- 28 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:13:21 ID:hnK84G7E0
-
『過去』が分からないとはどういう気分なのだろう。
『記憶』を失くすとどんな気持ちになるのだろうか。
僕には、分からない。
けれど想像する限りでは、それは想像もできないほどに恐ろしく不安なことだ。
自分以外の世界の知識はあるのに自分だけが何者なのか分からないという感覚は想像を絶する孤独だろう。
自分だけが違う。
自分だけが独り。
自分だけを知らない世界。
自分も知らない自分。
思えば最初に感じた違和感はそれだったのかもしれない。
彼女は記憶を失くしているというのに困惑することも不安がることもなかった。
まるで当然のように微笑んでいた。
そのことが不自然で疑問で、僕は現実離れしたふわふわした印象を彼女に抱いていたのだろう。
僕は彼女を見てなんとなく思っていた。
きっと彼女は記憶を失う前から世界でひとりぼっちだったのだろう、と。
それが真実かどうかは、この時はまだ分からなかったが。
- 29 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:14:04 ID:hnK84G7E0
では、彼女の物語を再開しよう。
僕と出逢ってからの話を始めよう。
ファミレスでご飯を食べて、ボーリング場でスコアを競った、けれどデートとしては最悪だったあの月曜日の話を。
マト ー)メ M・Mのようです
「第二話:Madding Monday」
.
- 30 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:15:09 ID:hnK84G7E0
世の婦女子諸氏はどうやら知らないようだがよく食べる女性を好む男子は多い。
特に美味しそうに食べるというのが重要だ。
交際や結婚をすると必然的に食事を共にする機会が多くなる。
言うまでもないが、過度に少食であったりするよりも美味しそうに食べ物を口に運ぶ相手の方が見ていて楽しいし健康的にも思える。
健啖家の女性は素敵だが、しかし時と場合にもよる。
例えば誰かの悲報を耳にした直後にもいつも通り食事を続けるのは如何なものかと感じる。
深刻な状況で能天気に飲食を行なうのはどうかと思うし、況してやその深刻な状況の当事者が自分であった場合は尚更だ。
( ^ω^)「……おい」
机を挟んで向かい側でサイコロステーキを口に運んでいる少女に僕は声を掛ける。
しかし僕の言葉など届かないらしく彼女が手を止めることはない。
( ^ω^)「おいコラ」
マト>ー<)メ「いたっ」
腹が立ったのでメニューで頭を叩いた。
- 31 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:16:03 ID:hnK84G7E0
彼女はやっとナイフとフォークを置いた。
文句を口にしたりしないところを見るに彼女も彼女でそろそろ本題に入ろうと思っていたのだろう。
僕がこういう行動に出ることなんて予測できていただろうに抵抗一つしなかったのが証左だ。
この少女がその気になれば僕が攻撃に出る前に反撃することができるのだから。
マト゚ー゚)メ「料理が冷めてしまいます」
( ^ω^)「なら食べながらで良いから説明してくれお。何が、どういうことなのか」
僕の目の前に座る癖のある赤みがかった茶髪の少女。
自分の名前すら覚えていない記憶喪失の彼女に僕が出逢ったのは先ほどのことだ。
そしてそこからの展開は劇的だった。
喜劇的と表現しても良いくらいに現実離れした展開に僕はただ翻弄されるばかりだった。
今も事態を飲み込めていない。
どうしてこの少女と一緒にファミレスで夕食に摂ることになったのだか。
( ^ω^)「一つずつ……整理していこうか」
マト゚ー゚)メ「はい」
- 32 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:17:03 ID:hnK84G7E0
だから僕は訊く。
彼女のことを知る為に。
これからのことを考える為に。
( ^ω^)「まず、お前は本当に記憶喪失なのかお?」
マト-ー-)メ「そうですね……。こうして変な語尾のお兄さんと話せているのでエピソード記憶を忘れちゃったんでしょう。自分のことが分からない」
( ^ω^)「まあそれはいいお。っていうかその『変な語尾のお兄さん』って呼び方やめろ」
さっき僕の名前は教えただろうと僕が言うと彼女は黙ってステーキの最後の一切れを口へと運んだ。
まさか現在進行形で記憶喪失が進行中なのだろうか?
一定期間で記憶を失っているとするならば単なる全生活史健忘よりも遥かに厄介だ。
だがそれは杞憂だったようで、
マト゚ー゚)メ「じゃあ、『ブーンさん』と呼びます」
サイコロステーキを飲み込むと彼女はそう言った。
咀嚼しながら僕をどう呼ぶか考えていたらしい。
- 33 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:18:04 ID:hnK84G7E0
それは僕の昔の渾名だった。
と言っても僕が彼女の過去と関係あるということではなく単に本名からの連想だろう。
訂正を求めようかと思ったが、面倒なのでやめておく。
この少女はかなり横暴なところがある。
一応は丁寧語で話しているが割と無茶苦茶な子だ、流せるところは適当に流しておく方が良い。
それに『変な語尾のお兄さん』という呼び方よりはマシであることは確かだ。
マト゚ー゚)メ「じゃあ私の呼び名を決めてください」
彼女は言った。
( ^ω^)「なんでそうなる」
マト^ー^)メ「だって私を呼ぶ時に困るじゃないですか」
言われてみれば確かに困る。
少し考えてみる。
この記憶喪失の少女の暫定的な呼び名について。
- 34 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:19:03 ID:hnK84G7E0
たっぷりと十五秒ほど考えて、僕は呟く。
( ^ω^)「……なら僕はとりあえず君のことを『ミィ』と呼ぼう」
『記憶(Memory)』という単語の頭の二文字。
そして、君が失くした『自分(Me)』という意味を込めて。
少女は笑った。
マト^ー^)メ「猫みたいです」
( ^ω^)「あんまり真面目に考えなかったからね」
マト-ー-)メ「でも気に入りました。今から私は『ミィ』です」
( ^ω^)「本当にそんな呼び名で良いのかお?」
マト゚ー゚)メ「はい。どうせ今の時点では本当の名前なんて分かりませんし、名前があるということが大事なんです」
( ^ω^)「そういうもんかお」
- 35 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:20:03 ID:hnK84G7E0
名前があるということ。
僕に限らずほとんどの人間とっては当たり前過ぎて分からないが記憶のない人間にとってはそれは大切なことなのだろう。
他人に名前を呼ばれるということは「自分が誰かに認識されている」ということを意味するのだから。
マト゚ー゚)メ「名前をありがとうございます、ブーンさん。では次は私から質問です」
彼女は。
いや、ミィは野菜スティックを手元に引き寄せながら訊ねる。
今僕達の座っているテーブル席には多くの皿が並んでいる。
そのどれもが空で、そのほぼ全ては彼女が食べたもので、そして漏れなく全部僕の奢りだった。
ミィは無一文なので仕方がない。
今の僕は一億近くの資金を持つ身なので別に困るということはないが、どうせ礼を述べるならファミレスの代金について感謝して欲しかった。
マト゚ー゚)メ「どうして私に付いてきてくれたんですか?」
( ^ω^)「え?」
食べ盛りの男子高校生が食べるような量の夕食を胃袋に収めた彼女は一体何才なのだろう?
