58 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:22:36 ID:Zz82v/WMO
 その日の僕は珍しく、けたたましい騒音で起床した。

l从・∀・;ノ!リ人「わっ、わわ!?」

 状況確認もそこそこに、寝ぼけ眼のまま慌てて目覚まし時計のスイッチを切る。

l从・∀・ノ!リ人「……大丈夫、かな?」

 僕がいの一番に心配したのは時刻よりも、姉さんを起こしていないかだった。

l从-∀-ノ!リ人「ああ、よかった」

 もちろん起こしたって、あの姉さんがそんなことで怒ったりするわけがない。
 しかし、早起きをした姉さんは店の清掃などの、僕の仕事を取ってしまうのだ。

 常々守られるだけでなく、家族として苦楽を分かち合いたいと思っている僕からすれば、それは一番回避したい事態だった。

60 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:24:47 ID:Zz82v/WMO
l从>∀<*ノ!リ人「ふあぁぁ!」

 誰も見ていないのをいいことに大あくびをしながら、僕はお気に入りの羊柄のパジャマを脱ぎ捨てる。
 そして、二ーソックスを脱いで学生服の、

l从・∀・;ノ!リ人「って、ちょっと待った! なんで僕は二ーソックスなんてはいているのさ!」

 例え僕が冷え性だとしても六月の、しかも雨降りでもない日に、わざわざこんな窮屈なものをはいて寝ようとは思わない。
 つまりこれは、自分の意思で装着したものではないということだ。

(,,-Д-)「フッフッフッ、モララーといえば二ーソックス。そう思って、俺が寝ている間にはかせておいたのだゴルァ」

 変態チックなことを言いながら、僕がさっきまで使用していた枕のカバーの中という、変態どストライクな場所から変態猫が登場する。

 まだここまでは寛容の心を持って、黙って見ていられた。
 ただその直後、脱ぎ捨てた二ーソックスの中に潜り込んでいき、モララーの足の匂いくんかくんかと言い始めた瞬間に限界が訪れた。

 僕は直ちに二ーソックスの口を結んで出られないように封鎖し、それを掴んでその場でこまのように何度も回転する。

l从・∀・ノ!リ人「オラシャラオラアアアア!!」

 そしてハンマー投げの室橋選手ばりの雄叫びと共に、窓の向こうへと変態入りニーソを力の限り投げ放った。

(;゚Д゚)「我が生涯に一片の悔いなしぃぃぃぃ……!!」

 風薫る梅雨晴れの空へと、昇龍のごとく尾をなびかせながら、靴下がぐんぐんと昇っていく。
 この日、早朝から一つの星が瞬いた。


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61 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:25:57 ID:Zz82v/WMO
 今だから言えることだけど、トソンさんの第一印象はというと。

 正直ちょっと怖そうな人かなと思った。

 あのときのトソンさんは、僕にこう名乗ったんだっけ。



l从・∀・ノ!リ人魔法少女もなにかと大変なようです



第二話「魔導師」


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63 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:27:22 ID:Zz82v/WMO
 初めて妹者化したあの後は、聞くも涙語るも涙というぐらい、本当に大変だったのだ。

 結局、魔獣が消失したことにより妹者は引っ込み、すぐに通常の僕へと戻った。
 それはべつにいいとする。
 ギコの怪我を治した後、変身を解いて通常空間に復帰したこともいい。

 ただ通常空間に戻った瞬間、ジョルジュ君とハインさんが血相を変えて詰め寄って来た。
  _
( ゚∀゚)「一時間もどこへいっていたんだ!」

 厳しい口調ながらも、ありありと僕を心配してくれているジョルジュ君に、申しわけなくてわずかに眼を伏せてしまう。
 するとなにかに感づいた様子のハインさんが、人をも殺せそうな底冷えする声で尋ねてきたのだ。

从 ∀从「誰に乱暴をされた」

 そのときの僕の格好はというと、カッターシャツのボタンが千切れて胸元が大きく露出していた。
 更に、内側に着ていた肌着も力任せに引き裂かれている。
 ズボンのベルトが切れてしまって、ずり落ちないように必死に押さえていたのも、よろしくなかったのかもしれない。

从 ∀从「泣き寝入りはなしだ。犯人に俺が地獄を教えてやる」
  _
(  ∀ )「いや、俺達で地獄だ」

 保育園時代からの旧友が、かつて見たこともない顔でどこかへいこうとするものだから、弁明するのは非常に骨が折れた。

64 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:28:31 ID:Zz82v/WMO
l从・∀・;ノ!リ人「だから、猫が犬に襲われていたので、それを追い払っただけですよ。これはそのときにちょっと、ね」

 僕は本当のことは話さなかった。
 二人を面倒ごとに巻き込みたくなかったのもあるが、僕自身も詳しく説明できるほど事態を理解していないのだ。
  _
( ゚∀゚)「ああ、なんだ、つまり」

从 ゚∀从「犬狩りをすればいいわけか」

l从・∀・;ノ!リ人「よくありませんっ! 動物をいじめる人は嫌いです!」
  _
( ゚∀゚)「ははは、冗談だって、冗談」

 本当に冗談なのかわかりにくい笑みを浮かべながら、ジョルジュ君は自分が着ていたカッターシャツを脱いで、僕の肩にかけてくれる。
  _
( ゚∀゚)「モララーに怪我がなかったなら、それでいいさ」

从 -∀从「まったくだぜ。もうあんなのはたくさんだからな」

 ハインさんはスカートのポケットから、僕が愛用しているのと同じ髪留めを取り出すと、髪を結ってくれた。

( -∀-)「今日は色々とすみませんでした」
  _
( ゚∀゚)「だから、そんなことで謝ってくれるなよ」

 おでこに人差し指を当てられ、下げかけた頭を押さえられる。
 少なくとも一時間は僕を探し回っただろうに、ジョルジュ君はそれすらそんなことと言ってのけた。

(* ・∀・)「ありがとうございます」

 次に僕が発したのは当然、謝罪の言葉ではなくなっていた。


.

