- 541 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:05:47 ID:nXO.fptE0
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( ^ω^)は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです
第二部 → 拒絶編 《 番外編 》
◆ マイナス一話 「 拒絶の雀が鳴くようです 」
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- 542 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:06:41 ID:nXO.fptE0
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アニジャが席を突然立ったのは、そろそろ夕闇が裏通りから視界を奪う頃であった。
バーボンハウスへの道も同様に暗くなるため、この時間帯になると
常連――『拒絶』たち――以外がここに来ることはまず不可能になる。
その視界のことを憂慮したのか。
しかし、いままでに関して言えばそのようなことはなかった。
蜘蛛の巣のように張り巡らされた裏通りだが、彼はその主要なルートをだいたいは把握しているからだ。
たとえ暗くなろうが酔っ払おうが、彼が裏通りに迷い込むことは、そうなかなかなるものではなかった。
だからこそ、彼が席を立ったのはほかの理由によるものだと思った。
いつものように無心のままグラスを磨いていたトソンは、そこが気になった。
(゚、゚トソン「どうしたのです」
( ´_ゝ`)「……ん」
黙ってバーボンハウスから出て行こうとするのを、トソンは止めた。
対するアニジャは、いつものような沈着さ以上の能天気さを見せながら、顔だけをこちらに向けた。
その顔は、どこか赤みを帯びていた。
(゚、゚トソン「もうお帰りとは、珍しい」
( ´_ゝ`)「ちょっと……久々にアルコールがまわったみたいでな。 風に当たってくる」
(゚、゚トソン「悪酔いですか。 それはそれで、珍しい」
( ´_ゝ`)「『不運』だっただけだろうよ。 おえ……」
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- 543 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:08:11 ID:nXO.fptE0
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(゚、゚トソン「……」
ただのアンラッキーだ。
そう言い残して、アニジャは鐘の音だけを残して去った。
ほかに店内に残っているのは、いつもの面子だった。
顔を見るでも、声を聞くでもなく、ただ空気を見るだけでわかる。
とても人間が発するものとは思われない禍々しいオーラを漂わせている「人外」たちだ。
彼らは、アニジャが席を外したことはまるで気にも留めないで、
いつものように酒を呑んでは頭が狂しくなるようなやりとりを交わしていた。
顕著だったのが、ワタナベだった。
从'ワ'从「あっひゃひゃははひひゃらほら!!」
( ・∀・)「なあ……酒って踊りながら呑むもんじゃねえから……」
从'ー'从「なんだよー」
( ・∀・)「いや鼻から呑むもんでもねえから……」
从^ワ^从「あっひゃらほららあああっはははははひゃ!!」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「…」
.
- 544 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:09:27 ID:nXO.fptE0
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酒癖の悪いのはワタナベだけではないが、彼女の場合は特例だった。
ただでさえ「人外」じみた思考を持つ『拒絶』のなかでも、更に飛び抜けて思考回路がねじれているのだ。
『拒絶』のオーラに耐性を持つトソンでも、ワタナベのその酒癖の悪さには圧倒されるものがあった。
モララーにいたっては、自分が呑もう、呑もうとする酒に逐一なにかいたずらをされるため、たまったものではなかった。
(´・ω・`)「これだから彼女と酒を呑むのは嫌なんだ」
从'ー'从「あァァん? 眉毛引っこ抜くぞビチうんこ野郎!」
(´・ω・`)「すまないが、これはアイデンティティーでね」
そう言うと、ショボンはワタナベに背を向けて、ようやく出されている酒に口をつけた。
彼もワタナベと同じくらい酒癖が悪いのだが、今日はまだそんな調子ではなかったようだ。
だが、その一因がワタナベにあったというのを見ると、彼はワタナベよりはまだ酒癖がましなのかもしれない。
ショボンが自分に興味を示してくれなくなったので、ワタナベは気を取り直して再び有頂天になった。
重力の向きを『反転』させては「天井に立ち」、零れ落ちる酒にかかっている重力をも『反転』させてはそれをグラスに注がせた。
