- 754 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:41:02 ID:1b3aj7Fc0
-
「なにもかもを拒絶するなんて、生ける屍のすることだね。
. 与えられたものを否定するってことは、つまり生の全てを否定することなんだから」
「で、自らの境遇を、あたかも自分の功績のように誇示するのは、
. 怠惰と慢心だけで生きる、人間以下の人間のすることさ」
「……ほんとうに欲しいものは」
「ほかのどんなものを投げ売ってでも手に入れてやろう、とするものだよ」
「………そう」
「それまでの仲間を、裏切
.
- 755 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:41:36 ID:1b3aj7Fc0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
爪'ー`) 【不意討ち《フライング》】
→謎の女とともに嘗て『拒絶』を襲撃した『能力者』。
( ) 【???】
→謎の男とともに嘗て『拒絶』を襲撃した『能力者』。カゲキと呼ばれている。
.
- 756 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:42:08 ID:1b3aj7Fc0
-
○前回までのアクション
_
( ゚∀゚)
(*゚ー゚)
从 ゚∀从
/ ,' 3
( ^ω^)
→謎の空間から移動
( <●><●>)
( ・∀・)
(゚、゚トソン
→ゼウスの屋敷前で待機
( ´ー`)
( ´_ゝ`)
→バーボンハウス
.
- 757 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:44:04 ID:1b3aj7Fc0
-
第二十八話「vs【771】X」
( ´_ゝ`)「それは……ありえるのか?」
( ´ー`)「なに?」
ネーヨから、その当時の話をされて最初に抱いた印象が、アニジャの場合、それだった。
( ´_ゝ`)「【ご都合主義】や【常識破り】を打ち消すなんて、旦那でもない限り、不可能じゃあないのか」
( ´ー`)「そういうことかい」
ネーヨが鼻を鳴らす。
その反応を見て、アニジャはますますわけがわからなくなってきた。
嘗てハインリッヒ=カゲキやゼウスが身を以て体験したように、
彼らの《拒絶能力》によって改竄された『真実』や『現実』は、
その存在のもとに生きている人たちにとって、決して抗うことのできないものである。
つまり、『現実』に生きるハインリッヒたちにとっては、改竄された『現実』は甘受するほかない、ということだ。
そしてそれは、「あらゆるものを『拒絶』する」ネーヨ以外、皆に共通する前提である。
それなのに。
アニジャが今しがた話を聞く限りでは、その女は、その改竄された『現実』や『真実』をことごとく打ち消した。
そんな行動を生身の人間が起こせたとは思えず、ネーヨの話に半ば懐疑的になったのだ。
しかし、それはネーヨにとっては大した問題ではなかった。
. イ マ
( ´ー`)「確かに、そうだ。『現実』の名のもとに、俺たちは現在を生きている∴ネ上、普通は抗えねえ」
.
- 758 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:44:42 ID:1b3aj7Fc0
-
ネーヨは、「普通」を強調して言う。
ふんふん、とアニジャは肯いた。
( ´ー`)「けどよ、それは現在を生きるから″Rえねえんだ」
( ´ー`)「やつらがここを去るときに残した言葉、そいつが全てよ」
( ´_ゝ`)「たとえ世紀の喧嘩師でも………」
( ´ー`)「時≠ノは、抗えねえ」
( ´_ゝ`)「……なんとなくではあるが、わかった……ような気がした」
アニジャは素直に、そう言った。
が、おそらくは、もう完全にわかったのだろう。
外していた場合が怖く、また確証もなかったので、あえて謙虚にそう言ったのだ。
ネーヨは、彼の心中を覗いたわけではないが、あたかも覗いたかのように「そうだ」と言った。
結果として、二人の考えは、一致していた。
( ´_ゝ`)「その襲撃してきた、旅人のお二人さんは――」
「時間軸≠操った」
二人が、声を揃えて言った。
.
- 759 名前:>>758訂正 :2013/02/08(金) 12:45:37 ID:1b3aj7Fc0
-
ネーヨは、「普通」を強調して言う。
ふんふん、とアニジャは肯いた。
( ´ー`)「けどよ、それは現在を生きるから″Rえねえんだ」
( ´ー`)「やつらがここを去るときに残した言葉、そいつが全てよ」
( ´_ゝ`)「たとえ世紀の喧嘩師でも………」
( ´ー`)「時≠ノは、抗えねえ」
( ´_ゝ`)「……なんとなくではあるが、わかった……ような気がした」
アニジャは素直に、そう言った。
が、おそらくは、もう完全にわかったのだろう。
外していた場合が怖く、また確証もなかったので、あえて謙虚にそう言ったのだ。
ネーヨは、彼の心中を覗いたわけではないが、あたかも覗いたかのように「そうだ」と言った。
結果として、二人の考えは、一致していた。
( ´_ゝ`)「その襲撃してきた、旅人のお二人さんは――」
「その時≠操った」
二人が、声を揃えて言った。
.
