477 名前:1 :2014/07/20(日) 21:11:55 ID:V03MPEb.0

第十一話「神対神、開戦」

.

478 名前:1 :2014/07/20(日) 21:12:51 ID:V03MPEb.0

◇◇◇◇

繰り出された大振りな拳を左に跳んで避けると、すぐに後方から巨大な岩石が飛来する。体勢を立て直す間もなくドクオはそれに剣を当てた。

岩は元からなかったかのように消失。しかし、岩の弾丸はさらに左右同時から向かってきている。

('A`;)「くそっ!」

身を伏せて弾が相殺するのを確認し、ドクオはゴーレムとは逆方向に駆け出した。次々に浮かび上がる大小様々な岩や石が雨霰と降り注ぐ中を致命傷を食らわないよう細心の注意を払いながら。

距離を空けて攻撃が止んだ隙に振り返ると、ゴーレムはなおも拳を振るい周囲の石畳をところ構わず粉砕して弾丸を増やしていく。ドクオの視界に映るのは浮遊する岩でほとんど埋め尽くされており、その数たるや数百はくだらないだろう。

ドクオは動くかどうか一瞬だけ迷ってしまった。だが、その一瞬が命取りだった。

ドクオが動かないと見るや、ゴーレムは浮遊した石を一斉に射出し始める。

('A`;)そ「冗談じゃねえ!」

逃げられるほどのスペースもない今、ドクオは迎撃するしかない。一つ二つ三つと高速で動く岩の嵐を叩き落としていくが、ドクオを狙っているわけではなくただ真っ直ぐ飛ばしただけのそれらは後ろにある建物を破壊し、周囲に粉塵を撒き散らしていく。

479 名前:1 :2014/07/20(日) 21:13:36 ID:V03MPEb.0

不明瞭になる視界、それでもドクオは自分でも驚くほどの反射神経でもって弾丸に対応していた。

いくつかの破片や致命傷にならないものは微々たる傷を残していくが、動けなくなるほど酷いものではない。痛みがないわけではないがドクオの心が折れるようなことはなかった。

しかし、じわじわと焦りは募っていく。熾烈さを増す攻撃を避け続けるのにも集中力や体力が削られ、攻撃をすればそれに比例し威力も範囲も上がっていくというジレンマ。敵を構築するはずの魔法陣を見つけさえすれば突破口は開くはずなのにその糸口さえ見つかっていないのだ。

('A`;)(どうすりゃいい、どうすりゃこいつを倒せる?)

不意に煙の中から巨大な手がぬうっと伸びてきた。ほとんど無意識の内にドクオは剣を振るってしまう。

('A`;)「やべっ!」

岩で作られた凹凸の無骨な手は一瞬で消滅するが、その途端に周囲で漂っていた岩が集まり再び手や腕を再構成する。

さらに集まった石や岩は全て腕になったわけではなく、いくつかがドクオに向かっていた。剣を振り抜いてしまい体勢を崩したままのドクオは避けることもできず岩の餌食となってしまう。

( A )「がぁっ」

石畳を跳ねて転がり、先にあった建物に激突。意識は切れなかったが立ち上がるのさえ厳しい。ようやく顔を上げた時には目の前にゴーレムが屹立し、腕を振りかぶっていた。

('A+;)「こ、のっ!」

間一髪剣で防ぎ、その間に身を低くしたままゴーレムの股下を通り抜ける。こちらを踏み潰そうと巨大な足が床を叩き、衝撃で地面が揺れる。

('A+;)「うおっ」

思わず膝を崩すも転ぶことはない。だが踏み砕かれた石畳の破片がまたも弾丸として襲いかかってきた。

480 名前:1 :2014/07/20(日) 21:14:19 ID:V03MPEb.0

もはや避ける術もなく撃ち抜かれ、左腕と右足が歪な方向に曲がっていた。

( A+)「がぁぁぁぁっ!」

さらに追い打ち。ゴーレムの拳がしっかりとドクオを捉える。地面に伏していたドクオは衝撃を殺すこともできずダイレクトに攻撃を食らってしまった。

体中の骨が折れる感触、内蔵も潰れたのか口から血を吐き出してしまう。

掠れる視界の中でゴーレムがこちらを見下ろしていた。止めを刺そうとしているのだろう。

( A+)(……もう動けねえよくそったれ)

もはや体はピクリとも動かない。今の攻撃で剣もどこかにいってしまった。反撃などできるわけがない。

今の今までよく耐えたとドクオは自分を誉めたい気分だった。例えここで命を落とすとしても、ただの一般人である自分が魔法使いなんてチート集団と渡り合えたこと自体が奇跡とさえ言える。

この戦いだってドクオは敵の弱点である魔法術式がどこかにあると予想まではできたのだ。

それが見つからないということは、敵の術者がプロであり自分が素人であることの証明に他ならない。言い換えれば経験の差、短時間でいくつもの死線を越えてきたとしても長きに渡って積んできた経験は絶対に縮まらないのだ。

そんな相手とここまで戦うことができた。もうそれで十分じゃないか。誰もドクオを馬鹿にするやつなどいない。

( A+)(ここが俺の限界だよ。現実から逃げ続けた負け犬の限界)

ゴーレムの足裏が視界に入る。踏み潰されれば即死だろう。

( A+)(ごめん、みんな。先にリタイアさせてもらうよ)

481 名前:1 :2014/07/20(日) 21:15:07 ID:V03MPEb.0

ドクオは今も戦っているだろう仲間達に心の中で謝罪をする。

ショボンやモララーは一人で敵と戦っているのだろう。

しぃや渡辺、ツンだって協力して街を守っているかもしれない。

誰も彼もが自分ではない誰かのために戦って傷ついて、その後ろ姿を見てきたからドクオは立ち上がれた。

でも今のドクオは一人ぼっちで、どこまでも無力だ。いつだって誰かがそばにいてくれたからドクオは戦えた。守るべきものを見失わなかったから剣を握れた。

ショボンはドクオを芯の通った男だと、期待通りの男だと言ってくれたのに、中身や想いはそう簡単に変わってくれやしない。

( A+)(ここが俺の着地点だ。だから、もう休ませてくれ)

なのに。

そう思って全てを諦めたはずなのに。

体が全く動かないはずなのに。

( A+)

