- 415 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 03:45:18 ID:iEUzuBzM0
少し難しい話をしよう。
古典的な決定論によれば未来は決定しており、そこに僕達の自由意思が介在する余地は存在しない。
全てを知覚し全てを演算し全てを予測している知性のことをある数学者は『ラプラスの悪魔』と名付けた。
少し難しい話をしよう。
才人は運良く才能を持って生まれただけに過ぎず、成功はその才能がたまたま社会に需要されただけに過ぎず、故に社会は根本的に不平等だ。
人間の人生の結果、その全ては究極的には偶然性に依っているのだとある哲学者は語り、現代経済学の礎を築いた。
少し難しい話をしよう。
全ての選択肢で世界が分離していくという量子力学的な多世界理論を取るとすれば、どのようなハッピーエンドも単に幸運な分岐が選ばれただけに過ぎない。
個人の行動も選択も何もかもがなんの意味も成さない無限分岐の世界をある文学者は題材にした。
少し難しい話をしよう。
大いなる神が創りたまいしこの世界は神の摂理の下にあり、人の全ての歴史は神の配慮によって起きており、救済に与る者は遥か昔より決定している。
神は選ばれし者の為だけに言葉を残されたのであり善行と救済は関係がないとある神学者は提唱し、現世に議論と改革を残した。
- 416 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 03:46:06 ID:iEUzuBzM0
未来は全て決まっている。
人の意思には価値がない。
それは、そうなのかもしれない。
だけど僕はそれでも言いたい。
僕達の選択が未来を作ると、未来への切符はいつも白紙なのだと。
自由が無価値よりも遥かに過酷なことだとしても――僕はそう叫び続けたい。
マト ー)メ M・Mのようです
「第八話:Memorable Meme」
.
- 417 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 03:47:07 ID:iEUzuBzM0
―――『過去』。
『現在』。
『未来』。
選択、意思、人生、後悔、才能、価値、意味―――自由。
……ああ、そうだよな。
分かってるんだ。
僕は大して神を信じちゃいない。
だから、こんな時だけ都合良くその神の使いとやらが現れて。
行くべき道を。
後悔しない選択を、示してくれるとか。
そんなこと、期待するのも馬鹿らしいんだ。
僕達は自由だ。
だから自分で未来を選んでいくしかない。
何も分からなくたって、そうしていくしかないんだ。
だってそれが生きるってことだろう?
- 418 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 03:48:06 ID:iEUzuBzM0
だから。
うん、分かってるよ。
こんな暗闇で言葉を並べていたって何も変わりはしないことくらい。
言葉っていうのは一人で悩む為にあるものじゃない。
他人と繋がって考える為にあるものだ。
あるいは――無知な自分を奮い立たせる為に、大切な誰かを慰めてその涙を止める為にあるものだから。
……さて、じゃあ。
分からないことばかりだし、悔やんでも悔み足りないし、それはこれからも続いていくんだろうけど。
もしかしたら今度こそ死んでしまうかもしれないんだけれど。
それでもこれは僕の人生だから。
まだ僕は生きているから。
―――そろそろ、目を醒まそうか。
.
- 419 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 03:49:06 ID:iEUzuBzM0
*――*――*――*――*
右手の手の平が温かい。
そんな感想を抱きながら僕は目を開ける。
ぼんやりとした頭で考えるが、そのコンクリートの天井に見覚えはなかった。
( ^ω^)「ここは……」
ここは何処だ?
どうなったか、は幸いにも覚えている。
明るさの足りない室内で僕は上半身を起こし、そこで気が付く。
手の平に伝わる熱の正体。
ベッド脇のパイプ椅子に座っている少女が僕の手を強く握っていたのだ。
彼女の名前だって、僕はちゃんと思い出せる。
( ^ω^)「……ミィ?」
マト -)メ「…………」
- 420 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 03:50:06 ID:iEUzuBzM0
その名前を呼ぶ。
答えはなく、彼女は俯いたままだった。
寝ているのだろうか?
