- 211 名前:1 :2014/06/09(月) 23:22:46 ID:Q3Oqlw1I0
第四話「魔法使いの流儀・中編」
.
- 212 名前:1 :2014/06/09(月) 23:24:06 ID:Q3Oqlw1I0
- ◇◇◇◇
( ・∀・)「オラオラァァァァァァァァ!! やる気あんのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
怒声を浴びせながらモララーは多節式の槍を振るうと、前方にいた数人の魔法使いは為す術もなく一瞬で首を切断され絶命した。さらにモララーの後方からは閃光が迸り、地面を抉りながら周囲を殲滅していき、敵の兵士が悲鳴をあげながら熱に焼かれ、骨一つ残さず塵と帰した。
砂埃が舞い上がる中、疾走。一人の男が呆然と立っている。モララーに気付くと慌てて剣を構えたがすぐに身体を両断されて地に伏した。
と、モララーは身を屈める。次の瞬間四方八方から魔法弾が頭上を掠めていった。そのまま地を蹴り高く跳躍すると柄の節を分解し、広範囲を纏めて吹き飛ばす。着地と同時にモララーの周囲に魔法陣が浮かび上がり、幾何学的な文字から複数の光弾が帯を引いて敵を穿つ。
本来であれば人のいない寂れた廃墟が建ち並ぶ村は、たった一人の男によって悲鳴と怒号が飛び交う鮮血の舞台へと変化していく。
モララーの声が聞こえる度に爆発、土煙、悲鳴があがるのはそれだけ圧倒的だということだ。
それにしても。
( ・∀・)「最っ高に昂ってきたぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
('A`)「人変わりすぎだろ、あれ」
普段の冷静沈着で少し皮肉屋なイケメンは、こと戦場に置いては過激で危険なちょっと尖ったナイフのような男になるらしい。ちょっと、どころの話ではないような気もするが。
少し離れてモララーの後ろをついて行っているが、近付きすぎれば攻撃に巻き込まれるし離れすぎては敵に狙われるというジレンマでドクオは身動きがとれなくなっていた。
ドクオも戦えないわけではないが、つい最近まで命のやり取りを経験していなかった一般人としてはごめん被りたいところである。
そもそもこんなところまでドクオが来る必要があったのかと問われると、正直口を閉ざすところだ。陽動として動いているものの、その役目はモララー一人で十分にお釣りが来る。始めに設置した自動迎撃型の魔法が有効に働いていることも理由の一つではあるが、何より設置した本人が怒濤の勢いで戦場を荒らし回っているからだ。
傍若無人に暴れまわっているように見えて意外にドクオ位置を計算して攻撃しているし、それを踏まえて効率よく戦力を潰していく回転の早さはまさに鬼神、彼の通った道には草木どころか道すら残らないかもしれない。
それにしても、とドクオは周囲を見渡した。
('A`)(たかだか一人にここまで苦戦するものなのか?)
- 213 名前:1 :2014/06/09(月) 23:25:15 ID:Q3Oqlw1I0
- ドクオは本当の意味で戦争というものを知らないが多少の知識くらいはある。ドクオから見てもモララーの強さが異常だということは分かる。比較対象は渡辺やしぃくらいだが、その二人が足元に及ばないレベルだろう。
だが、敵の数はざっと見ただけで百人を優に越えている。然るべき戦術に適切な人数を投入すれば撃破できない、というほどの差は感じない。ドクオというお荷物を抱えているのなら尚更だ。
にも関わらず、ここまで一方的な戦いになっているのはどういうことなのだろう。
('A`)(敵にとってそこまで重要な場所じゃないのか? それとも単に指揮をとる人間が無能ってことか?)
どちらにせよここを死守しようとする意思が感じられない。このままでは敵方の被害は大きくなるばかりで、意味のない戦いをしていることになる。
そもそもこの戦いの目的はなんだろうか。ドクオ達は黒の魔術団の手懸かりを掴みにここにいる。
もし、仮にここが重要な拠点であれば敵もそれなりの戦力と戦術でこちらを潰そうとするだろう。
ではそうでないとしたら?
