426 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:12:35 ID:eyPpfk3IO
 
 
○登場人物と能力の説明
 
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
 
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
 
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→とある『脚色家』により《特殊能力》が改竄された『英雄』。
 
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
 
(´・ω・`) 【ご都合主義《エソラゴト》】
→『絵空事』を『現実』に変える、もしくは『現実』を都合よくねじ曲げる《拒絶能力》。
 
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
 
从'ー'从 【???】
→ゼウスを完封した『拒絶』の少女。
 
 
.

427 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:13:25 ID:eyPpfk3IO
 
 
○前回までのアクション
 
( ^ω^)
从 ゚∀从
(´・ω・`)
→戦闘中
 
( <●><●>)
从'ー'从
→戦闘終了
 
/ ,' 3
→療養完了
 
( ´_ゝ`)
( ´ー`)
→対話終了
 
 
.

428 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:15:06 ID:eyPpfk3IO
 
 
 
  第八話「vs【ご都合主義】W」
 
 
 
 ショボン=ルートリッヒは、平均的な収入で
 そこそこの幸福を持つ凡人の両親から生まれた。
 
 庭に出れば青々とした芝生が靴を包み込み、
 父親が趣味の日曜大工で造ったブランコに乗って前後に揺れ、
 学校から帰ればまず真っ先にペットの子猫を可愛がった、
 そんな、ふつうの少年だった。
 
 小学校では、時に涙し、時に怒って喧嘩して親を呼び出すこともあり、
 授業を聞かず友人と雑談に時間を費やして、
 給食では嫌いな食材を残してはこっそり捨てていた。
 
 どこにでもいる少年だったショボンは、
 いくつもの『現実』を知った。
 
 人を叩けば相手は泣いて、自分が怒られる。
 そして叩いた手は痛みを覚えるが、快感も覚える。
 
 授業を無視していたらテストの出来がよくならないことにも気がついた。
 その友人も同様にテストの結果がよろしくないことを知った。
 
 ピーマンは苦いし、トマトは酸っぱい。
 栄養価の話をされても実感がわかなかったが、それが『現実』だった。
 
 だが、小学校にいた頃の彼は
 「なにが『現実』なのか」
 「『現実』から目を背けるとはどういうことか」
 など、哲学めいた思考を抱くことはなかった。
 
 思考能力がそこまで発達していなかったこともあるし、
 なにより、当時のショボンはいたってふつうの少年だったのだ。
 ただ惰性的に流れて行くこれが『現実』であるということしか意識になかった。
 
 
.

429 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:16:47 ID:eyPpfk3IO
 
 
 ならば、中学校でそんな発想を抱いたのか。
 教諭から入れ知恵されたのか。それも違った。
 
 中学校にあがってもショボンは相変わらず『現実』を謳歌する愚者の一人にすぎなかった。
 『現実』に大して価値があると思えないことを薄々感づいてはいたが、
 そのことに触れてはいけないであろうことを動物的に察していた。
 
 ショボンはふつうに恋をし、失恋した時の胸の痛みを知った。
 ショボンはふつうに勉強をし、ケアレスミスの憎らしさを知った。
 ショボンはふつうに異性を意識し、胸のうちの蟠りに悩むこともあった。
 
 そんななか、少しずつ、彼の中の穏やかな
 『現実』は息を潜めていくことになっていた。
 
 
(´・ω・`)『(こんな生活を続けて、何になるっていうんだ?)』
 
 
 最初にショボンが抱いた負への感情はそれだった。
 ある日の放課後、帰り道をうつむきながら歩いている時にふと思ったのだ。
 
 河川敷に転がる石ころを蹴飛ばして、歩を進める。
 しかし、いくら石を転がせど、思考は詰まるばかりである。
 
 「幸福を得るためか?」
 「自分を満たすためか?」
 「人を救い笑顔にさせるためか?」
 
 そんな、いくつもの考えが浮かぶ中、
 これといった一つの答えやそういったものは一切浮かぶことはなかった。
 「人はなぜ生きるのか」など、未だに解明されない哲学の根本的思考であるため、
 中学校のショボンにそれが解き明かされるはずはないのだ。
 
 
.

430 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:18:10 ID:eyPpfk3IO
 
 一般の中学生なら、そこで面倒くさがって思考を練らすのをやめるだろう。
 だが、ショボンは違った。
 彼は、論が行き詰まれば、次はその矛先の向きを変えればいい、と思ってしまった。
 彼の場合、それが『現実』への考察だった。
 
 「人生は楽あれば苦もある」と言うのに、世の中には満足に食物を得られない人もいる。
 「助け合いの社会」と授業で習ったのに、決まって得をするのは
 権力、財力、腕力、組織力を持っている黒服の連中だ。
 
 生徒を思いやると明言している教諭も、
 結局は親の反抗を恐れ縮こまっているだけの、
 典型的な「自分が一番可愛い」人間だった。
 
 どんなに異性のことを好きになっても、
 当人から無茶な要求をされては好意は途端に萎えてしまう。
 所詮恋人など、価値のない『現実』を都合がいいように
 過ごすための糧に過ぎないのだ、とショボンはわかった。
 
 子孫を残してなにになる。
 体裁を保つことがどう生へと繋がる。
 自分を持ち上げることにいったいどんなメリットがある、と。
 
 
 
(´・ω・`)『(……そして、逃げてる人ばっかりだ)』
 
 それは、ある日のテストの返却日に思ったことだった。
 自分は可もなく不可もない点数だった。
 だが、クラスには当然不可な点数の者もいる。
 
 彼らが、口々に叫ぶのだ。
 「やばい」「どうしよう」など、と。
 そのたび、ショボンは苛立ちを抑えていた。
 
 
.