そんなことを考えていて反応が遅れた。
- 36 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:21:03 ID:hnK84G7E0
記憶喪失の少女は訊く。
マト゚ー゚)メ「私について来る理由なんてあなたにはないはずでしょう。なのに、どうしてまだ私と一緒にいるんですか?」
公園で出逢った当初ならまだしも。
あのデパートに入った段階で、あるいは屋上での戦闘が終わった段階で、僕は彼女に背を向けても良かった。
「良かった」どころかそれが当然の判断だと言える。
あんなものを見せられて一緒にご飯を食べようなど我ながら正気の沙汰ではない。
眼前のこの赤茶色の髪の少女は人智を超えた能力を備え、更に人を躊躇いもなく一突きにしたというのに。
( ^ω^)「それは……」
マト^ー^)メ「単なる親切な人と見せ掛けて実は敵の刺客で終盤に裏切られるなんてことは困るので、理由だけは聞いておきたいです」
言い淀む僕にそう言ってミィはふわふわと微笑む。
( ^ω^)「……いや。そんなアニメかマンガのような理由じゃないお」
- 37 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:22:03 ID:hnK84G7E0
マト^ー^)メ「じゃあ、どんな理由なんですか?」
( ^ω^)「……本当に未来が見えていると言うのなら、僕が何を言うかは分かってるんじゃないかお?」
僕は自分の答えを口にする前にそう問い掛けた。
彼女が本当に未来が見えているのだとすれば、僕がどう答えるかなど無意味だ。
だがミィは笑ったままで言う。
マト-ー-)メ「そうでもありません。私の予測には色々と制約がありますし……それに、人間の感情は一番予測しにくいものですから」
( ^ω^)「そんなものかお」
ひょっとしたらこの食事量は能力の代償なのかもしれないと思った。
思っただけでわざわざ訊ねはしなかったが。
マト゚ー゚)メ「では改めて、どうして私に付いてきてくれたのかを教えてください」
( ^ω^)「…………そうだな」
- 38 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:23:03 ID:hnK84G7E0
僕は少し思案し、そして言う。
僕の背景について語り出す。
( ^ω^)「僕は先日、父親を亡くしたんだお。父は海外の企業……つまりこの国の会社に雇われてたらしい」
どんな仕事かはよく知らないが海外を飛び回っていたらしく、たまに帰ってくると様々な国の名産品をお土産にくれたものだった。
寂しくないわけではなかったが父の高給のお陰で僕が裕福に暮らせていたのも事実で感謝もしていた。
それはそれで納得していた。
だが。
( ^ω^)「ある日唐突に『父が亡くなった』という手紙が届いて、遺品が送られてきたんだお」
あなたの父君は職務中の不幸な出来事によりお亡くなりになりました。
端的に纏めるとそんな内容の手紙だった。
送られてきた高そうな箱には本社に置いていたらしい日用品が収められていた。
予備のスーツや歯ブラシといった諸々のものだ。
中には父の遺書も入っていた。
- 39 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:24:05 ID:hnK84G7E0
父の遺書は「この手紙をお前が読んでいるということは私はもうこの世にはいないのだろう」という風に始まるもの。
まるでドラマに出てきそうなテンプレートな書き出しから、予め用意されていたものであることが窺い知れた。
今まで父親らしいことをしてやれなくて悪かった、詫びにもならないが会社から手当が出るはずなのでこれからはそれで幸せに暮らして欲しい。
そんなことが書かれていた。
この時点で不自然な点が二つある。
まず一つ目にその海外の企業からの連絡でも父の遺書でも職務について全く触れられていなかったこと。
二つ目に遺品として送られてきた物の中に電子端末からメモ帳に至るまで「記録を残せる物」が一つもなかったことだ。
( ^ω^)「遺体どころか死因さえも分からない……。常識的に考えておかしいだろ」
証拠隠滅。
そんな言葉が脳裏を過った。
マト-ー-)メ「その人はPMC(民間軍事派遣会社)に勤務していたのかもしれません。だとしたら機密に関わるということで詳しく連絡されないことはありえます」
( ^ω^)「僕も最初にそれを思った」
父が傭兵だったとしたら、辻褄は合わなくもない。
- 40 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:25:03 ID:hnK84G7E0
海外を飛び回っていたのは方々の戦地に派遣されていたから。
高給取りだったのは命懸けの仕事をしていたから。
遺書があんな言い回しだったのは万が一のことを考え用意していたから。
具体的な死の状況が分からなかったり電子端末等がなかったりしたのは企業機密や国際問題に関わることで公表するわけにはいかないから。
戦場でなら、遺体が見つからないということは充分に考えられることだろう。
もしそうだったとすれば、関わっていた紛争が終わるなどして一段落すれば「公開しても問題ない」ということで死因が知らされることもあるはずだ。
新たに遺品が見つかれば送られてくることだってありえる。
ただ。
( ^ω^)「そうやって解釈していっても二つおかしな点がある」
マト゚ー゚)メ「なんですか?」
( ^ω^)「僕の父は典型的な理系人間というか、身体が強くない方なんだお。とても職業軍人として働けるとは思えない」
マト^ー^)メ「現場に出ない専門職だったのかもしれません。兵器製造をしていたとも考えられます」
( ^ω^)「……だとしても、もう一つの点がおかし過ぎる」
父が勤めていた会社は『ミスティルテイン』という社名だったのだが、そんな名前の企業はこの国に存在しないのだ。
- 41 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:26:04 ID:hnK84G7E0
マト゚ー゚)メ「北欧の伝承に出てくる武器と同じ名前ですね。軍事派遣会社や兵器製造企業っぽい企業名です」
( ^ω^)「でもそんな名前の会社は存在しない。ネットで調べても、この国の政府に問い合わせてみても、ないんだ」
一応はと遺品の差出人住所(つまり『ミスティルテイン』の本社所在地)にまで行ってみたのだが……。
地図やグーグルマップで確認していた通りにそこにあったのは先端科学研究施設第二特殊科学研究所というこの国の学術機関だった。
正門にいた衛兵にも訊ねてみたが当然そんな企業ではないと答えられた。
となると、とミィは言う。
マト゚ー゚)メ「『ミスティルテイン』という名前の非合法な組織か名前自体がデタラメで、住所も適当に書いただけかもしれません」
( ^ω^)「……息子としてはあまり考えたくない可能性だお」
