- 534 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 19:34:53 ID:EwL2ReHs0
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
_
( ゚∀゚) 【???】
→『拒絶』に関わりを持つ科学者。
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
.
- 535 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 19:37:13 ID:EwL2ReHs0
-
○前回までのアクション
( ^ω^)
( ・∀・)
→バーボンハウスで邂逅
( ´ー`)
(゚、゚トソン
( ´_ゝ`)
→バーボンハウスで合流
_
( ゚∀゚)
→研究所
(*゚ー゚)
→撤退
/ ,' 3
( <●><●>)
从 ゚∀从
→会議
.
- 536 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 19:39:17 ID:EwL2ReHs0
-
◆
こぽこぽと、碧色の液体が源泉かけ流しの如く彼女の躯を洗っていた。
温度を感じず、無呼吸に苦を感じず、肉体の損傷による痛みをも感じさせない、液体だ。
浮力と云う概念もないのだろうか。
いや、あるにはあるのだが、それを感じることは、彼女に関していえばなかったも同然だ。
「(……面倒、だねぇ)」
手足をロープのようなもので縛られている。
足――下半身にいたっては何も感じないのだが、躯を動かせない以上は下半身も縛られているのだろう。
頭をゆっくり振るって、短めの髪を液体にのせ揺らす程度しかできない。
胴体を動かすことはできない。
おそらく、碧色の液体が持つ回復の作用をより効率的に与えるためだろう。
治癒させる人に無駄な動きをされては、回復効率ががくんと下がりかねない。
それを理解して、自分は、なぜ治癒させられているのだ、と真っ先に思った。
自分は、殺されるべき存在なのだ。
生きていてはだめな存在であることを、知ってしまったのだ。
意識をなくしたふりをするのは簡単だった。
あれほどの負荷を受ければ、ゼウスであれ絶命と認定するからだ。
だからこうして敵地に乗り込めた、まではよかった。
よかった、のだが――
.
- 537 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 19:41:22 ID:EwL2ReHs0
-
「(……なーんか、抗おう、なんて気になれないなァー)」
無機質な表情を浮かべ、首を前後に動かす。
短めの髪が、ゆらゆらと海草のように揺れる。
呼吸をする用途で液体を体内に取り入れても、鼻は痛くならないし、
呑んでも、味がなければ腹に溜まる実感もない。
不思議な空間だな――彼女は、そう思った。
自分がどんな存在で、どう在るべきなのかを踏まえようと、どの道、自分は負けたのだ。
こんな能力を持たされて、負けたと云うのだ、
生き恥を体臭のように持ち歩く女になったのだ。
今更、プライドを取り戻そうとは思わないし、リベンジを臨もうとも思わない。
これからの運命の岐路次第で、自分がどう在るべきなのかも決まるだろう――
そんな惰性的な発想しか、彼女は抱かなくなっていた。
だが、躯がうずうずするのは仕方がない。
暴れられる時が来れば――ふと、そう思う。
しかし、それは今ではない。
『拒絶』がエゴのためだけに戦う、今ではない。
おそらく、自分が戦うのは、もっと、後――
「(その時は―――きっと)」
自分は、もう、拒絶と云う概念は捨てているのだろう。
そうでなければ、こんな水槽など破壊して、すぐさまリベンジに向かう。
まだ彼らは生きているのだ、戦う理由をこじつけることはできた。
それをしない理由は、それをする理由がなく、また単にモチベーションが欠如しているからだ。
『拒絶』を拒絶するこの戦いは、「拒絶」を受け入れた者が死ぬ。
一度受け入れてしまった自分が、戦線に戻れるだろうか――
.
- 538 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 19:42:52 ID:EwL2ReHs0
-
すると、少なくとも、今自分が戦うわけにはいかなかった。
ひょっとすると、モチベーションだの、理由だの云うより以前の問題だったのかもしれない。
しかし、今更、どうでもいい。
どうでも、よかった。
いずれ、自分はまた、戦う。
それも、『拒絶』だらけの戦いが終わったら、だ。
なんとなく、それはわかっていた。
「(その時までは、のんびりさせてもらうかな)」
そう決まれば、心の重荷がとれた気がした。
繋がれたロープに体勢の維持を委せ、彼女は俯いて、元のように眠りについた。
寝ようと思えば寝れるのは、この液体がそう云う作用を持っているからなのか、ただ自分が疲れているだけなのか、
今はまだ起きているべきではないからか――
「(でも、まだ)」
眠り際、彼女は思った。
コ レ
从 ー 从「(【手のひら還し】は捨てないぜ)」
从 ー 从「(『拒絶』は捨てても、コレだけは――)」
从'ー'从「(―――だよねー、ゼウス様?)」
.
- 539 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 19:45:38 ID:EwL2ReHs0
-
一方の彼女も、決意していた。
. タイムリミット
ノハ )「(………もう、『 大 団 円 』か)」
ノハ )「(悪いな、姉貴)」
ヒーロー
ノハ )「(姉貴なら……『 英 雄 』なら、私を救ってくれる、って信じてたんだけどな……もう、『大団円』だ)」
ノハ )「(……そろそろ……私も………)」
ワルキューレ
ノハ )「( 神 話 ≠ノ………呑ま…れ…………)」
.
- 540 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 19:53:17 ID:EwL2ReHs0
- ┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓┏┓
┃┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┃
( ゜ω ゜)
_____は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです
Presented By Anti...
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┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛┗┛
第二十三話 「vs【常識破り】W」
.
- 541 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 19:54:24 ID:EwL2ReHs0
-
◆
モララーと内藤が同時に叫ぶと、一瞬、静寂が生まれた。
閃光弾を喰らった後は一瞬視界が利かなくなるように。
火傷をした直後は物が冷たく感じるかのように。
逆説的なそれは、彼らに冷静な思考を与えるのに充分なものとなった。
内藤とモララーは、相変わらず眼をひんむいている。
トソンは事態を呑み込めない、と云ったような表情。
アニジャは、少し驚いたような顔をしたが、すぐ元に戻っては、ぽりぽりと頭を掻いた。
ネーヨは――
( ´ー`)「おかわり」
(゚、゚トソン「あ、はい……え、え?」
(;・∀・)「呑んでる場合か! ちょっと旦那、おい!」
今の静寂で、思考は疎か酔いまで醒めてしまったのか、トソンに更なる酒を要求していた。
トソンもまさか、と思い、一瞬躊躇ってしまった。
だが、ネーヨはいつも通りの顔のままだ。
「確かに、こんな人ではあるのだけど」と思い、トソンは仕方なくそれに応えた。
モララーはトソンのような柔軟な発想はできなかったのか、ネーヨにずいと身を乗り出した。
後ろから顔を覗かせ、モララーは続ける。
.
