246 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:49:45 ID:poV0/hgUO
 
 
○登場人物と能力の説明
 
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
 
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
 
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
 
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
 
(#゚;;-゚) 【???】
→『英雄』を探している少女。時を何度か巻き戻した。
 
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
 
从'ー'从 【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】
→『因果』を『反転』させる《拒絶能力》。
 
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
 
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
 
 
.

247 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:50:22 ID:poV0/hgUO
 
 
○前回までのアクション
 
/ ,' 3
从'ー'从
→戦闘中
 
从 ゚∀从
→気絶
 
( ´ー`)
( ・∀・)
(゚、゚トソン
→バーボンハウスで合流
 
 
.

248 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:51:22 ID:poV0/hgUO
 
 
 
  第十六話「vs【手のひら還し】[」
 
 
 
 その爆音を聞いて、内藤は屋敷の陰から飛び出した。
 目を凝らして、砂煙が晴れるのを待つ。
 そこに見えるワタナベの姿を見て、内藤は仰天した。
 
( ;゚ω゚)「なァァ?!」
 
 
 ワタナベが。
 あのワタナベが。
 『拒絶』のワタナベが。
 
 
 【手のひら還し】が、とんでもない負荷を負っていたからだ。
 
 
 
.

249 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:55:36 ID:poV0/hgUO
 
 
 胴体が、「粉々」と称するのが相応しいほどに、形をなくしていた。
 肉と呼べる肉は飛び散り、血は嘗てない程の量を流し
 大腸や胃、そして何より肺までもが粉砕されそこら中に散乱していた。
 下半身は胴体からちぎれ、また爆撃のせいで焦げ、溶け、そしてなくなっている。
 
 また、ワタナベの絶叫に近い悲鳴が、聞こえる。
 内藤は、その信じられなさに、半ばワタナベに同情するような心地になっていた。
 
( ;゚ω゚)「(ばかな! どーしてワタナベはこの『因果』を『反転』させなかったんだお!?)」
 
 苦しそうに、ワタナベはもがき苦しむ。
 満身創痍のゼウス、及びアラマキは、そんな彼女をじっと見下ろしていた。
 内藤はいてもたってもいられなくなり、彼らのもとへ駆け寄った。
 
 『拒絶』、『恐怖』、『威圧』の入り交じった空気に、内藤が入ることができた。
 最初に気づいたアラマキが、内藤に応じた。
 苦笑混じりで、内藤に近況を言う。
 
/ ,' 3「……見てのとうりじゃ」
 
(;^ω^)「ッ!」
 
从;Д;从「――カァァッ―――ああああっあッ!! ―――〜〜!!」
 
 ワタナベは、それほど痛みを感じているのか、声にならない声を発していた。
 じたばたとのたうち回り、四肢をぐるぐると動かす。
 とても、一般人には見せられない光景だった。
 
 
.

250 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:06:57 ID:poV0/hgUO
 
 
 そして、なぜワタナベがこれほどまでに苦しむのか。
 その理由は、内藤もアラマキもわかっていた。
 恐る恐る、内藤はそれを口にする。
 
(;^ω^)「……! 『反転』不可の即死°Zかお!」
 
/ ,' 3「ふつーに殺りあったら、これほどの負荷は食らう前に『反転』させるか、
    食らってから事実関係を『反転』させる……
    それも無理なら、時間を『反転』させて、回復を狙うじゃろぅ」
 
 ――そして、儂の拳は全ての『反転』をすり抜けた。
 アラマキが、ちいさく、誇らしげに言った。
 
 ワタナベが苦しむのも、いや、苦しみと云う概念が残っているのが普通だったのだ。
 『生死の概念の反転』と言っても、『反転』させられたのは『生死の概念』のみであって、
 苦痛、負荷を『反転』させて快楽を得られると云うわけではない。
 
 それなのに先ほどまで反撃できなかったのは、
 そもそも「苦痛、負荷を与えることができなかった」からだ。
 ワタナベ、と云う本命の前に、【手のひら還し】と云う壁が立ちはだかるためである。
 
 また、もうひとつ、彼女が苦しむ理由。
 アラマキの放ったそれが、問答無用の即死°Zだからである。
 
 いくらゼウスでも、胸部から下の躯を失い、致死量を充分に超える失血を経て
 呼吸器官の欠乏≠ノよる常時窒息状態≠ワで与えられてしまえば、間違いなく死ぬだろう。
 そうでなくとも、苦痛を感じて、ショック死するに違いない。
 人間の身体は、そのようにできているからだ。
 
 
.

