460 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:04:19 ID:Y9uzgY7w0
 
 
○登場人物と能力の説明
 
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
 
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
 
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
 
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
 
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
 
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
 
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
  _
( ゚∀゚) 【???】
→『拒絶』に関わりを持つ科学者。
 
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
 
.

461 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:06:57 ID:Y9uzgY7w0
 
 
○前回までのアクション
 
( ´_ゝ`)
(・∀ ・)
→戦闘終了
 
/ ,' 3
( <●><●>)
从 ゚∀从
→会議
 
( ^ω^)
( ´ー`)
(゚、゚トソン
→バーボンハウス
 
 
.

463 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:11:15 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 
 
  第二十一話「vs【771】U」
 
 
 
 
从#゚∀从「じゃあどーすんだよ!」
 
 ハインリッヒは、壁をドンと殴った。
 それで壁が空かないのは、ハインリッヒが加減をしたのかそもそもの壁の材質が強固なのか。
 少なくとも、ハインリッヒの苛々が募ってきていることだけははっきりとしていた。
 
/ ,' 3「家来でもなんでもいいんじゃよ。この際、隙を見出すための生贄でもよい」
 
 一方のアラマキは、やはり貫禄と云うものが創り出しているのか、とても冷静な様子だった。
 静かに、視界の奥の方で喚いているハインリッヒを無視してゼウスを見つめる。
 その当のゼウスは、静かにマグカップを傾けるだけだった。
 
从#゚∀从「つまり、負け戦じゃねーかこんなもん!」
 
/ ,' 3「戦争とは、そう毎度毎度将棋のように平等とは限らない、むしろ不利であって然るべきなんじゃ」
 
从#゚∀从「ジジィもジジィでまったわけのわかんねー……」
 
 ハインリッヒはハンモックから飛び降りた。
 しゃな、と着地しては、ゼウスの隣まで近づく。
 アラマキが黙って見ていると、ハインリッヒはゼウスと肩を組んだ。
 いや、一方的に組んできた。
 
从 ゚∀从「ゼウス様ともあろうお方が、策無しであのバケモノに挑むってハラか? あァん?」
 
 威圧的な声で、言った。
 ゼウスは何事もないかのような顔のままで、コーヒーの二口目をのむ。
 端から見れば、非行少女がビジネスサラリーマンに恐喝でもしている図のようにしか見えない。
 
( <●><●>)「策ならば言っている。それに貴様らがついてこれないだけだ」
 
从#゚∀从「それじゃー『策』なんて言わねぇんだよボケ!」
 
 ゼウスに口づけでもするかの勢いで、至近距離からハインリッヒは言った。
 それに全く動じないゼウスも大物だな、とアラマキは思っていた。
 いまここで二人が戦いあうことはなかろう、と思ったがゆえの様子見だった。
 
 
.

464 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:12:22 ID:Y9uzgY7w0
 
 ゼウスは三口目のコーヒーを流し込んだかと思うと、マグカップを置いた。
 そのまま腕を組み、ハインリッヒは無視してアラマキを見た。
 俯かず、若干右に傾け、更に不機嫌そうな顔で。
 
 
( <●><●>)「アラマキ」
 
/ ,' 3「なんじゃ」
 
( <●><●>)「ここで策を練るのも、水掛け論に等しい。そう思わないか?」
 
/ ,' 3「無益なことがなかろうて。ただどこぞのじゃじゃ馬が騒がしいだけで」
 
从#゚∀从「じゃッ……!」
 
 アラマキに冷やかされるような眼で見られ、ハインリッヒはムッときた。
 怒りの沸点が低いのは、彼らや内藤と出会う前からのことだった。
 それだけは、いくら『英雄』になろうと変わらない。
 
/ ,' 3「逆に、無益じゃったらどうするつもりかの? えぇ?」
 
 アラマキが、恫喝するように訊く。
 ハインリッヒを振り払ったゼウスは、フンと鼻で笑った。
 
 
 
( <●><●>)「ボスだ」
 
 
/ ,' 3「はぁ?」
 
( <●><●>)「『拒絶』側のボスを突き止め、直接乗り込む」
 
/ ,' 3「………」
 
 
/;,' 3「……あのな、きゃつらのボスってことは必然的にモララーよりも強いんじゃぞ?
    モララーの対策を練るだけでこないなっとる現状、どう相手取れと申すんじゃ」
 
.

