- 699 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:28:31 ID:.txmPNuY0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の 『作者』 。
(゚、゚トソン 【暴君の掟 《ワールド・パラメーター》 】
→ 『選択』 を自称する少女。
从 ゚∀从 【正義の執行 《ヒーローズ・ワールド》 】
→ 『レジスタンス』 を率いる 『英雄』 の少女。
『英雄』 が負けない 『世界』 を創りだす 《特殊能力》 の持ち主。
_
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域 《パンドラズ・ワールド》 】
→元 『開闢』 にいたマッド・サイエンティスト。
存在してはならない 『領域』 を創りだす 《特殊能力》 の持ち主。
トル゚〜゚) 【荒野祭 《アフター・カーニバル》 】
→体長相当の槌を持つ 『選択』 の少女。
.
- 700 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:29:15 ID:.txmPNuY0
-
◆ 第四十四話 「vs【暴君の掟】W」
トル゚〜゚)「………ッ」
从 ゚∀从「アフター……」
_
( ゚∀゚)「………後夜祭、か」
(゚、゚トソン「……」
.
- 701 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:29:52 ID:.txmPNuY0
-
( ゚ω゚)「負傷を受けたことも!」
( ゚ω゚)「 『箱』 に閉じ込められたことも!」
( ゚ω゚)「殺されたことでさえ!」
( ゚ω゚)「全て、すべてを!」
( ゚ω゚)「 『そんなこと言っても、あとの祭り』 ―――で済ませてしまうんだお!!」
.
- 702 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:31:09 ID:.txmPNuY0
-
从;゚∀从「ど…どういうことだ」
( ;^ω^)「だから、さっき殺されかけたでしょ!? トソンに殴られて!」
( ;^ω^)「その、 『殴られた』 という完了した出来事を……白紙に返すんだお!」
从 ゚∀从「!」
( ;^ω^)「つまり、 『そもそも殴られていなかった』 ということになる!」
( ^ω^)「同じ理屈で…… 『箱に閉じ込められた』 時は、 『そもそも箱はつくられていなかった』 ことにしたんだお」
トル゚〜゚)「………。」
( ;^ω^)「で、例によって無に帰す定義は恣意的!」
( ;^ω^)「ただの概念的結果であろうがなんであろうが、
. トール視点で消せるのであればなんだって消せるんだお!」
ケッカ
( ;^ω^)「すべての 『因果』 を台無しにするスキル! それが、アフター・カーニバル!!」
.
- 703 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:31:57 ID:.txmPNuY0
-
从 ゚∀从「――― 『因果』 ……っ」
そのとき、ハインリッヒの網膜には、トールとは違う、別の少女の面影が浮かんだ。
だが、その面影はすぐにあぶくになって、消えた。
トル゚〜゚)「……」
一方のトールは、内藤にスキルの全貌を言い当てられて、きょとんとしていた。
戦意が失せた、と言ったほうがいいのだろうか。
それとも、内藤を不確定因子と見て、迂闊に動こうとしていないだけか。
ただ、周囲を「戦闘狂」の三人に囲まれた時。
トールは、全てを諦めたような顔をした。
トル゚〜゚)「……あー」
トル゚〜゚)「やっぱ、単独じゃあ大した力も出ないんだな」
.
- 704 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:32:28 ID:.txmPNuY0
-
_
( ゚∀゚)「群れないと勝てないってか。 確かに、そうだな。 数は、力だ」
_
( ゚∀゚)「だからこそ………いま、殺す。」
_
( ゚∀゚)「あいつらまで来る¢Oに」
( ^ω^)「(あいつら=c…!)」
トル゚〜゚)「あー、私、殺されちゃうのかー…」
_
( ゚∀゚)「悪く思うなよ」
トル゚〜゚)「はぁ〜あ。 こうなるんだったら……」
トル 〜)「 『こんなところに来ないほうがよかった』 」
_
( ;゚∀゚)「――ッ!」
トル ゚〜)「 『今更そんなこと言っても……あとの祭りだけど、な』 」
_
( ;゚∀゚)「逃がすか!」
.
- 705 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:33:00 ID:.txmPNuY0
-
ジョルジュはすかさず右手を伸ばし、 『パンドラの箱』 をトールに合わせて展開させた。
だが、そのときには既に「あとの祭り」となっていた。
先ほどまでトールがそこにいたのが一転、跡形もなく消えてしまったのだから。
【荒野祭】――
『自分がここにやってきた』 という 『因果』 を消した。
その応酬としてか、彼女によってできた戦闘の跡もあらかた消えてしまった。
ある 『因果』 を消すと、その連動としてそれに関わったほかの因子にも変化が訪れるのであろう。
ジョルジュたちが溜めていた戦闘による疲労も、あらかた消えてなくなっていた。
トールが消えてから、数秒間もの間を、沈黙が漂った。
そしてトソンが、口を開く。
(゚、゚トソン「……白衣」
_
( ゚∀゚)「なんだ」
(゚、゚トソン「私たちが来る前にヤってたのって……」
ジョルジュは、黙って肯いた。
.
