345 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:40:44 ID:un0.uF.U0


  その時、僕は思っていた。

  もしかしたら、と。
  もしかしたらこのまま僕の父のことも彼女の記憶のことも何もかも、ずっと見つからないままなんじゃないかと。
  もしかしたら見つからないままの方が良いんじゃないか、なんて。 

  はっきりと自覚していたわけではなかったし、また当時の僕は決して認めようとはしなかったが、そんな思いを抱いていた。
  思ってしまっていた。


  かつて変わり者の哲学者はこう言った。
  「地獄とは他人である」と。
  本来的に自由であるはずの人間は、けれども常に他人に拘束され続け、自分で選択したわけでもないのに何か大きな世界や状況に組み込まれている。

  だから僕の、あるいは僕と彼女の思いなど素知らぬ風に因果の歯車は回り続ける。
  終わりへと近付いていく。

  思えばいつだってそうだ。
  どんな時だって、僕達には心の準備をする時間とかゆっくり検討する余裕なんて与えられない。
  生きているのだから当たり前のことだ。
  物語は進み続けているのだから。
  それが生きるということなのだから。

346 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:42:06 ID:un0.uF.U0

  そして、名もなき怪物が僕と彼女の前に現れる。
  待ちくたびれたよ。
  そう言わんばかりの笑みを浮かべ、終末を告げにやって来る。

  これから始まるのは終わり。
  物語の終わりが、始まる。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第七話:Mechanical Member」




.

347 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:43:06 ID:un0.uF.U0

 心地良さに一瞬意識が飛びかけたのを自覚し、首を振った。 
 昔から入浴はシャワーが主で湯船に浸かることは多くなかった。
 こんな風にゆっくり風呂を堪能したのは初めてかもしれない。
 同時に露天風呂も初体験ということになる。

 加えて言えば、僕の隣には簡素な水着姿のミィがいる。
 当然ながら混浴もこれが初。


( ^ω^)「(ホテルに引き続き、混浴までコイツと体験することになるとは思わなかった)」

マト゚ー゚)メ「?」


 恋人でもない異性と同じ部屋に泊まったり、同じ湯船に浸かったり。
 僕の人生はどうなってしまったのだろう。

 ……しかし、まあ。
 こうした時間が嫌ではないというのも事実だった。
 露天故の開放感や温泉の気持ち良さが多分に影響しているのかもしれない。


( ^ω^)「(そもそもなんで一緒に入ることになったんだったか……)」

348 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:44:04 ID:un0.uF.U0

 今日はなんだかんだで温泉付きの部屋に泊まることになり、なんだかんだで同じ湯船に浸かることになった。 
 それだけのこと。
 細かい話は別にいいだろう。

 それよりも、細かくない話をしよう。
 そう考えて僕は口を開く。


( ^ω^)「……なあ、ミィ」

マト゚ー゚)メ「なんですか?」

( ^ω^)「…………いい湯だな」

マト-ー-)メ「そうですね」


 思わず正直な感想を呟いてしまい(更に同意されてしまい)、違う違うと気を取り直して僕は言う。


( ^ω^)「僕の父親と、お前の記憶の件……結構手掛かり集まった気がするお」

マト-ー-)メ「それも、そうですね」

349 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:45:16 ID:un0.uF.U0

 美肌の効用のある温泉に浸かっているからか、あるいはのぼせて意識が朦朧としているのか、いつもよりもミィは綺麗に見える。
 表情が違うというのもあるかもしれない。
 瑞々しく傷一つない彼女の素肌に目を奪われかけながらも僕は続ける。


( ^ω^)「結局、核心的な部分は分からないままだが、あの情報屋の人から手掛かりを手に入れることはできた」


 父の写真に映っていたミィと似た女性。
 いつものような笑みを浮かべていない今の彼女はその相手に余計に似ているように感じる。


マト-ー-)メ「ただ一度に入手した情報が多過ぎ、かえって分かりにくくなったという気もします」

( ^ω^)「そうだな。だから一度、整理してみたいんだお」

マト゚ー゚)メ「それがいいかもしれませんね」


 ミィは同意し、僕に向けてあのふわふわとした特徴的な笑みを向ける。
 その表情でクールな魅力は雲散霧消し、あの写真の女性と同じ切れ長の目の印象は一気に薄れてしまう。
 けれどもこんな彼女の方は僕は好きだった。

 さて、のぼせない程度に先日の記憶を呼び起こしてみようか。

350 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:46:06 ID:un0.uF.U0

 *――*――*――*――*


 端末に映った画像に情報屋の女は少し驚いたようだった。
 だが一瞬で微笑みを作り上げると、見覚えがあるかと訊ねた僕に対し「知っているわ」と告げる。


('、`*川「この黒髪の女のことでしょ? ええ、知っているわよ」

( ^ω^)「本当かお?」


 あのスーツの男との対決から二日ほど経った。
 僕達は飲食店の個室席であの情報屋の女と再会していた。

 彼女とはミィとの和解後、すぐにでも話をする場を設けたかったのだが、騒ぎを起こした街に居続けるのはリスクが高いということで日を改めることになった。
 その日は移動し、次の日は濡れた服の洗濯などの後処理と休息に当て、今に至る。
 何処の街にでもあるような大衆居酒屋の一室だ。
 秘密の会合に使われるのは何も工場跡地や高級料亭ばかりではないのだろう。

 情報屋の彼女は夜分ということもありコートを羽織っているが、落ち着いた大人の女性らしい格好という点は変わらない。
 では僕の隣に座るミィはと言えば、やはり目の前の相手と比べるとボーイッシュな格好ということもあってか子どもっぽさが抜けない。
 いつものようにニット帽を被っている彼女は今は運ばれてきたばかりのピザにお熱のようで、そういう部分は本当に幼い感じがする。

351 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:47:08 ID:un0.uF.U0

('、`*川「それにしても……やっぱり似てるわね。性格は全然違うみたいだけど」


 ピザカッターを器用に使う少女に目をやり、情報屋の女は呟く。
 ミィが写真の女性と似ていると思ったのは僕の気のせいではなかったようだ。

 安物のカクテルを一口飲んでから彼女は続ける。


('、`*川「私達の世界では相当な有名人よ。知らないのは田舎者ってくらいにはね。尤も、あまり記録には残っていない類の人間だけど」

( ^ω^)「アンタ達の世界っていうのは、アレかお。アウトローの社会ではってことか」

(-、-*川「そうね。そうであるとも言えるし違うとも言えるわ。とにかく……」


 そうして一拍置いて、その名前を口にした。


('、`*川「その女の名は都村トソン。十歳にもならない内にハーバードGSASで学位を修め、一人で科学の歴史を百年進めたと言われる、史上最高の頭脳を持つ天才よ」


 『都村トソン』。
 それが僕の父と一緒に映っていた女性の名前。
 ミィと似た女の名。

352 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:48:09 ID:un0.uF.U0

('、`*川「彼女の逸話には枚挙に暇がないわ。代筆した論文がノーベル賞に選ばれたとか、チェスの世界チャンプを打ち負かしたとか……。真偽はともかくとしてね」

( ^ω^)「そりゃあ凄いな」

(-、-*川「その辺りのスパコンよりも演算速度が優れていたなんて噂が流れるくらいよ。そんなの、もう人間じゃないわよね」


 人間ではない、異生物。
 どれほど譲歩してもヒトの突然変異種だろうか。

 だが、と僕は訊く。


( ^ω^)「僕は『都村トソン』なんて名前は寡聞にして知らないお。そんなに優秀な人間なら歴史に残るような偉業を成し遂げてていいはずだが」

('、`*川「記録に残らない類の人間だって言ったでしょ? 彼女はそういった名声には興味はなかった。研究成果も同業者やスポンサーにあげてしまうか、そうでなければ破棄してしまった」