だが直後にそうではないと気付く。
小さな肩が震えていた。
マト -)メ「…………なさい」
( ^ω^)「え?」
マト -)メ「……約束したのに。守れなかった、ごめんなさい……」
守れなかったというのは約束のことだろうか。
それとも、僕のことだろうか。
僕の彼女の契約。
約束。
僕達はお互いの目的の為に手を結んでいたわけで、それで。
( ^ω^)「何言ってるんだお。僕はこうして生きてる」
- 421 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 03:51:06 ID:iEUzuBzM0
それだけで重畳だし、と言いながら両手両足の感触を確かめる。
一つもおかしな部分はない。
( ^ω^)「護衛としての役目には、まあ……不備があったかもしれないが、僕だって傷を負うことくらい覚悟してた」
父親が失踪し。
痕跡がなく。
部屋が荒らされ。
最初から危険など承知で、僕はこうして父の足跡を探している。
無傷で安全に終われればそれが一番だったし、その為にミィを雇ったという面もあったが……。
トントン拍子に上手くいくほど甘くないということは分かっていたつもりだ。
( ^ω^)「そんなに気にするほどのことじゃないお。僕はこうして五体満足なんだし」
マト -)メ「違うんです、ブーンさん……」
( ^ω^)「何が違うって言うんだ?」
と。
- 422 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 03:52:06 ID:iEUzuBzM0
彼女がその答えを口にする前に部屋の扉が開いた。
そこに立っていたのは顔に大きな古傷のある黒髪の少女だった。
纏う底知れぬ異常さに思わず冷や汗が流れる。
二度と遭いたくなかった相手。
その少女は咥えていた棒付きキャンディをパキリと噛み砕き、僕に笑みを見せた。
奴が、立っていた。
(#^;;-^)「なんや、えらい元気そうやん?」
悪魔の右腕を持つ超越者。
『殺戮機械』と呼ばれる少女がそこに立っていた。
(;^ω^)「…………なんで、お前が?」
(#゚;;-゚)「へぇ、なるほどなあ」
彼女――という呼称が正体不明の奴に相応しいかは分からないが、とにかく彼女は言った。
- 423 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 03:53:06 ID:iEUzuBzM0
(#^;;-^)「てっきり勘違いしとると思とったけど、そうでもないみたいやな」
( ^ω^)「何の話だ?」
(#゚;;-゚)「兄さんを襲ったていう奴、指鳴らしとったらしいやん。だから、うちと勘違いしとるんやないかってな」
ああ、そのことか。
首を振って僕は答えた。
( ^ω^)「あのパーカーの子はお前じゃない。確証はないが、それくらいは分かる」
(#゚;;-゚)「へぇ? 勘か?」
( ^ω^)「というよりも、印象の違い……と言うべきかな。姿を変えられる相手に印象も何もないだろうが」
それでも、僕を襲った相手とこの『殺戮機械』は別人だと思うのだ。
あの少女の異常性に気付いたのは意識が途切れる寸前の最後の一瞬だけだったが、威圧感があることは同じでも決定的に何か違う部分があった。
具体的に何かは分からない。
分からないが、きっと別人だと思う。
『殺戮機械』のこちらの根幹の脅かすような恐怖とは、何かが違った。
- 424 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 03:54:06 ID:iEUzuBzM0
( ^ω^)「それにミィが襲われるなら分かるが、お前には僕を襲う理由がないだろ? お前は『未来予測』の能力が目当てなんだから」
(#^;;-^)「おっしゃる通りやな。誤解を解く暇が省けて嬉しいわ。尤も、もし勘違いしとった場合は殴って分からせとったけど」
(;^ω^)「…………」
殴って分からせる?
確かコイツ、クレーン車でも動かすのが難しそうな巨大な棒を振り回していてなかったか?
そんな力で殴られたら顔がアンパンのヒーローよろしく僕の頭が吹き飛ぶぞ。
洒落になってない。
一息置いて、僕は言った。
( ^ω^)「最初の質問に戻ろうか。どうしてお前がここにいる?」
(#゚;;-゚)「一言で言えば……成り行きやな。変わった魔力震を感じたもんやから行ってみたら兄さんが倒れとった」
( ^ω^)「……イマイチ分からないな」
(#゚;;-゚)「魔力震やなくて呪波とか揺らぎとかでもええんやけど、とにかく超能力使った痕跡ってことや。うちが持ってない能力のな」
( ^ω^)「で、それを収集する為にワープしたら、僕がいたわけかお」
- 425 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 03:55:06 ID:iEUzuBzM0
泣いとるお嬢ちゃんと一緒にな、とディは付け加える。
(#゚;;-゚)「で、まあ……扱いに困ったから今の寝床に連れてきた」
( ^ω^)「……じゃ、とりあえずお礼を言っておくお。ありがとう」
僕の言葉に、彼女は薄笑いを浮かべた。
ミィの笑顔とは全く異なる、ゾッとするような微笑だ。
彼女は言った。
(#^;;-^)「そんなことよりも兄さんには礼を言うべきことがあるんやで。というよりも、頼むべきことか」
( ^ω^)「どういうことだ?」
(#゚;;-゚)「すぐに分かるわ。そのお嬢ちゃんがなんで泣いとるかもな」
そうして『殺戮機械』は軽く指を弾く。
乾いた音。
彼女が能力を使う合図。
- 426 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 03:56:07 ID:iEUzuBzM0
そう。
その瞬間だった。
―――僕が光を失ったのは。
「…………え?」
暗闇の中、状況を理解できない僕に特徴的な口調が答えを教える。
「今、兄さんからうちが貸しとった力の一つを取り上げた。つまり今の状態がアンタの本当の状態や」
「いや、そんな……これは、」
戸惑う僕に対して彼女は淡々と告げる。
目の前の現実を直視できない。
最早その「目の前」は認識できず、「直視」することも叶わない。
「ご愁傷様、失明や。五体満足には程遠いな。……もう二度と、その両目に何かが映ることはないんやから」
- 427 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 03:57:06 ID:iEUzuBzM0
*――*――*――*――*
僕はどうにか口を開く。
「…………頼む」
上手く言葉が紡げない。
声音が震えている。
暗闇がこんなに怖いものだとは知らなかった。
何も見えないことがこんなにも恐ろしいだなんて。
できることならば、知りたくなかった。
「何をや?」
「分かってるんだろ……頼む」
必死で声の震えを止めて、僕は言う。
- 428 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 03:58:06 ID:iEUzuBzM0
視覚以外の感覚が異様に鋭くなったような錯覚。
右手から伝わってくるミィの温度が熱い。
その焼け付くような熱さを拠り所として言葉を紡ぐ。
「……僕の目を、見えるようにしてくれ」
「ええけど、効果は一時的やで?」
「構わないお」
「せやかてすぐにまたその暗闇に戻ることになるんや、そんなん何度も失明する恐怖味わうみたいなもんやん。そもそもさっきまでうちが使っとった能力は、」
「いいからッ!!」
「…………はあ。分かったわ」
敏感になった聴覚が少女の特徴に口調と溜息を捉える。
次いで、鼓膜が小さな破裂音に震えた。
- 429 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 03:59:08 ID:iEUzuBzM0
瞬間――僕の世界に光が戻った。
視界に満ちる光の量に一瞬ふらつきながら、僕は思い切り右手を引く。
ミィと繋がったままのその右手を。
マト; -)メ「え……」
そうして僕は彼女を抱き寄せ、抱き締めた。
僕と同じか、それ以上に恐怖に震えている少女を。
自分自身に大丈夫だと言い聞かせ。
そして、言う。
精一杯の強がりを。
( ^ω^)「―――お前のせいじゃない。お前のせいなんかじゃ、ないから」
強がりだっていいんだ。
後で泣いたっていい。
でも、今だけはそう言うんだ――大丈夫、男の子だろう?
