209 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:28:34 ID:I.IFIRxc0


  その情報屋の女は言った。 
  「こうなると分かってさえいたら、こうはならなかったのにね」と。
  続けて呟く。
  「それともこうなることは最初から決まっていたのかしら」と。

  僕は彼女のことを知らない。
  何処で生まれ、どんな風に育ち、何を愛し何を憎み、どのような半生を歩んできたのかを知らない。

  だけど知っていることもある。
  彼女が心の奥底に後悔を抱えていることを僕は知っている。
  僕がそうであるように、誰もがそうであるように、彼女だって傷跡を胸に秘めて生きている。


  僕達は後悔をせずに生きることができるのだろうか?
  それとも後悔こそが人生なのだろうか。
  だとしたら、僕達は痛み続ける後悔にどう向き合っていけばいいのだろう。

  僕達は生まれながらに自由と因果に繋がれた囚人だ。
  自分が何者であるか、その行動がどんな結果を招くのかも分からぬままに選択を繰り返す。

210 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:29:17 ID:I.IFIRxc0

  その時の僕は何も分からなかった。
  自分の頬を伝う涙の温かさだけが妙にリアルで。

  僕は立っていることもできず、誰か答えてくれと雨の街に慟哭したのだ―――。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第五話:Mind Meltdown」




.

211 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:30:14 ID:I.IFIRxc0

 廃墟での一件を終えてからしばらくは驚くほど平和な日々が続いた。
 あの『殺戮機械』を撃退した少女に関わろうという豪の者は裏の世界でも中々いないらしく追っ手の方も鳴りを潜めていた。
 時間にして一週間と数日。
 その間、僕達は数日おきに宿泊場所を変えつつ当てもなく移動し、名所を巡ったりしながら比較的穏やかな日々を過ごしていた。

 過去や父の痕跡を探すことをやめたわけではない。
 むしろ手掛かりを入手したところなのではやる気持ちを抑えるのが大変だったくらいだ。 

 僕達がそんな日常を送ることになったのは取引相手の都合が関係していた。


マト-ー-)メ「……本当にもどかしいですね。『ミッション・ミストルティン』という名称や私に似た人物の存在など、やっと手掛かりを手に入れたというのに」

( ^ω^)「そういう台詞は足湯から出てから言えお」


 駅に設置された無料の温泉で寛ぐ彼女に僕は言った。
 有名な観光地らしく、近くには源泉を同じくする普通の浴場もあるらしい。
 行ってみてもいいかもしれないと考え苦笑。
 気が抜け過ぎだ。

 僕は言った。


( ^ω^)「向こうが忙しいんだから仕方ないお。予定日までやることもないんだから、当てもなく動き回るよりは体力の回復に努めた方がいい」

212 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:31:26 ID:I.IFIRxc0

 『殺戮機械』との邂逅の後、僕は情報屋とコンタクトを取った。
 全員がそうだとは言わないもののお金持ちというやつは多かれ少なかれ裏社会とのネットワークを持っていることが多い。
 僕も少しはそういう繋がりを持っていたので、それを使いこの国でも有数のインフォーマーに連絡ができた。
 言葉にすると「情報屋を雇った」だけなのだが決して簡単な道程ではなかったと付け加えておこう。

 ……何にせよそこまでは良かったのだが、優秀な人間が多忙なのは世の常か、向こうの都合が合わなかったのである。
 そういうわけで取引日だけを交渉し、それまでの数日は待つことになったのだった。
 

( ^ω^)「別の人間を雇ってもいいんだけどね。でも雇うなら優秀な奴がいい」

マト^ー^)メ「私がそうであるようにですか?」

( ^ω^)「そうだな」


 下手な鉄砲も数を打てば当たるらしいが、やはり僕は量よりも質だと思う。
 彼女を見ていると余計にそう思う。
 この少女は二束三文の値で雇える殺し屋では束になっても敵わない。

 ふわふわとした微笑む姿だけでは分からないが、ミィは紛れもなく想像を絶する超能力者なのだ。
 そのことは今までの経験で十二分に理解していた。

213 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:32:32 ID:I.IFIRxc0

 と。


マト゚ー゚)メ


 僕が彼女を見ているように彼女も僕を見ていたことに気が付いた。
 平たく言えば、見つめ合っていた。

 無駄のなさが完璧さとイコールならば洗練された彼女の顔立ちは完璧に近く整っていると言えるだろう。
 切れ長の目の女性はクールな雰囲気であることが多いが、ミィは例外で、その掴みどころのない笑みが少し鋭めな目元の印象を完全に覆い隠してしまっている。
 好奇心旺盛そうな大きなヘーゼルの瞳はこうして真っ直ぐ見つめると橙にも近い色合いだった。

