- 434 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:17:53 ID:s2sNBMOk0
-
拒絶するものは、『真実』。
『真実』と『嘘』は表裏一体。
『現実』と『因果』に先行する『真実』を拒絶する。
あらゆる『真実』を台無しにする、『拒絶』一の好戦家。
.
- 435 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:18:29 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀ )「―――ギャッハハハハハハハッ!!!」
モララー=ラビッシュ
【常識破り】が、そこに立っていた。
.
- 436 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:19:22 ID:s2sNBMOk0
-
从 ;∀从「――――、」
从;゚∀从「―――ッ……、」
从;゚∀从「なッ―――てめえ!!」
从;゚∀从「ど、どうしてテメエが――」
モララーは、死んだ=B
トソンの『拒絶』化からはじまった、一連の『真実』に、殺された。
『拒絶』とは、その元となるのは主の精神体である。
その精神体が崩壊――機能停止を望んだことで、モララーは、死んだ筈、だった。
しかし、目の前でモララーが立っているのを見て、
中身が空のモララーを蹴り飛ばしたハインリッヒは、呆然としていた。
いや、混乱といったほうが近かったかもしれない。
先の今で、思考が追いついていけずにいるのだ。
.
- 437 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:20:03 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀ )
_
( ;゚∀゚)「仕留めきれて……いなかっただと?」
( ;゚ω゚)「ま、まずあいつを倒すんだお!!」
/;,' 3「くッ―――」
内藤に言われた時点で既に、彼らは飛び出していた。
アラマキ、ゼウスの二人が、先陣を切った。
揺らめく影のように、力の入っていないような立ち方をするモララーに向かって。
.
- 438 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:20:49 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀ )「まあ、聞けよ」
( <●><●>)「ッ――」
だが、一度倒せたとは言え、モララーは『拒絶』なのだ。
それも、ショボンやワタナベを淘汰できる実力の持ち主である。
その戦闘における力は、『革命』の面子を見ても、遜色のないものとなる。
それを、開口一番で思い知らされた。
先ほどまでそこで揺らめいていたモララーは、彼らが飛び掛った瞬間、消えた。
どこに現れるのか、と、悩むことはなかった。
彼は、すぐに姿を現したのだ。
ゼウスの、頭の上に。
言うまでもなかった。彼の、スキルだった。
その瞬間移動は、まさに【常識破り】なものだ、と言えた。
すぐさま、ゼウスは膝を折り、迎撃の態勢にでる。
しかし、思考相応で発動するそのスキルに、敵う筈もない。
ゼウスが膝を折ったと同時に、再びモララーは消えた。
「聞けよ」と、一言だけを残して。
.
- 439 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:21:23 ID:s2sNBMOk0
-
アンラッキー
( ;^ω^)「いいか、この場には【 7 7 1 】がいるぞ! モララーッ!」
( メ∀ )「へ〜?」
( ;゚ω゚)「―――ッ!!」
彼の、出し惜しみなくスキルを使う様を見て、内藤もいよいよ、忘れかけていた拒絶を思いだしてきた。
顔には、陰りができている。
紛れもなく、『拒絶のオーラ』にセーブをかけていないときの顔と一緒だった。
「本気を出している」モララー、と。
ゼウスの頭上から、次に彼が移ったのは、内藤の目の前であった。
ぬッと顔を寄せてきて、内藤の喉が、きゅッと閉まった。
彼の残された左目は、ぎょろッと剥いている。
そのことが余計に、彼に恐怖心を煽った。
出し惜しみをしない様を見て戦慄を覚えたのは、ほかの皆も一緒だった。
彼は今まで、出し惜しみ、手加減ばかりをしていた男だ。
本気を出したのは、彼の『拒絶の精神』が危ぶまれたときだけ。
精神体が万全な状態で放たれる、本気の【常識破り】。
それに関しては、彼らは無知以外のなにものでもなかった。
それだけ、それに対する恐怖は増幅されていった。
.
- 440 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:22:04 ID:s2sNBMOk0
-
モララーは、内藤の目の前から、先ほどのように再び瞬間移動しようとはしない。
彼の出し惜しみのない様を見て、ほかの皆も、迎撃するのを諦めざるを得なくなったのだ。
本気を出されては、闇雲に突進しても、勝つ見込みなどまるでないためである。
そのため、モララーは瞬間移動をしなくなったのだろう。
しかし、理由はそれだけではなかったようだ。
彼は、内藤に、用があったのだ。
( メ∀ )「おい、おまえ」
( ;゚ω゚)「ななッ、は、はい!」
内藤をじろッと睨みつけて、問う。
内藤は、ただ、敬礼するかの如く直立しては、恐怖に戦くことしかできなかった。
( メ∀ )「一つ、取引がある」
( ;゚ω゚)「なッ――……なんですかお!?」
( メ∀ )「これで、最後だ」
( メ∀ )「最後に―――」
.
- 441 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:22:52 ID:s2sNBMOk0
-
内藤は、耳を疑った。
.
- 442 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:23:26 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀・)「俺たちと正々堂々$え」
.
- 443 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:24:20 ID:s2sNBMOk0
-
第四十話
「vs【全否定】[」
.
- 444 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:24:59 ID:s2sNBMOk0
-
◆
その言葉に耳を疑ったのは、内藤だけではなかった。
アラマキ、ハインリッヒ、ゼウスが驚いたのも当然だった。
加えて、
( ´_ゝ`)「……なんの気の迷いだ、モララー」
( メ∀・)「んー?」
アニジャ=フーンもまた、彼の言葉を聞き返さずにはいられなかった一人であった。
.
- 445 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:25:38 ID:s2sNBMOk0
-
( ´_ゝ`)「……あんたたちは、『拒絶』は。」
( ´_ゝ`)「旦那が消えたことで、勝ちが、決まった」
( ´_ゝ`)「戦いとしては全敗だったとしても……結果としては、勝つことが、できていた」
( ´_ゝ`)「なのに、だ」
( ´_ゝ`)「なにが……今更になって、正々堂々だ」
( メ∀・)「……」
.
- 446 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:26:25 ID:s2sNBMOk0
-
アニジャが、半ば恫喝するかのように問う。
声としてはちいさかったのに、それには重みがあった。
威圧感によく似た重みが、モララーにのしかかった。
アニジャからそういったオーラが漂うなど、平生では考えられなかった。
アニジャは現状では、『革命』の味方でも『拒絶』の味方でもない。
だからこそ、本来ならば関係ない筈なのだ。
モララーが「正々堂々」という言葉を使うことにも、また未だに戦おうとすることにも。
だというのにこうして声を重くさせてまで口を挟んだ理由がわからない、そんな者はここにはいなかった。
加えて、そのことについて言及しようとする者も、いなかった。
空気が、そうするのを防いだ。
無条件でアニジャの「怒り」が正当化される空気と、なっていた。
( ´_ゝ`)「なんだ。物理的な戦いで全敗したのが、それだけ悔しいってか」
( ´_ゝ`)「人を嘗めるのも、いい加減にするんだな」
そして、それは正当化されて然るべきだった。
アニジャはそれまで『拒絶』サイドの人間だった、だからこそ誰もがそのときまでは気づけなかったことだ。
アニジャも、拒絶に呑まれかけていた男の一人だったのだ。
.
- 447 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:27:16 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀・)
( メ∀・)「………理由が、ほしいか」
( ´_ゝ`)「……」
アニジャは、応えない。
だが、その視線が、答えを物語っていた。
元々細い目が、更に細くなる。
目の下の筋肉に力が入る。
若干痙攣が如くぴくぴく動くさまが、遠くからでもわかる。
拒絶を我慢する必要がなくなった今だからこそ、
アニジャもあるがままの姿になったのだ、と見ていいだろう。
モララーは、そのような姿を見せ付けられてもなお黙ろうとするような男ではなかった。
( メ∀・)「……」
( メ∀・)
( メ∀-)
( メ∀・)
一度俯いたかと思えば、モララーは顔をあげた。
そのときになってはじめて、わかったことがあった。
――いや、このときになってはじめてそうなっただけなのかもしれない。
モララーの瞳が、鏡のように反射するようになったのだ。
.
- 448 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:27:53 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀・)「………」
( メ∀・)「最初は……」
( メ∀・)「ネーヨの旦那を消すことで、おまえらの息切れを狙った」
( メ∀・)「発散しきれてない拒絶心を爆発させて……それで、勝ちを狙った」
( メ∀・)「案の定、それで『英雄』が早速、壊れた。いや、壊れようと、した」
( メ∀・)「でも、だ」
( メ∀・)「ふと、気づいちまったわけよ」
( メ∀・)「『これでいいのか』……?」
( メ∀・)「確かにそうすれば、確実に、勝ちをもぎ取れる」
( メ∀・)「ゼウスや白衣は生き残るかも知れんが……サイアク、相討ちには、なる」
( メ∀・)「ただでさえこっちのスキルが一通り拒絶されてんだ、圧勝なんて捨ててる」
( メ∀・)「でも」
( メ∀・)「倒れてるフリをしてた間、ずっと考えてたわけよ」
( メ∀・)「で、気づいた」
( メ∀・)「ぜんッぜん、満たされねえ」
.
