423 名前: :2014/07/11(金) 22:30:35 ID:MuFWsT2w0




第十話「降臨」





424 名前: :2014/07/11(金) 22:32:11 ID:MuFWsT2w0

◇◇◇◇

とうとう彼女の人生の中で一際大きな、そして最悪の事態が発生してしまった。

教会の解体。それは即ちしぃ達孤児の行き場がなくなってしまうということだ。

元々この教会という組織が、世界中で信仰というものが廃れてからも誰かに救いの手を差しのべることをやめなかったのは、単に彼らの信じる神の教えであるからだった。しかし、現代社会において明確な形のない神という存在は目の前にあって人を救うことのできる魔法という力の前に薄れてしまった。

世界を作ったかもしれない、人々を救ったかもしれない、などというどこまでも想像の域を出ない神などというものより、はっきりと目に見える力━━魔法で人を救い続けた者たちの方へ信頼が集まったのは当然の流れだったのかもしれない。

そんな状況の中で、世界各地にある古い信仰は教会を無くしていくという形で確実に衰退していく。しぃたちの住む教会の取り壊しもその一部に過ぎなかった。

取り壊しが決まった際、しぃは神父に尋ねてみた。何故抵抗をせずに受け入れたのか、と。

その時神父が何を言ったのか、詳しいことは覚えていない。けれど、彼は静かな、とても穏やかな声で自分達の役目は終わったのだ。この一言がしぃの記憶の奥底にしっかりと焼き付いて離れなくなってしまった。

彼は自分達を取り巻く環境に対してどこまでも実直だったのだ。その責任の在処も、今何をすべきなのかも全部分かった上でこの言葉を選んだのだと、しぃは思う。

425 名前: :2014/07/11(金) 22:33:52 ID:MuFWsT2w0

彼が口にした言葉は簡単なことだ。子供でもすぐに分かるどこまでもシンプルな台詞。けれどその奥底にある意味まではその時の彼女には知る由もなかっただけの話。

だから、彼女はそれ以上言及することはできなかった。

そんな中でも、他の子供達は当然教会の取り壊しには反対だったし、何がなんでも自分達の家を守ろうと口々に言っていた。だが、しぃは神父の言葉を聞いたときに仕方がないんだ、と諦めていた。

本当は壊されたくない。自分の二つ目の家と、家族を。

あの日の後悔はいまだしぃの心を縛っている。それでも、この教会に来たことで自分の心は少しずつ温かさに満ち溢れていったのだ。

その温かさを教えてくれたのは、共に歩んでくれた沢山の兄弟と、血の繋がりはなくとも家族とは何かを教えてくれた神父に他ならない。

そして、神父が教会の取り壊しを認めてしまった時点で子供であるしぃたちには何もできないのだ。

自分達は無力で、世間を知らない。知っているのは世界がどれだけ残酷に出来ているか、それだけのこと。

それでも、そうだとしてもしぃはその時にもっと考えて、考えて考えて考えて行動しなくてはならなかったのだろう。結果を見れば、自分達の身柄は騎士団が預かってくれたことでなんとか生きていくことができた。最低限、いやそれ以上の生活を今日までしてこれたのだから。

無知だった子供達は世界について理解を深め、自分達に出来ることが何かを知った。自分達のような悲しみに彩られた人生を送らないように誰かを救う力を与えられた。

だが、しぃを含め教会で身を寄せあって生きてきた毎日の中にあったものはもうどこにも見当たらない。

子供達の頭を撫でてくれた荒れた肌の大きな手も、名前を呼んでくれた野太い声も、誰よりも優しかったあの人はもう戻らない。

あの時には分からなかった何もかもが、成長し騎士となった彼女の深い部分で次第に重みを増していく。

出来たはずのこと、しなくてはならなかったこと、その分別がつくようになった今になってようやく、彼女は気付いてしまった。

これは自分が背負うべき業なのだと。きっかけはとても些細で、特別なことなどないありふれた過去の一つにすぎない。

426 名前: :2014/07/11(金) 22:34:45 ID:MuFWsT2w0

だから、贖罪しなければならない。

一つは両親に、一つは神父に。

最後に、自分自身に。

偽り続けた感情や価値観が招いた罪を贖うために、しぃは答えを見つけなければならない。

427 名前: :2014/07/11(金) 22:36:49 ID:MuFWsT2w0

◇◇◇◇

もはや後戻りが出来ないところまで事態は進んでしまった。それに気付いたとき、ショボンはこの件を自分の手で決着を着けなければならないと判断した。

(´・ω・`)(初めからおかしいとは思っていた。何故ドクオだった? 何故悪魔が目撃された?)