ドクオは立ち上がっていた。

ゴーレムの足が迫っている。直撃は避けられない。

ドクオは両手を上にあげる。魔剣は手元にない。

それでも、ドクオは受け止めた。

自身の力のみで、何トンもあろうかというゴーレムの踏みつけを、受け止めたのだ。

傷口から鮮血が吹き出るのが分かった。あらぬ方へ曲がった腕や足から何かが砕けるような感触もある。内蔵も破裂しているのかもしれない、嘔吐感が一気に押し寄せていた。

( A+)「駄目なんだよ。みんな戦ってるんだ。俺一人だけ休んでるわけにはいかねえんだ」

482 名前:1 :2014/07/20(日) 21:15:54 ID:V03MPEb.0

あいつらはみんな自分以外のために戦ってしまう馬鹿どもだから。

あいつらはみんな誰かのために傷つくのを恐れない阿呆だから。

ここで諦めて死んでしまったら、渡辺が、ショボンが、モララーがしぃがツンがしてきたことを教えてくれたことを全部否定することになる。それだけは何があってもやっちゃいけないこと。

(゚A+)「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

力を入れて押し返すと、ぶちぶちと筋肉が切れるような音が聞こえた。少しずつではあるがゴーレムの足が上がっていく。

(゚A+)「らぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁ!!」

叫び声と共にドクオは地を蹴って飛び上がった。

するとずぅぅぅんと大きな音と共にゴーレムは背中からひっくり返る。じたばたと両手両足を動かしているが体積を増したゴーレムの体は簡単には起き上がれない。

ドクオは近くに転がっている魔剣を回収するともう一度飛び上がり、顔と思しき場所へと切っ先を差し込む。

これで終わりだとは思わない。そのままゴーレムの上半身から下半身へ疾走すると再生する間もなくゴーレムの体が消滅していく。

('A+)「はっ、はっ……」

全てが消滅した。が、周囲に飛び散っている石畳の破片が小刻みに揺れているということは間違いなく再生するのだろう。今回は運よく全身を消滅させられたが、単なる時間稼ぎにしかならない。

いや、収穫はそれだけではなかった。

これでドクオの考えは根底から覆されたのだ。

なんせ、このゴーレムには核となる術式が存在していないのである。

('A+)(全部消したのにまだ動くってことは、これは本体じゃないんだ)

483 名前:1 :2014/07/20(日) 21:16:40 ID:V03MPEb.0

始めからおかしかったのだ。こんなに動きが遅く単調な攻撃しかしてこない岩石の人形が自らと周囲の岩を使った二段構えの戦法を取ること自体が。

これだけの大質量を操作するような魔法であればおかしくはないとドクオは無意識の中で判断してしまった。そもそも魔法を詳しく知らないドクオからすれば何もかもが魔法で納得できてしまうのは仕方のないことである。

だからこそ敵はそこを突いてきたのだろう。ドクオが魔法に不得手だということを知り、かつドクオの持つ魔剣の特性を知る故の戦法。

だがドクオはもう迷わない。諦めない。

この瞬間、ドクオは全てに気付くことができたのだ。

('A+)(思えば、ヒントは昨日の夜にあったじゃないか)

ドクオとしぃを別空間に閉じ込め、魔物と戦わせるような魔法。それは魔法を倒した瞬間に解除された、通常よりも異質なもの。

異質だからこそ、それだけではないのだろう。

('A+)(つまり、これは幻。魔法が仕掛けられてるのは━━)

ドクオは剣を握ると瞼を閉じる。暗闇の中で耳と肌が音や風の流れを鋭敏に感じ取っていた。

それに混じって一つだけ風でも音でもない、目を閉じていてもはっきりと映る光がある。けして見えているわけではなく、見えなくとも光だと分かってしまうほど違和感のある光の集合体。

(゚A+)「見えた!!」

目を開けると、周囲にあった全ての岩や石を集めたのか先程よりも数倍大きくなったゴーレムが拳を振るっているとのろだった。

構わずドクオは走りだす。背中越しに空を切る感触が伝わるが、もはやゴーレムに用はない。そこから足裏に力をこめて、ドクオは宙を舞う。

ゴーレムの胸の手前。そこに光の塊を見つけた。

('A+)「ここだぁっ!!」

484 名前:1 :2014/07/20(日) 21:17:26 ID:V03MPEb.0

握りしめ、上段に構えた剣を思いきり降り下ろす。

何かを斬りつけた手応えを感じると同時、視界が一瞬だけホワイトアウトした。

高く舞い上がったドクオは痛みで受け身を取ることも出来ず、そのままべしゃりと石畳の上に落下したが思いの外体はピンピンしている。

('A`)「……」

いつのまにかあれだけ重傷だった怪我が一切合切無くなっていた。どころか踏み砕かれ穿たれた石畳も建物も何一つ破壊の爪痕を残してはいない。

('A`)「全部幻、ってことか」

あれだけ心折れそうになったことも、死ぬんじゃないかと思った怪我も、全ては敵が作り出したまやかしだった。

多少拍子抜けはするものの、強力な魔法であったことに変わりはない。死んでいたとしても不思議ではないのだ。

仮にあの術式の中で死んだとしたらどうなっていたのか。考えたくもないが一先ず危機は去ったと見ていいだろう。

('A`)「さてと」

ドクオは立ち上がると剣を構え直す。

随分と長い間閉じ込められていたようだ。辺りにはうじゃうじゃと鳥型の魔物が蔓延っている。

('A`)「こいつら片付けて宿舎に━━」

言いかけて、背筋に悪寒が走る。

何か得体の知れないものがこちらに近付いてきているのを感じた。

その瞬間、百で利かない数の魔物が一斉に消滅する。

('A`;)そ「なんだ!?」

485 名前:1 :2014/07/20(日) 21:18:53 ID:V03MPEb.0

周辺を見回すと、いた。少し離れたところに二人組の人間がこちらを見つめて立っている。

( ゚"_ゞ゚)

( ∵)

