612 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 20:55:26 ID:KNwPg9/o0



その記憶は産まれた時から刻まれていた。


ーー 身を焦がす熱と気管を埋め尽くす煙が、呼吸する事を赦さない。

ーー 繋がれた手足と見開かれた瞳が、目の前で行われる蛮行と殺戮を止めさせる事を赦さない。

ーー 切り取られた耳で、女子供の絶命の叫び声を聴き漏らす事を赦さない。

ーー 貫かれた心臓がその後も何度となく刃を受け止める為に、死ぬことを赦さない。


…一族の記憶はドロリとした黒い血液となり、
歴史という肉から一滴残らず絞り出され、この身の糧となり…


初めてあけた視界はすでに赤く染まっていた。
朝も、夜も、空気が赤い。


動くものも動かないものも、
黒く染まった物体として判別できたのが救いだった。

そして眼を閉じた時だけは、安息の世界に浸る事が出来る。



……だから私は空の青色を知りません。


.

613 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 20:57:15 ID:KNwPg9/o0


:おい、真面目にやってんのか?:


叱咤するような声が実験場に響く。
その声はブクブクと音が濁り、聴き取りづらい。


( <●><●>) 「……ええ、魔法自体はこれでも機能しています」

('A`)  :だったらどうして俺の身体には変化が表れない?:


垂れ目の男が後頭部で手を組み、つまらなそうに床に寝そべっている。
この実験場には椅子もベッドも無い。
暇を潰すための本や玩具も無い。


( <●><●>) 「……不死者と常人の身体構造そのものには差がない事はわかってます。
既存の魔法は、空気中に浮かぶ魔導力や抽出物から集約する魔導エネルギーを利用して発動しますが…」

('A`)  :あーそういう話はパスするわ。
どのみち身も心もきいてないんだしな:

( <●><●>) 「……身勝手な事ばかり言う」


実験場に置いてあるのは
ドーム型の魔導力集束装置と、
長さの異なる7本の筒の指向兼波長性放出装置のみ。


元は場内に灯りすら設置していなかったが、
垂れ目ーー "ポイズン" と名乗った ーー 男を迎えた際に勝手に持ち込まれた。

今は魔導装置付近にうっすらと足元を照らすカンテラが置かれている。

614 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 20:59:25 ID:KNwPg9/o0


数年前、大陸のとある辺境の集落で一つの事件が "起こされた" 。


河の下流に定住していたその集落の人々は真面目で…そして極めて愚鈍でもあった。

自分達の暮らしが楽にならずとも、
代々領主のために畑を耕し年貢を納め、
二月毎に別途税金を支払って尚
「今年も領主様のお陰で無事に暮らしてこられました」
と頭を垂れる習わしを心から疑わなかった。


あるとき…
納税期を過ぎてもしかるべき税の支払いが行われない事に首をかしげた領主は、
わずか20の兵士に命を下し集落へと向かわせたという。

税の滞りに腹を立てたわけではない。
多くの民を見下してはいても、その集落に限っては一定の信用を置いていた。


ーー 何かあったのだろうか?


そう心配しての出兵は、
数日後、誰一人として帰城しないという結果を招いてしまった。

615 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:00:48 ID:KNwPg9/o0

集落までの距離はそう離れていない。
事情があり、帰城が遅れているのであれば伝令だけ戻れば良い。

領主は次に50の兵士を向かわせた。

数日後、今度は100の兵士を向かわせた。


…しかし、やはり誰一人として戻らない。


得体の知れない状況に領主はそれ以上、
集落への一切の関与を停止しようと通達を出し、兵士達の不安をひとまず抑えた。


その一方で、領主は秘密裏に抱えていた忍びを向かわせる。

一番怖いのは正体の掴めない何かによって万が一の反乱を起こされる事だからだ。
…この場合は反乱による被害ではなく、
反乱を起こされたという事実を作らないためだが。


果たして予想に反し、忍びはすぐに戻ってきた。

ただ一言
『すべては燃え尽きて何もかも無くなっていた』
という報告を携えて。

.

616 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:01:53 ID:KNwPg9/o0


('A`)  :いまはなんの魔法だって?:

( <●><●>) 「……名前はまだありませんが、体内で微生物を異常活性させて故意に熱病を引き起こすものです。
【ウィルス】とでも名付けましょうか」

('A`)  :うへえ、きもちわり:


いちいちからまるブクブク声が癇に障った。
…だが、それは "ポイズン" の責任ではない。

常に瞳孔を開く男 ーー 実験場の持ち主であるワカッテマスの身を司る怨念が、
およそ正常な身体機能を持ち合わせていないせいだ。

彼はあらゆる音声が歪に聴こえてしまう。


( <●><●>) 「……少し魔導力の波長…スカラー調整してみましょう。
それからまたどこかへばら蒔いてみて、常人と貴方の反応を比べることにします」

('A`)  :ふひひ…あの時の集落のようにか?:

( <●><●>) 「……都合のいい実験場はこの大陸中のどこにでもありますから」


ワカッテマスが7本の魔導装置に手をかざすと、それまで光っていた2本の筒から力が失われていく。

実験場内に発動していた【ウィルス】がその効力を完全に無くした事を解ったかのように、
"ポイズン" がタイミングよく身を起こす。

617 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:04:56 ID:KNwPg9/o0

('A`)  :面白そうだったからお前の実験に付き合ってやってるんだ。
あまりに役に立たないなら死んでもらうからな:


ブクブク、と "ポイズン" は笑う。
言葉はまだしも、笑い声というものはもはや気泡が弾ける音にしか聴こえない。

嫌いではないが、相手の意思を感じることができないという点で、ワカッテマスはその音が好きではない。


( <●><●>) 「……殺せるといいですね」


無表情に笑って答えてみた。
出口の扉を開ける "ポイズン" の表情は読み取れない…
が、きっと彼も笑っているだろう。


(A` )  :【ウィルス】を試すときは呼んでくれ。
あの野郎も巻き添えにしてみたいから:

( <●><●>) 「……百獣ですか。
貴方の毒にも抵抗するという」

:そろそろ馴れ合いにも飽きたからな〜:


開き、そしてすぐに閉められた扉は別れの言葉を遮断し、他の音をたてることなく役目を果たした。

入退室を繰り返すたび、いつも同じ調子でガボゴボと主張されるのが面倒だと思い、
ワカッテマスが消音クッションを取り付けたのだ。


内部から鍵をかけ、一呼吸。


( <●><●>) 「……さて、静かになったことですし」


扉とは反対方向へ静かに歩き、 "ポイズン" が置いていったカンテラの灯りを消した。

実験場が闇に包まれる。
ワカッテマスの瞳には赤い世界が広がり、
場内には何がどう設置されているのか、さっきまでと同じ様に見渡す事が出来た。



そう、この眼に光は必要ない。

618 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:06:08 ID:KNwPg9/o0

闇の中、蠢くワカッテマスは場内に設置したもう一つの装置を起動させる。


一拍おいて、床から腹部の高さまで競り上がってくる小さな台座…
その天板に写される音のない光を、彼はじっと眺めていた。


それはある村に仕掛けた魔導アクセサリが送り込んでくる映像。


( <□><□>) 「……」


ーー 苦しむ子供と、それを介抱しながら夫の帰りを待つ妻の姿。
ーー または両親とペットに見守られた小さな部屋のなかで医師に何かを告げられた後、
目をつむり、やがて永遠に目覚めない息子の姿。


切り替わる映像を眺めながらワカッテマスは呟く。


( <□><□>) 「……ムラが有りすぎます。
まだまだ実用性には欠けますね」


彼が "ポイズン" には伝えていない事実がある。

【ウィルス】はすでにばら蒔き始めており、大陸各地で熱病を流行らせている。
ただ、その効きめが軽症な者から重症、もしくは死に至るまで、規則性なくバラバラであった。


ワカッテマスは本来、魔導士の素質がない。
そしてその経験も浅い。
…だから魔法の練習は必要不可欠だった。

生まれつき彼に備わっているのは、
"人に復讐するための呪い" だけなのだから。


( <□><□>) 「……あの "ポイズン" に魔法が効くようになれば、私が望む効果を手に入れられたという証明になります」

619 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:07:34 ID:KNwPg9/o0
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大陸中心部に位置する永久中立国、水の都。

過去に大陸全土を巻き込むほど大規模な戦争の歴史から学び、
未来への抑止力として造られた先進型都市。


大陸内地にありながら海の上に存在するこの都市は、
潜水技術に長けた職人による漁業、
そして航海船や潜水艦などを専門とした建設業によりその生活を支えている。

港にはホワイトボアと呼ばれる文字通り真っ白な巨大海洋戦艦が、都市のシンボルとして堂々と佇む。
比類なき近代兵器と広域監視装置を搭載して外部からの侵攻を察知、牽制する事が可能だ。


ただしこのホワイトボアが自発的に稼働したという歴史は、都市設立以降存在しない。

…にも関わらず、その脅威は大陸中に響き渡っている。
規模の大きな国家間や・領地間の争いは以降起こらないまま現在に至る。


都市内部も、水を象徴するかのようなゆるやかな気性の民族性によって穏和な日々が続いている。


統治する者が優秀だからこそとの名声高い評価。
それがこの都市の特徴だ。

620 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:08:40 ID:KNwPg9/o0

  _
( ゚∀゚) 「おかげでこうしてお茶でも飲みながら君をナンパしているのだけれど」


中央噴水を軸に、広くスペースを取られたメインストリート脇にあるカフェテリア。
そのオープンテラスでブラウンヘアの女性を口説く男がいる。

眉間にシワを寄せるように…
しかしそれがかえって引き締まった表情を作り、
バランスの良い骨格と身に纏うブランドスーツが優雅な景色とマッチしている。


注文したグラスティーを片手に、少しだけ女性へと肩を寄せるその姿はやたらと様になっていた。
世間的美意識と照らし合わせるならば、男は女性を虜にする容姿を備えているだろう。

  _
( ゚∀゚)o 「あ、ほらほら見てこの新聞。
"大陸各地に発生する流行り病とその種類、その対策" だって。
怖いよねー」


邪魔にならないようテーブルに小さくたたんだ日刊紙を置いて話題をふる。
…恐らくは初対面の女性と、わざわざ語る内容ではないが、男もそれで振り向かれるとは思っていない。

  _
( ゚∀゚) 「こんな都市伝説知ってる?
流行り病は大陸の東西南北でくっきり違うんだって」

621 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:09:59 ID:KNwPg9/o0

たたまれた新聞を目の高さまで持ち上げ、もう片方の手でグラスティーを口に運ぶ。

  _
( ゚∀゚)o◇
  つ□~ 「この…新聞に書かれてるのは二種類だけど、その都市伝説の噂通りならもう二種類あるってことになる」
  _
( ゚∀゚) 「ーー なのに、この都市の人がいまだ流行り病にかかったっていう話題は聞かれない。
まさにこの都市を中心に、病いの分布がキレイに別れすぎてるらしいよ」


