241 名前: :2014/06/15(日) 21:01:20 ID:aSUQjz8I0



第五話「魔法使いの流儀・後編」


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242 名前: :2014/06/15(日) 21:03:10 ID:aSUQjz8I0
◇◇◇◇

渡辺の最初の記憶は沢山の人に囲まれて罵詈雑言を浴びせられたところからだった。皆口々にお前は悪魔の子だ、何故産まれてきたんだ、と心ない言葉を言う人達の表情は皆一様に醜く歪んでいた。

子供心に、自分がこんなことを言われるのは親がいないからだと思っていた。渡辺を育ててくれていたのはもう顔も覚えていない初老の男性だ。彼は初めに渡辺の親は亡くなっているのだと教えてくれたことを、はっきりと覚えている。

彼の口癖は、今は辛くとも必ずどこかに君の理解者がいる。その人が現れるまで負けちゃいけない。優しい心を忘れてはいけない。笑顔を絶やさず、誰かに優しくすれば、いつか世界は答えてくれるから。という根拠もない綺麗事だった。

渡辺には彼の言うことが漠然としか分からなかったが、笑顔でいること、人に優しくするということが幼い彼女にとってある種の指針になったのは間違いなかった。

それから渡辺はどれだけ石を投げられても、どれだけ酷い罵りを受けても笑顔でいたし、人に優しくすることを止めることはなかった。誰も彼女を認めてくれることはなかったけれど、それでも彼女は真っ直ぐでいられたのだ。

けれども渡辺は人知れず何度か泣いてしまったことがある。意地の悪い貴族の子供たちに集団で暴行を受けたとき、大切に見守っていた子猫達が近所の子供たちに殺されていたのを見たとき、そして、自分を育ててくれた初老の男性が亡くなった時。

一人でも生活出来るほどの歳になってはいたが、生まれて初めて見る人間の死というものを間近で見て、渡辺はどうしようもなく悲しくなった。この世界で唯一自分を人として見てくれた彼の存在は、渡辺の心の支えになっていたのだ。

寝たきりになり、口数の少なくなった彼は、それでも渡辺に笑顔でいろと、優しくいろと何度も何度も言っていた。

彼が亡くなる直前に言った言葉は今でもはっきりと思い出せる。

『世界はとても残酷だけれど、けして醜くはないんだ。君が誰かのために出来ることをすれば、いつか必ず世界が美しく、綺麗に見えるはずだから。その時、きっと世界は応えてくれる』

そう言って動かなくなった彼のためのお墓は、土に埋めて目印である木片を立てる簡単なものでしかなかった。

それから彼女は彼の教えの通りに絶望せず、人を恨まず、険しい道のりを歩いてきた。渡辺と彼女が出会ったのはそんな時だ。

同じくらいの年齢なのに、みすぼらしくガリガリに痩せた少女は、渡辺の遊び場となっていたヴィップラ地区の裏路地で、虚ろな目をして壁に背を預けていた。

渡辺は迷わず彼女に食料を分け与え、身寄りがないことを知ると一人で住むには広すぎる家に招くことにした。嫌でなければずっとここにいてもいいよ、と言葉を添えて。

それから彼女とは友達になった。寂しかったのかもしれない。誰にも認められず、孤独な日々は渡辺に温もりを忘れさせていたから。

彼女が家に来てからは毎日が楽しかった。何をするにも一緒で、楽しいことも辛いことも彼女がいたから乗り越えられた。

共にいた一月ほどの時間は、今でも彼女の宝物だ。生まれて初めての友達だったから。

けれども、二人の楽しい日々は、呆気なく終わることとなる。

彼女は一人買い物に行ったまま、二度と戻ってくることはなかった。

買いに行った品物だけが、渡辺はどうしても思い出せない。

243 名前: :2014/06/15(日) 21:13:54 ID:ZFOD1W1k0
◇◇◇◇

王都に戻ったドクオは、結界が黒く変色している中をひたすら走っていた。道中楕円形の飛行物体にレーザーを撃たれたがすぐに粉砕して先を急ぐ。

('A`)(渡辺はどこにいるんだ!? 早く見つけないと、取り返しがつかないことになる!!)

現在どこにいるのかは分からないが、意識が断絶する瞬間に見た景色はヴィップラ地区なのだということは分かっている。記憶にないはずの光景なのに、何故かドクオはそう確信していた。

妙に冴え渡る頭と、走っても走っても尽きない体力、とてつもない運動能力は人間の範囲を越えている気もするが、それでも今はありがたい。そのおかげで誰かを救うために動けるのだから。

('A`)(どこだ、どこにいる。あの場所からそう離れてはいないはずだ)

川д川「あらあら、随分とお早い帰還ね」

('A`)「誰だ」

足を止めて声の方へと振り替えると、髪の長い長身の女が立っていた。杖を持っているところを見ると、魔法使いのようだ。

245 名前: :2014/06/15(日) 21:25:33 ID:DLxT8URU0
川д川「初めまして、魔剣の主。私は貞子、あなたをこちらに呼び出した黒の魔術団の一人よ」

深くお辞儀をして、貞子はくすくすと笑う。前髪に隠れて目は見えないが、口元が嫌らしく歪に曲がっている。

('A`)「いきなり黒幕のお出ましとは運がいい。お前を倒せば結界も元に戻るんだろ?」

川д川「さあ? 試してみてはいかが? もっとも、その間にもあなたの探す女の子が醜い肉塊になっているかもしれないけれど」

('A`#)「ってめえ!!」

ドクオは怒りに任せて斬りかかるが、貞子の姿は陽炎のようにゆらりと揺れて見えなくなった。

川д川「随分と元気がいいのね。でも、今のあなたでは私の足元にも及ばない」

ドクオの背後から黒い塊が飛んでくる。慌てて剣を振ってそれを消し飛ばし、貞子へと踏み込むが、またも実体を掴めず、攻撃は空を切った。

('A`)「くっ、ちょこまか動きやがって」

再び貞子へと突撃し、攻撃、空振りを繰り返す。その間にも貞子の攻撃は激化し、徐々にではあるがドクオは押され始めていた。

('A`)(集中しろ。次の攻撃はどこから来る? どの位置なら俺に隙がでる?)

