- 302 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 19:38:56 ID:rE/AEuF2O
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从【劇の幕開け《イッツ・ショータイム》】
→自身が『英雄』となる『劇』を発動する《特殊能力》。
( <●><●>)【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
(´・ω・`)【ご都合主義《エソラゴト》】
→『絵空事』を『現実』に変える、もしくは『現実』を都合よくねじ曲げる《拒絶能力》。
( ・∀・)【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
.
- 303 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 19:39:36 ID:rE/AEuF2O
-
○前回までのアクション
( ^ω^)
从 ゚∀从
(´・ω・`)
→戦闘中
( <●><●>)
→???
/ ,' 3
→療養中
( ・∀・)
( ´_ゝ`)
→消息不明
.
- 304 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 19:41:59 ID:rE/AEuF2O
-
第六話「vs【ご都合主義】U」
ハインリッヒと内藤が『絵空事』を語る男と出会うよりも、時は少し前に遡る。
ゼウスは、【ご都合主義《エソラゴト》】のせいでなぜか外出するはめになっていた。
あるはずのなかった裏社会における集会が設けられていたのも、その所為だ。
スーパーコンピューター四台にも勝る知能でさえ、
意識だけでは【ご都合主義】に刃向かうことはできなかった。
つまり、それほど強力な《拒絶能力》なのだ、と理解できていた。
( <●><●>)「……」
ならば自分にできることはなにか。
それは、いち早く戻ってハインリッヒに加勢することだ。
いくら敵同士だとしても、今は休戦中だ。
まして、彼女が戦線から退けば、戦力は大幅ダウンとなる。
ただでさえアラマキが抜けていることで下がっているのに、
更に戦力が下がれば、『拒絶』を受け入れてしまう『現実』が実現してしまう。
.
- 305 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 19:43:24 ID:rE/AEuF2O
-
そこまでわかっていて、なぜ足を踏み出せないでいるのか。
答えは、至極単純だった。
( )「なんて言うかさ〜、ショボン君ってなんだかんだでイイ人だよね〜。
ボクと同じ『拒絶』だってのにさ〜」
( <●><●>)「……なにが言いたい」
煉瓦敷きの裏通り、朝なのに暗いその空間で、
ゼウスの行く手を遮るかのように、少女が立っていた。
紫色のショートヘアーで、白いシャツの上に紫のカーディガンを羽織っている。
ふわふわしている声で、放たれる言葉はどれも信憑性に欠けているように聞こえる。
「はい」と肯定した直後に「やっぱりいいえ」と否定してきそうな雰囲気だった。
そして、それは形容ではない。
実際、そのように性格がころころ変わっているのだ。
.
- 306 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 19:45:09 ID:rE/AEuF2O
-
( )「『僕は女を討つから、男の方は君に譲るよ』だって〜。
両方とも殺ればスカッとするだろうにね〜」
( <●><●>)「……」
( )「まあ、ボクも満たされたいしよぉ。
『拒絶』を受け入れてくれれば、それで大大大満足なの」
( <●><●>)「断ろう。あいにく急いでいるのでね」
( )「そうなんだ〜。私は逆に急いでないのよ〜」
一人称でさえ統一できていない。
出会った時は「急いでいる」って言っていたのに、
今では真逆のことを言っている。
言っていることが常にめちゃくちゃで、
「これ」といった確固たる意思などない。
そんな彼女を、ゼウスは警戒していた。
彼女に張り付いた笑顔が、不気味さを増していた。
易々とそこを通してくれるとは思えなかったので、
ゼウスは強行突破を試みるしかなかった。
だが、相手は自称『拒絶』で、醸し出すオーラも『拒絶』そのものだ。
肌に触れるだけでピリピリと感じるオーラが、苦しかった。
しかし退くわけにはいかないのもわかっていた。
だから、ゼウスは行動を迫られていたのだ。
.
- 307 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 19:46:07 ID:rE/AEuF2O
-
( )「でもやっぱり殺しは怖いの〜!」
( <●><●>)「……では退いていただこう」
( )「やっぱそれもヤだ〜」
( <●><●>)「ならば、無理やり開けてもらうまでだ」
( )「きみごときにボクが負けるんだ〜! きゃ〜怖いの〜」
( <●><●>)「……」
相手の言動やイントネーションから相手の胸中を
読もうと思ったゼウスだが、結果、それは不可能だった。
行動パターンが統一されていないため、どうしようもできないのだ。
いざ強行突破しようと構えをとるが、隙を見いだせない。
否、隙だらけだからこそ、却って攻撃ができなかった。
加え、相手が如何なる形でなにを『拒絶』するのかが
わからないため、迂闊に前に出ることができなかった。
.
- 308 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 19:47:29 ID:rE/AEuF2O
-
( <●><●>)「……」
( )「あれれ〜? 強行突破しないの〜?」
( <●><●>)「……」
( )「うっへ超怖ェ〜! じゃあオレから行こうかな〜?」
( )「でもやっぱ怖いの〜!」
( <●><●>)「(多重人格者か……?)」
ゼウスは、ひっそりとそう口には出さずに言った。
だが、心の中で呟いたはずだったのに、その言葉に少女は反応した。
反応できるはずのない心の声に、反応したのだ。
( )「多重人格者なんてそんな中学生じゃあるめぇし」
( <●><●>)「!」
( )「『他人に聞かれない』独り言が
『他人に聞かれる』ように『反転』しちゃったんだよぅ!
心の声を聞いてごめん謝るから許して、なんちゃって」
.