431 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:19:21 ID:eyPpfk3IO
 
 
(´・ω・`)『(だったら勉強をすりゃあいいじゃないか)』
 
 ショボンのテストの点数は特に誇れるものでもなかったが、
 逆に隠すほどのものでもない、平凡なものだった。
 
 この時は既に勉強に対する価値観を見いだせなくなっていた時で、
 「受験のためだ」「今後のためだ」などと言われても、
 学習のために本腰入れて鉛筆を握ろうなどとは思わなかった。
 
 堕落した『現実』が基となって初めて意味が生まれる学習、
 つまり『現実』に意味がなければ学習にも意味がない、
 そんないいわけじみたことを本気で思っていたのだ。
 
 
 ショボンは、そのクラスメートの心中を知っていた。
 本当にこの点数の低さを嘆いているわけではない。
 
 自分は学習ができないという目の前の『現実』から、
 それを笑いに変えることで気分的に逃避するという典型的な現実逃避のひとつであり、
 そしてそのクラスメートの内心では「この点数では危ない」から
 「この点数でも問題ない」と暗示をかけようとしていることも同時にわかっていた。
 
 ショボンの思考を知る由もないクラスメートは、尚も続ける。
 「自分は勉強してないのにこの点数だ」
 「ほぼ勘なのに正答率が高い」などと。
 ショボンは更に苛立ちを覚えた。
 
 結果において、過程の有無や苦労などは全く関係がなく、
 過程によってその結果に価値観が変わるなどというのは全くの論外だ、
 「本当は自分は賢い」などと婉曲に言い、空虚な名声を得ようとするだけの愚行だ、と。
 
 
.

432 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:20:17 ID:eyPpfk3IO
 
 
(    )『まじやべー。俺明日から勉強するわ』
 
(´・ω・`)『……』
 
 床に面する足に力が入る。
 持っていた答案用紙が、机上にはらりとおちる。
 ショボンの視線は、徐々に彼らの方に釘付けされていった。
 
 
(    )『俺実はやればできるし』
 
(    )『うちもうちも』
 
(´・ω・`)『……』
 
 
 
 
 ショボンの口が、ゆっくり開かれた。
 
 
 
(´・ω・`)『……ばかだ』
 
(    )『は?』
 
 
 存外、そのクラスメートの反応は速かった。
 クラスの寝ていない生徒は皆ショボンの方を向いた。
 日頃ならそのプレッシャーで心臓が苦しくなるショボンでも、
 その時に限っては微塵にもプレッシャーなど感じなかった。
 
 
.

433 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:21:36 ID:eyPpfk3IO
 
 
(´・ω・`)『やれ勘だの、ノー勉だの、明日からだの。
.      あたかも自分は賢いみたいな絵空事を並べるなと言っているんだ』
 
(    )『……は?』
 
(    )『なに言ってんのこいつ……』
 
 男子の隣の女子が、ちいさく呟いた。
 ショボンにそう言われた男子は、眉間にしわを寄せ、
 先ほどまで笑っていた表情はいつの間にかどこかに飛んでいっていた。
 体の向きをショボンに向け、じっと睨む体勢に入っている。
 
 
(´・ω・`)『「自分がばかだ」と云う「現実」を棚に上げて他人と比べるのもばかばかしい。
.      「現実」を甘受できない輩が高得点をとれるわけもないだろう。
.      それをばかだ、と言ってるんだ』
 
(    )『……』
 
(´・ω・`)『自分の賢さに言及するなら、結果を出してから言え。
.      非常に不愉快だ』
 
 クラスの空気は、いつの間にか固まっていた。
 先生も面食らった様子でショボンをみていた。
 
 普段は物静かで授業中に声を発することなどないショボンが
 このように流暢に、しかも不良生徒に対して
 言葉を発したことがあまりにも意外だったのだ。
 
 当然、クラスメートも当惑する。
 言われた本人なんか、怒りを通り越して呆れた様子でショボンを睨んでいた。
 ほうっておけば、取っ組み合いの喧嘩でもはじまりそうな雰囲気だった。
 
 不安に思った先生が言葉を発そうとしたが、
 先に男子生徒が口を開いた。
 
 
 
(    )『ショボンはどうだったんだよ』
 
 
.

434 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:23:46 ID:eyPpfk3IO
 
 まだこの男子は物事の分別ができる生徒だった。
 こみ上げてくる怒りを抑え、ショボンにそう問うたのだった。
 怒りが混じった笑顔でそう聞かれたが、ショボンにとって
 その質問は的をはずしているにもほどがあるとしか思えなかった。
 
 今の自分の言葉と点数は全く関連性がない。
 説得力がなければ言葉に真理は伴わないわけがないのだ。
 しかし、男子生徒は説得力がなければ言葉を理解できない
 程度の知能の持ち主であることを、ショボンは言ってから理解した。
 
(´・ω・`)『僕の点数と今の言葉、関――』
 
(    )『何点だったんだよって』
 
 男子の表情から笑みが消えた。
 御託は並べなくていいから、早く自分を納得させろ、と言いたいのだ。
 非論理的で、感情に左右されるだけの下等な人間だとショボンは思った。
 
 しかし、この状況下では理屈や論拠よりも
 ものを言うのは組織力、腕力、そして周囲からの評価なのだ。
 
 自然と早口になるショボンだが、男子はショボンの言葉に
 耳を傾けずにただ点数を言うよう催促してくるのみだった。
 だからか、ショボンの耳は若干赤みを帯びてきた。
 
 それを見たのか、先生が止めに入った。
 だが、ショボンが思っている男子の非論理的な思考を注意するもの
 ではなく、ただ「休み時間にして」と、逃げるようなものだった。
 
 男子は舌打ちをしてショボンを横目で睨みながら、前の方を向いた。
 股を広げ頬杖をつき不機嫌そうな顔を見せるまさに不遜な態度だった。
 
 先生はひとまず♀険を回避できたことを喜んだ。
 自分に火の粉が降りかからなければ、それでいいのだ。
 ショボンは先生を恨んだ。
 
 
(    )『えー、今回の平均点は――』
 
(´・ω・`)『……』
 
 
.