- 430 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:00:06 ID:iEUzuBzM0
マト; -;)メ「でも……ッ! ブーンさん、目が……!」
( ^ω^)「気にするな……って言うのは無理か。僕だって流石に気にするお。まったく、こんなことになるならボウリング場で……って、そうじゃないか」
でも、と僕は涙を流し続ける彼女に告げる。
( ^ω^)「もし負い目を感じるなら、僕の目になってくれないか?」
マト; -;)メ「目……?」
( ^ω^)「ああ、そうだ」
僕の目はどうやら見えなくなったらしい。
今こそこうして君を見ることができるけれど、それも短い間のことだ。
だから、その代わりを。
( ^ω^)「少しの間だけでいいから――僕の代わりに『過去』を見据え、僕と一緒に『未来』を夢見る、僕の目になってくれないか?」
僕はそう言った。
- 431 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:01:07 ID:iEUzuBzM0
彼女は僕の腕の中で小さく頷く。
どうやら涙も止まったらしい。
それだけで、今はとりあえず良いことにしよう。
( ^ω^)「にしてもお前、酷い顔してるお。トイレに行って顔でも洗ってこい。いつものあの笑顔を見せてくれ」
僕がそう続けると、ミィは再びコクリと頷いて部屋を出て行く。
彼女の足音が遠くなったことを確認してから息を吐く。
ミィもいないことだし、少しくらい泣いてもいいだろうか?
……いや駄目だ。
ミィの瞳ならば同じ建物の出来事くらいは全て把握する。
だから、我慢。
もう一度溜息を吐いた時、ずっと立ったままだったディが言った。
(#゚;;-゚)「呆れるくらいの強がり……いや、そこまで行ったら一つの強さか。尊敬するわ、ホンマに」
( ^ω^)「そうか? 思ったことを言っただけだお」
- 432 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:02:12 ID:iEUzuBzM0
折角の強がりが無駄になるような余計なことを言われない内に、それよりも、と話題を変える。
状況の把握に努めなければ。
( ^ω^)「……そもそも僕はなんで失明してんだお。何があった?」
(#゚;;-゚)「原因を訊いとるんやったら『分からん』とだけ答えられるな。ある意味でこれほど分かりやすいこともないんやけど」
( ^ω^)「どういうことだ?」
(#゚;;-゚)「兄さんに危害を加えたんはそのパーカーの女や。当然、今の状態もその女の能力の結果やな」
やけど、と続ける。
(#゚;;-゚)「目を潰されたんやったら分かりやすいわな。眼球がないから見えない。やけど、そうやない。原因が一切不明なんや」
( ^ω^)「なんだか分からないが、『目が見えない』という結果だけがあるってことか。そしてそれは能力の結果だと」
(#^;;-^)「そういうことやな。まあ実際んところは、今すぐ心臓発作で死ぬ可能性はゼロやないってだけの話なんやけど……」
そうして『殺戮機械』は語り出す。
僕が意識を失った後、世にも珍しい能力を持つ少女が何を起こしたのかを。
どんな風にモラトリアムの終わりが始まったのかを。
- 433 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:03:08 ID:iEUzuBzM0
*――*――*――*――*
僕が倒れた後――いや厳密には、倒れる直前にはミィは全てを察して僕の元へ向かった。
しかし如何せん気付くのが遅過ぎた。
彼女が目にしたのは、アスファルトに倒れ伏した僕の姿。
そしてその傍らに立つ小柄な少女。
遅過ぎた。
それだけは明白だった。
マト; -)メ「―――ブーンさんっっっ!!」
駆け付けてきたミィを見て、少女は微笑む。
戦慄したという。
サイズの合っていないブカブカの黒のパーカー、そのフードの奥から覗く瞳を見て、ミィはゾッとした。
いや、少し違うだろうか。
アカイロに染まった両目で知覚した瞬間に背筋が凍り、実際に目の当たりにした時には心臓が止まりそうになったらしい。
- 434 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:04:08 ID:iEUzuBzM0
そう。
ミセ*^ー^)リ「こんな所で会うだなんて、奇跡的だねぇ」
その鮮烈さに、少女以外の色が世界から消え失せたようだった。
『未来予測』という能力を持つミィだからこそ分かる、少女が秘めたチカラの大きさ。
それほどまでに――熾烈で。
それほどまでに――強烈な。
いっそ『絶望』と呼んでも過言ではないような、そんな在り方の化物だった。
マト; −)メ「ブーンさんに……何をしたんですか……!」
ミセ*^ー^)リ「そんなこと、その目で分かるでしょう? ねぇ、『プロヴィデンス』」
宗教における摂理や因果を表す単語でミィを呼ぶと、少女はいとも無邪気に笑ってみせた。
そして彼女の言う通りでもあった。
- 435 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:05:07 ID:iEUzuBzM0
「何をしたか」なんて、ミィの目を以てすれば自明だった。
その時の僕の状態は言葉にはできない。
不整脈を原因としたアダム・ストークス発作、原因不明の虚血性心疾患、心筋梗塞、脳貧血による意識障害……。
医学的な単語だけを並べるだけでは実情を表すには至らない。
詰まるところ、その瞬間の僕という人間は『運悪く死にかけていた』。