…沈黙…

男が話し掛けているブラウンヘアの女性から特に反応はない。

  _
(;゚∀゚) 「……」


男としては、もっとこう、
コワーイとか、
イヤーとか、 そうでなくともせめて、
ウザイからどっかいってよ、とか…
なにか反応が欲しいものだ。

  _
( ゚∀゚) 「と、とにかく…それはひょっとしてこの流行り病を、
故意に流行らせてる張本人がこの都市に住んでるんじゃないかって噂さ」


ーー そこでやっと、女性に動きがあった。
男を無視し続け、メインストリートの噴水から湧き上がる水の循環に目をやっていた…その顔が。



ξ゚听)ξ「興味あるわね、そういうの」


詳しく聞かせて欲しいな、と
ジョルジュを正面に向き直った。

622 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:12:11 ID:KNwPg9/o0


ーー 戦争の終結から55年。
焼け野原となった土地や、破壊された自然がその姿をようやく取り戻してきた時代。

人々を襲い始めたのは原因不明の流行り病だった。


地方の衛生概念の遅れによる発病や、
地域工業の発展による汚染問題なども囁かれたが、
そのいずれも当てはまらない事が一部の研究者から報告される。


ξ゚听)ξ「だから大きな街にしかまともな情報がないのね」
  _
( ゚∀゚) 「人妻かあ」

ξ゚听)ξ「は?」


カフェテリアを出てメインストリートを一本外れた水路沿いを歩きながら、
ツンはジョルジュの話を反芻していた。

…当のジョルジュはナンパお断りならぬ、
「アタシ人妻だから」
の一言で上の空になっているところだ。


ξ゚听)ξ「ブーンと二手に別れて正解だったわね。
ここと、西の街にしかその研究者はいないんでしょ?」
  _
( ゚∀゚) 「萌えるな」

ξ#゚听)ξ「…聞いてんの?」


ツンとその夫 ーー ブーン。
二人も、とある村の流行り病によって出た被害を目の当たりにして、やはり異常性を感じていた。

…というよりも、ツン達の目の前で人体が発火した現場を目撃したとき、
流行り病などという生ぬるい認識を持つことは出来なかった。


子供の目の前で、熱病で寝込んでいた親が燃え盛る…
その時の恐怖に染まる幼い瞳を忘れることが出来ない。

623 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:13:37 ID:KNwPg9/o0
  _
( ゚∀゚) 「俺もその話を聞いたのは情報屋からさ。
…しかし、まさか君もその件を調べてたとはね」

ξ゚听)ξ「自然の摂理ならともかく、あんな現象は人為的以外に有り得ないわ」
  _
( ゚∀゚) 「それも結果論だけどな。
知識のない普通の人々には、やはり病いとしか表現できないと思うよ。
そうでなければ呪いだ」


ξ゚听)ξ「…呪い…」


ツンは足を止めて少し考え込んだ。

すぐ横を流れる川のせせらぎがキラキラと太陽を柔らかく反射し、街路樹が作り出す涼しげな空間を手助けする。

  _
( ゚∀゚) 「…いやいや、ジョーダンだよ。
いまさら怖がってくれたの?」


振り向き見るジョルジュが軽い調子でフォローする。
しかし真面目な顔を崩さないツンはヒントを元に推測を積み上げた。


ξ゚听)ξ「…貴方はこの流行り病をどうしたい、とかあるの?」
  _
( ゚∀゚) 「欲をいえば解決してくれと願うね」


推測は推測でしかない。
そしてそれは解決を望むツンだから必要な思考であり、一般人や無関心を貫く人に聞かせる内容では無い。

そう考えて問い掛けたのだが、ジョルジュの返答は迷いがなく、即答。
ツンの予想を大きく外れた言葉だった。

624 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:15:16 ID:KNwPg9/o0
  _
( ゚∀゚) 「出逢ったとき、君をどこかで見たことがある気がしたんだ」

ξ゚听)ξ「…ナンパはいらないって言ったでしょ」
  _
( ゚∀゚) 「あ、そうじゃなくて。
多分どこかでたしかに見たんだ。
…しかも、なにか事件があったような場所で」


…ツンは記憶を辿る。

彼女にジョルジュを見掛けたような記憶はない。
事件という事件も思い当たらない。


10年前まで彼女は一人の老婆のために集落の復興を手伝うべく、ブーンと共に行動していた。
その後は比較的穏やかに過ごしたと思う…。

たとえば彼の幼少期に出逢っていたり、彼のなかでは事件だったという可能性もあるが、そこまでとなると分からなくなる。

  _
( ゚∀゚) 「とにかく、だ。 きっと君は俺の運命の人さ。
困ってるなら助けるし…この噂は個人的にも気になってたから、どのみち調べるつもりだよ」


口説き文句は忘れずに、しかしその瞳を見る限り嘘をついている様には感じられない。

ツンも一人でこの件を片付けるつもりは無い。
きりの良いところでブーンと合流し、
あの時の子のような思いをする人が居なくなれば…と考えている。

625 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:16:14 ID:KNwPg9/o0

ξ゚听)ξ「 "呪い" よ」


ジョルジュが適当に言った言葉をそのまま繰り返す。
ツンの中には一つの根拠があり、そこから導かれる推測は現在の結果へと紡がれる。

  _
( ゚∀゚) 「それ、だからジョーダンだって。
そもそも呪いっていうのは対象に向けて恨みを晴らすための概念だろ?
こんな大陸中に広がるほどの呪いなんて ーー 」

ξ゚听)ξ「そう、概念…つまり動機の話よ。
呪いで病いが広がってるんじゃない。
何かを呪って、この現象を引き起こしてるんじゃないかしら?」
  _
( ゚∀゚) 「ん? なにが違うんだ?」


ツンは溜め息をついた。
男というのは短絡的だとつくづく思う。
女性に比べて理論的に話すのが得意だなんてどこの誰が言ったのだろう。


ξ゚听)ξ「大陸中をまとめて呪うのと、呪って病いを広げるの、どっちのほうが簡単だと思う?」
  _
( ゚∀゚) 「…あ、そういう意味か」


はたとジョルジュも気が付いた。


ξ゚听)ξ「貴方もさっき言ってたでしょ。
…もし大陸ごと呪うなら、この都市だけ被害を免れてるなんて説明はつかないわ」

626 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:18:18 ID:KNwPg9/o0
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水の都…その最奥には永久中立を謳い、都市を統治する宮殿が存在する。


ツンとジョルジュが手を組んだその夜、
4人の賢者と1人の女王が住まうこの宮殿では緊急会議が行われていた。

その内容は…女王の不在と流行り病の対策について。



爪゚A゚) 「なんで女王が不在なのに会議するのかぬ?」

瓜゚∀゚) 「不在な事が今回の議題じゃづ」

爪゚ー゚) 「女王の放浪癖も困ったものだじ」


四隅に置かれた4つの観葉植物と、部屋の中心には巨大円卓。
賢者はそれぞれお気に入りの観葉植物の前に椅子を並べて座っている。

順番に
ぬー、づー、じー、と呼ばれる賢者達は、大陸に広がり始めた流行り病について女王の意見を伺う事を望んでいたが…

空席の2つのうち1つは肖像画を背景に、女王の座る上座。

もうしばらく連絡すら寄越してこない。

627 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:19:24 ID:KNwPg9/o0

爪゚A゚) 「遅いぬ、フォックス」

爪'ー`) 「…失礼した」


会議室の扉を遅れてくぐったのは4人目の賢者フォックス。
もう1つの空席へと体を納める。


…肝心の女王は宮殿から出掛けたまま2年ほど帰ってこない。

現状を憂いた賢者達は、決定権のある女王を待つことを止め、自らの判断に基づいての対策を練る判決を下す。


爪'ー`) 「…それでは流行り病の調査と、その原因究明について」


フォックスの言葉を皮切りに、各々が発言する。

628 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:20:43 ID:KNwPg9/o0

爪゚ー゚) 「もはややむを得ないじ。
すでに都市内の研究者達、そして西の街でも同時期に民間が独自に調べ始めているじ」

賢者じーは、一般人による自発的な調査そのものは歓迎するものの、
研究者が病いに感染した時、当人が気付かぬまま都市に侵食するバイオハザードを恐れている。



爪゚A゚) 「一刻も早う止めさせるぬ!
人々が余計なことを知ってしまえば、病いよりも恐怖が先に感染するぬ」

賢者ぬーは、一般人の自発的な調査に反対だった。
ただしそれは統率されない情報交錯により広まる恐怖によって、ゆくゆくは統治行為への支障を鑑みての話…
混乱、恐慌は力なきものが先に倒れていく。
弱者を守り、奪われないための統治を望む。



瓜゚∀゚) 「調べるにも都市憲兵だけでは数が足りんづ。
なにより都市の治安が第一…この期に乗じて民に何かあっては申し訳がたたんづ」

自分の国は自分で守る思いの強い賢者づーは、調査に兵を割く事に反対の立場を貫きたかった。
そのためならあえて外部からの調査結果を求めるのも厭わないと考えている。

629 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:21:36 ID:KNwPg9/o0

三人の賢者はみな意見が別れた。
その目は4人目の賢者に向けられる。

賢者の間にも発言力の違いがある。
それは集団生活において権威や実力ではなく、自然にそういった役割を負う者が現れるように。


爪'ー`) 「…皆の意見を反発させない案があるな 」


…表情を変えずに、やがて口を開いたフォックスは眼に紫色の光を携えて提案する。


爪'ー`) 「…私達がそれぞれ直接出向けば良いのでは?」

爪'ー`) 「…研究者の報告によれば、この都市から東西南北…
各地で発生した流行り病の出所に向かうのだ」

632 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:25:06 ID:KNwPg9/o0

フォックスの提案は3人の意見に新たな方向性を指し示すが、疑問は解消されていない。


爪゚ー゚) 「私達が知らず知らずのうちに感染すれば、都に戻った時、むやみに被害が出てしまうのでは?」

爪'ー`) 「…病い発症時の身体に現れる詳しい症状を突き止めれば問題ない。
病いの潜伏期間を考慮して一ヶ月後にここへ戻れば、感染の可能性は限りなく低い」



瓜゚∀゚) 「その間、宮殿を留守にするのかづ?
女王が居ればそれもよかろうが、その間は誰が都を見守るづ?」

爪'ー`) 「…侍女らに任せる。
我らの目的地が分かっていれば、伝令を飛ばすこともできるのだ。
それに憲兵が揃っていれば大概の対処もできよう…それも民を信用するという事だ」



爪゚A゚) 「後に我らが出向くことを知った民らに不安が広がった場合はどうするぬ?
人の口に戸は立てられぬ」

爪'ー`) 「…隠匿するから混乱を招くのだ。
始めから堂々通達すれば良い。
美しい都を守るべく、早いうちに我らが動くのだ…とな」


フォックスは3人の案そのものに修正を加えながら、これからの動きを決めていく。


賢者はお互いに相手を尊敬し、実力を認めあう間柄だ。
小さな異議はあれど、大きな同意が得られるならば彼らの会議が止まることはない。

慣例通りに進む会議は、フォックスの瞳に宿る、
ーー いや、瞳に "装着された" 紫色の光に気付かぬまま、淡々と行われていく。

633 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:26:26 ID:KNwPg9/o0


('A`)  :けっこう鮮明に映るもんだなあ:


ーー 紫色の光の奥には "ポイズン" の姿があった。

フォックスの眼に取り付けられたのは、ワカッテマスが改造した魔導アクセサリーのサーチグラス。
従来のルーペ型ではなく、眼球に合わせてレンズ化したものを、
呪いにより映像を送り出す機能に作り替えられている。


( <●><●>) 「……生身の人間に取り付けるにはまだ違和感を残してしまい、
発覚しやすいという欠点はありますがね」


ワカッテマスの実験場。
腹部ほどの高さの台座、その天板に映されている会議の様子を二人は眺めている。

634 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:27:23 ID:KNwPg9/o0

('A`)  :生身…じゃないってことか?:

( <●><●>) 「……あれは土塊です。
泥人形とも言いますが」


フォックスを指して答えるワカッテマスの言葉は抑揚がない。
聞かれたから答えはするが…はっきり言って "ポイズン" の声は耳障りなのだ。


('A`)  :ふひ! お前人間も創れるのかよ、すげーな:


ーー その笑いを止めてくれ、ゴボゴボとうるさい。
そう心の中で唾を吐く。


( <●><●>) 「……人間は創れませんよ」

('A`)  :ま、とにかく賢者共の動きは決まったみたいだな。
ひひ…一ヶ月…国の崩壊の始まりってやつか:


映像は、4人の賢者が各々席を立つ場面を映し出していた。
今日はもう動きは無さそうだと思い、台座を引っ込める。

635 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:28:24 ID:KNwPg9/o0

( <●><●>) 「……流行り病と思いながら死んでいきなさい」

('A`)  :ぁあ?:


長居するつもりのない "ポイズン" が、昨日と同じように退出する直前。

ワカッテマスの口からは独り言と、
肺の空気が漏れるような笑いがヒュゥヒュゥと吐き出されていた。


( <●><●>) 「……あの三人が出てくるまで、すべての命が人質」
  _,
(;<●><●>) 「……私にはわかってます。
彼らはどこかに、いる…潜んで、私を殺、す算段でも、練っているので、す」