- 309 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 19:49:03 ID:rE/AEuF2O
-
とっさにゼウスは身構えた。
同時に、既存のそれではない、彼独特の構えを見せた。
指を地に向け、掌を前に突き出した右腕、
肘を曲げ空と平行になるように手先を前方に伸ばした左腕。
バランスを恒久的にとれるような足の配置。
不意打ちに特化した構えであると同時に、
相手に威圧感を持たせる構えでもある。
しかし、その効き目は思いのほかなかった。
( )「っひゅ〜! すっご〜い!
写メとっていい? ねえねえ〜」
( <●><●>)「……」
じりじりと、同じ姿勢のまま視線だけを送る。
その睨みで怯んでくれれば助かったのだが、そんなはずもなかった。
少女はむしろその眼を見て楽しんでいた。
( )「にらめっこ〜? いいね〜童心を思い出さないよ〜」
( )「あ、思い出すんだ〜間違えちゃった!」
( <●><●>)「……御託はそれまでだ」
恐れを通り越し、少し呆れたゼウスはそう言った。
すると、それを聞いた少女は態度が豹変(かわ)った。
.
- 310 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 19:49:48 ID:rE/AEuF2O
-
( )「――は? それこそまんま『反転』させてやるよ」
从 从「ボクが、いつ能書きを並べた?」
从 ー 从「ボクが、いつ構えに屈し恐怖を抱いた?」
从'ー'从「むしろ、それ――君だよね?」
.
- 312 名前:>>311訂正 ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 19:52:00 ID:rE/AEuF2O
-
◆
从;゚∀从「…【ご都合主義】……ッ!」
その言葉を聞いて、ハインリッヒは咄嗟に身構えた。
姿勢を低くし、獣のように脚を曲げて両手を地につけて。
目の前の男からは、モララー=ラビッシュが見せていたような、
ただどうしようもない拒絶感が発せられていた。
道端で会っても、決して目をあわさず、そのまま
他人を装ってすれ違いたく思ってしまうような、不快感。
だが、ハインリッヒが身構えたのは
その『拒絶』を肌で感じたからではなかった。
【ご都合主義】という単語を聞いて、つい昨夜
内藤から聞いたばかりである情報を思い出したのだ。
『脚本』を『脚色』る【大団円《フィナーレ》】の完全強化版だ、と。
【大団円】の強力さは、他の誰よりも自分がよく知っている。
それの上位互換と聞いていたため、ハインリッヒは戦くほかなかった。
.
- 313 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 19:53:52 ID:rE/AEuF2O
-
(´・ω・`)「紳士は紳士らしく自己紹介をしておこう」
(´・ω・`)「僕の名前は――」
男は身なりを整え、頭を少し下げた。
不気味に見える笑みは、未だ変わらない。
だが、男の自己紹介は、内藤の言葉で遮られた。
(;^ω^)「―――ショボン=ルートリッヒ」
(´・ω・`)「!」
(;^ω^)「『現実』を都合よくねじ曲げる《拒絶能力》、
【ご都合主義】……を使うんだお…ッ!」
(´・ω・`)「そこまで……。これは驚いた」
どす黒いオーラのせいで震える声を
なんとか押さえて発した言葉が、それだった。
タキシード姿のショボンは、純粋に感嘆の声を漏らした。
能力の効果はまだしも、名前まで
ぴたりと言い当てられるとは思いもしなかったからだ。
.
- 314 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 19:55:20 ID:rE/AEuF2O
-
しかし、そこまで動揺を見せなかったし、感じもしなかった。
相手が自分のことを知っているなら、むしろ好都合だ。
なにかと説明する手間が省けるじゃないか、と。
ショボンは、そんな呑気なことを考えていた。
(´・ω・`)「……」
(;^ω^)「なぜ、ここに来たんだお……!」
(´・ω・`)「なんでって?
. うーむ、どうしましょうかねぇ」
ショボンは少し悩んだ。
なにを悩む必要があるのか、と内藤が思った時だ。
ショボンは「あ」と言って、手を叩いた。
(´・ω・`)「そうだ、『僕のちいさな頃に、この近くにタイムカプセルを埋めた』んですよ。
. なっつかしいなぁ!」
(;^ω^)「!」
从 ゚∀从「なにをふざけたことを……」
飄々とした態度を見せるショボンに、ハインリッヒが怒りを覚え始めた。
強襲するなら早くしろ、御託は並べるな。
そんな、強気なことを考えていた。
.
- 315 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 19:56:38 ID:rE/AEuF2O
-
だが、ショボンには彼女の気持ちに応える様子はなかった。
おっとりとした口調で、内藤に視線を向け、
彼の隣のちいさな木を指さして、言った。
(´・ω・`)「あなた。『その木の裏にはすんごいシャベルがあって』
. 『そのシャベルは力を入れなくても簡単に土を掘れる』から、
. ちょっとそこら辺りを掘ってみてくださいよ」
(;^ω^)「……お?」
(´・ω・`)「ほらほら、早く」
(;^ω^)「………」
内藤はわけがわからないまま、
ショボンに言われた通り指さされた木の裏に回った。
すると、ショボンの言ったとおり、そこには銀色のシャベルがあった。
驚きを感じつつも、黙ってシャベルを手にとって、
内藤は早速それを土に向けてさした。
すると、これもショボンの言ったとおりだった。
内藤はシャベルにほとんど力を入れてないのに、
どういうことか土をみるみるうちに掘り進められたのだ。
それを見ていたハインリッヒの頬を、一筋の汗が通っていった。
.