曲芸じみたそれにスキルを使っているのを見て、モララーは更に呆れ返った。
いまワタナベが手にしている酒は、元はモララーが呑むつもりだったものなのだ。
( ・∀・)「おまえよぉ」
( ・∀・)「遊ぶんはいいけどよ、ヒトの酒を邪魔するもんじゃねーだろ?」
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- 545 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:10:38 ID:nXO.fptE0
-
从'ー'从「ケンカ売ってんですかあー!!?」
モララーの挑発的な言葉を見て、ワタナベはその『反転』を消し、元通り地上に足をつけた。
酒がまわっているとは言え、元はと言えば「戦闘狂」。
それも、《拒絶能力》というとんでもない次元の強さを誇るそれを握っている。
モララーの言葉は、その戦闘狂の魂を呼び起こさせるのに充分なものであった。
( ・∀・)「ほぉ〜〜ッ! おまえ、俺とヤるってのか!」
モララーも椅子から腰を上げ、首の関節の音を鳴らしながら立ち上がった。
両手はわき腹に当てている。 ワタナベを見下しているというのを、態度で示していた。
「戦闘狂」で言えば、それはモララーのほうがより上だ。
そのため、元の発言が意図して挑発的に放ったものではなかったとしても、
ワタナベにこう言われた以上はモララーもそれに乗るしかなくなるのだ。
もしくは、それを読んだ上でワタナベはわざとそう言ったのかもしれない。
从'ー'从「やーん! いくら払ってくれんの??」
( ・∀・)「むしろカネくれてもやりたかねーわ、おまえだけとは」
从'ー'从「あっそ死ね」
モララーの正面ではなく「背後」に立っていたワタナベは、掌底をモララーの背に向け放った。
自分が立っていた位置と対称点とを入れ替えた――『反転』させたからこそできたワザだった。
そして、それに音は伴わなかったため、完全な不意打ちとしてそれは機能していた。
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- 546 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:11:17 ID:nXO.fptE0
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――そして、ワタナベは勢い余って転んだ。
从'ー'从「………ありゃ?」
( ・∀・)「………」
( ;∀;)「―――ぎゃっはははははははは!! お、おまえ、俺がガチで動こうたあ思ったのか!!」
( ;∀;)「んなもん、『嘘』に決まってんだろ、うーそー!!」
从'ー'从「うっわ、きも! ドヤ顔すんな死ね」
( ;∀;)「ぎゃっはははは!! ハハハハ! ………はは!」
(-、-トソン「……」
トソンは、磨いていたグラスを置いた。
これで、磨き終えたグラスは七つになり、ついにすることがなくなった。
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- 547 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:13:02 ID:nXO.fptE0
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(´・ω・`)「なにをしているのかと思えば……くっだらない」
从'ー'从「ボクねえ、誰に言われるのは構わないんだけど、
てンめえにだけは言われたくねえんだよなア、そーゆーの!!」
(´・ω・`)「それ、昨日も言ってなかったっけ。 それも、モララーに」
( ・∀・)「いや、アニジャだ」
(´・ω・`)「興醒めだ。 それよりも………」
从'ー'从「よぉーーーし、ブッコロ」
「す」と言い終える前に、ショボンは肘を曲げ手を上にちいさくあげた。
無視を快く思わないワタナベを無視して、耳の横で指を弾く。
これは、彼がスキルを発動するときにたまに見られる所作だった。
ショボンが操る『現実』には、なかなか興味が惹かれる。
それは、ベクトルの似通った狂気を胸に抱くモララーだからこそ感じることであった。
そして乾いた音が店内に鳴り響いたかと思うと、テーブル席のうち一つがまるで別のものに変わった。
それを見て、最初は彼がなにをしたのか、誰もわからなかった。
光沢の黒だったテーブルが、一面緑色になっている。
中央に円形のなにかが、また四方に横に長い枠がある。
それを見て、最初に反応を示したのが、意外にも、ネーヨであった。
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- 548 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:13:51 ID:nXO.fptE0
-
( ´ー`)「………ほう。 こいつぁ、おもしれえ」
从'ー'从「あーー、ネーヨちゃんやっと起きた!」
( ´ー`)「耳をかじられた時は、さすがにシメてやろうかと思ったんだがよ。
それは、そうと―――」
ネーヨは、ショボンが創りだしたその『現実』を甘受する。
