205 名前:名も無きAAのようです :2013/12/19(木) 23:35:19 ID:gW4nSKug0


あるじの手から離れた筆が、畳を転げた事にすら気づかなかった。


墨を含んだそれがころころと半円を描くに至って、ようやく自分が筆を取り落とした事を認識する。
隣に座した兄者が苦笑しながら拾ってこちらへ向けたそれを、未だ茫然としたまま受け取った。


( ´_ゝ`)「何も其処まで動揺しなくたって良いだろうに。お前は俺と同い年だろう?」

柔らかく笑う兄者が、普段より更に壁一つ遠い存在のように思えた。


 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「急な話で驚くのもわかるが、お前さんだってもう年頃だからねえ。
可愛い嫁さんの一人や二人、父さんとしちゃ用意してあげたかったんだよ」


其う云う話じゃないだろう、と声のない喉で叫ぶ代わりに筆を握りしめた。


筆。俺の思いを伝える唯一の道具。使い古した大事な相棒。
これ無しに俺の事を多少なりとも察してくれるのは、目の前にいる家族達だけだ。

里に生まれていたならば棄てられるか殺されるだけだったであろう俺が
曲がりなりにも子として認識して貰えたのは、この家に生まれたからという幸運の為に他ならない。


今はもう誰の目にも映らなくなっている、掌の中の筆を見遣る。
姿無き身の俺に嫁だなんて、という呟きは、紙に書かれぬまま誰にも認識されずに消えていった。



( <_  )光明は遠い陽炎のようです


ネタ捨て場で読みたい作品を見つけてカッとなって書いた。
元ネタ↓
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/internet/13029/1321773682/116-124
元ネタの人が本編を書いてくれたら、弟者視点の前日談として書く。


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