213 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 09:54:57 ID:poV0/hgUO
 
 
○登場人物と能力の説明
 
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
 
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
 
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
 
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
 
(#゚;;-゚) 【???】
→『英雄』を探している少女。時を何度か巻き戻した。
 
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
 
从'ー'从 【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】
→『因果』を『反転』させる《拒絶能力》。
 
(゚、゚トソン 【???】
→時や力を『操作』した『拒絶』の少女。
 
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
 
 
.

214 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 09:55:37 ID:poV0/hgUO
 
 
○前回までのアクション
 
/ ,' 3
从'ー'从
→戦闘中
 
从 ゚∀从
→気絶
 
( ´ー`)
( ・∀・)
(゚、゚トソン
→バーボンハウスで合流
 
 
.

215 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 09:57:05 ID:poV0/hgUO
 
 
 
  第十五話「vs【手のひら還し】Z」
 
 
 
 不幸は、そのとき――その十分ほど前からはじまっていた。
 偶然張り込んでいた万引き逮捕のベテランが、ワタナベに目をつけていたのだ。
 そして、ガムをポケットに突っ込んだ瞬間を、隠しカメラはしっかりと捉えていた。
 
 また、このワタナベの母も勤めるスーパー。
 偶然この日この時間帯、母は勤めていなかったが、雇われている
 というだけでもうワタナベ一家の命運は決まっていたようなものなのだ。
 
 万引きを聞いて、母がすぐにやってくる。
 ワタナベは目の前が真っ白になって、思考機能が停止していた。
 
 仄かに暗い部屋で、ワタナベと向かいに男が座る。
 責任者なのか、持つ威厳は他の店員と比べものにならない。
 手から汗がにじみ出てきて、もうなにも考えたくなかった。
 
 母が、慣れた手つきで扉を抜けた。
 そしてその男と顔を合わせた途端、男はふぬけた顔をした。
 母は、この時間帯シフトが入っていない。
 ならばなぜ来たのか――と考えるまでもなく、答えはわかった。
 
(    )『なッ……』
 
 男は言葉を失う。
 それもそうだろう。
 
(    )『て――店長っ』
 
 この男は、店長だ。
 そして、目の前にいる万引き犯の保護者が、なんと自分の店で雇っている人なのだ。
 
 雇った人の娘が、自分の店で万引きした。
 その背景に、何らかのからくりがあるかはわからないが、
 少なくとも雇い主にとって、これほど面白くないものはないだろう。
 
 
.

216 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 09:58:41 ID:poV0/hgUO
 
 もしかすると、「あの店は盗みやすい」と、パートを通して得た情報を元に、万引きを働いたのかもしれない。
 更に言うと、最初からその目的で彼女がパートを申し出たのかもしれない。
 ひょっとすると、パートをして信頼を募らせることで万引きも許させようと考えたのかもしれない。
 
 店長の脳裏では、咄嗟にそんなありもしない被害妄想が浮かんできた。
 そして、拳をわなわなと震わせては、ワタナベの母をきッと睨みつけた。
 ワタナベも母も萎縮し、母はとにかく頭を下げるだけだった。
 
(    )『〜〜〜ッ!』
 
(    )『〜〜……。』
 
从 ー 从『……』
 
 母と店長が、話し合っている。
 いや、店長が虚構の怒りを母に一方的にぶつけていた。
 
 テレビ番組の収録もある今日に限って、万引きした保護者が雇い主なのだ。
 これが俗世間に広まっては、今後の雇用において支障が来されるどころか、
 全国チェーンの店の名前に泥を塗るはめにすらなってしまう。
 
 店長の被害妄想と同じことを考える視聴者もいるだろう。
 別のチェーン店舗の店長もだ。
 ほかのパートで働いている人もだろう。
 
 それほど、ワタナベの仕出かした行動は「偶然」にしては出来過ぎるほど、「ま」が悪かったのだ。
 
(    )『とにかく、クビだッ! クビぃぃッ!!』
 
(    )『はい…申し訳ございません…はい……』
 
(    )『警察には突き出さないでおいてやるがな、覚悟しろよ!』
 
(    )『覚悟……?』
 
(    )『二度と、ここらで就職ができないように手回ししてやる!』
 
(    )『うちのグループを敵に回したことを、後悔するんだな!』
 
(    )『……!』
 
(    )『わかったら帰れ、いいから帰れッッ!!』
 
.

