- 253 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 21:45:27 ID:NXe01aQA0
- 『っこちら第一部隊! 捕獲が不可能と判断! 至急特別班への任務移行を要求する!』
流れてきた声を聞いて、少女は手に持っていた無線の電源を切ると立ち上がった。
被っていたキャップのつばを直し、ビルの屋上から夜の街を見下ろす。
川 ゚ ー゚)「来たぞ、獲物が」
そう言って笑いながら、少女――クーはホットパンツのポケットからメタリックに輝く携帯電話を取り出した。
通話ボタンを押すクーの瞳には、フードを目深に被って駆け回る一人の男の姿が映っていた。
TWISTERのようです
- 254 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 21:47:16 ID:NXe01aQA0
- 走る、走る。
眠りに沈む街の中を、男が走る。
灯りも届かない暗い路地裏の、ごみ箱を蹴飛ばすと足が縺れて舌打ちした。
よろめいた体は壁に手を着いて持ち直して、悲鳴を上げる足を必死に動かした。
川 ゚ -゚)「ワカッテマス、25歳。目が合った者の身体の自由を奪う能力を持つ」
通話する右腕はそのままに、クーは風に弄ばれる自分の長い髪を鬱陶しげに払った。
川 ゚ -゚)「自分の妻を自宅で殺害、その後第一から第三部隊が挑戦するも捕獲失敗。特殊能力持ちの為こちらに任務移行となった」
走っていた男が、ある一つの角を曲がった。
それを見たクーは、唇をニイと三日月に吊り上げた。
川 ゚ ー゚)「生け捕りが絶対条件。以上だ」
『……――』
返答を聞くと、クーは電源ボタンを押して通話を切った。
- 255 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 21:48:50 ID:NXe01aQA0
- 携帯電話をポケットに仕舞って、肩から力を抜く。
眼下に広がる街並みを一瞥してから、トントンとその場で軽く跳び始めた。
ぴゅう、一際強く風が吹く。
その風が吹き去った頃に、クーは飛び降りて屋上から消えた。
―
走っていた男――ワカッテマスは、ふと違和感に気が付いた。
何か、しゃりしゃりと音がする。遠い場所ではない。ずっと身近に、自分と共にある音だ。
背後を一度だけ振り返って、誰もいないことを確認するとワカッテマスは立ち止まって自分の靴底を見た。
靴底には、不自然な蛍光イエローの、砂のようなものが付いていた。
( <●><●>)(追跡用か)
- 256 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 21:52:28 ID:NXe01aQA0
- ( )「初めまして」
先程までいなかったはずの背後から声がして振り返る。
淡い月の光に照らされて立っていたのは、緩くカールされた金髪のツインテールが特徴的な、可愛らしい少女だった。
ζ(゚ー゚*ζ「こんばんは。デレっていいます。あなたを捕まえに来ました、ワカッテマスさん」
( <●><●>)「……ッ」
ワカッテマスの黒い、洞穴のような瞳が、真っ直ぐに少女を見た。
デレの華奢な体がびくりと震えて、茶色の瞳が苦悶で彩られる。
これまで幾度となく見てきた馴染みの光景に、ワカッテマスはほっと安心から息を吐いた。
しゃりしゃりと鳴る靴は、砂の取り方が分からない為そのままだ。
ワカッテマスはゆっくりと歩いて体を硬直させたデレに近付くと、その小さな頭を両手で掴んだ。
( <●><●>)「会って早々ですが、さようなら、です」
両手にぐっと力を込めて、あらぬ方向へと捻る――はずだった。
- 257 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 21:55:13 ID:NXe01aQA0
- (;<●><●>)「ッ!?」
掴んでいたはずの頭が、靄のように消えた。
力が入っていた両手は何も無い空間を掻くだけだ。