( ^ω^)「かの名探偵みたいな奴だな。自身の知的好奇心さえ満たせれば構わないってことか?」

('、`*川「ええ、まさにそんな感じだったわ。誰かを助けようとか社会に貢献しようとか、そういった考えとは無縁の人だった」


 公式の記録に残った数少ない研究成果はそんな天才の性質を示している。
 原因不明の難病の特効薬も、パンデミックを引き起こす生物兵器も、彼女にとっては同列だった。

353 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:49:07 ID:un0.uF.U0

 故に彼女はこう呼ばれていた。
 『神の頭脳を持つ悪魔』――と。

 いや悪魔というよりはトリックスターという表現が相応しいか。
 埒外の力と愚者にも賢者にも思える性格で物語を引っかき回す天性のトラブルメーカー。
 彼女は天才であり、また天災であり、世界の誤植であり、人類の至宝だった。


('、`*川「彼女がどんな人間であったかは置いておくわ。きっと重要なのは彼女が私達の世界で有名である理由の方よ」


 一瞬間、情報屋の女はミィを見る。
 そうして何かを考えた後、言った。


('、`*川「あの女が裏の世界で有名な理由は――彼女が超能力者を人工的に作り出すことに成功した唯一無二の存在だ、と言われているから」

(;^ω^)「人工の超能力だって……?」

(-、-*川「ええ。歴史上初めて超能力を科学的に立証してみせた。更には実の娘を実験体にし実際に能力者を作り出した。実しやかにそう伝わっているのよ」

(;^ω^)「馬鹿な!」

('、`*川「そうね、馬鹿な話だと思うわ。だけど彼女はそれを信じさせるだけの才能と異常性を持っていた」

354 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:50:04 ID:un0.uF.U0

 加えて。
 その噂が流れ始めてからの数年間で社会の暗部において超能力者と言われる人々の数が目に見えて増加したのだ。
 どれほどの数の本物がいたかは分からないが、不可解な事件は明白に増えていった。

 そう。
 件の天才が検証実験として、無差別に選んだ人間に能力を付与していったかのようにだ。

 
(;^ω^)「まるでキャトルミューティレーションだな……。そいつ、実は宇宙人なんじゃないか?」

('、`*川「しかもタチの悪いことに彼女は結局その研究成果を公表しないまま行方不明になってしまった。だから噂の真偽は分からないまま」


 なるほど、何故裏の世界で有名な存在なのか理解できた。
 その研究成果の手掛かりを見つけることができれば、人工能力者を生み出すことも夢ではない。
 もしそんなことが可能ならどうなる?
 革新的な技術や発見が必ずしも人類の幸福や社会の発展に寄与しないという事実は歴史が証明しているというのに。


( ^ω^)「(あのスーツの男もそんな風なことを言っていたか……)」


 現代の社会では、超能力者など兵器として使われるのが関の山なのだ。
 あるいは僕がミィを護衛として雇っているのと同じように。

355 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:51:07 ID:un0.uF.U0

(-、-*川「研究データは彼女が常に持ち歩いていた懐中時計に入っていた。そんな風に言われているけれどね……」

( ^ω^)「全ては闇の中、ってとこか……。父親の職場を探してただけのはずなのに、とんでもない所まで来ちゃったお」

('、`*川「安心しなさい。あなたのお父様は都村トソンとそんなに親しい仲ではなかったようだから」


 僕の心配を見抜いたかのように彼女は言う。


('、`*川「私の調べた限りでは、あなたのお父様は都村トソンに教えを受けていた時期があったらしいわ。尤もごく短い間みたいだけど」

( ^ω^)「教授と生徒の仲ってことか?」

('、`*川「特別講師として招かれていただけだから長く見積もっても数ヶ月の付き合いだったと思うけどね」


 その『都村トソン』は自らの記録を残すことを好まず自分に関するデータの多くを削除しており、それ故に大半の記録は消失している。
 だが、どうやら一時的に僕の父と同じ大学にいたことだけは間違いないらしい。
 自分と大して年齢の変わらない、あるいは年下の講師に父は何を教わったのだろう。

 この写真は歓迎会……いや、お別れ会のような場面で撮られた物だろうか。
 白衣を着ているわけだから大学内で撮影されたのだと思うが。

356 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:52:04 ID:un0.uF.U0

 そんな元は集合写真であった一枚をわざわざツーショットになるように破り、自分の妻の写真を飾っていた写真立てに隠していたのだから……。
 血の繋がった父親に対してこんな想像をするのも妙な気分だが、父はその『都村トソン』という人に特別な感情を抱いていたのだろう。
 もしかすると初恋の人だったのかもしれない。
 ミィをクールかつ大人っぽくしたようなかなりの美人で惚れてしまうのも男として理解はできるが。

 とにかく、と情報屋の女はピザから鍋へとターゲットを移した少女を見つつ言う。


('、`*川「あなたが心配していたような真相は――この少女の記憶を二人が共謀して奪った、みたいなことはないはずだから」

( ^ω^)「そうか……」

('ー`*川「都村トソンもあなたのお父様も遺体が見つからないままの行方不明だから、実は生きてて隠れて糸を引いてるってことはありえるけれど」

(;^ω^)「嫌な想像だお」


 いや、生きていれば直接真相を問い質し文句を言えるのだからそっちの方がいいのか?
 その場合なら見つけ出すことさえできれば色々と手間は省ける。


('、`*川「写真について、私が調べられたのはこれくらい。どんな推測をするかはあなた達の自由よ」

357 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:53:04 ID:un0.uF.U0

 *――*――*――*――*


 風呂から上がり服を着替え、机に並んで座る。
 備え付けてあったインスタントの緑茶を作りながらミィが言った。


マト゚ー゚)メ「私は『都村トソン』という科学者に似ている。その人はブーンさんのお父さんと知り合いだった」

( ^ω^)「でも、その『都村トソン』は何年も前に行方不明になっていて……死んだとされている」
 
 
 だとしたら?
 現時点の情報からはどんな可能性が考えられる?

