- 709 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 17:57:55 ID:mYJBHJT.0
-
「……くそ……ッ!」
「あのやろう……よくも、俺を騙しやがって………!!」
「もう……なにもかもが、パアじゃねーか……」
「……は、ハハ……。」
「こいつが、仲間を裏切った、代償ってモンなのか……?」
「……いや、違う…。あいつがただ、裏切りの常習犯だった、ってだけだ……」
「俺は、悪くない……」
「俺は、なにもしてない……」
.
- 710 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 17:58:32 ID:mYJBHJT.0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
.
- 711 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 17:59:03 ID:mYJBHJT.0
-
○前回までのアクション
_
( ゚∀゚)
(*゚ー゚)
从 ゚∀从
/ ,' 3
( ^ω^)
→謎の空間から移動
( <●><●>)
( ・∀・)
(゚、゚トソン
→ゼウスの屋敷前で待機
( ´ー`)
( ´_ゝ`)
→バーボンハウス
.
- 712 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:04:42 ID:mYJBHJT.0
-
第二十七話「vs【771】W」
バーテンのいないバーなど、水の汲めない井戸と一緒ではないのか。
アニジャ=フーンは、誰も就いてないカウンターを見て、そう思った。
そこに水――酒はあるため、厳密に言えば「水が汲めない」のではなく「釣瓶がない」井戸、と言った方が正しいのだが。
どのみち、なにかが欠けていることに違いはなかった。
モララーの『常識破り』な行動が、トソンを駆り立てた。
――というより、ネーヨが動くわけにはいかないし、アニジャは彼を止めることなどできない、
そう考えると、彼女しかモララーを止めに行く人がいなかった。
そのため、トソンは問答無用で戦地に赴くしかなかったのだ。
別の視点から言えば、ネーヨは、モララーのせいで酒が呑めなくなった。
トソンと云う釣瓶なしで、どうやって地下水を汲めというのだろうか。
酒において、ネーヨは呑むことに関してなら多少の知識はあるのだが、如何せん注ぎ方など考えたこともない。
適当に入れておいしい酒を呑めるとは思ってはおらず、またおいしくない酒を呑みたいとも思っていないため、
ネーヨは自然のうちに、酒を呑めないようにさせられていたことになった。
彼は頬杖をつき、いつものように何か長考に耽っていた。
なにをすればいいかわからず、アニジャは扉の傍らでただ呆然と立ち尽くしていた。
当然、アニジャにとってネーヨとは、雑談にしゃれ込めるような相手ではない。
かといって彼は、一般人や一介の『能力者』相手なら戦えるとはいえ、とてもモララーたちのところに行こうとは思えない力量なのだ。
つまり、何もすることがない。
手持ち無沙汰を感じ、どうしようか、とずっと考えていた。
こんなとき、タバコや煙管などの嗜好品をもっている人なら手持ち無沙汰を考えなくて済んだ。
アニジャはこのときはじめて、そういった嗜好品の偉大さを思い知らされた。
今まで金を払って毒を喰らおうとは思っていなかったが、考えを改めようかな、とも。
――どのみち、バーボンハウスで喫煙はできないのだが。
( ´_ゝ`)「……」
その結論に至って、アニジャも長考をやめる。
やめる、というより、思考が結末にたどり着いたから自然と解けた、と云ったような状態だった。
.
- 713 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:05:14 ID:mYJBHJT.0
-
視線を前に向ける。
先ほどまで、このバーボンハウスではちょっとした騒ぎがあったのだ。
トソンがネーヨを攻撃して、しかしネーヨにはさっぱり効かず。
内藤が来るも、相手が『拒絶』であることを知らずに交流。
内藤が彼らの実態を掴めそうになった直後、モララーとアニジャの帰還。
モララーと内藤との対面で、全貌が明らかになった。
続けて、ネーヨの案で『拒絶』との全面戦争が打ち立てられ。
空いた時間の暇つぶしか、トソンが掃除をはじめて。
掃除から逃げようと思ったのか、モララーがトイレに籠もる。
しかし実はその隙に、モララーは三人のもとへと向かっていた。
それを知ったトソンが、彼を止めに三人のもとに向かった――
アニジャも、その後半の喧噪は知っていた。
目の前で、その不穏な空気を漂わされたのだから。
しかし。アニジャは思う。
どうして、ここまで、ネーヨは平生を保てるのだ、と。
自分たちを脅かす――『拒絶』を拒絶しようとする――連中が行動しているのにも関わらず、彼は眉ひとつ動かそうとしない。
それが、アニジャにとっては、不気味以外のなにものでもなかった。
が、それも当然なんだな、と諦めるようにアニジャは肩を落とした。
内藤が去る際言っていた言葉を思い出して、アニジャはなおも考える。
.
- 714 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:05:47 ID:mYJBHJT.0
-
『こっちもだお。じゃあ失礼するお』
『―――オール・アンチ』
そうだ。
そうなのだ。
彼は――ネーヨ=プロメテウスは、『オール・アンチ』なのだ。
スベテ ム シ ウチケ
『拒絶』を『拒絶』して『拒絶』してしまう、最強にして最悪の《拒絶能力》の持ち主なのだ。
『拒絶』狩りがはじまっていようが、その『現実』を涼しい顔で受け止める。
そうなった『因果』も受け入れるし、自分が『拒絶』であると云う『真実』や『運命』なんかも、当然甘受している。
そんな、ジョルジュの予想していなかった『拒絶』。それが、目の前の男である。
( ´_ゝ`)「(――ジョルジュ?)」
「ジョルジュ」と云うワードを浮かべたとき、アニジャはなにかがひっかかった。
どうしたのだろうか――と思ったところ、アニジャは「あ」と言って手を叩いた。
さまざまなアクシデントに見舞われ忘れていたが、自分はこの男に、用があったではないか、と思い出したのだ
すると、いま抱いていた畏怖が、どこかに消えた。
忘れないうちに、と、気まずい空気も無視して、アニジャはネーヨに口を切った。
( ´_ゝ`)「旦那、ちょっといいか」
ネーヨは、応えない。
だが、応えるような男でもない。
ネーヨの示す肯定とは、沈黙だ。
否定もまた沈黙で表すのだが――
.