465 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:21:46 ID:Y9uzgY7w0
 
 
( <●><●>)「違う。大事なのは『未確定要素が開ける』と云うことだ」
 
/ ,' 3「? ……?」
 
( <●><●>)「現状のままで手詰まりなら、まだ明らかになっていない要素を明かしていけば、
         それらのうち一つくらいは突破口となりうるものがあってもおかしくはない」
 
( <●><●>)「それの最たるものが、ボスであるだけだ」
 
 
 
从 ゚∀从「……つまり、敵を調べるだけじゃねーか」
 
/ ,' 3「……まあ、そうなるわな」
 
 ハインリッヒは扉の前に移動し、もたれ掛かる。
 鼻に寄りかかった白い前髪を払って、腕を組んだ。
 無表情のまま見下ろすようにゼウスを見る。
 
 アラマキもアラマキで、重心を後ろに倒し、両手を後ろについた。
 視線は宙に投げ、呆れたような顔をした。
 
 
从 ゚∀从「捕虜っつーことでワタナベから聞き出す手もあるが……」
 
/ ,' 3「聞けるのは何日も後、なんじゃろ?」
 
( <●><●>)「そのうちに、我々三人とも倒されかねない」
 
 
 そう言うと、三人は黙った。
 この部屋の中で、名もなき観葉植物が一番生き生きしているように見えた。
 
 
 
  
.

466 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:22:33 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 
 
 
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 
 
       ( ^ω^)は
           自らのパラレルワールドに
                     迷いこんだようです
 
 
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 
 
 
 
.

467 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:23:27 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 
 

 
 
 
 アニジャは、廃墟から抜け出しては、走っていた。
 鬱蒼としている樹海のような森のなかの、道なき道を。
 大樹の根に躓くし、伸びきった蔦に絡まるし、巨大な蜘蛛の巣も掻き分ける。
 
 『不運』にもスズメバチの巣に接近してしまい襲われそうになったが、
 今度はスズメバチが『不運』にも別の巨大な蜘蛛の巣に引っかかってしまった。
 無作為に、タイミングも選ばず『不運』が引き起こるのは困ったものだ、とアニジャは思った。
 
 なぜ、こうも走っているのか。
 一つは、また先ほどの男のような者に絡まれるのを面倒に思ったからだ。
 もう一つは
 
( ´_ゝ`)「(なんで瓦礫の塊が崩れ始めたんだ……?)」
 
 ガチガチに固まった筈の瓦礫が、それらを通していた糸が解けたかのようにぽろぽろと剥がれ出したからだ。
 アニジャは耳がいい。
 その時既に廃墟の外れにいたのだが、廃墟に反響する瓦礫の落ちる微かな音は聞き逃さなかった。
 
 自分の能力だから、それを解除した、と考えることもできるが、どうも腑に落ちなかった。
 そもそも、個々の欠片を一つの大岩にする能力の中心にいて、生き残れる筈がない。
 圧力がどれほどかはわからないが、『抱擁』し終えた後の塊は一つの瓦礫のようにも見えた。
 中心にいる人の骨は砕け、内蔵は千切れ、原型を留めることは不可能だろうと思われる。
 
 
 もし、剥がれたのが
 
( ´_ゝ`)「(あいつがまだ生きているから≠セとしたら……?)」
 
 そうすると、次に出会った時は逃げきれる保障がない。
 アニジャの【771】は、あくまで「運」なだけであって、
 そう何度も運良く発動できるわけではない。
 
 だから、見つかる前に、と逃げ出していたのだ。
 
 
.

468 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:25:15 ID:Y9uzgY7w0
 
 
( ´_ゝ`)「とりあえず旦那に聞くか」
 
( ´_ゝ`)
 
( ´_ゝ`)「いまのいままで、旦那を探してたんじゃないか……」
 
( ´_ゝ`)「……『不運』だ……」
 
 『不運』と言って、自分の掌を見た。
 手相では、どの線も根本で一旦途切れている。
 生命線なんか、一度占い師に見せると
 「なぜ生きているのかが不思議だ」と言わせたほどなのだ。
 
 
 ――同じ手相の男がまだこの世にいる=B
 それが、アニジャにとっての生まれながらにして唯一の『不運』なのだが。
 
 
 やがて、樹海も抜けた。
 すると、山の下り斜面のようなところに出た。
 今までは標高が高いところにいたのか、と初めてわかった。
 
 そこから見える太陽の傾きからして、まだまだ昼なのだろう。
 廃墟のなかではてっきり夕暮れか、もしくは豪雨の前兆かと思ったほど薄暗かったのに。
 それは廃墟と云う先入観から生まれた見せかけの色なのだろう、とアニジャは割り切った。
 ――本当は、そこに全ての規律を乱す男≠ェいたから、なのだが。
 
 爽やかな風を全身で浴びる。
 単身では醜い雑草も、集まって葉を風に預け波打っているのを見ると、どこか清々しい気分になれた。
 誰も手をつけない、いわば文字通り自然の姿なのだから、当然といえば当然なのだろうか。
 
 景色にとろけている暇はないので、慌てて下っていく。
 雑草の波を踏むのに罪悪感はしたが、やめようとは思わなかった。
 
 袂の方に街が――と希望的観測は抱いたが、テントの一つすらなかった。
 正真正銘廃墟だな、とアニジャは思った。
 ネーヨの行き先はこんな「裏」に近い場所だと思ったのが『不運』だった、と云うことだろうか。
 アニジャは、再び自嘲したい気分になった。
 
 
.

