597 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 13:42:00 ID:A/kBr/vEO



o川*^ー^)o「私、キュート!設楽羽高校二年生!好きな科目は現国と体育!嫌いな科目はそれ以外!」



o川*゚ー゚)o「好きなものはテレビとスマホで、嫌いなものは――」



【オカルト嫌いと人間嫌いのようです】


※微ホラー注意

599 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 13:43:05 ID:A/kBr/vEO
 高校生活は楽しい。なにがって全部。もう登校から楽しいもん。



三、四人の友達達と横一列で闊歩しながら、誰と誰が付き合っているのか情報交換するだけでも面白いと思える。



 そんなくだらない日常に、もっとくだらない非日常が加わったのだから、私としては若干辟易しているわけで。



その原因を作ったのは、一度も話をしたことがない、さらに言えば今後関わることのないキャラをした同級生だったんだ。

600 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 13:44:58 ID:A/kBr/vEO
 彼は放課後、一時間だけ開放されているパソコン室でeタイピングをしていた。インターネット上のサービスで、パソコンの文字を打つ速度や正確性を競うものらしい。



 なんで私がそんなことを知っているのかって、それは授業でやったから。



o川*゚―゚)o(めんど)



で、最低点数だったから。スマホならトップとれるのに。



 カタカタカタカタ時折ターン。情報の授業で赤点を取ったために、放課後、パソコンの入力速度向上自主トレーニング──とてつもなく意味が分からない──をしなければならない私にとってその音は、皮肉と騒音の両方にしかならなかった。



o川*゚―゚)o(うるさ)

601 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 13:47:31 ID:A/kBr/vEO
少なくとも、はやーいだとか、かっこいいという感想は抱けない。もちろん、イケメンだったら別なのだけれど残念ながら……



 人差し指で、唯一覚えた『ち』と書かれているボタンを押した私は、十分に満足した。やってられるか。



 けれども、そんな努力の余韻を、何度も繰り返されるカタカタダンスが、まるで盆踊りとブロードウェイの違いだとでも言わんばかりに主張してくるから――



o川*`ー´)o



文句でも言ってやろうと彼の後ろに立って、耳を完全に覆い襟足まで伸びた長い黒髪──女子か──を視界に入れながら、画面を見つめ呟いたんだ。

602 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 13:48:49 ID:A/kBr/vEO
o川*゚ー)o「あのさ」



('A`)「――えっ……」



o川*^ー^)o「きもいんだけど」





 振り向いた彼は、驚きよりも恐怖のほうが大きかったみたい。





 それこそ、幽霊でも見たかのように。

603 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 13:49:41 ID:A/kBr/vEO
〜〜〜



('A`;)「え、あ、す、すわせん……」



 一瞬だけ目を合わせて、どもった口調で謝ってきた同級生の名前は、宇津田ドクオ。ご覧の通り、典型的な根暗オタク。



こいつが誰かと一緒にいるところをみたことは、私が一人で行動している時よりも少ないって言える。それくらいぼっち。ぼっち王。



o川*゚ー゚)o「てかさ、静かにしてくんない?」



('A`)「あ、ふっは、はい……」

604 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 13:50:42 ID:A/kBr/vEO
 なんだよふっははいって。ぼっち王の作ったぼっち言語か。



最初に目を合わせてから、ずっと下を見たままボソボソと喋るこいつに余計に腹が立ってきた。



o川*゚―゚)o「ちっ……家でもカタカタやってんでしょ。別にここでやることないじゃん。帰れば?」



 どうせ家に帰って自分の部屋でパソコンをいじっているんだろう。



何をしているかは知らないけど──というよりパソコンで何ができるのかよくわかんないけど──カタカタ鳴らすのは間違いない。そう思った私は、ここから出ていくようにさりげなく促した。