実の父親が非合法な集団に所属していたということはあまり思いたくない。
だが確かに犯罪組織ならば不自然な状況にも説明がつく。
( ^ω^)「でもそれだと今度は給与はともかく口座に振り込まれた膨大な見舞金がおかしい」
マト゚ー゚)メ「いくらですか?」
- 42 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:27:04 ID:hnK84G7E0
僕は声のボリュームを落として言った。
( ^ω^)「元々口座にあった分と足して……大体米ドルで一億だお」
予めあった部分、つまり父が貯蓄していた金額も相当だったが、それにしても桁がおかしい。
どのくらいおかしいかと言えばあまりにもおかし過ぎて銀行で警察沙汰になったくらいだ。
今も捜査はしてくれているらしいが海外から複数の名義で振り込まれたものらしく事情も掴めず未だ進展はあまりない。
法律上は贈与に当たるらしく、つまり僕個人が「貰ったお金」なので問題がないと言えばないが、金額が金額だ。
マト゚ー゚)メ「凄い金額ですね」
( ^ω^)「全くだお。これからは保険金も出るのに」
父が日本人なので一億ドルを日本円で考えてみる。
円換算すると大体百億円くらいだ。
世界的な画家の絵の一、二枚が百億くらいだったか……。
そう考えると少ないなと友人に言うと「お前は金銭感覚が既に麻痺しているんだよ」と返された。
確かに日本人の生涯収入が三億に届かないことを踏まえると個人で所有する桁の金額ではないことは言い切れる。
- 43 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:28:03 ID:hnK84G7E0
そうして一息置いて僕は言う。
( ^ω^)「僕がこの国にやって来たのは父の痕跡を探す為だお。生きていた証拠でも知っている同僚でも良いから、何か痕跡がないか探しに来た」
年に一度会うか会わないか程度だったとしても、それでもあの人は僕の唯一の肉親だ。
遊んで暮らせる程度の金があるのなら父親がどんな風に生きて、どんな風に死んだのかくらいは調べてみても良いだろうと思った。
( ^ω^)「もう一つは……お金を返しに来たんだお。いくらなんでも一億は多過ぎる」
尤もこちらは副次的な目的。
もしも父の雇い主に会えたとして、また父が何をやっていたのかを聞けたらの話だ。
父の仕事と死の状況を知った後で僕自身が見舞金として妥当だと考える金額を超えた分は返そうと思う。
ひょっとしたら、世界的な企業のアドバイザーだったとかで一億ドルでもまだ少ないくらいの仕事をしたのかもしれないが……。
その場合は少しだけ置いておいて残りは寄付でもしよう。
マト^ー^)メ「良い人なんですね」
( ^ω^)「お金があると余裕が出てくるもんだお。それに使い切れないほど持ってても仕方ない。それなら、どうにか処理した方が良い」
- 44 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:29:03 ID:hnK84G7E0
僕は享楽の限りを尽くして欲望のままに生きるのではなく普通に暮らしたいのだ。
一億ドルなんて額は普通に暮らしていたのではまず使い切れないのだから、そう例えば、世界平和の為なんかに使うと良い。
しかし考えてみれば世界平和の維持に一役買っている原子力空母は一億どころでは買えないので個人レベルの金銭のような気もしてくる。
まあこれも一般の人々から見れば「金銭感覚がおかしい」のかもしれないが。
( ^ω^)「ここまで言えば分かるお? 僕が付いてきた理由は」
マト゚ー゚)メ「その膨大なお金の何万分の一かで――私を雇いたいんですね?」
( ^ω^)「そうだお」
本当に未来が見えるのならば、僕の父に繋がる選択肢を教えて欲しい。
加えてもし調べていく内に危険な状況になった場合には、僕のことを助けて欲しい。
だから僕が君に望むのは、その二つ。
( ^ω^)「僕の相談役兼ボディーガードとして、雇われる気はないか?」
僕がここまで付いてきた理由はこの契約を持ち掛ける為だった。
- 45 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:30:04 ID:hnK84G7E0
話を聞いた彼女はふわふわとした笑みを浮かべたままで言う。
マト^ー^)メ「その報酬として私の【記憶(じぶん)】探しに協力してくれるというわけですか?」
( ^ω^)「それだけじゃないお。僕の依頼を請けてくれるのならば、君にこれから必要な費用を支給し、十分な報酬を用意しよう」
このファミレスで奢った分はその前金だ。
そう僕が付け足すと彼女はまた笑う。
マト-ー-)メ「なら、断れませんね。もう料理は全てお腹の中ですから」
( ^ω^)「断ってくれても構わないお。その場合は単に、奢った料理は記憶を失った君への心ばかりの手助けだ」
マト゚ー゚)メ「いいえ。私は断る気はありませんが……」
そうして相変わらず微笑んだまま、けれど目を伏せて、正体不明の少女は訊いた。
マト ー)メ「さっきの戦いで分かっていますよね? 私は恐らく、真っ当な人間ではない―――」
- 46 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:31:04 ID:hnK84G7E0
*――*――*――*――*
僕は屋上での戦いの顛末を思い出す。
謎の襲撃者との戦闘は彼女――ミィの勝利で幕を閉じた。
身体を自在に変化させる超常的な能力を持つ白いセーターの少女は胴体を刺し抜かれ倒れている。
凶器は鉄柵の残骸。
ミィが放り投げた鉄の棒に身体を貫かれたのだ。
相手がどんな動きをするのかを予測し、鉄柵の残骸をどう投げればどの場所にどのように落ちるのかを計算し、予め上方へと投げておいた。
そして落ちてきた棒に襲撃者の少女は串刺しにされた。
(;^ω^)「あ……ぅ……」
僕は何も言えない。
声が出なかった。
『目に見えている』と語った記憶喪失の彼女。
そう、彼女に見えていたのは人間には見えるはずのない未来だった。
この結末も彼女には『目に見えて』いたものなのだろう。
- 47 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:32:04 ID:hnK84G7E0
(;^ω^)「殺した……のかお?」
やっと喉から絞り出した声は震えていた。
僕の情けない、けれど当然の反応とは対照的に、彼女はその掴み所のない笑みを浮かべたままに答える。
マト゚ー゚)メ「最も強度的に弱い部分を最も防御が疎かになった瞬間に貫きましたが……まだ生きていますね」
(;^ω^)「なんで、そんな冷静なんだお。人を串刺しにしたんだぞ?」
マト-ー-)メ「バイオテクノロジーとサイバネティックスの技術によって生み出された生物を私は『人間』とは呼びません」
それとも変な語尾のお兄さんの知り合いには身体を自在に刃物に変形されることが可能な方がいらっしゃるのですか?
