186 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 21:41:41 ID:B/gmgnis0

「……バイトだと思って言いたい放題……クソが……」

 アパートに帰るや否や、仕事の愚痴をブチ捲ける男が居た。
 カップ麺で晩飯を済ませ、風呂に入り、パソコンの電源を入れる。

(明日は仕事も無いし、完徹してネトゲやるか……)

 今日も普段通り、ネットの海で身を清めようとする男。
 始める前にメールボックスを見て、友人がインしているかを確認する。

 受信メールは二通。片方は友人からだったが、もう片方は知らないアドレスからだった。
 男は最初に、友人からのメールを開いた。

『今日は別のネトゲやるわ
 友達一人までなら俺の紹介でプレイ出来るっぽいから、お前もやるか?』

 男は手慣れた動きで返信する。

『お? 何か新しいゲームのテストか?』

 そう返し、男は前のページに戻り、もう一通のメールに目を向けた。

 迷惑メールにしては、タイトルもアトレスもしっかりしている。
 大方、間違って届いたメールなのだろう。
 高を括り、男はメールを開いた。

187 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 21:42:33 ID:B/gmgnis0
 
 
『新感覚オンラインゲーム 【AA(ダブルエー)】 
 そのテストプレイヤーに貴方が選ばれました。
 郵送させて頂いた物を装着し、以下の手順に従って下さい』

188 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 21:43:27 ID:B/gmgnis0
「釣り乙」
 
 男は思わず口に出した。
 ○○に当選しました。以下のアドレスより云々といった文章は、凡庸な詐欺の手口だ。
 
 男は躊躇無く、そのメールを消した。
 
 ――ピコン。
 
 軽快な電子音が、新たにメールの着信を知らせた。
 目に覚えのあるタイトルとアドレス。
 
 それは今さっき彼が削除したメールと同じものだった。
 幾度となく削除を試みるものの、その都度同じメールが送信されてくる。
 あまりにも鬱陶しい為、男はメールを放置する事に決めた。
 そしていつも通り、ネトゲで鬱憤を晴らすべくインしようとした時――
 
 ――ピコン。
 
「まだ送ってくんのか!」
 
 否、今度の送信元は友人からであった。
 男は少し不機嫌な顔になりながらも、友人からのメールを開く。
 
『AA(ダブルエー)ってゲーム。俺も今日初めてやるんだよ
 HMDと専用コントローラーまで郵送されてきてさ、釣りっぽいけどマジモンだったわ』

189 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 21:44:22 ID:B/gmgnis0
 男、友人からの言葉で確信する。
 
 慌てて郵便受けを確認しに行き、中に入っている物を掻きだした。
 中にあったのは、白のダンボール。
 その場で中身を開けてみれば、目に入ったのはHMDとコントローラー。
 
 男は先程のメールを開き、手順に従いゲームを開始した。
  
 【AA】。詐欺とばかり疑っていたゲームが今、始まろうとしていた
 
 
 
 
* * * * * 
 
 
 
 
('A`)「オッス」

( ^ω^)「おう」

 短く挨拶を交わす二人。
 その場は当然、オンラインゲーム――AAの世界である。

190 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 21:45:40 ID:B/gmgnis0
('A`)「お前その顔にしたのかよ」

( ^ω^)「ま、内藤繋がりって事だお」

('A`)「……あぁ、その語尾ってキャラ選択の時に書かれてたキャラクタの特徴か」

('A`)「わざわざ語尾まで実演する必要も無いだろ」

( ^ω^)「ゲームなんだし設定を疎かにしちゃつまらんお」

 二人が現在、チャットを楽しんでいる場所は『聖堂』。

 彼らは銅像を前に長椅子に座り、イベントの発生を待っていた。
 ――別エリアに行こうとしても、移動する手段が一切見当たらなかったからだ――

( ^ω^)「にしても凄いな。HMDでここまでリアルに出来るとは思わんかった」

('A`)「完全一人称の画面で表示は一切無し。HPもMPも、全部感覚で覚えろって事だな」

( ^ω^)「お互い剣士だからMPはあんまり関係無いけどな。呪術師ゼッテー死ぬだろ」

( ^ω^)「しかもチャットが完全フルボイス。窓無いから超快適だわ」

('A`)「語尾忘れてんぞ」

( ^ω^)「よくね」
 
 
 
『……世界が生まれる……』

191 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 21:46:34 ID:B/gmgnis0
 どこかから、聖堂に声が響いた。
 チュートリアルでも始まるのだろう。二人は空気を読み、チャット――会話を止めた。
 
 
 
