- 1 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:21:36 ID:gOpuSR2Q0
- 鬱田ドクオとは、一言で言えば弱い人間だ。
過去を振り替えれば後悔しなかった出来事はないし、ましてや努力なんて言葉とは無縁の存在である。
テストは赤点ギリギリ、運動能力は一般人より少し劣る程度、体つきは貧相なもので米俵一俵持つのが精一杯。かといってそれらを補うための努力をしたいなぁとは思っても、けして実行することはなかった。
そんなわけだからドクオは自分という存在が嫌いだった。変わりたいと願っても、変えようとすること自体がめんどくさくなってしまう。
大学を卒業し、なんとか内定をもらった会社も周囲の環境に溶け飲むことが出来ず、やめてしまったことも自己嫌悪の一つの原因である。
よって、ドクオにとっての自分とは、あってもなくても変わらない路傍の石のような存在で、そんな自分が世界に与える影響など皆無だと信じ込んでいた。
*��燭辰榛*、この瞬間までは。
- 2 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:23:14 ID:gOpuSR2Q0
- (゚A゚)「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ドクオは目の前の現実を変えるために、走り出す。
ほんの数メートル、それが自分でも変えられるかもしれない距離。
誰かが自分の名を叫んでいた。それでもドクオは止まらない。
ここで何もしなかったら、自分は後悔する。今までのような小さなものではなく、自分の一生について回るほどの大きなものだ。そんなものを抱え生きていけるほどドクオは強くない。
エゴだということは分かっている。もしかしたら勝手なことをするなと恨まれるかもしれない。自分のことを思って涙する人も、いるかもしれない。
そんな人がいればいいな、とドクオが心中で呟いたと同時、強烈な衝撃が身体を貫いた。
肋骨が折れ、内蔵を傷つける。
肺の空気が一気に吐き出され、呼吸もままならない。
視界はちかちかと瞬き、上下左右も認識できなくなる。
壁に叩きつけられ、ようやく勢いが止まった瞬間、ドクオは自分に死が訪れようとしていることを知った。
音も聞こえず、薄れていく意識の中、走馬灯のように流れる記憶がドクオを駆け巡っていき、彼はその日ーー
命を落とした。
- 3 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:24:52 ID:gOpuSR2Q0
- ('A`)「はぁ……」
大きなため息を吐くと、ドクオは手に持っていた紙を床に投げ出した。
先日とある会社に送った履歴書に対しての返信があったのだ。社交辞令である長ったらしい口上を得て、最終的に書いてあることは『採用を見送らせていただきます』だった。要するに、不採用。
確かに今回の会社は落ちるだろうなぁとはドクオも思っていた。この周辺の企業としては五本の指に入るほど大きな会社だし、倍率もかなり高いだろうと某職業安定所のお姉さんも言っていた。
が、大学を卒業して半年も経っていない自分ならもしかして、という希望的観測があったのだが*�*
結果は書類選考すら通らず。
これではため息も吐きたくなるというものだった。
やはり前の会社を辞めなければよかった、と今更後悔の念が押し寄せる。待遇もそこそこよかったし、上司の理不尽さも仕事のない現状に比べればましに思える。
なにせこの不採用通知で指を折ることちょうど十。とうとう二桁の大台に乗ってしまったのだ。
('A`)「このままじゃヤバイよなー」
- 4 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:26:39 ID:gOpuSR2Q0
- 床に大の字になりながらこれからどうしようかと思案を巡らせるが、浮かぶのはどれくらいまでならニート生活を満喫できるのだろうか、そして現在の貯金をどうやって切り詰めるかということだけである。
現実逃避にも程があるが、さすがに一ヶ月足らずの間にこれだけやって面接にこぎ着けないとなると凹むのは当然だろう。よって思考が働かなくて済む方法を模索し始めるのも仕方がないというものだ。
もちろん働かなくて済む方法などどこにもないことなど分かっている。
働かざる者食うべからず。
まさにその通りで、働いていないドクオは現在食料飢饉に陥っていた。
のそのそとテーブルに置いてある預金通帳を開けば書いてある数字がこれでもかというほど目に飛び込んでくる。その数たったの一万円。つまり諭吉さん一人。
('A`)「一ヶ月を乗りきるのも難しい状況かよ」
幸い住んでいるアパートの家賃やら光熱費やらはすでに支払ってあるので一ヶ月の猶予がある。あるのだが、自分の体力と精神を維持できるのか心配になる金額だった。
ドクオには実家に帰るという選択肢がない。両親はすでに他界しており、親戚の家に預けられて育ったドクオは、快く迎えられはしなかった。どこで聞いたのか定かではないが、彼の両親は周囲の反対を押し切り駆け落ち同然で家を出たのが原因らしい。
この話がどこまで本当かは分からないが、その子供であるドクオの待遇は劣悪なものだった。食事は一日一回、団欒には入れず一人廊下でとったし、自室なんてもっての他、まるで駒使いのように家事をやらされ、それが終われば親戚の子供達と遊びという名のいじめが始まる。一日がいつ終わるのかと幼いながらに震えて過ごすような毎日だった。そういった事情もあり、ドクオは大学進学と共に逃げるように家を去った。
とはいえ、一応ドクオも大学に進学させてもらえた以上特に恨んだりはしていない。本音を言えば何故自分がこんな目に合わなくちゃならないんだろうと思った時期もある。しかしそれらは全て過去の話で、自分から関わろうとさえしなければ何の問題もないのだ。
そんなわけでドクオは孤立無援、支援物資は期待できないという状況でどうすべきかをもう一度考える。食料と現在の手持ち、さまざまな条件を考慮して計算し、逆転の一手を導きだそうとして……。
('A`)「無理だな。うん不可能」
という解を出した。
- 5 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:27:58 ID:gOpuSR2Q0
- ('A`)「つーか無理だろこんなん。一万円で何ができんだよこれ」
せめてもう少し金があればギャンブルという選択肢があったのに、とドクオは一人ごちてみる。もちろんそれが最適解だとは思わないが。
とにもかくにもドクオには今金がなく、時間だけが余っている。やはり金が許す限り履歴書を書くしか方法はなさそうだ。
ドクオは体を起こしてめぼしい求人はないだろうかとボロボロになったノートパソコンを開く。いい加減寿命を迎えそうだが、大学入学と同時に購入した頼もしい戦友だ。辛いときも苦しいときもこいつがあったからやってこれた。用途は主にピンク色の画像や動画の収集と再生だったが。
マウスを動かし様々な求人サイトを漁っていく。いくつか希望条件を満たした求人をリストアップし、募集要項を流し読みしていく。
('A`)「……ん?」
と、そのなかに一つ気になるものがあった。
企業名『黒の魔術団』
求人サイトに掲載される会社というのは半数が人をやる気にするような甘い言葉が書いてあるが、その実ブラックであることが多い。何せ募集をかけてしばらくみかけなくなったなと思った頃にはまた募集されているのだ。それが指す意味を考えればすぐにわかることなのだが、これはその中でも異色を放っていた。
一つが名前である。まともな企業であればこんな厨二病をこじらせた名前などつけないだろう。
次に給料の額が記載されていないこと。これはあり得ないことだ。どのような企業であっても大まかな給料額は記されている。歩合制であっても最低賃金くらいは書いてあるはずなのだ。
最後に、募集要項。
『我々の掲げる思想のもとに魔法の実験台になってくれる方を募集。成功した暁には異なる世界の一部を差し上げます』
('A`)「……なんだこりゃ」
- 6 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:29:44 ID:gOpuSR2Q0
- 頭がおかしいとしか思えなかった。こんなものを載せるサイトもサイトだが。
異なる世界とか、魔法だとか、夢物語を謳う企業なんて聞いたことがない。ましてやここは現代日本、世界に認められるオタク文化は確かに素晴らしいとは思うが、こんなところに堂々と記載するのはさすがに狂っている。
念のため世界的検索エンジンて企業名を調べてみるが、ヒットするのは漫画やアニメの話ばかりで会社のかの字も見当たらない。
('A`)「うさんくさすぎだろ」
しかし、妙に引かれるものがあるのも事実だ。訳のわからない文面や目的、そして報酬。どんな仕事なのかも興味がある。
もしかしたら麻薬の密売という線もあるが、そんな裏社会の求人を堂々と人目には触れさせないだろう。そのためのサイトでもあるのだから。
きっかり十分ほどあれこれと考えた結果、ドクオはマウスを動かしキーボードで必要事項を入力していく。
('A`)「ま、まともな返事は返ってこないだろうが、とりあえずな」