- 760 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:46:48 ID:1b3aj7Fc0
-
そして、補足するつもりなのか、ネーヨが付け加える。
( ´ー`)「昔っから、タイムマシンだの、タイムパラドックスだのが、SF作品で出てくるわな」
( ´_ゝ`)「……憧れたものさ」
( ´ー`)「タイムパラドックスたァ、意味わかるよな?」
「ああ」とアニジャが肯く。
ジョルジュ=パンドラと日頃よく一緒にいるせいか、そう云ったことに関しては自信があった。
( ´_ゝ`)「いまの未来から過去に遡ったとして、その過去で本来の現実と相反するようなことをしでかしたら、
現実の世界がおかしくなり、起こってなかった、もしくは起こるはずのない現象が起きてしまう――」
( ´_ゝ`)「まあ、そんなところだろ」
( ´ー`)「おめえ、理系だったっけ」
( ´_ゝ`)「……あ」
そこでアニジャは、はッとした。
しまった、口が過ぎたか――?
アニジャは、とある理由のもと、ジョルジュと行動をともにし、こうして『拒絶』と深い関係をもつことになっている。
が、向こう――『拒絶』は、アニジャとジョルジュの関係を知らないのだ。
自分たちの仇の仲間が自分たちと一緒にいる――なんてことが
彼らに知られたら、次の瞬間には惨劇が待ち受けることだろう。
アニジャとしては、なにがなんでも知られるわけにはいかなかった。
どう言い訳しようかを、考える。
しかし、ネーヨにとってはそれこそがどうでもよかった。
( ´_ゝ`)「ガキの頃に見たアニメの受け売りだ」
( ´ー`)「奇遇だな。俺も見てたよ」
だから、アニジャの言葉に、全く疑う心を持たなかった。
そうとは知らないアニジャは、うまくごまかせた、と胸を撫で下ろす。
.
- 761 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:47:45 ID:1b3aj7Fc0
-
「で」、アニジャが促す。
忘れていたようで、ネーヨは微笑しながら、話を再開させた。
( ´ー`)「一方で、こんな説もある。時間の流れは川の流れと似ている≠チてな」
( ´_ゝ`)「あ、ああ」
( ´ー`)「つまり、タイムマシンで移動するってのは川を逆流するってなるが、これを別の川に入る≠ニ解釈する人もいる」
( ´ー`)「その川でパラドックスを引き起こすようなことをすると、本来の川には何の支障も生じねえが、
その川は未来が変わり、本来の川とは違う流れを見せる――とかよ」
アニジャは、確かにどこかで聞き覚えのある話だったので、肯いた。
時≠ニは不思議なもので、概念しかないものだが、それを古来から多くの学者が調べてきたものだ。
そしてそれは、科学が進展し、《特殊能力》も進化しつつある現代でもなお、続けられている。
別の言い方をすると、そんなご時世になっているにもかかわらず、未だに時≠ニは解明されていないのだ。
だから、いまのように、異なる二つの説が出てくる。
誰も体感できない、足を踏み入れることのできない次元の話だからである。
これら二つの仮説を、ネーヨはどう使いたいのか。
そう思っていると、しかし、ネーヨは逆接を挟んだ。
( ´ー`)「でもよ、はっきりと言えることはある」
( ´_ゝ`)「なんだ」
( ´ー`)「この時の流れってのは、川で表現すんのはお門違いってこった」
( ´_ゝ`)「――え?」
アニジャは思わず呆気にとられる。
いままでの話――有力と思われたり、有名である説――のどれもと、根本的に食い違う話だったからだ。
( ´ー`)「俺が表現すんなら、そうだな」
( ´ー`)「時の流れってのは、弾丸だ」
.
- 762 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:48:35 ID:1b3aj7Fc0
-
( ´_ゝ`)「…弾…丸……。ピストルの、か」
( ´ー`)「ここで最初の話に戻るんだがよ」
( ´_ゝ`)「なんだ」
( ´ー`)「俺たちは、ふつーの人は、現在を生きている≠スァ言ったよな」
( ´_ゝ`)「言ったな」
( ´ー`)「つまり、だ」
ネーヨは咳払いをする。
ここからが核心だ――アニジャはそう思い、身構えた。
ネーヨの口が、開かれる。
( ´ー`)「その現在≠踏み外すと、なにも存在しない次元≠ヨ直行するんよ」
( ´_ゝ`)「!」
( ´_ゝ`)「……すまない。俺は、こう見えても理系じゃないんだ」
( ´ー`)「わからねえか。まあそれもそうだわな」
ネーヨが苦笑を浮かべた。
確かに、いま自分がしている話は、解説なしでは誰も理解できないであろう話だ、と自覚しているのだ。
.
