169 名前: :2014/06/05(木) 23:08:24 ID:V0EQBG/A0




第三話「魔法使いの流儀・前編」



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170 名前: :2014/06/05(木) 23:12:59 ID:V0EQBG/A0
ニダーとの戦いから数日後、行きつけのお店や細かなルールなどを覚えてきたドクオはようやくこの世界での生活に慣れ始めていた。

やはり同じ人間たちの住む世界である以上そこまで変わったルールなどはなく、意識せずとも一つの街中ぐらいなら問題はないようだった。

しかし、そんな中でもドクオが驚いたことがいくつかある。まず一つ目に物価だった。始めはお金の価値や物の価値がよく分からなかったが、渡辺やしぃの協力もあって大体の目安などを覚えることができた。そして自分の世界のものと比べてみると、その物価や税金の額はおよそ二倍ほど違うことが判明したのである。何より驚いたのは煙草の値段である。日本円にすると二十本で百円なのだ。つまり一本一円以下。

愛煙家であるドクオにとってこの事実は何よりも嬉しいことであった。むしろこのために異世界に来たのではないかと疑ってしまうほどに。

話がずれたが、ドクオが驚いたことその2は交通手段である。この世界は当然ながら電車や飛行機、車といったものはない。ではこれだけ広い町の移動はどうやっているのか?

その答えは魔法である。

これだけ魔法が広く流通しているのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、こちらではバスやタクシーの代わりに魔法での移動が可能となっている。所定の場所で切符のような魔法紙を購入し、様々な場所に設置された魔方陣に乗ると、それだけで思い描いた場所の近くまで転送されるという優れものである。しかも値段は場所を問わず一律の値段だ。

もちろんこれは王都ヴィップ内のはなしであって、他の街や別の大陸に行くには異なる方法が必要になるらしい。それにともない値段も変わるのだとか。

最後に、これが最も驚いたことなのだが、なんとこの世界では電気が生活に浸透していないのだ。

別に電気という概念がないわけではなく、あくまで生活に使われていないだけの話だ。ドクオのいた世界では何をするにもまず電気が必要だったが、こちらではそれに変わる魔力というエネルギーがあるのである。

魔力は世界中のどこにでもあるもので、枯渇することがない。しぃ曰く魔力の源泉が世界中の至るところにあり、そこからものすごい量の魔力が涌き出ているそうだ(どれぐらいの量なのか単位を用いてしぃは説明してくれたがドクオには理解できなかった)。

こうしてドクオの生活も二人の尽力あってか様になってことで、ドクオはようやく平穏無事に生きていくことが出来ているのだが、現在そのことが逆に不満をもたらしていた。

('A`)「やることがねぇ」

171 名前: :2014/06/05(木) 23:13:44 ID:V0EQBG/A0

ドクオの不満とはまさにこの一言に尽きた。

騎士団の寮に厄介になってから働かなくても金が入ってくるし、食うものにも困らず嗜好品にさえ手を出せるようにまでなってしまった。つい最近まで食うに困っていたはずなのに、である。

元々大した勤労意欲など持っていなかったドクオではあるが、それにしたってこの暇さ加減はいかんともしがたい苦行のように感じられる。元のアパートには暇潰しに最適なパソコンとネットという偉大な道具があったのだが、こちらにはそんな大層なものはない。ドクオに魔法の知識とそれを応用する技術があればインターネットをこの世界で再現できるかもしれないが、それこそ夢幻である。

とにもかくにもドクオは現在暇をもて余していた。渡辺は最近学校に行ってなかったらしく、ここ数日ずっと学校に籠りっぱなしだし、しぃにしても騎士団の仕事があるので構ってもらえない。年下のしかも女の子に構ってほしいというのも情けないものだが、ドクオの交遊関係なんてそんなものしかないのだ。

('A`)「バイト、とか出来ないのかねぇ」

自分の立場を考えると、まず不可能だろう。あくまで騎士団に囲われてる身でしかない以上、下手をすれば関わった一般人にまで被害が及んでしまう可能性もある。ともなれば、やはりドクオはこうしてごろごろと時間が過ぎるのを待つしかないのだ。

('A`)「ねらーのみんなが懐かしいぜ。釣りスレ立てて馬鹿やってたのになぁ」

もうあの日々はやってこないのかと思うと少し寂しい気もするのは何故だろうか。あちらでは自分の存在など路傍の石か、それ以下の価値しかないというのに。

と、そんな折に傍らに置いてあった連絡用携帯端末が音を立てる。以前ショボンにもらったものだが、やはり見た目通り携帯電話のような役割を果たしている。難点はインターネットが出来ないことくらいだ。

('A`)「もしもし亀よ」

(;´・ω・`)『それは何かの呪文かい?』

172 名前: :2014/06/05(木) 23:14:52 ID:V0EQBG/A0
電話(といってもいいのか疑問ではあるが)の相手はショボンだった。寮に入る際顔を見て以来である。騎士団のナンバーツーとして様々な仕事を抱えているはずの彼から連絡がくるなどと予想していなかったドクオは思わず面食らってしまった。

('A`)「あまり気にしないでください。ただの発作です」

(;´・ω・`)『そ、そうか。その様子だと大分暇なようだな』

('A`)「ええ、そりゃあもう。飯食ってゴロゴロする以外何をしていいのか分からないくらいです」

(´・ω・`)『それなら丁度いい暇潰しを提案しよう』

('A`)「この無限地獄から解放してくれるのなら何でもしますよ」

(´・ω・`)『ほう、なんでもするか。ならば今から寮の入り口に来るといい。きっと君を満足させられる』

ショボンはそれだけを言って通信を切った。一体何をさせる気なのだろうか。ドクオにしてみれば暇を潰せればなんでもいいのだが、ショボンのような偉いかたから連絡が来るとどうも身構えてしまう。

