- 1 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:10:37 ID:BfQ2OWs.O
- 僕は踊るように軽い足取りで、一歩後ろへ退いた。
その直後、空気を裂く鈍い音を立てながら、鼻先数センチの空間を野太い刃が掠めていく。
間一髪で凶刃をかわすと、後から追いついてきた風圧が、僕の切り揃えられた前髪をちらりと揺らした。
どうしてこんなことになってしまったのか、という思いがないわけでもないがそれは思考の隅へと追いやる。
なぜならば現在は戦闘中で、一瞬の油断が命取りとなるからだ。
l从・∀・ノ!リ人「風通しをよくしてやるのじゃ!」
回避成功と同時に僕は前傾姿勢となって素早く踏み込み、両手に構えた二丁の拳銃で、至近距離から魔力弾の嵐を敵に浴びせた。
敵、影が集まって立体を得たらこうなるのだろうかといわんばかりの、異形な存在。
やつらは魔獣と呼ばれ、異世界より現れて人へと襲いかかる、人畜有害な魔物だ。
- 2 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:12:01 ID:BfQ2OWs.O
- 「GUMOOooo!!」
無数の弾痕を全身に刻みながらも、体勢を整えた牛頭人身の魔獣は、筋骨粒々な右腕で握りしめた戦斧により真っ向割りを放ってくる。
l从・∀・ノ!リ人「ふっ!」
しかし、その鈍重な一撃は高速で側方宙返りをする、僕の姿を影ほども捉えることは敵わず、大気を振るわせる轟音と共に大地へと突き刺さった。
l从・∀・ノ!リ人「妾からの下賜品なのじゃ、受けとるがよい! ソニックジャベリン!」
天地が逆転した状態で宙に浮いているとはいえ、その程度で僕の射撃能力が鈍ることはない。
銃口から放たれた、通常の魔力弾よりも強力な衝撃刃の魔術は、狙い通りの場所へ吸い込まれるように命中した。
僕が着地すると共に、肩を抉られた魔獣の右腕が重力に従って地面へと千切れ落ちる。
もちろんそれは、握っていた戦斧ごとだ。
(,,゚Д゚)「さすが妹者! ミニスカートで宙返り、輝く絶対領域、しかし見えないパンツ! 芸術的なチラリズムだゴルァ! ……ってあぶねっ!?」
振り向き様に一発、いつか法廷でまみえることになるだろうセクハラ猫へ、魔力弾を放って黙らせる。
- 3 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:13:21 ID:BfQ2OWs.O
- l从・∀・ノ!リ人「スイッチなのじゃ!」
(゚、゚トソン「言われるまでもありません! アクティブスペル・アクセラレーション!」
僕が言葉を発するか否かというタイミングで、後方に待機していたトソンさんは駆け出していた。
(゚、゚トソン「アクセル! アクセルアクセルアクセルっ!! 閃け! アクセル・ルミエール!!」
そのまま加速を続け、一条の閃光と化したトソンさんの飛び蹴りが、魔獣を打ち貫く。
そう、金属製とおぼしきゴツいブーツによって武装された足で、魔獣の股間を抉り込むように打ち据えたのだ。
l从・∀・;ノ!リ人「…………」
(;゚Д゚)「……うわぁ」
魔獣に性別があるのか、そもそも股間が急所なのかはわからない。
だけど僕と猫男は二人揃って、無意識に股座を手で抑えていた。
子供が雷様におへそを取られないようお腹を隠すように、僕らはトソン様から大切なものを隠したのだ。
- 4 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:14:51 ID:BfQ2OWs.O
- (゚、゚トソン「なにを呆けているのですか。追撃をお願いします!」
トソンさんの声で我に返ったときには、すでに魔獣は遥か高空へと蹴り飛ばされていた。
通常の生物であれば放っておいても絶命しそうなものだが、魔獣は核を潰すまでは再生してくるので、確実に止めを刺さなくてはならない。
l从・∀・ノ!リ人「りょ、了解したのじゃ! セラヴィー・スタンドアップ!」
右手のヴィオ、左手のモール。
二丁の拳銃を胸元へ抱き寄せると、銃達は翠色に淡く煌めきながら、光の粒子へと分解される。
そしてその光輝が収束すると、一丁の長大な対物ライフルが生み出された。
ライフルを両手に携えても、物々しい見た目ほどの重量は感じない。
拳銃形体もそうであるが、これは現実的な銃器ではなく、あくまでも僕の魔法発動を手助けする杖だからだ。
l从・∀・ノ!リ人「塵一つとて残しはせぬのじゃ! イグナイテッドスペル!」
スコープを覗く必要も、風速を計る必要もない。
撃てば当たる、そんな確信と共に僕は銃口を高空の魔獣へと向け、トリガーを引き絞る。
l从-∀-ノ!リ人「スパイラル……」
(゚、゚;トソン「あっ、ちょっ、待って!」
l从・∀・ノ!リ人「ラファーガ!!」
ライフルから吐き出された滅びの風は、螺旋を描きながら魔獣へと突き進む。
ありったけの魔力を注いだ一撃は、三メートルはあろうかという魔獣の全身を容易く飲み込み、宣言通りに塵一つ残さず消滅してみせた。
(゚、゚;トソン「あんな高出力で魔力を放っては!」
(,,゚Д゚)「異相空間が崩れるゴルァ!」
.
- 5 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:16:02 ID:BfQ2OWs.O
- l从・∀・ノ!リ人「えっと……」
気が付いた次の瞬間、僕は駅前の大通りで立ち尽くしていた。
それはまるで夢から覚めたみたいで、先ほどまでの戦いが白昼夢であったかのようにも感じさせられる。
だが現実である動かぬ証拠として、僕の服装はミニスカートや二ーソックスといった、ひらひらキラキラした少女趣味全開のものだった。
ちなみに僕は男だった、いっそ全てが白昼夢だったらよかった。
「なにあれ、コスプレ?」
「こんなところで、珍しいお」
周囲の好奇の視線が、剣山か矢衾かといった風情で突き刺さりまくる。
無理もない。
日曜日の朝に放送している、少女向けアニメの登場キャラクターみたいな格好をした男性が駅前にいたら、僕だって注視するに決まっている。
その際は好奇が三割、警戒が七割といった配分になるのは言うまでもない、というより悲しくなるから言いたくなかった。
魔獣を前にしたときのような妹者状態なら、なに食わぬ顔で帰宅への路を闊歩できただろう。
しかし、今の僕は足がすくんで一歩を踏み出せないでいた。
- 6 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:17:06 ID:BfQ2OWs.O
- l从・∀・;ノ!リ人「ギ、ギコぉ……トソンさぁん……」
助けを求めるために視線をさ迷わせると、目に入ったのは、
('A`)「なんかあの子、モララーに似てね?」
( ^ω^)「言われてみると確かに」
級友の姿だった。
ちなみにドクオ君は路上で腹這いになって、下からのアングルで必死に僕を盗撮していた。
その姿はまるでそれが仕事であるかのように誇り高く、あまりに堂々としていて盗撮と表現していいのか少し悩んだほどだ。
だけど紛れもなく盗撮だった。
- 7 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:18:27 ID:BfQ2OWs.O
- l从・∀・;ノ!リ人(内藤君にドクオ君!? だめ、正体がバレちゃう!)