当たらぬ攻撃を何度も繰り返しながら、ドクオは考える。貞子の攻撃はいつも死角から。こちらの機動力を上回っているからこその行動。そこに付け入る隙はあるはずだ。

川д川「これ以上やっても無駄よ。元気のいい子は嫌いじゃないけれど、少し元気すぎるわあなた」

空振り。しかしドクオはすぐさま反転。
数歩の距離に貞子はいた。

('A`)(捉えた!!)

地を蹴り、爆発的な速度で距離を詰める。

川д川「あら」

('A`)「らぁぁぁぁぁ!!」

246 名前: :2014/06/15(日) 21:26:56 ID:DLxT8URU0
が、貞子は杖で剣を受け止めた。何の変哲もない、木の杖で。

('A`)「なっ」

川д川「まだまだね。その程度では」

魔方陣が浮かび上がり、瞬間、黒い帯がドクオを包んだ。

( A )「がっ」

外側ではなく体の内側を抉るような痛みに、ドクオはついに膝を折った。立ち上がっても、足が震えてバランスをうまく保てない。

結局、ドクオは倒れてしまった。

( A )「く……そ……」

体がうまく動かない。貞子に顔を向けて睨み付けるのが精一杯だった。

川д川「だらしないのね。もう少し楽しませてくれてもよかったのに」

そう言って、貞子は背を向けた。体がだんだんと透けていく。

『今日は顔見せだけで済ませておくわ。次に会ったときは楽しく踊りましょう』

('A`)「待て!! 渡辺はどこにいる!? お前らの目的はなんだ!?」

『ふふふ、自分の力で探してみなさい。あなたにはそれが出来るだけの力がある』

('A`)「なっ」

『私は一足先に目的を達するとするわ。ごきげんよう』

その言葉を最後に貞子の声は聞こえなくなる。

('A`#)「くそっ、早く渡辺を見つけないと」

しかし、これではっきりした。今回敵の目的は渡辺だ。ならばドクオのやることは一つ。

('A`)「待ってろよあの女。てめえらの好きにはさせねえぞ」

傷だらけの体を気合いで起こし、ドクオは再び王都を駆ける。まだ終わっちゃいない。体は動く。ならば、ここからが本番だ。

247 名前: :2014/06/15(日) 21:27:46 ID:DLxT8URU0
◇◇◇◇

ツンから全ての話を聞いた渡辺は震えが止まらなかった。買い物に行くと言って行方知れずだった少女が、大好きで大切だった彼女が、生まれて初めてできた唯一の友達が、今目の前にいる。

从;ー;从「あ……あぁ……」

生きていてくれた、再会できた。ずっとずっと会いたかった。

从;ー;从「ツンちゃん……ツンちゃ
ーん!!」

ξ;;)ξ「渡辺!!」

二人はどちらともなく抱き締めあう。数年ぶりに見る彼女は大人の女性だが、記憶の片隅で息吹いている少女の面影は確かに残っていた。少しつり目になっているところも、なかなか素直になれないところも、全部全部昔のままだ。

从;ー;从「会いたかったよぉ!! 沢山探したんだよ!!」

ξ;;)ξ「ごめんね、ごめんね……」

从;ー;从「ふえぇーん!! 許さない、許さないんだからぁ!!」

彼の言うことは間違っていなかった。人に優しく、笑顔でいれば、いつか世界は応えてくれる。この瞬間、いや、本当はずっと前から世界は渡辺に応えていたのだ。

ツンが生きていてくれたことが何よりの証拠。もしかしたら二度と会えないかも知れなかったのだから。

从うー;从「ツンちゃん今まで何してたのよぉ。ずっと心配してたんだよ?」

ξ;;)ξ「私だって、会いたかった!! 今日まで生きてきて、あんたのこと忘れたことなんてなかった!!」

从;ー;从「私だって忘れたことないよ!!」

渡辺にとって、彼が亡くなってから初めて自分と対等に話が出来たのは、人として真っ直ぐに接することが出来たのはツンだけなのだ。忘れることなどできなかった。忘れようとしたって簡単には消えない大切や思い出だ。

ξ;;)ξ「ほんとはずっと声をかけたかった、ちゃんと話をしたかった。勇気がでなくて、騙すようなことして……ごめんなさい……」

从;ー;从「いいよ、そんなの。ツンちゃんが今こうして目の前にいるんだもん。私は、それだけで十分だよ」

248 名前: :2014/06/15(日) 22:19:33 ID:7492edUQ0
これから沢山の話をしよう。ツンがいなくなったあとの話だ。魔法使いになったこと、友達ができたこと、きっと全部を話す頃には世が明けてしまうだろう。でも、そんなことは些細なことだ。だってこれからは隣にいてくれる。渡辺も隣にいる。

あのたった一月は、そう思えるほどに尊く、大切な日々だったから。

しばし二人で互いの存在を確認しあうように抱き合い、やがてツンは体を離した。

ξ゚听)ξ「やっぱりあんたは変わってないわね、昔から。ずっと優しいままだわ」

从'ー'从「ツンちゃんだって、ずっと可愛いままだよぉ」

ξ゚听)ξ「……ありがと。でも、今はお互いを誉めちぎってる場合じゃないみたい」

从'ー'从「ほえ?」

ツンが渡辺を庇うように前へでる。辺りには誰もいないように見えた。

川д川「あら、意外に勘がいいのね。気付いていないのかと思ったのだけど」

やがて何もないはずの空間に黒い影が浮かんだかと思うと、ぐにゃりと歪んで人の形を作る。そこから、まるで旧友を訪ねるかのような気さくな態度で貞子が現れた。

从;'ー'从「嘘……」

249 名前: :2014/06/15(日) 22:34:51 ID:aSUQjz8I0
ξ゚听)ξ「こいつにとって距離なんて関係ないのよ。対象のマナさえ分かればどこにだっていけるし、現れる。私が今まで逃げ出せなかったのは、そのせいよ 」

