- 572 名前:1/9 :2012/09/15(土) 20:06:53 ID:ESp3zbOQO
ξ;゚听)ξ「……」
大きなテーブル。
私の向かいに内藤、内藤の隣にショボンが座っている。
テーブルの上にはクリームシチューとサラダ、焼きたての、香ばしいバターロール。
メニューはその3つだけ。
食器は全てセラミックス──陶器やガラスで出来ている。
吸血鬼が純銀を嫌うというのは、本当らしい。
白く、とろりとしたシチューを一口。
次いで、バターロールをむしり、シチューにつける。
それを口に運び、咀嚼。
ξ*゚听)ξ「お……美味しい……!」
シチューの濃厚な旨味とバターロールの香り、ほのかな甘みが相俟って――ああもう、説明なんか出来ない。
とにかく、美味しい。
(*^ω^)「おいしいお! おいしいお!」
(´・ω・`)+「当然」
ふふん、と得意げに微笑むショボン。
内藤は、凄まじい勢いで料理をかっこんでいた。
私はシチューを数口飲んでから、サラダに手を伸ばした。
レタスやトマト、胡瓜にパプリカ――色鮮やかな野菜たちに、ドレッシングはかかっていない。
水洗いした名残か、ぷくりと浮かぶ水滴が天井から注ぐ照明を反射し、
野菜をきらきら輝かせている。
サラダは味気なさそう、なんて思いながらフォークをトマトに突き刺し、口に運ぶ。
そして、私の予感が外れていたことを知る。
ξ*゚听)ξ「あ、甘い……?」
独特の風味と共に広がるのは、果肉の中から溢れる甘い甘いジュース。
過度な酸味や苦みはない。
レタスはしゃきしゃきの歯ごたえがクセになり、
パプリカは甘みの中に混じる微量の苦さが私を夢中にさせる。
何もつけていない野菜を、こんなに美味しく感じるのは初めてだ。
- 573 名前:2/9 :2012/09/15(土) 20:07:35 ID:ESp3zbOQO
(´・ω・`)「野菜は自家製。新鮮な状態で使用している。そのままでも美味しいだろ。
……ドレッシング、材料が足りなくて作れなかっただけなんだけどさ」
(;´ω`)「ショボンにサラダあげるお……」
(´・ω・`)「てめえで食いやがれ偏食野郎」
シチュー、パン、サラダ。
たった3つの料理だというのに、今まで食べさせられてきた豪奢なフルコースより、ずっとずっと美味しかった。
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家出娘は胃袋を掴まれる
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ξ゚听)ξ 16歳。女。人間。
- 574 名前:3/9 :2012/09/15(土) 20:08:25 ID:ESp3zbOQO
ξ゚听)ξ「あんた、どうしてサラダ残したの? 美味しかったのに」
(;´ω`)「おー……野菜は嫌いだお。シチューに入ったのは好きだけど……」
ξ゚听)ξ「……偏食」
(;´ω`)「ぐぬぬ」
(´・ω・`)「嫌いな食べ物が多いんだ。味覚が子供だから。
野菜が嫌い。甘いものが好き。
コーヒーが嫌い。砂糖たっぷりのミルクティーが好き。
好き嫌いが激しくて、何度言っても聞きゃあしない」
ショボンがワイングラスを右手に持ち、内藤の隣に立った。
グラスの中は、赤い液体で色づいている。
ξ゚听)ξ「それ、なあに? ワイン?」
ことり。
テーブルにワイングラスを置く音。
揺らめく不透明な赤が、ぬらりと不気味に輝いていた。
(´・ω・`)「血」
ξ゚听)ξ「……、血……」
(´・ω・`)「この男は、本当に困る。
食べろと言っても食べないし、食べるなと言っても食べやがる。
自分の好きなもの以外、絶対に口にしない」
好きなもの。吸血鬼の好きなもの。
血液。
( ^ω^)「……お」
ああ、こいつは。内藤は、血を飲む吸血鬼なのだ。
恐い、化け物なのだ。
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召使いは今夜もグラスに血を注ぐ
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(´・ω・`) 27歳。男。人間。
- 575 名前:4/9 :2012/09/15(土) 20:09:25 ID:ESp3zbOQO
