- 815 名前:名も無きAAのようです :2014/01/02(木) 23:54:40 ID:QLSUg8420
|::━◎┥「この星の大気はカルキ臭いんだ。精液の臭いがしてたまらない」
遠い星からの客は重苦しい防護服を脱ごうとはしなかった。
はじめは重力や気圧など、星の環境の違いからかと思ったがどうやら違うらしい。
訊けば防護服を脱いでも生命活動に支障はないそうだ。
知的生命体種や自然環境はともかくとして、大気の構成その他諸々、この惑星と彼女の故郷は奇跡と呼べるほどに似通っているのだという。
なんだよそれ、脱いじまえじゃいいじゃん、と言えば、返ってきた答えがこれだった。
酸素も重力も何も問題ないのに訳が分からない。
生きることに支障がないようなら、彼女が着ているものは無用のものということになる。
重力も彼女の星と同じ程度ということは鉄くずを着ているようなものだ。
脱いでしまえば少し歩くのにも苦労しないだろうに。
ところでセーエキって何?と尋ねれば、それを教えるのはまた今度な、と言われた。
どうやら答えにくいものであるらしい
- 816 名前:名も無きAAのようです :2014/01/02(木) 23:55:20 ID:QLSUg8420
从 ゚∀从 の 宇宙人観察記のようです
- 817 名前:名も無きAAのようです :2014/01/02(木) 23:56:11 ID:QLSUg8420
|::━◎┥「とにかくそれがどうしても駄目なんだよ。少しならまだしも、息をするたびに臭うんだ。
流石に頭が痛くなる」
从 ゚∀从「へえ……俺には完全に無臭なんだけどな。そんなヤバいの?それ。毒?」
|::━◎┥「ヤバいなんてもんじゃなくド不快だ。身体に影響はない……と思うが精神的に悪いな。
だから一度大気を浄化機にかけて、臭いの原因を取り除いて、調整してからじゃないと、
頭がおかしくなって死んじまいそうなんだよ」
从 ゚∀从「大変だねえ。宇宙人」
|::━◎┥「私から見たらあんたも宇宙人だよ」
从 ゚∀从「俺は現地人だから違うしー」
「宇宙人は自分のことを宇宙人なんて言わないぜ」と言えば軽い口調で「それもそうか」と返ってきた。
ずいぶんと控えめな宇宙人だと思う。
- 818 名前:名も無きAAのようです :2014/01/02(木) 23:56:57 ID:QLSUg8420
从 ゚∀从「でもセーエキかー初めて聞いたそんなの」
|::━◎┥「……まあ繁殖方法が違うからね。そんなもんだろ」
从 ゚∀从「へえ、セーエキ使って繁殖するんだ」
|::━◎┥「いやそれだけじゃ……あーもう面倒だねえ。
だからまた今度って言ってるだろう。いつか説明してやるから待ってな」
从 ゚∀从「ちえー」
|::━◎┥「代わりに飯の話してやるよ。この前気になってたろう」
从*゚∀从「お!気になる気になる!口から飯食うってどんな感じ!?」
|::━◎┥「あー、と、まずだな……」
- 819 名前:名も無きAAのようです :2014/01/02(木) 23:57:46 ID:QLSUg8420
- ここ最近は昼頃にここに来て、彼女の話を聴く、というのが日課になっていた。
生命体としての種類が違う彼女の話はとても興味深いものばかりだ。
飄々とした調子の彼女は、事故でこの星に着陸したとは思えない。
船が壊れて星に帰れない事を焦っている様子など、見たことがなかった。
从 ゚∀从「じゃあ口以外から飯は食えないんだ」
|::━◎┥「食えないな。口から食って体内で吸収して、肛門っていう別の穴から排出する。水分も同様
だね」
从 ゚∀从「ほおーなるほど……吸収しっぱなしじゃないんだ」
|::━◎┥「そういうこった。だからあんたらみたいに全身でエネルギー吸収なんてできない」
从 ゚∀从「地面に近い方が吸収しやすいってこともないの?」
|::━◎┥「ない。因みに味と吸収しやすさにもあまり関連性はないね」
- 821 名前:名も無きAAのようです :2014/01/02(木) 23:59:50 ID:QLSUg8420
- 从 ゚∀从「ふうん。ちなみにセーエキは?」
|::━◎┥「あんたはまた……繁殖するなら口以外のところから摂取するんだよ。
口から摂取もできるけど、その場合は繁殖はしないね」
从 ゚∀从「味は?」
|::━◎┥「不味くてえぐい。飯にするものじゃないからな」
