440 名前:名も無きAAのようです :2015/05/01(金) 18:21:20 ID:6ONnmHcM0

 原始の記憶。


 透明なピンクの揺らぎの向こう側。


 眉の下がった、困った様な、でも優しい


 笑顔。

441 名前:tester ◆SUvieQo8bk :2015/05/01(金) 18:24:46 ID:6ONnmHcM0
 かしゅっ

 遠く響いた接続音に私は本から目を上げた。
 コンソールに手を伸ばしクリックする。

(‘_L’)『ハロー、どうしました、空?』

川 ゚ -゚)「いや、音が聞こえてな。今度は何処に接続したんだ、禅?」

(‘_L’)『樹海の方に少し枝を伸ばしたんです。山までは大分かかりそうですがね』

川 ゚ -゚)「楽しそうで何よりだよ。ところでワイズマンは話せそうか?」

(‘_L’)『御大は何やら調べ事で忙しい様ですが。どうしました? 一応繋いでみましょうか?』

川 ゚ -゚)「ん……どうもこれ以上読み進めるには知識が足りないみたいでな」

(‘_L’)『ふむ』

 数秒の沈黙。

(‘_L’)『図書館で少しあたってみましょう。御大にも問い合わせはしておきます』

川 ゚ -゚)「すまない」

(‘_L’)『構いませんよ。ですがそろそろ食事の時間ですから程々にしてください』

川 ゚ -゚)「わかった、食堂に行くよ、今日のメニューは?」

(‘_L’)『良い鶏肉が手に入ったのでグリルにでも。あとはセロリと根菜でスープの予定です』

川 ゚ -゚)「……セロリは、苦手なんd」

(‘_L’)『好き嫌いはいけませんよ、では食堂で』

 小さな接続音と共にディスプレイから通話表示は消えた。

川 ゚ -゚)「自分だって接続しまくってる癖に、いい気なもんだよなあ……」

 ため息をつき本を置く。手に取ったマグカップは既に冷め切っていた。
 孤独には慣れているが、人嫌いではないし人寂しくない訳でもない。
 出来ればもっと気軽に話せる相手が欲しいものだと思ってはいるが
 その願いが叶うのはもう少し先になりそうだった。

川 ゚ -゚)「セロリかぁ……」

 わかっていても嫌いなものは、仕方ないのだが。
 自分の味覚を他人に説明する事は難しい。

442 名前:tester ◆SUvieQo8bk :2015/05/01(金) 18:27:09 ID:6ONnmHcM0
川 ゚ -゚)「ご馳走様でした」

温かくて旨い食事も静けさの中で食べると少し味気ない。
動画を観たり音楽をかけたりする事もあるが、嫌いなものがある時は控えている。
何かをしながら食べると食が進まなくなって禅に小言を言われる確率が高いのだ。

(‘_L’)『お粗末様でした。少しレシピを変えてみたのですがいかがでしたか?』

川 ゚ -゚)「旨いが少ししょっぱかった。ご飯は進むけど」

(‘_L’)『次回反映させておきましょう。空はやはり薄味好みの様ですね。人種でしょうか』

川 ゚ -゚)「味の好みに人種は関係あるのか? 育ちの問題だと思うのだが……」

(‘_L’)『御大が興味を示しそうな話題ですね。でもヨーロッパの子は総じて濃い味を好む様ですよ。
まぁ、ぶっちぎりはアメリカの子でしょうけどね』

笑みを含んだ穏やかな声で禅が答える。器用な奴。

(‘_L’)『そうそう、空にお知らせする事があったのに忘れるところでしたね』

川 ゚ -゚)「お前が? 忘れる? 何の冗談だ?」

思わず眉をひそめる。禅が面白がっている時にろくな事はない。

(‘_L’)『ええ、二人目をここに運ぶ事になりそうですから。』

ガタン、ガシャン、ゴツン、という音が耳に入る。とんとんと響くドラム。
何の音だ?
椅子が、そうだ、椅子が急に動いて、勢い余って床に倒れた音だ。後は食器が揺れた音。
倒れた?
そうだ、私が、急に立ち上がったから。立ち上がって、テーブルに掌を叩き付けたから。

(‘_L’)『お行儀が悪いですよ、空。御大が見たら何と言うか』

相変わらずの笑みを含んだ声。私がどんな反応をするか予測済みだったに違いない。
口を開くのに上手く声が出ない。動画で観たアレはなんだったっけ。そう、鯉。
鯉の様に何度かぱくぱくと口を開いて空気を飲み込む。
ゴクリ、という音がやけに大きく頭に響いた。おまけにBGMがどんどんとうるさい。音量が上がってないか?