217 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:00:22 ID:poV0/hgUO
 
 
 沸騰したやかんのように顔を真っ赤にさせ、店長は怒鳴った。
 母は座っているワタナベを立たせ、何度も頭を下げて後ろ歩きで退出していった。
 母は、どこか泣いているようにも思える。
 いや、それはワタナベが見ようとしなかっただけで、実際は泣いていた。
 
 ワタナベは、とにかく現実逃避したい一心でしかなかった。
 聴覚も機能しておらず、辛うじて視覚が動いていただけだった。
 
 店を出るとき、心なしか周囲の視線を集めていた気がした。
 ただの自意識過剰なだけか、被害妄想癖がついたのか。
 だが、少なくとも良い目で見られているわけではなかった。
 それを母はなんとなくでだが知っていた。
 
 自動ドアを抜けた直後の虚無感は、ワタナベが万引きが
 成功したと勘違いしていた時に得ていた快感とは真逆のものだった。
 ただ空っぽの頭で、転ばないことだけに意識を集中させ惰性で歩いている。
 ワタナベの母も、暫くはなにも言わず、ワタナベの手を引くだけだった。
 
 (    )『……ねえ』
 
从 ー 从『……』
 
从'ー'从『……』
 
(    )『お母さんね、怒ってないから。
      そりゃ、お金がなくってつい手を伸ばしちゃうことくらい、あるわよ』
 
从'ー'从『………』
 
 母は、せめてワタナベにのしかかる罪悪感を拭おうと、そう慰めた。
 本来なら怒るべきであるはずなのだが、そうしなかった。
 それほど、我が娘が万引きに走るなど、信じられなかったからだろうか。
 とにかく、叱ろうという気にはなれなかった。
 
 だが、それは無意味だった。
 ワタナベは、罪悪感などこれっぽっちも感じていなかったからだ。
 
 二人は、帰路をとぼとぼと辿る。
 その帰り道は、どこか哀愁に満ちていた。
 
 
.

218 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:01:44 ID:poV0/hgUO
 
 
 

 
 
 ワタナベの万引きによって、母が無職になった。
 それから一週間経った今も、母がなにかに就くことはできなかった。
 年齢的にも、普通にコンビニや工場などで働けそうなものを。
 
 それもそうだろう。
 嘗て母が勤めていたスーパーには、ある特徴があった。
 
 裏社会に顔が利いているのだ。
 
 といっても、そのスーパーが、ではない。
 そのスーパーの、親会社だ。
 その親会社は非常に大きなグループとなっていて、
 スーパー以外にも多岐に渡って何らかの商業を営んでいる。
 
 そして繋がる、裏社会との関係。
 
 店長が嘗て言っていた言葉は、これのことだった。
 裏社会からのアプローチか、そもそも親会社と繋がっているのか、
 近辺でワタナベの母が働けそうなところ全店舗に、釘を刺していたのだ。
 
 裏社会――表社会にもあるかもしれないが――には、ブラックリストがある。
 それに似たような形で、ワタナベ及びその母は裏で広がる蜘蛛の巣に広められていた。
 母が面接に向かっても、ひどい場合は電話で名乗った段階で、断られる。
 
 母はそれらのことに薄々気づいていたが、決して口にはしなかった。
 一番傷ついているのは娘なのだ――と思って。
 
 
.

219 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:03:22 ID:poV0/hgUO
 
 
 解雇された当初のうちは問題なかったが、ただでさえ
 母子家庭、解雇された生活が続くと自然と生活困難に陥ってゆく。
 
 普段はハンバーグやオムライスなど食べていたのが、気がつけば
 納豆やめざしなど、安値で食べられるものしか食さなくなっていた。
 ひどい時には、米と海苔だけで済ませる日も出てきた。
 
 母としては成長期のワタナベにそんな食事はさせたくないのだが、
 やはり職先が見つからないのでは、どうしようもなかった。
 一方のワタナベは、なにも考えず貪るように箸を進めていた。
 
 そして困難はそれだけにとどまらなかった。
 金がなくて困るのは、食費だけではないのだ。
 まず、水道代。電気代。ガス代。
 生活するのに必要不可欠なそれらを払う金を、果たして残しておけるのか。
 
 また、ワタナベは高校にも入学しなければならない。
 現在も部費がかかるし、ボロボロになった服や靴を新調しなければならない。
 生活雑貨も買い足していかなければならないのだ。
 そう考えると、母子家庭で母が無職になったというのは、とんでもない事態だったと言える。
 
 十日経った。職先は見つからない。
 二週間。やはり職先は見つからない。
 だいぶ過ぎた。ずっと職先は見つからない。
 
 
.

220 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:04:59 ID:poV0/hgUO
 
 
 母は焦燥に駆られた。
 もう金がないのだ。
 
 生活補助を申請しようとしたが、いったい役所は何を
 手回しされたのか、条件は揃っているはずなのに受理してくれない。
 頼るべき親戚もおらず、貯金なんて既に底をついている。
 
 母も必死に探して、隣の更に隣町まで足を運んだが、やはり無理だった。
 この頃は、裏社会の勢力がかなり強かった時世だ。
 回されたであろうブラックリストには、かなりの効力があったのだろう。
 母はその現実を無視して、ただがむしゃらに抗おうとしていた。
 
 ――もし「あの男」なら、この時点で既に「あの能力」を得たのだろうか。
 というのも、『現実』を『拒絶』するには充分すぎる条件である。
 
 家は売り払い、アパート生活。
 調度品は所々欠け、粗大ゴミ置き場から拝借したものもある。
 食事は近所の野草を煮て食べ、藁をかぶって睡眠をとる。
 
 銀行は金を貸してくれない。
 当然だ。
 
 家具もぼったくり価格でしか売れなかった。
 妥当だ。
 
 やはり職先は見つからない。
 不思議でない。
 
 
.