 ミィが情報屋の話にあった『実の娘』ならば話として分かりやすいのだが、どうもそういうわけではないらしい。
 その子は現在二十ニ、三ほどの年齢になって生存しているとのことで、しかも『都村トソン』にはその娘以外の子どもはいなかったという。
 尤も前述のように彼女に関しては詳しいデータが残っていないので実際のところは分からないが。

 湯呑みを僕に渡しつつミィは静かに続ける。


マト-ー-)メ「もしかしたら私は隠し子の類なのかもしれませんね。行方不明になった後に、邪魔になって捨てた子……のような」

358 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:54:06 ID:un0.uF.U0

 ニット帽を被ってない彼女の頭を僕はぐしゃぐしゃと撫でる。
 「そんな自分にとって好ましくない想像をそんな風に淡々と語るな」。
 そういった思いを込めて。

 彼女は首を振って僕の腕を払いどけ、掴みどころのない笑みのままで話を再開する。
 ……どうやら僕の意見は伝わらなかったらしい。


マト゚ー゚)メ「『都村トソン』は姿をくらましているだけで生きている可能性がある。でも居場所が分かりませんから、その『実の娘』に会うのがいいと思います」

( ^ω^)「……それか、あの『殺戮機械』だろうな。アイツはミィに似た人物を知っていたみたいだが、それは『都村トソン』だったのかもしれない」


 だとしたらディと名乗っていたアイツは『都村トソン』について何か知っているかもしれない。
 できれば二度と会いたくなかったが必要ならば已むを得ない。
 奴が一刻も早く捕まることを祈り続けていた僕だったが、残念なことにその願いが叶ったことを知らせる情報は耳にしていない。


マト^ー^)メ「この予測通りの真相ならばブーンさんのお父さんは私の過去には関係がない。良かったですね」

( ^ω^)「いや、僕の父親も行方不明になってるだけだから、その『都村トソン』と共謀している可能性はありえる」

マト-ー-)メ「ブーンさんはネガティブですね。そんな自分にとって好ましくない想像をそんな風に淡々と語るのは良くないと思います」

(;^ω^)「お前に言われたくねぇお」

359 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:55:25 ID:un0.uF.U0

 その言葉はそっくりそのまま返す。

 けれど、そうであれば膨大な見舞金の説明がつくのだ。
 『都村トソン』という人物は論文や発見で相当な資産を持っていたらしいから、父が僕のことを思い彼女に頼んで百億を用意してもらったのではないかと。
 それに父の部屋が荒らされた理由も分かる。
 彼女の超能力に関する研究データを狙う勢力は山ほどあるそうだから、親しい相手がいると分かったなら家探しをすることもあるだろう。


( ^ω^)「ただ、情報によれば父と『都村トソン』は顔見知りではあっても深い仲ではなかったようだから可能性は低いか……」

マト゚ー゚)メ「ブーンさんのお父さんが計画的に失踪したということは写真のことからありえないと思います」

( ^ω^)「写真?」


 あの父が映っていた写真のことか?


マト-ー-)メ「はい。仮に実は二人に親交があり、何かの計画を実行しようとしたとして、そんな大事な相手との思い出を置いていくとは思えません」

( ^ω^)「なるほど……。確かに事前に失踪することが決まっていたなら写真立ては持って行きそうなものだ」

マト゚ー゚)メ「私ならば持って行きます」

360 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:56:05 ID:un0.uF.U0

 まあ「これからは実物と一緒にいられるのだから写真はいらない」と考えたのかもしれないが……。
 父は僕と同じで、物や思い出を大事にする方だからそれはないだろう。
 母(父にとっては妻)の写真もあるのだし、持って行ける状況ならばそうしたはず――逆にそうでないということは計画的な失踪ではないということになる。

 ただ、とミィは言った。


マト゚ー゚)メ「話に聞いた『都村トソン』という人間のイメージを踏まえると、ブーンさんのお父さんとはそれなりに仲が良かったのだと思います」

( ^ω^)「またなんで……って、写真があるからか」


 『都村トソン』は自分の記録を残すことを好まず、大学のデータベースに残ってしまった際には後からハッキングして消去するほどだった。
 そんな人間が誰かと一緒に写真に写ろうとするだろうか?
 それなりに親しい相手でないとありえないのではないか。


( ^ω^)「……連絡を取り合う間柄ではなくとも、久しぶりに再会すれば話す程度には仲が良かったのかもしれないな」


 かの天才の記録が残っていないのは彼女がデータを残すことを好まなかったこと以外に、そもそも友人がほとんどいなかったことも理由としては大きい。
 そんな相手と一緒に写った写真が今、こうして存在している。
 父が惚れていたのだとしたら救われる話だ。
 特別な関係には至らずとも、少なくとも赤の他人とは思われていなかったのだから。

361 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:57:06 ID:un0.uF.U0

 予め用意されていた茶菓子を物色しながら、ミィはふわふわと笑って「ここまで考えてきましたが」と切り出す。


マト-ー-)メ「どれも可能性の話ですから、ブーンさんのお父さんは『都村トソン』と全く関係がなく、私も他人の空似ということもありえます」

(;^ω^)「それは……そうだな。肩透かしもいいところだが、現実ではフィクションのように上手く伏線が用意され回収されるという保証はない」


 大体、そうだとしたら僕とミィが出逢ったのが奇跡的過ぎるだろう。
 創作でもありえないような偶然が起こり得るのも現実ではあるが。


( ^ω^)「そう言えば、お前の目では何か掴めないのか? 説明を聞いた限りじゃ写真の相手と自分がどういう関係かくらい予測できそうなものだが」

マト゚ー゚)メ「それがよく分からないんです」

( ^ω^)「分からない?」

マト-ー-)メ「はい。最近気付いたんですが、私の『未来予測』は戦闘分野での危機回避を念頭に置いているみたいで」


 なるほど。
 高度な分析こそ行っているが、あくまで『未来予測』の異能なのだろう。
 未来を見る能力ですから過去を見ることは苦手なのかもしれませんと彼女は笑う。

362 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:58:07 ID:un0.uF.U0

 さて。 
 ミィの記憶に関しては――『未来予測』『記憶喪失』『襲撃者』『彼女に似た誰か』『都村トソン』『研究』『実の娘』。
 僕の父に関しては――『失踪』『見舞金』『泥棒』『ミッション・ミストルティン』『製薬会社』『破かれた写真』。
 今のところ出てきたのはこれくらいだろうか。

 しかし改めて情報を整理してみると、手掛かりこそ集まったが真相にはまだまだ遠いという印象だ。
 加えて推理小説とは違ってヒントが全て正しいとは限らず、偶然や無関係、勘違いということもありえる。


( ^ω^)「とりあえず製薬会社については情報を待ちつつ、その『実の娘』というのに会いに行くのがいいだろうな」


 こうなるならば『実の娘』についても情報屋の彼女に詳しく訊いておけば良かった。
 今から連絡してみようか?