ζ(゚ー゚*ζ「なるほど、そういう方法で私達の上司を殺していたわけですね」
すぐ耳元から聞こえたその声に、ワカッテマスは腕を横に薙ぎながら勢いよく振り返った。
それよりも早く先に飛んで距離を取っていたデレが、「きゃあ」と棒読みの悲鳴を上げながらにっこりと笑んだ。
ζ(゚ー゚*ζ「怖いことしますねえ。未来ある若者を殺さないで下さいよ」
( <●><●>)「……自分を捕まえようとする人とは相容れませんからね」
ζ(゚ー゚*ζ「だからって殺さなくてもいいじゃないですかあ、極論すぎるでしょう」
- 258 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 21:57:04 ID:NXe01aQA0
- ( <●><●>)「……君、は」
( <●><●>)「一体、何をしました?」
ぎっ、と音を立てそうなほど、ワカッテマスの鋭い瞳がデレを睨み付けた。
それを真正面から見据えたデレは、目が合っているにも関わらず。
自由に動いて、笑って見せた。
ζ(゚ー゚*ζ「さて、何でしょう?」
擦り切れたスニーカーがくすんだアスファルトを蹴った。
助走を付けて飛び上がったワカッテマスの腕が、こちらを見たまま動かないデレを地面に押し倒そうと後ろに大きく引き付けられた。
下降し始めた体の勢いを利用して、持ち得る最大の速さで後ろに引いた腕を前に突き出す。
だが、またしてもそこからデレの姿は掻き消えた。
何も無い地面に着地して振り返ると、余裕の笑みを浮かべたデレが手を振っている。
完全に嘗められたその態度に眉を顰めたが、顔の向きを元に戻すと背後のデレを置き去りに走り出した。
「あっ」と気の抜けた少女の声が聞こえて、少しだけ出し抜いてやったと気分が良くなった。
走って行ったワカッテマスの背中を見ながら、デレはジーンズジャケットのポケットから携帯電話を取り出した。
ワンプッシュである番号を呼び出して、耳に当てる。
- 259 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 21:59:01 ID:NXe01aQA0
- ζ(゚ー゚*ζ「こちらデレ、ターゲットはG方面へ逃走中」
『――了解』
短い会話だが、これだけで全て伝わる。
デレはそう判断して、通話を終了しようとした。
『ああ、デレ』
一度耳から遠ざけた機械から忘れていたように音が聞こえて、慌てて耳に戻した。
「うん?」と続きを促すと。
『遊び過ぎだ』
笑い混じりの相手の声が聞こえて、デレも微笑みながら「ごめんねー」と謝った。
―
じゃりじゃりじゃり。
(;<●><●>)「クソッ」
- 260 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 22:00:53 ID:NXe01aQA0
- 苛立ちで毒づいてから、柄でもないとワカッテマスは唇を噛み締めた。
靴底の砂の音は取れるどころか、ますます音を大きくして存在を主張するばかりだ。
これでは追跡が無くなることがない。だが、かと言って靴を脱ぐわけにもいかない。
どうすることもできないことのもどかしさが心中に湧き上がった。
( ,,゚Д゚)「そう怒ってもいいことねえぞ、ゴルァ」
目の前に、少年。
驚きで走行を急停止したワカッテマスは、いつの間にか雑念に支配されて辺りへの警戒を怠っていたことを悔やんだ。
顔に二本、切られたような傷を持つ少年は、徐に手に持っていたペットボトルの蓋を開けて中の水をばちゃばちゃと零した。
何の変哲もないただの水は、ワカッテマスの怪訝な視線を受けながら、重力に従って落下し――地面に広がる直前で、その動きを不自然に停止した。
( <●><●>)「水、が……!?」
( ,,゚Д゚)「ギコだ。特殊能力持ちはお前だけじゃねえ」
ワカッテマスがギコと目を合わせようとした瞬間、彼らの視線の間を水が立ちはだかった。
水で透けた向こう側に、ギコはいる。だが、その動きを封じることはない。
(;<●><●>)「!」