- 763 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:49:36 ID:1b3aj7Fc0
-
( ´ー`)「そうだな。記憶や概念としての過去≠竍未来≠ヘあるが、
そこに実在している過去≠竍未来≠ヘねえってことだ」
( ´ー`)「そんなもんは昔の夢見がちな学者たちが打ち立てた説っつーだけで、実際は現在≠オか存在しない」
( ´ー`)「その現在≠ゥら離れると、即座にその存在は消滅するっつーわけだ」
( ´_ゝ`)「……」
簡単に言われた、であろう話を聞いて、アニジャはそれを脳内で再構築した。
理系ではないと言っているアニジャだが、このような話は以前からジョルジュによくされているため、
いまネーヨから話された話を理解しようとするのは、さして苦ではなかった。
そして、閃く。
手を叩いて、アニジャは少し声をあげて言った。
( ´_ゝ`)「そうか、だから『弾丸』なのか」
( ´ー`)「わかったか」
( ´_ゝ`)「弾丸の軌道の最初から最後までが概念として存在する時間軸≠ナ、弾丸そのものが現在=B
現在を生きる♂エたちがその弾丸の上に乗っているんだとしたら、
そこから飛び降りたら消滅する……ってことだな?」
( ´ー`)「理解力がいいな。理系だろ、おめえ」
( ´_ゝ`)「俺は将来はギャンブラーになりたいんだ」
( ´ー`)「……おめえには向いてねえよ」
.
- 764 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:50:39 ID:1b3aj7Fc0
-
二人がそこで冗談を言い合ったが、話の本筋としては、アニジャの言ったことが正しかった。
それを要約すると、ネーヨが言いたいのは、至極単純だった。
声を伴って息を吐き、本題に戻る。
( ´ー`)「――まあ、つまりそういうこった」
( ´_ゝ`)「じゃあ、旦那が言いたいのは――」
( ´ー`)「そ」
( ´ー`)「人が過去に戻る∞未来に進む≠ネんざ、できねえってことだ」
( ´_ゝ`)「そうか……」
やっとネーヨの言いたいことがわかり、アニジャは心に深みを感じた。
が、肯いていたのはほんの一瞬。
アニジャは「あれ」と思った。
( ´_ゝ`)「ちょっと待ってくれ」
( ´ー`)「お」
( ´_ゝ`)「さっきの旦那の話を聞くと、その『英雄』の親や渋い男は、時を操った≠だよな?」
( ´_ゝ`)「だとすると、いまの旦那の見解と、食い違うんじゃないか?」
ネーヨの見解は、時は現在∴ネ外存在しない、だ。
しかし時を操って彼らが動いたとするなら、どこか、話が違うような気がした。
が、ネーヨが本当に言いたいのはそこではなかったようだ。
.
- 765 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:51:29 ID:1b3aj7Fc0
-
( ´ー`)「違え。逆だ」
( ´_ゝ`)「というと」
( ´ー`)「時の流れのある一点に人が飛び込むのは不可能。俺が言いたかったのはそれだけだ」
( ´ー`)「カゲキたちは、過去≠竍未来≠ゥら俺たちに干渉したわけじゃねえんだよ。
時間軸≠ノ我が身を適応させんのは、さっき言ったみてえに、できねえからな」
( ´_ゝ`)「……わかったつもりだったが、わからなくなった」
( ´ー`)「言い換えるなら、そうだな」
( ´ー`)「時間軸を、自分たちの思惑に無理やり適応させた=v
( ´_ゝ`)「……?」
(;´_ゝ`)「………ッ!」
アニジャは顔を蒼くさせる。
能力社会――この場合の「能力」とは《特殊能力》を指す――に生きる者として、この話に畏怖を感じたのだ。
( ´ー`)「時間軸に好き勝手に都合をつけて、俺たちを攻撃したり、俺たちから逃げたりした。
だから、あいつらはショボンの言う『現実』にも、モララーの言う『嘘』にも縛られねえで逃げ出すことができたんだ」
(;´_ゝ`)「ッ!!」
ここで、話が冒頭に戻る。
女がショボンたちのスキルを受けてなお動くことができたのは、だからだ、と。
「スキルを受ける前」に時間軸を操って見せたのか、その時間帯だけを捻じ曲げて存在しなかったことにしたのか。
それは当人ではないから判断できない。
しかし、いまの説明で、冒頭のアニジャの疑問は、きれいさっぱりと拭われた。
そして同時に、やり場のない畏怖をも感じた。
アニジャの質問に答えられたからか、ネーヨは、当初アニジャにされた質問
――【集中包裹】と『拒絶』の関係――という本題の本題に、戻った。
.
- 766 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:52:16 ID:1b3aj7Fc0
-
( ´ー`)「どんな理由かは知らねえが、カゲキたちは『能力者』を集めてる」
( ´ー`)「一方で、俺たち『拒絶』に関わった『能力者』は、カゲキたちだけだ」
( ´ー`)「そうすっと、そのクラッシュとやらはカゲキの手先で、カゲキが俺たちを調べている……となるかもしれないな」
( ´_ゝ`)「……な、なるほど」
平生を取り戻さないうちにそう言われたが、アニジャは辛うじて理解することはできた。
おかげで、胸にかかっていた霞を、ようやく払うことができた。
話しすぎて疲れたな、と思い、ネーヨと席を三つ空けたところに彼は座った。
が、酒を入れる釣瓶がないことに気づき、「『不運』だ」とつぶやいた。
仕方ないと諦め、アニジャはネーヨの横顔を見た。
( ´_ゝ`)「しかし、だ」
( ´ー`)「まだあんのか」
「すまない」と一言詫びるも、アニジャは続けた。
霞を払えたと思った先に、つっかえ棒があったのだ。
( ´_ゝ`)「カゲキたちは、あんたらのことを『能力者』だと勘違いした」
( ´_ゝ`)「旦那がいることは知らなかったってのも踏まえると、
どうもそいつらがあんたらを調べるとは思えねえんだよな」
( ´ー`)「誰が『拒絶』の情報を流したかは、だいたい予想がつくとして、だ」
( ´_ゝ`)「! 誰――」
「誰だ」と訊こうとしたが、ネーヨはとまらなかった。
そのせいで、そのことを聞くことはできなかった。
.