魔力の痕跡を辿りながらショボンは思う。

ここまでの情報を整理しながら一つ一つ自分の知識と照らし合わせれば、もっと早くに気づかなければならなかった。

最初にこの任務が命ぜられた時、ドクオを向かわせると言われた時、昨晩のドクオ襲撃の時、ヒントはいくらでもあったはずなのにショボンはロマネスクを無意識に信じてしまったのかもしれない。

腐っても人の上に立つものだと。

蓋を開けてみれば何もかもがあの暴虐の王の思惑通りに事が進みすぎていた。下手をすればもう間に合わないかもしれない。

(´・ω・`)(人のいない集落、目撃されない悪魔、そしてモ・トコという場所)

人が消えた街や集落は全てモ・トコを中心として渦を描くように展開されている。どの場所も同じように、日常の合間に突然いなくなったようだとモ・トコの騎士は言っていた。

誰が何のためにそんなことをしたかは騎士達も頭を悩ませていたようで、犯人に心当たりもなかった。そんな中で真しやかに伝説の存在が現れたのだと噂され始めた。

確かに落とし所としては仕方がない面もあるだろう。大勢の人間を破壊の爪痕を一切残さず、短時間で消失させる存在など騎士、いや人間など世界中を探したってどこにも見当たらない。

428 名前: :2014/07/11(金) 22:38:39 ID:MuFWsT2w0

ならばそんなことができるものはなんだ? 人間以外のものならば、一体なんだというのか。

その答えとして挙げられたのが悪魔だった。

王都からの長い道のりの途中で、一貫して悪魔を見たという情報がなかったのはこれが原因なのだ。そもそもの話存在していない、現れていないのだから目撃も何もないのだから流れてこないのは当たり前だった。

それに、ショボンは知っている。本当に悪魔が降臨したのなら被害はもっと凄惨極まりないことを。あれは人という憐れで無力な存在が立ち向かうことすら許されない、文字通り悪魔なのだ。

そして悪魔の本質とは破壊と絶望にある。地上の生きとし生けるもの全てを滅し、さらには欺き、人が神に謀反を起こした元凶。

そんな存在がこの程度の破壊で満足するはずがない。目撃されてからすでに二週、それだけの時間があればニューソク大陸などとっくに火の海と化してなければおかしいのだ。

それほどまでに絶望的なまでに、人間と悪魔の力には絶対的な差がある。ショボンは今もやつらと対峙したときのことを思い出すだけで震えが止まらない。刃向かった時点で死ぬ、敵わないと本能が警鐘を鳴らしたのは生まれて初めてのことだった。

(´・ω・`)(では、この悪魔騒動の首謀者は何なのか。それは昨夜の奇襲が答えだろうな)

429 名前: :2014/07/11(金) 22:40:33 ID:MuFWsT2w0

ドクオを狙っていたように見えた、とはしぃの証言だが、そこに間違いはないのだろう。何せ貞子による王都襲から一月しか経っていない。その際彼女はドクオになんと言っていたか。

ショボンは直接聞いたわけではないし、その場にいた者達からの話なので本当のところは分からないが、それでも間違いないという自信がある。

魔剣アポカリプス。伝承において人や魔物、悪魔のみならず神をも殺した最強にして最凶の剣。持つものの命を削り取り、代わりに強大な力を与えるというそれ。

黒の魔術団は魔剣を狙って一連の騒動を引き起こしている。ならば今回もその一部と考えるのが妥当だろう。

(´・ω・`)(敵の狙いがドクオだということは、僕達は間違いなく誘い込まれたということ)

ドクオはいつも騎士団と行動を共にし、あえて騎士だと名乗らせてはいるものの実際の身分は一般人に過ぎない。本来ならば王都からの要請も受ける必要はないし、またそれを聞く義務もない。いつだって彼の善意につけこんで事件に関わらせているだけなのだ。

つまり、初めからドクオはここに来る理由もなければ必要もないということ。これが意味することは━━

(´・ω・`)(疑いようがない。ロマネスクは黒だ。奴は王という地位にありながら黒の魔術団と関わりがある)

430 名前: :2014/07/11(金) 22:41:29 ID:MuFWsT2w0

ドクオを戦地に向かわせたのは誰だ?

悪魔という狂言を用いてここに来るよう仕向けたのは誰だった?

王都ヴィップを治めるロマネスク本人だ。

仮に、これが魔物や盗賊などが出没しているだけだったならばショボンはドクオを王都に残してそれなりの対応をしていたはずだ。ドクオの持つ魔剣を使わなくとも騎士団の部隊を編成して原因を探らせればいいだけの話なのだから。

しかし、ここに悪魔という存在を匂わせればショボンがどう動くかなどあの男なら肝胆に予想がついただろう。

彼もまた悪魔がどういうものなのかよく知っている。実際に戦場で相見えたのだから、その恐ろしさも身に染みているのだ。

悪魔がもたらした悲劇は大切なものを奪うだけに飽きたらず、一人の男をも狂わせてしまったのだろう。

同情はする。守れなかったことを申し訳なく思う。自分にもっと力があればたくさんのものを背負うことも出来た。

だが、だからといって他人の運命をいたずらに弄ぼうなど愚かの極み。騎士団の理念を大きく逸脱している。

(´・ω・`)(そんなことさせるものか。僕は副団長だ。騎士団の在り方は、いや、僕の中の騎士は悪を挫き弱きを守ること。奴のやり方を認めるわけにはいかない)