完全に冷やかし感覚だったがどうせ書類選考の段階で落ちるのが当たり前になっていたドクオの思考は投げやりになっていた。
そして全ての情報を入力し、応募と書かれたボタンを押した瞬間ーー
('A`)「は?」
モニターから溢れんばかりの光が発した。それは段々と大きくなり、やがて目を開けることすら出来なくなる。
(>A<)「ちょ、え? 何が、どうなっ……」
ドクオの言葉は最後まで発せられることはなく、深い闇に落ちていくように、意識が途切れた。
- 7 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:31:20 ID:gOpuSR2Q0
- 第一話「妄想の世界へ」
その日は快晴だった。雲一つない晴天とはまさにこのことだろう。青々とした空は小鳥が陽気に羽ばたいており、遥か遠くに見える海も宝石を散りばめたように輝いている。
これならば干してきた布団もふかふかになっているだろう。渡辺は箒に跨がりゆっくりと空を飛びながら、夜に布団に入る心地よさを考えていた。
渡辺が向かっているのは王立魔法学校であり、彼女はそこに所属する魔法使い見習いである。時間はすでにお昼を迎えようとしているが、本日は急ぎで済ませなければならない課題がないため、久々に遅い登校となった。つい先日まではクラス昇格試験の準備でてんてこ舞いだったが、それらもなんとか終わりようやく平穏な毎日がやってきたのだ。もちろん昇格試験までの小休止ではあるのだが。
暖かい日差しを浴びなからしばらく進むと宙に浮いた大きな城のような建物が見えてくる。彼女の他に登校する生徒はおらず、どうやら渡辺が最後の生徒のようだ。
とはいっても、この学校は通常の学校とは違い、自分で弟子入りする先生を選び、スケジュールを調整しながら受ける授業を組み合わせるという方針なので、お昼を過ぎてから顔を出す生徒もいるだろう。割りと自由な校風なのである。
从'ー'从「ふんふふ〜ん♪」
- 8 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:32:14 ID:gOpuSR2Q0
- 鼻歌を歌いながら、魔法使いの象徴ともいえる三角帽子がずれていたのを左で軽く押さえる。生徒の自主性を重んじる反面、魔法使いとしての見栄えには厳しいという一面もあるため、あまりそういったことに興味のない渡辺も身嗜みを整えるようになった。
校門に降り立ち、玄関に設置されている鏡で帽子と胸のリボンが曲がっていないか、マントはずれていないかを確認、くるっと一回転。完璧だ。
从'ー'从「今日もはりきっていこー」
間延びしたやる気のない声と共に、渡辺が校内に歩き出した瞬間。
*��D*ィィィィィィン!!
耳をつんざくような甲高い音が響いた。
从'ー'从「ほえ?」
何の音だろうと周囲を見渡すが、特に変わったことはない。
「お、おい、あれ見ろよ!」
校門の前で暇をもて余していた誰かが空を指差していた。その先を追ってみると、そこには……。
从;'ー'从「……あれれ〜? 結界が消えてるよ〜?」
魔物避けのための結界が、跡形もなく、消え去っていた。
- 9 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:34:43 ID:gOpuSR2Q0
- ◇◇◇◇
渡辺を含む魔法使い見習い達は騎士団の詰所にある演習場に集まっていた。皆一様に不安を隠そうとせず、終始そわそわとしていた。
渡辺はぼんやりと空を見上げながら、集められた理由を考えていた。
从'ー'从(結界が消えちゃったことと、あとはたくさんの騎士団が遠征に行ってるから人手が足りないのかな〜)
確か先日発表された騎士団のスケジュールでは三日ほど前から隣国に遠征に行っているはずだった。つまり、現在この王都は普段より幾分手薄になっている。そこに結界消失という事件が発生しているということは、けして偶然ではないだろう。もちろん人為的だという確証はないが、手違いということはほとんど考えられない。
从'ー'从(騎士団長さんもいないし、偉い人達ってほとんどいないんだっけ。大変なことになっちゃったよ〜)
渡辺がそこまで考えた時だった。近くからひそひそと話し声が聞こえた。
おい、あいつが例の忌み子だろ?
ああ、あの黒髪間違いない。
近付くと呪われるぞ。なにせ悪魔の子だからな。
渡辺がそちらを見ると、目があった。話をしていた生徒達はすぐに視線を反らすと蜘蛛の子を散らすようにその場を離れていく。
从ー从「……」
- 10 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:36:01 ID:gOpuSR2Q0
- 胸がちくりと痛む。
また、だ。
何度も繰り返し言われたきたこと。しかし他人の悪意は渡辺の心を少しずつ蝕んでいく。
从ー从(だめだめ、そんなこと気にしちゃダメだよ。これは仕方ないんだもん。仕方ない、仕方ない)
そうやって言い聞かせ、渡辺は涙が出そうになるのをグッとこらえた。
泣いてはいけない。泣いても誰も救ってくれやしない。
/ ,' 3「あーテステス」
と、不意に声が聞こえた。どうやら生徒を集めた張本人がやって来たようだ。
それまで各々話をしていた生徒たちも一斉に口を閉ざし、直立不動の姿勢をとる。相手は校長荒巻、傍らには護衛だろうか副騎士団長であるショボンが立っていた。
/ ,' 3「早速で悪いが本題に入らせてもらう。先刻王都を囲っていた結界が消失した。それは皆も知っていると思う」
荒巻はそう前置きすると、さらに話を続ける。
/ ,' 3「そして現在騎士団は隣国に出張に行っており、王都に残る騎士団は多くなく、街の住民を避難誘導するには人員が足りん。そこで、騎士団から我が校に出動要請が入った」
- 11 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:36:58 ID:gOpuSR2Q0
- 荒巻が言い終えると、隣にいたショボンが一歩前へ出る。グッと胸を張ると、
(´・ω・`)「我々が掴んだ情報によると町には魔物が侵入している。それも相当な数だ。騎士団も全力で住民の避難と魔物の駆除に当たっているがいかんせん人手が足りない。諸君らにはその手伝いをしてほしい」
静かだが場内に満遍なく行き渡るはっきりとした声だった。そのことが余計に事態が緊迫しているのだと悟らせる。
(´・ω・`)「この中には騎士団を目指し魔法学校の門を叩いた者もいるだろう。だからといって魔物を倒そうなどとは思うな。優先すべきは人命であり、諸君らも同様である。今成すべきことはなんなのかをしっかりと判断した上で行動してほしい。では、これよりいくつかの班に分ける。そこからは担当のものの指示に従うように」
ショボンがそう締めると、すぐに生徒たちの班分けが開始された。渡辺の名前が呼ばれた瞬間、場内がざわついたのを彼女は見逃さなかった。
- 12 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:38:41 ID:gOpuSR2Q0
- ('A`;)「うおおおおおおおお!!」
叫び声をあげながらドクオはひたすら駆けていた。襲いくる現実から目を背けているわけではない。本当に、まぎれもなく、どうしようもなく窮地にたたされているからである。
ちらりと後ろを振り返ると、見たこともない毛むくじゃらの生き物が数匹追いかけてきていた。
人を丸のみに出来そうな大きな口には鋭く尖った牙、丸太のような太い腕、熊のような特徴を持ってはいるが、けして同じ生き物だと思えないのは全身に逆立ったトゲがびっしりと生えているからだ。
('A`;)「いったいどうなってんだよ! つーかここはどこなんだ!?」
(・(エ)・)「KUMAAAAAAAAAA!!」
(゚A゚)「こっちくんなやぁぁぁぁぁぁぁ」
自分は家でPCをいじっていたはずだった。怪しい求人に応募をしたまでは覚えているが、それにしたって見知らぬ土地に放り出されるなんて夢でも見ているのだろうか。
- 13 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:40:00 ID:gOpuSR2Q0
- しかし全力疾走する体は現実だと証明するかのように悲鳴をあげ、煙草で弱った肺はキリキリと痛んでいる。
('A`;)「と、とにかくどこか身を隠せるとこは!?」
走りながら辺りを見渡し、ようやく家らしき建物がまばらに見えてきた。どういうわけか建物は散々に荒らされており、他に人間がいるような気配はない。だがドクオにはこれらの建物は放置されていたわけではなく、生活の気配が色濃く漂っているように見えた。
('A`;)「って冷静に分析してる暇はねえ!」
ドクオはちょうど扉が開きっぱなしになっている建物を見つけると、一目散に駆け込んだ。木製のドアを急いで閉じ、鍵をかけようとする。が、鍵らしきものは取り付けられていない。
('A`;)「だぁぁぁぁ! くそ、仕方ねえ!」
軽く周囲を見渡し、二階に上がる階段を見つけるとドクオはそちらに向かう。同時に閉じたはずのドアがまるで紙切れのように宙を舞った。
('A`)「なんか起死回生の一手は……」
しかし、ドクオが思い付く間もなく熊のような生き物が二階にやってきた。これで逃げ場がなくなった。
('A`;)(絶体絶命じゃないですかやだぁぁぁぁぁぁぁ!! こうなったら一か八かにかけるしかねぇ!!)
