- 108 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:28:01 ID:BNLD8DqwO
- あれほど騒がしかった蝉達が、皆で息を合わせたかのように一斉に静まり返った。
木々の葉ずれが優しく耳を撫で、空には一面に藍が広がっている。
僕は草っ原に四肢を投げ出して、仰向けに倒れ込んでいた。
l从・∀・ノ!リ人「すー、はー」
何度か深く呼吸をして、激しくなっていた鼓動を落ち着ける。
ここはハイキングコースからやや外れた、人気のない地元の山中だ。
そして僕がこんなところで魔法少女化して、なにをやっているのかといえば。
(,,゚Д゚)「しかし、モララーが修行とはなあ」
ギコの言葉通り、魔術の修行に励んでいた。
l从・∀・ノ!リ人「だって、悔しいんだもん」
(,,゚Д゚)「初対面のときから思っていたけど、負けず嫌いというか頑固というか」
l从・∀・ノ!リ人「負けてはいないけどね」
僕は悔しかったのだ。
神話型の魔獣に、あんなにも苦戦してしまったことが。
自信過剰だとか負けず嫌いだとか、そういう問題ではない。
妹者はもっと強くて、あれぐらいの魔獣に苦戦するわけがないのだ。
どうしてなのか理屈では説明できないが、僕にはそれがわかる。
そして、僕が足を引っ張っていることもわかってしまう。
- 109 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:29:17 ID:BNLD8DqwO
- (,,゚Д゚)「簡易な術式限定とはいえ、まさか一週間で無詠唱魔術を覚えるとはな。驚きだゴルァ」
l从-∀-ノ!リ人「これぐらい、まだまだだよ」
(,,゚Д゚)「あまり根を詰めないようにな。ほら、タオル」
l从・∀・*ノ!リ人「ありがと」
寝転がっている僕の手の平に、ふかふかのタオルが乗せられる。
そのタオルでさっそく汗をぬぐい、顔をうずめてみるとなぜか妙に生暖かくて、ドクンドクンと脈打つ音が聞こえた。
l从・∀・ノ!リ人「アクティブスペル・ストロングフォース!」
僕は身体能力を強化して、そのタオルを、
l从・∀・ノ!リ人「いっけえええぇぇぇ!」
もとい、タオルに擬態した猫を天空へと投げ放った。
(;゚Д゚)「モララーの汗って甘い匂いがするんだなぁぁぁぁぁ……!!」
ストロングフォースのおかげか、変態猫はいつもの倍以上の速度で、青雲を切り裂いていく。
今日もギコは元気にフライングキャットしていた。
.
- 110 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:30:24 ID:BNLD8DqwO
- 魔法少女になっても、僕の生活にそこまでの大きな変化はなくて。
無邪気という名の幼さで、いつまでもこんな日々が続くのだろうと信じていた。
平和な日常というのが、冬場の水たまりに張った薄氷のように、儚いものだとすら知らずに。
l从・∀・ノ!リ人魔法少女もなにかと大変なようです
第三話「友情の在り処」
.
- 111 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:32:01 ID:BNLD8DqwO
- 光りの柱と共に降ってきた、トソンと名乗る女性。
彼女は自身を魔導師と称した。
魔法少女ならまだしも、僕はその魔導師という聞き慣れない言葉に困惑を深めてしまう。
(゚、゚トソン「どうやら互いの認識に齟齬が生じているようですね。話し合いの場を設けましょう」
その提案に同意した僕は、変身を解いて異相空間を解除する。
そして、商店街の外れにある児童公園にてトソンさんと向かい合った。
(゚、゚*トソン「改めて名乗らせていただきますね。わたくし、姓は都村、名はトソンと申します」
と、今までの高圧的な態度とは打って変わり、トソンさんは淑やかに頭を下げた。
印象が変わったといえば服飾についてもそうで、色鮮やかな紅白の巫女装束から、ワンピースタイプのセーラー服へと変化している。
その様子は、学校帰りのお嬢様といった風情だ。
( ・∀・)「ご丁寧にありがとうございます。僕は流石モララーと申します」
しかし、僕の変化ぶりを考えると、他人のことは言えないような気がしないでもなかった。
- 112 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:33:32 ID:BNLD8DqwO
- ( ・∀・)「都村さんって、もしかして都村神社さんの」
(゚、゚トソン「はい。わが家は社家でございまして、父が宮司を勤めております」
( ・∀・)「やはりでしたか。都村神社さんの商売繁盛のお守り、持っていますよ」
(゚、゚*トソン「ありがとうございます。あっ、もしかして流石さんとは住宅街にある喫茶店の」
( ・∀・)「はい。姉さんが喫茶店を営んでおりまして」
(゚、゚*トソン「わたくし、お邪魔したことがあります! 落ち着いた雰囲気で、珈琲もとても美味しくて」
(* ・∀・)「本当ですか? ありがとうございます!」
(* ・∀・)「あはは」「うふふ」(゚、゚*トソン
( ФωФ)「和んでおる場合かっ!」
横合いから大きく一喝され、そちらへ視線を向けると、一匹の黒猫が呆れ顔で僕らを睨みつけている。
僕はギコのせいで猫の表情がわかるという、あまり自慢にもならない特技を身につけていた。
- 113 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:34:41 ID:BNLD8DqwO
- (゚、゚トソン「まあまあ、ロマさん。落ち着いてくださいまし」
( ФωФ)「落ち着いてなどいられないのである。魔導師がなんたるかを教えもせずに、契約を結んだというのか――ギコっ!」
(,,゚Д゚)「べつに俺は魔導師の契約など結んでいない」
( ФωФ)「現に同調者がいるのである! これはなんと言い逃れする腹積もりか!」
(,,゚Д゚)「俺がしたのは、モララーを魔法少女にする契約だゴルァ。魔導師など知らん!」
( ФωФ)「また魔法少女だとか、つまらぬ戯言を……」
(,,゚Д゚)「ならよう、ロマネスク。お前が言う魔導師ってなんだ?」
( ФωФ)「決まっているのである! 魔術を修め、理を探究し、魔導の掟を破る者を戒める存在である!」
- 114 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:36:36 ID:BNLD8DqwO
- (,,゚Д゚)「やっぱり俺達は魔導師なんかじゃねえよ。なあ、モララーはなぜ俺を助けようとしてくれたんだ?」
ギコは確かめるようにこちらを振り向いた。
だから僕は胸に手を当てて、あのときと同じ言葉を返す。
( ・∀・)「この胸の奥で輝くなにかを裏切らないためだよ!」
ギコは満ち足りた顔で、ロマネスクさんとやらへ向き直った。
(,,゚Д゚)「俺にとっての魔法少女とは、誰かの笑顔のために戦える者だ。そして俺はモララーがそうだと確信したから契約したんだゴルァ!」