その内の一人━━いや、人として数えていいのか分からない、まるで人形のようなものの前に淡い輝きを放つ球体が浮かんでいる。

それは口を大きく開けると━━

('A`;)「は?」

( <Θ>)〇

光の球を喰らった。

驚きのあまりドクオはその場から動くことが出来ず、ただただ異質な二人を見つめることしかできない。

やがて、二人はドクオから数メートル離れたところまでやってくると、男の方が恭しくお辞儀をした。

( -"_ゞ-)「お初にお目にかかる、魔剣の主。俺は棺桶死オサム、予想通り黒の魔術団の一人だ」

黒の魔術団。その言葉を聞いてドクオは戦闘体制に入る。

( ゚"_ゞ゚)「おっと、俺は君と戦いに来たわけじゃない。それに俺自身は魔法使いではあるが戦闘能力はほぼ皆無でね、君にはどうひっくり返っても勝てそうにないんだ」

('A`)「……今回の騒動はお前が黒幕か?」

( ゚"_ゞ゚)「その通りだ。ついでに言えば昨日君に魔物を宛がったのも俺さ」

('A`#)「お前たちの目的はこいつだろう。なんで関係のない人達まで巻きこんでんだよ!」

486 名前:1 :2014/07/20(日) 21:19:40 ID:V03MPEb.0

( ゚"_ゞ゚)「俺は魔法使いであると同時に研究者でね、好奇心が騒ぎ出すんだ。例えば、その魔剣の仕組みや力の限界。何が出来て何が出来ないのか、非常に興味がある」

('A`)「……そんなことのために、巻き込んだってのか?」

( ゚"_ゞ゚)「そんなこと? 心外だな。分からないことがあれば知りたくなるのが人間だろう。例え何を犠牲にしても、やり遂げねばならないことはあるものだ」

('A`#)「てんめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

気付けばドクオは魔剣を振りかぶり駆け出していた。

オサムの言葉は同じ人間が発したものだと信じられない。貞子も人としての倫理や常識が欠けていたが、好奇心を満たすためだけに人を殺すなど、奴はそれ以上の狂気を感じる。

あと数センチで切っ先が触れるところまできて、ドクオは剣を止めた。

( ∵)

否、オサムの隣にいた不可解な生物に止められたのだ。触れれば喰らわれるはずの魔剣を手で受け止めたのである。

('A`;)そ「なっ」

ドクオがいくら力を込めようとも、押そうが引こうがびくともしない。

( ゚"_ゞ゚)「ふむ、やはり実験は成功のようだな。魔剣にも引けを取らない強度とは」

487 名前:1 :2014/07/20(日) 21:20:32 ID:V03MPEb.0

('A`#)「てめえ、こいつは、何者だよ!? これを触って消滅しないなんて、普通じゃねえぞ……っ!!」

( ゚"_ゞ゚)「人は何で構成されているか、君は知っているか?」

('A`#)「何を言ってんだてめえ」

( ゚"_ゞ゚)「答えは色々とあるんだが、突き詰めて言えば人を構成するのは純粋に魔力なんだよ。ただの魔力の塊でありながら生き物はマナという純度の高い魔力を体内で作り上げるのだが、俺はこの事実に驚愕したよ」

('A`#)「だから何を」

( ゚"_ゞ゚)「人というのは生き物中でも特にマナの生成効率が良くてね、作る量も早さもこの世界に生きる生物の中では頂点に君臨する」

ドクオは動けない。目の前の敵に魔剣を握られているうえに、オサムの周囲に魔力が集まりだしているからだ。

下手な真似をすれば殺す、と彼の瞳が言っている。

( ゚"_ゞ゚)「濁りきった魔力で構成された人間が、何故こんなにも純度の高い魔力を生み出すのか。それは人の身体的機能や隠された秘密があるんではないかと、俺は興味を持ってね、調べてみたよ」

('A`#)「調べたって、まさか」

( ゚"_ゞ゚)「生きたまま腹をかっさばいたり、色んな魔法アイテムを埋め込んだり、頭の中に直接魔法陣を書き込んだりもしたかな? まぁ、それは所詮過程だ。つまらない話さ」

ありえない。生きたまま? 切り刻んだり道具を入れたり陣を描くだなんて、人がどれほどの苦痛や絶望を味わうかこいつは理解しているのか? 死ぬなんて生易しいものではないことはドクオにだって分かることだ。

ギリギリと歯を食い縛り、どうすればこいつを殺すことが出来るのかをドクオは考え始めてしまう。

488 名前:1 :2014/07/20(日) 21:21:21 ID:V03MPEb.0

( ゚"_ゞ゚)「そんなことを繰り返しているうちにあることに気付いた。この機能は絶妙なバランスによって偶然生まれた素晴らしいシステムなのだと。人は生きているだけで一つの魔法陣なんだ、とね」

( ゚"_ゞ゚)「それに気付くと今度は違う興味が湧いてきたよ。もし、人が己の魔力によってマナを生み出すことが出来るのなら、体を構成する魔力の純度を高めたなら人としての存在はどこまで昇華するのか」

( ゚"_ゞ゚)「その結果、人を越える存在、いわば神とも呼べる圧倒的な力をもったこれが生まれた」

( ∵)

( ゚"_ゞ゚)「つまり、こいつは人でありながら人ではない」

489 名前:1 :2014/07/20(日) 21:22:11 ID:V03MPEb.0




( ゚"_ゞ゚)「神」



.

