたのは分かっていた。それでも今まで渡辺を気にしなかったのはひとえに彼女に渡した道具があれば、少なくとも渡辺が死ぬことはないとたかをくくっていたからである。
しかし、それがうまく機能した様子がなかったのでツンの不安はとうとう爆発してしまった。
だが。
从'ー'从「がんばれーねこちゃーん」
(*゚∀゚)「ニャ」
黒猫が広範囲に燃え盛る火炎を放つ。うまく魔物の動きを制限し、見事に手のひらで踊らせていた。
その後ろで精一杯応援する渡辺。どうやら戦いは猫に任せたようだ。
ξ゚听)ξ「何よ、うまくやってくれてんじゃないの」
ツンが渡した道具は使い魔を製造するためのもの。使用した、というよりも術者を指定して魔力が蓄積されると自動で使い魔が生成される仕組みになっている。
蓄積される魔力は指定した術者の内包魔力やマナの量にも左右されるのだが、ここまで時間がかかったということは━━
ξ゚听)ξ(渡辺の潜在能力って一体どうなってんのよ)
- 659 名前:1 :2014/09/04(木) 22:09:31 ID:JgPwpBr60
使い魔の姿形は術者の脳内イメージ、というよりは本人が持つ想像力が魔力を伝って道具側が勝手に形作る。今回の場合、渡辺の使い魔というのは黒猫で、彼女の持つ力はそれ以上になるということ。
使い魔がケルベロスやゴーレムを一撃で倒すなんて、ツンが見たデータにも掲載されていなかった。
しかも、同時に複数の魔法を展開してうまく渡辺やツンを守りながら戦っているようだ。時間稼ぎということもしっかり理解しており、渡辺よりも数段お利口さんである。
ξ゚听)ξ(ま、とりあえず結果オーライってやつね。あとは……)
自分がこの術式を解除すれば全てが解決、ショボン達の捜索に向かえるというもの。
あれだけの使い魔が出てきた以上、渡辺は心配いらないだろう。
ξ*゚听)ξ(さぁって、さっさと終わらせて王都に戻りますか!)
どこぞの誰かが干渉している術式を巧みに変換と削除、さらには自身で組んだ術式を嵌め込み、うまく魔導原石から引き剥がしていく。
- 660 名前:1 :2014/09/04(木) 22:10:36 ID:JgPwpBr60
あちらの最優先の目的は精神掌握系の魔法を引き剥がすことだというのは一目瞭然。ならばそれさえも利用してしまえば解除の早さも二倍になる。
ξ゚?゚)ξ(こっちのルーンはここに、この魔導関数はこれね。この辺は、まるごと変換、と)
術式とはすなわちルーンや魔導関数の集合体だ。それ単体で意味を持つ図形ルーンと、魔力を適切な場所に適切な量を配置する魔導関数。大まかに言えば術式はこの二つで構成されている。
そして術式をいくつも組み合わせて出来上がるのが魔法陣であり、呼び出すことによって魔法は発動、というのが一般的な形だ。
もちろん魔法というのは元を辿れば魔力に命令を与え、特殊な変化を施し様々な物であったり事象を引き起こすものであり、魔力に命令が伝わるのであれば陣を用いる必要はない。
例えば言葉、即ち音であったり文字であったり、魔力が反応すればなんでもいいのだ。しかし、魔力への命令は当然ながら膨大な情報量を扱わなければならないために音や文字ではどうあっても時間がかかってしまう。
故にその問題を解決するためにルーンと魔導関数を用いた術式と魔法陣が考案された。
突き詰めていえば、ツンが今いじくっている魔法陣も一部のルーンや魔導関数を適当に変えてしまえばシステム自体は使えなくなる。
だが、オサムは他の誰かに術式を解析、変換されることを見越してなのかそういったことをすれば自動的に魔導原石のエネルギーを暴発させる術式も同時に組み上げているようだ。
- 661 名前:1 :2014/09/04(木) 22:11:29 ID:JgPwpBr60
どこから引っ張っているのか詳しくは分からないが、様々な場所から強引に魔力を集めているところを考えると、おそらく周辺の街の魔力炉もシステムの一部として機能させているのだろう。
そんなものが暴発すれば、単純に計算しても大陸北部が消滅するであろうことは想像に固くない。
ξ゚听)ξ(よくもまぁここまで面倒な術式を組んだもんよ。この知識と技術を世のため人のために使えば称えられたものを)
この複雑で繊細なシステムを見れば、研究者として、技術者としての腕は相当なものだということは誰の目から見ても明らかだ。だからこそもう少し違った形でそれを発揮できれば、とツンは残念に思った。
術式の解除は順調に進んでいく。顔も名前も知らない向こう側の術者もうまくこちらの意図を組んで動いてくれていることもあってか、ツンも驚くほどスムーズにことは運んでいった。
だが、だからこそツンは慎重にならなければならなかったのだ。
まるで導かれるように変換されていく術式は、ツンの意図とは正反対の方向へと向かっていた。
だから、それに気付けたのは僥倖というほかなかったのかもしれない。
ξ;゚听)ξ(え、なにこれ……どうなってんの?)
- 662 名前:1 :2014/09/04(木) 22:12:21 ID:JgPwpBr60
組上がっていく術式の意味を大まかに訳すならば━━
『全ての魔力を一つに収束させる』
つまり、モ・トコにいる全ての存在を魔力に変換するということ。
ξ#゚听)ξ「ふ、ざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
この短時間で、かつ一切の無駄なくこんなことができる人間などここには一人しかいない。
ツンは、そしてもう一人の協力者は、嵌められたのだ。
あの狡猾で、傲慢で、人を人とも思わぬ悪魔に。
このままではこの街にいる仲間達を含め全ての人間が死を迎える。最悪それだけは避けねばならない。
ξ;゚听)ξ(急げ! 私ならできる! 急ぐのよ!)
ξ;゚听)ξ「渡辺! ここはいいからあんたはショボンさん達を探しに行って、この場を離れなさい!」
突如呼ばれた渡辺が怪訝そうに眉を潜めていた。
ξ゚听)ξ「説明してる暇はないの! とにかく早く!」
渡辺が慌てて頷き、使い魔を連れて飛んでいく。それと同時、周囲に蠢いていた魔物達が淡い光となって消えた。
もう、時間はほとんど残されていない。
- 663 名前:1 :2014/09/04(木) 22:13:21 ID:JgPwpBr60
◇◇◇◇
(;´ ω `)(これは、一体どういうことなんだ?)
