667 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 16:52:23 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
 
 
    「彼女は」
 
 
    「彼女ォ?」
 
 
    「ヘーラーのことだ」
 
 
    「ああ、アイツ?
.     ……ばらした、よ」
 
 
    「……ばら、した…?」
 
 
    「まんまの意味よ。
.     それよりも、だ」
 
 
    「話を逸らすな。ヘーラーは――」
 
 
    「――俺ら、もうおしまいだぜ。
.     俺もプロメテウスも。
.     で、お前もだ、………ゼウス」
 
 
    「……なに………?」
 
 
 
 
 
 
.

668 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 16:53:08 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
○登場人物と能力の説明
 
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
 
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
 
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
 
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
 
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
 
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
 
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
  _
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
 
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
 
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
 
 
.

669 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 16:53:41 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
○前回までのアクション
  _
( ゚∀゚)
从 ゚∀从
/ ,' 3
(*゚ー゚)
→謎の空間
 
( ^ω^)
→謎の空間で『異常』
 
( ・∀・)
(゚、゚トソン
( <●><●>)
→対峙
 
( ´ー`)
( ´_ゝ`)
→バーボンハウス
 
 
.

670 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 16:54:24 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
 
 
 
   第二十六話「vs【常識破り】Z」
 
 
 
 脅威となる対象のその度合いがあまりにも大きすぎて、抱くべき畏怖を逆に抱かなくなることがある。
 度合いが大きすぎて、対象の存在そのものに現実味が薄れ、いまいち実感を掴めなくなるためである。
 
 そして、今のハインリッヒがそうだった。
 今回の場合、説明不足、もそれに含まれるのであろうが――
 端的に、且つ簡潔に説明するとなれば、この一言以上に適したものは、ない。
 そのため、どの道、一度聞いただけでは誰も到底理解できそうになかった。
 
 
从;゚∀从「は―――」
 
 
 
 
从 ゚∀从「………ハ?」
  _
( ゚∀゚)「……意味がイマイチ、伝わってねえみてーだな」
 
 それはジョルジュも理解していたようで、そう付け加えた。
 わかってんのかよ――と、ハインリッヒは憮然とした表情を浮かべた。
 
 
从 ゚∀从「一言に『なにも効かない』って言われてもだな、」
  _
( ゚∀゚)「この世には『百聞は一見に如かず』っつー便利な言葉がある」
 
从;゚∀从「ハァ?」
 
 
.

671 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 16:54:54 ID:w2Vd1AHQ0
 
  _
( ゚∀゚)「この話――前座は、仕舞いだ。本題に入るぜ」
 
从;゚∀从「お、おい。スッキリしねーだろが、ボケ!」
 
 その「一見」がなければ対象の脅威を完全に知ることはできず、
 またその脅威を完全に知らなければ対象のことを完全に知ることもできないと考えたため、
 ジョルジュはそう早口で言ってはその話を切り上げた。
 
 この話は、自身で言うように、前座に過ぎなかったのだ。
 
 ハインリッヒが未練を感じ追究しようとするが、ジョルジュは彼女のクチに掌を突きつけた。
 彼女は思わず、クチを噤んでしまった。
 
 
/ ,' 3「えらく、なが〜い前座じゃったの」
  _
( ゚∀゚)「まあ、こんがらがった話なんだ。許してくれ」
 
/ ,' 3「ええからとっとと言わんか」
  _
( ゚∀゚)「わぁーってら!」
 
 アラマキが皮肉りつつそう促すと、面倒くさそうにジョルジュは返した。
 耳を大げさに塞いで、大きめの声でアラマキを制するように。
 
  _
( ゚∀゚)「言いたいことは、ただひとつだけだ」
 
/ ,' 3「……」
 
从 ゚∀从「…チッ。言ってみろ」
 
 ハインリッヒに促されるまでもなく、ジョルジュはクチを開いた。
 一旦目を瞑り、深く息を吸ってからの言葉だった。
 
 
.

672 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 16:55:35 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
  _
( ゚∀゚)「俺の計画を―――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  _     アンチ
( ‐∀‐)「『拒絶』どもを……根絶やしにして…くれ」
 
 
 
从;゚∀从「ッ!」
 
/ ,' 3「……なに?」
 
 
 ――そう言って、ジョルジュ=パンドラは、頭を下げた。
 
 唐突な懇願に、ハインリッヒもアラマキも、驚いた。
 彼女は素直にそれを顔に表し、アラマキは逆にその言葉の真意を推し量ろうともした。
 が、ジョルジュの今の言葉に裏はない――
 そう見えたため、却って驚いたわけであった。
 
 
.

673 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 16:56:13 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
从;゚∀从「……話を、整えるぜ」
  _
( ゚∀゚)「……ああ」
 
 
从 ゚∀从「そのー、なんだ」
 
从 ゚∀从「『拒絶』を生み出したのは……てめえ、なんだよな」
  _
( ゚∀゚)「ああ」
 
从 ゚∀从「で、その『拒絶』を今度は潰したがっている、と」
  _
( ゚∀゚)「それだけの話だ」
 
 
从 ゚∀从「………あの、な」
  _
( ゚∀゚)「なんだ」
 
 たった二言で済んだ彼の用件を聞いて、だ。
 ハインリッヒが最初に抱いた感情は――
 
 
 
 
 
从#゚∀从「―――ッッザけんじゃねーぞ、てめえッ!!」
  _
( ゚∀゚)「…っ」
 
 
 紛れもない、怒り、だった。
 
 即座に、ジョルジュの胸ぐらを掴みにかかった。
 それをはねのけなかった以上、ジョルジュはそれを甘んじて受け止めようとしているのだろう。
 そうだとしても、彼女の怒りは収まろうとしなかった。
 むしろ、その涼しい顔を見て、なお怒りが沸き上がった。
 
 
.