- 542 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 19:55:24 ID:EwL2ReHs0
-
(;・∀・)「『誰だ』とか訊かねーのかよ!」
( ´ー`)「知らねえよ。確かなことは、今のおめえがあまりに『常識知らず』ってだけだ」
( ・∀・)「俺は『破る』んであって、『知らない』のは旦那――」
モララーの口上に割り込むように、トソンが手を伸ばした。
その手には、ネーヨの専用らしきジョッキに、ビールが注がれている。
(゚、゚トソン「はい、どうぞ」
( ´ー`)「おう」
(;・∀・)「―――じゃ、ねえ! なにトソンまで呑気に――」
(;^ω^)「とッ、トソン!?」
(゚、゚トソン「ッ!」
モララーがマスター、トソンの名を呼ぶと、内藤も反応した。
そのことに、トソンまでもが反応した。
当然だろう、見ず知らずで赤の他人の筈の内藤に、名前に対してリアクションをとられたのだから。
そんなトソンを見て、更に内藤は「しまったッ」と思った。
どこまでも連鎖する反応合戦を見て、アニジャは半ば呆れていた。
.
- 543 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 19:56:41 ID:EwL2ReHs0
-
(゚、゚トソン「……モララー。一応訊きます。どちら様ですか」
磨いていたグラスを置き、じろッとモララーを見つめては訊いた。
途端に敬語になったのは、内藤に対し警戒心を見せていると云う証拠だ。
当初はモララーの驚きようを歯牙にかけるべきものではないと思っていたのが、今となっては逆になっていた。
モララーの驚きが後押しをして、彼女に強い警戒心を持たせるようになったのだ。
トソンの敬語を聞いて、モララーは少し冷静な気持ちになれた。
ゆっくり、固まっている内藤に指を差した。
(;・∀・)「…じ、実態は俺も探れちゃいねーが……」
(;^ω^)「……」
( ・∀・)「自称……『作者』」
(゚、゚;トソン「……ッ!」
(゚、゚トソン「……、……は?」
( ・∀・)「ぜッてー言うと思った。『は?』。好きだね、泣くぞ」
(゚、゚トソン「アニジャさん。どう云うことですか」
( ・∀・)「こ、こいつ――」
( ´_ゝ`)「……俺に訊くかぁ」
モララーは『嘘』は吐いていない。
だが、言っている内容がよくわからないものだったため、トソンは彼がまたほらを吹いているものだと思ったのだ。
そのため、モララーよりは十二分に信頼のおけるアニジャに尋ねた。
まさか自分に訊かれるとは。思ってもみなかったことにアニジャは少し戸惑うが、右手もポケットに突っ込んで、答えた。
( ´_ゝ`)「偵察してた感じで言うと、まあ『作者』とやらだ」
(゚、゚トソン「なんの作者ですか」
やはり意味が掴めず、トソンは追究する。
アニジャは面倒臭そうな声のまま、続けた。
.
- 544 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 19:57:52 ID:EwL2ReHs0
-
( ´_ゝ`)「この世界の、『作者』」
(゚、゚トソン
( ´_ゝ`)「だから、この世界のことはなーんでもお見通し」
(゚、゚トソン
( ´_ゝ`)「加えて、今はゼウスたちの成り行き上の仲間」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「………」
( ・∀・)「……アニジャ。何一つ『嘘』はなかったが、短絡的すぎんぞ」
( ´_ゝ`)「だって………」
.
- 545 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 19:59:06 ID:EwL2ReHs0
-
(゚、゚トソン「………」
(;^ω^)「おぉ……」
トソンが、思考回路がショートでも起こしたのか、表情を読みとらせないような顔のまま、内藤の方を向いた。
やや太り気味の、三十は喰っているであろう歳。
笑顔が貼り付いているかのように見える、贅肉のたるみ。
――彼が、この世界の『作者』?
トソンは、訝しげな顔をした。
それが、『作者』と云うのがにわかには信じがたい情報だから――
ではなく、ただ「こんな見て呉れの男が、まさか」と思ったからである。
それを内藤も視線だけで悟り、少しムキになったような顔をした。
トソンは百聞は一見に如かず、と思い、口を開いた。
内藤はトソンが自分になにを言うのか、だいたいの予想はできていた。
(゚、゚トソン「……『作者』とやら」
(;^ω^)「…な、なんだお」
来る。トソンが、自分を試す。
試される内容は、ただひとつ。
答える準備を、する。
正答を、自分の記憶の引き出しを探し回って、用意する。
トソンの唇が、動いた。
(゚、゚トソン「私のスキル――ひょっとして、存じているのでしょうか」
(゚、゚トソン「当然、名前だけでなく、それがいったいどういうものなのか、も……」
- 546 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:00:40 ID:EwL2ReHs0
-
(;^ω^)「……」
「やっぱり」と、内藤は思った。
同時に、背筋が冷たくなる。
これは最近――数時間前気づいたのだが、内藤は、不思議な現象に陥っているようなのだ。
確かに自分は、この世界の『作者』で、知らないことはほぼない。
それは確定事項ではあるのだが、妙なのだ。
妙、つまり。
(;^ω^)「(………知っているのに、思い出せない=j」
これは、いわば、ワタナベの時に既に気づいていた。
【手のひら還し】。
名前も、能力も、使い手も、独特なものである。
だが、この名を、すぐには思い出せなかった。
忘れる筈もなかろうものだったのに、なぜか、すぐには脳に浮かんでこなかったのだ。
あの時はただ混乱や動揺のせいにすぎない、と思っていたのだが。
いま、問われるとわかっていたので、予め答えを用意しておこうと思ったのにも関わらず、出てこなかった。
「トソン」と云う情報があるのに、能力が出てこない。
これは、混乱や動揺のせいではなかった。
そこで内藤は、ある一つの仮説を立てた。
パラレルワールドに迷いこむのに際して作品の記憶を徐々になくしつつある≠フではないか、と――
.