('A`)「スカート短けえな、めくれないかな」
ドクオ君の一言で、僕は自分がどのような格好をしているのか思い出す。
l从>∀<ノ!リ人(ひうっ! 僕男の子なのに、スカートなんてはいてクラスメイトに見られてる……!)
気がついてしまうと、気恥ずかしさのあまり更に動けなくなってしまった。
なんとか露出面積を減らせないかと、頑張ってスカートの裾を引き下ろそうとしてみる。
(*'A`)「おうふ、なにあれエロくね」
( ^ω^)「ちょっと撮り過ぎじゃないかお?」
(*'A`)「いいじゃん、減るもんじゃなし!」
( ^ω^)「……友達は減ると思うお」
すでに内藤君はドクオ君から結構遠ざかっていた。
そしてドクオ君も警察官に肩を捕まれて結構遠ざかっていた。
しかし、もう駄目だ。
恥ずかしい姿を見られていると意識すればするほど、顔どころか全身まで熱くなっていく。
l从-∀-*ノ!リ人(身体が熱いよぅ。それに胸の奥の方がきゅんってして――)
(゚、゚トソン「どっせい!」
後頭部に激しい衝撃が走り、眼前が純白に染まる。
そこで僕の記憶は途切れた。
.
- 8 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:19:18 ID:BfQ2OWs.O
- 姉さんが、ジョルジュ君が、ハインさんが。
みんなが注いでくれた暖かいもので、僕の中は満ち溢れている。
だから僕はギコにこう答えたんだ。
l从・∀・ノ!リ人魔法少女もなにかと大変なようです
第一話「この胸の輝き」
.
- 9 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:22:32 ID:BfQ2OWs.O
- 話は僕と彼の出会いまで遡る。
その日も僕はいつも通りに、目覚まし時計が鳴る五分前に目を覚ました。
時刻は午前四時五十五分、中学生にしてはいささか早い方かもしれない。
l从-∀-ノ!リ人「んぅ……」
やや朧げな意識のまま羊柄のパジャマを脱ぎ捨てて、学生服のズボンとカッターシャツを着込み、ネクタイを装着する。
僕の通うブーンケイ中学は、例え夏服であっても男女共にネクタイの着用が義務づけられている。
とはいえ、すでに形の作られたネクタイをフックで首もとに固定するだけの、ワンタッチ式なので手間も圧迫感もない。
そして、洗面所へと移動し顔を洗った。
l从>∀<ノ!リ人「ぷはっ」
新緑の芽吹く季節ともなると、水道水は少々生温く感じられる。
それでも意識は覚醒するもので、僕は顔を拭い伸びてきた髪を後ろで結ぶと、そのまま台所へと向かった。
( ・∀・)「らんらん〜♪ る〜♪」
冷蔵庫にしまっておいた夕飯の残りを温め直し、手短に朝食を取る。
たった一人の家族は、朝は食べない人なのでなに気兼ねする必要はない。
( ・∀・)「さてと、そろそろ行こうかな」
時計は五時も半ばといったところを指している。
ちょうど頃合いかと、僕は居住空間である二階から、店舗である一階へと繋がる階段を降りていった。
- 10 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:23:53 ID:BfQ2OWs.O
- 子供の頃から嗅ぎ慣れた、芳ばしい珈琲の香りが鼻腔に広がる。
この喫茶ソーサクは、父さんが遺していった形見みたいなものらしい。
らしいと付けてしまうのは、もう僕があまり父さんのことを覚えていないからだろう。
幼い頃に亡くなった父さんは、優しい人だったというぐらいにしか記憶に残っていない。
しかし、父さんのことと店への愛着は別問題で、僕はエプロンを身に着けると丁寧に床のモップがけを始める。
( ・∀・)「タラッタ、ラッタ、ラッタ、ラッタ♪ ウサギのダンス♪」
それから三十分ほど過ぎただろうか。
一通り清掃を終えた綺麗な店内を見渡すと、なぜだか僕は無性に嬉しくなり、両手で頭の上にウサミミを作りその場で軽く踊ってみる。
∬´_ゝ`)「朝からずいぶんとご機嫌だな」
(;////)「ふわあああぁぁぁっ!? 姉さん!? 見てたならもっと早く声かけてよぉ!」
∬´_ゝ`)「ははは、日に日に弟が成長していくものだから寂しかったが、まだまだ子供みたいで安心したよ」
黒ベストに蝶ネクタイといった衣装の、いかにもマスター然とした姉さんは、柔らかく慈愛に満ちた笑みを向けてくる。
当の僕としては顔から火が出るかというぐらい恥ずかしかったのだが、努めて冷静に振る舞うことにした。
モララー イズ クールガイだ。
(* ・∀・)「もう。おはよう、姉さん」
∬´_ゝ`)「ああ、おはよう。うさぎさん」
( ////)「むぅー!!」
モララー イズ ボルケーノだった。
- 11 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:25:49 ID:BfQ2OWs.O
- ∬´_ゝ`)「冗談だよ、モララー」
朝の挨拶を交わしながらも、姉さんは慣れた手つきで珈琲豆を煎り始める。
たまに珈琲を淹れさせてくれることはあるが、豆の煎りと挽きだけは、まだまだ姉さんの専門分野だ。
∬´_ゝ`)「よし、こんなところか」
それからややあって開店準備が調うと、僕は店先にかかっているclosedと書かれた看板を裏返す。
open、ここから先は客商売だ。
僕も姉さんも改めて気を引き締め直した。
.