- 316 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 19:57:54 ID:rE/AEuF2O
-
(;^ω^)「……お?」
数分間掘り進めていくと、なにか硬いものにシャベルの先が当たった気がした。
嫌な予感がしつつも、近くの土を払いのけて、その硬いなにかを拾い上げた。
(;^ω^)「ッ!」
それは、群青色の帯びた木材でできた、宝箱のようなものだった。
視認するや否や、内藤はすぐさま鍵穴の部分についた土を手で払って、
なにかに憑かれたかのように蓋を乱暴に開けようとした。
その時、ショボンは閉ざしていた口を開いた。
(´・ω・`)「『確か、入れてたはずなんですよね――」
.
- 317 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 19:58:50 ID:rE/AEuF2O
-
(´・ω・`)「―――当時飼っていた、ペットの猫を』」
( ;゚ω゚)「ッ!!」
開いた宝箱のなかには、腐って骨を見せている、
ちいさな獣のようなものが横たわっていた。
まさかと思って内藤がその獣をよく見てみると、
首輪らしきものがついてあることに気づいた。
それを手にとって見てみると、なにやら文字が彫られていた。
( ;゚ω゚)「(『しょぼん』―――書いてるお!!
間違いない、これは『現実』なんだお!)」
.
- 318 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 20:00:11 ID:rE/AEuF2O
-
当然、内藤は「そんなはずがない」「ただの戯言だ」と思っていた。
だが、この男、ショボン=ルートリッヒに限っては、それは紛れもない『現実』となるのだ。
首輪をまじまじと見ながら、内藤はそう思い出していた。
とても、本当にタイムカプセルを埋めていたとは思えない。
まして、なかに猫を入れるなんて正気の沙汰ではない。
ならば、これは何なのか。
ショボンが都合よくねじ曲げた、『現実』に他ならない。
自分の力を見せつけようと、敢えて『現実』をそういう風にねじ曲げたのだ。
つまり、ショボンの能力は紛れもない本物。
内藤もハインリッヒもそれがわかって、恐怖――拒絶――を感じた。
从;゚∀从「―――ヘッ! どうせトリックがあんだろ!」
(´・ω・`)「ないですよ、そういう『現実』だった≠フだから」
从;゚∀从「……なら、瞬間移動とか、相手を骨に変える手品はできねぇんだよな?
物理的にってか、常識的に考えてよ」
(´・ω・`)「んん……? 瞬間移動? 骨に変える?」
.
- 319 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 20:01:38 ID:rE/AEuF2O
-
ハインリッヒは、せめて威勢を弱めないようにと、敢えてそう挑発した。
ここで弱気な姿を見せれば、それはショボンの思うがままだ。
相手の要望――『拒絶』を受け入れる――に応えないことが第一だ、と思っていた。
しかし、ショボンは困った顔を見せなかった。
我に返った内藤もショボンの方を見た。
まるで、突きつけられた『現実』から目をそらそうとしているような顔だった。
ハインリッヒが「うまくいったか?」と思った頃だ。
ショボンは手を叩いて、にんまりと笑った。
(´・ω・`)「そうだ、こうしよう!」
(;^ω^)「?」
从 ゚∀从「……見せてもらお――」
ショボンが歩み寄ってきたので、
ハインリッヒは「来た」と思って蹴りかかろうとした。
しかし、その意気が消え失せたのは、次の瞬間だった。
ショボンが目の前から消えた≠フだ。
音も立てず、一瞬のうちに。
.
- 320 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 20:04:58 ID:rE/AEuF2O
-
現状を把握しきれぬうちに、背後から音が鳴った。
開きっぱなしだった門の方からだった。
二人はばっと後ろを振り向いた。
すると、そこにショボンが立っていた。
そして、その隣には骨があった=B
(´・ω・`)「『人間を一瞬で骨にする薬を持ってたの、忘れてたよ!』」
(´・ω・`)「『実は僕、瞬間移動できるしね』。
. 試しに使ってみた結果が、これだ」
(;^ω^)「…………! さっきのメイドが……」
从;゚∀从「服だけ残して……白骨化してるのか…?」
ハインリッヒたちを外に案内したメイドの立っていた位置に、
メイドではない何かが落っこちていた。
白く、棒きれのようにも見えるそれが骨だとわかるのに、
そう時間はかからなかった。
そして、その骨を包んでいる黒い布が
メイド服であることに気づくのも、それからすぐのことだった。
これも、全てが【ご都合主義】によるものだったことは、内藤もすぐにわかった。
まずショボンは『自分はメイドの隣にいた』という『絵空事』を『現実』にし、
続けて『メイドは白骨だった』という『絵空事』を『現実』にした、と。
.
- 321 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 20:06:10 ID:rE/AEuF2O
-
(´・ω・`)「おっと、勘違いしないでおくれ。
. これは《拒絶能力》じゃない、そういう『現実』だっただけなんだ」
(´・ω・`)「僕は、現実に目を向けるのが嫌なだけなんだよ。
. そうだな、この眩しい朝の日射しよりも嫌いだ」
(´・ω・`)「『だから雨が降ってくるんだ』」
ショボンは続けて、空を見上げた。
直後、ハインリッヒが明らかに狼狽した。
从;゚∀从「ッ!! 待て、おいデブ!」
(;^ω^)「(はじめて呼ばれたと思ったらこれだよ!)
なんだおっ!」
从;゚∀从「確か今日、降水確率ゼロパーセントだったよな?」
(;^ω^)「……少なくとも、雨が降りそうな空模様じゃなかったお」
.