431 名前: :2014/07/11(金) 22:42:16 ID:MuFWsT2w0

ショボンは剣を握る。

胸の内に秘めたるは騎士としての志。

この手にあるは人を守るための力。

これ以上ドクオを戦わせてはならない。ましてやドクオは異世界の住人なのだから。

自分達のケツは自分達の手で拭く。

それがショボンの信ずる騎士なのだ。

魔力を追っていたショボンはようやく足を止めた。辺りはすでに暗くなっており、日はとっくに沈んでいた。屯所にいるはずのモララー達に何も言わずに来てしまったので、もしかしたら心配しているかもしれない。

(´・ω・`)(早めに終わらせて戻ろう。王都に帰ったらロマネスクに話を聞かなければならないしな)

魔力はどうやら街の外れにあるロープウェイを渡ったようで、ここからは辿ることができなさそうだ。

(´・ω・`)(ならば、探索魔法を使うまで)

ショボンが簡単に詠唱をすると小さな魔法陣が目の前に浮かぶ。いくつかの細い光が街の中を縦横無尽に走っており、その中の数本は街を離れてロープウェイの先へと向かっている。

やはり敵はこの先にいる。モ・トコ周辺の街や集落で見た魔法陣の痕跡は、おそらく何かしら大掛かりな術式の下準備だったのだろう。意識しなければ分からないほど小さな魔力とはっきりと視認できる大きな魔力が混在しているのは、各々の街に張った魔法陣が影響しているのだ。

432 名前: :2014/07/11(金) 22:43:10 ID:MuFWsT2w0

向かった先は分かった。しかし、街の住人がほとんど避難している今、ロープウェイを動かすことはできない。歩いて行けないことはないだろうが、到着する頃にはへとへとになって戦闘どころではないだろう。

ショボンはしばし黙考し、ふぅと小さく息を吐いた。魔力は温存しておきたいが、一人でやると決めた以上やるしかない。

(´・ω・`)(空を飛ぶしかないな。どれだけの距離があるかは分からんが)

ショボンが魔力を操ると、体がふわりと宙に浮く。まるで呼吸をするかのように自然な流れで。

(´・ω・`)(どこのどいつかは分からんが、首を洗って待っていろ)

一瞬の静寂、ショボンは鉱山へと宙を切って駆ける。

433 名前: :2014/07/11(金) 22:44:29 ID:MuFWsT2w0




どうやらこちらの動向に気付いた騎士の一人が向かっているようだ。張り巡らせた魔法陣が彼にそれを知らせてくれる。

彼が得意とする魔法は基本的に戦闘には向かないが、高度な情報をやり取りする状況においては大いに役立つ。

その気になれば遠く離れた人間の囁きでさえ容易く聞き取れるし、一挙手一投足まで完全に把握することもできる。今回の件についても様々な魔法を用いて騎士を攪乱させてもらった。

ショボンがこちらに向かっているということは、こちらの目論見はほとんど看破されたと見ていいだろう。

黒の魔術団である以上、あの魔剣に興味を抱くのは至極当然だし、ましてやあれがどんな役目をもっているかなど考えなくとも分かることだ。

本来であればもっと早くに計画の全てを終えて魔剣の主とゲームを開始するつもりだったのだが、王都にいる協力者の準備が間に合わなかった。この遅延がなければ騎士ごときに嗅ぎ付けられることもなかったのだが、過ぎたことは仕方ない。

それに、いくら騎士団のナンバーツーと言えど冷静さを欠いて単身敵の元へと乗り込むなど愚の骨頂。もう少し頭がいいのかと思っていたがどうやら見込み違いだったようだ。

434 名前: :2014/07/11(金) 22:45:36 ID:MuFWsT2w0


( ゚"_ゞ゚)「とは言え、ここにある術式を解析されるのはまずいかな。彼にはさっさとご退場願うとしようか」

オサムは傍らの棺桶を開くために手を伸ばす。漆黒だったはずのそれは使い古され、所々傷や塗装が剥げており、大量の魔力と術式を無限に収納できるいわば魔法専用の収納ボックスである。

その中から数種類の魔法と魔力を選択すると、オサムの前に眩い輝きを放つ光の玉が四つほど並んだ。

( ゚"_ゞ゚)「さて、どうするかな。あまり弱いものを作っても彼ほどの実力者であれば簡単に壊されてしまうし、あまり強すぎても魔力の消費が激しい」

昨晩魔剣の主に襲わせたものは魔力で構成された擬似的な魔物である。生き物というものを突き詰めていけば最終的には魔力になるということを利用して、彼は独自の研究により魔力から生物を産み出すことに成功した。

術式を用いて命令を与えることができるし自我を持たないので、命令を遂行することにはうってつけなのだ。下手に人間や魔物を使って裏切られる心配もないし、他人の命を奪うことに躊躇いもない。彼にとって信じられるものは機械的に自分の目的のために動く駒だけである。

もちろんまだまだ問題点は山ほどあった。例えば命令を与えてそれを遂行したあとはオサムが術式を解除しなければいつまでも残り続けてしまう。しかも術式の解除にはオサムが近くにいなければならない上、さらに魔力を消費するので効率が悪いのだ。

おまけに魔力は周囲に浮かぶ自然界のものでは純度が低く、一度大量に集めて純度を高めなければならない。その作業も意外にめんどくさいので、できれば無駄に使いたくはないのである。