 数十秒ほど彼女の目を見続けた後に堪らなくなって僕は言った。


( ^ω^)「……なんだ、どうかしたかお?」

マト^ー^)メ「いえ別に」


 彼女の魔眼が心情や思考を見抜く類のものではなくて本当に良かった。
 もしそうだったら、僕が彼女のことを少なからず可愛いと思ってしまったことが見抜かれて、冷やかされていただろうから。

214 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:33:19 ID:I.IFIRxc0

 そして、そんなことよりも。


( ^ω^)「(僕には、まだ……彼女に隠したままのことがあるんだから)」


 初めて会ってから、今の今まで伝えていなかったことがある。 
 それに僕はあのことも言っていない。
 父の部屋から出てきたあの写真のことを知らせていない。

 あの一葉に写っていたのはミィではなかった。
 顔立ちは似ていたが、彼女のように癖毛ではないし色も綺麗な黒で髪型も異なっていた。
 そもそも写真の女性は僕と同じくらいの年に見えたので年齢からして違う。
 ミィと同一人物ということはありえない。

 だが――全くの無関係と言うには、顔の作りが似過ぎているし、偶然が過ぎる。


( ^ω^)「(ミィの母親……ではないにしても、姉妹か従姉妹か、その辺りの血縁関係にある人物だろう。『殺戮機械』が言っていた人物か?)」


 あの写真に写っていた女性がミィの姉だったと仮定しよう。
 だとしたら、父とミィの姉の関係性はなんだ?

215 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:34:12 ID:I.IFIRxc0

 こんな陰謀論的で荒唐無稽な推測はしたくないが、僕とミィは偶然出逢ったわけではなかったのかもしれない。
 あの出逢いは誰かによって仕組まれた必然だったのかもしれない。

 ……まさか、そんなことはないだろうが。
 何にせよミィの過去には僕の父やあの写真の女性が関わっていると見ていいだろう。
 その関係性が明らかになるまではミィには黙っておこうと僕は決めている。


マト^ー^)メ「ブーンさん、どうかしましたか? 最近は考え込むことが多いようですが」

( ^ω^)「別になんでもないお。考えていたのは事実だが」

マト-ー-)メ「私も考えます。過去の私がどんな人間だったのか、どんな家庭に育ち、生きてきたのかを」

( ^ω^)「ああ。僕も考えてるお。僕の父親が何をしていたのかって」


 僕の父。
 ミィの過去にも関わっているかもしれない人物。
 だとしたら、僕は。

 不安を誤魔化すように、「そろそろお昼にしようか」と僕は声を掛ける。
 ミィは相変わらずの考えの読めないふわふわとした笑みで頷いた。

216 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:35:13 ID:I.IFIRxc0

 *――*――*――*――*


 そして、その日がやって来た。

 九月も半ばを過ぎ、いよいよ秋も深まり始めた頃だった。
 とある地方駅の前に僕達は立っていた。
 地方とは言っても数十万人規模の街のそれなので、今日のような平日の朝は企業戦士や学生達が利用する比較的に大きな鉄道駅だ。
 ターミナルビルの存在やバス停が併設されている事情からか休日でも多くの人で賑わっている。

 そんな駅でも朝の九時を回ってしまえば人の波も治まってくる。
 取引場所に指定されたのは駅の二番ホームだが、この分だと約束の時間には人影は疎らになっていることだろう。


( ^ω^)「待ち合わせまで二十分ってところかお……。早く来過ぎたかな」


 何年か前の誕生日に父からプレゼントされた腕時計に目をやって僕は呟いた。
 単に貰った物だからと思い入れなく付けていたこれも最早形見の一つになってしまった。

 金があると物持ちが悪くなるというか、物を大事にしなくなると聞く。
 大抵の物は買い直せるからだ。
 僕もそういう面は少なからずあるのだが、それでもこの腕時計は大切にしている。

217 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:36:14 ID:I.IFIRxc0

 単なる市場価値で言えば端金で買える代物だが、『父親から貰った腕時計』は世界でこの、ただ一つだけだから。
 この時計はどんなにお金を積んでも手に入れることができない物なのだから。

 だから、あの時ミィが服や鞄を傷付けないようにしていた気持ちも僕はなんとなく分かるのだ。
 彼女が自分自身を知りたいと思う理由も理解しているつもりだ。
 それは多分、僕が自分の父親のことを、自らのルーツを知りたいと思う気持ちと同じもの。