221 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:07:07 ID:poV0/hgUO
 
 
 学校に行く服も洗えなくなってきた。
 洗うくらいならその水を飲料水にする。
 葉を煮る汁も貴重な飲料水だ。
 田圃の水を飲んだこともある。
 
 ダンボールをかじってみたこともあった。
 苦いし満腹感も満たされない。
 鳩を焼いて食おうかと思ったが、そもそも捕まえられない。
 
 アパートの家賃がたまってきた。
 ガスも水道も止められた。
 
 学年費が納められない。
 だから学校にも行けない。
 
 風呂に入れない。
 だから異臭まみれになってきた。
 
 大家が法に物を言わせて強制的に追い出そうとする。
 母は闇金融業者から金を借りることを決意した。
 
 その金融業者でさえ、数軒は貸すことを渋られた。
 それほど裏社会は怖かったのだ。
 だが、一軒だけ、貸してくれる金融業者がいた。
 
 そこは、裏社会に恐れを抱かない――むしろ反発している、そんな向こう見ずな会社だった。
 実際は、のちに現れる『レジスタンス』のような反政府反裏社会組織の傘下だったに過ぎないのだが。
 
 母は喜んで金を借りた。
 担保もなし、連帯保証人もいらないと言われたからだ。
 裏がある、と疑わず、安請け合いで金を借りた。
 
 その金で滞納していた家賃も払い、生活費を払ってガスや水道を再び使えるようにした。
 久々に服を洗い、身体も洗い、美味しい――とは言えないにしても並の食事を得られた。
 久々の人間らしい生活に、充足感を覚えることができた一瞬であった。
 
 
 そう、「一瞬」である。
 
 
.

222 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:08:57 ID:poV0/hgUO
 
 
 

 
 
  『出てこいやァ!!』
 
  『隠れてるのはわかってんだぞ!』
 
 
从'ー'从『……』
 
(    )『静かに…ね…』
 
 当然、こうなるであろうことはわかりきっていた。
 期日を過ぎた頃から、毎日やってくる取り立ての者。
 扉を殴る蹴る、簡単に破けてしまいそうな扉だから、母もどきどきしていた。
 
 払うあてなど、なかった。
 おそらく、母にとっては死ぬ前の幸せな一時を味わいたかっただけなのだろう。
 だから金を借りる際、書類の文字をちっとも見ることはなかった。
 
 取り立て人が扉や壁を殴るたびに、アパート全体が揺れている気がする。
 ほかの住人が迷惑を被るのだが、決して出てきて助けてくれやしない。
 むしろ、彼らが引き返してから、ワタナベたちを責めるのだ。
 
 母は、そろそろ帰るだろう、と思った。
 いつもはそろそろ帰る頃合いなのだ。
 そうなってから、野草摘みに回ろうとするのである。
 
 予想通り、音がしなくなった。
 いつものように捨てぜりふを吐いて、階段を下りる音が聞こえる。
 母は十分間息を潜め、そして静かに覗き穴から外の様子を確認した。
 いない、と確信して、ゆっくり扉を開いた。
 
 
.

223 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:10:38 ID:poV0/hgUO
 
 
 
 瞬間、何者かに脚を掴まれた。
 母は引きずられるように表に放り出された。
 思わず柵から転落しそうになる。
 
 また、その何者かの正体も、すぐにわかった。
 黒いスーツに、上から白いコートを羽織っている。
 厳つい出で立ちに借り上げられた髪、ぎらぎらと
 まぶしい指輪の数々やネックレス、腕時計、ブレスレット。
 
 母は途端目から涙が出てきた。
 全身が震えに震える。
 悲鳴をあげて、なんとか男の手を振り払おうとする。
 だが、母の細い手では、到底逃れるなど不可能だったのだ。
 
 男が母の顎を鷲掴みし、顔を寄せる。
 男はいやらしい顔をして、母の耳に口を当てた。
 母はいますぐ死にたい、と思った。
 
(    )『探しましたよォ〜、なァーんだおうちにいたんじゃないんですかァ〜』
 
(    )『は……なしてッ! やぁッ!!』
 
(    )『それはできないですなァ。もう期日はとォーっくに過ぎてんですから』
 
 一息挟んで、男は続ける。
 
(    )『元金利息あわせておよそ六百万。払ォてもらいましょか』
 
(    )『すみま、すみません、まだお金ができてなく――』
 
(    )『そうですかァ、じゃあ「担保」いただきましょかァ』
 
(    )『!? 担保!?』
 
 
.