- 14 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:41:27 ID:gOpuSR2Q0
- ドクオは窓を開け放ち、枠に足をかける。後方から生臭い匂いが迫ってきた。迷っている暇はない。
覚悟を決め、足の裏に力を込めて、
(゚A゚)「あい! きゃん! ふらぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
跳んだ。
目指すは向かいの屋上。目視での距離はそんなに遠くはない。
届く、はず。
(゚A゚)「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
トン、と確かな感触。
('A`;)「と、届いた……」
どうやら急死に一生を遂げたらしい。跳んだ場所を振り替えれば、ドクオを追ってきた化け物が逆さに落ちていくところだった。あれでしばらく追っては来ないだろう。
('A`)「と、とりあえず落ち着こう。た、煙草煙草っと」
ポケットからセブンスターを取りだし、一本くわえて火をつける。美味いと感じたことはないが、いつのまにかドクオの精神安定剤のような役割を果たしていた。
('A`)y--~~「ふー」
- 15 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:43:26 ID:gOpuSR2Q0
- 煙を吐きながら、とりあえず現状を整理する。部屋にいたはずが一転して見たことのない場所におり、かつ見たことのない生き物との遭遇。さらには西洋風の建物に、人の気配のない街。
それらを総合し、ドクオは一つの結論にたどり着く。
('A`)「夢、だな」
あり得ない。そう、あり得ないのだ。こんな妄想の中でしか起こることのない出来事は、現実では絶対にあり得ない。ドクオのいた現実とはどうしようもないほどに理不尽で、救いのない世界なのだ。どこかのヒーローが手を差しのべてくれるはずもなく、ただ時間だけが無為に過ぎていくだけの日常。
確かに今見ている夢も、妄想としては出来が悪い。現にドクオを助けてくれるような都合のいい存在はいないし、そんな展開も起きていない。だが、見たことのない生き物も、見たことのない街も、全てがドクオがかつて思い描いたシナリオの設定に似ているのだ。
主人公が窮地に陥った時、颯爽と駆けつけてくれるヒロイン、もしくは仲間。
そして世界中を駆け回り、世界を救うための旅となり……。
( A )「あるわけねえだろ。そんなもん」
自分で考えた設定、世界は自分を楽しませてくれる。救ってくれる。何故なら自分が理想とした、そうありたいと願った世界なのだから。そうでなくてはおかしい世界なのだから。
だから、
ドクオは、
目の前の出来事がようやく『現実』であることを悟った。
- 16 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:44:32 ID:gOpuSR2Q0
- (・(
(・(エ
(・(エ)
(・(エ)・
(・(エ)・)
いつの間にか現れた黒い円から少しずつ、先程の生き物が姿を見せていく。その数は先程の比ではない。
周囲を取り囲んでいくそれらを眺めながら、ドクオは今度こそ本当に終わりなのだと知った。
ドクオには特別な力も特殊な能力もない、自堕落で楽観的なただの人。
主人公になるだけの素質も、運も、何もない。
( A )(もういいや。疲れた)
楽になろう。
目の前のなにかが腕を振りかぶる。当たれば即死だろう。
( A )(現実なんてこんなもんだ)
( A )(生きてたっていいことなんかありゃしねえ)
( A )(くそったれが)
- 17 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:45:39 ID:gOpuSR2Q0
- ズガンッ!!
何かが爆ぜる音、同時に熱風。
( A )「?」
何が起きたのだろうか。ドクオが顔を上げようとした瞬間、再び爆発。
('A`)「くっ……」
煙が周辺を覆い、何も見えない。肉の焼けるような異臭が鼻をつく。
その間にも爆発は続いており、何かが動く音と倒れる音が断続的に響いていた。
ようやく煙が晴れたとき、ドクオは確かにそれを見た。
幾度となく思い描いた妄想を完全完璧余すことなく体現した存在。
風に靡かれる長い黒髪、透き通るような白い肌は日の光を浴びてキラキラと輝いている。
少しの間を置いて、それはドクオを振り返った。
从'ー'从「大丈夫? どこか怪我はしてない?」
彼女の質問に答えることも出来ず、互いの視線が交錯する。
やがてーー
('A`)「女神……」
ドクオはぼんやりとそう呟いた。
- 18 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:47:43 ID:gOpuSR2Q0
- どれぐらい見つめあっていただろう。一秒が永遠にも感じられるような、そんな気分だった。
目の前に彼女が現れた瞬間、全ての意識が一気に引き寄せられた。
その可憐さに、その凛々しさに、その神々しさに。
从;'ー'从「えっと〜、大丈夫?」
もう一度、彼女が口を開いた。
('A`)「あ、あぁ」
从^ー^从「ここは危ないよ〜。魔物がいっぱいいるから、早く避難所に行った方がいいよ〜」
安心させるためなのか、はたまたドクオの反応が可笑しかったのか彼女が笑った。
ただそれだけで世界は彼女のために作られているんじゃないかと思うほどに、美しかった。
('A`)(めっちゃ可愛い)
彼女が手を差し出してきたので、ドクオはそれを掴んでようやく立ち上がった。
- 19 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:48:55 ID:gOpuSR2Q0
- 从'ー'从「えっとね〜、これから避難所まで案内するから乗って乗って」
('A`)「え?」
箒に跨がり、空いたスペースをぽんぽんと叩く彼女。乗ってと言っているが、乗ってどうするのだろう。
素朴な疑問が浮かんできたが、とりあえずドクオは従うことにした。今置かれている状況を把握するためにも、情報がほしい。
从'ー'从「それじゃあしっかり捕まってて!」
その言葉と共に、ドクオの足が地面から離れていく。
('A`;)「ちょ、え、マジで? マジで?」
数秒後、二人を乗せた箒は空を飛んだ。
- 20 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:50:14 ID:gOpuSR2Q0
◇◇◇◇
从'ー'从「私は渡辺っていうんだ。あなたは?」
('A`;)「俺はドクオだ」
从^ー^从「ここで会ったのも何かの縁だし、よろしくねどっくん!」
('A`;)「お、おう」
箒に跨がり空を飛ぶという珍しい体験をしながら、ドクオは気が気じゃなかった。何せ箒の柄の部分というのは非常に細い上に円柱なので、落ちてしまうのではないかと不安になるのだ。加えて美少女の背中に密着している。今まで女性にキモいだの臭いだの散々蔑まされてきたドクオにとって、誰もが文句なしに美少女といっていい渡辺にくっついている状況は様々な妄想が掻き立てられるのだ。
('A`;)(この高さから落ちたら死んじゃう! でも渡辺ちゃん超いいにおい!)