('A`)「ま、行ってみりゃわかんだろ」

ドクオは深く考えず、簡単に身支度をすると部屋を出た。これがそもそもの間違いだったと気付くのはそれから間もなくのことである。

173 名前: :2014/06/05(木) 23:23:17 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

从'ー'从「えっとぉ、これとこれとぉ、あとはぁ〜」

渡辺は魔法学校にある図書室で黙々と資料を探していた。次の昇級試験で使う論文をまとめるためだ。

魔法使いというのは基本的に階級制で、渡辺がいるのは一番ランクの低い見習いである。その上に魔法使い、大魔法使い、魔導師、大魔導師と続いていくのだが大半の学生が卒業する際に授かるランクは大魔法使いだ。そこからは個人で国が指定する試験をパスすることによってランクをあげていくこととなる。

大魔導師以上になってくるとそこから専門的な分野の階級を冠することが多く、錬金術ならばアルケミストだったり魔法と剣技を両立するならマジックナイトといった具合だ。

通常魔法使い見習いなどというランクは入学当初から一年かそこらで卒業するものだが、渡辺は入学してもう三年ほどの月日を経ていた。三年も経つのにまだ見習いにいる理由としては、渡辺の頭が悪いということではなく、単純に彼女の境遇にある。

渡辺は所謂<忌み子>と呼ばれる存在であり、<忌み子>とは破滅と絶望を振り撒く悪魔として忌み嫌われている。

以前ニダーが言っていた話を渡辺は独自に調べてみたのだが、どこを調べても似たような記述しか載っておらず、結局は同じ答えに行き着いてしまう。

だから渡辺は周りの学生と同じように一年の間切磋琢磨できるような友人に恵まれず、失敗や間違いを一人で繰り返し、ようやく見習いを卒業できるところまで漕ぎ着けたのだった。

それだけにこの昇級試験は渡辺にとって大きな意味を持つ。渡辺という存在は否定されても、身に付けた技術や知識が一定のところを越えさえすれば誰かに認めてもらえるのだから。

だからこそ渡辺はドクオとのコミュニケーションもそこそこに昇級試験の準備を進めているのだが……。

从'ー'从「あれれ〜? 資料が一つ足りないよぉ〜?」

174 名前: :2014/06/05(木) 23:23:58 ID:V0EQBG/A0
渡辺が得意とする炎系の魔法の技術書がどこにも見当たらなかった。図書室は属性や構築する魔方陣、詠唱する言語によって棚が別れているのだが、渡辺の探す一冊だけがどこを探しても見つからない。

渡辺はどこかに放置されていないかと周囲を見渡した。しかし、室内は司書によって綺麗に整理整頓されており、放置された本は一切見当たらない。

代わりに見付けたのは、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて渡辺を見つめる数人の生徒だった。

从 ー 从「……」

また、だ。

渡辺の存在は学校内では有名だ。漆黒の髪を持つものは一人しかいない。一人しかいないということは否が応でも目立ってしまう。

極めつけに<忌み子>という、呪いにも似た言葉はどこに行っても渡辺に付きまとってくる。

渡辺は無言で図書室を立ち去ろうとして、思わず立ち止まった。

ξ゚?゚)ξ「取り返さないの?」

175 名前: :2014/06/05(木) 23:24:48 ID:V0EQBG/A0
渡辺の前に巻き毛の少女が立ちはだかった。意思の強そうな瞳が渡辺をじっと見つめている。

从;'ー'从「えと、きっとあの人たちも必要なんじゃないかなぁ」

渡辺は何故か言い訳のようにそんなことを口にした。

ξ゚听)ξ「馬鹿じゃないの。あいつらあんたのこと見て笑ってるわよ」

巻き毛の少女は怒りを露にしてそちらを睨み付ける。見た目通りの性格をしているらしい。

ξ゚听)ξ「私が取り返してきてやるわ。ちょっと待ってなさい」

从'ー'从「あ、ちょっと……」

渡辺が止める間もなく少女は行ってしまった。静かだったはずの図書室に怒声が響き渡り、数人の生徒が迷惑そうな視線をこちらに向けている。

そんな中を少女は気にした様子もなく、本を手に取りこちらに戻ってきて、

ξ゚听)ξ「ほら。使うんでしょ? ああいうやつらにはガツンと言わなきゃ舐められるだけよ?」

とあっけらかんとそんなことを言った。

从'ー'从「あ、あの、ありがとう……」

ξ゚听)ξ「別に礼を言われることじゃないわ」

何でもないと言った風に彼女が背を向けたのを見て、渡辺は何故か、自分でもよく分からずに声をかけていた。

从'ー'从「あの、もしよかったら、お茶でもしませんか?」

少女が振り向く。少し間を置いて、笑顔を作り、

ξ゚听)ξ「仕方ないわね。暇だから付き合ってあげるわ」

と言った。

これが渡辺と少女━━ツンの初めての出会いだった。

176 名前: :2014/06/05(木) 23:26:19 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