- 547 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:02:56 ID:EwL2ReHs0
-
セント=ジョーンズの時も、そうだ。
いくら脇役とはいっても、能力名さえわかれば、個人名くらいは言える筈だったのだ、平生の内藤なら。
だが、混乱や動揺はなかった筈なのに、言えなかった。
――否、思い出せなかった。
また、一人の物書きとして、内藤は思う。
現実の世界で執筆活動をしていた時なら、ボツ設定の詳細は
いつでもどこでも、ぱっと思い出してはすらすら語ることができていたのではないか。
たとえお披露目することがなくなったと言っても、一度は自分で練ったストーリーである。
まして、そのボツになった能力はどれも強力で、工夫を凝らしたものばかりであったため、そう易々と忘れる筈もないだろう。
刑事や教師が、一度扱った事件や生徒を滅多なことでは忘れないのと同じように。
思い出深いものがそこにある限り、人の脳はそれを簡単には忘れないようにできているのだ。
それを忘れるようになった、となると――
(;^ω^)「(パラレルワールドの弊害が……進行している=H)」
(゚、゚トソン「……」
トソンの視線が、純粋に内藤の返答を待っているのを訴える。
内藤は、できることなら答えたかった。
自分のためにも、相手のためにも。
だが、ヒントなしでは浮かんでこない。
「ヒントなしでは」がおかしいことに気づくのが、遅すぎたのだ。
だが、今更トソンに弁解なんかしては、モララーのこともある以上後々厄介なことになりかねないので、却下。
しかし、癖の強い《拒絶能力》を、勘で当てられる筈もない。
内藤は「どうしたものか」と思った。
.
- 548 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:03:49 ID:EwL2ReHs0
-
(゚、゚トソン「モララー」
( ・∀・)「んだよ」
内藤に見切りをつけたのか、彼を待つ間の時間潰しか、トソンはモララーに話しかけた。
この間も、内藤は思考を凝らし、記憶を呼び戻そうとする。
(゚、゚トソン「随分と悩んでいるようですが。本当に、この世界を全て知っている、のですか?」
( ・∀・)「実際に、俺とアニジャも初見で当てられたからな」
(゚、゚トソン「……ほう」
( ; ω )「(ハードル上げんなモララー! クソぉぉ!)」
.
- 549 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:04:42 ID:EwL2ReHs0
-
内藤は、覚悟を決めた。
――いや、むしろこの状況を利用しようと思った。
「答えられない」のではなく
「あえて答えない」ものにすればどうか、と。
「敵に手のうちを明かすような男ではない」など、逃げ口上はいくらでもある。
そして逃げた後に、ゼウスたちに情報を与えて、迎え撃つ準備をさせれば、とも。
そうと決まれば、早く逃げるべきだ、そう思った内藤はすぐさま行動にでた。
真意が顔に表れないように、細心の注意を払って内藤は答える。
若干顔の筋肉はひきつっていたが、トソンと顔を見合わせることはできた。
(;^ω^)「生憎、僕は挑発に乗らない男なんでね!」
(゚、゚トソン「!」
( ´_ゝ`)「……ま、それが普通ですわな」
トソンが少し背を反った。
ばれてないな、と思い、内藤は少し胸をなで下ろした。
ポケットに手を突っ込んで、金を出す。
幸い、内藤が来店と同時に訪ねた結果、通貨は変わってなかった。
料金がいくらかは把握していないが、釣りが充分来るであろう程の金を置く。
これで、自分はここにいる必要もなくなった、と見切りをつけるためにだ。
( ^ω^)「お代は置いとくお。だから、お暇させていただ――」
( ・∀・)「は?」
(;^ω^)「――ッ」
.
- 550 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:05:43 ID:EwL2ReHs0
-
瞬間、腹の底が冷たくなった。
帰る意向を見せた途端、モララーが威圧するような声を発したのだ。
思わず、身構えてしまう。
モララーは獲物を前にした獣のような顔をして、続けた。
( ・∀・)「敵の本拠地に堂々と乗り込んどいて、帰れると思ってんのか?」
(;^ω^)「………ぐッ」
正論だった。
内藤としてはそんなつもりは全くなかったのだが、結果としては同じだ。
自分は、敵の――『拒絶』の巣に、無防備に乗り込んでしまっているのだ。
そんな、敵に言わせてみれば格好の獲物である内藤を、ほうっておくものだろうか。
それも、全てを拒絶し、『拒絶』を受け入れさせることでのみ満たされると云う彼らが、だ。
モララーは不敵な笑みを浮かべ、トソンはカウンター向こうからのそのそと歩いてこちらにやってくる。
八方手塞がり、万事休す。
内藤は、手汗が止まらなくなっていた。
.
- 551 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:06:28 ID:EwL2ReHs0
-
( ・∀・)「………さぁ〜〜て」
モララーが、構えた。
右肘を曲げ、やや後ろに引く。
膝も少し曲げて、姿勢を低くした。
左手はぶらんと垂らしている。内藤相手には必要ない、と判断したのだろう。
そして、すっかり戦闘態勢に入ったモララーは、ちいさく呟いた。
( ・∀・)「おっぱじめようぜ、『作者』さんよ。下手に抵抗したら、トソンにぺしゃんこにされるぜ」
(;^ω^)「…………ッッ!」
慌てて、内藤は横に向いた。
トソンも、構えこそないものの、溢れんばかりの殺気を見せている。
おそらく、内藤が万が一の可能性であろうとモララーの初撃をかわしたなら、その隙を彼女が襲う寸法なのだろう。
( ・∀・)「………じゃ」
( ・∀・)「いざ、神妙に―――」
モララーが、右手を前に突き出した。
内藤が思わず目を瞑る。
刹那、モララーの右腕に感触があった。
肉を抉り、血を浴びた感触だ。
同時に、確かな手応えも感じた。
――よし。
モララーが、そう思った直後だ。
.