ヒュゥ… ヒュゥ…

ーーそれはまるで魍魎の嗚咽のように。
過去の怨念が、ワカッテマスという媒体では収まらないとでも言いたげに。


('A`)  :おい:


扉の前で "ポイズン" が思わず声をかける。
…ただし、この男に他人を心配するような気持ちを期待してはいけない。


('A`)  :ヒューヒューうるせえな、俺に移すなよ?:


面倒くさそうに言い放ち、去っていった。
闇にワカッテマスを置き去る。

636 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:30:02 ID:KNwPg9/o0

(#<○><○>) 「貴様の方がうるさいぞ、骨屑が!!」


ワカッテマスの身体から殺意の固まりが魔導力となって "ポイズン" に向かう。
ーー が、すでに姿はなく、音の無い扉へとぶつかりやはり無音で消失した。


この実験場は魔導力が外部に漏れないよう念入りに時間をかけて細工してある。
物理的な衝撃には弱いが、ワカッテマスには必要ない。


呪いによって創られた彼は、呪いの魔導力だけを行使する。
実験場内に魔導装置以外の物を一切置かないのも、激昂して八つ当たりの対象にさせないためだった。

息を荒げて自らの肩を両手で押さえ込む。


(;<▼><●>) 「……拾われる屍すらない男が…」


ーー ワカッテマスは違う。
彼は幾多もの屍を拾い集めて、その想いを継いで産まれた者。


今は亡き "赤い森" に住んでいた、
一族すべての怨念で構成されている


人工の、人間。

637 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:31:01 ID:KNwPg9/o0


ーー 人が一日を終えて眠りについた頃。

呼吸をなんとか落ち着かせ、ふらつく足取りでワカッテマスは実験場を出た。

もはや日常の彼の顔に戻っている。


実験場は地下深くにあり、
周囲は人の手も入っておらず補強されていない岩壁に囲まれている。

ここを出るためにはこれもワカッテマスが設置した一人用エレベータを使用しなければ往来出来ない。
そのエレベータ出口も、決して人が立ち入ることが出来ないような場所に通じていた。


( <●><●>) 「……今日中にスペアを造っておかなくては」


道の途中、彼だけに分かる仕掛けを動かしてもう一つの実験場に足を運んだ。


"ポイズン" も招くことのないその隠し部屋のまん中に、噴水の形をしたオブジェが一つ鎮座している。

張られているのは水の代わりに、
茶色く、粘度の高い泥々とした何か…


それを彼はすぐ横に立て掛けた二股の棒を注し、ゆっくりと掻き回す。
…正確には、ワカッテマスの力ではそれ以上スムーズに動かすことができないのだが。

638 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:32:13 ID:KNwPg9/o0

( <●><●>) 「……【カース】」


呪いの魔導力から呪いの魔法を発動しつつ、棒を回す。
止めず、円く、その軌跡はリング状に…


棒を伝わり呪いが注がれる。
…彼を伝わり呪いが練り込まれる。

赤黒い光が、モヤのようにふわふわと、
そしてどくどくと棒を伝わり下っていくのだ。


火を使って温度を上げている様子はない…
しかし茶色い何かはやがて気泡を弾けさせ、噴水の中央が反り上がりだす。


ワカッテマスはまだ手を休めない。
そして繰り返される呪いの詠唱。


( <●><●>) 「……【カース】」

ーー 唱えれば唱えるほど

( <●><●>) 「……【カース】…」

背中に、赤い森で死んでいった先祖達が次々と乗り移り
それに押し潰されるかのように身体が重くなっていく。

(;<●><●>) 「……く、【カース】!」


先祖達だけが使うことのできた門外不出の呪術。
もし生きた人間が喰らえば、死ぬまで多岐にわたる悪症状を引き起こす。

猛毒、視覚障害、狂騒、混乱、身体麻痺、


  …文字通り【呪い】の魔導力の塊。

639 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:34:20 ID:KNwPg9/o0

【カース】を注がれ人の高さほどになった "それ" が摂理、重力に逆らって反りきった頃…
彼の体力と魔導力は底を尽いてしまう。

ーー 彼はまだ多くの魔法を使いこなすほどのキャパシティを有していない。
だから、この泥人形を創ることが出来るのはせいぜい数日に一体が限界だ。


手から棒を離し、膝を曲げて荒く呼吸する。
自分の耳に届く自分の吐息の音は
死の淵で雄叫ぶ亡者の声にも似て。


爪'ー`)    (<●><●> )


ワカッテマスが顔をあげた時、曖昧だった泥人形はくっきりと型を浮かび上がらせる。
……四賢者の一人、フォックス。
だが目の前のそれに意思はない。
人形は所詮人形。

だから、これから意思の基になる "記憶" を注入する必要がある。


ワカッテマスは噴水の陰に隠れた…
いや、陰になって見えていなかった、俯せに倒れている人間を
    ーー ゴロンッ
と足で転がした。

640 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:35:45 ID:KNwPg9/o0

爪;;; ;;)


眼を奪われ、口を縫われた物言えぬ人間…
それは "本物" の賢者フォックスの姿。

彼はもう二週間ほど飲めず食えずの状態が続いているために、もはや虫の息だ。


( <●><●>) 「……媒体はできるだけ生きたままでなければ精度が落ちますからね」


そう言って手を伸ばす。
もう、このフォックスは保たないだろう…
これが最後の役目だ。
ワカッテマスの指先が、フォックスの痩せた首に触れ、


( <●><●>) 「……【シャドウ】」


小さな闇の炎が
その薄皮と肉、骨を焼き尽くさんと迸る。


ノ爪;;; ;;))   :ーー ! …っ!:

ビクンビクンッと悶える賢者は、
しかし声をあげることも叶わず、内側から急所を焼かれて死んでいく。


ーー 口を塞ぎ、首を狙ったのは正解だと思った。
音もなく首から上を焼失していく賢者の末路は静かで、それでいて溜飲が下がる。

どこぞの骨屑のような不快な音もたてずに死んでくれるこの男は、まさに賢者の名に相応しい。


感謝しますよ、私の実験体さんびゃくごじゅう…いくつ目だったろう?

……もう数えるのも飽きてきました。

641 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:37:33 ID:KNwPg9/o0

【シャドウ】の魔導力が散り終わると、
そこには首と顔のない死体が一つ、
焼け跡には喉仏が転がっている。


それを拾い、泥人形の首へと近づけると
まるで欲していたかのようにズブズブとめり込んで、傷口もなく吸い込まれた。


爪 ー )


爪'ー`) 「……」


( <●><●>) 「……さて、これで良いでしょう」


光の宿り始めた泥人形の眼に、今度は特製のサーチグラスを嵌め込む。
これであとは時がくるのを待てば良い。

泥人形にはその場で待機させ、ワカッテマスはそのまま地下実験場を後にする。


エレベータで地上に出ると、目の前にはついさきほどまで動いていた泥人形の残骸がわずかに残されていた。


( <●><●>) 「……時間もぴったりでしたね」


泥人形の残骸から今日まで会議の様子を映していたサーチグラスを回収しておく。
…これでもう、ただの土塊となったこの泥人形に一切用はなくなったのだ。

642 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:39:38 ID:KNwPg9/o0

ワカッテマスはその場で土塊を何度も蹴り飛ばし、周囲の風景にその残骸を溶け込ませる。

土塊は砂となり、その一粒一粒から残留するほんの僅かな魔導力も蹴り飛ばされた衝撃に耐えきれず、
キラキラと輝きながら空に分解されていく。


こうしてこれまでの証拠はなくなる…
また次から新しいフォックスが四賢者として行動する事になるのだ。


( <●><●>) 「……ふぅ」


無意識にため息をつき、空を見上げる。


…赤く見える月の位置が低くなっている。
その灯りは酷く弱々しい。
これから朝が訪れようとしている証拠だ。


ワカッテマスは辺りに闇が残っているうちに、何処かへと姿を消した。



誰もいなくなったその場所に
傾き昇り始める陽 ーー

643 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:41:36 ID:KNwPg9/o0

いよいよ大地に光が当てられる。

…樹が目覚め、空に青みが射し、
自然のなかで生活する獣達が行動を始める頃。



「 ーー この辺から感じた気がするんだけどなあ」


静かな呟きが風にのって聴こえてくる。
逆光で黒くなった影が、それを人間の形に浮き彫らせた。


「いまは何も感じない…
でも気のせいじゃないね、ここに居たんだきっと」


ふぅ、と意識的にため息をつく。
それはもはや影自身の境遇を振り返った時に表れる癖のようになってしまっていた。


数時間前、同じ場所で同じようにため息をついたワカッテマスもそうなのかもしれない。



影は少し周囲を調べるように歩き回り、
果たしてなんの収穫も得られないままその場を後にした。



.

644 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:42:30 ID:KNwPg9/o0
------------


〜now roading〜


( <●><●>)

HP / C
strength / H
vitality / G
agility / D
MP / F
magic power / B
magic speed / C
magic registence / C


------------

645 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:48:35 ID:KNwPg9/o0


水の都に流通するラジオから、
四賢者が大陸に蔓延する流行り病の原因究明を直々に行う事を発表した数日後。


人々は目に見えなかった感染の恐怖から一時的に解放され、
いよいよ動いた彼らへ、口々に声援を贈っていた。


四賢者は大陸戦争を生き残りここに集った知恵者…
戦争終結後にはこの水の都を作り上げて、今の自分達が送る生活の土台を築いた功労者でもある。

彼らが動けばなにかしらの成果を約束されたような期待をせずにいられない。


「さすがは女王様だよな。
普段の日常にはほとんど口出しせず、
それでもってこういう時には必ず動いてくれるんだからさ」

「あたしらのことをいつも見てくれてるんだって感じるわねえ」

「この都以上に恵まれてる生活があるなら見てみたいもんだ」

「私の生まれ故郷も熱病が流行ってるって手紙がきたわ…」

「俺んところはいつのまにかバッタリ倒れてそれっきりだとよ…
それも一人や二人じゃないんだ、お袋を呼び寄せてるけど…心配だよ」

「大丈夫、これからはどんどん解決するはずさ!
なんたって四賢者全員が一斉に動くんだぜ!」

「女王様もいるしな!」

.

646 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:49:44 ID:KNwPg9/o0

都に漂う雰囲気は元より暗くはなかったが、それ以来、目に見えて華やかさを取り戻した。

暗く沈むような空気は、人の心を蝕んでいく。
不安を口に出せば現実になったとき後悔し、
心にしまいこんでも現実になればより恐怖する。

  _
( ゚∀゚)
  つ◇ 「…先に賢者が動き出しちゃったな」

ξ゚听)ξ「それならそれでいいじゃない。
誰か一人より、何人も居てくれたほうが早いわ」
  _
( ゚∀゚)
  つ◇ 「おいおい、ラジオでも言ってたじゃん。
あんまり民間は勝手に行動するなって…」


怖じ気づいたようなジョルジュの物言いに、少しだけムッとしてしまう。


ξ゚听)ξ「都でどれだけあの賢者が信用されてるのか知らないけど…
あいにくアタシは自分の目で見たモノを、より信用する質なのよ」
  _
( ゚∀゚)つ彡 「あっ」


貸しなさい、とジョルジュの手から一冊の手帳を半ば奪うようにもぎ取る。
彼が情報を集めまとめた走り書き…だが、


ξ゚听)ξ「…」

ξう听)ξ

ξ゚听)ξ「…」

ξ#゚听)ξ「……全然何書いてあるかわかんないんだけど?」


ジョルジュの走り書きはまさしくミミズが這ったようにしか見えなかった……

647 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:51:21 ID:KNwPg9/o0

----------


爪゚A゚) 「ん、フォックスどしたんぬ?」

爪'ー`) 「…君の船はさすがに早いなと思ってね」

爪゚A゚) 「ああ、なるほど。
他の皆と違ってワシはもともと海賊出だからぬ」


西に海路をとる賢者ぬーの私船、
[ヌーチラス]のその船上。
そこには南へと向かう事が決まっていたはずのフォックスが同乗を申し出ていた。

カスタマイズされたヌーチラスには
昔、彼女が個人的に手に入れたオーパーツエンジンを搭載しており、
他の船にはないジャンプ機能やブースト機能が備わっている。


爪゚A゚) 「沖に着いたら谷に入らんと、近くの集落で馬を借りるんだぬ」

爪'ー`)y‐ 「…そうしよう」


自動操縦に船を任せ腕を組むぬーの背後で、フォックスは葉巻を取り出した。
火はつけない。


夕日が二人を赤く染める。

648 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:52:39 ID:KNwPg9/o0

水の都からまっすぐ南下すると、海を隔ててすぐに千尋の谷が行く手を阻む。
それほど若くない賢者達の中で最年長のフォックスには、徒歩で越えるほどの体力がないのだろう…
ぬーはそう思い、彼の同行を許可したのだが……