川 ゚ -゚)「ど、どんな、どんな奴が来るんだ?」

(‘_L’)『まだ確定ではありませんが空より少し年上の男子にしようかと思っています。』

大事な話をしているのにどうしてこんなにうるさい。
いらいらとリモコンに手を伸ばして気がついた。
これは、私の心臓。

443 名前:tester ◆SUvieQo8bk :2015/05/01(金) 18:30:22 ID:6ONnmHcM0
川 ゚ -゚)「ワイズマン、いるんだろ!」

ドアを叩く拳に鈍い痛みが走るがそんな事に構ってはいられない。
それにこの程度の音や振動で文句を言うガラではない事くらい知っている。

川 ゚ -゚)「今日だけは入れてくれるまで叩くぞ!」

そんな脅し文句が容易く通じる相手でもない。良く良く解っている。でも

川 ゚ -゚)「ワイズm」

ぷしゅ。
気が抜ける様な音と共にあっけなく開かずの筈の扉は開き。
勢い余った私は当然の如く頭からドア向こうの床に突っ込む事になり
ぷしゅ。
再び間が抜けた音と共に柔らかな軌道を描く腕に抱きとめられる事になる。

( ・∀・)『当初の予測より大分お転婆、いや、活発に育ったと言うべきかなぁ』

壁面のディスプレイの中で机に肘をつき、その左手の月丘にほっそりとした顎を乗せている
皮肉な笑顔を振り仰いで私は眉をひそめた。

川 ゚ -゚)「何事も想定外を想定するのが大切だと耳にタコが出来るまで繰り返したのは誰だ?」

居心地が悪いのは認めてもいい。私らしくない振る舞いだった事も確かだ。
耳がちょっと熱い。目敏い奴の事だ、自覚する前に気付いてるに違いない。

川 ゚ -゚)「大体、大分前に決まってたって言う話じゃないか、聞いてないぞ!」

( ・∀・)『確定したのはここ数日だよ。それに移送の手配やスケジュールがなかなか決まらなくてねえ。
日程そのものは現刻もまだ未定さ。だから必ずしも意地悪で黙ってた訳ではないよ』

川 ゚ -゚)「だからって意地が悪いぞ、教えるタイミングだって打ち合わせてたんだろ?」

( ・∀・)『はて、そんなに怒らせる程のイタズラじゃあないだろう? ささやかな老人の楽しみみたいなものさ』

川 ゚ -゚)「そういうのは老獪って言うんだ!! イビリだ、イビリっ」

( ・∀・)『ほほぅ、最近また語彙が増えたね、いい傾向だ。まぁ一息つきたまえ』

ふぃ、ことん。カラン。涼しい音だ。風流。

( ・∀・)『ちょうどいい、麦茶の試作品がいくつか上がってきた所だし、良さそうな奴の味見を頼もうか』

川 ゚ -゚)「……焦げてない?」

( ・∀・)『改善済みらしい。まぁ、試してみたまえ、このサンプルはなかなか良さそうだから』

444 名前:tester ◆SUvieQo8bk :2015/05/01(金) 18:33:16 ID:6ONnmHcM0
川 ゚ -゚)「……やっぱり仕込みのイタズラじゃないか、こんな冷たい飲み物完備って」

( ・∀・)『何を言うやら。最初から食後に出す予定だったのに食事が終わるや否や凄い勢いで出て行ったから
きっと突貫されるよってご注進を禅から頂いたのさ。こっちに持って来させただけだよ』