- 767 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:52:54 ID:1b3aj7Fc0
-
( ´ー`)「二つの可能性がある」
( ´_ゝ`)「……ふ、ふたつ?」
( ´ー`)「一つ。やつらが誰かを探してて、その誰かが『拒絶』――いや、俺と、深い関係を持っていると思われる場合」
( ´ー`)「もう一つ。俺たちのなかに、カゲキらにとって相応しいスキルを持つやつがいることを、知った場合」
アニジャは深い意味こそわからなかったが、とりあえず肯いた。
言いたいことだけはなんとか理解が追いついていたからだ。
( ´ー`)「後者だとすっと、俺ぁ不安なんだよ」
( ´_ゝ`)「どうした、珍しい」
見せ掛けではなく、本当に不安らしき感情を抱いているようだったので、アニジャも不思議に思った。
相変わらずの不敵な笑みを見せつつ、猫背のまま、彼は言った。
( ´ー`)「ここで問題だがよ」
( ´_ゝ`)「なんだ」
( ´ー`)「俺たちのなかで一人だけ、時間軸をも操れるやつがいる。そいつぁ、誰だ?」
( ´_ゝ`)「……? ショボンじゃないのか?」
唐突の質問に、アニジャが戸惑う。
最初に浮かんだ答えは、ショボン=ルートリッヒ。苦しい『現実』を拒絶した、悲しい男だった。
彼はまさに「なんでもできる」のだから、答えとして不足はしない、と思った。
しかし、ネーヨはかぶりを振った。
アニジャは「あれ」と思った。
( ´ー`)「言うと思ったがよ、ショボンは違え。『現実』はすなわちなんでも、だと思うかもしんねえが、
『現実』と時間軸は一緒のようで、実は違う次元のもんなんだぜ」
( ´_ゝ`)「だとすると……」
.
- 768 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:53:28 ID:1b3aj7Fc0
-
ネーヨは、ちいさく言った。
( ´ー`)「ワタナベ」
( ´ー`)「【手のひら還し】、ワタナベ=アダラプターだよ」
.
- 769 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:54:21 ID:1b3aj7Fc0
-
◆
ゼウスは、視線をモララーに戻した。
そして同時に、一向にやってこないジョルジュたちに、憤りと不安とを感じた。
ひとつ、同盟を組んだ自分を敵の前に残して去ったことに対する、疑惑。
ひとつ、たまたまモララーが助けてくれたおかげでなんとかなっているが、
本来脱出不可能である『箱』に自分を閉じ込めたままにされたことに対する不満。
そして、戻ってくるとモララーとの死闘を余儀なくされるのだが、それを向こうはわからないであろうと云う危惧。
だが、その入り混じった感情を持つのも、ほんの数秒だった。
背後に、気配を感じたのだ。
言うまでもない。
どこかに消えた、ジョルジュたち五人だ。
なぜか不恰好に彼らは転んだが、ゼウスはなんとも思わなかった。
ただ、不時着しただけなのだろう、と思った。
時間にして、十分以上は経っていただろう。
彼らは、なにをしていたのだろうか。
ゼウスがわからなかったのは、その点だった。
なぜ戻ってきた、にはさまざまな理由が思い浮かぶが、そこがいまいち釈然としない。
ただひとつわかったのは、
( <●><●>)「(『作者』さんに……なにか、あった?)」
( ; ω )「……」
内藤がどこか、不調そうに見えたということだけだ。
.
- 770 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:55:20 ID:1b3aj7Fc0
-
内藤はやはり、どこか苦しげな顔を浮かべていた。
が、先ほどまでいた空間では胸を鷲づかみしていた彼が、地上に降り立ったとたん、その手に入っていた力を抜いた、
そこから察するに、どうやら、やはりこの『異常』の正体は、あの謎の空間にあったとなるのだろう。
ジョルジュの推理は、大方あっていたことになる。
モララーとトソンも、すぐにそのことに気づいたようだ。
トソンは反応を少し見せた程度だったが、モララーは、露骨にうれしそうな顔をした。
. ジブン エ サ
『拒絶』を満たしてくれる獲物が、帰ってきてくれたからだ。
疑心に満ちているゼウスの横をとおり、やや早足で、モララーは彼らに近づいていった。
両手をポケットにいれて前かがみになっているなど、どこか不遜な態度が見られる。
それを見て、アラマキ=スカルチノフたちも、戦闘の開始の予感が脳裏によぎった。
アラマキ、ハインリッヒは即座に戦闘態勢に入る。
一方のシィは、そそくさと草陰に隠れた。
彼女は、戦闘の心得など、まさに皆無なのだ。
.