- 12 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:27:07 ID:BfQ2OWs.O
- (;・∀・)「遅刻遅刻ぅぅぅ!!」
僕は今、脇目も振らず通学路を全力疾走していた。
店の手伝いに熱中し過ぎてついつい時間を忘れてしまう、そこまで含めて平常運転な朝といえた。
( ・∀・)「はっ、はっ、はっ」
この世には数多くの学生が存在するが、その中にはよくあるパターンというものがいくつかあると思う。
勉強はできるが運動は苦手というのと、逆に運動はできるが勉強は苦手というのは、よくあるパターンの代名詞とも呼べるだろう。
そして僕はどちらかといえば後者に当たる。
見かけによらずとは友人の談だが、おかげで実際に遅刻した回数は少なかった。
もしかしたら家の事情を知る先生が、多少目溢してくれているのかもしれない。
- 13 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:28:29 ID:BfQ2OWs.O
- などと、とりとめなく考えていると、ほぼ歩道という狭い交差点から黒い影が飛び出して来た。
(;・∀・)「うわっと!?」
_
( ゚∀゚)「遅刻遅刻ぅぅぅ!!」
僕はとっさの判断で飛び下がり、間一髪で衝突を避ける。
しかしてその影の正体は、口に食パンをくわえながら走ってきた幼馴染みだった。
_
( ゚∀゚)「おはよっす。しかし、綺麗にかわしたな」
(;・∀・)「そりゃかわしますよ! 危ないじゃないですか」
_
( ゚∀゚)「大丈夫大丈夫。十回ぐらいリハやって、危なくないぶつかり方を身につけたから」
( ・∀・)「朝からなにをやっているんですか、ジョルジュ君は」
_
( ゚∀゚)「ドラマチックな出会いの演出だ」
(;・∀・)「幼馴染みにすることじゃないでしょう!」
そのように和気藹々と表現するべきなのか悩むやり取りをしながらも、僕達は駆け出していた。
立ち話ができる時間ではないことなど、互いに百も承知だ。
- 14 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:30:21 ID:BfQ2OWs.O
- ( ・∀・)「……」
_
( ゚∀゚)「どうした?」
( ・∀・)「どうやって食パンをくわえながら、普通に発音してるのかなって」
_
( ゚∀゚)「……モララーも大人になればわかるよ」
(;・∀・)「年齢は関係ないでしょう! って僕達は同い年です!」
そんなジョルジュ君との気兼ねない掛け合いに、気を取られていたのが運の尽きだったのだろうか。
不意を突くようにして、次の交差点からも黒い影が飛び出して来た。
( >∀<)「――っ!?」
このタイミングでは、もうすでに回避は不可能だ。
衝撃に備えぎゅっと目を閉じると、身体を襲ったのは予想とは裏腹な、柔らかな感触だった。
从 ゚∀从「おはよっす!」
しかしてその影の正体は、口に食パンをくわえながら走ってきた幼馴染みパート2だった。
_
(* ゚∀゚)ノ「いえーい!」
从*゚∀从ノ「二段作戦大成功!」
(;・∀・)「もう、なんなんですかあなた達は。朝から従兄妹揃って」
- 15 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:31:30 ID:BfQ2OWs.O
- ジョルジュ君が朝から誰と十回もリハをしていたのか、よくよく考えなくても明白だった。
そしてリハーサルの成果は本当に身についていたらしく、僕の身体には傷一つない。
( ・∀・)「というか、離してください。ハインさん」
从 ゚∀从「ああ、抱きやすい大きさだったからつい」
真っ向から抱き締められていた。
_
( ゚∀゚)「ハインだけぶつかれてずるい! 次は俺の番な」
( ・∀・)「そんな順番はありません。だいたい抱きやすい大きさってなんですか。僕だって今に大きくなりますからね!」
从 -∀从「大きいモララーって、なんか嫌だな」
( ・∀・)「なにが嫌なんですか。逞しく、男らしくなってですね」
_
( ゚∀゚)「人の夢と書いて儚い、か……」
(;・∀・)「儚くないです! なんでそんな心を込めて儚そうに言うんですか!」
かくして僕達は、結局予鈴と共に教室へなだれ込むはめとなる。
それはグレーゾーンとも取れる時間で、先生の目溢しには是非とも期待したかった。
.
- 16 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:34:45 ID:BfQ2OWs.O
- 午前の授業もつつがなく終了し、現在は昼休み。
喧騒に包まれた教室で僕達がなにをしているのかといえば。
( ・∀・)「オセアニアカナカ族」
_
(;゚∀゚)「く、く、クビナガリュウ!」
从 ゚∀从「浮気」
( ・∀・)「キンブンドゥ族」
_
(;゚∀゚)「く、く……く、ばっかりそんなに言えるか! 誰だよキンブンドゥ族!」
从 ゚∀从「じゃあ、ジョルジュの負けだな」
(* ・∀・)「僕はカレーパンがいいです」
_
( ゚∀゚)「くうっ、なんで昼のゲームだけこんなにも強いんだ」
从 ゚∀从「十分以内に帰って来られなかったらジョルジュの奢りだからな」
_
(;゚∀゚)「ちょ、おい、待てい! なに勝手にルール追加してんだ!」
( ・∀・)「1、2、3、4、5」
_
(;゚∀゚)「モララーまで!? 裏切り者おおおぉぉぉ……」
昼食の買い出し係をゲームで決めている真っ最中だった。
押し合いへし合い地獄の購買は、背が高い方が圧倒的に有利だ。
だからジョルジュ君は背の低い僕を気遣って、いつもわざとゲームで負けてくれている。
ということにジョルジュ君の名誉のためにもしておこう。
- 17 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:35:49 ID:BfQ2OWs.O
- ξ゚听)ξ「アンタ達は、相変わらず仲がいいわね」
暇潰しにハインさんと始めた指相撲で接戦を繰り広げていると、涼やかな声音が耳にとどいた。
( ・∀・)「幼馴染みですから、当然です」
ξ--)ξ「幼馴染みって域じゃない気もするけど」
从 ゚∀从「と、俺達に声をかけてきたのは、級友であり友人のツンであった」
ξ;゚听)ξ「誰に説明してんの、それ」
从 ゚∀从「初見の人にわかりやすいかなって」
ξ゚听)ξ「意味わかんない。二限目の休み時間に、ジョルジュに一語一句同じこと言われたぐらい意味わかんない」
从 ゚∀从「俺とジョルジュが同じこと言うなんて珍しくもねえだろ」
ξ゚听)ξ「まあそうだけど。それよりさ、ちょっと話があるんだけど」
从 ゚∀从「フェンタのライチ味についてだな」
ξ;゚听)ξ「それはアンタ達がさっきの休み時間にしてた議論でしょ!」
- 18 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:36:35 ID:BfQ2OWs.O
