331 名前:【幕間:Merciless Messiah】 :2014/01/06(月) 21:02:28 ID:/4PMM.o60

雨上がりの道を男は歩いていた。
昼と夜との境界、白み始めた空は遠からず朝が訪れることを知らせている。
しかし街はまだ目覚めてはいないようで周囲に人は見当たらない。

そんな早朝に、男は時折笑みを漏らしつつ歩みを進めている。

早朝故に、街頭を一人で笑いながら歩くという彼の不気味な様を目撃する人間も存在しないのは幸運だっただろうか。
尤も誰かに見られたところでそのスーツ姿から朝まで飲み続け泥酔した会社員だと思われただろうが。


( ^ν^)「くくく……。いやはや、想像以上でしたねー」


スクエア型の眼鏡を押し上げ、『ウォーリー』と呼ばれる何でも屋は笑った。
身に纏っている黒のスーツは派手に転んだように濡れているが、それも今は気にならない。
どころか、抱えていた二つの仕事が失敗に終わったことすら気にならなかった。
彼の力ならば激怒する依頼人から逃げ果せることなど容易い。


( ^ν^)「なるほど、なるほど……。戦闘狂のケはないと思っていたのですが、笑ってしまいますねー」


まさか本当に、自分を見つけられる相手がいるとは。
想像以上だというのが正直な感想だ。

332 名前:【幕間:Merciless Messiah】 :2014/01/06(月) 21:03:10 ID:/4PMM.o60

男の持つ『知覚阻害』という能力は地味ながらも相当に厄介な代物だ。
これまでも何度か索敵系の能力者と戦うことがあったが、誰も彼を見つけることはできなかった。
同じ異能の力すら無力化するほどに強烈な力なのだ。

『ウォーリー』を見つけられた者など、片手の指にも満たない。


( ^ν^)「(なのに、あんな中学生くらいの小娘があっさりと見つけるなんて……。笑ってしまいますねー)」


一体あの少女は何者なのか。
あれほどまでに強力な能力を持っているのならば何処かの組織に属しているのが普通だ。
無所属の一匹狼でも噂くらいは流れる。
だが彼女は、まるで降って湧いたように突如として出現した。

先日まで普通の人間で前触れもなく能力が覚醒した新参の能力者ということも考えられるが、それにしては態度が妙だった。
宛ら手足のように、そこに存在し使用できることが当然と言った風に『未来予測』を行っていた様から察するに、昨日今日手に入れたわけではないはずだ。

一体あの少女は何者なのか。


( ^ν^)「はてさて、あのミィという少女は何者なのでしょうねー……」

333 名前:【幕間:Merciless Messiah】 :2014/01/06(月) 21:04:06 ID:/4PMM.o60

と。



「―――お教えしましょうか?」



背筋が凍った。

彼の耳にそんな言葉が届いたのはその時だった。
早朝の空気よりも涼やかな、いっそ戦慄さえも覚えさせるようなその声音を、男は知っている。

いや。
この『ウォーリー』に限らず、少しでも裏の世界に詳しい人間ならば“彼女”のことを知らないはずがないのだ。
そんな史上最高と名高い能力者が男の後ろに立っている。


(;^ν^)「……参りましたねー。あなたに出遭ってしまうだなんて、本当に不幸ですー」

「ご愁傷様です。尤も私はこんな非番の日に『ウォーリー』という大犯罪者を見つけることができ幸運だと思っていますが」


“彼女”はそう言って、男は振り向かない。

334 名前:【幕間:Merciless Messiah】 :2014/01/06(月) 21:05:06 ID:/4PMM.o60

響く声はまだ遠い。
だが“彼女”を相手にして距離の概念がどれほどの意味を持つのか。
逃げられない。
その選択肢すらロクに浮かばない。

だから男は黙って両手を挙げて、ゆっくりと振り返る。
数メートル先に立つ“彼女”と向き合った。


( ^ν^)「ああ、そうか。そういうこと、でしたかー……」


“彼女”はそこに立っていた。

黒を基調としたスタイリッシュな服装。
纏うのは同じく黒のロングコート。
短いポニーテールようなアップスタイル。
その髪も濡れたように黒く、その瞳も夜のように黒い。

全く無駄のない、作り物のように洗練された完璧な顔立ち。
それらとよく合う切れ長の両目。

335 名前:【幕間:Merciless Messiah】 :2014/01/06(月) 21:06:05 ID:/4PMM.o60

“彼女”の姿を目にし。
そして、男は理解する。

こんなにも似ているというのに、どうして気が付かなかったのか。


(  ν)「(つまり、あのミィという少女は―――)」


ええ、その通りですと“彼女”が肯定する。



( ^ν^)「『ファーストナンバー』……。そうか。あの少女は、お前の……」

(-、-トソン「ええ。ですが、最早あなたには関係のないことです」



次の瞬間。
男の意識は根幹から断ち切られた。

『ウォーリー』と呼ばれた超能力者の行方は、杳として知れない。


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