川д川「逃げるだなんて、あなたを一人前に育て上げたのは誰だと思ってるのかしら」

心外だ、とばかりに貞子は言葉を投げるが、ツンは唾を吐き捨てるように忌々しそうに、

ξ゚听)ξ「人の命を道具としてしか見れないあんたに、育てたなんて言う資格あるわけないでしょ」

そう、はっきりと告げた。

川д川「反抗的な目つきね。一応、聞いておくわ。その娘を渡しなさい。そうすれば、今までのおいたも目を瞑ってあげる」

ξ゚听)ξ「断る! 私はあんたに利用されてたけど、この魂、プライドまで売り渡したわけじゃない! 渡辺はね、私を救ってくれた! 自分だって辛い目に合ってるのに、それをおくびにも出さずに私の手を取ってくれたのよ!? その恩も返さず、いなくなった私をまだ友達だと言ってくれる!」

ξ゚听)ξ「人を人だとも思わないようなあんたに、この気持ちは分からないでしょう! だから、私は渡辺を守る!」

ツンは声を張り上げ、高らかに宣言した。

対して貞子は余裕を崩さず、口元をにやりと歪め、

川д川「交渉決裂、ね。いいわ、少し痛い目を見て思い知りなさい」

持っていた杖を構えると、彼女の周囲からいくつもの黒い波動が巻き起こった。

ξ゚听)ξ「渡辺、離れてて。私が絶対に守ってあげる」

そして、二人の魔法使いは戦闘に入った。

渡辺はそれを見ていることしかできない。魔法が使えないことがこんなにももどかしいと思ったのは初めてだった。

从'ー'从(ツンちゃん……)

250 名前: :2014/06/15(日) 22:35:45 ID:aSUQjz8I0


ツンは手をかざし、魔法陣を幾つも作る。そこから黒い球が現れ、レーザー状の攻撃を貞子へ放った。

当たるとは思わない。貞子はツンに闇魔法を教えた人間だ。対策やこちらの考えはお見通しだろう。

ξ゚听)ξ(けど、こっちだって貞子のやりそうなことは分かってる。それに、あっちは私のもう一つの魔法を知らないはず)

貞子はレーザーを軽々と避けていくと、杖を鳴らした。魔法陣がツンの上下から挟むように出現。すぐに前方へと走り、再び魔法。

貞子は接近戦も心得ている。ツンでは到底敵わないだろう。ならば次の手次の手で追い込むしかない。

ξ゚听)ξ「食らいなさい!!」

複数の魔方を同時に放つ。一つは貞子の後方から上下左右に黒い網を展開させ、二つは貞子の両側面に爆発する黒球。正面に自身の体に魔法を纏わせるための強化魔法。

貞子は網を破ろうと魔法の準備をしていたようだが、ツンの接近に気付き数瞬動きが遅れた。

ξ゚听)ξ「はぁぁぁぁぁぁ!!」

ツンの両手から膨大な黒い波動が放出され、その魔力が両隣の球を誘爆させる。後方には網があるため威力は落ちないはずだ。

しかし、それだけでは貞子を倒せないのはわかっている。今のうちに他の魔法を張っておく。

ξ゚听)ξ(大事なのはこちらの手を読ませないことよ。大丈夫、私ならできる)

設置型の魔法は貞子が触れると発動し、ダメージを与え、さらに魔力を奪うタイプのものだ。ツンでは彼女の魔力を根こそぎは奪えない。少しずつ、少しずつ力を使えないように手を打っていくのが精一杯だ。

魔法を設置し終え、次の行動に移ろうとツンが動いた時、図上に大きな魔法陣が出現。貞子だ。

ξ゚听)ξ(くっ、渡辺!!)

ツンや貞子が使う闇魔法は防御系の術が使えない。つまり攻撃することしか出来ないのだ。

急いで渡辺の元へと走り、手を引いてその場を離れる。建物や床がメキメキと引き剥がされ、塵となっていく。あの広さと威力ではツンが仕掛けた魔法も意味を為さないだろう。

从'ー'从「ツンちゃん、ごめんね。私も戦えれば……」

ξ゚听)ξ「気にしないで。元々私が撒いた種よ。それに、私はあんなのに絶対負けないから」

振り返ると崩落したフロアの中心に傷一つなく立っている貞子の姿が確認できた。あれだけの瓦礫の中無傷で立っていられるのだから、ツンは自分と相手の差を突きつけられた気がした。

ξ;゚听)ξ「化け物め」

川д川「相変わらずつまらない攻撃ね、考えさせる暇もないくらい、大きく攻撃すればそれで終わりなのよ?」

貞子はさらにツンと渡辺の周囲を取り囲むように陣を置いた。

ξ;゚听)ξ「なんの真似よ」

251 名前: :2014/06/15(日) 22:36:36 ID:aSUQjz8I0
川д川「私は貴女を壊したくないの。まだまだ利用価値があるからね。だから、その娘を渡しなさい」

ξ゚听)ξ「断るって言ってんでしょ、あんたしつこいわ」

川д川「私は望んだものを全て手に入れないと気がすまないの」

ξ゚听)ξ「知ってる。だから私はここにいるのよ」

ツンは今までの生活を思い出す。貞子はツンを人間としてではなく、道具として様々なことを叩き込まれた。人を騙したし、殺しもした。誰も自分を誉めてくれなかった。それでも今日まで生きてこれたのは渡辺との思い出が彼女を人間たらしめた。

だからこそツンは渡辺だけは守ると決意している。たとえその結果、自分が死んでしまうとしても。

ξ゚听)ξ「それに、あんたなんか勘違いしてない? これで追い詰めた、なんて思ってるのかしら?」

川д川「まだ何か策があるとでも?」

ξ゚听)ξ「いいえ。策と言えるものじゃないわ。けど、あんたの言ったことは一つだけ間違ってない」

ツンは手を高くあげ、

ξ゚听)ξ「策を与えないほどでかい攻撃で勝負は決まるってこと」

巨大な魔法陣が浮かぶ。

ξ゚听)ξ「私がまだ使用人と暮らしてた時に見た魔導書がこんなときに役立つなんてね」

貞子が一瞬だけ狼狽えるのが見えた。ツンはやつを出し抜けたことに思わずにやけてしまう。

ξ゚听)ξ「禁呪を食らいなさい!!」

魔法陣からツンが持つ魔力が放出され、暴走する。床も、建物も、何もかもが一瞬の内に蒸発し、塵すら残さない。凄まじい魔力の風がツンの体を叩き、立っていられずツンは近くの壁に激突してしまった。