ここには何もなく、戦うことが目的なのだとすれば、その意味はなんだ?
('A`)(……時間稼ぎ)
ドクオの脳裏に嫌な予感がよぎる。
予想が当たっているとすれば、敵の意図は別にあるということだ。
ならばそれはなんだ? どこに着地点がある?
ドクオは考える。自分が持つ知識と経験の中に思い当たる節はあるか。
ドクオが巻き込まれた事件は二つ。こちらの世界に来る切っ掛けとなった結界消失事件。王都中に大勢の魔物が出現し、王都にも甚大な被害が出た。二つ目は時計塔広場でのニダーとの交戦。結界消失の際、渡辺に異常とも言える執着心を見せていた。
- 214 名前:1 :2014/06/09(月) 23:26:49 ID:Q3Oqlw1I0
- そして今回の件。この三つに共通しているのは全てにドクオと渡辺が関わっていること。加えて時計塔広場の件を除き、黒の魔術団が関連している。
例えば、そう例えば、自意識過剰の可能性もあるが、黒の魔術団の狙いがドクオだとしたら? ドクオと言わず、ドクオが持っている剣が目的だとしたら?
('A`;)「……まさか」
思い過ごしの可能性だってある。確信はないのだ。だが、この奇妙な一致は偶然で片付けられるのだろうか。
思えば初めてこの世界に来たときから魔物はドクオの周りに集中していた。その背後に何があったのかは分からないが、今でははっきりと黒の魔術団が関連していることを知っているのだ。
ここまでくれば勘違いではない。もはや限りなく真実に近い推測だろう。
('A`)(けど、なんでここにいるやつらは俺を狙ってこない?)
ここにドクオをとどめておくことに意味があるのか、それともここにドクオがいることに気付いていないのか。そのどちらかである可能性が高いが、前者ならば本命の意図が不明だ。だが、恐らくここにいる意味はない。
ドクオはこの考えをショボンに伝えるためポケットに入れた端末を取り出そうとして━━
━━ドクン
( A ;)「がっ……」
がくりと膝を折った。
頭が割れるように痛い。何かが流れ込んでくる。
ニダーとの戦いで感じたような衝動に似た痛み。ドクオの大切な部分に直接働きかける何か。
不快感が体を這いずり回り、胃液が逆流しそうになる。絶対に合わない部品を強引に合わせようとするような違和感がじわじわと広がって、ドクオの意識は闇へと引きずり込まれていく。
その間際、黒く塗りつぶされた王都が見えた。渡辺と、見たことのない巻き毛の少女も。
( A ;)(なん……だ、これ……)
二人が動き出す瞬間、ドクオは意識を手放した。
- 215 名前:1 :2014/06/09(月) 23:28:07 ID:Q3Oqlw1I0
- ◇◇◇◇
从;'ー'从「はっ、はっ……」
渡辺はただひたすらにヴィップラ地区を走っていた。運動不足だからではなく、走ることしか出来ないからだ。本来の移動手段である箒は魔力の伝達がうまくいかずにその辺に捨て置いた。あんなものを持ちながら走るなんてとんでもない。
渡辺の後方からは見たことのない生き物のような物体が追いかけてきている。楕円形で中心に赤い瞳のようなものがついており、背と思われるところからは羽がついているものの、それを羽ばたかせて飛んでいるわけではないようだ。
その物体は渡辺が射線上に入ると瞳から短いビームを放つので、渡辺は出来る限り距離をとりつつうまく攻撃を交わしている。
从;'ー'从「ふえぇー、なんで追いかけてくれるのよぉ〜!!」
渡辺が思いきり叫んでも楕円形の物体は容赦なく攻撃を放ってくる。言葉を解さないことを考えても、あれは魔導人形の一部なのかもしれない。
だとすれば操っている術者が近くにいるはずだが、渡辺が襲われた地点から大分離れている。術者も一緒に追いかけてきているのか、はたまた自律型のものなのかは渡辺には理解できなかったが、あれが渡辺を確実に狙っているのはわかっていた。