先程まで死にはぐっていたことはすでに忘却の彼方へ追いやり、ドクオは今を精一杯生きることの喜びを堪能する。
从'ー'从「ところでどっくんはどうしてあんなところにいたの〜? あの辺はとっくに避難が完了してたはずだよ〜?」
('A`)「……」
- 21 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:51:40 ID:gOpuSR2Q0
- さて、どうやって誤魔化すか。これまでの流れで自分が違う世界に来てしまったことはおぼろ気に理解している。先程の見たことのない生き物*��亙佞亘睚*と呼んでいた*��砲靴討癲△修譴鯑颪覆*撃破し、空を飛ぶ渡辺にしても、ドクオがいた世界ではあり得ないことばかりだ。
そして、それは渡辺にも当てはまるのだ。ドクオがいた世界の文明とこちらの世界の文明は当然食い違うだろう。それを伝えたところで頭がおかしいと判断されてしまえば終わってしまう。
ドクオは慎重に言葉を選びながら口を開いた。
('A`;)「実は俺、よく覚えてないんだ」
从'ー'从「ほえ?」
('A`;)「その、どうしてあそこにいたのか、今までどうしてたのか、家族や友達も分からない」
从;'ー'从「ええー!? どっくん記憶喪失なのー!?」
('A`;)「つまり、そういうことなんだ。だから、渡辺……さんが知ってる範囲でいいから俺の質問に答えてもらっていいかな?」
从'ー'从「渡辺でいいよ〜。私でよければ力になるよ〜」
どうやら誤魔化せたらしい。普通の思考回路をしていたらまず疑うべきところだと思うのだが、この渡辺という少女、少し抜けているらしい。
- 22 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:54:50 ID:Z1RVmQCU0
- ('A`)「えっと、まずここはどこなんだ?」
从'ー'从「ここはニューソク大陸の王都ヴィップだよ〜」
('A`)(聞いたことない地名だな)
('A`)「それで、さっきの、魔物? だったか。あれはなんだ? 王都っていうくらいだから守りは固いんじゃないの?」
从'ー'从「えっとねぇ、人間とか他の動植物が魔力によって変質した姿っていうのかなぁ。それが魔物なんだって〜」
从'ー'从「それでね、本当は王都を守る結界があるんだけど、急に消えちゃったんだ〜」
('A`)(……俺がこの世界に来た時に消えたってことなのか? だとすりゃどっかに俺を呼んだやつがいる?)
ドクオの中で様々な推測がなされるが、それは後回しにして質問を再開する。
('A`)「魔力……ってことは、今空を飛んでるのは……」
('A`)「魔法、なのか?」
从'ー'从「うん、そうだよ〜。私は魔法学校に通ってる魔法使い見習いだから、色んな魔法を使える訳じゃないけどね〜」
- 23 名前:名も無きAAのようです :2014/05/25(日) 20:55:52 ID:Z1RVmQCU0
- ('A`)「もしかして、みんな使えんの?」
だとすればドクオの記憶喪失は簡単にばれてしまう。なにせドクオは一般人で特技も特長もないヒエラレルキーの最底辺なのだ。
从'ー'从「勉強すれば誰でも使えるんじゃないかなぁ? 魔力自体は人間であれば誰でも持ってるから、術式さえ覚えれば簡単な魔法なら使えると思うよ〜」
('A`)「へー。もしかして、俺も使えんのかな」
从'ー'从「もちろん!」
('A`)「なるほどな。ありがとう渡辺。勉強になったよ」
从^ー^从「どういたしまして。どっくん記憶喪失なんだもん、私もできる限り協力するね!」
渡辺の力強い言葉に思わずドクオは涙ぐみそうになるが、同時にこんないい子を騙してしいるということに罪悪感を覚える。
('A`)(でも、怪しまれないためには仕方ねえよな)
('A`)(それに、せっかく異世界に来たんだ。アニメや漫画の妄想じゃなくて、現実に)
('A`)(だったら楽しまなきゃ損ってもんだ)
この考えが目の前の美少女によるところだとは自分でも理解していたが、ドクオはわくわくを抑えることができなかった。
- 41 名前:1 :2014/05/27(火) 00:58:05 ID:nwdzsgZA0
- 渡辺に連れられてやってきたのは広い学校のような場所だった。ような、というのは建物の装飾がドクオの知る一般的な学校ではなく、まるで絵画の中でしか見たことのないような豪華なものだったからだ。
そこはすでにたくさんの人でごった返しており、中には包帯を巻いていたり眼帯をしている者もいる。
渡辺は避難、と言っていた。王都の結界が消失し、魔物が侵入してきたのだ、とも。これがその結果なのだろう。
('A`)(……受かれている場合じゃないな)
渡辺が助けてくれなければ自分がああなっていたのかも知れないのだ。憧れの異世界といっても、ドクオが思い描くシナリオのようにはいかない。その中でも傷ついている人は必ずいて、そのうえで成り立っていくのがアニメや漫画なのだ。
从'ー'从「あ、どっくーん。こっちこっちー」
と、少し離れたところから渡辺が手を振っていた。
从'ー'从「騎士団の人に報告にいくからどっくんもついてきて〜」
('A`)「ああ」
渡辺のあとに続き、建物の奥へと入っていく。床の材質は分からないが、リノリウムのようなかつんかつんという音が怪我人達の声に混じって響いていた。
しばらく歩いてたどり着いたのは、他と比べれば大きめの扉の前だった。渡辺は二回ノックをして、失礼しますと言ってドアを開ける。
- 42 名前:1 :2014/05/27(火) 00:59:49 ID:FR.L1.sg0
- 从'ー'从「ラウンジ地区担当、ニダー班所属の渡辺です! 街に取り残されていた住民を保護しました!」
( ・∀・)「報告ご苦労。ん?」
報告を受け、質素なテーブルに肘をついた聡明そうな一人の男が怪訝そうに眉をひそめる。視線がドクオを上から下まで往復し、彼は小さくため息を吐いた。
( ・∀・)「見たことのない格好だな」
从'ー'从「えっと、彼は記憶喪失のようでして、自分が何故取り残されていたのか、その記憶がないそうです」
( ・∀・)「記憶喪失、ねぇ」
男はしばし虚空を見つめ、何かを考えているようだった。
( ・∀・)「お前、名前は?」
('A`)「え? あ、ドクオ、です」
( ・∀・)「俺はモララー、騎士団の分隊長をやってる。人をまとめる立場だ」
('A`)「はぁ……」
( ・∀・)「ドクオ、お前は王都の状況は聞いたか?」
('A`)「渡辺……さんから、おおまかには」
- 43 名前:1 :2014/05/27(火) 01:05:22 ID:UGfk0BDE0
- ( ・∀・)「王都の結界が消失し、そこに現れた見慣れない服装の男。おまけに記憶喪失ときてる。俺が言いたいこと、分かるよな?」
('A`)「……」
モララーと名乗った男は、ドクオに聞いているのだ。お前が犯人なのか? と。