- ちなみに僕は国民的炭酸飲料であるフェンタの、期間限定のライチ味があまり好きではない。
ハインさんもやや嫌い、ジョルジュ君は可もなく不可もなくぐらいだ。
内藤君は好き、というかフェンタのライチ味に懸ける社員の意気込みだとか、初めてライチ味が生産ラインに乗った工場の現場監督の苦労などを語ってくれた。
彼はフェンタを心から愛しているのだ。
フェンタの話あるところに内藤君ありというのは、休み時間の階段の下には、カメラを持って仰向けに寝転がったドクオ君ありというぐらい常識だ。
我が中学校の七不思議の一つ、階段逆さカメラ男とは彼のことだった。
ちなみに旧来の七不思議の一つであった階段首吊り男は、逆さカメラ男のインパクトに敗れて、生徒達の噂からその姿を消したらしい。
ドクオ君は怪異に怪しさで打ち勝ったのだ。
内藤君とフェンタの話に戻ろう。
確かに内藤君のフェンタに対する愛情は、紛れもなく真摯なものだ。
しかしながら、糖分を多量に含んだフェンタを愛した彼の、体形については言わぬが花だった。
最近トイレが近い、歳かお。なんてとぼけた彼の尿からは甘い匂いがすることに皆は気づいていた。
愛はときとして残酷なものであると、僕達二年三組は内藤君から学び、大人への階段を一歩登ったのだ。
うん、一連の全てが完全に余談だった。
- 19 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:38:10 ID:BfQ2OWs.O
- ξ゚听)ξ「そうじゃなくて、ハインはさ、やっぱり彼氏とか欲しかったりはしないの?」
从 ゚∀从「なんだよ急に」
ξ--)ξ「それが、ハインのこと紹介して欲しいって男子がいてさあ。私は絶対に脈がないからやめとけって言ったんだけど……」
从 ゚∀从「特別彼氏が欲しいと思ったことはないが、絶対に脈がないってのは言い過ぎだろ」
ξ゚听)ξ「じゃあアンタが彼氏にしてもいいと思う相手の条件を言ってみなさいよ」
从 ゚∀从「ジョルジュといるより気楽で、モララーといるより楽しくて、俺よりロックワン3が上手いやつ」
会話をしながらも、ハインさんの構えには一部の隙もない。
いまだに指相撲は白熱のるつぼにあった。
ξ゚听)ξ「それを絶っっっ対に脈がないっていうのよ!」
从 ゚∀从「そうか? ならロックワン7のDr.オイリーを、ノーダメで倒せるやつにまで格下げしてもいいぞ」
ξ;゚听)ξ「そこじゃないわよ! っていうか、格下げされたのかどうか全然わからないんだけど!」
アクション系レトロゲームのやり込みが趣味のハインさんだが、その中でもロックワンの実力は折り紙付きだ。
僕もやらせてもらったことがあるが、7のDr.オイリーの攻撃をかわすには相当な技術が必要となる。
うん、余談パート2だった。
- 20 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:39:20 ID:BfQ2OWs.O
- 从 ゚∀从「あっ、他にも重要なのが残ってたな。俺がジョルジュやモララーと抱き合ったりしてても文句を言わないやつだ」
ξ゚听)ξ「……はっ?」
从 ゚∀从「だって恋人とか出来たって、ジョルジュやモララーとの関係が変わるわけじゃないだろ? そしたら今まで通りそういうこともするわけで」
飽きが来た僕達は、すでに指相撲とは形ばかりのくすぐり合いに発展していた。
手の甲ばかり狙うのは反則じゃないかと抗議の視線を送るが、ハインさんはどこ吹く風といった態度だ。
ξ゚听)ξ「こいつら早く爆発しないかな……」
(* ・∀・)「あは、ツンさん、ふふっ、人間って爆発しないんですよ。ふっ、くふふ」
ξ;゚听)ξ「知ってますけど! 知ってますけどー!! どこにツボってるのよ!」
从 ゚∀从「はは、小癪な」
ξ;゚听)ξ「どこが小癪だったのか三十文字以内で簡潔に述べなさいよ!」
_
(;゚∀゚)「はあ、はあ、人をパシらせといて、楽しげだな……」
从 ゚∀从「他人をパシらせてんのに、楽しくないわけないだろうが」
_
(;゚∀゚)「このいじめっ子め!」
まるで持久走をしたかのように、なぜか息を弾ませたジョルジュ君が帰ってきた。
- 21 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:40:12 ID:BfQ2OWs.O
- 从 ゚∀从「それより遅かったな」
_
( ゚∀゚)「まさか遅いってことは、十分超えちまったか!」
( ・∀・)「十分?」
_
( ゚∀゚)「だって、十分以内に帰って来られなかったら奢りって」
从 ゚∀从「誰が言ったんだよ、そんなこと?」
_
(;゚∀゚)「お前だよお前! ハインリッヒさんよぉ!」
从 ゚∀从「違う違う。それは奢りじゃなくて、ジョルジュの心は驕り高ぶってるって話をしてたんだよ」
_
(;゚∀゚)「なおのこと酷いわ!」
かくして昼休みは賑やかに過ぎていった。
.
- 22 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:44:01 ID:BfQ2OWs.O
- 登校時とは違い、僕達の下校は概ね穏やかだった。
概ねと評したのは、ジョルジュ君がハインさんの胸を揉み、逆に乳首をむしり取られそうになるという事件が発生したからだ。
さすがのハインさんでも公衆の面前では恥ずかしかったらしい。
そんな中、ふと僕は不思議な光景を目撃した。
ちなみに、乳首がむしり取られそうになっているのは不思議な光景じゃないのか、という話は一旦置いておく。
_
( ゚∀゚)「どうした?」
( ・∀・)「今、傷だらけの猫がいたような」
住宅街に猫がいただけならば、ここまで歯切れの悪い返答には、ならなかったかもしれない。
しかし、それが陽炎のように姿が薄ぼやけていたとなれば話は別だ。
从 ゚∀从「弱肉強食な野良の世界で生きていれば怪我をすることだってあるだろう、が」
_
( ゚∀゚)「放っておけないんだろ?」
二人が言うように、僕は怪我をした猫を放っておける性格ではないのだろう。
その証拠か、自分でも不思議なほどに、早く後を追わなくてはという衝動に駆られていた。
( -∀-)「わがままを言ってすみません」
_
( ゚∀゚)「今更そんなことで謝ってくれるなよ」
おでこに人差し指を当てられ、下げかけた頭を押さえられる。
そして、つーんと弾き返され顔を上げると、映ったのは二人の笑顔だった。
(* ・∀・)「ありがとうございます」
僕が口にしたのは、謝罪の言葉ではなくなっていた。
- 23 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:45:39 ID:BfQ2OWs.O
- 帰路から外れ、僕達三人は猫の捜索を開始した。
当初こそ、猫の行動範囲からするに難航しそうだと思われたが、予想外にすんなりと目標の発見に成功する。
(,,゚Д゚)