もし仮にあの物体は渡辺のマナを覚えていてそこからこちらの姿を追ってきている場合はアウトだが、そうでないなら━━
从;'ー'从「こっちだよぉ〜」
人気の少ない裏通りの曲がり道を左に曲がり、さらに右に曲がる。ヴィップラ地区は商業区であるため店が立ち並んでいるのだが、それはあくまでメインストリート周辺に限られているのだ。奥に行けば行くほど人も立ち寄らないし、以前開業したはずの店も客足の悪さに閉店しそのまま放置された空き家が多い。渡辺はそこに身を潜めることにしたのである。
- 216 名前:1 :2014/06/09(月) 23:29:01 ID:Q3Oqlw1I0
- 元々この周辺は渡辺の庭だ。幼少期からあまり人と接することの出来なかった彼女は人気の少ないこういう場所しか出歩けなかった。
从;'ー'从(反撃したいけど、魔法が使えないんだよぉ〜。困ったなぁ)
事の起こりは王都を覆う結界の異変だった。なんの前触れもなく唐突に、結界は黒く変色したのである。そして、それを境に王都の至るところで魔法が使えないという報告が相次いでいるようだ。
その時渡辺は資料の完成を祝うためにツンと街に繰り出しており、結界が黒くなる瞬間を見ていたのだが、それと同時にあの飛行物体が襲撃してきたことで渡辺はツンとはぐれてしまったのだった。
ツンも心配だが、とにかく今はこの状況を切り抜けるのが先決だ。魔法が使えない以上、今の武器は土地勘だけ。
ならばそれを精一杯利用してあれを無力化するしかない。
廃墟から少し顔を出して辺りを窺うが、動くものはないようだ。どうやらあれはマナや魔力で標的を探索するタイプではないらしい。そばによらなければ追ってはこないだろう。
从'ー'从(でも、なんで私の事狙ってたのかなぁ)
王都の内部で魔法を使えなくする、というのは分かる。王都が抱える戦力の殆どが魔法使いである以上これは最も効果がある。
だが、王族や騎士団の重鎮を狙うのではなく何故渡辺なのかがさっぱり分からない。思い当たる節があるとすれば自分が<忌み子>だからだろうか。
だとして、こんな大がかりな仕掛けを施す理由は?
普段あまり使うことのない頭をフル回転させるが理由は見当たらない。そもそも渡辺が目にしたのは自分が狙われているという事実だけであり、他の場所で別の人が襲われている可能性も否定はできないのだ。
- 217 名前:1 :2014/06/09(月) 23:29:56 ID:Q3Oqlw1I0
- 从'ー'从「やっぱり、もう一回街に戻って様子を見てきた方がいいかなぁ」
渡辺が廃墟から一歩出ようとして、すぐにやめた。
从'ー'从(……誰?)
足音が聞こえる。魔物のような大きい足音ではない。コツコツとヒールが石畳を叩くような音だ。
川д川「隠れてないで、出てきたらいかが?」
若い女の声が聞こえた。誰に向けての言葉なのか、渡辺には判断ができない。他に誰かがいるのかもしれない。
渡辺は体を強ばらせてじっと耐える。出来ることなら自分に気付かないでくれ。そう願いながら。
川д川「クスクス、かくれんぼなんて歳でもないのだけれど、いいわ」
女の周りでひゅんと何かを振る音がした。大丈夫、今王都で魔法は使えない。
川д川「見つけてあげる」
女の声を合図に、周囲の建物が崩れ始めた。渡辺は慌てて廃墟を飛び出すが、女はこちらを見付けるとにやりと笑い、持っていた杖から魔方陣を呼び出した。
从;'ー'从(魔法は使えないはずじゃ……)
一瞬の思考が渡辺の行動を遅らせた。女が放つ黒い光が渡辺に当たると、ぱっとはじけ、途端に渡辺は地面に倒れこんだ。
从;'ー'从(か、体が、重い……)
まるで地面に縫い付けられたように体があがらず、立ち上がることはおろか指を動かすことすら出来なかった。
川д川「ふふふ、残念だったわね。貴女に恨みはないけれど、私達のために死んでいただけるかしら?」
渡辺は反論したかったが、声がでない。少しでも力を抜けば押し潰されてしまいそうだ。
