- 125 名前:名も無きAAのようです :2013/05/13(月) 23:49:17 ID:Dzp88ct20
- 目が覚めて、先ほどまで続いていた懐かしい情景に想いを馳せながらブーンは溜息を吐いた。
( ^ω^)「夢だったお……」
幼い自分が何故か持っていた、金髪青目の女の子のぬいぐるみ。
母が手作りしたもので、それなりに好いていたものだ。
けれど、ぬいぐるみは駄目になってしまった。
公園に忘れてしまって、取りに戻った時には既に。
目に使われた青いビーズを狙って、カラスに突かれてしまった後だったのだ。
あの時の幼い自分の泣き声が、耳の奥に残っている。
ブーンは起き上がると、ハンガーにかかったスーツのジャケットを見つめて「仕事だお!」と呟いて自分を奮い立たせた。
( ^ω^)最後の女神のようです
- 126 名前:名も無きAAのようです :2013/05/13(月) 23:51:58 ID:Dzp88ct20
-
( ,,゚Д゚)「全然駄目だな」
(;^ω^)「おっ……」
( ,,゚Д゚)「苦しいところだと思うが、またやり直しだ。頑張れ」
( ´ω`)「はいおー」
赤ペンで修正された企画書を手に、とぼとぼと自分の机に戻る。
椅子に腰を下ろすと、一緒に疲れも椅子に寄りかかったように疲労感に包まれた。
ぱらぱらと企画書を見つめて、また溜息。
どうやら今日はやたら溜息を吐く日らしい、とブーンは思った。
( ´∀`)「やり直しモナ?」
( ´ω`)「モナー先輩……」
- 127 名前:名も無きAAのようです :2013/05/13(月) 23:53:32 ID:Dzp88ct20
- ( ´∀`)「そういう日もあるモナ。めげずに最初から見直すのが無難モナ」
( ´ω`)「はいおー」
優しいモナーの声に諭されて、ブーンは一度肩の力を抜いた。
ゆっくりと深呼吸して、首を回すとパソコンの画面に視線を集中させて企画書の訂正を始めるのだった。
―
ξ ゚听)ξ「ブーン。ブーン」
幼い頃のぬいぐるみが話している夢を見た。
目の前にいるこれは確かに人間の少女なのだ。
けれど、頭のどこかで「ああ、これはあのぬいぐるみだ」と認識してしまうのは何故なのか、ブーンには分からない。
- 128 名前:名も無きAAのようです :2013/05/13(月) 23:54:51 ID:Dzp88ct20
- 金髪の、カールがかったツインテールを揺らして、青い大きな瞳がブーンを映している。
ξ ゚听)ξ「ブーン、諦めたりなんかしないでよね。私も今頑張ってるんだから」
( ^ω^)「何を頑張ってるんだお?」
ξ ゚听)ξ「そのうち分かるわ」
じゃあね、とぬいぐるみの少女は親が子供にするように、ブーンの頭を少し乱暴に撫でた。
それが心地良い、と思って目を閉じて。
もう一度開けると、そこは会社だった。
どうやら昼休みに昼食を食べて、そのまま眠ってしまったらしい。
「あ、おはようモナ」と声をかけてくる上司に少し恥ずかしく思いながら、ブーンは伸びをして仕事を再開した。
- 129 名前:名も無きAAのようです :2013/05/13(月) 23:56:05 ID:Dzp88ct20
-
―
十年前の自分から手紙が届いた。
学校のイベントでやったものだった。
小学校六年生の、まだ書き馴れていない筆跡で、こう書いてあった。
『大会で優勝しました。
十年後のあなたは、陸上選手になっているでしょうか』
( ^ω^)(……ああ)
なれなかった、とブーンは子供の自分の希望に肩を落とした。
足が他の子供よりもとりわけ速かったブーンは、よく大会に出場しては優勝を掻っ攫っていったものだった。
- 130 名前:名も無きAAのようです :2013/05/13(月) 23:57:47 ID:Dzp88ct20
- 陸上選手になろうと決めたのは最初の優勝の時だったと思う。
安易すぎると今では思うが、その後もいくつも優勝が続けば本格的に目指すきっかけにもなるだろう。
その夢が潰えたのは高校一年生の夏。
膝を故障して、以前のように走ることができなくなった。
( ´ω`)「今の僕は、しがないサラリーマンだお」
ぽつり、と手紙を書いた自分に話しかける。
胸の奥がもやもやとつっかえて、寂しい気分になった。
ξ ゚听)ξ「なんか落ち込んでるわね」
( ´ω`)「……分かります?」
ξ ゚听)ξ「分かります」
- 131 名前:名も無きAAのようです :2013/05/13(月) 23:59:17 ID:Dzp88ct20
- あまりにも自然に問いかけてくるものだから、疑問よりも先に返事をしてしまう。
ぬいぐるみの少女は頬杖を付いたまま、ブーンに話しかけた。
ξ ゚听)ξ「あなたはよく頑張ってたじゃない。今も頑張ってるけど」
( ^ω^)「お礼を言っておくお」