435 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:26:03 ID:eyPpfk3IO
 
 

 
 
 その授業は四限目で、次は昼休みだ。
 普段から一人で昼食をとるショボンだが、
 その日に限って周囲を男子生徒が取り囲んでいた。
 
 といっても、カッターシャツをズボンからはみ出させ、
 目を細めて眉を上下させているような連中だった。
 ショボンは彼らが何のつもりかわかっていたが、知らぬ振りをしていた。
 自分はなにも悪くないと思っていたのだ。
 
 
(    )『見せろよ、ほら』
 
(´・ω・`)『……君は人の昼――』
 
(    )『いいから見せろっつってんだよ』
 
(    )『もししょぼかったらしばくぞコラ』
 
(    )『陰キャラのくせに嘗めた口利いてよ』
 
(    )『調子のんなよカスが』
 
 ショボンの声など、彼らの耳にまで届くはずがなかった。
 自分こそが絶対的存在だと思いこんでいる集団なのだ、
 たとえ論理的にはショボンの主張が正しくても、決してそれを認めない。
 なぜ論理的なのか非論理的なのかすらわからないのだ、彼らは。
 
(´-ω-`)『話すだけ無――』
 
(    )『嘗めとんのかァァ!』
 
 ショボンが彼らを無視して箸を動かし始めた途端、
 当の男子生徒は堪忍袋の尾が切れた。
 
 ショボンの机にかけていた足で、一気に机を弁当もろとも蹴り飛ばしたのだ。
 弁当箱やその中身、そして机の中に入ってあった教科書類やプリントが散乱した。
 日頃のショボンなら知能指数の足りないガキだ、程度にしか思わないのだが、
 今回に限ってはそうとも言えなかった。
 
 
 
 机の中に隠してあったショボンの答案用紙が、
 はらりと出てきてしまったのだ。
 
.

436 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:27:32 ID:eyPpfk3IO
 
 ショボンは、自分の点数が決して高くないのを恥じ、
 同時に説得力を落としたくないがために隠していたのではない。
 この点数でこの男子に見せれば、必ずつけあがるであろうと
 予測が容易にできていたから、に他ならなかったのだ。
 
 そして、ショボンの予想は的中した。
 強奪するようにそれを取り上げた一人の生徒が、点数を読み上げた。
 すると、笑うどころか一同は「はァ!?」と声をあげた。
 
 
(    )『自分もとれてねぇくせに意気がんなよ糞が!』
 
(;´-ω・`)『いた…ッ』
 
(    )『まじうぜーんだよカスが!』
 
(    )『ちょっと裏までこいや』
 
(;´・ω・`)『待て……』
 
(    )『誰に「待て」だァァ!?』
 
(;´ ω・`)『うが…』
 
 
 ショボンにヘッドロックをかけた生徒が、ショボンの足を思い切り踏んだ。
 ショボンの服に飛んだ卵焼きなどを払うこともなく、
 彼らは他の一般のクラスメートに目も暮れず
 ショボンを皆で囲みながら、校舎裏へと向かった。
 
 ショボンを見るものは多かったが、
 誰も決して彼を助けようとはしなかった。
 
 校舎裏に着いたあとは、連中は荒れ放題だった。
 連中の一人が周囲の見張りをして、残りの皆で
 地に横たわるショボンの腹や背、顔、脚をひたすらに蹴り続けた。
 
 ショボンの服が泥で汚れることなど全く考慮していない。
 この中学校ではデフォルトで下靴を履くため、靴の裏は泥まみれだ。
 ある男子なんか、ショボンの顔を真正面から靴で踏みつけたりもしていた。
 
 
.

437 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:29:25 ID:eyPpfk3IO
 
 
(    )『……まじ、うっぜェんだよ』
 
(´゙ω#、)
 
 
 ショボンは、先ほどまでの威勢はどこへやら、
 すっかり丸まって、なんとか蹴りから身を守ろうとしていた。
 それが男たちにとっては滑稽で、また、余計に立腹させるものだった。
 
 ある者は、果たして校内のどこにそのようなものがあるのか、
 鉄パイプを数本持ってきて、それをほかの男子に配り始めもした。
 背を向けて横たわるショボンの背中を、その鉄パイプで散々に殴りつけた。
 背中を殴られるたびに、信じがたい痛みがショボンを襲った。
 
 骨が折れそうな感触が、断続的に続くのだ。
 悲鳴を上げることすらままならなかった。
 
 その痛みが終わりを告げたのは、
 見張りの男子生徒が慌てた様子で先生の接近を知らせにきた時だった。
 ショボンが楯突いた生徒はショボンに唾を吐き捨て、
 皆はぞろぞろと逃げるようにそこから去っていった。
 
 だが、全身に激しい痛みを感じているショボンが、動けるはずもない。
 だから結局、先生が来るまでもただもがく程度しかできなかった。
 
 
 
(    )『ど、どうしたんだ』
 
(´゙ω#,)
 
 四限目の、ショボンを見捨てた先生だった。
 だが、ショボンはそれが誰なのか認識すらできなかった。
 ただ、誰かが自分の手を握っていることしかわからなかった。
 
 
.

438 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:30:48 ID:eyPpfk3IO
 
 先生はショボンの身に降りかかっている危険を少ししてから気づき、
 一人でショボンを保健室へと運んでいった。
 
 普通なら病院に緊急搬送しなければならないレベルの
 怪我なのに、学校側はそれをしようとしなかった。
 後からショボンが聞いた話、どうやら学校は
 校内での暴力事件がばれることを隠しておきたかったそうだ。
 
 だから、ショボンは割に合わない手当しか受けることができなかった。
 大きな痣に、それの三分の一もない程度の絆創膏を貼られるのが普通だった。
 
 保健室で一時間寝かせたあと、ショボンは教室に戻るよう命じられた。
 冗談じゃない、とショボンは思った。
 まだ身体の節々が痛いのだ。
 
 だが、それを先生が許さなかった。
 ショボンはますます理不尽さを感じていった。
 
 結局、体が悲鳴を上げるのを決死の覚悟で堪えて、教室に戻った。
 先生にも理屈が通じないことは既に知っていたからだ。
 
 教室に戻ったとき、誰一人としてショボンを案じる者はいなかったし、
 また誰の仕業かはわかっても口にしようとする者はいなかった。
 先生もショボンを気遣う素振りを見せず、席に就くよう促すだけだった。
 
 
 ショボンはこみ上げる理不尽を抑えるだけで精一杯だった。
 
 
 
.