川 ゚ -゚)「しれっと……」

( ・∀・)『味はどうかね。前回よりは大分自信があるそうだが。』

川 ゚ -゚)「香ばしい、かな……前みたいな苦味はない。美味しい。なんかこう、ほっとする味だ」

( ・∀・)『カフェインもないしミネラルも豊富。なかなか優れた飲料だよ。香りにもリラックス効果がある』

川 ゚ -゚)「前は苦くて香りもへったくれもなかったが、これはなかなかいい」

( ・∀・)『へったくれは年頃のお嬢さんが使うにはいかがなものかと思うが、内容は概ね同意だね。
報告書を見る限りでは前回は焙煎の加減が良く判らなかったらしい。
まぁ香りは成分抽出も分析も少し難しいから仕方ない所もある。鋭意改善努力中だそうだ』

川 ゚ -゚)「む。言葉はもう少し気をつけよう……あああああ!」

( ・∀・)『もしや虫でも? それともスィーツとやらをご希望かね?』

川 ゚ -゚)「ちがう、そうじゃない、そうじゃなくて!!」

いかん、ペースがマズイ。よろしくないぞ。

川 ゚ -゚)「麦茶はいいんだ麦茶は、そんな事より新しく来る人のだな! 情報が!」

( ・∀・)『ホットケーキは食後には少し重いだろうし、麦茶にはちょっと合わないか。
和風ならそうだなあ、羊羹なら前回作った梅の在庫がまだあった様に思うが、
それとも水羊羹でも作ろうか? 今からだと少し待たせる事になるけど』

梅羊羹。味わい。記憶。

川 ゚ -゚)「……あれは美味しかった……酸味がいいんだ。口元がちょっときゅっとなる」

( ・∀・)『ならば持ってこよう。ちょっと待っていたまえ。』

川 ゚ -゚)「って、だからあああ!! この狸め、遊ぶな!!」

( ・∀・)『話術に関して僕に一日の長がある事は率直に認めているよ。しかし愛弟子の成長を思えばこそ
心を鬼にして千尋の谷へ突き落とす覚悟というものが年長者にはあってだね』

川 ゚ -゚)「お前の場合は心底楽しんでいるだけだろうが!! ああもうそうやってすぐ!!」

( ・∀・)『まぁいいから落ち着いて一息つきたまえ』

追加される麦茶。溶けかけた氷の音。

445 名前:tester ◆SUvieQo8bk :2015/05/01(金) 18:36:39 ID:6ONnmHcM0
川 ゚ -゚)「……もういい、諦める。諦めるから教えてくれよ。喉より脳が乾いてるんだ」

恨みがましい目を向けた所で眉ひとつ動かしてくれないのは承知の上だが、
その小指と薬指で隠している口角がきっと限界まで上がり切っているに違いないと思うと
我ながら子供じみた口調になってしまうのもやむなしだ。
大人として相応しい抑制された振る舞いを心がけねばと思うのに。
私はもう大人で、女性で、子供ではなく、ペットでもおもちゃでもないのだと解って欲しいのに。
勝てない、横に立てない。悔しい。唇が尖る。
慌てて、グラスで隠す。

( ・∀・)『18歳の成人男性だ。プラグアウトは10歳。かなり遅い、しかし教育課程の成績は優秀だね。
特に科学に強い。性格に関しては報告を見る限りかなり個性的らしいが。精神分析はパスしている。
取り立てて異常と言う程じゃない……ユニークだと言うべき所かな。』

18。男。男。18。人。人。人。人。人。
ぐるぐる回る。ぐるぐる回る。
ふしゅ。ふぃぃ。ことん。

( ・∀・)『ま、何はともあれ梅羊羹だ、食べたまえ。糖分不足は脳へのいじめだ』

川 ゚ -゚)「ワイズ……」

( ・∀・)『食べたまえ』

川 ゚ -゚)「うん……」

目前の漆黒のすべすべした皿。涼しげな緑は多分笹の葉。添えられた楊枝は竹。
その上に乗った柔らかでぷるんとした立体。
いつだって思い及びもつかぬ、気遣いの結晶を手に取る。
ちょっと強く、鼻から息を吸い込む。
きっとこういうのを[馥郁]って言うに違いない。前辞書で調べた時はピンとこなかったけど、きっとそう。
甘酸っぱい匂いに口の中がもう期待している。
でもほんの少し鼻の奥を冷やしてくれる様な、かすかな、笹の香。
なんだかとても大切な、落ち着く、でもわくわくする感じ。