490 名前:1 :2014/07/20(日) 21:23:10 ID:V03MPEb.0

('A`;)「神……」

魔剣を掴んでいる手が不気味に煌めいている。無機質な肌も、感情を表さない顔も、この存在そのものが意図的に作られた力だというならこいつは━━

('A`)「まさかこいつは、人間なのか?」

( ゚"_ゞ゚)「何を言っているんだ。当たり前だろう。人間でありながらその価値を高めてやったんだ」

( A )「……」

もう言うことは何もない。こいつは冒してはならない領域を越えてしまった。

ドクオには他人の価値観や倫理観を否定する権利なんてない。自分の考えを押し付けることがどれだけ愚かなことなのかも分かっているつもりだ。

だからこそ、ドクオはオサムを許すことが出来ない。いや、許してはいけない。

こいつを認めてしまったら人という存在を否定するのと同じだ。

ドクオは知っている。自分以外の人間が生きているという普遍の事実を。

ドクオは見てきている。自分以外の人間が生活を営んでいることを。

ドクオは痛感している。自分以外の人間が他人のために流す涙がどれだけ温かいものかを。

こいつは、それを、踏み躙った。

( A )「許せねえよ。人の命を、生活を、人生をなんだと思ってやがる」

(゚A゚)「神? 価値を高める? 何様のつもりだ!? 悪戯に与えられた力がどれだけの悲劇を産むか知ってんのかよ!?」

力とは単体では意味などない。それを持つ人間の有り様によって形を変えるものだから。

渡辺のように思いやりが出来るから人を守るための力となり、ショボンのように自らの信念に基づくからこそ大切なものを守るための剣となる。

力があるから戦うのではない。力があるから守るのではない。

目的を達するために望んだもの、必要だったから選んだものが力だったに過ぎないのだ。

491 名前:1 :2014/07/20(日) 21:24:05 ID:V03MPEb.0

('A`)「お前はここで倒す」

ドクオはさらに力を込める。人形の腕が徐々に押し込まれていき、ドクオは見計らって腕を弾いた。

('A`)「覚悟しろ。人の痛みを教えてやる。他人にやったこと、全部お前に返してやるよ」

( ゚"_ゞ゚)「できるものならやってみろ。その前に、君のお仲間が死んでいるかもしれないがな」

('A`;)「なに?」

( ゚"_ゞ゚)「騎士団の副隊長だったかな? 彼は仲間である男と生き埋めになっている。いつまで保つだろうな」

('A`;)「ショボンさんと……モララー、か?」

( ゚"_ゞ゚)「さらに騎士団の駐屯所では無限に魔物が湧いている。一体の力は弱いが、数の暴力の前にどれだけ抗えるだろうな」

('A`;)「ぐっ……」

( ゚"_ゞ゚)「俺をやったところで彼らの命は助かるかな? 君のいう命の重さとやら、教えてくれるのだろう?」

醜悪な笑みを浮かべるオサムは人形の背中をポンポンと叩いた。すると人形が目にも止まらぬ速さでどこかへと飛び去っていった。

( ゚"_ゞ゚)「あれには駐屯所を完膚なきまでに叩き潰すよう命令を与えている。君の選択肢は三つ。鉱山に行くか、駐屯所に行くか、ここに留まるか。どれを選んだところで死人は出るだろう」

さあ、どうする?

オサムは笑みを崩さない。他人など知ったことではないとでもいう風に、彼はドクオを煽っている。

('A`;)「く、そっ!」

時間はあまり残されていない。悩んでいる暇も惜しい。

ならば、今は信じるしかない。

ドクオはオサムに背を向けて駐屯所へと走り出す。オサムからの攻撃を警戒していたが、何かをする様子は見られなかった。

('A`;)(間に合ってくれ。誰も死なすわけにはいかないんだ!!)

492 名前:1 :2014/07/20(日) 21:26:16 ID:V03MPEb.0

◇◇◇◇

もはや限界だった。倒しても倒しても増え続ける魔物の前にしぃ達の体力はとっくに底をついている。

魔法だって無限に使えるわけではない。鍛えているとはいえ、休む間もなく連戦に次ぐ連戦、彼女達の心が疲弊していくのに比例して体力の消費は倍々に増していった。

从; ー 从「はっ、はっ、二人とも、ごめんね。私、もう無理みたい」

やがて、渡辺が力なく膝をついた。きめ細かく白い肌には無数の傷がついており、服は破れて扇情的な姿を晒している。

ξ#゚听)ξ「諦めないで!! 少し休みなさい!! それまで私達が持ちこたえるから!!」

かくいうツンも限界を迎えているらしい。得意の魔法を使わずに、媒体として持っていた杖で魔物を殴り付けていく。

(;*゚ー゚)「その、通りですよ!!」

しぃはまだ魔法を使うことはできるものの、もってあと数十分というところだ。たった一人で二人を守り続けるのはまず不可能。しぃの魔法をもってしても体力まで回復させることはできないのだ。

三人が無惨に殺されるのは時間の問題だろう。抵抗は出来れど根本から解決する方法が見つからない。

493 名前:1 :2014/07/20(日) 21:27:05 ID:V03MPEb.0

しぃの見立てでは召喚、もしくは生み出すための術式があるはずなのだが、ここの守りを手薄にすれば陥落するのは目に見えている。

仮に術式を発見したとしても、しぃにそれを解除できるかといえば確実ではない。何せこれだけ無尽蔵に魔物を繰り出すということは行使する魔力の量も、術式の規模も並大抵のものではないだろう。

つまり、始めから打つ手など皆無だったのだ。彼女達は舞台の上で踊らされる憐れなピエロでしかなかった。

(;*゚ー゚)(せめて、ドクオさんか副隊長がいれば……)

考えたところでもう遅い。おそらく、敵はそれすらも見越してこの状況を作り上げたのだ。でなければ騎士団がここまで追い詰められるなど有り得ないことだろう。

それに……。

从; ー 从

ξ;゚听)ξ

騎士団に所属していない一般人を完全に巻き込んでしまっている。元々ここら一帯が立ち入り禁止区域に指定されているものの、個人で訪れるには障害が一切ないのだ。

騎士団の半数以上が遠征から戻っているのであれば規制するにあたって人数を割くことができたのだろうが、現状そこまで手が回らないというのも抱えている問題の一つだった。

494 名前:1 :2014/07/20(日) 21:27:53 ID:V03MPEb.0

だからといって彼女達を巻き込んでいいという理由にはならないが、あまりにも条件がこちらに不利な方向へと傾きすぎてしまっているのも事実なのである。

(;*゚ー゚)(このままでは、全滅してしまいます。それだけは、避けないと)

騎士として、そして彼女達を大切な友人として認めているからこそしぃは決断をしなければならない。

誰かに求められたわけでもなく、しぃが自ら判断して動かなければ過去の失敗を繰り返すことになる。

(;*゚ー゚)「お二人とも、頼みがあります」

手を休めることなくしぃは口を開く。迷っている時間はない。

(;*゚ー゚)「この場から離れてドクオさんを探してきてください。ここは私が引き受けます」

ξ;゚听)ξ「な、何言ってんの!? あんた状況分かってる!? 三人でさえ厳しいのに、一人でなんて」

(* ー )「分かってますよ!!」

しぃは感情に任せて大声をあげた。改めて言われなくたってそれくらいのことは理解している。

(* ー )「それでも、このまま三人で戦うよりは勝算があるんです。これだけ大きな術式です。見つけたとしても私達が解除するには時間がかかるんですよ。ならば、それを破壊できる人がいれば戦況は変わるんです。だから」

