- 920 名前:レスありがとう、投下します :2014/08/24(日) 19:01:34 ID:QK7GQxO.0
- こうしえん〔カフシヱン〕【甲子園】.
1.兵庫県西宮市の地名。高校野球が行われる甲子園球場の所在地。
地名は、野球場が完成した大正13年(1924)が甲子(きのえね)の年であったことによる。
2.「甲子園球場」の略称。
3.「選抜高等学校野球大会(春の甲子園)」
「全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)」の通称。 「―を目指して猛練習する」
4.転じて、各種の全国高校コンクールのこと。また、一般に全国大会のたとえ。「食の―で優勝する」
- 921 名前:名も無きAAのようです :2014/08/24(日) 19:03:03 ID:QK7GQxO.0
- ――というのは国語辞書の中の話であるが、これに載っているほど甲子園というのは簡単に行けるところではない。
いや、行くだけなら梅田から阪神電車に乗れば数十分で着くのだが。
ユニホームを着て甲子園の土を踏めるのは1年に882人だ。
都道府県1つにつき原則1チーム。
1チームにつき18人。そんな狭き門だ。
夏の県大会で優勝できなければ土を踏むことすら叶わない高校球児の夢舞台――甲子園。
その切符が、今まさに僕の手の中に降ってこようとしていた。
( ;^ω^)「……」
マウンドには僕。バッターボックスには2アウトからの逆転をもくろむ打者。
そしてそのすぐ後ろには僕の球を一身に受け続けてきた毒尾のミットがあった。
- 922 名前:名も無きAAのようです :2014/08/24(日) 19:03:57 ID:QK7GQxO.0
- 美府県夏の野球大会決勝戦。
スコアは4−1でこちらのリード。
あとひとつアウトを取れば優勝。
ストライクは2つ。ボールも2つ。
ランナーは、いない。
そんな簡単な短文が僕の頭の中を駆け巡る。
白球を持つ右掌がにわかに汗で湿っているような気がする。
( ^ω^)「よし!」
グラブを頭の上に大きく振り上げ、毒尾のミットをめがけて全力で腕を振るう。
白球が糸を引くように飛んでいく。打者がバットを渾身の力で振るう。
――しかし、そのバットが白球を捉えることはなかった。
- 924 名前:名も無きAAのようです :2014/08/24(日) 19:05:05 ID:QK7GQxO.0
- 一塁側の学校応援席が大いに沸く。
僕は右手の人差し指を突き上げる。
チームメイトが駆け寄ってくる――。
(*^ω^)「うおおおおおおおおおお!!!!!!」
歓喜の渦の中、僕たちは甲子園への切符をつかみ取ったのだ。
- 925 名前:名も無きAAのようです :2014/08/24(日) 19:06:31 ID:QK7GQxO.0
-
そして、その次の日。
- 926 名前:名も無きAAのようです :2014/08/24(日) 19:07:30 ID:QK7GQxO.0
- (;^ω^)「おー……つっかれたー……」
('A`)「昨日の今日で終業式なんてサムイタイミングだよなぁ」
県大会を制覇した次の日とは思えないテンションで廊下を歩く。
昨日の試合を一人で投げぬいた投手の内藤と捕手の毒尾だ。
流石に終業式とはいえ、テンションの上がった校長の話を長々ーっと
聞かされてはこちらのテンションはそれに反比例するというものだ。
爪'ー`)y‐ 「いよう。ヒーローたち。しけたツラしてんなあ」
そんな2人が教室に入るなり話しかけてきたのはクラスメイトの詰根(きつね)。
手には高校生ながらに禁煙パイポを持っている。
なんでも、野球部が甲子園に出るか出ないかのタイミングで禁煙を始めたらしい。
爪'ー`)y‐ 「まあ、てめえらに迷惑かけらんねえからな」
( ^ω^) 「当たり前だお。野球部でもない奴の喫煙で出場自粛なんてごめんだお」
爪'ー`)y‐ 「まあ、つれないことを言うな。甲子園には応援に行くからよ。がんばれよ」
- 927 名前:名も無きAAのようです :2014/08/24(日) 19:08:55 ID:QK7GQxO.0
- ('A`) 「応援って……甲子園は兵庫県だぜ? そんなに気軽に行くとこじゃねーだろ」