そしてそれは、実に興の深い『現実』であった。
だからこそ、それまで外部からの干渉を『拒絶』していたネーヨが反応を示したとも言えるだろう。
ネーヨが興味深そうな顔をして言ったところで、ショボンは席を立った。
『絵空事』が『現実』になったテーブルに移動して、ようやく彼は応えた。
(´・ω・`)「『世紀の喧嘩師でも、時には抗えない』だっけ?」
(´・ω・`)「冗談じゃない。 運にも抗えないものなんだよ、こんなのって」
(´・ω・`)「たとえば、麻雀………とか」
──────────────────────────────
※「麻雀」
みんな大好き麻雀。
知らない人のために用語はその都度解説します。
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- 549 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:15:02 ID:nXO.fptE0
-
( ・∀・)「ふーん…。 思ってたよりは、イキな計らいだな」
(´・ω・`)「なんだと思ってたんだい?」
( ・∀・)「六発装填されてる拳銃でロシアンルーレットかなー、とは思ったね」
(´・ω・`)「それなら、飽きた」
( ・∀・)「あっそ。 そーと決まればさっさとやろうぜ」
( ´ー`)「おもしれえ。 点死でやるぞ」
( ・∀・)「………点死?」
( ´ー`)「千で一回死ぬ」
( ・∀・)「………賭けは、やめとこう」
从'ー'从「わ〜〜い、ナベちゃんそれがいい」
( ・∀・)「賭けはナシだ、ナシ!!」
(´・ω・`)「………ふうん」
思いのほか乗り気だな――。
ショボンはそう思いつつ、スタートボタンを押して牌を出した。
ネーヨ、モララー、ワタナベがそれぞれ席に就いて、サイコロを振ることでそのゲームははじまったのであった。
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- 550 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:17:09 ID:nXO.fptE0
-
サイコロを振り、それで順番を決める。
結果、ショボンが親になった。
このとき、カウンターから見ていたトソンは嫌な予感がした。
『拒絶』のなかで唯一彼女だけが麻雀を知らないのだが、それでも、不吉なものを感じた。
(´・ω・`)「僕から……。 マ、当然だね」
( ・∀・)「いいからさっさとしろ」
(´・ω・`)「先にルールを確認しておきたいんだけど、どうする?」
( ・∀・)「東風アリア」
( ´ー`)「半荘ナシナシ」
( ・∀・)
( ´ー`)「半荘ナシナシ」
( ・∀・)
( ・∀・)「……よし、そうしよう」
──────────────────────────────
※「東風アリアリ」
親が一周したらおしまい。
また、簡単にアガれるお手軽ルール。
ポケモンで言うところの見せ合いなし33(ガブリアスはいない)。
※「半荘ナシナシ」
親が二周したらおしまい。
また、アガるには運と実力が必要となる本格ルール。
ポケモンで言うところの見せ合いあり63(ガブリアスはいる)。
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- 551 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:18:27 ID:nXO.fptE0
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(´・ω・`)「やれやれ。 鳴けないんだね」
( ・∀・)「いいからさっさとしやがれ」
(´・ω・`)「することないよ。 アガり」
( ・∀・)「いいからさっ ――――え?」
( ´ー`)「は?」
从'ー'从「ふええ?」
「アガり」。
そう言ったかと思うと、ショボンは配牌の十四を公開した。
その十四は、きれいに整頓されていた。
(´・ω・`)「大四喜、字一色、四暗刻、天和。 四倍役満だ」
──────────────────────────────
※「鳴く」
つまりポンとかチー。
ポケモンで言うところの相手の雨乞いをこちらが利用するアレ。
※「大四喜+字一色+四暗刻+天和」
いろんな役満(すごい役)の複合体。
ポケモンで言うところのバトルタワーを爪ドリルのみで勝ち上がるくらい頭がおかしい。
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- 552 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:19:22 ID:nXO.fptE0
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その瞬間、場が静まり返った。
そして同時に、ワタナベ、モララー、ネーヨの三人は痛感した――「思い出した」。
この世のすべての事象、あらゆる概念、その他一切のものを自由に操る男。
「ご都合主義」以外でこの男を指し示すのが不可能と思われるほど、「ご都合主義」が似合う男。
エ .ソ ラ ゴ ト
人呼んで 【ご都合主義】。