途中まではほとんど完璧といっていいほどの進捗だった。なのに、今ショボンの前にある術式は異様とさえ言えるほど禍々しいものへと変貌を遂げている。
全てのルーンや魔導関数の意味を汲み取ることはできない。ショボンでさえ見たことのないルーンの配置と関数の設定は、現代魔法における定石を遥かに外れている。
それでも、ショボンの騎士としての勘が告げていた。
これは、危険だと。
このままでは、全滅だと。
(;´ ω `)「モラ━━」
声を張り上げ、戦っているモララーへと目を向けた時だった。
( ;・∀・)「これは……」
- 664 名前:1 :2014/09/04(木) 22:14:47 ID:JgPwpBr60
モララーと戦っていたはずの炭鉱夫達が、光の粒子となって消滅したのだ。始めから、存在などしていなかったかのように。
( ・∀・)「……どうなってんだよこれ」
(;´ ω `)「分からない。分からないが、とてつもなく嫌な予感がする」
( ・∀・)「奇遇ですね。俺もそんな気がします」
立っていられなくなり、ショボンが地に膝を着く間際、モララーが肩を貸してくれた。
( ・∀・)「とにかくここを離れましょう。ドクオ達も気がかりだ」
(;´ω`)「僕のことはいい。あとは自分で何とかする。モララーはドクオとしぃの方を優先してくれ。何かあれば、連絡を頼む」
一瞬迷った顔を見せたが、モララーはすぐに頷いた。今優先すべきが何かを理解できないほどモララーは馬鹿ではない。
だからこそショボンは彼を信頼できるのだ。
- 665 名前:1 :2014/09/04(木) 22:15:36 ID:JgPwpBr60
( ・∀・)「勝手に死なれちゃ困りますからね。ジョルジュ団長もいない今、あなたを失うのは痛い」
(´ω`)「分かっているさ」
それだけを言って、モララーが去っていく。途端に膝を着き、大きく息を吐いた。
もしかすると、約束は守れないかもしれない。
(´ω`)(すまない。モララー)
瓦礫の上に寝転び、流れていく雲を眺める。どこまでも穏やかで、戦闘の真っ最中だということも忘れてしまいそうなほどに、美しい朝焼けだった。
と、その中に高速で飛行する物体を見つける。魔物、ではない。あれは、人だ。
だんだんと近付いてくるそれに、臨戦態勢を取ろうとして、ショボンは体に力が入らないことに気付く。どうやら戦うことすらできそうにない。
从'ー'从「あ、ショボンさん見つけたよぉ〜」
(*゚∀゚)「ニャニャ。ご主人お手柄ニャ」
(´ω`)「渡辺!? 何故君が━━」
从'ー'从「はいは〜い。話はあとですよ〜。えっと、確か、もう一本……」
渡辺がポケットから瓶を取り出した。確か、あれは魔力を回復させる薬だ。それを飲まされ、ショボンの体にある程度力が戻っていく。
- 666 名前:1 :2014/09/04(木) 22:16:19 ID:JgPwpBr60
失ったマナまですぐに回復するわけではないが、先程よりは幾分ましになった。少なくとも自力で立つのは問題ない。
(´・ω・`)「……すまない。助かったよ。それにしても、何故君が」
从'ー'从「えっと、どこから話せばいいのかなぁ〜」
(*゚∀゚)「そんなことより、さっきの魔法使いに言われたこと忘れたのかニャ」
从'ー'从「あ、そうでした。あの、ショボンさん、ツンちゃんが早くこの街から離れてって言ってました〜」
(´・ω・`)「……何?」
渡辺が手短に今までの経緯を話す。モ・トコに来た理由、これまでの戦い、ツンが今何をしているのか。
(´・ω・`)(なるほど。ということは、さっきまで僕のカバーをしてくれていたのは彼女だったのか)
一つ目の謎が解けたところで、二つ目の謎であるここから離れろとはどういうことだろうか。
(´・ω・`)(あの術式はよく分からないが、魔力を操る用途のものだろう。そして、消えた炭鉱夫達)
さらに周辺の街から消えた住民、オサムという敵の目的。
様々な角度から思考を張り巡らせ、ショボンが導き出した答えは━━
- 667 名前:1 :2014/09/04(木) 22:17:13 ID:JgPwpBr60
(´・ω・`)「まさか、この街全体の魔力をマナへと変換するつもりなのか?」
从'ー'从「ほえ? そうなんですか?」
(*゚∀゚)「ニャ。魔力の流れから考えれば、あり得なくはないと思いますニャ」
(´・ω・`)「……ところで、この猫は」
(*゚∀゚)「ニャ。魔法使い渡辺の使い魔、ツーといいますニャ」
(´・ω・`)「……そうか」
深くは突っ込まないようにしよう。使い魔を作る魔法道具は確かにあった気はするが、普通人語を解さないはずだ。
だが、今はそれを考えている暇はない。
(´・ω・`)「どのみち、今彼女は一人で術式の解除をしているんだろう。ならば、僕がそちらの補助に回ろう。何をするつもりかは分からないが、力にはなれるはずだ」
从'ー'从「私はどうすればいいですか?」
- 668 名前:1 :2014/09/04(木) 22:18:02 ID:JgPwpBr60
(´・ω・`)「モララーと共にドクオ達の元へ。彼らが戦闘中であれば支援し、速やかにこの街から離れるんだ」
从'ー'从「分かりました〜」
(´・ω・`)「君は魔法使いといえど、騎士団に属していない。けして無茶はしないように」
从'ー'从「は〜い」
渡辺が気の抜けた返事をして箒で空へと消えた。
これである程度の問題は解決に向かうはすだが、最大にして最悪の問題である方は、すぐにでもなんとかしなくてはならないだろう。
ショボンが行ったところで役に立たないかもしれないが、やらないよりはましだ。
(´・ω・`)「本調子ではないが、なんとかなるだろう」
ショボンは再び魔力を辿り、戦場を駆ける。
いつ倒れるとも知れぬ身でありながら、救えるはずの人達のために。
- 669 名前:1 :2014/09/04(木) 22:18:45 ID:JgPwpBr60
◇◇◇◇
宙に浮いている氷の剣を一本掴んで思いきり降り下ろす。ビコーズの体に当たるものの、強度が足りないせいか一撃で粉々になった。
横薙ぎに向かってくる剣撃を身を低くしてかわすと、すぐにもう一本。やはり当たると同時に粉砕される。
('A`;)(やっぱろくなダメージにならねぇ!!)