469 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:26:13 ID:Y9uzgY7w0
 
 その荒れ地を走ってゆくと、大きな河に突き当たった。
 そういえば、ここに来るまでに河を抜けた記憶がある。
 あの時は嘗て川守がいたであろう場所にあった舟を使ったのだが、今回は河を渡る手段は見あたらない。
 
 濡れるなあ、と思い、アニジャは着服のまま河に飛び込んだ。
 衣服を身に纏ったまま泳ぐのは、未経験者が思うほど簡単なものではないのだ。
 水の抵抗が段違いに強くなるし、そのせいで水を掻くことも難しく、まして溺れやすい。
 
 だが、アニジャはこの程度の辛酸なら何度も嘗めさせられてきた。
 今更、この『運命』を恨むつもりはない。
 生み出された時点で既に恨んだ『運命』なのだ。
 甘んじて受け入れる、より他にない。
 
 
( ´_ゝ`)「とはいっても……うぉっぷっ」
 
( ´_ゝ`)「………」
 
( ´_ゝ`)「……将来、川守でもしようかな……」
 
 
 アニジャが河を泳ぎ終えた時は、生きている心地がしなかった。
 河の水を、大量に呑んでしまった。
 堪らずおくびが出てくる。
 
 ここらは荒れ地であるものの、本当の自然であるため、河が汚いと云うわけではない。
 が、藻が生えたり虫が繁殖しているような河の水を呑みたいとは思う筈もなく。
 おくびと一緒に胃の中のものも吐き出したい気分に陥った。
 
.

470 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:27:27 ID:Y9uzgY7w0
 
 服をおもむろに掴んでは絞って水を出す。
 が、それでは効率が悪いと思い、周囲に誰もいないのだから――と考えて服を脱いだ。
 上半身裸のまま、シャツごとそれを絞る。
 随分と多量の水を含んだものだな、とアニジャは思った。
 
 乾く筈はないものの、大方の水分をとれたなと思ったアニジャは、
 近くの枯れ木の枝に服をかけようとしたが、その枝は簡単に折れてしまった。
 地面は汚い土壌で溢れかえっている。
 さすがに、アニジャでも泥塗れの服は着たくはない。
 仕方なく、湿ったままの服を着て、次はズボンを絞ろうと思った。
 
( ´_ゝ`)「うわ、汚い……」
 
 脱ごうとしてズボンを見たときの、アニジャの印象だった。
 小枝や葉、泥が付いているまではいい。
 虫がそこにへばりついていたりするのは、アニジャであれいい気分にはなれなかった。
 
 それを摘んで投げ捨て、ズボンに付いたゴミを払った。
 すると
 
 
(    )「お」
 
 右手の方から、声がした。
 
( ´_ゝ`)「ッ」
 
 アニジャは、もう追いつかれたと思って咄嗟に身構えた。
 距離は十メートル強、近くに身を隠せるものはない。
 相手が銃を持っていると、今度は逃げ切れそうにない。
 
 しかし、「油断、したなあ」とアニジャが思ってその男の顔を見ると一転、アニジャは身構えるのをやめた。
 というのも、虚を衝かれたような顔をするだけだったのだ。
 
 アニジャは半ば呆れたような顔をして、その男に声をかけた。
 
 
( ´_ゝ`)「……あんたかよ。どーしてここにいるんだ?」
 
(    )「悪ぃかよ、居ちゃ」
 
( ´_ゝ`)「捉えようによっては、な」
 
 
.

471 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:28:31 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「―――ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚)「……こりゃー、随分なご挨拶だ」
 
 
 脚の臑の位置にまで垂れた白衣を着た男、ジョルジュ=パンドラは笑った。
 白衣の向こうには、黒いズボンと赤褐色のシャツが見える。
 ズボンのポケットに手を突っ込んでいるのは、アニジャとはまた違う理由だろう。
 
 ジョルジュはけらけら笑いながら歩み寄ってくる。
 アニジャが身構えない以上、二人が知り合いであり、
 且つ争いあうような仲でないことだけは見て明らかである。
 
 アニジャはズボンを脱ぐのも忘れ、ジョルジュと向かい合っていた。
 
  _
( ゚∀゚)「こんなところでかえる泳ぎの練習か?」
 
( ´_ゝ`)「あんたこそ……フィールドワークか?」
  _
( ゚∀゚)「おかしいか?」
 
( ´_ゝ`)「マッドサイエンティストにはお似合いじゃあないな」
  _
( ゚∀゚)「違いねえや」
 
 
.

