- 89 名前:1 :2014/05/31(土) 17:59:44 ID:OugCCYE.0
第二話「新たなる生活」
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- 90 名前:1 :2014/05/31(土) 18:01:19 ID:OugCCYE.0
- (´・ω・`)「なるほど。実に興味深いね」
ショボンは自室にて報告書に目を通していた。昨日の王都結界消失事件の事後報告である。
( ・∀・)「本人は記憶喪失だなんて吹いてましたけどね」
(´・ω・`)「だがそれだけでは今回の犯人だとは言い切れないだろう」
( ・∀・)「もちろんです。が、無関係ってことはない。現にドクオを狙うかのように召喚陣が現れています」
(´・ω・`)「ふーむ」
ショボンはむっつりと虚空を見つめる。報告書では禍々しい赤黒い剣を持って魔物の存在を文字通り<消滅>させていたらしい。それまで武器と呼べるものを持っていなかったにも関わらず、立ち上がった時には持っていた。
加えて人外の言葉を発し、戦闘を楽しむかのような振る舞いは、すでにーー。
(´・ω・`)「悪魔、か」
- 91 名前:1 :2014/05/31(土) 18:02:22 ID:OugCCYE.0
- ( ・∀・)「例の忌み子と同じ髪の色ですしね。無関係ではないんでしょう」
(´・ω・`)「なんにせよ、一度彼に話を聞くほかないだろうね。それに、例の件もある」
( ・∀・)「関係があるんでしょうか」
(´・ω・`)「様々な情報を組み合わせて柔軟に考えていかないと、国は守れないぞ」
( ・∀・)「それじゃあどうします? ドクオの件は俺がやりましょうか?」
(´・ω・`)「いや、私がやろう。モララーは黒の魔術団を」
( ・∀・)「了解」
モララーが出ていったあと、ショボンは部屋の窓から空を見上げる。騎士団の尽力により結界は元に戻ったが、王都では未だ深く傷痕を残している。
(´・ω・`)「彼は僕たちの敵なのか、味方なのか。出来れば戦いたくない相手だな」
敵の戦闘力が未知数であるし、何より彼は民間人でありながら被害を最小限に食いとどめてくれた功労者でもあるのだ。
これが杞憂で終わればいい、とショボンは願わずにはいられなかった。
- 92 名前:1 :2014/05/31(土) 18:03:31 ID:OugCCYE.0
- ◇◇◇◇
王都にあるとある病院の一室で、ドクオは目を覚ました。
( A )「……ん」
あれから一体どうなったのか。渡辺は無事だったのだろうか。そもそも自分は本当に生きているのだろうか。
様々な疑問が浮かんでくるが、とりあえず体を起こしてみる。特に痛むところもなく、至るところに包帯が巻いてある以外は健康そのものだと言えそうだ。
('A`)「そうだ、渡辺は!?」
病室には自分一人だけのようで、他には見当たらない。まさか、と最悪の事態が脳裏によぎる。
ドクオが急いでベッドから降りようとしたとき、がちゃりとドアノブが回った。
从'ー'从「あ」
そこから現れたのは渡辺だった。手には花瓶を持っており、一輪の花が差されていた。
('A`)「わ、渡辺……無事d」
从;ー;从「どっくん!!」
- 93 名前:1 :2014/05/31(土) 18:04:55 ID:OugCCYE.0
- 言い終わる前に渡辺が抱きついてきた。女の子特有の甘い匂いと柔らかさがドクオを包み込んだ。
('A`)(わんだほー)
鼻の下を伸ばすドクオと対照的に、渡辺は体を震わせている。小さく嗚咽が聞こえてくるところを鑑みるに、どうやら泣いているらしい。
从;ー;从「よかったよぉ、目覚めてくれた。心配、したんだからぁ」
('A`;)「あー、その、心配かけて、悪かったよ」
女性の涙には一生縁がないと思っていたドクオは狼狽えるしかなかった。だが、女の子が自分のために泣いてくれているという事実は案外悪くないなぁと得意気になってみたりする。
从;ー;从「どこか痛いところは? 何があったか覚えてる?」
('A`)「そうだ。なぁ渡辺。あのあと、どうなったんだ? 俺は何日寝てた? 魔物は? 避難所の人達は?」
ドクオが矢継ぎ早に質問すると、涙をぐしぐしと拭った渡辺が怪訝そうに答えてくれた。
从'ー'从「ほえ? えと、どっくんは三日間寝たきりだったよぉ。それで魔物はどっくんが全部倒したじゃない。避難所の人達もみーんな無事だよぉ」
('A`)「……俺が?」
どういうことだろうか。ドクオの記憶では渡辺に止めを刺そうとした魔物の一撃を食い止めるために自分は力を振り絞って、爪が、体をーー。
貫いていた、はず。
ドクオは穴が開いているであろう心臓部へ手を当てる。
ーー穴が、ない。
- 94 名前:1 :2014/05/31(土) 18:05:49 ID:OugCCYE.0
- どころか、傷一つなかった。
('A`)(どういうことだ? 相当ぼろぼろだったよな? それとも、これも魔法なのか?)
从'ー'从「お医者さんもねー、びっくりしてたよぉ。あんなにぼろぼろだったのに、すごい早さで傷口が塞がっていったんだってー」
まさに奇跡だって。
('A`)「奇跡?」
そんなはずはない。ドクオの体は何の変鉄もない一般人よりもスペックが低いもやしなのだ。他人より傷の治りが早いという特徴があったとしても、こんなに早く傷が塞がるだなんてあり得るのだろうか。
ましてや、心臓を貫かれて、生きている人間がこの世界にいるのか。
从'ー'从「どっくん?」
('A`)「渡辺は、俺が魔物を倒したっていったよな。どうやって倒したのか覚えてるか?」
从'ー'从「うん。えっとねぇ、そこにある剣で魔物をばしっばしって」
渡辺が指差したのは見たことのない赤い刀身の両刃剣だった。手に取り、鞘から出してみる。装飾もどこか禍々しく、見るものに不快感を与えるような代物だ。
('A`)(なんだ、これ)
見覚えのないそれは、ドクオに恐怖を与える。理由は分からない。だが、ドクオにはその剣が畏怖の象徴のようにしか思えなかった。
从'ー'从「どうかしたの?」
- 95 名前:1 :2014/05/31(土) 18:06:37 ID:OugCCYE.0
- 渡辺が瞳に涙を浮かべながら尋ねてくる。駄目だ、今は考えないようにした方がいい。渡辺を無駄に心配させてしまう。
ドクオは剣を鞘に戻しながらできるかぎり優しい声で言った。
('A`)「いや、なんでもないよ。それにしても渡辺は俺のことずっと看ててくれたのか?」
从'ー'从「うん。命の恩人さんだし、それに……」
从//ー//从
('A`)「それに?」
从//ー//从「な、なんでもないよぅ!! うぅ、どっくんのばかぁ」
とりあえず誤魔化すことには成功したようだ。しかし、何故怒られたのだろうか。
从//ー//从「えと、きょ、今日は帰るね!! また明日来るから!!」
顔を赤くしたまま渡辺は逃げるように病室を飛び出していった。直後にがしゃーん!! と大きな音が聞こえてきて、必死に謝る渡辺の声が響いてくる。
('A`)「……なにやってんだあいつ」
- 96 名前:1 :2014/05/31(土) 18:07:29 ID:OugCCYE.0
- ◇◇◇◇
从//ー//从(うー、まだドキドキしてるよぉ〜)
ナースとぶつかり機材をド派手にばらまいてその後片付けを手伝ったあと、渡辺は胸に手を当てて先程自分が口走りそうになった言葉を思い出していた。
言葉にすれば簡単な感情だが、それを相手に伝えるとなると半端ではない覚悟が必要になる。ましてや出会って数日、きちんと話したのはほんの少し。その短いやり取りの中で芽生え感情は渡辺自身本物かどうかよく分からない。
人の悪意に触れながら生き続けたのだから普通の人間が普通に経験するような出来事も渡辺にとっては理解の範疇を大きく外れているのだ。
しかも誰もが彼女を人として見ていないこの世界で、彼だけは人間として、女の子として扱ってくれた。たったそれだけのことが渡辺にとって何よりも嬉しいことだった。
从'ー'从「どっくんは私のことどう思ってるのかなぁ」
意中の異性を思う女の子とはこんな思いで毎日を生きているのかと思うと、渡辺はその人たちを尊敬せずにはいられなかった。彼を思うだけで胸がぎゅっと締め付けられるようだし、体は大丈夫なのか、ご飯は食べられるのか、などと様々な感情が渡辺の中でぐるぐると渦巻いていく。
- 97 名前:1 :2014/05/31(土) 18:08:14 ID:OugCCYE.0
- 渡辺にとってのドクオとは、お話の中に出てくる勇者や王子様のような存在だ。誰もが見てみぬふりをする悪に憤り、あの絶望的状況さえも切り抜けた。
从'ー'从「でも、記憶喪失なんだよね」
記憶を失ってなおあれだけの力を発揮したということは、元々どこかの騎士だったり、戦場を渡り歩いた傭兵だったのだろうか。他国では未だ内紛が絶えないとところもあると先生も言っていたし。
だとすれば、戦いを楽しむような狂気は彼の本質なのだろうか。先程の様子ではそのような素振りは一切なかったように思えたが。
从'ー'从(ちょっと、ほんのちょっとだけど、あの時のどっくんは怖かったかも)
本心を言えば、笑みを浮かべなから魔物を躊躇なく切り伏せるドクオに渡辺は怯えていた。普段の彼からは想像もできないあの顔はニダーが見せた嗜虐的なものとは違うように感じたのだ。
ニダーは無抵抗の悪を殺すことで自分が英雄になれるのだと思っていたが、ドクオのそれは似ても似つかぬ殺すことそのものを楽しんでいたように見えた。
この二つは似ているようで全く別物だ。何しろ目的がかけ離れているのだから。
从'ー'从(でも、それを私が怖がったらどっくんもこの世界で一人ぼっちだもん。私は絶対に、何があったってどっくんの味方でいるんだ)
記憶を失い、宛のない彼を一人になんてさせない。これは渡辺が自分に課す最大の任務だ。
大好きで、尊敬できる彼のそばに。
渡辺はそのために、何ができるのか、何をすべきなのかを考えながら帰路につくのだった。
- 98 名前:1 :2014/05/31(土) 18:09:39 ID:OugCCYE.0