65 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:29:35 ID:Zz82v/WMO
 僕ら幼馴染みの絆は深く、言葉にしなくても気持ちが伝わっていると称していい。
 だから多くを語らなくとも、僕が無茶をしたのには相応の理由があったのだと、二人は理解してくれる。

 しかし、姉さんとの絆はまたそれとは違ったもので、どんな理由があろうとも僕が無茶をすればもの凄く怒る。
 そして、最後は悲痛な面持ちで僕をきつく抱き締めるのだ。

∬´_ゝ`)「お前にもしものことがあったら、私はまた失ってしまうじゃないか……」

( -∀-)「ごめん、姉さん」

 姉さんの抱擁は痛いぐらいだったが、僕は黙ってそれに身を預けた。

∬´_ゝ`)「それで、助けた猫さんとやらはあちらのことかな」

 ようやく解放され、姉さんの目線の先に意識を向けると、見知った猫が一匹。

(,,゚Д゚)「ゴルァ」

( ・∀・)「あれ、なんでギコが?」

 いつの間にやら姿を消していたギコが、前足を揃えて上品そうに鎮座していた。

66 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:30:53 ID:Zz82v/WMO
∬´_ゝ`)「ついて来たのは仕方ないとして、名前までつけてしまったのかい?」

 僕が名づけたわけではないのだが、ここで馬鹿正直に、自分から名乗ってきたと説明するわけにもいかなかった。

∬´_ゝ`)「首輪はないが、野良という雰囲気ではなさそうだ。君は捨て猫なのかな、ギコ君?」

(,,゚Д゚)「ゴルァ」

 姉さんの問いに、ギコは何度も深く首肯する。
 その動作は猫としてどうなんだろうと思わなくもなかった。

∬´_ゝ`)「モララーにもなついているし、おとなしそうではあるのだが」

(*,゚Д゚)「ゴルァ、ゴルァ」

∬´_ゝ`)「うちは衛生が第一の飲食店だからね」

(;゚Д゚)「ゴルァ!? ゴルァ、ゴルァ」

 瞳を潤ませ、仰向けでお腹を見せたり腰をくねらせたり、ギコは愛嬌たっぷりに媚びを売る。

 魔法少女オタクを自認する男性である、彼の本性を知る僕からすると、その動きは正直ちょっと気色悪いと思った。
 若者言葉で言い直すならキショかった。

67 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:32:09 ID:Zz82v/WMO
∬´_ゝ`)「わかった、きみの熱意には負けたよ。そこまでされては、私としても飼うのはやぶさかではない」

(,,゚Д゚)「ゴルァ」

∬´_ゝ`)「しかし、労働には対価があり、対価には労働があり、世の中には働かざるもの食うべからずという言葉がある」

 姉さんはどこかで聞いたような、そうでもないような不思議なフレーズを並べる。

∬´_ゝ`)「客寄せ、招き猫ぐらいの仕事は期待してもいいかい?」

(,,゚Д゚)「ゴルァ!」

 快い返事一つと共に、ギコは再度首肯した。

∬´_ゝ`)「よし、交渉成立だ。実際に店に出てもらうのは、動物病院で検査してからになるかな」

( ・∀・)「動物病院?」

∬´_ゝ`)「もちろん飼うだけにしてもそうだけど、お店に出すなら病気のチェックはしないといけない」

 検査なんてされて大丈夫なのかとギコに視線を送ると、問題ないと頷いてきた。

68 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:33:12 ID:Zz82v/WMO
∬´_ゝ`)「そういえば、雄なら去勢手術をした方がいいとも聞くが」

 緊急事態発生、エマージェンシーと、雄猫が泣きながら必死に救難信号を送ってきた。

(;・∀・)「さすがにそれはちょっと可哀相じゃない?」

∬´_ゝ`)「ふふ、もちろん私もそんな気はないよ。小耳に挟んだことがあるというだけさ」

 なんとかギコの男としての象徴は守られたようだ。

∬´_ゝ`)「さて、そろそろ店も混む時間だ。モララーはとりあえず、ギコ君をお風呂で洗ってあげなさい」

( ・∀・)「了解!」

 姉さんの言を受けて、僕ら一路脱衣所を目指した。

69 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:34:47 ID:Zz82v/WMO
 ギコ本人の談によると、野生の猫とは違いノミやダニは寄生していないそうなので、僕も一緒にお風呂を済ませてしまうことにした。

l从・∀・ノ!リ人「らーらーらー♪」

 髪留めをほどき、カッターシャツのボタンを上から順に一つ一つ外していく。
 借り物でぶかぶかのシャツからは、どことなくジョルジュ君の匂いがした。

l从・∀・*ノ!リ人「ふふ、やっぱりジョルジュ君は大きいなあ」

(,,゚Д゚)「今のはどことなく変態っぽかったぞ」

l从・∀・ノ!リ人「そんなこと――」

 振り向いたその先には、前足で器用にデジカメを構え、二足歩行で僕の脱衣を撮影している猫がいた。

l从・∀・;ノ!リ人「変態はお前だー!! ドクオ君か、きみは!」

(;゚Д゚)「ああ!? それ凄く高いやつだから、やめてやめてー!」

 スリーポイントのフォームでデジカメを洗濯機の中へ投げ入れようとすると、ギコは飛びついて取り返そうとする。
 冷たく一瞥をくれてやると、やつは仰向けになってお腹を見せ、服従のポーズで媚びを売ってきた。