251 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:17:20 ID:poV0/hgUO
 
 
 むろん、心臓をとばされた時点で、即死は即死なのだ。
 だが、苦痛の点が、段違いだった。
 
 心臓の件でも、今回の件でも、共通点がある。
 普通ならば即死となる負荷を負ってなお、彼女は生きている≠アとだ。
 そして、生きている∴ネ上、脳は動く。
 脳は痛みを知らされると、それを痛みとして身体に警告を促す。
 
 『拒絶』は、身体能力、精神力ともに常人よりは抜きん出ている。
 身体にちいさな穴を空けられる、頭を少し砕かれる。
 その程度なら¢マえることができた。
 
 しかし――
 
 
/ ,' 3「こやつは、永遠にこの苦痛を背負って生きる≠アとになるんじゃ」
 
/ ,' 3「気絶しても、無駄。目が覚めても、また苦痛が待っておる」
 
/ ,' 3「死≠ニ云う終着点がない――否、今の惨劇がこやつにとっての終着点≠ネんじゃの」
 
 そう言って、アラマキは目を閉じた。
 ワタナベの惨劇を目の当たりにするのが堪えるのであろうか。
 そっと、静かに、閉じた。
 
 内藤も、お気の毒に思う。
 鼓膜を突き破りかねない悲鳴が、少しの間耳の中に入ってこなかった。
 否、少しの間、脳が思考をしなかったのだ。
 
 ――とここで、内藤ははッとした。
 どのような傷も、『自身における時間の流れ』を『反転』させれば
 この負荷を受ける前までの自分に戻れる=Aその事を思い出したからだ。
 
 そこで、まだワタナベの意識が保たれているうちに%燗。はアラマキに問うた。
 
 
.

252 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:19:13 ID:poV0/hgUO
 
 
(;^ω^)「じーさん、この『負荷』を与えたのは、『いつ』だお!?」
 
 すると、内藤の考えをすぐに察したのか、
 アラマキはにやりとして答えた。
 
/ ,' 3「案ずるな若僧。『反転』による『時間軸の可逆』の対策など、既に講じておるわ」
 
/ ,' 3「……そう、ゼウスたちが倒れた、直後」
 
 
 
/ ,' 3「きゃつめと儂が対峙する――前≠カゃ」
 
(;^ω^)「!!」
 
 
 ――それは、ワタナベとアラマキが対峙する前。
 ワタナベが、倒れた二人を見てぼうっとしていた時だった。
 
 ワタナベは直後、背後のアラマキの存在に気づいて、対峙した。
 そして、『解除』からの『入力』で、『反転』のしようがない攻撃を見舞われた――
 
 
 その頃には既に、この「負荷」はできあがっていた≠フだ。
 
 
.

253 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:21:54 ID:poV0/hgUO
 
 
 内藤は、やはりと思って<純^ナベの方へ駆け寄った。
 意識が朦朧としているのか、動きが弱くなってきている。
 そこで、内藤はワタナベも意識できるよう、大きな声で呼びかけた。
 ワタナベの躯を揺すりながら、意識を保たせるようにして。
 
(;^ω^)「ワタナベッ!」
 
从;Д;从
 
 ワタナベは、嘗てハインリッヒがショボンに
 しとめられそうになった時のような様子だった。
 
 もがき苦しみ、死≠望む。しかし、死にたくはない。
 その姿が、あのハインリッヒと重なって見えた。
 内藤は、声を大にして続ける。
 
(;^ω^)「いいかお、『時間軸の可逆』はするな!!」
 
 
/ ,' 3「!」
 
从;Д;从
 
 
(;^ω^)「可逆ってのは、辿ってきた道を同じ速度で戻るようなもんだお!
      で、その負荷を追ったのはうんと前!
      ……ワタナベ、あんたは――」
 