 と――その時だった。


マト; ー)メ「!!」


 隣に座り茶菓子を食べていたミィが目を見開き、唐突に立ち上がった。
 僕が驚きに声を掛けられない間にも彼女は辺りを見回し、襲撃に備える獣のように気を引き締める。

363 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 19:59:57 ID:un0.uF.U0

 その両の瞳は紫の段階を飛ばして既に鮮やかなアカイロに染まっている。
 対応から察するに今すぐに危険があるわけではないようだが、ここまでピリピリとした雰囲気のミィを見たのは初めてだった。
 あの『殺戮機械』との戦闘においてさえ、彼女は一瞬笑みを消しただけで命のやり取りの間にも微笑みを絶やさなかった。
 浮き世離れした掴みどころのない、言い換えれば超然とした部分があったミィ。

 そんなミィが――敵の姿すら見えない状況で、これ以上ないほどに警戒している。
 それがどういうことなのかは僕には分からない。


マト -)メ「…………ブーンさん」


 数秒か、あるいは数時間の時が流れた後に、ミィは静かに告げる。


マト; −)メ「誰かが、私を呼んでいます。敵意はありません。危険も恐らくはないでしょう。ですが、これは……」

( ^ω^)「―――大丈夫だ」


 思わずそう口にして、僕は彼女の手を握った。
 僅かに震えていた小さな手を。
 だが幸いなことに僕の呼び掛けが功を奏したのか、ミィは「ありがとうございます」と小さく笑い、一緒について来てくれますか?と訊ねてきた。

 答えなど口にするまでもなかった。
 いつだったか以来のしおらしい彼女を可愛いと思う精神的余裕は既にない。

364 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:01:30 ID:un0.uF.U0

 *――*――*――*――*


 学校の音楽室にあるような重厚な扉の前で彼女は立ち止まった。

 地下一階に位置するこの部屋はこの宿泊施設内にいくつかある遊戯室の一つだった。
 けれど平日の昼間ということもあってか、ゲームに興じている宿泊客の楽しげな声は聞こえない。
 誰もいないのか?
 そう思ってしまうような静けさだ。

 だが、目の前の扉の向こうには誰かが待っている。
 そのことは緊張した面持ちのミィから如実に読み取ることができた。


マト-ー-)メ「……行きましょう」


 そう言って、彼女は少し無理した風に笑みを作った。
 ふわふわとした掴みどころのない笑顔。
 最早その表情を見慣れている僕には分かる。

 この向こう側に誰かがいるのだと。
 そう、きっと僕達を真実か――あるいは破滅に導くような誰かが。

365 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:02:10 ID:un0.uF.U0

 僕が頷くと、ミィは遊戯室の重い扉を押し開けた。

 ちょっとした飲食店程度の空間。
 薄暗い室内において最も目立つのは中央に鎮座しているビリヤードテーブル。
 右手の壁際には古めかしいスロットと僕には馴染み深いピンボールマシンが二つずつ並んでいた。
 そして、左手。

 深紅のソファーの前に“彼女”は立っていた。
 チェステーブルを見下ろし、数個の木製の駒を弄んでいた“彼女”はそれらを置くと、出入り口の僕達に対し丁寧に一礼した。



(-、-トソン「―――お待ちしておりました」



 夜の海のように静かで冷たく、けれど美しい声音と瞳。
 簡単に纏められた黒髪に、切れ長の目が調和した全く無駄のない顔立ち。

 一瞬、心臓が――止まるかと思った。

 僕は言葉を失った。
 隣のミィも同じだった。
 だって、それはそうだろう?

366 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:03:04 ID:un0.uF.U0

 そこに立っていた彼女は、服装こそ白衣ではなく黒のロングコートだが、紛れもなくあの写真に写っていた女。 
 僕達が探す、『都村トソン』その人だったのだから。

 こちらの驚愕とは対照的に“彼女”は平然と、チェスの駒をテーブルの引き出しへと仕舞いながら口を開く。


(゚、゚トソン「扉を閉めてもらえますか? あまり人様に聞かれて面白い話をしようとは思っていないので」

(;^ω^)「お前、は……」

(-、-トソン「お初にお目にかかります。都村トソンと申します」


 二人で顔を見合わせ、扉を閉じてから、今度はチェスボードに赤と黒の丸い駒を並べている“彼女”――都村トソンの元へと向かう。
 近くに寄れば余計に理解できる。
 他人の空似だとすれば奇跡的なレベルで彼女はミィに似ている。

 ただ、顔の作りこそ近いが、ミィが常にふわふわとした笑みを浮かべているのとは真逆。
 彼女は写真の中と同じように無表情で無感情だった。


マト゚−゚)メ「あなたは……」

(゚、゚トソン「なんでしょうか」

367 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:04:04 ID:un0.uF.U0

 ミィは、意を決していつもの問いを投げかける。


マト゚−゚)メ「……あなたは私を知っていますか?」

(-、-トソン「はい。とてもよく」


 都村トソンはまた平然と言った。
 この問いに「よく知っている」と答えたのは彼女が初めてだった。
 否が応でも心臓の鼓動が早まるが、次いで「ですが」と続ける。


(゚、゚トソン「私はあなた方が何処までご存知なのかを把握していません。なので少し、自己紹介をさせて頂きたいのです」

(;^ω^)「自己紹介だって?」

(-、-トソン「はい。誤解があっては困りますから」


 私がではなくあなた方が、と言わんばかりのクールな口振りと表情で彼女はそう告げた。


( ^ω^)「望むところだお。こちらが訊こうとしていたことをわざわざ語って聞かせてくれるのならば幸いだ」

368 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:05:06 ID:un0.uF.U0

 よろしかったらどうぞと対面のソファーを示し席を勧めた後。
 駒を並べ終えた彼女は、では手短に、と前置き言う。


(-、-トソン「都村トソンと申します。あなたのお父様には母がお世話になったようで」

(;^ω^)「…………母?」


 なんだって?


(゚、゚トソン「『都村トソン』のことです。私の血筋では長女に必ず『トソン』という名を付けるという風習があります。なので、母も私と同じ名です」

(;^ω^)「じゃあ、お前はあの……」

(-、-トソン「はい。『都村トソン』の実の娘であり、人工的に作り出された能力者の最初にして最後の一人。都村トソンです」


 彼女は『都村トソン』ではなかった。
 その『実の娘』の方だったらしい。

 あまりに似ているあまり動揺していて気付かなかったが、年齢的に彼女が『都村トソン』ということはありえない。
 考えてみればちょうど彼女は二十歳〜二十代半ばくらいで『実の娘』の年と一致する。
 写真の女性と生き写しのようにそっくりで、しかも同じようにスレンダーで高身長ということもあってすっかり勘違いしてしまっていた。