从;'ー'从「もし、間に合わなかったら?」

不安げに渡辺が尋ねてきた。声が震えている。言わなくとも分かっているのだ。

(* ー )「私は、騎士です。力のない誰かを守るのが役目、それが年上の方でも、本質は変わりません」

ξ;゚听)ξ「あんた、死ぬ気?」

(*゚ー゚)「死にません。お二人を信じます」

495 名前:1 :2014/07/20(日) 21:28:43 ID:V03MPEb.0

しぃは何もできない。過去から現在まで幼稚な考えと価値観で全てを台無しにしてきた。自分にできることなど何もないのだと勝手に決めつけてきた。

本当は何かができたはずなのに。

見て見ぬふりをして、それが運命なんだと、仕方のないことなんだと諦めてきた。

だが、今のしぃにはできることがある。やらなきゃいけないことがある。

騎士としてではなく、同じ人間として、彼女達の友人として。

それだけで十分だろう。

今までも、それだけで十分だったはずなのだから。

(*゚ー゚)「私が隙を作ります。その間にお二人は市街地へ行ってください」

しぃは今までで最も大きな魔法陣の準備を進める。おそらくこれが最後の魔力になるだろう。それで構わない。

大切なものを守れるのなら、本望だ。

(*゚ー゚)「お願いします」

魔法陣が浮かび、発動。瞬間的に膨大な魔力が周囲を埋めつくし、大量の冷気が魔物を凍らせていく。

(*゚ー゚)「今です!」

一瞬だけ二人が息を飲んだが、すぐに走り出した。そう、それでいいのだ。今生き延びるにはこれしか方法はない。

ξ゚听)ξ「戻ってくるまで生きてなさいよ! すぐ戻るから!」

从'ー'从「私も頑張るからね! 約束だよぉ!」

496 名前:1 :2014/07/20(日) 21:29:54 ID:V03MPEb.0

二人の背中が見えなくなるまで魔法を展開し続け、しぃは途端に脱力してしまう。

嬉しかった。少しでも躊躇してくれたことが、堪らなく救いとなった。

幼くて役に立たない自分なんかを心配してくれたという事実に、しぃは報われてしまったのだ。

(* ー )「簡単には、死にませんよ」

だって、しぃにはやることがある。ドクオと話した神父を探しにいくという約束。彼女達はついてきてくれるだろうか?

ステッキを構え直し、しぃは肉弾戦に移行する。あまり得意ではないが抗う術は残されていない。

(* ー )「私は、生きなければなりません」

前方の魔物の頭部をステッキで突き刺し、抜き様に後方へ。建物との距離を計りながら魔物の群れに突っ込まないよう注意を払い、撹乱しつつ丁寧に一体一体潰していく。

どれだけ時間が経ったかは分からないが、体に付いた傷の数はけして少なくない。

何度も何度も挫けそうになりながら、それでもしぃは膝を折らなかった。送り出した二人が必ずや戻ってきてくれると信じているから。あの二人は自分を裏切ることはしないと確信しているのだ。

だが、強く持っていたしぃの心も魔物の軍勢の前に少しずつではあるが弱くなっていった。

すでに千にも届こうかという数の魔物は容赦なくしぃに牙をむき、彼女の体を傷付け、強さを増していた。

そんな中でのことだった。しぃのステッキが魔物の攻撃を防いだ際に弾かれ、宙を舞った。

(;*゚ー゚)「ぐっ」

497 名前:1 :2014/07/20(日) 21:30:48 ID:V03MPEb.0

もはや攻撃する手段は拳しかない。彼女の非力な拳ではろくにたダメージを与えられないだろう。

前方の魔物を殴り付ける。しかし人よりも固い筋肉で構成された魔物の体はびくともしない。

ニヤリと笑ったかどうかは分からないが、その隙に魔物が鋭く尖った爪をしぃに振るった。身をそらしギリギリでかわすも体勢が崩れる。

その時、しぃの背中に抉るような痛み襲った。ちらりと視線を向けると魔物が立っている。

(;*゚ー゚)「く、はっ!」

ぐらりと揺れる体、一気に力が抜けていく。その姿を見て我先にと押し寄せてくる魔物。しぃは死を意識する。

(* ー )(やはり、私では……)

冷たい石畳の床に転がり、視界一杯に映る魔物達は自分の体をどう見ているのだろう。

単なる捕食物か、はたまた意識あるサンドバッグか。もしかしたら何も考えていないかもしれない。

(* ー )(ごめんなさい、ドクオさん。約束、守れそうにありません)

動かない体、ぽっきりと折れた心。死を覚悟した彼女は瞳を閉じる。もはやどうすることも出来ないだろう。

過去の出来事が走馬灯のように流れていく。後悔ばかりの人生だった。せめて最後の最後くらい、これでよかったと思う人生でありたかったが、それも叶いそうもない。

けれど、渡辺とツンをここから遠ざけることができたのは誇ってもいいだろうか。騎士として、あるべき姿であったと胸を張ってもいいだろうか。

しぃは訪れる死を待つ。

(* ー )「さよなら。ドクオさん」

死の縁にたって思い浮かんだ彼の名を呟いた。何故彼が浮かんだのかは分からない。

きっと最後に約束をしたからだろう。神父を探しにいくという、小さな小さな口だけの約束だ。

そんなことでも彼は必死に守ろうとするんだろう。それくらい彼は優しい人間だ。自分とは違って、迷いがない。

498 名前:1 :2014/07/20(日) 21:31:34 ID:V03MPEb.0

最後に考えることがこんなことなのか、と半ば呆れながら横たわっていたしぃだが、いくら待っても死はやってこなかった。

恐る恐る目を開けてみる。

(*;゚ー゚)「……えっ?」

魔物が消えていた。

あれほど大量にいたはずの魔物は姿形を消して、どこにもいない。あるのは戦闘の際に破壊された床や建物の破片だけ。

ゆっくりと時間をかけて立ち上がり、もう一度念入りに確認しても状況は同じだった。

(*;゚ー゚)「魔物は……まさか、ドクオさんが?」

可能性はある。二人のどちらかがドクオを探しだし、術式を破壊したのかもしれないが、いくらなんでも早すぎやしないだろうか。

しぃは案外近くにあったステッキを拾うと、建物に背を預けて座り込んだ。とにかく戦闘は終わったのだ。それだけで十分だろう。

(*゚ー゚)「助かったんですね、私」

いまいち実感がわかないが、急死に一生を得たのは幸いだった。

傷だらけの体はすでに少女といっていいか分からないほどに汚れており、女性としてはあるまじき姿かもしれない。

早く終わらせてシャワーを浴びたいな、なんて考えてしぃが息を吐いた時。

( ∵)