( ・∀・)『隠した様に見える事は謝るよ。でも君の事だから教えたらそうなるだろう。
だから禅も僕も全部決まるまで保留してたんだよ。いたずらのつもりじゃないさ』

川 ゚ -゚)「うん」

( ・∀・)『人選が決まったとは言え移送日程もまだ決まりきってはいないし、我々に悪意はない。
想定より随分長い間君をひとりにさせてしまった分、我々も慎重になっているのは事実だ。
それが悪意に見えたら謝るよ。でも禅も随分色々悩んでいる。わかってやってくれたまえ』

川 ゚ -゚)「うん」

ほろほろほぐれる甘味と酸味。きゅっと溜まる唾液。
口の中の隅々まで広げる様に噛みながら、グラスを手に取る。

446 名前:tester ◆SUvieQo8bk :2015/05/01(金) 18:41:39 ID:6ONnmHcM0
川 ゚ -゚)「羊羹、は黒いのに、梅羊羹は桜がかった琥珀色だ。今更なのに不思議だ」

( ・∀・)『通常の羊羹は小豆を使うが、梅羊羹は白小豆を使うからね。実際には白小豆だけでなく、
白隠元豆を使う事もある様だが、レシピ関連はどうも口伝の要素が強い。
文書化の努力はされてるがやはり微妙な点は実践の中で培われ引き継がれた様だ。
食べ物に限らず伝統芸能に関しては試行錯誤が必要だね』

川 ゚ -゚)「でも、みんなが作ってくれたものは美味しい。苦手なものはあるけど、美味しい。
それにリクエストしたら改良を頑張ってくれる。わかってる」

( ・∀・)『皆も聞けばきっと喜ぶだろう。新しい彼の口にも合えばいいが……時間は必要だろうね』

川 ゚ -゚)「今までのデータがあるんじゃないか?」

( ・∀・)『これがなかなかどうして難物でねえ。色々と欲の薄い子、というより偏っているのかな。
性格、頭脳、好み、色々と個性的だよ。食事も調理品は好まなかった様だ。
基本的にはレトルトやインスタントのパッケージをそのまま食べているという報告が上がっている』

川;゚ -゚)「レトルト? インスタント? 非常時用の保存食じゃないか」

( ・∀・)『それはそれで馬鹿にしたものではないよ。勿論初期は保存性に重きが置かれていたが、
今はすっかり味の改良が進んでいる。方法も随分多様化したしね。
うちでも味の改良とメニューの開発、調理方法の多様化を主眼に置いている様だ』

川 ゚ -゚)「調理方法って。レトルトはパッケージごとゆでるだけだろ? 保存食ってそういうイメージだ」

( ・∀・)『レトルトパッケージの場合はね』

空いた右手でデータディスクを横目でいじりつつ薄く笑った声が答えた。
次々に展開表示される画像。
紐がついたスチロールの箱。
[Do Not Overfill]と印刷された灰緑のビニール袋。
圧縮した袋越しに見える、いかにもぱりぱりした質感の米。

( ・∀・)『基本的にレトルト系は無菌無酸素パッケージングされていて、湯煎の後開封したらそのまま飲食可能、
インスタントの場合は粉末化フリーズドライ化されていて熱湯を注いで吸水に数分置く事が多い。
ただレトルトでもヒーターが採用されたり、インスタントなら水でも十分食用に耐える味や食感を作ったり、
他にも肉などの場合は放射線を照射して殺菌する事でそのままの食感で賞味可能期間を
延長する方法なんかがある。食に関するストレスを減らす配慮への研究は続けられてるよ。』

川 ゚ -゚)「食のストレス……?」

ぱらぱらと並べられた画像の隙間から覗く顎が掌から少し浮いた。

( ・∀・)『ああ、そうか。君は実際には非常に恵まれた食生活をしてるんだよ?』

448 名前:tester ◆SUvieQo8bk :2015/05/01(金) 18:44:36 ID:6ONnmHcM0
川 ゚ -゚)「飢えた事は、確かに、ない」