(*,゚Д゚)「ゴルァ」

 その動作が非常に腹立たしかったので、素足でやつのお腹をくすぐってやったのだが。

(*,゚Д゚)「ありがとうございます! ありがとうございます! 足蹴にして頂き光栄です!」

 本気でキショかったので直ちに中止した。
 とりあえずデジカメはデータを消去するだけで済ませた。

70 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:37:35 ID:Zz82v/WMO
l从・∀・ノ!リ人「馬鹿なことやってないで、お風呂入るよ」

 脱いだカッターシャツをギコに被せ、もがいている間に素早く脱衣をすませる。

(;゚Д゚)「野郎臭い! ジョルジュ君とやらは発情期の雄臭いゴルァ!」

l从・∀・#ノ!リ人「失礼なことを言うな!」

 人間の思春期とは、動物における発情期のようなものなのかもしれないが、あの優しくて紳士的なジョルジュ君が発情期でなどあるわけがない。

 前にハインさんが、年頃の男子はエッチなことばかり考えていると言っていたので、ジョルジュ君もそういうのに興味があるのか聞いてみたが。

 俺、ほんとそういうの興味ないから、いや本当にマジだって、いい匂いがするなとか思ってないし、エッチな目線で見たりとかしてないから。

 と、僕の瞳を見つめながら顔を赤らめ、早口で言っていたのだから間違いない。

 僕は妄言を吐く猫の首根っこを捕まえ、お風呂場へと移動した。

71 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:38:45 ID:Zz82v/WMO
(,,゚Д゚)「60分コースでお願いします!」

l从・∀・ノ!リ人「よくわからないけど、身体を洗うのはボディーソープとカビ取り洗剤とどっちがいい?」

(;゚Д゚)「変なこと言わずおとなしくしているので、ボディーソープでお願いします!」

l从・∀・ノ!リ人「よろしい」

 ボディーソープを手に取り、ギコの体毛に泡立てながら塗り広げていく。
 されるがままと、宣言通りにおとなしいギコだが、ときおりこちらを振り返りなにかを確認して呟く。

(,,-Д-)「なぜだ。なぜ大切な部分だけ、不自然に泡や煙が密集して見えないのだ。まるで全年齢対象に移植されたエロゲみたいではないか」

l从・∀・ノ!リ人「うん?」

(;゚Д゚)「しまった!? 心の声がもれたゴルァ!」

l从・∀・ノ!リ人「心の声?」

(;゚Д゚)「いや、その、モララーって肩に大きな傷痕があるから。どうしたのかなーなんて」

l从・∀・ノ!リ人「これ? 元はそこまで大きくなかったんだけど、成長と共に広がっちゃったんだよね」

 肩から二の腕にかけて走る裂傷の痕。
 これは幼少のみぎりに幼馴染み二人を、野良犬からかばったときに負った怪我だ。
 あの一件があったからこそ、僕達は仲よくなったともいえる。

72 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:40:05 ID:Zz82v/WMO
l从・∀・*ノ!リ人「そういえば今回の件とちょっと似ているのかな」

 思い出話に花を咲かせながら、シャワーでギコの泡を洗い流してやると、毛が身体にぺたっと張り付いてべつの種類の猫みたいになった。
 よくよく考えると、魔法猫の種類がなんなのかは甚だ疑問だったが。

 そんなどうでもいいことに思考を巡らせていると、突然ギコのにくきゅうが僕の向こう脛をくすぐる。

l从>∀<*ノ!リ人「ひゃっ!? な、なに?」

(,,゚Д゚)「モララーって体毛薄いよな。もしかして、まだ下の毛も生えて――」

 次の瞬間、猫が浴槽に高速で沈んでいった。

(;゚Д゚)「ごめ、なざっ、がぼっがはっ、ごめ、な、ごぶっ」

 ゆっくり十秒間沈めては、二秒だけ呼吸をさせて、また十秒間沈める。
 現代に魔女狩りが蘇った瞬間だった。
 この際、狩られるのは魔女ではなく変態なのだから、変態狩りが現代に生まれた瞬間といった方が正しいか。

 僕は動物をいじめる人は嫌いだが、ギコはすでに動物のカテゴリーを大きく逸脱し、変態に属していた。
 すなわち僕の中の異端審問官は、決して変態を見逃したりはしなかった。


.

73 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:41:22 ID:Zz82v/WMO
 店も閉店時間を迎え、僕は疲れている姉さんのために、今日も料理の腕を奮った。
 そのかいもあり、今晩のベシャメルソースで作ったクリームコロッケは、非常に好評だったことを付け加えておこう。

 そして、宿題を終えて翌日の準備も完了し、パジャマに着替えた。
 時刻は午後九時きっかり、いつもの就寝時間だ。

(,,゚Д゚)「って、早っ!?」

l从・∀・ノ!リ人「明日も早いんだから、ギコもそろそろ寝た方がいいよ」

(,,゚Д゚)「ほら、もうちょっとこう、俺の正体はなんなのかとか、そういう話は?」

l从・∀・ノ!リ人「しょうがないなあ。聞いてあげるから手短にね」

(,,゚Д゚)「俺はこことは違う世界、魔法の国ソーサクの住人だゴルァ」

l从・∀・ノ!リ人「うん」

(,,゚Д゚)「俺の世界の凶悪犯がこちらの世界に逃げてしまったので、俺はそいつを追って来たんだ」

l从・∀・ノ!リ人「うん」

(,,゚Д゚)「やつは魔獣と呼ばれる魔物を、操る魔術を研究している。かなり危険なやつだゴルァ」

l从・∀・ノ!リ人「うん」

74 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:42:42 ID:Zz82v/WMO
(,,-Д-)「やつを捕まえるまで、出来ればモララーにも今日みたいな協力をお願いしたい。すまないが俺一人では力が足りないんだゴルァ」