『……対の剣を持つ者……あるいは、白銀の長剣を持つ者……』

『……討たれる者は一人……討つ者も一人……』

『……選ばれし者は……独り』

192 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 21:47:19 ID:B/gmgnis0
 歯切れの悪い男の声が語り終えると、二人は目を合わせ、再び喋り始めた。

( ^ω^)「日本語でおk」

('A`)「どう聞いても日本語だったろ中卒フリーターが」

( ^ω^)「ほう。どうやらオイラが初のPKプレイヤーになりそうだお」

('A`)「怒るな怒るな」

('A`)「でさ、これどうすんの」

( ^ω^)「あ、俺暗号解読とか無理だから頼んだ」

('A`)「それは把握してる。ちょい待て」

( ^ω^)「ミス 俺じゃなくてオイラ」

( ^ω^)「頼んだお」

( ^ω^)「……ぬるぽ」

( ^ω^)「ガッ」

( ^ω^)「ぬるぽ」

( ^ω^)「ガッ」

( ^ω^)「ぬるぽ」

('A`)「ガッ」

( ^ω^)「ガッ」

( ^ω^)「分かったかお?」

('A`)「ああ。もしかしたら戦えっていう暗示かもしれん」

( ^ω^)「え? PK有りのゲームなん?」

193 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 21:48:27 ID:B/gmgnis0
 男は立ち上がり、友人の脛を軽く蹴ってみた。
 ダメージの表示は無く、効果音が「ガッ」と聞こえるだけ。
 しかし友人は「お?」と軽く声を出し、その理由を口にした。

('A`)「なんかグラッフィク揺れた」

('A`)「ダメージあるっぽい。俺にも蹴らせろ」

( ^ω^)「だが断る」

('A`)「死ね」

( ^ω^)「お前がな」

 両者立ち上がり、飛び退いて距離を取った。

('A`)「ドクオだ」

( ^ω^)「内藤ホライゾン。あだ名はブーンらしい」

('A`)「……そうかい」

 それを最後に、二人は会話を止めた。

 その戦い、最早暗黙の了承だった。
 先程の語りが戦いを暗示しているのなら、やる事はただ一つ。

 二人はそれぞれ武器を抜き取り、手に構えた。

194 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 21:49:49 ID:B/gmgnis0

 ――ドクオは長剣、ブーンは双剣――

 最初に動き出したのはブーンだった。
 双剣を逆手に持って駆け出し、ドクオの懐に潜り込もうと急接近する。
 ドクオはそれをチャンスと捉え、懐に入られる前に長剣で薙ぎ捨てた。

 この一太刀、確実にブーンのHPを削り取る――


 ――かと思われた次の瞬間、剣の軌道上からブーンの姿が消えた。

 唖然。ドクオは呆気に取られ、動きを止める。

「違う!」

 リアルにて、自分を叱咤するように叫びをあげる友人。
 察したドクオはすぐさま長剣を上空に向けて切り上げた。
 それに直撃する二本の短剣。同時に、切羽詰まった金属音が耳を劈く。

(;'A`)「やるな」

(;^ω^)「ドクオこそ……!」

(#'A`)「……オラァッ!」

 怒号と共に剣を振り切り、ドクオはブーンを大きく吹っ飛ばした。
 威力の高い一撃。ブーンは壁にぶつかるギリギリの所で床に短剣を突き刺し、衝突の威力を弱める。

 しかし、ブーンがそうする前にドクオは動き出していた。

 ブーンの頭上に出来た影。反射的に横に転がり、それを避ける。
 瞬間、床に突き刺さるドクオの長剣。

(;^ω^)「……しまっ……!」

 咄嗟の事で思わず武器を手放したブーン。ドクオの足元には、突き刺さったままの双剣がある。

 これで、状況は圧倒的に不利になってしまった。
 ブーンは立ち上がり、何とか武器を回収しようと態勢を整える。

195 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 21:51:07 ID:B/gmgnis0

('A`)「俺の勝ちだ」

 しかしブーンが策を講じる前に、戦いは佳境に入った。
 ドクオは駆け出し、丸腰のブーンに向けて、勢いよく剣を振り下ろす。

 肩から腰へ、深々と刻まれた一線。
 赤色が滲み、そこからドロリと血が垂れた。

 ブーンは思わず膝を折り、体に走る『痛み』で息を荒げた。

(; ω )(何で……何でゲームなのに痛いんだお……!)