439 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:33:22 ID:eyPpfk3IO
 
 
 

 
 
 問題は、それから数週間後だった。
 父と母が離婚し、自分を引き取った母が三日後に死んだ。
 
 突然の出来事だった。
 喧嘩別れでもしたのかと思った直後での事件だった。
 
 どうやら、母が難病を負ったと夫に話した途端に、夫は「治療費で金が
 かかるのはごめんだ」とのみ言い残して、霞のように去っていったとのことだった。
 
 学校で孤立する日々が続く中で、家は唯一の心の拠り所だった。
 それがこうも呆気なく潰れてしまい、ショボンは精神的に苦痛を感じるようになった。
 
 
 そして、そのせいでショボンは根暗になっていった。
 だが、学校の連中に言わせれば例の男子集団からの
 暴力や虐めが原因でそうなったのだろう、となる。
 
 ショボンにとってはそれはとんだ見当違いなのだが、それを例の男子集団が信じるはずもない。
 むしろ、自分たちの行動が結果を生みだしつつあるのか、と成果を実感して、快感を得ていたほどだ。
 弱者を痛めつけ、虚構の優越感に浸る――いつの時間軸でもどんな世界観でも、見られるものだ。
 
 
 だからだろうか。
 ショボンへの虐めが、この日を境にヒートアップしていった。
 机の上に糊や雑巾やチョークの粉をつけるのは当然。
 弁当箱のなかに大量の砂を盛ったり、筆箱の中身
 を全部破損させてノートを粉々にしたりもしていた。
 
 
.

440 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:35:52 ID:eyPpfk3IO
 
 
 
 そういった日々が一週間続いた頃。
 ショボンは、ついに狂(おか)しくなった。
 
 
 
( ゙゚ω(#`)『(チクショウチクショウチクショウチクショウチクショウチ
      クショウチクショウチクショウチクショウチクショウチクシ
      ョウチクショウチクショウチクショウチクショウチクショウ
      チクショウチクショウチクショウッ!! チクショウ!!)』
 
( ゙゚ω(#`)『(おれのなにが悪いんだ! なにが間違ってるんだ! どれも正しいだろ!!)』
 
( ゙゚ω(#`)『(許さねえ許さねえ許さねえ許さねえ許さねえ許さねえ許さねえ許さねえ
      許さねえ許さねえ許さねえ許さねえ許さねえ許さねえ許さねえ!!)』
 
 
 
 手に取ったものは全部壊した。
 
 花瓶は割り、窓ガラスも割った。
 椅子を振り回して壁に穴を空けもした。
 電灯は既に粉々に砕け散っていた。
 
 肌も切りまくった。
 血をよく流していた。
 毛は乱暴にかきむしり、引っこ抜いた。
 
 それでもショボンは、精神が元に戻ることはなかった。
 一度壊したものは決して元に戻らないし、
 一度つけた傷跡は決して消えることはない。
 そして、こんな出来事があったことを忘れることなど、断じてあり得ない。
 
 
.

441 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:37:20 ID:eyPpfk3IO
 
 ショボンは毎日、荒れに荒れた。
 いま自分が立って、息をして、視界を認識して、手をぶら下げて、
 空気の流れを肌で感じて、腐ったものの臭いを嗅ぎ、
 口の中の血の味を覚え、足下に散らばるガラスの破片を踏んで痛がり、
 それでも尚流れ続ける『現実』の意味がわからなかった。
 
 人はなにを目的に生きるのか、から始まった彼の『現実』への考察は、
 やがて強大な『現実』への憎しみへと変貌を遂げてしまった。
 
 なぜ自分は苦しい。
 なぜ自分は泣いている。
 なぜ自分は痛がっている。
 なぜこのような『現実』が起こっている。
 この『現実』は「虚像」ではないのか。
 紛れもない「現実」だというのか。
 
 この自分が痛み嘆き悲しみ憎しみ、
 そして拒絶しなければならない「現実」などあり得るのか。
 なぜ人並みの幸福を得られないのだ。
 どこで道を踏み違えてしまったのだ。
 
 やがて、ショボンは考えを改めた。
 ここのところで彼が一番安堵を感じた瞬間だった。
 
 
( ゙゚ω(#`)『……あー』
 
 刃の方を握って持っていた包丁がぽろっと落ちて、床で跳ねた。
 その音の少し後で、ショボンは唸った。
 血飛沫が付着した天井を数秒間見つめた。
 
 そして、答えが、出された。
 それはショボンにとって最善の『絵空事』で、
 
 
 ―――そして、最悪な【ご都合主義】へと繋がる発想であった。
 
 
 
( ゙゚ω(#`)『……そうか、これは「現実」じゃないんだ、「絵空事」なんだ』
 
( ゙゚ω(#`)『僕が妄想の中で悲劇の主人公を演じてるだけに過ぎない、「虚像」なんだ』
 
 
.

442 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:39:58 ID:eyPpfk3IO
 
 
 
 ショボンは狂ったように続けた。
 
 
( ゙゚ω(#`)『本当の僕は、「現実」での僕は、暖かい家庭でにこやかに笑む両親と
      ともに食事をとって、その後はペットの猫と庭でじゃれ合い、
      学校にいけば何人もの友だちと遊んで常に笑ってるんだよ』
 
( ゙゚ω(#`)『今のここにあるものは全て「虚像」なんだ』
 
( ゙゚ω(#`)『「現実」は「僕はこんな廃人じゃない」んだ』
 
 
( ゙゚ω(#`)『僕が言ってるのは「絵空事」じゃねえ。
      正真正銘の「現実」だ』
 
 
 
       ストーリー
( ゙゚ω(#`)『「 現 実 」なんだ』
 
 
 
 
 そしてその日の晩、ショボンは狂ったかのようにずっと笑い続けていた。
 翌朝、その場にショボンの姿は見当たらなかった。
 
 親が不在で他に身寄りを知らないショボンのために捜索願を出す者はおらず、
 結果ショボンは今の今まで、『現実』から離れて過ごすことになっていた。
 
 
 
 
.