l从・∀・ノ!リ人「うん、いいよ」

(;゚Д゚)「凄くあっさりだな!?」

l从・∀・ノ!リ人「ギコはこの家の一員で、一緒に暮らすんだから家族でしょ。家族は助け合うものだよ」

(,,-Д-)「家族、か。なるほど、なら手伝ってくれるお礼に」

l从・∀・ノ!リ人「お礼なんていいよ、水くさい」

(,,゚Д゚)「お礼に、俺がモララーのことお嫁さんにしてやる!」

l从・∀・*ノ!リ人「ギコ……」

 両手を繋ぐように、ギコの二本の前足を、左右それぞれの手で握る。
 僕が幸せそうに微笑むと、彼は楽しげに笑い返した。
 まるでここが二人だけの世界であるかのように、僕達はその場でくるくると回り始める。
 その回転はどんどん加速度を増し、ギコの身体は遠心力で横一文字に浮き上がった。

l从・∀・ノ!リ人「オラシャラオラアアアア!!」

 そしてハンマー投げの室橋選手ばりの雄叫びと共に、窓の向こうへと変態猫を力の限り投げ放った。

(;゚Д゚)「わかっていたけどねぇぇぇぇ……!!」

 この日、夜空に新たな星が一つ瞬いた。


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76 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:45:36 ID:Zz82v/WMO
 ドクオ君という人物は、そこまで悪い人間ではない。
 確かに端的に見れば彼は確実に変態だ、疑う要素は微塵もない。
 いや、端的ではなく全体で見ても変態なのは疑いようがないのだけれど、でもこんなエピソードがある。

 去年の夏に、一つの事件が起こった。
 水泳の時間の間に女子の下着が盗まれるという、冗談では済ませられない本物の事件だ。

 当時からドクオ君は階段逆さカメラ男として勇名を馳せていたので、真っ先に容疑者として疑われるのは、ある種の仕方のないことと言えた。
 そしてなによりも厳しかったのは、男子が目撃していたことだ。

(')∞(`)

 ブリーフ一枚という出で立ちで、顔に女性用下着を装着したドクオ君の姿を。
 これにはドクオ君と仲のいい男子までも、閉口せざるを得なかった。

 まあその下着は盗品ではなく、ドクオ君が個人の趣味で購入した私物だったので、犯人確定とまではいたらなかった。
 しかし、その日をさかいにドクオ君は女子から汚物のように扱われ、男子からも腫れ物扱いをされた。
 疑わしきは罰するという、現代の魔女狩りならぬ変態狩りがここでも誕生していたのだ。

77 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:46:57 ID:Zz82v/WMO
 それから数日後、事態は急展開を迎えた。
 なんとべつのクラスの水泳の時間に、校内で変質者が捕まったのだ。
 三十六歳無職のその変質者が、今回の事件の犯人だった。

 それを受けて、教室内は気まずい雰囲気に包まれた。
 男子はともかく、女子は完全にドクオ君を犯人と決めつけていたのだから当然だ。

 しかし、真っ先にドクオ君を犯人扱いした女生徒も、性根が悪い人間だったわけではない。
 自分の下着が盗まれたことで、精神が不安定だったのだ。
 それこそ犯人を決めつけなければ落ち着かないほどに。

 だから、彼女は己の間違いを悟ったとき、真っ先にドクオ君へ頭を下げた。
 それをドクオ君という男は、

(')∞(`)「気にするな。罪を憎んでパンティーを盗まずだ」

 と、笑って許したのだ。
 顔は下着で隠れていたので笑ったかはあくまで僕の推察だし、言葉の意味も全くわからなかったけど、とにかく許したのだ。

 それで一部の男子からは、ドクオはただの変態とは一味違うと、畏敬の念を一身に集めることとなる。
 それに気をよくしたドクオ君は、ブリーフ一枚で顔に女性用下着を装着したまま、笑いながら教室から走り去っていった。
 そして数分後、パトカーに乗せられて再度姿を現した。

78 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:48:36 ID:Zz82v/WMO
 長くなったが、ドクオ君は確かに変態だが、そこまで悪い人間ではないという話だ。
 それを踏まえてここからの話を聞いてもらいたい。

 ギコとの同居生活にも慣れ、数日が経過したある日のことである。

l从・∀・ノ!リ人「イグナイテッドスペル・ボルテックスブロウ!!」

 校内に出没した魔獣を、僕は魔法少女化し撃退した。
 魔獣の反応を察知して駆けつけたギコの、ファインプレイも光った。
 ここまではよかったものの、通常のモララーに戻って異相空間を解除してから気づいたのだ。

 ここが女子更衣室で、間もなく体育の授業を終えた女子が、入って来るということに。

 慌てて脱出しようとすると、扉の向こうからはすでに女生徒達の話し声が聞こえる。
 僕は半ばパニックになりながらも、一番隅っこのロッカーへと潜り込んだ。

 どうか誰もここを使いませんようにと、祈りながらロッカーを閉じる。
 すると窮屈な暗闇の中、僕の目の前には、


(')∞(`) コホー


 ただの変態とは一味違う変態がいた。

(;・∀・)「うわぁ、むぐぅぅぅ!?」

 絶叫を上げようとした僕の口は、女性用のショーツを噛まされ無理矢理閉じられた。

(')∞(`)「……静かに」

 そう呟いたドクオ君の口元、クロッチ部分にじわっと唾液の染みが広がった。
 もう泣きたかった、身も心も汚された気分だった。

79 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:50:08 ID:Zz82v/WMO
 ドクオ君は悪い人間ではないし、もし仮に女子更衣室に潜入するとしても、こんな運任せの場所に潜むことはしないだろう。
 だから、なんらかのやむにやまれぬ事情があったのかもしれない。