それが、この男、ショボン=ルートリッヒだった。
(´・ω・`)「なあに、きょとんとしている。 これが『現実』さ」
(´・ω・`)「さあ。 十九万二千点だ、払え」
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- 554 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:21:13 ID:nXO.fptE0
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从'ー'从「―――払うのはお前だよ、ばぁぁ〜〜か」
(´・ω・`)「…なに?」
禍々しいオーラを漂わせながらショボンが言ったかと思うと、ワタナベがそう返した。
そのときのワタナベの漂わせていたそれも、ショボンに負けず劣らず邪悪なものであった。
彼女は配牌のうち「二つ」を手に取り、中央に叩きつけながら言う。
その牌二つには、「東」と書かれてあった。
(´・ω・`)「ッ―――」
从'ー'从「おら、チョンボだ」
从'ー'从「てなわけで、満貫払いしていただきまーす!!」
──────────────────────────────
※「東」
いわゆる字牌、風牌。
ポケモンで言うところの珠並に需要がある。
※「チョンボ」
いわゆるルール違反。 でもばれなかったら大丈夫なケースもある。
ポケモンで言うところの道具重複のようなもの。
※「満貫払い」
細かい計算がいろいろあるけど、とりあえず痛い。
ポケモンで言うところの乱2並に威力がある。
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- 555 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:22:50 ID:nXO.fptE0
-
「大四喜」という役には、東南西北の四つの牌が必要となる。
当然、いま彼女が叩きつけた「東」もそのうちの一つである。
また一方で、同じ牌は四つしかない。
つまり、東南西北の牌を三つずつ集めることで成る「大四喜」は、成立しなくなるのだ。
それどころか、今のショボンの牌では、なにも役ができていない。
この状態で牌を公開しアガりを宣言した以上、チョンボが適用されてしまう。
しかし、そんな筈は、ない。
そう思ったショボンが、先ほど自分が見せ付けた配牌を見ると、目を疑った。
あきらかに二つ、見慣れぬものがそこにあったのだ。
(´・ω・`)「……なんだ、これは……」
从'ー'从「さぁー?? なんでしょーね!」
萬子の三と筒子の七――という、これらの役とまるで関係のない牌が、かつて「東」のあった場所にあった。
ショボンはそれを指で前にずらしながら、明らかに邪悪な顔をしてみせた。
──────────────────────────────
※「萬子」
つまり、数字を統括するマーク。
ポケモンで言うところの炎タイプ。
※「筒子」
つまり、数字を統括するマーク。
ポケモンで言うところの水タイプ。
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- 556 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:23:48 ID:nXO.fptE0
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从'ー'从「あれれ〜? 知らないよぉ〜?」
(´・ω・`)「………!」
(´・ω・`)「まさか貴様……ッ、」
(´・ω・`)「牌を入れ替えた≠ネ……!?」
その言葉に、ワタナベはにんまりと、不吉な笑みをこぼした。
口が裂けかねないほどに、口角を吊り上げる。
このとき、先ほどの【ご都合主義】のそれと同じように、皆はまたも、「思い出した」。
テノヒラガエシ
この世のすべての事象、あらゆる概念、その他一切のものを『 反 転 』させる女。
なにが起こっても「手のひら還し」を行ってくる、ある意味において『拒絶』を体言する女。
イレギュラー・バウンド
誰が呼んだか 【 手 の ひ ら 還 し 】。
それが、この女、ワタナベ=アダラプターであった。
从'ー'从「え〜〜、なに急に激おこぷんぷん丸なのお?」
クルワセ
从'ー'从「―――てめえの言う『現実』を 『 異常 』 てやっただけじゃねーかよ」
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- 557 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:24:40 ID:nXO.fptE0
-
( ・∀・)「おうおう、チョンボだチョンボ。 ギャッハハハハハ!」
(´・ω・`)「……なるほど、そういうことか」
( ・∀・)「?? どったの?」
(´・ω・`)「チョンボはきみだ、ワタナベ」
从'ー'从「ふええーーー!!?!?」
( ・∀・)「おいおい、見苦しいぞ」
从'ー'从「だよだよー! これだから童貞なんだ!」
(´・ω・`)「いいか、よく見てくれたまえ」
从'ー'从「どれどれえ?」