('A`/)「もう勘弁してください」

(;*゚ー゚)「体力ないですね」

げっそりとした顔でドクオはしぃに懇願した。これ以上は無理だ、一歩も動けない。

ショボンに連れられてやってきたのは騎士団の演習場である。そこでドクオは暇潰しと称した訓練に参加させられたのである。半ば強引に。

(´・ω・`)『君は今後も敵に狙われたり事件に巻き込まれるだろう。今のうちに体を鍛えておけば何が来ても対処できるぞ』

とはショボンの談である。

確かに先日の事件はニダーという魔法使いが引き起こしたものだが、その裏では他の者が暗躍していたのではないかというのが騎士団内部でまことしやかに囁かれていたようだ。

かくいうドクオも同じ意見で、いくらニダーが自尊心の高い傲慢な人間といえど、街中で人目も憚らず暴れ狂うなどとは考えられなかった。

ましてや騎士団本部のある王都なら尚更である。

そういうわけでドクオは騎士団が普段こなしている訓練と同等のものを今しがた終えたわけのだった。しぃの監視のもと。

('A`/)「俺は頭脳労働メインなんだよ。体力ばっか有り余った体育会系と一緒にしないでくれ」

(*゚ー゚)「これくらい騎士団なら普通ですが」

同じメニューをこなしたとは思えないほど涼やかな顔をしたしぃにそう言われてはドクオもこれ以上何も言えない。一体この小さな体のどこにそんな力が隠されていたのか甚だ疑問である。

('A`)「まぁ実際暇潰しにはなったけどさ、こんなの毎日やってたら死ぬぞ俺」

(*゚ー゚)「慣れですよ。それに、ドクオさんもなんだかんだいいながら最後までついてこれたんですし、なんならこのまま正式に騎士団になればいいと思います」

('A`)「それは勘弁してください。なんか周りの視線が怖かったし」

ドクオが訓練をする傍ら、他の騎士団員とすれ違うことが多々あったのだが、その誰もが腫れ物でも扱うかのような視線を向けていたのである。

始めはただの好奇心なのかとも思ったのだが、途切れ途切れに耳にした内容はどれもドクオを快く思っていないように聞こえた。

それをしぃに告げると、

(*゚ー゚)「それは多分ドクオさんの髪の色でしょうね」

との答えが返ってきた。

('A`)「髪? そんな珍しいのかこれ」

(*゚ー゚)「ドクオさんは<忌み子>と同じ髪の色をしていますからね。黒髪の人間はこの街広しと言えど、ドクオさんと渡辺さんくらいしかいませんから」

177 名前: :2014/06/05(木) 23:27:24 ID:V0EQBG/A0
言われてみればそんな気がする。こちらの世界では金髪がほとんどで、それに混じって他の髪色がちらほらといるが黒髪というのは渡辺以外見たことがなかった。

('A`)「そういやその<忌み子>ってなんなんだ? 前にニダーもそんなこと言ってたけど」

以前しぃに聞こうと思っていたことを思い出し、ドクオは尋ねてみた。

(*゚ー゚)「簡単に言ってしまえば畏怖の対象です。黒髪の悪魔が破壊の限りを尽くし、討滅され、生き残りが人との間に子を成した。という昔話があるんですよ」

('A`)「それだけ?」

(*゚ー゚)「それだけでも皆さんが恐れてしまうのも無理はありません。何しろ神に匹敵する力を秘めているんですから」

('A`)「けど俺はともかくとして、渡辺なんかは人畜無害じゃん。なんか悪いことしたってんなら分かるけど」

(*゚ー゚)「ドクオさんの言いたいことは分かります。ですが、実際問題としてこういった話はごくありふれていますからね。ましてやこの話を信じているのは一人や二人ではありませんし」

少ない人数であれば<忌み子>という単語自体大した意味は成さなかったが、世間に浸透してしまえば真実などいとも簡単にねじ曲げられる。この場合正しいか間違いかではなく、信じるか信じないかなのだ。

それに、としぃは言葉を続ける。

(*゚ー゚)「この話がより真実味を増した話がありますからね」

しぃの声のトーンが一つ下がる。ドクオは思わず身構えた。

178 名前: :2014/06/05(木) 23:28:23 ID:V0EQBG/A0
('A`)「なんかあったのか?」

(*゚ー゚)「今から十五年ほど前に全世界を巻き込んだ大きな戦争がありまして、始めは大陸同士の争いだったそうです。しかし、その戦争はいつの間にか人ではない別の何かを相手に戦うことになっていたのだとか」

('A`)「なんでそんな曖昧なんだよ」

(*゚ー゚)「ドクオさんは体力がないだけでなく、頭もお馬鹿さんなのですか? 十五年前に私は産まれていませんよ」

言われてみればその通りだった。騎士団の連中が軒並みガタイがいいのでしぃも同じカテゴリに括ってしまっていたが、しぃは見た目通り十四歳である。

('A`)「んで、その戦ってた相手ってのが悪魔なのか?」

(*゚ー゚)「それが分からないんです。その戦争で生き延びたのはほんの僅かな人数で、ほとんどの人達が戦死してしまったと公式にはっぴょうされていますから」

('A`)「なんだよそれ。訳のわからないものだから悪魔って決めつけて、その矛先を渡辺に向けてるってことになるじゃねえか」

(*゚ー゚)「間違いではないと思います。悪魔という伝承の認知度も去ることながら、戦争の規模も歴史上で五指に入るほど大きいものですからね」

('A`)「それだけひどけりゃ余計にってことか」

ドクオには戦争というものがどれほどのものかは想像できない。たくさんの人間が血を流し、戦い、死んでいったのだろうということしか分からないが、それだけ悪魔という存在が人々にとって畏怖や破滅の象徴ということなのだろう。

