336 名前: :2014/06/26(木) 16:10:17 ID:AXRm0dFE0



第8話「ゲームの始まり」



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337 名前: :2014/06/26(木) 16:11:41 ID:AXRm0dFE0

◇◇◇◇

('A`)「なぁ、一体どこに連れてくつもりなんだ?」

ドクオは先程購入した魔法紙を手で弄びながら、前を歩くモララーに声をかける。早朝だというのに街はすでに活気に溢れ、朝の特売か何かなのかヴィップラ地区の方から威勢のいい声が飛び交っていた。

( ・∀・)「どこって、そんなの決まってるだろ。仕事だ仕事」

('A`)「仕事って、俺騎士団じゃないよな?」

名目では一応騎士になるのだろうが、ドクオは正式に任命を受けたわけではない。そもそも騎士寮に厄介になっているのもそちらの方が王都や騎士団にとっても都合がいいからである。言ってしまえばドクオはなんちゃって騎士だ。

戦う力はあるものの、それだけの男に仕事とはどういう了見だろうか。確かに部屋の中で暇を持て余すよりは随分と建設的な気もするが、何も分からず魔法が飛び交う戦場に立たされるのは正直いい気持ちではない。

( ・∀・)「んなこと言ったって、陛下からの勅命なんだ。俺に言われてもどうしようもない。反逆罪で打ち首になりたくなきゃ大人しく言うこと聞くしかない」

('A`;)「反逆罪って……」

なんと無茶苦茶な。ヴィップを治める王の話を何度か聞いたことはあったが、皆口々に素晴らしい統治者だと言っていた。民の声を親身になって聞いてくれるとのことだったが、異世界人であるドクオの声には耳を傾けてくれないようだ。

('A`)「で、こんなのまで買わされたってことはもしかして王都を出るのか?」

( ・∀・)「ご名答。今回は遠征とまではいかないが、ちょっと遠い。詳しい話は道中でしてやるよ」

モララーはそう言って移動用魔法陣の前で立っていた二人の騎士に向かって小さく手を振った。

('A`)「今回もこのメンバーか」

その二人の騎士、しぃとショボンを見てドクオは溜め息を吐く。

(´・ω・`)「我々だけでは不満かね?」

その様子を見てショボンがここぞとばかりに発言する。ドクオは慌てて、

('A`;)「いえ、そういう訳じゃなくて、なんていうか……」

このメンバーだとろくなことにならない。と口にしそうになるが、すんでのところでドクオはそれを飲み込む。

ショボンもモララーもしぃも実力は折り紙付きだということは分かるのだが、彼らほどの実力者が出向くということは、それほど危険が伴う仕事だということ。ドクオとしてはもう少し穏便な仕事をさせてほしいと切に願っているのだが、世の中世知辛いものである。

代わりにドクオは気になっていたことを聞いてみることにした。

('A`)「というか、ショボンさんは副団長でしょう。王都を離れていいんですか?」

前回の件でも王都を離れたが、あのときはそんなに距離がなかった。今回の話だと、なんだか相当遠くまで行かされそうな雰囲気である。

338 名前: :2014/06/26(木) 16:12:49 ID:AXRm0dFE0

(´・ω・`)「これも陛下の勅命でね。今回は私が同行しないとならないくらい大きな問題なのさ」

('A`)「……マジすか」

(´・ω・`)「マジ? どういう意味かね?」

('A`)「いえ、何でもありません」

副団長直々に出なければならないほどの問題。それはつまり貞子と同等、もしくはそれ以上の危険が伴うということ。

ドクオはこの時点で全てを投げ出して逃げたい衝動に刈られた。あんな女がそう何人もいるとは思えないが、ドクオは黒の魔術団とやらに狙われている以上、奴等に襲撃されるとも限らないのだ。

もちろん、それらを考慮しての布陣なのだろうが、どうにも不安を掻き立てるメンバーであることに違いはない。

(*゚ー゚)「毎度思うのですが、ドクオさんは顔のわりに小心者ですね」

ドクオの顔を観察していたのか、しぃは小さくそんなことをのたまった。顔のわりにとはどういうことだ。どこからどう見ても幸薄そうな一般人だろう。豪胆な顔をしているとは思えないのだが。

( ・∀・)「ま、話してても先に進まない。さっさと目的地に行きましょうか」

(´・ω・`)「そうだな。全員魔法紙は持ったか?」

('A`)「そう言えば、前回は歩いて目的地まで行きましたけど、今回はどうやって行くんですか? さすがにこれに乗ったら到着ってわけじゃないでしょう?」

ドクオは王都でも移動魔法陣を利用したことがない。というのも、ドクオの移動範囲が極端に狭いことに起因している。

ドクオが住んでいる騎士寮は商業区であるヴィップラからさほど離れていない場所にあるため、徒歩で十分に行き来できるためだ。この世界での娯楽は何度か耳にしたことがあるものの、基本的にめんどくさがりなドクオは一度王都をくまなく歩いたくらいで、一日のほとんどを部屋で過ごし、あとは訓練所に顔を出すだけだった。

そんなドクオだったから、この移動術式は以前説明を受けたくらいで利用したことがなかったのである。

( ・∀・)「ああ、とりあえずそれ貸してくれ」

モララーに促されて魔法紙を渡すと、彼はその紙に何事かを記すとこちらに返してくる。

ドクオにはこちらの文字は分からないため、この言葉がどんな意味をなすかは神のみぞ知るというやつだ。モララーのことだから悪いようにはならないと思うが、少々不安ではある。

(´・ω・`)「さて、準備は整ったかな? 時間も差し迫っているから行くぞ」

ショボンの号令で一人、また一人と魔法陣に乗っては消えていく。残ったのはドクオとショボンだけだ。

339 名前: :2014/06/26(木) 16:13:42 ID:AXRm0dFE0

('A`)(うわー、なんか怖いなぁこれ。乗りたくない訳じゃないけど、モララーに貰ったあれも大概だったしなぁ)