- 715 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:06:32 ID:mYJBHJT.0
-
( ´_ゝ`)「外を歩いているとな、ひとつ、奇妙なことが起こったんだ」
アニジャがいつもと同じように言う。
話に興味が出てきたのか、ネーヨもようやく反応を見せた。
上体をアニジャのほうに向ける。
( ´ー`)「奇妙だあ?」
( ´_ゝ`)「ああ。ちーとばかし長くなるが――」
そこで、アニジャは少し前に記憶を遡らせた。
ジョルジュと偶然出くわし、シィに運ばれる、その前に。
嘗ての面影など感じさせない、すっかり寂れてしまった街。
吹き抜ける風がカラカラに乾いているように思える、不吉な雰囲気。
廃墟のなかの廃墟と言えたその街で、ある男と会ったこと。
その男が『能力者』だった、までならよかった。
問題は――
( ´_ゝ`)「あんたら――『拒絶』のことを、嗅ぎまわってるやつがいたんだ」
( ´ー`)「ほう」
思っていた以上に興味を持てるトピックだったようで、ネーヨは完全に態度を変えた。
黙って続きを促す。
.
- 716 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:08:43 ID:mYJBHJT.0
-
( ´_ゝ`)「それも、リッパな『能力者』だったぞ」
( ´ー`)「へえ」
ザ・クラッシュ
( ´_ゝ`)「能力名は……【集中包裹】」
( ´_ゝ`)「対象に、なにかを『抱擁』させる能力だ」
( ´ー`)「………、へえ」
( ´_ゝ`)「心当たりはあるか」
( ´ー`)「知らねえな」
ネーヨが即答する。
別に問答が面倒になった――というわけではなさそうだ。
そう聞いて、アニジャは不思議な気持ちになった。
『拒絶』を嗅ぎまわるなど、一介の人間ができることではない。
その情報を得ること自体難しいのに、ましてそれを知った上で
詮索をしようなど、普通の感性を持っていれば考えにくいことだからだ。
つまり、その人は特殊な存在となる。
そう考えると、ネーヨなら知っているだろう、とアニジャは睨んでいたのだが。
.
- 717 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:09:17 ID:mYJBHJT.0
-
( ´_ゝ`)「そうなのか」
( ´ー`)「聞いたこと、ねえよ。もっとも、それほど『能力者』に精通してるわけでもねえしな」
( ´_ゝ`)「そりゃあそうだが……」
( ´ー`)「そいつ、なんか言ってたか?」
唐突にそう訊かれて、アニジャは返答に窮した。
( ´_ゝ`)「……悪いな。問いただそうとしたら、勘付かれた」
( ´ー`)「そうか」
ネーヨが体勢を元に戻す。
カウンターに向かい、肘をついて。
( ´_ゝ`)「……まさか、あいつら以外であんたらと深い関係を持ってるやつがいるとか?」
( ´ー`)「あいつら?」
( ´_ゝ`)「ゼウスたちだ。あいつらは、まあ、こっちからコンタクトとったからいいんだけどな」
「しかし」と挟んで、アニジャは続けた。
( ´_ゝ`)「面倒な連中が……いるかもしれないんだろ。どうするんだ」
( ´ー`)「……どうしようかねえ」
大して気にも留めてない様子で、ネーヨが答える。
アニジャは、やはりこの男は楽観視が過ぎる、と思った。
自分のスキルに自惚れているのだろうか、それとも――
.
- 718 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:09:47 ID:mYJBHJT.0
-
( ´ー`)「……………もしかしたら、よ」
( ´_ゝ`)「ん?」
少し沈黙を挟んで、ネーヨが口を切った。
俯いていたアニジャは、顔をあげる。
ネーヨが、背中を通してアニジャに話した。
( ´ー`)「あいつら、じゃねえのか」
( ´_ゝ`)「あいつって……ゼウスたちか?」
( ´ー`)「違えよ。……ああ、そういや、おめえは知らねえのか」
( ´_ゝ`)「なんだ?」
ネーヨが、少しもったいぶる。
貴重な光景だとも思い、アニジャは必要以上に乗り気な姿勢を見せた。
それをネーヨも察する。
そしてそれほど、今の話題が興味深く、珍しいことも同時に察した。
だからか、ネーヨは少し話を盛り上げるような話し方をした。
すう、と息を吸って、先ほどまでよりやや大きな声で、強調するように
( ´ー`)「おめえがいなかった時、だ。いっぺんよ、襲撃喰らったんだぜ」
.
