352 名前:名も無きAAのようです :2012/06/28(木) 19:10:33 ID:V5GimuoI0

それは僕だって、とりたてて変った人生を送ってきたわけじゃない。
だから昨今、世の中の変化についていけないのはある意味で当然なのだけれども、
それにしたってこれは酷いと思う。

隣国で開発された新型プロセッサはその驚異的な演算速度によって進化のシミュレートを開始した。
門外漢の僕には今ひとつピンと来ないけど、
シミュレータの中に物理世界を構築し、そこにAI様のプログラムを走らせることで擬似的な生態圏を作り上げ、
そこで起こる自然淘汰と突然変異、知識の集積によってAIの強制的進化を促すとかいう試みだったらしい。

普通に考えれば、この現実世界が最大の演算速度を持つシミュレータなわけで、
その中で行われるシミュレートなんてものは二度手間でしかないのだけれども、彼らはプログラムでしかないがゆえに、
その演算を凌駕する速度で走ることが可能だった。

そんなわけでいとも簡単に、いや、恐らくは、僕のあずかり知らぬ様々な有用曲折があったのだろうけど、人工知能は完成した。
現実時間では十年の歳月、シミュレータ内では天文学的年月が経過していた。

ここまではさして酷い話でもないなと、世の中の大半が歓迎した。
何しろ人間の代わりに知的労働力が誕生する可能性が出てきたのだ。大いに結構、僕だって当時はその偉業に目を見張ったものだ。
勿論中には、人工知能『アクセラ』の単独活動を危険視する一派もいたが、
所詮は電子基板を走っているに過ぎないそれは電源を落とすだけで無力化できるわけで、結局のところ彼らの主張は一笑に付された。

問題はその後の展開だった、力を手に入れたものは更なる力を欲するというのが古来より受け継がれた人の性であるわけで、
まあ、やはりというべきか、当初からそれが目的だったフシもあるのだが、彼らは技術的優位を背景に行動に出た。

353 名前:名も無きAAのようです :2012/06/28(木) 19:11:16 ID:V5GimuoI0

自分たちの脳の記述化、そして増強――。
今だ未知の領域が多い脳機能、そのブーストを目指して彼らは動き出した。
人間が自分の脳を理解する時間とアクセラが人の脳を理解する時間、どちらが早いかは言うまでもない。
アクセラはプロセッサの増強とソフトウェアの更新によって処理能力を高められる。
それは自身の脳機能強化にほかならず、これはノーマルな人間とブースト可能な人間との勝負といえた。
自己強化の果てに幾何級数的に高速、高度化していくアクセラ。
その過程で脳機能にとどまらず、知覚、反射、免疫系、筋力、代謝などあらゆる身体機能へ成果は波及していった。
かくして彼らはアクセラを援用することで自分たちの脳のブーストに成功する。

ブーストされた人間は様々な分野で既存の人間を圧倒しはじめる。
後はお馴染みの話だ、新型プロセッサと人工知能アクセラ、そしてブーステッドマン、
彼らを危険視した既得権を持つ巨大経済共同体と超大国主導による国際的な包囲網。

だが想像をはるかに超えて成熟したその科学技術はもはや魔法と見分けがつかないほど、
と、そこまでではなかったのだが、結果的に個々の軍事的経済的戦闘で世界は劣勢を強いられた。

次第に膨張する限界境界線を挟んでにらみ合い、一進一退するのが精一杯。


そして僕らの戦争がはじまった。

気味の悪いサイボーグ野郎と機械人形を簡易AI搭載の機動兵器“SMA”で迎え撃つ。
元凶に頼らねばならないという、なんともしょうもない構図。でも、そうするより他に仕方がない。
AIは僕らの住む世界を変えてしまった。それはもう、好むと好まざるに関わらず前提になってしまったのだ。
敵が刃物を持てば此方も刃物を、敵が銃器を開発すれば此方も銃器を持たざるをえない。

354 名前:名も無きAAのようです :2012/06/28(木) 19:12:06 ID:V5GimuoI0

o川*゚ー゚)o 『コンバットししゅてむ ブートアップ』


滑舌の悪い機械音声がコクピットに響き渡り、エネルギーゲインがアイドルからコンバットへ上昇。
同時に火器管制システム、戦術データリンク起動。AIが戦闘管制モードへシフトする。

o川*゚ー゚)o 『T-09型無人攻撃機 6機せっきん 危険度クラスC』

( ・∀・) 「ほいほい、っと……」

砂埃の中に機体を偽装して、頭部複合センサだけを覗かせての監視、要撃任務。

そりゃまあ、こんなのはまっぴらごめんだと僕だって思う。
でも、逃げ場なんて、どこにもないんだ。

左手でコンソールを操作して兵装を選択。


〈RDY MULTIPLE MISSILE LAUNCHER_〉


右手に握った操縦桿のトリガーカバーを外す。
それに連動して、同時に照準モード起動。

モニタを見る僕の目。
視線の動きをカーソルが追従していく。
標的を見つめて、それを親指でロック。
一瞬の後、ロックされたカーソルが二重になる。

355 名前:名も無きAAのようです :2012/06/28(木) 19:12:48 ID:V5GimuoI0

〈EN-1 2 4 5 LOCK ON_〉


楔形のフォーメーションで近づいてくる不届き者を先頭から左側面にかけてマルチロック。
ミサイルのシーカーが目標を捉えたことを確認してトリガーに指を伸ばす――。


〈AS-MISSILE RELEASE_〉


両肩のランチャーユニットから左右6発ずつ、計12発のミサイルが砂塵を巻き上げながら目標へ向けて殺到していく。
着弾点には幾つもの火球が開き、熱・化学エネルギーの暴力が辺り一帯を蹂躙する。


o川*゚ー゚)o 『着弾確認 損害評価を開始…… EN-01 02 04 撃破 05 不明』

( ・∀・) 「左から接近するよ 03 06を警戒しつつ 05索敵よろしく!」

o川*゚ー゚)o 『りょうかい!』

AIの返答を聞き流しながら僕はスロットルを押し上げ、最大戦速の半分まで増速する。

語尾のおかしなメカニックが入れた音声ソフトは相変わらず妙な調子だった。
声そのものには大した不満はないのだけれども、聞くたびにアイツのにやけ顔がチラついて困る。
戦闘の佳境で吹き出したりした日にはどうしてくれるのだろうか。


o川*゚ー゚)o 『05確認 2時方向、距離1400 損害は軽微 03 06は僚機と接触コース』



それを聞いてどうにも緩んでいた僕の頭にもさすがに緊張が走る。
マヌケな思考を頭の隅に押しやり、メインウエポンに中近距離武装をセレクト。

〈RDY 60mmAM RIFLE_〉

そして僕は両手にライフルを構え、爆風に呑み込まれた着弾点の側面へと周り込んでいく。
静かな恐れと高揚を胸に抱いて。

356 名前:名も無きAAのようです :2012/06/28(木) 19:16:06 ID:V5GimuoI0

( ・∀・) シンギュラリティのようです


作者社会的死亡により未完

おお、さくしゃ! しんでしまうとはなさけない


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