 そんなことを考え僕は隣に立つ彼女を伺う。


マト^ー^)メ「どうかしましたか?」


 目が合ってしまい、「いや」と否定しつつぎこちなく顔を逸らした。
 今日も変わらぬふわふわとした笑みでミィはそう返してくる。
 服装こそローライズジーンズにパーカーという装いで変化しているが、その笑顔だけは初めて会った時とまるで変わらない。

 強いて言えば、ここ数日は目が合うことが増えた……気がする。
 思わずその微笑みにドキリとすることが多くなった。


( ^ω^)「(……吊り橋効果か?)」

マト゚ー゚)メ「?」

218 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:37:36 ID:I.IFIRxc0

 浮かんだ考えを打ち消し、僕は彼女に話し掛けた。


( ^ω^)「何か妙な気配はあるかお?」

マト゚ー゚)メ「気配?」

( ^ω^)「予兆と言えばいいか? 最近は僕達を狙っていた何処かの誰か達も大人しいが……今日も大丈夫かお?」


 ああ、と呟き、彼女は目を閉じた。
 そうして一つ溜息を吐くと「大丈夫です」と続ける。


マト-ー-)メ「私達を狙う人間はいないはずです。今日襲撃してくるということは、ない」

( ^ω^)「そうかお。そりゃ重畳だ」

マト゚ー゚)メ「私がいない方が良いのなら席を外しますが」

( ^ω^)「え?」


 一瞬耳を疑った。

219 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:38:32 ID:I.IFIRxc0

 いない方が良い?
 いくら襲撃される心配がないからって、いない方が良いとまで言うつもりはない。
 確かに『殺戮機械』との会話の時も僕が主に進めていた……というか、そういう頭脳労働は僕の担当になってしまった感じはあるが。

 内心で小首を傾げながらもとりあえず僕は答えた。


( ^ω^)「いない方が良いってことはないが、そこのフードコートを回ってる方が楽しいって言うのなら無理に同伴はお願いしないお」


 お前のことについてもちゃんと訊いておく、と付け加えて僕は財布から紙幣を何枚か取り出し、彼女に渡した。
 お駄賃というわけではないが彼女は基本的に無一文なのでお金を渡しておかないと自由時間でも何もできないのだ。


マト゚ー゚)メ「ありがとうございます。近くにいますので、万が一のことがあれば駆け付けます」

( ^ω^)「ああ」

マト゚ー゚)メ「では、また後で」


 ミィはお金を受け取ると、そう言って構内へとさっさと歩き出してしまう。
 駅に入るまでは同じなのだから途中までは一緒に行ってもいいと思うのだが……。
 今日はどうしたのだろう?

220 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:39:12 ID:I.IFIRxc0

( ^ω^)「(…………女の子の日か?)」


 彼女が何才かは分からないが、まさかまだということはあるまい。
 だとしたら深く触れない方が良いだろう。
 デリケートな話だ。

 ……しかし、結果的には良かった。
 彼女が情報屋との会談の場にいないのならば、あの写真のことも気兼ねなく訊ねることができる。


( ^ω^)「……まったく」


 やってられない、と母国の言葉で一人吐き捨てた。
 駅に入っていく女子高生の二人組が一瞬だけ僕に視線を投げ掛け、そのまま駅舎の中へと消えて行く。
 聞こえてしまったのだろうか?
 まあ、いい。

 僕の父と、ミィに似た女性。
 これからの数分の会話で今後僕がどうするか、ミィとどう付き合っていくかが変わるだろう。

 憂鬱さに表情を曇らせ僕は歩き出す。
 そろそろ約束の時間だ。
 父のことが分かるかもしれないという期待による高揚感は、なかった。

222 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:40:08 ID:I.IFIRxc0

 *――*――*――*――*


 時間は九時三十分。
 待ち合わせ場所の二番ホームのベンチに僕は腰掛けていた。

 周囲には先ほどの女子高生二人組や、年配の男性、サラリーマンらしき人々などが電車を待っている。
 特に怪しい人物はいない。
 安全だとミィは言っていたが、何度も襲撃を受けているせいか、どうにも落ち着かない。
 そわそわして目立ってしまうのは良くないと分かってはいるのだが。

 視線の遠くへ向ける。
 駅のホームから見る空は、駅舎よりも高い建築物が周囲に少ないからか、何処までも続いているようだった。
 今は日差しもそれほど強くなく心地良い秋晴れだが、「女心と秋の空」という言葉もあるほどだ、夜の天気は分からない。