- 449 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:29:24 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀・)「なんでだ?」
( メ∀・)「俺を破滅に追い詰めた白衣をはじめとして、」
( メ∀・)「俺に貫手を見舞いやがったジジィも」
( メ∀・)「俺の取引の役に立たなかったゼウスも」
( メ∀・)「ショボンを殺し、ワタナベを利用して旦那にも勝った『英雄』も」
( メ∀・)「その全員を一度に葬れるこの上ないチャンスだった、ってのに」
( メ∀・)「まっっっったく、満たされそうになかったんだ」
( メ∀・)「でも、答えは、すぐに出てきた」
ホンキ
( メ∀・)「俺が『大嘘』を見せれねえのと一緒。」
( メ∀・)「ンなことしたって、全く報われねえんだよ、これだと」
.
- 450 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:29:57 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀・)「俺が負けたって『真実』は、消えないんだ」
( メ∀・)「同志が根絶やしにされたって『真実』も消えないし、」
( メ∀・)「旦那でさえ拒絶されたっつーな『真実』も消えない」
( メ∀・)「もし、さっきのままで、おまえらの自爆が決まっても、だ」
( メ∀・)「そっちが息切れすんのと一緒で」
( メ∀・)「こっちも、そんな『真実』に呑まれて、自爆するリスクがあった」
( メ∀・)「これで勝っても―――俺まで、同じ末路を辿ることになんのは目に見えてやがる」
.
- 451 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:30:30 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀・)「一度は、負けた。」
( メ∀・)「だから」
( メ∀・)「勝ちたいんだ」
( メ∀・)「小細工なんてなしで、おまえらに勝ちたいんだ」
ホンキ
( メ∀・)「『真実』で、おまえらに勝ちたいんだ」
.
- 452 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:31:04 ID:s2sNBMOk0
-
( ^ω^)「………っ!」
( メ∀・)「それが、『拒絶』としての、理由」
( メ∀・)「で、だ」
( メ∀・)「俺は、決して人に誇れるような人生を歩んでこなかった」
( メ∀・)「しょぼい家に生まれて、しょぼい盗みを働いて」
( メ∀・)「しょぼい裏切りをかっ喰らって、しょぼい箱に閉じ込められて」
( メ∀・)「だから、いつの間にか、俺は、自分に期待なんてしない男になっていた」
( メ∀・)「筋肉はないし、だから体重も軽いし、メンタルなんて豆腐だ」
( メ∀・)「自分より強い奴が現れても、『真実』を狂わせてりゃあ、勝ってた」
( メ∀・)「『勝った』ってのは『嘘』なんだが、でも俺は、それでいいや、って思ってた」
( メ∀・)「でも、どうして、だろうなあ」
( メ∀・)「今まで、ほかの『能力者』どもを潰してた時には感じなかったことだ」
( メ∀・)「おまえらにだけは、負けたくない」
( メ∀・)「……うらやましく思えちまうんだよ、おまえたちが」
.
- 453 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:31:36 ID:s2sNBMOk0
-
/ ,' 3「儂……らが、か」
ゼ ロ
( メ∀・)「勝率なんて、『絶望的』なのに」
( メ∀・)「勝てないとわかってて、立ち向かってくる」
( メ∀・)「で、勝っちまった」
ジツリョク
( メ∀・)「小細工なんてなしで、『 真 実 』で勝ちやがった」
( メ∀・)「それが、たまらなくうらやましいんだ」
( メ∀・)「小細工なしで、蟻ごときが恐竜に勝つ?」
( メ∀・)「ははは。俺も、勝ってみてえ」
( メ∀・)「嘘ばっかついてぽっかり空いてった穴を、埋めてみてえなあ」
( メ∀・)「死ぬ前に、いっぺんだけで………いい」
( メ∀・)「からっぽになった俺の心を、幸せで埋めてみたい」
( メ∀・)「それが、嘘偽りのない、俺の真実、だ」
.
- 454 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:32:09 ID:s2sNBMOk0
-
( ´_ゝ`)「―――ッ……。」
( メ∀・)「今ので……問題ないか? アニジャ」
( メ∀・)「と、」
( メ∀・)「旦那」
.
- 455 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:32:46 ID:s2sNBMOk0
-
( ;^ω^)「……え?」
「旦那」。
アニジャとモララーがネーヨに対して使う、二人称。
それを聞いて、内藤を含めその場にいた人間は、どきっとした。
彼が呼びかけられるということは、つまり、彼は覚醒している、ということだ。
少なくとも、死んでいるわけでは、決して、ない。
彼に意識が戻っている、というのがわかって、ぎょっとせざるにはいられなかった。
忘れかけていた拒絶心が蘇ってきた、と言うべきだろう。
そのため、このときから、呼吸が極端なまでに深くなってしまった。
モララーもアニジャも、伏しているネーヨに目を向ける。
最初の数秒は、反応がなかった。
その様はまるで、屍のようでもあった。
だが、その更に、数秒後。
そろそろ、内藤たちの呼吸がつらくなってきた頃。
ネーヨは、ぱらぱらと砂を落とすそれ以外の音を完全に消した状態で、のっそりと立ち上がった。
.
- 456 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:33:26 ID:s2sNBMOk0
-
それを見て、ハインリッヒは数秒、無呼吸状態になった。
目が見開かれ、眼球が飛び出そうになる。
いや、むしろ、飛び出したがっているかのように思われる。
起き上がったネーヨからはやはり、威圧感が感じられた。
ぶ厚い筋肉で覆われた巨躯は、その肩書きやスキルを無視しても、
彼らに自身を直視させなくさせるような威圧感を備えているように思われた。
同じく太い首を、上下に捻る。
それに乗じて数度、関節の鳴った音がした。
そのまま、ネーヨは、視線をこちらに向けた。
こちら――モララー、のほうに。
( メ∀・)「…」
( ´ー`)「…」
ネーヨは、モララーを頭からつま先まで、凝視する。
嘗め回すように、視線を数往復させる。
モララーは微動だにしない。
どころか、威風堂々たる様を見せている。
それがどこか、奇妙に思えた。
それまでと同じ、『拒絶』の一人のモララーなら
少なくともこのような様子は見せていなかっただろうに、と。
それを見かねたのか、違うのか。
ネーヨは閉じていた口を、漸く、気だるげに開いた。
そのときに聞こえた息を吸う音がどこか、この上のない威圧感を放っているように思われた。
.
- 457 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:33:59 ID:s2sNBMOk0
-
( ´ー`)「…………」
( ´ー`)「………モララーが『嘘』で俺を消した、ってのは、わかっていた」
( ´ー`)「なんで、邪魔をしやがった、モララー」
( メ∀・)「悪ィな、旦那」
( ´ー`)「答えろ。返答次第じゃ、ただじゃ済ませねえぞ」
( メ∀・)「信じたくなかっただけさ」
( ´ー`)「……?」
( メ∀・)「旦那が自決を決めたら、『拒絶』の負けを嫌でも認めないといけない」
( メ∀・)「それが、嫌だった」
( ´ー`)「俺たちは、全員、負けた。もう、拒絶しようのない『真実』だ、甘受しやがれ」
( メ∀・)「できないね、そりゃあ」
( ´ー`)「『真実』を拒絶してえのはわかるが、おめえは――」
( メ∀・)「まだ、負けちゃあいない」
( ´ー`)「……おめえは、何が言いたい」
.
- 458 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:34:30 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀・)「負けは、自分で認めてはじめて、負けなんだ」
( メ∀・)「今、『英雄』たちは、負けを認めないままに、死ぬところだった」
( メ∀・)「一方で、俺も、負けを認めないまま、死ぬところだっただろう」
( メ∀・)「それが、嫌だった」
.
- 459 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:35:04 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀・)「俺は、」
( メ∀・)「負けを認めてねえのに、負けたくなんかない」
.
- 460 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:35:34 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀・)「ご都合主義だって言われても」
( メ∀・)「手のひら返しだって言われても」
( メ∀・)「常識破りだって言われても」
.
- 461 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:36:06 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀・)「それだけは、絶対に嫌だ」
( メ∀・)「俺の心が、拒絶してるんだ」
.
- 462 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:36:46 ID:s2sNBMOk0
-
( ^ω^)「…!」
( ´ー`)「……、」
( メ∀・)「今の答えじゃあ、ただじゃ済まないかな?」
( ´ー`)「………」
モララーが、ネーヨの顔を、覗き込むように見る。
『拒絶』のモララーには見ることのできた、嫌な笑いは、そこには見られなかった。
常にふざけているようなモララーの、お調子者と思えるような仕草は、見られなかった。
『真実』を面白半分に笑って一蹴するモララーの不届きな態度は、感じられなかった。
モララーは今まで、『真実』を隠して、生きてきた。
自分が負けそうになっても、知らぬ存ぜぬで押し通し、【常識破り】で切り抜けてきた。
彼が笑って駆逐した【無私の報せ】などと呼ばれた『能力者』にも、何度か、殺されているのだ、『真実』としては。
だがモララーは、そんな『真実』、まるで受け止めようともしなかった。
もし受け止めていたら、格下にも程がある『能力者』が相手だったのだ、
持ち前の高尚なプライドはずたずたにされ、あるいは、そのまま死に直結していたかもしれないだろう。
それが、モララーなのに。
今の言葉には、どれをとっても、彼の本音しか感じられなかった。
モララーが、本来なら受け止めたくないのであろう筈の『真実』を、ぺらぺらと話していた。
そのことが、ネーヨにとっては、にわかには信じられなかった。
そのため、ネーヨは、大きな声を、出さなかった。
モララーが見てくる目の前ので、ネーヨは、小さく、言った。
「合格だ」、と。
.