- 706 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:33:32 ID:.txmPNuY0
-
(゚、゚トソン「……やっぱり」
_
( ゚∀゚)「つーことは……お前たちの目的っつーのは」
今度は、トソンが黙って肯いた。
いまの一瞬の攻防の間に、多少の信用を築くことはできたようだ。
その信用の根底に横たわっているのは、互いが有する圧倒的な力。
力こそが全てを語るこの世界において、彼らのそれは
互いを多少を信頼させるには充分な力を持ち合わせていたようだ。
それを見て、内藤は少し、ほっとしたような気分になった。
(゚、゚トソン「質問がある」
(゚、゚トソン「なぜ奴らは、あんたたちを………襲撃にかかったんだ」
_
( ゚∀゚)「…」
(゚、゚トソン「 『選択』 の目的……それは、なんだったんだ」
(゚、゚トソン「どうして、今になって奴らは動き始めたんだ」
.
- 707 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:35:18 ID:.txmPNuY0
-
それこそが、一番の謎だった。
『選択』 とは、ここ数日で生まれた連中ではない。
トソンが知る限りもっと前から存在していて、その力を有していた。
トソンが今になって 『選択』 に干渉しようと思い至ったのは、
彼女が身の拠り所としていた 『拒絶』 が崩壊してしまったからだ。
だが、そのちょうど同じタイミングで、『選択』 たちも動き始めていた。
ただの偶然か、必然だったのか。 それが、トソンは知りたかった。
_
( ゚∀゚)「敵襲する相手にそんなことを言うほど馬鹿なのか? その 『選択』 ってのは」
(゚、゚トソン「……」
_
( ゚∀゚)「だが……これだけは、言える」
ジョルジュは、体勢を変えた。
直立していたのを、右脚に体重をかけ、不遜な態度になった。
そして表情も、気だるそうなそれになった。
_
( ゚∀゚)「ヒート=カゲキ」
_
( ゚∀゚)「奴もまた、 『選択』 かもしれねえってことだ」
.
- 708 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:35:49 ID:.txmPNuY0
-
(゚、゚トソン「――」
( ;^ω^)「なッ―――」
(゚、゚トソン「………誰だ、そいつ」
( ;^ω^)「――ああもう、調子狂うなあ!」
ヒート=カゲキ、その名をトソン以外の三人はよく知っていた。
『英雄』 をこの上なくご都合主義なる存在に仕立て上げる、陰の功労者。
またの名を 「脚本を脚色る脚色家」 で、ゼウスが認める 「カゲキ姉妹で一番厄介な 『能力者』 」 。
【大団円 《フィナーレ》 】と呼ばれるその能力を持つ少女こそが、ヒートだ。
かつてのアラマキ、ハインリッヒ、ゼウスの三つ巴の戦いの際に、ゼウスに殺され――かけていた。
ゼウスに胴体を貫かれ、そのまま 『爆撃』 に見舞われたため、当時の皆は彼女が死んだものだ、と思っていた。
それが、狂わされた。
ヒートは、生きていたのだ。
このことを知った時に最も動揺したのは、言うまでもなく、姉の
从 ∀从「……」
ハインリッヒ=カゲキであった。
.
- 709 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:36:22 ID:.txmPNuY0
-
( ;^ω^)「とにかく、ハインリッヒの妹だ!」
(゚、゚トソン「あっそ。 それで?」
( ;´ω`)「……」
_
( ゚∀゚)「いきなり、チャイムも鳴らさずにやってきた 『選択』 」
_
( ゚∀゚)「あいつらの目的は、俺の見たところ、たった一つだ」
_
( ゚∀゚)「ヒート=カゲキの、奪還」
.
- 710 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:36:53 ID:.txmPNuY0
-
――ジョルジュとハインリッヒのところに、 『選択』 がやってきた。
そして、彼女たちは、二人に襲い掛かった。
ヒートを、奪ってゆくために。
_
( ゚∀゚)「とても、意味もなく、単体での力もない奴をさらってく意味なんざねえ」
_
( ゚∀゚)「だが……奴らが 『選択』 つーな連中の一人だったとすれば、あるいは……」
_
( ゚∀゚)「いきなり、俺のところに押しかけてきたのにも、納得がいく。
……奴らは、ずっと、同じ 『選択』 であるヒートを、追っていたんだ」
ジョルジュ=パンドラの研究所は、一般人には見つからないような場所にある。
ぱっと見ただけでは生い茂っている木々がそれを隠すし、
近づいても擬態の施された入り口に気づくには幾分時間がかかる。
しかし、それでも 『選択』 は見つけ出したのだ、この場所を。
トソンのように気が狂うほどの時間を費やさない限りは見つけられそうにもない、この場所を。
_
( ゚∀゚)「俺は、足跡なんざ残さねえ。
こんなチンケなところを、ピンポイントで突き止められるはずもねえんだ、……本来は」
「本来は」 。
そう強調して、ジョルジュは仮定を打ちたて始めた。
.
- 711 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:37:32 ID:.txmPNuY0
-
_
( ゚∀゚)「……確か、 『選択』 は運命を改竄する、とか言ったな?」
(゚、゚トソン「……あまりにも連中が強すぎて、運命が、磁石にひかれる砂鉄のようについて行く」
_
( ゚∀゚)「つまり、改竄じゃねえかそんなもん。 ……オーケー、だったら納得がいく」
( ^ω^)「な……納得?」
_
( ゚∀゚)「 『選択』 同士はひかれあう、って仮定だ」
( ^ω^)「―――ッ!」
(゚、゚トソン「ひかれ……!」
.