435 名前: :2014/07/11(金) 22:46:44 ID:MuFWsT2w0

だが今回は相手が相手、素人である魔剣の主程度ならばそこそこのもので問題はないが騎士団のナンバーツーともなればそう甘くはない。

ここはやはり一番効率がよく、かつ最大限に敵を殲滅できるものを作った方がよさそうだ。

( ゚"_ゞ゚)「ここはあれを使うべきだろう。出し惜しみをしてはいられん」

オサムは詠唱し、魔法陣を呼び出す。棺桶ではないまた別の収納空間に繋がっているそこからは周辺の村や街から捕まえてきた人々が意識無く眠っていた。

( ゚"_ゞ゚)「本来であればこんなことに使いたくはないが、あの男の狼狽える姿を見るのもまた一興。存分に楽しませてくれ」

(  ∀ )

虚ろな目をした男を喚び出して、魔力の光を注ぎ込む。胸の辺りからまるで溶け込むように体が光の玉を飲み込んでいき、少しずつ全体に広がっていくたびに何度も痙攣をするが、意識のない彼にとってどうということではない。すでに痛いと思う心などないのだから。

( ゚"_ゞ゚)「あとは、こいつとこいつもいい素材だ」

同じ作業を四度繰り返し、完全なるバーサーカーとなった人間が四人立ち並んだ。あとは命令の術式を組み込むだけで彼らの命が果てるまで戦い続けるだろう。

( ゚"_ゞ゚)「さぁ、魔剣の主よ。どこまで俺に近づけるかな?」

命令を与えた四人はふらふらと覚束ない足取りで鉱山の迷宮へと消えていった。

すでにゲームは始まっている。あとはいつそれに気付くかだ。

ぼーっとしていれば悪魔に身も心も喰われてしまうぞ。

436 名前: :2014/07/11(金) 22:47:43 ID:MuFWsT2w0

◇◇◇◇

('A`;)「ったく、何でお偉いさんが独断専行なんてしてんだよ!」

モ・トコに派遣されていた騎士から話を聞いたドクオは夜の街を駆けていた。

理由は簡単だ。ショボンとモララーがいなくなったから。

実にシンプルな理由だが、王都から遠征してきた騎士の数はたった三人、内二人が何百何千といる騎士を取りまとめる役柄で、しぃのような下っぱを一人残して動くなど本来あってはならない。

ましてや肩書きを偽らされているドクオだっている以上、動くならせめて指示を置いていってもいいものだが、そんなものはどこを探しても見当たらなかった。

つまり、今ドクオ達は戦況を冷静に分析するはずの上司がいない中で何かをしなければならないのだが、ドクオは結局彼らを探すことを先決した。

しぃには待機していた方がいいと言われたのだが、あの二人が自分達に何も言わずに出ていったということはかなり切羽詰まった状況なのだと考えている。ましてやモララーもショボンも騎士団の中では頭が切れる方だ。指揮系統が混乱しては下の者はまともに動けないことも分かっているだろう。

('A`)(つまり、ショボンさんやモララーがいなくなったのは自分達で全てを終わらせなきゃならない事情があったか、もしくは敵に捕まったかのどっちか)

実力者であるあの二人を相手に捕まえるなんて芸当ができるとは思えないが、これだけ周到に手を回すような相手だ、こちらの動きを制限する何かをしていてもおかしくはない。

437 名前: :2014/07/11(金) 22:48:29 ID:MuFWsT2w0

ドクオ以外の足音が聞こえない街は相変わらずどこもかしこも固く閉ざされており、灯りすら見当たらなかった。避難勧告が出されている以上これも仕方のないことではあるが、人気のない夜の街というのはかなり恐怖心を煽る。

('A`)(ま、好都合ではあるけどな)

不意に速度を落とし、ドクオは腰の剣を抜き放つ。

('A`)「はぁっ!」

掛け声と共に剣を逆袈裟に振り抜く。暗闇に紛れた鳥型の魔物が短い悲鳴をあげて消滅した。

続いて振り向き様に同じ魔物を横薙ぎに一閃。すぐに右へ飛び、頭上からの攻撃を避けて跳躍すると縦に両断して着地。

('A`)「どうやらとっくに戦場みたいだな」

さらに両側から魔物が襲う。ドクオが上半身を軽く後ろに反らすと魔物達は互いを攻撃して一瞬怯んだ。その隙に斬り伏せ、周辺を探る。

魔物はまだまだ湧いてくる。敵はこちらの動きを把握しているのか、それとも偶然なのか。

正面の魔物達をまとめて斬り倒しながらドクオは宿舎に残っているだろう三人を思い返した。

万が一のために待機しているよう頼んでは来たが、この様子ではあちらも魔物と戦っているのだろう。ツンや渡辺はここに直前にも一戦やらかしているのだから何とも運のない二人だ。

('A`)(しっかし、このタイミングで仕掛けてきたってのは妙だな。部隊を崩すには分断するのが一番だけど、宿舎には残留してる騎士もいるんだぞ?)

魔物を丁寧に倒しながらドクオは考える。

('A`)(ショボンさんやモララーがいない時を狙ったのか、それともあっちは元から戦力に数えられてないのか?)