224 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:11:55 ID:poV0/hgUO
 
 
 母は驚いた。
 話では、「担保はない」と聞いていたのだから。
 聞き間違いであることを信じて、復唱した。
 すると、男はにんまりと笑った。
 
(    )『担保っちゅーな言い方じゃ悪いなァ』
 
 母を柵に押しつけるようにして、言った。
 
 
(    )『娘さん、いただきますわ』
 
(    )『ッ!!』
 
(    )『まあうちで働いてもらえば、ほーんの数ヶ月で返せますわなァ。
      娘さん、なかにいるんでしょ?』
 
(    )『嘘つきッ! そんな話聞いてない!』
 
(    )『やかましいわアアッ!』
 
 途端、男は怒鳴りつつ母の脚を払って転ばした。
 自分もしゃがみ込んで、母の顎をがッと掴む。
 母の顔は、この世の恐怖を知り尽くしたような顔だった。
 
(    )『書類にね、書いてましたよォ?
      あんたはそれを見ずサインしたんですがねェ』
 
(    )『え……そんな……ッ』
 
 母の顔が、どんどん青ざめていく。
 男は見切りをつけたようで、母から手をひいた。
 そして、開きっぱなしのドアから、ずかずかと奥に入っていった。
 当然靴など脱がないし、家が汚れるなど気に留めてすらいない。
 
 
.

225 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:13:53 ID:poV0/hgUO
 
 
 母は「娘だけは!」と懇願した。
 だが、それを聞き入れるはずもない。
 男は奥で体育座りしているワタナベを見て、にんまりと笑った。
 
 ワタナベは見て見ぬふり、聞かないふりをしていた。
 男が、ワタナベの細い手首をがッと掴みあげる。
 
(    )『じゃ、そーゆーことだから、来てもらうよォ?』
 
从'ー'从『……』
 
 ワタナベは抵抗しない。
 糸の切れたマリオネットのように、男にされるがまま連れて行かされる。
 
 扉から出た時の、ワタナベが見た母の顔は、もう母の顔ではなかった。
 ワタナベにしがみつき、「それだけは」と懇願する。
 しかし、ワタナベは反応しない。
 男も、首を縦に振るつもりなどあるはずもない。
 
(    )『お゙願いじます…娘は…ッ』
 
(    )『めんどくさいなァ、もう!』
 
 男は、母を煩わしく思い、思い切り母の胴を蹴った。
 さすがに殺人は許されないので、あくまで母を突き放すようにだが。
 母は手をワタナベから離してしまう。
 蹴られた箇所をさすり、嗚咽をあげて泣いていた。
 
 男は抵抗しないワタナベを連れて、停めてあった車に乗せる。
 抵抗しないので、男としては楽だった。
 中で待機していたもう一人が、ワタナベに睡眠薬を嗅がせ、眠らせる。
 「楽な仕事だった」とほくそ笑み、車を走らせた。
 闇に包まれた、黒い社会、暗い未来へと。
 
 ワタナベは、薄れゆく意識の中、自我を保とうとはしなかった。
 ただ、心の中を自我に代わる何かが支配していることを辛うじて認識していただけだった。
 
 ワタナベが、『拒絶』を抱きはじめる第一歩である。
 
 
.

226 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:15:28 ID:poV0/hgUO
 
 
 

 
 
 母に金を貸した金融業者は、これが狙いだった。
 当然彼らのもとにだって、ブラックリストは届いていたのだ。
 裏社会を統括するものから届いたので、あくまで「裏」に籍を置く彼らも従わざるを得ない。
 当初は、そのつもりだった。
 
 だが、ある者は考えた。
 あえてワタナベの母に金を貸さないか、と。
 
 いつか、彼女は必ず自分たちのところにも来る。
 そこで甘い顔をして貸してやれば、いいのではないか、と。
 
 見返りはどうする、とは聞かれなかった。
 「担保」がなにか、言わずとも皆わかっていたのだ。
 ブラックリストには、当然娘のワタナベも載っている。
 それも、可愛らしい中学生、としてだ。
 
 闇金融業者を営む傍らでは、その反政府反裏社会グループのもと風俗店に近い%Xを構えていた。
 当然非合法。通うのも裏社会の人間である。
 扱うのは性機能が発達する「中学生」以上。
 表社会からはもちろん、裏社会からも弾圧される商売だった。
 
 というのも、裏社会が勢力を持つ反面、裏社会も裏社会で
 統率を守らせようとする動きが見えてきているのだ。
 それらを統括する男が、現れたことによる動きだった。
 その男の真名は不明だが、存在だけは既に知れ渡っている。
 
 
.