444 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:41:00 ID:eyPpfk3IO
 
 
 

 
 
 
 それ、なのに。
 
 
 
(;´・ω・`)「『本当は首は既に吹っ飛んでる』んだぞ!」
 
从 ゚∀从「吹っ飛んでねーよ」
 
 
 先ほどまで【ご都合主義】でハインリッヒに
 与えていたダメージは、なぜか、全て消されてしまっていた。
 それこそ「ご都合主義」と言えそうなくらい、理不尽なものだった。
 ショボンは、なぜ自分のねじ曲げる『現実』が効かないのか、わからなかった。
 
 試しに、近くにある大樹を『折れていたことにした』。
 するとその大樹は呆気なく折れたし、地面に倒れ落ちて
 轟音と砂埃が舞い上がり、若干地面も揺れた。
 
 紛れもない『現実』だ。
 まだ【ご都合主義】は生きている。
 
 
 それなのに。
 ハインリッヒには。
 目の前の一人の『英雄』には。
 そんな、都合のいい『現実』が全く効かなかった。
 
 ハインリッヒはのそりのそりと、ショボンの目から目を離さず歩いてきた。
 顔色からは心情をなにも読みとれない。
 ただ、和解できそうでないことだけはわかった。
 
 
.

445 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:42:18 ID:eyPpfk3IO
 
 
 ショボンはとてつもなく焦った。
 手を突きつけ、『現実』を唱えた。
 
 
(;´・ω・`)「虚勢を張れてるのは褒めよう、
      でも『三秒後に死ぬ運命なんだ、君は』!
      甘んじて受け入れろ、そして死ね!」
 
从 ゚∀从「死なねえよ、『現実』では『英雄』は負けないんだ」
 
(;´・ω・`)「『君は能力の使い方を忘れる』んだ!」
 
从 ゚∀从「残念、そんな『絵空事』、効かねえよ。聞きもしねえ」
 
(;´・ω・`)「『今すぐ罪悪感を覚えてひれ伏して泣け、詫びろ』!」
 
 
从 ゚∀从「…てめえじゃねーか、詫びんのはよ」
 
(;´・ω・`)「なんだと……ッ!」
 
 
从 ゚∀从「好き勝手に『現実』をねじ曲げて「現実とは何たるか」を語っときながらよ、
      いざ『現実』を『絵空事』に戻したら、今度はてめえが『現実』を拒絶しやがって。
      これが「現実」だってのに、てめえは甘んじて受け入れてねえ」
 
从 ゚∀从「言ってることとやってることが矛盾してんじゃねーか……」
 
 
从#゚∀从「よっ!」
 
 
.

446 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:43:57 ID:eyPpfk3IO
 
 
(´・ω・`)「!」
 
 二人の距離が十メートルを切った時、
 ハインリッヒはショボンに向かって飛びかかった。
 
 一瞬で目の前に詰め寄られ、ショボンは反射的にしゃがみ込んだ。
 だが、それよりもハインリッヒの方が速いのは言うまでもない。
 右足でショボンの脇腹を捕らえ、一気に蹴り払った。
 骨の折れる音と、人間が出すべきじゃない音がした。
 
 木に向かって飛ばされそれにぶつかった時、
 メリメリと音を立てながらその木は折れてしまった。
 その根元でショボンは腹を抱えうずくまっていた。
 
 骨が折れ、肉が抉れそうな痛みを感じた。
 声にならない声が出てきた。
 
 このままでは死ぬ。
 ショボンはそう察知した。
 
 
从 ゚∀从「今楽にしてやるよ」
 
(;´゙ω・`)「(やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい、やばい!!)」
 
 ハインリッヒはまたものそりのそりと歩いてきた。
 その土を踏みしめる音が、ショボンの死を告げる時計の針の
 音のように聞こえて、ショボンは恐怖しか感じなくなった。
 
(;´゙ω・`)「(だめもとでやるしかねえ!)」
 
 だから、ハインリッヒによって『現実』が『絵空事』に戻されようが、
 一か八かで【ご都合主義】を発動するしかなかった。
 一番受け付けたくない『現実』は、死だ。
 最期の最後まで、なんとしてでも『拒絶』するつもりだった。
 
 まずは自身の回復を念じた。
 
 
.

447 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:45:19 ID:eyPpfk3IO
 
(;´゙ω・`)「(『現実』では『こんなダメージは受けてないッ!』)」
 
(;´゙ω・`)
 
(;´・ω・`)
 
 
(´・ω・`)「っ!」
 
 
 同時に、ハインリッヒが蹴りかかった。
 咄嗟にショボンは次なる『絵空事』を『現実』にした。
 
 
(´・ω・`)「(『こんな遅い蹴りは、かわせる!』)」
 
从 ゚∀从「おっ」
 
 ショボンは今まで見せたことのない身体能力で、
 ハインリッヒのコンマ一秒にも満たない蹴りをかわした。
 後ろにあった木は根元ごとごっそり掘られてしまった。
 砂埃がそこらに舞い上がった。
 
 それを見て、ショボンは安堵した。
 
 『絵空事』が生きているなら、なにも『英雄』に抗う必要はない。
 『自分が絶対に勝つ』という『現実』にすればいいのだ。
 
(´・ω・`)「は……はっははは……」
 
从 ゚∀从「……?」
 
 
 
(´・ω・`)「はーっははははははははははハハハハハハハハ!!
.      なんだ、【ご都合主義】は生きてるじゃないか!
.      てっきりハインリッヒにとって都合の悪い『絵空事』は
.      全部打ち消されるのかって思ってたけどね、そうでもないんだ!」
 
从 ゚∀从「……」
 
(´・ω・`)「まだ僕が支配する『現実』は腐っちゃいない!
.      甘んじて受け入れてやろう、この『現実』を!」
 
 
(´・ω・`)「『絵空事』を!」
 
.

448 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:46:31 ID:eyPpfk3IO
 
 
 ショボンは両手を広げて高らかに笑った。
 消されたと思っていた『絵空事』は、まだ生きていたからだ。
 ハインリッヒに『絵空事』が効かないなら、自分に『絵空事』を効かせればいいのだ。
 そう思ったが故の、笑いだった。
 
 だが、ハインリッヒは頭を掻いた。
 
 
从 ゚∀从「……笑ってるとこ済まねえけどよ」
 
 
 
从 ゚∀从「【正義の執行】に邪魔だから、それも使わせねぇ」
 
 
 
(´・ω・`)「はは……は?」
 
 
 ショボンの顔から、笑みが消えた。
 両手がゆっくり下りていく。
 ショボンはハインリッヒの言っている意味がわからなかった。 
 
(´・ω・`)「ど……どういうことだ?」
 
从 ゚∀从「あん? じゃあなんか『絵空事』をほざいてみろよ」
 
(´・ω・`)「………?」
 
 ショボンは訳がわからなかったが、
 ハインリッヒに言われるがまま、【ご都合主義】を発動した。
 『ハインリッヒに勝る身体能力を得ていた』ような『現実』に。
 
 
.