605 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 13:53:26 ID:A/kBr/vEO



('A`)「……」



 でも、なんの行動も反論もない宇津田の様子に、ちょっとだけ意外だと思ったのも事実。



だいたいこういう奴って私らみたいな女嫌いだからすぐ出てくと思ったんだけど、思ったよりも座り心地の良い王座みたい。



 しばらく腕組みをして睨んで、無言の圧力をかける。ふと、視線をパソコンに向けると、ちょうど画面の様子が変わった。

606 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 13:54:17 ID:A/kBr/vEO



::::::::::::::::::::::::::::
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ザーーーーーーーーーーーーーー::::::::::::::::::::::::::::
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー::::::::::::::::::::::::::::
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
::::::::::::::::::::::::::::



o川;*゚‐゚)o「え……」



( ∀ )「来た」

607 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 13:55:07 ID:A/kBr/vEO
 テレビ大好きな私にはわかる。これは砂嵐だ。パソコンにもこういう砂嵐があるのかとどうでもいい知識が増えたところで、それが間違っていることを知る。



('A`)「あ、見ない方がいいです」



o川;*゚ー゚)o「え、なんで──」




あ さ あ さ あさあさあさああ
あ さ あ さ あさあさあさあ



o川;*゚д゚)o「は?ちょ、わけわかんな」




あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ

608 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 13:55:53 ID:A/kBr/vEO
 覚えたての『ち』のボタンを押すとなぜか出てくる『あ』が画面の上部を埋めていく。私が目をつぶって恐怖を感じたのは、誰もボタンに触っていないから。勝手に、一人でに。誰かいるような。



o川;*-д-)o「え、えっ、やめてよ、ちょ、どういうこと……」



 暗闇が目の前を隠す。見ないことによるひと時の安堵と、見えないことによる一抹の不安が頭の中を駆け巡った。



そして、好奇心と不安は、バカだと思いつつも少しだけ目に光を宿そうとしてしまう。

609 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 13:56:42 ID:A/kBr/vEO





 |(●)(●) )
 ヽ ・・  ノ
   、ー==ー ノ_

610 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 13:58:00 ID:A/kBr/vEO



o川;* ‐ )o(えぇ)



o川;* ー )o(やだ……!怖いっ……!!)



 画面に映っていたのは、目と口だった。一瞬だけでも見たことを後悔するような気持ち悪さと、身の危険すら感じる寒気。同時にくる感じたことのない、人が脅かそうとしてできるものじゃない怖れ。



足は震え、鳥肌が立つ。逃げたいと思っても、体が言うことを聞かない。



 目を開きたくないのだから、聞こえてくる音に耳を傾けるしかなかった。それがいけないことだとわかっていても。



 ヽ ・・  ノ
   、ー==ー ノ_

あ あ あ あ あ



o川; Д )o「キャァァァァッ!」

611 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 13:58:50 ID:A/kBr/vEO
('A`)「……」



殺す 死 あ 死 殺



('A`)「うわ、うっぜ。何様のつもりだよ」



o川*>Д<)o「……え」

612 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 13:59:40 ID:A/kBr/vEO
 とたん、体が軽くなった気がした。なぜだか、どこからかすごくかっこいい声が聞こえたからだろうか。



殺す 死 あ    



('A`)「はいはい。バックスペース、バックスペース」



殺す 死      



o川;*゚д゚)o「ちょ、あんた、なにやってんの……?」

613 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 14:00:38 ID:A/kBr/vEO
 今度は目を見開いて、目の前で起こっている事態に意識を向ける。見れば、かっこいい声はおろか、どこにも助けてくれたような存在はなかった。



 あるのはぼっち王が人差し指でエンターボタンの上を押し続けているまぬけな姿。これがパソコンの使い方なんだろうか。いや違うと思う。



殺す        



('A`)「こっちはタイパー神目指してんだよ、邪魔すんじゃねぇよ」



殺す殺す殺す殺す殺す



('∀`)「ほう、俺に刃向う気か低俗霊が。いいだろう、俺のタイピング速度とお前の呪詛どちらが上か試して」



o川*゚д゚)o「なにやってんの!?」

614 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 14:02:10 ID:A/kBr/vEO
('A`;)「え、あ、す、すわせん」