成功といえども見えたのは後ろ姿だけで、それもすぐに角を曲がっていってしまったのだが。
( ・∀・)「こっちです!」
走って後を追うと、またその姿は別の角を曲がってしまった。
いたちごっことでも言うべきだろうか、僕達はそれから何度も同じことを繰り返した。
見失うことこそないものの、距離が一向に縮まらない。
そうして誘い込まれるような奇妙な感覚を覚えながらも、幾度目かの脇道を曲がったときだった。
( ・∀・)「次はこっちに――」
世界が深紅に染まった。
(;・∀・)「えっ……なに、これ?」
比喩表現などではない。
現実として、世界が深紅に染まったのだ。
夕焼けのような陽の暖かみは一切なく、吸い込まれそうに深く暗いワインレッドで、空は一面塗りたくられている。
周囲の風景は先刻までの住宅街と変わらない、だがその配色は酸素に触れた血液のように赤黒く染まっていた。
( ・∀・)「目が疲れてるのかな」
目頭を揉んでも瞬き繰り返しても、なにも変化は訪れない。
背筋を冷たいものが駆け抜け、鼓動が激しくなる。
- 24 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:47:06 ID:BfQ2OWs.O
- (;・∀・)「はは。ねえ、ジョル――」
苦笑いをしながら振り返ったその先に、幼馴染み達の姿はなかった。
なぜ、どうして、先ほどまでは確かにいたのにと、思考がぐちゃぐちゃに混乱する。
隣りに幼馴染みがいてくれたならば、この異常事態も僕は笑い飛ばせたはずなのに。
( ・∀・)「っ、あれは!」
だが、のんびりと長考する時間は与えられなかった。
視線の数十メートル先にいたのは、今し方よりも姿が明確になった例の猫だ。
そしてそれ以上に、巨大な存在が目に入る。
狼なのだろうか、黒い影が集まって形作られたような漆黒の獣。
視界に入れただけで、生物としての本能が逃げろと盛大に警鐘を鳴らす。
(;・∀・)「うおおおあああぁぁぁ!!」
僕は震える身体に鞭を打ち、がむしゃらに走り出した。
向かう先は当然、猫と獣の方だ。
動物園で見た虎よりも倍以上は大きそうな狼と、傷だらけの猫がこのまま対峙していたらどうなるかなんて、想像すらしたくない。
どう考えても彼らが外国の古典アニメ、トマとシェリーに登場する猫とネズミのような、友好的な関係とは思えなかった。
- 25 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:48:21 ID:BfQ2OWs.O
- 十メートル、八メートル、五メートル、徐々に距離が縮まる。
( ・∀・)「うああああああああ!!」
僕は手にした学生鞄を力の限り投げ放った。
フォームもなにもない、勢い任せに投げた鞄は狼の顔へと叩き付けられる。
「GRRRUuuu……!」
漆黒の中で爛々と輝く紅水晶のような眼球が、ゆらりとこちらへ向けられた。
なにをされたわけでもないのに嫌な汗が額を伝い、心臓が早鐘を突いたようにうるさくなる。
( ・∀・)「そうだ、僕が相手だ!」
狙い通りやつの注意はこちらへと逸れた、この隙に猫は逃げ出せるだろう。
後は僕も上手く逃げおおせるかどうかだが、幸いにもここは住宅街だ。
この際、不法侵入は気にしないとして、家屋に入り込めばやり過ごせられるだろう。
しかし、唯一にして最大の問題点は、やつに隙を見せずにそれをどうやるかだった。
- 26 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:49:37 ID:BfQ2OWs.O
- (;・∀・)「…………」
僕は両目で狼の片目睨みつけ、胸ポケットにあったボールペンで威嚇しながら、じわりじわりと後ずさりする。
ジョルジュ君から教わった動物を威圧する方法と、ハインさんに常備させられている痴漢撃退用の丈夫なボールペンだ。
そばにいなくても二人はいつも僕の力になってくれている、そう思うと幾分か心が軽くなった。
( ・∀・)(もう少し、後ちょっとで……)
郵便ポストにまでたどり着く。
それを足場に、そこから民家のブロック塀の内側へ飛び込めば、状況は一気に好転するはずだ。
だが、そう思い通りにもいかなかった。
力を溜めるようにかがみ込んだ狼の姿が瞳に映る。
その行動がどういった結果をもたらすのか考える前に、僕は肌を粟立たせる本能に従って、力の限り身体を横に投げ出した。
- 27 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:51:00 ID:BfQ2OWs.O
- (;-∀-)「うぐっ!」
受け身に失敗し痛覚が刺激されるが、そんなことはささいな問題だった。
耳をつんざく爆音と、激しい衝撃に晒された僕の身体は、横たわったまま転がるように吹き飛ばされる。
更に、次々と飛来する硬い物体は、防御すらままならない僕をぼろ雑巾のように傷つけた。
今度は痛みすら感じられなかった。
(;-∀・)「そん、な……」
かすむ意識の中で目にしたのは、ブロック塀を粉々に砕き、大地にクレーターを作り出した狼の姿だった。
つまりそれは、民家に逃げ込んだぐらいでは、こいつ対する防壁にはならないことを意味している。
「GRRUu……」
唸り声が近づいて来るが、駄目だ。
まぶたが重く、まどろんでいるように思考が定まらない。
(,,゚Д゚)「ちっ、なんでただの人間が! クイックスペル・フラッシュボムだゴルァ!」
意識を手放す最後の瞬間に、誰かの声を聞いた気がした。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
- 28 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:53:50 ID:BfQ2OWs.O
- ギコは泡を食って閃光弾の魔術を放つ。
正式な術式展開を省いたクイックスペルだったので殺傷性は失われたが、それでも目潰しとしては十分に機能した。
(,,゚Д゚)「アクティブスペル・ストロングフォース!」
体内の残り少ない魔力を振り絞り、身体強化魔術を発動しながら魔獣の側方を駆け抜ける。
そして気を失った闖入者を口でくわえると、一目散に逃走を開始した。
( -∀-)「…………」
ギコの肩高は小動物のそれなので、身体能力が補強されようとも人間を運ぶのはなかなかに骨が折れる。
多少あっちこっちにぶつけてしまっても、あのまま死ぬよりはましだろうと、開き直って更に速度を高めることにした。
- 29 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:55:16 ID:BfQ2OWs.O
- (,,゚Д゚)「まったく、なんなんだゴルァ。イリュージョンスペル・フェイクドール!」
ひとまず安全圏までの離脱に成功すると、ギコは闖入者をアスファルトの地面へと寝かせ、ダミー人形を街へ放つ。
(,,-Д-)「はあ……」