- 712 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:38:36 ID:.txmPNuY0
-
_ アンチ
( ゚∀゚)「 『拒絶』 にも、似たような現象があった。
あいつらの場合はにおい染みたオーラだったわけだが……」
_
( ゚∀゚)「そのオーラの、一段上の次元で、そいつが撒かれてるっつーわけだ。
人間が赤外線を認知できない、しかし虫けらどもはそいつができる。
それに似たような感じで、俺らには認識できない香りみてーなものが、あるのだろう」
( ;^ω^)「……」
ジョルジュは、主に人間―― 『能力者』 を対象に研究を行ってきた、マッド・サイエンティストだ。
天才的な頭脳と長年の研究の積み重ねが彼に与えたものが、その観察力と発想力であった。
なにか不可解なことが起こっても、すぐさま対象を解析することで追究を完了させる。
内藤が既知の事実を思い出すのに対し、ジョルジュは未知の事実を突き止める。
内藤はなにかヒント、思い出すきっかけが必要だが、ジョルジュには、それが必要ない。
そこに、徹底的なまでの頭脳の違いが感じられた。
やはり、ジョルジュも、 『人外』 と呼ぶに相応しい天才なのだ。
(゚、゚トソン「におい………か」
_
( ゚∀゚)「感じねーか?」
(゚、゚トソン「意識してなかったんだ。 言われてすぐに、わかるわけがない」
_
( ゚∀゚)「分節させるんだ。 そうすりゃあ、俺の仮説を試せる」
(゚、゚トソン「………」
.
- 713 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:39:15 ID:.txmPNuY0
-
勝手な推測で打ち立てられた仮説を、仲間でもないトソンが信じることはなかった。
まだ、彼の観察力に対してはわずかばかりの信頼も寄せていないのだ。
むしろ、呆れた、と言わんばかりの様子で、トソンは出口に向かって歩き始めた。
ただ呆然と立ち尽くしていたハインリッヒに、あたふたとしていた内藤。
その二人の代わりに、ジョルジュが口を開いた。
_
( ゚∀゚)「どこに行くんだ」
(゚、゚トソン「決まっているだろ」
(゚、゚トソン「……潰しにいく=B 『選択』 、どもを」
_
( ゚∀゚)「おうおう、怖い怖い。 ……で?」
(゚、゚トソン「……なんだ」
ジョルジュは一歩詰め寄った。
_
( ゚∀゚)「なんで急に、そんなせわしく動こうって気になったんだ」
(゚、゚トソン「……」
_
( ゚∀゚)「連中は、今すぐ始末しねーといけねえってのか?」
(゚、゚トソン「ああ」
_
( ゚∀゚)「………ッ」
.
- 714 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:39:48 ID:.txmPNuY0
-
嫌味のつもりで言った筈が、トソンが即答したことで、ジョルジュは少し面食らった。
トソンは歩みを止め、振り返った。
(゚、゚トソン「話によると、現時点で、 『選択』 は四人、固まっている」
(゚、゚トソン「………もう、ここから先は、いつ世界が滅びるかがわからない次元だろう」
_
( ゚∀゚)「ほー。 なんでわかるんだ?」
(゚、゚トソン「なんとなく」
( ^ω^)「…!」
やはり、 『選択』 にしか感じることのできないなにか≠ェある――
内藤は、半ば悔しさを抱く反面、そう、確かな推理をも抱くことができた。
ジョルジュにとってもそれは同じようで、先ほどまでの気だるそうな表情が一変、
かつて 『拒絶』 を相手取っていた頃の彼に見られたそれになった。
一方、帰ってきた筈の妹が、一瞬にしてあぶくと散ったハインリッヒ。
彼女は既に失意の果てに立っていることになるのだが、
しかし誰一人として、彼女に気を留めようとはしなかった。
.
- 715 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:40:20 ID:.txmPNuY0
-
_
( ゚∀゚)「マ、それはいいとして、だ」
_
( ゚∀゚)「……俺と 『英雄』 が手を組んでも倒せねえ連中だぜ、奴らは」
_
( ゚∀゚)「お前みたいな奴に 『選択』 を止められるたア思えねえが、な」
(゚、゚トソン「勘違いするな。 私が、一人で彼女たち皆を相手取るとは言っていない」
_
( ゚∀゚)「……なに?」
(゚、゚トソン「持ち前の観察力はどうした。 ……トールとやらが、言っていただろう」
トールが去ってから、十分以上が経っている。
逃げたふりをして反撃――というわけでないことは、ほぼ確かになった。
だからこそ、トソンは悠長に、言った。
つい先ほど、去り際にトールが残した言葉、を。
トル゚〜゚)『……あー』
トル゚〜゚)『やっぱ、単独じゃあ大した力も出ないんだな』
.
- 716 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:42:39 ID:.txmPNuY0
-
_
( ゚∀゚)「……それが、どうした」
_
( ゚∀゚)「多勢に無勢、の話をしていただけだろう」
(゚、゚トソン「違う……と、私は見ている」
_
( ゚∀゚)「ほう、今度はお前が仮説を語るか」
(゚、゚トソン「……さっきは、 『選択』 が集えば運命にひずみが生じて世界が崩壊すると言ったが……」
( ;^ω^)「(言ったの、僕! 僕だお!)」
(゚、゚トソン「それは、 『選択』 がもつ体質的な力もあるのだろうけど……
. もう一点、あると見ている」
_
( ゚∀゚)「というと?」
(゚、゚トソン「相乗作用だ」
_
( ゚∀゚)「……!」
.