- 463 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:37:19 ID:s2sNBMOk0
-
( ^ω^)「!」
从 ゚∀从「ッ!」
( ´_ゝ`)「じゃ、じゃあ……」
( ´ー`)「乗ったぜ、その話」
( <●><●>)「!」
/ ,' 3「なに…?」
_
( ゚∀゚)「プロメテウス、お前……」
( メ∀・)「……!」
.
- 464 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:37:54 ID:s2sNBMOk0
-
モララーの顔から、陰りが、抜けていく。
それに気づくことのできた者は、いなかった。
皆が、ネーヨを見ていたためだ。
そのため、この瞬間、
モララーの心から、少し、
『拒絶』だからこそ抱いてしまう拒絶心が、すぅーっと抜けていった、
そのことに気づくことのできた者も、いなかった。
ネーヨが、嘗てのような涼しい表情で、
しかし、その内面には熱いものを抱えて、
『革命』の面子に、その顔を、見せた。
それを見ることで、彼らの心に植えつけられつつあった、
自爆を誘っていた拒絶心も、すぅーっと抜けていった。
そのまま、この戦場でばらけていた『革命』の面子は、やがて一箇所に、集まっていった。
左方に、アラマキ、ゼウス、ハインリッヒ、ジョルジュ。
右方に、ネーヨ、モララー。
今ここに、戦いの構図が、できあがった。
.
- 465 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:38:25 ID:s2sNBMOk0
-
( ´ー`)「………小細工は、なしだ」
/ ,' 3「よいのか? そんなことを言って、ハンデを設けての」
/ ,' 3「負荷を『拒絶』せぬおぬしなど、一瞬でチリになってしまいそうなんじゃがのぅ」
( ´ー`)「ご心配、どうもありがとうよ」
( ´ー`)「だがな、一応言っといてやる」
( ´ー`)「俺は―――」
( ´ー`)「小細工なしのタイマンが、一番強えんだ」
/ ,' 3「奇遇よの。儂もじゃ」
ネーヨが、走った。
.
- 466 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:39:04 ID:s2sNBMOk0
-
◆
その瞬間、最後の戦いははじまった。
『革命』と『拒絶』の、全面戦争だ。
しかし、前者が四人なのに対して、後者は二人。
元々アニジャは『拒絶』サイドの人間だったが、今は抜けており、
この場にいるもう一人の『拒絶』、トソンは、未だに動ける気配を見せない。
つまり、正々堂々、小細工なしの戦いである以上、
この四対二の構図は、自分たちにとって不利以外のなにものでもなかった筈なのだ。
それは、ネーヨでなくとも、提案したモララー自身でさえ、気づけた筈である。
それなのに、どうしてモララーはそれを提案し、ネーヨはそれに賛成したのか。
その理由は、考えるだけ野暮と言われるほど、実にシンプルで、馬鹿正直で、情けないものだった。
二人とも、納得して、負けたかったのだ。
.
- 467 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:39:38 ID:s2sNBMOk0
-
( ´ー`)「――ッ」
ネーヨが本気で駆け出すと、その地面には、窪みができる。
その分、速く、力強い走りとなる。
モララーにもハインリッヒにもゼウスにも劣るその走りだが、
しかし威圧感においては右に出る者がいないのが、彼の、小細工を介さない走りだ。
そして、アラマキに手前三メートルまで迫ったところで、ネーヨは右腕を振りかぶった。
速くはない。アラマキなら、彼が手前五メートルまで迫ってきたところで、避けるか反撃に出ることは可能だった。
だが、彼はそうはしなかった。
彼は、腰を低く落とし、ネーヨ同様に右腕を後ろに引き、構えたのだ。
今の彼から、能力を使ってカウンターを試みよう、とする様子は、窺えない。
『破壊』を司る、『武神』の拳。
それと、ネーヨの渾身の一撃とが、かち合った。
小細工なしの「力」と「力」が、ぶつかり合った。
.
- 468 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:40:24 ID:s2sNBMOk0
-
( ;´ー`)「――ッ!」
/;,' 3「ぬおッ――」
そして、直後に、二人は腕を引いた。
肩が胴体から引きちぎれるかのような錯覚に、両者ともが見舞われたのだ。
半ば本能的に、二人はその場を飛び退いた。
拳に、確かに残る感触。
それは、アラマキが、未だ嘗て感じたことのない感触だった。
ネーヨの拳に肩を持っていかれそうだったという、そんな感触である。
それは、ネーヨも同じだった。
建物を拳一つで壊すほどの力の持ち主で、
また屈強な躯からわかるように防御力にも優れる筈のネーヨもまた、
今しがたアラマキが感じたそれと似たようなものを、感じた。
肩が、もがれそうになったのだ。
肩が拳のぶつかり合いに耐え切れず、その任務を放棄しそうになった。
それが、にわかには、信じられなかった。
未だ嘗て、このような力の持ち主と、出会ったことがなかったのだ。
この拳の、『破壊』における力は、ゼウスをも超える。
ネーヨは、そう思った。
.
- 469 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:41:07 ID:s2sNBMOk0
-
( ´ー`)「―― チッ。」
しかし、過去に例を見ない馬鹿力だからと気を抜くネーヨではない。
そういう相手だったのだ、と割り切っては甘受することで、思考を放棄し、すぐさま次の行動にでる。
アラマキも飛び退いたことで二人に距離ができたので、追撃を喰らうことは、なかった。
――と考えることは、できなかった。
アラマキからは£ヌ撃を喰らうことはないだろうと思えど、決して、油断などしない。
右前方から、「影」が迫るのが見えたのだ。
逆光のせいでそれは影に見えたのだが、しかし逆光はそのはためく白衣まで隠すことはしない。
ネーヨは即座に、それがジョルジュであることを把握した。
同時に、自分と向かい合う位置にいたアラマキもまた、駆け出していた。
真正面と右前方の、二方向。
逃げるとすれば、左後方から真後ろまでの角度内。
後ろには、誰も敵はいない。
ネーヨが行動できる範囲は、その四十五度に絞られた。
――からと言って、その方角に逃げる男ではなかった。
彼はなんの迷いなく、左の拳を後ろに引いた。
そのまま、彼の左の拳は、ジョルジュの右足へと放たれた。
.
- 470 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:41:46 ID:s2sNBMOk0
-
_
( ゚∀゚)「…」
( ´ー`)「嘗めんなよ」
脚と腕では基本的に脚のほうが力は勝るのだが、この時に限っては、腕が勝った。
要因としては、ネーヨは地上で踏ん張っていたのに対し、ジョルジュは宙にいたこと。
そして、彼の蹴りよりも、圧倒的にネーヨの殴りのほうが力が上回っていたこと。
この二点が、ジョルジュの蹴りを文字通り一蹴することになった。
ネーヨが小さく吐き捨てた直後、アラマキが射程圏内に入った。
ネーヨは左腕を右前方≠ゥらやってきたジョルジュに放ったため、
結果的に、真正面≠ゥらやってきたアラマキに左肩と背中を見せざるを得ない状況となっていた。
この状況でアラマキの攻撃を受けるのは必至。
防御しようものなら、ゼウスやハインリッヒに見られる軽い身のこなしが要求される。
しかし、ネーヨに、そのような体術は備わっていない。
このとき、アラマキの先制が、約束された。
フックのように、曲がった軌道に乗った拳が、ネーヨの左肩に命中した。
踏ん張っていなかったため、威力はがくっと落ちているが、それでも彼の左拳の威力を下げるほどの力はあった。
現に、めり、と云う音が聞こえたのだ。
幸先のいいスタートになった、とアラマキは思った。
思った直後、アラマキは左頬に強い衝撃を受けた。
顎が、めり、と云う音を立てた。
彼は宙に浮いていたため、踏ん張ることができず、そのまま右方向に飛ばされた。
なにがあったのか。考えるまでもなかった。
ネーヨは、右方向に突き出していた左の拳を、左方向に振り放ったのだ。
その裏拳が、アラマキの左頬に、クリーンヒットした。
ネーヨは、アラマキからの先制攻撃を受けることを前提にして――
つまり、カウンターを、見舞った。
ただ、それだけの話だった。
.