(;^ω^)「『自分の負荷ができる』時間軸まで『可逆』し終える頃には、
      苦痛のあまり、気を失ってるお!」
 
 なんとか、身振り手振りで状況をワタナベに知らせようとする。
 だが、かなりややこしい状況であったため、うまく伝わらない。
 内藤は、言葉を詰まらせた。
 
(;^ω^)「ええと、つまり……」
 
 そして、思いつく限り簡単な言葉で、言った。
 
 
 
(;^ω^)「『可逆』をしたら、ワタナベは『死ぬ』ッ!!」
 
从;Д;从「……!」
 
 
.

254 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:26:34 ID:poV0/hgUO
 
 
 実際にそうしようとしていたのか、ワタナベは完全に動揺した。
 「なんで」と聞こえるような絶叫で、内藤に訊く。
 内藤は訊かれずとも続けるつもりだったので続けた。
 
(;^ω^)「まず、その穴ができる時間軸に戻る前に、確実に気を失うんだお。
      そして、わかっていてほしいのが、【手のひら還し】は思考で発動する能力。
      だから、発動するあんた自身が気を失ったら、その可逆を止められない。
      ……すると、その穴が治った次は……」
 
 
( ^ω^)「生死の概念を『反転』させた℃條ヤ軸にまで、遡る」
 
从;Д;从「ッ!」
 
 
( ^ω^)「『生死の概念』が『反転』されたのは、心臓に穴を開けられた直後」
 
( ^ω^)「心臓に穴が開いている状態で、その『反転』がなかった時間軸にまで戻れば、どうなるお?
       その『反転』が戻った直後、心臓の穴が消える。でも――」
 
 
( ^ω^)「『反転』が消えた瞬間、そのときは心臓がないわけだから、通常の概念に従って、死ぬ。
       ワタナベは、意識を失ったまま、最期を迎えるしかなくなるんだお」
 
从;Д;从「!!」
 
 
.

255 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:28:29 ID:poV0/hgUO
 
 
 
从;Д;从「―――じ…゙あ゙ッ!! ド゙ゔ――ッズれ゙っ……゙ッ!!」
 
 言葉として理解できない言葉を、ワタナベは並べた。
 意識が朦朧としているなかで、なんとか内藤の言いたいことがわかったのだ。
 
 
 そもそも、ワタナベが『生死の概念』を『反転』させた理由は、単純なのだ。
 なにかの間違いで自分が負荷を負った場合、その負荷を負った時間軸にまで『可逆』をする。
 そして、完治する。
 すると、相手にとっては、いくら負荷を与えても通用しない、まさに不死身となるのだ。
 
 この『可逆』のサイクルを止める方法は、ない。
 ただでさえ三段階の『反転』や概念操作もできるのに、加えて時間軸まで
 操るような彼女に負荷を与えること自体、理論上は不可能なのだ。
 だから、【手のひら還し】の戦術としては、対策のしようのない、まさに「壊れた」ものだった。
 
 
 
 しかし。
 そこに、『異常』が現れた。
 
 
 【則を拒む者】、アラマキ。
 彼の、『常識』を逸した攻撃により、ワタナベは負荷を得てしまった。
 それだけなら、『可逆』でなんとかなるのだ。
 
 なるのだが――
 
 
 
.

