37 名前:名も無きAAのようです :2015/11/26(木) 00:35:26 ID:vhPUjwjk0

はるか高みの小さな雲に腰かけて、白いおみ足をブラブラさせて、生まれたばかりの女神さまが、地面のデコボコを見下ろしていた。
女神さまはここしばらくの間ずっとそうしている。何が面白いのかはわからないが、お蔭で女神さまのご加護にあやかった下々はすこぶる好調であった。
もっともそんなのは、女神さまの知ったことではない。

最近の女神さまは、夜の眺めがお気に入りだった。昼間はべつだん気にもならないデコボコが、濃密な銀河のように光るのが、おもしろくって不思議だった。
そんな折、ふわふわと、小さな塵が漂ってきた。


(゚、゚トソン 「ねぇ、そこのあなた。あのピカピカしているのは何ですか?」

( ФωФ) 「あれですか。あれは人間が電気をつくって、夜中にそれを光に変えているのです」

(゚、゚トソン 「どうしてですか?」

( ФωФ) 「うーむ、改めて聞かれますと、わかりませんなぁ。なにぶん私めは、ただの舞い上がった塵でございますから」

(゚、゚トソン 「わからないではなく考えなさい。ちなみに私は、あのピカピカは私を楽しませるためにピカピカしているのだと、この夏から決め打っています」

( ФωФ) 「そうですなぁ、うーむ……僭越ながら、この塵めはそうは思っておりませぬ。
        光らす意味はともかく、人間のつくったものでありますから、人間のためのものではないかと、塵なりに考えております」

(゚、゚トソン 「では人間たちが、私を楽しますために電気を作っているのですね」

( ФωФ) 「あぁ、成程。そういう考え方もありますか。やはり女神さまは、世界の中心に座っておられますなぁ」

(゚、゚トソン 「それほどでもありません」

38 名前:名も無きAAのようです :2015/11/26(木) 00:36:16 ID:vhPUjwjk0

( ФωФ) 「ところで女神さま。そのつま先の下にありますVIPという国は今、それはもう絶好調でございます。
         観光に経済を頼った国ですが、ここのところは情勢安定、気候安定。湖底遺跡なんてのも見つかって、観光客でガッポガポです。
         財政好調に加え、学問分野でもノーベル賞、スポーツやらせりゃ世界一。世界が選んだ美男美女率No.1。黄金期でございます」

(゚、゚トソン 「よくわかりませんが、最近はいいことづくめなのですね」

( ФωФ) 「そうです、いいことづくめです。
         これはまったくもって女神さまの天恵にございます。人間どもは感謝しておりますよ」

(゚、゚トソン 「そうなのですか? 殊勝なことですね。私はここで暇を持て余しているだけなのですが」

( ФωФ) 「ええ、そうでしょうとも。ともあれ、女神さまが暇を持て余しているだけで役に立つこともある、というお話でございます」

(゚、゚トソン 「……あぁ、なるほど。ようやく貴方の言いたいことがわかりました」

( ФωФ) 「といいますと?」

(゚、゚トソン 「女神さまってスゴイ」

( ФωФ) 「はっはっは」

39 名前:名も無きAAのようです :2015/11/26(木) 00:37:24 ID:vhPUjwjk0

( ФωФ) 「しかしまぁ、ほんとうに、こうして見ると綺麗ですなぁ」

(゚、゚トソン 「そうでしょう。何しろこの私への供物ですからね。塵の分際がおこぼれに与れる幸運に酔い痴れるがよいでしょう」

( ФωФ) 「まったくでございます、長生きした甲斐がありました」

(゚、゚トソン 「長生きと言えば、貴方はこんな所に来るまで、何をしていたのですか?」

( ФωФ) 「そうですなぁ。まぁ、塵ですからなぁ。山のまわりをぐるぐる漂ってみたり、獣にくっついて走り回ってみたり……
         しかしまぁ物理の規則に従っていただけですから、何をしていたかと言われると、何もしてないのかもしれませぬ」

(゚、゚;トソン 「そんな言葉遊びはどうでもよいのです!
       ところで獣とは、獣というと、ひょっとして、まさか、アルパカですか?」

( ФωФ) 「アルパカもありましたなぁ」

(゚、゚*トソン 「なんとなんと、なんと羨ましい……! ここから見ていて、あのアルパカというのがもう可愛くて、もう、たまらないのです!」

(;ФωФ) 「そ、そうなのですか」

40 名前:名も無きAAのようです :2015/11/26(木) 00:38:49 ID:vhPUjwjk0

(゚、゚*トソン 「是非聞かせてください、貴方のアルパカ話を! 表情を、鳴き声を、体温を!
       あの愛くるしいアルパカの背で貴方は何を思い、何を考えたのかを! 私に聞かせてほしいのです!」

( ФωФ) 「勿論ですとも。そうですなぁ。まず私が水たまりの泥からくっついたのが、腹に子を宿した雌のアルパカで……――」

(゚д゚*トソン 「アルパカの赤ちゃん!?」

( ФωФ) 「無我夢中で走って、気が付くとオオカミはもう、この後ろ脚に、鼻息がかかるくらいのところまで……――」

(゚、゚;トソン 「それで、どうなったのですか、どうなったのですかっ!?」

( ФωФ) 「あの唾がもう臭くて臭くて……――」

(゚、゚*トソン 「唾……」


「それで、それで?」 と、女神さまは大きな瞳をきらきらさせて、昔話に夢中になった。
「そうですなぁ」 と微笑みながら、風に舞い上がった小さな塵は、長い長い旅の記憶を愛おしげに辿っていった。

夜空に浮かぶ小さな雲が、月の明かりに淡く光る。そのへりから、生まれたばかりの女神さまの、たおやかなおみ足がぶらさがる。
そのつま先の遥か下で、「神様今日もありがとう、明日もよろしくお願いします」とか、人々は篤くお祈りする。「あと最近寒いから、ちょっとでも長く寝てたいなぁ」
もちろんそんなのは、楽しく夜話あそばされる女神さまの知ったことではない。

誰の願いが通じたわけでもないが、地球の都合、もうしばらくのところ、夜は昨日よりちょっぴり長い。


おわり。


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