距離をとるために横へと飛ぶが、ビコーズの魔法がドクオを襲う。後方に待機しているしぃがうまく防御魔法を敷いてくれるが、全ての攻撃を防ぐことは敵わない。
突き破ってきた魔法がいくつか体を掠めるも、致命傷にはならなかった。三度氷の剣を取って投擲。
ビコーズはそれを手を払うだけで簡単に防いだ。
武器を持たぬドクオは先程からしぃに簡易的な氷の剣を至るところに精製してもらい、それらを無造作に引っ付かんで攻撃しているのだが、元が人を超越した存在であるビコーズには傷一つ負わすことができなかった。
代わりにドクオは完全に生身なうえ、魔剣による身体強化もないため、一撃一撃が酷く重い。
食らえばその時点で死亡、なのにこちらの攻撃は一切通らないというあまりの戦力差。もしこの場にしぃがいなかったらと思うと背筋が震える思いだった。
- 670 名前:1 :2014/09/04(木) 22:19:28 ID:JgPwpBr60
だが、泣き言を言っていてはビコーズにも、しぃにも合わす顔がない。
ドクオはもうとっくに腹を括っている。
しぃを、ビコーズを、ありとあらゆる報われない人達を救う。
ビコーズがそうしてきたように、しぃがそうあろうとしたように。
だからここで引くという選択肢は端からない。あるのはギリギリでもなんでも、彼と戦い、目を冷まさせることだけ。
幸い敵の攻撃はしぃとの連携で避けられないわけではないのだ。攻撃が通らないのが目下の問題点ではあるものの、それにもきちんと目処はつけている。
あとは然るべきタイミングで然るべきことをするのみ。
('A`;)(とはいうものの、俺の体が無事でいてくれるか怪しいな……)
威力、速さ共に魔剣の加護を受けたドクオをゆうに越えている。おまけに魔法まで使えるのだからどこまでも反則級の相手だった。少なくとも今までドクオが相手取ったどの敵よりも手強い。
こちらの動きはいとも容易く見切られるし、あちらの動きにドクオはついていけないし、とないない尽くしである。
('A`)(あとは、ビコーズ神父がどこまで人間であるか、だろうな)
いくら人を越えた存在であっても、目があり、鼻があり、手があり足がある。関節や筋肉の動きにも限界はあるし、視界も全方向確認できるわけではない。
- 671 名前:1 :2014/09/04(木) 22:20:19 ID:JgPwpBr60
人型をしている以上、弱点はいくらでもあるはずだ。
ドクオは自分の知識をフル動員して出来る限りの抵抗を試みる。その全てが通用するわけではないが、最悪被弾は防げるはずだ。
('A`;)(しかし、ほんと隙がねえな。今んとこはうまくいってるけど、気を抜いたら即死亡だぞ)
うまく距離を図りながら敵の攻撃のあと、動作の継ぎ目を狙いながら牽制にもならない攻撃を繰り返す。
しぃに攻撃をさせる案も一度は考えたが、氷の剣をどれだけ使うかも分からないし、仕上げに至るまでどれほどの時間がかかるか予測ができない以上、無駄玉を打たす訳にはいかなかった。
ドクオに決定的な危険が迫るまで温存するに越したことはない。
( ゚.゚)
ビコーズの周辺に光の玉が漂い始める。同時にドクオへ向かって突っ込んできた。
氷剣で迎撃。両手に剣を持って力一杯袈裟に振り抜く。
閃光。光が一気に弾けた。
(うA-;)(うおっ、まぶしっ)
- 672 名前:1 :2014/09/04(木) 22:21:08 ID:JgPwpBr60
視界を奪われ、ドクオは急いで後ろへ跳ぶ。
(*゚ー゚)「右です!」
しぃの声に従い、さらに右へ。左から大量の破片が突き刺さる。たまらず膝から崩れ落ちそうになるが、踏みとどまり視界の回復を待つ。
が、背中から何かが炸裂した。おそらく、先程の光弾だろう。気を失いそうな痛みを耐えると、視界が元に戻る。
( ゚.゚)
目の前にビコーズが迫っていた。近くの氷剣を掴んでガードの体勢を取ろうとして、思い直す。
敵の武器は魔剣。全ての魔法を破る絶対的破壊の象徴。
辺りには逃げ道がない。
('A`)(やばい……!?)
しかし、ビコーズの攻撃はドクオの顔面数ミリ前を切った。体勢が後ろに崩れている。
下を見れば足元から氷の塊が隆起していた。どうやらそれに足元を掬われたようだ。
- 673 名前:1 :2014/09/04(木) 22:21:54 ID:JgPwpBr60
(*゚ー゚)
しぃに魔法を使わせてしまった。礼を言いたいところだが、自分の不手際に申し訳ない気持ちになる。
それでもこれはチャンスだ。ドクオは少し大きめの氷剣を取ると脇腹に叩き込む。さらに顔面へと膝を入れ遠くへと吹き飛ばした。
あまりの硬さに叫び声をあげそうになるが、なんとか抑えてもう一本を投擲。
敵に当たったかを確認せず、ドクオは駆け出す。敵の視界に入る前に次なる死角に入らねばならない。
その瞬間。
( ゚.゚)
('A`;)「なっ」
気付けばビコーズが目の前に立っていた。なんの前触れもなく、さも当然のように。
突然のことにドクオは反応できず、頭上に振り上げられた魔剣を見上げることしか出来ない。
('A`;)(何が……)
- 674 名前:1 :2014/09/04(木) 22:22:52 ID:JgPwpBr60
停止した思考。避けなければ、と考えれば考えるほどに動かなくなる体。スローモーションのように一瞬が一秒に、一秒が一分に引き伸ばされていく。
その長く短い一瞬で、ドクオはようやく把握した。オサムが使っていた空間を自由に行使する魔法を、どういうわけかビコーズも使用したということ。
たった、それだけのこと。
簡単に他人の魔法を体得するなどできるはずがないのに、彼は、人ではないそれはなんでもないかのようにやってみせた。
それは自分ではけしてできないことだ。魔法など分からないし、分かったところでできるはずもない。
どれだけ魔力を理解しても、どれだけ世界を知っても、ドクオは所詮ただの人間。
魔剣を持っているだけの、人間でしかないのだから。