- ◇◇◇◇
それから数日が過ぎた頃、未だドクオは退院できないでいた。体は健康そのものだというのに、人体を構成するマナが大幅に失われており、実生活に支障をきたす可能性が高いとのことだった。
渡辺の説明によると、マナというのは魔力と違い自然界に湧いてでるようなものではなく、人間や動物などの生命体が生きていくために自分で作り出すものなのだそうだ。
マナがなくなれば命に関わると言われてしまい、ドクオとしてもせっかく拾った命である以上大人しくせざるを得なかった。なにより渡辺があれこれと世話を焼くので病院生活も満更ではないなぁという感じである。
('A`)「にしても、病院がタダってのはすごいなぁ」
从'ー'从「そうかなぁ。成人したらたくさん税金を払うんだよぉ? ずっと健康だったらちょっともったいない気もするよ〜」
('A`)「必要経費だろ。万が一ってこともあり得るしさ」
从'ー'从「どっくんは大人だねぇ」
元いた世界では税金なんてろくに支払ってこなかったが、渡辺にはそれを知るよしもない。美少女の前では格好いいことを言いたい年頃なのである。要はばれなきゃいいのだ。
('A`)「それに病院に行かなきゃ生きていけない人もいるだろうし、人助けしてると思えば安いもんだよ」
从'ー'从「なるほど〜。どっくん頭いいね〜」
('A`)「いやー、それほどでも……あるよ」
- 99 名前:1 :2014/05/31(土) 18:10:39 ID:OugCCYE.0
- こんなくだらない会話も出来るくらいには仲良くなった二人だが、実はお互いのことをあまりよく知らない。ドクオは記憶喪失という設定があるため迂闊なことは言えないのだが、渡辺があまり自分のことを話そうとしないのが原因だった。
話したくない理由もあるのだろうが、ドクオとしては渡辺のことをもっとよく知りたい。恋人関係になりたいとかそういうわけではないが、友達ゼロの童貞歴イコール年齢である男にとって美少女を深く理解したいと思うのは普通ではないだろうか。
('A`)(まぁ時間はたっぷりあるし、今後色々話す機会もあるだろ。ゆっくりでいいか)
ゆくゆくはなんでも話せる間柄になりたいとドクオは密かに計画を立てている。
何せこの世界にきて初めて、いや、ドクオの人生において初めての友人なのだ。それに、現実に絶望していたドクオを掬い上げてくれたのも渡辺だった。もしあの時渡辺が来てくれなかったらドクオは間違いなく死んでいたのだから。
('A`)(……そういや、俺どうして生きてるんだろうな)
渡辺を魔物が襲ったとき、それを阻止するためにドクオは身を呈して彼女を守ったはずだ。魔物の爪が自分の体を貫く感触は確かに本物だった。あれはそう簡単に忘れることは出来ないだろう。
それに、渡辺は言っていた。あのあとに大量の魔物が現れ、それを殲滅したのはドクオなのだと。
ベッドに立て掛けてある一本の剣へ視線をやる。
('A`)(どうしてこの剣を持ってるんだろう。俺がこの世界に来たことと関係があるのか?)
考えたところで答えは出ない。しかし、全ての出来事が無関係だとは思えない。裏で誰かが手を引いているのは間違いないだろう。
('A`)(この世界に来る前に見た黒の魔術団ってのが関係してるのか?)
だとすれば、やつらは何故姿を見せないのか。他に目的があるのだろうか、それともーー
从'ー'从「ーーって、どっくん聞いてるのぉ?」
- 101 名前:1 :2014/05/31(土) 18:12:06 ID:OugCCYE.0
- 渡辺の声で、ドクオは現実に引き戻された。
('A`)「ん? あぁ、すまん。で、何の話だっけ?」
从'ー'从「むぅ〜。私が話してるのに無視するなんてひどいよぉ〜」
('A`)「悪い悪い」
从'ー'从「何考えてたの〜?」
('A`)「今後の身の振り方とか、まぁ色々。なんせ退院したら宿無しになっちまうし」
从'ー'从「あ、そういえばそうだね〜。どっくんお金持って……ないかぁ〜」
持ってないことはないのだが、こちらの世界では間違いなく使えない。とはいってもたかだか数千円しか入っていないのだが。
从'ー'从「それなら〜、私の家においでよ〜」
と、渡辺が名案とばかりに明るい声をあげた。
私の家においでよ。つまり、一緒に住もうと言うことだろうか?
渡辺と?
俺が?
(゚A゚)「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
きっかり三秒固まってからドクオは思わず大声をあげた。
- 102 名前:1 :2014/05/31(土) 18:13:12 ID:OugCCYE.0
- ('A`;)「あの、渡辺さん? 自分が今何をおっしゃったか意味分かってます?」
从'ー'从「? 一緒に住もうよ〜。私のおうた、一人じゃちょっと大きいんだよぉ」
('A`;)「いやいや、俺男、あなた女。これ分かる?」
从'ー'从「ほえ? どっくん女の子なの?」
('A`)「んなわけあるか。俺のマグナムは普段ちょっと奥手だけどいくときはぐいぐいいくよ? むしろ暴れん棒だからね?」
从'ー'从「そうなんだ〜」
駄目だこの子早くなんとかしないと。絶対意味分かってない。
('A`;)「申し出は確かにありがたいよ? 帰るとこないのは事実だし。けど、一つ屋根の下に若い男と女が一緒ってのは間違いが起こりかねないんだよ?」
从'ー'从「え〜、きっと楽しいと思うな〜。二人でご飯食べたり〜、お散歩したり〜、えとえと、あとはね〜」
ドクオは思う。渡辺は大物か馬鹿のどちらかだと。
というよりは男と女という根本的なところを理解していない。男はいつだって狼なのだ。隙あらばビーストモードに移行して赤ずきんちゃんを簡単に食べちゃうのだ。
- 103 名前:1 :2014/05/31(土) 18:15:49 ID:yMDGY0mY0
- ドクオだってそれは例外ではない。
('A`)「んー、しかし、家がないのは事実なんだよなぁ……」
実に悩み所である。ドクオとしては渡辺と暮らすのは願ってもない申し出だ。男と女という性別の違いを抜きにしてもかなり魅力的だ。しかし、ドクオの理性が持つかどうか。お風呂場でばったり鉢合わせた日にはドクオの暴れん棒は渡辺をいとも簡単に蹂躙してしまうこと間違いなしである。
「ならば私としてはこちらの提案を推奨したいところだな」
思い悩んでいると、扉から声が聞こえてきた。ドクオは咄嗟に身構える。つい先程まで敵のことを考えていたからこその素早さだった。
(´・ω・`)「楽しそうに話をしていたところすまないな。少しばかり失礼させてもらおう」
('A`)「……誰だ?」
警戒を解くことなく、ドクオは短く尋ねる。自分に何ができるとも思えないが、せめて渡辺だけは守らなければならない。
ドアが開き、顔を出したのは、人の良さそうな顔をした好青年だった。モララーのような人を小馬鹿にしたような感じでもなく、落ち着きと品のよさを感じさせる。
从;'ー'从「しょ、ショボン副団長!?」
その顔を見て渡辺がすっとんきょうな声をあげる。
(´・ω・`)「そういう君は、確か渡辺さんだったかな?」
从;'ー'从「なんで私のこと知ってるんですかぁ〜?」
(´・ω・`)「君の話はこの街にいれば有名だからね。とは言っても、こうして顔を合わせるのは初めてかな」
从'ー'从「……」
- 104 名前:1 :2014/05/31(土) 18:16:47 ID:yMDGY0mY0
- 渡辺が押し黙り、ショボンは小さくすまないとだけ言うとドクオの方に向き直った。
(´・ω・`)「名乗るのを忘れていたな。私は王都ヴィップ魔法騎士団の副団長を務めているショボンというものだ。君はドクオ君で間違いないね?」
丁寧に名乗るショボンをじっと見つめ、彼から敵意がないことを悟ると、ドクオはようやく肩の力を抜いた。
('A`)「……騎士団って、モララーとかって人がいた、あれか」
(´・ω・`)「そういえば君はモララーに会っているんだったね。その顔を見ると、あまり好意的ではないようだが」
('A`)「その副団長様がこんなとこに何の用だ?」
(´・ω・`)「別に取って食おうというわけじゃない。今日はラウンジ地区での件のお礼と、君に話があってね」
('A`)「……話?」
(´・ω・`)「話を聞いてくれるかね? 君にとっても悪い話じゃないはずさ。記憶喪失である君にも、ね」
どうやらドクオの情報はあちらにほとんど伝わっているらしい。恐らくモララーが報告でもしたのだろう。
(´・ω・`)「ふむ。ではまず、ラウンジ地区での件、本当にありがとう。君の勇気ある行動が大勢の住民を救った。君がいなければ大勢の命が奪われていたところだ。騎士団を代表して礼を言わせていただく」
('A`;)「あ、いや……そんな大したことは……」
騎士団という組織はよく分からないが、副団長というからには相当偉いのだろう。そんな人物から頭を下げられると、こちらとしても恐縮してしまうのは自分の器が小さいからなのだろうか。
- 105 名前:1 :2014/05/31(土) 18:18:09 ID:yMDGY0mY0
- (´・ω・`)「謙遜はしないでほしい。これは厳然たる事実なんだ。それにその功績を踏まえて君に提案があるのだからね」
('A`)「提案?」
(´・ω・`)「ああ。実はね、騎士団内部でも結界消失事件は極めて異例の事態だったんだ。街のあちこちにある魔力増幅炉と、街の中心にある時計塔の術式を用いて結界を作っているのだが、あれはそう簡単に解除できる代物ではないんだ」
('A`)「……加えて身元不明の男の登場。容疑が懸かるのは必然、ですか」
(´・ω・`)「理解が早くて助かる。しかし、その身元不明の男は命を張って大勢の命を救った。仮に君が容疑者だとしても、得るものは特になかったはずだ」
('A`)「現に大怪我を負って入院してますしね」
(´・ω・`)「深読みすれば我々では考えが及ばない壮大な計画があったのかもしれないがね」
('A`)「ま、否定はできませんね。証明する手だてがない」