ξ ゚听)ξ「どういたしまして。ああ、ブーン」
「なんだお?」そう言うと、ぬいぐるみの少女は青い瞳を苦しげに細めて、ブーンに言った。
ξ ゚听)ξ「近々ショックを受けるかもしれないけど、引きずっちゃ駄目だからね」
( ^ω^)「……?」
- 132 名前:名も無きAAのようです :2013/05/14(火) 00:00:27 ID:1iAuBlJQ0
-
『最年少 モララー氏ヴィップ化学賞受賞』
( ^ω^)「……モララー?」
新聞の写真に出ている顔には、酷く見覚えがあった。
小中学校が一緒で、家も隣だった幼馴染だ。
高校入学と共に引っ越して行ってしまって、メールアドレスは知っているものの連絡はしない、という微妙な関係の。
ブーンは携帯からモララーの電話番号を呼び出すと、すぐに通話ボタンを押した。
( )『……あー、もしもし』
( ^ω^)「モララー!? モララーかお!?」
( )『……ブーン?』
- 133 名前:名も無きAAのようです :2013/05/14(火) 00:02:16 ID:1iAuBlJQ0
- どこか疲れたような声は、ブーンの声を聞くと少し明るくなったような気がした。
( )『うわ、ブーンじゃん久しぶり。どしたの?』
(*^ω^)「久しぶりだおー! 新聞見たお! あんなことしてるなんて全く知らなかったお!」
( )『あー、ありがと。本当に久しぶりだな。ブーン何やってんの? 陸上?』
モララーにそう言われて、ぎしりと心が軋んだ。
( ^ω^)「……ブーンはサラリーマンだおー! もうあの時みたいには走れないお」
( )『おー、そうなのか。お互い頑張ろうぜ』
じゃあな、と電話を切られてから、ブーンはふと自分の故障した膝を見た。
視界の端にはモララーの顔写真と名前がでかでかと書いてある。
( ´ω`)「……現実は辛いおー」
- 134 名前:名も無きAAのようです :2013/05/14(火) 00:04:07 ID:1iAuBlJQ0
- 目頭が熱くなる。
悔しさとうらやましさと、いろいろな感情がごちゃごちゃに混ざり合って何も言えなかった。
ブーンは自分の顔をベッドの枕に押し付けて、少しだけ泣いた。
―
ξ ゚听)ξ「ブーン」
いつかのぬいぐるみの少女の言葉が脳裏に過る。
ξ ゚听)ξ「諦めたりなんかしないでよね」
( ω )「……諦めちゃいそうだお」
そう、心の中で呟いた。
- 135 名前:名も無きAAのようです :2013/05/14(火) 00:05:23 ID:1iAuBlJQ0
-
失敗をした。
上司であるギコとモナーに、頭を下げさせてしまった。
二人は初めての失敗だし気にするな、と言ってくれたが、気にしないわけがない。
自分のせいで頭を下げさせたのに、それを忘れろと二人は言ったのだ。
( ´ω`)「あー……」
ジャケットも脱がず、ベッドに寝転がる。
溜息の回数が増えた。
前よりも疲れると感じるようになったし、睡眠不足の気もある。
もう遊んでいた大学時代とは違う。
社会人と呼ばれてしまうこの世の中は、以前よりもずっと息がし辛くなった。
- 136 名前:名も無きAAのようです :2013/05/14(火) 00:06:44 ID:1iAuBlJQ0
- ( ´ω`)「……疲れたお」
口に出せばその分実感を伴って自分に重く伸し掛かる。
ブーンはもう眠ってしまおうと、体から力を抜いてリラックスした。
その瞬間である。
ぴんぽーん、と間の抜ける音。
( ^ω^)「……」
壁にある時計に視線を巡らせれば、ちょうど日付が変わったところだった。
ブーンはベッドに手を着いて上体を起こすと、鉛のように重い足をのそのそと動かして玄関に向かった。
( ^ω^)「こんな時間に誰だお……?」
- 137 名前:名も無きAAのようです :2013/05/14(火) 00:08:08 ID:1iAuBlJQ0
- ドアノブに手をかける。
がちゃりと音を立てて捻り、扉を開ける。
ξ ゚听)ξ「お待たせ」
(;^ω^)「……へ?」
輝くような金髪を、カールがかったツインテールに。
澄み渡る海のような青い瞳を、長い睫毛で縁取って。
ぬいぐるみの少女が、そこに居た。
- 138 名前:名も無きAAのようです :2013/05/14(火) 00:09:51 ID:1iAuBlJQ0
- ξ ゚听)ξ「時間がかかったけど、ようやく来られたの」
(;^ω^)「え……」
ξ ゚听)ξ「ねえ、ブーン」
ξ ゚ー゚)ξ「諦めようとした気持ち、少しは変わった?」
こんな奇跡があるんだから、少しは気持ち変えてよね。
ぬいぐるみの少女はそう言って、笑った。
( ^ω^)最後の女神のようです 終わり
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