- 471 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:42:31 ID:s2sNBMOk0
-
/ ,' 3「『解除』ッ!」
( ´ー`)「――!」
左方向に鋭いベクトルで飛ばされた、アラマキ。
およそ数秒ほどの猶予はできるだろう、その隙にならジョルジュを相手取ることができそうだ。
そう思ったネーヨだったが、しかしアラマキは自分から五メートルも離れなかった。
ネーヨから貰った裏拳の「慣性」を、『解除』したのだ。
一瞬宙でぴたりととまったかと思えば、重力に従ってその場に落ちる。
体勢は不恰好なままなので、着地する前に地を蹴ってそれを整える。
結果、ネーヨとアラマキは至近距離のままに違いなかった。
本来は、飛ばされていた。
そのうちに、ジョルジュを相手取ろうと考えていた。
しかし実際は、飛ばされなかった。
そのため、ジョルジュを相手取る時間的猶予をもらえなかった。
ネーヨの計算は、狂った。
その隙を、ジョルジュの鋭い右脚が衝いた。
槍のように素早い蹴りが、がら空きになった胸に向かう。
左手には、アラマキがいる。
またもや、ネーヨに防御の手段はなかった。
ネーヨは、そのぶ厚い胸板で、ジョルジュの蹴りを受け止めた。
.
- 472 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:43:39 ID:s2sNBMOk0
-
砲撃を受けたような衝撃だった。
三十センチ弱の砲丸が直撃してきたような痛みだった。
さすがに胸板の厚いネーヨでも、その衝撃で心臓に負荷がかかるのは避けようがなかった。
ネーヨの体勢が、後方に崩れる。
しかし、それでも、先ほどのアラマキのようにきれいに吹っ飛ぶことはなかった。
ただ転びそうになった程度≠セった。
転びそうになった、つまり、転んではいない=B
足はまだ、地についているのだ。
つまり、ネーヨはまだ、踏ん張りが利く。
足が地から離れる前に踏ん張っては、目の前で捉えたジョルジュの脚に、右フックを放った。
この蹴りで多少でも吹っ飛ぶだろうと考えていたジョルジュにとってはそれは大きな誤算で、
右膝で、真正面からネーヨの右拳を受けてしまうことになった。
右膝が、砕けたような音が聞こえた。
脱臼か、骨折か。後者だとしたら、複雑骨折は否まれない。
とにかく、この瞬間から、ジョルジュの敏捷性には期待が持てなくなった。
しかし、その犠牲があったからこそ、あらたな機会が生まれた。
アラマキの体勢を、完全に整えることができたのだ。
一方のネーヨは、後方に倒れようとするところである。
体勢からして、優勢にたっているのは誰か、考えるまでもない。
このときになってようやく、ネーヨは苦悶を顔に浮かべた。
アラマキの、下から突き上げるような右拳がネーヨの背中に決まったのは、その次の瞬間のことだった。
.
- 473 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:44:20 ID:s2sNBMOk0
-
( ; ー )「―――ッ!」
『開闢』一の巨漢であり、最強の『拒絶』であったネーヨが、今まで味わったことのないダメージだった。
その数ある肩書きを無視しても、決して無視できぬはその巨躯と筋肉量。
攻撃にも防御にも適したぶ厚すぎる筋肉を見ればわかるように、
たとえ彼が【全否定】を解除していても、無防備なままであったとしても、
並大抵の攻撃なんかじゃあ、彼は決してダメージなどは受けつけないのだ。
その、デフォルトにして最強を誇る肉体こそが、ネーヨ=プロメテウスの「強さ」だった。
ゼウスのように、頭脳と肉体の両方が噛み合ってはじめて「強さ」となるのではない。
ただ、そこに存在しているだけで既に、彼の追随を許さない「強さ」は出来上がっているのだ。
そんなこと、自分自身がよく知っている。
少なくとも、ジョルジュの「槍」を受け止められるほどには、自分は「強さ」を持っているのだ。
そんな彼が、ダメージを受けた。
それは、受け止めたくなくても必ず受け止めなければならない負荷と『真実』だった。
だからこそ、彼は露骨に、苦悶に満ちた表情を浮かべてしまったのだ。
.
- 474 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:44:53 ID:s2sNBMOk0
-
だが、苦悶を浮かべたのは、ネーヨだけではなかった。
アラマキも同じく、驚愕と苦悶を足して二で割ったような顔をしたのだ。
彼の『破壊』を司る拳の破壊力は、自賛なく知っている。
現に、自分より何倍も大きな体積を誇る流星を、いとも簡単に砕いてみせた。
この世でゼウスに対抗できた数少ない人間であり、そんな彼の「強さ」を支えていたのは、
今までの自殺に近い修行を耐え抜いてきたからこそ身についた肉体だった。
そういった意味では、ネーヨとアラマキは似通っていた。
アラマキにはゼウスを凌駕する武術と経験が備わっているが、
どちらも力を先行させて戦うスタイルをとる人間であることには違いないのだから。
だからこそ、アラマキも、驚いた。
手ごたえが、あった――いや、ありすぎた。
本来与えられていたであろう筈の威力の、三分の一も伝わったような気がしなかったのだ。
それは、ネーヨの圧倒的なフィジカルが、全て吸収した。いや、反発した。
アラマキはその持ち前の能力で反射じみたワザ≠使うが、
ネーヨのフィジカルは、それを自然体でやってのけたような――そんな感じだった。
そして、そんな手ごたえをコンマ一秒のうちに噛み締めた上で、アラマキは認めた。
目の前にいる男が、【全否定】なんかに頼りきった男ではないことを。
そして、
/ ,' 3「(……これが、最後となる……のか)」
.
- 475 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:45:24 ID:s2sNBMOk0
-
『拒絶』との邂逅が、この戦いを以て終わってしまうことを。
.
- 476 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:46:08 ID:s2sNBMOk0
-
◆
从;゚∀从「『イッツ・ショータイ……ッ」
( メ∀・)「 『嘘』だ。 」
从;゚∀从「―――ッ!」
ホンキ
『真実』のモララーを一言で表すならば
この世の中で、もっともゼウスに近い戦闘力を持つ男。
そうなるのではなかろうか――ハインリッヒは、動悸じみた鼓動を心臓に預けながら、思った。
まず特筆すべきは、その機動力だ。
ゼウスは、人外と言うべき運動神経を持ち合わせており、人外に似つかわしい動きを見せる。
それは、彼の「強さ」を支えている人外なるその頭脳が彼をそうさせていた。
理屈こそまるで違うものの、モララーの機動力も、人外たるものだった。
ゼウスよりもハインリッヒのようが速く、そのハインリッヒは【正義の執行】による補正を受けられる。
その補正を受けたハインリッヒにやや劣るだろうか、と言うほどの速さを、モララーは持っているのだから。
彼らによる戦闘においては初速こそが全てと捉えられるのだが、
その分を差し引いても、モララーの機動力は厄介にして強力以外のなにものでもなかった。
まして、【正義の執行】の補正をモララーによって解除されてしまっているため、
現在の情勢で言えば、モララーの動きにかろうじてゼウスが対応できている程度だった。
彼の「強さ」を支えているのは、他ならぬ拒絶心。
ここにきて、『拒絶』の「強さ」に直面しなければならないとは――
.
- 477 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:46:39 ID:s2sNBMOk0
-
また、機動力だけではない。
ゼウスの場合、その軽やかな身のこなしは、
身体中の関節と神経を自在に操る術を持つからこそできる芸当なのである。
つまり、彼が人外相当の人間だからこそ、その身のこなしができるのだが、
モララーの場合も、これまた理屈こそ異なるものの、同じく身が軽かった。
彼の場合も、こちらは機動力とリンクしてくるのだが、やはり『拒絶』による補正が大きいのだ。
幼少期に培った脚が、『拒絶』化によってより強力になった。
だからこそ、彼もまた人外じみた「強さ」を手に入れることができたのであった。
( <●><●>)「 」
ハインリッヒが、なんとか自分もモララーの高速戦闘に対応しようと
【正義の執行】をはじめようとするが、モララーはそれを許さない。
その隙を衝いてゼウスは彼の左のほうから飛び掛った。
その形作られた手刀が抉らんとするのは、彼の心臓以外にはない。
だが、『拒絶』とは、いわば常に死と隣り合わせなる存在。
危険の察知に関しては、右に出るものはいなかったようだ。
モララーは右膝を数度だけ曲げて、すぐに脚の筋肉を硬直させた。
固まった筋肉によってばねの作用が生じたモララーは、そのまま一メートルほど飛び上がった。
物理法則に『嘘』をついているのか――
と思ったゼウスであったが、しかしそのすぐあとに、
彼が立っていた地面にひびができていたのを見て、納得した。
ただ単純に、脚の力が強かった。
だからこそ、彼にここまでの機動をさせるのだ。
.