心臓が動いておらず、呼吸の継続が不可能で、脳への血流が止まっていたのだ。
ただ、『運悪く』―――。
ミセ*^ー^)リ「はじめまして『プロヴィデンス』。私は『クリナーメン』」
それがどういうことなのかを、恐らく世界中の誰よりもミィは理解していた。
だからこそ戦慄し恐怖したのだ。
絶望した。
……例えば、自分の頭上に隕石が落ちてきて運悪くそこにいた自分だけが即死する確率。
そんな死に方をした人間は歴史上にも数えるほどしかいないだろうが、もしかしたら一人もいないかもしれないが、それでも理論上はありえる。
確率上では飛行機は一年間毎日乗り続けても一度も墜ちることがないくらいに安全な乗り物だが、それでも不運にも墜落事故で命を落とす人間はいる。
毎日ハンバーガーを食べ続けても健康そのものな人間も、ポックリと心筋梗塞で亡くなってしまう人間もいる。
極端な話になるが、量子力学におけるトンネル効果によれば壁にボールを投げ付けた場合、そのボールが壁を通り抜けてしまうことも可能性としては存在する。
- 436 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:06:09 ID:iEUzuBzM0
可能性はゼロじゃ、ない。
そして、ゼロではないということは起こり得るということだ。
原子論における偶然性を表す単語を名乗った少女、彼女が行ったのはつまり、そういうことだった。
ミセ*^ー^)リ「この奇跡的な出逢いに感謝しましょう? この素敵な偶然に」
『量子干渉』。
『確率変動』。
『運命操作』。
名称はなんでもいい。
『クリナーメン』と自称する彼女は、偶然を操る異能を持っていた。
マト# −)メ「……!」
そうして偶然にも――あるいは、必然に。
因果に纏わる異能者と奇跡を服わす異能者は出遭った。
- 437 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:07:07 ID:iEUzuBzM0
*――*――*――*――*
少し考え、僕は言った。
( ^ω^)「あのパーカーの少女は確率を操る異能を持ってたってことかお?」
(#゚;;-゚)「そういうことになるわな。コペンハーゲンなんちゃら的に言えば量子の不確定性に干渉する能力。だから兄さんが失明した理由もそういうことや」
失明の原因が「分からない」というのはそういうことなのだろう。
どういうことかと問われれば、ただの不運でしかない。
あの少女が行ったのは僕にとって不幸な偶然が起こり得る確率を跳ね上げただけなのだ。
心筋梗塞の危険因子なんて誰もが少しは持っている。
いきなり心臓だか血管だかが御機嫌斜めになって死ぬ確率は誰だってゼロではない。
極端に言えばそれは今日の運勢やラッキーアイテム次第だ。
( ^ω^)「『確率論(クリナーメン)』ね……」
起こる可能性がある事象を、確率を操作することで起こりやすくする。
壁に投げ付けられたボールがそのまま壁を通り抜けるという事象が確率的にはありえる以上、確率を操作できるならば全能と言っても過言ではない。
- 438 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:08:07 ID:iEUzuBzM0
僕は訊いた。
( ^ω^)「思った以上にヤバい相手だということは分かった。けど、その話の通りだと僕が死んでるんだが……」
(#゚;;-゚)「心臓動かなくなってもすぐ死ぬわけやないやん」
そりゃそうだけども。
そして僕は生きてるけども。
(#゚;;-゚)「その後、お嬢ちゃんはそのガキを相手にせんかった。応急処置せんと兄さんが危ない状態やったからな。で、ソイツは去っていったと」
なるほど。
彼女の賢明な判断に感謝するばかりだ。
激昂して相手に襲い掛かっていたら、対処が遅れ、僕は本当に死んでいたかもしれない。
やはりミィはちゃんと僕を守ってくれたのだ。
それはそうと心臓が止まっている相手に対しての応急処置なんて、連想されるのは一つしかない。
思わず、最早無意識的に自らの唇を指でなぞってしまう。
- 439 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:09:07 ID:iEUzuBzM0
(#^;;-^)「一応言うとくと、うちは心を読むような能力を持っとるんやけど」
( ^ω^)「…………今発動していないことを祈るばかりだ」
閑話休題したいという僕の思いを読み取ったのか、数え切れないほどの異能を持つ少女は話を再開する。
(#゚;;-゚)「その『クリナーメン』いう女が能力を使った瞬間、うちはそれを察知し現場へ向かった。えらい強烈な能力やったからな……」
( ^ω^)「お前が、『殺戮機械』とまで呼ばれる存在がそこまで言うほどか?」
(#゚;;-゚)「そこまで言うほどや」
彼女は即答する。
アレはヤバい、と。
(#゚;;-゚)「確率操作する能力なんて無敵みたいなもんやからな……。昔、『運命の輪』って能力を持つ奴がおったらしいけど、ソイツも相当やったらしい」
( ^ω^)「らしい?」
(#゚;;-゚)「当事者にとって不都合な運命を変え続けるって能力やったらしいから、うちみたいに害意を持っとる奴は出逢うことすらできんかったんや」
- 440 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:10:07 ID:iEUzuBzM0
自分にとって都合の良いように運命を変えていく能力。
そんなもの、世界を支配しているのと何が違うのだろうか?