227 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:16:41 ID:poV0/hgUO
 
 
 当然彼らは賛成した。
 そして、思った通りワタナベの母がやってきた。
 裸眼でも見えづらいほどの小さな文字でその旨を記し、サインさせる。
 母は内容を見ようともしなかったので、好都合だった。
 
 
 ――そして現在に至る。
 
 風俗店と言っても、ただ小汚い部屋にちいさなベッドが一つあるだけの質素な部屋だ。
 そこに、裸の「商品」が常に待機している。
 それを買った人が、限られた時間内に限り「商品」を好き勝手にしていい、というシステムだ。
 
 ワタナベが当初その部屋に放り投げられた時、逃げようとはした。
 だが、窓は勿論、空調機も、隠し扉もない。
 それを知った途端、ああ、もうだめだ、甘受しよう、となった。
 
 非合法のなかの非合法の商売なのに、顧客は次々やってくる。
 一日に十数人という人数の男に抱かれる。
 当然ワタナベの意見など無視される。
 普通に情欲を果たそうとする者ならまだよかった。
 ストレス発散に、と暴力をふるい、血を吐かせる者もあった。
 
 ワタナベは、初日にしてもう廃人と貸した。
 「客」が来たら「商品」らしくおとなしく股を開く。
 「人」としてではなく「物」としての生活に、ワタナベはすぐ慣れてしまった。
 
 食事は、スタイルが維持されるような、しかし味はないもの。
 容姿に関する「メンテナンス」は入念にさせられた。
 そうでないと、「客」が萎えてしまうからだ。
 
 
.

228 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:19:52 ID:poV0/hgUO
 
 
 ワタナベの「人形」としての生活は、長く続いた。
 いつの頃からか、上に乗られても痛覚もなにも感じなくなっていた。
 いや、全神経が機能しなくなっていた、と言うべきか。
 とにかく、ワタナベが機能させていたのは視覚だけだった。
 
 妊娠中絶をさせられた時も。
 髪を引っ張られ、性器を喉元にまで押しつけられた時も。
 痣ができるまで殴りつけられ、いきなり性器を挿入された時も。
 ワタナベは、なにも、感じなかった。
 
 一昨日は八人。
 昨日は十人。
 今日は十三人。
 
 「ワタナベ」という商品は、徐々に人気を博していった。
 抵抗もせず、従順な「商品」だ、ということで。
 
 「商品」として、「客」の性欲をかきたてるような声は発する。
 「商品」として、「客」の希望に添った体勢をする。
 「商品」として、「客」の要望はなんでも聞く。
 
 
 ワタナベの自我が、完全に『拒絶』に呑まれそうになった頃だ。
 
 
 
.

229 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:22:31 ID:poV0/hgUO
 
 
 

 
 
 尖兵を放っておいてよかった、と痩身の男は思った。
 彼の情報によると、裏社会でも規制しているはずの商売をしている集団がいる、とのことだ。
 その情報を聞いて、自分はまだ甘かった、と思った。
 
 彼が――否、
 「彼らが」裏社会を統率しようとしたのは、いつの頃からか。
 
 まだ成人していないリーダー、この痩身の男。
 リーダーには劣るも圧倒的な知能を持つ童顔の女。
 ドクターとして彼らを支えている精悍な面魂の男。
 腕っ節と精神の強さが買われた、屈強な男。
 表向きには国軍として国に忠実な、裏切りの元帥。
 
 彼らの圧倒的な知能指数、戦闘力、そして《特殊能力》を前に、ひれ伏すアウトローや暴力団は多かった。
 たとえ裏社会を統率している親玉の暴力団が総力を挙げて彼らの
 リーダーに立ち向かっても、傷ひとつ付けられず皆死んでゆくのだ。
 
 弱肉強食の世界で、彼らに従おうとするのは当然の行為だ。
 そんな彼らが出した規制に従うのも、常識の行為だ。
 そんな「常識」すら弁えていない集団がいるとなれば、潰す。
 それも、やはり当然であり常識だった。
 
 リーダーは、お供を二人引き連れて現場に臨んだ。
 屈強な男と、知的な女の、合わせて三人である。
 
 現場に着くと、不穏な空気が彼らを包んだ。
 だが、それを涼しい顔で無視した男が、ずかずかと歩いていく。
 女はどこか別の場所に向かい、リーダーはぴょんと跳ねて電線の上に飛び乗った。
 正面玄関から突入する男は、この屈強な者だけなのだ。
 
 
 そして、裏社会における「落とし前」をつけさせる時がきた。
 ちょうど、ワタナベが七人目の男に犯されていた時である。
 
 
.

230 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:24:17 ID:poV0/hgUO
 
 
 

 
 
  『オラァァァァァッッ!!』
 
  『ちょ――アアアアアアアアアッッ?!』
 
 
从'ー'从『ッ』
 
 確かに聞こえた。
 下の階――受付――から聞こえる、怒号に近い雄叫びと受付員の悲鳴、そして凄まじい破壊音。
 あまりに唐突の音だったため、私は思わず躯をびくつかせてしまった。
 上でいやらしい笑みを浮かべていた、脂ぎった男も一瞬動きが止まった。
 
 というのも、音だけではとどまらず、建物全体が揺れたのだ。
 それも、地震か、と思わせるほどの。
 
 「人形」である私は、「人形」らしく悲鳴をあげる。
 男も、「ひぃ」と情けない声をあげた。
 
 続けて、もう一撃。
 
 
.