モララーの言っていることは至極当然のことだとドクオも思う。こんな状況であればその疑いは怪しい人間に向けられる。
('A`)「俺は何も知りません、と言いたいてすが、証明する手だてはありません」
( ・∀・)「ほう。じゃあ大人しく拘束されて、洗いざらい吐かされたいか?」
('A`)「……それでも俺は知らない、と主張し続けます」
( ・∀・)「……」
('A`)「……」
しばらくの間沈黙が場を支配する。ドクオは眼を逸らさなかった。逸らしたら取り返しのつかないことになると本能が叫んでいる。
( ・∀・)「ま、今はいい。緊急事態だしな。これが終わったらまた話そうか、ドクオ」
('A`)「分かりました」
この場はなんとか収めることが出来たようだ。次にどんな目に合うかは分からないが、これで時間は稼げる。
('A`)(別にやましいことは何一つないんだけどな)
( ・∀・)「とりあえず二人とも行っていいぞ」
モララーがしっしっ、と手を振る。ドクオと渡辺は失礼しました、とだけ言ってようやく部屋を出た。
- 44 名前:1 :2014/05/27(火) 01:06:30 ID:UGfk0BDE0
- ◇◇◇◇
部屋を出ると、ドクオは大きくため息を吐いた。
('A`;)「ぶっはぁぁぁぁ、すげえ緊張した」
こんなに緊張したのは大学時代の就活の面接以来だろうか。身体中に嫌な汗がじっとりと浮いている。
从'ー'从「私も緊張したよぉ〜」
その割にはけろっとした顔をしている渡辺。あまり顔に出ないタイプなのかもしれない。
('A`)「しっかし、あのモララーって人威圧感半端ないな。何でも知ってそうな雰囲気というか」
从'ー'从「モララーさんはね〜、魔法学校を主席で卒業して最年少で分隊長になったすごい人なんだよぉ〜」
('A`)「いわゆるエリートってやつなんだな」
从'ー'从「学校でも人気があるみたいだよ〜」
まぁ、確かに顔もよかったし、生徒が憧れるのも仕方ないのかもしれない。ドクオはあまり好きになれそうにないタイプだが。
<ヽ`∀´>「おんやぁ? そこにいるのは忌み子の渡辺じゃないかニダ」
- 45 名前:1 :2014/05/27(火) 01:07:56 ID:UGfk0BDE0
- と、そこへ渡辺に声をかける男がいた。いかにも人を見下していそうな、典型的ないじめっこのような顔をしている。
从'ー'从「ニダー君……」
不意に渡辺の顔が曇る。心なしか声のトーンも下がっていた。
<ヽ`∀´>「落ちこぼれの渡辺がこんなところで何をしているニダ? しかもぶっさいくな男を連れて体でも売ってるニダ?」
ニダーと呼ばれた男はそう言って耳障りな笑い声をあげた。
<ヽ`∀´>「初級魔法しか使えないからって、まさかモララー様に変なことをしたんじゃないのかニダ? だとしたらウリはお前のことを軽蔑するニダ」
ニダーはなおも侮蔑の言葉を投げてくる。心の底から楽しそうに。
('A`#)「てめぇっ!」
从ー从「どっくん! 私は大丈夫だから!」
ドクオは思わず殴りかかりそうになる。が、渡辺の一声により足を止めざるを得なかった。
ぐっと握りこぶしを作り、行き場のない怒りを強引に押し込める。
<ヽ`∀´>「おお怖い怖い。自分に力がないから男を頼るなんて、魔法使い失格ニダ。そもそも、自分が忌み子だと分かっていながら魔法使いになろうだなんて傲慢にも程があるニダ」
はっきり言って胸糞の悪くなる言い方だ。ドクオは渡辺のことをよく知らないが、同じ人の心を持っているのならここまで酷いことは言えないはずだ。こいつには良心がないのだろうか。
<ヽ`∀´>「ま、悪いことは言わないニダ。出来る限り早く人の迷惑にならないとこで死んでくれニダ。そんじゃ、ウリは失礼するニダ」
それだけ言うと満足したのか、ニダーはモララーのいる部屋に入っていった。ドクオはそれを見届け、渡辺に詰め寄る。
('A`)「何で言い返さないんだ? あんな酷いこと言われたんだぞ?」
从ー从「……仕方、ないから。ニダー君の言うとおりだし」
('A`)「言うとおりって、お前死ねとまで言われたんだぞ? それで仕方ないって」
从ー从「私、少し外の空気吸ってくるね」
('A`)「あ、おい、渡辺!」
渡辺は早足に校内へと消えていく。振り返る瞬間、瞳からきらりと光るなにかが溢れたのをドクオは見逃さなかった。
- 46 名前:1 :2014/05/27(火) 01:09:27 ID:UGfk0BDE0
- 渡辺が去ったあと、ドクオは一人暇をもて余していた。というのも、校外へ出るのは禁止されており、出入口には魔法使いなのか騎士なのかは分からないが見張りが立っている。出ようとした瞬間金属の棒のようなもので制止されたものだから、思わず腰を抜かしてしまった。
仕方がないので校舎内を見回ろうと思ったのだが、思いの外面積は大きくなく、少し歩いただけで見るところがなくなってしまった。
さらに言えばドクオの格好は目立つらしく、人に会うたび奇異の眼を向けられたり、渡辺と一緒にいたところを見られていたのかひそひそと声が聞こえたというのも理由の一つである。
('A`)(そんなに目立つかねぇ。スウェットくらいこっちにもあると思うんだけどな)
ドクオはロビーのような広い場所にやってくると、適当に腰を下ろし、壁に背を預けながらそんなことを考えていた。とは言っても、実際ここにいる人達の中でスウェットもそれに類似した服装を見なかった以上はやはり物珍しいのかもしれない。
('A`)(やっぱり文化が違うんだろうな。なにせ魔法が当たり前に存在してる世界だもんな)
- 47 名前:1 :2014/05/27(火) 01:10:36 ID:UGfk0BDE0
- 文化が違えば文明も違う。渡辺に聞いただけではその全貌は見えてこないが、ドクオの考える魔法というものが発展すれば元の世界のような機械が発展する必要はあまりないのかもしれない。
魔法を覚えれば誰だって空を飛べるし、もしかしたら移動するのも一瞬かもしれない。錬金術だって魔法の一種だろうし、そこまでいったら機械なんて必要ないだろう。
('A`)(しばらく帰れないだろうから、渡辺に教えてもらえないかな)
そこまで考えたところで、ドクオは先程の渡辺とニダーのやり取りを思い出す。
('A`)(なんだったんだろう。渡辺があんなこと言われる原因が思い当たらないな。めっちゃ可愛いし、いい子だし)
ニダーは渡辺のことを『忌み子』と言っていた。もしかしたらその辺りが関係あるのかもしれないが、それでもあそこまで人を貶すことはないだろうとドクオは思う。
('A`)(忌み子、か)
*��*前がうちの品位を下げてるんだ。
*��*前さえ産まれてこなければ妹は死ななかったんだよ。
*��*前さえいなければ。
*��*前さえ。
( A )(……くそ、なんで今思い出すんだよ)