総合的に見ればドクオが狙われているのは分かるのだが、何をしようとしているのかが今一掴めない。もう少し魔法や魔剣についての知識があればまともな考えが浮かぶのだろうが、生憎とドクオはそういったものと無縁なのだ。

438 名前: :2014/07/11(金) 22:50:01 ID:MuFWsT2w0

('A`)(どうする? ショボンさんは諦めて一回戻るか? 敵が仕掛けてきた以上、俺だけじゃ敵の居場所すら割り出せないし)

魔物の出現場所は完全にランダムで術者の特定は出来そうもないし、ましてや近くにいるとも限らない。これだけ大規模な召喚系の魔法を行使しているということは相当な手練れであることは間違いないだろう。

それに、モ・トコは現在ほとんどの住民が出払っており戦場としてはうってつけだ。鉱山として発展してきた街は王都ほどではないがそれなりに広い。隠れる場所など無数にあるし、それこそドクオごときでは予想もつかない場所に潜んでいる可能性もある。

('A`)(敵の魔法の有効範囲も分からないし、参ったな)

勢いだけで飛び出してきたのはやはり無謀と言う他ないだろう。こんなことならしぃを連れてくるんだった。

今さらごちたところで状況が変わるわけではない。大切なのはこれからどうするかだ。

('A`)(……一度戻ろう。しぃちゃんのがこういったことには詳しいだろうし、どのみちこの分じゃ町中魔物だらけだろう。早期解決には俺じゃ役不足だ)

方針が固まった以上、魔物と遊んでいる暇はない。ドクオは地を蹴り魔物の脇をすり抜け様に両断するとそのまま走り出した。

しかし、ドクオはすぐに横に跳んだ。どうやら敵もそう簡単におもいどおりにさせてはくれないらしい。

前方より鋭く尖った岩の槍が大量に流れてきた。回避があと数瞬遅れていたらドクオは串刺しになっていただろう。

('A`;)(な、なんだよおい)

439 名前: :2014/07/11(金) 22:51:08 ID:MuFWsT2w0


体勢を立て直しながら、槍が飛んできた方向を見る。そこには岩で作られた巨大な人形が仁王立ちしていた。

体躯はドクオの四倍ほど、無造作に組む合わさった岩は大小様々でなんとか人らしい形を成してはいるものの所々不自然な凹凸があるせいでおよそ芸術性の欠片もない。ただ命を奪うために作られた無作法な木偶人形のようだ。

こいつはどうやらドクオが宿舎に向かうのを邪魔したいらしい。道幅一杯の体は横を通る隙が一切見当たらない。

('A`;)(ゴーレム!?)

ドクオが一歩踏み出すと、ゴーレムもこちらを狙って自らの体に使われている岩を分離させて飛ばしてきた。

軽く避けてドクオはゴーレムの懐へ入ると左足の部分を斬りつける。魔剣によって岩が消失し、バランスを崩す。

と、ドクオは回避の体勢に入ろうとしてその目を疑った。

左足を失ったはずのゴーレムは、舗装された道のレンガをその足に吸収し始めたのだ。すぐに新しい足を取り戻すとゴーレムは腕を振り下ろす。

左へと回避、が、先ほど飛ばしたはすの岩が後方からドクオの体へと命中する。

( A )「ごっ」

軽く数メートルを転がり、立ち上がるがすぐに岩が飛来し、避けてはゴーレム本体から攻撃の繰り返しで、いつの間にかドクオは防戦一方になっていた。

('A`;)(動きは早くないのに、四方八方から攻撃されたらさすがに避けきれん)

しかもゴーレムのどこを破壊しても周囲に岩や土があれば瞬く間に腕や足を一回り大きく再生してしまうため、敵の攻撃範囲は徐々に広がっていってしまうのだった。

440 名前: :2014/07/11(金) 22:52:26 ID:MuFWsT2w0

('A`;)(こういう敵はどこかに核があるのがセオリーなんだが)

元々意思のないものに命を吹き込んでいるのだから、当然そのための術式は間違いなくあるはずだ。見つかりさえすれば多少強引にでも斬りつければそれでこの戦いは終わる。

だが相手も魔剣の特性くらいは掴んでいるだろう。一目で分かるような部分に核となる術式を作るはずがない。

ドクオは剣を鞘に納めると、飛んでくる弾丸や本体の攻撃を避けることに意識を傾けた。どうせ効かない攻撃などする意味がない。

('A`;)(どこだ、どこにある。無くちゃいけないはずなんだ)

弾丸の軌道とタイミングは読みやすい。何せ必ず死角から来るうえ、見えるところから弾丸、本体の攻撃、弾丸というパターンになっている。これならばドクオといえど避けるのはそう難しくはなかった。

そう、難しくはない。何せ先に向かった方角から戻ってくるだけなのだから、冷静になれば簡単に避けられる。

しかし、問題はドクオの体力と集中力だ。休む間もなく襲い来る攻撃は当たれば致命傷になるまでに肥大化している。がむしゃらに攻撃をしたことで周囲の土や岩を吸収してしまった。