そのなんとかという能力と同じではないだろうが、『確率論(クリナーメン)』という確率を操作する異能が彼女曰く「ヤバい」のは事実なのだ。
……そして多分、そんな力を察知して迷わず手に入れようと行動を起こしたこの『殺戮機械』も相当ヤバい。
仮に運命が敵に回っても勝てる算段があったということなのだから。
(#^;;-^)「ただ上手く行かんもんでなあ。行動自体はすぐに起こしたけど、すぐには辿り着けんかった」
( ^ω^)「それも、例えば『邪魔が入らないような確率』を跳ね上げることで誰かが横槍を入れることを妨害したってことか? 無茶苦茶だな……」
(#゚;;-゚)「そやな。頑張って対抗して辿り着いた時には既にお目当ての相手はおらず、しゃーなしに兄さんを少し治療して、その場から退避したってわけや」
やはり確率操作能力にも彼女なら対抗自体はできるらしい。
同じ能力を持っていれば容易いか。
向こうはサイコロの目を全部一に変えているようなものなのだから、それを元に戻すとは行かずとも、一の目を半分くらいにできればどうにかはなるだろう。
だがとりあえず、お礼を言わなければならない。
( ^ω^)「何かしてくれたって言うなら、ありがとう。感謝するお」
- 441 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:11:07 ID:iEUzuBzM0
ん、とディは短く応じた。
奪ってばかりだからか感謝されることに慣れていないのかもしれない。
(#゚;;-゚)「で、他にご質問は?」
( ^ω^)「お前と同じようにそのパーカーの少女も指を鳴らす癖があったらしいが、知り合いか?」
(#゚;;-゚)「知り合いやったらとっくの昔に能力奪っとるわ。必要とあらば命もな」
サラリと恐ろしいことを告げて、次いで指を鳴らしてから言った。
(#゚;;-゚)「ゆーてもこんなん、探せば見つかる程度のありふれた癖やしなあ……。うちの場合も他人の仕草を真似したものやし」
( ^ω^)「なるほど……」
『殺戮機械』と『クリナーメン』に共通している要素があるとすれば、有する異能力の膨大さだ。
やろうと思えば大抵のことができてしまう。
だとしたら、自分の中でメリハリを付ける為に一つ動作を挟むのは自然なこととも言える。
指を鳴らすことで一つ一つを区切っているのだ。
- 442 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:12:07 ID:iEUzuBzM0
( ^ω^)「なら、そのパーカーの少女は何者で、何処にいるのか分かるか?」
(#゚;;-゚)「うちは分からんけども、」
と、言い掛けてディは部屋の入り口へと視線を向けた。
そこにはお手洗いから戻ってきたミィが立っている。
残念ながら僕が望んだ笑顔ではないが、真剣な話題の最中だ、仕方がない。
そうして彼女はあの『ファーストナンバー』にも似た毅然とした表情で告げる。
マト-−-)メ「『暗闇の底で、私はずっと、あなたが訪れるのを待っている』――そう言い残して去って行きました」
( ^ω^)「……待っている、か」
マト゚−゚)メ「はい。『ずっと待っていたし、ずっと待っている』と」
言い残されたメッセージの意味を考えて僕は沈黙する。
その言葉に偽りがないのならば。
あの使者は、ミィが失った過去からの刺客だ。
- 443 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:13:08 ID:iEUzuBzM0
*――*――*――*――*
――『暗闇の底で、私はずっと、あなたが訪れるのを待っている』
――『過去も、未来も、全ての真実はそこにある』
パーカーの少女はそんな言葉を言い残して去っていったとという。
待っている、と。
そのことを伝えに来たのだと。
マト-ー-)メ「私の『過去』や【記憶(じぶん)】の真実が分かるという確証はありませんが……ですが、関係者であることは間違いないと思います」
( ^ω^)「……そうだな。誘いに応じ、行くべきだ」
全ての答えがそこにあるというのなら行かなければならないだろう。
たとえ、罠だったとしてもだ。
と。
(#゚;;-゚)「『行くべきだ』なんて甘いことが言える状況やないんやないの?」
- 444 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:14:07 ID:iEUzuBzM0
壁にもたりかかり、新たに取り出した棒付きキャンディーを味わいながらディが言う。
ミィのそれとはまるで異なる嫌な笑みを浮かべながら。
(#^;;-^)「話聞いた限りでは、どう考えても脅しやん、それ」
( ^ω^)「脅しだって?」
(#゚;;-゚)「そや。気付かんか? その『クリナーメン』いう女が何者かは分からん。けど、口振りから察するに、うちと同じで用があるのはお嬢ちゃんだけや」
ぶっちゃけ兄さんのことなんてどうでもええんや、と続ける。
(#゚;;-゚)「でもそしたら分からんことがある。なんで兄さんに危害を加えたのかが分からんのや。戦闘力もない相手にやで?」
( ^ω^)「それは……」
(#゚;;-゚)「無論、その女がキチガイ野郎で理由なく人を傷付ける奴って可能性はあるし、うちらが知らんだけで兄さんに恨み持っとったんかもしれん」
だが、そうではないとしたら。
もっと妥当な推測ができるのではないか?