- 719 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:10:28 ID:mYJBHJT.0
-
( ´_ゝ`)「へえ」
(;´_ゝ`)「―――ッ!? な、なんだと!?」
予想通りの反応をもらえて、ネーヨは満足げな笑みを浮かべた。
それは同時に、不敵な笑みの方にも見える。
後ろにいるアニジャが、動揺して体勢を崩したのがわかった。
ついでだ、腰を抜かすつもりで続きを話そう、彼はそう思った。
特に深い意味はない。
ただの遊び心だった。
( ´ー`)「モララー、ワタナベが迎え撃ったがよ、呆気なく逃げられたな」
(;´_ゝ`)「しかも、よりによってその二人か」
続けて欲しかった反応をもらえたネーヨは、少しすっきりした。
もともと、晴らすほどストレスを溜めていたわけではなかったが――というより、
彼はそもそもストレスを溜めることすらないのだが――、気分的に清々しかった。
( ´_ゝ`)「どんなやつなんだ?」
( ´ー`)「俺の、古い知り合いよ」
( ´_ゝ`)「……え?」
.
- 720 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:11:38 ID:mYJBHJT.0
-
予想外の答えをもらって、アニジャは動揺したというより、疑問符を浮かべた。
ネーヨに古い知り合いと呼べる存在がいたことにまず引っかかったが、
それ以上にそんな存在から攻撃を受けたということにいまいちピンとこなかったのだ。
が、ネーヨは自分のことを話したがらない人だ。
ただその話が今まであがる機会がなかっただけで、
ほんとうはアニジャの思っている以上にネーヨは謎の深い男なのかもしれない。
そう、アニジャは考えた。
( ´ー`)「あいかわらず、なやつだったぜ。あいつもよ」
( ´_ゝ`)「……ちなみに、名は」
( ´ー`)「できれば、口にしたくねえな」
( ´_ゝ`)「悪い」
すぐさまアニジャが詫びる。
やはり、ネーヨにも思い出したくない過去のひとつや二つはあったのかもしれない。
触れてはいけない古傷に、触れてしまったか――?
しかし、ネーヨは大して気にしてなかったようだ。
いつも通りの、けろッとした顔で、のんびり続けた。
.
- 721 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:12:18 ID:mYJBHJT.0
-
( ´ー`)「別にいいんだけどよ。おめえも知っておいたほうがいい」
( ´ー`)「そいつは名がいっぱいあるんだが――おめえにもわかるように言えば、そうだな」
ネーヨが、短く言う。
( ´ー`)「カゲキ」
( ´_ゝ`)「っ!」
( ´ー`)「『英雄』の、親だ」
.
- 722 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:14:59 ID:mYJBHJT.0
-
◆
从'ー'从『きれいでしょ〜?』
( ・∀・)『……』
(´・ω・`)『やあ。……なにやってんの』
从'ー'从『あ、へちょむくれ〜。いまさ、最近のボクのシュミ見せてるんだ』
(´・ω・`)『妙だな。モララーが完全にきみを軽蔑するような目をしていないか?』
バーボンハウスの店内、淡い光がカウンターや客、バーテン、そして背景と化しているボトルを照らす。
カウンターには右端から三番目に、ネーヨが。
二つ左に空けた先に、モララー。ひとつ更に空けて、左にワタナベが座っている。
ネーヨは相変わらずの姿勢で、バーテンの位置に立っているトソンもやはりいつもどおりだ。
違ったのはワタナベで、ひょんなことがきっかけで、モララーにあるものを見せていた。
が、モララーも平生とは違っていた。いや、『異常』を与えられた、というほうが正確である。
街の徘徊、『能力者』の虐殺にも飽きたショボンが戻ってきたとき、モララーの顔は、異様なものとなっていた。
扉をくぐると同時にそれに気づいたショボンが、着ていたコートを脱ぎつつ、問う。
脱いだコートは傍らのコートスタンドにかけた。
背後から返ってくる声に、耳を傾ける。
.
- 723 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:15:43 ID:mYJBHJT.0
-
从'ー'从『そんなことないよ〜。ね、モララー?』
( ・∀・)『……』
(´・ω・`)『……気になるな。僕にも見せてくれ』
从'ー'从『はいはいっと』
二人の間、不自然に空いた席にショボンが割り込む。
この席の空白の理由は、モララーが、ワタナベを――それも、アルコールの場で――好く思っていなかったからだ。
そこにショボンが入ったとき、彼も、モララーと同じような顔をした。
眼球を、数ミリ前に押し出したくなる衝動に駆られる。
すると、心なしか臭いも若干漂ってきた。
香水などのそれではない、紛うことなき異臭だ。
ショボンは、席に腰を下ろすことも忘れ、ただ呆然とそれを見尽くした。
モララーと同じ反応を見せられたため、ワタナベは不審に思った。
彼の顔色を窺いながら、のんきに口を開く。
从'ー'从『いやあねえ。生態系をいじるって、楽しいね〜』
(´・ω・`)
从'ー'从『どう、それ。傑作だと思うんだけど』
(´・ω・`)
(´・ω・`)『………やっぱり、僕ときみとじゃあ、感性ってものは分かち合えないようだ』
( ・∀・)『ほらな』
从'ー'从『なんでだよボケ糞ヤローどもが』
その言葉を待っていたかのように、ショボンにあわせてモララーもようやく口を開いた。
ワタナベは気性をころッと変えて、二人に食ってかかる。
そして、「それ」を手にとって、ショボンの眼前に突きつけた。
.
