- 47 名前:名も無きAAのようです :2013/05/03(金) 23:16:07 ID:4oXaTMOE0
- ( ・∀・)鬼斬忍法帖のようです
( ・∀・)「とんとーん」
ほろほろと、柔らかい雪が降っている。
その中で、男が一人。
今にも崩れ落ちそうな屋敷の門の前で、門を叩くことはせずそう口で言っていた。
男はこの寒空の下、着物の上に羽織を一枚、首に長い布を一周させて。
傘も差さずに、門の前に立っている。
( ・∀・)「……チッ」
男は笑顔のまま舌打ちすると、後ろ頭を掻いて「めんどくせえな」とぼやいた。
次の瞬間。
- 48 名前:名も無きAAのようです :2013/05/03(金) 23:17:34 ID:4oXaTMOE0
- 男が突き出した足が、老朽化した木の門を貫通する。
べきべきと音を立てて、容易に穴を開けた門から男は足を引き抜いた。
雪で少し湿った木はそこまで木屑を出さなかった。
( ・∀・)「足癖が悪くてすみませんねーっと」
ぽっかりと開いた穴に手を差し込んで、内側からかけられた錠を外す。
門を閉じていた細長い木を持ち上げて適当に放れば、ぼすりと雪に埋もれる音が聞こえた。
門を押し開けると、長らく開けていなかったのだろうと知れる程大袈裟な音がして門が開く。
既に積もっていた雪をも押し退けながら門を開いて、その先に広がる光景に男は「あらら」と声を漏らした。
- 49 名前:名も無きAAのようです :2013/05/03(金) 23:18:45 ID:4oXaTMOE0
- ( ・∀・)「完全に当たりじゃないか」
雪が降って凍りでもしていたのだろうか。
門を開いた先には、死装束を真っ赤に染めた屍が雪の上に積み上がっていた。
ざっと見ても十五人はいるだろう。
その屍の山を見ても動じることなく、男は屍の隣を通り過ぎる。
( ・∀・)「おーにさーんやーい」
鼻歌混じりに、男は進む。
辿り着いたのはおどろおどろしい雰囲気を醸し出す日本家屋だ。
玄関の戸は丸太に突かれたかのように大きな穴を開けて、ひゅうひゅうと冬の空気を中へと誘っている。
それを片手で自分が通れるだけの隙間まで開けて、下駄を脱がずにそのまま上がる。
- 50 名前:名も無きAAのようです :2013/05/03(金) 23:20:08 ID:4oXaTMOE0
- 下駄のまま歩く廊下は、一歩踏むごとにぎしりぎしりと嫌な音を出した。
ふと、男は顔を上げて足を止めた。
暗い廊下の奥、まだ見えない一点から何かの音が聞こえてくる。
( ・∀・)「おやおや」
男は羽織の下に手を入れた。
暗闇の中で鈍い光を放つそれが羽織の下から見えた途端、
( ゚д゚ )「――ッ!!」
廊下の奥にいた何か――小柄な少年の形をした鬼が、耳鳴りのような、声では無い音を発しながら男に襲い掛かる!
- 51 名前:名も無きAAのようです :2013/05/03(金) 23:21:45 ID:4oXaTMOE0
-
( ・∀・)「ははっ」
( ・∀・)「調子乗ってんじゃねーよ、クズが」
( ゚д゚ )「!」
男が言うなり、手に持っていたそれを投げ付ける。
廊下の壁に光を反射させて、素早く迫りくるそれを。
鬼は避けようと身を捩るが、既に男に向かって一直線に飛んだ体がそう簡単に動くわけもない。
考えも空しく、鬼の胸にそれ――苦無が突き刺さった。
- 52 名前:名も無きAAのようです :2013/05/03(金) 23:23:31 ID:4oXaTMOE0
-
( ゚д゚;)「――!! ――!!!」
( ・∀・)「うるせえ」
床に落ち、痛みにもがく鬼の腹を男は踏みつけた。
また別の痛みを与えられた小さな鬼は一瞬体を強張らせ、暴れていた体から力が抜けた。
びたんと腕が床に叩き付けられる。
( ・∀・)「おお、意外と言う事聞くじゃないか。素直な子は好きだよ」
男は踏んづけていた足を退けると、鬼のすぐ傍でしゃがみ込む。
痛みに目を白黒させる鬼は、座り込んだ男に縋るように視線を向けた。
- 53 名前:名も無きAAのようです :2013/05/03(金) 23:25:27 ID:4oXaTMOE0