自分で放った魔法にやられるなんて情けない、とは思っても、完成していない魔法を必要以上に誰かを傷つけることなく行使出来たのは僥倖としか言いようがないだろう。

それにこれだけの魔力の奔流に打たれたのだから、いくら貞子とて生きてはいまい。

魔力の暴走が収まり、辺りに静けさが漂い始めた。禁呪を放った場所は何もない。何かを使って綺麗な楕円形にくり貫かれたかのように、そこだけが他と切り離されている。

从'ー'从「ツンちゃん!!」

252 名前: :2014/06/15(日) 22:38:02 ID:aSUQjz8I0
いつの間にか渡辺が駆け寄っていた。見たところ大きな傷はないようだ。細かい石などで肌を浅く切ってはいるが、痕は残らないだろう。

ξ;-?゚)ξ「や、やってやったわ……。ごほっ」

渡辺の肩を借りて立ち上がるも、ツンは遂に血を吐き出す。さすがに禁呪と呼ばれるだけのことはあり、マナがごっそりと減って体内の機能すら低下しているようだった。筋肉は軋み、内臓も本来の動きをしていない。

从;'ー'从「すぐにお医者さんのところに連れていくね!! 死んじゃやだよ!?」

ξ;-?゚)ξ「全部終わったんだから大丈夫よ。あとは、王都の結界を元に戻せば……」

ツンはそこまで言って、自分を襲う衝撃に身を委ねるしかなかった。

甘かった。

敵は道具として自分の隅々まで知り尽くしている女だ。禁呪のことも分かっていて、打たせたと言うのか。

だとしたら、あの狼狽振りも、演技としか思えなかった。

床を何度も転がり、ツンは緩慢とした動きで先ほどの場所を睨み付ける。渡辺は無事だったが、近くには、やつがいた。

川д川

ξ;+?゚')ξ「渡辺!!」

川д川「さすがに今のは驚いたわ。予想よりも凄まじい威力ね。でも」

貞子は言いながら杖をツンに向ける。同時に、ツンが放った禁呪よりも規模は小さいが、同じものが放たれた。

ξ ? )ξ「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

死なない程度に加減されたのか、体はまだ残っている。意識もある。しかし、もう動けない。骨は何本も砕け、内臓を傷つけ、呼吸すらままならない。放っておけば自分が死ぬだろうことは簡単に予想できた。

从;ー;从「ツンちゃん!! お願い!! 私はいいからツンちゃんをいじめないで!!」

渡辺が立ち上がり、ツンの前に立ちはだかった。魔法も使えない、運動も得意ではない彼女が。

从;ー;从「あなたの狙いは私でしょ!? 好きにしていいから、ツンちゃんは助けてよ!!」

ξ ? )ξ「渡辺……何を……」

ツンには渡辺が何を言っているのか分からなかった。何故魔法も使えないのに立ちはだかるのか。

253 名前: :2014/06/15(日) 22:39:35 ID:aSUQjz8I0
从;ー;从「もう嫌だよ!! 私のせいでツンちゃんが傷つくのなんて見てられない!! 私一人の命でツンちゃんが、みんなが助かるなら、こんな命いらないよ!!」

渡辺のせいじゃない。これは自分のためだ。渡辺には生きてほしいから。日溜まりの中で、笑っていて欲しいから戦っているのだ。

ξ )ξ「やめて……それじゃあ、私が戦った……意味が……」

なのに、救おうとしている本人にそんなことを言われたら、もう何も出来ないじゃないか。

从;ー;从「ツンちゃん、私のために戦ってくれてありがとう。でも、もういいよ。休んで大丈夫だよ」

大丈夫じゃない。渡辺の声は震えている。こんなにも誰かに優しい人間が死んでいいわけがない。

ξ;;)ξ「やめて、お願いだから……」

まだ戦える。心は折れていない。なのにな、何故体は動かないのか。目の前で大切な友達がいるのに。

川д川「泣かせるわね。友情のために命を差し出せるなんて、すごいわ。尊敬しちゃう」

从;ー;从「貴女にはきっと分からないだろうね。人を傷つけることしかしない貴女なんかには一生分からない」

从;ー;从「魔法は誰かを傷つけるための力じゃない。大切な人を、心を守るために力ない人が学ぶものなんだ」

从;ー;从「魔法使いだから魔法が使えるんじゃない。誰かを守りたいから魔法使いになったんだ」

从;ー;从「だから、魔法を使えないからってツンちゃんがやられるのを見てることなんてできない。それが━━」

254 名前: :2014/06/15(日) 22:40:16 ID:aSUQjz8I0






从;ー;从「魔法使いなんだ」





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255 名前: :2014/06/15(日) 22:41:08 ID:aSUQjz8I0
川д川「……そう。言いたいことはそれで終わりかしら? ならば、お望み通り殺してあげる!!」

貞子が初めて語気を荒らげた。なのにつも冷静沈着で、余裕を崩さなかったあの貞子が。

渡辺の言葉は、きっと渡辺にしか言えないことだ。ツンだってそんなこと言えるわけがない。

人を殺し、傷つけ、騙してきた自分にはきっと言えない。

でも、それを信条とする彼女の力にくらいなってあげたっていいじゃないか。そばにいて、支えてあげるくらいはさせてくれたっていいじゃないか。

なのに、何故こんなにも現実は無情なのだろう。肝心なときに助けてくれないのだろう。あの子は何も悪いことをしていないのに、どうして酷い目に合わなくちゃならないのか。

渡辺はいつかツンにこう言った。

世界はとても残酷だけれど、けして醜くはないんだよ。誰かのために出来ることをすれば、いつか必ず世界が美しく、綺麗に見えるはずだから。その時、きっと世界は応えてくれる。