( ^ω^)「(人生と同じで、先のことは分からない)」


 センチメンタルで、しかしさして詩的でもない感想を僕が抱いたその時だった。

 ふわりと香水の匂いが香った。
 背中合わせのベンチ、僕の斜め後ろに誰かが腰掛けた。

223 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:41:16 ID:I.IFIRxc0

(、 *川「……時間に正確なのね」


 彼女はスマートフォンを耳に当ててそう言った。
 僕はその言葉が電話越しの相手ではなく、僕に向けられたものであると知っている。


( ^ω^)「まあね。待ち侘びていたから早く来ちゃったお」

(、 *川「それは嬉しいわ」


 肉感的と表現すればいいのか、とても色っぽい雰囲気を湛えた女性だった。
 黒く長い髪。
 縦の線が入ったオフショルダーのセーターに耳元で光るピアス。
 女性は化粧で化けるから分からないが、年齢的には僕とそうは変わらないだろうに、声の出し方一つとってもミィとはまるで違う大人の魅力が漂っている。

 高校時代の担任がこんな女性だったならさぞかし学校へ行くのが楽しかっただろうな、などと夢想しつつ僕は呟く。
 周囲には聞こえない小さな声で。


( ^ω^)「この国で有数の情報屋がこんな美しい女性だなんて、神は二物を与えるもんだお」

(ー *川「ありがとう。お世辞だとしても嬉しいわ」

224 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:42:09 ID:I.IFIRxc0

( ^ω^)「お世辞じゃないお」


 そう、お世辞ではない。
 ただの事実だ。
 きっと容姿を整えていることが彼女の戦略なのだろう。

 こんな魅力的な女性が裏社会でも有名な情報屋だと言われても誰も信じない。
 まだしも「舞台を中心に活躍する女優だ」と紹介される方がリアリティがあるくらいだ。

 そんな彼女は大きく伸びをしつつ、同じく小声で訊ねてくる。


(、 *川「で、どんな話をして欲しいのかしら。あなたの知りたそうなことはもう調べてきたから、大体のことは答えられると思うけれど」

( ^ω^)「事前に欲しい情報を伝えてた方がスムーズだったんじゃないかお? というか、会う必要もなかったんじゃないか?」


 最初の交渉の時から僕が抱いていた疑問に彼女は小さく微笑み答えた。


(ー *川「一般人ね、お兄さん。私もそういうことをやるから分かるけれど、ああいう電子的なやり取りは案外安全じゃないものなのよ。むしろ危険なくらい」

( ^ω^)「……直接会う方が安全、ね。そういうもんかお」

225 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:43:11 ID:I.IFIRxc0

 確かに僕の国の政府なんかは盗聴や傍受を平気でやっているが。
 彼女と連絡を取るまでの過程が妙に複雑だったのもそういうことなのだろう。
 誇張ではなく、一般人の僕にとってはM16が得物の超A級スナイパーに依頼するくらいに大変だった。


(、 *川「それでお兄さん。何についての情報が欲しいの?」

( ^ω^)「あなたみたいな綺麗な人の連絡先は是非知りたいところだが、今日は控えておくお」

(ー *川「賢明ね、私は高いもの」


 安い女よりはよっぽどいいだろ、と嘯いて僕は続けた。


( ^ω^)「まず始めに『ミッション・ミストルティン』という単語に関して知っていることがあったら教えて欲しい」

(、 *川「……いきなり失望させてごめんなさい。聞き覚えがないわ」


 さらりと告げられた一言に拍子抜けした。

 聞き覚えがないだって?
 知らないってことか、冗談じゃないぞ。

226 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:44:12 ID:I.IFIRxc0

 だが続けられた言葉は、流石はこの国でも有数の情報屋と唸ってしまうようなものだった。


(、 *川「でも分かることもあるわよ。私が知らないのだから、私が知らないレベルのものだってことが、分かる」


 尤もお兄さんがデタラメな単語を吹き込まれたんじゃなければだけど、なんてフッと笑ってみせる。
 そういう仕草が異様に似合っていた。


(、 *川「一口に『情報屋』と言っても色々なタイプがあるけれど、私は『情報屋の情報屋』という面を持っているわ。不動産の仲介業者と似ているわね」

( ^ω^)「色々なタレ込み屋を通じて様々な情報を握ってる……ってことかお?」

(ー *川「そ、そういう感じ。そのネットワーク故にそれなりに有能な情報屋で在り続けてるわけ」

( ^ω^)「なるほど。上手くやるもんだお」

(、 *川「街中のホームレスの話を聞いて回る奴やスパイとして企業に潜入してる人もいるから、欲しい情報が絞れるのなら私を通さず直接そういう人達に聞いた方が安上がりね」