そんな風に彼女は続けた。
襲撃者が見せた異常な力こそが人外の証明であると。
そうして結論を述べる。
マト゚ー゚)メ「あれは人ではありません。『化物』か、『兵器』と呼ばれるべきものです」
- 48 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:33:05 ID:hnK84G7E0
何を言うべきなのかも分からなかった。
言葉を肯定すべきか否定すべきか、肯定したいのか否定したいのか、それさえも混乱した頭では考えられない。
あの襲撃者が語られた通りの存在だとしてもそれでも駆け寄って応急処置を施すべきか。
分からない。
僕が判断しかねている内に状況は進行する。
立ち上がったのだ。
(* ∀)「が……ぁ……」
ゆらり、と。
腹部を鉄の棒に貫かれたままで襲撃者の少女が立ち上がった。
白いセーターを紅に染めて、口元から血を滴らせながらも。
驚く暇などない。
直後に空気を切り裂く音が周囲に響き渡った。
辺りを満たすのはブレードの回転音。
見れば、ほとんど屋上に突っ込むような形で黒いヘリコプターが高速接近してきている。
正気とは思えない速度だった。
そしてヘリは暴風を起こしながら地を掠めるようにして、あっという間に血塗れの襲撃者を回収していった。
- 49 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:34:03 ID:hnK84G7E0
ものの数秒の出来事の後に残ったのは破壊された鉄柵と血痕だけ。
ただただ圧倒されるだけだった僕に彼女は言った。
マト-ー-)メ「串刺しにはしましたが、あれくらいのことができるくらいには無事です。安心しましたか?」
(;^ω^)「え、ああ……いや安心したって言うか……」
そう。
信じられないことにあの血塗れの少女は突っ込んで来たヘリの足の部分、ランディングスキッドに自力で捕まって去っていったのだ。
胴体を貫かれたままに片腕を鉤爪状に変えそれを引っ掛けそのまま消えていった。
最早何処からツッコめば良いのかも僕には分からない。
僕は「まだ生きている」を「致命傷を負ったが息がある」という意味に解釈していたが、どうやら言葉通りに生きていたらしい。
(; ω)「この話は、もういいお……」
なんだか疲れてしまった。
それよりもこの記憶喪失の少女に訊かなければならないことがある。
- 50 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:35:03 ID:hnK84G7E0
( ^ω^)「……お前、あの女の子のことを『生み出された生物』って言ったよな?」
マト゚ー゚)メ「言いました」
( ^ω^)「お前はあの子のことを知っているのかお? お前が『化物』と呼んだ相手のことを」
マト-ー-)メ「私には記憶がありません。知り合いかもしれませんが、今は分かりません」
答えは予測通りのものだった。
僕も存外、未来が『目に見えている』らしい。
この少女は記憶喪失だ。
あの謎の襲撃者と知り合いなのかもしれないが今は分かりようがない。
だから彼女は【過去(じぶん)】を見つけようとしている。
マト゚ー゚)メ「それより私はお腹が空きました。何か食べさせてください。さっさと移動しましょう」
(;^ω^)「いや、なんでそうなる」
今はまだ、この正体不明の少女はふわふわと笑うばかりだった。
- 51 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:36:03 ID:hnK84G7E0
*――*――*――*――*
彼女は言う。
マト゚ー゚)メ「私はどうやら追われているらしいです。あのセーター女も追っ手だと思います」
公園で出逢った際に「警察に行くと悪い状況になる」と語っていたが、それはそういうことだったのだろう。
恐らくは家出のような扱いか、下手をすれば犯罪者として捜索されている。
彼女が捜索願の出された学生や何か指名手配されるようなことを行ったというわけではない。
そういう可能性があることは否定しないものの、あの襲撃者を踏まえて考えると「彼女を捕まえる為に誰かがそういう情報を流した」というのが近そうだ。
( ^ω^)「その『未来を見る力』でどういうことなのか分からないのかお?」
マト-ー-)メ「私の未来予測はそういう能力ではありません。あくまでも『どの選択をするとどんな未来になるか』が見えるものでしかありません」
( ^ω^)「うーん。上手くいかないもんだ」
僕から見る分にはなんでもできそうな感じなのだが。
- 52 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:37:04 ID:hnK84G7E0
( ^ω^)「例えばだが、『未来が見える』ってどんなことが分かるんだお?」
マト゚ー゚)メ「色々です」
( ^ω^)「今なら、例えば?」
マト-ー-)メ「そうですね」
野菜スティックを食べ切った彼女は一瞬間目を閉じた。
次いで事も無げにこう言う。
マト゚ー゚)メ「もうそろそろこのファミレスに追っ手が来るようです。さっきのセーター女ではないようですが」
(;^ω^)「………………は?」
え、なんだって?
マト゚ー゚)メ「私を探している人が来ます。男の人みたいです。ここに来るまで三分ありません」
( ^ω^)「ふざけんなお前」
- 53 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:38:03 ID:hnK84G7E0
僕はもう一度メニューで彼女の頭を叩いた。
さっきよりも強めにだ。
今回もミィは避けることなく攻撃を受け「ぎゃひぃ」という風に小さく声を上げる。
(;^ω^)「そういうことをなんで早く言わないんだお……。今か、今気付いたのか!?」
マト゚ー゚)メ「そろそろ来るなということは結構前に分かっていました」
(; ゚ω゚)「早く言え!! じゃあなんで飯食い続けてたんだお!!?」
マト-ー-)メ「折角奢って頂いたものですから。でももう食べ終わりました。行きましょう」
本当に煙のように掴み所がない少女だ。
真面目に相手をし続けているといつまでたってもコントのような会話を続けることになりそうなので、伝票を持ちさっさとレジに向かう。
代金をカードで払い終えたところで彼女がやってきた。
マト゚ー゚)メ「待ってください。私がいないと何処から追っ手が来るのか分かりませんが」
( ^ω^)「そもそも追われているのは僕じゃなくてお前だお。もうちょっと危機感を持ってくれ」
- 54 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:39:05 ID:hnK84G7E0
追われている自覚があるのかないのか判然としない奴だ。
ファミレスを出て、通りを走っているタクシーを拾う。
車に乗り込んで運転手に行き先を訊かれるが考えてみると向かうべき場所が特にあるわけではない。
「ここからできるだけ離れてください」とでも言おうか?