369 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:06:05 ID:un0.uF.U0

(-、-トソン「現在は軍部に務めさせて頂いています。尤も、今日は非番ですが」


 そうか、彼女がそうなのか。

 『都村博士の忌み児』。 
 『絶対正義』。
 そして『ファーストナンバー』と呼ばれる――天才の最初にして最後の傑作。

 だとしたらミィの態度も理解できる。
 目の前の女はあの『殺戮機械』以上に強力な力を持つと伝わる、史上最高とまで謳われる能力者なのだから。


(゚、゚トソン「自己紹介は以上です。何かご質問は?」

( ^ω^)「……お前は、ミィのことを知っていると言ったな」

(゚、゚トソン「ミィ?」

( ^ω^)「コイツのことだお」


 僕が隣のミィの肩を叩くと、都村トソンはなるほどという風に頷く。
 こちらの情報を把握していないのか、それとも興味がないのか、表情からは伺えない。

370 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:07:04 ID:un0.uF.U0

(-、-トソン「『ME』で『ミィ』ですか。……良い名前ですね。人間の受動的側面を意味する単語であり、『摸倣子(meme)』の最初の二文字です」

( ^ω^)「お前はさっきミィのことを知っていると言ったな」

(゚、゚トソン「ええ、その通りです」

( ^ω^)「質問があるのかと言えば、そのことだ。知っていることを話してくれ」


 都村トソンは暫し黙った。
 しかしすぐに「構いませんよ」と答え続けた。


(゚、゚トソン「ですが、その前に確認したいことがあります」

( ^ω^)「確認?」

(-、-トソン「はい。そのミィという子に私とゲームをして頂きたいのです。それで確認が可能だと思います」


 どうされますか?と彼女は問い掛けてくる。
 僕はミィを見て、ミィは僕を見つめて頷いた。
 答えなど決まっている。

371 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:08:05 ID:un0.uF.U0

 *――*――*――*――*


 チェッカーとは西洋碁とも呼ばれるボードゲームの一種である。
 チェスボードと二色の丸い駒を十二個ずつ用意し、ルールに従って双方の駒を取り合っていく競技だ。
 交互に動かし、相手の駒を全て取るか、あるいは動けない状態にすれば勝ちとなる。

 国によって知名度は異なるが、ジャンル的にはチェスやオセロなどと同じく偶然の要素がなく、純粋なプレイヤーの実力が表れる。
 都村トソンが提案してきたのはそんなゲームだった。


( ^ω^)「さっきから駒を並べていたからまさかと思ったが……。本当にチェッカーをするつもりだったとは」

(-、-トソン「チェッカーはお好きですか?」

( ^ω^)「僕はオセロ派だ。チェスならともかく、チェッカーなんて戦術の基礎も分からないお」


 一見すると訳の分からない申し出だが、ミィの能力を踏まえれば意図は理解できる。
 チェッカーはチェスと同じく二人零和有限確定完全情報ゲーム――つまり、必要な情報が公開されているので全ての手を計算できる人間は絶対に負けない。


( ^ω^)「(普段の戦闘より考慮すべき要素は圧倒的に少ない。『未来予測』の能力を持つミィならば負けるはずがない。そういう意味での、確認か)」

372 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:09:06 ID:un0.uF.U0

 都村トソンは対面のソファーに腰掛ける。
 それを見て、ミィも座った。
 チェステーブルを挟んで向かい合った形になる。
 こちらは黒の駒、向こうは赤だ。

 勝負を前にして都村トソンは二つルールを付け加えた。
 一つ、僕はミィに助言をしないこと。
 二つ、一手は必ず十秒以内に指すこと。


(-、-トソン「競技の円滑化の為にも体内時計で結構ですので十秒以内でお願いします」

マト゚ー゚)メ「分かりました」


 ミィはあっさりと同意する。
 負けることはありえないと思っているのだろう。


( ^ω^)「……こちらはゲームに付き合う身だ。勝った場合にはリターンが欲しいところだな」

マト;゚−゚)メ「ブーンさん、それは、」

(-、-トソン「構いませんよ。負けた場合のリスクを承知して頂けるのならば」

373 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:10:06 ID:un0.uF.U0

 今度は彼女が同意する番だった。
 僕はこの手のゲームでミィが負けるとは少しも思っていない。
 都村トソンがどう考えているのかは分からないが、何かトラブルが起きない場合は大丈夫だろう。

 では、と彼女は言った。


(-、-トソン「私が負けた場合はあなた方の質問に全て正直に答えましょう。正直に答えたことを証明する手段はありませんが」

( ^ω^)「……万が一、ミィが負けた場合は?」

(-、-トソン「そうですね」


 一拍置いて、


(゚、゚トソン「あなた方が負けた場合は、以後、この国での一切の調査を禁じます」

(;^ω^)「ッ! ……お前が僕達の目的を知ってるかは分からないが、その目的を諦めろってことかお?」

(-、-トソン「そう聞こえなかったのであれば言い変えましょう。即刻この国から立ち去り、二度と国境線を跨がないでください」

(;^ω^)「(コイツ……)」

374 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:11:08 ID:un0.uF.U0

 僕達の調査を禁じる意図。
 ミィの記憶や、僕の父親について探し回られると困る理由。
 どういうものが考えられるか。
 やはり都村トソンは関係者なのか?

 言葉に詰まった僕を後目に、ミィはまた「分かりました」と即座に同意した。
 ハイリスクハイリターンなこの勝負を。


マト-ー-)メ「分かりました。それで構いません」

(;^ω^)「…………お前、意味分かってるのか?」

マト゚−゚)メ「理解しています。大丈夫です。この勝負はそもそも賭けになっていないんですから」


 そうして彼女は、その両の瞳に淡く微かなアカイロを宿す。


マト ー)メ「ああ、あなたは本当に私のことをよく知っているんですね。知っているのであれば、そんな条件を提示した意味も理解できます」


 ミィはあのふわふわとした特徴的な笑みを浮かべた。
 一瞬だが、それを見て都村トソンがフッと微笑んだ気がしたが、多分気のせいだろう。

375 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:12:04 ID:un0.uF.U0

 目の前の女とよく似た目を細め、ミィは言う。



マト ー)メ「あなたの思惑もこの勝負の行方も、もう既に、目に見えている―――」



 それが勝負の合図だと言わんばかりに彼女は一手目を指した。
 先攻後攻は決めていなかったが、都村トソンは特に気にした様子もなく即座に自分の手番を終わらせる。

 二手目。
 三手目。
 お互いにほとんど考えていないのではないかと思えるような早さで続けていく。

 遊戯室に駒の音が響く中、僕は少し逡巡してから訊いた。


( ^ω^)「なあ、質問していいかお?」

(-、-トソン「構いませんよ。まだ負けたわけではないので答えるとは限りませんが」


 黒い駒を取りながら都村トソンは答えた。
 声を掛けると邪魔になるだろうかと思っていたのだが、そんなことはなかったらしい。

376 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:13:04 ID:un0.uF.U0

 僕は言う。


( ^ω^)「お前の母親……『都村トソン』は生きているのか?」

(-、-トソン「私の知る限りではとうの昔に死んだはずですね」

( ^ω^)「行方不明じゃなかったのかお?」

(゚、゚トソン「違いますよ。殺害されました」


 暫し手を止め、彼女は答える。
 特に感慨深くもなさそうに。


(-、-トソン「当時のあの人は軍の研究所に所属していました。彼女は比類なき頭脳を持っていましたから、その生死で諸外国や諸団体の対応は明確に変化します」

(;^ω^)「……だから、軍は周囲にプレッシャーを掛け続ける為に『行方不明ということにした』ってことか?」

(゚、゚トソン「はい。死亡後数年は『生きている』と主張し続け、情報が漏れそうになると『行方不明になった』と発表した、というわけです」


 軍にとっては幸運なことに露出の少ない人物でしたから、と付け加えた。

377 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:14:08 ID:un0.uF.U0

 企業においても社長や重役、その中でも特に極めて有能な人間の逝去で株価が変化することがある。
 人間の死という悲報でさえも現代社会では情勢に影響を与えるカードの一枚でしかないのだろう。
 況してや今回の場合は空前絶後の天才科学者だ、生きているのと死んでいるのでは核兵器を持っているのと持っていないくらいの差がある。