黒の魔術団のアジトから王都に戻ったときのことを思い返し、ドクオは思わず胃液が込み上げてくるのを感じた。移動系の魔法は渡辺の魔法と魔法アイテムくらいしか経験したことはないが、あれは酷いものだった。

一瞬にして視界が歪み、三半規管を掻き回すような感覚を得る。それに耐えて視界が正常に戻ると王都に到着していたのだが、ドクオはすぐに嘔吐した。

(lii'A`) (憂鬱だ)

思い出し下呂をしそうになって、ドクオは魔法陣に乗るのを躊躇っていると、いつの間にか後ろに回っていたショボンが背中をさすってくれた。

(;´・ω・`)「大丈夫か? 少し休んでからでも構わないぞ」

(lii'A`)「いえ、大丈夫です」

(´・ω・`)「まぁ、転送系の魔法はなかなか慣れないものだからな。私も始めは何度も吐いたよ」

(lii'A`)「やっぱりですか」

(´・ω・`)「転送魔法陣も開発されたのはここ二十年ほどのことだからね。開発当初はもっと酷かった。本当に死ぬかと思ったほどだ」

これでましになった方だということは、乗り心地(?)はこれが限界ということなのだろう。今後この世界で生活していくのなら避けて通れぬ道だが、仕事と称して連れていかれる度に転送魔法陣を使うとしたら前途多難である。

(lii'A`)「覚悟決めるしかないか……」

ドクオが気合いを入れて魔法陣に乗ろうと構えたときである。

(´・ω・`)「ドクオ」

と、ショボンが呼び止めた。

340 名前: :2014/06/26(木) 16:16:14 ID:AXRm0dFE0

('A`)「はい?」

せっかく意思を固めたところでいきなり呼ばれたため、ドクオは興ざめしたがショボンの顔は何か大事なことでも言おうとしているのか、こちらを真っ直ぐ見つめている。

(´・ω・`)「すまないな。本当ならば、君をこんなことに巻き込みたくはないんだ。ただでさえ異世界から偶然呼び出されて大変だろうに」

ショボンはそう言って頭を下げる。前回も、そして今回も組織で権力を持つ彼に謝罪をされると、何だか申し訳ない気分になる。

('A`)「……頭をあげてください。ショボンさんは何も悪くないでしょう」

(´・ω・`)「いや、騎士団の副団長なんて肩書きがあっても、一般人が戦いに行かざるを得ない状況を変えることさえ出来ないほど無力な自分を、私は許せないんだ」

('A`)「……確かに、なんで俺が戦わなきゃならないんだって思いますよ。けど、戦わなきゃ守れないものもある。黒の魔術団もどんなことをしでかすか分かったもんじゃないし。それに、今の俺に出来ることはこんなもんしかないから」

ドクオは自分に出来ることを知っている。戦いについては素人かもしれないが、それでもドクオは渡辺を、他の人を守る力がある。それを知りながら指をくわえて見ているだけなど、こちらに来る前と何も変わらない。

それじゃいけないのだ。ドクオだって死にたがりの馬鹿じゃない。けれど立ち向かわなきゃならない現実が目の前にあるというなら、動かなければ後悔するのは目に見えているから。

ドクオがそう言うと、ショボンはようやく頭をあげた。

(´・ω・`)「恩に着る。ただ、君は絶対に死んではいけない。何かあればすぐに逃げるんだ。いいな?」

('A`)「分かりました」

そう約束をして、ドクオはようやく魔法陣へと踏み出した。

前回のように渡辺が狙われることも今後あるのかもしれない。ツンだって黒の魔術団を抜けた身だ。いつ追っ手が来るかも分からない。

その時、貞子よりも強大な敵が立ちはだかるのだろう。ドクオはそんなやつらとも戦わなければならない。

きっと騎士団が用意してくれる実戦はドクオの血肉になる。何事も経験だ。

そこまで考えたところで、ドクオの目の前が歪み始めた。

341 名前: :2014/06/26(木) 16:16:56 ID:AXRm0dFE0



渡辺は現実に嫌気が差して、逃避と言わんばかりに机に突っ伏す。このまま机と一体化して沢山の人の役に立てるなら本望だ。もうこんな俗物にまみれた世界なんて必要ない。

ξ゚听)ξ「なに現実逃避してんのよ。そんなんじゃいつまでたっても進級出来ないわよ」

向かいの席に座ったツンがため息混じりにそう告げる。長い入院生活も終わり、ツンが魔法学校に編入という形で入学したのはつい先日のことだ。体調はまだ本調子ではないようだが、日常生活に支障はないということでようやく渡辺と肩を並べて学生生活を謳歌できるようになった。

从'ー'从「だってぇ……今回の課題は難しすぎるよぉ」

渡辺達はつい先程まで学校で講義を受けていたのだが、講義を修了した証として課題の提出を求められたのである。

この学校は一つの講義を修了する度に課題を出されるのだが、その難度はまちまちで魔法術式の構築だったり実技試験だったりと内容もバラエティーに富んでいた。そして、今回の講義は錬金術という魔法使いにとってはもはや珍しくもない使えて当たり前のものだが、出された課題に使う媒体が問題だった。

从'ー'从「魔導鉱石の原石なんて簡単にてに入らないよぉ……」

魔導鉱石とは錬金術においてよく使う基本的な媒体の一つで、その用途は様々である。加工を施して燃料にしたり、数が多ければ形にして商品にしたりとかなり応用が利く便利なものだ。

これだけ世に浸透しているものなのだから手に入れるのはそんなに難しくはない。ヴィップラの出店でも覗けば簡単に手に入る代物なのだが、原石となると話は違う。

342 名前: :2014/06/26(木) 16:19:42 ID:AXRm0dFE0

元々魔導鉱石は特定の鉱山でしか採掘されず、扱いも国家資格が必要なほどに危険なものなのだ。採掘時には小さな塊で見付かることが少なく、鉱石自体が魔力を多分に含んでいるためちょっとした刺激で簡単に暴発してしまう。