川д川「<忌み子>だなんて言ったところで所詮他の人と何も変わらないのに、悲しい話だわ。きっと貴女を殺すのは私ではなく、そう願う他人の悪意。恨むなら世界を恨みなさいな」
女はそれだけを言うと杖をこちらに向けた。こんな至近距離で魔法を使われれば、待っているのは確実な死である。
逃げようと渡辺は体に命令を下すが、なんの魔法なのか体は言うことを聞かない。どころか徐々に悲鳴をあげて筋肉からぶちぶちという音と共に刺すような痛みが走った。
川д川「さようなら、不幸な仔猫ちゃん」
死を覚悟し、目を閉じる。残された策はない。最後にドクオの顔を見たかった。
从 ー 从(さよなら……)
- 218 名前:1 :2014/06/09(月) 23:31:29 ID:Q3Oqlw1I0
- ξ#゚听)ξ「させるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ツンの怒号。そして爆発。渡辺は爆風で吹き飛ぶが、誰かに抱えられて衝撃はなかった。
从'ー'从「ツンちゃん!?」
ξ゚听)ξ「話はあと!! 逃げるわよ!!」
ツンは渡辺を抱き抱えたまま宙を舞う。そのまま一気に加速すると、景色が早送りのように流れていった。
川д川「少しおいたが過ぎるんじゃないかしら。━━のく━━」
女の声が遠くから聞こえてきたが、最後まで聞き取ることは出来ず、やがて意識は途絶えてしまった。
- 219 名前:1 :2014/06/09(月) 23:32:18 ID:Q3Oqlw1I0
- ◇◇◇◇
彼女はいつも一人きりで、彼女の知る世界は使用人が数人と広い大きな屋敷の中だけだった。外の世界があることは知識として知っていたが出たことはない。
屋敷の中には同年代の者はいなかったし、彼女には常にやるべきことがあったから年相応の遊びを知らぬまま育ったのですることといえば魔法の勉強と書庫にある読書だけ。おかげで使用人達より博識になったし、その知識を応用できるだけの基礎は身に付いたと思っている。
しかし、彼女はたくさんの使用人に囲まれながらいつも孤独だった。
使用人と言葉を交わすのは必要なことと勉強中の質問だけ。故に独り言を口にするのがいつの間にか癖になっていた。
屋敷の中から見る外の景色はとても美しく、本の中の登場人物は皆イキイキとしていて自由に生きている。することのない屋敷の中なんて彼女にとってみれば牢獄も同然だった。そんな彼女だから外の世界というものに憧憬を抱くのは必然といっても過言ではなかったのかもしれない。
そんなある日、彼女はどうして自分は外に出てはいけないのかと使用人に尋ねてみた。普通の子供は外に出て友人を作り、日が暮れたら家に帰ってその日の出来事を話しながら家族と団欒を築くものではないのか、と。現に屋敷の周辺には多くの子供が遊びに来ていた。楽しそうに追いかけっこをして、朗らかに笑っているのを彼女は屋敷から見たことがある。
使用人の一人は彼女の問いに対し、あなたは選ばれた人間で周りの平凡な人間とは異なる道を歩まなければならない。それがあなたのためで、あなたはそのために生まれてきたのだ、と答えた。
自分だって子供なのに、他の人と違うなんてことに彼女は到底納得できるものではなかったが使用人が困った顔でそんなことを言うものだから彼女はそれ以上追求することが出来なかった。
- 220 名前:1 :2014/06/09(月) 23:33:10 ID:Q3Oqlw1I0
- しかし、その日から使用人達と会話をする機会は格段に増えたように思う。彼女が寂しいと感じないよう、他人と違う生活をしていることに疑問を抱かないようにとの配慮だったのだろう。それから彼女はあまり孤独を感じることはなかった。
その数年後、彼女の人生に転機が訪れる。