(´・ω・`)「報告通り、意外と冷静な人間のようだ。まぁ色々と憶測を並べ立てるのはここでは控えさせてもらおう」
(´・ω・`)「先の件で君は大立回りをしてくれたのは紛れもない事実、そして君は不可思議な力を持ってあの場を切り抜けた。ここで問題なのは結界が消えたこととその不可思議な力だ」
('A`)「力? 俺は魔法も使えなきゃ素晴らしい筋肉も持ってませんよ?」
ショボンは目を細めると、ベッドの横に目を向ける。
(´・ω・`)「その剣は君が使っていたものだろう。違うとは言わないな?」
('A`)「……正直なところは、分かりません」
(´・ω・`)「その時のことを話してくれるかい?」
- 106 名前:1 :2014/05/31(土) 18:19:13 ID:yMDGY0mY0
- ドクオはあの時のことを思い出せるだけ話した。自分が魔物にやられ気を失ったこと、その次に目覚めたのはベッドの上だったこと。そして、いつの間にかこの剣があったこと。
(´・ω・`)「俄には信じがたい話だが、ここに証人がいるのだから、違いないのだろうな」
从'ー'从「どっくんは嘘をついてなんかいません」
(´・ω・`)「疑ってはいないさ。信じがたいというだけでね」
('A`)「それで、俺はどうなるんです? モララーがいってた通り尋問でもします?」
ドクオの言葉にいち早く反応したのはショボンではなく渡辺のほうだった。箒を構えて臨戦態勢をとる。絶対に連れていかせないという固い意志が見え隠れしていた。
(´・ω・`)「そんなことはしないさ。言っただろう、私は提案があると」
ショボンは一旦そこで言葉を切るとドクオの目を真っ直ぐに見つめる。嘘偽りのない純粋な決意のようなものが宿っている。
(´・ω・`)「君を騎士団に迎え入れたい」
それがショボンの提案だった。
- 107 名前:1 :2014/05/31(土) 18:20:21 ID:yMDGY0mY0
- ショボンの説明によれば、ドクオが魔物を退けた力の正体が理解不能なもので、その危険性も去ることながら未知の原理が働いている可能性があり放置しておくことは出来ないのだそうだ。
加えてドクオの素性が知れない以上、一般人として普通の生活を送らせるにはリスクを伴ってしまう。
それならば騎士団の監視が行き渡る所に置いた方がいいというのが騎士団や王族の総意なのだそうだ。
(´・ω・`)「もちろん君の衣食住は全て保証しよう。とは言っても一人にさせておくことは出来ないので一人見張りをつけさせてもらうがね」
('A`)「……」
悪くない、というのがドクオの率直な意見だった。
こちらの世界で宛のない生活に身を置くよりは、監視付きとはいえ生きることはできる。何より、ドクオがこちらに来た経緯を考えればより安全といえる。
('A`)「確かに俺としては願ってもない良条件ですけど、そちらにメリットがあるんですか?」
(´・ω・`)「まず一つに君の生活に制限を与えられるね。監視されてるのだから妙な動きをすればすぐに対応できる」
(´・ω・`)「二つ目に万が一が起こった場合の戦場だ。君の力は未知数だからね。被害がどれ程になるか我々でも予測がつかない。であれば騎士団だけで対応できる方が好ましい」
(´・ω・`)「三つ目は、君への圧力。騎士団に衣食住の全てを任せるということは君を生かすも殺すも我々次第」
うまく考えられている、とドクオは素直に感心する。下手なことをすればいつでもドクオを殺せると圧力をかけていけば、いつかはぼろがでるだろう。
結局のところドクオは信頼されていない。その上で一つの組織ができる最大の譲歩がこれだということなのだ。
- 108 名前:1 :2014/05/31(土) 18:21:15 ID:yMDGY0mY0
- 从;'ー'从「ふえぇー、どっくん騎士団に入るのぉ〜? 学校出てないのにすごいよぉ〜」
(´・ω・`)「厳密に言えば身柄を預かるだけさ」
信頼してもいいのだろうか。騎士団というものが国を守るための組織である以上、先程述べた理由は建前だ。いくらドクオが怪しいといっても身内に率いれるのは相応のリスクが伴う。ならば他に理由があると考えるのが妥当だろう。
例えば、犯人を誘き出すための囮。
騎士団にドクオが入ることで敵はドクオに手を出すことが難しくなる。それを踏まえてでも姿を見せるということはやつらの目的が達せられるのも近いということをさす。
逆にまだ時間がかかるということは実行に移す段階に至っていないことになる。国が総力をあげて守るものを奪うにはそれなりの準備と覚悟が必要になるからだ。その間に騎士団が敵を突き止めればゲームは終わる。
恐らく、ショボンはそこまで見越して提案をしているのだ。
('A`)「分かりました。<ご協力しましょう>」
(´・ω・`)「<こちらとしても手間が省けるよ>」
不意に視線を交わす二人。ショボンの目にはいったい何が写っているのか。どこまで先が見えているのからドクオには想像がつかなかった。
(´・ω・`)「では具体的な日程などは近いうちに使いをよこそう。まずは君の体を治すのが先決だ」
('A`)「分かりました」
(´・ω・`)「失礼する」
くるりと華麗に踵を返すと、ショボンは堂々たる華麗な動作で部屋を去っていった。その後ろ姿はどこか男というものを感じさせた。
- 109 名前:1 :2014/05/31(土) 18:22:06 ID:yMDGY0mY0
- 从'ー'从「ふわぁ〜、まさかどっくんが騎士団に入るなんて思わなかったよ〜」
ショボンが去ったあと、渡辺はそんなことを言った。
そりゃそうだろう。ドクオだって驚いている。
('A`)「まぁあっちはあっちで他の目的があるっぽいけど。にしても、なんかなぁ」
今考えると、提案の一つでもしておけばよかったかなぁと思う。
せっかくの、渡辺との同棲生活。
帰ってきたらお風呂にする? ご飯にする? それともわ・た・し? とか、お風呂場でばったりとか、ロマン溢れる展開が待っていたかもしれないというのに。
从'ー'从「それじゃ〜お祝いだねぇ〜」
ほわわーんとした口調で渡辺が告げる。聞いている者の高ぶった精神を和らげる効果に一旗あげられそうだ。
('A`)「いや、ないな」
この娘にとって男も女も全て等しく<友達>で収まるのだろうことは想像にかたくない。この数日間の生活でそれぐらいはわかるようになったのだ。
普段から頭がお花畑な彼女のことだから先程の提案にも特に深い意味はなかったのだと思う。家がないなら面倒見るよ、的な。
从'ー'从「どっくん住むところ見つかって良かったねぇ〜」
('A`)「ん? まぁ、そうだな。せっかく誘ってくれたのに悪い気もするけど」
从'ー'从「気にしなくていいよぉ〜。それに、この街にいればいつでも会えるもん」
('A`)「はは、違いないな」
ドクオの新しい生活はこうして幕をあける。魔法の世界で、新たな仲間と共に。
- 110 名前:1 :2014/05/31(土) 18:23:06 ID:yMDGY0mY0
- ◇◇◇◇
それからさらに数日後、ドクオは渡辺と共に騎士団の寮へと向かっていた。もちろん渡辺の箒に乗って。
相も変わらす不安定な箒にドクオは渡辺に密着していた。周囲には同じように箒で空を飛ぶ魔法使い達があっちこっちと飛び交っているが、よく落ちないなぁと感心するばかりである。
横に進むだけでなく縦方向にも動いているので体制も不安定だというのに、見ていて安心感があるのはなぜなのだろうか。
('A`)「魔法使いは宇宙に行ってもうまく生活できそうだな」
从'ー'从「ウチュウ?」
ドクオの独り言に渡辺が反応するが、ドクオは何も答えなかった。
('A`;)(あっぶね。俺ってば記憶喪失の設定なのにこんなこと口走っちゃ駄目じゃん)
自分の浮わついた心をうまく押し込めて生活しないと、すぐにぼろが出そうになる。別に記憶喪失を隠さなくてもいいとは思うのだが、簡単に言えば引っ込みがつかなくなっているのである。
渡辺にせよショボンにせよ異世界から来ましたと言えばそれに至るまでの理由をきちんと話せばそれですむ話なのだが……。
会社で小さなミスを隠してたらなんだか大事になっていた時の気分を味わうドクオ、二三歳の夏であった。
从'ー'从「あ、見えてきたよぉ〜」
- 111 名前:1 :2014/05/31(土) 18:25:38 ID:xumOU3Zc0
- どうでもいいことを考えていると渡辺が声をかけてきた。直方体のアパートのような建物がいくつも並んでいるのが見える。どうやらあれが騎士団の寮のようだ。
ドクオとしてはてっきり騎士団本部の土地内にあるのかと思っていたのだが、あくまでその近くにあるだけのようだった。ドクオの知らない機密情報の守秘義務的な色々があるのかもしれない。
('A`)(つっても職場の中に寮がある会社なんか見たことないし、これが当たり前なのか)
渡辺と共に寮の前に降り立つと、ショボンともう一人ーー小さな女の子で渡辺と同様三角帽子をかぶっているーーが二人を出迎えてくれた。
从'ー'从「こんにちはー」
渡辺がにっこりと挨拶をすると、ショボンが柔らかな笑みを浮かべて、
(´・ω・`)「わざわざ出向いてもらってすまないな。本来であればこちらから迎えにいくべきなのだろうが」
('A`)「気にしないでください。住む場所を用意してくれるだけでもありがたいですから」
社交辞令のような挨拶を交わし、ドクオは今最も気になっていることを聞いてみた。
('A`)「この子は?」
(´・ω・`)「む? ああ、君の部屋の隣に住む監視役さ。こんな成りをしているが立派な騎士の一人さ」
(*゚ー゚)「初めましてドクオさん。騎士団特殊魔法遊撃隊所属のしぃといいます。これからお隣同士よろしくお願いします」
('A`;)「お、おぉう」
(´・ω・`)「こう見えて彼女は優秀でね。若干十四歳ながら大魔導師なんだ」
- 112 名前:1 :2014/05/31(土) 18:28:06 ID:rCSdatdo0
- ショボンがしぃの紹介を淡々としているがドクオはその内容がちっとも頭に入らなかった。
隣? 女の子? 監視役?