そのため市場に出回っているのは塊を小さく砕き、きちんと魔力が漏れないよう特殊な加工をしてようやく出荷となるため、課題で原石を持ってこいなどとは前代未聞だった。

从'ー'从「でも課題をこなさなきゃ単位取れないよぉ……」

ξ゚听)ξ「大きさは砕いたものでいいんでしょ? お店では売ってないと思うけど、出荷元に行けば譲ってくれるんじゃない?」

从'ー'从「そんな簡単に貰えるかなぁ……」

魔導鉱石の値は一介の学生でも買えるほどお手頃な価格だ。ならば現地に行けば元値で売ってくれる可能性もないことはない。

だが、その場所に行くまでが大変なのだ。

从'ー'从「箒で行ったらどれくらいかかるかなぁ」

ξ;゚听)ξ「いや、そこは飛行馬車を使いなさいよ」

飛行馬車とはこの世界において最もポピュラーな移動手段だ。移動術式が開発される前まで街中を移動する際は飛行馬車が利用されていた。しかし、短距離での使用はコストパフォーマンスが悪いために現在では街と街を移動する際に使われているのと、大量の物資を運ぶ際に使われているくらいだった。

343 名前: :2014/06/26(木) 16:20:42 ID:AXRm0dFE0

从'ー'从「う〜、ツンちゃんも一緒に行こうよ〜。一人じゃ心細いよ……」

ξ゚听)ξ「とは言ってもねぇ、実際どれくらいかかるか分からないじゃない。私だって課題やらなきゃならないし……」

从'ー'从「お願いします〜。あんな遠いところまで一人旅なんて嫌だよぉ〜」

渡辺が半分泣きながら切実にそう言うと、ツンは黙ってあれこれと考え始めたようだった。

ξ;--)ξ=3「はぁ、仕方ないわね。分かったわよ、ついてってあげる」

ついに折れたのかツンはため息を吐いて了承した。

从'ー'从「ほんと〜? やったぁ〜、それじゃあ早速準備しなきゃだね」

ξ゚听)ξ「甘いなぁ、私。甘やかしたりするのはドクオの仕事なのに……」

ツンの言葉に渡辺は、

从'ー'从「酷いよぉツンちゃん。どっくんはそんなに甘やかしたりしないよぉ」

ξ゚听)ξ「うっさい。ったく、それじゃあ買い出しでもしましょうか。長い旅になりそうだしね」

从^ー^从「えへへぇ〜、ツンちゃんと旅行だなんて、なんだか夢みたいだねぇ」

ξ////)ξ「な、ば、馬鹿じゃないの!? 私達は課題のために行くんであって、遊びに行く訳じゃないのよ!?」

从'ー'从「えー、折角外に出るんだもん、ちょっとくらい遊ぼうよぉ」

ξ////)ξ「そ、そこまで言うなら少しくらいなら、つ、付き合ってもいいけどね!」

从'ー'从「よぉーし、それじゃあお買い物にしゅっぱぁーつ!」

腕をあげて渡辺が歩き出し、その後ろを何かをぶつぶつと呟きながらツンがついてくる。遊びじゃないのは分かっているが、それでも胸の高鳴りを抑えることができない。

それはツンが隣にいるから、あの時叶わなかったことを、今度は出来るから。

渡辺は笑って、これからのことを考える。

いい旅になりますように。

344 名前: :2014/06/26(木) 16:23:30 ID:AXRm0dFE0

◇◇◇◇

移動術式をくぐったドクオは早速だが吐き気に襲われ、近くの茂みでげろげろと胃のなかを吐き出していた。やはりあの感覚は慣れるものではない。

しぃが魔法で多少吐き気を抑えてくれているものの、根本的にそういう意図の魔法ではないためすぐに回復というわけにもいかないようだ。

(lii'A`)ゲロゲロー

(;*゚ー゚)「す、すごい勢いですね」

(lii'A`)ゲロゲロー

しばらくしてようやく吐き気が治まったのを見て、しぃが魔法を止める。胃が空っぽになったせいか幾分すっきりした気分だ。

少し離れてドクオを待っていたモララーとショボンは若干呆れ気味に声をかけてくる。

( ;・∀・)「お前ほんと大丈夫かよ」

(lii'A`)「まぁなんとか。もっかい移動術式を使うならもう少し待ってほしい」

こんな状態でもう一回など正気の沙汰ではない。そんなことをすれば二度と目覚めぬ奈落の底へと堕ちていくに決まっている。

ドクオはよろよろと近くに設置されたベンチに腰掛け、しぃが買ってきてくれた飲み物に口をつけた。爽やかな飲み心地の液体が、弱った胃にすーっと溶けていく。生きているって素晴らしい。

345 名前: :2014/06/26(木) 16:24:14 ID:AXRm0dFE0

(´・ω・`)「もう移動術式を使うことはないから安心してくれ。ここからはあれを使う」

ショボンが指差した先にあったのは馬車のような乗り物だった。ようなというのは馬がなく、代わりに後方から車などについているマフラーがあり、下部にはゴテゴテとした機械が取り付けられている。本来馬が引くはずの部分にはハンドルらしきものがついていた。

('A`)「なんか、馬車のなり損ないっていうか……」

(*゚ー゚)「見てくれはあんなですけれど、乗り心地は割りといいですよ」

( ・∀・)「そうそう。静かだしな」

口々に馬車の乗り心地を褒める二人にドクオはそこはかとない危険を感じる。あの二人が結託して自分を騙しているのではないか、と不安になった。

(´・ω・`)「そう身構えるな。あの二人が言うように、移動術式を使うよりはいいぞ」

('A`)「……まぁ、そこまで言うなら信じますが」

( ・∀・)「俺達の言うことは信じられないってのかよ」

(*゚ー゚)「私はそんなに信用ないですか?」

('A`)「そういう訳じゃないが……あ、モララーは別な」

( ・∀・)「え、何それ酷くない? 俺達親友だろう」

('A`)「いつから親友になったんだよ。初耳だ」

( ・∀・)「この野郎一晩中飲み明かした仲なのに」

おどけるモララーを一瞥して、ドクオはショボンが指を差した場所へと歩き出した。モララーは何事か文句を言っていたようだが、そんなものを相手にしていたら日が暮れてしまう。