- 724 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:17:11 ID:mYJBHJT.0
-
从'ー'从『よく見ろよ包茎短小クソが。可愛いだろ、この蟲』
(´・ω・`)『おかしいな。この店はきれいなはずなのに』
( ・∀・)『違う。これは、コックでローチな虫では、断じてない。
突然変異を起こした、謎の生命体・エックスだ』
从'ー'从『なべちゃん三十二号って名前があるのに、センスの悪い名前、つけないでもらえる〜?』
( ・∀・)『……これがはじめてじゃねーのかよ』
(´-ω-`)『興醒めだ。酒だけ呑んで、帰らせてもらうよ』
そう言って、ワタナベの握っていた蟲を、睨んだ。
足が十七本あるが、一組として対となっているものはない。
触角も、背中――なのだろうか――から不規則に七本生えている。
いや、触角だけではない。
眼、口、生殖器、分泌液の放出口――と、あらゆるものが不規則に点在していた。
生物として認識できない物体だが、それは時たま足や眼を動かしたり、フェロモンなのだろうか、異臭を放ったりもした。
これが臭いの正体か――そう思い、ショボンは肩を落とした。
今の会話を見てわかるように、ワタナベは、日頃からこのような生物をつくり、弄ぶ趣味があった。
話に聞くだけでショボンやモララーは嫌な顔をしていたが、まさかここまでとは、二人も思っていなかったようだ。
モララーも、これを見せられたとき、『拒絶』でありながら精神がえぐられそうな錯覚に陥ったものだ。
.
- 725 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:17:43 ID:mYJBHJT.0
-
从'ー'从『せっかく久々に四人そろったんだし、ゲームやろうよ。
あ、そうだ、大富豪やらない〜? 都落ちありでさ』
( ・∀・)『四人……ねえ』
モララーは、店内は見渡さずとも、脳内でそれを再現する。
モララー、ショボン、ワタナベ、トソン、そして――ネーヨ。
人数としては五人いるが、ワタナベは、四人と言った。
そして、そう言う理由も、なんとなくではあるが、わかっていた。
――ワタナベは、ネーヨと、関わりたくないのだ。
それどころか、彼を人間として受け付けたくないほどだ。
だから、それを露骨に強調して口にすることで、自分は
彼となんら関係を持っていない、と再認識したいのである。
ネーヨがすぐそこにいるが、こんな声じゃあ考察中の彼の耳に
届くことはないし、仮に聞かれたとしても、ネーヨはなんとも思わない。
そうわかっているからこその、発言だ。
.
- 726 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:18:27 ID:mYJBHJT.0
-
(´・ω・`)『冗談じゃない』
从'ー'从『あ』
ショボンが、トソンから差し出された赤い酒をのどに通すと、そう言った。
直後、ワタナベが頭――らしき箇所を撫でていた物体が、消えてしまった。
心なしか、先ほどまで三人を包んでいた異臭も、消えたように感じた。
なぜいきなり消えたのか。
ワタナベもモララーも、なにを言われるでもなく、すぐに原因を突き止めた。
从'ー'从『てめえ、ブッコロされてぇのか? あ゙あ!?』
(´・ω・`)『うるさいよ、きみ』
(´・ω・`)『「そんな蟲はこの世に存在しない」。当然の「現実」じゃないか、甘受したまえ』
. エ ソ ラ ゴ ト
( ・∀・)『相変わらず【ご都合主義】なやつだ』
从'ー'从『……しかたないなあ。ナベちゃん機嫌がいいから、許したげる』
(´・ω・`)『はは。全くを以て嬉しくないね』
从'ー'从『なべちゃん三十三号、どうつくろうかな〜』
.
- 727 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:19:28 ID:mYJBHJT.0
-
( ・∀・)『……』
(´-ω-`)『……ふぅ』
ショボンの行動にワタナベが怒り狂うかと思ったが、存外そうはならず、ワタナベは自己完結しておとなしくなった。
そして先ほどまであんなに騒がしかったワタナベが黙り、次いでモララーも、黙る。
ショボンも静かになって、ゆっくり、酒を呑んだ。
自分が扱っていた酒だけあって、その味は格別なものだった。
都心の、最高級なバーよりも味の自信はあったほどだ。
が、空気が――
『拒絶』の空気がはちきれんほどに充満しているため、とても一般人は寄り付かないのだが。
そのため、バーボンハウスは隠れた名店としてすら売れることはなかった。
ただ、裏通りに居つくハイエナたちが、ここを利用する程度だ。
どうやら、裏通りでは、このバーボンハウスは都市伝説のようなものとして知られているようだ。
理由はわからないが、考えられるとすれば、店の外からでも感じられる『拒絶のオーラ』を
妖しげな雰囲気として捉えた誰かが、ここを名店と勘違いして広めた――
せいぜい、そんなことだろう。ショボンにとってはどうでもよかった。
(´・ω・`)『……』
ちらりと、扉を見やる。
もはや『拒絶』と云う己の同胞くらいしか常連がいなくなった店ではあるが、
やはり元店主としては、客が来るとそれなりに感慨深いものが生まれるのだ。
いまは、行くあてのないとされるトソンを引き取る形で自分の弟子にしたが、ショボンの店であることにはかわりがない。
『拒絶』であるショボンだが、やはり人間味を感じさせる一面も持っているのだ。
だから、こうして扉がゆっくり開かれたときなんか、ショボンはなんともいえない胸の昂揚を感じる。
.