彼女は両親が不在の理由を知らなかったし知ろうともしなかったのだが、その日は使用人達が朝から騒がしかったことから、何か重大なことがあったのだと推測していた。あの日から人が変わったように優しくなった使用人達に迷惑をかけたくなかったのだ。だから彼女は何かあれば使用人から話してくれるのを辛抱強く待った。今ではそれが間違いであったと酷く後悔している。
使用人達はその日からよそよそしい態度になり、彼女とあまり口を利かなくなってしまった。それは今だけだと彼女は信じていたが、それから使用人と会話をした記憶は、彼女が屋敷を出る最後の日だけとなる。
使用人との会話がなくなった翌週のことだった。彼女はいつも通りに起きて、いつものように勉強と読書に明け暮れていたのだが、お昼を回った頃に一人の男が訪ねてきた。今日から彼女の雇い主なのだという。
訳が分からず話を聞こうと使用人に説明を求めると、彼女の両親が亡くなったこと、お屋敷や他の土地などの資産は売りに出されてしまったことなどが明らかになった。つまり、今まで彼女は貴族と呼ばれるものだったが、彼女も気付かない間に落ちぶれ、全てを失っていたということだ。
- 221 名前:1 :2014/06/09(月) 23:33:58 ID:Q3Oqlw1I0
- 全てを知り、彼女は何も言わなかった。いや、言えなかった。彼女には知識が沢山あったが、見たことも聞いたこともない両親や自分の立場はどこか作り物のように感じられて現実感がまるでなかったのだ。使用人達は涙をこぼしながら謝罪の言葉を繰り返していたが、彼女はそれすら無感情に、機械的に返事をするだけで終わってしまった。
屋敷を後にしてから彼女の生活は一変する。今までのように勉強と読書だけでなく、炊事に洗濯掃除とやることは山のようにあった。しかし彼女は辛いとは思わなかった。屋敷の中から見ることしか出来なかった外の世界を出歩けたという満足感に満ち溢れていたから。どんな理不尽も、この空の青さを見れば耐えることができたのだ。
彼女が使用人として生活を始めてから一年後、今度は住む家そのものがなくなった。
彼女を雇っていた男が人身売買組織の親玉として検挙され、呆気なく騎士団に拘束、そのまま投獄されたのだ。彼女の他、彼に雇われた使用人達は屋敷を追われ食料を口にすることすら難しい生活へと身を落としてしまう。
彼女が昔思い描いた外の世界とはこんなにも無情なものだっただろうか。空は青く、空気は澄んでいて、人の心は暖かかったはずなのに、自分がいるこの場所はどうしてこんなにも醜いのだろう。
そんなことを考えながら、一人また一人と元使用人の仲間達が倒れていく。彼女は再び孤独になった。
最後に食事をしたのは何日前だったのかも分からなくなった頃、彼女は一人の少女と出会う。
住む家があり、食事も出せる。しかし一人では広すぎる家は寂しいし、自分は友達すらいない。よければ友達になってほしい。
人の温もりに触れ凍った心が雪解けの水のように流れていくのを感じた。彼女はこの恩を忘れない、どれだけ時間がかかったって必ず返すと約束して少女の友達となった。
それから一月も経たず、彼女は黒の魔術団の道具として生きることを余儀なくされた。
かつての友達に別れを告げられず、ありがとうさえ言えないままで。
- 222 名前:1 :2014/06/09(月) 23:36:39 ID:Q3Oqlw1I0
- ◇◇◇◇
(うA-)「んっ……」
意識が戻り、体を起こす。いつの間にか廃屋に放置されたボロボロのベッドのようなものに寝かされていた。モララーか誰かが避難させてくれたのだろう。
辺りを見渡すが、敵も味方もいない。静寂だけが漂っている。足音も、声も聞こえない。戦いはどうなったのか。
('A`)(くそっ、こんなことしてる場合じゃねえってのに……)
意識が途切れる瞬間、様々なものが流れ込んできていた。それは王都の情景、渡辺とその傍らにいた女の声まではっきりと。
そして一番ドクオが気になっているのは━━
('A`)(巻き毛の女の、あれは過去か?)