-
( ・∀・)「んあ?」
( ・∀・)「何、もしかして抜いてほしい?」
こくこくと、懇願に近い程必死に首を縦に振る。
それを見下ろした男は、にっこりと笑みを深めて。
鬼の体に刺さった苦無の持ち手を、更に奥へと押し込めた。
( ゚д゚;)「――ッ!!!!」
( ・∀・)「ああ、ごめんごめん」
( ・∀・)「俺、命乞いする奴嫌いでさあ」
- 54 名前:名も無きAAのようです :2013/05/03(金) 23:26:31 ID:4oXaTMOE0
-
あんまりだ、と訴えるようだった。
耳にじんじんと残るくらいに一際強く絶叫して、鬼は血走り始めた目で男を睨み付けた。
おおこわいこわい、とおどける様に男は芝居がかった口調で言って見せる。
( ・∀・)「ま、とりあえずさ。村人浚ってたのってお前だろ?」
( ・∀・)「俺さっさと帰って寝たいし。手っ取り早く終わらせるか」
そう宣言した男の背後に、いつの間にか何かが立っていることに鬼は気付いた。
古ぼけた床の上に立つ、見える裸足は女のものだ。
透けるほど薄い、玉虫色の羽衣。
その羽衣を持つ者を、鬼は知っていた。
- 55 名前:名も無きAAのようです :2013/05/03(金) 23:28:03 ID:4oXaTMOE0
-
( ・∀・)「いくよ、ヒート」
ノハ ゚听)
燃えるように赤い髪。夕日色の瞳。
男と同じ、漆黒の着物を纏い。
玉虫色の羽衣を持つ、美しい彼女こそが。
彼ら鬼の、女王だった。
( ・∀・)「あはは。信じられないかい? 信じられないだろうね」
( ・∀・)「だって、ヒートは、」
( ・∀・)「俺の使役する鬼なんだから」
- 56 名前:名も無きAAのようです :2013/05/03(金) 23:30:17 ID:4oXaTMOE0
-
ノハ*゚ー゚)
男の言葉に微笑むヒートの喉には、黒百合の刺青があった。
男が柄を握ったままの苦無を、羽衣と同じ玉虫色の光が包み始める。
唐突に訪れる喪失感に、鬼が体を震わせた。
( ・∀・)「鬼のヒートがいてこそ、俺の鬼斬忍法が完成する」
鬼の四肢の末端から、玉虫色に染まっていく。
色が変わったところから失せていく感覚に、鬼は悲鳴を上げてヒートを見た。
- 57 名前:名も無きAAのようです :2013/05/03(金) 23:32:32 ID:4oXaTMOE0
- ヒートはただ、男の背に寄り添って微笑むだけ。
ぱくぱくと、音を発さないままヒートの唇が動く。
鬼はそれを見て、後悔した。
ノハ*゚听)『さ よ な ら』
男にぴたりとくっ付いて、頬を染めたヒートは声に出さずそう言った。
やがて全身を玉虫色に染め上げられると、鬼はぴくりとも動かなくなった。
( ・∀・)「……やっとか」
男はそう呟くと、玉虫色の体を縦に切り裂いた。
切り裂いた先から玉虫色の体が消え、そして何も無かったように霧散する。
- 58 名前:名も無きAAのようです :2013/05/03(金) 23:34:46 ID:4oXaTMOE0
- 後に残ったのは床にしゃがみ込む男と、後ろから男の首に腕を回して抱き着くヒートだけだった。
( ・∀・)「あー、表の屍も処理しなきゃいけねえのかよ……」
男が立ち上がろうと背筋を伸ばすと、自然とヒートが離れて行った。
よっ、と勢いを付けて立ち上がった男が後ろを振り返る。
だが、そこにヒートの姿は無い。
( ・∀・)「……ほんと、気まぐれな奴」
男は鼻で笑いながら、元来た道を戻り始めた。
吹き込んでくる風が、男の首に巻かれた布を揺らす。
- 59 名前:名も無きAAのようです :2013/05/03(金) 23:36:47 ID:4oXaTMOE0
- 男の喉仏の隆起で、黒百合が形を変えている。
( ・∀・)「さあ、ヒート。どこへ行く?」
首の布を直して、男は笑いながらそう言った。
( ・∀・)鬼斬忍法帖のようです 終わり
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