- 728 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:20:30 ID:mYJBHJT.0
-
(´・ω・`)『――へ?』
从'ー'从『うわ。客きたし』
( ・∀・)『珍しいこともあるもんだ』
――開かれるはずがないと思っていた扉が開かれて、ショボンは「え」と思った。
続けてワタナベ、モララーも形は違えど同じような反応を見せた。
トソンが目を閉じながら、ばれないように客に酒を提供する準備をする。
席は、ワタナベの隣に二つと、モララーとネーヨの間の二つ、ネーヨの右にある幾つかが空いている。
この人は、やはり一番右端に座るのだろうか、それとも――
と、自然のうちに推理をしていたショボンは、呆気にとられた。
その人が、にんまりと笑ったかと思うと、ショボンたちの背中に在った壁を、殴ったのだ。
轟音を響かせながら、壁を崩し、煙をあげる。
ぱらぱら、と壁の破片が床に落ちてはじめて、彼らは事の『異常』を感じた。
( ・∀・)『なッ――!?』
(´・ω・`)『うるさいね』
最初に動いたのは、ショボンだ。
その、いきなり破壊活動に入った人を見て、落ち着き払ったまま、冷静に対処しようと思ったのだ。
『その人の目の前に立っていた』ショボンは、そのまま『その人の動きを完全に止めた』。
エ ソ ラ ゴ ト
『現実』を好き勝手に操作する――【ご都合主義】。
.
- 729 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:22:46 ID:mYJBHJT.0
-
遅れて、モララーとワタナベも、それぞれが席から降り、その人に近づいていった。
モララーは雰囲気を壊されたことによる憤り、ワタナベは単なる好奇からなった動きだ。
『動けなくなった』その人に近寄り、顔を覗き込む。
不敵な笑みを浮かべた、人だった。
背は高く、肩幅も広く、腕は太くて、首周りにも筋肉が行き届いている。
ネーヨ以上にがたいの良い人ではあったが、顔つきからして、女性であることがわかった。
そうとわかって、ワタナベは「ひゅ〜」と歓声をあげた。
これは面白そうだ――そう思ったのだろう。
从'ー'从『あらあなた、……っふふ』
( )
从'ー'从『気に入った。ねえ、ボクと一緒に遊ばない? もしよかったら、名誉あるなべちゃん三十三号の――』
( )
ワタナベが更に近寄り、口付けでも交わすのかと思うほど距離を詰めたときだった。
『動けなくなった』はずの女が、左の拳で、ワタナベの顎を下から突き上げた。
.
- 730 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:23:59 ID:mYJBHJT.0
-
从゚ー 从『―――ッ!』
( )『フン。思ってたより、弱いねェ』
女はそして、両手でショボンとモララーをそれぞれ掌で突いた。
が、攻撃ではなく、ただ距離をとりたかっただけなのだろう。二人を突き放した。
モララーは反応を見せるが、ショボンは胸に残る霞を感じ、ただ呆然としただけだった。
(´・ω・`)『………なに?』
( ・∀・)『なにが起こってるかわからんが――頭にきた。「おまえは、もう死んでいる」ってのによ』
( )『 』
モララーが落ち着き払って、そう『嘘』を吐いた。
直後、女はわけのわからないまま、地面に突っ伏した。
フェイク・シェイク
『真実』をうやむやにして『嘘』を混ぜる――【 常識破り 】。
.
- 731 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:25:07 ID:mYJBHJT.0
-
それを見て、モララーは女の後頭部に足を乗せる。
そして、ショボンに、奇妙な顔をして話しかけた。
( ・∀・)『おい、ショボン』
(´・ω・`)『…………なにかな』
( ・∀・)『おまえ、いまちゃんと使ったんだよな、スキル』
(´・ω・`)『当然じゃないか。あ、踏み潰さないでくれよ。いまからとことん遊んでみたいんだ』
ショボンも平生を取り戻したようで、そう言う。
女の頭を踏み潰そうとしていたモララーが、笑いながら足をのけた。
( ・∀・)『そうかいそうかい。ワタナベに変わらず、おまえもシュミ悪いわ』
(´・ω・`)『ほっといてくれないか』
( )『先にアタシに殺されるか、アタシに遊ばれるか……』
( )『どっちがいいんだい?』
(´・ω・`)『なにを急に言――』
(;´・ω・`)『――なにッ!?』
(;・∀・)『なんだとッ!? てめえ――』
.
- 732 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:26:40 ID:mYJBHJT.0
-
二人は、先ほどまでとは一転、心の底から驚愕を感じた。
だが、それも当然といえば至極当然だった。
ショボンの【ご都合主義】を受けて、動けなくなったのに。
モララーの【常識破り】を受けて、死んだのに。
その女性は、どうしてか、ごく普通に起き上がり、立ち上がったからだ。
こんなことは、普通では、まずありえない。
彼らの言う『嘘』や『現実』を生身で浴びてなお健康体でいられるなど、ネーヨ以外では考えられないのだ。
そのため、モララーはスキルは使わず、拳を握り締めて女に飛び掛った。
ショボンやワタナベとは違い、モララーは格闘技術にも長けているのだ。
単なる技術だけなら、ネーヨにも圧勝する――それはただ、ネーヨが技術を知らないだけなのだが――。
そんな拳が、女の眼前にまで迫った。
だが、このとき、二人の間に『異常』が起こった。
( )『 喝 ッ ! 』
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- 733 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:27:21 ID:mYJBHJT.0
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(;・∀・)『おわッ!』
(´・ω・`)『……!』
女が叫んだかと思うと、眼前にまで迫っていたモララーは、飛び掛る前の位置でしゃがみこんでいた。
重力に耐えかねて腰を地に下ろしたかのような体勢だった。
それを見て、いよいよショボンも、いまがただ事ではないことを、察した。
同時に、現状把握に努めていたワタナベも、同じ結論に至った。
カウンターの向こうで一部始終を見ていたトソンも、目だった動きは見せなかったが、
この決して起こるはずのなかろう現状を前に、冷や汗が垂れるのを防ぐことはできなかった。