ξ )ξ「なら、応えてよ」

渡辺はもう十分に誰かのために戦った。そして今尚誰かのために戦っている。

貞子が杖を振るうのが見えた。特大の魔方陣が現れ、魔法が発現していく。

ξ;;)ξ「渡辺のために、誰か応えなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

その時だった。彼女の願いに呼応するかのようにそいつが現れたのは。

魔法が渡辺を飲み込む間際、

(゚A゚)「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

紅い剣を持ったひょろい男が雄叫びをあげて魔法を消し飛ばした。

256 名前: :2014/06/15(日) 22:48:13 ID:y0WfqNpk0
◇◇◇◇

ドクオは剣を構え直し、渡辺と、その後ろで傷だらけになっている少女を見る。流れ込んできた映像に出てきた少女だ。確か、ツンと呼ばれていた。

数年前に渡辺と友達になり、すぐに別れてしまった少女。

彼女はきっと渡辺のために戦ったのだろう。綺麗なはずの肌はボロボロで、顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。それでも彼女は最後まで戦おうとしていた。他の誰でもない、渡辺のために。

そして渡辺はそんな彼女のために、命をかけた。何もできないことを知りながら、せめて盾になろうと駆け出した。

誰もが出来ることじゃない。他人を思い遣り、その上で命をかけようだなんて、簡単に出来ることじゃないのだ。

( A )「お前がツンを傷付けたのか?」

川д川「ええ」

( A )「お前が渡辺を泣かせたのか?」

川д川「そうよ」

( A )「お前はこれからも誰かを傷つけるのか?」

川д川「必要ならば」

( A )「そうか。もういい」

ドクオは貞子をしっかりと見据えると、腹に力を入れ、思いっきり叫んだ。

(゚A゚)「てめぇは泣いて謝ったって許さねえぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

257 名前: :2014/06/15(日) 22:49:08 ID:y0WfqNpk0
ドクオは前に一歩踏み込む。それだけで貞子との距離をゼロに詰めた。

('A`)「はぁぁぁぁぁぁ!!」

横に一閃。先程相対した時と同様、貞子は姿を眩ます。同時に何かの魔法陣が仕掛けられていた。

('A`)「るぁ!!」

爆発。が、ドクオは剣を振った勢いそのままに反転すると、爆風を利用して跳躍した。その先には貞子が魔法陣の準備をしていた。

川д川「さっきよりは遊べそうね」

('A`)「余裕こいてんなよ」

貞子の攻撃を一振りで消し飛ばし、さらに接近。しかし当然貞子は下に移動する。ドクオは近くの建物の壁を蹴って貞子をおった。

貞子は複数の魔法で迎撃してくるが、ドクオには効かない。剣を振ればそれだけで消えるのだ。要は敵の動きを先読みさえすれば負けるわけがない。

川;д川「くっ」

強烈な突きを繰り出すと、貞子は後方に飛ぶ。流石に当たればまずいと察したのか、避けながら小さい魔法でこちらを牽制し始めた。

ドクオはそれを消さずに動体視力のみで隙間を潜り抜けて貞子を目指す。相手に時間を与えればそれだけ様々な魔法がドクオを襲うのだ。

川д川「さっきとは段違いの動きね」

('A`)「俺にもさっぱりだけどな」

貞子が目の前に黒い壁を生成する。どうやら動きを悟られたくないようだ。

ドクオは壁を切り裂くと、すぐに距離を取る。やはり貞子はいない。

川д川「でも、まだまだよ」

頭上から大量の黒い矢が降り注いだ。逃げ場はない。

('A`)「ちっ」

大きく横に飛んでその場を離脱。が、黒い矢はドクオを追跡し方向を変えた。

斬り飛ばすか迷ったが、ドクオはそれに突っ込んだ。矢はドクオを追って他の矢に当たると相殺していく。

('A`)「ちょこまかと逃げやがって」

258 名前: :2014/06/15(日) 22:50:28 ID:y0WfqNpk0
再びおいかけっこが始まり、ドクオは貞子を捉えられずに翻弄され始めた。魔法は消し飛ばせるものの、それを相手すれば貞子は姿を消して違う方向から攻撃を繰り出してくる。かといって攻撃を無視すれば渡辺やツンに流れ弾が当たる可能性があり、迂闊に避けられない。

貞子もそれを理解しているのか、うまく位置を変えながら魔法を使うため、ドクオも次第に消耗していく。

('A`;)(このままじゃ俺が先にまいっちまう。動きを止められれば……)

貞子との距離を詰めるのはそう難しくはない。身体能力は断然こちらが圧倒している。問題は動きを邪魔する魔法の方だった。

('A`)(でかい一撃なら隙もでるはず!! それを撃たせればこっちの勝ちだ!!)

貞子は相変わらず一度に複数の魔法を使ってドクオを誘導する。しかしドクオも徐々にではあるが魔法が来るであろう位置を予想できるようになってきた。

渡辺とツンの位置は変わらないのなら、二人の射線上のものさえ消せば問題ない。

さらに貞子は度重なる連戦のせいか勝負を焦り始めているようだ。魔法の威力と精度が少しずつ低下している。

条件は五分。ならば先に体力が尽きた方の負け。

('A`)(いける、いけるぞ!!)

259 名前: :2014/06/15(日) 22:51:13 ID:y0WfqNpk0
貞子は焦り始めていた。ドクオの死角や、戦えない二人を狙って魔法を放っているのだが、ドクオは最小限の攻撃と恐るべき勘の良さでことごとく迎撃していくのだ。

加えて貞子の使える魔力も無限ではない。現状王都の結界を利用して普段よりも使える魔力は増加しているものの、闇魔法は通常のものより魔力の消費量が多い。

ツンとの戦闘によって蓄えていた魔力を大幅に消費したのは痛い予想違いだった。

川д川(でも、まだ策は用意しているわ)

問題は道具として使い潰すのが惜しいほどの素材だということだ。あの死に体に負荷をかければどうなるかくらい簡単に想像できる。

川д川(でも、惜しんでもいられないわね)