ここで終わればよかったのだが、
(,,゚Д゚)「そもそも魔法少女という存在が――」
その後もギコは魔法少女の高尚さや可憐さを多いに語り、僕達二人と一匹をドン引きさせてみせた。
( +ω+)「……はあ、世の中には馬の耳に念仏という言葉があるのである。好きにせよ」
(,,゚Д゚)「言われずとも好きにさせてもらうゴルァ」
( ФωФ)「今回の件ばかりは、貴様の気持ちもわからんではないのである。上はその辺りも込みで、貴様を討伐隊から外したのであろうが」
討伐隊とは、ギコが追いかけている凶悪犯の討伐隊という意味だろうか。
( ФωФ)「ただ、無断で渡界をした不始末だけは覚悟しておくのである」
(,,-Д-)「わかっている。全てに決着がついたら、な」
- 115 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:38:06 ID:BNLD8DqwO
- (゚、゚トソン「はい、これで難しい話はおしまいということでよろしいですね?」
トソンさんは胸の前で可愛らしく手を二回打ち鳴らすと、こちらへ近づいてきた。
(゚、゚*トソン「では、モララーさん。もっとわたくしとお話しをしましょう」
( ФωФ)「モララーとやら、気をつけるのである。トソンは少々ショタコンの気があるゆえ」
(;・∀・)「えっ……?」
その一言で、この児童公園の空気が一瞬にして凍りついた。
(゚、゚;トソン「な、なななな、なに人聞きのわるいことをおっしゃっているのですかかかかか!? わたくしの人間性が誤解されるではありませんか!」
右へ左へと、トソンさんの目の泳ぎぶりは、不審者のそれを彷彿とさせられた。
( ・∀・)「ご、誤解なんですか?」
+(゚、゚*トソン「ええ、わたくしはただ可愛い男の子を愛でるのが好きなだけです!」
それをショタコンと呼ぶのではないのだろうか。
ここはつっこんでもいいところなのだろうかと、僕は大いに悩んだ。
(,,-Д-)「うむ、モララーを愛でたい気持ちはよくわかるゴルァ」
( ・∀・)「変な同意をするな!」
- 116 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:39:28 ID:BNLD8DqwO
- 大いに悩んだ結果、とりあえず僕はトソンさんから数歩だけ距離を取った。
(゚、゚;トソン「遠い! 微妙に距離が遠のいております!」
( ФωФ)「心の距離はもっと遠かろうがな」
(゚、゚;トソン「なんでロマさんは、わたくしと可愛い男の子とのふれあいを邪魔なさるのですか!」
( ФωФ)「吾輩としては、トソンが警察の厄介になってもらっては困るのである」
(゚、゚トソン「捕まらないように上手くやりますから、邪魔しないでくださいまし!」
上手くなにをやるのか、とてもではないが聞きたいとは思えなかった。
( ・∀・)「と、ところでトソンさんに質問があるのですが」
(/////トソン「はい、上からB81、W5――」
(;・∀・)「なんで急にスリーサイズを答えているんですか!? そんな質問はしていないです!」
(゚、゚*トソン「殿方が女性に聞きたいことといえば、まずはスリーサイズだと父様が」
僕の中で都村神社のお守りのありがたみが、ジェットコースター並の勢いで急降下した瞬間だった。
- 117 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:44:27 ID:BNLD8DqwO
- ( ・∀・)「僕が聞きたかったのは、異相空間でお会いしたときとはずいぶん雰囲気が違うんですねってことなのですが」
(゚、゚トソン「あのときはロマさんと完全同調をしておりましたから」
( ・∀・)「完全同調?」
( ФωФ)「魔導師というのは大別すると二種存在するのである。自力で魔術を修めた者と、幻獣と契約し同調した者」
ロマネスクさんの言葉から察するに、もしかしなくとも僕やトソンさんは後者にあたるのだろう。
( ФωФ)「吾輩達のような幻獣は、同調者への魔力ブーストと魔術知識の伝達をおこなえるのであるが」
(,,゚Д゚)「その間幻獣は魔術が使えず、足手まといになっちまう」
( ФωФ)「それを克服するために開発されたのが完全同調である。同調率を高め、肉体と精神を一時的に一体化させる魔術なのである」
(゚、゚トソン「ですからわたくしは、完全同調をするとロマさんの意識が混在して、少々雰囲気などが変わってしまうようです」
- 118 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:46:25 ID:BNLD8DqwO
- ( ・∀・)「意識の混在……。ギコ、完全同調は妹者とは関係ないのかな?」
(,,゚Д゚)「確かに似ていなくもないが、関係はないだろう」
(゚、゚トソン「妹者さん、というのはどなたのことでしょうか?」
( ・∀・)「実は――」
僕はこれまでの経緯を手短に伝える。
( ФωФ)「……現象としては類似しているが、なんともいえぬのである」
(,,゚Д゚)「本人は争いに向かないモララーを守るための人格といっていたが、どうにもな」
そう、確かに僕は争い事や戦いが好きではないが、向かないというほどでもない。
襲われれば抗うし、自分が正しいと信じられることなら、他者との衝突だって仕方がないと思っている。
( ФωФ)「まあ、戦闘中のみ変性意識状態になるという話は、聞かないわけでもないのである」
自動車のハンドルを握ると性格が変わるという人もいる。
だから戦闘中の変性意識ぐらいは、珍しいことではないのだろう。
( ・∀・)「そうですか……」
ただ僕は、嫌だとか不気味だとかそういう負の感情ではなく、もっと純粋な気持ちで妹者のことを知りたかった。
- 119 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:47:51 ID:BNLD8DqwO
- (゚、゚トソン「ああ、もうこのような時間です。モララーさんと離れるのは大変名残惜しいのですが、社でのお勤めがございますので」
( ・∀・)「今日はいろいろとお世話になりました。これからも、どうぞよろしくお願いします」
(-、-*トソン「はい。こちらこそ不束者ですが、末長くよろしくお願い致します」
(;・∀・)「なんか言葉の雰囲気が重いです!」
(゚、゚*トソン「間違えました。死が二人を分かつまでよろしくお願い致します」
(;・∀・)「もっと重くなった!? っていうか怖いです!」
( ФωФ)「トソンは重い女であるからして、仕方のないことである」
(゚、゚;トソン「重くありません。ただ、モララーさんとの蜜月を思い描いていたら、ふとそんな言葉が口をついてしまっただけです」
重いですトソンさん、と本音を言葉にしなかっただけでも、僕の努力は賞賛されるべきだろう。
今日一日の出来事は、トソンさんのインパクトにすべてかっ攫われた気分だった。
.