- 717 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:43:21 ID:.txmPNuY0
-
(゚、゚トソン「彼女たちが、自分に、砂鉄みたいな運命を引き寄せる力があるとするなら」
(゚、゚トソン「当然、複数いる 『選択』 が複数一箇所に集まると、
. 引き寄せる力の大きさも、より膨大なものとなる」
_
( ゚∀゚)「当然だな。 そこからひずみが生じて世界の崩壊、ってのがお前の考えなのだから」
(゚、゚トソン「そして、膨大になったその運命は……
. そのまま、その場に集まっている 『選択』 たちの力と、変わる」
_
( ゚∀゚)「別に、考えられないことじゃあ、ない。
だとすると…………、………」
_
( ゚∀゚)「………ちょっと、待てよ」
トソンの話をなんとも思っていなかったジョルジュだが、
その瞬間、ジョルジュの脳に一点の引っかかりができた。
トソンの話を整理していると、どうしても一つ、引っかかることができたのだ。
その姿を割り出す前に、トソンが口を開いた。
余分な時間をジョルジュに取らせるつもりはなかったようだ。
(゚、゚トソン「 『選択』 の力が強まると、その分余計に、運命を改竄する力が強まる。
. すると、更に自分を強化させる力もまた、増幅される」
(゚、゚トソン「 『選択』 が集ってしまえば、倍々に連中の力は、高まってしまう、と見ていいだろう」
.
- 718 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:43:55 ID:.txmPNuY0
-
その結論を聞かされて、ジョルジュは合点がいった。
そして同時に、事の重大さにも気づいた。
内藤もまた、彼と同様だった。
_
( ゚∀゚)「………」
(゚、゚トソン「別に、証拠や検証結果なんてものは、ない」
(゚、゚トソン「だが……私は、なんとなくだが、そう思う」
(゚、゚トソン「誰にも信用されなくていい。 だから、無理強いはしないのです」
从 ゚∀从「………!」
(゚、゚トソン「………以上の一連の流れを見て、あなたたちはどうしますか」
(゚、゚トソン「 『選択』 の侵攻を、食い止めるか。
. それとも、信じられない、ほっておけばいい――」
(゚、゚トソン「そう考えて、ゼウスのように……一蹴するか」
.
- 719 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:44:39 ID:.txmPNuY0
-
_
( ゚∀゚)「……ゼウス……?」
( ;^ω^)「あいつは、話に乗らなかったんだお。
. なんでも、どうして自分が〜〜とか、なんとか」
_
( ゚∀゚)「カァー。 あいつらしいわ」
( ;^ω^)「あ、あんたは……パンドラは! ………この話、乗るかお?」
現状、 『選択』 に戦いを挑むのにトソン一人だけでは、あまりにも心細い。
『拒絶』 としての補正、 『選択』 としての補正。
その両方を得ているトソンではあるが、数の暴力には敵わないと内藤は見ているのだ。
圧倒的な戦力となるゼウスが協力してくれなかっただけで、内藤の懸念が一気に膨れ上がった程である。
そのため、彼と同等の戦力になるであろうジョルジュには、是非協力してほしいのだ、内藤としては。
だが、彼も、ゼウス同様に利己主義であり、己にメリットのない戦いをするような男ではない。
だから、今断られたら――というのが、内藤の今抱いている危惧であった。
しかし。
ゼウスとジョルジュとで、現状において唯一違う点が、あった。
_
( ゚∀゚)「乗るに決まってるじゃねーか」
( ^ω^)「!」
_
( ゚∀゚)「こちとら、 『英雄』 に使うつもりだった交渉材料を盗られてンだ。
トソンとの共闘は気が進まねえが……願ったり叶ったりだ」
彼には、れっきとした 「メリット」 があったのだ。
.
- 720 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:45:57 ID:.txmPNuY0
-
◆
ある港町では、今日も貿易や商業が盛んに行われていた。
その地域にとっては珍しい果物や武器、香辛料などが、高値で取引されている。
宿も多く、この国にしては比較的警察が機能しているためか、治安はよかった。
しかし、治安がいい代わりに、ここらは物価が高かった。
多くの金が一日にそこらを動き回るため、景気がいいとも言うのだが、
移住民が住むには厳しくなるインフレーションが、この町の特徴でもあった。
移住民はまず最初に金を持つ者に仕えて稼ぐのが定石とされているが、
当然雇う側もそれを理解しており、服装から移住民と判断できた者に対しては、足元を見ようとしてくる。
そういった因果か、この町には、裏で人身売買、平たく言えば奴隷――制度が、確立されていた。
表向きの景気のよさ、華やかさに惹かれてやってきた貧しい移住民は、
今まで以上に過酷な日々を強いられることになる、町。 それが、ここだった。
アラマキ率いる王国、ゼウス率いる裏社会、ハインリッヒ率いる第三勢力。
その三つ巴から少し離れている代わりに、ここではここで、弱肉強食の世界が繰り広げられていたのだ。
「………腹減った」
――露店に置かれている見慣れない果実を見下ろして、少女はそう言った。
黄色が太陽の光で輝いて見えるその果実は、少女が三枚だけ持っている銅貨、しめて十枚は必要となるものである。
もともとこの町の特質を知らずにやってきた彼女は、そのインフレーションをただのぼったくりだと感じていた。
.