一連の騒動でかなり余分に魔力を消耗してしまったギコは、やるかたない思いを息に乗せて吐き出した。
異相空間に人間が飛び込んで来るからには、魔導師かと期待してしまった分だけ落胆も大きい。
魔力の残量からするに、有用な魔術の発動は後一回が限度だ。
これでは援軍が来るまでの時間稼ぎすらままならないだろう。
(,,゚Д゚)「そのままってわけにもいかないよなあ」
ちらりと視線を横へ移すと、痛ましい怪我を負った闖入者が目に入る。
走っている最中に髪留めが外れてしまったのか、最初に見た姿よりも長髪に感じた。
l从-∀-;ノ!リ人「うぅ……」
残り一回の魔術。
そのわずか一回もまさに今、消えようとしていた。
(,,゚Д゚)「ヒーリングだゴルァ!」
- 30 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:57:06 ID:BfQ2OWs.O
- ギコは仕方ないと思った。
常々魔法少女の相方であるマスコットを標榜する彼だ、打算で人助けをしないなどその沽券に関わる。
(,,-Д-)(魔法少女ウィザードまぎの主人公まぎも、なぜ身をていしてまで人助けをするのかという問いに、この胸の奥で輝くなにかを裏切らないためと答えていたしな)
もっとも、相方の魔法少女なんて存在しないギコの沽券がどれほどのものなのかは、本人にしか知るよしもないことだが。
l从-∀-ノ!リ人「…………」
治癒魔術を使ったかいもあり、闖入者は安らかな寝息を立て始める。
(,,゚Д゚)「女の子、だよな?」
髪をくくっていたときは服装とあいまって少年に見えなくもなかったが、あらためて観察するとその姿はどこから見ても少女だった
透き通るような白い肌も、薄桃に潤んだ唇も、黒く艶やかな髪も、未成熟ながら女の色を感じさせる。
柔らかな吐息と共に上下する胸元に膨らみは見受けられないが、十代も前半だと思われる少女だ、まだ発育が十分ではないのだろう。
むしろ、胸はちっぱいを持って至高とするギコにとっては素晴らしいものだった。
実に素晴らしいものだった、大切なので二回言った。
- 31 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:58:01 ID:BfQ2OWs.O
- 気を失った至高を持つ少女。
それを魔力を使い果たしてまで助けたギコ。
誘うように上下する至高。
人通りなどあるはずもない異相空間。
(,,゚Д゚)「人には権利があり、労働には対価があり、世の中には魔がさすという言葉がある」
きりっとした真顔でそう語った三十路越えの猫男は、一匹の獣として男として、にくきゅうを少女の胸へと伸ばし、
l从・∀-ノ!リ人「……あれ、僕は、えっと?」
伸ばしたりはせず、自分の顔の前で爪の具合をチェックしてみたりした。
(;゚Д゚)「お、おお、目を覚ましたか」
l从・∀・ノ!リ人「きみは、良かった。無事だったんだね……ってあれ、今」
(;゚Д゚)「違うんだゴルァ、べつにやましい気持ちとかはなくて、心音を確かめようとしたとかそういう感じで」
l从・∀・ノ!リ人「猫がしゃべってる!」
そっちかい、セーフとギコは心の中でガッツポーズをした。
- 33 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 21:59:25 ID:BfQ2OWs.O
- (,,゚Д゚)「起きたならさっさと異相空間から出ていけ。そろそろやつの網膜が再生するころだ」
l从・∀・ノ!リ人「異相空間? ここはどこなの? きみは誰なの?」
(,,゚Д゚)「問答をしている時間はないんだゴルァ。とにかくお前はお前の日常へ帰れ」
l从・∀・ノ!リ人「えっ、ここから出られるの?」
(,,゚Д゚)「俺が作った異相空間なんてそう広いものじゃない。この道をまっすぐ走っていれば通常空間に復帰できるはずだ」
ギコは前足で大通りへと続く道を指す。
そもそもろくに魔力を持たない人間が入り込むほうがおかしいのだ、それに比べれば出ることなど容易かった。
l从・∀・ノ!リ人「わかった、じゃあきみも一緒に行こう」
(,,゚Д゚)「それはできん。異相空間は檻じゃない、敵と認識された俺がいなくなれば魔獣まで通常空間に出てきてしまう」
l从・∀・ノ!リ人「そんな、きみは怪我をしているじゃないか! 残るにしたって、あの狼を倒せる算段があるの?」
(,,゚Д゚)「時間を稼げば援軍が来るはずだ。それに、算段なんかなくても俺は闘う」
- 34 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 22:00:39 ID:BfQ2OWs.O
- l从・∀・ノ!リ人「……わかった。なら僕が残る、きみは逃げろ!」
(,,゚Д゚)「はあ!?」
l从・∀・ノ!リ人「あいつは僕のことも敵と認識したはずだよ。なら僕が囮になっても構わないはずだ」
(,,゚Д゚)「お前はなにを考えてるんだゴルァ! 命知らずか、自殺志願者か!」
l从・∀・ノ!リ人「とんでもない。僕は姉さんが全てを投げうって育ててくれたこの命が、どれだけ大切なものか知っている!」
(,,゚Д゚)「ならばなぜ!」
l从・∀・ノ!リ人「この胸の奥で輝くなにかを裏切らないためだ!」
(,,゚Д゚)「――っ!? ……ふっ、くく、ふはははは!」
かつてパートナーとして憧れた魔法少女がいた。
だが彼女はギコの世界の創作物に登場するキャラクターで、現実には存在し得ない都合のいい偶像だった。
しかし、偶然にも目の前の少女は、命の危機にありながらも掛け値なしの本気で、その存在し得ない偶像と同じ言葉を言ってのけたのだ。
これが笑わずにいられようか。
- 35 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 22:03:06 ID:BfQ2OWs.O
- (,,゚Д゚)「お前、名前はなんていうんだ?」
l从・∀・ノ!リ人「僕はモララーだけど」
(,,゚Д゚)「モララーか、いい名前だ。俺はギコ」
l从・∀・ノ!リ人「えっ、あっ、うん。よろしくね、ギコ」
突然始まった自己紹介に戸惑った様子だったが、モララーは素直に笑顔を返す。
(,,゚Д゚)「モララー、俺の最後の手段を使えばあの魔獣を倒せるかもしれない」
l从・∀・ノ!リ人「最後の手段……!」
(,,゚Д゚)「それにはモララーの助けが必要だし、モララーには今後も過酷な使命を課してしまうかもしれない」
l从-∀-ノ!リ人「…………」
(,,゚Д゚)「それでも俺と共に闘ってくれるだろうか?」
l从・∀・ノ!リ人「――もちろんだよ」
迷いも恐れもない、澄んだ声音。
それがギコの頭上に備えられた猫耳には、とても心地よかった。
- 36 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 22:03:55 ID:BfQ2OWs.O
- (,,゚Д゚)「なら、俺が今から言うことをよく聞いて、やってみてくれ」