- 120 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:50:13 ID:BNLD8DqwO
- ( ・∀・)「どうでしょうか?」
从 ゚∀从「どれどれ」
背後から僕の肩に顎を乗せるようにして、ハインさんはテーブルに広がっているノートを覗き込んだ。
从 ゚∀从「おお、正解だ」
(* ・∀・)「やった」
从 ゚∀从「でも、一問だけ間違ってるな!」
そんな言葉が耳に届いた次の瞬間、僕の身体は電気が流れたような怖気に襲われた。
( >∀<)「ひうっ!?」
从 ゚∀从「一問間違えたから十秒な」
(* >∀<)「あは、あははは! そこっ、だめ、あは、弱いから……!」
从 ゚∀从「んー、知ってる」
ハインさんの五指が僕の横腹をまさぐり、撫でさする。
くすぐったさに耐えきれず、反射的に立ち上がって逃れようとするが、後ろから足で腰をホールドされてそれすらもかなわない。
从*゚∀从「はい、十秒経過ー」
( ////)「はあはあ……もぅ……ゃ……」
息も絶え絶えといった様子の僕を、ハインさんは楽しそうにぎゅっと抱き締めてくる。
他者からは遊んでいるように見えるかもしれないが、僕達は現在、テスト勉強に勤しんでいた。
- 121 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:52:26 ID:BNLD8DqwO
- 厳密にいうならば、僕がハインさんに勉強を教えてもらっている、とするのが正しいだろう。
いつもテスト期間前の休日になると、幼馴染みで僕の部屋に集まり、泊まり込みで勉強をするのが恒例なのだ。
そして、いつの頃からか僕がハインさんに教わる形になり、そこへ罰ゲームが付随されるようになっていた。
从 ゚∀从「しかし、なあ」
( ・∀・)「どうしました?」
从 ゚∀从「今回はモララーが、あんまり間違えないから楽しめないんだよなあ」
(;・∀・)「楽しまないでください!」
と、つっこみを入れながらも、内心では僕自身が驚いていた。
元々成績の低さは記憶力の悪さからきていたようで、以前から日常生活でも物忘れが非常に多かったのだ。
それがここのところよくなっている。
最近では物忘れどころか、うろ覚えだった両親の顔すら思い出せるようになっていた。
改善の兆しが見えたのはギコと出会った辺りからなので、魔法少女化が原因なのかもしれない。
- 122 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:55:23 ID:BNLD8DqwO
- 从 ゚∀从「それにしても、ジョルジュのやつ遅いな。おやつにありつけんじゃないか」
( ・∀・)「これ以上遅くなると夕飯に差し支えますし、先に食べちゃいましょうか」
勉強を教えてもらうお礼に、僕はいつも手作りのお菓子を用意している。
三人そろうまで待つつもりだったが、さすがにこれ以上遅くなるわけにもいかなかった。
( ・∀・)「持ってきますね」
そう一言断って中座し、部屋の扉を開けて廊下へと退室する。
(;゚Д゚)「やべっ」
すると、二足歩行で前足にデジカメを構えた猫という、なんともハイテクな怪奇現象に遭遇した。
( ・∀・)「……なにしてるの?」
(,,゚Д゚)「なにと申されましても言葉では表現できない概念的なものというか、ほら、日常のワンシーンって絵になるし? って、ちょまっ!」
なにやら言い訳をするギコの手からデジカメを強奪し、メモリーの内容に目を通す。
- 123 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:56:53 ID:BNLD8DqwO
- (* >∀<)『あは、あははは! そこっ、だめ、あは、弱いから……!』
( ////)『はあはあ……もぅ……ゃ……』
するとそこには、頬を紅潮させて喘いでいる僕の姿が高画質で刻まれていた。
判定は黒、極めて悪質な犯行として、心の中の裁判長が重々しく有罪判決を告げた。
( ・∀・)「…………」
(;゚Д゚)「ち、違う、違うんだ! 俺は悪くないんだゴルァ!」
( ・∀・)「わかっているよ。ギコは悪くないんだよね?」
(,,゚Д゚)「えっ、ああ、うん?」
( ・∀・)「つまり、悪いのは全部このデジカメだよね。おらっしゃあ!!」
僕は廊下の窓を開け放ち、怒号と共にデジタルカメラを蒼穹へと投げ飛ばした。
(;゚Д゚)「うわっ!? クイックスペル・アクセラレーション! 待てえええぇぇぇ…………!!」
それを追いかけて、ギコは自ら窓の外へと身を投げ出す。
結局僕が直接投げなくても、大空を舞う運命からは逃れられなかったようだ。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
- 124 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 17:58:05 ID:BNLD8DqwO
- その頃ジョルジュは、なぜ幼馴染みとの勉強会を優先しなかったのかと、後悔に囚われていた。
(´・ω・`)「教主様、不審な者を連行しました」
「そうか、お前が不審者の正体だったのか――」
(')∞(`)「ジョルジュ!」
_
(;゚∀゚)「どこからどう見てもお前が不審者だろうが!」
もう本当に心の底から後悔でいっぱいだった。
_
( ゚∀゚)「だいたいなんなんだよ、この集まりは」
(')∞(`)「我らはパンティー神様の加護を受けし聖者の集まり、非モテ教だ」
_
( ゚∀゚)「非モテ教?」
