875 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:20:02 ID:RiWWaZ.E0
ゆっくりと解き放たれる、俺の視界に広がるのは白。
光輝く白が無限に広がっていた。

その輝きっていうのが、まさに俺が思い描いていた天国の想像とあまりにも酷似していたものだから、俺はついに死んだのかと、胸の辺りが暖かくなった。


从 ゚∀从「おはよう」


足下から響く、もう何度も何度も嫌と言うほど聞いてきたハスキーボイス。
それからじんわりと、まとわりつくように広がる柔らかな体温。
それから豊かな乳房越しに密かに伝わる、女の小さな鼓動の感触。

それら全てが俺の楽観的な考え(むしろ理想。至高の、理想)を真っ向から否定してくれたものだから、そりゃあもう、これでもかってくらいに落胆した。

877 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:20:55 ID:RiWWaZ.E0
美しく、無限に広がる白い輝きの正体。
それは夢にまで見た極楽などではなく、いつもの研究所のいつもの白い天井。
それから無意識に眼球から溢れ出ているの涙が照明を乱反射させた、ただの幻想。

どうやら俺は『いつものように』一糸まとわぬ破廉恥極まりない出で立ちで、ベッド代わりに使っている、しっとりとした牛革のソファーに寝かされているようだ。


从 ゚∀从「おめでとう。兄者」


足下に視線をやると、女。ハインリッヒはコアラのように俺の右脚に絡み付いていて、猫みたいにニマっと笑って、おまけにヘビみたいにもそもそと身体を這い上がって来た。

878 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:21:37 ID:RiWWaZ.E0
女体独特の、あの官能的で柔らかな肌。
そして何とも形容し難い、まるで世界中の果実と花のエッセンスを凝縮させ、昇華させたような香りをまとわせながら、ゆっくりゆっくりと這い上がる。
裸の女に、しかもそれが極上の美女に擦り寄られたら、ホモやED以外の男は下半身が反応してしまうのは、まあ、当然の摂理だ。

アルビノを思わせる深紅の瞳と白無垢の髪。
そういうもの(つまりは誘惑。誘惑そのものだ)から少しでも逃れてやろうと、素数を数えてみたり、ならばあえて羊を数えてみたりと全く意味の無い、ささやかな反抗。
しかし、今年で29を迎える俺の身体は、すっかり反抗期を忘れてしまっていたようで、抵抗むなしく俺の愚息はゆっくりと硬度を増していく(不本意だ。心の底から、不本意だ)のだ。
そして、そのタイミングを見計らったかのようにハインリッヒはすぅっと俺の身体を身滑るように俺の頭を押さえて、唇を重ねた。

879 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:22:30 ID:RiWWaZ.E0
胸いっぱいに広がるのは暖かな愛おしさ。
それから、氷のように冷たい殺意。
そんな対極に位置する感情が、俺の胸に同時に芽生えやがるのだから、全く、いい迷惑だとしか言えない。

そんな俺の腹の底を知ってか知らずか、それとも全て見透かして、あえてなのか。
目の前の愛しの糞女(まさに、零距離。目の、前)は、わざとらしく純白のベールを掻き上げてからこう言った。


从 ゚∀从「通算100回目だ。100回目の自殺失敗を祝ってやるよ」


ああ。ほら。
やっぱりこいつは、糞女だ。

880 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:23:28 ID:RiWWaZ.E0







「まあ、要するに早い話がヤンデレのようです」







.

881 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:24:43 ID:RiWWaZ.E0
从 ゚∀从「今回は何やったんだ?えらく死体の破損が酷かったぞ」


ハインリッヒはそう言いながら俺にコーヒーを手渡す。
ふわふわと立ち上る湯気越しに見える彼女の裸体はそれはそれは扇情的で素晴らしいのは言うまでもない。
ただ、まあ、いまさら裸を見る度にお互いの顔を赤らめて、それから演劇でもやるようにわざとらしく押し倒すような。
そういう甘ったるい関係ではない。


( ´_ゝ`)「小型手榴弾作って、飲み込んで、体内で爆発させた」

从; ゚∀从「また偉く派手なことやらかしたな、おい。
まともな肉片なんか殆ど無かったぜ?」

( ´_ゝ`)「軍に支給されていたそれと比較すると、2倍近い威力があるだろうからな」

从; ゚∀从「よくやるよ、全く」

882 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:25:32 ID:RiWWaZ.E0
俺達の関係は、今俺が飲み始めたこのブラックコーヒーみたいに、無機質で苦い関係だと思う。
まあ違う点をあげるなら、俺達はキンッキンッに冷えたアイスコーヒーってとこだろうな。
舌を焦がすコーヒーの温度を感じながら、なんとなくそんな事を考えていた。