 つまり、そんな彼女が知らないということは。

227 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:45:11 ID:I.IFIRxc0

(、 *川「だから私が知らないということは、私のネットワークに属するどの情報屋も知らないってことを意味している」


 『ミッション・ミストルティン』。
 その単語がデタラメなものではないとして、だとしたらどうなる?
 彼女のような存在が知らないということは酷くマイナーで取り留めのない事柄か。

 それとも、と僕の思考を先読みするように彼女が言った。



(、 *川「もしかしたら並の情報屋では絶対に知ることができないような、何かの組織の最高機密……なのかもね」



 噂さえも漏れることもない深い暗闇に沈む何か。
 そんなイメージを僕は思い浮かべた。


( ^ω^)「……そうかお。本職の人間でも無理なら僕じゃかなり難しいな」

(ー *川「安心して、こっちでも調べておくから。何か分かったらまた知らせるわ。このままじゃ私のメンツに関わるし」

( ^ω^)「そりゃ嬉しい限りだお」

228 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:46:11 ID:I.IFIRxc0

 これもお世辞抜きの感想。
 このままだと僕としては方々の情報屋に訊ね続けるか、そうでなければあの『殺戮機械』に連絡を取り、何処で聞いた言葉なのかを思い出してもらうしかない。
 どっちもできれば遠慮したい手だ。
 特に後者は。

 一息置いて彼女は言う。


(、 *川「とりあえずそのことは置いておきましょう。他に知りたいことはあるかしら?」

( ^ω^)「なら、僕の父について聞こう。……僕の素性くらいは調べ終わってるんだろ?」

(、 *川「まあね」


 けたたましい音に彼女の声はかき消された。
 電車が到着したのだ。
 時間の関係もあってか車両から降りたのはほんの数人、対照的にホームで電車待ちをしていた遅めの出勤若しくは登校中の人々は次々と乗り込んでいく。


(、 *川「誕生日や血液型が知りたいわけじゃないでしょう?」

( ^ω^)「もちろんだお。知りたいのは、僕の父が、本当はどんな仕事をしていたかだ」

229 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:47:14 ID:I.IFIRxc0

 この空の続く何処かで息絶えた父。
 息子だというのに僕は、あの人のことをロクに知らないままだった。

 何を考えていたのか。
 何を思っていたのか。
 今更ながら、それを知りたい。


(、 *川「知っているとは思うけれど、『ミストルティン』という名前の企業は存在しないわ。所在地はデタラメよ」

( ^ω^)「ああ。それは知ってるお」


 ねえ、と彼女は続ける。


(、 *川「でも実際、気付いてるんでしょう? 父親が真っ当じゃない仕事をしてたか……そうじゃなければ、誰かに狙われたってこと」

( ^ω^)「……それは、」


 そうか。
 この女は。

230 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:48:10 ID:I.IFIRxc0


(、 *川「そうじゃなければ、お父様の自室やあなたが宿泊していたホテルの部屋が荒らされたりなんて……するわけないものね」



 そのことも――知っているのか。

 そう。
 父の悲報が届いてから少し後、僕の自宅に泥棒が入った。
 書斎はこれ以上ないほどに荒らされたが、その父の部屋以外の被害は全くなく。

 更には僕が以前宿泊していたホテルの部屋も同じように荒らされた。
 けれどノートパソコンや記憶媒体が失くなっていただけで金目の物は一切無事だった。


(、 *川「そのことで疑問を持ったの? いえ、確信に変わったのかしら」

( ^ω^)「……そうだな」


 いくらなんでも、あんな被害状況はおかし過ぎるのだ。
 だって、あれではまるで。

 父に関係する何かのデータだけを狙っての犯行みたいじゃないかと―――。

231 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:49:14 ID:I.IFIRxc0

 情報屋の女は言う。


(、 *川「あなたのお父様に関する情報はある程度集めておいたわ。予想通り、真っ当とは言い難くて……名前や経歴を詐称して働いてたみたいよ」

( ^ω^)「……そうか」


 そうして彼女は今までよりも遥かに小さな声で、ある多国籍企業の名前を告げた。
 それは本社を僕の母国に置く有名な製薬会社だった。
 きっとここのターミナルビルの薬局でもその企業の製品は見つけられるだろう。

 でも、そうか。
 ずっと何処にいるのかと思っていたが、もしかしたら同じ国で働いている日もあったのかもしれない。


(、 *川「内容としては結構色々なことに携わってたらしいけれど、主にフィールドワークが多かったらしいわ。海外での調査ね」


 どうやら「海外を飛び回っている」という父の言葉も嘘ではなかったらしい。


(、 *川「それ以外の詳しい経歴はUSBに纏めておいたけど……」

232 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:50:09 ID:I.IFIRxc0

 そこまで続けてから、彼女は言い淀む。
 次いで、ごく自然に鞄からタブレットを取り出すと文書ソフトでデータを開く。
 まさかこんなところで?と言葉を失ったが、見れば、内容は駅前の看板が云々という広告会社の会議用資料だった。
 カモフラージュらしい。