- 445 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:15:09 ID:iEUzuBzM0
……なるほど、そういうことか。
脅し。
その言葉を噛み締めつつ、僕は言った。
( ^ω^)「『来なければどうなっても知らないぞ』……そういうことかお」
マト゚−゚)メ「私が行かなかった場合には、またブーンさんを傷付ける、と?」
(#゚;;-゚)「そうやろな。わざと殺さずにおいたんや。『次はこんなもんじゃないぞ』って意味でな」
要するにミィを動かす為の人質……のようなものだろうか。
「その男に危害を加えられたくなければ、大人しく指示に従え」というわけだ。
(#゚;;-゚)「兄さんの命が惜しいなら、お嬢ちゃんに選択の余地なんてない。行くしかないんや」
そう平然とディは言ってのけた。
その様は状況を楽しんでいるようですらある。
まるで他人事だなと思い、いや他人事なのかと思い直す。
所詮、彼女にとっては他人事なのだ。
- 446 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:16:13 ID:iEUzuBzM0
そして、僕達にとっては自分のこと。
自分で決めなければならないこと、だった。
( ^ω^)「そうまでして呼び寄せるってことは……やはり、罠かお?」
(#^;;-^)「どうやろなあ? 案外、茶でも一緒に飲みたいだけかもしれんで? ほら、同窓生とかで」
マト-ー-)メ「なんにせよ行くしかありませんね」
ここでようやく、ミィはあの特徴的な笑みを浮かべた。
ふわふわとした掴みどころのない笑顔。
場違いだとしても、それでこそミィだと僕は思い、少しは気も楽になったのかと安心した。
だが。
直後にミィははっきりと宣言した。
マト゚ー゚)メ「ですが――行くのは、私一人です」
有無を言わせぬような口調で彼女はそう告げた。
- 447 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:17:06 ID:iEUzuBzM0
(;^ω^)「、」
マト-ー-)メ「『なんで』なんて、言わないでください」
言葉通りに、有無を言わせぬ。
ミィはその両の瞳に宿した能力を用いてか、僕が声を出す前に疑問の言葉を封殺した。
そうして言うのだ。
マト゚ー゚)メ「ブーンさん。はっきり言って、ブーンさんが一緒だと迷惑です。邪魔でしかありません」
( ^ω^)「ミィ……」
マト-ー-)メ「先ほども述べられていましたが、なんの戦闘スキルも持たないブーンさんがついて来たところでマイナスにはなれどプラスにはなりません」
( ω)「ミィ、もういい」
分かってる、と僕は告げた。
分かっているのだ。
だからもう、そんなことは言わなくていい。
- 448 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:18:07 ID:iEUzuBzM0
何が分かってるって?
一緒に行ったところで何の役にも立たないこと?
そんなこと、百も承知だ。
言われるまでもない。
僕が分かっているのはそうじゃない。
そういうことじゃない。
( ^ω^)「辛辣な言い方をすれば僕が大人しく引き下がると思ったか? あるいは怒って見放すとでも考えたのかお?」
あまり僕を舐めるなよ、と一拍置いてから言う。
( ^ω^)「そうやって必死に自分から、危険から遠ざけようとしてるんだろ? 僕を守ろうと」
マト −)メ「!」
( ^ω^)「……まったく。いつだったか言っていたように、お前は未来が見えるだけで他人の気持ちは全然分からないみたいだな」
僕の言葉にミィは降伏するようにゆるゆると首を振る。
そして「ブーンさんには敵いませんね」とあのふわふわとした笑みを浮かべた。
- 449 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:19:14 ID:iEUzuBzM0
僕はミィのように未来が見えるわけではない。
いつだって分からないことだらけだ。
でも、できることならば彼女の気持ちくらいは見えていたいと思っている。
彼女の心の動きが『目に見えて』分かるようでありたいと。
だから。
( ^ω^)「……僕が足手まといにしかならないことは分かってる。だから、お前一人で行くといい」
情けなさに拳を握りしめて。
無力感を噛み締めつつ、そう言う。
でも、と僕は続けた。
( ^ω^)「代わりに僕はずっとお前の帰りを待ってる。真実も過去も、何も分からなくたっていいから。……だから、必ず帰って来い」
真実なんて。
過去なんて。
これから先もずっと探していけばいいのだから。
見つかるまでずっと一緒に探すから、と。
- 450 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:20:07 ID:iEUzuBzM0
彼女は顔を伏せ、暫し黙った。
そうして一度息を吐くと、小さく、声を震わせて呟いた。
マト ー)メ「……本当に敵いませんね、ブーンさんには」
( ^ω^)「当たり前だお。僕はお前の雇用主なんだから」
マト ー)メ「そっか。そうですよね……」
( ^ω^)「ああ。だからもう一度契約だ。……必ず戻ってこい」
お前のことだけを信じてる、と僕は言った。
私もブーンさんのことを頼りにしてます、と彼女は応えた。
(#^;;-^)「……甘ったるくて付き合ってられへんわ。うちはもう寝るし、ここは好きに使ったらええ」
僕達のやり取りを見ていたディは口元を歪めて笑いつつ、そう言い残すとさっさと部屋を出て行ってしまった。
好きに使えと言われてもここにはベッドと椅子が一つずつしかなく、とても二人で眠れるようなスペースはないのだが……。
狭量なのか寛容なのか分からない。
- 451 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:21:07 ID:iEUzuBzM0
二人っきりになった部屋。
薄暗い室内で、改めて見つめ合うと何を話すべきか迷ってしまう。
彼女の橙にも近い色合いの瞳。