そのせいで舗装されていたはずの道は抉れて穴だらけ、移動する距離も弾丸の大きさに伴い長くなっているし、威力も最初に受けた一撃の数倍になっている。

('A`;)「はっ……はっ……」

集中を切ってしまえば終わり、さらには体力が尽きて動けなくなっても終わり。その限られた時間の中で敵を倒さなければならないというプレッシャーがドクオを蝕んでいく。

('A`;)(早く、早く見つけないと……)

441 名前: :2014/07/11(金) 22:53:33 ID:MuFWsT2w0



从;'ー'从「あれれ〜、また増えてるよぉ〜」

ξ;゚听)ξ「口動かす前に手を動かしなさい! 死にたくないでしょ!?」

(;*゚ー゚)「とは言っても、これはさすがに……」

宿舎の前には鳥型の魔物が大量に押し寄せており、その圧倒的な数の前にしぃ達は苦戦を強いられていた。

どこから現れているのかも分からず、さらには見たことのない姿形をした魔物との終わりの見えない戦はしぃ達の心をじわじわと弱らせていく。

(;*゚ー゚)(戦闘を初めてすでに一時間は経過しています。なのに、減るどころか増える一方。魔物はどこから入り込んで……)

モ・トコには今ほとんど人がいない。が、この街に派遣されている騎士団の人間が何人かは滞在しているはずなので、魔物避けの結界は正常に作動しているはずなのだ。魔物が街に入り込むことなど微塵も有り得ない。

であれば理由は一つしか考えられないだろう。

敵はすでにこの街に入り込んでおり、かつこちらを狙っているということだ。

その意図までは分からないが、自分達がしなければならないことはこと単純。生き延びること。

(;*゚ー゚)「副団長やモララー隊長ドクオさんが戻ってくるまでは耐えましょう!」

从;'ー'从「了解だよぉ〜」

ξ;゚听)ξ「分かってるわよ! でもドクオ達が戻ってくる保証はあるの? 戻ってきたとして、この状況が収まるの?」

442 名前: :2014/07/11(金) 22:54:20 ID:MuFWsT2w0

(;*゚ー゚)「それは……」

思いがけないツンの言葉に、しぃは答えに詰まってしまった。

ドクオやショボンは敵の動向や現在ある情報から目的や対抗策を見出だそうとしていたから、しぃは彼らならなんとかしてくれるのではないかと思ったのだ。

だから、しぃはあの二人が戻ってくるまでと言ったのである。

从'ー'从「ツンちゃん!」

渡辺がツンを呼んだ。

ξ;゚听)ξ「あ、ごめん。とにかく頑張りましょ」

ツンもはっとした様相でしぃをちらりと一瞥。

(* ー )「……すみません」

それきり、しぃもツンも渡辺も口を開くことはなかった。

ツンが言いたいことは分かっている。

今の今まで考えたことすらなかったが、しぃは今日に至るまで自発的に何かをしたことがなかった。それは子供の頃からそうだったし、騎士団に入団しても変わっていない。

しかも、ここにいるのは騎士ではない一学生が二人。本当ならしぃが魔物の大群を退ける策を考え二人に指示を出さなければならない立場なのである。

なのに、自分ができることは戦うだけ。あろうことか学生と同じ位置で。

(* ー )(でも、私の考えは正しいんでしょうか。もし、間違ってお二人に怪我をさせてしまったら、私は……)

443 名前: :2014/07/11(金) 22:55:05 ID:MuFWsT2w0

いつもであれば、しぃの考えを述べた時、傍にいて大局を見渡すことができる誰かに判断を仰ぐことができていた。過去のように、何もしないよりはせめて意見ぐらいは言ったほうがいいと知っているから。

だから騎士団に入ってしぃは大なり小なり過去の罪から目を逸らすことができていた。

自分は変わったんだ。

昔の幼かった自分ではないんだと。

けれど、人の本質とはそう簡単に変わるものではない。

今、この場所、この状況において彼女は自分にできることなんて初めからないと信じこんでいた。自分は騎士団の中ではしたっぱで、作戦立案や状況把握をする上の人間からの指示に従っていればそれでいいのだと考えていたから。

彼女はそうやって騎士団という組織の中で立場を築き上げてきた人間だ。今までも、そしてこれからも同じように考え同じように動くだろう。

(* ー )(私は……私は…)

ξ#゚听)ξ「しぃ!」

(;*゚ー゚)そ

444 名前: :2014/07/11(金) 22:55:56 ID:MuFWsT2w0

ツンの怒号で思考の海から戻ってくる。目の前には魔物が迫っていた。

(;*゚ー゚)(避けられない)

と、横から炎が躍り出る。魔物は炎に焼かれ、消し炭と化した。

从'ー'从「しぃちゃん、ボーッとしちゃ駄目だよぉ?」

ξ#゚听)ξ「戦闘中なの分かってんの? 迷惑かけんじゃないわよ!」

从'ー'从「ツンちゃんも落ち着いて。話は全部終わってから、ね?」

ξ゚听)ξ「……分かったわよ」

そのあと、何事もなかったのように三人は戦闘に戻ったが、終始しぃの心はざわついたままだった。

学生に助けられ、怒られ、迷惑をかけている。その事実がしぃの感情を掻き乱して、内に貯めたものを全て吐き出してしまいそうになった。

自分は、何故ここにいる?