 指先で円グラフの大きさを微調整しながら彼女はもう一度「ごめんなさい」と謝った。 


(、 *川「具体的にどんな研究をしてたとか、どんなプロジェクトに関わってたとかはまだ調査中なの。だからこれも今は言えない」

( ^ω^)「調査中、か」

(、 *川「予定では今日までには成果が出るはずだったんだけどね……。潜ってた人がミスっちゃったらしくて。昨日、死体で見つかったわ」

(;^ω^)「したっ……」


 絶句。
 さっきの話で出ていた「企業に潜入している情報屋」はもうこの世にはいないらしい。


(ー *川「でも気にしなくていいわよ。あの企業を調べてる人は結構頻繁に事故死するから」

( ^ω^)「……まったく剣呑なことだお」

233 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:51:09 ID:I.IFIRxc0

 こんな話題も大概に剣呑か、とそれとなく辺りを見回してみるが、幸いなことに他の客は近くに見当たらない。
 少なくとも僕達の会話を聞こえるような距離には、誰も。
 きっとこの二番ホームに空白が生まれる時間帯を狙って取引しているのだろう。

 後ろに座る情報屋の女が僕の上着のポケットにUSBを滑りこませた。
 手際の鮮やかさに関心する僕に「ところで」と彼女が問い掛ける。


(、 *川「今日は噂の護衛の子はいないのかしら? 近くにはいるわよね」

( ^ω^)「ああ。この辺りにはいるはずだし、アイツは有能だから心配する必要はないお」


 そう言えば、と僕は思い出す。
 ミィのことも訊かないといけないんだったか。

 と。



( ^ν^)「それはどうですかねー」



 男が現れたのは――その瞬間だった。

234 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:52:18 ID:I.IFIRxc0

 *――*――*――*――*


 その男は僕の隣に腰掛けていた。

 黒のスーツに黒のアタッシュケース。
 少しズレたスクエア型の眼鏡。
 見てくれは完全に、ただの一会社員という風体だった。

 それはどうでもいい。
 そんなことよりも遥かに重要なことがある。


(;^ω^)「…………え?」


 今大事なのは――僕が、この男がいつ隣に座ったのかが全く分からないという点だ。

 音も気配も何一つとしてなかった。
 いつの間にか隣に腰掛けていた。
 本当に「いつの間にか」気付いた時には既にそこにいたのだ。

 気配を殺していた?
 そんなわけがあるか、どんな相手が武術の達人であっても隣に座られて気付かないなんてことがありえるはずがない。

235 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:53:17 ID:I.IFIRxc0

 それよりは今、この瞬間にこの場所へとテレポートしてきたと説明された方がまだ納得できる。
 あの『殺戮機械』がそうであったようにだ。

 僕の、そして情報屋の彼女の驚愕とは対照的に、眼鏡の男はそんな反応は慣れっこだと言わんばかりの態度で口火を切る。


( ^ν^)「心配する必要はない? そうかもしれませんねー。普通の人間相手ならば」

('、`;川「あなた……」


 彼女はベンチから立ち上がり身構えた。
 僕も同じくだ。

 だが眼鏡の男は座ったまま。
 逃げる意思も戦う意思も見せぬまま。
 ヘラヘラと営業スマイルのような微笑みを浮かべながら、話し続ける。


( ^ν^)「まあ私も暇じゃないのですし、説明するほどお人好しではないので、そろそろ帰ろうと思います。目的の物は頂きましたしー」

(;^ω^)「目的の物だと?」

( ^ν^)「気付きませんかー?」

236 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:54:12 ID:I.IFIRxc0

 間延びした口調と共に、男はスーツの懐からある物を取り出した。 
 USBメモリ。
 僕が情報屋の彼女から受け取ったはずの物を。

 ポケットを弄ってみるが当然のように感触はない。
 どころか眼鏡の男はアタッシュケースからピンク色のノートパソコンを取り出してみせた。


('、`;川「それ、私の……!!」

( ^ν^)「そうですねー。先ほど遊んでいた玩具ではなく、あなたが仕事で使用している物ですねー」


 彼女は咄嗟に席に置いたままだった鞄に目をやった。
 きっとそこに収納していた物なのだろう。


( ^ν^)「それでは私はお暇させていただきますねー。しばらくはこの辺りにいますので、ご用があれば声をお掛けてください」


 「まあ、私を見つけられたらの話ですが」なんて、それだけを言い残して男は姿を消した。

 さっきまで男が座っていたはずの席。
 そこには空白だけが残っていた。