- 322 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 20:07:33 ID:rE/AEuF2O
-
(;^ω^)「さっきまでは=c…だけど……」
ショボンの言葉と同時に、
上空で暗い雲が集まってきたと覚えば、
いよいよ、本格的に雨が降りはじめてきた。
先ほどまでそこら一帯を照らしていた天候が一転、
気がつけば、普通の声では相手に届かなくなるような豪雨がそこらに襲いかかっていた。
服が濡れ、肌も風呂上がりではないかと思わせる程びしょびしょになった。
徐々に辺りに水たまりができあがっていく。
とても、この雨がトリックにより引き起こされたものだとは思えなかった。
どう考えても、自然界の引き起こした自然的なものとしか。
(´・ω・`)「雨は好きだ」
(´・ω・`)「でも、これじゃ少し闘りにくいや」
(;^ω^)「……?」
(´・ω・`)「『いくら通り雨といってもねぇ、降りすぎだよ』」
( ^ω^)「…!」
ショボンのその言葉は、かろうじて聞き取れた。
そして、同時に黒い雲はどこかへ飛んでいき、
再び暖かな日射しが内藤たちを包み込むようになった。
ショボンは、『現実』を『いまの豪雨は実は通り雨である』とねじ曲げた。
そのため、都合よくも雨が止んだのだ。
.
- 323 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 20:08:45 ID:rE/AEuF2O
-
続けて、ショボンはまた『現実』をねじ曲げた。
(´・ω・`)「あれ? よく見たら
. 『僕ら全員、乾きのいい素材の服着てるんだ』ね。奇遇だな。
. 『お天気もいいし、すぐ乾くといいね!』」
(;^ω^)「あ、あれ?
(濡れてたのがだんだん乾いてくるお…?)」
雨で滴り濡れている『現実』を拒み、
ショボンは三人の濡れた肌や服を雨が降る前と同じように乾かしてしまった。
いよいよ、ハインリッヒは恐れしか抱かなくなっていた。
(´・ω・`)「……まあ、面白手品はここまでだ。
. さあ、ハインリッヒよ。
. どうか、この僕を満たしてくれ!
. 『拒絶』を受け入れてくれ!」
从;゚∀从「………」
.
- 324 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 20:10:06 ID:rE/AEuF2O
-
(´・ω・`)「(さて、『まずは地割れでも起こそう』かな)」
ショボンが歩み寄ろうとした直後、
ハインリッヒは足下の違和感を覚えた。
更に言えば、彼女は大地のプレートが
不自然に動いているのを、感覚的に察した。
まさかと思ったハインリッヒは、本能的に跳躍した。
それが功を奏した。
ハインリッヒが一秒前までいた場所で、
小規模ながらも地割れが起こったのだ。
(´・ω・`)「……ほう」
从;゚∀从「なんだってんだ――急に地割れとか!」
(´・ω・`)「気をつけてね。
. 『流れ弾が飛んでくるから』」
从;゚∀从「おわっ!」
ショボンがハインリッヒにそう声をかけた直後、
ライフルの弾丸がハインリッヒのこめかみにめがけて直進していた。
.
- 325 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 20:12:21 ID:rE/AEuF2O
-
むろん、これもショボンの《拒絶能力》だ。
『近所でハンティングを楽しんでいた猟師が撃ち損ねた弾が
偶然やってきた』などという『現実』を創りだしたのだろう。
だが、発砲音とその所在地、銃の種類まで一瞬で聞き分けたハインリッヒが
その弾をかわすのは存外容易だったようで、頭を少し下げるだけで
やってきたその弾丸をきれいにかわすことができた。
(´・ω・`)「(『着地点に底なしの落とし穴でもつくってみるか』)」
ショボンが更なる『現実』を生み出していた頃、
ハインリッヒはただただ困惑していた。
得体の知れない相手に、はたして戦いを
挑んでいいのかわからず、不安だったのだ。
从;゚∀从「(なんか知らんがとにかくやべぇ……!
正直不安だけど、闘るっきゃないのか!)」
(;^ω^)「ハインリッヒ! たぶんショボンは地面に何かを細工した!」
(´・ω・`)「!」
.
- 326 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 20:13:20 ID:rE/AEuF2O
-
しかし。
内藤の一言を聞いて、戦うしか道がないと察した
ハインリッヒは、ようやく覚悟を決めることができた。
从; ∀从「〜〜〜ッ! あーチクショウ、やってやるよ!」
从 ゚∀从「『イッツ・ショータイムッ!!』」
そして、このどうしようもない
『現実』に立ち向かうべく、
我らが『英雄』が、降臨した。
.
- 329 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 21:38:42 ID:rE/AEuF2O
-
◆
煉瓦敷きの裏通りは、基本的に一般人が通ることはない。
理由は主に二つあり、一つはここが裏通りだからだ。
裏社会の人間、特に権力を持つ者が頻繁に通る道であり、
一般人が迷いこもうものなら、その者の明日はない。
当然、裏社会のボスのゼウスもよく通る道である。
毎日日の目をみない日常で送っているため、暗闇でも目は慣れている。
煉瓦敷きに雨が降り注いであっても、決して彼が転倒するようなことはない。
理由の二つ目だが、一般人はそもそもこの通路の存在がわからないのだ。
各裏社会の要人の自宅からのみ入ることの許される特別な通路であり、
そこ以外からこの通路に来ようと思うなら、川底のトンネルを潜って
息を止めて五分は泳がなければたどり着くことはできない。
まして酸素ボンベなどで金属品を持ち込めば、それをセンサーが察知し、
その者は明日から職業が奴隷か家畜の餌となることだろう。
上空から降りて屋根をかいくぐれば通路にたどり着くこともできるが、
まずここら一帯の屋根の上に立つことは不可能なのだ。
その前に、必ず射殺されてしまうだろう。
.