256 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:30:02 ID:poV0/hgUO
 
 
 
(;^ω^)「じーさんに『時間を稼がれた』時点で、あんたの敗北は決まってたんだお!」
 
 アラマキは、この『可逆』をすり抜けて且つワタナベを確実に葬る戦術を生み出した。
 それのキーとなったのが、『時間を稼ぐ』ことだ。
 
 まず、この『可逆』を打ち破るポイントは、三つある。
 ひとつ、ワタナベの【手のひら還し】をすり抜け、負荷を与えること。――条件。
 ひとつ、ワタナベが『可逆』の最中で気を失うほどの負荷であること。――程度。
 ひとつ、ワタナベが『可逆』の途中で気を失わさせるほどの時間を稼ぐこと。――時間。
 
 この条件、程度、時間を持って、アラマキはそれらを解除――否、『解放』させた。
 その『因果』として、ワタナベは敗北が決まった=B
 時間を稼がせた時点で、それは決まっていたのだ。
 
 
从;Д;从「―――ッッ――っ!」
 
(;^ω^)「で、このまま『可逆』させないでいると、やはり意識を失うお。
      そこを狙われて、ほら、やっぱりワタナベの負けだお」
 
/ ,' 3「……よさんか」
 
(;^ω^)「……アラ、マキ」
 
 内藤の言うことに呆れたのか、アラマキは内藤の肩に手をかけた。
 とても訝しげな顔をして、内藤を見ている。
 
 
.

257 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:31:25 ID:poV0/hgUO
 
 
/ ,' 3「なぜにわざわざ敵を救うようなことを言うんじゃ」
 
(;^ω^)「……」
 
/ ,' 3「こやつは負けた。戦争において、負けは『死』じゃ」
 
 
/ ,' 3「こやつは、戦争における掟を嘗めておった」
 
/ ,' 3「儂が何十年とかけて経験してきたそれを、軽んじた。
    知った気になっておった」
 
/ ,' 3「軽々しく、死の重さを扱った」
 
/ ,' 3「戦場における掟、其の弐拾、
    死を怖るる者、死よりも猶耐え難し=v
 
/ ,' 3「こやつは、死を拒んだ。死よりも猶恐ろしいものを知らずに、の」
 
/ ,' 3「だから、こやつは苦しむ。死よりも猶、耐えられない苦痛を味わうんじゃ」
 
 
从;Д;从「      」
 
 
/ ,' 3「……さて」
 
 
 アラマキが、ワタナベに一歩、歩み寄る。
 
 
/ ,' 3「【手のひら還し】よ。……死以上の苦痛、味わってもらうぞ」
 
 
 
 
 アラマキが、手を上にあげた。
 今のワタナベに、それを『反転』させるほどの余力はない。
 ワタナベは、そっと目を瞑った。
 
 
 
 
.

258 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:32:47 ID:poV0/hgUO
 
 
 
 
 
 その直後。
 
 
 
(# ,*;゙><●>)「愚か者が」
 
 
/;,' 3「ッ! なにをする、ゼウスッ!」
 
从;Д;从「―――ッ――」
 
 
 アラマキの挙げ、振り下ろした右腕を、ゼウスが押さえていた。
 あと寸分のところで、ワタナベの首が胴体からはずれるところだったのに。
 アラマキは、なぜゼウスが彼女を庇うのか、わからなかった。
 
 また、その時のゼウスの声を聞いて
 ワタナベは、なぜか昔を思い出した。
 
 
.

259 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:33:24 ID:poV0/hgUO
 
 
(# ,*;゙><●>)「『作者』さんがなぜ、わざわざ彼女を助けようとするのか。わからないのか」
 
/;,' 3「……?」
 
(;^ω^)「………」
 
 
 
 
(# ,*;゙><●>)「……我々は、まだ勝っていない」
 
(# ,*;゙><●>)「むしろ、逆転される立場にあるのだ」
 
(# ,*;゙><●>)「それも、文字通り『手のひら返し』されて、な」
 
 
 
 
.