472 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:29:16 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 見た目は若い男は、しかしアニジャが言ったように普通の研究家ではなかった=B
 それこそ、文字通りマッドサイエンティストと云う言葉が似合いそうな男である。
 
 口調や容姿は不良気取りの若者のように見えるのに、どう云うことか科学、
 それもとある分野≠ノ関する知識に関しては天才的なものだった。
 実績も――その行く末を追わないものと考えれば――頗る素晴らしいものである。
 
 そんな、研究所に引きこもっていそうなジョルジュが、外出、
 それもこのような荒廃した土地にいるのが、アニジャにとっては不思議でしかなかったのだ。
 
( ´_ゝ`)「さて……本当はなにしにきたんだ? 尾行か?」
  _
( ゚∀゚)「残念だが、お前のデータはもういらねぇんだよ」
 
( ´_ゝ`)「? じゃあ――」
 
 
 ジョルジュは、口角を吊り上げはせず
 眉をひそめ、重苦しい顔をした。
 
 
  _
( ゚∀゚)「なぁに……『拒絶』のデータだよ、俺が欲しいのは」
 
( ´_ゝ`)「……」
 
 
( ´_ゝ`)「っ! それじゃあ、ここら辺に――」
  _
( ゚∀゚)「ほんと、『拒絶のオーラ』を解析しといてよかったぜ」
  _
( ゚∀゚)「……こんなことになるなんて、なあ」
 
( ´_ゝ`)「………」
 
 
 
.

473 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:30:13 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 ジョルジュがこのようにぼやく理由を、アニジャは知っていた。
 だから、そのことを詮索しようとはしない。
 代わりに、『拒絶』のオーラ、について話を伺った。
 
( ´_ゝ`)「……一応訊くが」
  _
( ゚∀゚)「なんだ?」
 
( ´_ゝ`)「ショボンとワタナベは例の三人と交戦中だと聞く」
 
( ´_ゝ`)「じゃあ……ここにいる『拒絶』って――」
 
 そこまで言うと、ジョルジュは掌をアニジャの口に向けて突きつけ、口を閉じるよう促した。
 その動きに少し圧倒され、アニジャはつい口を閉ざしてしまった。
 
 ジョルジュは少し俯き、暗い顔をした。
 アニジャは、この時点でジョルジュがいま誰を思い浮かべているのかがわかった。
 わかったのだが、しかしアニジャはそれを口にしようとはしなかった。
 その理由も、お互いにわかっている。
 
  _
( ゚∀゚)「今回の計画の……一番の誤算だよ」
 
( ´_ゝ`)「………」
 
 突きつけていた右手を再び、ポケットに突っ込んだ。
 背を屈め、自嘲気味なオーラを出してアニジャの横を通り過ぎようとする。
 
( ´_ゝ`)「……あんた単身でどうにかなる相手じゃないだろ」
  _
( ゚∀゚)「んあ?」
 
( ´_ゝ`)「せめてもの尻拭いだ。俺にも手伝わせてくれ」
  _
( ゚∀゚)「………お前」
 
 
.

474 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:30:50 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 少し、静寂が彼らを包んだ。
 アニジャの声は、今までに類を見なかったほど、真剣なものとなっていた。
 ――否、少なくともそれは今日で二度目である。
 その一度目は、ネーヨがアニジャにある言葉を言おうとした時だ。
 
 今のアニジャは、あの時のそれと、同じような顔をしていた。
 ジョルジュは、アニジャが何をしようとしているのかがわかった。
  _
( ゚∀゚)「冗談じゃねえ」
 
( ´_ゝ`)「?」
  _
( ゚∀゚)「お前は俺の最後の計画の、偉大なる一歩だ」
  _
( ゚∀゚)「万一だろうとお前に死なれちゃ困るんだよ」
  _
( ゚∀゚)「まだ、完成してないんだからな……」
 
 
 
 
  _
( ゚∀゚)「………《異常体質》の量産化、は」
 
( ´_ゝ`)「………」
 
 
 
 
.

475 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:31:43 ID:Y9uzgY7w0
 
  _
( ゚∀゚)「だが、アイツ≠ほったらかしてたら俺の計画がどうこうとなる前にこの世は崩壊する」
  _
( ゚∀゚)「だから、今のうちに処理するしかねえんだよ」
 
( ´_ゝ`)「……」
 
 ジョルジュが、半ば固まっているアニジャのわきを通り抜ける。
 そこから二、三歩足を進める。
 
 すると、アニジャが降り向きはせず、ジョルジュを呼び止めた。
 そこで、ジョルジュもアニジャの背に背を向けたまま、俯いてぴたりと立ち止まる。
 アニジャはそこで漸く振り返って、ジョルジュに訴えかけるように言った。
 
( ´_ゝ`)「元より勝算がねえんだよ、アイツ¢且閧セと」
 
( ´_ゝ`)「前だって、俺がいたから運良く成功しただけじゃねえか」
 
 ジョルジュは背を向けたまま黙っている。
 
( ´_ゝ`)「アイツ≠フ能力は、まだ自制すらされてない、いわば常時半暴走状態だ。
      アイツ≠ノバレず背後からアレ≠やったとしても、
      『間違えて自分を閉じこめちゃいました』ってなったら洒落にならないぜ。
      自分、だったらいい。世界を閉じこめちまったら、それこそオシマイだ」
 
  _
(  ∀ )
 
 
( ´_ゝ`)「それに、計画を実行できるのはこの世で機械も含めあんたしかいないんだ」
 
( ´_ゝ`)「あんたが俺に死なれちゃ困るように、俺もあんたに死なれちゃ困るんだよ」
  _
(  ∀ )
  _
( ゚∀゚)「    ………。」
 
.