 それでも僕の中の異端審問官は目覚めようとしていた。

从 ゚∀从「ははは、あれはジョルジュが馬鹿なだけだよ」

ξ;゚听)ξ「アンタも相当だったわよ!」

 しかし、見知った声の登場には、さすがの異端審問官も口をつぐむしかない。
 このとき、僕は一蓮托生となったのだ。

(')∞(`) コホー

 これと。
 どう考えても、これと一蓮托生は絵面からしてアウトだった。
 学生同士のイタズラが、警察直行コースへと早変わりしたのだ。

从 ゚∀从「んー?」

ξ゚听)ξ「どうしたの?」

从 ゚∀从「いや、ちょっと……なっ!」

 次の瞬間、僕達の眼前は眩い光で埋め尽くされた。
 視界が明瞭になると、そこに立っていたのは言わずもがな、体操着姿の幼馴染みだった。

 ハインさん視点からすると見えたのは、股間と顔に下着を装着したのみの、半裸の男。

( ')∞(`)つ(;〜; )

 そして、無理矢理ショーツを噛まされ、涙目で壁に押し付けられている僕が映っただろう。

 しかも狭かったがゆえにドクオ君の、ちょっと説明しづらいごにょごにょした部分が密着して、非常に気持ち悪かったと追記しておこう。

80 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:51:37 ID:Zz82v/WMO
从 ∀从「……どけ」

 そこには鬼が立っていた。
 ハインさんの一言で、ドクオ君はブリーフに黄色い染みを作りながら、慌てて僕から身体を離した。

(;・∀・)「えっと……」

从 ゚∀从「静かに」

 ハインさんは正面から僕の後頭部に腕を回し、髪留めを外す。
 その吐息が触れ合う距離に、場違いながらも少し照れくさくなった。
 そしてそのまま、なぜかネクタイとカッターシャツのボタンも外されていく。

ξ゚听)ξ「どうしたの、なにかあった?」

从 ゚∀从「んー、ちょっとな」

 どうやら隅っこだったのと、ハインさんが遮ってくれているのとで、僕達の姿はまだ露見していないらしい。
 それはいいのだが、いつの間にやらズボンも脱がされ、あられもない姿にされていた。

81 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:53:12 ID:Zz82v/WMO
l从-∀-;ノ!リ人「…………」

 抵抗はできなかった。
 更にその上から、ハインさんの学制服が着せられていく。
 ミニではないが赤いチェックのスカートに身を通した僕は、魔法少女化したときとずいぶん似通っていただろう。

l从・∀・ノ!リ人「あの……」

从 ゚∀从「うん、これなら大丈夫だな。どさくさに紛れて逃げろよ」

l从・∀・ノ!リ人「えっ?」

从#゚∀从「変質者がいたぞっ!!」

 ドクオ君の身体が一度宙を舞い、床へと叩きつけられる。
 ハインさんの綺麗な一本背負いだった。

 直後、更衣室は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなる。
 ハインさんの言葉の意味を理解した僕は、騒ぎに乗じて女生徒の振りをしながら、この場から逃げ出した。

 女装をしてまで助かりたいのかと、男としての矜持はいたく傷ついたが、悔し涙を飲んで逃走した。
 後ろで「ここは俺に任せて逃げろ!」と、ドクオ君の共犯者めいた声が響いたが、それは完全に無視した。

82 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:54:39 ID:Zz82v/WMO
 その後、教室へ逃げ帰った僕はジョルジュ君に泣きついた。

l从>∀<ノ!リ人「ジョルジュくーんっ! 怖かったよぉ!」
  _
(;゚∀゚)「うおっ!? えっ、もしかして、お前……!」

(・∀ ・)「皆の者っ! ジョルジュがロリをかどわかして来たぞー!! 服がぶかぶかで、袖から指先しか出ていないロリだぞ!」

(*-_-)「そ、そそそ、そのロリは何歳なの!?」

爪'ー`)y‐「ふー、制服からするにウチの生徒だろうな。きな臭くなって来やがったぜ」

(-_-)「中学生ならババアじゃねえかっ! ロリとか変な期待を持たせるなよっ!」

( ^Д^)「なんだよ、高岡さんだけじゃ飽き足りないっていうのかよ! なら高岡さんくれよ!」
  _
( ゚∀゚)「やらねえよ! ハインを物みたいに言うな、ぶっ飛ばすぞ!」

(´・ω・`)「じゃあモララーくれよ」
  _
( ゚∀゚)「モララーに手を出したら地獄を見せるぞ!」

( ^ω^)「いつも従妹と幼馴染みが第一みたいな顔をしてるくせに、ジョルジュもやるもんだお」

('A`)「まったくだな」

( ^ω^)「あれ、ドクオ? どこ行ってたんだお?」

('A`)「ふっ。……まあちょっと、な」

 そのせいで、ジョルジュ君も大変な目にあったそうだが、それはまたべつの話。


.

83 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:57:59 ID:Zz82v/WMO
 夏至が近づき、このところは下校時刻であっても、太陽が燦々と地表を照りつけている。
 そんな中、僕達は肩を並べて商店街を歩いていた。

( ・∀・)「なんで日照時間の長い夏至よりも、夏の方が暑いんでしょうね」

ξ゚听)ξ「確か暖められた地表や海水が大気に影響を及ぼすまでに、一ヵ月かかるからって聞いた気がするわ」

( ・∀・)「なるほど。一日の気温でも、正午より二時の方が暑いのと同じ原理なんですね」

 僕達といっても、連れ合っているのは幼馴染み二人ではなく、ツンさんだった。

 ツンさんの家は父子家庭で、生活能力皆無なお父さんの代わりに、ツンさんが料理をしているらしい。
 そのため、こうして時折二人で食材の買い出しに、商店街へ寄り道をするのだ。

84 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 21:59:21 ID:Zz82v/WMO
ξ゚听)ξ「クリームコロッケって作るの大変じゃない?」