考えている内に隣の彼女が勝手に行き先を告げた。
そして向かうことになったのは何故か街の中心部から遠く離れたボウリング場だった。
都会の雑音とラジオから流れ出る音楽が入り混じった車内。
窓に流れる夜の街を眺める彼女に、僕は小さな声で問い掛ける。
( ^ω^)「……どうしてボウリング場なんかに?」
マト-ー-)メ「それよりも先に聞かせてください。どうやら私は普通の人間ではないようですが……」
( ^ω^)「それがどうした?」
マト゚ー゚)メ「一緒にいると危険な目にも遭うかもしれませんよ?と言っています」
彼女の表情はふわふわとした笑顔がスタンダードだ。
軽く笑ったり悪戯っぽく微笑んだりと種類は様々だが基本は笑み。
- 55 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:40:04 ID:hnK84G7E0
今、この時も彼女は笑っている。
本当に記憶喪失なのか疑いそうになるほど困惑や不安は見受けられない。
まるでそれ以外の表情を知らないかのような笑み。
上手くは言い表せない、形容しがたい妙な気分になった僕は皮肉っぽく言葉を返す。
( ^ω^)「美少女の想像を絶する事情に巻き込まれるなんてマンガチックなことはできれば高校生くらいの時に経験したかったお」
マト゚ー゚)メ「フィクションの世界とは違って、最後に必ずハッピーエンドになる保証はありませんが」
( ^ω^)「確かにそうだお。それにボーイ・ミーツ・ガールものの主人公としては僕はちょっと、大人過ぎる」
マト-ー-)メ「おいくつなんですか?」
( ^ω^)「この夏に二十一になった。働いてないだけで、もうとっくに大人だ」
ニートですか?と悪戯っぽく彼女は笑う。
大学生だよ、と僕は答えた。
( ^ω^)「もう、大人だからね。状況に流されるままってわけにはいかないお。自分で選択しないと」
- 56 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:41:04 ID:hnK84G7E0
そして僕は選択した。
夏休みの間は自力で探せるところまで父の痕跡を探してみると。
その為に正体不明の少女を雇うことも決めた。
僕は巻き込まれただけじゃない。
自分で選択してここにいる。
( ^ω^)「あの時、君が望む未来の為に僕に声を掛けたのと同じように――僕だって望む未来の為に君を雇ったんだお」
同情とか善意とか運命とかそういう物語的な理由で一緒にいるわけではない。
自分が求める結末のためという酷く打算的な理由で僕はここにいる。
だから。
( ^ω^)「だから別に僕のことを心配しなくても良いお。負い目を感じる必要もない。これは純粋な雇用契約なんだから」
マト^ー^)メ「リスクを理解した上で投資をするんですね。リターンの為にギブ・アンド・テイクな関係を結ぶ」
( ^ω^)「これでもお金持ちだからね。何も考えずにただ助けるなんてことはしないお」
マト-ー-)メ「なるほど。よく分かりました」
- 57 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:42:05 ID:hnK84G7E0
よく分かりました、ともう一度言って、彼女は続けた。
マト゚ー゚)メ「どうやら私は普通の人間ではないようです。少なくとも家出中に頭を打った学生、ということはないと思います」
( ^ω^)「そうかもしれないお」
マト-ー-)メ「だからかもしれませんが、ブーンさんの言うようなドライな関係がこれ以上ないほどに好ましく感じます」
彼女はこちらへと腕を伸ばす。
こんな細腕に僕の未来が左右されるのかと苦笑しつつ手を握った。
それは契約の証としての握手だった。
マト゚ー゚)メ「よろしくお願いします、資本家さん。あなたの望む結末に到達できるように善処します」
( ^ω^)「ああ、これからよろしく労働力。君に必要な物は僕がお金で揃えるお」
おかしくなって思わず僕は笑った。
彼女も楽しげに笑っていた。
こうして僕はミィと他人ではなくなった。
- 58 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:43:04 ID:hnK84G7E0
*――*――*――*――*
僕はギブ・アンド・テイクの関係が好きだ。
というよりも、そうではない関係に対して違和感を抱くと言った方が正しい。
フィクションの世界においては主人公の少年は見ず知らずの少女を大した理由もなく守ろうとする。
善意や正義感といった曖昧な感傷を動機に無鉄砲な行動を取る。
それはそれで素晴らしいことだとは思うのだが、そういう物語を見る度に僕はどうしても疑問に思ってしまう。
「守られた少女は少年に対して負い目を感じたりはしないのだろうか?」と。
家族や恋人や親友ならば見返りなどなくとも命を懸けて助けようとするのはまだ分からないでもない。
だが大抵のボーイ・ミーツ・ガールものにおいて少年と少女は他人であり相手を助ける義理がない。
少年は少女の事情に巻き込まれただけの完全な被害者であることが多い。
少し、怖くはないだろうか?
( ^ω^)「知ってるかお? 人間は一方的に施しを受け続けると自分を保てなくなる……らしい」
マト゚ー゚)メ「どうしてですか?」
( ^ω^)「行為に対して感謝しか返せるものがないと自尊心が損なわれるんだお」
- 59 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:44:03 ID:hnK84G7E0
助けられてばかりの自分は一体何故生きているのだろう?
生きている価値なんてないんじゃないか?
一方的に助けられ続けた人間は最後にはこう考え、死を選ぶこともあると聞いた。
だからもしかすると、物語において救われたヒロインが主人公と恋に落ちるのは自己防衛のためなのかもしれない。
そうすることで助けられる価値と理由を見出しているのではないか。
マト^ー^)メ「……ブーンさん、夢がないって言われませんか?」
( ^ω^)「よく言われるお。金持ちだから仕方ない」
彼女は笑ってボウリングボール選びに戻った。
タクシー内での契約から小一時間が経ち、僕達は場末の小さなボウリング場にいた。
体育館ほどのサイズの小規模な施設でレーンも五つしかない。
月曜の夜遅くということもあってか他に客の姿はなく、場内には僕達の話し声とスピーカーから流れる洋楽だけが響いている。
( ^ω^)「それにしても記憶喪失なのにこんな街外れのボウリング場を知ってるなんて……」
マト゚ー゚)メ「ここは記憶喪失になった後、ブーンさんと出会う前にパソコンで調べたんです」
- 60 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:45:04 ID:hnK84G7E0
そう言えばパソコンを含む僕の荷物はホテルに置きっ放しだと思い出しつつ、僕は訊く。
( ^ω^)「パソコンなんて何処にあったんだお?」
マト^ー^)メ「図書館です。無料で使えました」
( ^ω^)「ふーん……。で、どうしてボウリング場なんかを?」
マト゚ー゚)メ「ボウリングがやりたかっただけです」
( ^ω^)「やりたかったから、ねえ……」
その言葉だけを見れば自由奔放だが筋は通っている。
ただ彼女は記憶喪失だ。
記憶喪失なのに自分の好きなスポーツは覚えていると言うのだろうか?
僕が疑問を口にする前に彼女は続ける。
マト゚ー゚)メ「ブーンさん。ボウリングの起源を知っていますか?」
( ^ω^)「起源? いや……知らないお。考えたこともなかった」
- 61 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:46:04 ID:hnK84G7E0
マト゚ー゚)メ「元はおまじないです。ピンを不運や災厄に見立て、それを倒すことができれば災難から逃れることができるというものでした」
なるほど。
ボウリングがやりたいとはそういうことか。
一種の験担ぎということなのだろう。
彼女は軽めのボールを持つと備え付けのタオルで汚れを拭った。
レーンの前、アプローチに使い終わったそれを放り捨ててボールに指を入れる。
マト-ー-)メ「……ストライクを取れれば、私の【記憶(じぶん)】が見つかる」
( ^ω^)「僕の父親のことが分かって、僕が怪我しないこともついでに祈ってくれお」
マト゚ー゚)メ「願い事は一度に付き一つずつです」
そんなルールはないと思うのだが……。
マト ー)メ「ああでも、やっぱり目に見えています―――」
- 62 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:47:03 ID:hnK84G7E0
言って、彼女は瞳と同じ紫の球を投げた。
格好の良いフォームとは言い難かったがリリースされたボールは綺麗に回転し真っ直ぐに進んでいく。
そうしてヘッドピンの真正面に当たり、そのまま全てのピンが倒れた。