そう言うと、ショボンは右手を伸ばして、ワタナベの叩きつけた「東」の牌に親指をのせた。
同様に、手元にある二つの「『異常』られた」牌にも親指をのせた。
そして、それを、親指の腹で磨くがごとく、擦りはじめた。
面白半分のモララーとワタナベは、笑いながらそれを見ていた。
だが、笑っていたのは最初だけで、ショボンが指をのけた瞬間、彼らの顔は真剣味を帯びた。
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- 558 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:25:25 ID:nXO.fptE0
-
(´・ω・`)「ほら。 やっぱり描かれていただけ≠セった」
そう言いながらショボンが見せてきた両手親指の腹は絵の具のようなもので滲んでおり、
一方で卓上にあったその問題の牌は、ワタナベがチョンボを指摘する前のものになっていた。
【ご都合主義】。
『ワタナベの入れ替えた牌は実は絵の具によって細工されたものであった』
―――ショボンは、先ほどまで在った「現実」を、そんな『現実』につくり変えた。
当然、ワタナベは牌に細工などしていない。
ただ、ショボンの牌と自分の牌を入れ替えただけなのだ。
そのため、本来ならばこの牌に絵の具など塗られているわけがない。
つまり、ショボンによって「そういうことになっていた」とされてしまったのだ。
それを見てモララーとワタナベから笑みが消えるのも、無理がなかった。
ワタナベは当然のこと、いよいよ、モララーも面白くなくなってきたようだった。
( ・∀・)「おいおいショボン、キチガイはそこまでにしようぜ」
(´・ω・`)「なんだって?」
( ・∀・)「『そもそも牌を配ってすらいない』のに、脳内麻雀か?」
(´・ω・`)「…!」
从'ー'从「あれれ〜? ………あれ? ハ?」
―――先ほどまで目の前に並べられていた牌は、
元のようなまだ配られていない状態になっていた。
.
- 559 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:27:11 ID:nXO.fptE0
-
(´・ω・`)「貴様……」
从'ー'从「テメエ、なーにシケたことしてやがんだよ」
( ・∀・)「??」
从'ー'从「元に戻せよ。 せっかくボクも一向聴だったのによ」
( ・∀・)「元に戻す?」
少し、悩む素振りを見せた。
そして、モララーは、手を叩いた。
( ・∀・)「……ああ! あれ、おまえらどうした? 酔ってんのか?」
(´・ω・`)「なに?」
( ・∀・)「『さっき南場三局目が終わって俺がダントツトップ』だぜ、今」
( ・∀・)「ちょっと寝ぼけてたか?」
──────────────────────────────
※「南場」
半荘における後半戦。
ポケモンで言うところのイワヤマトンネルで回復アイテムが減って焦りが見えてきた頃。
.
- 560 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:28:40 ID:nXO.fptE0
-
从'ー'从「……!」
なにかに気づいたワタナベは、とっさに雀卓中央に表示されているデジタルの数字列、得点に目をやった。
最初は皆二万五千からはじまったのに、気がつけばそこは
モララー以外の皆の表示が数千なのに対し、モララーだけが九万オーバーとなっていた。
時間に関しても、麻雀をはじめたのはつい先ほどの筈なのに、気がつけばもう数十分経過していた。
いくら人間的な感覚のない彼らであっても、時間的感覚は人並みに持っている。
そのため、今自分がいる世界が『異常』られていることには容易に気がついた。
また、やはり同様に、気がついたことがあった。
これもやはり――いや、こうするからこその<c宴堰[なのだ。
この世のすべての事象、あらゆる概念、その他一切の『真実』を台無しにしてしまう男。
万物に先行する『真実』と表現されている形而上のそれに『嘘』を『混ぜる』男。
フェイク・シェイク
自他共に認める 【 常 識 破 り 】。
それが、この男、モララー=ラビッシュであった。
ホンキ
( ・∀・)「やーっぱ、俺が『真実』だしちまうとこーなるよなァ?」
( ・∀・)「これだから、『常識破り』なナイスガイって言われるんだ」
.
- 561 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:29:27 ID:nXO.fptE0
-
从'ー'从「……っ」
(´・ω・`)「『それはないね。 きみこそ寝ぼけてるんじゃないの?』」
( ;-∀・)「誰がねぼ……ッ!」
(´^ω^`)「おはよう」
( ;・∀・)「チッ! 面倒だ!」
从'ー'从「ふええ〜?」
――ショボンが呪文が如くそう言うと、
「いつの間にか卓上に突っ伏して寝言を言っていた」モララーはがばッと起き上がった。
突っ伏していたため、「目の前に並べられていた」自分の配牌は大きく崩れていた。
モララーがまさか、と思い時計を見ると、元通り「モララーが『嘘』を吐く前」の時間を針は示していた。
すなわち、自分はショボンの言う『現実』に踊らされた、ということ。
これは、二重の意味で面白くなかった。
.