言うまでもないだろう。
―――何者かによる、襲撃。
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- 734 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:28:09 ID:mYJBHJT.0
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从゚ー゚从『あっはははははははははははははははッッ!』
( )『ッ』
怒り狂ったワタナベが、モララーよりも速い動きで右に躯を回転させながら、迫った。
女が、その動きを見切って、しゃがみこむ。
彼女の頭上僅か数センチのところを、ワタナベの裏拳が通り過ぎていった。
空気を切る音が今の裏拳の破壊力を物語るが、当たらなければ意味がない。
从゚ー゚从『いいねェ、キミィ!!』
( )『……面倒――』
( ・∀・)『おっと。舌噛むぜ』
( )『!』
右に一回転したワタナベが、女と面と向き合って対峙する。
が、それもほんの一瞬。直後、ワタナベの掌底が、右と左の二つ、同時に放たれた。
その掌に狙われた女だが、攻撃の死角を見抜き、両腕を胸の前でエックス字に交差させる。
ワタナベの掌がその腕を通り過ぎた直後、腕をそれぞれ外側に向けて弾くように振るのだ。
だが。弾くと同時に、モララーが動いた。
体躯を低くして、女の腹に拳を向ける。
両手はワタナベの対処に使い、脚ではその拳の防御に間に合わない。
モララーも、この一発で、女の腹を貫くことができるだろう――と、思った。
しかし。女が、口を開く。
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- 735 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:29:02 ID:mYJBHJT.0
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( )『喝!』
( ・∀・)『――チッ!』
「喝」と唱えると、モララーはやはり飛び掛る前にいた位置で、同じように体躯を落としていた。
力が抜けるような感じ≠ェしつつも、すぐに脚に力を入れて立ち上がる。
原理こそわからないが、これは女の《特殊能力》に違いない――モララーもワタナベも、そう推理する。
そう思った瞬間、二人の『拒絶』を宿す心に、火が点いた。
『拒絶』特有の、狂気を感じさせる笑みを浮かべ、女に向かった。
だが、次の瞬間、彼らの耳に強く残る、大きな声がバーボンハウス店内に響き渡った。
無機質な音ではない。人為的な――声だ。
( ´ー`)『うるせえと思ったら、なにやってんだおめえたちは』
先ほどまでぼうっとしていたネーヨが、ようやく、事態に反応できた。
それまでは、砕かれた壁の音や女の怒号など、あらゆる音が聞こえていなかったようだ。
頭を掻きながら、のっそりと、ネーヨは振り返る。
モララーもワタナベも女も、傍らにいたショボンやトソンも、ネーヨの顔に注目した。
それほど存在の大きな男なのだ、ネーヨ=プロメテウスとは。
少し間を挟んで、我に返ったワタナベが口を利いた。
ファイティング・ポーズ――掌底を今すぐにでも放ちそうな体勢――のまま、顔だけネーヨのほうを向けて。
从'ー'从『聞いてよネーヨちゃん〜。このダボがね――』
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- 736 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:29:45 ID:mYJBHJT.0
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だが、彼女が全てを言い終える前に、女が反応した。
( )『……おや。あんたかい』
( ´ー`)『どっちのセリフだ。酒呑みの恨み、でけえぜ。覚悟できてんのか?』
从'ー'从『そうそう、酒だけに避けられないぞってなんでやねーん!』
(´・ω・`)『……おや』
( ・∀・)『どうやら……お知り合い、みてーだな』
从'ー'从『ムシすんじゃねーよテメーら』
ネーヨが、ジョッキをカウンターに強く叩きつける。
萎縮し続けなトソンが、それを受け取って慌ててビールを注ぐ。
その間も、ネーヨと女は睨みあっていた。
ネーヨの機嫌を窺おうとしたのか、ただの世間話なのか――
女は、何気ない様子で口を開いた。
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- 737 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:31:04 ID:mYJBHJT.0
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( )『許しておくれよ。そこの道を歩いてたらさ、こっからえげつない空気を感じてねェ』
( ´ー`)『はあ?』
( )『で、入ってみたら、なんだいここは。思わず吐きそうになったよ。
. イライラしたもんだからねェ、つい壁を殴っちまったのさ』
( ´ー`)『すぐにものに当たる癖、なんとかできねえのかよ、カゲキ』
( )『未だにそんな名で呼ばないでおくれ。よそよそしい』
( ・∀・)『(カゲキ……妙な名前だな)』
ネーヨが口を利くようになり、相対的に口数の減った――なくなった残り四人は、ただ静かに、二人の会話を聞いていた。
二人が思っていたよりも旧知のなかであることを、なんとなくではあるが察した。
そして同時に、ワタナベとモララーをいなしたり
【ご都合主義】や【常識破り】に打ち勝ったことにも、理屈こそわからなかったが、合点がいった。
彼らの視線などお構いなしで、二人は会話を続ける。
一見穏やかで、しかし殺気と拒絶で張り詰めている空気だ。
気を抜くと、その混沌とした雰囲気に呑みこまれそうだった。
( ´ー`)『俺はおめえの事が大嫌えだからよ。ほんとうなら、今すぐ、ぶっ殺すところなんだがな』
( )『短気なアンタが、珍しいねェ。変な風でも吹いたのかい』
( ´ー`)『違えよ。酒がまずくなんだ。ただ、それだけだ』
( )『助かったよ。さすがのアタシも、アンタと殴り合いなんてしたら、アブナいからねェ』
( ´ー`)『よく言うぜ』
トソンから差し出されたビールをぐいッと呑んで、ネーヨが言った。
唇についた泡を乱暴に拭って、顔をあげる。