( ;ω;)「嫌だおおおおおおおおおおお!!!!!」
ξ゚听)ξ「は?」
突然、絶叫する内藤。
涙まで流して喚く内藤の頭を、ショボンの左手が鷲掴みにする。
(#´・ω・`)「なんっかい言わせる気だ! お前は吸血鬼なんだよ、血を飲め、血を!」
( ;ω;)「血は美味しくないから一番嫌いだって言ってるおおおおおお!!! うわなにをするやめ」
頭を掴んでいた手が、今度は、叫ぶために開かれた口を固定する。
残る右手でワイングラスを持ち上げ、ショボンは内藤の口の中へ思い切り血をぶちまけた。
( ;∩;)「む゙! む゙!!」
(#´・ω・`)「飲め」
内藤の口を閉じさせるショボン。
やがて、内藤の喉が数回上下した。
それを確認して、ショボンが手を離した──直後。
( ;ω;)「ぐぶぇぼろろろろろろろろろろろばばばばばばばばばばばばば」
(;´・ω・`)「Gyaaaaaaaaa!!」
真っ赤な液体と黄色みがかった液体が混ざった物体を内藤が吐き出した。
私は咄嗟に顔を背ける。
ξ;--)ξ「うわあ……」
テーブルの隅に布巾があるのを見付けたので、とりあえずそれをショボンに投げておいた。
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偏食家は年甲斐もなく泣き喚く
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( ^ω^) 外見年齢20歳、精神年齢7歳、実年齢88歳。男。吸血鬼。
- 576 名前:5/9 :2012/09/15(土) 20:10:22 ID:ESp3zbOQO
( ´_ゝ`)「ショボンさあん。あんた、ブーンさん連れて、しばらく北西の宿場にでも逃げたらどうです」(´<_` )
(´・ω・`)「あ? 何で」
( ´_ゝ`)「南っ側の町のですねえ、『英雄』がね」(´<_` )
(´・ω・`)「英雄?」
( ´_ゝ`)「あれっ、ご存知ない? 何年か前、町で暴れてた怪物を倒した人間の男女。英雄様。
最近、彼らの娘っ子が家出しちゃったらしいですよう」(´<_` )
(´・ω・`)「……家出、ね」
( ´_ゝ`)「その娘を探すために、近々偵察を送り込むんですって、この森に。
もしここが見付かったらまずいと思うんですよねえ」(´<_` )
( ´_ゝ`)「森に住む吸血鬼なんて、町の人間からすりゃ言い伝えレベルの話でしょう?
信じてる奴なんざ一部だけだ。
なのに本物の吸血鬼がいるなんて知られちゃあ、英雄が黙っちゃいませんて」(´<_` )
( ´_ゝ`)「……で、まさかとは思いますけど、最近ここに住み始めた娘さんって……」(´<_` )
(´・ω・`)「さあ? ありゃブーンが森で拾ってきたのを、僕が雑用としてこき使ってるだけだ。
元が誰のものであれ、拾ってから一ヶ月も経ってるんだから、あいつはもう我が家の人間さ」
(;´_ゝ`)「どうなっても知りませんよう」(´<_`;)
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- 577 名前:6/9 :2012/09/15(土) 20:11:51 ID:ESp3zbOQO
ξ*゚听)ξ「見て見て、噴水!」
(*^ω^)「あの店、美味しそうな匂いがするお!」
(´・ω・`)「はいはい」
ξ*゚听)ξ「あ、着ぐるみ!」
(*^ω^)「風船配ってるおー」
(´・ω・`)「はいはいはい」
ξ*゚听)ξ「北の街って初めて来たけど、綺麗で賑やかな場所ねえ……」
(*^ω^)「みんな笑顔だお!」
(´・ω・`)「楽しそうだねお前ら。ほら、ケーキ屋行くぞ」
ξ*゚听)ξ「ケーキ!」(^ω^*)
──まず内藤の前にオレンジケーキが置かれた。
淡い橙色の厚いスポンジで、これまた橙色のクリームを挟んでいる。
スライスされたオレンジのシロップ煮が上に乗っかっていて、てらてら光っていた。
次にショボンの前にショートケーキ。
ふわふわなスポンジを生クリームが覆い、その上に苺と、薄い板チョコが乗っている。
スポンジの間には、大きめのフルーツと真っ白なクリーム。
最後、私にはガトーショコラ。
黒みの強いケーキの表面には粉砂糖が振り掛けられていて、とても綺麗だ。