- 330 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 21:41:05 ID:rE/AEuF2O
-
詰まるところ、一般人以外の者しかここを通れないのだ。
「一般的でない人間」という意味では、
彼女にもここを通る資格があるのかもしれない。
しかし、あまりにも不釣り合いだ。
紫の髪が、このように雨で滴り濡れそぼっている方が似合っている。
从'ー'从「雨、止んじゃったね〜」
天気予報では雨は降らないとされていた今日になぜか降った豪雨、
それを少女は「そういう『現実』だったのか」と甘受した。
というのは建て前で、実際はなにが起こったのか、すぐに理解できていた。
同じ『拒絶』の一人であるショボン=ルートリッヒ、彼の仕業だろう、と。
だからといって彼女のすることに何か変化が起こるのか
と問われれば、『現実』はそうではなかった。
彼女は雨が降ろうが地割れが起ころうが、
自分のすることを手のひらを返すように変えることはない。
ただ、満たされたい。
受け入れられたい。
それだけなのだ。
.
- 331 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 21:42:23 ID:rE/AEuF2O
-
从'ー'从「でも……呆気ない、呆気ないなぁ、きみィ!」
足下で、屍の如く倒れている男を蹴飛ばす。
所々から出血が確認され、着ていたスーツはぼろぼろになっていた。
男は力なく呻くだけで、立ち上がれそうにもなかった。
それを見ておもしろくなかったのか、少女はもう一度男を蹴った。
とばされた男が地にぶつかってバウンドする際、
飛ぶはずであろう方向と反対方向に向かって躯が跳ねた。
そして、男は力を振り絞って立ち上がろうとする。
少女はそれを見て、にやりとした。
まだ動けるではないか、と。
心の底から、そのことをうれしく思った。
从'ー'从「ひゃっは〜! 水たまりがあちこちにあるよ〜!」
そう言って、彼女は近くの水たまりを踏んだ。
水しぶきが、パシャっと跳ねた。
その飛沫の色は赤色だった。
.
- 332 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 21:43:34 ID:rE/AEuF2O
-
と少女がふざけてみたのはいいが、
向かいにいる男はそれを見てはいなかった。
相手にされない寂しさを少女は感じた。
だから、途端にムスッとして、今にも泣き出しそうになった。
从;ー;从「こっち見てよ〜!」
从'ー'从「あ、でもいいや」
从;ー;从「ヤダヤダ、やっぱこっち見てよ〜」
从'ー'从「どうでもいいけどねっ!」
狂ったように一人で芝居をしていると構ってくれると思ったのだが、
男はその予想に反し、ついに動かなくなってしまった。
動くのか動かないのかはっきりさせてほしい、と少女は思った。
ものは試しに、と思って少女は近寄ってみた。
男は、うつ伏せに倒れたまま、びくともしない。
距離が一メートルになった辺りで、少女は屈み込んでみた。
絶命したなら、その顔を見てみたかったのだ。
.
- 333 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 21:46:01 ID:rE/AEuF2O
-
そう思い手を伸ばした。
その瞬間、男は動いた。
从'ー'从「わわっ!」
左手が急に伸び、少女の喉笛に向かって手刀が繰り出された。
その瞬間、少女は驚異的な反射神経で真上に飛び上がった。
直後に男が逆立ちする勢いで少女を蹴り上げようとした。
完全な不意打ちで、その男がもっとも得意とするものだ。
だが、少女には関係なかった。
男は、この蹴りの速度ならどんな跳躍でも撃墜できると思ったのだろう。
だが、男の失態は、その読みの前提≠セった。
从'ー'从「バカだよ、おめー」
五メートル後ろに着地した少女は、そう言った。
男はいつでも動き出せるような体勢で立った。
じっと少女を睨み、殺気を放っている。
少女も負けじと、鋭い視線を送る。
泣いたり笑ったり怒ったりと、少女の感情の起伏は激しかった。
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- 334 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 21:46:51 ID:rE/AEuF2O
-
从'ー'从「ジャンプなら蹴り落とせる、って思ったんでしょ?
わ〜小学生レベルの知識じゃん!」
从'ー'从「だけどざ〜んねん。ボク、跳んでないんだ」
从'ー'从「ただ重力の向きを『反転』しただけなんだよ〜」
从'ー'从「凄いでしょ、目にも留まらない速さで動けるんだから」
从'ー'从「欲しい? この《拒絶能力》欲しい?」
从'ー'从「いいよ、あげる〜」
从'ー'从「って、誰がおめーなんかにやんだよハーゲ!」
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- 335 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 21:48:27 ID:rE/AEuF2O
-
从'ー'从
从'ー'从「……」
从'ー'从「なーんか飽きちゃった」
少女の顔は、元の何も受け付けないような表情へと戻った。
そして、構えを崩さない男に一歩ずつ歩み寄っていった。
その瞬間を、男が捕らえた。
一瞬のうちに跳んで後ろの壁を蹴り、
加速して拳を構え、少女めがけて振り払った。
本来ならここで少女の首が飛んで、
形勢逆転どころか試合が終わっていただろう。
しかし、相手がこの少女だったため、それは叶わなかった。
从'ー'从「ムダムダ」
髪の毛一本分ほどにまで詰め寄った男だったが、
なぜかビデオの巻き戻し再生を体言しているかのように′繧の壁にまで飛ばされた。
否、飛ばされたというよりかは、文字通り巻き戻された≠ニ言うべきだ。
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- 336 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/20(金) 21:50:23 ID:rE/AEuF2O
-
「またか」と、男は胸中で呟いた。
背中を壁に強く打ち付けた。
軽い脳震盪が起こり、今度こそ男は力なく倒れた。
それを少女は眺めていた。
地に倒れた数秒後に、少女は男の前に立った。
そして、男の頭を踏みつけた。
从'ー'从「弱い、弱いよきみ」
从'ー'从「そんなんじゃ満たされないっての」
从'ー'从「より強く、大きなものの方が
跳ね返したものも強く、大きくなるんだから。
弱い力じゃ、跳ね返したって楽しくないの」
从'ー'从「……はぁ」
そう言って、少女は男を担いだ。
名も知らぬ、ただ対処を任されただけの相手だ。
こんな程度の男のどこに自分を遣わせる程の価値がある。
少女は、そう思っていた。
从'ー'从「ショボン君のところに行ったら、もっと強い人と会えるかな〜」
そう言って、彼女は呑気に歌をうたいながら煉瓦敷きの裏通りを後にした。
いくつもの血だまりや水たまりしか、そこに残ったものはなかった。
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- 340 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 17:54:29 ID:VvUQAnUUO
-
◆
ハインリッヒの眼が赤く染まった。
同時に、上に欠けが向いた半月の模様がくっきりと浮かんだ。
「またか」と内藤は思った。
(´・ω・`)「ショータイム……?」
ショボンがそう復唱した時、
ハインリッヒの残像が口を開いていた。
残像が消え、背後のずっと向こうの大岩の上にハインリッヒがいたことを、
ショボンは彼女の声を聞いたときに漸く理解した。
从 ゚∀从「『現実を拒み続けエソラゴトを並べる悪党など、言語道断ッ!