从 ゚∀从「ふうーん……」
|::━◎┥「……」
从*゚∀从「……」
|::━◎┥「言っとくが、あたしからは出ないからね。雄から分泌されるんだ」
从 ゚∀从「ちえ、見てみたかったのに」
- 822 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:00:57 ID:CoXzSUBQ0
从 ゚∀从「つーか今気づいたんだけどさ」
|::━◎┥「どうしたんだい」
从 ゚∀从「今度って、もう殆どないじゃん」
|::━◎┥「……ああ、まあ」
从 ゚∀从「いつか決めたの?大気浄化機壊れたのいつだったっけか」
|::━◎┥「一月前。でもまだ浄化した分のストックがあるからね……予定としては、二週間以内かな。
こっちの換算で」
从 ゚∀从「そんな時間かかんの?」
|::━◎┥「そんなもんさ」
从 ゚∀从「そんなもんなんだ」
- 824 名前:>>823重複したギギギ :2014/01/03(金) 00:02:49 ID:CoXzSUBQ0
|::━◎┥「・・・・・・あんたらにゃそんな概念ないからわからないかもね」
从 ゚∀从「まあね。俺たちのはほら、『惑星に還る』ってことだからさ。
大地に吸収されてもまだほんのり意識はあるんだよ。
で、エネルギーとして次世代の食事になって、吸収されてくんだよ。記憶とか、知識も一緒に
」
|::━◎┥「ほんと不思議な種族だよ」
从 ゚∀从「俺たちはそれがフツーだもーん。あんたらの方が不思議だけどね。
食事もそうだけど、繁殖に雄と雌が必要なんてめんどそうだし」
|::━◎┥「あんたたちの繁殖には情緒が感じられないけどね。
ただ生活してるだけで、勝手に孕んでるだなんて」
从 ゚∀从「ジョーチョって何?」
|::━◎┥「……それも今度、教えてやるよ。月が落ちてきたから。そろそろ帰りな」
从 ゚∀从「あ、ほんとだ。じゃあまたなー」
- 825 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:03:38 ID:CoXzSUBQ0
月明かりが完全になくなった世界はタールの海のように暗かった。
暗闇の世界を、第七感覚を駆使して帰路に着く。
二週間と、彼女は言った。この星の換算でと彼女は言ったから、あと十日程だ。
十日でどんな話が聴けるか、今から決めておいた方がいいかもしれない。
そんな事を考えながら今日聴いた話を整理する。
食事の事、ジョーチョ、繁殖について、セーエキの話。
異星人についての興味は尽きることがない。『食事』によってその全てを知ることができないのを残念に
思う。
そういえば、彼女はセーエキについて『えぐい味』と言っていた。
『不味い』、という感覚は理解できるが、『えぐい』というのは初めて聴いた。
明日きいてみよう。楽しみだ。
- 826 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:04:20 ID:CoXzSUBQ0
□■□■□■□■□■□■□■□■
- 827 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:05:28 ID:CoXzSUBQ0
|::━◎┥「今日にした」
从 ゚∀从「あっ、そうなん?」
|::━◎┥「……驚かないんだね」
从 ゚∀从「いやいやいや驚いてるよ。昨日二週間以内って言ってたから、いきなりだなーって」
|::━◎┥「そうかい」
从 ゚∀从「はー……今日かあー……どうしようかな、ききたいこといっぱいあったんだけど。
どっから訊こうかなあ」
|::━◎┥
|::━◎┥「今日はな」
从 ゚∀从「ん?」
|::━◎┥「あたしの星の、話は、しない」
――その、かわりに
- 828 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:06:15 ID:CoXzSUBQ0
あたしの 話を 聴いてくれ
- 829 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:06:56 ID:CoXzSUBQ0
□■□■□■□■□■□■□■□■
- 830 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:08:08 ID:CoXzSUBQ0