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- 738 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:31:40 ID:mYJBHJT.0
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( ´ー`)『――で』
( )『なんだい』
( ´ー`)『なんだい、はこっちのセリフだっつうの』
( )『意味がわからないね』
( ´ー`)『そうか。じゃあ、はっきり言うぞ』
( ´ー`)『扉の向こうに立ってる男も、中に入れろ』
( )『……ばれてたのかい』
( ・∀・)『………へ?』
そこで、モララーが首を傾げる。
二人の会話に、テレパシーでも会話に交えたのか、話さずして話されたトピックがあったため
モララーは、話の内容についていけなくなったのだ。
それを察して、先ほどまで口を開かなかったトソンが、モララーに近寄り、そっと耳打ちをする。
(゚、゚トソン『つまり、偶然ここに来た――とかいう話は嘘だってことですよ。それをネーヨさんが見抜いただけで』
( ・∀・)『ほーん』
(゚、゚トソン『言い換えると、やはりこの人は――』
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- 739 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:32:49 ID:mYJBHJT.0
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(´・ω・`)『強襲にきたってことで、間違いはないってことだね』
( ・∀・)『ッ!』
次の瞬間、ショボンが事情を把握したようで、手を真上にぴんと伸ばした。
そして指を弾き、パチンと音を鳴らす。
すると、ネーヨと睨みあっていた女の隣に、男が現れた。
『ここにその男はいる』という『現実』が成した一連の出来事だった。
唐突に呼び出された男は、一瞬、落ち着きをなくす。
が、四方八方を『拒絶』に囲まれたのを確認して、男はすんなり現状を理解したようだ。
「襲撃に来たのがあっさりばれて、自分が隠れていることもあっさりばれ、不思議な力でここに招かれた」という現状を。
男は、ふう、と溜息を吐いた。
懐に手を伸ばし、棒状のものを取り出す。
当初、それがピストルかなにかなのか、とトソンは警戒したが、実際は違った。
男は、ただ、キセルを取り出したかっただけだった。
それを加えようとして――トソンが口を開いた。
(゚、゚トソン『強襲に来た人にこんなこと言うのもおかしいですが――当店は禁煙です』
言われて、男は少しムッとした顔をしたが、思いのほか素直にキセルを懐に戻した。
自分たち『拒絶』と仲良くできそうにない男だが、聞き分けだけはよさそうだ。
そして男は、俯けていた顔を、あげた。
店内の淡い光に照らされた顔は、どこか、大人独特の「渋み」を感じさせた。
爪'ー`)
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- 740 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:33:46 ID:mYJBHJT.0
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( ´ー`)『……もう一度訊こう、カゲキ』
( )『なんだい』
( ´ー`)『なんの用だ。酒を呑みにきたんでなけりゃあ、いますぐ追い返すぞ』
( )『敵意はないよ。アンタがいるなんてことを知らなかった、ってのはほんとうなんだからね』
爪'ー`)『なんだ、知り合いか』
( )『昔の、ね』
黒いロングコートを羽織り、その内側にはこげ茶色のスーツを着込んでいる男が、低く渋い声を放った。
だが、そんなダンディズムに満ちた風貌とは違って、齢三十前後を彷彿とさせる顔つきをしていた。
そんな彼は女の仲間のようで、問われて、女は素直に答えた。
なんだかはぐらかされているような気がして、ネーヨは苛立ってきた。
何度も言うように、彼はストレスを抱くような人間ではないが、それとはまた別の苛立ちが、彼を急き立てるのだ。
カウンターを背にして、腕を組み、大きくした声でもう一度、ネーヨは訊いた。
( ´ー`)『あいにく、俺は昔話が嫌えなんでね。もう一度訊くが、答えなかったら問答無用で殺すぞ』
( )『ああ怖いね。これだから男ってのは面倒なもんだ』
爪'ー`)『おれたちは好きでこんな気持ち悪い連中に会いにきたんじゃないってのにな』
女が、続けて男が言う。
聞くに聞けなくなったワタナベが抑えられなくなったのか、右の掌底を突きつけようとする。
だが、その前に、女が口を開いた。
( )『なーに。ただのスカウトさ』
( ´ー`)『………はあ?』
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- 741 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:34:35 ID:mYJBHJT.0
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聞きなれず、予想すらしていなかった言葉を放たれて、ネーヨは籠めていた力がすッと抜けた。
女は、続ける。
( )『アタシもね、アンタたちと会わなくなってから、いろいろやってるってことさ』
( ´ー`)『ほーん』
爪'ー`)『「能力者」スカウトの旅のさなか、この店から猛烈なオーラを感じてね。
ここには、イイ「能力者」がいると思ったんだが――』
( )『壁を砕いたのは、アンタらが遣えるかどうかを試したってだけさ』
( ・∀・)『試した……ズイブンと勝手な連中じゃねーか』
ネーヨは合点がいった。
この二人は、なんらかの理由で、遣える『能力者』を集める旅をしているようだ。
その矢先で、このバーボンハウスから漂うただならない空気――『拒絶のオーラ』を感じ取った。
そこで女は、偶然を装って、そこにいるであろう『能力者』に喧嘩を売り、
あえて自分を攻撃させることで、その人たちの程度を計ったのか、と。
しかし。それに付き合わされたモララーたちにとっては、それはただの迷惑だ。
当然、そんな事情があったからといって、強襲が強襲でなくなるわけでもないし、記憶が改竄されるわけでもない。
むしろ、自分勝手な行動をされて、憤りを強く感じさせられた、といったところだ。