476 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:33:01 ID:Y9uzgY7w0
 
  _
( ゚∀゚)「…………俺の計画が浜辺のちいさな砂の城だとしたら、
     アイツ≠ヘ波――それも、飛びっきりのビックウェーブだぜ。
     計画も余生も、もろとも呑み込まれちまう。
     拒絶化計画は失敗だった、だから俺は死ぬしかない。
     ……そう云うことなんだよ、きっと」
 
 ジョルジュは、アニジャに噛みつくように言い返した。
 その内容は、内情を知らない一般人が聞けば、わけのわからない話。
 しかし、この二人にとっては、今後、否、生命をも左右する死活問題だった。
 
 だから、ジョルジュもアニジャも真剣な顔をしていた。
 
 
( ´_ゝ`)「いいや、それは違うな」
  _
( ゚∀゚)「この天才科学者サマに指図すんのか?」
 
 ジョルジュがやや威圧的に接する。
 尤も、それにアニジャが怯むことはない。
 もう、慣れていた。
 思えば、この男との付き合いは思っているよりも随分と長いのだ。
 
 
( ´_ゝ`)「あんたが造ってるのは砂の城じゃなくて、お菓子の城ってことさ」
  _
( ゚∀゚)「?」
 
( ´_ゝ`)「波に崩されるかもしれないが、出来上がったらそれほど魅力的な建築物はないってことだ」
  _
( ゚∀゚)「………フーン」
 
( ´_ゝ`)「それ、俺のアイデンティティな」
  _
( ゚∀゚)「あっそ」
 
 そう言うと、ジョルジュはアニジャと向かい合った。
 言葉は交わさず、ただ視線のみを交わす。
 
 風が若干強くなってきた。
 ジョルジュの長い髪と、アニジャの黒髪を風が横に流す。
 塵がそれに合わせて飛ばされるので、一見すれば絵になる光景だった。
 
.

477 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:33:49 ID:Y9uzgY7w0
 
 
( ´_ゝ`)「とりあえず、今は帰―――」
 
 
 
 アニジャが「諦めてくれたか」と思い、ジョルジュに帰ろうと言おうとした時だ。
 
 
  _
( ;゚∀゚)「ッ!?」
 
( ;´_ゝ`)「っ!」
 
 
 
 ――二人は、同時に、廃墟の方へと向いた。
 同時に、暴風――むしろ、竜巻を形成するための風――が
 廃墟の方へと混沌の渦を作り出すかのように吹きはじめていたのだ。
 先ほど感じた微弱な風は、これの前兆だったのか。
 
 風が吹くと同時に、唸り声のようなものが響き渡る。
 アニジャもジョルジュも、嫌な予感しかしなかった。
 
 
( ;´_ゝ`)「おい、急げ! アイツ≠ェ動いたのかもしれないぞ!」
  _
( ;゚∀゚)「走っても遅ぇよ!」
 
( ;´_ゝ`)「じゃあ―――」
 
 どうするんだ。
 そう言おうとした時、アニジャの背後に、何者かが降りたったかのような音が聞こえた。
 焦燥に駆られるアニジャを挟んで「彼女」の姿を確認したジョルジュは、少しばかり顔に安堵の色を見せた。
 そんなジョルジュの顔を見て、アニジャもさッと振り返った。
 
 そこには、童顔の、年齢こそ成人していそうだが一見すると少女のような女性が立っていた。
 
 
 
 
 
(*゚ー゚)「お待たせっ!」
 
 
 
.

478 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:34:37 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 女性がいきなり現れたことに何のショックも示さず、
 むしろ待ってましたと言わんばかりの表情で、ジョルジュは少女をまくし立てた。
  _
( ;゚∀゚)「ナイスタイミン! 研究所――じゃなくてもいいからどこかに!」
 
(*゚ー゚)「アニジャくんはどうする?」
 
( ;´_ゝ`)「置いてくつもりかよ! 俺も一緒に頼む!」
 
(*゚ー゚)「はーい」
 
 戦慄を顔面いっぱいに見せる男二人とは違い、少女は別段落ち着いてはいた。
 そして二人を見つめてから、静かに目を瞑り、深呼吸を一度する。
 終えると目をゆっくり開いて、いつも通りのあどけない笑顔を見せた。
 精神を集中させていた、と言うべきなのかもしれない。
 
 
 そして
 
 
 
      ラスト・ガーデン
(*゚ー゚)「【最期の楽園】ッ!」
 
  _
( ;゚∀゚)「のわッ!」
 
( ;´_ゝ`)「『不運』が起こらないように……」
 
 
 
 そう何かを叫ぶと、同時にその場から三人は消えた。
 残ったのは、アニジャが陸地に残した水の跡だけだった。
 その跡が、嘗てそこに人が住んでいたことを示すためのもののようにも見える。
 
 だが、それ以外はなにも残らなかった。
 いや、あと残っていたとしたら、それは静寂だけだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
.