(;*゚ー゚)「ドクオさん!! 動いて!!」
遠くでしぃの声が聞こえた。氷や水の魔法をしっちゃかめっちゃかに発動させているようだが、間に合わないだろう。距離が離れすぎている。
考える時間はたくさんあるはずなのに、伝えなきゃいけないことも山ほどあるのに、ドクオはそれを言葉にすることが出来ない。
- 675 名前:1 :2014/09/04(木) 22:23:36 ID:JgPwpBr60
( ゚.゚)
('A`)
(;*゚ー゚)「ドクオさぁぁぁぁぁぁぁん!!」
魔剣がドクオに触れる。自身の体が魔力となる感覚、そして消滅を始める自分だったもの。
消え行く間際、ドクオは自分の内から溢れるものの存在に、ようやく気付いたのだった。
- 676 名前:1 :2014/09/04(木) 22:24:21 ID:JgPwpBr60
(;* ー )「あ、あぁ……」
しぃの目の前で、また一人大切な人がいなくなってしまった。
ドクオは自分が合図を出すまで指示された魔法を使うなと言っていた。それがビコーズを止める唯一の手立てだから、と。
だが、そんなもの律儀に守る必要なんてなかったのだ。ドクオの命を脅かされた時点で使うべきだった。
自分で決めて、自分で選ぶのだと決意したはずなのに、肝心の場面で何故躊躇ってしまったのか。
ドクオは誰にでも優しかった。誰にでも分け隔てなく接していた。平等に誰かを救おうとしていた。
それは渡辺という存在に感化されただけのエゴだったのかもしれないが、それでも彼は自分でそうすると決めて戦い続けていたのだ。
そんなドクオだったからこそ、しぃは信じることができたし甘えることができた。あのひょろくて頼りない背中を見て安らぎを得ることさえあった。
なのに、
- 677 名前:1 :2014/09/04(木) 22:25:03 ID:JgPwpBr60
自分のせいで、
自分の弱さで、
自分の甘さで、
彼は、
死んでしまった。
他の誰でもない、自分のせいで。
(* ー )
しぃは力なく膝を折る。無感情のビコーズがゆっくりと近付いてきた。
何も言わず、ひたすらに魔法を発動。小さな威力のものも、大きなものも片っ端から呼び出して攻撃していく。
ビコーズは魔法の嵐の中にも関わらず、散歩するような気軽さで悠々と歩いている。こんなもの、何でもないと主張するように。
手にした力を、格の違いを見せつけるように。
最後の魔法を打ち終えて、しぃは今度こそ虚脱感に身を任せた。
もうビコーズを止める手段も、力もない。しぃ一人では役不足だ。
何より、この世界のどこを探してもドクオがいない。
一緒にビコーズを探しにいこうと笑った柔和だけど整っているとは言えない顔。
やる気がなくていつも気だるげに話す声も、全部、全部。
(* ー )「ごめ……なさ……」
- 678 名前:1 :2014/09/04(木) 22:25:45 ID:JgPwpBr60
誰にともなく呟く言葉と同時、しぃは魔法陣を展開させる。
自身の全ての魔力、果ては自分の体のマナをも使っての最大火力。
もう、自分には何もできない。大切な人を、仲間を守ることさえろくにできず、探していた恩人を救うこともできない。
全部、自分の覚悟が足りなかったから。
だから、せめてもの償いを。
何もできない自分にできる最後の贖いを。
(* ー )「さよなら」
しぃは魔法を発動させた。
しかし、何も起こらない。どころか展開させていたはずの魔法陣さえ輝きを失い霧散していく。
静寂が訪れ、音もなく近づいてくるビコーズの姿にしぃの思考はより深みへと堕ちていった。
(* ー )「……どうし、て」
周囲にはいつの間に張っていたのか魔法無効果の術式が展開されていた。しぃが集めた魔力も、自身のマナもごっそりと消えていく。
最後の足掻きさえ出来ない。させてもらえない。
- 679 名前:1 :2014/09/04(木) 22:26:39 ID:JgPwpBr60
自分の命さえ賭けたのに、心に灯ったはずの光が徐々に弱くなっていく。
(* ー )「これが、私の贖罪というわけですか。咎だと、あなたは仰るんですね」
ビコーズは答えない。
(* ー )「私には誰も救う権利なんてなくて、救われる権利もないと」
ビコーズが足を止めた。魔剣を振りかぶっている。
(*;ー;)「確かに私は咎人ですよ!! それでも、最後くらい、自分の死に場所くらい選ばせてくれたっていいではないですか!!」
彼女の痛々しいほどの叫びが辺りに響いた。それに答える者はどこにもいない。
かつて信じていた神も、その教えを説いた神父も、この場においてはしぃを断罪する処刑人で、しぃには許しを乞うことも全てを嘆く権利もない。
でも、それでも、しぃは彼に伝えなければならなかった。
届くことはないと知っていても、ここにいる何かはビコーズではないけれど確かにビコーズなのだから。
(*;ー;)「私は神父様を恨みません。あなたに沢山の愛を頂きました。たくさんの教えを頂きました。人を愛すること、誰かを救うこと、人として受けるべきだった全てをあなたは私にくれたのです」
- 680 名前:1 :2014/09/04(木) 22:27:22 ID:JgPwpBr60
(*;ー;)「血の繋がりなんてなくとも、あなたと過ごした日々が、思い出が、想いが、私達みんなが家族であると教えてくれています」
(*;ー;)「私は神父様を救うことはできません。悲しみに暮れている神父様に手を差し伸べる権利も力もないのでしょう。たから、私は自分にしかできない最後のことをしようと思います」
(*うー;)
しぃは涙を拭い、泣き顔を笑顔へと変える。
もう涙は出ない。
今、目の前にいるのは紛れもない彼。想い焦がれたいつかの父親なのだ。
別れに相応しいのは涙じゃない。
感謝を込めた、心からの笑顔。
- 681 名前:1 :2014/09/04(木) 22:28:04 ID:JgPwpBr60
(*。^ー^。)「育ててくれてありがとうございました、お父さん」
.