( ・∀・)「簡単ですよ。ベシャメルソースは電子レンジでも作れますし」

ξ--)ξ「むむむ、クリームコロッケか。でもお魚買っちゃってるのよね」

( ・∀・)「腸を抜いて冷凍保存すれば日持ちするのでは?」

ξ゚听)ξ「でもせっかくの旬の鯵だし、今日はムニエルにして、クリームコロッケは明日にしようかしら」

( ・∀・)「鯵のムニエルなら、ペースト状にした梅干しと刻んだ青紫蘇を混ぜて、梅紫蘇ソースを作ると美味しいですよ」

 そんな風に二人で、献立を考えながらレパートリーを広げていると、僕は突如耳鳴りを起こしたような耳閉感に襲われた。

(……聞こえ……ますか……聞こえますか……モララーよ……)

(;・∀・)「えっ?」

(……私は今……あなたの頭の中に……直接呼びかけています……)

 鼓膜の内側とでも表現するべきか、脳内で少女のものとおぼしき柔らかい声が響いた。

85 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 22:00:25 ID:Zz82v/WMO
ξ゚听)ξ「どうしたの?」

( ・∀・)「いえ、なんでもありません」

 やはりツンさんには、この声が聞こえていないようだ。

( ・∀・)(きみは誰なんですか? なぜ僕を――)

(,,゚Д゚)(……私です……ギコです……)

(;・∀・)(きみかいっ! 紛らわしいよ、なんなのそのしゃべり方!)

(,,゚Д゚)(念話の魔術は、言葉の意味を抜き取って交換するので、本人の口調までは再現できないのです)

 現実的で嫌なファンタジーだった。

(,,゚Д゚)(ちなみにこの声は魔法少女ウィザードまぎの、まぎ役の声優さんを模して作成しました。可愛らしいでしょう)

(;・∀・)(知らないよ! そこはギコ本人のものにしなよ!)

(,,゚Д゚)(可愛いは正義です。ところで、今はそのような話をしている場合ではありませんよ)

 口調のせいか、ギコにたしなめられているみたいで、無性に腹立たしい魔術だった。

86 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 22:01:25 ID:Zz82v/WMO
(,,゚Д゚)(先ほどこちらで巨大な時空震動を感知しました。ほどなくこの街に強力な魔獣が出現すると思われます)

(;・∀・)(なっ、場所は!?)

(,,゚Д゚)(幸か不幸か、今モララーがいる商店街だと私は目しております)

( ・∀・)(僕はどうすればいい!)

(,,゚Д゚)(魔獣の出現までにはそちらへたどり着いてみせます。ですから商店街付近で待機していてください)

( ・∀・)(わかったよ!)

 ギコの到着と共に魔法少女化し、即時に異相空間を形成する。
 これで被害を出さずに対処できるはずだ。

 問題は魔法少女化するに際して、なるべく人目につかない場所へ移動したいのだが。

ξ゚听)ξ「怖い顔をして、やっぱりなにかあった?」

( ・∀・)「いえ、本当になんでもなくてですね」

 そのためにはツンさんを振りきらなくてならない。

87 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 22:03:28 ID:Zz82v/WMO
 いざとなればお腹の調子が悪くなったということにして、トイレへ逃げ込むしかないか。
 などと算段をつけていると、見知らぬ男性が僕達の前に立っていた。

(´・_ゝ・`)「やあ、今日は青々としたいい天気だね」

( ・∀・)「え、ええ、そうですね」

ξ゚听)ξ「お父様! なんでこんなところに」

(*´・_ゝ・`)「ははは、なんでってライフワークだよ。ライフワーク」

ξ゚听)ξ「そんなこといって、いつもふらふらと出歩いて」

(´・_ゝ・`)「急に野鳥を観察したくなることってあるだろう?」

ξ゚听)ξ「ないわよ!」

( ・∀・)「あの、この方は……」

ξ;--)ξ「うん、お察しの通り、私のお父様」

( ・∀・)「初めまして。僕はツンさんの学友のモララーと申します。いつもツンさんには仲よくしていただいております」

(´^_ゝ^`)「初めまして、私はデミタスだよ。ツンと仲よくしてくれてありがとう」

 いい人そうだが、デミタスさんからはどこか飄々とした雰囲気を感じる。
 失礼だが確かにツンさんの言葉通り、生活能力がなさそうなイメージの人だった。

ξ--)ξ「ごめん、モララー。私、お父様を家に連れて帰るわ。そうしないと今日はもう帰って来なさそうだし」

( ・∀・)「気にしないでください。ムニエル、美味しくできるといいですね」

ξ*゚听)ξ「ありがとう、また明日学校でね」

( ・∀・)「ええ、ではまた明日」

 こうして、ツンさんと別れられたのは僕にとっても好都合だった。



    ☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡

88 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 22:05:42 ID:Zz82v/WMO
l从>∀・ノ!リ人「メタモルフォーゼスペル・魔法少女☆マジカルモララー! 変身!」

 モララーの肢体が光に包まれ、身に付けていた服が次々と霧散していく。

 初回の変身以来、なにかしらの問題が起こることもなく、モララーはギコの調整した魔術に従って普通に変身できていた。
 あのときモララーが発した強大な魔力と、ソーサク世界の古代言語については目下謎のままだが、今のギコはとにかくそれどころではなかった。

(,,゚Д゚)「心眼だ、心眼で見るのだゴルァ!」

 光の隙間から変身中のモララーの素肌を見ようと、躍起になっていたのだ。

l从////ノ!リ人「は、恥ずかしいんだから、あまり凝視しないでよ!」

(,,-Д-)「ちぃ、今回も駄目だったか。俺の心眼は無力だ」

l从・∀・ノ!リ人「……もう、緊張感なくなるなあ。ディメンションスペル・アナザーワールド!!」

 右手のヴィオ、左手のモール。
 白銀色をした拳銃型の魔法の杖を天に掲げ、モララーは異相空間を形成する魔術を発動した。

 直後、世界が深紅に飲み込まれていく。

l从・∀・ノ!リ人「これって結構疲れる魔術だよね」

 一時的に異世界を作り出し、なおかつ魔獣とそれ以外の生物とを区別し、隔離しなければならない。
 その魔力の消耗具合は、半端なものではなかった。

 実際、この魔術を使わなければ、ギコは先日の魔獣にも勝てていただろう。
 その判断をくだしていれば、少なからぬ死傷者が現れ、モララーと出会うこともなかったのだが。

89 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 22:07:33 ID:Zz82v/WMO
(,,゚Д゚)「来るゴルァ!」