いつだったか言われた言葉がドクオの脳裏にフラッシュバックする。親戚の誰もが決まってニダーのような顔をしていた。
そんなことを言われたところで、産まれてきたことはどうしようもないのに。
自ら命を絶たなければいけないほど、自分の存在は忌避されるものなのか。
大人になった今でも、ドクオは自分の価値というものが分からない。生きていてもいいのか、死んだほうがよかったのか。
( A )(……本当は、渡辺に何か言わなきゃいけなかったんだよな、俺)
- 48 名前:1 :2014/05/27(火) 01:11:31 ID:UGfk0BDE0
- 後悔しても遅いのは分かっている。だがドクオにはかけるべき言葉が分からなかった。自分の価値にすら自信を持てない人間が何をいったところで空虚な妄言にしかならないだろう。
口から出任せを並べられればいいが、ドクオには何故かそれが出来なかった。言葉の端々に汚さが滲み出るような気がして。
( A )(くそったれ)
気づけば真っ白になるほど手を握りしめていた。この怒りは何にたいしてなのか、自分か、渡辺か、それともニダーなのか、
本当は分かっている。過去なんてものは今を形成する一つの道標であり、あれこれ考えたところでどうしようもない。過ぎ去ってしまったことは変えることなど出来ないのだから。
('A`)(せめて、自信もって気にすんなって言えるようになれればな)
ドクオがそう結論付け、顔をあげたその時だった。目の前に黒い円が現れたのは。
(・
(・(エ
(・(エ)・
(・(エ)・)
('A`)「え……」
(・(エ)・)「Wooooooooooo!!」
- 49 名前:1 :2014/05/27(火) 01:12:13 ID:UGfk0BDE0
- 円の中から次々と魔物が現れ、雄叫びをあげる。その数は街で見たよりもさらに多い。
('A`;)「くそっ!」
ドクオは弾かれたようにその場から駆け出した。街中での動きを見る限り、動きはそんなに速くない。運動不足のドクオでも十分に逃げ切ることが出来たのだ。
が、すぐにドクオの足が止まる。
('A`;)(そうだ、ここは避難所だった)
つまり魔物たちから逃げようと走り回れば、自由に動けない怪我人たちと遭遇してしまう。その瞬間この場所は地獄絵図と化するだろう。
(・(エ)・)「GYAAAAAAAAAAAAA!!」
ドクオはどうするべきかを瞬間的に判断し、くるりと魔物のほうを向いた。
('A`;)「かかってきやがれ化け物ども!? ドクオ様が相手になってやんよ!!」
何故そうしたのかは分からない。けれど、胸を張って彼女に会うにはこうするしかないと、ドクオは感じた。
- 50 名前:1 :2014/05/27(火) 01:16:31 ID:DYcRxU2Q0
- ◇◇◇◇
从ー从(嫌なとこ見せちゃったなぁ)
ドクオが記憶喪失だと知ったとき、渡辺は密かに歓喜した。何も知らないなら、仲良くなれるかもしれない、友達になれるかもしれないと思ったのだ。
自分の居場所はこの町にないことは知っている。渡辺という存在はあまりにも衝撃的で、未だ根強く蔓延っている。
この黒髪もそれを如実に表していた。
王都、いやこの世界を隈無く探したところで、渡辺と同じような漆黒の髪を持つ人間なんていないのだ。
ドクオの髪も確かに黒だったが、少し茶色がかっていて色素が薄い。けして自分とは同じではない。
漆黒の髪が忌み子として扱われる理由は、渡辺自身よく分からなかった。亡くなった両親も教えてくれなかったし、今後も知ることはないかもしれない。
渡辺は自分という存在に、人生に、命に、価値を見いだせなかった。人に嫌われ、蔑まれ、石を投げられても、彼女は自分に価値を与えるべく歩こうとしていた。だからこそ渡辺は暗いことを考えず、誰も恨まず憎まず、人に優しくあろうとした。魔法使いになるという道も、人の役にたちたいという願いからだ。
けれども現実は渡辺に牙を向いて襲ってくる。人のために、この世界の生きとし生けるもののために何かをしようとするほどに他人の悪意は増すばかりだった。
そんな世界に渡辺は絶望していた。そんな世界の中でしか生きることのできない自分に、価値があるとはどうしても思えない。
けれど、そんな中でドクオは初めて自分を恐れず、対等な人間として接してくれた。ニダーの台詞にも純粋に怒ってくれた。
人に優しくされたのは初めてだった。いや、あれは自分以外に向けられる感情としては当然なのかもしれない。普通の人間であれば、当たり前のように受けることのできたことなのかもしれない。
从;ー;从「嫌われちゃったかなぁ」
- 51 名前:1 :2014/05/27(火) 01:18:24 ID:DYcRxU2Q0
- 渡辺は初めて人に嫌われたくないと思えた。だって、あんな風に優しくされたら、知ってしまったら、もう耐えられないじゃないか。
从;ー;从「やだよぅ、嫌われたくないよぅ」
止めどなく溢れる涙は自分の意思ではどうにも出来ない。拭っても拭っても頬を濡らしていく。
しばらくの間、涙は止まらなかった。泣けるだけ泣いて、そうしたらきっと元通り。そしてドクオのところへ行って、笑顔を作ろう。
思い切り泣いて落ち着いた頃、渡辺はようやく顔をあげた。近くにあった鏡で顔を確認すると、眼は赤くなり、その周辺は腫れていた。
从;'ー'从「ひどい顔だよ〜」
化粧なんてやったこともないので、隠すこともできない。機会があれば化粧を覚えてみようと渡辺は心に決めた。
从'ー'从「早くどっくんのとこ行かなきゃ。記憶喪失だし、きっと寂しいよね」
この顔は見せたくないがやむを得ない。渡辺が校舎へ戻ろうとした時、複数の足音と悲鳴が聞こえた。
从'ー'从「ほえ?」
渡辺が騒ぎの方へと駆けつけるとそこにはたくさんの魔物が腕を振りかぶり、
('A+;)
从;'ー'从「ど、どっくん!!」
為す術もなく立ち尽くすドクオの姿があった。
- 52 名前:1 :2014/05/27(火) 01:19:32 ID:DYcRxU2Q0
- ◇◇◇◇
('A+;)「はぁ、はぁ……さすがに、しんどい」
(・(エ)・)「SHAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
正面の魔物がドクオ目掛けて爪を振るう。それを一歩後ろに下がり紙一重で回避。続いて右の魔物が突っ込んできた。
('A+;)「ぐぼっ」
壁に激突し、肺から空気が抜けていく。うまく呼吸が出来ない。
やはり素人の回避方法では一体ずつの攻撃は避けられても、間をおかずにこられると間に合わなくなる。ここまで致命傷をもらわなかったのは奇跡としか言いようがなかった。
それでも魔物からの攻撃は休むことなく繰り出され、じわりじわりとドクオは追い詰められていく。すでに足腰はがくがくと震えており、気を抜けば二度と起き上がれなさそうだった。
('A+;)(けど、もう少ししたら、他の魔法使いが来るかもしれない。それまで耐えろ、俺!!)