だからといって一人の少女をよってたかって後ろ指を指すのはどうかと思う。だってドクオは知っている。彼女は誰よりも心根の優しい、人を傷付けることをよしとしない日向に咲く蒲公英のような温かい人間なのだから。

179 名前: :2014/06/05(木) 23:29:38 ID:V0EQBG/A0
それを知りもしない、知ろうともしない他人が自覚のない悪意をぶつけるならばドクオはそれを何とかしたい。

例え叶わぬ願いだと知っていても、願わずにはいられない。

(*゚ー゚)「気持ちは分かりますが、ドクオさんがどうこうしたところで群衆心理はそうそう変わることはありませんよ」

あまり表情を出さないしぃが嘆息するのを見て、ふと疑問が浮かんだ。

('A`)「しぃちゃんはあまりそういうの気にしてないみたいだけどさ、しぃちゃんから見ても渡辺はそういう存在じゃないのか?」

三人で街に繰り出した際も、しぃは渡辺と対等に付き合っていた気がするのだ。ドクオは二人を見て、まるで姉妹のようだと感想を抱いた記憶がある。

(*゚ー゚)「私にとって、悪魔や忌み子というのは空想上の存在です。悪魔なんて見たことがありませんし、渡辺さんが私に危害を加えたわけでもありません。私から見れば渡辺さんは私と同じ女の子です」

しぃの言葉は淡々としているが、どこか慈愛に満ちた優しい口調だった。

しぃにしても、今の渡辺には思うところがあるのかもしれない。

('A`)「みんながそう感じてくれればいいんだけどな」

それにはきっかけがいるだろう。一度外れた歯車はそう簡単に元に戻せない。誰かが手を差し伸べ、元の位置に嵌めてやらなければ。

この世界の住人ではないドクオに、それが出来るだろうか。

180 名前: :2014/06/05(木) 23:30:29 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

ショボンは上がってきた報告書に目を通しながら、時計塔広場の事件の推測を立てていた。

報告書の内容は極めて事件の概要を事細かに記載しているものの、ショボンには何かが欠けているように思えるのだ。

ニダーという魔法使いがやたらと忌み子に噛みついていたことは知っていたが、それが今回の動機に繋がるだろうか? というのがショボンの率直な意見である。

さらにニダーは貴族の出であるということも事態の整合性を歪めていた。ショボンは貴族の生まれではないが、同僚である騎士の中には大勢いる。彼らはみな口を揃えて貴族は下々に慈悲と慈愛を持って接し、上に立つものとして道を示さねばならないと豪語していた。もちろんその言葉が嘘ではないことをショボンは知っているし、そのための努力を惜しんでいないのもこの目で確かめている。

ならばこの違和感はなんなのだろう。ニダーも若輩者とはいえ貴族の端くれ、一般人が多い時間帯と場所であんな騒動を引き起こすとはどうしても思えなかった。

(´・ω・`)(やはり、黒の魔術団か)

思えばドクオというイレギュラーを抱えてから不自然な動きが頻発している。表だったものは結界の消失と今回の騒動だが、他にも魔物の大量虐殺や小さな集落での集団失踪など挙げていけばキリがない。

181 名前: :2014/06/05(木) 23:31:13 ID:V0EQBG/A0
加えてニューソクを治める王、ロマネスクの動きもまるでドクオが来ることを予測していたかのような周到さだ。正直、ロマネスクの目的の全てを知っているわけではないので、ショボンにはロマネスクですら信じることができていない。

(´・ω・`)(騎士団失格だな、僕は)

信じたくはない、信じたくはないがロマネスクと黒の魔術団は繋がっている。確かな確証はないが、ドクオを中心として考えると、そうとしか考えられないのだ。通常ドクオ個人がこちらの世界での生活に慣れていくための支援を国がここまでやるだろうか。その時点から大分怪しい。

カップに口を付けて液体を飲み干す。喉の渇きは癒えないしあまり旨くはないが、これ以上の贅沢は言えない。

ショボンがお代わりを取るために立ち上がった時、静かにドアがノックされた。

(´・ω・`)「入れ」

「失礼します」

若い新兵が新たな書類を持って部屋に入ってきた。

「モララー様から中隊を動かす承認を頂きたいとのことです。こちらがその書類になります」

(´・ω・`)「中隊を? 何かあったのか?」

新兵から手渡された書類を捲りながら、ショボンは眉を潜めた。ここ最近大きな事件が立て続けに起きてはいるものの、取り立てて隊を編成する事案は結界消失以外なかったからだ。

隊を編成する、ということは本格的な戦闘を行うという意思表示でもある。魔物でも、人でも戦略を必要とし時間をかけず、効率的に敵を攻め落とすために然るべき戦力を投入するということはそれだけでことは大きくなる。

「はっ。そちらの書類にも記載されておりますが、黒の魔術団と思われる集団のアジトを発見したとのことです」

(´・ω・`)「ほう。ほぼ間違いない、と言えるだけの材料が揃ったということか」

この短時間でモララーもよくやってくれたものだ、とショボンは部下の有能さに心で称賛を送った。

しかし、この状況で中隊を投入するという選択は些か早計すぎやしないか、とも思う。

現在王都にはまとまった戦力が残っていない。治安維持のための組織はお飾りのようなものだし、学校にいる教師も戦力としては心許ない。何かあった場合、再び成長仕切っていない生徒達を投入しなくてはならないというのは、あまり好ましくない。