499 名前:1 :2014/07/20(日) 21:32:22 ID:V03MPEb.0

(;*゚ー゚)「━━」

なんの前触れもなく、それは現れた。

人形のようなのっぺりとした顔、作り物のような肌。まるで人間らしいものがどこにもない。

それは周囲に光の球を引き連れており、ともすれば幻想的に見えなくもないがしぃはあまりのことに呆然としていた。

( ∵)

不意に、漂っていた光球がしぃの横を通過していく。次の瞬間、しぃの体は吹き飛ばされごろごろと地面を転がっていた。

何が起こったか分からない。しぃの目には球が近くに来たくらいの認識でしかなかったのだ。

(;*゚ー゚)「こいつ……」

はっきりとしているのはこいつは紛れもなく敵だということ。もしかしたら魔物が消えたのはこいつが何かしたのかもしれない。

( ∵)

立ち上がる間もなくしぃは胸ぐらを掴まれ持ち上げられる。先ほどにも増して倦怠感が襲ってきた。

(* ー )(まさか、マナを吸い取って━━)

自分の中の魔力が根こそぎ失われていく感覚、さらには意識さえ朦朧とする。抵抗も出来ず、しぃは考えることもままならない。

( ∵)

それが空いている腕をあげた。何をするつもりかは分からない。確認をする間もなく、しぃは意識を失った。

500 名前:1 :2014/07/20(日) 21:34:08 ID:V03MPEb.0

◇◇◇◇

(;´・ω・`)「ふっ、はっ」

(  ∀ )

逃げ場のない狭い空間の中でショボンはひたすらモララーの攻撃をいなしていた。

攻撃は全て急所狙いの単調なものだ。いなすのは難しくないが、そのスピードが尋常ではない。

筋力や反射神経強化の魔法を使っているのかもしれないが、人間が可能とする動きを大きく上回っている。これでは筋肉や内部器官に相当な負担をかけているのは間違いないだろう。

にも関わらず、モララーの表情は一切変わらない。うっすらと汗が浮かんでいるくらいで、痛みに顔を歪めることも疲労による身体能力低下もなく、ひたすらにショボンという敵を躊躇なく殺そうとしている。

カキン、キン、カキンと金属を弾く音が部屋の中に響いている。何も知らぬ人間が見れば剣舞をしているように見えるかもしれない。基本にどこまでも忠実だったモララーだからこそ一挙手一投足が芸術のように洗練されているのだ。

モララーの槍がショボンの右脇を通過する。伸びきった腕をショボンは真下から蹴りあげた。

モララーの腕が上がると同時にショボンは剣を横に振る。

浅く腹部を裂いただけだった。あの状況からモララーはバックステップで致命傷を避けたようだ。

一度ショボンは距離を取る。滝のような汗が全身を流れていくがそれに構っている暇はない。

(;´・ω・`)(獲物のリーチに差がありすぎる。かといって魔法を使えばこの部屋は崩落しかねない)

501 名前:1 :2014/07/20(日) 21:35:00 ID:V03MPEb.0

崩れた鉱山の中、強引に作り出した部屋は少しの衝撃で簡単に崩れるだろう。さらにショボンは生命維持のために様々な魔法を使っているのだ、細かい調節は効きそうもない。

そんなことすら分からないのか、モララーの周囲に魔法陣が浮かぶ。彼が得意としている光系の攻撃魔法だろう。

(;´・ω・`)(まずい!)

ショボンは慌ててスペルキャンセラーを展開したが、陣が消失したとみるやモララーは一瞬でこちらとの距離を詰めてきた。

ショボンは右に飛ぶが、間に合わずに槍の切っ先が脇腹を掠める。着地と同時にモララーの死角に回り込んで袈裟斬りを見舞った。

だが、彼の槍は意思を持っているかのようにぐにゃりと曲がって攻撃を弾いた。多節棍ならではの操作魔法である。

大きく体勢を崩したショボンにモララーは槍を突き入れてきた。身を捻りなんとかかわすものの、さらに二つ三つと突きが襲いくる。

(;´ ω `)「がはっ」

捌ききれず、深々と突き刺さった槍は腹部を貫通している。激痛が全身を駆け巡るが、それを無視してショボンは剣を振った。

モララーが地を蹴り、ショボンを越えて後方へと回る。槍は自然とショボンの体から離れ、視界から消えた。

(;´ ω `)「おぉぉぉぉぉ!!」

振り向き様に横薙ぎの一閃。だがモララーはすでに距離をとっている。空を切る剣、傾いた体勢。次の瞬間には地面から槍の切っ先が近づいていた。

(;´・ω・`)「く、そぉっ!」

やむなくショボンは魔法を使用する。低レベルの防御魔法だったが、出力を間違えたのか槍に触れた途端に魔力の壁が消失した。

502 名前:1 :2014/07/20(日) 21:35:45 ID:V03MPEb.0

だが、槍の動きは一瞬だけだが確かに止まった。ショボンは横に跳ぶとごろりと一回転、すぐさまモララーへと視線を向け━━

(  ∀ )

(;´・ω・`)「なっ……」

目の前にモララーが立っていた。槍を構え、こちらに狙いを定めている。

(;´・ω・`)「くっ!」

再び横へと転がり、大振りの一撃をかわす。その間に立ち上がると、ショボンは魔法を発動した。

モララーの足元から光が溢れ、周囲を漂いながら彼の体に纏わりつく。

(;  ∀ )

拘束を確認、さらに自身の姿を周囲の景色と同化させて見えなくさせた。これでしばらく時間を稼げそうだ。

モララーはすぐに拘束をほどいたが、こちらの居場所までは分からないらしく、キョロキョロと辺りに目を配っている。

(´・ω・`)(勝負はここからだ。勝利条件は三つ)