237 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:55:11 ID:I.IFIRxc0

 *――*――*――*――*


 彼女は駅の地下街の一番奥にいた。
 立入禁止の立て札の先。
 老朽化の為に閉鎖され使われていない階段に腰掛けていた。

 何をするでもなく。
 ただ、視線を漂わせたまま座っていた。


( ^ω^)「……おい、ミィ」

マト -)メ「ブーンさんですか。どうかしましたか?」


 僕の呼び掛けに対して彼女はごく自然に答えた。
 いつもよりテンションは幾分か低いようだが、それでも平然と答えたように見えた。


( ^ω^)「どうかしたか……じゃ、ないだろ」


 その態度に僕は苛立った。

238 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:56:10 ID:I.IFIRxc0

 心の中で十秒数えて。
 心を落ち着けてから訊ねた。


( ^ω^)「さっき、妙な眼鏡男に襲われた。データとかを奪われて……」

マト -)メ「そうですか」


 「目に見えていた通りです」と。
 そう彼女は答えた。


(; ω)「分かって……いたのか……」

マト -)メ「はい。目に見えていました」

(; ω)「ッ……」


 なんで。
 どうして。
 口をついて出そうになる滅裂な言葉達を押さえ込み、僕は冷静さを保つよう努力しながら問い掛ける。

239 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:57:10 ID:I.IFIRxc0

(; ω)「……いつから分かってたんだ?」

マト -)メ「朝、『妙は気配はあるか』と訊かれた時くらいです。眼鏡の人がお仲間とこの地下街で最終確認をしていましたから」

(; ω)「なら、どうして教えてくれなかった……?」


 教えてくれたなら。
 そうしたら。


マト -)メ「私は『最近私達を狙っていた人はいない』『私達を狙う人は来ない』と答えました。あの人達は今までとは違う所属のようですし、まず狙われたのはデータです」

(;# ω)「そんなクイズの答えみたいなことを聞きたいわけじゃない……!」

マト ー)メ「ですが、ブーンさんは言いました。『私がいない方がいい』と」

(;# ω)「……言ってないだろ、そんなことは」


 僕はそんなこと言っていない。
 それは確かだ。
 近いことは言ったと記憶しているが、似て非なる内容だったはずだ。

240 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:58:10 ID:I.IFIRxc0

 僕は、もう一度心の中で十秒数え。
 必死に心を落ち着けながら彼女に問い掛けた。


(;# ω)「…………なんで、教えてくれなかったんだ」


 彼女は顔を伏せたままで答えた。


マト -)メ「言わなきゃ、分からないんですか?」

(;# ω)「ッ!!」


 思わず僕はカッとなって彼女の胸倉を掴んだ。
 いや、掴もうとした。
 だがそんな行動など『目に見えていた』のであろう彼女は僕の手をあっさりと躱して立ち上がる。

 そうして今にも泣き出しそうな声で言ったのだ。


マト -)メ「……だって、ブーンさんも言ってくれなかったじゃないですか…………」

241 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 21:59:11 ID:I.IFIRxc0

 僕が。
 言わなかったって、それは。
 

マト -)メ「……前に、私に似た人の写真を手に入れてましたよね。それ、手掛かりですよね? 言ってくれなかったじゃないですか」


 すぐに消去したみたいですけど普通にデリートしたくらいなら私には分かるんです。
 そもそもホテルの外の出来事くらいなら私は寝たままでも知覚できるんです。

 更に彼女は続ける。


マト -)メ「自宅の部屋が荒らされたこととか、前に泊まってたホテルの部屋に泥棒が入ったとか……。それも、言ってくれなかったじゃないですか」


 今の今まで。
 ずっと。
 言ってくれなかったじゃないですか、なんて。

 僕を責め。
 僕を詰る。

242 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 22:00:11 ID:I.IFIRxc0

 僕は言う。
 「僕にも考えがあったんだ」と。
 彼女は返す。
 「なら考えがあることくらい言って欲しかった」と。

 私は、と彼女は言い掛け、目元を拭う。
 雫こそ溢れなかったが彼女が泣いていることくらいは僕にも目に見えて分かった。


マト -)メ「……部屋のことや写真のことはブーンさんのプライバシーに関わることです。だから隠すのも当たり前かもしれません。でも、言って欲しかった」


 せめて「隠していることがある」とそれだけでも。
 言って欲しかったんだと。