となれば、ショボンが取れる選択肢は━━

182 名前: :2014/06/05(木) 23:32:34 ID:V0EQBG/A0
(´・ω・`)「隊は出せない。だが、代わりの戦力をこちらから出そう」

「は? と言いますと?」

(´・ω・`)「最近やってきただろう。騎士団に所属してはいないが、戦力になる人間が」

結界消失時、命をかけて避難所の人達を守り、時計塔広場で大立ち回りを演じた忌み子と同じ髪の色の男。

「まさか、例の男ですか? お言葉ですが副団長、彼は騎士団内部でもよく思われてはおりません。戦力としては申し分ないかもしれませんが、統率がとれるか……」

(´・ω・`)「何、それに関しては問題ないさ。私とドクオ、それにモララーが出る」

「副団長!? 正気ですか!?」

(´・ω・`)「多くの兵が遠征に行っている以上王都を手薄にするわけにはいかない。兵の代わりはいないが、私の代わりに指揮を取れるものはごまんといる」

「しかし……」

(´・ω・`)「話は以上だ。詳しい話はモララーとドクオを含めてすると伝えておけ」

ショボンがそう締め括ると、新兵は不安げな顔をして部屋を出ていった。

悪いことをしたかな、とも思うがショボンは大して気にもとめず、今度こそ飲み物を取りに立ち上がった。

183 名前: :2014/06/05(木) 23:33:36 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

渡辺とツンはヴィップラ地区のオープンカフェでお茶をしていた。もちろん誘ったのは渡辺からで、あわよくば学校での話し相手くらいにはなれないかなぁと淡い期待を抱いていたのだが……。

从;'ー'从(ふえぇーん、会話がないよぅ)

二人の間には一切の会話がなく、渡辺はひたすら紅茶のお代わりを頼むしかなかった。

ξ--)ξ「……」

正面に座るツンは始めに自己紹介をしたきり口を閉ざしたままである。話しかけるなといったオーラは出ていないが、この巻き毛の少女、なかなかに勝ち気そうな見た目をしていて渡辺のようなチキンハートには話しかけづらい雰囲気を漂わせているのだ。

かといって誘った手前、何かを話さなきゃと話題を探すのだが、同年代の友人などいない渡辺は何を話せばいいのかわからないのである。しぃは騎士団とはいえ年下だったので気兼ねなく話せたのに、こうも勝手が違うのかと渡辺は半ば泣きそうになっていた。

184 名前: :2014/06/05(木) 23:34:20 ID:V0EQBG/A0
ξ゚听)ξ「あんた馬鹿ね」

カップをテーブルに置いたツンが、不意に口を開いた。その姿はどこか気品があり、深淵の令嬢なんて言葉がしっくり来るような振る舞いだった。

ξ゚听)ξ「私とあんた、年齢なんかほとんど変わらないのに怯えすぎよ」

从;'ー'从「あぅぅ……」

ξ゚听)ξ「あんた例の忌み子でしょ? だから気を使ってるってわけ?」

从'ー'从「っ……」

<忌み子>という言葉をツンが口にした瞬間、渡辺はこの場から逃げたしたくなった。

本当は心のどこかで期待していたのだ。あの時自分を助けてくれた彼女なら、そんな言葉など関係なく一人の人間として接してくれるのではないかと。

学校という閉鎖された場所で、そばにいてくれる存在になってくれるかもしれないと。

だが、ツンは口にしてしまった。絶対に聞きたくなかった言葉を。

从 ー 从「あはは、ごめんなさい。私みたいな忌み子が、生意気に━━」

ξ゚听)ξ「だから馬鹿だっていってんのよ」

从'ー'从「!?」

ξ゚听)ξ「あんた<忌み子>って言葉に甘えすぎてない? そんなだから周りに舐められるのよ。自分は自分だって強く持てないから馬鹿にされるの」

从;'ー'从「で、でも、私は」

ξ゚听)ξ「でももへちまもないっての。自信のなさが体全体から滲み出てる。学校であんたのこと何回か見たことあるけど、いっつも下向いて全部の不幸を背負ったような顔をして、私そういうやつ嫌いなのよ」

从 ー 从「だって、仕方ないよ。私は<忌み子>で、許されない存在なんだもん。周りに不幸をばら蒔いて、破滅をもたらす人間で……だから……」

ξ゚听)ξ「けど、あんた人を救ったわよね。結界が消えたとき、身を呈してさ」

从'ー'从「ふぇ?」

ξ゚听)ξ「ひょろっちい冴えない顔した男のこと庇って戦ってたじゃない。それこそ沢山の魔物に囲まれて、勝ち目の薄い戦いに」

从'ー'从「それは……」

ξ゚听)ξ「なかなかできることじゃないわ。誰だって自分の身が可愛いものよ。それでもあんたは戦った」

ツンはどこまでも真っ直ぐに、渡辺の瞳を見つめる。渡辺はその視線から目を反らせない。

ξ゚听)ξ「もういいんじゃない? 自分を卑下するの。自信持ちなさいよ」

185 名前: :2014/06/05(木) 23:35:05 ID:V0EQBG/A0
从'ー'从「……」

ξ゚听)ξ「私さ、あの時近くにいたの。魔物が沢山沸いてくるなか、どうしていいか分からなかった。本物の戦場を見て何も出来なかったの。死んじゃうかも知れないって思ったら足がすくんじゃった。普通の人だったらみんなそうだと思う。あんな大きな魔物を見れば誰だって怖いわ」