どんな合図をしたのか、モララーとワタナベの気持ちがひとつになったようで、二人の呼吸があってきた。
それを女と男も察したようで、まくし立てるように男が言った。
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- 742 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:35:20 ID:mYJBHJT.0
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爪'ー`)『悪いが、ここにおれたちのお望みはいなかった。帰らせてもらうぜ』
同時に、逃げるように、扉に手をかける。
が、そのとき、男は後ろの肩甲骨あたりに、柔らかいものが当たっていることに気がついた。
次いでやってくる仄かな体温、シャンプーの香り。
鼻が利いたところで、自分の背中に少女――ワタナベがもたれかかっていることがわかった。
ワタナベが、一瞬で距離を詰め、男にもたれかかったのだ。
そして、彼の耳元に、吐息をかけるように甘く優しい声で残虐な言葉をかける。
从'ー'从『還さねえよ』
爪'ー`)『ッ』
男は、はッとした。
気がつくと、先ほどまで目の前に扉があってすぐ後ろにワタナベがいたのが、
目の前にワタナベが現れてすぐ後ろには誰もいなくなっていた≠ゥらだ。
よく見ると、自分の位置も僅かだが後ろに――先ほどまでワタナベが立っていた場所に――下がっている。
以上を統合して、男はいま自分の身に何が起こったのかを、判断した。
爪'ー`)『おれとあんたの位置を入れ替えたのか』
从'ー'从『「能力者」探しの旅みたいだけど、相手が悪かったね。あなたは今からここで死ぬの』
爪'ー`)『やれやれ、性格がころころ変わるな』
そう言われて、ワタナベはにんまりと笑った。
「その通り。よくわかりましたね」と彼女は思った。
イレギュラー・バウンド
概念から形而上の存在まで全てを『反転』する――【 手のひら還し 】。
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- 743 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:36:11 ID:mYJBHJT.0
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二人のやり取りを後ろから見ていて、女は溜息を吐いた。
続けて「確かに相手が悪かったよ」「面倒さね」と、二言発した。
彼女にあわせて、ネーヨが口を開く。
( ´ー`)『運が悪かったようだな、カゲキ。こいつらに目ェつけられたら、確かに健康体のまま帰るんは無理だわ』
( )『そうかい』
( ´ー`)『――のわりには、ずいぶんと余裕みてえじゃねえか。どうしたんだ、諦めたのか?』
『拒絶』たちに囲まれ、絶体絶命の窮地であることをわからされてなお、女は顔を変えなかった。
少しくらいは絶望を感じさせるような顔をしてもいいのに。ネーヨはそう思うと、違和感を感じた。
ネーヨの質問に、女が答える。
( )『アタシらがアンタらを嘗めたみたいに、アンタらもアタシらを嘗めてたってことさね』
( ´ー`)『よくわかんねえな』
( )『アンタらもなかなかな「能力者」のようだけど――』
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- 744 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:36:46 ID:mYJBHJT.0
-
爪'ー`)『おれたちも、結構ヤるぜってことさ』
从'ー'从『ッ!』
渋い男と対峙していたワタナベは、そのとき、驚愕に見舞われた。
確かに目の前で取り押さえていた獲物が、気がつけば、
バーボンハウスの扉を開け、外に立っていた≠フだ。
瞬間移動や、瞬間的な高速移動ではない。
最初からそこにいたかのような=Aそんなように窺えた。
ショボンの『現実』やモララーの『嘘』とはまた違う、能力がもたらす作用。
ワタナベは、どうして彼に逃げられたのか、わからなかった。
( ´ー`)『ほう』
( ・∀・)『おまえ、なんなんだ』
爪'ー`)『おれかい? 通りすがりのフォークシンガーさ』
ワタナベと同じく不審に思ったモララーが、訊く。
しかし、男はまともに答えようとはしなかった。
ただクールに、且つ適当にそう答えただけだった。
そして顔の向きを変え、男は女に言った。
爪'ー`)『おれは殺されたくないからな。先に帰るぜ』
从'ー'从『……だから、還さないって言ってるじゃんよぉ!』
男の言葉に、動揺をなんとか振り払ったワタナベが、食いついた。
足取りを進めようとする男に、ワタナベが飛びかかる。
.
- 745 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:37:20 ID:mYJBHJT.0
-
――が。
爪'ー`)『おれはな、』
从゚ー'从『ッ!!』
飛び掛ろうとしたワタナベは、右脚が付け根からもがれていた≠アとに気がついた。
鮮血を店内にばらまきながら、ワタナベは志半ばで床に伏す。
その間、ゆっくり歩きつつ、男は、口を開いた。
爪'ー`)『こう見えて、』
フ ラ イ ン グ
爪'ー`)『【 不意討ち 】が得意なんだ』
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- 746 名前:同志名無しさん :2013/02/04(月) 18:37:54 ID:mYJBHJT.0
-
( ・∀・)『フライング………ッ』
あまりに唐突の攻撃に気が動転したのか、ワタナベは意識を自立させることはできなかった。
幾つもの感情が絡まりあい、うねりをあげ、混沌とした空間を脳内に築き上げる。
そのせいで、《拒絶能力》を用いて反撃をすることが、できないでいた。
自分が脚をもがれ、そのうちに悠々と男に逃げられる――
そんな現状をワタナベが把握しきれていないうちに、男は涼しい顔で言う。
从; ー゚从『ガ―――ッ』
爪'ー`)『どんなに強い人でも、絶対抗えないものがある。それを置き土産に、帰らせてもらうぜ』
ワタナベに背を向け、男は歩き始めた。
爪'ー`)『たとえ世紀の喧嘩師でもな―――』
爪'ー`)『時≠ノは、抗えないんだよ』
.
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