- 771 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:56:43 ID:1b3aj7Fc0
-
/ ,' 3「待っておったとは、の。ご苦労なこった」
从 ゚∀从「嘘つきに相応しい、『劇の幕開け』だな」
( ・∀・)「『劇の幕開け』、か。そういやおまえ、俺に対して『優先』しようとは思わないんだな」
从;゚∀从「…ッ!」
モララーの何気ない疑問に、ハインリッヒは動揺を抑えることができなかった。
まさに虚を衝かれた感じがして、どきッとしてしまった。
・ ・
ハインリッヒは、ワタナベの手によって、『優先』のできない『英雄』――つまり、凡人に格下げさせられてしまった。
だが、それは一部の人しか知らない、極秘情報だ。
同盟のなかでも《特殊能力》の面では一番の強さを誇る【正義の執行】――が、弱体化している、ということは。
知られてしまうと、それは、情報アドバンテージにおいて、多大なハンディを背負うことになる。
いまはモララーは知らないため、こうして虚勢を張ったり牽制をしたりできるのだが、それすらできなくなる。
ハインリッヒは、どうしようか、と悩んだ。
しかし、悩むことそのものがだめであることに気づき、すぐにまた虚勢を張った。
どちらが「嘘つき」なのか、わからなくなったときだった。
从 ゚∀从「それでも『嘘』にはかなわない、ってわかってるからな。私は、実利主義なんだ」
( ・∀・)「おお、よぉぉくわかってんじゃねーか。そうだ、そうだよ」
( ・∀・)「俺は、【常識破り】なやつだ。おまえの能力も、破ってやるぜ」
.
- 772 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:57:24 ID:1b3aj7Fc0
-
从 ゚∀从「能書きは結構だ。なんだ、結局いまからおっぱじめんのか?」
( ・∀・)「よっしゃ――」
(゚、゚トソン「そうはさせませんよ」
( ・∀・)「――チッ」
すかさず、トソンが後ろからやってきては、モララーの肩に手を置いた。
気を抜けば、その箇所にかかる圧力が数兆や数京にものぼり、あっという間に自分の躯はぺしゃんこにされるだろう。
モララーにとってはそれはなんてことない負荷なのだが、負荷なんかを差し置いても、モララーはそうされたくないと思っていた=B
だからか、トソンがいることを思い出すやいなや、先ほどまで発していた殺気はなりをひそめた。
ポケットから出し、殴りかかろうとしていた両手を、後頭部に回した。
後頭部で手を組み、つまらなさそうな顔をする。
/ ,' 3「かの大嘘つきも、オンナにはかなわん、か」
( ・∀・)「そんなんじゃねーよ。ただ、気分の問題だ」
从 ゚∀从「気分とかどうでもいいから、ヤるつもりがねえんならとっとと帰ってくれねぇか。
テメェら見てるだけで、胸クソ悪くなんだよ」
( ・∀・)「さて、どうしようか――な―――?」
ハインリッヒに言われて、モララーは飄々とした態度で答えた。
いや、答えようとした。
視線を少し横にずらしたとき、モララーは、ハインリッヒたちの後方に男がいるのを見つけたのだ。
脚の脛にまでのびる白衣を羽織り、不機嫌そうな顔をしている、男。
ジョルジュ=パンドラ、を。
.
- 773 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:57:57 ID:1b3aj7Fc0
-
自分で言葉を遮って静かになったモララーを見て、ハインリッヒは「なんだ」と思った。
どうしたのだ、と訊こうとすると、我に返った彼は、それも遮って言葉を発した。
( ・∀・)「予定へんこーう」
从 ゚∀从「は――」
ハインリッヒが聞き返そうと思った瞬間。
モララーは砂埃を撒き散らしながら、ハインリッヒとアラマキの間を通り抜けて更に向こうに駆けていった。
不意を衝かれたことにより反応できなかった二人が、遅ればせながら、振り返る。
ゼウスやトソンも、反応できたのは彼ら二人と同じタイミングだった。
モララーは、後ろのほうにいたジョルジュめがけて、鋭い蹴りを見舞おうとした。
よく使っていた拳を使わなかったのはハンディのつもりではない。脚のほうが速かったのだ。
しかし、不吉な音はいつになっても聞こえてこなかった。
それどころか、ジョルジュの声が聞こえてきた。
_
( ゚∀゚)「穏やかじゃねーな。えっと……あ、検体ナンバースリーの、モララー」
( ・∀・)
ゼウスやハインリッヒの不意打ちをなんなく防ぐ彼にとっては、モララーのそれも、さして脅威ではなかったようだ。
研ぎ澄まされた反射神経が、ジョルジュの持つ【未知なる絶対領域】の強さに拍車をかけたのか。
モララーは、即座に『パンドラの箱』に押し込まれた。
それは、数秒間の間空中で止まった彼を見れば、明白だった。
が、それを見て安堵の息を吐くものは誰ひとりとして、いない。
その場にいる皆は、わかっていたのだ。
――『常識破り』に、その程度のワザは通じない、と。
.