- 721 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:46:39 ID:.txmPNuY0
-
彡ミ ゜ハ゜)「どうだ、お嬢ちゃん。 銅貨二枚ほど、マケてやろうか?」
「いや、いいよオッチャン……はあ。」
割り引かれたところで、買えないのだ。
それを言うわけにもいかず、少女は残念そうな笑みを浮かべてその露店を去った。
背後から飛び交ってくるように聞こえる、市場の声。
それが、いまの彼女には自分を嘲る罵声のように聞こえてきた。
人捜し≠フ道中でこの町に来たのはいいのだが、
その人より自分自身の安否が先に怪しまれるようになってきた。
宿に止まろうにも、どれだけ破格の店でも銀貨三枚ほどは必要となる
職を持たず、今まで行く先々で稼いできた金もほとんど底をついていた彼女に、
宿で一夜を過ごすような 「贅沢」 は、許されないものとなっていた。
「また、力試しとかあれば……」
今までの稼ぎの七割は、己の腕によるものである。
地元の力自慢が集まっては喧嘩し一位を決める、というお祭りがたまに見られるのだが、
そういった企画を見つけては、たとえ賞金が少なかろうと参加して一位をとるのが、彼女のやり口であった。
誰かの下に就くのは放浪する身としては抵抗があるし、もらえる賃金も少ない。
だからこそ、そういった賞金を稼ぐことが彼女の生きる道だったのだ。
だが、この町には、そういった野蛮な行事は、軽く聞き込みをしたところではなさそうだった。
.
- 722 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:47:28 ID:.txmPNuY0
-
徐々に、港の市場から離れていく。
喧噪も耳に入ってこなくなり、少し、精神的に落ち着けた。
だが、空腹は進む一方だ。 素もぐりして魚をとるしか、ないかもしれない。
ここに来る途中で、髭をいやらしく生やし贅肉を腹に蓄えた中年に
売春をして稼いではみないか、と三度ほどは誘われたのだが、彼女には生憎そういった気はなかった。
プライドが拒むわけでも、ただ生理的に無理なわけでもないのだが、
簡単に金を手に入れることが、彼女から数少ないやりがいを奪うことであるかのように感じられたのだ。
妹を失ったのはいつのことか覚えてはいないが、しかし、死んではいない。
姉妹に通じる第六感的なものではあるが、彼女はそれを信じては疑わなかった。
だからこそこうして、長い間定住する家を持たずに世界各地を旅しているのだ。
折られたトタン板で伸びきっていた髪を切って、
雨水が溜められた土管で身体中の垢を落として、
各所で捨てられているぼろ衣を目ざとく集めては衣服や寝具として使う。
華やかそうに見えるこの町の裏には、そんな悲惨な現状があった。
そのうち九割が華やかさという疑似餌に釣られた移住民であるのだが、
この少女もまた、そういった生活を強いられつつあった。
「カネ、稼げねーかなァ……」
ホームレスがそこらに見られる場所を歩きながら、少女は三日ぶりに、そう独り言を漏らした。
生命力の高さが彼女を未だに生かしていたのだが、彼女にとっては、それが半分苦痛でもあった。
一般人から強盗などをする心も持ち合わせていないため、しばらくは
この町に留まることを決めて雇われの身になることも視野に入れつつあったこの日。
少女は、背後から背中をとんとんと叩かれた。
.
- 723 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:48:30 ID:.txmPNuY0
-
「?」
ハソ ゚ー゚リ「きみ、一人? 親はいないの?」
ここらでは珍しい、きちんとした身なりを整えている女性であった。
髪も綺麗なブロンドで、仄かにシャンプーの香りが漂ってきた。
少女が数日ぶりに嗅いだ、いいにおいだった。
「親はいないよ」
ハソ ゚−゚リ「あら……。 きみ、ここらじゃ見ない顔だけど」
「旅、してるからね」
ハソ ゚ー゚リ「旅かぁ。 女の子なのに、大変だね」
少女が久しぶりに話す、社交的な女性だった。
もともと警戒とは無縁な少女ではあるが、それにも増して彼女には好感が持てた。
同じ女性だから、というのもあるのかもしれない。
ハソ ゚ー゚リ「で、名前はなんて言うの?」
「名前だけは明かしてないんだ、流浪の身だから」
ハソ ゚ー゚リ「あらカッコイイ。 じゃあ、名前はいいや」
.
- 724 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:49:16 ID:.txmPNuY0
-
存外物分りのいい女性だったようで、深くは追求してこなかった。
その代わりに、女性は本題とも言わんばかりに、話を換えてきた。
ハソ ゚−゚リ「仕事、ないの?」
「ないよ」
ハソ ゚−゚リ「生活できるの?」
「ちょっと厳しいかな」
ハソ ゚−゚リ「仕事、ほしい?」
「少しは」
ハソ ゚ー゚リ「じゃあ決まりだね」
「へ?」
瞬間、少女の口に布状のものが当てられた。
ただのハンカチだとは思うが、しかしどこか湿っていた。
少女は条件反射で抵抗しようとするとしたが、しかし抗えなかった=B
鼻と口を覆うようにあてがわれた、湿ったハンカチ。
状況を理解して、少女は、はじめて危機を察した。
この湿ったものの正体は、おそらくは、睡眠薬だ。
.