346 名前: :2014/06/26(木) 16:24:57 ID:AXRm0dFE0

ショボンが店の人と短い会話をしたのち、一つの馬車を差してからそれに乗り込んだ。やはり馬車は人が運転するらしい。

ショボンが一つの馬車に乗り込むのを見てから対面にドクオが座り、その隣にしぃ、モララーがその向かい側。最後に乗り込んだモララーは扉を閉めて座った。

(´・ω・`)「いいぞ。出してくれ」

ショボンが言うと奇妙な浮遊感と共に馬車が浮かんでいく。

('A`)「おお」

扉の窓から外を見ると、徐々に地面が離れていくのが見えた。こんな簡素なものが空に浮かぶという事実にドクオは少なからず感嘆する。魔法というのは本当に底が知れない。

発信してからしばらくの間は米粒のようになった地表を眺めて楽しんでいたが、そのほとんどが青々とした森林ばかりで長時間見ているというのはやはり飽きてきた。その頃合いを見計らってショボンが口を開く。

(´・ω・`)「さて、今回の任務を説明しよう」

ショボンの言葉にしぃとモララーが神妙な顔付きで頷いた。釣られてドクオも顔を引き締める。

(´・ω・`)「今回の任務は鉱山都市モ・トコ周辺に出没した悪魔の殲滅だ」

('A`)そ「悪魔!?」

347 名前: :2014/06/26(木) 16:25:43 ID:AXRm0dFE0

予想外の言葉にドクオは大声をあげた。悪魔と言えば、確か以前しぃが説明してくれた伝承にしか描かれていない破壊と絶望の象徴。十五年前の戦争でも現れたというが、そちらの信憑性は定かではない。

そんな伝説上の存在が、何故今頃になって現れたというのか。しかもそれを殲滅ということは、ドクオ達が戦わなければならないということだ。

あまりの出来事にドクオは開いた口が塞がらない。しかしそれとは対照的に他の二人は落ち着いている。

(´・ω・`)「ドクオも話くらいは聞いていたか。とは言ってもそんなに大袈裟な話じゃない。モ・トコ周辺で悪魔と思しき生命体を見かけたため、その真偽を確認し、もし本当に悪魔だったなら討滅といった具合だ」

('A`;)「なんだ、脅かさないでくださいよ。そんなのと戦わなきゃならないなんてさすがに荷が重すぎる」

( ・∀・)「とは言っても、周辺住民の話によればほぼ間違いないらしいけどな」

モララーがあっけらかんと言う。それならなんでこんなに落ち着いているのだろうか。勝てるかどうか、どころか生きて帰れるかどうかすら怪しい存在と一戦交えなければならないのに。

(*゚ー゚)「モ・トコの周辺の集落ではすでに何人かの住民が襲われているようで、被害はかなり拡がっていますね。自警団や派遣されている騎士も交戦したそうですが歯が立たず、生存者はゼロ。状況は絶望的です」

('A`)「そんなのと戦うの?」

(´・ω・`)「戦闘中に送られてきたとされる音声があるんだが、こちらの攻撃は全て無効化されているようだった。魔法が効かないのか術式を破壊しているのかは分からないが、かなり厳しいな」

聞かされる言葉にドクオは思わず頭を抱える。王都でショボンが頭を下げたのはこれが原因だったのか。

348 名前: :2014/06/26(木) 16:26:40 ID:AXRm0dFE0

('A`)「そんな相手にどうするんですか? いくらショボンさん達が行ったところで攻撃が効かないんじゃやられるだけじゃ……」

( ・∀・)「ばぁか、何のためにお前を連れてきたとおもってんだよ」

('A`)「……魔剣か」

(´・ω・`)「そうだ。既存の攻撃手段では歯が立たないが、ドクオの持つ魔剣はどうやら魔力やマナを消滅させるようだからな。ましてや伝承にさえ書かれている代物だ。もしかしたら対抗手段になり得る可能性がある」

と、言うことはだ、その化け物を相手にするのは必然的に━━

('A`)「俺がやるのか」

(´・ω・`)「うむ。私達も出来うる限りのサポートはさせてもらうが、最終的に君に頑張ってもらう必要がある」

( ・∀・)「責任重大だな」

(*゚ー゚)「私達の命はドクオさんにかかっていますから」

('A`;)「ちょっとプレッシャーかけないでくれます? もう逃げ出したいくらいなんだけど」

(´・ω・`)「とは言ってもモ・トコに直接行くわけではない。周辺の街の被害状況や出没地域も確認しなければならん。モ・トコには明日の夕方に到着予定だ。今日は近くの街に宿を取ってあるからそこで一泊、のちに二つ三つほど他の街で情報を集め現地入りという形だな」

ショボンが他にも細々とした注意事項などを説明してくれたが、ドクオの耳には入ってこなかった。

とんでもない仕事に連れてこられたものだとドクオは心中で呟く。自分の成否がそのまま他の仲間の命を左右するなど、ドクオの人生で初めてのことだった。

('A`)(いや、そうでもないか。初めてこっちに来たときも俺があの魔物とやりあってなかったら色んな人が死んでた)

349 名前: :2014/06/26(木) 16:27:24 ID:AXRm0dFE0

ニダーと戦ったときもそうだ。あの時もドクオが最後まで戦わなかったらしぃも、渡辺も怪我じゃすまなかったかもしれない。貞子の時は渡辺も、ツンも下手を打てば死んでいた。そう考えれば状況は変わらないように思う。