 大声を出したからか、萎縮した様子の宇津田は人差し指を離して頭を守るしぐさをした。



さっきまでベラベラと喋ってたくせになんで私にはどもるんだ。無駄に声裏返るし。



o川*゚д゚)o「ちょ、お化けいるじゃん!逃げようよ!」



('A`)「え……ああ、こいつっすか。大丈夫っすよ、いたずら好きなだけなんで」



o川*゚ー゚)o「へ?」

615 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 14:03:38 ID:A/kBr/vEO
('A`)「こうやってPCにいたずらしてユーザーを怖がらせるのが目的っていうまぁ、なんていうか低俗な幽霊なんすよへへへ」



よく意味がわからない。ユーザーってなんだ。



o川*゚д゚)o「わ、わけわかんないけどなんとかできるならなんとかしてよ!」



殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す



('A`)「はぁ」



 気の抜けた返事をした宇津田はおもむろに、パソコンの電源ボタンをじっと押し始めた。



携帯の電源を切るようなその動作が終わる頃、響いていた不快な電子音は聞こえなくなって、室内には空調の音しかしなくなった。

616 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 14:04:31 ID:A/kBr/vEO
('A`)「ふぅ……」



o川*゚д゚)o「はぁ……はぁ……」





o川*'ー`)o「怖かったぁ」('A`)「つまらなかった」






o川*゚ー゚)o「……え?」('A` )





o川*゚ー゚)o「いや、ちょっと待って。あんた、つまらなかったって」



('A`)「え、つまんないでしょ。こんなふざけた幽霊。もっとすごいの相手にしたいんですけど」



o川*゚ー゚)o「……」

617 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 14:05:36 ID:A/kBr/vEO
 驚いたことに、この同級生はさっきまでの恐怖体験をつまらなかったと切り捨てた。



確かに男が私みたいに悲鳴の一つでもあげるものなら頼りなさを感じてしまうところではあるが、それにしても冷静すぎる。というかズレてる。



('A`)「昔流行った貞子がイメチェンしてでも出てきてくれたらまだ面白いんですけどね、こういうのってつまらないんですよ。弱すぎて」



 そして、聞いてもいないのになんだか変わった名前を挙げてくるから、私は根本的におかしいところを聞いてみる。



o川*゚ー゚)o「……あんた、いっつも幽霊と会ってんの」



('A`)「はい。だって、幽霊くらいしか友達いないから」



o川*゚ー゚)o「怖くないの?」



('A`)「人間のほうが怖いです」



o川*゚ぺ)o「幽霊のほうが怖いわ!」

618 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 14:06:41 ID:A/kBr/vEO
 ああ、ようやくわかった。こいつはキチガイだ。



 そう思った私は、自分の席においてあったカバンを持って外に出ようとする。



こんな奴と一緒にいたら頭がおかしくなるに決まってる。いや、それよりも一緒にいるところを見られる方が色々とまずい。



 当然の考えに至ったにも関わらず、ドアを開け、足を一歩踏み出そうとするも、それはできなかった。



o川*゚ー゚)o「……」



 別にまた怪奇現象に見舞われたわけでもない。ましてや、体に異常が残っているというわけでもなかった。

619 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 14:07:48 ID:A/kBr/vEO
o川* ー )o「……あのさ」



('A`)「は、はぁ」



だって。



o川*゚ー゚)o「あー、その」



('A`)「?」



o川* ー )o「い、い、い」





外、暗いんだもん。





o川*゚、゚)o「一緒に帰らない?」

620 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 14:08:39 ID:A/kBr/vEO



(゚A゚)



屈辱にも似た私の誘いに、人間嫌いな男はとっても驚いたみたいで。





まるで幽霊でも見るかのように。

621 名前:名も無きAAのようです :2015/05/12(火) 14:09:22 ID:A/kBr/vEO
〜〜〜



o川*゚ー゚)o「つーかさ、タイパー神ってなに」



('∀`;)「え、ふひ、よくぞ聞いてくれました。タイピングの神ですよ。具体的にはスコア800以上の──」



やっぱキモいわこいつ。



おわり


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