何故戦っている?

何故、騎士になんかなったのだろう。

445 名前: :2014/07/11(金) 22:56:41 ID:MuFWsT2w0

◇◇◇◇

鉱山の中はまるで迷路のように入り組んでおり、採掘場と呼ばれる場所以外の道幅はけして広くはない。ともすれば広い部屋の中で報告書を読むショボンには少しばかり息苦しさを覚えさせる。

唯一の救いは道がきちんと舗装されていることだろう。採掘した鉱石を安全に運ぶため、路面に飛び出したり尖った石や岩は丁寧に取り除かれており、ちょっとしたお屋敷の廊下と遜色ないほどだ。

両側の壁に取り付けられた魔法石の明かりが頼りなく床を照らしている中をショボンは早足で進んでいる。

魔力の糸はこの奥に続いており、鉱山の深くに足を進めるにつれてはっきりと色濃くなっていた。

(´・ω・`)「……随分と広い採掘場だな。この鉱山のメインか?」

開けた空間を見回してショボンは感嘆の声をあげた。

四角い箱のような形をした部屋は採掘場としては異例とも呼べるほど広く、王都ヴィップの玉座の間の三倍以上ある。周囲を見渡せばキラキラと輝く何かが岩の壁に混じって剥き出しになっており、その数足るやとてもではないが数えきれる量ではなかった。

ショボンが一瞬自分が夜の星空の中に迷い混んでしまったかと錯覚してしまうほどに美しい。所々部屋を支えるための柱が立っているのが少し残念ではあるが。

(´・ω・`)「魔導鉱石の原石、か。採掘するのは難しいと聞いたことはあったが、なるほど」

446 名前: :2014/07/11(金) 22:57:27 ID:MuFWsT2w0

近くの壁を観察すると、この輝きを放つ剥き出しになった部分が一つ一つ独立したもののようだ。少しの刺激ですら暴発する原石がこんなにも大量に隣接しているのだから国が資格を交付するのは納得である。

(´・ω・`)「……魔力、ね」

魔導鉱石とは錬金術で使われる媒体の一つだ。当然ではあるが名のとおり魔力を多分に含んでいる。

(´・ω・`)「今は考えても仕方がない。先を━━」

急ごうとは言えず、代わりに彼は怪訝そうに眉を潜めてしまった。

何故彼がここにいるのだろうか。彼には何も言っていないし、この複雑に入り組んだ鉱山を先回りしてきたとでもいうのか。

(´・ω・`)「モララー」

(  ∀ )「」

そこには、虚ろな瞳をしたモララーがニヤニヤとだらしない笑みを浮かべて立っていた。

(´・ω・`)「何故ここにいる。答えろ。これは命令だ」

幻影ではない。魔力の動きを視認できる今、魔法による幻影ならばこれが人の形をなしているはずがないのだ。

つまり、目の前にいるのは紛れもない本人だということになる。

ショボンの問いにモララーは答えない。不気味に笑ったままだ。

(´・ω・`)「答える気がない、もしくは━━」

447 名前: :2014/07/11(金) 22:58:11 ID:MuFWsT2w0

操られている。そう考えるのが妥当か。

仮にも若くして騎士団の分隊長になった男が不覚を取るとも思えないが、それだけ敵の方が上手だったということだろう。

(´・ω・`)「通るぞ」

ショボンは警戒しながらモララーの脇を通りすぎていく。腰に差した剣はいつでも抜けるように柄に手をかけながら。

立ち尽くしたまま動かないモララーはこちらに視線を向けることなく、黙って違う方向を向いている。

結局、最後まで彼は何もしてこなかった。

採掘場を抜けて再び狭い通路に出ると、ショボンは足を止めて振り返る。

(´・ω・`)(一体何を目的にモララーを操り、配置したんだ?)

操られていたのか、はたまた自分の意思でここにいたのか見当がつかない。人の心を操作する魔法は高度なものだとマナに働きかけてしまうためショボンですら完璧に見抜くことはできない。

経験と勘から彼が操られているのは間違いないと思うのだが━━

その時だった。

448 名前: :2014/07/11(金) 22:58:57 ID:MuFWsT2w0

視界一杯に目映い閃光が迸る。次いで爆発。慌ててその場を後にするが、他の場所にある魔導原石もこの衝撃で連鎖的に爆発しているようだ。

(;´・ω・`)「まさか、このために!」

逃げ場所を失ったショボンは急いで防御魔法を構築する。だがあまりにも短い時間だったために不完全な形で出来上がった防御結界はすぐにでも消えてしまいそうなほど頼りないものだった。

(;´・ω・`)(人の部下を捨て駒のように使うか)

改めて敵の恐ろしさがひしひしと伝わってきた。こんなにも簡単に人の命を扱うなんて正気の沙汰ではない。

(;´・ω・`)「とにかく、ここを出ないとますいな」

この様子では一帯の鉱山も巻き添えに崩落してしまっただろう。もちろん敵が巻き込まれて死んだなんて馬鹿な真似をするとは思えないが。

ショボンはさらに詠唱。範囲は半径数十メートルといったところか。

自分を中心に魔法を発動させると、周辺の岩が一気に消滅していく。けして岩という存在を消しているわけではない。あくまで岩を構築する魔力を分解して形を保てなくしているだけだ。