- 552 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:07:31 ID:EwL2ReHs0
-
( ´ー`)「っるせ」
(;・∀・)「!?」
( ; ω )「…………」
(;^ω^)「……あれ?」
――ネーヨが、自分の腕を貫いたモララーの右腕を引き抜いた。
穴≠ェできたネーヨの腕から、鮮血が吹き出す。
酒の作用で血流がよくなっていた分、それはより激しさを増していた。
そして、そのネーヨの動きに、モララーも、内藤も、トソンも驚いた。
なぜ、内藤を守るような真似をしたのだろうか、と。
加えて、モララーとトソンは別のことについても驚いた。
ネーヨの動きが、全く見えなかったのである。
先程まで座っていたのに、気がつけば二人の間に立っている。
高速移動ではない――瞬間移動。
ネーヨの能力は、当然だが瞬間移動をするようなものではない。
では、ネーヨはどうやってコンマ一秒の動きよりも速く移動できたのか。
モララーとトソンは驚いたが、その答えは、考えるまでもなく実に簡単だった。
ム シ
―――彼が、物理法則を『拒絶』した。
.
- 553 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:08:32 ID:EwL2ReHs0
-
( ´ー`)「『作者』だとか、この世界を知ってるーだとか」
( ´ー`)「んなもん、知らねえよ」
(;・∀・)「で、でも!」
モララーが叫ぶ。
その頃には、既にネーヨの腕の穴≠ヘ跡形もなく消えていた。
それを見て、トソンは「またか」と思った。
彼には、いくら攻撃しても無駄なのだ。
「自分が負荷を追っている」なんてことも『拒絶』するのだから。
首だけになっても、脳が内側から爆発でもしない限り、彼を倒せやしない、と。
( ´ー`)「なに、酒の場でおっぱじめようとしてんだ」
(;・∀・)「あくまで、コイツはゼウスんとこの、いわば参謀みたいなもんだぜ! 始末すんのが――」
( ´ー`)「知らねえよ。ここは酒を呑む場であって、こいつも酒を呑みに昼だってのにここに来たんだよ。
つまり、俺たちを偵察しにきた――とかじゃねえし、殺りあいにきたってハラでもねえ」
( ´ー`)「それで、どーしてこの場に血を撒き散らす必要がある?」
(;・∀・)「………っ」
ネーヨは、いわばエゴイズムの持ち主だ。
それも、極度な。
尤も、全てを拒絶する『拒絶』のリーダー的存在である以上、それはいわば必然的なのだが。
モララーは、それを改めて認識した。
舌打ちをして、両手を脇腹に当てる。
この頃になって、漸く内藤は状況を把握できた。
.
- 554 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:09:28 ID:EwL2ReHs0
-
(;^ω^)「あ、えっと……」
( ´ー`)「わりいな、酒はここでお開きだ。これ以上続けっと、こいつらがうるせえしな」
(;^ω^)「は、はあ……」
ネーヨの真意を掴められないまま、内藤は肯く。
( ´ー`)「もしおめえさんが偵察目的とかで来てたんなら止めはしなかったが……
ま、酒呑むんなら俺が止めねえ理由がねえわな」
( ´ー`)「だが、それもこれっきりだ。次ここに来たら、俺でも止めようがねえぜ」
( ^ω^)「……!」
( ´ー`)「そう云うこった。じゃ、けえんな」
( ^ω^)「………」
(;^ω^)「わわ、わかりましたお! では、失礼――」
漸くネーヨの言いたいことを理解し、内藤は慌ててバーボンハウスから出ようとした。
いつまでもここにいると、胸が押しつぶされそうになる。
遅れてやってきた『拒絶』のオーラに、だ。
.
- 555 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:10:52 ID:EwL2ReHs0
-
すると。
( ´ー`)「ゼウスに伝えとけ」
(;^ω^)「へ?」
踵を返して、そそくさと逃げようとした瞬間。
再び席に就いたネーヨが、ジョッキに手を伸ばしながら言った。
まだ呼び止められるとは思いもしていなかったので、内藤は背筋をピンと伸ばしてしまった。
ネーヨがジョッキに注がれたビールの泡と口づけをする。
一口呷ってから、唇についた泡を拭って、続けた。
( ´ー`)「明日」
(;^ω^)「あ、明日?」
( ´ー`)「ああ、明日だ。明日、昼頃―――」
( ´ー`)「そっちに殴り込みにいく、ってよ」
.
- 556 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:11:39 ID:EwL2ReHs0
-
(;^ω^)「ッ!!」
( ・∀・)「おっ」
(゚、゚トソン「…!」
( ´_ゝ`)「……」
▼・ェ・▼「あん!」
ネーヨは、そう、いつも通りの語調で、宣戦布告をした。
その言葉を聞いて、内藤とビーグル含む四人と一匹は反応を見せた。
まさか、宣戦布告をするとは――内藤とビーグル除く三人は、そう思っただろう。
無言で奇襲を仕掛け、無残な殺し方をするものかと思っていたのに、だ。
三人、特にモララーが何かを言う前にと、ネーヨは更に付け加えた。
( ´ー`)「――モララーがな」
( ・∀・)「おおっ」
( ・∀・)
( ・∀・)「え」
.
- 557 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:13:02 ID:EwL2ReHs0
-
(゚、゚*トソン「さすがですモララー、まさか敵方の参謀に自ら宣戦布告をするとは」
( ・∀・)「おいちょっと待て、わざとやってるだろ」
( ´_ゝ`)「……ま、それが普通ですわな」
( ・∀・)「おまえもだ」
(;^ω^)「………本気、かお」
静かに、問い返す。
しかしネーヨは、語調をほんの僅かに強めただけだった。
( ´ー`)「おめえら、ワタナベとショボンをもうとっちめたんだろ」
( ^ω^)「!」
( ´ー`)「モララーが連れて帰ってこねえのを見ただけでわかんだよ。
……まあ、その反応からして、図星か」
( ^ω^)「……で、なんだお」
( ´ー`)「こっちとしてもな、あの二人を仕留めるような連中を野放しにするわけにはいかねえんだよ。
他の『能力者』は放置して、ちとおめえらを優先させてもらうぜ」
( ´ー`)「………モララーでさえ手こずるようなら、俺が出る、ともな」
.