- 562 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:30:12 ID:nXO.fptE0
-
( ・∀・)「――なーんて」
( ・∀・)「今の、当然ぜんぶ『嘘』だよな?」
(´・ω・`)「なにがウ……、……『また寝言』かい?」
( -∀-) Zzz
(´・ω・`)「ふう」
( -∀-)
( ・∀・)「なーんちゃって。 『もう開始から三時間経ってる』とは言え、まだ眠かねえな」
(´・ω・`)「時間に『嘘』ついたところでなにも、」
从-ワ-从「ぐーすかぴー」
(´・ω・`)
( ・∀・)「あらあら。 じゃあ、俺の勝ちってことで終わらせる?」
( ・∀・)「『最後の最後で八連荘と国士無双十三面のトリプル役満が決まった』ことだしな」
( ・∀・)「おやおや、点棒が足りないな。 別にツケでもいいよ」
.
- 563 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:31:37 ID:nXO.fptE0
-
(´・ω・`)「それはおかしいね。 『どう足掻いても僕しか勝てない』って『現実』しかないんだから」
(´・ω・`)「きみの言った戯言は、現実的に、物理的に、生理的に倫理的に宇宙航空学にありえないよ」
( ・∀・)「『嘘みたいな常識破りな運が俺を支援してくれていた』ってのに?」
(´・ω・`)「親、僕だったでしょ? 『僕、天和しか成立しないから』きみに如何なる運が降りかかろうがねえ、」
( ・∀・)「え、親? 『親は俺だった』だろ?」
(´・ω・`)「だったらトソンに聞いたらいい。 彼女は、一局目からずーっと僕のソリティアを見ていたのだから」
( ・∀・)「………。」
(´・ω・`)「てなわけで、だ」
(´・ω・`)「トソン。 きみはわかっているだろう?」
(゚、゚トソン「……ネーヨさんが黙っているってことくらいしか」
(´・ω・`)「ああ、そうだ。 ネー……、……え?」
(´・ω・`)
( ´・ω・)
.
- 564 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:32:51 ID:nXO.fptE0
-
( ー )「………………」
(´・ω・`)
( ・∀・)
从'ー'从「……はッ! ボク、寝ちゃってた! ここはどこ!?」
从'ー'从
( ー )「…………」
从'ー'从「やだ〜、ネーヨちゃん、どーしたの……」
从'ー'从「ね、ね。 はやくJK輪姦しに街に繰り出そうぜ! ほら!」
( ´ー`)「……おめーが輪姦、ってか」
从'ー'从「やった、起きてた! 起きてたよ、みんな!」
( ・∀・)
(´・ω・`)
从'ー'从「あれれ〜?」
.
- 565 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:33:31 ID:nXO.fptE0
-
( ´ー`)「……特別ルールを設けようじゃねえか」
(゚、゚トソン「(ほっ)」
ワタナベに飄々とした態度で接されたネーヨは、うつむけていた顔をあげた。
その顔に思いのほか陰りが生えていなかったことに、トソンは安堵を得た。
それはモララーもショボンも一緒だったのだが、彼らはそれを顔に出そうとはしなかった。
頬杖をつきながら、ショボンとモララーを視界に収めるようにしてそう言った。
陰りというよりもむしろ気味の悪い笑みを浮かべており、それがまたしても不吉に思われた。
(´・ω・`)「ルール?」
( ・∀・)「半荘ナシナシ以外に、なにか?」
( ´ー`)「サマ禁止に決まってるだろボケ」
──────────────────────────────
※「サマ」
イカサマの略。
.
- 566 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:34:24 ID:nXO.fptE0
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( ・∀・)「えー? イカサマなんて、し」
( ´ー`)「サマがばれたら、罰ゲーム。 くそマズいもんをイッキだ」
( ・∀・)「くそマズいもんって?」
( ´ー`)「トソンに任せる」
( ・∀・)
(゚、゚トソン「雑巾ならあります。 さっき牛乳拭いたやつ」
( ・∀・)
ジツリョク
( ・∀・)「よーしおまえら、イカサマはなしだ。 『 真 実 』で行こう!」
从'ー'从「トソンたんの愛のシロい汁? 飲みた〜い!」
(´・ω・`)「やれやれ。 情けないね、フェイク・シェイクの名が廃る」
( ・∀・)「なに言ってんだ。
殺し合いには手を抜いてもいいが、ゲームには全力だ。 そうだろ?」
(´・ω・`)「全面的に同意だ。 ……じゃあ、はじめるか」
.