内藤らが通う美府高校は中国地方の一角、美府県にある。
選手らは高野連がいくらか補助してくれるらしいが、部員でもなんでもない高校生が気軽には行けない距離だ。
爪'ー`)y‐ 「いやー、俺もそう思ったんだけどさ。なんか学校がツアー組んでるらしいぜ」
( ^ω^) 「そんな金あったらグラウンドの土を何とかしてほしいおー」
内藤はうなだれながら机に突っ伏す。
美府高校は部活動にいくらか力は入っているが、ただの公立高校である。
土も日頃の手入れは欠かしていないが、都会の名門校と比べれば設備には雲泥の差があった。
- 928 名前:名も無きAAのようです :2014/08/24(日) 19:10:09 ID:QK7GQxO.0
- 爪'ー`)y‐ 「まあまあそう言うな。聞けば同級生はほとんど来るらしいぜ。
ま、一種のお祭りに近い感覚かな。なにせ夏休みにダラダラしながら見てたあの甲子園に――
よーく見知った友達が出るってんだからな。テンションも上がるっつー話よ」
('A`) 「……ま」
( ^ω^) 「悪い気はしないお」
そんな話をしていると担任の教師が教壇につく。
いつものように夏休みの注意と宿題の早期取組について話した後、詰根が話していた甲子園ツアーの話があった。
なんでも、生徒がバラバラに行くよりはまとめて管理するほうが楽、という話らしい。
( ^ω^) (……なんだか、気恥ずかしいお)
教師の話のあいだ、そんな思いから視線を窓の外に移す内藤であった。
- 929 名前:名も無きAAのようです :2014/08/24(日) 19:11:32 ID:QK7GQxO.0
- そんなホームルームも終わり、生徒たちは三々五々家路につく。
だが、内藤と毒尾はそうもいかない。野球部のミーティングがあるためだ。
流石に、今日に練習がないのはありがたい話だが。
(´・_ゝ・`) 「えー、というわけでこんな日程で動いてもらう。
プリントに刷っておいたから各自よく目を通しておくように。
では、体調をしっかり整えろよ。解散」
顧問の盛岡から1枚のプリントが配られ、簡単に説明をしてこの日の部活は終了となった。
プリントには出発日の集合時間と宿泊場所が書かれている。
いくらなんでも昨日の今日でセッティングするのが早すぎる。
('A`) 「ま、きっと盛岡も浮かれてるんだろ。
じゃあな、お前ら。体調崩すんじゃねーぞー」
- 930 名前:名も無きAAのようです :2014/08/24(日) 19:12:55 ID:QK7GQxO.0
- そして迎えた出発日。
美府県から甲子園のある兵庫県までは車で3時間ほどだ。
今日の昼から組み合わせ抽選会も行われるため、車内はにわかにざわついている。
( ゚∀゚) 「なー、どこと当たるかなー」
(,,゚Д゚) 「ま、初戦はさすがに弱いとこと当たりてえなぁ」
( ・∀・) 「その理屈でいくとだいたいのとこはうちと当たりたいってことだな」
('A`) 「県のイメージって怖い」
バスの中で同級生の部員たちが喧々諤々と話している。
内容はこれから行われる組み合わせについてだ。
- 931 名前:名も無きAAのようです :2014/08/24(日) 19:14:03 ID:QK7GQxO.0
- ちなみに美府県代表は全国的に見てかなり下のチームに見られることが多い。
東京や大阪といった大都市の代表は100校以上が参加する大会を勝ち上がってきている。
それに対して美府県の県大会の参加校は40。過疎化が進んでいる地域なので仕方のないことなのだが。
( ・∀・) 「まー、なんせそういう見られ方は気分良くねえなあ。仕方ないけど」
( ゚∀゚) 「はー、田舎はやだねぇ」
それに関係して地方の学校は弱い……というのが定説だ。
実際に美府県の代表は春夏を通じて甲子園の優勝経験がない。
- 932 名前:名も無きAAのようです :2014/08/24(日) 19:15:28 ID:QK7GQxO.0
- (,,゚Д゚) 「関係ねえよ、どこと当たろうが勝てばいいんだ、勝ちゃあ
……な? だから内藤よ」
( ;゚ω゚) 「……………お?」
(,,゚Д゚) 「今日くじを引くからってそんな緊張すんな?