見事なストライクだ。
( ^ω^)「ひょっとして経験者かお?って、記憶がないから分からないんだっけ」
マト゚ー゚)メ「はい。単にストライクを取ることができたのはこの目のお陰です」
振り向いて笑う彼女の左目は妖しく紫に輝いていた。
その色合いは赤みがかった茶髪と白い肌にはミスマッチのようにも見えるし、ぞっとするほど似合っている気もする。
それは『未来が見える』という魔眼。
マト-ー-)メ「私の能力がどういうものかということですが、拳銃のレーザーサイトを知っていますか?」
( ^ω^)「レーザーサイト? 赤いレーザーで狙いを付けるやつかお?」
レーザーサイトとは光学照準機の一つで直進する光を目標に当てて狙うものだ。
ハリウッド映画で赤く光る点が主役の身体を狙うシーンを見ることも多い。
- 63 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:48:03 ID:hnK84G7E0
頷いて彼女は言う。
マト゚ー゚)メ「普通の人が標準機なしで撃っているとすれば私は暗視装置やレーザーサイト付きの銃を使っていると言えば理解しやすいと思います」
ファミレスでは能力について『どの選択をすると』『どんな未来になるか』が見えると説明していた。
つまり僕が過去の経験や勘で的を狙っているとすると、彼女は赤い点を的に合わせて引き金を引いているだけということか。
例えばボウリングをする時に「どうすればストライクになるか」を考える。
様々な要素を考慮し予測を立てる。
彼女も基本的には同じだが、その予測が信じられないレベルで精確ということだろう。
それこそ『目に見えている』と自称するほどに。
( ^ω^)「最初の缶をゴミ箱に入れたのも同じかお?」
マト^ー^)メ「はい。重力や風力といった諸々のベクトルを計算し、自分の身体能力や缶の質量と形状を考慮し、周囲の状況を把握した上で投げただけです」
(;^ω^)「投げただけって……」
キャッチボールじゃないんだから。
- 64 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:49:04 ID:hnK84G7E0
マト゚ー゚)メ「理屈ではキャッチボールと同じです。『このくらいの力で投げれば大体あの辺りにいくな』と考えて、その通りに投げるだけ」
( ^ω^)「大体分かったお。高度な予測ってことか」
マト^ー^)メ「はい。ただの予測なのでできないことはできないです」
( ^ω^)「できないことって?」
マト゚ー゚)メ「私はキャッチボールは得意ですが、遠投はできません。遠くまで投げる能力自体がないので予測しても意味がないということです」
正しくは予測できない、と彼女は付け加える。
少し考えれば分かることだ。
未来を予測する能力があることとその未来を実現する能力は全く別物だと言うこと。
彼女の『未来を見る能力』は決して万能な能力ではない。
どんなに精確な照準機が搭載された拳銃を持っていても弾丸が込められていなければ的には当たらない。
ご飯を食べれば空腹ではなくなることが分かっていてもお金がなければファミレスには行けない。
マト^ー^)メ「尤も、そんなことは誰だってそうですが」
言って、またふわふわと彼女は笑った。
- 65 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:50:05 ID:hnK84G7E0
次いで一番重いボウリングボールを持ってくると先の投球よりも危なげなフォームで投げる。
軸のズレた回転でレーンを転がる球を後目に「ほら」と続けた。
マト-ー-)メ「真っ直ぐ投げればストライクが取れることが分かっていても、真っ直ぐ投げられるかは分からない」
( ^ω^)「分かったけど……次の投球は僕の父親の痕跡が見つかることを祈って投げるんじゃなかったかお?」
マト゚ー゚)メ「忘れてました」
特に悪びれる様子もなく彼女は言って、僕は溜息。
ゆっくりとピンへと向かったボールは七本ほどを倒したのみだ。
微妙な結果。
もう一度溜息を吐いて僕は訊いた。
( ^ω^)「公園で僕に声を掛けたのは僕がお金を持っていると分かったからかお?」
マト゚ー゚)メ「そうです。私の能力は予測だけではなく知覚も含むのでそういったこともある程度は分かります」
平然とカネ目当てであることを口にする彼女はやはり何処かがおかしい。
記憶喪失になった際に頭の螺子がいくつか飛んだのかもしれない。
- 66 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:51:03 ID:hnK84G7E0
マト゚ー゚)メ「お金は力ですね」
( ^ω^)「知ってるお。多分君よりよっぽど知ってる。マネー・イズ・パワーだお」
マト-ー-)メ「私はお金のような現実へ影響を及ぼし未来を変える力を見ることができます。だから、あなたに声をかけました」
現実へ影響を及ぼし未来を変える力。
『影響力』。
どんな小さな物でも必ずその影響力を持っていると彼女は語る。
海を越えた地の蝶の羽ばたきが竜巻に変わるように、どんな物でも未来を変える力を持つ。
そしてその中、誰しもが持ち、かつ最も分かりやすい一つが金銭らしい。
彼女が言う通りに全ての価値ある物が金に替えられる現代社会では金があるだけで未来の可能性は広がる。
マト゚ー゚)メ「ブーンさん。あなたのお陰で私の未来は一人の時よりも広がりました。ありがとうございます」
そうして彼女は頭を下げる。
自分が僕の持つ膨大な金目当てであったことを認めた上で感謝をしていた。
力を貸してくれてありがとう、と。
- 67 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:52:05 ID:hnK84G7E0
ここまでだといっそ清々しく感じてしまう。
だから僕はこう返す。
( ^ω^)「そういうのが嫌いだって言ったんだお。君は僕に雇われたんだ、お金の分だけ働いてくれればそれでいい」
僕にだって事情がある。
思惑がある。
だからそういうことは気にしなくていい。
マト^ー^)メ「ブーンさんは本当にドライです」
( ^ω^)「お金持ちだからね。現実的で情に絆されないし、でも余裕があるから人には優しい」
マト゚ー゚)メ「そう言えば優しいお金持ちのブーンさんに私は謝らなければならないことがあります」
まさか、と僕が口にする前に彼女は告げた。
マト゚ー゚)メ「もうそろそろ追っ手が来ます」
- 68 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:53:04 ID:hnK84G7E0
*――*――*――*――*
( `ハ´)
現れたのは背の高い男だった。
まだ暑い日も時折ある九月には少し気が早い感じのする秋物のジャケットを羽織っている。
全体的に黒系統の服装で頭にはニット帽。
僕の傍にいる少女もニット帽を被っているので「あの帽子は正体の分からない怪しげな人間が被るもの」と認識が歪んでしまいそうだ。
大陸系の顔立ちの男が懐から拳銃を抜いたのとミィがこちらに飛び掛かってくるのはほぼ同時だった。
飛び掛かってきたのではなく僕を守る為に床に伏せさせたのだということは銃声が二度響き古びたボウリング場に弾丸が二発埋まった音で理解できた。
マト゚ー゚)メ「大丈夫ですか?」
( #^ω^)「ああ、腸が煮えくり返っている以外はな。お前との契約を打ち切って別の用心棒や探偵を雇った方が良い気がしてきたお」
マト^ー^)メ「それも賢明な判断だと思います」
布越しに腕や腰に伝わる彼女の女性らしい柔らかな感触は僕の怒りを収めるに至らない。
お前は『目に見えている』のかもしれないが、こっちは一瞬死んだかと思った。
銃弾に当たらぬようにと椅子の陰に隠してくれたのはありがたい限りなものの押し倒される時に肩を強打したのも事実である。
- 69 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:54:05 ID:hnK84G7E0
伏せていてください、と彼女は告げ中腰の姿勢に体勢を変える。
ボウリング場には男の足音と声が響く。
入り口のカウンターに座っていた店長らしき爺さんは無事だろうかとふと気になった。
( `ハ´)「ニット帽のオンナ。両手を上げこちらに来い」
お前もニット帽だろというツッコミはご法度だ。
あの華僑のはぐれ者かマフィアの使い走りか何かの中国人は拳銃を持っている。
金が影響力であるのは勿論だが、銃器という暴力も分かりやすく強い影響力を持つことは僕でも分かる。
その力で、彼は自分の望む未来を作ろうとしている。
呼ばれた少女は僕からゆっくりと立ち上がる。
僕から少し離れたその場所で。
マト^ー^)メ「こんばんは」
( `ハ´)「ああ、こんばんは」
床に伏せたままで遮蔽物の陰からそっと様子を伺う。
およそ堅気の者とは思えない目付きの男の姿はハリウッド映画に出てくる三合会の殺し屋のようだ。