( ・∀・)『飢えだけではない。毎食必要な食事を摂取出来ていてもストレスが溜まる事は意外と多いんだよ』

川;゚ -゚)「毎日セロリ、とか?」

( ・∀・)『君の場合はそうだろうね』

月丘に戻った顎が笑いで震えていた。

( ・∀・)『実際人間のストレスは極めて個体差が大きい上に微細な複数の要因が絡み合って
驚くべき速度で巨大化したりするから、一概に言う事はできない、が』

ディスプレイの向こう、ぱらぱらと捲られるデータディスクを眺める横目。

( ・∀・)『いかにも大量生産された[何一つ自分の為に手を加えられていない食品]を食べ続ける事が
人間にとって驚く程大きなストレス要因となる事は経験則的にも観測的にも認められている。
特に保存食は器に盛り付けられて供される可能性が低い事も主原因のひとつだ。
食事に関する[日常性]の生成をどの様にどれだけ実行できるか、はテーマだね』

川 ゚ -゚)「盛り付けで、変わるのか?」

( ・∀・)『例えば君が食べているその羊羹がレトルトパッケージに入った状態で出てくるのか、
或いは今みたいに黒漆の皿に笹の葉を添えて竹楊枝で出てくるかという事だね』

ひょい、とその右手が動いて抜き出した画像を表示した。直方体で銀色の味気ないパッケージ。
表面には梅羊羹の文字もなく、ただ数字とアルファベットの組み合わせがプリントされている。

( ・∀・)『基本的に成分分析用の実験を除けば大抵の食品は一度に一定量を作成する。
冷蔵冷凍庫が完備されているとは言え、腐敗リスクを下げるに越した事はない。
結果的に羊羹はこの様にレトルトパウチされるし、麦茶も窒素充填パッケージされる。
それが口に入る前にどの様にアレンジされるか。料理には調理以外の要因が沢山あるのさ。孤独とかね』

まじまじと手に取った羊羹を見直す。
それと手を繋ぎとめる竹楊枝。きりりとした鋭角の笹の葉の緑。それを敷いた漆黒の皿のしっとりした丸み。
濃厚な梅の香。清々しい笹のかすかな移り香。
楊枝のさらさらした感触。
想像する機械的なレトルトパウチビニールの感触。
笹の葉も竹楊枝もない、美しい黒皿も移り香もない。パウチ越しに手に持って食べる羊羹。

( ・∀・)『眉間、眉間』

川 ゚ -゚)「あ……」

( ・∀・)『想像力は偉大だ。人間の最高の能力のひとつだ。でもそれが時に最低の制限になる』

川 ゚ -゚)「難しい。良く……良く解らないよ」

449 名前:tester ◆SUvieQo8bk :2015/05/01(金) 18:49:50 ID:6ONnmHcM0
( ・∀・)『想像力は時に人間に驚くべき進化をもたらすが、時に死さえももたらす。絶望もまた想像だ。
それだけの力が、いわば力価が想像力にはあるという事さ。』

ディスプレイに重なる画像を一振りで吹き飛ばした右手がそのまま見えない球体を支える様に動いた。
優しく下がる目尻がこちらを向く。

( ・∀・)『大丈夫。君にとって未知である様に、僕らにとってもまだ未知の領域だ。
一緒に時間をかけて探せば良い。探求とはそれ自体が知的な遊戯だ。
……そんな泣きそうな顔をする必要はない。君はまだ若いんだよ? 』

まぁ流石に子供と呼べる年齢でもないけどね? と悪戯っぽく付け加えた視線が、ふと横にずれた直後。
ぽーーん、という柔らかいチャイムが鳴り、右下から新しいウィンドウがせり上がる。