503 名前:1 :2014/07/20(日) 21:36:31 ID:V03MPEb.0

一つ、モララーを殺さずに無力化すること。

自我を失い、普段以上の力を持っている彼を止めるというのはなかなかに骨が折れるだろうが、ショボンが騎士であり信念を持った一人の人間である以上これだけは確実に守らねばならない。

二つ、閉鎖されたこの空間から脱出すること。

現在魔法で強引に作られた部屋は少しの刺激で簡単に崩壊するという危うさを秘めている。ましてや周辺には魔導鉱石が大量に埋まっているのだ。下手を打てば二人揃って生き埋めになる可能性が極めて高い。

三つ、ショボンの魔力がなくなる前に決着をつけること。

この空間を支えているのはショボンの魔力だ。つまり、ショボンがここを維持できなくなった場合ショボンだけでなくモララーも即死亡となる。モララーが自我を取り戻していればまだ救いはあるだろうが、現状それも期待出来そうにない。

(´・ω・`)(三つ、この三つが全て揃わなければ僕たちは死ぬ。その前に終わらせるために、全力を注がなければ……)

ショボンが思考を終えた瞬間、モララーが拘束をほどいた。しかし、体のあちこちが不自然に歪曲している。

(´・ω・`)「痛みさえ感じないか。ならば、まだ手はある」

剣を握り直し、モララーに肉薄。ショボンの体も相当に消耗しているが、やってできないことはない。

(´・ω・`)「ふっ!」

504 名前:1 :2014/07/20(日) 21:37:26 ID:V03MPEb.0

急所を避けて袈裟懸けに斬りつける。血飛沫が舞い、さらに逆袈裟。

モララーの横を抜けて背後へ。強烈な横蹴りを見舞うとモララーの体が吹き飛んでいく。

(´・ω・`)(骨が折れてもまだ動かされている。それなら、どうやったって動けないほど痛め付けるしかない)

生きていればまだ回復手段がある。王都に戻れば優秀な治癒術師達がいるのだ。彼を止めるのに遠慮をしていれば共倒れ、それだけは避けなければ。

モララーがよろよろと起き上がる。血も多く流れているし、肉体の損傷も激しい。勝負を決めるなら今しかない。

(´・ω・`)「悪く思うな」

ショボンの目の前に魔法陣が浮かび上がる。出力を間違えてはいけない。

モララーの前後左右に光の柱がそびえ立ち、その頂からいくつもの帯が降り注ぐ。

それは標的に触れると爆発、爆発、爆発。凄まじい閃光が視界を奪うがショボンは構わずモララーに接近した。

(´・ω・`)「一気に決めるぞ」

ショボンの剣に光が宿る。本来ショボンが得意とするのは魔法剣と呼ばれる術式だ。剣に魔法を宿し、斬りつけた部分に威力を収束させる魔法剣術の極み。

体の内部に直接魔法を叩き込むものや傷口から浸入させるものもあるが、今はモララーの動きを封じることに特化した魔法を付与している。

(´・ω・`)「はぁっ!」

505 名前:1 :2014/07/20(日) 21:38:10 ID:V03MPEb.0

横薙ぎに腹部を斬りつける。一瞬置いて、傷口から冷気が拡がり、徐々にモララーの動きが鈍っていく。

剣を鞘に収め、ショボンが振り返ったとき、モララーは地に伏してピクリとも動かなかった。

(´・ω・`)「……あとは、ここから脱出━━」

言いかけた時、どこからともなく地鳴りのような音が聞こえてくる。今の戦闘の衝撃で鉱山全体の均衡が崩れてしまったようだ。

(;´・ω・`)「少しやりすぎたか」

あまり愚痴ってもいられない。一刻も早く脱出の手筈を整えなければ。

(´・ω・`)「ここの座標が分からないし、この状況じゃ転送術式はあまり期待できそうもないか。あとは、壁に穴を空けながら進む……現実的ではないな」

様々な方法を思案するが、どれも理論的には可能であってもショボンの残り魔力では到底不可能なものばかりである。

せめてモララーが動ける状態であればまだ救いはあったのだが、仮死状態の彼を起こしたところでまた戦闘になるのは目に見えている。

(´-ω-`)「確実ではないが、仕方ないか」

506 名前:1 :2014/07/20(日) 21:39:13 ID:V03MPEb.0

ショボンは自分の胸に手をあて、集中する。自分を中心に巨大な魔法陣が浮かぶ上がった。

(´・ω・`)「こうなれば、この鉱山を纏めて消し飛ばすしかない」

当然それには魔力が足りないが、周囲にある魔導鉱石と自身の生命力、即ちマナを術式に転用すればそのくらいの出力は叩き出せるはずだ。

もちろん取り出すマナの量を間違えればショボンの命はない。

しかし、それでもショボンには部下を死なせて一人生き延びるなんて真似は出来そうもなかった。

自身を媒体に周囲の術式を展開。魔導鉱石も十分な量が確認できた。それらを結びつけて記憶にある座標へと範囲を拡げていく。

(´・ω・`)「……あとは、天に委ねるしか━━」

魔法が完成する直前、ショボンの胸を何かが貫いた。

(  ∀ )

(;´ ω `)「なっ……」

首だけを後方に向けると、いつのまにか起き上がっていたモララーが槍を突きだしていた。

大量の血液が傷口から溢れ落ちていく。

(´ ω `)「詰めが……甘かったか……」

もはやショボンの生存は絶望的だった。自身のマナを限界まで抽出し、かつこれだけの失血。生き延びたとしても目を醒ます確率は限りなく低い。

だが、彼にはまだ信頼できる男がいる。

何も知らず、自身の信念のために剣を取れる男が。

(´ ω `)「頼んだ……ぞ……ドクオ……」

507 名前:1 :2014/07/20(日) 21:40:05 ID:V03MPEb.0

◇◇◇◇

宿舎に向かう道中、運よく渡辺と合流したドクオはこれまでの経緯を簡単に説明されていた。

たった一人で戦う選択をしたしぃの安否が気にかかるが、隣を走る渡辺は息も絶え絶えで今にも崩れ落ちそうだ。

('A`)「渡辺、あとは俺が何とかする。お前は休んでろ」

从;'ー'从「で、でもぉ……」

('A`)「大丈夫。しぃちゃんは絶対生きてる。俺が死なせやしない」

从;'ー'从「……うん。なら、あとは任せるね」

('A`)「おう。ツンを見付けたあとゆっくり来い。その頃には全部終わらせとく」

渡辺が頷いたのを確認し、ドクオはスピードをあげた。もはや一刻の猶予もない。

オサムはあの人形を駐屯所の方へ行かせていた。ということは、間違いなくしぃはあれと対峙しているはずだ。ドクオの剣ですら軽々と受け止めたあれに、疲労困憊のしぃが敵うとは思えない。

('A`;)(間に合え、間に合ってくれ)

508 名前:1 :2014/07/20(日) 21:41:08 ID:V03MPEb.0

速く、もっと速くと両足をひたすらに動かし、宿舎が近付いたところでふと違和感を感じた。

('A`)(魔物が、いない?)