いつだってぶっつけ本番で立ち向かったのだ。いつも通り、そういつも通りでいい。ドクオには戦況を正しく判断できる戦術眼などないし、便利な魔法もない。あるのはいつの間にか手に入れた古代の伝承。そして、一月かそこらで身に付けた体力と力。

('A`)(俺だって少しは成長したんだ。やれないことはないはず)

窓の外を見つめながら、ドクオは言い聞かせる。たとえ悪魔がどれほどの力を持っていようが、同等の力がドクオの手にはあるのだ。

ドクオは何も言わずにぎゅっと拳を握り締め、来るべき戦いに想いを馳せる。

350 名前: :2014/06/26(木) 16:28:08 ID:AXRm0dFE0


从'ー'从「荷物多くなっちゃったねぇ」

ξ#゚听)ξ「あんたがあれこれ必要のないものを買うからでしょうが。ちょっと貸しなさい、私が選別する」

从;'ー'从「あ、ダメだよぉ、それは私のおやつだってばぁ〜」

ξ#゚听)ξ「うっさい!! 遊びに行く訳じゃないんだから、こんなにいらないでしょ!?」

从'ー'从「あー、それもダメぇ〜」

大きく膨れ上がり必要なものも入らなくなった渡辺の荷物を逆さにしてツンはあれこれと物色すると、大量のお菓子類をひたすらに仕分けていく。よくもまぁこんなにお菓子ばかり入れたものだと呆れを通り越して感心するばかりだが、今回の旅に関しては少しきつく言わねばなふまい。

何しろニューソク大陸の北端まで行くのだ。いくら飛行馬車で一日かからず行けるとはいえ、お遊び感覚では痛い目を見ることは火を見るより明らかだ。

王都周辺は騎士団が守りを固めているおかげか魔物もあまり活発ではないが、王都から離れていくのに比例して魔物は強力になっていく。自分達の天敵である人間の絶対数が少ないため、数を増やすと共に魔物同士の縄張り争いなどかわ頻発し、進化を遂げていったのだ。

飛行馬車は空を走る場所であるため、当然だが陸の魔物と出くわすことはないと断言できるが、北の方は空を飛ぶ魔物の数が比較的多い。黒の魔術団にいた頃、飛行馬車が魔物に襲われていたのを何度か目撃しているツンとしては出来る限り危険を減らしいたいのだ。

351 名前: :2014/06/26(木) 16:28:58 ID:AXRm0dFE0

ξ゚听)ξ(まったく、お菓子よりも身を守るものを持ちなさいっての)

鞄から出されるお菓子達を抱き締めながら渡辺は血の涙を流していたが、これも渡辺のためだ。もちろんツンの鞄も多少の空きは確保しているので、お菓子全てを持っていけないわけではないが、今はこれくらいして渡辺にも危機感を持ってもらわなければならない。

あらかた整理の終わった鞄に、課題で使うものを片っ端から入れていく。ツンがどうして渡辺の課題に必要な道具類を知っているのかと言えば、友情の力がなせる技、とでも言っておこうか。ただ単に渡辺が心配だったため、ツンが下調べなどを行っただけなのだが。

ξ゚听)ξ「ま、こんなもんでしょ。って、あんたはいつまで泣いてるのよ」

从TーT从「だってこんなにも沢山のお菓子が……」

ξ゚听)ξ「帰ったらいくらでも食べられるわよ。んなことより明日に備えてさっさと寝る!! 何のために私が泊まってると思ってるの!?」

从'ー'从「はぁ〜い」

渡辺が寝床に入り寝息を立てるのを見届けてからツンも布団を被る。とりあえずの準備はこれでいいだろう。あとは明日の朝早くに王都を発てば夕方には現地入りだ。

ξ゚听)ξ(そういえば、モ・トコ周辺で事件が起こってるって話だったけど、大丈夫なのかしら)

もし何らかの重大な事件が発生してい場合、学生や一般人に検問をしている可能性もある。だとすれば行ったところで街に入れなかったり、飛行馬車の運行自体されていないかもしれない。

ξ゚听)ξ(その時は、その件が落ち着くまで二人でのんびり旅行ってのも悪くないか)

いつも慎重に動くはずの自分が、渡辺といるだけでこんなにも変わるものなのか、とツンは驚いた。自分も少しずつ変わっているのかもしれない。

だがこの変化は決して悪いものではない。凍り付いた心がゆっくりと溶けていくような、人の温もりや優しさがツンを包んでいる。

それに身を任せてみるのはけして悪いことじゃない。

そんなことを考えている内に、いつの間にかツンの意識は微睡みに落ちていくのだった。

352 名前: :2014/06/26(木) 16:29:42 ID:AXRm0dFE0

◇◇◇◇

夜、モ・トコより二つほど離れた街にドクオ達は滞在していた。途中小さな集落に立ち寄ったが、悪魔に関する情報は得ることができなかった。

というのも、その集落にはそもそも人がいなかったのである。人が住んでいた形跡は確かにあるのに、まるで唐突に消えてしまったかのように集落だけが残っていた。つい先程まで日常生活を営んでいたはずなのに、人だけがいないという異常な様相はドクオの胸に不安だけを募らせていく。

('A`)(それに、村の中心に魔法陣を描いたような痕跡があった。まさか、悪魔を召喚でもしたんだろうか)

あんな目立つところに魔法陣を描けば、否が応でも他の人々が気付くはずだか、村のどこにも戦闘が行われた形跡はなかった。

つまり、その集落は突然、なんらかの形で村人全員が死亡、もしくは消失したということだ。しかもその異常を誰にも気付かせず、ごく自然に。

それ以上のことはどれだけ調べても分からなかったが、この街に到着して話を聞いたところによれば同様のことが他の集落でも起こっているようだった。

('A`)(なんか嫌な予感がするな)