l从・∀・ノ!リ人「うん、わかったよ」
(,,゚Д゚)「まず左手を腰の横にそえる」
l从・∀・ノ!リ人「うん」
(,,゚Д゚)「右膝を軽く上げる」
l从・∀・ノ!リ人「うん」
(,,゚Д゚)「右目を閉じる」
l从>∀・ノ!リ人「うん」
(,,゚Д゚)「右手の平を前に向け、人差し指と中指でブイの字を作り、それを横向きにして閉じた右目のとなりへ持って来る」
l从>∀・ノ!リ人「うん」
(,,゚Д゚)「そして唱えるんだ。メタモルフォーゼスペル・魔法少女☆マジカルモララー! 変身! っと!」
l从>∀・ノ!リ人「メタモル……って魔法少女ってどういうこと!?」
現在のモララーの格好は、手を腰にちょこんと当てて、足をぴょこんと曲げ、ウィンクをしながらピースをしているという、非常にチャーミングな姿だった。
- 37 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 22:05:03 ID:BfQ2OWs.O
- (,,゚Д゚)「どうもこうも、魔力回路を同調させて魔法少女になるしか俺達の生き延びる道はないゴルァ」
l从・∀・ノ!リ人「そもそも僕は男で、少女じゃないから無理だよ!」
(;゚Д゚)「なっ!? モララー、お前、男だったのか……」
l从・∀・ノ!リ人「なんだと思ってたのさ。だからもう、どうしようも」
(,,゚Д゚)「男の娘の魔法少女なんて、モララー、お前天才だっ! 俺は今までなんて大きな可能性を見落としていたんだゴルァ!」
今発覚した事実だが、ギコは存外男の娘もいける口だった。
l从・∀・;ノ!リ人「男の娘の魔法少女ってだけでつっこみ箇所が満載過ぎるよ! お腹一杯だよ!」
(,,゚Д゚)「問題ない。魔法少女っていうのは言葉上のもので、大切なのは俺との魔力同調だから性別は関係ないというか」
l从・∀・ノ!リ人「じゃあ、あの変身ワードみたいな恥ずかしいのは言わなくても」
(,,゚Д゚)「駄目だ。俺が長年かけて調整した術式、あれを使わなくては魔力回路の同調などという難度の高い魔術は使えない」
l从-∀-ノ!リ人「……わかった、わかりました。やります、やればいいんでしょう」
モララーは少しやさぐれていた。
- 38 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 22:06:01 ID:BfQ2OWs.O
- l从-∀・ノ!リ人「メタモルフォーゼスペル・魔法少女マジカルモララー! 変身!」
(,,゚Д゚)「違う、魔法少女☆マジカルモララーだゴルァ! 手の角度ももっと上げて、笑顔で可愛らしく」
それから五回のリテイクを終え。
l从>∀・ノ!リ人「メタモルフォーゼスペル・魔法少女☆マジカルモララー! 変身!」
(,,゚Д゚)「そうだ、完璧だ!」
l从・∀・ノ!リ人「…………」
(,,゚Д゚)「…………」
l从・∀・ノ!リ人「……ねえ」
(,,゚Д゚)「……なんでしょう?」
l从・∀・ノ!リ人「なにも起きないんだけど」
(,,゚Д゚)「あれ、おかしいな。魔力回路の同調は始まっている――」
ギコの言葉を遮るようにして、その場に魔力の嵐が可視光となって吹き荒れた。
(;゚Д゚)「なんじゃゴルァ!」
l从-∀-;ノ!リ人「熱、い……身体が……熱い……よう……」
原因を探るまでもなく発生源は眼前の人物、モララーだった。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
- 39 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 22:08:46 ID:BfQ2OWs.O
- 身体が熱くて、周りが眩しくて、頭がぼうっとして。
なにがどうなっているのか僕にもよくわからなかった。
l从 ∀ ノ!リ人『それは神の悪戯。永き隔たりの先で棺の鍵は授けられた』
(,,゚Д゚)「ソーサク世界の古代言語による詠唱!? なぜ、モララーが」
l从 ∀ ノ!リ人『運命の歯車は回り二つは一つに融け合う。死の祝福、生の呪縛。不完全から完全への帰結。今こそ王は……』
言葉をつむぐたびに、身を焦がす熱は僕を包み込む暖かさへと変化する。
l从・∀・ノ!リ人『――真の力を取り戻す!』
辺りを照らす光が消えると、妙な浮遊感が失われて、思考と肉体が現実味を取り戻した。
l从・∀・ノ!リ人「ギコ、今のはなんだったの。あれが同調?」
(,,゚Д゚)「いや、俺にもわからん。わからんが……」
ギコは瞳孔を縦に開き、驚愕といった表情で僕を見つめていた。
慌ててその視線の先を追ってみると目に入ったのは学生服のズボン、ではなかった。
- 40 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 22:09:50 ID:BfQ2OWs.O
- (,,゚Д゚)「よくわからんが最高だっ!」
はいていたズボンの色と同じ黒色の靴下が膝上、というよりも太ももの辺りまで伸びて、肌に食い込んでいる。
その上はなぜか女子の学生服のスカート、赤いチェック柄でかなり丈の短いスカートをはいていた。
l从・∀・ノ!リ人「えっ……」
カッターシャツとネクタイは一見そのままに思えるが、それは罠だ。
袖口に星マークが追加されていたり、全般的にもの凄くファンシーな作りになっている。
そしてなによりも、ボタンが上から四つしかない。
こともあろうに、シャツはお腹の辺りで大きく左右に開かれて、おへそが露出してしまっていた。
l从・∀・;ノ!リ人「なんじゃこりゃあああああぁぁぁ!?」
(,,゚Д゚)「やはりこの子、天才だ……!」
ところどころに原型を残しているのが憎い演出だった。
親の仇レベルの憎さだった。
- 41 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 22:10:40 ID:BfQ2OWs.O
- l从・∀・ノ!リ人「なにこれ、どういうことこれ!」
(;゚Д゚)「落ち着け、銃口を俺に向けるなゴルァ」
l从・∀・ノ!リ人「銃? あれ、いつの間に」
両手のそれぞれに、鈍く輝く白銀の拳銃が握られている。
右手のヴィオ、生の名を冠する銃。
左手のモール、死の名を冠する銃。
l从・∀・ノ!リ人「――わかる。なんで僕はこの銃のことがわかるんだろう」
(,,゚Д゚)「それは魔法少女になることで具現化した、お前の心理を象徴する魔法の杖だ。銃は拒絶、自由、そして男性器を意味する」
l从・∀・;ノ!リ人「それそれそれー! それだよ、それ! そりゃあ僕の心理だって、こんな格好させられたら男だってアピールするよ!」
(;゚Д゚)「うおわぁっ!? 出てる出てる! 魔力弾が発射されてるから! なんで逃げた方に撃つの!? 俺を狙ってるの!?」
無意識のうちに発砲してわかったが、僕は魔力を弾にして撃ち出す方法を完全に理解していた。