使い潰すのは惜しいが、また次の素材を見付ければいい話だ。代わりは探せばごまんといる。

貞子はそう分析すると、準備を始めるのだった。

260 名前: :2014/06/15(日) 22:52:08 ID:y0WfqNpk0
◇◇◇◇

(´・ω・`)「状況は芳しくないようだな」

王都の外壁まで戻ってきたショボンは開口一番そう言った。どうやら王都を囲む結界は王都の魔力を根こそぎ奪い、どこか違う場所へと送る役目をしているらしい。

( ・∀・)「こりゃあ中にいる連中も対処しあぐねてるんじゃないですか? 魔法が使えないんじゃどうしようもない」

幸い外にいる分には魔法を使えないということはなく、結界の中にさえ入らなければ対処のしようがある。

だが、問題はこの結界は外からの侵入を阻んでいるということだ。ヴィップラ地区の方から戦闘音が聞こえてくることからドクオは敵と交戦しているようだが、あれはドクオでから中に入ることができたのだろう。

(*゚ー゚)「結界に細工をしている元を断てば元に戻るはずですが、どうやら結界を作っている陣の方に細工があるようですね」

(´・ω・`)「ふむ。となれば、結界さえ消えてしまえばどうにでもなるな」

( ・∀・)「どうするんです?」

(´・ω・`)「魔力炉を停止させる」

ショボンは言うが早いか王都に背を向けると腰に差した剣を抜いた。

( ・∀・)「また復旧に時間かかりますよ」

(´・ω・`)「その間は騎士団で見回りをすればいい。そう簡単に魔物の侵入を許すほど柔な組織ではない」

( ;・∀・)「そりゃそうですが」

(*゚ー゚)「ですが、メインの魔力炉は王都の中ですよ? 外の魔力炉では停止に至らないと思います」

(´・ω・`)「こちらも細工をすればいい。騎士が三人もいるんだ。出来ないとは言わせないぞ」

三人は王都から少し離れたところに設置してある予備の魔力炉へ到達すると、すぐに準備に取りかかる。

(´・ω・`)「ここから私が魔力を送る。二人はメインの魔力炉への誘導を頼む。魔力の操作は二人の方が秀でているだろう」

ショボンは魔力炉へ手を置き、ありったけの魔力を注ぎ込んだ。ここから魔力を送り、結界を維持しているメインの魔力炉をオーバーフローさせるのである。

本来であれば予備である魔力炉は結界の動力には組み込まれておらず、あくまで王都の中にある魔力炉がトラブルやメンテナンスで停止した際に切り替えて使用するものだ。だが、予備とはいえシステムの一部ではあるため干渉することは可能だろう、とショボンは判断したのである。

( ・∀・)「うまく行きますかね」

(´・ω・`)「駄目なら次の手を考えるしかないな。あとはドクオの頑張り次第だ」

261 名前: :2014/06/15(日) 22:53:13 ID:y0WfqNpk0




ドクオは貞子の動きに戸惑いを隠せなかった。先程まで小出しにしていた魔法が急に威力の高い魔法に切り替わったのである。

長い詠唱や広範囲で複雑な魔法陣を使わないことから大技ではないことは分かるが、それでも意図の分からないこの行動はドクオからすれば不気味でしかたがない。

('A`;)(これでまた振り出しかよ)

魔法を打ち消し、距離を詰め、貞子を追う。依然決定打は与えられない。

さすがに体力が減り始めていた。息も上がってきている。しかし貞子の攻撃は止まず、どころか熾烈さを増すばかりであった。

と、前方に魔法陣が浮かぶ。黒い流星がいくつも舞い飛び、ドクオは一つ残らず消し飛ばし、次の攻撃に構えるが━━。

貞子はドクオより少し距離を置いて目の前に魔法陣を作っていた。

勘が叫ぶ。今までで一番大きな魔法だ。つまり、これを防げばこちらの勝ち。

('A`)「はぁぁぁぁぁぁ!!」

巨大な魔法陣から解き放たれたのは黒の濁流だった。ドクオの視界を埋め尽くし、ひたすらに破壊を撒き散らしていく。

後ろには渡辺とツンがいる。迎え撃つしかない。

剣を上段から一気に振り下ろすと、さすがに一発で消えてはくれなかった。容量が大きすぎて消しきれないようだった。

('A`;)(踏ん張れ、踏ん張れ俺!!)

262 名前: :2014/06/15(日) 22:54:42 ID:y0WfqNpk0
ずずっと足が後ろに押されていく。こらえきれない。せめて軌道をそらすことさえできれば……。

('A`;)(なんのためにここまできたんだ……誰も守れない力なんて意味があるのかよ!?)

ドクオは弱い人間だ。努力もしなかった、現実から目を背け続けて不平ばかり漏らしていた。

('A`;)(渡辺はツンのために力がなくとも前に出た!! ツンは敵わない相手に命をかけて戦った!!)

人は二人を馬鹿にするかもしれない。命を粗末にする大馬鹿者だと笑うかもしれない。だが、ドクオは、ドクオだけはそれを笑うことなんてできない。

二人は自分の大切なものを、無くしちゃいけないもののために立ち上がっただけだ。それを失ったら、もう前を向いて歩くことができないから。

('A`;)(なら俺だってそれに応えなきゃ、そうじゃなきゃ二人の頑張りを本当だって、胸を張って言えやしない!!)

ドクオは一歩を踏み出す。腕だけでなく、体を使って。

('A`;)(もう逃げねえ!! 二人のためにも、何より俺自身のために!! 今やらないで)

('A`#)「いつやるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ドクオは思いきり体を横に捻る。甲高い音を立てて黒い濁流がドクオの横を流れていった。

('A`#)「これで終わりだぁぁぁぁぁ!!」

貞子へ向かってドクオは剣を振る。貞子は俯いて動かない。力を使いきって動けないのか、それとも他に何かがあるのかは分からないが、ドクオが先に斬ってしまえば終わりなのだ。

川゚д゚川「あはははははは!! これで終わりの訳がないでしょう!?」

あと二歩のところまで来たとき、貞子は目を見開き大口を開けて笑った。

ドクオは剣を振り下ろすが、何かの障壁に阻まれて体ごと強引に弾かれてしまう。

('A`;)「今度はなんだよ」

空中で体勢を立て直して着地。貞子の体から黒いオーラが禍々しく噴出していく。辺りの物という物を砕き、抉り、同時に大気が揺れた。

ξ )ξ「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

その時、ツンの悲鳴が聞こえる。振り返ると、ツンの体から貞子と同じような黒いオーラが噴き出していた。唯一貞子と違うのは、ツンから出ているものはひたすらに貞子へと吸収されていることだ。