だがこのまま消していくだけではさらなる岩が降り注ぐが、ショボンはさらに魔法を重ねる。

分解した魔力を壁や柱にして出来うる限り部屋として機能するように再構築していくと、とりあえずショボンが自由に動けるくらいのスペースが完成した。周囲に魔導原石が大量にあるからこそできる荒業である。

しかしこれも単なる時間稼ぎにすぎない。一刻も早く脱出しなければ酸欠や二次崩落に巻き込まれるだろう。

(´・ω・`)「……モララー」

崩落した先を見つめながらショボンは少しだけ迷う。

449 名前: :2014/07/11(金) 22:59:54 ID:MuFWsT2w0

自分の部下も岩の中に埋もれているはずだ。これぐらいで簡単に死んではいないだろうが、長くは持たない。

(´・ω・`)「少しだけ待っていてくれ。すぐに助けに来る」

部屋の向こう、壁を一枚挟んだ辺りから広めにスペースを作っておく。あまり距離は離れていなかったため、これで問題ないと思う。

ようやくショボンは一息つくと、再び魔力探索術式を展開させようとして━━

突如吹き飛んだ壁、そこから光線が伸びてきた。

(;´・ω・`)そ「なっ」

身を伏せてそれを避けると第二撃が向かってくる。今度は跳躍、さらに三、四と光線が雨霰と降り注ぐ。

飛んできた方を見れば、穴の空いた壁に傷一つないモララーが先程と同じ笑みを浮かべてこちらを見ていた。

(  ∀ )

(;´・ω・`)「くっ、もはや逃げられないか」

モララーはすでに獲物を握っている。逃げ道のないこの空間では彼をやり過ごすことはできそうもない。

けれどもモララーは自分の部下だ。彼が入団してから何かと世話を焼いてきた。応用魔法を教えたし、戦闘技術を磨かせた。一緒に酒を飲んで愚痴を言い合って過去の話に涙して励まし合った。

そんなモララーに、自分は剣を向けねばならないのか?

(´ ω `)(僕は何のために騎士になった)

騎士とは弱きを守る盾、悪を挫く剣。

自分に立てた誓いはなんだ。

それは目の前にある全ての理不尽をこの手で救うこと。

自分の正義は何のためにある。

それは悪に虐げられる人達を救うために。

ショボンは剣を勢いよく抜き放つ。

(´・ω・`)「私は王都ヴィップ騎士団副団長、ショボン。いざ参る!」

450 名前: :2014/07/11(金) 23:00:39 ID:MuFWsT2w0



( ゚"_ゞ゚)「どうやらうまくいっているようだな」

作業を終えたオサムは近くの壁に描かれた魔法陣から情報を探った。やはり今の振動は一部の採掘場が崩落したことによるものだ。

ならば、今頃騎士の二人は戦っているのだろう。これでショボンとモララーは死んだも同然である。

さらに街の宿舎で待機していた三人はオサムが作り出している魔物と交戦しており、身動きが取れない。あれはモ・トコという鉱山都市だからこそ使える錬成術式だ。魔導原石が大量にあって初めて成り立つが、その分半永久的に魔物を産み出すだろう。

そして、オサムが最も楽しみにしている魔剣の主は━━

( ゚"_ゞ゚)「ゴーレムにうまく囚われているか。やれやれ、これでは先が思いやられるな」

451 名前: :2014/07/11(金) 23:02:02 ID:MuFWsT2w0

魔剣の力ならばあんなもの五分と経たず壊せるものを、何故こんなにも苦戦しているのかオサムには理解できない。

とはいえ、そう簡単に破壊できるほど柔な作りにした覚えもないので致し方あるまい。

( ゚"_ゞ゚)「だが、おかげで全ての準備は整った。ゲームは中盤に差し掛かったぞ」

棺桶を開き、溜めていた魔力を解放すると巨大な魔法陣が浮かび上がる。黒々とした一般的には使われない幾何学的でより複雑な魔法陣だ。

ばちばちと魔力が部屋の中を暴れまわり、大きすぎる力に世界も呼応するかのように地鳴りを響かせた。

手、足、胸と徐々に現れていく体。それらはのっぺりとしていておよそ人とは思えないほどの美しい白色だ。顔は目も鼻も口もあるがどれも人形のように開くことはなく、ただの装飾品にしか見えない。

ゆっくりと時間をかけて、ようやく人型の生物が召喚された。

長い黒髪を靡かせ、それはオサムを睨み付けるように顔を向けてくる。

( ゚"_ゞ゚)「いい仕上がりだ」

452 名前: :2014/07/11(金) 23:02:50 ID:MuFWsT2w0

それを眺めて彼はふむふむと頷く。概ね想像通りだ。あとは最後の仕上げをすればこのゲームは終盤に向けて動き出すだろう。

誰も彼もが絶望の中で泣き叫びながら死んでいくのだ。そうなってようやく彼は絶望する。

人型の生物は声すらださずにただただ立ち尽くす。

( ゚"_ゞ゚)「さて、手始めにここら一帯の街々を焦土に変えようか、悪魔よ」


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