- 478 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:47:14 ID:s2sNBMOk0
-
しかし、宙に浮いてくれたとなれば、それはそれで好都合だった。
宙では、スキルなどを使わない限り、物理法則に愚直なまでに従わざるを得なくなるのだから。
ゼウスは手刀を形作っていた右手はそのままに、
構えをとっていた左手を平手にして、地面に当てた。
それは軽いブレーキではあったが、
飛び掛っていた彼の横への勢いを「高度」に転換するのには充分なブレーキだった。
スピードが出ている自転車の前輪のブレーキを一瞬でかけてしまえば後輪が浮くのと、一緒の原理となる。
ただし違うのは、ゼウスの場合スピードが出すぎていたため、
後輪となる脚がそのまま宙に向かってしまうということだ。
だが、それでよかった。
ブレーキによって勢い余ったゼウスは半ば逆立ち状態になったのだが、それがゼウスの狙いだった。
未だ勢いの残っている左足に能動的に力を加えることで、更に加速させる。
上下の逆となった踵落としが、モララーの腹に向かった。
そしてゼウスが手刀から踵落としへと攻撃をシフトしたのは、コンマ数秒という瞬間である。
ゼウスの踵に蹴りやらなにやらで迎え撃つ程度の猶予など、与えられなかった。
だからモララーに与えられた唯一の選択肢は、腰から下を折り曲げることである。
空中で座るかのような体勢をとったことで、ゼウスの蹴りを免れることはできた。
だが、このような体勢になってしまえば、無防備もいいところだ。
このまま着地しようとすれば、無防備のまま、真後ろに立つゼウスに隙を晒すことになる。
ならば、モララーのとるべき行動はなにか。
自分も同じく躯を回転させ、後方に位置することになるゼウスに蹴りを見舞うことであった。
.
- 479 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:47:44 ID:s2sNBMOk0
-
鉄棒の逆上がりをするが如くついた勢いを逆手にとった。
より身体を円形にさせることで加速させ、攻撃を外し無防備となっているゼウスの正面を視界に収めた。
たかだか数メートルあるかないかの至近距離。
補正を受けていないハインリッヒ以上の力を持つその脚で、
ゼウスを後頭部から救い上げるように蹴りを放った。
体勢の都合上防御をとる手が届かず絶対無防備となる後頭部。
これで初撃はもらった、とモララーが思っていたのは、
『英雄』となったハインリッヒが横からモララーを蹴飛ばすまでの間である。
( メ∀・)「―――ッ!」
この一瞬間の間、モララーの意識は完全にゼウスに向いていた。
それまでは【常識破り】でハインリッヒの強化を防いでいたモララーだったが、
一度ダメージを食らってからは、【常識破り】でハインリッヒの【正義の執行】を打ち消そうが、相違ない。
また、存在が「強さ」となっているネーヨと違い、モララーの場合、攻撃が通れば脆い=B
空地問わず敏捷性に長けるということは、それだけその他の力を犠牲にしている、ということである。
ゼウスのように、移動のシステムを根本から改竄しない限りは、それは避けては通れぬ道となる。
モララーの場合、とにかく体重が軽いことが仇となった。
从 ゚∀从「『英雄』の降臨だ、のろま!」
.
- 480 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:48:20 ID:s2sNBMOk0
-
モララーには、筋肉がさほどついていないのだ。
スリムに見える筋肉の内に繊維が凝縮されているだけである。
ワタナベと一緒で、彼の場合、拒絶心が脳に来す強化が筋肉に影響を与えていることになるのだ。
つまり、防御に関してはほかの誰よりも脆かった。
それが、スキル・機動力・戦闘力のどれをとっても圧倒的な力を見せるモララーの、数少ない弱点だった。
その、まるで中身にものが詰まっていないかのような錯覚をさせる軽さは、
そのまま彼のスキル、【常識破り】を彷彿とさせるものでもあった。
それが、モララーにとっては、この上なくつらかった。
( メ∀・)「『英雄じゃない!』」
从 ゚∀从「――…ッ」
いくらモララーといえど、その持ち前の敏捷性を唯一上回る、
『英雄』たる補正を受けたハインリッヒは厄介な存在だった。
そのため、この戦いに公平を持ち出すつもりもないモララーだが、この点に関してだけは未だにスキルを用いていた。
蹴り飛ばされ、地に投げ出される前に体勢を整え、地に足を当てる。
その反動で再度モララーは宙に投げ出されたが、華麗に回転して、両足で見事に着地した。
その間にモララーは、ハインリッヒにかかっていた補正を打ち消した。
『ハインリッヒは【正義の執行】を始めていない』という『嘘』を『混ぜる』ことで。
.
- 481 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:48:52 ID:s2sNBMOk0
-
補正を失うと、ハインリッヒの持つ力は全体的に落ちる。
身体の軽さも、力の入り具合も、なにもかも。
世界から『優先』されることに慣れているハインリッヒにとって、
補正すら受けることを許さない【常識破り】は、まさに天敵とも呼べた。
相手がネーヨだったならば、彼の『拒絶』が他人に干渉できない分、まだ戦えてはいたのだから。
しかし、正義のヒーローは、目の前の悪を無視することは、絶対にしない。
正義は正義なりの答えを見つけるために、戦いを続けるのだ。
ゼウスとハインリッヒが隣り合うようにして、五メートルほど向こうに立っているモララーと対峙する。
ハインリッヒはさて置いて、ゼウスがいるため、モララーはへたに動くことができなかった。
また同時に、ゼウスも、モララーの敏捷性は知っていたため、同じくへたに出られなかった。
そのため、口を利く猶予が生まれた。
ハインリッヒは遠慮なく、口を開いた。
从 ゚∀从「―――正義を拒絶するのか、てめえ」
( メ∀・)「ハン。なにが、正義だ」
从 ゚∀从「……なに?」
.
- 482 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:49:22 ID:s2sNBMOk0
-
反応を見せた今の間に、無言でハインリッヒは『劇』を再開させた。
いつも宣言をしているのは、志気を高め、その志気を力へと転換させるためである。
モララーを相手取るときのように、そのような余裕がないときは、
アラマキの【則を拒む者】と同じく、無言で能力を展開するのである。
モララーは、それに気がついただろうか。
ゼウスが不意を衝こうとしていないのを見て、彼も口を開いてきた。
だが、それでも細心の注意を払っていたため、口数は少なく、声も硬かった。
( メ∀・)「正義ってのはつまり、善悪で言うところの善だ」
( メ∀・)「おまえは、善なのか?」
从 ゚∀从「………」
( メ∀・)「……少なくとも」
( メ∀・)「おまえが正義かどうかは別として、だ」
( メ∀・)「モララーは、悪じゃないぜ」
( メ∀・)「俺にとっての最善を、尽くしてくれてンだ」
( メ∀・)「俺にとっちゃあ、『モララー』って男は正義のヒーローだよ」
.
- 483 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:49:53 ID:s2sNBMOk0
-
从 ゚∀从
从 ゚∀从「……」
从 ゚∀从「………こんなところで、正義について語らおう、ってか?」
从 ゚∀从「テメエ、自分の立場、わかってんのか」
( メ∀・)「……ああ、そうだな。そうだ」
モララーの言葉を聞いて、ハインリッヒは一瞬、面食らったような顔をした。
眉が数ミリ持ち上げられ、同時に瞼も数ミリ持ち上げられた。
口が点のようになったし、構えが数ミリ垂れもした。
彼らのような「戦闘狂」にとっては、その数ミリが生死を分けさえする。
ハインリッヒはすぐにその数ミリを整えた。
顔に至っては、それまで以上に険しく厳しいものとなった。
モララーは、数ミリのずれの時点で彼女の動揺を察知していた。
だが、彼の好んでいた不意打ちはしようとしなかったようだ。
彼女の挑発を涼しい顔で受け止めた上で、モララーは、体勢を低くした。
その構えは、戦闘の再開を示唆していた。
つまり、この数分間による話が終わった、ということだった。
しかし、終わったものは話だけではなかった。
戦闘が再開することで、同時にもうひとつ、終わりを告げられたものがあった。
.
- 484 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:50:28 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀・)「(………なんつーか)」
( メ∀・)「(亀の甲より年の功、とはよく言ったもんだな)」
/ ,' 3『死の予感ってのは、やっぱ、するもんなんじゃな』
( メ∀・)「(……認めるぜ)」
( メ∀・)「(人間ってのは、死ぬ直前になれば、その予感がする)」
( メ∀・)「(でも、まあ、いいや)」
( メ∀・)「(人間として、死ねるなら―――)」
.
- 485 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:50:58 ID:s2sNBMOk0
-
モララーの顔が、柔和になった。
それを見たゼウスが、彼の鳩尾を、手刀で抉りかかった。
次いでハインリッヒが、開いた傷口を右脚で蹴りかかった。
モララーは柔和な笑みを浮かべたまま、茂みのほうへと、飛ばされた。
血潮を、振りまきながら。
.
- 486 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:51:42 ID:s2sNBMOk0
-
そしてモララーは、
.
- 487 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:52:13 ID:s2sNBMOk0
-
.