- 774 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:59:07 ID:1b3aj7Fc0
-
( ・∀・)「……相変わらず、面倒なやつだ」
(#・∀・)「おまえはよォ………ッ!!」
/ ,' 3「!」
モララーが『嘘』を吐いて『パンドラの箱』から脱出する。
アラマキは驚きを見せたが、脱出劇を見たから、ではない。
モララーの顔が、いきなり豹変したのだ。
額に血管が浮かび、筋肉が強張る。
そのせいで声帯も窮屈になり、放たれる声は低く、小さく、震えたものとなる。
歯も食いしばり、ぎりぎり、と音をたてていた。
嘗てのワタナベのように、モララーの気性が変わったため、アラマキやハインリッヒは驚いた。
トソンも、そのときのモララーの顔を見て、少し後ずさりをしたほどだ。
(#・∀・)「ひっさびさに……それに閉じ込められたせいで……」
(#・∀・)「思い出したくねーことを、次々に思い出しちまったじゃねーか……てめえ………ッッ!」
_
( ゚∀゚)「思い出はダイジにとっときな。老後の楽しみになるぜ」
( # ∀ )「 」
モララーが急に憤怒した理由、それは。
『パンドラの箱』に閉じ込められたせいで、過去のトラウマや『拒絶』化したときのことを、思い出してしまったから、だった。
クールだったりユニークに振る舞ってきていたモララーが怒りを見せるほどには、その過去は、すさまじいものだった。
が、それをジョルジュに笑われて、モララーの額の血管が弾けた音が聞こえたような気がした。
口を開くも、声が出てこない。
一方で、全身の筋肉が強張ってくる。
歯茎が悲鳴をあげ、歯の表面がだんだんと削れてきた。
その圧倒的な『拒絶のオーラ』と威圧感と殺気に、ほかの人は動こうにも動けなかった。
怯んだというよりは、モララーの放つその三つのせいで金縛りにあった、そんな状態となっていた。
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- 775 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 12:59:52 ID:1b3aj7Fc0
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( # ∀ )「 」
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( ゚∀゚)「……チッ」
モララーがジョルジュに飛び掛る。
しかし冷静な判断を欠いているせいか、隙だらけで、ジョルジュは能力を使わずとも避けることができた。
勢いを殺せないモララーは、そのまま、放射状を描いたのちに地面に倒れた。
続けて一陣の風が吹いた。
鳴る木の葉を聞いて、トソンは我に返った。
モララーの身になにが起こったのかはわからないが、とにかく彼を止めなければならない、と思った。
能力は使わず、駆け足でモララーに近寄る。
モララーは、のっそりと起き上がり、ジョルジュのほうに躯を向けるだけだ。
トソンは彼の正面に立ち、両肩を手で押さえつけるようにして、向き合った。
モララーの顔やすさまじい力に怯えそうになるが、トソンはそれをぐッと我慢する。
ゼウスやアラマキたちは、未だに、動こうと思えなかった。
普段威圧などされないゼウスではあるが、このときは、唾を呑みこむことくらいしかできなかった。
力を籠めようにも、それを『拒絶のオーラ』に吸い取られていくような、そんな――
(゚、゚;トソン「モララー!」
( # ∀ )「 」
(゚、゚;トソン「どうしたの、急に!」
( # ∀ )「 …… 。」
( ∀ )「 ……、… … 。」
トソンが必死に彼を宥めようとする。
それが伝わったのか、はたまた動けないことに気づいただけか、モララーは呼吸を落ち着かせていく。
少しすると、伏せていた目を、開けた。
それに、トソンも応じる。
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- 776 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 13:00:22 ID:1b3aj7Fc0
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(゚、゚トソン「モララー……?」
( ・∀・)「………なんだよ」
(゚、゚トソン「いまここで彼を殺しても、空しくなるだけです。落ち着いて」
( ・∀・)「俺は落ち着いてるよ」
(゚、゚トソン「ほんとうにあなたは嘘つきね。あんなでたらめな蹴りを見せといて」
( ・∀・)「……」
(゚、゚トソン「…?」
モララーが急に、黙る。
トソンが首を傾げると、モララーは口を開いた。
( ・∀・)「………おまえは」
(゚、゚トソン「?」
( ・∀・)「おまえは、あの白衣のヤローを見て、なんとも思わねーのかよ」
(゚、゚トソン「……? …?」
( ・∀・)「あいつに、俺は一度、殺された。数えるのも面倒になるほどの、トラウマを植えつけられた。
そして、『拒絶』なんて存在に、俺はなっちまった」
( ・∀・)「おまえは……違うのかよ、トソン」
(゚、゚トソン「………っ」
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- 777 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 13:00:52 ID:1b3aj7Fc0
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/ ,' 3「……何がはじまっとると言うんじゃ」
( <●><●>)「静粛することだな」
/ ,' 3「なに?」
( <●><●>)「私たちが思っているよりも、『拒絶』は複雑、ということだ」
トソンは、先ほど、モララーから『拒絶』と『パンドラの箱』の関係について聞かされた。
それといまの言葉とを統合して、モララーの言いたいことがわかった。
同時に、自分のことを考えて、トソンは心臓の鼓動が速くなった。
アラマキが不審に思うが、なにも言うことができなかった。
急に離し始めた二人で、隙だらけだ。