674 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 16:56:51 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
从#゚∀从「どんな理由かは知らねーけどよォ!」
 
从#゚∀从「『拒絶』っつーなとんでもねぇバケモノを好きにつくっといてェ!」
 
从#゚∀从「それの後始末は人任せだァ!?」
 
 
从#゚∀从「ブッ殺すぞ、オラァ!!」
  _
( ゚∀゚)「……」
 
 
 ハインリッヒが怒りのあまり、そう恫喝する。
 少し気を抜けば、すぐにその場で戦闘が勃発しかねない、そんな雰囲気だった。
 すかさず、アラマキが止めに入る。
 
 
/ ,' 3「うるさいわ、小娘」
 
从#゚∀从「てめえも、なんとも思わねえのかよ!」
 
/ ,' 3「こやつの理不尽さは、わかっておる。
.    今が戦争どきと違うたら、はッ倒しておるわ」
 
从#゚∀从「……、」
 
 ハインリッヒが、少し沸き上がる憤怒を抑える。
 それを見て、アラマキは宥めるように続けた。
 
 
/ ,' 3「じゃが、言い換えたら、じゃ」
 
/ ,' 3「こやつは仲間になる=c…ちゅーことになるんじゃぞ?」
 
从 ゚∀从「…っ」
  _
( ゚∀゚)「………」
 
 そこでハインリッヒは目を見開いた。
 
 
.

675 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 16:57:44 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
/ ,' 3「儂、おぬし、ゼウスの三人で言っておったではないか」
 
 
 
/ ,' 3「仲間はいないのか≠ニ」
 
从 ゚∀从「!」
 
 ――そのとき、ハインリッヒの網膜に映った情景は
 つい少し前の、ゼウスの部屋で行ったやり取りだった。
 
 裏社会を牛耳るボスの私室としては意外な、暖かみのある部屋。
 自分はハンモックから降り、ゼウスに突っかかって。
 そのときは、モララーと云う【常識破り】を打ち砕くための作戦を練っていた。
 三人ではどうにもならない――が、このとき唯一共通して出された意見だったではないか、と。
 
 それを思い出すと、ハインリッヒは、
 自分の中の怒りがすぅーっと失せていくのを、実感した。
 
 
/ ,' 3「『パンドラの箱』が効かぬとは言え、あのゼウスの不意打ちをも止めてしまう男じゃ。
.    願ってもない勝機――と、思えんかの?」
 
从 ゚∀从「ッ! おい、てめえ!」
  _
( ゚∀゚)「なんだ」
 
 
 傍らのジョルジュに、殴りかかるように話しかける。
 
 
从 ゚∀从「てめえ、ナントカっつー組織で、暴れてたんだな?」
  _
( ゚∀゚)「『開闢』だ」
 
从 ゚∀从「じゃあ、訊くぞ」
 
            ・ ・ ・ .・ .・
从 ゚∀从「てめえ、遣えるのか?」
 
 
.

676 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 16:58:31 ID:w2Vd1AHQ0
 
  _
( ゚∀゚)「……、どういう意味だ」
 
从 ゚∀从「まんまよ。モララーは、私とこのクソジジィを同時に一人で相手取る程の男だ。
      『パンドラの箱』が効かないってんなら、問題は腕――」
 
 
  _
( ゚∀゚)「嘗めてんのか?」
 
从;゚∀从「ッ!?」
 
 
 
 直後、ハインリッヒは目を疑った。
 
 先ほどまで――いや、今の状況では「ハインリッヒがジョルジュの胸ぐらを掴んで」おり、
 それは、ハインリッヒの優勢と見て取れるものだったのだ。
 
 しかしそれが、ジョルジュの言葉が聞こえたかと思った直後その立場が逆転した=B
 「ジョルジュがハインリッヒの胸ぐらを掴んで」いる状況――と、変わってしまったのだ。
 
 左手でハインリッヒの手を捻り、自分から離す。
 同時に、右手でハインリッヒの胸ぐらを、掴む。
 気を抜いていたとはいえ、『英雄』が反応できなかったほどには、ジョルジュのその動作は速いものだった。
 
 
 そして、それの意味するところが、ハインリッヒの疑問に簡潔な答えを見せていた。
 
 
/ ,' 3「……速い」
  _
( ゚∀゚)「お望みなら、ここに死体を一ヶ、置いてやるぜ。いますぐ、にな」
 
从;゚∀从「………ッ!」
 
 
 ジョルジュの動作、言葉、態度。
 その全てに、ハインリッヒは先ほどまでの印象が全て軽蔑にすぎなかったことを思い知らされた。
 
 考えてみれば、それもそうだった。
 昔の話だとはいえ、ハインリッヒの届かない実力を持つゼウスと行動を共にしていた男なのだ、ジョルジュ=パンドラとは。
 そのハインリッヒに実力面に劣ってしまうようでは、とてもゼウスについていけるとは思えないだろう。
 そう考えてみれば、今のジョルジュの行動は、むしろそうであって当然といえたものであった。
 
 その動きが本物であることをアラマキが認めた上で、クチを開く。
 
 
.