- 725 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:49:49 ID:.txmPNuY0
-
◆
「………!」
目を覚ましたときに目の前に広がっていたのは、殺風景な事務所だった。
所々汚れた壁に、驚くほど家具や調度品がない。
ただ自分が座っている椅子、向かいにある事務机、あとテレビくらいしか目に入るものがなかった。
何事だと思って動こうとしたが、しかし動けなかった、
手首は後ろ手錠、足首は椅子の足とともに手錠に填められ、
胴体には頑丈なロープが背もたれと一緒に巻かれており、口には猿轡がされてあった。
明らかな敵意を感じ、前方、事務机のほうを見た。
最初は寝起きゆえまだ覚醒しきっていなかった眼だが、ようやく視界が安定してきたのだ。
ブロンドの髪の人物が、革張りのソファーに腰掛けて、少女のもがく様を見ている。
少女が起きたことを確認し、その人物――先ほどの女性は、立ち上がった。
ハソ ゚−゚リ「起きるの、早すぎだっての」
「―――……ッ!」
ハソ ゚−゚リ「三十分は効く薬よ? よくまあ、半分で起きられたわ」
「……〜〜……ッ…!」
ハソ ゚−゚リ「あ、拘束具? ムリムリ、外せないって、あんたには」
「………………」
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- 726 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:50:57 ID:.txmPNuY0
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迂闊だった――
少女は、そう反省した。
まだこの町がどういうところなのかを理解していなかったのに、
油断しては、裏通りで裏通りにしては似つかわしくない人物に歩み寄ってしまったのだ。
女性の顔が、蝋で固められたかのように無表情に見える。
それどころか、冷酷さ、残酷さ、無情さが窺える。
抵抗したくてもできない、その謎の感覚に狼狽しながらも、少女はそれでもなお、抵抗した。
すると女性は見かねたのか、苛々を見せつつ握っていたリモコンのボタンを押した。
そこにあるテレビを操作するものだろう、ボタンに連動してテレビに電源が入った。
少女がそちらに気を取られると、女性は先ほどよりも明らかに低い声で、不機嫌そうに言った。
ハソ ゚−゚リ「今から、三つ、選択肢をあげる。
その三つがどんなもんなのかを見せてあげるから、黙って見てなさい」
そして、ボタンを押す。
ビデオがあらかじめ入れられていたようで、ある映像が流されはじめた。
映されたのは、四肢が見るからに細い、女性。
米俵二個分に相当しそうなほどの重そうな荷物を、泣きそうな顔をしながら持ち運んでいる。
また、右の足首に鉄の輪が填められており、そこから鎖で伸びた先に鉄球がある。
逃走を防ぐための器具だ――少女は、瞬時に理解した。
ハソ ゚−゚リ「選択肢その一、奴隷」
ハソ ゚−゚リ「主のモノ≠ニして、一生を道具として過ごす」
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- 727 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:51:28 ID:.txmPNuY0
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奴隷、その言葉に少女は反応した。
徐々に、状況が理解できはじめていた。
そんな少女を無視して、女性は続けた。
その二、と言って、ボタンを押す。
次の映像に切り替わったらしく、空気ががらりと変わった。
画面が暗くなったかと思えば、悲鳴に近い女性の喘ぎ声が聞こえてきた。
映っている女性の伸びている右の足首には、やはり逃走を許さない器具が填められている。
が、加えて、四肢と胴体が完全に固定され、体勢を変えることが許されていなかった。
その上を腹の出た中年が乗っているのを見て、少女はやはり、瞬時にこれがなにを示すのかを察した。
ハソ ゚−゚リ「選択肢その二、性奴隷」
ハソ ゚−゚リ「昼は奴隷として働き、夜は眠る時間を全て性欲処理に務める」
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- 728 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:52:00 ID:.txmPNuY0
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つまり、奴隷から夜の睡眠すらをも奪い取ったもの。
それを判断して、これが選択肢ではなくただの段階であることに気がついた。
苛々が徐々に晴れてきたのか、女性は再び無表情になって、リモコンを操作した。
最後の一つ、三つ目の選択肢のその様子を、女性は拘束している少女に見せ付けた。
その映像を見せられた最初は、それがなにを映しているのかがわからなかった。
しかし、それを理解した瞬間、少女は凄まじい吐き気に見舞われた。
またもや映されたのは女性なのだが、その四肢がなかったのだ。
当然自身は裸で、また回りにいる男達も皆、裸である。
当初女性は泣き叫んでいたのだが、見かねた男性がその口に自身の性器を突っ込んだ。
せわしく動く、腹の出た中年たち。 抵抗するにできない、達磨となった女性。
それを見せられて、少女は目を逸らそうとした。
だが、なぜか力が入らず=Aそれを拒まれた。
苦々しい顔をする少女に一瞥を与えて、女性はまた、口を開いた。
ハソ ゚−゚リ「選択肢その三、玩具」
ハソ ゚−゚リ「達磨になって、一日中、変態豚どもの相手をする。 昼も、晩も」
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- 729 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:52:33 ID:.txmPNuY0
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背筋が凍った、という表現がもっとも相応しかった。
少女は、この上ない恐怖とおぞましさに、眼圧が急に高まり、目の前が真っ暗になった。
眼球が潰れそうになり、眩暈にも立ち眩みにも近い暗転で意識が飛びそうになる。
テレビを消したところで、女性はカツカツ、とヒールの音を鳴らしながら歩み寄ってきた。
少女の額を鷲づかみするかのように頭部を捉え、グイ、と視線を自分と合わせた。
ハソ ゚−゚リ「ここまで見ても泣かないなんて、うざったいムスメだこと」