- 261 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 22:02:33 ID:NXe01aQA0
- ( ,,゚Д゚)「やっぱりな!」
そう言うなりギコは水で作ったアイマスクで自分の目元を覆うと、もう一本取り出したペットボトルから水をぶちまけた。
落下運動に逆らって、水はギコの指示の元にワカッテマスに襲い掛かる。
拳の形で迫りくる水の塊を左に避けるが、掠った頬には何故か熱さを感じて瞠目した。
( ,,゚Д゚)「水蒸気は熱いだろ?」
そう言われて、水だと見くびっていた自分を叱咤した。
( <●><●>)(だが、限りがある)
ワカッテマスはギコが腰に着けているウエストポーチに気が付いていた。
ウエストポーチにはそこまで量は入らない。ましてや500mlのペットボトルだ。せいぜい入っていてあと一、二本だろう。
一か八かだ、とワカッテマスは息を吸うと――駆けた。
真正面から迷うことなく走ってくるワカッテマスに、ギコは水、水蒸気と更に氷を繰り出して進行を妨げようと操った。
だが、なかなかうまくいかない。ワカッテマスは熱くても冷たくても、それら全てを強力な腕力で以て全て薙ぎ払う。
ギコは小さく眉を顰めて、片手を後ろに回してウエストポーチから新たにペットボトルを取ろうとした。
- 262 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 22:04:17 ID:NXe01aQA0
- その瞬間が、ワカッテマスの狙ったところだった。
ハッと気が付いた時には、ギコの眼前にワカッテマスの大きな手が迫っていた。
しかし。
大きな爆発音が耳に、強烈な熱がワカッテマスの手に突き刺さった。
衝撃でたたらを踏んで、脳に訴えかけてくる熱の根源を辿ると、手は激しい火傷と血を流していた。
( ,,゚Д゚)「水蒸気爆発はお気に召したか、ゴルァ」
水のマスク越しに笑うギコに、カッと頭に血が上った。
最早何も考えず、怪我していない左手でギコに掴みかかる。
何の策も無い単調な動きは避けるのには容易かった。
ギコは動きを避けられてつんのめったワカッテマスの背後に氷の柱を形成すると、それでワカッテマスに背中をドンと押した。
されるがまま、ワカッテマスは冷たいアスファルトに無様に倒れ込んだ。
( ,,゚Д゚)「さて、と」
新しく開けたペットボトルで氷を作ってワカッテマスの足を固定し、携帯電話で通話ボタンを押す。
だが、その着信音はすぐ傍から聞こえてきた。
- 263 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 22:06:50 ID:NXe01aQA0
- 陽気なプリセットの電子音が、ワカッテマスが倒れ込んだ先の路地から聞こえてくる。
川 ゚ -゚)「ああ、お疲れ」
その音を響かせて出て来たのはクーだった。
新手、と体を強張らせるワカッテマスを視界の端で見ておきながら、ギコは密かにクーの目元にも水を張らせてアイマスクを作った。
川 ゚ -゚)「さて、ここまで逃げてくれてありがとう、ワカッテマスくん。おかげで良いテストができた」
( <●><●>)「テス、ト……?」
川 ゚ -゚)「そう。デレとギコの入団テストがね」
(;<●><●>)「何を、言って……!」
川 ゚ -゚)「ご覧」
- 264 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 22:08:42 ID:NXe01aQA0
-
歌うようにクーが言い、ワカッテマスがクーの指し示す方向を見上げると。
立ち並ぶビルの屋上から、数えきれないほどの人影がワカッテマス達を見下ろしていた。
川 ゚ -゚)「幻術使いのデレに、水使いのギコ。君達の入団を認める。ようこそ、特殊能力取扱特別機動班へ」
クーのその言葉に、いつの間にか合流していたデレとギコは笑い、ワカッテマスはその場で項垂れた。
TWISTERのようです・終わり
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