260 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:34:45 ID:poV0/hgUO
 
 
/;,' 3「な――馬鹿なッ! そんなはずなかろう!」
 
 アラマキは、思わず後退した。
 たいそう焦燥したような面で、ゼウスをみる。
 
 内藤は、静かに肯いていた。
 内藤が口を開きそうになかったので、ゼウスが付け加えた。
 
 
(# ,*;゙><●>)「考えてみろ」
 
(# ,*;゙><●>)「ハインリッヒの『優先』を『反転』させるのだぞ、彼女は」
 
(# ,*;゙><●>)「私の自然治癒でさえだ」
 
/;,' 3「は……はァ?」
 
 それは、アラマキも知っていた。
 壁にちいさな穴を開けて、見ていたのだから。
 ゼウスは続ける。
 
(# ,*;゙><●>)「彼女の能力の適応範囲。それは自身に関する『因果』だけではない」
 
(# ,*;゙><●>)「この世に存在する、すべてのものを『反転』させるのだ」
 
/;,' 3「どういうこと……じゃ……?」
 
( ^ω^)「わからないのかお、じーさん」
 
/ ,' 3「!」
 
 ゼウスの真意を、内藤は察した。
 だが、それは口にはしなかった。
 前にでて、ゼウスに代わり内藤が言う。
 
 
.

261 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:35:50 ID:poV0/hgUO
 
 
 
( ^ω^)「ワタナベがその気になりゃ……」
 
 
 
 
(   ω )「……僕ら全員の『生死の概念』が、『反転』させられるんだお」
 
 
/ ,' 3「ッ!」
 
 
.

262 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:37:09 ID:poV0/hgUO
 
 
(# ,*;゙><●>)「……だから。交渉的発想で、彼女を助けるように出向かれたのだ」
 
(# ,*;゙><●>)「……といっても、もう気を失ったみたいだが」
 
/ ,' 3「――ッ」
 
 アラマキは、はッとしてワタナベの方をみる。
 ワタナベは動くことはなく、ただ静かに横たわっていた。
 
从 ー 从
 
 ――ワタナベは、先ほどまでの苦悶とは違い、
 安らかな顔をして、目を瞑っていた。
 流した涙の跡が残り、躯の傷を見なければ、天使が安らいでいるような光景に見える。
 
 まるで、死ぬ直前に大切な人に逢って、
 安心して冥界へ旅立ったかのように。
 
 まだ、彼女は死んでいない。
 だが、苦痛は感じていなさそうだった。
 
 
/ ,' 3「…。」
 
 
(# ,*;゙><●>)「……」
 
/ ,' 3「……どうした、ゼウスよ」
 
 
 ゼウスはそのワタナベの姿を少し見つめたのち、
 彼女を担いで、屋敷の方へと戻っていった。
 予想外の行動に、アラマキはそう問いかけた。
 
 ゼウスは黙って、屋敷のなかに入る。
 静かに、彼女を運んでいった。
 アラマキと内藤は、それを見送ってから、言葉を交わした。
 
 
.

263 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:38:53 ID:poV0/hgUO
 
 
/ ,' 3「……わからんの」
 
( ^ω^)「たぶん……ゼウスは、彼女を治癒させるつもりだお」
 
/ ,' 3「……なんじゃと?
    『拒絶』じゃよ?
    なんの意味がある」
 
( ^ω^)「意味?
       当然あるお」
 
 
 
 
( ^ω^)「なあ、ハインリッヒ?」
 
 
/ ,' 3「!」
 
 内藤がおもむろにそう声をかけると、
 遠くの方で倒れたままだった彼女が、のそっと起きあがった。
 アラマキは内藤が急にそう声をかけたこと、また彼女が動いたことの両方に驚いた。
 
 嘗ての『英雄』は、地上で胡座をかいて、頭をぽりぽりと掻いた。
 どこか、寂しさが感じられるというか、覇気が感じられなかった。
 
从 -∀从「……気づいてたのかよ」
 
( ^ω^)「ハインリッヒは、作中では十五分前後で目を覚ましてたからな。
       といっても、相手は三下の『能力者』だけど」
 
从 ゚∀从「……はは」
 
 
/ ,' 3「……して、意味とはなんじゃ」
 
从 ゚∀从「わかんねぇのかよクソジジィ。『反転』だ」
 
/ ,' 3「……てのひらがえしぃ?」
 
 
.