見たことのない場所と人がいたなかで、ドクオはその場の全てが手に取るように分かっていた。使用人の感情も、心の声も、後悔も、少女の絶望や憎悪、そして、初めて触れた優しさに、彼女がどれだけ救われ、報われたかも。
('A`)(やっぱりこれは時間稼ぎだ。しかも狙いは俺じゃなくて、渡辺。俺が本命なんだろうが、その準備ってとこか)
動かした感じでは体に異常はない。ここに来てから見ていただけなのだから当たり前だ。
('A`)「とにかく王都に戻んないと。取り返しが付かなくなる」
ドクオが外に出ると、壊れて廃れた村はさらに破壊を撒き散らされて見るも無惨な姿へと変わっていた。しかし動く者はなく、全てが終わったあとなのだと言うことを暗に悟ることが出来た。
( ・∀・)「よう」
- 223 名前:1 :2014/06/09(月) 23:38:31 ID:Q3Oqlw1I0
- 声の方を見ると、廃屋の屋根に腰かけたモララーと目があった。傷一つなく、程よい運動をした後のような爽やかさだ。
('A`)「戦いは?」
( ・∀・)「お前が寝てる間に終わったよ。世話かけさせやがって」
('A`)「悪い」
( ・∀・)「ま、あとは副団長の報告待ちだ。本調子じゃないなら休んどけ」
('A`)「そういうわけにはいかないんだ。急いで王都に戻らなきゃならない」
( ・∀・)「何?」
ドクオはこの戦いが時間稼ぎだということ、倒れる前に見た映像のこと、全てを丁寧に話していく。モララーは黙ってそれを聞いていたが、やがて。
( ・∀・)「駄目だ。お前が王都に行ったところで何ができる」
('A`)「戦える」
ドクオは問いに即答するが、モララーは槍の切っ先をドクオに向けて、さらに口を開いた。
( ・∀・)「お前は騎士団の人間じゃない。ただの一般人だ。戦う力だってあんのかどうかも分からない。今まではたまたま生き残れたけど、今度は? 残ってる連中もバカじゃあない。今頃対策を練っているはずだ。その上で、お前が行かなくちゃならない理由って、あるのか?」
('A`)「……」
モララーの言っていることは至極当然のことだ。いくら戦う力があるとはいえ、ドクオはあくまで守られる側の存在。そのために騎士団があり、魔法使いがいる。そこにドクオが割って入るということは、彼らの仕事を全て奪うことを意味している。誇りや矜持を、ドクオは否定するのだ。
( ・∀・)「やらなきゃならないことなら騎士団がやる。今回だって、要は大義名分のためなんだよ。本来ならここにいるべきじゃなかった」
モララーはそこで一度深く息を吸うと、はっきりと、凛とした声で
( ・∀・)「お前を行かせることはできない」
そう、言った。
( ・∀・)「連絡はいれとこう。王都がヤバイかもしれないってな。だから」
('A`)「関係ねえよ。大層なご高説ありがとさん。でも俺は行く」
- 224 名前:1 :2014/06/09(月) 23:40:09 ID:Q3Oqlw1I0
- ドクオはモララーの言葉を遮り、しっかりと彼の目を見据えて言い切った。
(# ・∀・) 「よく聞こえなかった。でももう言わなくていい。疲れてんなら休め」
('A`)「なあモララーさん。あんたも分かってると思うけど、俺はいつの間にかここにいた存在だ。騎士団が掲げるような大層なもんは持ってない」
いつだって逃げ出して、努力すら否定して、目を反らして生きてきた。ドクオはそんな自分が今でも嫌いだ。
('A`)「けど、ここで見たもの聞いたもの、触れたものや感じたものは俺を変えてくれたんだ。いや、まだ変わってなんかいないかもしれない。でも、きっかけをくれた。自分の今までを全部壊せるくらいすごいきっかけだ」
この世界に生きる彼女は、不幸な境遇でも諦めず、自分のように腐らず、真っ直ぐに前を見据えている。