正義の使者として、この私が貴様をぶっ潰す! 覚悟ッ!』」
(´・ω・`)「……いつの間に……」
从 ゚∀从「この『現実』を受け入れなぁッ!」
その驚異的な移動速度にショボンが感嘆の声を漏らした。
しかしハインリッヒはそれを聞くつもりはなかった。
怒号に近いその啖呵を切って、大岩から飛び降りショボンのもとへ向かった。
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- 341 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 17:55:23 ID:VvUQAnUUO
-
(´・ω・`)「!」
从 ゚∀从「顎ッ」
ショボンが次なる迎えるべき
『現実』を考えているうちに、ハインリッヒはそこにいた。
膝を折り曲げ、しゃがんだ状態でショボンの足下にいたのだから、
ショボンも認識が追いつかず反射的に退くしかなかった。
それを読んでいたハインリッヒが、顎に向かってアッパーカットを放った。
駆け出しながらの拳なので、そのリーチは三メートルにも伸びた。
(´゚ω・`)「がっ……」
从 ゚∀从「とらッ!」
後方へと飛んでいくショボンの背中に
ハインリッヒの鋭いつま先が向けられた。
音速を超えたハインリッヒの蹴りをもろに喰らい、
ショボンは思わず呻き声をあげた。
しかし、ハインリッヒはそれだけでは満足しない。
呻き声が消えないうちに次の攻撃へと繋ぐ。
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- 342 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 17:56:30 ID:VvUQAnUUO
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足を蹴り上げることで大きく下げた頭を、
ショボンの脳天に思い切りぶつけた。
頭蓋骨のなかで随一の厚さを誇る額での攻撃だから、
相手が並の人間ならば、その脳天は砕け散り脳漿の飛沫があがっていただろう。
それでもハインリッヒは攻撃の手を休めない。
躯を左に捻り、左の裏拳を向かわせた。
通常の打撃力に加え、慣性の恩威を受ける裏拳は、
音速の壁を超えることで更なる威力を有していた。
左の裏拳が、ショボンの左のこめかみに直撃した。
めり、と何かの音が聞こえた。
ハインリッヒは尚も回転していた。
そのまま躯を捻り、今度は右の正拳で再びショボンのこめかみを狙った。
その一発一発は非常に重く、トラックなんかだと
まるで発泡スチロールのように脆く砕けてしまうような威力だった。
なのに、その速さはプロボクシング界の左フックをも超える。
物理法則から『優先』される恩威を受けた『英雄』だからこそ、成せる連続技だった。
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- 343 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 17:59:31 ID:VvUQAnUUO
-
(´ ω゙#,)
从 ゚∀从「おっとこっちだ!」
ショボンは、顔の左半分が見るに耐えない程に壊されていた。
右半分がまだ健全なのを見て、ハインリッヒは今度はそちらを狙おうとした。
音速に『優先』して、ショボンよりも速くショボンの着地点に向かった。
ハインリッヒの到着と同時に、彼女は左足を軸に躯を反時計回りに回転させた。
浮かせた右足に慣性をつけ、持ち前の速さと威力に上乗せした。
そして、一秒後にやってくるショボンの頭部を狙った。
ショボンがやってきたと同時に、彼はそのままハインリッヒの踵を喰らった。
その破壊力を知らしめるかのように鳴ったのか、顔面が砕ける音がした。
そのまま蹴り払って、ハインリッヒは跳躍した。
ショボンの着地点に向かって、急降下しながら膝蹴りを見舞った。
腹のなかの空気を全部吐き出したが、不思議と苦悶の声はあげてなかった。
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- 344 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 18:01:29 ID:VvUQAnUUO
-
( ;゚ω゚)
内藤も、そのハインリッヒの動きと強さに圧巻されていた。
――否、彼が驚きを隠せないでいたのはそのためではない。
「『拒絶』はこの程度だったのか?」
内藤は、そう思っていたのだ。
少なくとも自分が考えていた『拒絶』は、
並の『能力者』が相手ではそう簡単には負けない、
むしろ圧勝できる程の実力を持っていた。
そのため、いくら急成長を遂げたハインリッヒ相手と言えど、
ハインリッヒに触れることすらできずに負けるわけないのではないか、と思っていた。
从 ゚∀从「(……呆気ねぇ)」
実際、ハインリッヒも手応えを感じていなかった。
最初思っていた感じでは勝てないと懸念していたのに、
『現実』はこのように自分が圧倒的に優勢でいられているのだ。
ショボンの右膝を自身の右足で蹴り砕いて、
ハインリッヒは少し不自然すぎないか、と思った。
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- 345 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 18:02:50 ID:VvUQAnUUO
-
从 ゚∀从「(『人体』に『優先』して心臓でも貫こうか……?)」