ハソ ゚−゚リ「………わかった? つまり、仕事ってのは……奴隷、よ」
「………!」
奴隷を見てはきたが、まさか自分にそれが強いられる時が来るとは。
少女はやはり抵抗しようと思ったが、未だに四肢に力が入らない。
この、謎の現象さえ克服できたなら、少女はすぐさま抵抗するのだが。
それを、視線を捉えたのか、ぎこちない動きで判断したのか。
女性は手を自分のわき腹に当ててから、今少女がもっとも知りたがっているであろうことを言い始めた。
ハソ ゚−゚リ「さっきから、抵抗しようとしてる? 残念、できないよ」
ハソ ゚−゚リ「あたしが、あんたを押さえつけてるから」
ハソ ゚−゚リ「 《特殊能力》 で――ね。」
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- 730 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:53:08 ID:.txmPNuY0
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「―――ッ!」
《特殊能力》 。 確かに女性は、そう言った。
既存の法則に捕らわれない、不思議な力。
自己強化をはかったり、因果律を操作したり、なにかを操ったり。
そういった、この世界でエリートになるための第一条件、それが 《特殊能力》 だ。
そして少女は、その言葉に過敏に反応した。
それを見て、女性は、少し驚いたような顔をした。
ハソ ゚−゚リ「まさか、能力とか、言ってわかるんだ。
へェ〜、伊達に旅してるわけじゃなさそうね」
ハソ ゚−゚リ「じゃあ、あたしも知ってるかしら?
ここらじゃあ、裏の連中にはちょっとは名が知られてるんだけど」
ネイティブ・ネイティス
ハソ ゚−゚リ「………… 【豪】 。」
ハソ ゚−゚リ「それが、王たるあたしの名だ」
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- 731 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:53:39 ID:.txmPNuY0
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「…………ッ」
【豪 《ネイティブ・ネイティス》 】―――。
自らを 「王」 と名乗ったその女は、続けた。
ハソ ゚−゚リ「郷に入っては郷に従え≠ニいう言葉があってね。
一言で言えば………あんたはあたしに逆らえない≠フよ」
ハソ ゚−゚リ「圧倒的力を前に、愚民どもは平伏す。
無意識のうちに、無自覚のうちに、無考慮のうちに」
ハソ ゚−゚リ「ガードを無視して 『畏怖』 を相手に押し付ける 《特殊能力》 。
つまり…………最強よ。」
『畏怖』 を相手に植え付けることで、相手から抵抗の気力を削ぐ――
精神面に干渉するその能力を、この女は持っていた。
少女が拘束器具を外そうと思っても外せなかった理由。
それは、 「彼女から拘束器具を外させる気力を奪ったから」 。
そして実際に、少女は、本来ならばできていた#、のそれが、できなかった。
つまり、この 《特殊能力》 は本物――
少女にとっても、この女が 『能力者』 であることには疑いなくなった。
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- 732 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:54:12 ID:.txmPNuY0
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ハソ ゚−゚リ「おかげで、この町にきてバカみたいに稼がせてもらってるわ。
ここらには 『能力者』 に詳しい奴らは少ないし、稼ぎを邪魔する連中もいない」
ハソ ゚−゚リ「まあ……せいぜい、自分の 『不運』 を嘆くことね」
ハソ ゚−゚リ「ただでさえよそ者、それも貧乏人には容赦のない町だってのに、
このあたしに目をつけられるなんて、ほんっとうに 『運命』 から見捨てられたようなものよ」
「 …!」
『不運』 。 『運命』 。
その言葉に、少女は反応した。
ハソ ゚−゚リ「……さて」
ハソ ゚−゚リ「今の話は、褒美よ。 能力のことを知っていたことに対する、ね」
ハソ ゚−゚リ「もう、あきらめはついたかしら? じゃあ、選択をしてほしいんだけど」
「…………」
ハソ ゚−゚リ「……聞いているのか? おい――」
――― 少女は立ち上がった=B
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- 733 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:54:45 ID:.txmPNuY0
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ハソ ゚−゚リ「―――……」
続けて、少女は手と足の錠を壊し、ロープもちぎった。
いや、立とうとしたら自然と壊された≠ニ捉えたほうがいいだろう。
壊す、ちぎる素振りを、少女は、まるでしていないのだ。
ハソ;゚−゚リ「ッ!? ンな――ッ!」
「……ふぅ……!」
そして、仕上げと言わんばかりに、少女は猿轡を引き剥がした。
はずそうとはまるでせずに、ただ口にあてがわれていた部分を掴んで引っ張っただけで、ちぎれたのだ。
相当な腕力があっても普通はありえないであろう、その動きを
少女は事もあろうか、直立のまま、顔色を変えず――むしろ涼しい顔をして――こなしてみせた。
さすがの女も、その 『異常』 な様を見て、狼狽を禁じ得なかった。
ただでさえ、人間が持ち得る力的に不可能であり、
またその動きは【豪】によって制限されているのにも関わらず、成し遂げたのだ。
二重の意味において、不可能。
それが目の前で繰り広げられたことに、反応しないほうが難しかった。
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- 734 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:55:22 ID:.txmPNuY0
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ハソ;゚−゚リ「あんた――何者なんだッ! ど、どうして―――」
「えぇー、オレぇー?」
ハソ;゚−゚リ「――まさか、あんたも 『能力者』 なのか……ッ!」
「うーん、 『能力者』 なのかな? わかんないや」
ハソ;゚−゚リ「う……… 『動くな』 ッ!」
女が、制止を、右腕の所作を交えながら言い放った。