353 名前: :2014/06/26(木) 16:30:30 ID:AXRm0dFE0

街の中央広場にある噴水の縁に腰掛け、空を見上げながらこれからのことを考える。

悪魔と集団失踪。この二つが繋がっているのは間違いないが、人為的なものなのか、それとも自然に発生してしまったのかがいまいち掴めない。誰かの手によって引き起こされたものならばそいつを倒せば済む話だが、自然的なものならドクオにはどうしようもない。

もちろん魔法陣の痕跡がある以上、誰かがこの件に噛んでいるのは間違いない。

ドクオは煙草を取り出して火を点ける。こちらに来てからすっかり馴染んだ味を堪能し、吐き出す。

('A`)y━・~~(やっぱ煙草は落ち着くな。健康には悪いんだろうけど、今さらやめられんし)

わざとどうでもいいことを考えて、少しでも気持ちを落ち着けようとするが、煙草を持つ手は僅かに震えていて緊張を隠せない。

以前までとは状況が違うのだ。ニダーや貞子のように強敵とはいえやつらは人だった。人であるから感情があり、限界がある。伝説上の存在ではない。

354 名前: :2014/06/26(木) 16:31:13 ID:AXRm0dFE0

('A`)y━・~~(まぁ、ここまで来た以上、生き残るためには戦うしかないんだろうけど)

腹は当に決めたはずなのに、何故こんなにも胸がざわつくのだろう。落ちていく灰を見つめながらその理由を探すが、うまく説明できそうにない。

煙草を二本ほど吸いきったところで、ドクオはようやく重い腰をあげた。明日から忙しくなる、休めるときに休んでおかなければ身が持たない。

ドクオが宿へと足を向けた時、向かい側から誰かの足音が聞こえてきた。

腰にある剣に手をかけ、身構える。足音は一つ、相手は一人のようだ。

(*゚ー゚)「あ」

ドクオは暗闇から現れた少女の姿に拍子抜けした。まさかしぃがやって来るとは思わなかった。

355 名前: :2014/06/26(木) 16:31:58 ID:AXRm0dFE0

('A`)「……しぃちゃんか。どうしたんだ、こんな夜更けに」

(*゚ー゚)「なんだか眠れなくて。ドクオさんもですか?」

('A`)「ああ。今日のこともあるし、気が高ぶっちゃって」

剣にかけた手を戻して、もう一度煙草を取り出す。火を点けるとしぃがくすくすと笑った。

(*゚ー゚)「ドクオさんでも緊張するんですね」

('A`)y━・~~「そりゃな、元々こんな生活とは無縁だったわけだし」

(*゚ー゚)「……ドクオさんは一般人ですもんね」

しぃが言った一般人、という言葉が少しだけ強調されて聞こえた。どこか羨望のような感情が混じっているよな、そんな気がする。

隣に並んだしぃの顔はいつもと変わらない無表情。頭一つ分背の低い彼女は空を見上げている。ドクオもそれを追って顔を上げた。

356 名前: :2014/06/26(木) 16:32:47 ID:AXRm0dFE0

二人の間に静寂が訪れる。街は眠りについており、頬を撫でる風の音さえも聞こえてくる。昼間は賑やかだった広場も今は二人だけしかいない。

しぃが哀愁のような雰囲気を纏っているように見えるのはドクオに女性の感情を分かる術がないからだろうか。

('A`)y━・~~「……答えたくないならいいけど、しぃちゃんはなんで騎士団に入ろうと思ったんだ?」

何かを話さなきゃ、と口をついたのはどうでもいい世間話とは離れたものだった。モララーは騎士団に入ろうとする者は何かを抱えている人間が多いと言っていた。例えば、渡辺やツンのように。

ショボンは騎士団というのは秩序であり、剣であり盾だと言った。それは誰かのために命をかけるだけの理由や事情があるということだろう。圧政に強いたげられたのかもしれないし、魔物や盗賊に家族や友人、果ては恋人を奪われたのかもしれない。

個人ではどうしようもないことを騎士団ならば変えられるという希望を持つからこそ、自分にルールを課して戦うのだろう。ドクオはそう理解している。

だから、こんなことはきっと聞いてはいけない。人それぞれ思うところがあって騎士団にいるのだ。ドクオのような人間が容易く踏みいっていい領分ではない。

言ったあと、しぃの沈黙にドクオは慌てて次の話題を探したが、裏腹に彼女はなんでもないかのようにそれを話し始めた。

(*゚ー゚)「私は孤児なんですよ、魔物に両親を目の前で殺されまして、そのあとにとある教会で育てられました」

それから、とつとつとしぃは語る。

魔物に両親を殺された彼女は心を閉ざし、少しのことで脅えるようになってしまった。周りの子供とも馴染めず、一日誰とも話さないことも多かった。

だが、それを見た神父はしぃを気にかけ、辛抱強く何度も何度も話を聞いてしぃの心の傷を少しずつ癒してくれた。しぃが他の子供達と遜色なく笑顔を見せるようになったのは両親の死から一年後である。

周りの子供達も辛い経験をしているはずなのに、いつだってしぃに優しくしてくれた。そんな環境もしぃを立ち直らせてくれるのには好都合だったのかもしれない。

そして月日が流れ、しぃが十二歳になった頃、その教会の取り壊しが決定した。

357 名前: :2014/06/26(木) 16:33:29 ID:AXRm0dFE0

(*゚ー゚)「元々教会なんていうのは信仰がなければ機能しません。どちらかと言えば孤児院として残っていたんでしょう。ですが増えすぎた子供達を養うには寄付金だけでは足りません。取り壊しもやむ無しでした」

行き場を失った子供達は騎士団が引き取り、未だに訓練生として学校に行ったりしているそうだ。衣食住を保証された生活を与えられた子供達は選択肢のない日々をなんとかこなしている。しかし、唯一教会の神父だけが行方が分からないまま。

(*゚ー゚)「私達には選べるほどの道はありませんでした。気がつけば騎士団にいたという感じですね。もちろん騎士になれたことは誇りに思いますし、今の生活にも満足しています」