- 558 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:14:44 ID:EwL2ReHs0
-
(;・∀・)「―――なッ」
( ;´_ゝ`)「……なんだと?」
(゚、゚;トソン「正気ですか! たかが『能力者』風情に――」
ネーヨがそう言った瞬間、なぜか内藤――ではない三人が、驚愕を見せた。
( ´ー`)「たかが≠カゃねえ。『拒絶』を二度も
駆逐してる時点で、既に俺たちと同格、またはそれ以上だ」
(;・∀・)「じょ、冗談キツいぜ。俺が負ける、とでも?」
( ´ー`)「同じことをショボンやワタナベにも言えんぞ。
不可能を可能にする奴らなんだ、『負ける筈がない』と思う方が不可能だな」
( ´_ゝ`)「あんたに暴れられると、なにが起こるかわからんからな……俺はとめておくぞ、一応」
( ´ー`)「俺を相手になにか≠起こさせた時点で、あっちの勝ちだ。
そん時は俺は殺されてるだろうよ」
三人が、黙る。
ネーヨの目が、本気だったからだ。
冗談や冷やかしのために出向くのではない。
――『拒絶』を知らしめるために、自ら赴く。
.
- 559 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:16:35 ID:EwL2ReHs0
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( ´ー`)「………で、おめえは反応しねえんだな」
( ^ω^)「……どうして、だお」
すっかり慎重に、そして冷静になった内藤に、嘆きかけるようにネーヨは言う。
( ´ー`)「意外だな。俺のことを真っ先に警戒してたもんだとばかり思ってたんだが――」
( ^ω^)「…」
( ´ー`)「トソンのスキルは知らねえ……つーより思い出せねえみたいだが、
俺のスキル――少なくとも、名前は思い出せるよな?」
挑戦状を叩きつけるように、ネーヨが訊く。
内藤は、その挑戦状を笑って受け取った。
( ^ω^)「……当然だお。でも、正直、あんたが自分の『拒絶』のオーラでさえ『拒絶』すんだから、
モララーたちが来るまで、僕はあんたがあんただとわかってなかったお」
( ´ー`)「……」
( ^ω^)「でも、今ならわかる。
あんたは、ネーヨ=プロメテウス。『拒絶』を体現する男だお」
それを聞いて、ネーヨは笑った。
( ´ー`)「………上出来だ。おめえが『作者』だって話、信じるぜ」
( ^ω^)「そうかお」
( ´ー`)「じゃあ、な。お別れだ。おめえと呑んだ酒、一生忘れねえぜ」
( ^ω^)「こっちもだお。じゃあ失礼するお――」
.
- 560 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:17:17 ID:EwL2ReHs0
-
―――オール・アンチ。
そう言って、内藤はバーボンハウスをあとにした。
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- 561 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:19:04 ID:EwL2ReHs0
-
◆
「さてと……」
扉が開いた。
それに、シィはいち早く気がついた。
紅茶を呑んで、ゆったりとしていた時だった。
(*゚ー゚)「パンドラ?」
シィが「人間」として知っている「人間」は、この世に二人しかいない。
一人がアニジャ=フーンで、もう一人がジョルジュ=パンドラだ。
ジョルジュに関して言えば、彼女の唯一の肉親と呼べるかもしれない。
気がつけば生み出されていて∞気がつけばジョルジュと共に過ごしていた≠フだから。
肉親が部屋から出てきたため、用はなくとも迎えにいく。
ぱたぱたと小走りで向かい、開かれた扉の向こうからジョルジュが出てくるのを迎えるのだ。
(*゚ー゚)「パンドラ、研究は終わったの?」
シィが問う。
彼女の知っているジョルジュとは、一度研究に没頭すれば三日を不眠で過ごすこともあり得る男だ。
それほど、研究や追究にかける彼の思いは強く、その異端さもシィは知っている。
.
- 562 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:19:53 ID:EwL2ReHs0
-
そんなジョルジュが数時間で出てきたので、不思議に思ったのだ。
シィがその旨を告げると、ジョルジュは苦い顔をした。
_
( ゚∀゚)「違う」
(*゚ー゚)「ごはん?」
_
( ゚∀゚)「中断したんだよ。緊急事態が起こったからな」
(*゚ー゚)「なに、緊急事態って?」
_
( ゚∀゚)「………『拒絶』」
(*゚ー゚)「?」
_
( ゚∀゚)「『拒絶』が、動く。アニジャから連絡があった」
(*゚ー゚)「……はあ」
シィは、興味なさげに肯いた。
だからどうした、と思ったのだ。
彼女がそのことを問うと、ジョルジュは頭を掻いた。
_
( ゚∀゚)「奴らは、本格的にゼウスたちをとっちめ始めるつもりらしい」
(*゚ー゚)「それでどうするの?」
_
( ゚∀゚)「先手を打つ」
(*゚ー゚)「へ?」
_
( ゚∀゚)「シィ、試運転だ。俺をゼウスの屋敷の前に運んでくれ」
(*゚ -゚)「……! どうしたのパンドラ、なにしにいくの?」
シィが、少し焦りを見せた。
今まで平穏が続いていた生活に、異変が生じるのだとわかったからだ。
シィは、それを恐れていたのだ。
.
- 563 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:22:12 ID:EwL2ReHs0
-
_
( ゚∀゚)「お前が知る必要はない」
(*゚ -゚)「ある」
シィが、依怙地になって返す。
彼女が強情なことは昔から知っていたので、ジョルジュは苦笑を浮かべた。
どう言って彼女をやりこめようか、と考えていた。
しかし、言葉で無理に説得しても、無駄だとわかっていた。
シィはジョルジュの助手ではあるが、ジョルジュの研究には大した関心がなく、
ただジョルジュと平和に生活していけることだけに意義を感じているからだ。
_
( ゚∀゚)「……話すときがありゃー話すさ。
それよりも、奴らがゼウスたちを叩くよりも前に俺は行く必要があんだ。あっちに送ってくれないか?」
(*゚ー゚)「……ほんと?」
シィの強張っていた顔が、少しだけほぐれた。
彼女の機嫌を損ねないように、ジョルジュが問い返す。
_
( ゚∀゚)「なにがだ?」
(*゚ー゚)「いつか話してくれるってこと」
_
( ゚∀゚)「『拒絶』の事を、か?」
(*゚ー゚)「うん」
.