(‘_L’)『ハロー、ワイズマン、可愛い瓜坊は落ち着きましたか?』

( ・∀・)『やあ禅、事前連絡がなかったら僕は小さな牙ですっかり穴だらけにされていた所さ』

川 ゚ -゚)「ちょ、瓜坊って、私は暴力の塊じゃないぞ!」

( ・∀・)『そもそもメスに牙は生えないという点に突っ込むべきじゃないのかなあ』

(‘_L’)『牙を持ち出したのはワイズマンでしょうに。私は瓜坊としかいってませんよ』

( ・∀・)『幼態だからと侮って重傷を負うというのは良くある話だよ、禅。何事も最悪を想定しなければね』

(‘_L’)『どう考えても貴方が満面の笑みで返り討ちするルートしか私には見えませんが。』

( ・∀・)『いやだなあ、人聞きの悪い。僕は常に全力を尽くしているだけだよ』

(‘_L’)『ワイズマンが全力を出したら空は3秒で泣き出してると思いますが』

( ・∀・)『全力を尽くすからといって愛情を注いでいない訳ではない。愛ある鞭とは良い言葉じゃないか』

(‘_L’)『やれやれ』

首を振り振り、ため息をつきながら肩をすくめる禅の輪郭は、何とか見えた。

(‘_L’)『ここら辺にして置かないと、そろそろ空が本当に泣き出しますよ、ワイズマン』

並ぶ二枚のウィンドウと私。視線の三角形ができた様に思うのは私の錯覚だろうか。

川 ; -;)「ふ、ふ……二人して、二人してっ!! 遊んでるだけじゃないかー!!!!!!!!」

(‘_L’)『ほら御覧なさい、私の予言通りです』

( ・∀・)『それは予言じゃない、経過を踏まえたきわめて信憑性が高い予測というのだよ、禅』

にやりと笑ったワイズマンの口元は歪んで良く見えない。

( ・∀・)『まぁいいから空、ほら、麦茶のおかわりだよ。梅羊羹もまだある。落ち着きなさい』

450 名前:tester ◆SUvieQo8bk :2015/05/01(金) 18:52:55 ID:6ONnmHcM0
(‘_L’)『御大が本気で遊ぶとろくな事になりませんから自重してください。何度やってるんですか』

( ・∀・)『いやぁ、うん、反省するよ。ごめんなさい空』

川 ; -;)「信用できないからいい」

自棄食いにはちょっと勿体無いけど、頬張る。甘いものは別腹って、前何かで読んだし。
今のこの会話の愛情表現だってわかってるし。
寂しくさせない様にって気を遣ってるのも知ってるし。
口に食べ物が入ってる時喋るのは良くないって読んでから黙るけど、
食事の時はいつも誰かが一緒にいてくれるのもちゃんと気付いてるし。
感情をどう表現したらいいのかまだ良く解らない私を、時々こうやって怒らせて泣かせてくれる。
ずっとちゃんと私を見てくれてる。
だから……だから私は、やっぱり。

( ・∀・)『お詫びに何をあげようか』

(‘_L’)『物で釣るんですかワイズマン。最低ですね、軽蔑に値すると思いますよ』

( ・∀・)『ド直球だね、禅……』

川;゚ -゚)「決まったら」

この二人、喧嘩すると怖い。
口の中にはまだ甘い塊。
きょろきょろ見比べてどちらも黙ったのを確認してから麦茶でそっと洗い流す。
喉を滑って行く甘みと一緒に、ためらいも飲み下す。頼むんだ。聞くんだ。知りたいんだ。

川 ゚ -゚)「教えて。日程とか、どんな人とか、色々。OKな範囲でいいから。向こうに言うのも、いいから」

( ・∀・)『そうだね。まだ準備もあるし……少しずつ。どうかな禅?』

(‘_L’)『そうですね。調整期間中にある程度前提情報があった方が初対面もスムーズでしょうし、
どの程度情報を流通させておくかは調整します。まぁ元々その予定だったんですから、
実際それが謝罪のしるしになるかどうかは別じゃないかと思いますけど』

川 ゚ -゚)「ああ、いや、あの、いいんだ」

(‘_L’)『空がそういうなら私はそれで』

( ・∀・)『んじゃあ、そうしよう。どう伝えるかは追って考えようか。おかわりはどうだい?』

川 ゚ -゚)「ううん、もういっぱい。ちょっと散歩してくる。腹ごなししないと」

(‘_L’)『気をつけるんですよ、水筒と虫除けを持っていくのを忘れない様に』

頷きながら手を振って廊下に出る。頬の温度を掌でそっと確かめる。まだ少し、熱い。
目尻もまだ少しひりひりする。
顔を洗って、日焼け止めをつけて、虫除けを持って……
頬の赤みと食べた分のカロリーがなくなる位、歩かねば。


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