449 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:48:01 ID:eyPpfk3IO
 
 
 だが。
 ショボンの身体に、変化はなかった。
 
 本来なら『絵空事』が『現実』に変わったら何かが起こるはずなのに。
 その時は、なにも起こらなかった。
 
 
(´・ω・`)「――――は?」
 
从 ゚∀从「てなわけで、【正義の執行】の続きをはじめまーす」
 
从#゚∀从「ッちぇあ!」
 
(´#)ω・`)「!?」
 
 
 ショボンが「現実」を理解し終える前に、ハインリッヒが動いた。
 飛びかかって、ショボンの顔を殴りつけた。
 ショボンは動くことすらできなかった。
 
 
从#゚∀从「もいっちょ!」
 
(´゙ω゚`)「!?」
 
 右の拳で顔を捕らえた直後に、右足でショボンの脇腹を捕らえた。
 信じがたい威力と速度に、ショボンは気を失いそうになった。
 やはり飛ばされた先の木に打ちつけられ、その木は見事に折れてしまった。
 
 それでも尚、ショボンは「現実」を理解できていなかった。
 いや、理解したくなかった=B
 
 ショボンが起きあがる前に、高く飛び跳ねた
 ハインリッヒがショボンの背中に膝蹴りを見舞った。
 背中を強打され、ショボンは眼が飛び出そうになった。
 
 そのままハインリッヒはショボンの襟首を掴んで持ち上げた。
 当初いた屋敷の前に、ショボンを放り投げた。
 喘ぐことすらできないショボンは、されるがままだった。
 
 
.

450 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:49:23 ID:eyPpfk3IO
 
 
从 ゚∀从「まだ死んでねえよな?」
 
从 ゚∀从「今から、たっぷりこの『現実』を味わってもらうぞ」
 
(´゙ω゚`)「――!」
 
(´゙ω゚`)「(『こんなダメージは受けてない!』)」
 
 微かに持ちこたえている意識で、そう念じた。
 だが、三秒経っても五秒経っても、身体から痛みは引かなかった。
 ショボンはどういうことだ、と思った。
 
从 ゚∀从「……よし、生きてるな」
 
(´゙ω゚`)
 
 ショボンは、痛みを堪えて、地に手をつけながらゆっくりと立ち上がった。
 膝が笑っているが、今更恥など感じるはずもなかった。
 そして、震える声でハインリッヒに言った。
 
 
(´゙ω゚`)「………な、ぜ」
 
从 ゚∀从「?」
 
 
(´゙ω゚`)「なぜ……【ご都合主義】が効かない……おれにも貴様にも!」
 
从 ゚∀从「……なんだ、そんなこと」
 
 ハインリッヒは鼻で笑った。
 鬼のような形相で睨みつけてくるショボンに、
 小悪魔のような顔で睨み返して、答えた。
 
 
从 ゚∀从「実を言うと、俺にもわからんね」
 
(´゙ω゚`)「――! ふ、ふざけるな!」
 
从 ゚∀从「ふざけてねえよ。
      まあ、知りたいってなら……」
 
 ハインリッヒは、隅っこの方で震えている内藤の方を見た。
 こちらが見られていることを知り、内藤はがばっと顔を上げた。
 ハインリッヒは内藤に話しかけた。
 
 
.

451 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:50:48 ID:eyPpfk3IO
 
 
 
从 ゚∀从「デブよー。【正義の執行】の意味……教えてやってくれ」
 
(;^ω^)「……」
 
 内藤は、肩で息をするショボンにも睨まれた。
 つまり、ここで解説をする以外の道はなくなったわけだ。
 ゆっくりと立ち上がって、コートやズボンに付いた砂埃を払って内藤は答えた。
 
 
(;^ω^)「……【正義の執行】、かお」
 
(;^ω^)「元はと言えば、これも『拒絶』同様
      本編には出す予定のなかったボツ能力なんだお」
 
 
 
(;^ω^)「……ただ、強すぎるから」
 
 
(´゙ω゚`)「……!」
 
 ショボンは反応を見せた。
 
(;^ω^)「能力の説明をするなら、こうだお」
 
 
 
(;^ω^)「………『英雄』が負けない『世界』を創り出す、《特殊能力》。
      それに際して、負ける要素からはすべてにおいて『優先』される≠だお」
 
 
 
 
.

453 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:52:59 ID:eyPpfk3IO
 
 
从 ゚∀从「……だってよ」
 
(´゙ω゚`)「………! なんだその『絵空事』じみた能力は!!
.      『現実』にそんな能力があって堪るか!」
 
(;^ω^)「あんたの【ご都合主義】もだお!」
 
(´゙ω゚`)「!!」
 
 内藤の大声に、ショボンは驚いた。
 腰が抜けそうになったのか、ふらついた。
 
 
(;^ω^)「『絵空事』を『現実』にする能力なんか、あって堪るかお!
      だから僕は本編からあんたを消した!
      誰もあんたに『絶対に勝てない』からだお!」
 
(;^ω^)「でも、ハインリッヒの【正義の執行】は違う。
      『絶対に勝つ』能力だから、【ご都合主義】は効かないんだお。
      『負ける要素からはすべてにおいて優先される』んだからだお!」
 
(´゙ω゚`)「――黙れ」
 
( ^ω^)「……っ」
 
(´゙ω゚`)「そんな『現実』があって良いはずがない。
.      んなもん、おれが全部ねじ曲げてやる」
 
( ^ω^)「………」
 
 
 
(´゙ω゚`)「【ご都合主義】が『現実』を支配するんだ」
 
(´゙ω゚`)「【正義の執行】が『現実』を支配するのではない」
 
 
 
从 ゚∀从「……へっ」
 
(´゙ω゚`)「なにがおかしい!」
 
 思わず笑ったハインリッヒに、ショボンが吠えた。
 その痩身のどこからひねり出されたのか、近くの森を唸らせる程の、恫喝じみた声だった。
 だが彼女は全く動じなかった。
 
 
.