爪'ー`)y‐ 「…」

爪゚A゚) 「吸わんぬか?」

爪'ー`)y‐ 「……」


ーー 返事はない。
賢者達は同じ宮殿に住まえど24時間常に共に過ごすような間柄ではなかった。

自室で魔導力を練ったり、趣味に没頭してなかなか姿を表さないなど日常茶飯事。
今回の件のように会議で終わらず、
ましてや4人が共同作業するなど数えるほどだ。


水の都が海と同化し、船からは何よりも高くそびえ立つホワイトボアの突端すら見えなくなる。

清らかな赤い水平線が景色の全てに成り変わった。


爪゚A゚) 「…フォックス?」


フォックスには一つ、揺るがない趣向がある。
ーー 本来、彼は如何なる時も葉巻を持ち歩き、そして躊躇いなく吸ってしまうのだ。


爪'ー`)y‐ 「…火を忘れてね」

649 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:53:40 ID:KNwPg9/o0

直後、甲板上に激しい水泡の破砕が連続して巻き起こる。
目を開けてはいられないほどの水圧とその衝撃が船を揺らした。


爪゚A゚) 「何者だぬ、貴様!?」


トレードマークであるマント裏地の水色を露にするほどの魔導力を発動しながら、ぬーは距離を取った。

水流の拳を射ち与える【アクアラー】は
フォックスの身体を包み込み、逃がさない。
詠唱の速さは賢者ゆえの特性だ。


…しかしその魔導力が伝わりきる前に【アクアラー】が効果を失い散った。
宙に舞う水飛沫がパラパラとにわか雨のように降り注ぐ。

650 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:55:15 ID:KNwPg9/o0

雨の中で棒立ちのフォックスが、先程までと変わらぬ佇まいで見つめてくる。

まるで亡霊だ…そう思い、ぬーはぞっとした。


爪'ー`)y‐ 「…葉巻が濡れてしまうじゃないか」

爪゚A゚) 「フォックスが火を忘れるものか!」


賢者達は各々得意とする魔法がある。
ぬーは水、そしてフォックスは炎。

…ワカッテマスの創りだした土塊であるこのフォックスは、炎の魔法を使うことはできない。


爪'ー`)y‐ 「…炎なら使えるさ」

爪゚A゚) 「!?」

爪'ー`)y‐ 「…【シャドウ】」


それはワカッテマスの魔導力と同じ呪術。
土塊フォックスから放たれる反撃の闇の炎がゴウゴウと渦巻き、
咄嗟に身を躱そうとしたぬーの身体を、容赦なく包み込んだ ーー


.

651 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:56:31 ID:KNwPg9/o0


ξ゚听)ξ 「ちょっと! 方向変えて!」


同じ海の、しかしまだ都からそう離れていない小船の上でツンが叫ぶ。

  _
( ゚∀゚)
  つ@o 「えっ?」

ξ゚听)ξ σ 「あっちの方角に行ける!?
なにかおかしいわ」


気迫に押され、舵を握るジョルジュが船頭を動かし彼女の言う通りに海路をとる。

ツンとしては読めもしないメモの責任を取らせるべくむりやり連れてきたのだが、
彼が船を操縦できることはラッキーだった。
ツンは乗り物全般を運転することができない。

賢者達を追うにも、定期便出発までタイムロスを覚悟していたのだが。

  _
( ゚∀゚)
  つ@o 「…なんだ? たしかに変だな」


小船がそれに近づくにつれてジョルジュも思考が動き出す。
  …海の上に船が停まっている?
だが、廻船賑やかなこの海でそんなことをする理由はない。
そうしたい者のためにわざわざクルージング専用の海路が他に用意されているのに。


ジョルジュは手帳を出して素早くページを開く。

652 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:57:59 ID:KNwPg9/o0
  _
( ゚∀゚)o◇
  つ@ 「……あっちは定期便が通るような方角でもない。
ずっと行けば停泊できる港はあるみたいだけど、民間への使用許可も降りてない」


ホラ、と手帳を差し出すもツンは一目見て顔を戻した。
情報を集めてくれたその労力は買うが、口頭より分かりにくい記述に疲れたくない。

どのみち間もなく問題の船に横付けできるほどに近付いている…
ここまでくれば直接確認すれば良い。


ツンが詠唱を開始すると白い光が集まり霊魂のように漂い始めた。
光の球は静かに船に向かって飛んでいき、その場に現存する生体反応を確認する魔導力となる。


ξ゚听)ξ「【ライブラ】!」


発動と共に、光の球は一度だけ発光。
…つまりあの船には一人分の生きた反応があるという事を示した。

653 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 21:59:08 ID:KNwPg9/o0

ーー ドガガッ

/爪'ー`))y‐ 「…?」


波の小さなこの海では起こり得ない、
ヌーチラスを揺るがす震動が土塊フォックスにも伝わる。

…プスプスと焼け燻る賢者ぬーから目を離し振り向けば、二人の男女がヌーチラスへと飛び乗ってくるではないか。


  _
( ゚∀゚) 「失礼しますよっと…
おいおい、なんだこれ? 穏やかじゃないな」

ξ゚听)ξ「貴方はたしか…」

爪'ー`)y‐ 「…なにかね君たちは?」


ジョルジュは倒れ焦げたぬーを見やり、
ツンは先日ラジオで聴いた声の主に注目する。


爪'ー`)y‐ 「…この船は賢者の私物。
勝手に乗り込んではいけないよ」
  _
( ゚∀゚) 「あんたは賢者フォックス?
い、いやー、ちょうど通り掛かったもんで…すんませんね」

ξ゚听)ξ「これは一体なにが? 」

654 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:00:47 ID:KNwPg9/o0

ヌーチラス上の状況は異質だった。
襲撃か、裏切りか ーー

焼けた賢者、
それを見つめるもう一人の賢者。


爪'ー`)y‐ 「…落ち着きなさい。
順を追って説明しよう」

爪'ー`)y‐ 「…いかにも私は賢者フォックス。
彼女…ぬー殿と同じく、都の四賢者と呼ばれている」


フォックスが姿勢を正し、その視線は二人を真正面から向き捉える。


爪'ー`)y‐ 「…数日前の声明通り、
我々はまさにこれから流行り病の調査に出発したばかりだったのだが…
突如、ぬー殿が乱心されたのだよ」
  _
(;゚∀゚) 「 ーー まじかよ」

爪'ー`)y‐ 「…本当につい今しがたの事だ。
咄嗟に反撃してしまったのでこんな事に…」

ξ゚听)ξ「…そんな…」


【ライブラ】で感知できたのは一人分の生体反応のみ。
ツンはフォックスの後ろで倒れている賢者を見つめた。

マントや衣類はところどころ焼け、皮膚の下からは黒い肉が見え隠れしているようにも見える。

つまり、ぬーは……

655 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:03:16 ID:KNwPg9/o0

爪'ー`)y‐ 「…自分がしたこととはいえ痛ましい。
君達が来なければもうしばらく呆けてしまっていたかもしれない」

土塊フォックスは淡々と語る。

爪'ー`)y‐ 「…だがこれも僥倖だ。
さあ、急いで都に引き返さねば…
彼女を…弔ってやりたい」

あまりに無感情に口を動かしてくれる。


視線はぬーに向けていても、
ツンの意識はすでにフォックスの言葉に傾けられていた。
命を軽んじるような態度に、注意を引き付けられてしまっていた。


だからこの時、気付いたのはジョルジュだった。

  _
( ゚∀゚) 「ーー いや! まだ息があるんじゃないか?!」

爪'ー`)y‐ 「…!?」

ξ゚听)ξ「!?  【ヒール】!」


すかさずツンは回復魔法を発動。
最小だが光の魔導力が賢者ぬーの身体へと注がれる。

呼吸している素振りもなく、
身体一つ動いていなかったはずの賢者ぬーは
しかしわずかな魔導力をその身に宿していた。

【シャドウ】の炎から最後まで足掻くように
自身の水の魔導力で抵抗していたのを、ジョルジュはなぜか感じ取ることができたのだ。


ξ゚听)ξ「間に合って… 【ヒーラ】!」

ツンの連続回復魔法が発動する。


爪'ー`)y‐ 「…させるものか、【シャド ーー」

ξ;゚听)ξ「!?」

656 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:05:46 ID:KNwPg9/o0
  _
( ゚∀゚)o 「ちょいまちぃ!」

三人の反応は同時だった。
フォックスの詠唱は素早く駆けてきたジョルジュの跳び蹴りを避けることによって妨害される。

ツンの光の魔導力は、先の魔法よりも効果の高い回復をぬーに注ぎ入れた。
 …ただし、
彼女のダメージを見る限りそれもすぐに治るものではなさそうだが。

  _
( ゚∀゚)o 「フォックスさん、いま何しようとしたんだ?
おかしいだろう」

爪'ー`)y‐ 「…なにも、おかしいことはないさ」


  ーー フォックスに表情や口調の乱れはない。


その後ろでは賢者ぬーの火傷が癒され始め、指先に力が込められるのをツンも確認することができた。


ξ゚听)ξ「……(さっきの魔法は)」

ξ゚听)ξ「【ライブラ】の反応は一人分…
賢者ぬーが生きているなら、貴方は一体何!?」


  ーー 土塊には感情も、生体反応も無いのだ。


爪'ー`)y‐ 「…私はフォックスという。
水の都の四賢者の一人さ」
  _
( ゚∀゚)o 「? ……おい、そんな事はもう…」


…壊れたスピーカーから繰り返されるように。


爪'ー`)y‐ 「…数日前の声明通り、我々はまさにこれから流行り病の調査に ーー 」


土塊フォックスは "予め命令された通り" に反応していた。

657 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:06:57 ID:KNwPg9/o0

ーー 同時刻。
水の都中のラジオから緊急声明が流れた。


『…番組を楽しんでおられる、水の都の皆さん』

『…先日に引き続き失礼する。
私は四賢者の一人、フォックス』

『…本日このような形で急に放送をお借りすることをお詫びすると共に、
どうしてもお伝えしなければならない事ができてしまった』


母親が夕食の下ごしらえをしている家の中で、

『…我々四賢者は、
今朝より順次この都を離れ、流行り病の解明に向かっているが…』


子供達が遊び疲れて別れ前のお喋りをしている街のスピーカーで、

『…その内の一人である、賢者ぬー殿が悪漢の手によって…殺害されてしまったのだ』


建設現場で仕事を終えた若者達が耳を傾ける前で、

『…これは我々の責任であり、誠に…
誠に…
ーー いや、平穏に暮らすべき民の皆に申し訳が立たない思いである』


夜通し働くために早めの食事を取っている父親達の耳に、

『…だが安心してほしい。
我々賢者はそれでも当初の責務を全うする。
これより私も都を離れるが、ぬー殿の仇も必ずとってくる』


土塊フォックスの声が、淡々と伝えられている…。




('A`)y-~ 「へえ〜」

658 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:09:12 ID:KNwPg9/o0

水の都を流れる川。
それを渡る小舟を借りて暇潰しに散歩していた "ポイズン" の耳にも、それは届いていた。


『…なお、報告によれば犯人は変装技術に長けているとの内容もある。
これは確定ではないが、
素早く皆さんの疑心暗鬼を取り除くために宮殿からすでに対策を取るべく動かせてもらっている』