(-_-)「非モテ教は、中学生とかいうババアから好かれないように結界を張っている者のみが入信できる、とてもありがたい教団さ」
(´・ω・`)「そしてカップルとかいう、異教徒の撲滅を掲げた教団でもある」
_
(;゚∀゚)「ああ、そう……」
後悔を通り越して、貴重な休日になにをしているんだろうと、涙が出そうになっていた。
- 125 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:00:29 ID:BNLD8DqwO
- (-_-)「しかし、なぜジョルジュ君がここにいるんだ? きみは非モテ結界を張っている人間にはとても見えないね」
( ^Д^)「ジョルジュは俺が呼んだ」
_
( ゚∀゚)「ああ、緊急事態だとかいわれて呼び出されてみればこのざまだよ、笑えよ」
( ^Д^)「笑いはしないさ、ジョルジュは非モテ仲間だ。だって従妹と仲がいいというのは、モテには入らないはずだろ!」
(´・ω・`)「まあ、確かに」
( ^Д^)「そうだろ、ジョルジュ? 高岡さんとの付き合いは、あくまで親族としてだろ? 男女間のそれではないだろ? なあ、お義兄さん」
_
(;゚∀゚)「近い近い、寄って来るな! お義兄さんって呼ぶな!」
プギャーの瞳の奥には剣呑な光が宿っていた。
_
( ゚∀゚)「ブーンとかフォックスとか、まともに話が通じそうなやつはいないのか!」
(´・ω・`)「フォックスは駄目だ、やつは意外とモテる」
(')∞(`)「ブーンはフェンタ社の株主総会があるから欠席だ。その後は工場の視察をしてくるらしい」
_
(;゚∀゚)「どんな中学生だよ! なら比較的まともな、またんきはどうした?」
(')∞(`)「またんきはバレーボール部だからな」
_
( ゚∀゚)「部活にいっているのか。お前らと違って健全で素晴らしいな」
(´・ω・`)「なにか勘違いをしているようだね。バレーボール部は夏休みに男女合同で合宿をするだろう?」
_
( ゚∀゚)「なにその知ってて当たり前みたいな感じ、知らねえよ」
(-_-)「彼はうちから送り込まれた潜入工作員さ」
(')∞(`)「合宿で青少年が過ちを犯さないように、今のうちから宣教をしてくれているのだ」
_
(;゚∀゚)「宣教!? またんきのやつも全然まともじゃなかった!」
- 126 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:02:22 ID:BNLD8DqwO
- ( ^Д^)「青少年が同じ屋根の下で寝るなんて、とても許容されることじゃないよな。たとえそれが従兄妹だったとしても! なあ?」
_
(;゚∀゚)「お、おう……」
今日の泊まり込み勉強会のことを知られたらと想像して、ジョルジュの背中を冷たいものが走る。
_
( ゚∀゚)「お、俺、そろそろ帰るわ」
(')∞(`)「まあ待て、せっかくだからジョルジュにも宣教してやろうじゃないか」
_
(;゚∀゚)「離せ、離せ! 俺は帰るんだ!」
( ^Д^)「高岡さんが待つ家へってか? そうはさせないぞ、宣教してやる!」
(´・ω・`)「宣教だ。女なんて最低だよ、本当に素晴らしいのは男同士だ」
(-_-)「宣教だね。中学生なんてババアだよ、本当に素晴らしいのは女子小学生さ」
_
(;゚∀゚)「やめろやめろやめろ! 耳元で変なことを呟くなああぁぁぁぁ…………」
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
- 127 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:07:11 ID:BNLD8DqwO
- 从*゚∀从「美味い! これ市販のより美味いぜ」
(* ・∀・)「それは言い過ぎですよ」
手作りのチョコチップクッキーは、ハインさんの舌に合ったようで、本当に美味しそうに食べてもらえている。
そんな様子を見ているだけで、僕は胸が満たされたように幸せだった。
そういえばまったく関係のない余談だけど、さっきのデジカメは投げた振りをしただけなので、現在ギコは外で存在しないデジカメを探しまわっている。
从 ゚∀从「さすがモララー、女子力が高い!」
(;・∀・)「女子力ってなんですか!? 男子としては高くてはいけないパラメーターな気が……あむっ」
つっこみを入れている僕の口へ、クッキーが押し込まれる。
唇に触れたハインさんの指先は、夏場でも妙に冷ややかだった。
从 ゚∀从「美味いだろ?」
(* ・∀・)「むー、確かに美味しいですけど」
上手くはぐらかされたような気がしないでもない。
- 128 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:08:32 ID:BNLD8DqwO
- ( -∀-)「……できれば、ジョルジュ君にも一緒に食べてもらいたかったです」
从 ゚∀从「あの野郎、何発か焼き入れておかないといけないな」
( ・∀・)「駄目ですよ、きっとどうしても外せない大切な用事があったんですから」
从 ゚∀从「どうせ馬鹿なことやってるだけだろ。まったく」
結局ジョルジュ君は、夕飯が終わった頃になってようやく姿を現した。
なにがあったのか尋ねても、憔悴しきった顔で首を横に振るだけで、僕達も詳しく言及はできなかった。
_
( ゚∀゚)「なあ、ハイン。抱きついてもいいか?」
从 ゚∀从「いまさら許可を取るようなことでもないだろ」
ただジョルジュ君はハインさんに抱きついて、
_
( ∀ )「同年代の女の子が素晴らしいんだ。男同士は違うんだ。小学生に手を出してはいけないんだ」