- 682 名前:1 :2014/09/04(木) 22:28:51 ID:JgPwpBr60
( ゚.゚)……
ビコーズは何も言わない、動かない。剣を振りかぶったまま、しぃを見ているだけ。
もう十分彼は苦しんだ、地獄を見てきた。
教会を無くし、たった一人で何を見てきたのかしぃは知らない。けれどもここで娘に刃を向けなければならないほどには辛い経験をしてきたのだろう。
だからこそしぃは最後に笑ってあげなければ、認めてあげなければ彼の人生が無意味なものだったと肯定することになる。
しぃは立ち上がり、ビコーズと真っ正面から向き合い、その体を抱き締めた。
(*。^ー^。)「もう一度会えてよかった」
しぃがそう言ったとき、冷たい滴が彼女の頬を濡らす。
ビコーズの顔を見れば、大きく見開かれた瞳から大粒の涙が溢れていた。
(*゚ー゚)「お父さん?」
- 683 名前:1 :2014/09/04(木) 22:29:35 ID:JgPwpBr60
( ;.;)コンナフガイナイワタシヲマダチチトヨンデクレルノカ
(*゚ー゚)「当たり前ですよ。親というのは、そういうものでしょう?」
( ;.;)アア、アア
(*゚ー゚)「私が最後までそばにいます。だから、終わりにしましょう。これ以上誰も傷つけなくていいんです」
その言葉と同時に、ビコーズの体色が人本来の色を取り戻していく。羽は光の粒子となって溶け、異様に盛り上がった筋肉も年相応の痩せ細ったものへと戻っていった。
( ;.;)「私はもう人を傷つけたくない!」
(*゚ー゚)「神父、様……」
けして泣くまいと自らの感情に蓋をしていたはずなのに、次から次へと涙が溢れていく。
(*;ー;)「神父様、いえ、お父さん!!」
しぃは生まれて初めて、人目を憚らず大声をあげて泣いた。
( ;.;)「すまなかった。そして、ありがとう……」
ビコーズの腕がしぃを力強く抱き締める。
しぃは、この日神父が、ビコーズが父としてくれたものを一生忘れまいと、心から誓った。
本当に大切なものは、今この瞬間をもって確かなものとなったのだから。
- 684 名前:1 :2014/09/04(木) 22:30:27 ID:JgPwpBr60
( -.-)
(*-ー-)
けれど、しぃは忘れていた。幸福も大切なものも、きちんと掴んでいなければすぐにさらわれていくということを。
だから、しぃは気づかなければならなかった。敵はけしてビコーズだけではないということに。
━━ドクン━━
(*゚ー゚)「……え?」
━━ドクン、ドクン━━
( ∵)「━━」
ビコーズがしぃを突き飛ばし、何かを言っていた。なのに、それを理解できない。
いや、理解できないのではなく、何を言っているのか分からなかった。
(;*゚ー゚)「お父さん!!」
何故なら、
( . )「━━!!」
ビコーズはもう、
(*;ー;)「やめてええええええええええええ!!」
ビコーズではなくなっていたから。
- 685 名前:1 :2014/09/04(木) 22:31:09 ID:JgPwpBr60
( ∵)「ハハハハハハ!! 手ニ入レタ!! 手ニ入レタゾ!! 全テヲ越エル力ヲ、全テヲ操ル体ヲ!!」
再びビコーズの体が黒く変色、白き翼を纏い魔力を放出。
体はビコーズのもののはずなのに、顔付きはまるで別人。先程瞬殺されたオサムのように見える。
( ゚"_ゞ゚)「コレガ力、コレガ世界ノ全テ。実ニ面白イ!! サァ!! 死ノ饗宴ヲ始メヨウデハナイカ!!」
- 686 名前:1 :2014/09/04(木) 22:31:51 ID:JgPwpBr60
ここは、どこだろうか。
自分は死んだのだろうか。
真っ暗で何も見えない。
魔剣アポカリプスの力で、自分は魔力へと分解されたのだ。もう生きてはいないだろう。
なのに、何故自分はまだここに存在しているのか。
そもそも死とは何だろう。生きるとはなんだろう。
人が魔力の塊だと言うのなら、魔力さえ生きていると言えるのではないか。
じゃあ、魔力となった自分はどんな存在なのだろう。
人であると言えるのか、はたまた別の存在へと変化するのか。
いや、人はどこまでも人だ。
泣いて、笑って、苦しんで、悲しんで、悔やんで、それでも歩き続けるのだから。
ほら、同じようにたくさんの人が感情を、心を燃やしている。
懸命に、這いつくばっても、たくさんの人が生きようとしている。
- 687 名前:1 :2014/09/04(木) 22:32:45 ID:JgPwpBr60
ξ;゚听)ξ(;´・ω・`)
あれは、ツンとショボンだ。街に張り巡っている魔法を解こうと奮闘していた。
誰かのために、みんなのために。
从;'ー'从( ;・∀・)
渡辺とモララーがこちらに向かってきている。尋常じゃないくらいに焦燥した顔をして、戦っているであろう自分達のために。
(*;ー;)( ;.;)
しぃがオサムの前で泣いている。オサムに乗っ取られたビコーズも、必死に叫んでいる。
血の繋がりがなくても、しぃとビコーズは紛れもなく親子という絆で繋がっているから。だから二人で戦おうとしている。
( ゚"_ゞ゚)
オサムの手によって弄ばれたたくさんの運命が、たくさんの命が、ここには集まっているのだろうか。
誰も彼もが戦っている世界で、一人俺は何をしている?
('A`)
- 688 名前:1 :2014/09/04(木) 22:33:42 ID:JgPwpBr60
想いが、絆が、心が、終わりじゃないと伝えている。
まだ死んじゃいない。
オサムも、きっとここに連れてこられたのかも知れない。
繋がっていく世界を、人の絆を、想いを、全てを、あいつも知ったんだ。
それでもあいつは私欲を望み、顕現した。
俺は止めなくちゃならない。
終わりにさせちゃいけない。
ここにある幾つもの心が、記憶が、俺を導いてくれる。
('A`)「なあ、そうだろ? そのために俺を連れてきたんだろう、 」
『━━━━』
声は遠い。なのにはっきりと意思だけが伝わってくる。
ドクオは手を伸ばした。
戦うために、抗うために、守るために。
この心は、想いは、まだ砕けちゃいない。
ならば、ドクオは歩みを止めてはならないのだ。
己の矜持をなかったことになどできやしないから。
ドクオの目の前に、光が現れた。
- 689 名前:1 :2014/09/04(木) 22:34:25 ID:JgPwpBr60
◇◇◇◇
後方から来た渡辺から事情を聞いたモララーは、信じられない気持ちで一杯だったが、現状を鑑みるに事態は最悪の方へ進行していることをようやく飲み込んだ。
( ・∀・)「こいつは参ったね」
从'ー'从「早くどっくん達にも伝えないといけませんね〜」
( ・∀・)「毎度思うんだけど、渡辺ってあんまり焦らないよな」
从'ー'从「こう見えてすごく焦ってるんですよ〜」
(*゚∀゚)「マイペースとも言えるんだニャ」
( ・∀・)(え? なんで猫が喋ってんの? てか、これ使い魔だよね? どういうことなの?)