『…都の民よ。
一度、すべての職務から離れ、自宅に待機して頂きたい』

『…憲兵がお渡しするお守りを、各自が一つずつ、必ず身に付けておくのだ。
中身はここでは言わないが、それが民の潔白を証明するものとなるだろう』

『…隣人を疑ってはならぬ。
いま、諸君の隣にいるのは紛れもなく友であり、家族であり、仲間である』

『…犯人は陽が完全に落ちる頃にはこの都に侵入してくるかもしれない。
これは私からのお願いなのだ、
民よ、一度家族の元へとお帰り願う』


……そうして、ラジオからはいつもの音楽や番組が音を取り戻した。

都の中は動揺が広がるも、賢者の演説じみた放送に従って足早に屋内へと散っていく。


('A`)y-~ 「ふひひ! なるほどなあ〜…
ご立派ご立派」

('A`)y-~ 「……ん?」


悠長に寝転がりながらそれを眺めていた "ポイズン" は気付く。


(;'A`)y-~ 「俺はどこに行けばそれが貰えんだ??」


まあ、いいか ーー
考えることを止め、彼はその場からすぐに動くことはなかった。

どうせ面倒になれば何人殺してでも都から出ていけば良いのだから。

659 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:10:22 ID:KNwPg9/o0

  _
( ゚∀゚) 「そっちはどうだい?」

ξ゚听)ξ「大丈夫、なんとかなったわ」


賢者の船、ヌーチラスの甲板。
ぬーの手当てをしていたツンからは明るい返事が帰ってきた。

そしてジョルジュの足元には先程までフォックスを騙っていた存在…
その土塊が風化して砂となり、鎮座している。

魔法を使わせる間もなく、ジョルジュの一撃で封殺された残骸。


ξ゚听)ξ「これ、どういうことかしら」
  _
( ゚∀゚) 「…流行り病との関連性まではわからない。
けど、タイミング的には全く関係ないとも思えないよな」


夕日はその半身を海に沈めている。
甲板で考え込む二人の脳裏に浮かぶのは、もう二人の賢者の存在。


ξ゚听)ξ「…アタシ、ブーンを呼びに行くわ」
  _
( ゚∀゚) 「西の街に手分けして調べてるっていう旦那か…それがいいかもしれないな。
賢者が襲われてる今、こっちが当たりなのかもしれない」

ξ゚听)ξ「それどころかブーンまで襲われてたら…
まあ並大抵の事なら大丈夫だろうけど。
とにかく同じ土地に固まってた方が良さそうだしね」
  _
( ゚∀゚) 「…よほど頼りになるんだな、君の旦那は」

660 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:13:54 ID:KNwPg9/o0

ツンは立ち上がり西の方角を見る。
少しの心配と大きな信頼を胸に、ブーンを想う。


ξ゚听)ξ「ええ、とても」


ξ^竸)ξ「……ま、ちょっと馬鹿なんだけどね」


その顔は影になりジョルジュからは見えない。

  _
( ゚∀゚) 「そっかそっか。
なら俺は他の賢者を追うことにするよ。
今からじゃどこで追い付けるか分かんないけど、今回みたいに間に合えば結果オーライだし」

爪;゚A-) 「ーー ならばワシも手伝うぬ」


気を失っていたぬーが膝をつき、どうにか身体を起こす。
ツンが慌ててしゃがみこみ、その顔を覗き込んだ。

傷はある程度治されても、まだ蓄積したダメージが抜けておらず呼吸は荒い。

  _
( ゚∀゚) 「あんたは無理しない方が良くないか?」

爪;゚A-) 「世話をかけたようだぬ…賢者の名が泣くわ」

爪;゚A゚) 「しかし、寝ているわけにもいかんぬ。
この件はきっと繋がっとる。
…お主らのいう通り他の賢者の身に何かあれば、ますます大陸は混乱してしまうぬ」


ぬーはゆっくりと歩き、ヌーチラスの操縦パネルを起動させる。


爪;゚A゚) 「残り二人の賢者の行き先はワシが知っとるぬ。
幸い船も二隻ある…そっちの娘さんは西の街に行くのかぬ?」

661 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:15:35 ID:KNwPg9/o0

ξ゚听)ξ「ええ、でもアタシは船の操縦がまだできなくて…」

爪;゚A゚) 「ならばこのヌーチラスに乗るんだぬ。
完全自動操縦で西の街に一番近い港まで送らせる…
最後まで自動操縦な分、あまりスピードは出せぬが確実だぬ」
  _
( ゚∀゚) 「じゃあ俺と…えーっと」


言い淀むのは名前を聞いていなかったからだ。
遅ればせながら三人は名乗り合う。


爪;゚A゚) 「では、ワシとジョルジュはそっちの小船で賢者を追うんだぬ」
  _
( ゚∀゚) 「おーけー、操縦は俺がやるからぬー様はそれまで休んでていいよ」

ξ゚听)ξ「分かったわ、アタシもブーンと合流したらすぐに都に戻るから」


「気を付けてね」と声を背中に掛けられながら、ジョルジュはぬーを腕に抱いて、
その身に衝撃を伝えないようしなやかに小船に跳び移る。

662 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:16:59 ID:KNwPg9/o0

その後も、ぬーを揺れの少ない場所へ寝かせてからジョルジュは手を振った。

  _
( ゚∀゚)o彡゜ 「後で旦那に会わせてくれよ。
君が信頼する男がどんな奴か知りたいからな」

ξ゚听)ξ 「アンタからしたら気の利かない単細胞に思うかもね。
それじゃあまた後で」

爪;゚A゚) 「ヌーチラスの操縦パネルにある緑色のボタンを押せば発進するぬ。
…それと、港に着いたら合言葉を言え」


ツンは頷き、合言葉を確認する。


爪;゚A゚) 「忘れぬなよ? ヌーチラスのその後の管理も任せられるからぬ。
[コルディリネ・ストリクタ]…
ワシの育ててる観葉植物の名前だぬ」

  _
( ゚∀゚)
  つ@o 「よーし、それじゃあ行くぞ!」


横付けしていた小船が音をたてて動き出す。
ツンもヌーチラスの操縦室に向かい、操縦パネルの緑色のボタンを押した。


二つの船が、水面に映る夕暮れを切り裂き
それぞれの目的地を目指して発進する。


ーー 水の都では、
もう一体の土塊フォックスによって
住民全員にオーブ型サーチグラスが配られている時間だった……。

664 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:21:26 ID:KNwPg9/o0
------------


〜now roading〜


ξ゚听)ξ

HP / G
strength / A
vitality / C
agility / D
MP / B
magic power / C
magic speed / C
magic registence / H


------------

665 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:31:00 ID:KNwPg9/o0



( <●><●>) 「……」


数日振りに実験場に戻ったワカッテマスの視界には、堂々と寝そべる "ポイズン" の姿。


('A`) :よう:


日を重ねるごとに…不愉快にも程がある。

"ポイズン" がここに居る事が問題ではない。
ワカッテマスの許可なく先に入っているのが問題だった。


( <●><●>) 「……どうやって入ったのですか」

('A`) :お前がロックを外す時と同じ道からだよ:


そんな事を聞きたいわけではなかった。
…この男はわざと言っているに違いない。


('A`) :ふひひ、外側から勝手にロック外したけどな:

( <●><●>) 「……なんですって?」

666 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:31:58 ID:KNwPg9/o0

事も無げに言ってはいるが、それが異常なのだ。
ワカッテマスが戻ってくる途中、ロックを壊された様子はなかった。

外側から開けるには自分の呪術と同じ魔導力の波長が必要になる。
だが、普通の人間にそのような芸当が出来るはずはない。


しかし事実 "ポイズン" はここに居る。
もうワカッテマスが居なくても、この実験場に立ち入ることができると証明して見せている。


('A`) :お前のお陰で水の都から追い出されちまってよぉ〜。
大変だったんだぜ?:


…それも狙いの一つだったのだが、そう上手くはいかないということか。


( <●><●>) 「……それはお気の毒に」


もうそろそろここも引き払うべきか ーー 表情は出さずに計算する。

ここまでに "狙った獲物" は取りきれなかったが、
代わりに一つ、 "別の獲物" を捉えることはできた。


そうだ、焦る必要はない。
ひとまずは良しとしたい。


( <●><●>) 「……お聞きしたいのですが」

667 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:32:47 ID:KNwPg9/o0

('A`) :…ぁあ?:

( <●><●>) 「……貴方みたいな人は、他にもいるのですか?」


どちらとも取れる質問を投げ掛ける。
惚けるか、気付かないか、
それとも理解できないかで
数秒後の "ポイズン" の運命が変わる…そういう類いの問い掛け。


('A`) :あーあー…:

ーー しかし "ポイズン" は飄々と

('A`) :どうだろうな? 居てもおかしくないんじゃないか?:

ーー ゴボゴボと音をたてて笑った。

返答もまんまとこちらの意図をつかんで、そっくり返された形となる。


('A`)ノシΠ :大まかな様子はこっから観させてもらったぞ:


ぽん、ぽんっ、と…本来床に収納してあった台座を弄ぶようにアピールする。
この装置もワカッテマスの呪術の波長によって作動するのだ。

やはりこの男……


('∀`)


  ……ワカッテマスを挑発している。


この男は、土塊フォックスや水の都の映像を観ながら暇を潰していたと言っているのだ。

つまり「お前は俺に必要ない」…そう言っているのと同義に。

668 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:34:04 ID:KNwPg9/o0

ワカッテマスにはその方法が分からないが、 "ポイズン" はコピーしたのだと考える。
こちらの呪術…その波長を。

そうとしか思えないのだ。
だから奴は実験場まで一人で出入りできた。


( <●><▲>) 「……くく」


不愉快さ、苛立たしさよりも、
心に沸き上がるのは形容しがたい高揚。



教えてやらなくてはならない…
利用しているのはこちらなのだと。


教えてやらなくてはならない。
…あの賢者のように。 ーー あの女のように。

このワカッテマスが思い描く通りに、
物事は進んでいるのだと。



これは呪いではない。  欲だ。


  人工物の私が欲を抱くのはおかしいだろうか?

669 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:34:58 ID:KNwPg9/o0

壁に向かって、 "ポイズン" に背を向けて、
ワカッテマスは話し始める。


( <●><●>) 「……水の都の女王は今、不在だそうです」

('A`) :はあ?:

( <●><●>) 「……ここに戻る前、賢者から聞き出しました。
恐らくは都から南にある美しい湖にいるのではないかと」

('A`)


それは "ポイズン" にとって、どこか違和感を覚える光景だった。

腕を広げて…まるでいつかどこかで見学したミュージカルの一幕のように。
目の前の根暗瞳孔かっぴらき野郎が、
まさか仰々しく吟っているのかと錯覚する。


( <▲><▲>) 「……行ってみませんか?」


彼から見て、ワカッテマスは背中を向けているので表情を窺い知る事はできない。


だが分かる。


('A`)y-~ :…ちっ:


この野郎、醜悪に笑ってやがる。

670 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:36:02 ID:KNwPg9/o0
----------


ξ; -听)ξ「…はあ、…はあ」


西の街を目前に、疲労に耐えながらツンは走る。

【ヒーラ】による回復行為はすでに行っていたにも関わらず、何故か彼女の痛覚は身体の異変を脳に訴え続けている。



ヌーチラスを停泊させて程なく夜の帳が下りた事で、ツンは選ぶ余地のない二択を前にした。

"すぐにでも徒歩で西の街に向かう" か、
それとも
"夜明けを待ち、馬車を借りる" か…


西の街までは数日の行程となる。
当然馬車を借りた方が早く、ツンもそれを選択した。


その選択が、
背後から迫る闇を覆わせる猶予を作り出してしまった ーー


それでも伝えなくてはならない。
ブーンに。


長い戦争が終わろうとしたあの時代…
ツンが赤い森で見た一族と同じ特徴を持ち、一族の呪術師らと同じ魔法を使う男。


過去の怨念の闇が、彼女の前に現れた事を。

671 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:36:53 ID:KNwPg9/o0

疲労を庇う走りは余計に疲れてしまうものだ。
小高い丘を登る時、地中に埋まる根につまづいて足がもつれてしまう。
…一瞬だが膝の力が抜け、そのままその場にうずくまる。


ξ; --)ξ「ハアッ…ハアッ ーー」


あの呪術師の男との戦闘直後に比べればマシになったが、それでも残る息苦しさは彼女の身を縛り付ける。

なぜ光の魔導力【ヒーラ】でも治りきらないのか。


ツンは押さえつけている片腕をひらいた。

何度見ても外傷はない。
なのに…ズキンと響く、まるで弓で射抜かれているような感覚は一体…?