震えながら、なにかを呪文のようにぶつぶつと呟いていた。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
- 129 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:10:03 ID:BNLD8DqwO
- 普段より一時間以上早い起床を苦ともせず、姉者は身支度を開始する。
別段朝が苦手ではない彼女だが、いつもは弟の想いを汲んで、わざと遅く起きていた。
試しに早起きをしてみると、翌日からモララーがもっと早く起きるものだから、仕方がないという一面もある。
∬´_ゝ`)「ふふ、誰に似たのやら」
そんな頑固さも健気さも、姉としてはとても微笑ましくあった。
姉者は弟の姿を思い浮かべながら、平常時ならモララーがこなしている仕事、店内の清掃を手際よく済ませていく。
そしてほどなくした後、珈琲豆の煎りなどを含めて、喫茶『ソーサク』の開店準備が全て完了した。
∬´_ゝ`)「おっと、今日はこれで終わりというわけには、いかないんだったね」
居住スペースに戻った姉者は、即座に朝食の準備を調えていく。
流石家の炊事はモララーに一任されているが、客観的に見れば腕前は、調理師免許を取得している姉者の方が数段上だ。
もっとも彼女本人からすれば、自分の手作りと最愛の弟の手料理とでは、比べるべくもないものだが。
(,,゚Д゚)「ゴルァ」
∬´_ゝ`)「おや、ギコ君。おはようだね」
あらかた調理の終わった段階になって、キッチンに一匹の家族が姿を現した。
- 130 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:12:07 ID:BNLD8DqwO
- ∬´_ゝ`)「食いしん坊さんが、匂いに釣られてやって来たようだ」
(,,゚Д゚)「ゴルァゴルァ」
∬´_ゝ`)「ふふ、そう急かさなくてもご飯は逃げないよ」
姉者は弟達に振るまうのと同じ料理を、ギコ用の小皿に乗せて並べる。
本来なら家猫に人間と同じ食事を与えるのは大変よろしくないことだが、彼ならば問題ないだろうと判断していた。
∬´_ゝ`)「しっかり咀嚼して食べるんだよ」
(,,゚Д゚)「ゴルァ!」
ギコの弾むような返事を背中で受け、姉者は学生達を起こすべく弟の部屋へと向かう。
∬´_ゝ`)「なんともまあ」
扉を開けてモララーの部屋へ進入すると、不思議な光景が目に入った。
夏場であるにも関わらず、幼馴染み三人は寄り添うように固まって眠っていたのだ。
∬´_ゝ`)「暑くはないのかね。可愛らしくはあるのだが」
狼柄のパジャマを着た二人に挟まれた、羊柄のモララーは、一見すると襲われているように思えなくもない。
ただ、全員の顔は幸せそうに安らいでいて、そこにあるのは平和以外の何物でもなかった。
∬´_ゝ`)「朝だよ! そろそろ起きなさい!」
もう少し見守っていたい気持ちを振り切り、姉者は三人を起こしていく。
今日もいい一日になりそうだと、頬を緩めながら。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
- 131 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:15:50 ID:BNLD8DqwO
- 未知への探求心を持つことは大切だ。
人類の歴史を紐解いても、数々の未知を既知とすることで、その生活の基盤を大きく向上させてきたことがわかる。
だが、どんな物事にも負の側面というものは存在する。
この世には人間が探求してはならない未知もあるのだと、幼かったあの日の僕達は身を持って思い知ったのだ。
とある日の午後、ブーンケイ中学の神聖な学舎では、半裸男の集団がそこら中を爆走するという事件が勃発していた。
鬼気迫る表情をしながら、パンツ一枚で廊下や階段を駆ける男共。
しかも中にはブリーフ一枚で、顔に女性用のショーツを装着した変態もいたらしい。
まあその変態の正体は言うまでもなくドクオ君で、他の男共は僕のクラスメイトである、二年三組の男子達だったのだけれど。
子細を語ると長くなるし、正直語りたくもないので概要だけをかいつまむと、彼らは野球拳鬼ごっこなる未知の競技を探求していた。
言葉面からなんとなく察してもらえるとは思うが、それは野球拳と鬼ごっこという二つの種目をドッキングした、センセーショナルな競技とのことだ。
先ほど、下級生の教室が立ち並ぶ廊下を、パンツ一枚どころか全裸になったヒッキー君が駆け抜けながら、
(-_-)「中1の遅生まれなら年齢的には小学生みたいなもんか? いや、やっぱり女子小学生っていうのはブランドだからな」
などと呟いていたところを体格のいい体育教師に捕まり、ジャーマンスープレックスをくらうという、べつの方向でセンセーショナルな競技だった。
ちなみにヒッキー君には、ち○ぐり返しヒッキーという二つ名がついた。
- 132 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:17:18 ID:BNLD8DqwO
- さんざんに酷評したものの、かくいう僕もさまざまな要因が積み重なり、半ば強制的に参加させられていた。
通常の鬼ごっことは違い、クラスの男子の半数が鬼というまさに地獄のゲームで、僕は身体能力を駆使してなんとか逃げまわっている。
l从・∀・;ノ!リ人「はあ、はあ……」
現在までにジャンケンで負けて脱がされたのは、髪留め、ネクタイ、上履き、靴下、カッターシャツの五点だ。