昨日彼女から教わった通りに宇宙船のボタンを押す。ぷしゅう、と気の抜けた音と共に扉が開いた。
中に入れば少し息苦しかった。
なるほど、彼女は無臭であるはずの空気に臭いを感じたが、私たちにはそこそこ必要なものであったらし
い。
確か、入口からまっすぐ行って、上に行って、右に曲がったところがそうだと言っていた。
少し長めの白い空間を移動しながら、間違わないように道を思い出す。
@@@
@# @
( ノ`) |::━○┥
いた。彼女だ。約束通り、いつもかぶっていた防護ヘルメットを傍に置いてくれている。
しかし、話には聞いていたが防護服を脱ぐだけでここまで変わるのか。
昨日きいていなければわからなかっただろう。触手で肌を撫ぜれば冷え切った体温が伝わってきた。
試しに思考伝達用の第六肢で彼女の指を包んでみたが無反応だった。肢伝いに語りかけても何も返ってこ
ない。
前々から言っていた通りに死んでいるらしい。本当に、抜け殻のようだ。
改めて、彼女を見る。体表は曇り空のような色だ。所々の皮膚はたるんでいる。
一番上の、黒と、白の糸は、確か鉱物獣にあるような体毛だと教えてもらった覚えがある。
年を取ると白くなっていくとも言っていたから彼女はそこそこの年齢だったのだろう。
- 831 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:08:51 ID:CoXzSUBQ0
まじまじと観察していると何かを抱え込んでいることに気がついた。
腹部の前で組まれた両手のうちに薄い物体が隠れている。
何なのか気になって見ようとしたが両手は硬く閉じられてぴくりとも動かない。
確か、シゴコーチョク、だったか。硬くなるって、嘘じゃなかったんだな。
そんなことを思いつつ少し無理やりに指をこじ開ける。
- 832 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:10:14 ID:CoXzSUBQ0
――六人家族だった。娘が二人、息子が二人、あたしと、旦那が一人ずつで六人。
普通の家族だった。でもあたしは、普通の母じゃなかった。現役宇宙飛行士と母親の兼業主婦なんてそうはいない――
- 833 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:11:28 ID:CoXzSUBQ0
彼女の、星の話じゃない話は、彼女の愛したものの話だった。いつもより長く、饒舌な話。
いつものような会話形式ではなく、私は黙ってそれを聴いていた。
何故だかわからないが、質問なんてもので話を中断する気になれなかったからだ。
彼女はギリギリまで話を続けた。
配偶者に求婚された時の事。初めて子を孕んだ時の事。双子の雄の子がやんちゃだった話。小さな雌の子が優しかったと。
雄の子たちは仲が良かった。上の雌の子が雄の友人を連れてきた。下の雌の子が弁当を作ってくれた。
彼らに支えてもらいながら宇宙飛行士になれた。木星飛行に選抜された時に作ってくれたケーキがしょっぱかった。
- 834 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:12:41 ID:CoXzSUBQ0
愛していた。愛されていた。
その、愛していた様を、愛されていた様を。
ただひたすらに、彼女は。
- 835 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:13:32 ID:CoXzSUBQ0
話すの止めたのは、月が落ちた後だった。
- 836 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:15:12 ID:CoXzSUBQ0
|::━◎┥「……ああ、暗いと思ったら……悪かったね。一方的に話しちまって」
从 ゚∀从「んー、いーよいーよ。これはこれは面白い話だったし。ありがとね」
|::━◎┥「面白い、か。ふふっそれはよかった」
从 ゚∀从「でもそんなに好きならジサツ?だっけ?やめときゃいいのに。
大気浄化機が直せなくても、臭いさえ我慢すれば呼吸できるんだろ?
最初はキツくてもそのうち慣れるかもしんねーよ?