677 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 16:59:05 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
/ ,' 3「仲間たァー思いたくはないがの、『拒絶』らを葬る点だけ見たら利害関係は一致しとるわけじゃな?」
  _
( ゚∀゚)「ああ」
 
 
 アラマキが、溜息を吐く。
 「どーして、毎度毎度こうなんじゃ」とぼやいてから、続けた。
 
 
 
 
/ ,' 3「よかろう。『拒絶』らをみーんな葬るまでの間だけ、同盟を組んでやってもいい」
  _
( ゚∀゚)「……。」
 
 
 
 
从 ゚∀从「お、おい――」
 
/ ,' 3「じゃが」
  _
( ゚∀゚)「!」
 
 
/ ,' 3「おぬしの生んだ『拒絶』が儂らに与えた拒絶……。この戦いが終われば………
.    味わってもらうぞ」
  _
( ゚∀゚)「……」
 
 
 そのときの、アラマキの声が
 『拒絶』が怒りを見せたときのそれに似ていたように思えて、ジョルジュは少し息が詰まった。
 
 自分のとった行動――『拒絶』化――に非を認めるつもりはさらさらないが、
 アラマキのその声は、ジョルジュの心に深く、重くのしかかった。
 
 これが『威圧』だった。
 このときのジョルジュがそうわかることはなかったが、
 少なくとも、ハインリッヒとアラマキとの間に大きな差が開いていることは理解した。
 
 
 
.

678 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 16:59:40 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
(*゚ー゚)「……パンドラ」
  _
( ゚∀゚)「ん……、ん?」
 
 ジョルジュが固まっていると、シィが声をかけた。
 彼女が声を発するとは思っていなかったようで、少し反応に遅れる。
 
 シィは、内藤の隣でしゃがみこんでいた。
 内藤の背中をさすっている。様態をみていたようだ。
 
 このときジョルジュは、シィが自分とアニジャ以外の人に近づけていたことを、不思議に思った。
 普段は、極端にいえば、それはあり得ないことなのに――と。
 
 だが、この現状を前に、シィは良心を痛めたのだろう。
 ジョルジュはそう割り切った。
 
(*゚ー゚)「この人……。だいぶ、弱ってる」
  _
( ゚∀゚)「様態は」
 
 
 ――シィは、ジョルジュの助手だ。
 まだ仕草が思春期半ば程度とはいえ、知識は豊富に得ている。
 それも、ジョルジュの研究における狂気ぶりについていけるほどには。
 
 だから、何かあったときは今回のようなやりとりをする。
 医者のまねごとも、そのなかの一つだった。
 「様態は」と訊かれ、普段ならシィはジョルジュの欲する答えを返す。
 それを元に、『異常』の起こった相手に何かを施すのだ。
 
 
 
.

679 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:00:10 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
 だが。
 
(*゚ー゚)「不明」
  _
( ;゚∀゚)「ッ!?」
 
 ジョルジュは、このたびの『異常』が異常であることを確信した。
 シィが、不明と即答したからだ。
 普段なら、聞いているだけでアニジャが頭痛を起こしかねないほどには
 多くの医学用語を用いてスムーズに話し、挙げていくのだが――
 
 
( ; ω )「………、……ッ」
 
 
从 ゚∀从「お、おい」
  _
( ;゚∀゚)「……なんだ」
 
 内藤の悪化した様態、シィとジョルジュのやりとり、ジョルジュの動揺。
 それらを見て、いよいよ事の重大性に気がついたハインリッヒが、焦燥を顔に浮かべながらジョルジュに問いかけた。
 
 
从 ゚∀从「そいつ……何があったんだ?」
 
 ハインリッヒが内藤に指をさした。
 ジョルジュは、少し答えるのに戸惑った。
  _
( ゚∀゚)「新種のウイルスにでもかかっちまったのかな」
 
从 ゚∀从「な、なに……!?」
  _
( ゚∀゚)「バーカ、冗談だよ」
 
从#゚∀从「……っ!」
 
 
 ハインリッヒが露骨に怒りを見せる。
 だが、彼女が挑発や揶揄に弱いのは今にはじまった話ではない。
 アラマキは、このときは動こうとはしなかった。
 
 
.

680 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:00:42 ID:w2Vd1AHQ0
 
  _
( ゚∀゚)「……どうやら、この空間が原因らしい≠ネ」
 
/ ,' 3「ハ?」
  _
( ゚∀゚)「こいつが『異常』を訴えだしたのは、ちょうどここにきたあたりからだ」
  _
( ゚∀゚)「原因があるとしたら、ここだ。さすがに、これ以上ここにいるのはマズいか」
 
 ジョルジュは――少し動じもしたが――冷静に現状を分析した上で、そう結論づけた。
 心なしか、内藤が少し安堵の息を吐いたように見えた。
 内藤自身、この『異常』に異常を感じていたのだから。
 
 原理におよそ見当もつかないが、少なくともこの空間から抜け出せたら、元に戻れる。
 そんな予感は無根拠ながらもするため、内藤としても早めの脱出を願っていた。
 
从 ゚∀从「戻る……って……」
 
/ ,' 3「……モララーとの戦闘は、これからのようじゃな。
    明日、と聞いておったが、おそらく今日になるじゃろうて」
  _
( ゚∀゚)「………」
 
 アラマキの言葉に、ジョルジュは反応を見せない。
 一方のハインリッヒは、モララーとの戦闘を予想して、震え上がった。
 武者震いなのか、恐怖によるものなのかは、自身でもわからなかったが。
 
 しかしその戦闘が現実味を帯びたところで、ハインリッヒはある一つの疑問を浮かべた。
 いや、思い出した、のほうが正確である。
 「おい」とジョルジュを呼んで、それを訊いた。
 
 
.