すでに鬼も逃げる側も大半がパンツ一枚であることを考えると、この時間ではかなり生き残っている部類だろう。
l从・∀・ノ!リ人「上履きがなくなったのは、厳しいかな」
序盤は三階の窓から飛び降りるという、僕だけにしか実行不可能な荒業で危機をくぐり抜けたが、さすがに素足ではそれも難しい。
そしてなによりも厳しいのは、今僕を追いかけている鬼がやつだということだ。
(')∞(`) ハアハア
無駄に高性能な変態が、僕の背後へと迫っていた。
過去に脱がされた五点のうち、三点がやつの仕業だった。
- 133 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:18:50 ID:BNLD8DqwO
- (')∞(`)「捕らえたぞ!」
l从・∀・;ノ!リ人「むー、僕は短距離走の学内記録保持者なのに、どうやって追いついたんですか」
(')∞(`)「パンティー神の導きによるものだ。さて、レッツ野球拳ターイム!!」
ドクオ君の叫び声に応えるようにして、
( ^)∞(^)
(´・)∞(・`)
(-)∞(-)
「「うおおおおお!!」」
(・)∞( ・)
( ^)∞(^)
辺りから続々と変態が集結してきた。
類が友を呼ぶとはこのことを指すのだろうか、変態共は円陣を組んで僕とドクオ君を囲みながら、回転し始める。
( ^)∞(^)「野球ーすーるなら」
(´・)∞(・`)「こういう具合にしやしゃんせ」
(')∞(`)「アウト!」
l从・∀・ノ!リ人「セーフ!」
(')∞(`)「「よよいのよい!!」」l从・∀・ノ!リ人
僕の繰り出したパーに対して、ドクオ君が繰り出したのは、チョキ。
- 134 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:20:10 ID:BNLD8DqwO
- l从・∀・;ノ!リ人「なっ……!?」
(')∞(`)「この勝利をパンティー神様に捧ぐ」
「「うおおおおお!!」」
勝敗が決すると同時に、周りの変態共が喚声を上げる。
だが、僕の耳にはそれが遠い出来事であるかのように感じられた。
なぜならもう僕が脱げるのは、Tシャツかズボンしかないのだ。
(')∞(`)「さあ、おっぱいかパンティーか。衆目に晒す方を選択するがいい!」
(・)∞( ・)「おっぱい! おっぱい!」
(´・)∞(・`)「パンティー! パンティー!」
僕を取り囲み、口々にはやし立てる半裸の男達。
その熱狂ぶりはどこか宗教じみていて、端から見ればこの光景は、邪悪な生け贄の儀式のように映ったかもしれない。
- 135 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:22:27 ID:BNLD8DqwO
- l从・∀・ノ!リ人「って、よくよく考えたら体育の着替えの際は普通に脱いでいますし、男同士で恥ずかしがることでもないですよね」
( ^)∞(^)「言われてみると、確かにそうだお」
( ^)∞(^)「そもそも俺は高岡さん一筋だし」
(・)∞( ・)「口を隠すと似たような顔をしてるのに、誰なのかわかる不思議!」
(´・)∞(・`)「騙されるなっ! 体育の着替えは、ジョルジュがブロックしていて見えないんだぞ!」
(;・)∞( ・)「なんでそんなこと知ってんの?」
(´・)∞(・`)「僕が男の裸に興味があるからに決まってるだろ! さあ、脱げよ! ほら脱げよ!」
ショボン君に急かされて、ゲームだし仕方がないなという気持ちで服の裾に手をかける。
そして布地を捲り上げていくと、僕のおへそが露出した。
(´・)∞(・`) ジー
恥ずかしがることでもないといったが前言撤回、やはり凝視されると恥ずかしかった。
僕は色白で健康的とは言い難いし、男にしては肉付きも足りていないと思うし、とにかく他人に肌を見られるのは存外に羞恥心を刺激された。
l从////ノ!リ人「そんなに、じっと見ないでください……」
(・)∞( ・)「あれ、なんかこれエロくね」
- 136 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:25:12 ID:BNLD8DqwO
- (´・)∞(・`)「いいよいいよ! そのままガバッと――」
_
( ∀ )「ガバッと、モララーになにをさせようってんだ?」
邪悪な生け贄の儀式に誘われ、ショボン君の背後に、邪神のごときオーラを纏ったジョルジュ君が降臨した。
しかしなぜかその身体は、拘束具であるかのように、ロープでがんじがらめに束縛されている。
(´・)∞(・`)「なっ!? ジョルジュ、僕の亀甲縛りをどうやって破った!」
_
( ゚∀゚)「フォックスが、きな臭くなって来やがったぜって言いながら助けてくれたぞ!」
(・)∞( ・)「あいつそれしか言わないよな」
_
( ゚∀゚)「上半身の解き方はわからなかったが、足さえ動けば十分だっ!」
鎧袖一触。
ジョルジュ君が放った一撃の蹴りで、三人もの変態が宙を舞う。
(;´・)∞(・`)「ぐはぁっ! 化け物め、だが僕がこんなことで引き下がるとでも思っているのか!」
_
( ゚∀゚)「そういえばハインも、用事を済ませたらお前らに話があるってよ」
(´^)∞(^`)「すみませんでした!」
亀甲縛りされているジョルジュ君に、土下座をするショボン君。
全体の絵面はいささかシュールだったが、それは芸術的なまでに美しい土下座だった。
こうして、未知の競技の探求は幕を閉じた。
ちなみにその後、僕を積極的に脱がせようとした面々は、ハインさんによって心的外傷を負わされたそうだ。
.