从;'ー'从「ツンちゃんしっかりして!! どうしたの!? ねぇ!?」

渡辺が声をかけるがツンの叫びは収まらず、体が不自然に反り返っている。見えない何かに引っ張られているかのようだ。

('A`#)「てめえツンに何をしやがった!?」

貞子はにやりと笑いながら杖をかざす。たったそれだけの行為で至るところに黒雷が降り注いだ。

263 名前: :2014/06/15(日) 22:55:43 ID:y0WfqNpk0
川゚д゚川「王都の結界が吸った魔力は私とその子に集約させている。私達がこの状況下で魔法を使えるのはそのため」

('A`;)「はっ?」

川゚д゚川「そして、このシステムはツンの体に刻まれた魔法陣と同期させている。彼女のマナを消費してね。けれどもうその子は戦えない、使えない。ならば、このシステムを利用してあの子の力を全て私に向けるようにすればいいと思わない?」

('A`;)「まさか……」

川゚д゚川「つまり、あの子の魔力も、命も、私に吸収されている。そしてシステムの要である彼女の力を吸い付くした時、ツンは━━」

264 名前: :2014/06/15(日) 22:56:40 ID:y0WfqNpk0




川゚д゚川「死ぬ」




.

265 名前: :2014/06/15(日) 22:57:46 ID:y0WfqNpk0
(゚A゚#)「てめえは、人の命をなんだと思ってんだよぉぉぉぉぉぉ!!」

この女は本当に人間なのかどうか、ドクオにはもう判断ができなかった。私利私欲のために命を食い潰すなど、神にでもなったつもりなのか。

こいつは生かしてはおけない。ここで倒さねば何人もの命がツンのように弄ばれる。

川゚д゚川「さあ来なさい魔剣の主!! あなたに本当の絶望を教えてあげる!! そして悔やみなさい、私に楯突いたことをねぇぇぇぇぇ!!」

ドクオと貞子の最終決戦が始まる。

266 名前: :2014/06/15(日) 22:58:31 ID:y0WfqNpk0

◇◇◇◇

貞子の攻撃は先程と比べるまでもなく威力と速度を増していた。ドクオは四方八方を動き回る黒い魔法を目で追うことすらできなかった。

だが、ドクオはそれを正確に打ち落としていく。見るのではなく、周囲を漂う魔力を感じるのだ。ドクオの集中力は極限まで高まり、それすら容易く可能にさせる。

だが、やはり貞子へは簡単に届きそうにない。溢れ出す魔力もドクオを邪魔するが、貞子から発せられている波動がドクオの動きを著しく阻害している。魔力ではない別の物なのか、ドクオの剣ですら消すことができなかった。

川゚д゚川「さっきまでの威勢はどうしたのかしら!? 誰が誰を許さないって!? 身の程を知りなさい!!」

前方から黒球。それを横薙ぎに消し飛ばし、上からの雷を横に飛んでかわす。さらに右から来る黒い手の一本を斬り飛ばすと両側面から黒い槍がいくつも踊り狂う。

('A`;)「くそっ……らぁっ!!」

大振りに剣を薙ぐと、魔法はまとめて消滅した。だがすぐに第二波が押し寄せてくる。

ξ )ξ「あっ……がっ……」

从;ー;从「しっかりして!! 負けちゃやだよう!! 頑張って!!」

267 名前: :2014/06/15(日) 22:59:39 ID:y0WfqNpk0
貞子が魔法を使う度にツンの生気のない声と、渡辺の涙声が聞こえる。早く終わらせなければならないのに、ドクオは近付くことさえできない。

飛んで跳ねて斬り飛ばして、時間だけが過ぎていく。その間にもツンの命は縮まっていくのに、ドクオは何もできない。

('A`;)(俺よりもあの二人のが辛いんだ!! とにかく早く……)

ドクオは魔法の中へと走り出す。様々な魔法がドクオの肌を焼き、切り刻み、衝撃を与えるが、そんなものは気にしていられない。

川゚д゚川「近づいたところで無意味なのよ!!」

貞子へとあと一歩までのところで、暴力的な黒い風がドクオを軽々しく吹き飛ばし、宙を荒れ狂う黒雷がドクオの体を貫いた。

( A )(んだよこれ……こんなのチート過ぎんだろ……)

地を転がり、ドクオはとうとう力尽きる。始めから全力で動かしていた体は限界をとうに越えていた。元々があまり丈夫ではない体なのだ、ここまで動けたことが奇跡に等しい。

( A )(なんだよ、これ。こんなのが現実だっていうのか? 救いはないのかよ)

立ち上がろうとするが、すぐに膝から崩れていく。足に力が入らない。

( A )(俺はなんのためにここまできたんだよ。誰かを、渡辺を守るために来たんじゃないのかよ)

それでもドクオはふらふらになりながらもしっかりと二本の足で地を踏んだ。吹き荒れる黒の嵐を何度もその身に受けても、きちんと立ち上がった。

( A )(ここで俺がやらなきゃ、応えなきゃ、二人は世界に絶望したまま死んでくんだ)

剣を握る。腕をあげる。体はまだ、動く。魂も折れちゃいない。

(゚A゚)「まだ終わりじゃねえぞ!!」

268 名前: :2014/06/15(日) 23:00:30 ID:y0WfqNpk0
ドクオは走り出す。魔法をいくつも消し飛ばし、貞子だけをしっかりと見つめて。