从'ー'从「あれは、どっくんが……」

ξ゚听)ξ「理由なんてなんでもいいのよ。命をかけて戦った、この事実はどうやったって変わらない。あんたは胸を張っていいの。<忌み子>だろうとなかろうと、ね」

渡辺はツンの言葉を心の中で反芻する。戦った理由は些細な理由だ。初めて触れた優しさにすがっただけの、偽善、依存。けして褒められたものではない。

けれど、目の前の少女はその事実でさえ認めてくれている。お前はよくやった、と。誰にも真似できないことをやってのけたんだ、と。

ξ゚听)ξ「ねえ、私はあんたと友達になりたいなって、ずっと思ってたんだけど、あんたは<忌み子>だからって拒否するの?」

从'ー'从「私といたら、きっとツンちゃんも変な目で見られるよ?」

ξ゚听)ξ「勝手に言わせとけばいいじゃない。肝心な時に何もできない腰抜けどもより、私はあんたのことをもっと知りたい。<忌み子>だとか言われても、誰かのために動けるあんたと私は一緒にいたい」

ツンはそう言ってにこりと笑った。渡辺の全てを知り、それでも渡辺を知りたいのだと言ってくれた。

この手を、取ってもいいのだろうか。

信じてもいいのだろうか。

一人で歩くことしか出来なかった自分は、誰かと共に歩いても許されるのだろうか。

从'ー'从「私は……」

それでも、心が求めている。暗く深い孤独の道から解放されることを。

誰かと繋がっていたい、誰かと話してみたい。

それを理解した瞬間、渡辺は溢れる涙を止めることが出来なかった。

从;ー;从「ふえぇー」

ξ;゚听)ξ「ちょ、ここは泣くとこじゃないわよ。笑顔でよろしくっていうとこでしょ」

从;ー;从「よろしくだよぉ」

ξ;゚听)ξ「あーもう、これ使いなさい。まったく、子供じゃないんだから」

ツンがハンカチを差し出してくる。そんな些細なことがどうしようもなく嬉しかった。

186 名前: :2014/06/05(木) 23:36:18 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

('A`)「で、説明をお願いします」

日が完全に沈み一番星が輝きだした頃、ショボンの執務室に呼び出されたドクオはいの一番にそう尋ねた。

この場にいるのはドクオの他にモララーとショボン、プラス監視役のしぃ。誰も彼も難しい顔でドクオは居心地が悪い。

( ・∀・)「副団長の前だ。もう少しシャキッとしろ」

('A`)「俺は騎士団じゃないんですが」

(´・ω・`)「構わん。そのまま聞いてくれ」

椅子に深く腰かけたショボンが近くにあった端末を操作すると、三人の前にいくつかの文字が浮かび上がった。

(´・ω・`)「今回君たちを呼び出したのは、王都の近くに潜伏している黒の魔術団のアジトの襲撃のためだ」

('A`)「は」

あまりに物騒なショボンの言葉にドクオは思わず絶句した。

( ・∀・)「ま、申請書を出した私からしてもこうなるんじゃないかと薄々思ってましたよ」

('A`)「ちょ、ちょっと待ってください。今襲撃って言いましたよね? なんで俺が呼び出されたんですか?」

あまりにも予想をかけ離れた話に、ドクオは狼狽する。自分はたまたま巻き込まれただけで、戦闘力など皆無である。戦いかたなどほとんど分からない。

(´・ω・`)「それも含めて私から話そう。以前からモララーに頼んでいた黒の魔術団の動向についてなのだが、モララーの力によって潜伏先が判明した。しかし、皆も知るように現状王都には戦力が少ない。残っているのは殆ど魔法が使えるだけの非戦闘員だ」

( ・∀・)「ジョルジュ団長達が遠征に行っていますからね」

(´・ω・`)「残り少ない戦闘員を使ってしまっては王都の守りが薄くなってしまう。そこで、私は少数精鋭にて短期決戦をかけることにした」

(*゚ー゚)「それがこのメンバーということですか?」

187 名前: :2014/06/05(木) 23:37:29 ID:V0EQBG/A0
(´・ω・`)「うむ。敵の有する戦力が未知数である以上、下手な戦力では逆に返り討ちにされかねないからな」

('A`)「だからどうして俺がいるんですか」

( ・∀・)「お前はここに来てから二回の戦闘を経験してるだろ。どっちとも並みの実力じゃ生き残るのは難しかった」

(´・ω・`)「加えて、君には不思議な力がある。報告書で読んだよ。なんでもニダーの魔法を消したそうじゃないか」

('A`)「……」

確かにドクオの記憶違いでなければそんなこともあったような気がする。とは言え、過去の戦闘は偶発的に巻き込まれ、たまたま生き残れたに過ぎないとドクオは思っている。

(´・ω・`)「こんな状況だからな、我々騎士団もあまり多くの選択肢がない。力を貸してはくれないだろうか」

ショボンは立ち上がると、深々と頭を下げる。

('A`;)「いや、あなた偉い人でしょ? 頭下げちゃ駄目じゃないですか」

( ・∀・)「それくらい切羽詰まってるってことくらい分かれ。騎士団のナンバーツーが頭下げるってことは、そういうことなんだよ」

(*゚ー゚)「やはりお馬鹿さんですね」

('A`)「なんか俺が悪いみたいになってるんですけどー」

どうやら逃げ場はないようだ。それに、こちらに来てから何から何まで世話になっている。

ドクオは深々と溜め息を吐いて、

('A`)「まぁ分かりましたよ。とは言っても、あんまり期待できないと思いますよ? ろくすっぽ運動なんてしたことありませんし」

(´・ω・`)「構わないさ。不確定な要素も多分に含んでいるからな。さて、ドクオの了承も得られたことだし、具体的な話に移ろう」

ショボンが浮かんだ文字と地図を用いて話を進めていくが、ドクオはあまり頭に入っていなかった。

何せド素人である自分が本格的な戦場に赴くのだ。気が気ではない。

('A`)(確かにこういう展開を妄想しなかった訳じゃないが、なんかなぁ)