念には念を入れて、オーバーキルを考えていたハインリッヒだが、
徐々にそれの必要性もなさそうに感じてきた。
良心が芽生えたとか、油断したというわけではない。
ただ、不自然すぎると思っていただけだ。
しかし、それさえもが『嘘』ではないのかと思った。
実際、モララーの【常識破り《フェイク・シェイク》】では、
完全に自分たちを錯覚させていたではないか、と。
いや、錯覚ではない。
『嘘』が『真実』にさせられていた。
そんなモララーと同格のショボンが、
果たして何もしないままでこのまま朽ち果てていくものか。
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- 346 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 18:03:30 ID:VvUQAnUUO
-
从 ゚∀从「(……やってみるっきゃねぇか)」
ショボンの腹に拳を突き、彼を天高く殴り上げた。
そして少ししゃがんでから跳躍した。
その勢いを拳にのせ、同時にハインリッヒは『人体』にも勝る『英雄』となった。
このまま心臓を殴れば、勢いと威力が相俟って
間違いなくショボンの心臓は吹き飛び、絶命するだろう。
そう思って右の拳を構え、そして、放った。
(´ ω゙#,)
从 ゚∀从「――」
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- 347 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 18:04:14 ID:VvUQAnUUO
-
(´・ω・`)
从;゚∀从「ッ!?」
しかし、殴りかかろうとしたまさにその瞬間、
ショボンの崩壊していた顔、四肢、胴体の全てが元に戻り、
そして一瞬にして姿を消してしまった。
ハインリッヒの拳はむなしくも空をきった。
風を切る音は、内藤にまで届いていた。
そんな速度の拳を、空中移動で避けられるはずもない。
ショボンがそんな機敏な動きをするはずもない、
そう思っていたところ。
(´・ω・`)「下だよ」
从;゚∀从「っ!」
地上で、ショボンが不敵な笑みを浮かべて
ハインリッヒを見上げているのが、
なんてことのない声をかけられたことでわかった。
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- 348 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 18:05:07 ID:VvUQAnUUO
-
すぐさま慣性に『優先』して体躯を落とし、
ショボンから十メートルほど離れたところに着地した。
そのときのハインリッヒの顔は、周章以外のなにものでもなかった。
ショボンは、先ほどまでの殴打の嵐が『嘘』のように、
いたって健全な姿で立っていた。
ぼろぼろにしたタキシードは元通りの姿に。
骨を砕き肉をちぎった肉体も、元通りに。
あれほど飛び散っていた脳漿や血はおろか、今や傷跡すら見あたらないでいた。
それを見て、ハインリッヒは驚かないはずもない。
まして、彼は瞬間移動をしたのだ。
驚きに驚きが重なって、もう何がどうなっているのかわからなかった。
ハインリッヒが現状把握に努めるなか、
タキシードについた埃を手で払って、
ショボンは先ほどまでと同じような語調で言った。
.
- 349 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 18:06:36 ID:VvUQAnUUO
-
(´・ω・`)「どうしたの? 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして」
从;゚∀从「――」
ショボンがそう声をかけても、ハインリッヒは返事をできないでいた。
声としては認識しているのだが、どう返せばいいかわからなかった。
それを察したショボンが、丁寧に解説をした。
ハインリッヒとは対照的に、どこまでも冷静な姿だった。
(´・ω・`)「あ、もしかして『僕をぼこぼこにする』とかいう『現実』を夢見ていた?
. 甘い、甘いよハインリッヒ。『現実』はそう甘くない」
(´・ω・`)「『現実』は『僕は全く傷ついていない』んだ。
. 甘んじて受け入れてくれ」
そう言って、ショボンは口角を吊り上げた。
その笑顔は、モララーのそれと同じくらい
見ていて嫌悪感を催すものだった。
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- 350 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 18:09:54 ID:VvUQAnUUO
-
それは内藤にとってもだ。
今の一連の『現実』は『現実』でないと言いたげな顔をしていた。
だが、これは「現実(ノンフィクション)」ではなくて、
しかし同時に『現実(ストーリー)』でもあるのだ。
从;゚∀从「『現実』じゃないって――。
さっきまでぼこぼこにしてたのは『現実』じゃねーか!
てめぇ、実はモララーだろ! 『嘘』を『混ぜた』んだろ!」
それは考えられないことでもなかった。
モララーの【常識破り】は、『嘘』を『混ぜる』ことで
それを実現させる能力と言ってもあまり誤りではなく、
限定的ではあるがそのような用法も使えるのだから。
そして、そうである以上、
『ここにいるのはモララーでなくてショボンだ』という『嘘』を『混ぜ』たとするならば、
ハインリッヒが今戦っているのは実はモララーだ、という可能性もなくはないのだ。
.