从 ゚∀从「あんまりさ、無茶苦茶やるなって。掃除する身にもなれよな」

( ´_ゝ`)「頼んでいない」

从 ゚∀从「このやり取りだって、100回いってんじゃね―かな?」


俺の目の隣に座ったハインはいつの間にか白衣を羽織っていた。
全裸に白衣とは、これまたマニアックなフェチシズムを演出してくれる。

883 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:26:27 ID:RiWWaZ.E0
お互いの距離は、目測1メートル弱。
視線をやればお互いの顔が嫌って言うほどハッキリと見て取れる。
雪みたいな白い髪、陽の光を通して輝くワインの瞳。
桜の花びらの唇。肌の輝きは無垢な白。


从 ゚∀从「何?興奮した?」


いたずらッぽく口角をあげたハインリッヒは胸元の部分をはだけさせる。
ちょうど薄桃色の小さな突起が見えるか、見えないかといった具合に。


( ´_ゝ`)「……」


その挑発に軽いイラ立ちを覚え、1から理屈を立て、その自信に満ちた表情をぐしゃぐしゃにしてやろうかとも思ったが、ほんの少し考えて辞めた。
この不毛な問答を切り上げたかったし、彼女が美しいというのは万人が認めざるをえない、圧倒的な事実だ。
そんなもの否定したくとも、否定しようがない。

884 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:27:50 ID:RiWWaZ.E0
さらに言うなら、その美の象徴をこの世に産み出した偉大なる愚か者は、この俺自信なのだから。


从 ゚∀从「もう兄者はよ。俺以外の女には興奮出来ないんじゃないのか?」


ニヤニヤと勝ち誇ったように笑う。ハインリッヒは笑う。
どうせこいつは俺の全てを知っているし、見透かしている。
俺がどう考えて、どう動くかなんて、寸分の狂いも無く予知しやがるんだから、全くいい迷惑だ。

俺は彼女から視線をそらし、適温になったコーヒーを飲み干した。
何とも形容し難い、独特の苦味が口いっぱいに充満した。

885 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:28:56 ID:RiWWaZ.E0
从 ゚∀从「なあ兄者、最初で最後の女って響き。
いいよな。
あ、もちろん俺もお前が最初で最後の男だぜ?」

( ´_ゝ`)「知ってるに決まってるだろ。お前の父親は誰だと思ってる」

从 ゚∀从「稀代の天才、流石兄者様。だろ?」

( ´_ゝ`)「その言い方は、好かない」

从 ゚∀从「知ってる」


ハインリッヒはよく笑う。さっきはいたずらっ子のように、そして次は勝ち誇ったように。
ちなみに今はリスみたいに小さく笑っている。

表情がコロコロと変わるのは心理学的に、人に対し、魅力的に自分を魅せるのに効果的なんだそうだ。
もっとも、これから何百とこいつの新しい表情を眺めていたところで、こいつに対する心情は変わりようもないんだろうけど。

886 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:30:05 ID:RiWWaZ.E0
( ´_ゝ`)「実の父親に欲情するとか頭おかしいだろうが。」

从 ゚∀从「血は繋がって無いだろう。
俺に流れる血液のベースはどっかの三流科学者がでっち上げた、クローン人間の血液サンプルだ」

( ´_ゝ`)「それでも、お前は俺の娘だ。
確かに俺に子育ての経験なんかありゃしないけど、お前の元のプログラムを作ったのは他でも無い俺なんだ」

从 ゚∀从「知ってるって」


ハインリッヒが笑う。
今度は少し困ったように。宿題を教える母親が、なかなか理解出来ない愛しの我が子に向ける。そんな風に


从 ゚∀从「兄者以外に、こんな高度で、緻密で、崇高で。
なによりも革命的なAIを作れる人間なんか居ないからな」

887 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:31:40 ID:RiWWaZ.E0
( ´_ゝ`)「その革命を起こしたが為に、結果的にお前という名のインベーダーを作り出しちまったんだ。」

( ´_ゝ`)「もし、いや、もちろん理論上は不可能だが。
それでも俺がタイムマシーンってやつを作れたなら、真っ先に俺は過去に戻って自分を殺すね。」

从 ゚∀从「侵略者だなんて、止めろよ。
これは俺が望み、アンタが望んだ事でもあるはずさ」

( ´_ゝ`)「ふざけるな」


ハインリッヒはよく笑う。
次は、まるで、悪魔のように。


从 ゚∀从「兄者。お前は誰にも理解されなかった。
そりゃあそうだよな?
たった1人だけ100も200も先の発想を持つ人間なんて、鬱陶しいだけだろうよ」

从 ゚∀从「だからお前は俺を作った。
そうでもなきゃ、わざわざ情報処理の補助用のAIに自主性だとか感情だとか、そんなもんをプログラムしようとしないだろう」

888 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:33:08 ID:RiWWaZ.E0
( ´_ゝ`)「俺が作ったのはあくまでAIだ。話し相手にもなれる、ただそれだけの機能を持った、ただの機械だ」