決まり過ぎていて現実とは思えない。
- 70 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:55:04 ID:hnK84G7E0
そんな相手を目の前にしても、あの正体不明の少女はふわふわと微笑んだままだ。
こうなることは彼女にとっては『目に見えていた』ことなのだろう。
都心部を離れこんな潰れる寸前のボウリング場を訪れたのも敵が襲いやすい場所に移動するためだった。
マト゚ー゚)メ「あなたは、私を知っていますか?」
その問いを投げ掛けるために。
考えてみれば、自分の正体を知りたければ自分を狙う追っ手に訊くのが一番手っ取り早い。
だが答えは芳しいものではなかった。
( `ハ´)「知らん。私が知っているのはお前を捕まえ連れて行き引き渡せば金が貰えるということだけだ」
マト^ー^)メ「そうですか」
両手を上げたままでアプローチに立つ彼女。
拳銃を向けられていてもその横顔に恐怖や不安の色は伺えない。
男の立つ場所までは五、六メートルだろうか。
その程度の距離ならば照準機などなくとも的には当たる。
- 71 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:56:04 ID:hnK84G7E0
デッド・オア・アライブ。
記憶喪失の少女を捕まえに来た男は「生きたまま連れて行く」とは一言も述べていない。
そして、全てを理解した上で彼女は笑っている。
マト^ー^)メ「ああ、あなたは私のことを本当に知らないんですね。知っていないのであれば拳銃を向けた程度で安心していることも納得できます」
( `ハ´)「……何?」
そうでしょう?と彼女は続ける。
マト ー)メ「だって、あなたが放つ銃弾が私に一発も当たらないことは、目に見えている―――」
男は言い返さずにただ引き金を引いた。
それまで銃口を向けていた頭部から瞬時に狙いを変更し急所を避けて銃を撃った。
威嚇ではなく彼女を黙らせるつもりでだ。
その仕事振りは荒事を職業としている者に相応しい容赦のなさだった。
- 72 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:57:05 ID:hnK84G7E0
僕は彼がプロであることを理解し。
また自分が雇った人間があの男以上の能力を持つことを理解した。
外れていた。
マト^ー^)メ「言った通りです」
身体には傷一つもない。
少女は軽く身体をズラしただけで射線から逃れていた。
昼が終われば夜が来ることと同じほど当然に銃弾は当たらなかった。
ただ男の次の行動も早い。
全く動揺することもなく二発目、三発目と撃ち少女を狙う。
対し少女は少しずつ全身しながら躱し続ける。
二発目。
当たらない。
三発目。
当たらない。
銃弾の速度を考えれば避けられるはずがない。
だがそれでも当たるはずのないことは傍から見れば火を見るより明らかだった。
- 73 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:58:04 ID:hnK84G7E0
攻撃を見てから回避に移るのではない。
銃口を向けられる段階、相手が照準を定める段階で既に回避行動が始まっている。
攻撃の前に回避ができる。
それが「未来が見える」ということの何よりの証明だ。
五発目の弾丸を踊るように避けながら彼女は足を蹴り上げた。
床に落ちていたタオルを男の視界を遮るように中空へ飛ばしたのだ。
最早焦りを隠すこともできない敵はそれでも素早く彼女を狙った。
幾度目かの銃声が響いたが、それもやはり大気を揺らし切り裂くだけに終わった。
寸前に拳銃を掴む男の右腕を払い射線そのものを逸らしたのだ。
(;`ハ´)「くそっ!!」
静止は一瞬。
次の瞬間には男は左腕で新たに回転式拳銃を抜き撃つ。
……いや、「撃とうとした」だけだった。
男が銃を抜いたところで彼女はシリンダーを掴み、無力化していた。
口を開き男は何かを言おうとした。
だがそれさえも許されなかった。
繰り出された少女の蹴りが男の股間を強打し、全てが終わった。
- 74 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 03:59:05 ID:hnK84G7E0
*――*――*――*――*
床に倒れた襲撃者の男は股間を抑え悶絶している。
その姿に現れた時のような威圧感はない。
既に二丁の拳銃は少女に奪われ、万に一つにも彼の勝ち目はなくなっていた。
あまりにも酷い光景に僕は訊いた。
(;^ω^)「……いくらなんでもやり過ぎじゃないかお?」
マト-ー-)メ「そうですか? あの状況で攻撃可能で最も防御の手薄な部位を狙っただけです」
そりゃそうだろうよ。
女子には分からんのだろうなあと思っていると彼女が銃を構えた。
咄嗟に腕を掴み止めた。
( ^ω^)「待て。何してるんだお」
彼女は倒れた男に銃を向けていた。
- 75 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 04:00:04 ID:hnK84G7E0
マト゚ー゚)メ「彼は私のことを知りません。私にとって価値がないことは目に見えています」
( ^ω^)「だから殺すのかお?」
マト゚ー゚)メ「ブーンさんにとっても価値がないと思いますが。優しいというお金持ちはヒューマニストなんですか?」
どうやら。
彼女は男子特有の痛みを分からないだけではなく――そもそも人の痛みが分からないらしい。
他人を傷付けることに躊躇いが、ない。
僕はどう言うべきか考え、結局はこう告げた。
( ^ω^)「雇用主命令で殺しはなしだ。できれば傷付けることも。お前だって本当に指名手配犯になりたいわけじゃないだろ?」
マト-ー-)メ「それはそうですね」
( ^ω^)「未来が見えるくせにそんなことが分からないのかお」
マト゚ー゚)メ「未来が見えるから捕まらない自信がありますし、私が正確に見える未来は数秒先までです。分を超えると可能性しか見えません」
( ^ω^)「そういう細かな話はまた後で聞くお。とりあえず銃を下ろせ」
- 76 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 04:01:04 ID:hnK84G7E0
マト゚ー゚)メ「いいんですか?」
( ^ω^)「何がだお」
マト゚ー゚)メ「撃たれますよ?」
何を、と言おうとした刹那に彼女は男を撃った。
銃声に次いで悲鳴が響き渡る。
男に目をやると、腕を撃たれたようで右手から血が流れ出ていた。
そして彼の近くには隠し持つことを前提とし作られた小型拳銃が落ちていた。
股間の痛みに苦しむフリをして取り出していたらしい。
マト^ー^)メ「早速付け加えられた契約条件を破ることになりましたが……この場合は構いませんよね?」
(;^ω^)「……ああ。ありがとう」
端的に礼を述べて僕は続けた。
( ^ω^)「でもトドメは刺さなくていいお。訊きたいことがある」
- 77 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 04:02:03 ID:hnK84G7E0
そうして僕は背後に落ちていたタオルを拾うと倒れたままの男に手渡す。
抵抗する様子はなく、ただ痛みに耐えている。
命を助けてやろうとしている最中に撃ってきたのだから情状酌量の余地は全くない。
が、あんな反則な能力を持つ相手と戦ったことに関してだけは同情はしてもいいだろう。
(;`ハ´)「……なんだ。安いヒューマニズムは自分を殺すぞ」
( ^ω^)「知らないのかお? この世はラブ&ピースだ。一緒に唱えるか?」
結構だ、と苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てる。
命乞いをしないのは覚悟して仕事に望んでいたからだろうか。
( ^ω^)「質問があるお。お前はアイツを連れて行けば金が貰えると言った。依頼人がいるということだお。誰だ?」
(;`ハ´)「答えると思うのか?」
( ^ω^)「バラしたら殺されるのかもしれないが、今吐かなきゃコイツに殺されるお?」
僕は銃口を覗き込んでいる記憶喪失の少女を指差した。
- 78 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 04:03:03 ID:hnK84G7E0
彼女がどういう存在なのかを思い出したのか遂に男は重い口を開いた。
だが。
(;`ハ´)「依頼人は………………あ、?」
( ^ω^)「どうかしたかお?」
(;`ハ´)「依頼をしてきた人間は、会ったはずなんだ。なのに。何故だ――何も、思い出せない……!」
支離滅裂な言葉だった。
錯乱しているか、そうでなければ誤魔化しにも思える振る舞いだった。
しかし僕の見る限りにおいては演技ではなかった。
この男も、記憶を失くしている――?