流行り病の調査を本格的に始めた直後から賢者が狙われ、ツンもこうして襲われた。

恐らくはジョルジュも標的になってるだろう。
…できれば無事であってほしい。

672 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:38:04 ID:KNwPg9/o0

今回の件、すべての元凶はまず間違いなく
あの瞳孔を大きく開いた呪術師なのだ。
直感がそう告げている。


ξ; ゚听)ξ「…ブーンと合流したら治してもらえるかしらね」


ツンの魔法は傷や体力の回復に長け、
ブーンの魔法は病いや身体不調の治療に長けている。
ともあれ合流すればこれほど心強いものはない。


ξ゚听)ξ「スゥー…ハー…  よしっ」


少しの間でも、こうして休めば脚に力が入る。
ツンは再び駆けた。 ブーンの元へ。



ーー この身に受けたあの【カース】という呪術が、
既存の魔法と同様に対処出来れば良いのだけれど……


----------

673 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:38:56 ID:KNwPg9/o0


ぐるりぐるりと空を舞い、つがいと見間違う二匹の鳥を見上げながら…こうして広大な湖を前に立ち尽くすのにも飽きてきた。

そう思いながら、よくよく考え直す。
自分の人生に飽いていない時がどれほどあったのかを。


('A`)y-~  :……こねえじゃん:


足元の砂浜にはタバコの吸い殻が散乱している。
"ポイズン" がここに辿り着いてから丸一日経過した。


ワカッテマスの情報に誘われてやっては来たが、言った当人が姿を現さない。
女王の影すら見当たらない。

連れ添って歩くのはゴメンだが、待たされるのも性に合わない。


『……女王は無駄を好まない方と聞きます。
ならば、その湖には何かあるのかもしれませんね』

('A`)y-~  :女王様の隙ねえ〜…見つかるかあ?:


"ポイズン" はまだ半分ほど残るタバコを
足元に ーー は落とさず、湖に投げ捨てる。
空気抵抗が存在しないかのように大きく弧を描いた。


…女子供が関わる事はどうも頭が働かない。
どーせなんもねえ、戻ってワカッテマスの実験場でも荒らしてまたどこかに行こう…


そう思いながら、
水面に触れたタバコが湖の底に向かって沈んでいくのを見やりつつ踵を返す。


('A`)  :んー:


.

674 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:40:02 ID:KNwPg9/o0

その場でさらに踵を返した。
視線も身体も、元の通り湖へと向く。


('A`)  :なんで沈むんだよ、タバコがよぉ?:


彼は学があるわけではないが、違和感には敏感だった。
ピピィー!と空から鳥が相づちをうつように一鳴きする。


('A`)  :うるせえ:


"ポイズン" は無造作にガンアクスを頭上に振り上げトリガーをひく。
響き渡る重い発砲音。


気まぐれの行動は、あの時ワカッテマスの背中に感じたちぐはぐさと同じように。
ーー そして、ワカッテマスの策略通り
彼の意識は湖へと注がれる。


砂浜を踏みしめるブーツが
銃弾によって墜落した鳥を踏み潰す事も気に止めず…一歩一歩、湖へと近付いていく。


空ではもう一羽の鳥が、
興奮するように翼を小さくはためかせた。

675 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:40:46 ID:KNwPg9/o0

湖を囲う塀の上から、タバコが沈んだ辺りを覗き込む。

そして胸元からタバコをもう一本取り出すと、今度は目の前で水面に落とす。


('A`)  :こりゃあ沈んだんじゃねえな:


彼の目には、タバコが熔けるように消失したように見える。

それは酸や熱によって削り消えるものではなく、文字通り水面に触れた部分からの消失。

    そしてゾワゾワと背中を走る神経の痙攣。


"ポイズン" は、しゃがみ込んでいた体勢から脚のバネを利用し大きく跳び上がった。
ーー 彼の居た場所を闇の炎が闊歩する。


('A`)  :やっと来やがったのか:

676 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:42:37 ID:KNwPg9/o0

( <●><●>) 「……どうも遅くなりました」

('A`)  :なんか…明るいうちからお前の姿を見るの初めてだな:


【シャドウ】を放たれた事は気に止めず、
空を見上げながら分厚い雲に覆われた太陽の下で砂浜に着地する。

ワカッテマスはいつも夜にならないと "ポイズン" の前には現れなかったのに。


( <●><●>) 「……そうですね。
ところで何か分かりましたか?」


膝下まで隠す長いコートを纏い、スタスタと無防備に "ポイズン" の隣へと並ぶ。


('A`)  :てめーで確認しろよ:


気に止めていない訳ではない、
彼は確実にやり返したかっただけだ。

ーー 鳥を撃ち落としたまま握りっぱなしのガンアクスを、ワカッテマスに向けて発砲する。


ビクンと震えたワカッテマスの背後に飛び散るコートの灰塵と焼けた肉片が、一足先に別れを告げる。
スローモーションのように続いて吹き飛んだワカッテマスは、

しかし笑みを浮かべてハッキリと ーー

677 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:43:27 ID:KNwPg9/o0



  「貴方も確認しまショウよお〜」


.

678 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:44:40 ID:KNwPg9/o0

(;'A`)  :あぁ!?:


何故か ーー 何故か "ポイズン" の身体が突然引っ張られる。
その勢いはガンアクスの弾丸が生み出した衝撃そのものだ。

二人の身体は地を離れ無様に宙を舞い、湖へと放られてゆく。


強制的に揺さぶられる視界の中、 "ポイズン" は見た。

先程より近くを飛んでいるのか…
大きくなった鳥と散りゆく雲、
天に広がる水面、
虚空を見つめるワカッテマスの顔、

そして…己の足に巻き付けられた闇の鎖。


(;'A`)  :ふひ…野郎、さっきの魔法はまさか ーー !:


【シャドウ】に隠されたもう一つの魔法。
ワカッテマスの腕から淡く蠢く赤黒い糸…

それに繋がれた自分の足に苛立ち、その足ごと切断しようと自身の勘を頼りにガンアクスを構えた瞬間、
ーー 凶悪を冠る突風が吹き荒れ
"ポイズン" をキリモミ状に再上昇させる。

( ((;、∀,))  :ぐおおおっ!?:

空中でこれに抵抗する術はない。
もはや目を開けていられない程の旋風が襲い掛かっている。

679 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:45:35 ID:KNwPg9/o0

まるで鉄の塊が降ってきたように

      (;'A`))・、"  :ガッはあっ:

ーー ッダン! と、
砂浜に背中全面を叩きつけられ
肺の中にある酸素から内蔵までをまとめて吐き出した…ような気がした。


ゲボゲボと下劣な音を隠さずたてる "ポイズン" の横に、空を飛んでいた鳥が寄り添うように降り立つ。


…だが大地に立つそれを鳥と呼ぶにはあまりに違いすぎた。

倒れ込んだ "ポイズン" と比べると4倍近く体躯の差があり、四本足から伸びる爪は太く逞しい。
体毛は刺さりそうなほどに鋭く毛羽立ち、
なによりその大きさを際立たせているのは巨大かつ強大な翼…


:グォォォァァアァッッ!!:

(;'A`)  :ごポォッ ーー かっ…
や…っぱりお前か、グリガン:


数百年を生きる百獣の乱入は、
ワカッテマスの闇の鎖を容易く引き千切り
"ポイズン" の落下を結果として救った。


(;'A`),"・  :くそ、いてえ… ゲフッいてえよ〜:


その代わり受けたダメージは相当なものだ…
"ポイズン" だからこそグリガンも荒々しく吹き飛ばしたのだろうが。

680 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:47:34 ID:KNwPg9/o0

自分の意思とは無関係に咳き込む身体を無理矢理起こしながら、 "ポイズン" は湖へと視線を移す。

ワカッテマスの姿はなく、水面には異物が入ったことを知らせる波紋だけが残っている。


('A`)  :アイツは…あの中か:

( <●><●>) 「……どうも遅くなりました」


不覚にも心臓が跳ねた。
あわてて振り向くと、そこにはさっきと同じ台詞で現れたワカッテマスの姿。

ーー しかも、




( <●><●( <●><●( <●><●>)
      ( <●><●>) ●><●>) ●><●>)



(;'A`)



(;'A`)  :そうか…泥人形ってことか:

681 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:49:01 ID:KNwPg9/o0

六体の土塊ワカッテマスが立ちはだかり、
グリガンもスタンスを広げ戦闘態勢にはいる。


"ポイズン" も痛みに耐えるように立ち上がった。

純粋な戦闘であればグリガンだけに暴れさせてもお釣りが来るかもしれない。
それは泥人形ではなく、本物のワカッテマスも理解しているはず…


それでもやはり、土塊ワカッテマス達は目を細めてこう言うのだ。




( <▲><▲>) 「……湖に何があるか、一緒に確認しませんか?」


.

682 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:49:57 ID:KNwPg9/o0

開幕、土塊の一人が放つ広範囲型の闇の炎。

( <●><●>) 「……【シャドラ】」

"ポイズン" を中心に集まりだす魔導力に、足元の砂がチリチリとサークル状に沸き上がる。

それを察知して空に逃れるグリガンの足を掴んで "ポイズン" も範囲外へと回避。
空いた手でガンアクスを土塊の数体にお見舞いする。

('A`)  :ふひひ! 的がでけえぞ:

( <●> ;;<ф> 「……げぃふ」

外側にいた者は離脱できた。
だが真ん中にいた土塊は回避しきれずその頭部の左半分を打ち砕く。
繋ぎ止めていた筋繊維を失い目玉がどろりと零れた。


( <●><●>) 「……【シャドウ】」
( <●><●>) 「……【ノロード】」


人間より身体の大きなグリガンが的となった【シャドウ】は魔導力の集束に時間がかかり発動が遅れる。

グリガンは体毛のスピアを降らせた後に急旋回でそれを躱し、大きく空を舞った。
…だが次の魔法は針の穴を通すように、 "ポイズン" の身に降りかかってしまう。

ダメージはない。
訝しげながら手を離しグリガンから離れ地に降りようとするも、そこで違和感に気付く。

('A`)  :ーー 身体が重い!?:

そう感じて手に力を込め直そうにも間に合わず、そのまま落下する。
【ノロード】は脳信号の伝達を遅らせ、身体機能を低下させてしまう。


グリガンからすれば "ポイズン" が自分から選んで落ちたとしか思っていないだろう。

落下しつつも、ワンテンポ遅れるようにガンアクスのトリガーに指をかける。
グリガンが放ったスピアを懸命に避ける土塊目掛けて発砲した。

683 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:51:38 ID:KNwPg9/o0

バスン!と音をたてると同時に、
土塊が土手っ腹に穴をあけ倒れるのが見えた ーー その矢先、新たに襲い来る闇の炎が "ポイズン" を包み焦がす。


(;'A`)  :がアッ…!:


彼の燃える視界の先ではグリガンが闇の炎を避けつつ高度を上げていく。
ーー 突風とスピアを重力にまみれさせて発射するグリガンの【ダウンバースト】。
詠唱中だった他の土塊をまとめて凪ぎ払っているのが見える。


(;;'A`)  (俺が撃ち殺したのが1、2…
グリガンが【ダウンバースト】でいま3体やってるから…)

【シャドウ】に燃やされながらもカウントし、己が着地する前に最後の土塊目掛けて標準をあわせ発砲する。


( <●><●>) ) 「……狙われるのはわかっています」


二度撃つも当たらない。
"ポイズン" が思っているタイミングでトリガーを引くことができないために土塊は弾丸を躱す事が出来る。

砂浜に着地するも、やはりうまく身体が反応せずによろめいた "ポイズン" に大きな隙が出来てしまった。


( <●><●>) 「……【シャドラ】」

(;;'A`)  :ふひひ…:

( <●><●>) (?)