- 42 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 22:11:54 ID:BfQ2OWs.O
- (,,゚Д゚)「俺との同調により、魔術の知識も伝達されているはずだ。いささか武器に魔法少女感は欠けるが、ここを切り抜けられれば」
l从・∀・ノ!リ人「危ないっ! アクティブスペル・アクセラレーション!」
まるで慣れ親しんだ行為であるかのように、僕はなんの躊躇もなく、肉体と知覚速度を上昇させる魔術を発動する。
そして、大きく一歩を踏み出した。
周囲の景色がスローモーションで流れ、ゼリーの海を進むような負荷が身体へと乗しかかる。
それでも懸命に突き進み、足の甲へギコを乗せると、深紅の空の向こうを目がけて思いきり蹴り上げた。
思いの外、ギコの身体は軽かった。
どうやら変身したことで筋力なども増強されているらしい。
(;゚Д゚)「ぎょえええぇぇぇ!!」
その結果、ギコはスローモーションにも関わらず、カタパルトから射出されるような勢いでぶっ飛んだ。
無理矢理ジェットコースターに十回連続で乗せられたときの、ジョルジュ君があげた絶叫と酷似した叫びを尻目に、僕はその場から素早く駆け出す。
直後、大地が怯えたかのように震動し、先ほどまで僕達が立ち話をしていた空間に粉塵が舞い上がった。
「GRRRAAAaaa!!」
アスファルトが捲れ上がり、瓦礫の山と化した道路の中心に立っていたのは、想像通りの存在。
漆黒の魔獣だ。
- 43 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 22:12:46 ID:BfQ2OWs.O
- 落下地点に先回りし、ぐったりとしたフライングキャットを胸元で抱き留めた僕は、魔獣のぎらついた紅玉の瞳を睨み返す。
そのとき僕の中のどこかで、カチリとスイッチの入った音が聞こえた。
(,, Д )「死んだ……確実に俺の心は一回死んだゴルァ……」
l从・∀・ノ!リ人「ふむ、それはすまぬことをしたのじゃ。妾としては最善を尽くしたつもりだったのじゃが」
(,,゚Д゚)「えっ、なに、新たなキャラ作り?」
呆けたギコを邪魔にならない位置に放り、僕はどちらが獣かわからない獰猛な笑みを浮かべ、魔獣と対峙した。
l从・∀・ノ!リ人「どれだけうつろうとも、うつろわぬものもあるということかの」
僕は視線に若干の憐憫の情を込める。
人を襲うことが罪なのか、魔獣であることが罪なのか。
- 44 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 22:14:02 ID:BfQ2OWs.O
- l从・∀・ノ!リ人「憐れみを持たぬわけでもないのじゃが、貴様はモララーを傷つけたのじゃ。……なれば死ね! ブラストエアレイド!」
上空へ向けて放たれた無数の弾丸は、高空で一瞬待機した後、直線を描いて一斉に魔獣の頭上へと降り注ぐ。
l从・∀・ノ!リ人「刃の嵐、見切れるかのう! マルチプルスペル・ソニックジャベリン!」
マルチプルスペルにより、片手の銃から一発で複数の衝撃刃が発射される。
一撃一撃は分割された分だけ通常のものより小型だが、両手で次々と撃ち出された刃は、前方一面を埋め尽くした。
「GYAAAaaa!!」
頭上の弾丸と前方の刃をダンスパートナーにして、魔獣は踊り狂う。
しかし、どれだけのダメージを負おうとも、やつのこちらへ向かう前進がとまることはなかった。
(,,゚Д゚)「魔獣は体内の核を潰すまで、活動を停止しないんだゴルァ!」
l从・∀・ノ!リ人「委細承知なのじゃ! アクティブスペル・ストロングフォース!」
身体能力を強化し、僕は自分が放った刃の間隙を縫うようにして、魔獣の元へと駆ける。
- 45 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 22:15:13 ID:BfQ2OWs.O
- l从・∀・ノ!リ人「イグナイテッドスペル・ボルテックスブロウ!! チャージ!」
事前に強力な術式を左手のモールで展開し、即時発動はせずバレル部分に溜め込んでおく。
そして、やつへと接近戦を仕掛けた。
「GRRRAAAAYAAAAA!!」
距離が近づいたのを好機と判断したのか、黒々とぬらついた牙が眼前へと飛び込んで来た。
僕はそれを跳躍一つで回避し、降り際に鼻先へと踵落としを叩き込む。
狼の獣鼻は潰れ、その反動を利用して僕は飛び下がった。
しかし、ギコの言葉が示す通り、漆黒の獣はダメージを意に介せず、前足で僕を地に叩き伏せようとしていた。
l从・∀・ノ!リ人「甘い! クイックスペル・ガーディアンシールド!」
その虫歯になりそうなほど甘過ぎる攻撃を、対物理用の魔術障壁で弾き返す。
そして、僕は体勢を仰け反らせたやつの隙を見逃さず、そのまま身をかがめて魔獣の懐深くへと潜り込んだ。
l从・∀・ノ!リ人「はあっ!!」
膝のバネの延び上がりを使い、右手の銃のグリップエンドで狼の顎を殴り上げる。
腕に鈍く重い衝撃が伝るが、裂帛の気合いと共にそれを打ち抜いた。
渾身の力を振り絞って放った一撃は、やつの下顎を砕く。
- 46 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 22:16:07 ID:BfQ2OWs.O
- l从-∀-ノ!リ人「これにて閉幕なのじゃ」
骨が外れたのか、支える筋組織を負傷したのか。
文字通り開いた口が塞がらない魔獣の口腔へ、強引に左腕をねじり込む。
l从・∀・ノ!リ人「ばーん」
そして、モールのバレル部分に溜め込んでおいた、ボルテックスブロウを解き放った。
「っ……!? っ……っ……!!」
身体を内側から食い破る気流の渦は、相手に叫声を上げることすら許さない。
やがて体内の核を潰されるにいたったのだろう。
魔獣の肉体は塵芥へと砕け散る。
- 47 名前:名も無きAAのようです :2013/11/30(土) 22:17:50 ID:BfQ2OWs.O
- (,,゚Д゚)「……なんなんだよ。確かにこの魔獣はそんなに強力ではなかった」
呟くようにか細いギコの言葉が耳にとどいた。
(,,゚Д゚)「俺と魔力回路を同調させたら、魔術の才がないただの人間でも、なんとか倒すことも可能だろうって」
徐々に声のトーンが上がっていく。
(,,゚Д゚)「なのにその力はなんだゴルァ! お前はモララーなのか? 違う、誰だお前は!」
疑心をありのままぶつけられた僕は困ってしまって、笑う。
l从・∀・ノ!リ人「そうじゃのう、妾は……妹者。うむ、妹者というのがしっくり来るのじゃ」
僕自身も現状の僕がなんなのか、いまひとつよくわかっていないのだ。
モララーであってモララーでない存在、妹者。
l从・∀・ノ!リ人「さしずめ、戦いに向かぬ性格のモララーを守るため、魔術で作られた人格といったところなのじゃ」
第一話 完
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