その横にクリームがたっぷり添えられている。
漂ってくる濃厚なココアの香りが心地良い。
いただきますと言って、内藤はオレンジケーキを、私はガトーショコラを口に運んだ。
ξ*゚听)ξ「美味しい!」(^ω^*)
(*´ω`)「甘くて酸っぱくて、オレンジの皮がほんのり苦くて……」
ξ*´兪)ξ「しっとり滑らかで、最初はほろ苦いけどすぐに強烈な甘さが来て、
その甘さを淡泊なクリームが中和して……」
(´・ω・`)「うるせえ」
- 578 名前:7/9 :2012/09/15(土) 20:12:59 ID:ESp3zbOQO
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家出娘は両親を嫌悪する
召使いは笑顔が増える
偏食家は甘味に微笑む
画家は、幸せな3人を目に留める
(゚、゚トソン(──あの3人、なんて楽しそうにケーキを食べるんだろう)
(゚、゚トソン(……描きたいな)
(゚、゚トソン(こっそり描いちゃおう……いいよね、誰に迷惑かけるでもなし……)
その一枚の絵が「英雄」の手に渡り
(,,゚Д゚)「……行くか」
(*゚ー゚)「そうね。あんな娘でも、一応連れ戻さなきゃ」
(,,゚Д゚)「あいつが他所で俺らの悪口を言ってみろ。
信じるような馬鹿はいないと思いたいが、その馬鹿が存在するのが世の中だ」
(*゚ー゚)「何なら口封じでもしようかしら。また家出されたら面倒だわ」
偽善と虚言にまみれた英雄は、自身を守るために武器を持つ
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- 579 名前:8/9 :2012/09/15(土) 20:14:04 ID:ESp3zbOQO
(´・ω・`)「僕だってブーンに拾われた身だ。
拾われた以上、奴の役に立ってやるのが礼儀ってもんだろ」
(;´_ゝ`)『だからってねえ、ショボンさん』(´<_`;)
(´・ω・`)「いいから、ありったけの武器持ってこいよ配達屋。
今まで輸血パックと食材で幾ら払ってきたと思ってやがる」
(;´_ゝ`)『分かってます分かってます分かってますよう。
いま運びますから待っててくださいな』(´<_`;)
(´・ω・`)「ナイフや包丁を多めに頼む。
……あと、いつもの輸血パックもあるといいな。AB型の……」
(;´_ゝ`)『ブーンさんに飲ませるおつもりで?』(´<_`;)
(´-ω・`)「いや……、くそ、目がかすむ……」
(´-ω-`)「さっき、一発もらっちまってよお……ああ痛ぇな、畜生。
──……そうだ、配達屋。食材も適当に見繕ってくれや。野菜と鶏肉。
全部壊れたから、食器もだ。セラミックスな。銀製品は駄目だぞ。ブーンが触れない」
(;´_ゝ`)『食材? 食器? それを今?』(´<_`;)
(´-ω-`)「これ解決する頃には、夕飯に丁度いい時間になるだろうからな」
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( ;ω;)「ごめんなさいお、ごめんなさいお、痛いかお、ごめんお、ツン」
ξ; )ξ「ん……大丈夫。もっと飲んでいいよ。これで、あんたの怪我治るんでしょ」
( ;ω;)「僕、僕、牙のお手入れ、ちゃんとしてなかったから、あんまり上手く刺さらなくて、
ああごめんお、痛いおね、ツン、ツン、ツン」
ξ; )ξ「こっちこそごめんね、私のパパが……。
……美味しい? 吐いちゃ駄目よ、ちゃんと飲んで」
( ;ω;)「……美味しくないお」
ξ; ー )ξ「ふふ。でしょうね……」
ξ;゚ー゚)ξ「……じゃあ尚更、早く飲んで元気になって……パパ達のこと追い返して、
それで──ショボンの美味しいご飯、食べようね」
- 580 名前:9/9 :2012/09/15(土) 20:15:23 ID:ESp3zbOQO
家出娘は親に反抗し、召使いは手慣れた様子で刃物を構え、偏食家は血を啜る
全ては、3人の幸せを守るため
全ては、3人の食卓を守るため
( ^ω^)セラミックスで夕食を のようです
──2012年 12月32日公開予定──
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