目が合った瞬間にふっと心が絡め取られて、目が離せなくなる。
この両目の色はあの都村トソンと全く違うなあなんて、そんなことをぼんやりと考える。
と、その時、ミィが言った。
マト゚ー゚)メ「ブーンさん。ブーンさんが勉強していることについて教えて頂けませんか?」
(;^ω^)「え? なんで、いきなり……」
マト^ー^)メ「なんだかそうした何気ない会話が大切なような気がして。折角なので、詳しく聞いておこうと思いました」
( ^ω^)「また何か未来が見えたのかお?」
マト-ー-)メ「いえ、そういうことではなりません。そんな気がしただけです」
乙女のカンですよ、と彼女は笑って答えた。
それを見て、僕はやはりミィにはこの笑顔が一番似合うと素直に思った。
- 452 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:22:06 ID:iEUzuBzM0
*――*――*――*――*
それから何時間かミィと話しながら過ごした。
話の内容は、なんてことのない、取り留めのないものだった。
社会と個人の関係といった小難しいことから好きな食べ物に至るまで。
特に目的のない話をして、一緒に時間を過ごした。
いつも移動の合間にしていたような他愛のない世間話をして……。
そしてふと気付いた時には、彼女は僕の隣で寝息を立てていた。
( ^ω^)「……良かったよ」
もう二度と何も見えなくなるんだとしても。
今、彼女のこんな寝顔を見ることができて良かったと。
そんな風に思った。
( ^ω^)「感傷だな……」
- 453 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:23:07 ID:iEUzuBzM0
ミィを起こさないようにベッドから抜け出す。
『殺戮機械』の宿の一つであるという、この建物。
打ち捨てられたテナントビルだと聞いた通りに、廊下に出ると使われていない建築物特有の寒々しさがあった。
近くで見つけた階段を上ってみると、その先は屋上だった。
いつだったかスーツと男と戦ったのもこういう場所だったなと思い出し苦笑する。
たった数日前のことなのに酷く昔のことのようだ。
あんな出来事も今では一つの『過去』だった。
ドアノブを捻り屋上へと出ると、あの時と同じように先客がいた。
(#^;;-^)「なんや、えらい早いお目覚めやん」
あの時よりもずっと狭い屋上に和傘を差した少女が立っていた。
夜明け前の薄暗い空の下で一体何をしているのだろう?と疑問に思いつつ、ディの元へと向かう。
(#゚;;-゚)「でもええ時間に起きたな。そろそろ夜明けや。綺麗なんやで、ここから見る景色」
( ^ω^)「ああ……。なんて言えばいいか分からないんだが、ありがとう」
(#゚;;-゚)「朝日はタダやで?」
- 454 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:24:17 ID:iEUzuBzM0
心底不思議そうにそう返す彼女を見て、思わず笑ってしまいそうになる。
なんでそうなるんだ。
どうやら本当にお礼を言われ慣れていないらしい。
そうじゃない、と僕は続けた。
( ^ω^)「宿を貸してくれたこととか、助けてくれたこととか……。そういうことに関しての礼だお」
(#゚;;-゚)「ああ、それか。別にええよ。うちの能力では兄さんの目は治せんかったわけやし」
( ^ω^)「……ひょっとして、良い奴なのか?」
(#^;;-^)「そんなわけないやん。単にあのお嬢ちゃんの近くにおったら『確率論(クリナーメン)』の能力奪う機会があるかもー、て思ただけや」
僕の言葉を笑って否定する。
それは威圧感もなく嫌な感じもしない、素朴な、人の良さそうな笑みだった。
(#゚;;-゚)「それはそうと、お嬢ちゃんが誰に似とるか思い出したで。今度会ったらそれを言おうと思っとったんや」
( ^ω^)「あー……それか」
- 455 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:25:06 ID:iEUzuBzM0
というか、そんなことわざわざ覚えてるなんて、やっぱり良い奴なんじゃないだろうか?
戦闘以外の場面ではあの本能に訴えかけてくる恐怖が薄れていることもあるし、やはり怖いことは怖いのだが。
でも怖くても良い奴がいてもおかしくないとも思う。
そんなディは言った。
(#゚;;-゚)「あのお嬢ちゃん、纏間って奴に似とる」
(;^ω^)「…………なんだって?」
初耳だ。
誰だソイツは。
(#゚;;-゚)「でもアレやな、もう纏間、『都村』って名前になったんやっけか」
( ^ω^)「ああ、そのことなら知ってるお。『都村トソン』って名前の科学者だろ?」
(#^;;-^)「なんや知っとるんかいな。思い出した甲斐がないなあ」
そうして「『纏間』っていうのはソイツの母方の名前や」と補足する。
- 456 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:26:06 ID:iEUzuBzM0
(#゚;;-゚)「ソイツの娘も能力者で、今はなんとかって言う軍の部署におるんやけどな」
( ^ω^)「そのことも知ってるお。こないだ本人に会った」
(#^;;-^)「なんや、つくづく思い出し甲斐のない」
なら、と彼女は続けた。
(#゚;;-゚)「その娘の同僚に精神干渉……記憶操作とかができる奴がおるって話も知っとるんか?」
(;^ω^)「……え?」
それは、初耳だ。
それこそ初耳の情報だ。
記憶操作――ということは、つまり。
(#゚;;-゚)「もしかしたらあのお嬢ちゃんの記憶を奪ったのは、その娘――『ファーストナンバー』こと都村トソンやないかと思っとったんやけど」
- 457 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:27:06 ID:iEUzuBzM0
都村トソン。
最初で最後の人工能力者。
ミィのことを「よく知っている」と語った女。
何かしら関係のあるものだと考えていたが……。
もしかしたら、彼女がそうなのか?