な? まだ高速にも乗ってないぞ? 緊張で死ぬぞ?」
( ゚∀゚) 「いいじゃん。そしたら甲子園の土に埋めてやろうぜ」
( ・∀・) 「好投手内藤、グラウンドに眠る」
('A`) 「そんな甲子園いやだ」
- 933 名前:名も無きAAのようです :2014/08/24(日) 19:16:36 ID:QK7GQxO.0
- そして内藤の緊張がピークに達し、泡を吹きかけたところでバスは抽選会場の駐車場に滑り込んだ。
内藤以外の部員たちは長い間バスに拘束されていたことからの解放感に浸っているが、内藤はもちろんそれどころではない。
( ;゚ω゚)「ヒュー……ヒュー……」
( ・∀・) 「なんでこいつがくじ係なんだ?
キャプテンの毒尾が引けよ」
('A`) 「パス。チームの運命を握るなんて御免こうむる」
(,,゚Д゚) 「主将とは思えん発言だ」
('A`) 「嘘だよ。なんかこいつが引きたいって今日言ってきたんだ。
朝の占いの調子が良かったんだとよ」
( ゚∀゚) 「それもそれで微妙な理由だ」
- 934 名前:名も無きAAのようです :2014/08/24(日) 19:17:40 ID:QK7GQxO.0
- ( ;゚ω゚)「クフークフー」
( ゚∀゚) 「ま、なんにせよそこそこの相手を拾ってきてほしいな」
( ・∀・) 「逆にできれば避けたいところは?」
( ゚∀゚) 「東京山手学院」
東京山手学院は東東京の代表校だ。プロを多数輩出している超名門校である。
とりわけ今年のチームは過去最高とも言われており、春の選抜大会を優勝。
夏の予選でも圧倒的な力を見せ代表入りを決めたチームだ。
(,,゚Д゚) 「あとは、大阪環状高校……神奈川の湘南ベルマーレ高校も避けたい」
('A`) 「京都の麻呂高校もなかなかの仕上がりって聞いてるぞ」
( ・∀・) 「ま、それぐらいだな。
・・・・・・内藤」
( ;゚ω゚) 「お?」
- 936 名前:名も無きAAのようです :2014/08/24(日) 19:19:12 ID:QK7GQxO.0
- ( ・∀・) 「聞いたか。お前が避けなくてはいけないのはこの4校だ。
いや、俺たちは優勝を目指してるんだからいつかは当たる高校だろう。
でも、初戦は気持ち的にもやっぱり避けたい。それがこの4校なんだ」
( ;^ω^) 「おー……」
( ・∀・) 「4校でいい。4校でいいんだ。
逆に言うと、あとの44校は当たってもいい。
お前は4/48を引かなければいいんだ。どうだ、楽になったか?」
( ^ω^) 「おー………」
( *^ω^) 「それなら引かなそうだお! だって僕、占いで1位だったし!
おー、なんか緊張してたのがバカみたいだお!
つまり1/12かお! そんなのすり抜けるのラクショーだお!」
- 937 名前:名も無きAAのようです :2014/08/24(日) 19:20:50 ID:QK7GQxO.0
- ――組み合わせ抽選会
『――2番、美府県代表・美府高校』
ステージ上の内藤は倒れそうになっている。
二塁手の茂羅と遊撃手の擬古は二遊間の呼吸ピッタリに同じ体勢で目を手で覆っている。
中堅手の長岡は死にそうになっている内藤を見てゲラゲラと笑っている。
('A`) 「……ま、占いで1位になる確率も1/12だしな。
意外にこういうこともあるってか」
ため息をつく毒尾。美府高校は2番の枠に入った。
甲子園開幕戦。入場行進が終わってすぐに始まる試合。
2番と試合をするのは1番の枠に入っている高校。
『1番、東東京都代表・東京山手学院』
春の大会を制し、夏の大会では連覇を狙う今大会屈指の優勝候補だった。
- 938 名前:名も無きAAのようです :2014/08/24(日) 19:21:36 ID:QK7GQxO.0
-
( ^ω^)たちは夏の甲子園で金星を上げたいようです
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