けれど、しぃの顔はけして晴れない。その理由はドクオにだって分かる。

('A`)y━・~~「神父さんが、今も心配か?」

(*゚ー゚)「そうですね。宗教が廃れたこの時代ですし、何をしているのかは分かりませんが、出来ればもう一度会ってお礼を言いたいとは思います」

しぃはそれきり口を閉ざした。大切な思い出を慈しむかのように目を閉じる。

('A`)y━・~~「……なら、この件が終わったらちょっと長めに休暇でも取って探しに行こうぜ」

そんなしぃを見て、ドクオは思い付いたことを口にした。我ながらいい案のように感じる。

だが、しぃは馬鹿にしたような、それでいて驚いたような表情をドクオに向けていた。

(*゚ー゚)「……はい?」

('A`)y━・~~「なんだよその顔。会いたいんだろ、神父さんに。だったら探しに行こう。王都にいたって神父さんが訪ねてくるとは限らないしさ。こっちから出向いたほうが喜ぶかもしれないぞ」

(*゚ー゚)「……手がかりも何もないんですよ?」

358 名前: :2014/06/26(木) 16:34:13 ID:AXRm0dFE0

('A`)y━・~~「そんなもんは道中探していけばいいんだよ。何もしないよりはましじゃないか。きっと大人になったときに、あの時探しに行けばよかったって後悔したんじゃ遅いんだぜ?」

自分がそうだったんだ、とは口が裂けても言えないが。

('A`)y━・~~「一回じゃ見つからないかもしれないが、何回も何回も探しにいけばいつかは見つかるさ。一人じゃきついかも知れないが、俺もついていくよ。暇だからな」

(*゚ー゚)「……そう、ですね」

('A`)y━・~~「俺だけじゃ不安なら渡辺やツンも誘おう。モララーも、ついてきてくれるかな。なんだかんだあいつもしぃちゃんのこと気にかけてくれてるしさ」

(*゚ー゚)「話が大きくなってませんか?」

('A`)y━・~~「いいんだよ、これくらいで。その方が寂しくない」

しぃもドクオも一人ではない。頼れる仲間や友人がいるのだ。周りを頼らず、一人で何でもできるのは凄いことかもしれないが、それには限界がある。

(*゚ー゚)「ドクオさんは、時々凄いことを言いますね」

('A`)y━・~~「何も凄くはないさ。当たり前のことを当たり前に言ってるだけだ」

その当たり前が一番難しいことをドクオは知っている。元の世界では出来なかったこと、こちらに来て経験したことが今のドクオに段々と根付いているからこそドクオは胸を張っていられるのだ。

359 名前: :2014/06/26(木) 16:34:57 ID:AXRm0dFE0

(*゚ー゚)「ドクオさんは馬鹿ですよ。見つかるかも分からないのに」

残り少なかった煙草が最後の一本となり、くわえてからドクオはようやく彼女に言葉を返した。

('A`)y━・~~「んなもんやってからじゃなきゃ分からないって。見つかりゃ万々歳、見つからなきゃ仕方ない。さっきも言ったが、やらずに後悔するよりやったほうがいいんだって」

しぃは瞳を閉じて、何かを考えているのだろう。彼女の心にある思い出の欠片は、きっと簡単には見付からない。けれど行動を起こすことに意味があるのだ。おそらく、しぃもそれを分かっている。だからすぐに答えられない。

最後の煙草が灰に変わる頃、ようやくしぃは一言だけポツリと呟いた。

(*゚ー゚)「……約束ですよ」

('∀`)「おう」

にこやかな笑顔でドクオは静かに答えた。つられてしぃも笑っている。年相応の可愛い笑顔に、ドクオは思わず頭に手をやりわしわしと撫でてしまった。

(;*゚ー゚)「ちょ、やめてください」

('A`)「はは、悪い悪い」

嫌そうにそう言うものの、しぃは逃げたり止めたりはしない。ドクオの手にされるがままだ。

どれくらいそうしていたか、ドクオは唐突にその手を止めた。

('A`)「……おい」

360 名前: :2014/06/26(木) 16:35:46 ID:AXRm0dFE0

ドクオの声にしぃも顔を険しくする。

(*゚ー゚)「ええ。何か、おかしいですね」

辺りは相変わらず静寂を守っている。それはおかしいことではない。しかし、あまりにも静かすぎる。いつの間にか虫や鳥の声、果ては星空の光さえない真っ暗闇の中にドクオたちは迷い混んでいた。

武器を持っていないしぃを庇うようにドクオは前に出て武器を構える。誰かが襲ってくる様子はないが、周囲に何かがいるのは確かだ。小さな息遣いとジリジリと距離を詰める足音が微かに聞こえている。

('A`;)(数が多いな。俺だけでなんとかなるか?)

汗が頬を伝い、ポタリと地面に落ちた瞬間━━

('A`)(来たっ!)

▼・ェ・▼「GYAAAAAAAAAAAAA!!」

犬のような姿をした魔物、その数三匹が一斉に襲いかかってくる。ドクオは前方の一匹を斬り伏せ、しぃの手を引き走る。

361 名前: :2014/06/26(木) 16:36:35 ID:AXRm0dFE0

('A`;)「なんだよありゃ! この街の結界はどうなってんだ!?」

(;*゚ー゚)「先程まで正常に動作していました。つまり、敵は中にいるということでしょう」

('A`;)「誰かが手引きしたってことか。とにかく今は」

距離を空けたところで振り返り、もう一太刀。短い悲鳴をあげて魔物は消え去った。

('A`)「ここを切り抜けるとするか!」

ドクオの声と同時に二人を囲むように魔法陣が浮かび上がる。そこから大量の魔物が現れ、次々と牙を向いてくる。

動きそのものは冷静に対処すればそれほど驚異ではない。しかし魔物達はうまく連携をとって前後左右を動き回り、ドクオの隙をついて攻撃を繰り出していた。

('A`)「きりがねえぞ!」

(;*゚ー゚)「ドクオさん、私のことは構わずに!」

('A`)「馬鹿、んなこと言うな!」

362 名前: :2014/06/26(木) 16:37:19 ID:AXRm0dFE0

一匹、また一匹と増え続ける魔物をドクオはひたすら斬り伏せていく。術者がどこかにいるはずだが、もしかしたらこの空間そのものが敵の魔法という可能性もある。だとすればここを脱出しなければ生き残る術がない。