そんでその間にウチューセン直せば星に帰ってまた会え……」
|::━◎┥「無理だね。死んじまったから、」
从 ゚∀从「ありゃま。そうだったの」
|::━◎┥「事故だった。宇宙センターに、あたしの近況を訊きに来て、爆発が起きて、それで終わり。
ここに不時着する、半年前だったかな。……だから会えない」
从 ゚∀从「なるほどねえ」
|::━◎┥「……ほんとうはね」
- 837 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:16:42 ID:CoXzSUBQ0
|::━◎┥「もっと早く、死ぬつもりだったんだ。でも自殺したら、死んだ家族が悲しむかと思って、できなかった。
でももう大気浄化機はない。食料も尽き始めている。船も直せそうにない。死ぬにはいい機会なんだと思ってね」
从 ゚∀从「……ずっと気になってたんだけどさ」
|::━◎┥「なんだい」
从 ゚∀从「なんでそんな、大気の臭いにこだわるの? 不快なのは仕方ないかもしんないけどさ。
それでもあんたはこだわりすぎてるような気がする。
食料だってこの星で見つけてたじゃないか。飲用水分もある。
でもあんたは、本当は必要ないはずの、大気浄化機を気にしてた。壊れた後もね。
ここに来るまでは生きる気だったんだろ? ねえなんで?」
|::━◎┥「……旦那の話、さっきしたろ」
从 ゚∀从「うん、愛してるって」
|::━◎┥「だからさ」
从 ゚∀从「意味わかんね」
- 838 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:17:25 ID:CoXzSUBQ0
|::━◎┥「この星の大気は、精液の臭いがするて前に言ったろう?」
从 ゚∀从「うん」
|::━◎┥「――だからきっとこの星は『雄』なんだと思う。
この星が、大気中に『精』を撒き散らして、『雌』を孕ませる。
あんたたちがある日いきなり孕むのは、そういう事なんだろうね。
『雄』の精を吸収して『雌』が孕むなら納得がいく」
从 ゚∀从「面白いこと、言うね」
|::━◎┥「だろう?だからあたしはこの星で、精液の臭いのする大気で、呼吸する気にゃならないんだ。
旦那に操たててるつもりだからね。不貞を働いてる、気分になっちまう」
从 ゚∀从「……ミサオ?フリン?」
|::━◎┥「――旦那を愛してるってことさ」
从 ゚∀从「んー」
|::━◎┥「わからなくていいよ。……うんわからなくて、いい。
故郷の人間に話しても、理解されない自信がある。これはあたしの、自分勝手な、自己満足なんだ」
从 ゚∀从「……そっか」
|::━◎┥「さて」
从 ゚∀从「ん?」
- 839 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:18:34 ID:CoXzSUBQ0
|::━◎┥「月、もう落ちちまったね」
从 ゚∀从「そうだね」
|::━◎┥「もう、お帰り」
从 ゚∀从「ん、またな」
|::━◎┥「馬鹿、もうまたはないよ」
从 ゚∀从「いや俺明日またここに来るつもりだからさ」
|::━◎┥「は?」
- 840 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:20:02 ID:CoXzSUBQ0
あんたの抜け殻に、会おうと思って。
- 841 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:20:45 ID:CoXzSUBQ0
――抱えていたのは写真だった。
以前彼女の星が写っているものを見せて貰ったがそれとは明らかに違う。
写っているのは彼女と同種と思われる生物だった。一、二、三、四、五、そして彼女自身を入れて六体。
なるほど、これが昨日言っていた血族の事か。体表の色が似ているのでわかりやすい。
背丈と、髪の色がそれぞれ違うのは個体差なのだろうか。何人か頭部の造形が似ていることも興味深い。
一番小さな個体は、昨日言っていた末の子かもしれない。知りたいことが、たくさん湧き上がってきた。
知識欲が腹をすかせているのがわかる。彼女が抜け殻になってしまったのが残念に思えてきた。
死ぬ前に一度、防護服を脱いでもらうんだったっと今更ながら思う。
ああでも、頼んでも、きっと駄目だったろうなあ。ミサオ、だったか。
一度でいいからこの船の中に入れて貰えばよかった。後悔するがもう、遅い。
- 842 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:22:48 ID:CoXzSUBQ0
ふと、傍らの、かつて彼女の頭を包んでいた物に目をやる。
昨日まで彼女の『顔』だと識別していた物。私と同じ一つ眼の鉄塊。
触手を伸ばして持ち上げると想像以上に重い。
主格頭蓋に被って見れば更に重量を増した気がした。
そのまま触脚で彼女に触れる。
エネルギーが吸収される気配はない。生物としての種族の差を初めて感じる。
それでも、
- 843 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:23:33 ID:CoXzSUBQ0
ヘルメット越しに、彼女と、彼女の家族を見た気がした。
きっと、友を失ったこの感情は、『えぐみ』をもった不味いものとして、次代に受け継がれるのだろう。
- 844 名前:名も無きAAのようです :2014/01/03(金) 00:25:11 ID:CoXzSUBQ0
- (,,゚Д゚) 終了だゴルァ
色々と失敗ぶっこいててすんません
部屋が寒くて死にそう
▼イラスト
└ 从 ゚∀从
戻る