どうしようもなく疑問を口にしたいところではあるが、今はそれを聞いたら負けな気がする。詳しくはあとで話してもらうことにしよう。
現在モララーと渡辺は大量の魔力が流れる方を追っているところだった。
- 690 名前:1 :2014/09/04(木) 22:35:08 ID:JgPwpBr60
もし、ショボンの予想が正しいとすればこの町にいる全ての人間が魔力へと変換される可能性がある。そうなればもはや敵を止める人間はいないし、下手をすれば大陸そのものの崩壊を招きかねない。
本来であればモララーも一目散に逃げ出したいところではあるが、ぐっと心の奥底に押し込めておく。
( ・∀・)「と、ここだな」
从'ー'从「……あれれ〜? 何か変な音がしませんか〜?」
( ・∀・)「変な音?」
渡辺に言われて、モララーは耳を澄ませてみた。
確かにどこからか妙に甲高い音が聞こえる。モララーの耳、というより感覚が正しければ、これは……。
( ・∀・)「魔力が、共鳴してる?」
从'ー'从「共鳴って……」
( ・∀・)「……分からん。が、様々な魔力が入り交じって相互干渉を引き起こしてるみたいだな。こりゃ、マジで離れた方が」
モララーの言葉は最後まで紡がれることはなく、すぐに防御魔法を発動。膨大な魔力が下方から噴出する。
岩壁を食い破り、弾き飛ばし、飲み込みながらあらゆる方向へと暴れまわる魔力の波。あとコンマ数秒防御が遅れていたら、モララーと渡辺は塵も残さず消滅していたかもしれない。
( ・∀・)「……何が起こってるんだ、あれ」
- 691 名前:1 :2014/09/04(木) 22:35:51 ID:JgPwpBr60
(*゚∀゚)「何者かが世界の理を垣間見たんでしょうニャ」
( ・∀・)「は? 世界の理?」
从'ー'从「断り? お引き取りくださーいってこと?」
( ・∀・)「……よくわからねえけど、魔力とはまた違った力ってことか?」
(*゚∀゚)「ご主人達もよく知ってる力だニャ。魔剣、と言えばわかるかニャ?」
魔剣。
その一言にモララーはある程度の意味を理解する。
魔剣アポカリプス。伝承の中で絶大な力をもたらし、神をも殺した最凶の象徴。
だが、それは今ドクオの手にあるのではないか。そしてそれを持つドクオはすでにその力を知っているはず。
ならば、猫の言う理を垣間見たというのは少々腑に落ちない。
(*゚∀゚)「今の持ち主は魔剣の力を、魔剣が秘める力の意味を僅かたりとも理解していなかったニャ。けれど、どういうわけか今、その入り口に立ったということだニャ」
( ・∀・)「……」
得意気に語る猫の使い魔。渡辺は無邪気に物知りだね〜、などと誉めちぎっているが、モララーはうすら寒ささえ覚えてしまう。
何故、こいつは使い魔の癖に人語を解するのか。さらに、どうしてモララー達が知らないような情報まで事細かに話せるのか。
ただの使い魔でないことは分かる。けれど、こいつはそれ以上に常軌を逸している。
( ・∀・)「……猫。お前は」
- 692 名前:1 :2014/09/04(木) 22:36:36 ID:JgPwpBr60
(*゚∀゚)「今それを聞いてどうするつもりですかニャ? そんニャことよりすべきことがあると思いますがニャ」
使い魔に指摘され、舌打ちを打つ。
確かにその通りだ。あそこにドクオ達がいるなら助太刀しない理由がない。
( ・∀・)「くそったれ!!」
モララーと渡辺は暴走した魔力が収まるのを見計らって中へと突入。グシャグシャになった広い空間の中に、二つの人影。
(* ー )
一人は力なく瓦礫に転がる小さな少女。
( ゚"_ゞ゚)
もう一人は見たことのない姿形をした漆黒に染まった異形の存在。
なのに、モララーにははっきりと分かる。あれは自分達の敵で、倒さねばならない驚異なのだと。
从'ー'从「しぃちゃんと、オサムさん……なのかな?」
( ・∀・)「おい、ドクオがいねえぞ」
瓦礫に降り立ち、しぃを抱き起こす。息はある。死んじゃいない。
( ・∀・)「喋れるか?」
- 693 名前:1 :2014/09/04(木) 22:37:19 ID:JgPwpBr60
(* ー )「たい……ちょ……あれは、あの人は……私の、おとう、さん……で」
( ・∀・)「無理に喋るな。渡辺、しぃを頼む」
(* ー )「どく、お……さんも、死んで……」
( ・∀・)「……あいつはまだ死んじゃいないさ」
(* ー )「へ?」
( ・∀・)「あいつがそう簡単にくたばるたまかよ。何、時間稼ぎでもしてりゃそのうちひょっこり顔出すさ」
あいつはそういうやつだ、とは口に出さず、狼狽える渡辺にしぃの介抱を任せる。
槍を呼び出し、構えて男と対峙。
( ・∀・)「うちの部下が随分世話になったみたいじゃねえか」
( ゚"_ゞ゚)「マタ生贄ガ現レタカ。貴様ハ神ヲ目ノ前ニシテイルノダ。平伏シタラドウカネ」
( ・∀・)「神だか白髪だか知らねえが、てめえは俺の敵で、世界の敵だ。なら、さっさと終わらせてもらうぜ!」
男━━渡辺がオサムと呼んでいた━━の返答を待たずにモララーは瓦礫を蹴っていた。
鋭い突きの嵐、さらに後方から大量のレーザーを発動。自身は上空へと跳躍し、そこから落下速度を加えた一撃を放つ。
轟音、周囲に砕け散った岩や砂利が巻き上がった。だが、手応えがない。
( ;・∀・)(後ろ!?)
- 694 名前:1 :2014/09/04(木) 22:38:03 ID:JgPwpBr60
( ゚"_ゞ゚)
軽く頭を背に向ければ、オサムが無防備に立っている。特に何かをしてくる様子もなく、不気味な笑みを浮かべているだけだ。
( ・∀・)(どういうことかは知らねえが、チャンス、だな!)
振り返り様、オサムを光の弾で蟻一匹通さないほどびっしりと取り囲み、一斉に発射。瓦礫の山を全て破壊し尽くすほどの威力と数を込めた魔法だ。無事で済むわけがないのだが……。
( ;・∀・)「!?」
モララーは瞬間的に防御魔法を展開。刹那、モララーが放ったはずの光弾がそっくりそのままこちらへと跳ね返ってくる。
( ;・∀・)(ちっ!!)
どこまで耐えられるかも分からないが、防御壁の外側に別の魔法を設置、展開し、モララーは防御を解く。
魔法陣が展開されると同時に光弾はそちらへと誘導され、次々と弾けとんだ。
( ・∀・)「らぁっ!」
視界は未だに土煙で遮られているが、モララーにはオサムが動いていないという確信めいた予感があった。
力を得て、己を過信しているものはゆっくりと敵をいたぶるのが好きな傾向がある。おそらく、オサムも同じだろう。
( ・∀・)(捉えた!)