479 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:35:30 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 時は少し前に遡る。
 ある男が、自分を『抱擁』していた瓦礫たちが、その使命を果たし終えたかのように
 ぽろぽろと塊から剥がれてゆくのと同時に、意識を取り戻しつつあった。
 
 そこで、本能的に「生命力」を「自分」に『抱擁』させるように能力を発動した。
 おかげで、朦朧としていただけだった意識を取り戻し、
 同時にとりづらかった呼吸をとれるようになるまでは回復した。
 
 四肢に力を籠めて、力を失った瓦礫たちを払っていく。
 すると、嘗て塊であった彼らは、気がつくと皆、男を『抱擁』するのをやめていた。
 足の踏み場を無くすかのように散らばった瓦礫、うち一つを蹴り飛ばして、男は頭を軽くさすった。
 
(;-∀ ・)「…クソ………」
 
 まだ声帯は安定しない。
 喉に瓦礫、それも鋭利な部分が刺さらなかったのがせめてもの幸いではあったが。
 それでも、男の躯が万全でないことには違いなかった。
 
 意識が戻ってきた。
 眩む視界になんとか耐えて、男は地面に倒れていた状態から、のっそりと立ち上がる。
 
 いくら自分の能力だからといって、その圧力には勝てなかった。
 今ならば、中学生相手であっても喧嘩で負ける自信があった。
 それほど、四肢を安定して使えないのだ。
 
.

480 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:36:14 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 男は頭を掻いて、周囲を見渡した。
 瓦礫が散らばっていること以外は、自分がこうなる前までと違っていなかった。
 違っているとすれば
 
 
(・∀ ・)「アイツ……逃げやがったな」
 
 あの、痩身で長身の男――アニジャだ。
 特に能力を発動されたとも思えないのに、なぜか自分は結果的に負けてしまった。
 そのことが不思議だし、また、アニジャと云う男を調べるには充分すぎる動機だった。
 
(;・∀ ・)「いてて……さすがに痛むな」
 
 
 腰をさすりながら、壁に手をつき、瓦礫に足をとられないようにゆっくりと大通りにでた。
 大通りには寂しい風が吹くだけで、変化も破壊された跡もない。
 
 男は数秒ほどその景色を見て、視線を逸らした。
 右に、左に、とアニジャがいるかを確認したのだ。
 だが、むろんそこに居る筈もなかった。
 
 わかっていながらも、逃げられたと云う事実を再認識するだけで、男には再びやりようのない怒りがわいてきた。
 その怒りは、アニジャに対する憎しみへと変わってゆく。
 気がつけば、アニジャを捕らえることしか考えていなかった。
 
(#・∀ ・)「ありったけの情報を吐かせた後、殺してやる……!」
 
(・∀ ・)「……もう、ここにはいないだろうな」
 
 周囲を最後にもう一度、見渡す。
 
(・∀ ・)「俺もここを発つか」
 
 そう決意して、来た道を辿ることにした。
 記憶力は比較的良い方なので、迷うことはないだろう。
 そう思って、繁華街の入り口だったのであろう朽ちたゲートをくぐった。
 
 後は山を越え、河を越えればいいのだ。
 恐らくではあるが、アニジャも、このルートで帰っているだろう。
 男は、根拠もなくふとそう思った。
 
 
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481 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:37:01 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 一応、帰り道でも警戒は怠らない。
 油断ほど自分を蝕むものはないからだ。
 懐のデザートイーグルの重みを実感し、また一歩、と踏み出す。
 
 
(・∀ ・)「いつ現れるかわからないし……」
 
 右、どこまでも続く荒廃。
 
 
(・∀ ・)「いつ見つけるかわからないし……」
 
 左、どこまでも続く腐敗。
 
 
(・∀ ・)「いつ戦うかわからないし……」
 
 前方、どこまでも続く道なき道。
 その中腹辺りに、痩身の男が一人。
 
 
(・∀ ・)「そう、ちょうどあんな感じの後ろ姿で……」
 
(・∀ ・)「……」
 
(・∀ ・)
 
 
 男は、もう一度前方をよく見た。
 目を擦って、更にもう一度。
 
 
(・∀ ・)
 
(;・∀ ・)「(い……ッ、いた! 呑気に歩いてやがる!)」
 
 
 
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482 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:37:55 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 男は、急に動揺した。
 まさか、こうもあっさり見つけるとは思ってもみなかったからだ。
 
 ばッと伏せ、落ち着こうと数回大きく息を吸い、よし、と呟いた。
 そして胸元からデザートイーグルを取り出し、標準を定める。
 狙撃銃ではないのだが、この距離ならさして問題はない。
 ここで背中か脚かを撃ち抜き、さながら拷問でもするかのようにして情報を吐かせるのがいい。
 