- 564 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:22:54 ID:EwL2ReHs0
-
_
( ゚∀゚)「逆に、なんで知りてえんだよ」
(*゚ー゚)「パンドラが隠し事をしてるっていうのが、イヤなの」
_
( ゚∀゚)「……」
(*゚ー゚)「……」
_
( ;゚∀゚)「………え、それだけ?」
(*゚ー゚)「そうですとも」
_
( ;゚∀゚)「別にいいじゃんか、隠し事くらい……」
(*゚ー゚)「だめです」
ジョルジュは、再び頭を掻いた。
やはり、精神的にはまだ未熟なんだな、と思った。
同時に、やはり自分では彼女には適わない、とも。
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- 565 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:23:27 ID:EwL2ReHs0
-
_
( ゚∀゚)「まあ……とりあえず、急ぎたいから早く送ってくれ」
(*゚ー゚)「ねえ、パンドラ」
_
( ;゚∀゚)「今度はなんだ!」
シィは、少しもじもじしてから、顔を赤らめて、言った。
(*゚ー゚)「その……ぜうすの家……って、どこ?」
_
( ゚∀゚)
(*゚ー゚)
_
( ゚∀゚)
_
( ゚∀゚)「あ」
.
- 566 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:25:21 ID:EwL2ReHs0
-
――じゃあ、あの公園でいいよ。
ジョルジュは、呆れ果てたような顔をして、言った。
そして、シィがジョルジュに体勢を戻させる時間も与えぬうちに
《特殊能力》を使ったため、ジョルジュはワープ先で派手に転ぶのであった。
◆
( ^ω^)「……」
内藤は、ゼウスの屋敷に戻ってきていた。
正確に言えば、屋敷の前に立っていた。
傍らに落ちている白骨、ショボンとの戦いで生じた底のない落とし穴=Aワタナベとの戦いで生じた地割れ。
どれも、今朝起きたものだったと云うのに、どこか内藤にとってはひどく古めかしいもののように思えた。
そんな今の時刻は、太陽が南を通り過ぎて傾きつつある、と言ったところだ。
時間軸でもねじ曲がったのか、と疑わざるを得ないほど、体感時間の進み具合が平生とずれていた。
――やはり、パラレルワールドの影響かお。
まだ、充分に考察のできていないパラレルワールドの現象だ。
一週間ほどの猶予を与えられたら、じっくりと思考を練って、現象を解析できる自信があった。
なんといっても、自分は『作者』なのだ。できないわけがない。
しかし、それを、そのパラレルワールドの持つ規格外の力が
横行されることによって妨害されるとは、内藤としても心外だっただろう。
.
- 567 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:26:46 ID:EwL2ReHs0
-
――また、内藤は妙な心地に浸っていた。
一時間と言葉を交わしていない筈の、彼ら――キャラクター――に対する喪失感が感じられてくるのだ。
目を閉じれば、ショボンやワタナベが隣で声をかけてくるように思える。
(´・ω・`)『やあやあ、「作者」さん。小説家とはいい仕事ですねぇ、「現実」から逃避できるもの!』
タキシード姿の彼が、飄々とした振る舞いで言ってくる。
嫌味がふんだんに籠められた、彼らしい$コだ。
彼らしい≠ニ言えるほど交流を交わしていたわけでもないのに。
( ^ω^)「……」
すると、後ろから女の声が聞こえた。
内藤は振り返る。
彼女は、タキシード姿の彼に声をかけていたようだ。
从'ー'从『小説家なんてクソの集まりじゃねーか。
どいつもこいつも「ご都合主義」な展開で「手のひら還し」しやがってよォ!』
白い服に紫のカーディガン、紫の髪。
胸にも顔にも穴のない彼女は、威圧的な声を発していた。
( ω )「………」
.
- 568 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:28:03 ID:EwL2ReHs0
-
ショボンが言葉を発そうとしたので、内藤は慌てて彼らを思考の外へと追いやった。
彼らが、霧になって散ってゆく。
そして、内藤は喪失感が一層強くなった。
――なぜ、こうなるんだお。
ハインリッヒやアラマキが死んだ上で喪失感を抱くのなら、考えられない話ではなかった。
彼らと丸一日は共にしているから、だけではない。
現実の世界でも、内藤は彼らと交流している≠フだ。
紙面の上で踊る彼らと内藤には、数年来の面識があった。
まだ『英雄の優先』を使ってない、ハインリッヒ。
主人公を虐げた鬼の元帥、アラマキ。
回想のシーンで何度か存在を彷彿とさせた、ゼウス。
そんな彼らが消えたとなれば、内藤は自分が抱く喪失感をなんとも思わないだろう。
しかし、ショボンやワタナベだ。
没ネタの筆頭、『拒絶』なのだ。
規格外の強さと規格外の人格。
そんな彼らに喪失感を抱くほど、愛着は持っていなかった筈だ。
なのに、どうして幻覚を見るほど自分は心を痛めているのだろうか。
それは、ある意味で言えば、パラレルワールドの現象以上に興味深いトピックであった。
.
- 569 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:29:07 ID:EwL2ReHs0
-
( ^ω^)「『拒絶』……」
拒絶。アンチ。全てを忌み嫌い、拒む者共。
――そこで、内藤は昔のことを思い出した。
なぜかふッと、回想の世界に誘われたようだ。
場所は自分の書斎の後ろ。
ガラステーブルを挟んで向かいには、相変わらず美しい津出麗子が座っている。
B4の紙が、十枚以上。
麗子は、それら全てに目を通していた。
彼女が溜息を吐く。
苦い顔を浮かべて、麗子は口を開いた。
ξ )ξ『先生。さすがにこの設定は……』
( ^ω^)『どうだお? コンセプトは「能力バトルのインフレーション」だお!』
( ^ω^)「……あれ?」
――こんなこと、言ってたっけ?
.