(-、-トソン「上手くして死を偽装し現在も生きている可能性もあるでしょうが、私は寡聞にして存じません」


 嘘を言っているのかどうかは僕には分からなかった。
 まあいい。


( ^ω^)「じゃあ、僕の父にはついては何か知っているか?」

(゚、゚トソン「ここに来るまでに調べましたので、多少は。母がお世話になったようで。アルバムにも写真があったので勘違いということはないでしょう」

( ^ω^)「写真?」

(-、-トソン「集合写真です。あまりそういう物は好きではない人でしたから、仲が良かったのかもしれませんね」


 これについては僕達が集めた情報との矛盾もない。
 ひょっとして質問には答えるつもりで勝負を挑んできたのだろうか?
 最初から負けるつもりだったというか。

378 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:15:07 ID:un0.uF.U0

 随分と駒も減ってきた。
 終わりが近いことを察しながら僕は訊ねる。


( ^ω^)「……そもそも、なんでここに来たんだお」

(-、-トソン「忠告ですよ。小説や映画でもよくあるでしょう? 調査を続ける探偵の元に刺客が忠告に現れるというようなシーンが」


 そういう場合のお決まりの台詞をいくつか思い浮かべる。

 「お前の為にならない」。
 「世の中には知らなくとも良いことがある」。
 「自分の身が可愛いならば手を引け」。


( ^ω^)「確かによくあるな。だがそれで実際に忠告に応じる主人公は見たことがない」

(-、-トソン「その通りですが、あなたが脇役ならば間違いなく訪れるのは死ですよ。賢明な選択を期待します」

( ^ω^)「嗅ぎ回られるとお前に不都合があるのか?」

(゚、゚トソン「特にはありませんね。あったとしても誤差の範囲内です。かと言って純粋な親切心で忠告しているわけではありませんが……」

379 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:16:09 ID:un0.uF.U0

 なら、と僕は続けて訊いた。


( ^ω^)「……お前はミィについて、本当に何か知っているのか?」

(-、-トソン「知っていますよ。ですが――時間切れです」


 言われて気付く。
 チェス盤。
 先の一手で勝負は決していた。

 そして、その結果は―――。


(;^ω^)「…………引き分け……?」

(-、-トソン「その通りです。チェッカーというゲームは双方が最善手を指し続けた場合、必ず引き分けに終わる競技なんです」


 チェッカーの全ての手は計算し終わっている。
 故にそのデータベースを持つコンピューターに対しては世界チャンピオンであろうとも勝つことは不可能なのだという。
 実力や演算速度の問題ではなく、ゲームの性質的に引き分けにしかならない。
 たとえ『未来予測』の能力を持つミィだとしてもだ。

380 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:17:08 ID:un0.uF.U0

マト-ー-)メ「言った通りです」


 なるほど、とミィの言葉を思い出し僕は納得した。
 最終的に引き分けに終わるのならば、確かにこれは賭けになっていなかった。

 待てよ?


(;^ω^)「なら、お前も……」

(-、-トソン「はい。私には『未来予測』の能力はないですが、最善手を指し続けられる程度の頭脳は持っています」


 都村トソンはミィを試していた。
 ただし、引き分けになるかどうかを見ていたのだ。
 自分と同等以上の演算が可能かどうかを。

 僕はあの情報屋から聞いた話を思い出した。
 『都村トソン』はチェスで世界チャンピオンに勝ち、コンピューターにも勝る思考速度を有していた、と。


( ^ω^)「(全く……洒落になってないな)」

381 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:18:08 ID:un0.uF.U0

 やれやれだ。


(-、-トソン「……さて、勝負の決着は付かなかったので、私には正直に質問に答える義務はありませんね。自分の都合のいいように答えましょう」


 都村トソンは立ち上がりそう告げた。
 最初からこの展開に持っていくつもりだったのだと思うとクールな横顔も憎たらしく見えてしまう。
 ただ、それでも質問には答えてくれるようだ。 
 本当のことを言うかどうかは分からないにせよ。

 だったら改めて僕は聞こう。
 この女がどんな回答をするのかを。


( ^ω^)「それでも僕が訊ねるべきことは変わらない。お前は本当に、ミィについて何か知っているのか?」

(-、-トソン「知っていますよ」


 僕を真っ直ぐに見据えて彼女は言った。


(゚、゚トソン「何よりも、このまま進み続ければあなた方は必ず後悔する――ということを知っています」

382 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:19:07 ID:un0.uF.U0

 彼女は言った。
 自分は忠告にやって来たと。
 僕達の歩みを止める為に現れた使者。

 沈黙した僕を見かねてか、ミィは僕の隣に立つと口を開く。


マト-ー-)メ「『後悔』は物事の後になってからしかできないものです。それに後悔するかどうかは私達の問題です」

(-、-トソン「その通りです。ですが、その物事の後に後悔できる状態だとは限りませんよ?」


 そう、例えば。


(゚、゚トソン「行方不明になったという、あなたのお父様のように」

(;^ω^)「!!」

(-、-トソン「そもそも後悔すらできないような状況に陥るかもしれない。だから私は忠告しに来たのです。『手を引け』と」

(;^ω^)「お節介にも、僕達のことを考えてか?」

(-、-トソン「その通りです」

383 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:20:04 ID:un0.uF.U0

(゚、゚トソン「別にいいじゃありませんか。過去なんて分からずとも」


 「過去が分からなくても生きていけます」と彼女は続ける。
 仮に向き合わなければならない真実ならば必ずいつか対決することになるのだから、急いで探しに行く必要はないのだと。