- 695 名前:1 :2014/09/04(木) 22:38:49 ID:JgPwpBr60
予想通り、さらに幸運なことにオサムはそっぽを向いてこちらに気付いていない。今が絶好のチャンス、これを逃さない手はないだろう。
だが。
( ∀ )「はっ」
何が起こったのか分からなかった。一歩踏み込んだ瞬間、謎の衝撃が腹部を圧迫。おまけに体の至る部分に切創が大量に作られていく。
( ∀ )(何が……)
( ゚"_ゞ゚)「脆イゾ人間」
声が聞こえ、追い討ちをかけるように再び謎の衝撃がモララーの頭部に加えられた。
一気に意識を持っていかれそうになり、気づけば瓦礫の上に転がっていた。やはり、分からない。
( ∀ )(どうなってやがる……)
( ゚"_ゞ゚)「マルデゴミクズノヨウダ。神ニ逆ラウナド愚カダヨ」
なおもやかましく一人大仰しい動作を交えながら高説を垂れるオサムだが、さすがのモララーもこれは予想外である。
確かに本調子でないとはいえ、こうもあっさり戦闘不能にされるとは思わなかったのだ。
いくら神だなんだといったところで大したことはないと踏んだのが間違いだったらしい。不可視の力は的確にモララーの急所を捉えている。
- 696 名前:1 :2014/09/04(木) 22:39:33 ID:JgPwpBr60
( ∀ )「ゲホッ……やべえな、これ」
時間稼ぎにすらならないなんて、騎士団の隊長としての面目丸潰れだ。
しかし、目に見えない強力な攻撃などどうすることもできない。あの猫が言っていた世界の理とやらの力だとでもいうのか。
( ゚"_ゞ゚)「モウ動ケナイカ。当然ダ。世界ノ理ヲ覗イタ今ノ俺ニトッテ人ナド玩具同然ダカラナ」
下卑た笑い声と嘲笑の笑顔が、モララーを見下ろしていた。動こうにも体の隅々までピクリともしない。体中を駆け巡るマナに何らかの細工がなされたのかは知らないが、もはやモララー、いや、ショボンやジョルジュでさえ敵わないだろう。
从;'ー'从「ね、猫ちゃん!」
(*゚∀゚)「ニャ」
動けないモララーを見かねたのか、渡辺が炎弾を、猫が光弾をオサムへと放つ。
だが当然のようにオサムには届かない。届く前に消えてしまった。
( ゚"_ゞ゚)「神ノ前デ無駄ナコトヲ」
オサムが腕を振り、使い魔であるツーが消滅。この間、コンマ数秒の出来事だった。
涙を浮かべ、腰が引けているにも関わらず、渡辺はけして逃げることはせずに、深呼吸の後、渡辺は口を開いた。
从;'ー'从「か、神様なんて知らないもん! 少なくとも、神様は私達人間を傷つけたりなんてしないよ!」
- 697 名前:1 :2014/09/04(木) 22:40:16 ID:JgPwpBr60
( ゚"_ゞ゚)「全知全能ノ神ガドノヨウナ気紛レデ虫ケラヲ殺ソウト構ワナイダロウ。憐レナ下等生物共ヨ」
( ∀ )「渡辺! 逃げろ! お前じゃどうしようもねえ!」
モララーは精一杯の声で叫ぶ。しかし渡辺はオサムをしっかりと見据える。
从'ー'从「……あなたは、どこまでも悲しい人だね。人として大切なものを失くして、人としての命まで捨ててしまうなんて」
( ゚"_ゞ゚)「ナニ?」
从'ー'从「人はね、神様なんかに負けないよ。だって、人はいつだって自分の力で歩いてきたもん」
从'ー'从「誰かを助けて、笑顔をもらって、明日も頑張ろうって思えるから、それが私達を動かす力になる」
从'ー'从「人は、あなたに比べたらすっごく小さな存在だよ? でもね、私達は一人で戦ったりしない。一人で生きてるわけじゃない」
- 698 名前:1 :2014/09/04(木) 22:41:00 ID:JgPwpBr60
从'ー'从「あなたは今、誰かと繋がってる? 誰かのために何かをしようとしてる? そんなあなたになんて私達は負けない!」
从#'ー'从「だから、私は最後まで戦う! みんなのためにも、私のためにも、絶対、絶対なんだから!」
馬鹿野郎。本当にどうしようもない大馬鹿野郎だ。
そういえば、みんなそうだった。あいつに関わったやつはみんな何かのために、誰かのために、倒すための戦いではなく、守るために剣を取るようになる。
( ∀ )「はは、ったく、馬鹿ばっかりだな」
(* ー )「本当に、そう思います」
自嘲気味に呟いた言葉に、返事がくる。モララーと同じく、体中血塗れになりながら、震える足で必死に立ち上がろうとしていた。
(* ー )「教えてもらいました。戦う意味、理由、人を救うために必要なこと。そして、私が私であるための大切なものを」
(* ー )「私はずっと自分というものを偽って生きてきました。誰も救えず、力がないからと言い訳をして、逃げていた」
(* ー )「本当は何かができたはずで、行動できたはずなんです。弱さを知りながら、向き合うことができなかっただけ」
(* ー )「一人じゃ怖くて、足がすくんで、進むことができなかったから。でも、私は知りました。気付きました」
(* ー )「私は一人じゃありません。たくさんの人に支えられて生きています」
(* ー )「だから!」
- 699 名前:1 :2014/09/04(木) 22:43:35 ID:JgPwpBr60
- (* ー )「私は! 神父様を、お父さんを助けるために出来ることをします! もう逃げません!」
絶望的な状況の前で、よくこうまで言い切れるものだとモララーは呆れを通り越して感心してしまった。
死にかけの体で、策も力もない弱い体で、それでもなお戦うというのか。
ならば、大人の男で、騎士である自分が寝ているわけにはいかないだろう。
( # ∀ )「んなろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
筋肉が軋みをあげ、ぶちぶちと何かが切れる音がする。
知ったことか。小娘どもにここまで言わせたのだ。今だけでいい、死んだっていい。動け。
- 700 名前:1 :2014/09/04(木) 22:45:28 ID:JgPwpBr60
( #・∀・)「らぁ!」
立ち上がり、槍を取る。まだ終わらない。終われない。
心が折れるまで、モララー達は何度でも立ち上がるだろう。たとえ腕をもがれ足がちぎれても、戦わねばならない理由がある。
( ・∀・)「さぁ、もう一戦始めようかくそったれな神様よ!」
( ゚"_ゞ゚)「愚カナ……人トハドコマデモ愚カダナ。何故コウモ死ニ急グ。ヤハリ、改革ガ必要ダ」