といった具合に女の子が自分の部屋の隣に住むという事実に混乱していたからである。
('A`)(渡辺が一番可愛いが、いやいやロリというのもこれはこれで)
从#'ー'从「むぅ」
鼻の下を伸ばしていたドクオの足に激痛が走った。渡辺が足を踏みつけたようだ。
('A`;)「ほあぁぁぁぁぁ!!」
从'ー'从「どっくんのバカ」
一瞬自分にフラグが立ったのだろうか、と思うが、もしかしたら渡辺はドクオのだらしなさに怒ったのかもしれないと考え直す。
自分の身の丈を考えなければ後々痛い目に合うのは知っているのだ。
(;*゚ー゚)「あの、大丈夫ですか?」
しぃがドクオの身を案じ、手を差し出すと柔らかい光が体を包み込む。光が消えた途端、ドクオの足の痛みが消えた。
('A`)「……お?」
(*゚ー゚)「回復魔法です。痛みが消えたと思います」
('A`)「これが回復魔法か」
やはりこの世界が元いた世界ではないのだと改めて認識する。
入院中にもいくつか回復魔法を受けてはいるのだが、それらは全てドクオの意識がないところでの話だった。感覚的にはこれが初めて受ける回復魔法なのである。
(´・ω・`)「さて、そろそろ君が住む部屋に案内しよう。私もこれから大事な会議があるのでな」
('A`)「あ、すいません。ほら、渡辺もいくぞ」
从#'ー'从「ぶーぶー」
- 113 名前:1 :2014/05/31(土) 18:29:17 ID:rCSdatdo0
- 膨れている渡辺の手を引きながら、寮へと向かう。白い壁で作られたアパートのような外見通り、ドクオの世界でよく見たタイプとほぼ同じ内装のようだ。
いくつかの棟に分かれ、その間に二階へ上る階段、内装は知らないが格安の市営アパートのようにも感じる。
建物は二階までしかないようなので高さはない。横幅を考えれば間取りはそれなりに広いのかもしれない。
(´・ω・`)「ここがドクオ君が住んでもらう部屋だ」
ショボンが立ち止まった部屋はアパートの右端の二階である。ということは、その反対側にある扉がしぃの住む部屋なのだろうか。
中に入ると玄関があり、左側にキッチン、右側にトイレとシャワールーム。奥に進むと六畳ほどの部屋が二つ並んでおり、二部屋を区切るようにスライド式のドアがあった。
('A`)「いい部屋ですね」
(´・ω・`)「最近改装したばかりだからな。このくらいなら住むのに困らないだろう」
すでに家具などは運び込まれているようで、あちらこちらに梱包用と思われる箱が散乱していた。必要最低限の家具とはいえ、結構な量である。
- 114 名前:1 :2014/05/31(土) 18:32:09 ID:Hky.zwyE0
- (´・ω・`)「他に必要なものがあればこれで連絡してくれ。とはいっても審査があるだろうからすぐには手に入らないだろうがね」
そういってショボンが渡してくれたのは小さなタブレットのような端末と、お金が入った袋だった。端末の方は見た感じこの世界での携帯電話のような役割なのかもしれない。
('A`)「いやー、これで十分ですよ」
ドクオが端末をいじくりながら答えると、後ろのほうから渡辺の楽しげな声が聞こえてきた。
从'ー'从「あー、どっくん見てみてー。トイレとお風呂が別々だよぉー」
('A`)「俺より楽しそうだなあいつ」
(´・ω・`)「では近いうちに今後の予定などをしぃに伝えさせよう。私はそろそろ行かなくてはならない」
('A`)「分かりました。何から何までありがとうございます」
(´・ω・`)「なに、君が敵でないのならこれぐらい安いものさ。それではな」
ショボンが出ていくと、傍らにいたしぃがさて、と一歩前に出る。
(*゚ー゚)「それでは片付けでもしましょうか」
('A`)「え? いや、一人で出来るから大丈夫だって」
(*゚ー゚)「でもドクオさん、話によれば記憶喪失でしたよね? 魔法使えるんですか?」
('A`)「あー、いや、使えないけど」
(*゚ー゚)「それならお任せください。これぐらいなら魔法ですぐ終わりますから。では、家具の配置などを指示してください」
- 115 名前:1 :2014/05/31(土) 18:51:58 ID:EuspDjiA0
- 魔法ってそこまで出来るのかよ、とドクオは半信半疑ながらクローゼットを部屋の隅に置いてくれるよう頼んだ。
それを聞いたしぃはポケットから小さな折り畳み式のステッキを出してクローゼットに向ける。すると、
('A`)「おおー」
クローゼットが持ち上がり、ドクオが指定したところまでやってくるとゆっくり降りてきた。
(*゜ー゜)「こんなものです。もっと
詳細な配置図を作っていただければ一瞬で終わりますよ」
从'ー'从「ほぇー、しぃちゃんすごいよぉ〜
」
このようなやり取りを終えたあと、ドクオが指定した場所へしぃは家具を配置していく。その間渡辺はショボンが用意してくれた台所用品などを整理してくれた。
一日かかるかな、とドクオが思っていた片付けはしぃの活躍によってほんの一時間で終わってしまったのだった。ちなみにドクオは何もしていない。
('A`)「二人ともありがとう。すごい助かった」
(*゜ー゜)「いえいえ、これくらいなら朝飯前ですよ」
从'ー'从「私もお片付けは得意なんだよ〜」
その後、ドクオはしぃの部屋も片付けがあるのか聞いてみたが、ずいぶん前からしぃはその部屋に住んでいたとのことだった。だからこそしぃがドクオの監視役に選ばれたそうなのだが、この世界のジェンダーはどうなっているのか不安になる。
さすがにこのままはいさよならというのもなんだか申し訳なく思ったドクオは、先程ショボンからもらったお金を取りだし、
('A`)「なら、せめて飯でも奢らせてくれよ。日用品とかも買いたいし、そのついでといっちゃなんだが」
(*゜ー゜)「それくらいなら甘えさせていただきます」
从'ー'从「じゃあどっくんに街を案内するよぉ〜。んとね〜、おすすめのアイスクリーム屋さんと〜」
('A`;)「街に繰り出してから教えてくれよ」
あれこれ考えだす渡辺に呆れつつ、ドクオは彼女の手を引いて街へと向かうのだった。
- 116 名前:1 :2014/05/31(土) 18:53:10 ID:EuspDjiA0
- ◇◇◇◇
(´・ω・`)「報告にあがりました、陛下」
ショボンはきらびやかな謁見の間の中央に跪く。この場には自分と、玉座に腰を下ろした初老の男しかいない。本来いるべきはずの護衛のものたちは席を外させている。
( ΦωΦ)「ご苦労なのである、ショボン。して、進捗の方は?」
(´・ω・`)「依然滞りなく進めております。寮には見張りをつけておりますので妙な動きをすれば騎士団総力をあげてすぐにでも始末は可能です」
( ΦωΦ)「ふむ、しかし、報告によれば彼が持っている剣は……」
(´・ω・`)「はい。古文書を当たらせましたところ、例のもので間違いありません」
( ΦωΦ)「さらには<忌み子>もいるのであろう? 我輩の計画に支障を来さねばよいが」
(´・ω・`)「ご心配なく。遠征に行っているジョルジュ騎士団長から報告があがっております」
( ΦωΦ)「それは誠か?」
(´・ω・`)「こちらがその親書になります」
ショボンは一枚の新書を王へと献上する。王がそれを読む間、ショボンは今回の件について思案した。
そもそも、ドクオという青年がこちらがわにやってきたのは黒の魔術団の仕業であることは騎士団の上層部含め王族の連中にも知れ渡っている。記憶喪失だなんてのも嘘であることも当然分かっている。
そして、彼が偶然巻き込まれた被害者であることも。
しかし、そこが問題ではないのだ。異世界の人間がこちらがわに偶然来てしまったことは今までにも報告が上がっている。今回のことも例に漏れずその偶然の一つにすぎない。
問題なのは、彼の持っている赤黒い剣。この世界の歴史において最も人を殺し、神をも殺したあの魔剣が、何故今になって現れたのか。
もちろん黒の魔術団がそれに一枚噛んでいることは分かっている。だが、どこから魔剣を呼び出し、彼を持ち主とさせることが出来たのか、それらがショボンを悩ませているのだ。
( ΦωΦ)「どうやらうまくやっているようであるな」
(´・ω・`)「では?」
( ΦωΦ)「うむ。計画を少し早める必要があるのである。早急に件の物を見つけるのである」