ミィの記憶を奪った、彼女の全ての過去と真実を知る黒幕―――。
( ^ω^)「……なんにせよ、行くしかないみたいだお」
朝焼けに染まっていく空に僕は呟く。
口に出して、「僕はついて行けないんだったか」と思い出し自嘲するように笑う。
向かう場所に真実はあるのか。
因果の集う先、暗闇の底へ向かう君に。
ここで待つしかない僕に。
一体、何ができるのだろう?
一体、何ができたのだろう?
僕は小さく彼女の名前を呼んで、その無事をただ祈る。
- 458 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 04:28:06 ID:iEUzuBzM0
明けない夜はない。
止まない雨はない。
それはきっと正しい。
だが穿った見方をすれば、朝がいつか終わることも再び夜が訪れることも必然だ。
止まない雨の向こうに必ず希望に満ちた空があるとは限らない。
今日より明日が良い日になるなんて根拠は何処にもない。
そう、誰も保証してくれやしないのだ。
だけど、それでも僕達は、確かな『現在(イマ)』のその先に何かがあると信じてる。
いつも、いつでもそうやって、まだ見ぬ『未来』の夢を見る。
マト ー)メ M・Mのようです
「第八話:この身に流れる知」
.
- 467 名前:名も無きAAのようです :2014/02/15(土) 06:48:34 ID:SQZb1LYQ0
【現時点で判明している“少女”のデータ】
マト゚ー゚)メ
・名前:不明
・性別:女
・年齡:不明(外見年齡は15〜17程度)
・誕生日:不明
・出身地:不明
・職業:不明
・経歴:不明
・特記:『未来予測』の能力を持ち、限定的ながら未来が見える。精確に予測できるのは数秒先までで一分以上先のことは可能性が見えるのみ。
能力を発動している間は瞳の色が変わるがデフォルトでもある程度未来は見えている。
・外見的特徴:身長160代前半。癖のある赤みがかった茶髪。白い肌。起伏の少なめな体型。整った容姿。ニット帽。ボーイッシュな服装。
やや鋭めな双眸。瞳の色は橙に近いヘーゼル。能力発動中は左目が紫に輝き、更に集中すると色が濃くなり紅色に変わる。
・備考:
気が付いた時には記憶(エピソード記憶)を全て失っていた。
その当時の所有物は細工の入った銀の指輪のみ。
一人称は恐らく「私」。この国の言語で話しているので海外に住んでいたとは考えにくい。
服を着る、買い物をする等のごく一般的な知識も備えている。
知識(意味記憶)として一般には知られていない生体兵器についての知識を有する。
顔立ち、特に目元が超能力の研究をしていたと言われる科学者『都村トソン』及びその娘に似ている。
- 468 名前:名も無きAAのようです :2014/02/15(土) 06:49:16 ID:SQZb1LYQ0
【現時点までに使われた費用(日本円換算)】
・NO DATA
【手に入れた物品諸々】
・NO DATA
- 469 名前:【第八話予告】 :2014/02/20(木) 14:00:32 ID:FBkACFcw0
「ミィ、お前は何処の国の人間なんだろうな。
どの国で生まれ、どの社会で育ち、どの血や氏に連なる人間なんだろうな。
……自分の家族はまだしもそんなこと大して興味ないって?
そんな風に言うもんじゃないお、国家や民族は個人に大きな影響を与える重要なファクターなんだから。
例えばな、かつて西欧でルネサンスが盛んになった理由は、一説には『西洋人のルーツ探し』だと言われてるんだお。
自分達が何から始まった何者であるのか……それを知りたくなったんだ。
ただ残念なことに西欧人のルーツは西欧には存在しなかった。
西欧に存在する物の大半は中東、主に肥沃な三日月地帯辺りとアジアから伝わった物だ。
そりゃそうだお、そもそものところ文明のルーツ自体がメソポタミア、エジプト、インダス、黄河と、あとアメリカの先住民にしかないんだから。
だから西欧に西欧人の起源なんてあるわけがなかった。
『自分は何者であるか』を西欧人は探したが、それで見つかったのは『自分は何者でもない』という真実だった。
あれほど大切にしている神様や宗教すらユダヤから伝わったものだから当然と言えば当然だお。
あるいはルーツが存在しないからこそ神話に本質を求めたのかな。
西欧人はよく個人のアイデンティティはどうとか言いたがるが、それは民族に確固たるオリジナリティがないことの裏返しなのかもしれないお。
…………あ、おいコラ、僕に勉強してること話せと言っといて寝るんじゃねーお――― 」
―――次回、「第九話:Meaningless Monster」
←第七話 / 戻る / 第九話→