そういえばあれは魔物を一瞬で消滅させたかと思えば魔力に変換し、それを喰らっていた気がする。渡辺の話ではここに大量の魔物が押し寄せていたとのことだったから……。

('A`;)「しぃちゃん!!」

一気に跳躍し、建物を越えて宿舎の前へと辿り着く。

そこには、いた。

しぃと、人形が。

( ∵)つ( ー *)

片手で胸ぐらを掴まれ、力なく気を失っているしぃ。満身創痍でずっと戦っていたことからくる脱力なのか、あれに何かされたのかは不明だがドクオがすべきことは分かっている。

(゚A゚#)「その汚え手を離しやがれぇぇぇぇ!!」

一瞬で距離を詰め、しぃを掴んでいる腕に刃を向ける。ガキン、と金属同士がぶつかるような音。同時にしぃの体がどさりと地面に落ちた。

( ∵)

(゚A゚#)「らぁっ!」

509 名前:1 :2014/07/20(日) 21:42:20 ID:V03MPEb.0

反転し、勢いを利用して横薙ぎの一撃。人形はそれを片手で受け止めると、あんぐりと口を開ける。

( <Θ>)

そこから目映い光が放たれ、至近距離で爆発。ドクオは後方に跳んでしぃを片手で引き上げながらそれを避けた。

そのまま申し訳ないと心で謝りながら乱暴にしぃを遠くへと投げ、もう一度人形へ接近。おそらくこの剣でなければダメージは通らないだろう。しかし、人形の反応速度はこちらの攻撃速度を上回っている。

('A`)(なら、こいつでどうだ!)

もう一度横薙ぎ。受け止められる寸前にピタリと止めて、すぐに大きく開いた口目掛けて剣を突きいれる。

がちゃっ、と口が閉じて奥までは到達しない。引き抜こうとしても閉じる力が強すぎて身動きがとれなくなった。

('A`;)(マジかよ)

人形の腕が振り上げられた瞬間にドクオは正面を蹴りつけて、その反動で強引に剣を引き抜く。予想よりも強い力だったせいで、ドクオは後方に一回転。

体勢を立て直し、顔をあげると周囲には光球が浮かんでいる。ドクオが動き出すと同時にそれらがこちら目掛けて飛来した。

横に走り、着弾しては爆発し砂塵が吹き上げられる。視界が遮られるが、特徴的な人形の体はこの距離ならば目視できた。

身動きしない人形の背後に身を低くして近づく。気づかれてはいない。

510 名前:1 :2014/07/20(日) 21:43:21 ID:V03MPEb.0

('A`)「こ、のっ!」

振り向く瞬間に跳躍、両足を脇に引っ掻けて一回転。思いの外重さのない人形を地面へと叩きつけ、着地と共に人形に剣を突きいれる。

その時人形が動いた。ごろりと床を転がり、攻撃を避けてこちらの足を掴んだ。

('A`;)「っ!!」

強烈な力で足を払われ、ドクオは転倒。その隙に人形が立ち上がると、先程着弾させた光球が再び向かってきた。

('A`;)「やばっ」

その速さに対応できず、直撃。体の至るところを襲う爆発にドクオは叫ぶことさえ出来なかった。

( A )「あ……がっ……」

なんという強さだ。ろくに動かなかったのは手を抜いていたということだろうか。まったく、なんてものを産み出してくれたのか。こんな状況でありながらドクオは思わず笑ってしまいそうだった。

だが、楽しい。楽しくて仕方がない。これほど壊しがいのあるものなんて初めてだ。

ドクオの中で何かが蠢いている。あぁ、いつものあれだ。身を任してしまえば引き返せないドクオの爆弾。

511 名前:1 :2014/07/20(日) 21:44:06 ID:V03MPEb.0

けれど、今のままでは手も足もでないのは明白だ。あれに勝てるのはきっと自分だけ、負けるわけにはいかない。

時間がないのだ。ショボンとモララーのことも気になる。こいつを放っておけばみんな殺されてしまう。戦えるのは自分だけなのだ。

こいつはドクオに力を寄越そうとしている。誰にも負けない圧倒的な力、全てを壊し、他を寄せ付けない絶対的な恐怖。

今ドクオに必要なものをくれるというのだ。

ならば━━

( A )「━━っ」

ドクオの中で、何かが弾けた。

512 名前:1 :2014/07/20(日) 21:44:58 ID:V03MPEb.0




( ゚"_ゞ゚)「おぉ、ようやくか。ようやく魔剣の本領発揮というところだな。実に興味深い」

オサムの作ったあれと、魔剣の力。神にも等しい力を持った存在と、神をも屠る最強の魔剣。

黒の魔術団の目的がなんであれ、オサムはこの時この瞬間のために全ての準備を整えてきたのだ。

自分の努力や成果が報われる、この至福は何者にも代えがたい普遍的な価値がある。

( ゚"_ゞ゚)「さあ全てを曝け出せ!! 俺にお前の全てを見せてみろ!! さあさあさあ!!」

爆発的に膨大な力が辺りを埋め尽くしていく。魔力とも違うオサムの知らない力。

神をも殺す絶対的な法則で成り立っているあれを自らの手で解明できたらどれほど楽しいだろう。

その力を自らが扱うことができたならどれほど面白いだろう。

きっと世界なんて小さなものなど玩具にすら劣る矮小なものへと成り下がる。

その瞬間に、オサムは神さえ使役するそれ以上の存在へと昇華するにちがいない。

( ゚"_ゞ゚)「はははははははっ、さあ始めようじゃないか!! 神対神の遊びを!!」


←第十話 / 戻る / 第十二話→




inserted by FC2 system