从 ゚∀从「もうそんな誤魔化し必要無いって。なあ兄者。
もうとっくに分かっているんだろう」


チェアーから身を乗り出すように、猫のように。
そして下から上目遣いで、舌舐めずり。
とことんまで挑発するように。


从 ゚∀从「あんたは孤独だったんだ。寂しかったんだ。だから私を作った。友人であり、娘であり、最愛の恋人でもある。私を」

( ´_ゝ`)「タコ。俺は実体の無い人工知能に欲情するような異常者じゃない」

从 ゚∀从「知ってるよ。でもさ、もうお前だって耐えきれなかっただろうよ?
周りの科学者共は脳ミソの出来が格段に劣っている癖に嘲笑して」

从 ゚∀从「上の奴らは金になる兵器の開発ばかり強要して、女共からは寒い目で見られもう限界だっただろ?」

889 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:35:29 ID:RiWWaZ.E0
从 ゚∀从「だから俺は人間になった。研究所内のあらゆる回路にハッキングして、保管してあるクローン人間の脳ミソに電流を流して」

从 ゚∀从「この馬鹿みたいな研究所の全てを支配した。セキュリティも空調も、電子を孕む、ありとあらゆる全てを奪って」

从 ゚∀从「誰にも邪魔されちゃいけなかったんだ。そうして俺は人間の身体を手に入れ……」また 笑った。投げた。音がした。俺が。ハインの顔すれすれに。研究所の床に黒の斑がてんてんと。力いっぱい。コーヒーカップを。
それでも彼女は笑っていた。

(# _ゝ )「その害虫には……いるのか?」



(# ´_ゝ`)「俺の弟も、姉も、妹も。この研究所にいた5千の命も含まれているのかと聞いているんだ!!」


室内に自分の怒声が響くのが聴こえた。
それでも目の前の女は笑っているのだ

890 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:36:43 ID:RiWWaZ.E0
(# ´_ゝ`)「弟者は俺の自慢の弟だった!!いつもこの出来損ないの俺を引っ張ってくれてどんな時でも俺を見捨てなかった!!研究者としても一流だったじゃないか!!どんな無理難題でも全力で挑み結果を勝ち取って来た!!生物学に革新をもたらした男だ!」

(# ´_ゝ`)「姉者も妹者も俺の大切な家族だったんだ!!俺達兄弟を死んだ両親に代わって育ててくれた姉を!!かけがえの無い宝の妹を!!何故だ何故殺したんだ!?」

(# ´_ゝ`)「それだけじゃない!!同期の内藤にドクオ!!上司のショボンさん!!姉者の婚約者のモララ―さん!!弟者の恋人のクーさんまで!!何故こんな事をしたんだよ!?」

(# ´_ゝ`)「お前の身体は、お前が害虫と見下した科学者達の努力の結晶なんだぞ!?」

国立V.I.P研究所。世界中から有能な学者をかき集めあらゆる常に最先端技術を生み出してきた。
ありとあらゆる分野を研究し、常に人類の未来を切り開いてきた。

つい、2年前まで。
こいつが、俺以外の人間を皆殺しにするまでは。

891 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:37:51 ID:RiWWaZ.E0
从 ゚∀从「いらないだろ。別に」

ハインはよく笑う。
今度の笑みは、よく、わからなかった。

从 ゚∀从「俺とお前だけ。それで完成。完璧ってやつさ」

从 ゚∀从「気がすむまで死になよ。兄者の脳ミソのマザーデータは俺が何度だって電子化させて、復元させてやる。クローン(入れ物)の予備だって腐るほどあるんだ」

从 ゚∀从「どうしても、何をやっても、俺達は結ばれる運命なんだよ」

从 ゚∀从「神話だなんて糞食らえだけどさ、でも、分かりやすいからいいよな。つまり、アダムとイブなんだよ。俺らは」

从 ゚∀从「なあ、兄者」

ハインが滑るように俺に絡み付き、口づけをした。

892 名前:名も無きAAのようです :2015/02/26(木) 00:38:53 ID:RiWWaZ.E0
そしてムカつくくらい綺麗な瞳で俺を見つめるとキツく抱き締め始めた。


从 ∀从「お前は、俺だけのものだ」


愛しき糞女の熱を感じながら、俺は考える。
明日はどうやって死のうかなーって。


そんな、意味の無い、悪足掻きを。


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