(;`ハ´)「馬鹿な。顔も見たはずだ、男か女かさえ思い出せないなんてことがあるはずがないのに! くそっ!!」
腹立たしげに無傷の左手で地面を叩く。
彼自身も訳が分からないらしかった。
- 79 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 04:04:05 ID:hnK84G7E0
少し考え、僕は質問を投げ掛けた。
( ^ω^)「引き渡し場所は覚えてるだろ? 報酬を貰う場所でも良いお」
(;`ハ´)「それは……覚えている」
彼の告げた住所を僕はスマートフォンに打ち込む。
こう短期間に何人も記憶喪失の人間を見ると覚えたはずのことでもメモ帳にでも書いておかないと心配になる。
もう一度場所の確認を取り、懐から小切手を取り出す。
胸ポケットのペンで自分の名前を記し金額の欄にゼロをいくつか書いた。
( ^ω^)「ほら」
(;`ハ´)「は……?」
( ^ω^)「情報料だお。腕の治療費にでも当てると良い」
ついでに依頼人から命を狙われる可能性があると思われるので逃走費用として。
流石に皮肉が過ぎると思ったので口には出さず、男のジャケットに小切手を押し込んだ。
- 80 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 04:05:03 ID:hnK84G7E0
行け、と僕は言った。
彼は立ち上がりボウリング場を去ろうとする。
途中何度か振り向いたが、最後には迷いなく走り去っていた。
ボウリングボールを拭く用のタオルで止血していたから雑菌が入っただろうなあと考えていると声を掛けられる。
声の主は無論、彼女だ。
マト゚ー゚)メ「優しいんですね。愚かなほどに」
( ^ω^)「金持ちは優しいと言ったお?」
マト^ー^)メ「そうですか。なら私が色々と言わなかったことも許してくれますよね?」
( ^ω^)「ふざけんなコラ」
小切手の束で頭を叩くとまた少女は「ふみゅ」という風に鳴いた。
全く最悪な月曜だと僕が呟くと、もう火曜日ですよと言ってきたのでもう一度頭を叩いておいた。
マト^ー^)メ「今日が最悪な日だったとしても、でもあなたが引いた私というカードは最高だったと思います」
それは否定できないのが悔しかった。
- 81 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 04:06:03 ID:hnK84G7E0
こうして月曜日は終わり僕と彼女は他人ではなくなった。
僕は彼女を雇い、彼女は無職ではなくなった。
僕と彼女の関係はフィクションにあるような善意に基づいた甘い関係ではない。
相手を必要としていると言えば聞こえはいいものの、それは利用し合ってるということと同義であるのは明らかだ。
しかしそこに信頼関係が全くなかったと言えばそれも嘘ではあるのだが。
尤もこの時には僕にも彼女にもお互いに明かしていない隠したままのことがあったのだけれど―――。
マト ー)メ M・Mのようです
「第二話:憂鬱な月曜日」
.
- 82 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 04:07:03 ID:hnK84G7E0
【現時点で判明している“少女”のデータ】
マト゚ー゚)メ
・名前:本名は不明、現在の呼び名は「ミィ」
・性別:女?
・年齡:不明(外見年齡は15〜17程度)
・誕生日:不明
・出身地:不明
・職業:記憶を失う前は不明、現在はボディーガード
・経歴:不明
・特記:『未来予測』の能力を持ち、限定的ながら未来が見える。精確に予測できるのは数秒先までで一分以上先のことは可能性が見えるのみ。
・外見的特徴:身長160代前半。赤みがかった茶髪。整った容姿。値札の付いたままのニット帽。量販店で変えるような服装。
・備考:
気が付いた時には記憶(エピソード記憶)を全て失っていた。
その当時の所有物は細工の入った銀の指輪のみ。
一人称は恐らく「私」。この国の言語で話しているので海外に住んでいたとは考えにくい。
知識(意味記憶)として一般には知られていない生体兵器についての知識を有する。
人を傷付けることに躊躇いはないらしい。
- 83 名前:名も無きAAのようです :2013/10/12(土) 04:08:09 ID:hnK84G7E0
【現時点までに使われた費用(日本円換算)】
・食事代 約1,700円
・タクシー代 約6,000円
・ボウリング料金 約3,000円
・情報料 約3,000,000円
______
・合計 3,010,700円
【手に入れた物品諸々】
・自動拳銃(ベレッタ M96) 残弾数二発
・回転式拳銃(S&W M610) 残弾数六発
・襲撃者の男が引き渡し場所に指定された場所の情報
- 92 名前:【第二話予告】 :2013/10/31(木) 01:19:27 ID:D8fkVn9g0
「そう言えばブーンさん。一つ思い出したことがありました」
「なんだお藪から棒に。その思い出したことっていうの、お前が頭の螺子を落とした場所だと嬉しいんだが」
「ボウリング場で戦ったことで思い出しました。『私はこういう場所で銃撃戦をするようなエキセントリックなマンガが好きだった』と」
「マンガの話かお! そんな元一流商社のサラリーマンが海賊やってるガンアクションみたいな展開は僕は御免だお。それこそ最悪だ」
「昼間に本屋で立ち読みしましたがとても面白かったです」
「しかも思い出したのって記憶失った後のことじゃねぇかお!!」
「ブーンさんはお嫌いですか?」
「何を訊いてるのかイマイチ掴みかねてるが、少なくとも銃と金があれば天下太平なみたいな世界は嫌いだお」
「じゃあどんな世界が好きなんですか?」
「無論、穏やかな日常が続く世界だお。一緒に唱えろ。この世はラブ&ピースだ」
―――次回、「第三話:Murder Machine」
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