ドクオはなんとか立ち上がろうと全身を奮い立たせ、顔を上げる。そこには一斉にこちらへと腕を振るう魔物達がいた。
('A+;)(やばっ、よけきれ)
从'ー'从「どっくん!!」
そこへ渡辺が炎弾を叩き込んだ。昼間見た魔法だろうか、魔物達を巻き込んで爆発するとその体を焦がしていく。
- 53 名前:1 :2014/05/27(火) 01:20:24 ID:DYcRxU2Q0
- ('A+;)「た、助かったよ渡辺」
从'ー'从「どうしてこんなことしてるのよぉ!!」
そばに来るなり大声をあげる渡辺に、ドクオは少々面食らったが、しかしはっきりとした声で答えた。
('A+;)「怪我人がたくさんいるんだ。ここで逃げたら他の人を巻き込むかもしれないだろ? だから囮になったんだ」
从ー从「こんなに傷だらけになって……もしかしたら死んじゃってたかもしれないんだよ?」
('A+;)「けど、渡辺ならきっと来てくれるって信じてたよ」
从ー从「……おかしいよ、どっくん」
('∀+;)「俺もおかしいと思う。若さゆえの過ちなんだろ、きっと」
渡辺の手を借りてなんとか立ち上がり、笑みを作るが腫れた頬が邪魔をしてうまく出来なかった。
渡辺がドクオを抱き締めてくる。小刻みに震える彼女の体はとても小さくて、子供をあやすようにドクオは頭を撫でた。
从ー从「ばか。どっくんのばか」
('A+;)「ははっ。とりあえず、しばらく休みたい。もう体が動かないんだ」
从'ー'从「うん。治癒術師さんのとこに連れてってあげる」
- 54 名前:1 :2014/05/27(火) 01:21:14 ID:DYcRxU2Q0
- 渡辺に肩を借りて歩き出すが、体のあちこちが鈍い痛みを発し、足がうまく動かなかった。
我ながら馬鹿なことをしたとは思うが、今回ばかりはやってよかったと思えた。たくさんの命を救えたのだ。ここに来なければ、渡辺に出会わなければ、自分は一生なにも出来なかっただろう。
傷が癒えたら、渡辺に何て言おうか。こんな自分でも誰かの役に立てたのだ。ならば言うことは決まっている。
それはーー
- 55 名前:1 :2014/05/27(火) 01:21:56 ID:DYcRxU2Q0
ぐしゃっ。
- 56 名前:1 :2014/05/27(火) 01:23:36 ID:DYcRxU2Q0
- 嫌な音がした。
次に視界が高速で動いた。気付いたら床に転がっていた。痛みはない。
( A )(なに、が……)
( (エ) )
倒したと思った魔物が起き上がり、充血させた眼をこちらに向けている。どうやら怒らせてしまったようだ。
ゆっくりと近づいてくる魔物に、ドクオは何とか抵抗しようと体を動かそうとするが、意に反して言うことを聞いてくれない。
('A+;)(わたなべ……は……)
顔だけを動かし、周囲を見渡せば数メートルほど離れたところに渡辺は倒れていた。
背中に大きな爪痕を残して。
意識はあるらしく、彼女も立ち上がろうとしているが、魔物の攻撃をまともに食らってしまったのだ。ドクオより傷が深いのかもしれない。
( (エ) )
魔物は渡辺を標的にしたらしく、そちらへと向かっていく。
('A+;)「やめろ」
魔物は止まらない。
('A+;)「やめてくれ」
体は動かない。
- 57 名前:1 :2014/05/27(火) 01:24:59 ID:DYcRxU2Q0
- ('A+;)「くそったれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
その時、神様はほんの少しだけドクオに力をくれたのかもしれない。
(゚A+;)「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
起き上がり、必死に走る。
从; ー 从「どっくん!!」
( (エ) )「GAAAAAAAAAAAAA!!」
魔物が爪を降り下ろす。あと数センチ。
その時、世界がスローになる。
風の流れさえも感じ取れるほどの極限の世界で、ドクオは地面を蹴った。
間に合え!! 間に合え!! 間に合え!!
魔物の攻撃は止まらない。
ドクオの体が魔物の爪に触れる。
渡辺が何かを叫んだとき。
ドクオの体を魔物の爪が貫通した。
- 58 名前:1 :2014/05/27(火) 01:29:22 ID:FR.L1.sg0
- ◇◇◇◇
ドクオの体から血が流れていく。止まることなく、ゆっくりと。
ドクオは動かない。ぴくりともしない。
魔物の爪がドクオの心臓を貫いた。一瞬だっただろう。
从;ー;从「あ……あぁ……」
目の前で倒れるドクオを、渡辺は揺する。
从;ー;从「どっくん、起きてよ。冗談はやめてよぉ」
ドクオは動かない。
从;ー;从「私を独りにしないでよぉ」
ドクオは答えない。
从;ー;从「もう、独りは嫌だよぉ。どっくん、起きてよぉ」
ドクオは、二度と笑わない。
从;ー;从「いや……いやぁ……」
ドクオは、死んだ。他ならない、自分のせいで。
从;ー;从「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
渡辺の叫びは誰にも届かない。誰にも響かない。この世界で、渡辺は独りぼっちになってしまった。
それでも現実は理不尽なもので、絶望を背負ってもまだ抗えと渡辺に地獄を突きつける。
( (エ) )「Oooooooooooooo!!」
魔物の攻撃はいとも簡単に渡辺を吹き飛ばし、彼女の体はぼろ雑巾のように床へ転がった。不思議と痛みはない。
- 59 名前:1 :2014/05/27(火) 01:30:52 ID:FR.L1.sg0
- 从ー从「」
だが、何故か渡辺は立ち上がっていた。戦う理由なんてないはずなのに、戦う意味なんてとうに消えてしまったのに。
从ー从「せめて、あなただけは……倒すよ」
箒を構え、残った力全てを使い詠唱をする。目の前に赤い魔方陣が浮かび、火の玉が発射された。
命中。爆発。黒煙で視界を奪われる。
これが最後の力だった。渡辺にはもうマッチほどの小さな火を出すこともできないだろう。
全身から力が抜けていき、渡辺は崩れ落ちた。
次第に煙が晴れ、渡辺は、もう何も言わなかった。
( (エ) )
魔物は頭部の大半を失い、腕をもがれ、ようやく絶命した。
そして、その後ろには、
<ヽ`∀´>「ニダニダニダニダ。さすがはウリニダ。忌み子が死にもの狂いで戦っても勝てない魔物を一撃必殺ニダ」
ニダーと、その取り巻きが立っていた。
- 61 名前:1 :2014/05/27(火) 01:33:50 ID:FR.L1.sg0
- 从ー从「ニダー……くん……」
<ヽ`∀´>「アンニョンハセヨ。
さてと、ここにはもう魔物はいないニダ。これで安心ニダ」
いつのまにか渡辺のそばに立っていたニダーが朗らかに笑いながら手をさしのべてくる。渡辺はこの手を掴もうとして、どうしても出来なかった。力が入らないのだ。
<ヽ`∀´>「……なんだ、ここはウリの優しさに感激して手を取るところだニダ。やっぱり忌み子は人間じゃないニダ」
从ー从「……え?」
<ヽ`∀´>「どうやら魔物はあれだけじゃなかったみたいだニダ。ここにも瀕死の魔物がいるニダ」
ーーコノヒトハナニヲイッテイルンダロウ?
ーーマモノハモウアナタガタオシタヨ?