話し合いが進むなか、ドクオは自分の命ってなんだろうとつくづく思うのだった。

188 名前: :2014/06/05(木) 23:38:27 ID:V0EQBG/A0




話し合いが終わり、ショボンとモララーだけが部屋に残っていた。先程のような張りつめた空気はどこにもない。

( ・∀・)「しかし、本当にあいつを使うつもりなんですか? 言っちゃ悪いですが、足手まといですよ」

モララーは何でもないように言うが、実際は不安でならなかった。異世界から来た謎の男、加えてその実力は未知数。戦闘に関しては昼間の様子では期待できそうもない。

おまけに黒の魔術団の目的が彼の持つ魔剣であることは一目瞭然。もしかしたらドクオそのものも目標に入っているかもしれないのだ。そんなものを連れて歩いてはこちらに危険が及ばないとも限らない。

(´・ω・`)「お前の言いたいことも分かるさ。だが、どうにも胸騒ぎがするんだ」

( ・∀・)「と言いますと?」

(´・ω・`)「ドクオは、いや魔剣は、本当に黒の魔術団だけが狙っているんだろうか」

( ・∀・)「はい?」

(´・ω・`)「お前も変だと思わないか? ここまで、彼を中心に全てが動いていることに」

189 名前: :2014/06/05(木) 23:39:14 ID:V0EQBG/A0
( ・∀・)「ま、確かにそれは俺も思っていたことではあります。ですが、仮にそれが本当だとすれば、俺たちは何を信じて剣を取ればいいんでしょうかね」

騎士団とは国を守り、街を守り、人を守るための組織だ。悪を挫き、弱きを守る、そのために手段は撰ばない。

しかし、仮にその悪が守るべきはずのものだとしたら、騎士団とは何のために戦えばいいのか。

(´・ω・`)「もちろん杞憂であることを願うばかりだが、それでもその時が来たときのことを覚悟しなければならない」

( ・∀・)「俺達は騎士団である前に一人の人間です。いつだって自分が可愛いもんですよ」

(´・ω・`)「それも真理だな。しかし僕達が持つ誇りや信念が嘘ではないと民衆に啓蒙しなければならない。それが出来なければ騎士団なんていう組織は必要あるまいさ」

( ・∀・)「副団長ともあろう方がそんなことを言っていいんですか? 下が聞いたら泣きますよ」

(´・ω・`)「何が大切かを自分の意思で決められないのなら、死んでいるも同然だ。そんな腰抜けなどこちらから願い下げだ」

( ・∀・)「そいつはごもっともですね。俺だったらその場で打ち首です」

(´・ω・`)「そのためにも僕達は確かめなければならない。すでに賽は投げられている」

( ・∀・)「裏目に出ないといいですがねぇ」

(´・ω・`)「その時はその時さ。あちらではジョルジュがブーンに接触を図ったと聞くし、面倒ごとはあいつがなんとかするだろう」

( ・∀・)「上に立つ方々は背負うものが多いですね。俺はこれ以上持てませんよ」

そう言ってモララーは背を向ける。

(´・ω・`)「お前も気付かない間にこうなるんだよ」

ショボンの言葉に、モララーは何も言わずに部屋を出た。

190 名前: :2014/06/05(木) 23:41:01 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

从'ー'从「えっとねー、それでどっくんがねー」

渡辺と話すようになってから数日、ツンは何度も聞いたどっくん━━ドクオの話に辟易していた。

今までろくに人付き合いのなかった渡辺にはどんな話題が適切なのかもよく分からないのだろうが、それにしたって口を開けばドクオドクオ、たまに魔法理論というのはいかがなものか。傍目にはノロケにしか聞こえない。

それに文句も言わず付き合う自分もどうかとは思うが、楽しそうに話す渡辺を見ると、一生懸命に気を引こうとする子犬のように見えるのだ。

要するに、可愛い。

ξ゚?゚)ξ「あーもう、ドクオの話は分かったわよ。それよりもあんた昇級試験の資料は出来上がったの?」

从'ー'从「えー、ここからがいいところなんだよぉ」

ξ゚?゚)ξ「ってまだ半分くらいしか出来てないじゃない。このままじゃまた見習いのままよ?」

从'ー'从「うー、でもでも、頭の中ではもう完璧に出来上がってるんだよぉ〜」

ξ゚?゚)ξ「だったらそれをきっちり書け! 手を抜くな! この年で見習いだなんてあんたくらいのもんよ?」

从'ー'从「はぁ〜い」

少し膨れた渡辺が再び資料に向かうのを見て、ツンはクスリと笑う。表情がコロコロ変わる彼女は見ていて飽きない。

周りは<忌み子>だ<悪魔>だと騒ぎ立てるが、彼女を知れば知るほどそんなものとは無縁の存在だと感じる。元々が心根の優しい子なのだろう。自分とは正反対だ。

191 名前: :2014/06/05(木) 23:41:43 ID:V0EQBG/A0
ξ゚听)ξ(羨ましいな。私はこんな風になれない)

よってたかって虐げられて、それでも健気に前を向けるだろうか、と自問する。自分には無理だ。プライドの高い自分はきっと周囲の期待通り世界を憎み、他人を怨み、心の底から全てをぶち壊してやろうと動き続けるだろう。