 都村トソンは言う。

 知らないままならば、今のままでいられるのに。
 見ないフリをしていれば、ずっとこうして生きていられるのに。
 どうしてですか?と彼女は問い掛ける。


マト-ー-)メ「それでも私は【記憶(じぶん)】を探します。きっとブーンさんもそうです。私達にとって過去はそういう大切なものなんです」

(゚、゚トソン「これだけ言っても、まだ分かりませんか」

( ^ω^)「ご忠告は痛み入るが、僕達の行く道は僕達が決める。後悔するかどうかも、だ」


 僕とミィの言葉を受け、都村トソンは「そうですか」と目を伏せた。
 だが直後に顔を上げ言った。


(゚、゚トソン「口で言って分からないのならば仕方ありません。『ファーストナンバー』都村トソン――対象を撃滅します」

384 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:21:05 ID:un0.uF.U0

 *――*――*――*――*


 え?
 言葉を認識する暇はなかった。
 疑問符を浮かべることさえ許されなかった。

 「一瞬」。
 そんな単語ではまるで表せない刹那の瞬間に全ては始まり――そして終わっていた。



マト; -)メ「がっ……ぁ……!」



 都村トソンの姿が消えた。
 低い音が響いた。 
 ミィが、壁に叩き付けられていた。

 何が起こったのかまるで理解できなかった。
 今の今まで隣に立っていたはずのミィが僕の背後で呻いている。
 首を締め上げられ宙に浮いた両足をばたつかせ苦しんでいる。
 あの都村トソンがそうしている。

385 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:22:04 ID:un0.uF.U0

 彼女はミィと壁の方を向いている。
 こちらに背を向けている。

 だから僕は、即座に行動を起こした。
 予め取り出しやすい場所に入れておいたワイヤー針タイプのスタンガンを抜いた。
 だが。


(-、-トソン「大人しく見ていなさい」


 言葉に呼応し、電撃銃がひしゃげた。
 ゴミ処理場でしか聞かないような音と共に銃身がまるで何十倍もの重力に押し潰されたかのように用を成さない残骸へと変わった。


(゚、゚トソン「『未来予測』という能力は知覚(分析)、演算、予測という三つのプロセスから成るそうですね」

マト; -)メ「……ぃっ!!」


 都村トソンは語りながら片腕でミィを投げ捨てる。
 彼女は受け身も取れず毛足の長い絨毯に転がった。
 駆け寄る僕を冷めた目で見下ろし、史上最高の能力者は淡々と続ける。

386 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:23:05 ID:un0.uF.U0

 ですが、と。


(-、-トソン「仮に一瞬で相手の攻撃を予測し終えたとしても、それだけでは意味がない」

(;^ω^)「ミィっ!! 大丈夫か、しっかりしろ!」

(゚、゚トソン「何故ならば予測しただけでは未来は変わらないから。相手の攻撃を避ける為には、先の三つのプロセスの後に『行動』が必要です」


 都村トソンがそこまで言ったところでミィが立ち上がった。
 咳き込んではいるが、無事らしい。


マト; -)メ「……だから私では、あなたには勝てない」

(-、-トソン「その通りです。あなたが私の次の一手を予測したとしても、あなたがその一手を避ける為の一手を打つ前に、私は行動を終える」

マト; -)メ「空間歪曲能力を用いた……ディーン・ドライブによる、亜光速移動……。それが、『ファーストナンバー』が最高の能力者足り得る理由……」

(゚、゚トソン「そこまで理解してなお、私の前に立ったことは尊敬に値します。いい覚悟です、感動的ですね。だが無意味です」


 ミィが未来を見通すのだとすれば、その未来を光速で書き換えるのが――『ファーストナンバー』都村トソン。

387 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:24:08 ID:un0.uF.U0

 そう、これもどうしたって勝ちようのない勝負だった。
 それを理解したからこそミィはあれほどまでに都村トソンに恐怖していたのだ。

 都村トソンは勝負も覚悟も無意味だと告げた。
 だがそれでも。
 いや、だからこそ僕はミィの行動には意味があったと思う。

 それはつまり――どんな真実が待っているとしても、その過去と向き合うという覚悟と同じものなのだから。


(-、-トソン「忠告はしました。どんな選択をするかはあなた方の自由です。ですが今のまま進み続ければ、間違いなく後悔します。これが最後のチャンスです」

マト; ー)メ「……目に、見えています」

(-、-トソン「そうですか」


 一方はいつものような笑みを浮かべ。
 もう一方は、笑わなかった。

 彼女はそう言い残し部屋を出て行った。 
 それで終わりだった。
 後には僕達と、初めて足を踏み入れた時と何も変わらない静寂だけが残った。

388 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:25:09 ID:un0.uF.U0

 *――*――*――*――*


 都村トソンとの邂逅から丸一日が経った。
 僕達は二人で夕陽を眺めていた。

 ある地方の展望台。
 肌寒い季節のせいか今日が平日なせいかどちらの要因が大きいのか分からないが、辺りには誰もいない。
 秋風に吹かれながら二人で沈み行く夕陽を見ていた。

 理由などない。
 なんとなく歩き続けている内にここに辿り着いてしまっただけだ。
 それだけのこと。
 意味なんてなくて良かった。


( ^ω^)「なあ、ミィ」

マト-ー-)メ「なんですか?」


 僕は問い掛け、彼女は応じる。
 この数週間で幾度となく繰り返したやり取り。

389 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:26:31 ID:un0.uF.U0

 僕は紅い夕陽に、先月まで毎日見ていたはずの故郷の景色を妙に懐かしく思い出しながら言った。


( ^ω^)「あの都村トソンの言ってたことを全部信じるわけじゃあないが……でも、やめるなら今だと思うお」

マト-ー-)メ「ブーンさんこそ、後悔するかもしれませんよ? あるいは後悔できなくなるかもしれません」

( ^ω^)「かもしれないな。だから、やめるなら今だと思う」


 やめたいんですか?と彼女は訊ねる。
 どうだろうなと僕は答えた。


( ^ω^)「父のことは知りたい。だけど、命だって大事だと思うんだ。僕は臆病なのかな」

マト゚ー゚)メ「……いえ。人間は過去の為だけに生きるものではありませんから」

( ^ω^)「それは、そうかもな」

マト-ー-)メ「私は『現在』とは今この一瞬のことだけではないと思います。今の日常が『現在』なんです。過去も未来も、少しずつ『現在』に含まれる」

( ^ω^)「……なるほど。確かにそうかもしれない」

390 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:27:11 ID:un0.uF.U0

 過去と現在も、現在と未来も。
 そこまで厳密に分けられるものではないのかもしれない。

 少なくとも人間が普段思う『現在』には、彼女が言うように過去も未来も少しずつ含まれている。
 大学に行ったり、友達と談笑したり、父の荷物を整理して悲しんだりする。
 それが僕の『現在』だった。

 だとしたら僕にとっての『過去』は何になるのだろう?
 父と過ごした日々だろうか?

 なら、『未来』は?