- 570 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:30:51 ID:EwL2ReHs0
-
ξ )ξ『確かに、「拒絶」のアイディアはいいし、インフレと云うコンセプトに相応しい――
いや、相応しいどころじゃない規格外っぷりですが、ちょっと……』
( ^ω^)『大丈夫だお、「ご都合主義」な展開はないし、「手のひら還し」することもないお』
ξ )ξ『そうじゃなくって……』
( ^ω^)『? あ、それと「常識破り」な展開が、若い人に受けると思うんだお。
「運の憑き」と思った次のページで、逆転劇が始まる、とかが』
ξ )ξ『それと、こっちも……』
麗子が、別のB4の紙束に指を差す。
『拒絶』編とは違う、別の設定集とプロットだ。
能力の数が『拒絶』編より多いのもあってか、枚数も多い。
内藤はコーヒーを啜ってから、「お」と言った。
( ^ω^)『元々、この作品は封印の解かれた神話≠ベースにしてるところもあるんだお。
ゼウスとヘーラー、パンドラ、プロメテウスとか。で、それはそのうちの一つだお』
ξ )ξ『ヴァル…キュ……?』
( ^ω^)『「ワルキューレ」だお。北欧神話の』
ξ )ξ『………えっと、先生、これも……』
そこで、内藤は漸く、麗子が何かを言いたそうにしているのがわかった。
しまった、少しアツくなりすぎたか。
そう反省して、内藤は尋ねる。
すると、麗子はかなり申しわけなさそうな顔を浮かべながら、言った。
.
- 571 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:32:42 ID:EwL2ReHs0
-
ξ )ξ『………この「拒絶」編と「ワルキューレ」編。
あと、これと、これも。………全て、ボツにしなければ、なりません』
(;^ω^)「ッ!」
そこで、目を開いたまま見ていた回想が終わった。
無意識だった彼は、はッとする。
なんだ、今の記憶は―――
内藤は、回想こそ見たが、なぜかそのような会話を交わした記憶はなかった=B
むしろ、このようにしてボツにされたのか≠ニ云った気分にすらなってしまった。
それはおかしいことなのだ、内藤にとっては。
回想を浮かべる以上はそれを経験しているわけであり、またそうでなくとも、
『作者』である彼は没ネタになったその経緯を知っていなければならないのだ。
だが、内藤は少なくともこの件については知らなかった=A若しくは覚えていなかった=B
同じようなことが、何度か起こっている。
「自分の、この作品に対する記憶と現実との齟齬」だ。
そして、それは今の一件で、より確定的なものになった。
.
- 572 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:34:03 ID:EwL2ReHs0
-
(;^ω^)「……」
すると、内藤は、自分で考えて自分で結論に至っていただけなのに、動揺を隠さずにはいられなかった。
まるで他者にそのことを指摘されたかのような錯覚に陥ってしまう。
パラレルワールドに迷いこんだことで、自分のなかの何かが変えられていっている、なんて。
内藤にとっては、にわかには信じられなかった。
現実世界から乖離し、パラレルワールドに染まりつつある。
そんな、現状が。
( ; ω )「あああああ! だめだお、だめだお!」
「自分が変えられる」気がして、内藤は頭を振るった。
脳にこべりついた「コレ」が剥がれることはなかったが、そうせざるにはいられなかったのだ。
四肢をじたばたとさせ、なんとか振り払おうとする。
その動きを続けていなければ、また自分がパラレルワールドに呑み込まれつつある現状に至ってしまう、そんな気がしたから。
(;^ω^)「そんなことよりも!
あいつらに『拒絶』の襲来を知らせないとだめだお!」
そう自分に言い聞かせるように、何度も呟いた。
常に思考の浴槽のなかに水を注ぎ、パラレルワールドが入り込む隙をなくすようにして。
.
- 573 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:35:13 ID:EwL2ReHs0
-
そして、内藤は漸く一歩を踏み出し、ゼウスの屋敷の扉に手をかけた。
ふう、と息を吐いて自分を落ち着かせてから、ぐッ、と力を一気に籠めて思い扉を開いた。
それからは、急ぎ足で、自分の直感に委せて歩を進めていった。
メイドは、なぜそうなるのかは説明しなかったが、
「自分の直感に従って進んでいけば、行きたい場所に着ける」と言っていた。
それを信じて、ゼウスの部屋へと向かう。
すると、確かに、するすると様々なトラップをかいくぐっては、
道とは言えないような道を、無意識下で進んでいくことになった。
不思議だとは思ったが、その心情はすぐに消えていった。
そして、気がつけばそこにいた。
ゼウスの部屋へと繋がる、木製の扉に。
どう云った原理か毎日構造の変わる屋敷のなかで、ゼウスの部屋だけは不変のままらしい。
固い息を呑みこんで、扉を開いた。
.
- 574 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:36:05 ID:EwL2ReHs0
-
◆
(;^ω^)「あんたら、今から―――」
( ^ω^)「言うこと―――を………?」
内藤が、叩きつけるように扉を開くと、異様な
――ある意味では正常な――光景が目の前に広がっていた。
ハインリッヒがゼウスの襟首を締め上げている。
ゼウスは腕を組んだままハインリッヒを見下ろし、アラマキは澄ました顔で茶を呑んでいた。
从#゚∀从「……ッ」
( <●><●>)「……」
/ 、' 3「…………」
( ^ω^)「………」
(;^ω^)「……なにやってんの、あんたら」
/ ,' 3「お、おお。ブーン君か。ちょうどよかった」
.
- 575 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:37:41 ID:EwL2ReHs0
-
漸く内藤の存在に気づいたのか、アラマキはコップを卓上に置いて、彼を見上げた。
内藤はなにが起こっているのかわからなかったが、説明されなくともわかる気がした。
/ ,' 3「あのじゃじゃ馬を止めちゃくれんか」
言われて、ゼウスの方を見る。
なかなかに、シュールな光景だった。
( <●><●>)「煽られた程度で暴れ出す輩になにを言っても、蛙の面になんとやらではあるがな」
从#゚∀从「真顔で『人望のない英雄気取りの猿女』ァ言われて、黙ってられっか、ボケ!」
( ^ω^)「……あ、ああ…そう」
内藤は、先程まで抱いていた不安感や緊張感と云ったようなものが、急激に冷めてきたのを実感した。
いろいろと言いたいことはあったが、内藤はまず何より「あんたら全員ガキか」と、俗っぽい語調で言いたかった。
それほど、自分にとってはどうでもよかった。
( <●><●>)「それより……」
从#゚∀从「なッ…?!」
ハインリッヒの自分を絞めていた腕を難なく外し、ゼウスは内藤に歩み寄ってきた。
赤子を諭すようにあしらわれた自分を見て、ハインリッヒは驚きを隠せなかった。
そこに実力の差が顕著にでているのだが、ゼウスやアラマキにとってはそれこそどうでもよかった。
( <●><●>)「どうしたのでしょう、『作者』さん」
( ^ω^)「あ、えっと……」
( ^ω^)
( ;゚ω゚)「―――じゃない、あんたら喧嘩してる場合じゃないお!」
( <●><●>)「だから、何が」
( ;゚ω゚)「耳の穴かっぽじって、よく聞けお!」
.