もう小細工は終わりだ。正面からぶつかる。貞子が使うのは間違いなく魔法なのだから、剣で消せない訳がない。

自動迎撃の魔法かもしれないが、攻撃される前に懐に入って攻撃すれば問題ない。

(゚A゚)「はぁぁぁぁぁぁ!!」

川゚д゚川「馬鹿の一つ覚えね!!」

黒い風が再びドクオを襲う。横一閃。膨大な魔力が消滅していくのが剣を通じて伝わってくる。

振り抜いた。貞子を覆っていた黒いオーラはなくなっている。今しかない。

ドクオは体を捻り、逆袈裟に貞子を斬る。

(゚A゚)「終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

川゚д゚川「マナは何度でも補充出来る!! 舐めるなぁぁぁぁぁぁぁ」

しかし、貞子の周囲では一切動きはない。黒い風も、雷も炎も槍も何もない。目の前には油断した貞子の体があるだけだ。

川д川「どういう……」

ドクオはそのまま剣を振り抜き貞子の体を両断した。

川д川「はっ……」

269 名前: :2014/06/15(日) 23:15:54 ID:y0WfqNpk0



(*゚ー゚)「メインの炉を捉えました。いつでもいけます」

(´・ω・`)「ありったけの魔力を注ぎ込むぞ」

王都の郊外では三人の騎士が王都解放のための策を打っていた。ショボンが手をかけ、魔力が大量に流れると炉は煙をあげてすぐに壊れた。

( ・∀・)「王都の結界の消失を確認。これで中に入れますね」

(´・ω・`)「急ぐぞ」

270 名前: :2014/06/15(日) 23:17:45 ID:y0WfqNpk0


貞子からは血も出ず、肉が剥き出しになることもなく、切った部分から少しずつ消えていく。まるで蜃気楼のようにゆらゆらと揺れては透明になる。体の魔力が消滅しているのだろうか。

('A`;)「はっ、はっ、はっ」

最後の一撃の間際、貞子の攻撃が来ると思ったのだが、予想に反して何の抵抗もなくすんなりと攻撃が通ったのはどういうことなのだろうか。ドクオは消えていく貞子を見て、それを聞くのをやめた。

('A`)「……お前は死ぬのか」

川д|「そうね。魔剣は魔力やマナを食うの。人間じゃ生きてなんていられないわ」

('A`)「……最後に一つ教えろ。この剣はなんだ。なんのために俺が持ってる」

川д|「……少しだけ教えてあげる。その剣は魔剣アポカリプス。世界の創造と破壊を撒き散らす神の片割れの武器よ」

('A`)「神の片割れ?」

川д「あなたが持っている理由は、特にない。あなたじゃなくても誰でもよかった。魔剣を持たせることが最大の目的だったから」

貞子の体はほとんど残っていない。間もなく彼女は消滅する。

('A`)「そうかよ。お前を殺したこと、俺は後悔しねえぞ」

川「結構。最後の最後に楽しく踊れたし、私は満足よ」

それだけ言って、貞子は完全に消滅した。

271 名前: :2014/06/15(日) 23:18:30 ID:y0WfqNpk0

何もなくなった空間を見て、ドクオはようやく緊張の糸を解いた。渡辺を狙う敵はもういない。ツンの命を脅かす者も消えた。

終わったのだ、全部。

('A`)「ふぅ……」

ドクオは力を抜いて地面に身を投げ出した。もう動きたくない。帰って気持ちよくぐっすりと寝たい気分だ。

もちろん考えなきゃいけないことは山積みで、名前が判明した魔剣アポカリプスのことや黒の魔術団の目的。そのどれもが解決はしていない。

だが、それでも今は二人を守ることができたことを素直に喜ぼう。

从'ー'从「どっくーん!」

渡辺の呼ぶ声がしたが、ドクオは答えることをせず、空を見上げる。

黒かったはずの空は、いつの間にか結界ごと消えており、鈍い赤色に染まっていた。

('A`)(ショボンさんたちがやってくれたのかもな)

それだけ考えると、ドクオは深い眠りに身を落としていったのだった。

272 名前: :2014/06/15(日) 23:19:28 ID:y0WfqNpk0

◇◇◇◇

王都とは違う別の街の建物の中で、三人の人間が集まっていた。皆一様に黒いフードを目深に被り、表情は見えない。

一人の男が口を開いた。

『貞子がやられたか』

『仕方がないんじゃないか? あいつは結果をすぐに求めようとしてからな』

『アポカリプスの進行速度は半分ほどか。だが、今回奴は自信をつけただろう。再びあれを除くのは至難の業だな』

『しばらくは様子を見た方がいいかもしれん。こちらも全ての準備を終えているわけではないし』

『それもそうだ。今回計画の要として使用するはずのヴィップの結界も消えてしまったし、貞子の野郎余計なことを』

『何、すぐに計画は再始動する。それまで束の間の平穏を楽しませておけばいい』

『それに今回収穫がなかったわけでもないしな』

『なに?』

『貞子が使っていた結界を利用して魔力を吸収する術式は非常に面白い結果を見せてくれた。これを使えばもっと面白くなる』

『何をするつもりだ?』

『なぁに、ちょっとしたゲームさ。ドクオとかいうあの男、なかなかに見所がある』

『あまり羽目を外しすぎないようにな。あの男は計画の要だ。殺してしまっては魔剣も失われてしまう』

『分かっているさ。それでは準備をするため失礼させてもらう』

男が部屋を出ると、それを見ていた別の人間がぽつりと呟いた。

『神の前でゲームなどと、愚かなことを』

その声に、誰も気付くことはなかった。

273 名前: :2014/06/15(日) 23:21:09 ID:y0WfqNpk0





ヒロユキ大陸の北東部、荒れ果てた遺跡の最奥部にブーンは一人立っていた。侵入者を迎撃するための罠を掻い潜り、たどり着いたのは小さな空間だった。

( ^ω^)「陛下はこれで何をするつもりなんだか……」

彼の目の前には一本の杖が奉られている。伝承によればこの杖は魔剣アポカリプスと対を為す神器の一つ、創造を司るらしい。

ブーンには装飾すら施されていないこの杖にそんな力があるとは思えなかったが、それでも依頼は依頼。これを回収してジョルジュに渡さなければならない。

杖に手をかけた瞬間、眩いほどの光が辺りを包む。

( ;^ω^)「ちょ、何が……」

光が収まり、ブーンが目を開けると、そこには杖と、

川 - )「」

一人の少女が宙に浮いていた。

( ;^ω^)「ど、どうなってんだお」

少しずつ高度を下げ、やがて床に着くと彼女は力なく倒れこんだ。意識はない。

( ^ω^)「……こりゃまいったお。あいつになんて説明すりゃいいんだお?」

このまま放っておくのはさすがに目覚めが悪い。少しだけ迷うが、ブーンは少女を背負い、杖を取ると遺跡を後にする。

帰ったらジョルジュにどんな文句を言ってやろう。それだけを考えていた。


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