264 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:40:19 ID:poV0/hgUO
 
 
 言われて、アラマキははッと気づいた。
 それを、ハインリッヒが説明する。
 
从 ゚∀从「私の『優先』といい、ゼウスの自然治癒能力といい。
      一度『反転』されたもんを、元に戻させねぇとよ」
 
/ ,' 3「ああ……そうか」
 
从 ゚∀从「それにしても、ゼウスはなんでまだ動けたんだ?」
 
/ ,' 3「それは儂も気になったの」
 
 二人は、内藤の方をみる。
 本人のいない今、答えられるのは内藤だけだからだ。
 内藤は困った顔をして、しかし正確に彼らの欲する答えを言った。
 
 
( ^ω^)「……簡単だお」
 
( ^ω^)「自然治癒が『反転』させられようと、
       元の体力が尋常じゃないゼウスは、
       向こう一週間以上はぴんぴん動けるんだお」
 
 
.

265 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:42:20 ID:poV0/hgUO
 
 
从;゚∀从「っ!」
 
/;,' 3「そ……それほどのッ!」
 
               ゼウス
( ^ω^)「……それが、『全能』。
       今後、あいつを敵に回すなら、そこを考慮しておけお」
 
 内藤はそう吐き捨てて、彼も屋敷の方へと向かった。
 ゼウスは今頃救護室だろうか。
 メイドを呼んで、ゼウスの部屋にでも案内してもらえればいい。
 そう思い、内藤は歩いていった。
 
 ハインリッヒとアラマキも、遅れながらも内藤についていった。
 ゼウスに対する『恐怖』が深まったところで、今は同盟関係にあるのだ。
 そんなことを憂慮するくらいなら、新たな『拒絶』――モララーのような――を
 憂慮して対策を練る方が、ずっといい。
 
 各々が別の考えを抱いたまま、屋敷へと戻った。
 
 
 
.

266 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:44:33 ID:poV0/hgUO
 
 
 
( ^ω^)「……」
 
( ^ω^)「(ゼウスが彼女を治癒するわけ……本当にそれだけかお?)」
 
( ^ω^)「……」
 
 
( ^ω^)「ま、別になんでもいいお」
 
/ ,' 3「? なんか言ったか?」
 
( ^ω^)「なんでもないお。
       たのもー! メイドいるかお?」
 
爪゚ー゚)「お呼びになりましたか?」
 
(;^ω^)「うわ、いたッ!」
 
从 ゚∀从「ゼウスの部屋に案内してくれ」
 
爪゚ー゚)「わかりました」
 
 メイドに連れられ、ハインリッヒが先頭に、続いて、アラマキ。
 虚を衝かれた内藤は、少し転びそうになりながらも、彼らのあとを追いかけていった。
 
 
 
 
 こうして、互いに手のひらを返しまくった戦闘は、幕を閉じた。
 
 
 
 
.

267 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:45:42 ID:poV0/hgUO
 
 
 

 
 
 『拒絶』は、初めは《拒絶能力》なんてものは持っていなかった。
 というのも、ただ拒絶の精神を持っただけで、実質は『拒絶』に成れるのだ。
 
 では、どうして《拒絶能力》が生まれるのか。
 その積もった拒絶の精神が、実体を成すからである。
 
 今まで混沌とした拒絶の精神。
 どこからが拒絶でどこからがそうでないのか。
 それが曖昧だったのが、「あること」を経由して
 徐々に形成され、スキルとなるわけだ。
 
 むろん、例外はある。
 拒絶の精神が類を見ないほどの大きさに膨れ上がり、
 自分で粘土をこねるかのようにして、出来上がるのだ。
 
 だが、ほとんどの『拒絶』は皆、トリガー≠要するのである。
 そのトリガー≠ェなければ、『拒絶』は生まれなかったのだ。
 
 
 
.