それほどに、<忌み子>という悪習は深く根を張ってしまっている。

ξ゚听)ξ「ねえ渡辺、あんたは……」

言いかけて、やめた。

聞いたところでそんなものは自己満足だ。こうして渡辺のそばにいること自体どうしようもなく後ろめたいのに、さらに恥を上塗りしてどうするというのか。

从'ー'从「なぁに〜?」

ξ゚听)ξ「救いようがないくらい馬鹿だって言おうとしたのよ」

从'ー'从「さっきから馬鹿馬鹿言わないでよぉ〜」

この心地よい時間がいつまでも続けばいいのに。

そんな願いは絶対に叶わないことをツンは知っている。

そのために、ツンはここにいるのだから。

192 名前: :2014/06/05(木) 23:42:37 ID:V0EQBG/A0




王都からそれほど離れていない小さな廃村に、数人の魔法使いが集まっていた。ドクオがよく見るような三角帽子にマントといった格好ではなく、各々好きなファッションに身を包んだ━━どちらかと言えば厨二的なファッションである。元いた世界であれば彼らはドキュンと評されるだろうなとドクオは思う。

('A`)「いっぱいいますよ、あれ」

後方にいるモララーは奇襲のために使う設置型の魔法陣をそこかしこに設置しながら心底どうでもよさそうに答えた。

( ・∀・)「よかったな、沢山遊んでもらえるぞ」

('A`)「この場合男である俺はどんな目に合うんでしょうか」

( ・∀・)「なぁに死にはしないさ。死んだ方がましだろうけどな」

('A`)「俺なんでここにいるんだよ」

モララーはそこで興味をなくしたらしく、ドクオの言葉に返事をせず、代わりに偵察から帰ってきたショボンとしぃに声をかける。

( ・∀・)「どんなもんですか?」

(´・ω・`)「予想通りってところか。大がかりな陣を組んでいるところを見ると、それなりに重要な拠点だろうな」

(*゚ー゚)「しかし、いるのはしたっぱばかりな気もします」

('A`)「大事なところを留守にするっておかしくないか」

193 名前: :2014/06/05(木) 23:43:45 ID:smIulIUk0

(´・ω・`)「何、さっさと終わらせて吐かせればいい話さ」

( ・∀・)「まったくもってその通り。最近書類とのデートばかりで運動不足なんだ。派手に踊らせてもらうぜ」

(´・ω・`)「では、そろそろ所定の位置につこうか。合図はモララーに任せるぞ」

( ・∀・)「了解」

(´・ω・`)「ドクオはモララーから離れるな。万が一が発生したら身を隠して動くなよ。連絡手段は分かってるな?」

('A`)「了解」

(*゚ー゚)「副団長」

(´・ω・`)「ああ。行くぞ」

二人が所定の位置に付いたらドクオの端末に連絡が来る。あとはモララーのタイミングで突入だ。

('A`)「一応付け焼き刃の戦闘法は教わったけど、どこまで通用するのやら」

この数日、みっちりと剣術を叩き込まれたがはっきりいってうろ覚えである。構えだとかの基本をすっとばしてひたすら打ち合いをさせられた。あれが本番だったならドクオは軽く三桁は死んでいるだろう。

194 名前: :2014/06/05(木) 23:45:01 ID:smIulIUk0

( ・∀・)「あんなんでろくに戦えるわけあるか。お前は黙って隠れてりゃいいんだよ」

('A`)「だったら連れてこなきゃいいだろうに……」

悪態を吐いて、ドクオは煙草に火をつけた。命のやり取りだ、落ち着かなければ。

('A`)y━・~~「うまー」

こちらの煙草は値段が安い分味もマイルドであまり吸った気にならないが、ないよりはましだ。

( ・∀・)「なんだお前も煙草吸うのか。どれ、一本寄越せ」

('A`)y━・~~「モララーさんも喫煙者なの?」

( ・∀・)y━・~~「ふー。今はあんまり吸わないけどな。昔は戦場でよく吸ってた。気持ちが昂っちまうから落ち着くために、って感じでな」

('A`)y━・~~「似たような理由なんだな、どこも」

二人の煙草が根本まできっちりと灰に流れた頃、ドクオの端末に作戦開始の合図が入る。

( ・∀・)「さってと、派手に暴れさせてもらうか」

モララーが魔法陣を発動させる。そこから大小様々な球体が打ち上がり、眼下にいる魔法使い達に向かっていった。

( ・∀・)「いっくぜぇ!!」

爆音。周辺で巻き起こる爆発に敵は混乱し、右往左往している。その隙にモララーは空高く舞い上がり、持っていた多節式の槍を組み上げた。

( ・∀・)「ショウタイムだっ!!」

195 名前: :2014/06/05(木) 23:45:45 ID:smIulIUk0
◇◇◇◇

アジト襲撃の連絡を受けた彼女はクスクスと笑う。ここまで思い通りに動くともはや笑うしかない。何処までも愚かな連中だ。

川д川「作戦は順調、そしてここに恐れるものはいない。狙いは一つ、すでに手は打ってある」

彼女の視界にいるのは何も知らず、朗らかに過ごす一人の少女。今も幸せそうに最近出来た友人と喋りながら歩いている。

从'ー'从ξ゚听)ξ

自分が何者で、どんな存在で、何のために生きているのか。無知は罪だ。無知は言い訳にならない。

川д川「うふふ。これからが本当のパーティーよ。素敵な輪舞を踊りましょう。何から何まで仕組まれた絶望の輪舞を、ね」


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