(´・ω・`)「仰せのままに」
そういって一礼し、ショボンは謁見の間をあとにした。
- 117 名前:1 :2014/05/31(土) 18:54:11 ID:EuspDjiA0
- (´・ω・`)「ふぅ……」
騎士団本部にある自室に入ると、ショボンは大きな溜め息を吐いた。
黒の魔術団も余計なことをしてくれたものだ。ドクオという偶然は仕方ないにせよ、魔剣はどうしようもない。何せあれにはこちらの魔法が通じないのだ。
伝承通りであれば、あれは本来人が持つことの出来ないものである神器の一つなのだ。一度剣を握れば体中のマナというマナを喰われ、最終的に死に至らしめる。
だが、どういうわけかその持ち主であるドクオは未だ健在で、特に異常をきたしている様子もない。
医者のカルテにも目を通したが、確かに通常よりはマナの生成量が少なくはあるが、生活に問題ないということだった。
つまり、黒の魔術団が何かしらやったのだろう。
不幸中の幸いは、ドクオが思っていたよりも善人だったことだろう。あれは人も、動物も、魔物でさえも問答無用で一撃なのだから。
(´・ω・`)「早く黒の魔術団を見つけなければ」
ショボンは休む間もなく次の仕事へと移る。全ては王都のため、王のために。
- 126 名前:1 :2014/06/02(月) 21:24:04 ID:2qchLoc20
- ◇◇◇◇
王都ヴィップは大きく分けて四つの地区から成っている。
中央にそびえる時計塔を中心として、北側が城や騎士団の駐屯所、魔法学校があるヴィップ地区。東側が貴族達が住むきらびやかで派手な装飾を施した豪華な家が立ち並ぶシベリア地区。南側が飲食店や日用品などを取り扱う商店街があり、最も活気があるヴィップラ地区。西側は魔法が使えなかったり、使えても騎士団に属さず魔法アイテムなどを売って生計を立てる、いわゆる一般人や仕事人のベッドタウンであるラウンジ地区。という具合になっていた。
('A`)「王都ってぐらいだからやっぱ活気があるなぁ」
時計塔の下からヴィップラ地区を眺めるドクオは思わずそんな感想を漏らした。ドクオの住む騎士団寮はヴィップ地区でもやや南側に位置しているため、店が並ぶヴィップラ地区まで徒歩数分という立地だった。
(*゚ー゚)「これでも商業都市ヤ・オーイの半分にも満たないんですよ」
从'ー'从「そうなの〜?」
(*゚ー゚)「ええ。以前仕事でヤ・オーイへ行きましたが、熱気が違いました」
('A`)「へぇー。是非一度行ってみたいな、そういうの聞くと」
ドクオ達三人はとりあえず飲食店を目指して歩き出した。この世界で好まれる食事が分からないドクオは店の善し悪しが分からないので、基本的には渡辺としぃに選択を委ねるしかないのだが。
当の女性陣はああでもないこうでもないと熱く話し合いを繰り広げており、しばらく決まりそうになさそうだ。そんな二人はドクオから見ると仲のいい姉妹のように見える。
以前ニダーとかいうやつが渡辺に突っかかっていたが、しぃはそういった感情を持っていないのだろうか。確か、忌み子とか言われていたが、一体どういう意味なのだろう。
渡辺はドクオから見ても明るいし、可愛らしい容姿をしている。ちょっと間の抜けた所もあるが、それはそれで愛嬌があると言える。魔法だって見習いとはいえ使えていたのだから、特に嫌悪される理由は見当たらない。
- 127 名前:1 :2014/06/02(月) 21:26:46 ID:2qchLoc20
- ('A`)(あとでしぃちゃんにそれとなく聞いてみるかな)
こういうことはこちらの世界でしか分からないのだろう。ドクオはこの世界の常識ですらよく理解していないのだ。文字だって読めないし書けない。どういうわけか意思の疎通は図れているものの、基本的にドクオは異端者だ。
あれこれ考えたところでドクオにはこの世界の常識や秩序を動かせやしない。出来ることなんて限られたただの男。ならば出来ることは渡辺の味方でいることだけなのだ。
そのためには情報だ。例えどんなことがあろうとも、渡辺の味方であり続けなければ、あの日助けてもらった恩は返せそうにない。
从'ー'从「どっく〜ん。お肉とお魚だったらどっちがいいかなぁ〜?」
(*゜ー゜)「ドクオさんは肉に決まってます。むしろ肉食べて筋肉つけないとガリガリのままですよ」
从'ー'从「えー、お魚だって美味しいんだよぉ〜?」
('A`)「どっちも食べればいいじゃん。そういう店くらいあるだろ?」
从'ー'从「あ、それならねぇ〜、この前見つけたお店があるよぉ〜」
渡辺がそういって小走りで駆けていく。少し離れたところで手を振り、
从'ー'从「早く早く〜」
と笑顔を浮かべた。
ドクオはその笑顔を見て、もう一度深く心に刻む。
この笑顔を絶対に無くさないようにしよう、と。
- 128 名前:1 :2014/06/02(月) 21:27:48 ID:2qchLoc20
王都ヴィップ、シベリア地区にある豪邸の一室で、ニダーは一人悪態をついていた。先日の傷はほぼ完治しているものの、彼の心の隙間は以前埋まらぬままだった。
<ヽ`∀´>「くそくそくそ!! あの忌み子め、
よくもやってくれたニダ!! ウリは貴族ニダ!! あんなクズよりも価値があるニダ!!」
地団駄を踏みながらあの日の出来事を思い出す。邪魔さえ入らなければ忌み子を始末できたはずなのだ。結局忌み子は忌み子、周囲に破滅をもたらす存在でしかない。
何より彼が許せないのは忌み子に味方したあの男の存在だ。同じ忌み子のくせに、人を守ろうとしていた。
<ヽ`∀´>「殺してやるニダ。骨も残さず存在を消してやるニダ」
しかし、魔法使いである以上私闘は禁じられているし、一般人への魔法は永久的に資格を剥奪されてしまう。貴族であるニダーにとって魔法使いとは重要なオプションなのである。
<ヽ`∀´>「しかし、だからといってこのままではウリの腹の虫が収まらんニダ。父上に言って揉み消してもらうしか……」
『それならばいい方法があるけれど』
不意に声が聞こえた。周囲を見渡すが姿がない。魔法の一種だろうか。
ニダーは声をあげず、臨戦態勢に入る。この屋敷は厳重に守りを引いているはずなのに、侵入者がいるということは相当な手練れだろう。下手をすれば簡単に負けてしまう可能性もある。
『あら怖い顔。大丈夫、私はあなたの味方よ』
- 129 名前:1 :2014/06/02(月) 21:28:33 ID:2qchLoc20
- <ヽ`∀´>「……なら、姿くらい見せたらどうニダ」
『訳があって顔を見られるわけにはいかないの。でも、私はあなたの望むものを与えてあげられる』
<ヽ`∀´>「……例えば?」
『あなたの気に入らない人間を、誰にも見られずに始末する力』
<ヽ`∀´>「っ!! それは本当ニダ!?」
『私は嘘が嫌いなの。ふふふ』
<ヽ`∀´>「どうすればいいニダ」
『時計塔の地下に行きなさい。そこにあなたの望む力がある』
<ヽ`∀´>「時計塔の地下? あそこには魔力炉しかないはずニダ」
『行ってみればきっと分かるわ。私から言えるのはそれだけ』
<ヽ`∀´>「分かったニダ」
『ふふふ、それではいい夢を』
声はそれだけ言うと、二度と聞こえなかった。
- 130 名前:1 :2014/06/02(月) 21:29:40 ID:2qchLoc20
- ◇◇◇◇
食事を終えた三人は、ヴィップラ地区を適当にぶらついていた。ドクオの日用品は購入したもののそんなに数が多くなかったので時間があまってしまったのである。
(*゚ー゚)「ところでドクオさんは、見たことのない不思議な格好をなさっていますね」
服屋を冷やかしていると、不意にしぃがそんなことを言ってきた。
ドクオの格好は相も変わらずスウェットである。日本では寝間着としてもコンビニに行くにしても対応できる万能衣服だ。
('A`)「そんなに変か、これ」
从'ー'从「変ではないけど……」
(*゚ー゚)「目立ちますね」
確かにスウェットに剣を提げるベルトという出で立ちは少々目立つかもしれない。他の帯剣者たちを見れば動きやすそうでいてスポーティーな格好が多い。中にはごてごてしたいかにも偉そうな貴族風な人間もいるが。
('A`)「んー、じゃあ思いきって服でも買ってくか。確かにこの服のままうろうろするのも周囲の目が気になるし」