231 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:25:15 ID:poV0/hgUO
 
 
 
  『誰にィィ!』
 
 悲鳴が大きくなる。
 怒号も耳鳴りがしそうなほどうるさかった。
 
 
  『断りをォォ!』
 
 受付員を殴ってるのだろうか。
 人体が発してはならないような音がする。
 
 そして、もう一撃。
 
 
  『入れてんだァァ!』
 
 ――その声と同時に、建物が傾いたような気がした。
 柱が折れたのか、轟音を伴って、建物が崩れゆくように感じる。
 情欲を晴らすのに集中していた男は、慌てて裸のまま外に出ようとした。
 
 だが、建物全体が歪んだせいか、扉が開かない。
 情けない鳴き声をあげて、命を乞う。
 その間も、やはり破壊音は断続的にだが聞こえていた。
 
 
.

232 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:26:12 ID:poV0/hgUO
 
 
(    )『助け、たすッ…てぇぇぇぇ!!』
 
从'ー'从『……』
 
 男はがんがんと扉を殴る。
 私は腹部の裏側に感じる異物を、憎らしく思っていた。
 「人形」であるはずの私が「自我」を持つなど、どうかしているのか。
 
 すると、前方で音がした。
 何者かが扉を突き破ったのだ。
 あの男が突き破れるはずがない。
 すると誰だ、と思って顔をあげた。
 
 
(    )
 
 煙が上がっていたせいか、顔は見えない。
 だが、黒いスーツに、痩身で長身を彷彿とさせるすらっとした脚。
 まさか、この人が。
 私は不思議な心地でぼうっと見ていた。
 
 裸の男は、その男にすがりつく。
 ああ、惨めだ。
 私に対してさんざん威張っていたのがまるで『嘘』のよう。
 
 
.

233 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:27:14 ID:poV0/hgUO
 
 
 すると、痩身の男は言った。
 
(    )『私に刃向かう店を利用した貴様も、同罪だ』
 
(    )『……へ?』
 
 煙がひどく、よく顔が見えない。
 久々に視覚を真面目に使おうとしているためか。
 
 だが、どこか。
 この声の持つ素性だろうか。
 この、相手に『恐怖』を与えるオーラからだろうか。
 
 
 どこか、この男が、
 
 
 
(    )『だから、』
 
 
 
 
 ――かっこいいな、って思った。
 
 
 
 
( <●><●>)『殺す』
 
 
(    )『バ――ッ!!』
 
 
 
 
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234 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:28:27 ID:poV0/hgUO
 
 
 痩身の男が手刀を見せると、一瞬後には豚の首が胴からはずれていた。
 醜い鮮血が吹き出し、質素な部屋に赤い色を塗っていく。
 先ほどまで元気に振っていた腰は、既に粉砕されていた。
 
 私は、わけもわからず笑顔を見せていた。
 それも、久々に見せるような、晴れやかな。
 
 痩身の男の顔は、まだ見えづらい。
 だが、美形であることは、なんとなくだが察した。
 それを知ると、なぜか、胸の鼓動がはやくなったのを感じた。
 
 痩身の男は、次に私に一瞥を下した。
 私はどきっとして、毛布で身体を覆う。
 そんなことも気にせず、男は歩み寄ってきた。
 
 ああ、私も殺されるんだ――
 そう思って、この胸のうちのどきどきを大切にしていると、
 男は無表情のままで、手をさしのべてきた。
 
( <●><●>)『立てるか?』
 
从 ー 从『……?』
 
 なぜ、彼は私を気遣う。
 殺すのではないのか。
 この人生を、終わらせてくれるのではないのか。
 
 そう怪訝な顔をしていると、彼は言った。
 
 
( <●><●>)『辛かったのだろう?』
 
从 ー 从『……へ?』
 
 
 続けて、もう一言。
 
( <●><●>)『泣いているぞ』
 
 
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235 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:30:07 ID:poV0/hgUO
 
 
 言われて、私は毛布を押さえる手も離して、顔に遣った。
 確かに、泣いていた。
 
从;ー;从
 
从;ー;从『あ……れ……?』
 
 手で目を覆うと、手が濡れた。
 ごしごしと拭っても、溢れてくる。
 すると、なぜか嗚咽も漏れてきた。
 
 ばかな、もう私が泣くことなんて――
 そう思っても、やはり涙は止まらなかった。
 
 そう私が涙を拭っていると、痩身の男はいつの間にか私の後ろにいた。
 直後、背後から轟音が聞こえた。
 彼が壁を殴って、穴を開けたのだ。
 
 ぱらぱらと瓦礫が飛び、煙が舞う。
 常人とは思えない身体能力に、驚く暇すらなかった。
 私は驚いて振り返り、煙が晴れるのを待った。
 
 すると、やはり顔はよく見えないが、
 例の男は、穴の向こうに指をさして言った。
 
( <●><●>)『ここから飛び降りろ。私の仲間が、抱擁でもしてくれるだろう』
 
从;ー;从『飛び……降りればいいの?』
 
( <●><●>)『ああ。大丈夫だ、控えているのは「マザー」だからな』
 
从;ー;从『まざぁ……?』
 
 私が訊くと、入り口――崩壊した扉――の方から、跫音が聞こえてきた。
 なんだと思うと、その跫音の主が発する声は、聞き覚えがあるものだった。
 
 この店の、ボスだ。
 なにかを、必死に叫んでいる。
 
 
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236 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:31:19 ID:poV0/hgUO
 