681 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:01:14 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
从 ゚∀从「てめーも加勢すんのはいいんだけどよ」
  _
( ゚∀゚)「なんだ。病人を待たせてまで訊くべきことか」
 
从#゚∀从「………チッ」
 
 「原因はお前じゃないのか」「責任転嫁するな」と、ハインリッヒは思った。
 だが、今更それに反応していられるほど余裕があるわけでもない。
 歯痒い思いを感じながら、ハインリッヒは続きを言った。
 
 
从#゚∀从「……てめーの切り札の『箱』だがよォ」
  _
( ゚∀゚)「文字通り『パンドラの箱』だ」
 
从#゚∀从「……その、あれだ」
 
 
从 ゚∀从「モララーには、効かねえんだろ?」
  _
( ゚∀゚)「……。」
 
 少し、黙る。
 認めたくないがゆえの、沈黙だった。
 だが、ハインリッヒと同じ理由で、その沈黙も早いうちに自ら打破した。
 
  _
( ゚∀゚)「……ああ」
 
/ ,' 3「なぜじゃ」
  _
( ゚∀゚)「『俺にパンドラの箱は効かない』っつー『嘘』ひとつで、『パンドラの箱』は通じなくなる。
      いくら存在が矛盾した『パンドラの箱』であろうと、【常識破り】には効かないんだよ」
 
从 ゚∀从「だろ? そこで、だ」
 
 
 
从 ゚∀从「……どーやって、倒すつもりだよ、モララー」
 
 
 
.

682 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:02:01 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
/ ,' 3「……失念しておったわ。情けない」
  _
( ゚∀゚)「……」
 
 アラマキが頭を掻く一方で、ジョルジュは再び黙った。
 天才であるがゆえに、臨機応変には対応できないのだ。
 全て、自分の筋書きの上で行動を選んでいるのだから。
 
 
 
  シナリオ     アドリブ
 『常識』では『非常識』には勝てないのだ。
 
 
 
 
从;゚∀从「だってよ。たとえ首を飛ばしても、だ」
  _
( ゚∀゚)「『俺はここにいる』っつー『嘘』を全て暴かねー限り、何度でも蘇るな」
 
从;゚∀从「……ッ!!」
 
 
/ ,' 3「思っておったんじゃが、どーしてその『嘘』があったら勝てんのじゃ?」
  _
( ゚∀゚)「考えてみろよ」
 
  _
( ゚∀゚)「一度首をぶっ飛ばしたとして、だ。
      『俺はここにいる』ってのは『嘘』なんだから、つまり今首をぶっ飛ばしたモララーは、」
 
 
 
            ニセモノ
从 ゚∀从「―――『虚構』」
 
 
/ ,' 3「……!」
  _
( ゚∀゚)「(セリフとるなよ……)」
 
 
.

683 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:02:43 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
 ハインリッヒがちいさく放った言葉で、アラマキは二つのことがわかった。
 モララーを殺せない理由とモララーの恐ろしさ、だ。
 
 アラマキの顔が豹変ったところで、ハインリッヒは続けた。
 
 
从 ゚∀从「ゼウスがモララーの腹を突き破ったときも、さっきのてめーとモララーとの対峙のときも。
      いくらアイツを痛めつけても、何度でも復活するじゃねーか。それが『嘘』だったみてーによ」
 
/ ,' 3「あれは……そんなからくりだったんかいの」
 
 
 理解力の乏しいハインリッヒでも、実際にその身で『嘘』――『おまえは、もう死んでいる』と云う――を
 味わっていたからだろうか、そのことに関しては既に理解が及んでいた。
 
 今まで、モララーのそれを手品や記述と見なしていたアラマキが改めて、険しい顔をする。
 ワタナベの――【手のひら還し】のときとは違って、今回は、自分では――【則を拒む者】では、抗えそうにない。
 続けてそうわかり、アラマキは少し肩を落とした。
 
 アラマキが対応できるのは、力関連のものだ。
 物理法則や、力という概念。
 【手のひら還し】の、特にカウンター技にはそれがあったから、自分は勝てたのだ。
 
 だが、【常識破り】は力とは全く関係がない。
 モララーに渾身の一撃を与えた上でそれを『解除』し『入力』しても、
 そもそもそのモララーの存在が『虚構』なので、通用しない。
 そして自分は、そのからくりに対抗する術を持っていないのだ。
 
 ――と、アラマキはある種の諦めを持った。
 
 
从 ゚∀从「私なら、イケたかもしれない」
  _
( ゚∀゚)「?」
 
/ ,' 3「が、それができとったら苦労はせんわ」
 
从 ゚∀从「ゼウスも、やっぱり無理だ」
 
/ ,' 3「で、頼みの綱と思われた『パンドラの箱』も、ムダ」
  _
( ゚∀゚)「俺の能力は、元々は戦闘用じゃねえ。期待すんなってこった」
 
 
.

684 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:03:14 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
从 ゚∀从「――じゃあ、モララーを倒す術なんか、あんのかよ」
 
/ ,' 3「ないっつったら殴ったろか思うてたがの……
    言われんでもハナからないってのはわか――」
 
  _
( ゚∀゚)「ないわけじゃあ、ない」
 
 
/ ,' 3「――っておるゆえ、別に期待は……、……!?」
 
从;゚∀从「お、おいッ!! いま、なんつった!?」
  _
( ゚∀゚)「なにって……」
 
 
 
 
 
 
       モ ラ ラ ー
从;゚∀从「【常識破り】を………」
 
 
/;,' 3「倒すことが、できるともうすのか!?」
 
 
 
 
 
.