- 488 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:52:45 ID:s2sNBMOk0
-
◆
俺は、この暴力の腕を買われたものだ、と思っていた。
ブレインとなるリーダーに最強の『能力者』のタッグなのだ、
自分がそこに加わるとなると、自然と戦闘員としてなのだ、と考えるだろう。
だが、それは半分正解で半分はずれだった。
リーダー、『能力者』ともに戦闘員など欲する必要のないレベルの戦闘力を持つから、というのものあったのだろう。
しかし、ただそれだけ、というわけではなかった。
最初に俺がそのリーダーと拳を交えた時のことは、あまり覚えていない。
だが、俺が一方的に負けたとはいえ、向こうも無事にはすまなかった。
左肩を粉砕し、右脚の腿と脛をも粉砕してやったと記憶している。
そんな殴り合いが終わったのちに、俺は奴に、勧誘を受けた。
自警団として、裏社会を統べるのはどうか、と。
それが、俺の戦闘力が買われたがゆえのものではないのは今言ったとおりだ。
だとすると、どうして自分よりも弱い存在を仲間に引き入れるに至ったのかが不明となる。
馴れ合うつもりはないし下に就くつもりもなかったため、もしそれを命じてこようものならその場で死ぬつもりだった。
それを向こうも想定していたのか、黙りなどせず、奴はその理由を答えた。
そのときの、たった、ほんとうにたったひとつの言葉が、俺を揺さぶったのだ。
「貴様の精神力の強さには、敵わなかった。」
.
- 489 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:53:16 ID:s2sNBMOk0
-
◆
私が己を人間だと認めてしまった出来事は、今まで一度しかなかった。
そしてそれは、最初で最後の一度だ、と信じていた。
しかし、一度でも認めてしまわざるを得ないということは、自分は人間だ、ということにほかならない。
それを痛感してしまったのは、あの男の存在だった。
成り行きとは言え敵と手を組むことになった。
相手は、人間の混沌とも呼べるべき存在、『拒絶』――アンチだ。
全てを忌み嫌う奴らには、苦戦を強いられてきた。
もし、躊躇いもなくあるがままの実力を振るえるようなのであれば、即死以外の道はなかっただろう。
だが、そんな『現実』を相手に、私が動揺をしたことはない。
悲惨な『因果』を突きつけられても、『真実』が歪められても、同様に、だ。
私が己を人間だと認めてしまう――動揺してしまう。
それは、あの瞬間だった。
『拒絶』を統べるとなれば、それ相当の混沌を背負っている、人間かどうかすら疑わざるを得なくなる人間となるだろう。
普通なら自爆しかねないその混沌たる精神を持つことなど、人間には到底不可能だろうからだ。
そう考えるならば、確かにあの強靭な精神力を持つ男がそれに当たることに関しては合点がいった。
世界中のほかの誰でもない、あの男だからこそ、その精神を涼しい顔で持つことができていたのだ。
だが、私がそれでも「動揺」してしまったのには、理由がある。
そもそも――
それほどまでの精神力を持っていたのに『拒絶』に呑まれてしまったなど、考えられなかったのだ。
つまり、過去に、それほどの悲惨な、拒絶したくなる出来事を抱いている、ということになるのだが、
もしあの男が『拒絶』に呑まれるとするなら、やはり、あの事件以外にはありえないのだろう。
.
- 490 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:53:50 ID:s2sNBMOk0
-
◆
『能力者』なんて人外が世界を支配するような腐った世界でも
おそらくナンバーワンを誇る実力を備えた自警団が崩壊するなど、考えられなかっただろう。
最強の頭脳を持つ者に最強の能力を持つ者、最強の精神を持つ者や最強の権威を持つ者、
そして、この世の真理解明をこなせる俺が就いていたのだから。
きっかけは、簡単だった。
その最強の五人衆のうち一人が死んだ≠フだ。
――――なんてこの世の誰もが抗えない最強の《特殊能力》を持つ女。
だが、能力なんてものは、所詮、ツールなのだ。
どんな最強であれ、それが適用されるか否かは所有者次第。
つまり、最強だから死なない、というわけでは、決してなかった。
殺した俺が言うのだから、間違いない。
これが原因で、世界で最強にして最小の自警団は、解体が必至となった。
今はあの男が一人で裏社会を統べているようだが、嘗てほどの絶対的な力などあるはずもない。
ほかの面々は、皆、消えてしまった。
最強の能力を持つ者は死に、最強の精神を持つ者はその精神を狂わせてしまった。
そして、
最強の権威を持つあの女。
あのアマの暴走を、俺は止めなければならなくなった。
.
- 491 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:54:22 ID:s2sNBMOk0
-
◆
俺の振るった拳は、空を「殴り」、「爆音を」鳴らした。
が、いくら音を鳴らしても勝ちにはならない。
アラマキの、低くさせた姿勢から放った水平蹴りが、俺の左わき腹を抉る。
筋肉の繊維が、ぶちぶち、と音を立てて断たれゆくのが、実感できた。
それを実感として実感し得たところに、俺は自分の敗北を確信した。
次に、俺の顔面に、パンドラの膝蹴りが決まった。
後ろに仰け反るかと思いきや、俺の後頭部に張り付くように『領域』が張られていたため、
力の行き場を失ったその勢いが、全部ダメージとして顔面に蓄積された。
鼻の骨は当然として、顔面がへこみかねないように顔面の骨が砕けた。
同時に、その負担が首に重く圧し掛かってきた。
パンドラ自身の逃げ道確保のために奴は『領域』を解除した。
この隙に体勢を整えたかった、のだが、同時に、背後から『英雄』、ハインリッヒがやってきた。
『劇』における主人公は、奴だ。
主人公に相応しきパワーを得た奴は、俺の背中、
先ほどアラマキから貰った一発が残っている部位に、槍のような蹴りを見舞ってきた。
背骨は、まだ折れない。
だが、負担が、あまりにも大きすぎる。
立つことすらままならなくなるだろう、それほど、ダメージは思いのほか蓄積されていた。
それに怯んでいる間に、モララーを下したゼウスが持ち前の初速を生かして接近し、
手刀で、アラマキが開いた傷という名の突破口を抉りにかかった。
背骨を掴まれかねない勢いだったが、そこに至る前に、俺は爆発に呑まれた。
心地よさすら感じ得てしまう『爆撃』だった。
この熱さ、臭い、痛み、痺れ、忌み、拒絶。
そのどれもが、新鮮だった。
生きている、と実感できた。
.
- 492 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:54:53 ID:s2sNBMOk0
-
「………ガ……。」
力なく、無意識のうちに唇と唇の間から漏れた声。
乾いた、ひび割れ、かすれ、潤いの感じられない、苦痛に満ちた音。
最初は、持ち前の圧倒的な力で押そうと考えていた。
だが、もう、さすがの俺も、息切れがつらくなってきつつあった。
いつもなら、なにも考えずに「知らねえよ」なんて、言っていた。
だが、今は、言いたくなかった。
言ってしまえば、いま感じている生きている実感ってものが、消えてしまう。
俺はもう少し、この実感を、味わっていたかった。
なんの抵抗もやりがいも目標もなく、ただ漂うかのように惰性に過ごしてきた日々。
それに対する退屈に対してさえ、俺は目を背けて生きてきた。
全てを『拒絶』して、まさに空白、虚無としか呼べない人生だった。
.
- 493 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:55:24 ID:s2sNBMOk0
-
だが俺は今、その鎧を、脱ぎ捨てた。
すると、だ。
この薄汚れた大気。
気持ちの悪い湿気。
自分を束縛する重力。
鼓膜を刺激する雑音。
動くたびに鳴る関節の軋む音。
動くたびに感じるその部位の重さ。
そんなものが、途端に身に降りかかってきた。
今まで、捨てていたものだ。
そのどれもがつらく、煩わしく、面倒で、邪魔で、不必要なものだ、と思っていた。
いや、その大半は正しい。あっても、ただ邪魔なだけだ。
しかし、不必要では、なかった。
こういったものを拒絶せずに甘受するからこそ、生きている、と実感できた。
そして、その実感があるから、人は、生きていく上で、嫌なことがあっても生きていけるのだ、とわかった。
俺が己の精神を捨ててからの毎日に、そのようなものはなかった。
常に空の胃のなかのものを吐き出したり、破壊行為を繰り返したり、
ただ叫んだり、のた打ち回ったり、頭を抱えたりと狂気を晴らしていた日々だった。
その日々が俺に与えたものは、そんな俺に相応しいと思われた、なんとかというスキルだ。
だが、そのスキルは、そういった日々によって得られた賜物、というわけではなかった。
代償として、俺は、人間として持っているべき様々なものを捨てていた。
死ぬ前に、その過ちを正すことができた。
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- 494 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:56:00 ID:s2sNBMOk0
-
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- 495 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:56:33 ID:s2sNBMOk0
-
◆
(メ; ー )「・・・・・。」
/ ,' 3「……終わり、じゃ」
(メ; ー )「・・・・・・・・。」
ネーヨが、地に倒れた。
山であるが如くなかなか倒れなかったネーヨが、満身創痍になって、ついに倒れた。
流血が所々で起こっている。
その巨躯のあちこちが抉られており、
一般人ならば死んでいなければおかしい程の負荷がかかってあった。
倒れたネーヨを、アラマキが上から見下ろす。
足を持ち上げ、ネーヨを踏み潰しては、とどめを刺そうとする。
ネーヨは、そのときになるまで、一度も、【全否定】を使おうとしなかった。
使っていれば、このような結末には至らなかっただろう。
しかし、使わなかった。
だから、こうなることは半ば必至だった、とも言えた。
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- 496 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:57:20 ID:s2sNBMOk0
-
/ ,' 3「おぬしら『拒絶』たちとの戦争=c…」
/ ,' 3「それも、ここで、終わりとなろう」
/ ,' 3「………甘受するのだ、ネーヨ=プロメテウス」
(メ; ー )
アラマキも、この「戦争」で、様々な拒絶を植えつけられた。
ショボンにはその『拒絶』の恐ろしさを植えつけられた。
ワタナベには『因果』の拒まれる恐ろしさを植えつけられた。
モララーには圧倒的戦闘力に襲われる恐ろしさを植えつけられた。
だが、こうして、ここに立っている。
そして、ネーヨを下し、いま、生殺与奪の手綱を握っている。
アラマキは――『革命』の面々は、勝ったのだ。
正々堂々、真正面からぶつかりあって、彼らは、勝ったのだ。
一方の『拒絶』の面々は、負けてしまった。
正々堂々、真正面からぶつかりあって、彼らは、負けてしまった。
勝敗が、ついた。
この瞬間、今度こそ、「『拒絶』を拒絶する戦い」は、終わりを告げた。
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- 497 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:57:52 ID:s2sNBMOk0
-
/ ,' 3「……」
/ ,' 3「殺生……御免。」
アラマキが、目を細め、膜の張られたような視界を迎え入れる。
こうなる≠アとは、戦争をする上では避けては通れない道なのだ。
個人の意思など関係なく、最後は、必ず何らかの命が消え去る。
そしてアラマキは、殺生を好むような男ではなかった。
ネーヨは、最期の言葉を遺そうとしない。
もう、あるがままの自分を全て出し切ったがために、言い残すことがなかったのだろう。
満身創痍であり、苦痛以外感じられないような様子ではあるが、しかし、後悔を残している様子は見られなかった。
なにも遺そうとしないネーヨを見て、アラマキは、目を完全に閉じた。
ネーヨの首の上に、足を置く。
首でさえ表面がかたく、ナイフを頚動脈に当ててもそう簡単には切れないであろう強度を持っていた。
しかし、それもナイフだったらの話。
アラマキならば、ネーヨが無抵抗のままならば、
ここで足に力を入れるだけで、首は胴体から外れる。
過去の功績と現在の罪悪、未来の道程の全てを命とともに失うのだ。
それがどこか、惜しいように思われた。
.