- 576 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:38:46 ID:EwL2ReHs0
-
( ;゚ω゚)「明日、モララーがこっちに乗り込んでくる!」
バーボンハウスに居た時は、モララー以上の障害、ネーヨが目の前にいたため、逆説的に平生を保つことができていた。
しかしそこから解放された今、内藤は落ち着きを失わずにはいられなかった。
【常識破り】を有する『拒絶』一の好戦家、モララーがやってくるというのだ。
それが不意打ちではなく、文字通り宣戦布告として出されたため、その動揺は必要以上に大きかった。
だから彼らに伝えようと急いで帰ってきた。
だが、彼らの反応は、そんな内藤とは大きくずれていた。
――否、掠ってすらいなかった。
( <●><●>)「それはちょうどいい。捜す手間が省ける」
/ ,' 3「ヒョヒョヒョ。上等じゃの」
从 ゚∀从「やってやろーじゃねーか」
( ^ω^)「……え?」
皆が皆、迎撃する気でいたのだ。
自分たちが到底適う相手ではない、とわかっている筈なのに。
どうして落ち着いていられるのか、内藤にはわからなかった。
すると、それを察したアラマキが、笑った。
.
- 577 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:40:27 ID:EwL2ReHs0
-
/ ,' 3「まさかおぬし、『宣戦布告をされた。あいつらは驚くだろう、不安がるだろう』などたぁー思っとらんよな?」
(;^ω^)「いやいや、なんでそんなに平気なんだお! 勝算はあるのかお?」
/ ,' 3「勝算なぞ関係ない。もとより、やるしかないんじゃ」
从 ゚∀从「……それに。
暗殺でやられるよか予告された上で殺される方が、いいんだぜ」
(;^ω^)「お?」
从 ゚∀从「心の準備ができ、やり残したことを終わらせ、
敵を調べる猶予を得られ、万全の体勢で挑めるんだからな」
( ^ω^)「……っ!」
その時、内藤は気づいた。
彼らは、作中であろうとパラレルワールドであろうと、戦闘凶なのだ。
加えて、日頃より命の奪い合いをしている彼らに、命を惜しむところなどある筈もないのだ。
だから、いつ殺されるか教えられることは、むしろこちらの便宜をはかってくれているようなものなのである、と。
ハインリッヒの言葉を聞いて、ゼウスは腕を組んだ。
( <●><●>)「貴様も、やはりそう云った考えの持ち主なのだな」
从 ゚∀从「……意味に依っちゃ、てめぇを今すぐ焦げかすにすっぞ」
( <●><●>)「戯け」
.
- 578 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:41:08 ID:EwL2ReHs0
-
( ^ω^)「……!」
――勝てる!
内藤はなぜか、根拠もなくそう思った。
彼らを見ていると、負ける、などと云ったマイナスな心情が消えてゆくような気がするのだ。
『作者』だからこそわかる、安堵感。
『作者』だからこそわかる、昂揚感。
自覚こそしなかったが、これは、自分が没ネタを練っていた時に感じていたそれに近い心地に似ていた。
負ける可能性が百パーセントを超えるとすら思えるのに、そんな気にさせない、魅力的な『登場人物』たち。
――これだ、これだお!
「なにが」を考えることもなく、内藤はただ漠然とそう思った。
.
- 579 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:42:34 ID:EwL2ReHs0
-
( <●><●>)「ッ」
その直後、ゼウスは動いた。
何の脈絡もなく動いたため、内藤は一瞬なにが起こったのだ、とたじろいだ。
从;゚∀从「ど、どーしたんだよ急に」
( <●><●>)「……」
静かに、姿勢を低くしたゼウスは空虚を見つめる。
少しして、ゼウスは体勢を戻してから、内藤の方に向いた。
( <●><●>)「……『作者』さん」
(;^ω^)「な、なんだお」
( <●><●>)「ここに来る前、広場に誰かいましたか?」
( ^ω^)「は? いや、いなかった……と思うけど――」
内藤がなんとなしにそう答えると、ゼウスは駆けだした。
部屋を出てすぐに在るダストシュートに、身を投じる。
残された三人は何が起こったのかわからず、一瞬呆然としたのち、最初にアラマキが動いた。
自分もダストシュートに身を投じ、ゼウスのあとを追う。
「あッアラマキ――」と内藤が声をかけようとした瞬間、ハインリッヒも
遅ればせながら「チクショウッ」と呟いて同じくダストシュートに身を投じた。
残された内藤は、あたふたとしたが、ええい、ままよ、と思っては
やはり同じようにダストシュートに足を突っ込み、恐る恐るその中に落ちた。
ダストシュートの奥は異次元のトンネルになっているのだろうか。
真っ暗な空間が続いたかと思うと、先に光が見えてくる。
気がつくと、内藤は屋敷の扉の前に横たわっていた。
ハインリッヒやアラマキは、同じように腰や頭をさすりながら、ちょうど上体を起こしている。
ダストシュートはここに繋がっていたのか――そう思っていると、前方、広場の方から声が聞こえてきた。
.
- 580 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:43:27 ID:EwL2ReHs0
-
「何の用だ」
「おいおい、客人だぜ? 中で話させねえつもりかよ」
(;^ω^)「……ん?」
視界が安定してきた。
目を擦り、凝らして彼らを見る。
男が二人と、傍らに少女が一人――
( <●><●>)「生憎、当方は無論信者でな。お帰り願おう」
「久々の再会だってのに、つれねえなァ――ゼウス!」
( <●><●>)「…………何の話、かな?」
(;^ω^)「――ぜ、ゼウス? 誰だお?」
( <●><●>)「知りま――」
.
- 581 名前:同志名無しさん :2013/01/31(木) 20:44:08 ID:EwL2ReHs0
-
澄ました顔で、内藤に背を向けたままゼウスが答えようとすると、
白衣を着た男がそれを遮るように言葉を発した。
内藤の聞き覚えのない、声だった。
_
( ゚∀゚)「自警団『開闢』の元専属ドクター、ジョルジュ=パンドラだ。以後、宜しくな」
.
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