454 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:54:51 ID:eyPpfk3IO
 
 
从 ゚∀从「『英雄』は絶対に負けないんだけどよ……
      それには、いくつか理由があるんだ」
 
(´゙ω゚`)「……?」
 
 
从 ゚∀从「『ご都合主義』だよ」
 
(´゙ω゚`)「……ハ?」
 
 
从 ゚∀从「『英雄』が勝つ際、必ず何らかの『ご都合主義』がつきまとうんだ」
 
从 ゚∀从「【劇の幕開け】も、それを体現した能力だったしな」
 
从 ゚∀从「そういう意味じゃ、俺らは『ご都合主義』、似たり寄ったりだ」
 
(´゙ω゚`)「………」
 
 
从 ゚∀从「だからさ、ショボン」
 
(´゙ω゚`)「が……」
 
 
 ハインリッヒは、そう呟いた直後に、一瞬で
 飛びかかってショボンの左頬を強く殴った。
 その衝撃の強さに耐えかねたその顎は、簡単に外れてしまった。
 
 
 そして、ショボンの耳元で、
 ハインリッヒはつぶやいた。
 
 
.

455 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:57:42 ID:eyPpfk3IO
 
 
 
 
 
 
                   エ ソ ラ ゴ ト
从 ゚∀从「ほら、受け入れろよ【ご都合主義】。
            ゲ ン ジ ツ
      これが【正義の執行】だ」
 
 
 
 
 
 
.

456 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 20:59:24 ID:eyPpfk3IO
 
 
 
 
 
(´゙ω゚`)
 
(´゙ω゚`)「……」
 
 
(´゙ω゚`)「――ふ、ふふ」
 
 
(;^ω^)「……?」
 
 
 
(´゙ω゚`)「……いいだろう、受け入れてやるよ貴様の『現実』を」
 
(´゙ω゚`)「さあ、来い【正義の執行】。貴様の手でおれを殺せ」
 
 
从 ゚∀从「……」
 
 
 ショボンはハインリッヒの手を握った。
 そして、自分を殺すよう命じた。
 
 だが、これは潔く負けを認めたわけではない。
 ショボンは、「現実」を受け入れたくなかったのだ。
 自分が死ぬと云う「現実」を、ではない。
 
 【ご都合主義】が――
 自分の『拒絶』が生み出した《拒絶能力》が効かないと云う「現実」を、だ。
 
 今のショボンとしては、そちらの方が信じられなかった。
 自分の『拒絶』が拒絶されるなら、いっそ死んだ方がましだと思ったのだ。
 
 
 本来なら、ハインリッヒは喜んで受け入れただろう。
 その要求を、この「現実」を。
 
 しかし、ハインリッヒはそうしなかった。
 にやりと笑ってから、手を振り払って逆にショボンの手首を握り返した。
 ショボンはどうするのかわからなかった。
 
 
.

457 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 21:00:36 ID:eyPpfk3IO
 
 
从 ゚∀从「……やだ」
 
(´゙ω゚`)「!」
 
从 ゚∀从「てめえを殺すのは【正義の執行】じゃねえ――」
 
 
 
 
从#゚∀从「てめえ自身だ、【ご都合主義】ッ!!」
 
 
(´゙ω゚`)「!?」
 
 
 そう言ったと同時に、ハインリッヒはショボンを投げ飛ばした。
 岩も木もなにもない、平凡な空間だ。
 ショボンは、ハインリッヒの言ったことも含め、
 一連の行動の意味が全くわからなかった。
 
 だが、地面にたたきつけられた途端、
 少なくとも異変があることだけはわかった。
 地面が柔らかかった≠フだ。
 
 直後
 
 
 
 
(´゙ω゚`)「――があああああああああああッ!!」
 
 
 
 
 地面が抜けて、そこに落とし穴が現れた=B
 ショボンは成す術もなく、落とされた。
 咄嗟に落とし穴の壁に手をかけ、辛うじてぶら下がった。
 
 そして、ショボンは漸く思い出した。
 
 
(´゙ω゚`)「(あのときの―――!!)」
 
 
 
.

458 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 21:01:56 ID:eyPpfk3IO
 
 
 
 それは、ハインリッヒと対峙した当初。
 跳躍したハインリッヒを見て、彼は
 
 
 (´・ω・`)『(「着地点に底なしの落とし穴でもつくってみるか」)』
 
 
 落とし穴≠ェそこにあるような『現実』を創りあげた。
 同時に、ハインリッヒの言った「自分を殺すのは【ご都合主義】」の意味もわかった。
 
 
 
(´゙ω゚`)「てっ……てめええええええええッ!!」
 
(´゙ω゚`)「おれがねじ曲げた『現実』でおれを殺そうとしてる≠フか!?」
 
从 ゚∀从「力むな力むな。その地面はな――」
 
 
从 ゚∀从「『豪雨で濡れたせいで脆い』んだぜ?」
 
(´゙ω゚`)「!!」
 
 
 
 
 (´・ω・`)『「だから雨が降ってくるんだ」』
 
 
 
 
.

459 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 21:04:51 ID:eyPpfk3IO
 
 
 ――ショボンは、落とし穴を創る前、豪雨を降らした。
 すぐにそれは止ませたが、降水があったのは事実だ。
 当然、「現実」の摂理に従って土はぬかるみ、脆くなる。
 
 当然の「現実」だ。
 『現実』が「現実」になっているのだから。
 
 それを理解した途端、ショボンは手をかけている
 部分の土がぐじゅ、と音を立てたのが聞こえた。
 全身から冷や汗が溢れてきたのがわかった。
 
 こうなると、ショボンにプライドなどなかった。
 
 
(´゙ω゚`)「お、おれが悪かった」
 
从 ゚∀从「――は?」
 
(´゙ω゚`)「おれが悪かった。謝る。頼むから……助けてくれ」
 
从 ゚∀从「……」
 
(´゙ω゚`)「もう【ご都合主義】は捨てる。
.      『現実』も受け入れる。
.      だから―――」
 
从 ゚∀从「………」
 
 
从 ゚∀从「嘘吐けよ」
 
(´゙ω゚`)「!」
 
从 ゚∀从「なにが現実を受け入れる≠セあ? 受け入れてねえじゃねーか」
 
 
 
从 -∀从「……『自分が死ぬ』と云う『現実』を……な」
 
 
 
(´゙ω゚`)「あ――――」
 
 
 
 
 
.