 時空震動が高まり、大気が叫声をあげる。
 なにもない空間に突如出現した、黒色の円をくぐり抜け、魔獣がこちらの世界へと姿を現した。

(;゚Д゚)「なっ、神話型、だと……!」

 四足の馬脚に、精悍な身体つきをした男性。
 その場には半人半獣の魔獣がそびえ立っていた。

 もっとも半人とはいえど、おおまかな形状が人に類似しているだけで、細部は到底人間には似つかない魔物だったのだが。

l从・∀・ノ!リ人「神話型?」

 二丁の拳銃を構えたまま、魔獣から視線を逸らさずにモララーがたずねる。

(,,゚Д゚)「俺達の世界でもそうそう出くわさない、手強い魔獣だゴルァ。身体の一部が人間状になっているのが特徴だ」

 あのギコの真面目な声色からも、相手の強さがうかがえる。
 だからモララーは、油断など微塵もしていないつもりだった。

l从・∀・;ノ!リ人「――!?」
 そのつもりだったにもかかわらず、会話で魔獣から意識をそむけた次の瞬間、閃光を伴うなにかがこちらへ高速で飛来していた。



    ☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡

90 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 22:11:31 ID:Zz82v/WMO
 そのとき僕の中のどこかで、カチリとスイッチの入った音が聞こえた。

l从・∀・;ノ!リ人「ちぃ!」

 クイックスペルの発動すら間に合わないと判断した僕は、体勢を半身にして回避を試みる。
 耳元で空気を貫く低音が響き、頬から焼けるような熱を感じた。

 直撃は避けたが、どうやらわずかに頬をかすめたらしく、一条の鮮血が顎へと伝う。

l从・∀・ノ!リ人「なるほど、これは手強そうなのじゃ」

 三十メートル程度の距離で相対するのは、弓を構えた神話型だ。
 どうやら先ほどの飛来物の正体は、矢のようだった。
 馬脚で地を踏み締め、人の腕で弓を引くその姿は、射手座を彷彿とさせられる。

l从・∀・ノ!リ人「威力も速度も十分、しかし手数はどうかのう! マルチプルスペル・ソニックジャベリン!」

 左右二丁の銃口から次々と発射された、無数の衝撃刃が魔獣へと襲いかかる。
 しかし、やつは慌てた様子すら見せず、こともなげに弓を射るだけだ。

 射出された金色に輝く矢は、空中でその姿を二つへと増殖させる。
 更に二つが四つへ、四つが八つへと、二の累乗式に倍加していった。

 やがて無数の衝撃刃と無数の矢が正面から衝突し、破裂音を轟かせながら互いを消滅させる。

91 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 22:13:34 ID:Zz82v/WMO
l从・∀・ノ!リ人「アクティブスペル・ストロングフォース!」

 だが、それぐらいの対応は予測済みだった。
 僕は衝撃刃を放つと同時に駆け出して、すでに魔獣との距離を肉薄させている。
 身体能力を強化し、飛び上がると共に空中で一回転、前宙からの浴びせ蹴りを叩き込む。

 手応えならぬ、確かな足応えを踵に感じた。
 しかし、下を見やると打ち据えていたのは魔獣の頭部ではなく、先端が太く丸まった木の棒。
 僕の渾身の一撃は、いつの間にやらやつが手にしていた棍棒で、受けとめられたのだ。

l从・∀・ノ!リ人「ええい、やってくれるのじゃ!」

 蹴りの圧力でアスファルトがひび割れ、魔獣の脚部が地面へめり込んでいくが、本体へのダメージは通らない。
 ならば仕切り直しと、僕は棍棒を足場にして後方へと飛びすさる。

 その次の瞬間、攻撃の構えをとった魔獣の姿が眼前いっぱいに広がった。
 安易にとったバックステップの選択肢は読まれていたらしく、やつの追撃が目前へと迫っている。

l从・∀・ノ!リ人「クイックスペル・ガーディアンシールド!!」

 打撃武器に対して、対物理用の魔術障壁は非常に相性がいい。
 行動を先読みする神話型の判断力には焦らされたが、矢のような貫通性の高い攻撃を繰り出してこないのは幸いだった。

 しかし、そんな僕の見通しは、砂糖菓子よりも甘かったらしい。

 魔術障壁と衝突する刹那、棍棒の形状が見る見るうちに槍へと変化していく。
 弓がいつの間にか棍棒に変わっていたのもこの能力かと、僕は驚愕に目を見張った。

92 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 22:15:20 ID:Zz82v/WMO
l从 ∀ ;ノ!リ人「――!?」

 障壁が突き破られ、わずかな浮遊感と強い重力加速度に、脳が揺さぶられる。
 僕の身体は舗装された道路をバウンドしながら、数十メートルは弾き飛ばされた。

(;゚Д゚)「そんな!? まさか、モララー!」

 閉店した金具屋のシャッターに、背中を強打することでどうにか停止できた僕は、よろけながらもすぐさま立ち上がる。

l从・∀-;ノ!リ人「……くっ、慌てるでない。べつに食らったわけではないのじゃ」

 そう、僕は槍の穂先が直撃する瞬間、無詠唱でエアロフォースフィールドの魔術を発動した。
 それによって生まれた風力場を蹴って、自ら後方へ飛んだのだ。

 だが、現状の僕の力量では、無詠唱魔術の発動は難儀を極めた。
 結果、短時間とはいえども反動で肉体のコントロールを失い、着地に失敗したのだ。

93 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 22:17:35 ID:Zz82v/WMO
l从-∀-ノ!リ人「妾の剣さえあれば……、いや、せんなきことか」