マト-ー-)メ「こうして生きていられる以上、『過去』よりも『現在』を重視することは当然のことなんです。それは悪いことではない」

( ^ω^)「そうかもしれないな」


 僕は呟き、けれどそれだけでは終わらず続けた。


( ^ω^)「……だけどさ、『過去』を知ることによって初めて開ける『未来』もあるんじゃないのかお?」

391 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:28:05 ID:un0.uF.U0

 確かにこのまま生き続けていけば『現在』が緩やかに続いていくのだろう。
 続いていく先にある『現在』はそれも一つの『未来』だ。

 けれども、『過去』と向き合うことによって初めて選べるようになる『未来』もあるはずだ。
 僕はそう思う。
 だから。

 僕の言葉に彼女は笑った。


マト^ー^)メ「それも、そうかもしれません」


 あの特徴的な、掴みどころのないふわふわとした笑み。
 それが何よりも彼女の答えを表していた。

 最早、口にするまでもない。

 だからもう少しだけ進んでみよう。
 これからの『未来』を選ぶ為に。
 この先に、何が待っていたとしても。

392 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:29:08 ID:un0.uF.U0

 僕も彼女もそれからしばらくの間、黙っていた。
 黙って夕陽を眺めていた。 


マト゚ー゚)メ「ブーンさん。どうせですから写真でも撮りませんか?」


 写真を撮るということは記憶を一つの記録に変える行為だ。
 父が大学時代の一枚をずっと持ち続けていたように。
 だから彼女との写真も僕にとって大切な思い出になるはずで。

 だからこそ、僕は言った。


( ^ω^)「……いや、今日はやめておこう。もう暗くなる。また何度でも来ればいいだけの話だ」


 そうだ。
 ここに来たことに意味なんてなくていい。
 たとえ後悔したとしても、これからも僕達は生き続けるのだから。

 何度でも訪れる今日には特別な意味なんてなくったっていい。

393 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:30:05 ID:un0.uF.U0

 *――*――*――*――*



 ―――そして、終わりが始まった。


 始まりが唐突であったように、終わりも同じように突然だった。

 前触れなど一切なかった。
 伏線もお約束もない。
 始まりと同じように純粋な偶然が終わりを告げる。

 それはたまたま僕がミィと離れた時だった。
 二人で買い物に行って、たまたま買い忘れた物があることに気付き、一人で走って店へ戻る最中だった。


ミセ* ー)リ


 夜の街を走る僕は道の先に少女を見つけた。
 黒のパーカーを着た小柄な子で、フードを被っている為に顔は隠れていた。
 こちらへと歩いてくる少女と夜道で僕はすれ違う。

394 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:31:07 ID:un0.uF.U0

 それだけのはずだった。



「―――なーんだ、こんな所にいたんだぁ」



 すれ違う瞬間に少女はそう口にする。
 次いで、パチンと指を鳴らした。
 その仕草に僕ができれば二度と会いたくない相手を思い浮かべた瞬間。

 僕は――その場に崩れ落ちた。


(; ω)「…………え?」


 膝から力が抜ける。
 呼吸ができない。
 意識が遠のく。 
 光が消える。
 コンクリートに打ちつけた肩だけが、熱く痛い。

395 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:32:04 ID:un0.uF.U0

 目を開けているはずなのに何も見えない。
 声を出そうとしても喉は動かない。
 何が起こったのか分かるはずもない。

 どういうことだ?
 ……僕は、どうなった?




「―――ブーンさんっっっ!!」




 暗闇の中で最後に残った感覚が彼女の声を捉えた。
 ああ都村トソン、お前の言う通りだ。
 確かに後悔することになった。

 僕は泣き出しそうな声音のミィにどうすることもできないことを悔やみつつ、緩やかに意識を手放していく。

 もし今度目が醒めることがあったなら、泣いているであろう彼女をどうやって慰めようか。
 最後にそんなことを考えた。

396 名前:名も無きAAのようです :2014/01/18(土) 20:33:05 ID:un0.uF.U0


  この時の僕にとっての『現在』はあの住み慣れた家と大学を往復する日々ではなかった。
  この時の僕にとっての『現在』は即ちミィとの日常だった。

  街をぶらつき、買い物をし、喫茶店でコーヒーを飲み、他愛もない雑談をして、今日の宿を探し、明日以降の『未来』を夢見て眠る。

  『未来』を夢見る僕達は忘れていた。
  『未来』が夢見た通りのものではないかもしれないということを。
  ……分かっていたつもりになっていた。 

  後悔がないと言えば嘘になる。
  だけど、もう僕達のあの『現在』は――あの『過去』は、戻ってこない。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第七話:シ者」





.

402 名前:名も無きAAのようです :2014/01/21(火) 07:12:27 ID:LURJ7k1I0

【現時点で判明している“少女”のデータ】

マト゚ー゚)メ
・名前:不明
・性別:女
・年齡:不明(外見年齡は15〜17程度)
・誕生日:不明
・出身地:不明
・職業:不明
・経歴:不明
・特記:『未来予測』の能力を持ち、限定的ながら未来が見える。精確に予測できるのは数秒先までで一分以上先のことは可能性が見えるのみ。
    能力を発動している間は瞳の色が変わるがデフォルトでもある程度未来は見えている。
・外見的特徴:身長160代前半。癖のある赤みがかった茶髪。白い肌。起伏の少なめな体型。整った容姿。ニット帽。ボーイッシュな服装。
       やや鋭めな双眸。瞳の色は橙に近いヘーゼル。能力発動中は左目が紫に輝き、更に集中すると色が濃くなり紅色に変わる。

・備考:
 気が付いた時には記憶(エピソード記憶)を全て失っていた。
 その当時の所有物は細工の入った銀の指輪のみ。 
 一人称は恐らく「私」。この国の言語で話しているので海外に住んでいたとは考えにくい。
 服を着る、買い物をする等のごく一般的な知識も備えている。
 知識(意味記憶)として一般には知られていない生体兵器についての知識を有する。
 顔立ち、特に目元が超能力の研究をしていたと言われる科学者『都村トソン』及びその娘に似ている。

403 名前:名も無きAAのようです :2014/01/21(火) 07:13:20 ID:LURJ7k1I0

【現時点までに使われた費用(日本円換算)】

・前回までの合計 14,921,520円
・宿泊費 約37,000円
・生活費 約8,000円
・武装費他 約22,000円
______

・合計 14,988,520円


【手に入れた物品諸々】

・情報

407 名前:【第七話予告】 :2014/02/04(火) 17:39:18 ID:uPTw4gTQ0

「……彼等は今の彼等が知らない過去によって出逢った。
 運命、偶然、因果、意図、あるいは――記憶。
 きっと彼等だけではありません。
 人間は誰だってそうなのでしょう。
 私達は自分で選択したわけでもないのに気付いた時には既に状況に拘束されている。
 そういうものです。

 ですが、それはそれまでのこと。
 それだけのこと。
 彼等が出逢った後で、彼等がどうするか、何を目的に生きていくかは彼等自身が決めることです。
 たとえトマトの一つに過ぎないような存在だとしても。

 何処へ行ったって同じ。
 今は嘘になんてなりはしない。

 だけど、いえだからこそ、できることならば彼等は何も知らないまま、自由に生きていて欲しかった―――」



 ―――次回、「第八話:Memorable Meme」


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