 男はそう考え、すぐ実行に移った。
 呑気に考えているうちに、気配でこちらの存在が悟られるかもしれないからだ。
 
 
(;・∀ ・)「(大丈夫……大丈夫……)」
 
 
 唾を呑み込んで
 男は、銃の引き金を―――引いた。
 
 
 
 銃弾は、破裂音を発して標的――痩身の若者の背中――に向かって飛んでいった。
 撃つ際、手元はぶれていなかった。
 着弾点がずれることはないだろう。
 そう安心して、被弾するか、じっと見つめた。
 
(    )
 
(;・∀ ・)「(よっしゃ!)」
 
 弾は、背中にぶつかるのが見えた。
 男は思わずちいさくポーズをとる。
 対面の時に一度悲惨な目に遭っているので、命中するか不安だったのだ。
 
 男は、立ち上がって駆けだした。
 
 
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483 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:38:47 ID:Y9uzgY7w0
 
 
(・∀ ・)「ざまー見ろ、バーカバーカ!」
 
(・∀ ・)「いまそっちに行くから待ってて――……え?」
 
 
 
(;・∀ ・)「……命中した、よな………?」
 
 
 
(    )「……」
 
 
 男は、思わず立ち止まり、狼狽した。
 それもそうだろう。
 銃弾は確かに背中に当たった筈なのに
 
 
 その背中は、無傷そのものだったのだから。
 
 
 
 
 
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484 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:39:28 ID:Y9uzgY7w0
 
 
(;・∀ ・)「え、えっと……その………」
 
 相手との距離はおよそ十メートル。
 男は、なにが起こったのか状況を呑み込めず、その場であたふたとした。
 
 相手がのっそりとこちらに振り返る。
 
 引き返すにしても、身を隠せるところにまで行くには二十メートルは走らなければならない。
 それまでに、なにされるかもわからない。
 相手は、自分の能力の対象をすり替えたのだ。
 それが能力の正体かはわからないが――そもそも『能力者』と云う
 事実そのものが驚きだが――男は能力を再度使おうとは思えなかった。
 
 あれやこれやと考えている隙に、相手はこちらに気づいて歩み寄ってきていた。
 
 
(;・∀ ・)「あ、ああ……?」
 
(    )「キサマか、オレサマに銃を撃ッたのは」
 
 焦りと驚きが入り混じって、男は錯乱状態だった。
 銃を持つ手は震え、膝は笑っている。
 躯の芯からぶるぶると震え上がっているのがわかる。
 
 それは、非現実的な情景を見たから――だけではない。
 男は、いざ相手と目を合わせると――否、遭(あ)わせると、
 なぜか、心がくしゃくしゃにかき乱されるような錯覚に陥ったのだ。
 
 ――馬鹿な、さっきまで向かい合っていた男なのに、どうして!
 男は、心中でそう叫ぶ。
 相手は、顔も同じ、体格も同じ、服装も同じなのだ。
 間違いなく、先程まで戦っていた男と言えるだろう。
 
 だが、有する『オーラ』だけは、どう考えても違っていた。
 目を遭わせるどころか、同じ場に立つだけ、同じ大気を共有するだけで、吐き気がしそうなのだ。
 背骨をガシッと掴まれ、揺すられているような心地すらしてしまう。
 それが、男に形なき恐怖と動揺を与えていた。
 
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485 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:40:12 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 相手が、徐々に近寄ってくる。
 
 相手の顔はなぜか、先程までの柔和なそれとは違い、般若のようにしか見えなくなっていた。
 少し見つめ合うだけで、今後一生悪夢しか見られなくなるような――
 
(    )「生憎な、売られた喧嘩は買うモンでよ」
 
(;・∀ ・)「………ぁ………ぁああ……っ!?」
 
 相手が、男の顎を掴んだ。
 ぐッと引き寄せられ、男はいよいよ涙が出てきつつあった。
 
 
(    )「覚悟はできてンな?」
 
(;・∀ ・)「………ッ……!!」
 
 なぜ、ここまで違う。
 この男は、あの男――アニジャではないのか。
 同一の筈なのに、全くの別人のようにしか思えない。
 
 
 男は相手の顎を掴む手を振り払った。
 ――否。振り払おうとした=B
 
 
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486 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:41:21 ID:Y9uzgY7w0
 
(; ∀ ・)「へぶッ!」
 
(    )「………」
 
 振り払おうとした己の右手は
 なぜか拳をつくり
 なぜか自分のこめかみを殴っていた=B
 
 なにが起こっているのか、さっぱり理解できない。
 しかし、自分の意識に反して、躯が動く。
 男が混乱状態に陥っていると、向かいの男が、面倒臭そうな顔をした。
 
 顎を掴んでいた手を離し、男を突き飛ばす。
 地面に頭を打ち、その男は少しばかし悶えた。
 
(    )「……憑いてねェな、キサマ」
 
(;・∀ ・)「!? !?」
 
(    )「オレサマを殴ろうとした手で、運凶(わる)く自分を殴るなンてなァ」
 
(;・∀ ・)「……ぁあばば?!」
 
(    )「お、逃げるか」
 
 アニジャらしき男の言っている意味は理解できなかった。
 が、いつまでもこの男と向かい合っていてはだめだ、と云うことだけは本能的に理解していた。
 放してもらったのを好機にと、咄嗟に男は覚束ない足取りのまま廃墟の方に逃げようと走り出した。
 