 ブーン、ここでゲームの異常性に気付く。

 何故俺とアイツの元にHMDとコントローラーが送られてきたのか。
 そして、友達を一人まで呼べるというルール。

 ――まるで、俺達二人を狙って選んだような……。

   
   
 
『……世界が始まる……』

196 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 21:52:02 ID:B/gmgnis0
 どこかからか、再び声が響く。

('A`)「勝ったぞー。レアアイテムまだー?」

(; ω )(……何だあれ……敵か……?)

 呑気に声を出すドクオとは裏腹に、彼の背後には異物が迫っていた。

 無重力状態の黄色い液体。別の言い方をすれば――

 ――敵。

(; ω )「ド……クオ……!」

('A`)「ヘイヘーイ」

(; ω )「ドクオ……!」

('A`)「悪いな内藤、俺が一歩リードだ」

 ドクオはそれに一切気づいていない。
 警戒を促すブーンの声も届かず、今にもドクオを飲み込もうと敵は接近していく。

 ドクオまで、一寸。

(; ω )「後ろだお!」

 絞り出した決死の一言――

197 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 21:53:47 ID:B/gmgnis0
 
 
 
 ――敗者の戯言。

 ドクオがそう思わなければ、こんな結果にもならなかったのかもしれない。

('A`)「まぁまぁ、アイテムくらいはお前にも見せて――」

( A )「――……」

 飲み込む。それは生易しい表現だった。

 敵は体から触手を伸ばした。それが鋭利な物である事は、一見したブーンでも十分理解出来た。
 
 ――刹那、触手はドクオの胸を貫く――

(; ω )「あっ」

 触手に体を持ち上げられたドクオ。ドクオのグラフィックが点滅、ノイズが走る。

 間髪入れず二本目、三本目、四本目。
 ドクオの体は瞬く間に穴だらけになってしまった。 

(;^ω^)「ドクオッ!」

 今、自分のHPはどれくらいなのだろう。ふと、そんな不安が脳裏を掠めた。
 しかし、俺はドクオを助けなくてはならない。その思いがブーンを立ち上がらせる。
 何よりブーンが恐れたのはゲームの『異常性』だった。
 最悪の予想、それは『プレイヤーの死』。

 敵の横を警戒して抜け、ブーンは床から短剣を一本抜き取った。

(;^ω^)(コイツは何故ドクオを狙ったのか……)

(;^ω^)(……俺に勝ったから)

(;^ω^)(それを踏まえて……ドクオを助ける方法……)

( ^ω^)(……俺が……!)

198 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 21:54:25 ID:B/gmgnis0
 短剣を握りしめ、ブーンは大きくジャンプした。
 ドクオを貫く触手を薙ぎ払って救出。
 ブーンが肩を担いで着地すると、敵もブーンを認識したのか、触手をブーンに向けて伸ばしてきた。

 ブーンは床にドクオを寝かせ、短剣を強く握りしめた。

 この間にもブーンの体には触手が何度も、何本も突き刺さっている。

( ^ω^)「……すまんお」

 しかしブーンは痛みも気にせず、短剣を両手に持ち直した。
 瞬間、諦めと満足を醸す表情で、ブーンはドクオの胸に短剣を突き刺した。

199 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 21:55:09 ID:B/gmgnis0
  
  
 この判断が全ての始まり。
  
  
(#^ω^)「俺が勝者だ! 狙うなら俺を狙え!」

(# ω゚)「……俺を簡単に倒せるなんて思うなよ……!」
 
 
 後に始まる物語の、言わば第零章。
 
 
(; ω )(クソッ……もう持たないか……)

(; ω )(早く……ログアウトしねぇと――)
 
 
 最悪のPK【骸残し≪スカル・フラグメント≫】の生まれた瞬間。

 同時に、多数の『未帰還者』が生まれた切っ掛けでもある。
 
 
(; ω )(――……ログアウト出来ねぇ……!)

(; ω )(くっそ……体が……)

200 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 21:56:02 ID:B/gmgnis0
  
  
  
  
* * * * * 
 
  
  
  
  
(メA`)「……」

 それも今では昔の話だ。
 
 オンラインゲーム【AA】のプレイヤーは今や世界中に居る。
 その中でたった一人、失った記憶を探す男が居た。

 名前を失い、過去を失い、彼が唯一覚えているのは誰かの名前。

(メA`)「……ブーン……」

 エリア名、『霞の砂漠』を歩く男。
  
  
  
 ――彼は砂塵に紛れ、姿を消した――

201 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 21:56:42 ID:B/gmgnis0
おわり
書いてて調子に乗ったら投下するかも

203 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/25(土) 23:13:07 ID:B/gmgnis0
.hackに触発されて書いた
SAOは知らん


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