- 198 名前:名も無きAAのようです :2013/09/17(火) 23:10:25 ID:2lS30Cj.0
- ('A`)「……なんだよ、これ」
世界は枯れ果てていた。
もうずっと雨を浴びていない地面は渇いてひび割れ、僅かに伸びていた植物も頼りなくその身を地面に横たえている。
空は憎いくらいの快晴だ。雲一つない、絵の具で塗りつぶしたような真っ青な空。
見渡す限りに建物などありはしない。ただひたすら、ひび割れた地面が広がっているだけで、酷くそれが孤独を感じさせた。
('A`)「変、だろ……誰か、」
誰か?
自分が呟いたその言葉に、ぴりりと違和感を感じた。
('A`)「あ、れ?」
自分、とは。自分は誰だ。
('A`)「俺の、名前」
名前だけでない。記憶も、自分の顔でさえ分かりはしない。
( A )「あ……ああああああああ」
('A`)虹の彼方のようです
- 199 名前:名も無きAAのようです :2013/09/17(火) 23:11:42 ID:2lS30Cj.0
-
从 ゚∀从「おはよう」
その場に座り込んで、膝に顔を埋めていると、いつの間にか夜になっていた。
着ていた手術着は薄かった。夜風が体を徐々に冷やしていくが、そんなことは気にならなかった。
否、気にする余裕も無かった。
('A`)「……誰だ、あんた」
从 ゚∀从「私はハインという。君が出て来たこの地下のシェルターの管理者だ」
('A`)「……俺は誰だ」
从 ゚∀从「君の名前はドクオという。世界の崩壊の為に保護した人類の一人だよ」
('A`)「保護、ねえ」
その言葉に、反吐が出る。
- 200 名前:名も無きAAのようです :2013/09/17(火) 23:13:10 ID:2lS30Cj.0
- ('A`)「なあ、ハインさんよ」
長時間動かなかったことにより少し軋んだ体を立ち上がらせて、ドクオは笑った。
ひゅうひゅうと風の音がする。
建造物が何も無いからこそ満面に広がる夜空には、幾千もの星が瞬いている。
ハインは何も言わずに、ただじっと眼鏡の奥からドクオを見据えている。
('A`)「記憶を消すっていうことは、保護するのにどうしても必要なことなのか」
从 ゚∀从「……記憶が無いのか」
('A`)「ああ、綺麗さっぱり」
从 ゚∀从「きっと、眠らせるのに特殊な薬を使わせたからだろう。申し訳なかった」
白々しい、と。
無機質なハインの声に比例するように、ドクオの表情もどんどんと冷めていく。
('A`)「俺以外に誰もいなかったのは?」
- 201 名前:名も無きAAのようです :2013/09/17(火) 23:14:19 ID:2lS30Cj.0
- 从 ゚∀从「他の人はまだ眠っている。君が一番目覚める兆候が早かったから、別室に移しておいた」
('A`)「じゃあ、もう一つ」
ドクオはそう言いながら、ゆらりと包帯を巻かれた手を上げた。
('A`)「お前ら、俺に何をした?」
从 ゚∀从「……何も」
何も、していないよ。
答えるハインはもうドクオを見てはいない。
手に持ったバインダーに気だるげに目を走らせて、中指で眼鏡の位置を直した。
その一連の動作が、ドクオにとって酷く目障りだった。
- 202 名前:名も無きAAのようです :2013/09/17(火) 23:15:41 ID:2lS30Cj.0
- ('A`)「シェルターの管理者とか、よくもまあそれらしいことを思いついたもんだな」
包帯が止められた金具を外す。
ハインはそれに僅かに眉を上げたが、だがそれまでだった。
('A`)「世界の崩壊だ? よく言うよ、崩壊させたのはお前らじゃねえか」
从 ゚∀从「……ドクオくん」
从 ゚∀从「先程の記憶が無いという言葉は、嘘だったのかな?」
('A`)「嘘じゃない」
するすると白い包帯が地面に落ちる。薄茶けた地面に落ちる白は歪に見えた。
ハインのところどころ汚れた白衣が風に揺れた。
現れたのは、形こそそのままだが――肌の色は、墨のように黒い腕だった。
手術着の下、腕の付け根からきっとこうなっているのであろう。
包帯を外してやっと、ドクオは己の推測が正しかったことと――腕の感覚があまり無いことを、改めて思い知らされた。
- 203 名前:名も無きAAのようです :2013/09/17(火) 23:16:42 ID:2lS30Cj.0
-
('A`)「嘘じゃない。全然思い出せやしない。でも、」
('A`)「彼女のことだけは、覚えてる」
身の内に唐突に湧き上がった熱さに、ドクオは抵抗することなく身を任せた。
右腕から、強烈な光が溢れた。爆音と共に放たれた光は、ハインがいたすぐ横の地面に当たって、地面を大きく抉った。
その力に、ハインは吹っ飛ばされる。その力の反動で、ドクオも後ろに吹っ飛ばされた。
これだけじゃない、と腕が語りかけてくるようだった。息も荒く、ただ右腕をハインに向ける。
湧き上がるのはひたすら、怒りと憎しみと――そして、悲しみだ。
- 204 名前:名も無きAAのようです :2013/09/17(火) 23:17:47 ID:2lS30Cj.0
-
川 ゚ -゚)『一緒にいよう、ドクオ』
一緒に居れなかった。
一緒に生きたかった。
('A`)「俺達の未来を返せ」
右腕が、今度は水を纏った。
溢れたのは水流だ。大きく渦を巻いた水はハインを狙って、遥か上から襲ったが、これもしぶとくハインが避ける。
そしてその足のまま、地下の研究施設へと駆けて行った。
- 205 名前:名も無きAAのようです :2013/09/17(火) 23:18:55 ID:2lS30Cj.0
- ドクオは研究施設の中に水を流し込んだ。
ハインが死ぬように。彼女との時間を奪った代償のように。
もういいかと思う頃まで水を流し込んで、施設の扉を見つけて、扉を閉じるとその扉と扉の鉄枠を、今度は火を出して溶かして繋いだ。
空を見上げた。
あちらこちらに水を出した大地は、未だにその水を持て余している。
ドクオが気まぐれに右腕を上げると、その指の先にあった水が盛り上がって竜巻のように激しい勢いで巻き上がった。
夜空を映したその水が、きらきらと星の光を反射する。
気が付けば、水の竜巻の周りには小さな虹ができていた。
('∀`)「……はは」
笑いが漏れる。
夜でも、こんなことでも虹ができてしまう。
勝手に取り付けられた腕で、何でもできてしまう。
- 206 名前:名も無きAAのようです :2013/09/17(火) 23:21:22 ID:2lS30Cj.0
- ならば、時に逆らうことだってできるだろう。
('A`)「きっと、会いに行くよ」
簡単に虹ができるこの世界の彼方から、君の生きる世界へ。
('A`)虹の彼方のようです・終わり
从;゚∀从「――おまえは、しあわせに――」
「彼」を機械に押し込めて、ハインは水にもがきながらボタンを押す。
そして彼女は、どの世界でも、同じ過ちを繰り返す。
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