685 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:03:49 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
 
 

 
 
 
 
 
( ・∀・)「ヘぇ?」
 
( <●><●>)「……」
 
 モララーが、不快なオーラを発しながら相槌を打った。
 発しながら、とはいうが、意図して出しているものではない。
 以前彼らが対峙したときにも見られたように、これで普通なのだ=B
 
 ゼウスは、いつもと変わらぬ表情を保っている。
 が、心が何かに喰われつつある――そんな心地が、いまも彼を襲っているのだ。
 ハインリッヒやアラマキなら、嫌な汗を流しているところだろう。
 『拒絶のオーラ』とは、ジョルジュが言う分には未完成であるが、それでも常人にとってはとんでもないものなのだ。
 
 状況を呑み込めていないトソンがそわそわするが、モララーは気にも留めない。
 ただ、ゼウスの言うであろう情報に興味の対象が向かっているのだ。
 
 
( ・∀・)「ナントカって組織で、組んでたんじゃねーの?」
 
( <●><●>)「組んでいたから今も味方――それが通ると思えるか?」
 
( ・∀・)「あーはいはい。リクツ屋だねぇ、『魔王』のクセに」
 
 小難しいことを言われそうになったので、モララーが耳を塞ぐ。
 彼は、嘗てアラマキが指摘したように、頭はいいのだ。
 だが彼にそれを嫌わせる理由は、彼が『拒絶』であるところに帰するのかもしれない。
 理屈では明かせない理由がそこにあるのだろうが。
 
 
.

686 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:04:22 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
( ・∀・)「で?」
 
( <●><●>)「何を訊きたいのだ。貴様の命日か?」
 
( ・∀・)「俺の命日はうんと前だ」
 
( <●><●>)「……?」
 
 ゼウスは当惑した。
 挑発のつもりで放った言葉に、興味深い返答がきたからだ。
 
 
( ・∀・)「俺が『拒絶』になった……いや、違う……、……えっとー」
 
 適切な説明をしようと思うと、モララーはそう言葉を濁すようになった。
 ゼウスが疑問符を浮かべるなか、モララーは言葉を選ぶ。
 
( ・∀・)「あ。そうだ、あれだ」
 
( <●><●>)「……?」
 
 
 
 
 
( ・∀・)「俺が、親友に裏切られた日」
 
 
( ・∀・)「あの日に、モララー=ラビッシュは死んだ」
 
 
 
 
 
 
 
.

687 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:05:21 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
( <●><●>)「………ッ」
 
 何気ない言葉から出てきたその言葉に、ゼウスは自分の予想以上に動揺した。
 その理由は、考えずともわかっていた。
 
 『拒絶』と戦うことが決まってすぐに交わした、内藤との会話の内容だ。
 
 
 
 ( <●><●>)『それは、過去の出来事が原因でそういった
          精神の病を患った、ということで?』
 
 ( ^ω^)『そうだお』
 
 ( ^ω^)『モララーが最初に拒絶したものは、「真実」。
.         それも、過去のトラウマが原因でだお』
 
 
 
( <●><●>)「(過去のトラウマ=c……ッ)」
 
( ・∀・)「どーした、急に深刻な顔して……、……いや、元々か」
 
 「親友に裏切られた」。
 それは、モララーに『真実』を拒絶させた元凶、
 もっと言うなれば、トラウマ≠ネのだろう。
 
 『拒絶』は皆、言い換えれば、精神的に病んでいる。
 ショボンも、ワタナベも、精神を壊したからあのような《拒絶能力》を得た。
 そして――モララー、も。
 
 ゼウスは、そのモララーが死んだ日≠ゥら、活路を見出せはしないかと考えた。
 『拒絶』とはつまり、生理的な存在ではなく、心理的な存在である。
 勝機が『絶望的』ななか、ないであろう勝ち筋を見出せるとするなら、それは心理的要因だ。
 
 結論に至ったゼウスは、そのモララーの過去を探れやしないか。
 そう考え、人間離れした脳でその方法を考えはじめた。
 
 
 だが。
 『拒絶』になるほど。
 それまでの自分が死ぬほど。
 その過去は、心を痛めつけたものなのである。
 
 話を聞く限り、自分の境遇を憂えているモララーに、果たしてそれを聞き出すことができるのだろうか。
 それが、ゼウスの最初に抱いた懸念だった。
 
.

688 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:05:55 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
( ・∀・)「おーい、聞こえてるー?」
 
( <●><●>)「……モララー」
 
( ・∀・)「お、生きてた。あっぶねー、無意識のうちに殺してたのかと思ったぜ」
 
( <●><●>)「今の言葉は、どういう意味だ?」
 
( ・∀・)「? あ、そんな深い意味じゃねーよ。反応がなったのを死亡と見なし――」
 
(゚、゚トソン「いや、さすがにそれは」
 
( ・∀・)「うるせーやいバーカバーカ」
 
( <●><●>)「……」
 
 
 過去のトラウマを思い出したわりには、ひょうきんすぎないか。
 今の二人のやりとりを見て、ゼウスはそう思った。
 自分なら、そんな『拒絶』になるほどのトラウマを思い出しただけで不機嫌になるのだが、とも。
 
 少なくとも、今のモララーの声色に、それらしき感情は籠められていなかった。
 アラマキほどではないが、今まで多くの人を見てきただけに、その聞き分けに関しては自信があった。
 
 そう考えるならば、トラウマを聞き出すのは容易くないか。
 ふとそう思いつくも、しかし、と自分を制するもう一人の自分がいた。
 ゼウスにしては珍しく、二人の自分が胸中に立っていた。
 が、止めようとする自分の気持ちも理解していた。
 
 
 ――モララーは、【常識破り】なのだ。
 明日、と予告されたにも関わらず今やってくるほどには、『異常』な男である。
 
 飄々と振る舞っておきながら、心の傷に触れられたときは即座に攻撃に移る――など、充分あり得る。
 今のモララーは気分がいいのか、攻撃する様子は見受けられないが。
 それでもやはり、情勢を見て言えば、ゼウスの劣勢は――そもそも揺るがないが――揺らいでいない。
 
 
.