- 498 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:58:26 ID:s2sNBMOk0
-
だからだろうか。
アラマキがネーヨを完全に断とうとすると、
ゼウスが背後から歩み寄ってきては、肩に手を置いた。
こうなることを予想していたのか、
それとも心がこの上ないほど落ち着いていたのか。
アラマキは冷静に、ゼウスのほうに顔を向けた。
/ ,' 3「……なんじゃいの」
( <●><●>)「…」
/ ,' 3「生憎、こやつに遺言はないと見た。仏心か、ゼウス」
( <●><●>)「私が、あるのだ」
/ ,' 3「……なに?」
すると、アラマキの載せている足には目もくれず、
ただ全てを甘受しようとしているネーヨに、目を遣った。
互いの視線はかち合ってはいないが、しかし心眼がかち合っているように思われた。
.
- 499 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:59:01 ID:s2sNBMOk0
-
( <●><●>)「……プロメテウス」
(メ; ー )
(メ; ー )「………おめえが慈悲たあ、珍しいじゃねえか」
(メ; ー )「二人目≠ェ死ぬってのに、抵抗でもあんのか?」
( <●><●>)「違う。が、慈悲であることは否定しない」
(メ; ー )「―――なに?」
その言葉に、アラマキたちは勿論、ネーヨでさえ、驚いた。
冷血非道がこの上なく当てはまる残虐な男、ゼウスが放った言葉とは思えなかったのだ。
彼は、仏心だの、慈悲だの、同情だの、そのようなものを一切持ち合わせない男である。
そんな彼が、相手がネーヨだからといって、そういったものを胸に抱くはずがない。
しかし、確かに言った。
これは慈悲である、と。
.
- 500 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 19:59:34 ID:s2sNBMOk0
-
( <●><●>)「貴様に、ひとつだけ、伝えなければならないことがある」
(メ; ー )「……ほう?」
伝えなければ。
それを聞いて、アラマキは、彼を殺すのを少し遅らせることにした。
同時に、ネーヨも、失いかけていた聴力を取り戻して、ゼウスの言葉に耳を傾ける。
( <●><●>)「貴様の恨んでいるであろう三人」
( <●><●>)「……生きているのだぞ、三人とも」
( <●><●>)「私も」
( <●><●>)「パンドラも」
( <●><●>)「そして、カゲキ―――いや」
( <●><●>)「ハデスも、だ」
.
- 501 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:00:08 ID:s2sNBMOk0
-
(メ;´ー`)「―――ッ」
_
( ゚∀゚)「……!」
( <●><●>)「……まだ、己の過去に決着をつけてない」
( <●><●>)「その過去に立ち向かおうとせず、ただ逃げるだけ逃げて、そして死ぬのか」
(メ;´ー`)「……」
( <●><●>)「立ち上がれ、プロメテウス」
( <●><●>)「たとえ、己にトラウマを植え付けている過去であれ―――」
( <●><●>)「無様に抗ってみるのも、悪くないものだぞ」
.
- 502 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:00:47 ID:s2sNBMOk0
-
(メ;´ー`)
(メ;´ー`)「…………」
(メ;´ー`)「気が変わった。俺も、一つだけ、聞いておきたいことがある」
( <●><●>)「なんだ」
(メ;´ー`)「おめえじゃねえ。モララーに、だよ」
/ ,' 3「モララー……?」
モララーは殺したのではないのか。
アラマキが抱いた疑問はそれだった。
戦っていたゼウスとハインリッヒに確認をとる前に、まず視線をそちらに向けた。
――蹴り飛ばされたあと、モララーは、そのまま倒れたままで、動こうとしなかった。
それがフェイクで、そのまま不意を衝いてくることが予想されたが、
しかし、それが実行に移されるとは予想だにしなかった。
モララーが、ありのまま、真実の姿で戦っていたからだ。
以降、戦っていた二人がネーヨとの戦いに加わっても、
モララーが起き上がって、襲い掛かってくることはなかった。
だから、ゼウスもハインリッヒも、彼の生死については知らなかった。
そのため、二人も、アラマキに続いて、そちらのほうを見た。
.
- 503 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:01:26 ID:s2sNBMOk0
-
モララーは、起き上がらない。
生きているのか、死んでいるのか、それすらわからない。
だが、ネーヨには、同じ『拒絶』として通じ合うものがあったのだろう。
こちらの話を聞いているかの確認がとれていないのにも関わらず、
倒れこんだまま、ネーヨは、口を開き、息も絶え絶えのまま、大きな声を発した。
(メ;´ー`)「モララー」
(メ;´ー`)「………あのとき、俺を『嘘』で消したままにしておけば、俺たちは、勝っていた」
(メ;´ー`)「ただ、正々堂々戦いたかっただけで、せっかくの勝機を捨てるやつじゃあねえだろ、おめえは」
(メ;´ー`)「冥土の土産に、聞かせろ」
(メ;´ー`)「おめえを唆したのは、いったいなんだったんだ」
.
- 504 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:02:09 ID:s2sNBMOk0
-
从 ゚∀从
/ ,' 3
( <●><●>)
_
( ゚∀゚)
( ´_ゝ`)
(#゚;;-゚)
(*゚−゚)
( ;^ω^)
( メ∀ )
( メ∀ )「…………………。」
.
- 505 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:02:45 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀ )「はァァ〜〜〜〜。」
( メ∀ )「言いたくなかったから、こーして死んだフリしてたのに」
( メ∀ )「やっぱ、あんたにだけは敵わねえわ、旦那」
( メ∀ )「で、えーっと、あんだっけ?」
( メ∀ )「ああ。どーして、逃げ切らなかったってか?」
( メ∀ )「言いたくないなー。でも、言わねえとだめなんだよなー」
( メ∀ )「くっそ恥ずかしいから、一度しか言わねえぜ」
( メ∀ )「『モララー』の最期の言葉だ、聞いてくれや」
( メ∀ )「俺を唆したのは、おまえだ、『作者』とやら。」
.
- 506 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:03:17 ID:s2sNBMOk0
-
( ;^ω^)「―――え?」
内藤が、急に、視線を集める。
(メ;´ー`)「……ほう」
(メ;´ー`)「俺をはめた罰だ、理由も言え」
( メ∀ )「やァ〜っぱ、敵わねえわ。言っちゃう?」
(メ;´ー`)「『ネーヨ』の最初で最期の命令だ。言え」
( メ∀ )「はァァ〜〜〜。じゃ、耳を塞いでてくれよ?」
( メ∀ )「特に、『作者』とやら、おまえにだけは聞かれたくないんだからな」
( ;^ω^)「…………………………。」
( メ∀ )「本題。」
( メ∀ )「ついさっき、言ってたよな、『作者』よ」
.