('A`)「俺はその恩を返すために何かがしたい。王都なんて関係ない。そんなのは騎士団が守るものだろ。なら俺はたった一人のために、すごく大きくて、小さい一人のために行くんだ。そのために、力を貸してほしい」
言い終えて、ドクオは頭を下げる。モララーは槍を肩にかけ、沈黙した。
どれくらいの時間がたったか、長かったのか、短かったのかも分からない静寂の中、一枚の紙がドクオの足元にヒラヒラと舞い降りてくる。
( ・∀・)「王都に戻るマジックアイテム落としちまった。緊急用なんだよなぁ、いやぁどこで落としたんだろうな。しかもドクオは体調不良で先帰っちまうし、不幸だなぁ。まいったまいった」
顔を上げると、モララーは明後日の方を向いてけらけらと笑っていた。男のツンデレとかはやんねえよ、と思いながら、ドクオは感謝を口にする。
('A`)「終わったら飲みにいこうぜ。あんたの奢りで」
( ・∀・)「お前の奢りだろばかたれ」
それだけ言ってドクオはマジックアイテムを手にして、強く願う。
('A`)「俺をあいつのもとに連れてってくれ」
ドクオの体は淡い光に包まれ、視界がノイズのように荒れていく。
( ・∀・)「精々気張れよ」
モララーの声を背にして、ドクオは王都へと単身乗り込んだ。
- 225 名前:1 :2014/06/09(月) 23:40:54 ID:Q3Oqlw1I0
光となって王都へと飛んだドクオを見送って、モララーは煙草に火をつけた。
( ・∀・)y━・~~「ふー。で、いつまで隠れてるんです、副団長」
モララーが声をかけると、隣の廃屋からショボンがひょこりと顔を出した。しぃも一緒にいる。
( ・∀・)y━・~~「盗み聞きなんてらしくないですよ」
(´・ω・`)「声をかけるタイミングを逃してしまってな」
ショボンはそう言うと、モララーと同じように煙草をくわえる。そう言えば彼も愛煙家だった。
(´・ω・`)y━・~~「ふー。さて、我々も帰るとしよう。ここには大したものはなかった。また一から情報を集めないとな」
( ・∀・)y━・~~「俺にお咎めはないんですか? 重大な規律違反ですが」
(´・ω・`)y━・~~「私は何も見ていない。つい先程ここに到着したばかりだからな。そうだろう、しぃ」
(*゚ー゚)「はい。転送魔法のようなものがこちらに来る際に見えましたが、それだけです」
(´・ω・`)y━・~~「だそうだ」
( ・∀・)y━・~~「都合がいいですね。それに助けられる俺も俺ですが」
(´・ω・`)y━・~~「この間言っただろう。我々は騎士団である前に一人の人間だと。僕には大事なものを守るために、無くしてはならないものを守るために戦う誰かの願いを無下には出来ないよ」
( ・∀・)「精々死んでないといいんですがね」
(*゚ー゚)「……馬鹿というのはしぶといものです。簡単には死にません」
(´・ω・`)y━・~~「だが、馬鹿じゃないと守れないものは沢山ある。組織という枠組みに嵌まっていては、絶対に届かないものがね」
(*゚ー゚)「……私には分かりません」
( ・∀・)「女子供じゃ分からないだろうよ。これは大人の男にしか理解出来ないんだ」
(*゚ー゚)「はぁ」
そう言って、モララーは空を見上げる。空は今日も青かった。
- 226 名前:1 :2014/06/09(月) 23:41:55 ID:Q3Oqlw1I0
- ◇◇◇◇
ツンと渡辺はヴィップラ地区の外れにある小屋に身を隠していた。魔法物体が未だ巡回しているため出歩くことも出来ないが、しばらくは時間を稼げるだろう、とツンの助言からである。
現在ツンは治癒魔法をかけてくれているが、口を利こうとはしなかった。何か事情を知っていそうではあるが、暗い顔で唇を噛みしめ、今にも泣いてしまいそうだ。