 
( <●><●>)『……言葉が過ぎたな。行け、撃たれても助けはせんぞ』
 
(    )『手前ッ! そこを動くな!』
 
( <●><●>)『ほう、私に動くな、と?』
 
(    )『手前だけじゃない、貴様もだ、女ァ!』
 
从;ー;从『ッ』
 
 銃を構えたボスにそう言われ、私はびくっとした。
 裸のまま穴の向こうに飛び降りようとしたのが、止まってしまった。
 ボスは「そうだ、そうだ」と言って、じわじわと歩み寄ってくる。
 
(    )『よッくもうちの店を……! 覚悟はできてんだろうなァ!?』
 
( <●><●>)『……』
 
 痩身の男が、動こうとした。
 しかし、瞬間。
 
(    )『動くなッ! 動くと女を殺すぞ!』
 
从 ー 从『……ッ』
 
 そう言われたからか、痩身の男は動くのをやめた。
 ボスがまた一歩、近寄ってくる。
 そして、彼に要求をひとつ、した。
 
 
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237 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:33:03 ID:poV0/hgUO
 
 
(    )『下の男を止めろ』
 
( <●><●>)『ほう?』
 
(    )『ほう、じゃねェ! ぶち殺されてェのか!』
 
( <●><●>)『私が銃如きで絶命するとでも?』
 
(    )『なめんなよ手前ェ!
      こいつァ改造しててな、象三頭でも一気に貫くことができんだぞ!』
 
 男が、銃を誇示する。
 確かに、どこか威厳を持ってそうな銃だった。
 
 だが、痩身の方は動じない。
 それどころか、落ち着きを保っていた。
 
( <●><●>)『……そんなもの』
 
 
 今がチャンスだと思い、一気に穴から飛び降りる。
 同時に、背後から、ボスの胴が貫かれるような音と、遅れて声が聞こえた。
 飛び降りざまに、顔というか、姿だけは見ることができた。
 
 筋肉隆々で、ジーパンに白いシャツとラフな男だった。
 その涼しい表情だけは、強く印象に残った。
 
 貫いた腕を引っ込め、血を払って、男は
 
 
( ´ー`)『知らねえよ』
 
(    )『カ――ハ―――ッ?!』
 
 
( <●><●>)『助かっ――』
 
( ´ー`)『よく言―――』
 
 
 ――そこで、彼らのやり取りを聞くことは、できなくなった。
 
 
 
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238 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:34:36 ID:poV0/hgUO
 
 
 

 
 
从>ー<从『きゃッ!』
 
(    )『おー、ナイスだよ君ぃ!』
 
从>ー<从
 
从'ー'从『……ふぇ?』
 
 一か八かで飛び降りた。
 というより、死んで元々、のつもりで、だ。
 
 飛び降りた過程で、走馬燈が眼前を通り抜けていった。
 ああ、死ぬんだな、と思いながら、それをぼうっと眺めていた。
 それには、私が今まで踏んできた『因果』、それに相当する『結果』が、映し出されていた。
 
 母に申し訳なく思い、そっと目を閉じた時だ。
 
 
爪゚ー゚)『ばぁ!』
 
 栗色の髪で、幼い顔つきの女性が私を抱きかかえてくれた。
 重力や加速などを無視したようで、ふわっ、と。
 私は状況が呑み込めないまま、ただ唖然としていた。
 
 女性は、私の怪訝な顔を見て、けらけら笑った。
 明るい人だな、と思った。
 
爪゚ー゚)『可哀想だねー……可愛らしい子なのに』
 
从'ー'从『わ……私がですか?』
 
爪゚ー゚)『今度から、ピーナッツを向けられたら噛みちぎってやんなさい!』
 
从'ー'从『ぷっ……ははは!』
 
 
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239 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:35:44 ID:poV0/hgUO
 
 
 私は、思わず吹き出した。
 この女性の気の良さと、全てから解放されたという、解放感。
 その安堵から、つい笑ってしまったのだろう。
 
 笑うなんて、もう何年も味わってない感情だ。
 
 裸の私を見かねたのか、女性は持っていた服を私に着せてくれた。
 白い服に、紫のカーディガン。
 下着まで用意してくれていたようだ。
 サイズも、ぴったりと私に合っている。
 