268 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:46:40 ID:poV0/hgUO
 
 
 
(´・ω・`)「……ん?」
 
 
 ショボン=ルートリッヒ。
 苦しい『現実』を拒絶した男。
 
 まだ、当時は【ご都合主義】は持っていない。
 ただ、漠然とした拒絶のオーラが漂うばかりである。
 だが、近づくだけで吐き気をも催しそうなオーラを持っている。
 それは、今と何ら違いはない。
 
 
 一人の白衣をまとった男が、歩み寄る。
 ショボンは、自分に自発的に近寄ってくる人などいたのか、と驚いたような顔をして彼を見つめる。
 白衣の男は、ショボンのオーラに屈する様子を見せない。
 ショボンはますます彼に興味を持った。
 
 白衣の男はそんな視線など意に介さず、手帳を見ていた。
 そしてぼそぼそと、何かを呟いている。
 
 ショボンは、ニタニタと笑みを浮かべて言葉を発した。
 
(´・ω・`)「どうしたんだいきみ」
 
(    )「……」
 
(´・ω・`)「僕になにか、用でも?」
 
 両手を横に、まるで男を抱擁しようとするかのように広げる。
 一般人なら、たとえ何かに夢中でショボンに気づかなかったとしても、
 そこですぐに彼の『拒絶』に気がついて踵を返し、逃げるのだ。
 
 
.

269 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:47:37 ID:poV0/hgUO
 
 
 だが、男の行動は逆≠セった。
 むしろ、負けないくらいニタニタと笑みを浮かべ、ショボンの方を見た。
 ある意味における狂気をも感じさせる、笑みだった。
 
(    )「……いい、いいぞ」
 
(´・ω・`)「………は?」
 
 男は、そう言った。
 ショボンは姿勢を崩して、虚を衝かれたような顔をした。
 きょとんとして、男の顔を見つめる。
 
(    )「拒絶のオーラを、痛いほど感じるぜ」
 
(´・ω・`)「……なんなんだきみは」
 
 ショボンは途端に警戒心を見せた。
 【ご都合主義】がないという意味では、
 拳で戦わざるを得ない一般人に過ぎないのだが。
 
 男はそんな脅しも効かない。
 手帳を片手でぱたんと閉じ、ズボンのポケットに入れる。
 ショボンと、じっとにらみ合っている。
 
 さすがのショボンも、気味が悪く思えてきた。
 
 
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270 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:48:42 ID:poV0/hgUO
 
 
(    )「今の『拒絶』が苦しいか?」
 
(´・ω・`)「……は?」
 
(    )「『拒絶』として、世界に受け入れさせたいか?
      『拒絶』を、お前自身を」
 
(´・ω・`)「…ッ」
 
 
 男は突然そんなことを語り出した。
 ショボンは当初、何を言っているのだと思った。
 が、言っている内容はまさに自分が求めているものだった。
 
 『拒絶』を、受け入れさせる。
 この自分を、受け入れさせる。
 
 まさしく、今まで自分が求めてきたことではないか。
 ショボンはいつの間にか、その話に聞き入っていた。
 
(´・ω・`)「ど、どういうことだ」
 
(    )「簡単だ」
 
 
 
(    )「『パンドラの箱』を開ければいい≠だ」
 
 男は、そう言うと掌を前に突き出した。
 そして、目を細め、口角を吊り上げる。
 
 その表情の変化には気づかず、ショボンは一歩前に踏み出そうとした。
 
(´・ω・`)「? 詳しく聞かせ――」
 
 
 
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271 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:50:00 ID:poV0/hgUO
 