- 507 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:03:58 ID:s2sNBMOk0
-
( ^ω^)『「読者」に、絶望を与える』
( ^ω^)『それを、最後の最後でひっくり返したら、確かに面白い』
( ^ω^)『でも、それが、できない』
( ^ω^)『つまり、』
( ^ω^)『読み終わっても、』
( ^ω^)『話が終わっても、』
( ^ω^)『誰も報われない、それこそ拒絶に満ちた、最悪な話と、なってしまう』
.
- 508 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:04:32 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀ )「おまえの言うとおり、最後の最後でひっくり返したら=v
( メ∀ )「そうしたら、俺も、報われるのかなあ」
( メ∀ )「……そう、思ったから。 俺は、正々堂々の戦いを、持ち込んだ」
.
- 509 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:05:19 ID:s2sNBMOk0
-
(メ;´ー`)「おめえが、トソン以外を信じたってか」
(メ;´ー`)「『真実』を忌み嫌い、信頼なんて鼻で笑う男だろーが、おめえはよ」
(メ;´ー`)「……その程度じゃあ、俺のハラは膨れねえな」
( メ∀ )「えぇ〜〜〜? まだ言うのかあ?」
(メ;´ー`)「おめえは、まだ『嘘』をついている。わかんだよ、感覚で」
(メ;´ー`)「アニジャに似たようなこと言ってたが、肝心の根拠≠ノはまだ、触れてねえだろうが」
( メ∀ )「しょうがないなあ。ばれちゃったか。ほんっとに、しょうがないなあ」
( メ∀ )「じゃ、『作者』、鼓膜破って、俺の声が聞こえないようにしてくれ」
( メ∀ )「……あんとき。」
( メ∀ )「トソンが、『拒絶』化しちまったときだ」
( メ∀ )「俺、言ったよな。覚えてないか? 『作者』」
( メ∀ )「って、思い出してほしくねえから死んだフリしてたんだった。あ〜〜、いやだなあ」
.
- 510 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:05:53 ID:s2sNBMOk0
-
( ・∀・)『……「作者」、とか言ったな』
( ^ω^)『お』
( ・∀・)『その話、信じるよ』
( ^ω^)『…!』
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- 511 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:06:53 ID:s2sNBMOk0
-
( ゚ω゚)「―――ッ!!」
( メ∀ )「あ、思い出した?」
( メ∀ )「そう、それだよ。」
( メ∀ )「実は俺、おまえを、あれ以来ずっと信じてたんだ」
( メ∀・)「……信じてて、よかった」
.
- 512 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:08:14 ID:s2sNBMOk0
-
( メ∀・)「なんだろうなあ、この気持ち」
( メ∀・)「ぼろ負けしてンのに、拒絶心が氾濫、どころか、一滴もわいてこねえ」
( メ∀・)「……、」
( メ∀・)「………あー」
( メ∀・)「夕日って………きれいだったんだなあ。」
.
- 513 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:09:30 ID:s2sNBMOk0
-
( ^ω^)「夕……日……?」
从 ゚∀从「あっ……」
――そのときになるまで、ほかの誰もが気づかなかったこと。
それは、経過した時間だった。
気がつけば、もう、夕方になっていた。
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- 514 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:10:08 ID:s2sNBMOk0
-
今朝がたからはじまった、『拒絶』との戦い。
朝に、ゼウスとワタナベが対峙した。
次いで、ハインリッヒとショボンが対峙した。
ご都合主義にも程がある【ご都合主義】は、単純にして強力なスキルだった。
でも、ご都合主義に勝るご都合主義、ヒーローが、彼を下した。
ショボンを倒した次に、ワタナベが、ゼウスを背負って、ハインリッヒと対峙した。
実質無敵で実質不死身の実質必勝、【手のひら還し】。
ともすれば、【ご都合主義】にも勝ってしまいかねないスキルだった。
実際、ご都合主義が手のひらを返したせいで、ハインリッヒはすぐに負けた。
でも、物理法則のほうが手のひらを返してしまったため、彼女も敗れた。
ワタナベに勝って、内藤は『拒絶』の本拠地、バーボンハウスに向かった。
その間に、モララーがやってきては、その実力をほかの三人に見せ付けた。
そのまま帰ってきたモララーは、内藤と鉢合わせをした。
その結果、ネーヨはただの気まぐれか、『拒絶』と『革命』との全面戦争を提案した。
結果、常識を破ってやってきた【常識破り】に、苦戦することになった。
あらゆる真実を――それこそ、己の死でさえ台無しにしてしまうため、
考えてみれば、「勝つことができない」のは明らかだった。
それでも『革命』の皆は、無様な姿を見せつつ、抗った。
だが、そんな彼を止めにやってきた暴君、トソンの存在が、局面を変えた。
彼女がモララーの脆い鎧を砕いたため、戦局ががらりと変わったのだった。
心の乱れが身体の乱れをきたし、命の乱れにまで至った。
味方を裏切るなんて常識破りな展開が、彼を殺したのだ。
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- 515 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:10:49 ID:s2sNBMOk0
-
そして、やってきたのは、最後の戦い。
あらゆるものを全て否定する男が、そのスキルを携えて、やってきた。
殴っても、蹴っても、能力を発動しても、能力を適用しても。
泣いても、笑っても、怒っても、拒絶で心が満たされても。
拒絶の代名詞、ネーヨには、そのどれもがまるで効かなかった。
だが、ハインリッヒのご都合主義な能力が手のひらを返したことでネーヨの拒絶の鎧を突破した。
そんな常識破りな展開が、こうして、絶望しか見えなかった彼らの戦いを、最終局面へと持っていったのであった。
そして、今。
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- 516 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:11:27 ID:s2sNBMOk0
-
/ ,' 3「もう……そんな時間になっておったのか」
( <●><●>)「………ふん」
長いようで短かった、しかし短いようで長かった一日が、終わりを告げようとしていた。
赤々と燃えている夕日が、戦ったあとの彼らを、優しく、照らしていた。
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- 517 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:12:47 ID:s2sNBMOk0
-
.
- 518 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:13:18 ID:s2sNBMOk0
-
◆
(-、-トソン
(-、-トソン
(-、-トソン「………、……ん」
(-、-トソン
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「……え?」
.
- 519 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:13:53 ID:s2sNBMOk0
-
トソン=ヴァルキリアが目を覚ましたのは、ただの偶然だった。
現在、その場にて、彼女の眠りを妨げ得た音は存在していなかったのだから、当然といえるだろう。
音はおろか、静寂がうるさいとすら表現できる空間。
トソンは、鈍痛が響く脳を、眠気の解消とともに認知した。
いつから眠っていたのか、なんのために眠っていたのか。
それすら、思い出せない。
だが、体調というか、感覚というか、なにかが平生と違っていたことには気がついた。
心臓の向こうに心があったとして、その心に澱みが感じられたのだ。
粘着性があり、濃度が高く、臭いすら感じられそうな液体。
それが、心の器に注がれていた。
頭を傾けたときに感じる鈍痛は、あるいは、この液体が原因なのかもしれない。
そんな澱みがあるがゆえに、なにか、精神が研ぎ澄まされているような実感がする。
意識していないのに集中で脳が冴えており、しかし集中力を使うがゆえの疲れは生じない。
拳を握り締めればその拳のほうが握力に耐え切れず崩壊してしまうような――
それほど、自分のなかのなにかが、劇的ではないにせよ、変わっていたように思われた。
そして、気づく。
横たわっていた自分の近くに、同じく横たわっては血を流す男の姿に。
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- 520 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:14:29 ID:s2sNBMOk0
-
上体をゆっくり起こしながら、そちらに目を向ける。
長めの髪やフード、服の裾が、風に流されるようになびく。
その男は、満身創痍だった。
そもそも生きているのだろうか。そんな印象を、持たされた。
となると、いまいち情勢が飲み込めなくなる。
確か自分は、戦いの場にいたはずだ。
この男は無傷だったし、傷を負うような男でもない。
もっとも、どうしてか、この男が死んでいる、とは思えなかったのだが、逆に、死んでいない点が妙となる。
加えて、この不思議なまでの体調の変化が気になる。
特に、意識せずとも集中された状態になっているのが不快で嫌だ。
声を発そうとした。
だが、乾いた喉が、声をつくりだそうとするのを拒む。
いつもより大きめの声を出そうと、腹に力を入れる。
すると、ようやく、喉の乾きが織り成す門を破ることができた。
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- 521 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:15:15 ID:s2sNBMOk0
-
「 なにか……あったんですか? 」
そして、もう一言。
「 それとも…… 」
「 もう、終わったのですか? 」
.
- 522 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:15:52 ID:s2sNBMOk0
-
それを聞いた男は、振り向きはせず、驚きもせず
ただちいさく、風に流されるような声で、応えた。
「 ああ……終わった。終わったよ。 」
「 もう…… 」
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- 523 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:16:44 ID:s2sNBMOk0
-
「 もう、終わったんだ。 」
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- 524 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:17:16 ID:s2sNBMOk0
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- 525 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:17:49 ID:s2sNBMOk0
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- 526 名前:同志名無しさん :2013/06/30(日) 20:18:21 ID:s2sNBMOk0
-
( ^ω^)は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです
第二部 「拒絶」編 完結
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