なぜ笑うのか、土塊には分からなかった。

グリガンはこちらに背を向けて別の土塊を屠っている最中…この詠唱は止まらない。
頼るものなどないくせに。

684 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:53:12 ID:KNwPg9/o0

恐らくここに居たのがワカッテマス本体であっても、その反応は理解し難かったかもしれない。


広範囲の闇の炎が、今度こそ "ポイズン" を囲って盛大に燃え盛った。
彼を中心点として砂浜にブラックホールと見間違うような黒い炎渦がジュウジュウと猛る。


( <●><●>) 「……やりました」


命令通りに "ポイズン" を撃破した。
不死とはいえ、一度死ねばしばらくの間は活動できなくなる。
まして呪術による死はより一層、その死を長引かせるだろう。


次はグリガンを捉えるべく顔をそちらへと向ける。

百獣は容易い相手ではなく、土塊如き自分ではダメージを与えられるかも怪しいが ーー


などと思考していたのが間違いだった。

  … "ポイズン" は、相討ちを厭わない。



  :;....::;.:. :::;.. ..... (;;'A;;)o彡 ;....::;.:. :::;.. .....


( <●><●>) 「……?」


うっすらと、
炎の中で "ポイズン" が振りかぶった気がした。

…なにを?

685 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:54:42 ID:KNwPg9/o0



  ーー ザクッ ーー
( <〇/"<●>)


土塊の顔面、
ガンアクスの刃が唐竹割りに斬り刺さる。


:( <〇/"<●>) : 「……えっ?」


ーー 土塊がそれを理解する前に
グリガンが重力を無視した急降下からの翼のギロチンを振りかざす。


泥人形の意識と身体は完全に分断された。



.

686 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:55:31 ID:KNwPg9/o0

6体の土塊は全て動きを止め、死んだ順から砂浜に紛れて消えていく。


残されたのは無傷のグリガンと、


::;.. ..... (;;'A;;) ;....::;.:. :::


バチバチと、【シャドラ】の炎に焼かれる "ポイズン" 。



普通なら死ぬだろう。
ーー だが、これで終わりではない。


グリガンは体勢を整え向き直し、爪先で砂埃を舞い上がらせると
燃え盛る炎の中へ低空突進。
…嘴で "ポイズン" の腕を千切れない程度にくわえながら上昇し、闇から救いだしてみせた。



(;;'A;;;)


(;;'A;;;)  :……お前、なにやってんだ?:


グルゥ、とグリガンは喉をならす。


(;;'A;;;)  :ふひひ…:




……美しいお仲間がいて愉しそうですね。


.

687 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:56:38 ID:KNwPg9/o0

突如、水面から水柱が吹き上がり
上昇最中だったグリガンの動きが一瞬止まった。

水のカーテンから現れた、膝下まで隠れるコートを纏う呪術師 ーー
  ーー 最初に撃ち殺したはずのワカッテマス。


(; <●><●>) ⊃ 「……【シャ ーー」


瞳に紫色の光を携えながら、魔法を発動させている。


(; <●><●>) ⊃ 「……【 ド ーー」


赤黒い光が集束し始める。



だから、
グリガンの嘴から力任せに自らの腕を引き千切り
その身を宙に踊らせた不死者は ーー



  「!?」 (; <●><●>(;'A;;;)) )


ワカッテマスをその身体ごと、湖へと叩き付けた。


質量の侵入によって水の飛沫が舞う。



そして湖に叩き付けられた衝撃で、
最後の土塊の瞳に映し出されたサーチグラスの映像はここで途切れている。


.

688 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:57:55 ID:KNwPg9/o0


天板から流れる映像の光が消えていく。
……辺りは闇に包まれた。


ワカッテマスが使っていた実験場には
血にまみれたノコギリが無造作に放られている。

床に点々と、
時に湯水のように垂れ流した血液は
空気に触れてもう凝固していた。


先程まで "ポイズン" と7体の土塊との戦闘を記録したヴィジョンが煌々と映し出され、
その映像を確認していた者が一人。


その人物には右肩からバッサリと、
二の腕がない。

689 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 22:58:49 ID:KNwPg9/o0

( <▲><●>) 「……ふふ、ふふはは」


ーー ワカッテマス。


彼こそ本物。
赤い森の呪術師達が最後に生み出した呪いの人工物。


湖で "ポイズン" を襲った "7体" は、
全てこの右腕を刻んで創り出した泥人形だ。


これであの不快な音をたてる男はしばらく現れないだろう。
やもすれば、永遠に湖の中で眠っていてくれるかもしれない。

そう想像するだけで、彼が目的とする三人を屠るに匹敵しそうなくらいに心が休まる気がした。


しかも、そのうちの一人は直接【カース】を発動させる事ができた。
…不死者相手にどこまで効果を発揮するかは未知数だが、どちらにしても喜ばしい成果を挙げられたといえよう。


この腕の激痛などどうでも良いほどに。

690 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:00:04 ID:KNwPg9/o0

( <▲><▲>) 「……ははは」


賢者も三人葬り去った。
残り一人で何ができようか?


( <▲><▲>) 「……ヒュゥ、ははっ…!」


さらにあの湖の特性も大方予想が付いた。
自分の分身だったからか、映像以上に伝わる情報…

あの湖には恐らく、
沈んだ物の特性が付加されるのだ。
"吸収される" とでも言うべきか…そして


(; <▲><▲>) 「ふは、ヒュゥ ーー はは、ヒュゥ ーーあはあは」


その特性はきっと
"こちら側も恩恵を受ける" のだ。

撃ち抜かれそのままなら死んだはずの土塊が
湖に生かされて最後の伏兵と化したのはとんだ副産物だった。


ワカッテマスの策の中には、 "ポイズン" が【シャドラ】で燃やし尽くされる所までしか想定していなかったのだから。


:(; <△><▲>): 「ヒュゥ ーー ヒュゥ ーー」


…時代の流れはどうやら私に味方している。
ーー 私は世界に望まれているのだ。

691 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:00:54 ID:KNwPg9/o0
------------


〜now roading〜


('A`)

HP / F
strength / D
vitality / A
agility / A
MP / C
magic power / B
magic speed / C
magic registence / A


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692 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:10:17 ID:KNwPg9/o0


疼く右腕を止血しながら…
彼は数日かけて夜闇を移動し、湖までようやく辿り着く。


彼自身がここへ来るのは初めてだが、
どこか懐かしさを憶えるのは自分の泥人形が沈んでいるからだろうか?


光沢のない赤黒いコートに身を包み、
宵闇の中、ワカッテマスは浜辺に立つ。


(; <●><●>) 「……【キール】」


じっとりと汗をかいていた。
もうじき夏季がくるが、それだけが理由ではない。

呪術における毒の魔法を詠唱し、自身に発動する。
毛穴から入り込む赤黒い魔導力が身体の隅々に行き渡っていくのが分かる…
呪われたワカッテマスにとっては、
これが少しずつだが傷を癒す回復魔法なのだ。


周囲を見渡しながら、戦闘跡を探して歩く。

693 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:11:18 ID:KNwPg9/o0

右に視線を向ければ鮮血色の湖が広がり、さざ波が寄せては返すを繰り返している…
人体を巡る血液も、心臓というポンプに押し出されながらこのような動きを繰り返しているのだろう。


本来この湖は美しいと評判で、大陸戦争の頃もあえて戦地としては選ばれなかったという。


( <●><●>) 「…… ーー 笑わせてくれます」


ならば何故、赤い森はその戦さ場に選ばれたのだ。


先祖達は森の外に出ることもなく、
決して周りに危害を与えることもなく何十年、何百年と暮らしてきたはずだった。

呪術とは名ばかりの、
森で生活するための知恵として受け継がれた魔法はやがて独り歩きし、
何も知らない者達が勝手なイメージを押し付けただけではないか。


呪術を "呪術" 足らしめたのは他でもない、
思い通りいかない鬱憤を晴らすために我らをスケープゴートにした大陸の者達だ。


それだけで皆殺しにされた一族の怨み
    絶対に、赦しはしない。

694 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:12:03 ID:KNwPg9/o0

…やがてワカッテマスは、
砂浜に紛れ落ちている二つの残骸を見つける。


サーチグラスを瞳に嵌め込んでいた鳥の死骸。
そして、あの男が自ら千切り飛ばした "ポイズン" の腕。


胴体を踏み潰され腐りかけた鳥の死骸から目玉を抉り出し、サーチグラスを回収する。


(; <●><●>) 「……ふむ」


少し悩み、腕を振り上げて闇の魔導力を細く灯籠のように漂わせる。

それに惹き付けられるかのように、一羽の鳥がワカッテマスの肩へと止まった。


(; <●><●>)б" 「……よしよし」


鳥は良い。
社交的で、馴れれば従順な僕や友となる。

勝手な人間の作り上げた尺度ではなく、己と心が通う者であれば

人格破綻者だろうが、
呪われた者だろうが、
造られたモノだろうが、

…垣根なく触れ合ってくれる。

695 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:13:04 ID:KNwPg9/o0

ワカッテマスは回収したサーチグラスを鳥に呑み込ませ…さらに "ポイズン" の腕をその口にくわえさせる。


(; <●><●>) 「……頼めますか? 私の実験場まで」


ギキィ!と耳障りな鳴き声をたてて鳥は羽ばたく。

…この身体が本来の声を聞けたなら良かったのですが…
そんな風に時々は思わなくもない。


赤い空に消えていくその姿を見送って、
ワカッテマスの視界はやがて下る。

空色と同様に赤い、広大な血の湖へと。

696 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:14:10 ID:KNwPg9/o0

実際に目の当たりにすると、躊躇せずにはいられない……
推測を重ね、一番高い可能性を胸にここまで来たのが現実だ。

もし推測が外れてしまえば、下手をすればワカッテマスの人生はここで終わるかもしれない。


(; <●><●>) 「……ふぅ」


天秤にかけるのはリスク、
そしてその先に得られるものは実りある復讐の架け橋。

泥人形が示した可能性は、
ワカッテマスにとって今一番欲しいものであり、
通常ならば生涯得ることのできない特性。


夜しか活動できない彼にとって
泥人形は時間を問わず活動できる優れものだが、欠点が多すぎた。
ーー 媒体がなければ創り出せず、寿命が短すぎる。

もしも泥人形をもっと生き永らえる事が出来れば、
わざわざ媒体を何度も用意する必要はなくなり、
果たして一族の復興も夢ではない。


(; <●><●>) 「……【キール】」


もう一度、呪術を自らに重ね掛けしておく。
万が一湖に取り込まれるような事があれば即座に脱しなければならない。

彼は魔導シールドのような防御壁を使うことはできない。
ダメージによる体力の減退だけでも相殺し、態勢を整えた。



(; <●><●>) 「……いざ」


.

697 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:15:05 ID:KNwPg9/o0
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ーー ワカッテマスの意識が、湖に融けてゆく ーー



(推奨BGM)
http://www.youtube.com/watch?v=Tgy1wt3ZBbo&sns=em



.

698 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:16:27 ID:KNwPg9/o0



予め決めておいた線に沿い、
針と糸で、布地を縫い合わせていく…


『ーー 戻ったよ、ただいま』


夫が帰ってくると作業の手を休め、
出迎える。

『お帰りなさい。 お疲れ様』


『立ち上がらなくていい、迎えてくれただけでも充分すぎるよ』


妻は『そう?』と微笑みながらまた手縫い作業に戻る。


『一日やるだけでもけっこう進むんだなあ』

『そうね… 前もって準備さえしておけばね』


妻の周りには、完成間近の縫いぐるみが積み上がっている。
口と目が縫われた人型、あとは中身を詰めて背中を縫えば良い。


…しかし、その中身に詰めるのは柔らかな綿などではない。

天の恵みである雨、水、
赤い森で採れる大地の恵みの象徴、土、
ーー それが混ざった時に出来る "泥" を詰める。

699 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:17:29 ID:KNwPg9/o0

『…それにしても今年は多かったんだな』

『8人分…産まれた子供の数だけ作ってあげないとね』


妻は最後の縫いぐるみの口を縫い終わると、
自分の長い髪の毛を一本つまんで引っ張った。

二本、三本…
抜いた髪の毛を、まだ縫っていない背中にそっと差し入れる。

全ての縫いぐるみに髪の毛を入れ終えたら、最後に泥を詰め込んだ。
細い指で、周りを汚さぬよう、
少しずつ丁寧に背中へ注いでいく。


『俺も手伝うよ』


夫が志願すると、妻は泥を詰め終えた縫いぐるみを手渡した。
中身がはみ出ない様、夫も丁寧に背中を縫い針で綴じていく…。


完成した縫いぐるみは、一見してグロテスクと擁されるかもしれない。
さわり心地も泥が詰まっているのだからグニョグニョとして落ち着かない。

それでも、
一族にとっては新生児を祝う品であり
一度だけ身代わりになり、児を護ってくれるタリスマンなのだ。


縫いぐるみを作る夫婦の表情は穏やかだった。


.