- 137 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:29:18 ID:BNLD8DqwO
- 特別なことなんてなにもない、いつも通りの昼休み。
そうであるにも関わらず、僕はジョルジュ君が買って来てくれたカレーパンを頬張りながら、ふと違和感を覚えた。
( ・∀・)「なにか足りなくないですか?」
_
( ゚∀゚)「あれ、買い忘れがあったか?」
( ・∀・)「そうではなくて、誰かがいないような」
从 ゚∀从「誰かって、俺達はいつも三人で飯を食ってるじゃないか」
( ・∀・)「そうですけど、もう一人いませんでしたっけ。よく昼休みに声をかけてくれる女の子が」
魚の小骨が喉に刺さったような、もやもやとした焦燥感が胸の奥でつかえている。
魚、そういえばあの子と最後に会ったときは魚の話をした気がする。
( ・∀・)「ちょっと魚の名前をあげてみてもらえませんか?」
_
( ゚∀゚)「魚? まぐろ、鮭」
从 ゚∀从「秋刀魚、鯵」
(;・∀・)「ああっ!? 鯵です、鯵のムニエル!」
なんで僕は、こんなにも大切な友達を忘れていたのだろうか。
あの女の子とは、ツンさんのことだ。
- 138 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:30:55 ID:BNLD8DqwO
- ( ・∀・)「ツンさんって、今日はお休みですよね?」
_
( ゚∀゚)「ツン? あれ、そういえば見ていないな」
从;゚∀从「……今日だけじゃねえ! 最近はずっといなかった。なんで俺はそんなことに気がつかなかったんだ?」
ハインさんは呆然といった様子で、まばたきを繰り返した。
从;゚∀从「そういえば俺、ツンの携帯番号すら知らねえ。友達なのに!」
僕は携帯電話を持っていないが、それでも仲のいい友人からは電話番号を教えてもらっている。
だが、ツンさんには教えてもらった覚えがない。
_
( ゚∀゚)「ツンがどうしたのか知っているやつがいないか、話を聞いてくる!」
食べかけの昼食もそのままに、ジョルジュ君はクラスメイトに聞き込みを始めた。
こんな状態で食事が喉を通るわけもなく、僕達もそれにならって行動を開始する。
- 139 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:33:22 ID:BNLD8DqwO
- ( ・∀・)「内藤君、ちょっといいですか?」
( ^ω^)「おっ、モララー? さてはフェンタ談義でもしにきたかお」
内藤君は缶のフェンタをロックアイスの袋の中で冷やしながら、大様にこちらを振り向いた。
以前、フェンタより氷の方が値段が高いのではないかと尋ねたら、最高のフェンタを飲むには金をかけるものだと諭された記憶がある。
( ^ω^)「缶のフェンタをそのまま飲んでも美味しい、そんなのは当たり前だお。だがもうワンランク上のフェンタを味わいたければ容器を」
( ・∀・)「そうではなくて、ツンさんがどうしているのかを知りませんか?」
( ^ω^)「ツン? それって誰だお?」
(;・∀・)「えっ? ツンさんですよ、クラスメイトの」
( ^ω^)「クラスメイト……、去年の話かお? 僕は知り合いじゃなけど」
内藤君は本心から、それは誰だという顔をしていた。
(;・∀・)「えっと……?」
血が凍ってしまったかのように肌寒く、嫌な予感が汗となって額を伝う。
クラスメイトのことを完全に忘れている、これはかなりの異常事態だった。
- 140 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:35:09 ID:BNLD8DqwO
- 内藤君と別れて、それから数人に同じ質問をしたが、返答は皆一様だった。
誰もツンさんのことを覚えていないのだ。
( ・∀・)「なんで、こんな……」
('A`)「青春を謳歌するのも結構だが、もう少し危機感を持った方がいいな」
( ・∀・)「ドクオ君、それはどういう意味ですか」
('A`)「ふっ、一度大切なものを失った男からの助言さ。意味は自分で考えな」
それ以上答える気はないといわんばかりに、ドクオ君は後ろ姿で手を振りながら去っていく。
結局、僕達三人はツンさんの情報どころか、この学校にいたという確証すら得ることができなかった。
なぜなら、学校側の公的な資料を調べても、そんな生徒は存在しなかったのだから。
.
- 141 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:39:18 ID:BNLD8DqwO
- ( -∀-)「……あ、れ?」
闇の中へ光が差し込んだように、混濁とした状態から僕の意識は覚醒を始める。
仰向けに寝転がったまま、とりあえずまぶたを持ち上げて目を開くと、
( ・∀・(゚、゚トソン
トソンさんが物凄く近距離から、こちらを覗き込んでいた。
(;・∀・)「うわっ!?」
余談だが物凄いという言葉には『並の程度をはるかに超えている』という意味の他に、『非常に気味が悪い。なんとも恐ろしい』という意味がある。
もちろん今の状況とはなんら関係のない余談である。
(゚、゚*トソン「よかった。目を覚まされたのですね」
(;・∀・)「なんですかこれ、なにがあったんですか」
状況を確認すると、どうやら僕は公園のベンチで横になり、トソンさんに膝枕をされながら頭を撫でられているようだ。
もう色々な意味で物凄かった。
すぐさま起き上がり、とりあえずトソンさんから安全圏を確保する。
酷い言い様な気がするので一応フォローをしておくと、僕はトソンさん以上の美人は知らないというぐらい、本当に綺麗な人ではある。
ただショタコンというのは、女性版のヒッキー君であると考えると、マイナス補正が凄まじかった。
(,,゚Д゚)「覚えていないのか? 駅前で牛頭人身の神話型と戦っていて」
( ・∀・)「ああ! 異相空間を撃ち壊しちゃって、魔法少女のまま人混みに出たんだ! それで確か」
(゚、゚トソン「はい、恥ずかしさのあまり気を失われてしまったみたいです」
( ・∀・)「あれ? なにやら後頭部に鈍い衝撃が走って」
(゚、゚トソン「恥ずかしさのあまり気を失われてしまったみたいです」
大切なことなのか二回繰り返された。