 
 だが。
 
 
(´・ω・`)「―――?」
 
 前に踏み出そうとすると、見えない壁のようなもの≠ノぶつかった。
 光の屈折もない。
 そこに壁があるかなど、視認できない。
 しかし、確かに壁はあった=B
 
 ショボンは状況が理解できず、後退しようと思った。
 だが、それも無理だった。
 後ろにも、その壁はあった≠フだから。
 
(;´・ω・`)「な、なんだこれは!」
 
 思わずショボンは叫ぶ。
 慌てて右手を伸ばしたが、それもやはり壁≠ノよって遮られた。
 こつん、という音が聞こえてもよさそうなのだが、音はしない。
 
 左手はどうか。
 やはりだめだ、壁≠ェある。
 
 上下左右がだめなら、上だ。
 そう思って上に手を伸ばしたが、上にも壁――天井はあった。
 否、天井というよりは蓋≠ニ呼んだほうがいい。
 
 何度もがつがつと殴ったが、何も変化はない。
 というのも、本来なら物理法則に従って痛むはずの拳に、何も変化が訪れないのだ。
 
 はッとして、足下を見た。
 地面は土であって、コンクリートではない。
 時間はかかるだろうが、穴を掘ってはどうだ。
 そう思って、爪先と踵を使って穴を掘ろうとした。
 
 しかし、そんな実感はしなかった。
 つるつるの壁――床、それも摩擦のしない≠サれを、靴で滑らせている感じしかしなかった。
 文字通り、六面全てに壁を張られたのだ。
 ショボンはわけがわからなくなった。
 どんどん、と音はしないが壁を殴って、訴えかけた。
 
 
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272 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:51:02 ID:poV0/hgUO
 
 
(;´゚ω゚`)「おい、なんだこれは! 早く出せ、出してくれ!」
 
 その男は、ショボンの向かいで立って、ショボンを観察している。
 どうやら、ショボンは脱出口を探そうと足掻いていたみたいだ。
 それは六面の壁≠ナなくて箱≠ネんだけどなぁ、と男は思っていた。
 
(    )「んー?」
 
 ショボンが何か言っている気がした≠フで、首を傾げた。
 だが声は聞こえてこない=B
 ただ、口を動かす姿が見えるだけだ。
 
 ショボンは「ここから出せ」と、何度も叫んでいる。
 しかし、今その声が聞けるのは、世界でもショボンだけ≠ネのだ。
 男は首を傾げるしかなかった。
 
(    )「何か言ってんのか?」
 
(    )「――なーんて、な。誰も聞こえちゃしてねーよ」
 
(;´゚ω゚`)「          」
 
(    )「なんかサイレント映画でも見てるみたいだぜ」
 
(;´゚ω゚`)「                」
 
(    )「これはこれで傑作だけどな」
 
 
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273 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:52:16 ID:poV0/hgUO
 
 
 そう言って、男は白衣を翻す。
 風に白衣の裾を預け、ポケットに手を突っ込んで歩き始めた。
 やや俯き気味なのは、何かを考察してのことか。
 背後にいるショボンは、置き去りにされる。
 
 俯いたまま、誰に言うまでもない言葉を、呟く。
 
 
(    )「……もし『拒絶』の資格があるなら。
     『パンドラの箱』を開ける時まで、死なないはずだぜ」
 
(    )「それまでの間、せいぜい拒絶の精神を磨いて、いつかは俺を驚かしてくれ」
 
(    )「隔離された空間≠セから、誰からの干渉も受けないしな」
 
(    )「迫り来る餓死、窒息死、孤独死、寿命死。
      食欲、名声欲、性欲、財欲、支配欲の渇水。
      自分のこの不幸な現実、因果、真実、運命。
      それら全てを、『拒絶』しろ」
 
(    )「そして、スキル――」
 
(    )「《拒絶能力》を手にし、且つ気絶した暁には」
 
(    )「この俺の計画のために、犠牲になってくれ」
 
(    )「……楽しみだなあ!」
 
 
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274 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 11:53:34 ID:poV0/hgUO
 
 
 男は、そこで顔をあげた。
 ニタニタと貼り付いた笑顔が、やはり狂っているとしか思えなかった。
 世界にいる『拒絶』に向けて発する言葉なのか、その声は大きかった。
 
 
  _
( ゚∀゚)「俺の計画は……誰にも止めさせねえぜ」
 
 
 
 ジョルジュ=パンドラ。
 
 このマッド・サイエンティストの計画は、
 ショボンの「拒絶化」を皮切りに、始まってしまったのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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