('A`)(魔法ならこの剣で斬れるはず。なら、そいつを探すしかない)

と、ドクオが意識を魔物から外した時だった。魔物達の動きがぴたりと止まり、ぶるぶると震えだす。

('A`)「なんだ?」

予想もしない展開にドクオは剣を構えたまま呆然とする。が、次の瞬間魔物達の体が発光し、一つの塊となった。

(;*゚ー゚)「……これは、生体合成!?」

('A`)「は?」

塊は徐々に形を成していき、一匹の魔物となる。その姿は先程の可愛らしい外見とはうって変わって禍々しいものへと変化していた。

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼
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363 名前: :2014/06/26(木) 16:38:06 ID:AXRm0dFE0

('A`;)「うげっ、ケルベロスかよ」

九つの首を持ち、同じ数の尻尾。体は先程の三倍ほどもある。どの顔も光のない目をしており、口には肉を噛み千切ることに特化した鋭利な牙がびっしりと生え、止めどなく涎を垂らしている。

(;*゚ー゚)「来ます!」

合体した魔物が走り出した。動きも速い。寸でのところで横に飛び、攻撃をかわすが体勢を整える前に魔物の体がこちらを向き、九つの口から炎を吐いた。

('A`;)「くそっ」

剣で火炎を受け止めるも全てを消しきれない。徐々に押し負け、ドクオは上方向に体を崩され火炎をもろに浴びてしまう。

( A )「があっ」

(;*゚ー゚)「ドクオさん!!」

何かの加護でも働いたのか、剣により威力が弱まったのかは知らないが消し炭にならずに済んだが、火傷が酷く鈍い痛みが体を駆け巡る。

('A+;)「っのやろう!!」

しかし止まる訳にはいかない。痛む体に鞭を打ち、ドクオは正面から駆け出す。

('A+)「はっ!!」

364 名前: :2014/06/26(木) 16:39:34 ID:AXRm0dFE0

図体が大きくなった分こちらの攻撃は当たりやすくなった。横薙ぎに降った剣は致命傷にはならないが、一つの首を切り落とした。いつものように消滅とはいかないが、魔物からは悲痛な叫びがあがる。

さらに一歩踏み込み、もう一撃。まとめて二つの首を消滅。すぐに横に飛ぶと前足がドクオの頬をかすった。

('A+)(あまり時間はかけられねぇ)

ドクオは地を蹴り懐へと潜る。腹の中心に切っ先を向け、一気に突いて思いきり振り下ろした。

▼・ェ・▼「Wooooooooo!!」

叫びと共に魔物は崩れ落ち、光の球となって周囲に拡散した。すると暗闇が徐々に消えていき、街の景色が元に戻っていく。

(*゚ー゚)「どうやらあの魔物が魔法の元になっていたようですね」

('A+)「……」

しぃの声が安堵を取り戻すと同じくして、ドクオはついに膝を折った。

(;*゚ー゚)「ドクオさん!!」

薄れ行く意識の中、血相を変えたしぃの瞳に涙が浮かぶのを確認して、ドクオは再び闇の中へと落ちていった。

365 名前: :2014/06/26(木) 16:40:35 ID:AXRm0dFE0

◇◇◇◇

( ゚"_ゞ゚)「ふむ。あの程度ではやはり駄目か」

遠くからドクオの戦いぶりを見ていたオサムは手元にあるメモに走り書きをする。

( ゚"_ゞ゚)「所詮は魔物でしかないということか。しかしマナの密度をあげたことで魔剣ですら消しきれないようだな。これは実に興味深い」

魔剣とは全てを喰らい消滅させる破壊の象徴だと思っていたが、使用者の力不足なのかイマイチ驚異とは感じなかった。

対貞子戦では彼女の闇魔法ですら打ち消すことが出来なかったそうだし、少々がっかりである。

できるのならば魔剣の本当の力を知りたい。余すことなく、全てをさらけ出してほしい。伝承の通り、破壊と絶望を撒き散らして欲しいのだ。

( ゚"_ゞ゚)「もっと強いキメラを当ててみるか。だが、残りも少ない。これは参った」

366 名前: :2014/06/26(木) 16:41:38 ID:AXRm0dFE0

座っていた棺桶の中を物色しながらオサムは次の手を考える。今回のゲームをするにあたり様々な物を用意してきたが、小手調べに使う駒はそう多くない。可能であれば次でゲームを始めたいが、魔剣の力を引き出さねば面白くない。

これでは折角の舞台も盛り上がらないと言うものだ。

( ゚"_ゞ゚)「今さら王都に行って新たな駒を作るのもめんどうだ。どうせならここを実験場にしてしまおう」

幸いこの街は幾つも手をつけていない。モルモットも多く残っていることだし、騎士団が向かうモ・トコからもそう離れてはいない。

オサムが棺桶を空けると一つの黒い球が浮かび上がり、ゆっくりと降下していく。

( ゚"_ゞ゚)「今回は少し大きめにしておくか。あまり時間もない」

黒い球に手を突っ込み、情報を与えると球は複雑な模様と文字を描きながら地面に貼り付いた。一瞬にして魔法陣が出来上がり、オサムは無表情にそれを観察する。

( ゚"_ゞ゚)「こんなものか。さて、次の段階に進むとしよう」

魔法陣が光を失い見えなくなると、オサムは踵を返し街を出る。

魔剣の主と騎士団、楽しいゲームの時間だ。


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