ーーココニハワタシガイルダケ。
<ヽ`∀´>「ニダニダニダニダ!! やはり魔物は人間の言葉が分からないみたいニダ。いいか? 偉い人間様の言葉、ありがたく耳にするニダ」
- 64 名前:1 :2014/05/27(火) 01:41:32 ID:UGfk0BDE0
<ヽ`∀´>「お前のことだよクソゴミ」
- 69 名前:1 :2014/05/28(水) 10:31:14 ID:940RRGy60
- 从ー从「ワタ……シ……?」
<ヽ`∀´>「お前自分が人間だとでも思ってたのかニダ? 漆黒の髪を持つなんて人間なわけないニダ」
<ヽ`∀´>「お前何で自分が忌み子なんて呼ばれてるか分からないニダ? ならウリがおしえてやるニダ」
<ヽ`∀´>「ウリ達の世界では黒髪の人間なんて産まれないニダ。黒髪は悪魔の特徴なんだニダ」
<ヽ`∀´>「周りに不幸を撒き散らし、破壊の限りを尽くす存在は、人間なんて呼ばないニダ」
<ヽ`∀´>「だから人々はそいつらを迫害し、追いやり、封印したニダ。だが、やつらは死んでいく自分達を見て、人々の中に紛れようとしたんだニダ」
<ヽ`∀´>「見た目は人間と大差ないニダ。黒髪さえ隠せば充分人として生きていけるニダ」
<ヽ`∀´>「そうして人間として生活した悪魔どもは人との子を成したニダ」
- 70 名前:1 :2014/05/28(水) 10:31:54 ID:940RRGy60
- <ヽ`∀´>「長い年月のなかで人と同化した悪魔は黒髪の子さえ成さなくなったニダ。だが、時折お前のような子供が産まれることがあるニダ」
<ヽ`∀´>「悪魔の血を色濃く引き継いだ、人魔だニダ」
<ヽ`∀´>「これで分かったニダ? お前は人間なんて高尚な存在じゃない、それ以下のごみくずだニダ。『そこに転がっている男も同様』に、ニダ」
ニダーの話を聞いても、渡辺は何も思わなかった。自分が悪魔だとか、そんなことはもうどうでもよかった。自分の人生なんてそんなものだと思っていたから。
それでも、渡辺は一つだけ許せないことがある。
一時の感情なんだと理解している。
少しだけ優しくされただけの関係で、互いのことなんて何も知らない、小さくて細い微かな縁でしかない。
でも、それでも渡辺は彼が何かを言おうと悩んでいたことを知っている。自分を慰めてくれようと、足掻いていたことを知っている。
从ー从「訂正して」
- 71 名前:1 :2014/05/28(水) 10:32:47 ID:940RRGy60
- <ヽ`∀´>「ニダニダニダニダ!! お前みたいなクズでもプライドがあったニダ!? こいつは悪かったニダ」
从#'ー'从「どっくんはごみくずなんかじゃない!!」
<ヽ`∀´>「うるさいニダ」
ニダーは一切の加減をせず、渡辺の腹を蹴りつけた。それでも渡辺は止まらない。それぐらいじゃ止まってやるものか。
从#;ー;从「どっくんは名前も知らない、顔も知らない誰かのために命を賭けたんだよ!! 赤の他人を救おうとして、救ったんだ!! 安全なところに胡座をかいて高みの見物をしてるあなた達に、彼を蔑む権利なんてないんだよ!!」
<#ヽ`∀´>「黙るニダ!! ウリをバカにすることは許さんニダ!!」
从#;ー;从「あなたは誰かのために命を張れる!? あなたは見返りも何もなく、他人のために動けないじゃない!! 人を馬鹿にすることしかできないあなた達が人間を語るな!!」
<ヽ`∀´>「……もういいニダ。殺す」
从;ー;从「私は悪魔だよ。どっくんに何も返してあげられなかった。どっくんを死なせてしまった。ごみくずだよ。だから、せめて私だけはどっくんの味方でいるんだ」
<ヽ`∀´>「死ね」
ニダーが詠唱を始める。渡辺の命は詠唱が終わるまでだろう。その間に、渡辺は少しでも彼のそばに行こうと体を引きずっていく。
从;ー;从(ごめんね、どっくん)
- 72 名前:1 :2014/05/28(水) 10:33:29 ID:940RRGy60
- <ヽ`∀´>「ウリのまhうぇあ!!」
渡辺には、ニダーが瞬間移動をしたようにしか見えなかった。気付いたら、壁にめり込んでいた。
从;ー;从「ほえ?」
一瞬、ドクオが助けてくれたのかと思った。本当は死んでなどなくて、体力を回復していただけなのかもしれない。しかし、その願いはあっさりと崩れ落ちることとなる。
(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)
そこには、空間という空間を埋め尽くすほどの魔物で溢れ返っていた。
- 73 名前:1 :2014/05/28(水) 10:39:27 ID:llU/SGqM0
- ◇◇◇◇
ーーここはどこだろう。俺は何をしていたんだっけ。
真っ黒に塗り潰された視界、辺りは静寂だけが蠢いていた。
ーーああ、そうだ、俺は、死んだんだ。
事切れる瞬間、誰かが呼んでいたような気もするが、記憶に靄がかかったように不透明で思い出せない。
大切な人だったのかもしれない、大事な言葉だったのかもしれない、かけがえのない感情だったのかもしれない。
だがもう終わってしまったことだ。過去は覆せない。変えられない。自分が死んだことも、彼女が泣いていたことも、もうーー。
不意に暗闇を引き裂く光が飛び込んできた。そらはゆっくりと、彼を飲み込むように大きくなっていき、彼の中に様々な情報が氾濫していく。
ーーなん、だ、これ。
彼女の生い立ち、彼女の生き方、彼女の覚悟、過去から未来を通して彼は、彼女の全てを知った。
守りたいと思った。そばにいたいと思った。彼女の笑顔を、他人の悪意に晒したくなかった。
ーー帰らなきゃ。彼女を独りになんかさせない。
手を伸ばした。彼女を守るだけの力を得るために。
( A )「こんな現実、俺が変えてやる!!」
瞬間、暗闇が吹き飛んだ。
- 74 名前:1 :2014/05/28(水) 11:39:32 ID:KH7IFHJk0
- ◇◇◇◇
ドクオの体から眩い光が吹き出し、一瞬にして魔物の大半が消滅した。魔物達も驚いたのか、それとも本能が危険を察知したのか、一斉に距離を取る。
从;ー;从「どっくん?」
( A )「Oooooooooooooo!!」
いつの間にかドクオの手には赤黒い細身の剣が握られており、その刀身からは美しすぎるほど鮮明な朱が不気味に輝いている。
ドクオが一歩踏み出すと、その姿が消え、魔物達の後方に剣を横に薙いだ格好で現れた。
魔物達は倒れることもなく、まるで幻だったかのようにその姿を消していく。始めからそんなものはなかったかのように。
魔物達はドクオの姿を見て何を思ったのだろう。何が起きたかも分からず、どうしていいか分からないといったようにオロオロとしていた。
( A )「l7o*�*eo9cdng*�*8fl8h2bd*�*fkhpv!!」
- 75 名前:1 :2014/05/28(水) 11:40:49 ID:KH7IFHJk0
- 人と思えぬ言葉を発し、ドクオは暴れたりないと言わんばかりに魔物を蹂躙していく。魔物たちはドクオに攻撃を加えるが、ドクオはそれらを無視して、傷を作りながら止まらない。
右に左に、魔物の隙間を縫うように群れの中を縦横無尽にかけ、一刀のもとに魔物たちは消滅していく。
( ∀ )「*����*
やがて魔物も敵わないと本能で悟ったのか、次第に逃げ出していく。しかし、ドクオはそれを許さず追いかけて無慈悲に剣を振るう。
威嚇のためなのか、奇声を放つ魔物。口を不気味に歪ませながら戦うドクオ。
ドクオ以外に動くものがいなくなった頃。
ドクオはようやく、糸の切れた人形のように床に倒れたのだった。
- 76 名前:1 :2014/05/28(水) 11:42:07 ID:KH7IFHJk0
- ◇◇◇◇
『目覚めたか』
『はい。計画は滞りなく、順調に進んでおります』
『確か、ドクオといったか。彼は実に優秀な駒になってくれそうだな』
『そうですな。地べたに這いつくばっている人間とは実に御しやすい』
『しかし、果たしてあれを人間と呼んでいいのでございましょうか』
『確かに、人間というカテゴリーに当てはめるにはいささか度を越えているかもしれん』
『破滅と絶望を撒き散らす存在を、ここでは<悪魔>と定義するのでは?』
『<悪魔>か』
『では、その<悪魔>を御する我らはどのような存在になるのか』
『決まっておりまする。我々は』
川д川『この世界の<神>となるのです』
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