【豪】を使って、少女の動くという動作を封じにかかったのだろう。
だが、少女は止まらなかった。
一歩ずつ、一歩ずつ、女に向かって歩を進めていった。
それが、女にとっては不可解極まりなかった。
ハソ;゚−゚リ「 『能力も使わせない』 !」
その不可解が、少女の持つ 《特殊能力》 によるものだと考えた女は、
今度は少女が使っているかもしれないその能力を使わせまいとした。
だが、少女は、ただ不敵に笑むだけだった。
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- 735 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:55:57 ID:.txmPNuY0
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ハソ;゚−゚リ「ど―――どうして……ッ!」
先ほどまでの優越感が、嘘のように消えていく。
怖いものでも見たかのように、熱が身体から抜けていく。
―― いや、このとき実際に、 「怖いもの」 を見ていたのだ。
「いやー、オレたち、使う能力って似てる≠だな!」
「え、なに、相手の精神に働きかけて動きを制限する≠だっけ?」
「それ、オレのんとほとんど一緒じゃん! やだなー、ぱくんないでよ」
少女の顔に、影が生える。
口角が、裂けたかのように大きく吊りあがる。
やがて、両手の拳を合わせ、指の関節を鳴らし始めた。
露骨に、戦意を女に示しつけた。
女にとっては、それが地獄の遣い魔のそれのように見えた。
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- 736 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:56:28 ID:.txmPNuY0
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「でも、オレは、あれだ。 そんなんじゃ、ないから」
「畏怖とか、郷に入っては云々とか」
「オレは、ただ……」
(*゚∀゚)「動きを押さえつけるんじゃ、ない」
(*゚∀゚)「動きを、させなくさせるだけだから」
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- 737 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:57:03 ID:.txmPNuY0
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ハソ;゚−゚リ「―――ッ!」
事の重大性を察し、女はプライドなど放り投げて、一目散に逃走を図った。
幸い、この建物や近辺の土地勘をまるで知らない少女に対して、自分は知り尽くしている。
この部屋から抜け出すことができれば、逃げることができる。
女のこの考えは、正しかった。 これそのものを否定することは、できないだろう。
が、 「実現できない」 ということに関しては、机上論だとして嘲ることしかできなかった。
(* ∀ )「あれれ、 『走れるの?』 」
ハソ; − リ「―――ア゛……?」
出入り口手前に差し掛かったところで、女は転んだ。
つまづくものがあったわけでもなければ、緊張により足が絡まったわけでもない。
これを、女の視点から、なるたけ論理的に整理した上でわかりやすく文字におこしたなら。
彼女の考え得る限り、このような言葉になっていただろう。
走り方がわからなくなった=B
足を動かすことはできるし、もがくこともできる。
だが、立ち上がって逃走を再開させることは、できなかった。
なぜか、どうすればいいかわからなくなった≠フだ。
ただ、切羽詰って、じたばたし、息を荒げることしかできなかった。
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- 738 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:57:46 ID:.txmPNuY0
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(*゚∀゚)「さすが、フーゾクとか取り扱ってるお偉いさんだ。
息遣い、やっらしー」
(*゚∀゚)「………だから、 『息もしないでくれ』 」
ハソ;゙д゙リ「――――!?」
その瞬間、女に異変が走った。
少女の言葉に従って、なぜか息ができなくなった≠フだ。
生まれもって生物なら誰しもが行う、呼吸。
それが、この瞬間から、できなくなった。
無酸素空間に放り込まれたかのような、息苦しさだった。
やがて、逃げる、もがくことを忘れ、ただ本能的に酸素を求めるようになった。
その動きが、少女にとっては、この上なく滑稽に思われた。
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- 739 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:58:19 ID:.txmPNuY0
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ハソ;゙д゙リ「ガ――あンデ――」
(*゚∀゚)「え、 『なんで』 って?」
(*゚∀゚)「息ができない理由?
歩けない理由?
自分の能力が効かない理由?」
ハソ;゙д゙リ「―――、―― 」
返事は、こない。
もうそろそろ死ぬか、そう思って、少女は女の代わりに出入り口から外に出た。
そこからは廊下が伸びていたが、適当にそこらの壁を壊せば屋外に出られるだろう。
面倒な茶番につきあわせたものだ――そう思って、少女は顔だけを後ろに向けた。
助けを求めるような視線を、女が遣わせてくる。
だから、しかたないと思い、少女は、口を開いた。
(*゚∀゚)「……まー、あれだ。 アンタも、教えてくれたし」
(*゚∀゚)「冥土の土産だ、とっときな」
(*゚∀゚)「オレの能力は………………。」
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- 740 名前:同志名無しさん :2014/01/05(日) 21:59:04 ID:.txmPNuY0
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「ナレッジ・ブレイカー」 。
そう言い残して、少女は隣の壁を殴り壊した。
To be continued ...
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