(;ФωФ)「完全同調をしていた以上、責任の半分は吾輩にあるので、とかく文句をつけられる立場ではないのであるが……」
ロマネスクさんも奥歯に衣着せたように、なにかを言い淀んだ。
- 142 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:42:34 ID:BNLD8DqwO
- ( ・∀・)「ところで、前にギコが神話型の魔獣は珍しいって言っていたけどさ」
(,,-Д-)「ああ、出現率が高過ぎるゴルァ。間違いなくやつが絡んでいるだろうな」
( ФωФ)「やはり、この街に潜伏している可能性が高そうなのである」
二匹の猫は、そろって眉根を寄せる。
ここ数日、僕達は毎日のように神話型と相対していた。
これを偶然と考えられるほど、容易な事態ではなさそうだ。
( ФωФ)「神話型まで自在に召喚できるようになったとすると、きゃつめの魔操術も――げふぅ!?」
ミ*゚∀゚彡「ロマちゃんみーっけ!」
僕の目の前で、真面目な顔をしたロマネスクさんが、喋る猫にはね飛ばされた。
シリアスシーンかと思って気を引き締めていたけど、そんなことはなかったようだ。
(,,゚Д゚)「ふー! お前な、登場する度に人身事故を引き起こすのはやめろって」
ミ*゚∀゚彡「あっ! ギコちゃんもみーっけ!」
かくいうギコは、僕の肩の上に退避して震えていた。
地面へ降ろそうとすると、爪を立ててまでしがみついてくる。
- 143 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:47:49 ID:BNLD8DqwO
- (゚、゚;トソン「ロマさん、ご無事ですか?」
(;ФωФ)「はあ、はあ、なんとかな。それより、なぜふーがここにいるのである! 貴様の担当区域は――げふぅ!?」
ミ*゚∀゚彡「ふみゅ! それどころじゃないの、ロマちゃん!」
僕の目の前で、真面目な顔をしたロマちゃんが、再度はね飛ばされた。
きりもみ落下するその姿は、往年の名作バトル漫画ニンニクマンに登場する、バイソンマンのトルネードミキサーを食らったようだった。
(;+ω+)「貴様は吾輩を殺す気か……!」
ミ*゚∀゚彡「もう、遊んでる場合じゃないの! 大変が大変で変大なの」
(,,゚Д゚)「大変な変態が現れたような言い方だな」
大変な変態、例えるならドクオ君のような感じだろうか。
ミ*>∀<彡「ソーサク魔導教国がクラティアに襲撃されたの! 一級魔導師には帰還要請が出てるの!」
(;ФωФ)「なっ!?」
(;゚Д゚)「マジで大変じゃねえか!」
( ФωФ)「なぜもっと早く念話で伝えなかったのである!」
僕とトソンさんは置いてけぼりだが、どうやら事態は切迫しているらしい。
そんな場合ではないと思いつつ言うけど、端から見ると僕達は猫の集会に参加している人間みたいだった。
- 144 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:51:44 ID:BNLD8DqwO
- ミ*゚∀゚彡「ふみゅん、念話はできなかったの! だってこの街、魔術障壁で閉鎖されてるから」
(;゚Д゚)「閉鎖!? それはどういう意味だ! いつからだ!」
ミ*>∀<彡「ふーに聞かれても、よくわかんないのー」
( ФωФ)「同調者の佐々木カラマロス大佐はどうしたのである。一緒ではないのか?」
ミ*-∀-彡「佐々木カラマロス大佐ちゃんは、障壁を破ってこの街に入った途端、デミタスちゃんに襲われて……!」
(,,゚Д゚)「ちぃ、佐々木カラマロス大佐がやられたってのかゴルァ!」
( ФωФ)「あの佐々木カラマロス大佐が」
一通り話し終わるまで口を挟まないつもりだったが、僕にはどうしても気になる部分があった。
( ・∀・)「一つだけ質問していいかな? 佐々木カラマロス大佐は軍人なの?」
(,,゚Д゚)「いや、佐々木カラマロス大佐は大佐まで含めて名前だ。魔導師に階級はあれど、軍階級ではないんだ」
(;・∀・)「あっ、そうなんだ」
- 145 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:54:04 ID:BNLD8DqwO
- (,,゚Д゚)「ロマネスク、お前はふーを連れてソーサクへ帰れ。デミタスは俺がなんとかする!」
ミ*゚∀゚彡「違うの! 本当に大変なのはソーサクじゃなくて――」
( ・∀・)「っ!? ギコっ!」
(,,゚Д゚)「クイックスペル・マジックサンクチュアリ!!」
一瞬の目配せでギコは僕の意図を正確に読み取り、すかさず対魔障壁を発動する。
その直後、高速でこちらへと飛来した闇色のなにかが、眼前の障壁に衝突した。
(;>∀<)「ぐぅっ!」
つんざくような轟音が耳元で響く。
魔法少女化していない僕の肉体は、至近距離で発生した魔術のぶつかり合いによる余波を堪えきれず、後方へと数メートル弾き飛ばされた。
(,,゚Д゚)「モララー!」
(;・∀・)「僕はなんともない! それよりトソンさんは」
(゚、゚トソン「私も問題ありません」
トソンさんの対応は見事なもので、あの一瞬で完全同調を完了させている。
- 146 名前:名も無きAAのようです :2014/01/25(土) 18:56:04 ID:BNLD8DqwO
- l从>∀・ノ!リ人「メタモルフォーゼスペル・魔法少女☆マジカルモララー! 変身!」
次弾が来る前に、僕も素早く魔法少女へと変身した。
ヴィオとモール、左右それぞれの手に白銀の拳銃を構えて、臨戦態勢へと移行する。
「あーあ、今ので一級魔導師のどちらかぐらいは、沈めておきたかったんだけどなあ」
すると、先ほど闇色の魔術が発射された方角から、人の声が発せられた。
l从・∀・;ノ!リ人「そんな……!?」
それは僕もよく知る、馴染み深い涼やかな声音だった。
ξ゚听)ξ「まっ、仕方ないわね。直接屠るとしましょうか!」
l从・∀・ノ!リ人「ツンさんっ! なんで貴女がっ!!」
とても会いたかった友人。
こんなところで出会いたくなかった友人。
前方には、大量の神話型魔獣を引き連れたツンさんが、凍えるような冷たい瞳をして立っていた。
第三話 完
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