しかし、その背後から襲い掛かることは、できなさそうだった。
モララーに訊かれたが、トソンは、明確な答えをしようとはしなかった。
その代わりに、彼女は別のことを言った。
(゚、゚トソン「……またいつか。話す機会があれば、話すから」
( ・∀・)「………」
モララーは黙って、トソンの眼、瞳の奥を覗き込む。
『拒絶』のなかでも『異常』な存在、トソン。
その過去は、トソン当人も、彼女のことを知っているネーヨも、話してくれない。
だから、彼女が『パンドラの箱』やジョルジュに対して狂気じみた拒絶を見せない理由も、わからない。
ほんとうの『拒絶』なら、それくらいはしそうなのに。モララーは思った。
しかし、いま、トソンの瞳は澄んでいた。
日頃からモララーを杜撰に扱っているトソンではあるが、このときは、真面目な顔つきをしていた。
それがわかったモララーは、ふん、と鼻を鳴らして、全身の強張った筋肉から、力を抜いた。
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- 778 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 13:01:33 ID:1b3aj7Fc0
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( ・∀・)「おまえも、なかなか面倒な性格、してんな」
(゚、゚トソン「あなたには負けます」
そう嫌味ったらしく言って、モララーは彼ら――ハインリッヒたちのほうに向いた。
怪訝な顔のアラマキ、何かを察しているゼウス、困り顔のハインリッヒ、倦怠な顔を浮かべるジョルジュ。
隅っこのほうで顔だけを覗かせるシィに、地面にうずくまる内藤。
いつものモララーなら、ジョルジュを見ただけで発狂しかねないのだが、
なぜかこのときは、平生を保って口を利くことができていた。
その理由がトソンにあるであろうことを、モララーは皆目見当がつかないでいた。
( ・∀・)「本当は」
从 ゚∀从「……?」
( ・∀・)「本当は、今すぐおまえたちをブッ殺したいんだぜ。本当だからな」
( ・∀・)「でも。なーんか、気分が削がれた。だから、帰るわ」
从 ゚∀从「……………」
モララーが、ポケットに突っ込んだ左手の代わりに右手をあげて、そう言う。
が、その間、ハインリッヒたちの間で、そう言われて顔の筋肉を和らげた者はいなかった。
三人とも、懐疑的な顔をして、モララーの動向をじっと見つめている。
モララーはくすぐったい感じがして、微笑した。
やっぱり、信頼されないんだよなあ、俺――そう思って。
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- 779 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 13:02:09 ID:1b3aj7Fc0
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( ・∀・)「確かに俺は【常識破り】さ。宣戦布告を破って強襲するほどには、な」
( ・∀・)「でも、さすがの俺も分別はつけるさ」
从 ゚∀从「……分別?」
そこでようやく、ハインリッヒが反応を見せる。
モララーは「おっ」と思い、ハインリッヒに向けて言葉を返した。
( ・∀・)「トソンがこんなだから。さすがに無視してたら、あとあと面倒なことになりそうだ」
(゚、゚トソン「どういう意味よ」
从 ゚∀从「……」
モララーが自然にそう言い、トソンも自然な形で横から割り込む。
だが、それを聞いてもやはり、ハインリッヒたちの心から疑心が抜けることはなかった。
むしろ、疑心暗鬼に拍車がかかり、いまから戦闘がはじまるのだ、と確信に近い予想をたてていた。
そんな三人の相手をすることすら無益のように思えたのか、モララーは浮かべた微笑を消した。
無表情になって、『拒絶』に稀に見られる冷たい声を放つ。
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- 780 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 13:02:45 ID:1b3aj7Fc0
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( ・∀・)「……じゃあ」
/ ,' 3「………」
( ・∀・)「俺、帰るわ」
( <●><●>)「………」
( ・∀・)「明日、楽しみにしてんぜ」
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( ゚∀゚)「………」
( ・∀・)「じゃあな」
そのとき、モララーの後ろのほうの草むらから、音が聞こえた。
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- 781 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 13:03:31 ID:1b3aj7Fc0
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◆
( ´_ゝ`)「ワタナベ、か」
アニジャは、納得した。
あらゆるものを『反転』する彼女は、時の流れをも、『反転』することができる。
言われてみて改めて考えると、彼女以外にこのクイズの答えにおける適任が、いないようにも思えた。
( ´ー`)「正直、ゼウスたちに殺られるまでは、気が気でなかったぜ」
( ´_ゝ`)「なぜだ?」
( ´ー`)「深い理由じゃあねえ。ただ、あいつも『拒絶』だからよ。
『拒絶』が『拒絶』でなくなっちまいそうで、むなしい感じがしたんよ」
顔色をおとなしくさせて、ネーヨは答えた。
だが、言うほど、彼女のことを想っていたわけではなさそうだ。
ただなんとなく、ワタナベが引き抜かれるのをおそれていただけのようだ。
しかし、その程度だったとしても、あのネーヨが他人を想うことが、アニジャにとってはおかしいように思えた。
だから答えられてもなお、アニジャは訝しげな顔をする。
ネーヨは溜息を吐いた。
( ´ー`)「なんでだ? 死んじまったりしたならまだ諦めがつくが、ヘッドハンティングだぞ。