700 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:18:25 ID:KNwPg9/o0



『我らはどちらにも荷担するつもりはない。
戦争行為そのものに反対なのだ』


静かだが、怒りを滲ませた声が誰かと話している。


『…この森も巻き添えを? なぜ?
貴方らは自分で未来を決めたにも関わらず、
戦う場所も選ぶ事ができないのか?』

『……ここは我らが昔から代々暮らしてきた土地なのだ。
それをどうして、金や、貴方らの都合一つで退かねばならん』


その声は怒り、そして憐れみ、


『……我らをそっとしておいてくれ…
もう一度言う、どちらの味方をするつもりもないのだ。
戦争は反対なのだ……国王にも、そう伝えてくれ』


懇願を遺して消えた…



この交渉が決め手だったのかをもはや知る者はいない。
…やがて赤い森は戦火に巻き込まれる。


軍を率いた者の名は ーー



(推奨BGMおわり)
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701 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:19:45 ID:KNwPg9/o0



(; <◯><◯>) 「……っ」


ワカッテマスが目を覚ました時、
彼の身体は浜辺に打ち上げられるように
波の毛布が全身を覆っていた。


混濁した意識を時間をかけて取り戻す。
いくら波に濡れようとも構わない…先の記憶は、ワカッテマスが観たくても観れない映像だったのだから。


この身に宿る怨念は
いつも漠然としたイメージだけを発作的に叩き付けるだけで、総てを塗り潰す赤い色しか見えて来ない。

黒い幻影しか、彼に語りかけては来ない。


(; <●><●>) 「……はあ、はあ…」


だからせめて…少しだけその余韻に浸りたかった。
指先を、寄せて返す波が往ったり来たりするのを視界に捉えながら……


( <●><●>) 「……ん」

702 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:21:04 ID:KNwPg9/o0

彼が見ているのは指先。
ーー 失ったはずの右手だった。


顔をあげ、身体を起こす。
自然に動いているが、やはり両腕で起こしている。

全身を蝕む痛みとは別に、
腕そのものからは痛みがなく、違和感もない。


( <●><●>)
  つ    「……そうですか、これは…」


動く右手から伝わるのは自分自身だった。

記憶の彼方からではなく、
"ポイズン" と共に沈んだ土塊…
その媒体となった、己の右腕の感触が戻ってきたのだろう。


Σ (; <●><●>) 「……痛っ」


喜ばしさ…その実感と共に、全身を襲う倦怠感と痛みが自覚されていく。

よく観察すれば赤黒いコートは所々が酸を吸い込んだように破け、皮膚がジリジリと痺れている事に気付いた。

そして、それは徐々に肥大化する。

【キール】のような呪術の毒ではなく
文字通りの毒を浴びたのだろう。
"ポイズン" が湖に沈んだことで
右腕と【ポイズン】を吸収してしまったか…そう推測する。


想いに更け、見上げてみれば
空を埋めていたはずの分厚い雲は消えていた。

真球の如き満月が、砂浜とワカッテマス…
そしてこの美しく偽られた湖を照らす。

703 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:21:55 ID:KNwPg9/o0

彼が無意識に "美しい" と感じていた事には気付かないまま、湖に背を向けたその時。


(; <●><●>) 「……?」


事前に誰も居ない事を確認したつもりが
明らかな人影が地平線に映り込む。


旅人か?
それとも事の発端となった女王が戻ってきたか?


いずれにしても自分の姿を見られる前にここを離れようと思った。




ーー だが、ツンが選択肢を誤ったように、
彼もまた選択肢を誤った…

それを認識する事が彼には果たして出来るだろうか?


その偶然を嘲笑うかの如く、
人影は堂々と、
そしてゆったりした動きとは裏腹に恐ろしいまでの速度で接近 ーー

704 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:22:53 ID:KNwPg9/o0

(´・ω・`) 「ーー やあ」

(; <●><●>) 「!!!」


三日月型の斬撃がワカッテマスの頬を掠める。

油断していたわけでは…あった、だが、
それを差し引いても速すぎる肉薄。


(; <▼><●>)Ξ 「……貴様はっ!」

   Ξ( ´・ω・`) 「よくもここまでやってくれたね!」


斬撃、 ーー そして斬撃、斬撃、斬撃。

突然現れ、振り止まぬ剣舞が
退くワカッテマスの身体を少しずつ斬り刻んでいく。


(; <▼><●>) 「……【シャドウ】!」


魔導力を放り出すように生み出した闇の炎 ーー
しかし迫った男の斬撃はそれすら斬り裂いてしまう。

…とはいえ、その分の距離だけでも稼ぐことが出来たのは大きい。


( <●><●>) 「……【シャドラ】!」


今度はより正確に、より強力な闇の炎を放った。   ーー はずだった。

705 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:25:45 ID:KNwPg9/o0

(´・ω・`) 「……」


理解不能。


(´・ω・`) 「なんのつもり?」


呪術が…発動しない。


(; <●><●>) 「……??」


魔導力はまだこの身体に残っている。
計り損なったわけではない…なのになぜ。


(; <●><●>) 「……【シャドウ】!」

ーー 静寂。

(; <▼><●>) 「……いったい?!」


ーー 先程使えた魔法すら不発。


茫然とするワカッテマスを前に、
その男は剣先をこちらに向けて語り始める。


(´・ω・`) 「魔法が使えないなら都合がいい…
一度でもゆっくり話したかったから」


男は言う。
…話したいと?
相手に剣を向けて行う対話がどこの世界で成立するというのか。


(; <▼><●>) 「……貴様と何を話すのですか?
一族を滅ぼした元凶が」


  ーー 軍を率いた者。

    ーー 赤い森を殲滅した張本人。

706 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:26:54 ID:KNwPg9/o0

(; <▼><●>) 「……ショボン!」

(´・ω・`) 「…それについてはもう弁明できない。
謝って赦してもらえるとも思っていない」


突き放した返答が、ワカッテマスの神経を大きく逆なでする。


(´・ω・`) 「この流行り病、君なんだね?」


ショボンは哀しげに訊ねる。


(; <▼><●>) 「……そうですね」

(´・ω・`) 「…目的は、僕?
それとも大陸の人々?」


聞いてどうするのだ、このしょぼくれめ。


(; <▼><○>) 「……グッ ーー 貴様だ、とでも答えれば満足ですか?」

息が苦しくなる。


(´・ω・`) 「そうか…」


(´-ω-`) 「……そっか…」

ショボンの哀しみが一層増す。


とはいえ、ワカッテマスにはもはやそんなことはどうでも良かった…

苦しい……


【ポイズン】のダメージではない、
もっと、根本的な……

707 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:30:49 ID:KNwPg9/o0




まるで、自身を構築している呪いに
穴が開いて漏れてしまっているような



.

708 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:33:09 ID:KNwPg9/o0

(´・ω・`) 「…僕の言葉が君に届くかは分からない…
でももう、これ以上は ーー !?」


そこでショボンの言葉が止まる…


どうしたのです?



そういえば、普段なら聞こえるはずの耳障りな音がしませんね……?




"ポイズン" の笑い声のような、




そう、
ゴボゴボと臓器が沸騰するような ーー

709 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:34:39 ID:KNwPg9/o0

ワカッテマスの身体から赤黒い光が漏れている。
本人は気に止めているのかすら読み取れないが、ショボンの目からも魔導力の流出は明らかだった。


(; <○><○>) 「ーーあ、あぁぁっ!?」

(;´・ω・`) 「な、なに…っ?!」


はじめて見る現象が目の前で起こっている。

ワカッテマスの肉体を司る呪いの魔導力が血飛沫のように噴き出して空に舞っているのだ。
ーー それどころか、それが湖へと吸引されるように赤黒い雲がドボドボ流し込まれていく。


Ξ(; ´・ω・`) 「くそっなんだこの湖は!?」


ワカッテマスに向けていた刃を一旦鞘に納め、ショボンは駆け出した。

同時に一瞥するも、ワカッテマスは明らかに意識を失いかけており、その視線は何も映さずただ虚空をさ迷っているだけ。


Ξ(; ´・ω・`) 「ーー やむを得ない!」

710 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:35:48 ID:KNwPg9/o0

ショボンは鞘に納めた剣 ーー "隕鉄" の刀を握りながら、
まるで空に浮くような動きで立ち向かいそれを見据える。


その神速の目標は魔導力を吸い込んでいる水面の一点。

その剣撃の目標は魔導力を吸い込んでいるという特性その一点。


本性を現したかのような悪魔の顋…
怯まず目掛け、ショボンは抜刀する。


【ドレインガード】!


斬撃はショボンの発する魔導力を帯びながら湖を斜めに斬り裂く。

さしずめ古代の予言者が海を渡ろうと奇跡を起こすかのように、見渡す限りの水圧の崖がその効果を物語る。

      ーー 直後。

ガボガボガボガボ!と、
まるで生き物がもがき苦しむかのように。

水面から亡者の轟き嘆く音が可視化され、周囲を埋め尽くす。

711 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:36:47 ID:KNwPg9/o0

ォォゥ…オオウ ーー ォォゥ ーー


(; ´・ω・`) 「……効いた? 仕組みは一緒か」


間も無く遠くなる怨念の耳鳴り。
ーー 吸い込まれていた魔導力が勢いを殺され宙に漂い…霧散していく。


それに伴い亡者の声は止み、
辺りは月夜が支配する静寂を取り戻していった…。


( ´・ω・`) 「…吸い取るものなら一通り効果がありそうだね」


独りごちるショボンは刀を納め、
湖に後ろ髪を引かれながらもワカッテマスへと向き直る。




  _
( -∀-) 「すピー…」


(´・ω・` ;) 「…えっ」


…ワカッテマスに……向き直ったはずだった。


.

712 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:38:18 ID:KNwPg9/o0

慌てて辺りを見回すも、
ワカッテマスのその姿、その形跡を見付けることができない。


正真正銘いまこの場には
ショボンと…眠る男、ジョルジュしか居ないのだ。


(´・ω・`) 「…」


ショボンは思案し、ジョルジュを背に担いだ。
成人男性…しかも長身のジョルジュを軽々と持ち上げる。


  _
( -∀-)
(´・ω・`) 「よいしょ…」


ジョルジュは目を覚まさない。
深く寝入っているようだった。


「こんな荷物まで持ってたら、僕が入れるのは水の都くらいだしなあ」
と、呟きながらショボンは湖を後にする。



ーー だがその水の都こそ。

ワカッテマスの策略による人同士の監視社会が出来上がってしまった事に、まだ彼が気付く事はなかった。

713 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:39:23 ID:KNwPg9/o0



.

714 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/30(水) 23:41:26 ID:KNwPg9/o0

人は『疑え』と言われれば信じたくなり、


『信じろ』と言われれば疑いたくなる生き物だ。



人々は善良な仮面を被りながらも、
その手に持つのは仕組まれた呪いのオーブ。




ワカッテマスは本来闇の中でしか活動できなかった。


だからこそ様々な策略に長けた。


自身が動けない間、
物事が思い通りに進んでいればこれほど楽なことはない。



大陸の中心で、
優雅な生活に潜ませたディストピアが
これから幕を開ける。



生きながら知らぬ間に操られた人形達は
無意識下に主人の帰還を待っていた。






(了)


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