 「スタイルいいね」など、他愛もない話をされ、着替えはすぐに終わった。
 私は久々の服、久々の新しい服、久々のおしゃれな服に、気分が高揚した。
 うきうきした気分でいると、女性は言った。
 
爪゚ー゚)『はやく、お母さんに逢いにいきなさい』
 
从'ー'从『……!』
 
爪゚ー゚)『ここはお姉ちゃんらに任せて。ほら、追っ手が来るよ!』
 
从'ー'从『わわ……』
 
 ジェスチャーをして、私にそう急かす女性。
 私は着慣れない服をなんとか着こなして、脚を進めた。
 歩くなんていつぶりかわからないのに、なぜか足取りは軽かった。
 
 すると、私の背後の女性の、更に背後。
 銃声が飛ぶ音が、聞こえてきた。
 私ははッとして振り返るが
 
 
.

240 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:37:13 ID:poV0/hgUO
 
 
爪゚ー゚)『効かない効かない』
 
(    )『な……あああああ!?』
 
 無事そうだったので、無視して私は走り出した。
 思えば、この頃から私は『異常』だったのかもしれない。
 
 もっと疑うべきだったのに。
 
 どうして、助けてくれたのか。
 どうして、あんな規格外の腕力を持っているのか。
 どうして、服のサイズを完璧に知っていたのか。
 どうして、私の母のことを存じているのか。
 
 だが、その時は、ただ駆けていた。
 ずっと愛していた、自分のために身を粉にして
 働いてくれた、自分を愛し続けてくれた、母に逢うために。
 
 「どこにいるのだろう」とは思わなかった。
 なんとなく、今までと同じ家に住んでるんだろう、と思っていた。
 
 
 
 いや、予想は外れなかったんだけど―――
 
 
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241 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:38:37 ID:poV0/hgUO
 
 
 

 
 
从;'ー'从『お母さん!!』
 
 扉を半ば突き破るように、抜ける。
 私が「人形」になる前まで住んでいた家は、やはり自宅のままだった。
 
 様々な感情を押し殺して、とりあえず母に会うことを優先させた。
 職先を見つけて、働いているかもしれない。
 買い物に行ってるかもしれない。
 野草を摘みにいっているかもしれない。
 とりあえず、家の中を探してみた。
 
从;'ー'从『お母さん!? いないの?』
 
 トイレ、風呂、台所、と探す。
 しかしいない。
 ならば、やはり居間か。
 そう思って、居間に目をやった瞬間。
 
 
从'ー'从
 
(    )
 
 
 ――確かに、母は、いた。
 
 周囲に蝿が集っており、名前も知らないような虫がそこらを這っている。
 その時はじめて漂う異臭に気がついた。
 母は、人間としての形を保っていない。
 
 腐ったのか、皮膚は色が変わって、肉が所々はみ出している。
 飛びだした眼球、開きっぱなしの口、ぼさぼさの髪。
 
 しかし、確かにわかる。
 彼女は、母だ。
 私が愛してやまなかった、母だ。
 餓死でもしたのだろうか、動かないが、母だ。
 
 
 
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242 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:42:12 ID:poV0/hgUO
 
 
 
从;ー;从『ああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアア
      アアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああアアアアアアアアアアアアアアあああ
      あああああああああああああああああああああああああああああああああああッっ!!?』
 
 
(    )
 
 
从;Д;从『―――ああああああああああああああああああアアアアアアアアアアあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
      あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
      あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙』
 
 
(    )
 
 
从 Д 从『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
      あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
      あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
      あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙』
 
 
 
 
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243 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:44:38 ID:poV0/hgUO
 
 
 

 
 
 ワタナベは、家を飛び出した。
 行き先も考えず、ただ脚が保つ限り走った。
 涙も気にせず、鼻水も拭わないで走った。
 奇声を発しながらむちゃくちゃに走った。
 とにかく、走った。
 
 
从  从『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
     あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
     あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
     あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙』
 
 
 そして、その間では。
 ワタナベの脳裏で、ある映像が断続的に映っていた。
 
 
 『私が抵抗せずに店に入った』ことによる『因果』。
 
 『私が万引きをしてしまった』ことによる『因果』。
 
 『私が道を間違えてスーパーに行った』ことによる『因果』。
 
 『私が部活にいかないで帰路に就いた』ことによる『因果』。
 
 『私が勇気なんか振り絞って告白した』ことによる『因果』。
 
 『私があのとき告白を受けてなかった』ことによる『因果』。
 
 『私が女であった』ことによる『因果』。
 
 『私が生まれてきた』ことによる『因果』。
 
 
 ―――全て、『因果応報』。
 
 
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244 名前:同志名無しさん :2012/12/15(土) 10:46:16 ID:poV0/hgUO
 
 
 
  『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
   あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
   あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
   あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
   あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
   あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
   あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙
   あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙』
 
 
 
 
 
 
 ―――『拒絶』、ワタナベ=アダラプター
 
 
 誕生。
 
 
 
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