俺かて、一応人間なんだ。思うところはあるわ」
( ´_ゝ`)「……そういう、もんなのか」
( ´ー`)「おめえならわかると思ったんだがよ」
わからないアニジャを見て、ネーヨが肩を落とす。
しかし、これは感性の問題だ。わからないなら、仕方がない。
そう思って、説得をするのを諦めた。
そこで、ふとネーヨは手を叩く。
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- 782 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 13:04:05 ID:1b3aj7Fc0
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( ´ー`)「あ、逆か」
( ´_ゝ`)「逆?」
( ´ー`)「おめえなら、よけいにわかんねえ問題だわな」
( ´_ゝ`)「?」
なんだと思い、アニジャが疑問符を浮かべる。
ネーヨは平生のまま、変わらない語調で続けた。
――話の雰囲気が一気に重くなるのに、表情はおろか、声色すら変えない。
ネーヨがそんな男であることを、アニジャは、すっかり忘れていた。
( ´ー`)「『拒絶』の天敵と手を組んでんのに、『拒絶』と仲良しこよしなおめえじゃあ、な」
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- 783 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 13:05:07 ID:1b3aj7Fc0
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(;´_ゝ`)「―――ッ!」
( ´ー`)「おい、どこに行く」
ネーヨが、言った。
その瞬間、体中の毛穴が逆立ち、汗が噴き出し、目がすっかり冴えていった。
自分の身にかかる重力が、とたんに強くなったような気がする。
背中も冷たくなるし、いま、自分が走っていることを、アニジャは理解するのに時間がかかった。
ネーヨの言葉と同時に、アニジャは、本能的に席をたち、バーボンハウスから飛び出したのだ。
なぜ、本能がそんな行動を指示したかは、正確にはわからなかった。
だが、とにかく、いまの言葉が聞こえた瞬間、アニジャのネーヨに対する耐性が、すっかり消えてしまったのである。
同時に、向こうも向こうで『拒絶のオーラ』を発したのだろうが、そうしなくとも、アニジャはこうして逃げ出していたはずだ。
バーボンハウスを飛び出し、獲物を待ち構えるくもの巣のように張り巡らされている裏通りを、駆け抜ける。
その間、アニジャは、ひとつのことしか考えていなかった。
―――どうして、ばれてしまったんだ!
そのことがわかった瞬間、自分の命の保障がなくなったように感じた。
いわば、自分は、裏切りの身なのだ。
決して『拒絶』たちに不利益を蒙らせるつもりではなかったが、彼らに言わせてみれば、裏切り以外のなにものでもない。
モララーを見ればわかるように、『拒絶』は、トソンを除いて、皆あの男にとてつもない拒絶を抱いている。
マッド・サイエンティスト、ジョルジュ=パンドラ。
『拒絶』というものを生み出してしまった、張本人に。
そしてアニジャは、ネーヨが言ったように、ジョルジュとただならぬ関係を築いているのだ。
ジョルジュが嘗て放った言葉――その名も《異常体質》。それが、全てを物語っている。
加えジョルジュは、アニジャに『拒絶』の観察を指示している。
これは言い換えると、『拒絶』計画に加担していることを表す。
『拒絶』計画に殺された=w拒絶』たちが、はたしてその計画に一枚噛んでいるアニジャを、好く思うだろうか。
それどころかむしろ、憎悪の対象とすらなるだろう。
『拒絶』にとっての拒絶すべき対象とされてしまえば、嘗てのハインリッヒやゼウスのように、
目もあてられない、悲惨な、拷問とも呼べるそれがはじまってしまう。
そして、ネーヨも『拒絶』のひとりだ。
彼は『パンドラの箱』に携わっていないが、だからといってアニジャのことをなんとも思わない、が通じるわけもないだろう。
以上を統合すると、そのことがばれてしまったアニジャがとれる行動は、ただ逃げる、しかなかった。
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- 784 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 13:05:45 ID:1b3aj7Fc0
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一方のネーヨは
( ´ー`)「……ったく。面倒なやつだ」
そうごちて、深く、呼吸をした。
弄んでいた空のジョッキを、コト、とカウンターに置く。
( ´ー`)「俺は、別におめえのことはなんとも思っちゃいねえ」
( ´ー`)「だけどよ、ほっといたら、モララーがおめえをグチャグチャにしちまうだろ」
( ´ー`)「だとすっとよ、俺に殺される方が、おめえにとってもいいわけなんだよ」
( ´ー`)「いつかはこのことを話して、俺に殺されてもらおうと思ってたんだがなあ……」
誰もいなくなったバーボンハウスで、ネーヨが独り言をつぶやく。
まるで、後ろにアニジャがいて、その彼に語りかけるかのように。
( ´ー`)「しかたねえな」
ネーヨは、重い腰をあげて、地に足を踏みしめた。
首の関節をこきこきと鳴らして、言う。
( ´ー`)「寄り道になっちまうが」
( ´ー`)「ゼウスたちを殺す前に、おめえを……」
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- 785 名前:同志名無しさん :2013/02/08(金) 13:06:28 ID:1b3aj7Fc0
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. アンラッキー
( ´ー`)「【 7 7 1 】を、殺させてもらう」
( ´ー`)「甘受しな」
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