- 351 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 18:11:03 ID:VvUQAnUUO
-
しかしショボンは笑った。
紳士的なそれとは違う、『拒絶』独特のものだった。
(´・ω・`)「モララーみたいなペテン師と一緒にしないでくれ。
. 彼は嘘つきなだけで、嘘を暴けば『現実』は帰ってくるんだ」
(´・ω・`)「でも僕は違う。
. これは紛れもない『現実』なんだ。
. 抗おうが認めなかろうが泣こうが喚こうが拒もうが、
. 決して避けることのできない『現実』に他ならない」
(´・ω・`)「僕は瞬間移動を使えるからね。
. それでハインリッヒの最後の拳をかわしたんだよ」
从 ゚∀从「さっきのかよ……」
状況を徐々に理解できてきて、
ハインリッヒは漸く落ち着きを取り戻せた。
汗を振り払って、ショボンをきッと睨みつけた。
.
- 352 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 18:14:19 ID:VvUQAnUUO
-
しかしショボンは動揺しない。
不気味な笑みを浮かべたまま、彼は続ける。
(´・ω・`)「僕は『現実』が嫌いだ。
. 強い人が弱い人に勝ち、
. 強い人が笑って弱い人が泣き、
. 強い人が感じる幸福の半分も弱い人は得られないなんていう、理不尽な『現実』が」
(´・ω・`)「でも僕の魅せる『現実』は違う。
. 『現実』が常識や法則で進むとは限らないんだ」
(´・ω・`)「人はそれを『絵空事』と言う。
. 無価値で空虚で不気味な戯言だ、妄言だと言う。
. 起きたまま見る白昼夢、なんて言われたこともある」
.
- 353 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 18:15:40 ID:VvUQAnUUO
-
(´-ω-`)「―――それがどうした?」
(´・ω・`)「戯言だろうが妄言だろうが『絵空事』だろうが、
. 起こり得てしまったことは全て『現実』なんだよ」
(´・ω・`)「じゃあ、人々はその『現実』に対してどうすると思う?」
(´・ω・`)「拒絶するんだよ。
. 『現実とはなんたるか』を語っておきながら、
. 自分が信じられないってだけで『現実』から逃げるんだ」
(´・ω・`)「気がつけば僕と人々との立場が逆転してるよね。
. 人々が言う『現実』が『絵空事』なんだ」
(´・ω・`)「僕は、それが許し難い。
. 弱い人を救済したら、今度は強い人が泣く番だ。
. ずるくないか? 昨日まで威張ってた偉い人が、
. 一日で手のひら返してへこへこするんだから」
.
- 354 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 18:17:05 ID:VvUQAnUUO
-
(´・ω・`)「でも、ハインリッヒはどうだろう?」
从;゚∀从「……は?」
ハインリッヒは不機嫌な声を漏らした。
(´・ω・`)「この信じられない『現実』を、「現実」として受け入れてくれるかい?
. 『拒絶』を、受け入れてくれるかい?」
从;゚∀从「……………」
ハインリッヒは、ショボンの恐ろしさを改めて知った。
なにも、《拒絶能力》だけではない。
彼の、その秘めたる精神が、怖いのだ。
恐ろしいことを平然と言ってのける精神が。
そして、内藤の言っていたことも同時にわかった。
――彼は、『現実』を拒絶したのだ。
耐え難い『現実』を、『現実』として受け入れなかった。
その結果、拒絶の精神が生まれ、『現実』をねじ曲げてしまうようになったのだ、と。
.
- 355 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 18:18:10 ID:VvUQAnUUO
-
問いには答えず、ハインリッヒは虚勢を張ることにした。
弱気な姿を見せてはいけないという常識の配慮もそうだが、
なぜか、ここで折れると本当に起こってはならない『現実』が起こってしまいそうに思えたのだ。
从 ゚∀从「……そんなに自分を受け入れてほしけりゃ……。
『俺が絶命する』という風に『現実』をねじ曲げればいいじゃねえか」
そう言って、同時にショボンの反応も知りたかった。
案外、そこから突破口が生まれるかもしれない。
出会い頭でそうしない以上、
おそらくショボンには何か考えがあるのだろう、と思った上での張った虚勢だった。
ところが、ショボンの返答は
ハインリッヒの思っていたよりもかなり斜め上を通っていた。
まず、彼は大袈裟にかぶりを振ったのだ。
.
- 356 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 18:19:40 ID:VvUQAnUUO
-
(´・ω・`)「とんでもない!
. 拒絶したくなる『現実』を受け入れてくれなきゃ、
. 僕がはるばるここまでやってきた意味もないよ」
(´・ω・`)「確かにそんな『現実』にすることもできるけど、さ。
. 『拒絶』を味わわないうちに死なれちゃ、全く満たされないからね」
(´・ω・`)「『現実』を受け入れた上で、苦しんで死ね」
从;゚∀从「……」
从;゚∀从「(つまり、自分と同じ苦しみを――『拒絶』を、味わえ………ってか)」
予想を遙かに上回っていた、人間とは思えない非道さを
目の当たりにして、ハインリッヒは眩みそうになった。
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- 357 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 18:21:17 ID:VvUQAnUUO
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(´・ω・`)「――てなわけで」
从;゚∀从「……」
ショボンの雰囲気が変わったところで、
ハインリッヒは一歩、後退した。
計り知れない、威圧感に似た拒絶を躯全身で浴びることで、
彼女はすっかり怯えに近い感情を生み出してしまっていた。
しかし、その怯えは『拒絶』に対する拒絶。
それの向かう先は、元の「現実」。
だが、その「現実」は『現実』となって
ショボンの手でねじ曲げられてしまう。
理論で言えば、ハインリッヒがショボンに勝てるはずがない。
『拒絶』を拒絶しようとすると、その「現実」がねじ曲げられるからだ。
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- 358 名前: ◆qQn9znm1mg :2012/07/21(土) 18:22:11 ID:VvUQAnUUO
-
(´・ω・`)「僕の話はおしまいだ。
. ―――はじめようか」
.
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