689 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:06:49 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
( ・∀・)「……で、なんだっけ」
 
( <●><●>)「……」
 
( ・∀・)「あ、あれ? どーせアレっしょ、『俺が死んだ、とはどういうことだ』とか」
 
( <●><●>)「わかっていたのか」
 
( ・∀・)「だてに俺もイケメンで秀才じゃねーしなー」
 
(゚、゚トソン「……」
 
 トソンが、若干ではあるが顔を歪める。
 モララーが自身を褒めたのを見て、不快感が襲ったのだろう。
 どうやら、トソンは日頃からモララーの相手に手を焼いているようである。
 
( ・∀・)「まー、あれよ」
 
 
 
( ・∀・)「それまでの人格が、ぱたって、消えた」
 
 
 
( <●><●>)「………ッ」
 
( ・∀・)「ま、だから『拒絶』なんだし」
 
( ・∀・)「それに、元々格闘もヘタだったのに、気がつきゃあこれよ。
      いやー、怖いね。怨みとか、そーゆーの」
 
( <●><●>)「……」
 
 
 モララーが腕を真横に伸ばして、アピールする。
 元々腕が悪かったのに今アラマキとハインリッヒを相手取ることが
 できるというのは、それほど拒絶心が強かった、ということだろう。
 
 ゼウスが唾を呑む。
 やはり、ワタナベとは違う、「本物」だ。
 自分で彼女たちを「自分より弱い」と言うだけある、と。
 
 
.

690 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:07:45 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
( <●><●>)「何があったのだ」
 
( ・∀・)「へ」
 
 モララーがおどける。
 気にせず、ゼウスは続けた。
 
( <●><●>)「自分でも望まない『拒絶』になるとは、過去になにがあったのだ」
 
( ・∀・)「……」
 
 
 ――最終的に、ゼウスが選んだ方法は、「素直に訊く」だった。
 気を損ねられようが、もとより賞賛のない対峙。
 うまくいけばラッキー、程度に割り切ったが上での決断だった。
 
 モララーが少し黙る。
 ゼウスは「失敗だったか」と不安に思ったが、実際はそうでもなかった。
 ゼウスがそう思った直後に、モララーが言葉を返したからだ。
 
( ・∀・)「おかしいなあ」
 
( <●><●>)「なんだ」
 
( ・∀・)「俺の質問タイムだったのに、気がつきゃおまえの質問タイムになってやがる」
 
( <●><●>)「それもそうだったな」
 
 
 ――失敗、か。
 はじめからわかりきっていたことだ、そう自分を慰める。
 不幸中の幸いと言えば、これでモララーが不機嫌になることはなかった、ということだ。
 
 しかし。
 続けて、そんなゼウスに希望の光を向けるような言葉が、放たれた。
 
 
.

691 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:08:17 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
( ・∀・)「まあ、そーだな」
 
( <●><●>)「?」
 
( ・∀・)「あとで言ってやるよ。あとで、な」
 
( <●><●>)「ッ」
 
 ゼウスが、虚を衝かれた。
 それは本来ならばおかしいことなのだが、仕方がない。
 
 モララーの心境に、なにか変化があったのか。
 それとも、今までの考察は全部ゼウスの思いすぎで、
 実際はモララーは言うほど過去に執着していないのか。
 
 そこはわからなかったが、しかしわかる必要もない。
 モララー相手に勝機を見出せるのなら、なんでもよかった。
 
 
( ・∀・)「話戻すけどよ」
 
 ゼウスも思考を切り替える。
 
 
( ・∀・)「ジョルジュ?は、なんで―――」
 
 
 
( ・∀・)「俺らを『箱』に閉じこめて、『拒絶』なんかにしたんだ」
 
( <●><●>)「……(そこを訊くか)」
 
 
 ゼウスはてっきり、ジョルジュの人となりや性格、有する《特殊能力》と、その弱点。
 そういったものを訊いてくるのか、と思っていたのだが、的はずれだった。
 
 ジョルジュが、『拒絶』を生み出した理由。
 それは――
 
 
 
.

692 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:08:52 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
( <●><●>)「わからないな」
 
( ・∀・)「なに?」
 
 モララーが目を細める。
 補足するように、ゼウスは続けた。
 
( <●><●>)「私と行動を共にしていたときは……」
 
( <●><●>)「『拒絶』を生み出す計画はおろか、先ほどの『箱』を生み出す能力すら持っていなかったのだ」
 
( <●><●>)「私に、わかるはずもない」
 
( ・∀・)「……」
 
 モララーが、ゼウスの瞳を睨むように見つめる。
 今の言葉が本当なのかどうか、を見ているのだろうか。
 
 『俺は事実を見極めることができる』などと云った『嘘』でも吐けばいいのではないか。
 ゼウスはふとそう思ったが、モララーがそうしない理由はつい先ほどわかった。
 
 モララーは『真実』に関するトラウマを持っているのだ。
 そのようなことをすれば、心の傷を更に抉りかねない、そう思っているのだろう、と。
 そうだとしても、そちらの方がゼウスにとっては都合がよかったが。
 
 
.

693 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:09:30 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
 すると、モララーの顔が豹変った。
 どこか陽気と思わせる表情だったのが一転、急に冷たい仮面をかぶったかのようなそれへと変貌を遂げたのだ。
 
( ・∀・)「あーそうかい。じゃあ役立たずか」
 
( <●><●>)「なに?」
 
( ・∀・)「ムカシからの仲みてーだったから期待したんだがな、やっぱその程度か」
 
( <●><●>)「……」
 
 モララーの声が、徐々に重くなっていく。
 ――やはり、モララーも純粋な『拒絶』か。
 そう思うと、自然とクチが閉ざされてしまった。
 
 
( ・∀・)「……」
 
( <●><●>)「……」
 
 
 元々、雑談を交わすような仲ではない。
 ここで戦うわけでもなく、他の何かをはじめるわけでもない。
 そもそも、同じ場にいてはならない者同士なのだ。
 モララーがその気ではないため、今はなにも起こらないが。
 
 何も話すことがないなら、どうするか。
 なに食わぬ顔して、帰ればいい。
 明日の予定だの、世間話だのを話して相手の機嫌をうかがうことなどする必要がないのだから。
 
 しかし、モララーも黙りこそしたものの、その場を動こうとはしなかった。
 トソンも、モララーと距離をとって、同じように黙って立っている。
 ゼウスは、二人が何をしたいのかがわからなかった。
 
 
.