从'ー'从「させないもん! 私達の世界は私達で守って見せるんだから!」
(*゚ー゚)「あなたの好きにはさせません。たとえあなたが神様だとしても、私はあなたを認めません」
( ゚"_ゞ゚)「クックックッ、シカシ、モウ遅イ。戦イニスラナランヨ」
( ・∀・)「あ?」
オサムがパチリと指を鳴らすと、地面が揺れた。
始めは小さく、しかし徐々に強さを増していく。
从;'ー'从「え?」
( ゚"_ゞ゚)「ハハハ! 刮目セヨ! 世界ハ今宵生マレ変ワル!」
(;*゚ー゚)「何を……」
- 701 名前:1 :2014/09/04(木) 22:48:12 ID:JgPwpBr60
- 次の瞬間。
モ・トコに絶望が舞い降りた。
空は赤く染まり、街に光が降り注ぐ。破片が舞い上がり、炎が地面を駆け巡っていく。
爆発音、破裂音、粉砕音、ありとあらゆる破壊の断末魔が響き渡っていった。
( ;・∀・)「……これは」
( ゚"_ゞ゚)「人ノ命ガ、自ラノ世界ヲ破壊スル様ヲ見届ケルガイイ! ココカラ世界ガ始マルノダ!」
光はやがてモ・トコに留まらず、南へと流れていく。あの方角は━━
(;*゚ー゚)「あっちは……」
从;'ー'从「王都だよ!?」
( ; ・∀・)「冗談じゃねえ!! 今すぐ止めろ!」
( ゚"_ゞ゚)「フン!」
モララー達の前で何かが弾ける。
それだけ、たったそれだけでモララーの体は動けなくなった。腕、足、腹、胸から血が滴っていく。
横を見れば渡辺やしぃも同様に地に伏している。
- 702 名前:1 :2014/09/04(木) 22:48:54 ID:JgPwpBr60
( ∀ )(戦うとか戦わねえとか、そんな次元じゃねえ……端から勝負にすらなりやしねえ……)
力の桁が違いすぎる。不可視なだけでなく、理論も理屈も分からない。魔法ではない他の力。
未来も、過去も、心も、体も、
神の前では児戯でしかないというのか。
( ∀ )(くそ……くそ……! くそぉぉぉぉぉぉぉぉ!)
( ゚"_ゞ゚)「終ワリダ。死ネ」
从; ー 从「うぐっ……」
(;* ー )「まだ……あきらめ……」
( ; ∀ )「っのやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
モララーの叫びが響き渡り、どう足掻いても避けきれない光の弾幕がこちらに向かってきた。
- 703 名前:1 :2014/09/04(木) 22:52:09 ID:JgPwpBr60
- かってきた。
自身の無力さ、自身の思慮の浅さ、考え出せばきりがないほどたくさんの後悔が押し寄せてくる。
力があれば、ああしていれば、もっと別の方法もあったはずなのに、せめて二人の少女を守ることだってできたはずなのに。
ここに必要なのは圧倒的な力で、誰かを守ってくれる救世主で、それは神様なんかじゃないのだ。
たとえボロボロになっても、弱い心だとしても、力の使い方を、在り方を履き違えないどこまでも馬鹿な人間。
それが、
('A`)
横合いから一人の男が乱入する。
紅い剣を携え、伝説の力を引っ提げて、
そいつは、遅い到着を果した。
从'ー'从「どっくん!」
(*゚ー゚)「ドクオさん!」
( ・∀・)「おせえぞ、馬鹿野郎」
('A`)「わりい。ちょっと道が混んでてさ」
- 704 名前:1 :2014/09/04(木) 22:52:52 ID:JgPwpBr60
ちらりとこちらを一瞥し、軽く手を振る。すると、モララー達の傷がみるみるふさがり、体力も幾分か回復した。
( ;・∀・)「な!?」
ドクオは魔法を使えないはず。なのに、この現象はどういうことだ。
それに、どこかその背中が頼もしく見える。姿形は変わらないのに、纏う雰囲気だけが別人のようだった。
( ・∀・)(また一皮剥けたってわけか)
('A`)「三人とも。あとは俺に任せてみんなを連れて逃げてくれ」
(*゚ー゚)「何を……」
('A`)「もうこの街は限界だ。しかもオサムが発動してる魔法はこの街の全魔力が対象になってる」
从'ー'从「それって……」
('A`)「このままここにいたら助からない」
モララーは判断に迷う。確かにモララー達では歯が立たないどころかまともに戦うことも出来ないが、支援くらいなら出来るはずだ。
敵の攻撃の出所や、方法をゆっくりと検証していけば勝機を見出だせるかもしれない。
- 705 名前:1 :2014/09/04(木) 22:53:36 ID:JgPwpBr60
('A`)「モララー。お前の言いたいことは分かる。けど、ツンやショボンさんにも伝えてる時間がないんだ」
( ・∀・)「……最後に一つ聞かせろ」
ドクオの言いたいことも、自分が聞きたいことも理解して、飲み込んで、モララーはたった一つ、たった一つだけ大事なことを口にする。
( ・∀・)「勝てんだろうな」
('A`)「当たり前だ」
ニヤリとドクオが笑った。モララーも釣られて笑う。
( ・∀・)「……分かった。さっさと終わらせろよ。俺達じゃ逆立ちしても勝てそうにねえんだ」
('A`)「おうよ」
从'ー'从「どっくん! 早く帰ってきてね!」
(*゚ー゚)「ドクオさん」
と、しぃがドクオの手をきゅっと握る。
(*゚ー゚)「あの、その……」
('A`)「しぃちゃん。終わったら、全部話す。何もかも」
(*゚ー゚)「……はい」
('A`)「それと、神父のことは任せろ」
(*゚ー゚)「ッ!」
- 706 名前:1 :2014/09/04(木) 22:54:20 ID:JgPwpBr60
(*゚ー゚)「はいっ!」
( ・∀・)「行くぞっ!」
ビコーズを乗っ取った本物の悪魔と向き合い、ドクオは無表情で睨み付ける。
('A`)「よぉ」
( ゚"_ゞ゚)「ヤハリ帰ッテキタカ」
('A`)「もう言葉はいらねえだろ。さっさと始めようぜ」
( ゚"_ゞ゚)「イイダロウ。俺カ、オ前カ、世界ノ命運ヲ、神ト呼バレルハドチラガ正シイカ」
地響きが大きくなっていく。他に人はいない。人の、世界の理を外れた二人が視線を交差させる。
(#゚A゚)「オサムぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
( ゚"_ゞ゚)「コォォォォォォォォォイ!!」
ドクオとオサム、理を知ったもの同士最終決戦の火蓋が切って落とされた。
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