 それをアニジャらしき男は黙って見つめる。
 少しして、彼はにんまりと笑んだ。
 
 
(;・∀ ・)「(にげなきゃにげなきゃにげなきゃ、にげなきゃッ!!)」
 
(    )「……バカめ」
 
(;・∀ ・)「(げなきゃにげなきゃにげな――)」
 
 
(; ∀ )「―――ッ!?」
 
 
 
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487 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:42:11 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 アニジャらしき男が呟くと、男に異変が見られた。
 不恰好ながらも走っていたのが、急に転けたのだ。
 ただ転けただけではない。
 右足の臑辺りから折れ曲がるように、不自然な転け方をした。
 
 刹那訪れる痛みに、男が悶える。
 涎は垂らし、頭は意味もなく振り回し、無様にもじたばたと足掻く。
 それを見たアニジャらしき男は、のっそりと近寄った。
 男は、彼を死神としてでしか見られなくなっていた。
 
 
( <  )「まだ足掻くか」
 
(; ∀ )「――――ッ??!」
 
 男が見上げると、上から自分の顔を覗き込む彼の、恐ろしい顔が見えた。
 無表情で、しかしその仮面の裏にはどす黒いものが潜んでいる、そんな顔が。
 
 彼はなにも言ってないのに、男は能力を使って切り抜けるしかない、と考えた。
 
 
(; ∀ )「『瓦礫』ッッ!」
 
( <  )「オ?」
 
 
 この場面において、彼が能力を発動できたのは幸運以外のなにものでもなかった。
 錯乱状態で発動できるのは、暗闇のなか黒い折り紙を見つけるのと同じくらい難しいことなのだ。
 だから、その点においては彼は評価されるべきだろう。
 
 だが。
 
 
 
(; ∀ )「…………」
 
 
(; ∀ )「……ア、レ…?」
 
( <  )「吹いてきたな、風」
 
 
 
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488 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:42:41 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 本当なら、すぐに周辺の瓦礫が目の前の彼に向かって『抱擁』すべく飛びかかってくる筈なのだ。
 しかし、近くの瓦礫は一枚も動こうとはしなかった。
 どうした、なにがあった――と、男は思った。
 錯乱状態だったから能力の発動を誤ったか、と思った直後。
 
 代わりに
 
 
(; ∀ )「(まさか……ッ!)」
 
( <  )「……」
 
 
 凄まじい風≠ェ、しかも自分を台風の目にするかのように集まってきた。
 少しして、その真意がわかった。
 なぜ、急に風が吹いてきたのだろう、と。
 
 
 答えは、簡単だった。
 
 
 
 
 
 空気を自分に『抱擁』させる≠謔、に【集中包裹】を発動させてしまった―――
 
 
 
 
 
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489 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:43:23 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 
( <_  )「呼吸ッてのはだな」
 
(; ∀ )「――?」
 
( <_  )「意外に、台風を浴びながらじャ、できねェモンなンだぜ」
 
 
 言われると、確かに呼吸しづらさが実感できてきつつあった。
 暴風を前に、息を吸うことができない。
 
 
(; ∀ )「あガがああああああッ!!」
 
 風は一層強くなる。
 それに従って更に酸素が体内に入ってこなくなるので、脳が酸素を求める。
 しかし、それができない。
 
 男は、発狂していた。
 手足をじたばたさせ、足掻く。
 アニジャらしき男は、それを見つめてから、少しして、踵を返し歩いていく。
 
 
(; ∀ )「なキャあああああああいがァァァァァァ!!」
 
 彼に逃げられると察したこの男は、助けてもらおうと、もがきはじめた。
 しかし、アニジャらしき男は聞く耳をもっていないのか、それを無視して、歩を進めるだけだ。
 
 風が、台風とすら思えないほど、強くなっていく。
 そんななか、彼はそれを受け付けることすらなく、静かに歩いては、
 聞こえる筈のない呟きを、悶えている彼に向けるのであった。
 
 
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490 名前:同志名無しさん :2013/01/22(火) 23:45:01 ID:Y9uzgY7w0
 
 
 
 
 
  「憑いてねェ」
 
 
 
 
  「憑いてねェよ、キサマ」
 
 
 
 
  「これが、言うところの―――」
 
 
 
 
 
 
 
 
.        インフェルノ
(´<_` )「【運の憑き】――ッてヤツ、かな?」
 
 
 
 言うなれば「神の失敗作」。
 オトジャ=フーンは、兄と同じように、来た道を静かに辿るのであった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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