 彼女は言う。


マト -)メ「信じてたのに」

(  ω)「……だからって、」

マト -)メ「私はずっと信じて――待っていたのに」

243 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 22:01:08 ID:I.IFIRxc0

 僕も信じている。
 いつかのようにそう言いたかった。
 だけど、言えなかった。

 今、口にするには――それはあまりにも空虚な言葉で。
 空っぽで、虚ろな言葉でしかなくて。


マト -)メ「……私はもう、ブーンさんのことを信じることができません。もう、無理です。待ち疲れてしまいました」


 違うんだ。
 そうじゃない。
 なんて言えば。

 胸に渦巻く言葉にならない想いを纏めようとする僕を置き去りに、彼女は歩き出す。
 僕のすぐ隣を通り過ぎて、僕は呼び止めることができなくて。



「…………さようなら」



 あれほど何度も視線で繋がっていたはずなのに――今はもう、その横顔さえも見ることは叶わない。

244 名前:名も無きAAのようです :2013/12/07(土) 22:02:15 ID:I.IFIRxc0


  その情報屋の女は言った。
  「こうなると分かってさえいたら、こうはならなかったのにね」と。

  きっとそれは誰もが後悔を感じる度に呟く意味のない免罪符。
  違うんだ僕は悪くないんだと、そんな言葉を叫んでみたところで胸の痛みは消えやしない。
  ただ悲しみの涙が流れるだけで。
  涙が流れなくなった後でも心は痛み続けて。

  そうして過去に戻れない僕達は――今日も心で涙を流す。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第五話:雨の街に、心ははぐれて」





.

248 名前:名も無きAAのようです :2013/12/10(火) 02:08:41 ID:4mme76Ig0

【現時点で判明している“少女”のデータ】

マト゚ー゚)メ
・名前:不明
・性別:女
・年齡:不明(外見年齡は15〜17程度)
・誕生日:不明
・出身地:不明
・職業:不明
・経歴:不明
・特記:『未来予測』の能力を持ち、限定的ながら未来が見える。精確に予測できるのは数秒先までで一分以上先のことは可能性が見えるのみ。
    能力を発動している間は瞳の色が変わるがデフォルトでもある程度未来は見えている。
・外見的特徴:身長160代前半。癖のある赤みがかった茶髪。白い肌。起伏の少なめな体型。整った容姿。ニット帽。ボーイッシュな服装。
       やや鋭めな双眸。瞳の色は橙に近いヘーゼル。能力発動中は左目が紫に輝き、更に集中すると色が濃くなり紅色に変わる。

・備考:
 気が付いた時には記憶(エピソード記憶)を全て失っていた。
 その当時の所有物は細工の入った銀の指輪のみ。 
 一人称は恐らく「私」。この国の言語で話しているので海外に住んでいたとは考えにくい。
 服を着る、買い物をする等のごく一般的な知識も備えている。
 知識(意味記憶)として一般には知られていない生体兵器についての知識を有する。
 ディの話によれば「目元が誰かに似ている」らしい。
 彼女によく似た女性が映った写真があるが、写真の女性は黒髪で癖毛ではない。

249 名前:名も無きAAのようです :2013/12/10(火) 02:09:24 ID:4mme76Ig0

【現時点までに使われた費用(日本円換算)】

・前回までの合計 10,401,920円
・交通費 約14,000円
・ホテル代 約128,000円
・食事代 約38,000円
・観光費 約2,200円
・雑費 約4,600円
・契約料(前金) 約1,800,000円
______

・合計 12,388,720円


【手に入れた物品諸々】

・情報

251 名前:【第五話予告】 :2013/12/15(日) 03:42:20 ID:FgARlw.Q0

「ねえねえ、おねーちゃん。ねえってばー」

「……どうかしましたか? そもそもあなたは誰ですか?」

「おねーちゃん、どっか痛いの? それとも、おかあさんとはぐれちゃったの?」

「…………私には母親とはぐれたのはあなたの方に見えますが」

「あのねー。痛い時はねー、いたいのいたいのとんでけーってするんだよー。いたいのいたいのとんでけーって」

「おまじないですか」

「ほんとにね、痛くなくなっちゃうんだよー。ほら、おねーちゃんも。いたいのいたいのとんでけー」

「……ありがとうございます。でも、私は遠慮しておきます」

「どうして? 痛いのヤじゃないの?」

「嫌ですよ。……でも、痛みが失くなって、痛かったことを忘れてしまうのはもっと嫌ですから。だからもう少しだけ、このままで……」



 ―――次回、「第六話:Must Move」


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