渡辺はわざと明るい声を出して、笑顔を作った。
从^ー^从「ツンちゃんありがとう〜。私死んじゃうかと思ったよぉ〜」
それに対し、ツンははっとしたような顔をするが、すぐに頭を横に振って、
ξ )ξ「ごめんなさい。あんたが怪我をしたのは、私のせいだから、お礼なんか言わないで」
从'ー'从「でもでも、助けてくれたのもツンちゃんだよぉ〜。だから、やっぱりありがとうだと思うなぁ〜」
それだけのやり取りを終えると、ツンは再び口を閉じてしまった。いつの間にか治癒は終わっており、痛みはなくなっている。ツンは手持ち無沙汰になり、忙しなく視線を泳がせていた。
渡辺には、そんなツンが何かを言おうとして、どうすべきか分からない子供のように見えて、つい彼女の頭を撫でた。
ξ゚听)ξ「え?」
从'ー'从「あのね、私は何が起きてるか分からないけど、ツンちゃんがそんな顔をしてると私も悲しくなるんだぁ〜。だからね、よかったらツンちゃんの抱えてる物、私に話してほしいな。何ができるか分からないけど、力になるよ。だって」
渡辺は笑う。今度は作った笑顔じゃなく、心の底から。
从^ー^从「友達だもん」
- 227 名前:1 :2014/06/09(月) 23:42:43 ID:Q3Oqlw1I0
- その言葉に、ツンは目を見開きぱくぱくと口を開閉する。そして、耐えきれなくなったのか、ついには涙が溢れてきた。
ξ;;)ξ「ごめん、なさい!! 私のせいで、貴女がこんな目に……」
渡辺はツンを優しく抱き締めた。子供をあやすように。
从'ー'从「大丈夫、大丈夫だよ。だから、何が起きているのか、話してほしいな」
渡辺の胸に顔を埋め、思いきり泣いたあと、ツンはぽつぽつと語り始めた。
ξ゚听)ξ「私は、黒の魔術団に所属しているの。今回、渡辺に近付いたのは、ドクオという男を捕らえるため」
从'ー'从「どっくんを?」
ξ゚听)ξ「あいつは、黒の魔術団が行った召喚魔法によって他の世界から呼び出された人間なの」
从'ー'从そ「ええー、そうだったんだ〜」
ξ゚听)ξ「……そして、私の役割は渡辺をあいつから遠ざけるようにすることと、王都の結界に細工してこの街で魔法を使えないようにすることだった」
ツンはさらに詳しく話していく。王都の近くに分かりやすい囮を起き、そこで騎士団の連中を相手取り時間を稼ぐ。その隙に王都に残った連中を無力化し、ドクオを捕獲する手筈だったらしい。
しかし、ツンの狙いは外れ、ドクオは囮の方へと向かってしまった。しかも黒の魔術団の上司である先程の女━━貞子というらしい━━は何故か渡辺を狙っている。
ξ゚听)ξ「私が聞いた作戦内容とはまったく別の展開になってて、私は慌ててあんたを探してきたってわけ」
从'ー'从「そうだったんだ〜。あれれー? じゃあツンちゃんは味方じゃないの?」
ξ;゚听)ξ「いや、だからそう言ってるじゃない」
从'ー'从「それじゃあなんで私を助けてくれたの? ツンちゃんが敵なら私を助ける理由ってなかったんじゃないかなぁ〜」
- 228 名前:1 :2014/06/09(月) 23:43:31 ID:Q3Oqlw1I0
- ツン、いや黒の魔術団の狙いがドクオならば、渡辺という少女が一人死んだところで特に問題はなかったはずだ。最終的にドクオが手に入ればツンの役目は終わるのだから。
危険を犯してまで、上司に反抗してまで渡辺を助けるメリットははっきり言って、ない。
ξ )ξ「それは……」
ツンは再び言い淀み俯いた。しかしすぐに顔を上げると決意を秘めた瞳を渡辺に向ける。
ξ゚听)ξ「ねえ渡辺。私の顔、どこかで見た覚えはない? ずっと昔、貴女が魔法使いになる前の話よ」
←第三話 / 戻る / 第五話→