先程からドクオ達をちらちらと見ていく通行人たちは、確かにドクオも気になってはいたのだ。それが自分に向けられているものだと信じたくなかったただけで。
- 132 名前:1 :2014/06/02(月) 21:31:31 ID:2qchLoc20
- しかし、渡辺としぃに言われた以上、もう気にならないとはいえないだろう。指摘されたということはつまりそういうことなのだ。
('A`)「どういうのが一般的なのか分かんないから、出来ればレクチャーしてもらいながら選びたいんだが」
その辺にあった服を適当に物色しながらドクオは二人にお願いしてみる。この世界の流行や一般的なコーディネートがよく分からないドクオからすれば下手なものを選んで再び奇異の目を向けられたくないのだ。
(*゚ー゚)「私は男性の衣服はよくわかりませんが……」
从'ー'从「私もだよぉ〜」
('A`)「ん〜、そんじゃこう、剣を持ってても違和感がないっていうか、そんな感じの服を選ぶか。変だったら言ってくれ」
(*゚ー゚)「分かりました」
从'ー'从「了解だよぉ〜」
こうして服を選び始めるドクオだったが、すぐにこのことを後悔するはめになる。
というのも、
(*゚ー゚)「色のバランスが悪いです」
(*゚ー゚)「コーディネート以前の問題ですよ」
(*゚ー゚)「センスなさすぎですね駄目男さん」
等々、しぃちゃん十四歳にことごとくダメ出しを頂くことになったからである。
- 133 名前:1 :2014/06/02(月) 21:32:37 ID:2qchLoc20
- 結局しぃがあれこれ選んだものをなん着か買うことで手を打ったのだが、ドクオはすでに満身創痍だった。
从;'ー'从「お、お疲れ様どっくん」
('A`/)「ホントウニツカレタヨ」
しぃが選んだ服を着込み、剣を提げると少しはましになった、ように思う。実際周囲の人たちの注目を浴びてはいないので問題はない。
(*゚ー゚)「ドクオさんはあまりセンスがないですね。次回買いに行くことがあればまた私が選びますよ」
('A`/)「アリガトウゴザイマス」
余計なお世話だと言いたいところだが、彼女は自分よりも年下と心の中で言い聞かせ、ドクオはなんとか平常心を保つ。
実際しぃの見立てはなかなかのもので、衣服に頓着のないドクオから見ても見違える、とまではいかないがそこそこ見れる印象にはなったと思えた。
いかんせん顔の作りが悪いのでイケメンのようにモテモテというわけにはいかないが。
- 134 名前:1 :2014/06/02(月) 21:33:50 ID:2qchLoc20
- 从'ー'从「でもどっくんかっこよくなったと思うよぉ〜」
('A`)「ほんとに?」
从'ー'从「ほんとに〜」
渡辺からお墨付きを頂けたのだから、見た目に関してはもう触れないでおこうとドクオは誓った。
店から出たところでドクオは二人に声をかける。
('A`)「さってと、んじゃ買い出しも終わったし、これからどうしますかね」
(*゚ー゚)「それなら時計塔に行ってみませんか? 一応王都の名物なんですよ」
从'ー'从「あ、それはいいね。王都の景色が一望できるんだよぉ〜」
('A`)「へぇ、そいつは見なきゃ損だな」
しかし、時計塔の下にいた際入り口らしきものは見かけなかったような気がするが、どうやって登るのだろうか。
それを二人に聞くと、お互いに顔を見合わせにっこりと笑った。
(*゚ー゚)「それは魔法使いにしか分からない秘密の出入り口があるに決まっているじゃないですか」
从'ー'从「魔法使いじゃなきゃ中に入れないんだよぉ」
('A`)「魔法使いじゃなきゃ?」
ドクオは何気なく時計塔を見上げた。入口は下にはなく、かつ魔法使いでなければ入れない。と、いうことは……。
('A`)「……上か」
- 135 名前:1 :2014/06/02(月) 21:34:50 ID:2qchLoc20
- 从'ー'从「だいせいか〜い♪」
(*゜ー゜)「では、さっそく行きましょう」
しぃがステッキを取りだし小さな声で何事かを言うと、彼女の小柄な体が宙に浮いた。
从'ー'从「それじゃどっくん乗って乗って」
渡辺は魔方陣を呼び出し箒を呼び出すと、早速跨がりドクオを促した。
('A`)「空飛ぶのって苦手なんだよなぁ」
ぶつくさと言いながらも渡辺の後ろに座ると、奇妙な浮遊感と共に箒はみるみる上昇していく。
从'ー'从「それ〜!!」
渡辺の掛け声で箒は空を行く。王都の人達が豆粒のように小さくなり、やがて認識できなくなるほどの高さに来るとようやく到着したようだ。
('A`)「おおー、こいつはすごい」
時計塔に足をつけた三人は、縁に腰掛けてその景色を堪能する。王都どころか、その先にある緑や海まで見渡せた。太陽はすでに傾きかけており、淡いオレンジ色が街を、世界を彩っている。
少しの間だけ、ドクオはそれに見とれていた。他の二人も黙って遠くを見つめている。
- 136 名前:1 :2014/06/02(月) 21:35:48 ID:2qchLoc20
- やがて、ドクオは口を開いた。
('A`)「自然の神秘ってやつだな」
(*゚ー゚)「ドクオさんは確か、記憶喪失でしたね」
('A`)「ん? そうだけど」
(*゚ー゚)「ならばあなたが見る美しい景色はこの場所が初めてということになるんて すね」
从'ー'从「そうだねぇ〜。どっくん、この景色は絶対に忘れちゃ嫌だよ?」
つい渡辺の方を見ると、目があった。渡辺はにっこりと朗らかに笑っており、いつしかドクオも笑顔になっていた。
('A`)「忘れねぇよ。こんなに綺麗なもの」
(*゚ー゚)「忘れたらお仕置きですね」
从'ー'从「えへへ、そうだね〜」
このまま時間が止まってしまいそうなほどにのんびりとした優しい時間を、ドクオは一生涯忘れないだろう。
この世界のこの瞬間、この場所でなければ見ることも感じることもできなかった大切な何かは、ドクオの中で褪せることなく飾られていく。
そう思えるほどに、ここから見えるものは美しく、そして途方もなく大きかった。
- 137 名前:1 :2014/06/02(月) 21:36:42 ID:2qchLoc20
- ◇◇◇◇
ニダーは一人階段を下りていく。手元にあるランプだけが足元を照らすのみで、その先は闇がどこまでも続いていた。
この先にあるのは王都を守る結界の動力である魔力炉が設置されている。仮にこの魔力炉を失えば、先日のように王都は大混乱に陥るだろう。復旧も数日単位ではなく、もっと時間がかかる。そうなれば王都は一月と持たず壊滅するだろうことは安易に予想できた。
だが、用があるのは魔力炉ではない。気に入らないものを徹底的に叩き潰す圧倒的な力。それさえ手に入ればこんなところに用はない。
螺旋状に続く階段を一歩一歩確かめるように進んでいくうちに、ようやく目的の場所へたどり着いた。
周囲に目を配ると、円を描くように設置された魔力炉が鼓動のように音を立てている。その中心には結界を形作るための陣が描かれており、数秒ごとに光を発していた。
<ヽ`∀´>「……なんにもないニダ。こりゃガセを掴まされたニダ?」
一応他に何かないかと物色するが、特にめぼしいものはなさそうだ。
無機質な地下室にニダーの足音が響く。
その時だった。
<;ヽ`∀´>「っ!!」
目の前の魔法陣から黒い何かが噴き出している。
すぐに魔法の詠唱を開始するが、何かは凄まじい勢いでニダーの体を侵食していく。
<;ヽ`∀´>「っ〜!!」
- 138 名前:1 :2014/06/02(月) 21:37:37 ID:2qchLoc20
- ニダーの全身を覆い尽くした何かは彼の中にあるそれらを食い破り、新たなそれを注入していく。
為す術もなく、ニダーはその感覚に身を委ねるしかなかった。
やがて、何かはニダーを解放すると始めから何もなかったかのように消えてしまった。
そして、立ち尽くしていたニダーは自分の内から溢れ出す今までにない力を感じた。
<ヽ ∀ >「……これが、力ニダか」
これならば誰にも負ける気がしない。気に入らないものを、逆らうものも、この国さえも叩き潰せるような気さえする。
<ヽ゜∀゜>「これはいいものを手に入れたニダ」
<ヽ゜∀゜>「ウリに逆らうやつは」
.
- 139 名前:1 :2014/06/02(月) 21:38:31 ID:2qchLoc20
<ヽ゚∀゚>「皆殺しニダ」
.