(,,゚Д゚)「妹者、でいいのか? さっきの攻防でやつの弱点が見えたゴルァ!」

l从・∀・ノ!リ人「ふむ、申してみるのじゃ」

 僕は神話型が放つ黄金の矢を、魔力弾で弾きながら言葉の続きをうながす。

(,,゚Д゚)「あの人馬の魔獣は、こちらの攻撃に合わせて上手く防御行動をとっているゴルァ!」

l从・∀・ノ!リ人「うむ、であるからして致命打を与えられないでおるのじゃ」

(,,゚Д゚)「だが魔獣というのは、高い生命力と再生能力を有している。基本的にあまり防御などは考えない生物なんだゴルァ!」

 確かに先日の狼の行動は、その言葉と完全に一致していた。

(,,゚Д゚)「いくら神話型とはいえ、あいつは防御行動を優先し過ぎている。普通ならあの浴びせ蹴りの場面は、刺し違えようとしてくるはずだ」

l从・∀・ノ!リ人「つまり、あやつは脆い魔獣というわけなのじゃな」

(,,゚Д゚)「過去の魔獣の記録からしても、あの手のタイプはその公算が高い!」

 ギコの言には信憑性があり、さもありなんと思えた。
 ならば最善手は、やつをガードの上からでも消し飛ばせるほどの、大技を叩き込むことだ。
 それを確実に決めるためには、先ほど追撃をされた際に垣間見えた、馬脚の機動力が厄介となる。

94 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 22:19:49 ID:Zz82v/WMO
l从・∀・ノ!リ人「世の中には、将を射んとすればまず馬を射よという言葉があるのじゃ。リフレクトミラー!」

 電信柱を駆け上がり、青果店の軒先を飛び跳ね、僕は矢の嵐を掻い潜りながら魔獣を囲むように反射鏡を設置した。

 この反射鏡は名が体を現すように、僕の魔力弾を反射する性質をそなえた鏡だ。
 そして威力の低い魔力弾だが、その分速射性は随一といえる。

l从・∀・ノ!リ人「たらふく食らうがよい、鉛弾でよければのう!」

 散弾モードでばら蒔いた魔力弾は、圧倒的な物量で空間を埋め尽くす。
 当然黄金の矢では撃ち落としきれない数だ。
 通常の魔獣であれば気にもとめないダメージであろうが、人馬はこちらが予測した通りに回避行動をとった。

 手にした棍棒で弾き、素早く駆け、跳躍しながら身をひるがえす。
 反射鏡を利用した四方八方からの弾丸を、やつは八割方も回避して見せたのだ。
 その能力は驚嘆に値した。
 もしここが道幅の狭い商店街などではなく、だだっ広い草原であれば全て回避できたのかもしれない。

l从・∀・ノ!リ人「怨むなら、こちらへ現れた己の不幸を怨むがよい! ソニックジャベリン!」

 傷つき、地に膝を伏した魔獣を目がけて、衝撃刃の魔術を撃ち出す。
 中空を疾駆した刃は、その鋭利な切っ先でもって人馬の前足を寸断してみせた。

95 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 22:21:06 ID:Zz82v/WMO
 これで状況は調った。
 僕は一撃必殺の気迫を込め、ボルテックスブロウの術式を両手に展開する。

l从・∀・ノ!リ人「イグナイテッドスペル!!」

 零距離から撃ち込むべく、魔獣との間合いを詰めようとした。

 ――その次の瞬間。

 微細なとげでちくちくと刺されたような、嫌な予感が背筋を駆ける。
 僕はその予感に従い、急遽術式と詠唱をキャンセルし、魔術障壁を展開した。

l从・∀・ノ!リ人「ガーディアンシールド! マジックサンクチュアリ!」

 右手のヴィオで物理、左手のモールで対魔の障壁を発動させる。


「アクセル・ルミエール!!」


 直後、魔獣が伏していた一帯を中心にして、高空から光の柱が降り注いだ。

96 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 22:23:21 ID:Zz82v/WMO
 爆音と共に粉塵が舞い上がり、一瞬視界を奪われる。
 やがて塵が晴れていき、明瞭になった視線の先にあったのは、一つの人影だ。

(゚、゚トソン

 先の光の柱によって消滅したのか、そこに魔獣の姿はない。
 入れかわりに、白衣に緋袴といった巫女装束で身を包んだ女性が、悠然と佇んでいた

 商店街で出くわすにはなかなかに奇抜な衣装だが、その中でも一番に目につくのは彼女の足下。
 巫女装束といえども履き物は草履ではなく、黒くメタリックな光沢のある、編み上げのブーツをはいている。

 ミスマッチだとかファッションの話ではなく、その雰囲気や存在感が僕のヴィオやモールと酷似していた。

(゚、゚トソン「そこの貴女」

 風鈴を彷彿とさせられる、凜と澄んだ彼女の声が耳朶に触れる。

97 名前:名も無きAAのようです :2013/12/20(金) 22:25:12 ID:Zz82v/WMO
 そのとき僕の中のどこかで、カチリとスイッチの入った音が聞こえた。

l从・∀・ノ!リ人「は、はい」

(゚、゚トソン「どうしてこの場にいるのですか。名前と階級は?」

l从・∀・ノ!リ人「名前はモララーですけど……」

 いったい階級とはなんの話なのか、僕はいささか混乱する。

l从・∀・ノ!リ人「あの、貴女も魔法少女なんですか?」

(゚、゚トソン「魔法少女? いったいなんの話ですか?」

 向こうも僕と同種のクエスチョンマークを浮かべたらしく、どうにも話が噛み合っていない。

(゚、゚トソン「私の名前はトソン。――魔導師です」



第二話 完


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