460 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 21:06:15 ID:eyPpfk3IO
 
 
 ショボンがハインリッヒの言葉を聞いた途端、
 手をかけていた土が、ついにショボンの体重を支えきれなくなった。
 ぼろ、とその部分が外れ、ショボンと一緒に奈落の底へと落ちていった。
 
 ショボンの最期の言葉は聞けなかった。
 なにを言おうとしたのだろうか。
 本当に「現実」を受け入れようとしたのか。
 それとも、懲りずに『自分が助かる』と云う『絵空事』を
 『現実』にしようとしたのだろうか。
 
 ショボンは落とし穴に落ちて、ものの数秒で闇の中へと消えてしまった。
 悲鳴も、絶叫も、聞こえなかった。
 呆気なく、底のない『現実』へと向かっていってしまった。
 
 それを見届けて、ハインリッヒはどこか
 寂しそうな顔をして、内藤の方へ歩み寄った。
 冷や汗をたくさんかいている内藤に、真面目な顔のまま、話しかけた。
 
 
从 ゚∀从「……なあ、デブ」
 
( ^ω^)「……なんだお」
 
 内藤は静かに答えた。
 
从 ゚∀从「ショボンは、あの地面になにをしたんだ?」
 
( ^ω^)「おそらく、でいいなら……。
       奴は、『底のない落とし穴』を創ったんだお」
 
从 ゚∀从「……!」
 
 ハインリッヒは少し驚いたような顔をした。
 
 
.

461 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 21:08:15 ID:eyPpfk3IO
 
 
从 ゚∀从「『底のない落とし穴』って、『現実』じゃあ存在できないよな?」
 
( ^ω^)「だお。どんな落とし穴にも必ず底はある。
       でも、ショボンはそれに矛盾する『現実』を創りあげた」
 
从 ゚∀从「じゃあ……ショボンは、どうなるんだ?」
 
( ^ω^)「簡単だお」
 
 
 
( ^ω^)「存在しない『現実』など実現不可能。
       落とし穴は、きっと異次元に繋がってる≠だお」
 
从 ゚∀从「異次元……」
 
( ^ω^)「そこで、永遠に落ち続ける。
       ショボンに新たな『現実』は訪れない。
       死ぬまで永遠に続く『現実』を、
       『拒絶』せずに受け入れなければならないんだお」
 
从 ゚∀从「………」
 
 
 
 ハインリッヒは、やるせない気持ちになった。
 同情した訳ではないが、どこか、そんな『現実』など存在して欲しくない、と思った。
 それは内藤も同じだった。
 
 そして、僅かながらもの静寂が流れた。
 いまこうして立っているのが『嘘』のような心地だった。
 
 
.

462 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 21:09:21 ID:eyPpfk3IO
 
 
 
从 ゚∀从「……帰るか」
 
( ^ω^)「おっ」
 
从 ゚∀从「ゼウスの行方が気になるが、知ったこっちゃねえ」
 
 
 そう言って、ハインリッヒは屋敷へと足を伸ばした。
 内藤も内藤で、随分と汗をかいてしまった。
 できることならシャワーを浴びて、一眠りしたかった。
 
 案内人のメイドは白骨化したが、なんとか安全に屋敷内を進めるだろう。
 【正義の執行】がある以上、マイナスの要素は吹き飛ばせるのだ。
 そう思い、内藤も重くなった足を進めてハインリッヒの後ろに続いた。
 
 
 
 
 
 
.

463 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 21:12:07 ID:eyPpfk3IO
 
 
 
 
 
 
  「あれれ〜?」
 
 
 
 
 ハインリッヒがドアノブに手をかけたと同時に、声が聞こえた。
 ハインリッヒと内藤は、一瞬頭が真っ白になった。
 今のは気のせいだ、と二人とも思ったが、そんなことはなかった。
 続けざまに声が発せられたのだ。
 
 
  「ショボン君、やられちゃったんだ〜。雑ッ魚〜い」
 
 
 
( ;゚ω゚)「!!」
 
从;゚∀从「ッ!」
 
 
 二人は、咄嗟に後ろに振り向いた。
 そこには、確かに人が一人いた。
 
 ――否、二人いた。
 いま目の前で立っている紫の髪の女性が、
 もう一人、全身がぼろぼろの男を担いでいた。
 
 内藤たちの視線を浴びて、少女は笑顔になった。
 
 
从'ー'从「わ〜! やっと気づいてくれた〜! ずっと居たのに〜」
 
从'ー'从「ボク、嬉しくて涙が出ちゃうってこれは汗だ」
 
从'ー'从「――なんちゃって」
 
 
 
从'ー'从「ボクの名は、ワタナベ=アダラプター。
      『拒絶』の一人さ、宜しくね虫けらども」
 
 
 
.

464 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/09/01(土) 21:13:53 ID:eyPpfk3IO
 
 
( ;゚ω゚)「はは、そりゃーどうも。それより、ハインリッヒ」
 
从;゚∀从「……なんだ?」
 
( ;゚ω゚)「もしかしてなんだけど、今彼女が担いでる男って――」
 
 
 内藤とハインリッヒは、ワタナベ=アダラプターが担いでいる男を見た。
 全身がスーツで覆われているが、所々が破け、血で滲んでいる。
 骨もあらぬ方向に折れ曲がっており、決して生きているとは思えなかった。
 
 だが、内藤が驚いたのはその点じゃない。
 その男に、二人とも、見覚えがあったのだ。
 
 
 
(# ,*;゙><  >)
 
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「(まさか――――)」
 
 
( ;゚ω゚)「(あのゼウスが、殺されたのか!?)」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.


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