- 140 名前:1 :2014/06/02(月) 21:58:20 ID:r7CkAjHg0
- 日が完全に傾いた頃、ドクオたち三人は夕食を食べ寮への道を歩いていた。とはいっても渡辺の家はラウンジ地区にあるため、時計塔まで来たらお別れではあるが。
从'ー'从「私も一緒に寮に住みたいよぉ」
(*゜ー゜)「それならば早く騎士団に入団することです」
从'ー'从「簡単に言わないでよぉ〜」
('A`)「つっても俺なんかはしばらくやることないだろうし、いつだって会えるだろ」
从'ー'从「そういうことじゃないの!」
渡辺は一人ぷりぷりと怒っている。もしかしたら単に寂しいだけなのかもしれない。
(*゜ー゜)「大丈夫ですよ。私はドクオさんのような方はタイプではありませんから」
('A`;)「この子さらっと毒吐いたよ!?」
(*゜ー゜)「ドクオさんにもそのうちいいことありますよ。多分」
('A`;)「毒吐いた張本人が慰めるっておかしいよ」
今日一日行動を共にして思ったが、このしぃという女の子は意外に毒舌である。しかも人の心を的確に抉るようなことをさらっと言うのでドクオのHPはメリメリ減っていくのだ。
- 141 名前:1 :2014/06/02(月) 21:59:09 ID:r7CkAjHg0
- やはり天才というのはどこか変わっているものなのだとドクオはまた一つ勉強になった。
('A`)「それじゃそろそろ帰りますかね」
从'ー'从「はぁ〜い」
(*゜ー゜)「それでは渡辺さん、また」
('A`)「暇な時はうちにでも来いよ〜」
从'ー'从「うん!! またね〜」
三人が別れようと、それぞれの道へ歩き出した時。
地面が大きく爆発した。
('A`)「っ!?」
(*゜ー゜)「っ」
从'ー'从「ほえ?」
土煙があがり、周囲の視界を奪う。そんななか、黒い何かが飛び上がったのをドクオは確認した。
(*゜ー゜)「下がってください」
ドクオを庇うように前へ出るしぃは、すぐさまステッキを取り出すとくるりと円を描く。すると、土煙が一斉に消え、辺りは元通りの景色を取り戻す。
- 142 名前:1 :2014/06/02(月) 22:00:56 ID:r7CkAjHg0
- (*゚ー゚)「警告します。今すぐ無駄な抵抗をやめて出頭してください。さもなくば少々痛い目にあっていただくことになりますが」
しぃが暗闇に向かって警告するが、返答はない。どころか地面に空いた穴から風の塊がしぃへと飛んできた。
(*゚ー゚)「っ!?」
しぃはすぐさまステッキを動かすが、不意を突かれたのかステッキを落としてしまう。それを拾おうと屈んだ隙に、上空から追撃がくる。
('A`;)「しぃちゃん!!」
ドクオは思わず走りだし、しぃの体を突き飛ばしていた。風の塊はドクオの体をいとも簡単に吹き飛ばし、ドクオは地面に転がった。
(;*゚ー゚)「ドクオさん!!」
从;'ー'从「しぃちゃん後ろ!!」
渡辺が声を荒げると同時に複数の炎弾を放つが、敵の攻撃は一向に衰えずドクオとしぃに襲いかかってくる。ドクオも何とか地面を転がってそれらを避けるが、最初の一撃が堪えているらしく、素早く行動できない。
('A`;)「くそ、一体なんだってんだ」
剣を抜き放ち、ようやく立ち上がる。しぃもステッキを拾い臨戦態勢を取っていた。
「お久しぶりニダ。クソゴミども」
やがて聞こえてきた声は、どこかで聞き覚えがあった。確か、ドクオが初めてこの世界にやってきた際に聞いた覚えがある。
从'ー'从「この声は……」
渡辺も同じことを思ったらしく、息を飲む音が聞こえた。
<ヽ゚∀゚>「生きていてくれて嬉しいニダ。思わず殺しちゃいたいくらい、ニダ」
声の方を見ると、いつか渡辺に暴言を吐いていた忌々しい顔が宙に浮きながら、ニヤニヤと笑っていた。
- 143 名前:1 :2014/06/02(月) 22:02:48 ID:r7CkAjHg0
- ニダーが手を振るうといくつもの魔方陣が浮かび上がり、そこから攻撃用に変換されたいくつもの風がドクオ達を襲う。地面を抉り、砕き、破壊を振り撒きながら。
(*゚ー゚)「こんな街中で魔法を使うだなんて何を考えているんですか!?」
珍しく大声をあげるしぃに、ニダーはニヤニヤと笑みを浮かべ、
<ヽ゚∀゚>「そんなの決まってるニダ」
再び魔方陣を作りあげ、
<ヽ゚∀゚>「お前達をミンチにすることニダぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
刃と化した風を射出した。
(;*゚ー゚)「くっ」
しぃは先程から攻撃を行わず、ドクオと渡辺を含む防御壁を作ることしかしない。おそらく、こちらを心配しているのだろう。
仮にしぃがニダーに攻撃すれば、ニダーの操る風の魔法はドクオを襲う。渡辺は魔法で迎撃出来るだろうが、ドクオが持つのはこの剣一本。剣では魔法に勝てないのがセオリーなのだ。
しかし、この場合ドクオの身を案じている場合ではない。
- 144 名前:1 :2014/06/02(月) 22:04:27 ID:r7CkAjHg0
- ('A`;)「しぃちゃん!! 俺のことは気にするな!! あいつをさっさとやっちまえ!! このままじゃ一般人に被害が出るぞ!!」
(;*゚ー゚)「ですが……」
从'ー'从「私がどっくんを守るから大丈夫だよ!!」
渡辺の声にしぃが防御壁を解く。すぐさまドクオに風の刃が向かってくるが、渡辺がそれらを的確に処理していく。ドクオは地面を蹴り、ニダーに向かって剣を振るうがやはり届かない。
<ヽ゚∀゚>「クカカ、無駄無駄ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
('A`;)「うおっ!!」
ニダーの周囲に風が集まり、一気に爆発。ドクオは宙を舞い、地に叩きつけられた。
(*゚ー゚)「ならばこれはどうですか?」
しぃがステッキを振るうと、ニダーを取り囲むように氷柱が隙間なく出現した。
(*゚ー゚)「お仕置きです」
と、同時に氷柱はニダーに飛んでいく。何本も何本もニダーの体に刺さっていき、ニダーの体はもはや判別できないほど氷柱で覆われていた。
('A`;)「やりすぎじゃね?」
- 145 名前:1 :2014/06/02(月) 22:05:54 ID:r7CkAjHg0
- (*゚ー゚)「……まだです!!」
しぃが叫ぶやいなや規模は小さいが渦を描く風、竜巻が複数現れた。それらは周囲の建造物を巻き込んで粉々にしながら徐々に徐々に大きくなっていく。
从'ー'从「えぇーい!!」
渡辺が炎ではない、別の魔法を放つ。すると竜巻は霧散し、砕かれたものがごとりと地面に落ちていく。
(*゚ー゚)「スペルキャンセラーとですか。では、私は」
しぃが両手を掲げると、見たことがないほど大きな魔方陣が宙に出現する。直径は十メートルほどだろうか、魔方陣は次第に複雑な図形や文字を映していき、円が一杯になると同時に吹雪が発生した。
強烈な吹雪をぶつけられた竜巻は一瞬で消滅し、さらにはニダーの身を凍らせていく。
从'ー'从「私もいくよぉ〜」
追撃で渡辺が炎弾を放ち、ニダーの体が爆炎に包まれる。あれでは人溜まりもないだろう。
('A`;)(魔法使い同士の戦いぱねぇ)
あまりにも派手な戦いにドクオは呆けているばかりだったが、しぃは警戒を解いていない。
(*゚ー゚)「……まさかこれで終わりではありませんよね?」
<ヽ ∀ >「当然ニダ」
- 146 名前:1 :2014/06/02(月) 22:07:14 ID:r7CkAjHg0
- 氷付けにされたはずのニダーの体は、徐々に黒い光を発していく。やがてそれは大きく膨れ上がり、一気に爆発した。
<ヽ゚∀゚>「お遊びは終わりニダ」
不意に、黒い光がドクオの頭上に展開される。
('A`)「は」
ドクオは何が起きたのかも分からず、それを見上げていた。
(;*゚ー゚)「避けて!!」
しぃの言葉でドクオの体が雷に撃たれたように震えた。すぐさま横に飛ぶと、黒い光はドクオが立っていた場所に落下する。
そこにはバチバチと音を立て、クレーターのような窪みができていた。
('A`;)「ちょ」
さらに追撃。ドクオはそれらを紙一重でかわしていくが、黒い光はさらに増えていき、ついに逃げ場を失ってしまう。
('A`;)「やば」
从'ー'从「どっくん!!」
自身も攻撃されているはずなのだが、渡辺が魔法を展開。間一髪でドクオの頭上に防御壁が現れた。しかし、強度が足りず、黒雷は数秒留まっただけですぐに地面へと飲み込まれていく。
ギリギリでその場を離脱したドクオは剣を握りしめるが、宙に浮いているニダーには当然攻撃が届かない。どうすべきかを考えるほどの時間さえ、あの黒い稲妻のせいでままならない。
('A`;)(このままじゃじり貧じゃねえかっ)
- 147 名前:1 :2014/06/02(月) 22:08:38 ID:r7CkAjHg0
- 唯一の攻撃手段を持つ渡辺やしぃも自身に襲いくる攻撃をいなすのが精一杯で手が回らないようだ。やはりあの二人を自由にはできないのだろう。
ならばやることは一つしかない。
ドクオは近くにいるしぃに狙いを定めると、一気に距離を詰める。
(*゚ー゚)「ドクオさん!?」
しぃの反応が遅れるが構わず突き飛ばす。すぐさまドクオは剣を高く掲げると、それめがけて光の束が落ちてきた。
(゚A゚)「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ドクオの体をいくつもの黒雷が貫く。だが、泣き言は言ってられない。
(゚A゚)「やつ……を……いけ!!」
途切れ途切れだが、しぃはこくりと頷いた。伝わった。
(*゚ー゚)「行きなさい!!」
しぃの回りに大量の氷の球が現れ、号令と共に球からレーザービームのような攻撃がニダーへと放たれる。
- 148 名前:1 :2014/06/02(月) 22:10:14 ID:r7CkAjHg0
- <ヽ゚∀゚>「効かないニダ」
ニダーはそれらをまるで蜘蛛の巣を払うように右手を撫でるだけで掻き消すと、さらに黒雷を放った。
(*゚ー゚)「かかりましたね」
しぃはステッキをニダーの真下、何もない地面へと向ける。するとそこから冷気の帯がニダーを凍り漬けにする。
<ヽ゚∀゚>「っ!!」
瞬間、ニダーの攻撃が止んだ。
('A`#)「渡辺ぇぇぇぇぇぇぇ!! 炎弾だ!!」
ドクオが叫ぶと、渡辺が大きく頷いた。
从'ー'从「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」
渡辺が最大級の炎弾を見舞うと同時、爆発!! 爆発!! 爆発!!