694 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:10:02 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
( <●><●>)「貴様は」
 
( ・∀・)「んん?」
 
 
( <●><●>)「まだ何か、用なのか」
 
( ・∀・)「あーん?」
 
( <●><●>)「パンドラについて話せることは、ほぼ、ない」
 
( <●><●>)「貴様の求めるようなことは、な」
 
( ・∀・)「……」
 
 怒ったかと思えばおどけ、怒ったかと思えば黙る。
 『拒絶』はこんな人たちの集まりなのかと、疑わざるを得ない。
 
 しかし、それもほんの一瞬。
 モララーは思っていたよりも存外早く、反応を見せた。
 
 
( ・∀・)「おまえにはねーよ」
 
( <●><●>)「……なら、誰に」
 
( ・∀・)「『武神』に決まってんじゃねーか、『武神』。アラマキ」
 
( <●><●>)「……」
 
 『武神』と表現するのか――
 ゼウスは少し、不思議な心地になった。
 
 
.

695 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:10:40 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
( ・∀・)「帰る前にあいつは殺したいから」
 
( <●><●>)「ほう。宣戦布告を、早速破るのか」
 
( ・∀・)「それが俺だしぃ?」
 
( <●><●>)「『裏切り』を根に持つわりには、貴様自身は『裏切り』をものともしないのだな」
 
( ・∀・)「………、……ッ!」
 
( <●><●>)「……?」
 
 ゼウスは、それをただの皮肉で言ったつもりだった。
 今更なにを言っても仕方あるまい。
 そう、半ば諦めていたからだ。
 
 
 だが。
 
 
 
( ・∀・)「………。」
 
 
 それがなぜか、モララーの心を揺さぶった。
 惰性的に見ていただけでは気づけなかっただろうが、一瞬彼は、明らかに動揺したのだ。
 
 今はもう、平生のモララーに戻っている。
 だが、一瞬見せたあの動揺を、ゼウスは見逃さなかった。
 
 また同時に、ゼウスは確信した。
 
 
 モララーはまだ、過去のトラウマに囚われている=B
 
 
 
.

696 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:11:19 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
( ・∀・)「へん。俺にピッタリだろ」
 
( <●><●>)「…………そうだな」
 
( ・∀・)「んん? どったの、ゼウスちゃ〜ん?」
 
( <●><●>)「(思い違い……では、あるまい)」
 
 ゼウスが深い呼吸をはじめる。
 彼が集中力を――それも、考察における――高めるときに出てしまう癖だった。
 正確には癖ではなく、それは故意でやっているのだが。
 
 その呼吸の違いに、モララーは気づかなかった。
 今の自分の動揺に気づかれていないと思っているようで、何もなかったかのように振る舞う。
 
 
( ・∀・)「ま、そーゆーわけだから」
 
( ・∀・)「アラマキの首をもらうまで、帰らねえぜ。俺は」
 
( <●><●>)「『俺は』、か。まるでそこの人は帰らせるような言いぐさだな」
 
(゚、゚トソン「!」
 
 ゼウスに唐突に名指しされ、トソンは若干動揺した。
 冷たい仮面は、どうやら徐々にゆるくなっているようだ。
 
 
( ・∀・)「トーゼン。どーせ、邪魔されるし」
 
(゚、゚トソン「わかってるなら、帰りますよ。ほら」
 
( ・∀・)「やだやだー!おうちいやなのー!」
 
(゚、゚トソン「演じるつもりなら地面に寝転がって暴れないと」
 
( ・∀・)「さすがにそこまでする勇気はねーわ」
 
 
.

697 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:11:49 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
( <●><●>)「……」
 
 ゼウスは、トソンを見た。
 バーテンの恰好をしており、衛生に配慮するためか髪が後ろで縛られている。
 この場に似合わない女だ――とまでは考えたが、その思考を直後に自分で打ち砕いた。
 
 ――彼女も、『拒絶』なのだ。
 
 モララーと真顔のままクチを聞ける一般女性など、そうそういないだろう。
 『レジスタンス』の頭領であり遣り手のハインリッヒでさえ、不快感を露骨に顔に表すほどなのだから。
 だとすると、彼女が『拒絶』である線は濃厚だ、とゼウスは推理した。
 
 
 そして、気を引き締めた。
 モララーの持つ『拒絶』がなにかは、わかっている。
 たとえそれが抗いようのないスキルだとしても、それを知らないことによる不安はない。
 
 しかし、トソンのスキルに関しては、未知数そのものだ。
 どのようなスキルか――そもそも、その片鱗すら、ゼウスは見ていない。
 見ていれば、ワタナベの【手のひら還し】のときのように、推理することでおおよその見当はつく。
 
 だが、それすらできないとなると、その不安はかなり大きかった。
 視覚どころか気配さえ完全に殺される闇の中に、放り出されたような気分だった。
 
 
.