突風が吹き荒れ、ドクオたちは地面へと伏せて様子を伺う。ニダーの姿はない。
<ヽ゚∀゚>「甘いニダ」
('A`;)「っ!?」
声が聞こえると、周囲の風が止み、視界がクリアになる。しかし、ニダーの姿は見あたらない。
从;'ー'从「どっくん後ろ!!」
渡辺の声に振り向くが、遅い。ニダーの姿が見えた頃にはすでに黒い槍が迫っていた。
('A`;)(避けられない)
- 149 名前:1 :2014/06/02(月) 22:11:25 ID:r7CkAjHg0
- 先日と同様、ドクオは二度目の死を覚悟する。自分の心臓の音がやけに大きく聞こえた。
━━ドクン。
また一つ。
━━ドクンドクン。
全身を何かが掻き乱していく。それは暴力的に、破壊的に、ドクオの大切な何かを巻き込んでさらに膨張する。
これ以上はまずい。直感がそう告げる。
だが、止まらない。
これは力だ。どこから涌き出ているかも分からない。しかし、この状況を乗りきるために、ドクオは覚悟を決めた。
(゚A゚)「おおおおおおおおおおおおおお!!」
- 150 名前:1 :2014/06/02(月) 22:12:47 ID:r7CkAjHg0
- ◇◇◇◇
ドクオは咄嗟に剣を振るった。反射的に、無意識の内に。
赤黒い剣が黒雷の槍に触れる。
瞬間。
<ヽ゚∀゚>「はっ……」
从'ー'从「え……」
(*゚ー゚)「なっ……」
その場にいる誰もが息を飲んだ。それはドクオでさえも例外ではなかった。
('A`)「嘘、だろ?」
ドクオの目の前に確かにあったはずの黒雷の槍は、
跡形もなく消え去っていた。
始めから何もなかったかのように、
それが当然のように。
<ヽ゚∀゚>「お前、何をしたニダ」
呆然と立ち尽くすニダーの体が震え、絞り出すような声で問いを投げかけてくる。
ドクオは答えられない。自分でも分からない。
- 151 名前:1 :2014/06/02(月) 22:14:15 ID:r7CkAjHg0
- <ヽ゚∀゚>「何をしやがったクソゴミがぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ニダーの体から爆発的に黒雷が吹き荒れ、手当たり次第周囲の物を破壊していく。
('A`;)「ちっ、俺だってわかんねぇよ!!」
考えるより先に体が動いた。自分に向かってくる光を剣で切りつけるたび、それは音もなく消滅していく。
しかし、今はそんなことはどうでもいい。目の前の敵を倒さなければ、怪我人が出る。
('A`)「渡辺!! しぃ!! ぼーっとすんな!!」
ドクオの激励に二人は弾かれたように動き出す。ドクオは自分に向かってくるものだけを的確に消していきながら徐々にニダーとの距離を縮めていく。
<ヽ゚∀゚>「シネシネシネェェェェェェェ」
直後、宙にニダーを中心とした魔方陣が形成される。でかい攻撃がくる。
(*゚ー゚)「渡辺さん!! スペルキャンセラーを!!」
从'ー'从「了解!!」
- 152 名前:1 :2014/06/02(月) 22:16:09 ID:r7CkAjHg0
- しぃと渡辺が詠唱を開始するが、ニダーの方が早い。
<ヽ゚∀゚>「アアアアァァァァァァァ!!」
('A`)「おらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ドクオは反射的に地面を蹴り、飛び上がった。魔方陣の中心、ぼんやりと光の塊が集まる部分を切りつける。
金属同士がぶつかり合うような甲高い音、ドクオは力を込めて一気に降り下ろす。
パキィィィィィィン!!
魔法陣は形を保てず、集まった魔力が周囲に拡散した。チャンスは今しかない。
(*゚ー゚)「これ以上好きにはさせません」
从'ー'从「終わりだよ!!」
しぃと渡辺が同時に魔法を放つ。炎の渦がニダーの逃げ場をなくし、頭上から氷塊がいくつも落下していく。
<ヽ゚∀゚>「ガァァァァァァ!!」
最後の抵抗とばかりにニダーは二人に黒雷を向けた。魔法の制御に意識を向けていた二人の反応ご遅れる。
('A`)「俺もいること忘れんなよ!!」
ドクオが割って入り、それらをことごとく無効果した時、ニダーは炎に体を焼かれ、氷の塊に押し潰された。
- 153 名前:1 :2014/06/02(月) 22:17:48 ID:r7CkAjHg0
辺りに静寂が訪れる。ニダーの体は動かない。白目を剥いているのが確認できたことから、恐らく気絶したのだろう。
('A`)「は、はは……」
全てが終わったのだと悟り、ドクオは情けないことに腰が抜けてしまった。前回の魔物の時とは違うはっきりとした他人の殺意と対峙したのだ。その疲労度合いも生半可なものではない。
(*゚ー゚)「お疲れさまです」
从'ー'从「ふえぇー、なんとかなったねぇ〜」
涼しい顔をして駆け寄ってくる二人の少女にドクオは苦笑する。大の男である自分が情けなく座り込んでいるのに、女の子である二人は何事もなかったかのような振る舞いだ。
魔法というものの利便性、持つものによって殺戮の力になるか、守る力になるのかは人それぞれなのだと改めて思う。
(*゚ー゚)「そろそろ他の騎士団も集まってくるでしょうし、お二人にはお話を聞かせて頂くことになります」
('A`)「ああ、それくらいなら協力するさ」
从'ー'从「りょーかーい」
そしてドクオは手の中にある剣を見つめて思う。
いつの間にか手にいれたこの力は前回も、今回も誰かを守ってくれた。前回は無意識に、今回は己の意思で。
しかし、雷の槍を消滅させる瞬間ドクオは確かに感じたのだ。自分の中に入ってくる自分ではない別の何かの意思を。
それはどす黒い感情でドクオを満たそうとしていた。人への憎悪、殺戮の衝動、虚無への憧憬。
あれはおおよそ人が持ち得る全ての負の感情なのかもしれない。
ならば、この力は━━。
从'ー'从「どっく〜ん、しぃちゃんが待ってるよぉ〜」
('A`)「今行くー!」
━━誰かを殺すためのものなんだろう。
- 154 名前:1 :2014/06/02(月) 22:18:51 ID:r7CkAjHg0
- ◇◇◇◇
時計塔で起こった一連の騒動を眺めながら、彼女はクスクスと笑っていた。
予想以上の早さであれは本来の形を取り戻している。もしかすれば予定よりも計画を早めることができるかもしれない。
ニダーは本来以上の働きをしてくれた。彼の功績は計り知れないだろう。
王族どもがこちらの動向を探っているようだが、全てが明かされる頃には全てが終わっているだろう。
この世界は黒の魔術団によって、新たなる夜明けを迎えるのだ。
川д川「うふふ、もうすぐ、もうすぐよ」
- 155 名前:1 :2014/06/02(月) 22:20:54 ID:r7CkAjHg0
ニューソク大陸の隣、ヒロユキ大陸の首都ナンジャの酒場にて。二人の男がグラスを交わしていた。
( ^ω^)「……」
( ゚∀゚)「……」
周りの客は談笑し、実に楽しそうに酒を酌み交わしているなか、二人だけは終始むっつりと黙ったままである。
( ^ω^)「陛下は本当にやる気なのかお?」
( ゚∀゚)「だからこそ俺がここにいんだろうが。故郷を離れて頭が馬鹿になったか?」
軽口を叩く男に、もう一方は小さくため息を吐いた。
( ^ω^)「お前はそれでいいのかお、ジョルジュ」
( ゚∀゚)「いいわけがねえだろ。だがやらなきゃならねえ。騎士団長なんて肩書きもらっちまってるからな」
ジョルジュはそう言って軽く肩をすくめてみせた。
( ゚∀゚)「お前はどうする? ブーン。戻ってくる気なら俺が口をきいてやるぞ」
( ^ω^)「僕はすでに世捨て人だお。自由気ままに生きていく方が性に合ってる」
( ゚∀゚)「そうかよ。つってもしばらくはここにいんだろ?」
( ^ω^)「その予定だお」
( ゚∀゚)「なら俺からの依頼だ。金もきっちり出す。だから手伝え」
( ^ω^)「相変わらず強引な男だお。ま、金さえくれるってんならその依頼受けてやるお」
( ゚∀゚)「助かるぜ。俺はナンジャとの合同演習で動けないからよ」
( ^ω^)「陛下も手段を選ばないようになったおね」
( ゚∀゚)「仕方ねぇだろうよ。お前だって当事者なんだ、忘れたとは言わせねえよ」
( ^ω^)「分かってるお」
( ゚∀゚)「ま、そういうわけだから俺はそろそろ戻るぜ。また連絡する」
ジョルジュが去ったあと、ブーンは一人浴びるように酒を飲む。しかし、いつまで経っても酔いが回ることはなかった。
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