698 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:12:20 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
 ここで不意打ちをけしかけることはできる。
 が、スキルがわからない。
 
 触れるだけでその箇所に拒否反応が起こり、溶ける。
 負荷を与えるとそれと同数の負荷が己に降りかかる。
 そんなスキルが、『拒絶』の場合十二分にあり得るのだ。
 無闇に突進することは、自然の禁じられていた。
 
 せめて、なにを『拒絶』するのか。
 それさえわかれば、とゼウスは思った。
 だが、会話を注意深く観察しても、それを見いだすためのヒントすら、得られることはなかった。
 
 詰まるところ、現時点では自分に為す術なし、だ。
 引き返すこともできず、前に進むこともできない。
 ただアラマキたちが帰ってくるのを、待つことしかできなかった。
 そして、それがまずいことであるのを知りつつも。
 
 
( <●><●>)「……」
 
 
( <●><●>)「(なにをしているのだ、彼らは……)」
 
 
 
 
 
 ゼウスは空を仰いだ。
 
 
 
 
 
 
.

699 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:14:04 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
 

 
 
 
  _
( ゚∀゚)「かなり望みは薄いが――」
 
 ジョルジュが、ハインリッヒとアラマキの動転を受け入れる。
 ポケットに手をいれ、宙を仰いで。
 
 やはり、不思議な色を持つ空間だ。
 ジョルジュ自身でさえ、この大気の色を表現することができない。
 できるとすれば、それは「混沌色」だった。
 
 続けてクチを開こうとした。
 内藤のこともあるため、いたずらに話を伸ばすわけにはいかないのだ。
 しかし、その考えを砕くように、シィが声をあげた。
 焦燥を音にしたような、速く高い声だった。
 
 
(;*゚ー゚)「パンドラ、様態が悪化! 話ならはやく!」
  _
( ;゚∀゚)「……チッ。おい、手短に言うぞ!」
 
从;゚∀从「元の世界の、どこか安全な場所で続きは話せないのか」
 
 原因不明の症状に、いよいよジョルジュも動揺を隠しきれなくなった。
 乱暴な口調でそう言うと、ハインリッヒがもっともそうなことを訊いた。
 アラマキも同感だったようで、肯く。
 
 しかし
 
  _
( ;゚∀゚)「んなことしてみろ。三秒後にはモララーに抹殺されるぞ」
 
从 ゚∀从「……!」
 
/ ,' 3「な、なんじゃと!」
 
 重苦しい言葉を、放った。
 二人もジョルジュと同じように焦燥を見せ始める。
 忘れていた拒絶心が、蘇ってきたような感覚だった。
 
 
.

700 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:14:41 ID:w2Vd1AHQ0
 
  _
( ゚∀゚)「おそらくヤツは、『どこにあいつらがいるのかがわかる』みてーな『嘘』を装備してやがる。
      同様に、『俺は瞬間移動ができる』とも、な」
 
/;,' 3「……くそ!」
 
从;゚∀从「そういや、そういう奴だった……な」
 
(;*゚ー゚)「ねえ、まだなの? 過呼吸! 呼吸不全! ……なんか、おかしいことになってる!」
 
 内藤の様態が、当初ここに来たときよりも数段悪化していた。
 それを表現するかのようにシィがジョルジュを急き立てる。
 実際、そんな周章に見合うほど、内藤の身は徐々に『異常』を引き起こしつつあったのだ。
 
 ジョルジュが乱暴に頭を掻く。
 これは――モララーの倒し方は、重要な問題だ。飛ばすわけにはいかない。
 いや、モララーに限らず、全ての『拒絶』に通じる話なのだ。
 
 これを伝えなければ、自分たちに勝機がない。
 だからジョルジュは、取り乱そうとする自分を抑えることができないでいた。
 
 
 
  _
( ;゚∀゚)「あークソ、黙って聞けよお前ら!」
 
 横目で、内藤を見る。
 彼は胸の部分を鷲掴みするように服を握り、震えながら地面に横たわっていた。
 目は、食いしばっているかのように力強く閉じられている。
 シィがそんな内藤を上から覆うように、必死で介抱していた。
 
 原因はわからないが、とにかく時間がないことだけはわかっていた。
 原因がわからないだけに、この『異常』が引き起こす事の末もわからないのだ。
 
 ――死、など。
 
 
.

701 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:15:19 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
  _
( ;゚∀゚)「『英雄』ッ! 『拒絶』を『拒絶』として成り立たせてるのは、なんだッ!」
 
从;゚∀从「……ハァ?」
 
 手短に、と言いつつ放ってきた質問に、思わずハインリッヒが聞き返す。
 だが、ジョルジュは端から回答に期待してなかった。
  _
( ;゚∀゚)「正解は『拒絶の精神』だ。
     これが『拒絶のオーラ』も、満たされたいっつー欲も、《拒絶能力》も、『拒絶』そのものも生み出している」
  _
( ゚∀゚)「《拒絶能力》に勝ったところで、完全な勝ちじゃあない。
      その根本、『拒絶の精神』を打ち破ってこその、『拒絶』を拒絶する≠ネんだ。つまり――」
 
 
 
 
 
 
 
从 ゚∀从「……本人に、拒絶する気をなくさせる……?」
 
 
 
 
 
.

702 名前:同志名無しさん :2013/02/03(日) 17:16:06 ID:w2Vd1AHQ0
 
 
 
/ ,' 3「ッ! そうか、それか!」
  _
( ゚∀゚)「そうだ、それを念頭に置け! 奴らに『拒絶したくない』って思わせれば、俺らの勝ちなんだ!」
 
从;゚∀从「で、でもどうやっ―――」
  _
( ;゚∀゚)「そいつを考えんのが俺らのシゴトじゃねーか! おい、シィ! もういいぞ!」
 
(*゚ー゚)「わかった!」
 
从;゚∀从「ま、待てッ! せめて―――」
 
 
 
 これだけじゃあ、足りない――
 そう思ったハインリッヒだったが
 
 
 
      ラスト・ガーデン
(*゚ー゚)「【最期の楽園】ッ!」
 
 
 
 それを解決する前に、決戦の火蓋は切って落とされた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.


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