- 567 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:35:31 ID:nXO.fptE0
-
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- 568 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:37:01 ID:nXO.fptE0
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◆
イカサマ禁止のルールを定めるのは、いわば必然だ。
ボクはいいとして、ショボンを野放しにしていると、ゲームとして成り立たなくなる。
全てを思い通りにされてしまえば、それはゲームではなく、ショボンによる一方的な搾取となるのだから。
ある程度なら、その恩恵をボクに適用させることもできるけど、ショボンのことだから、
ボクの妨害を受けることのない『現実』を適用させてくる。
もしボクの認知できない、予測できないところで都合のいい展開を強いられると、それでショボンの圧勝が確定される。
上っ面だけなら【ご都合主義】に似た【常識破り】にも、対策は必至となるだろう。
【ご都合主義】になくて【常識破り】にある特性には「『嘘』を暴く」作用があるが、それは麻雀では特に意味を成さない。
あれは、いわばスキルを不死身にして無敵にさせるための、防御力のあるものだ。
たとえば自分がツモる運命にある、もしくは既に持っている東を【ご都合主義】に奪われたくがないために
『これは南だ』という『嘘』をついたところで、そうなると南が五個に対して東が三個だけなんて事態が起こるため、そのうちそのイカサマはばれる。
禁止されたイカサマを如何に相手にばれずにするか≠ェ重要となるこのルール下で、
ばれる可能性が一パーセントでもあるイカサマ≠ネど、できない。
この雀卓を囲っているのは、その一パーセントを百パーセントにしてしまう連中なのだから。
そして実際に、この卓にボクが就いている時点で、
僅かな可能性で証明されてしまいかねないイカサマ≠ヘ自ずと封印されてしまったことになる。
理由、そんなもの、言うまでもない。
この四人のなかで唯一、ボクは人の心を読めるのだから。
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- 569 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:39:08 ID:nXO.fptE0
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だが、まだ心は読んでいない。
というより、読めない=B騙されそうで=B
麻雀は元より、スキルを使った戦闘においては天才的な連中ばかりが相手なのだ。
特にショボン。 ショボンはどうせ、自分がマークされていることを誰よりも先に自覚し、意識するだろう。
だが、ショボンは絶対にイカサマをしない筈はない。
奴は、なによりも「自分が負ける」なんて現実を好まない。
だからこそ、自分が警戒されていることを自覚した上で、それを対策し自分が勝てるような『現実』を適用させてくる。
たとえば、配牌にあった不要な二枚を『僕の目が悪かっただけで
実はこれらはドラだった』なんてご都合主義な『現実』をつくったり。
たとえば、牌そのものには手を出さなかったとしても、ボクたちが鳴くことでツモの順番が変わり、
それによって自分が欲する牌を引き寄せる、なんてワザを見せてくるかもしれない。
詰まるところ、たとえボクがショボンの言う『現実』を『絵空事』に還せるからといっても、ショボンが最強であるのには変わらないのだ。
他人の意思をも操れるなど、『拒絶』内ではおろか世界中を捜してもいないだろう。
「すべてを思い通り操る」、「人の意思を自分の意思として扱う」。
そんなワイルドカードを二枚も持っている時点で、ショボン優勢は変わらない。
なら、どうすればいいのか。
ボクが牌を自在に入れ替えることで、先にアガればいいのか。 アホか。 それもだめだ。
手を使わずに牌を入れ替えることができる≠ネんて、ショボンほどではないにしてもチートなことには違いない。
そしてそれは、ばれない≠フだ。
誰も、トソンたんだって山のなかを覗くことはできないし、
もし入れ替えをしてそれを指摘されても、しらを切ることができるのだから。
つまり、ショボン同様にボクもマークされていることになる。
あいつと違って自分に有利な展開を招くことこそできないが、まあ、うん。
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- 570 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:41:30 ID:nXO.fptE0
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从'ー'从「(……へっちょ)」
牌を起こして、ぱっと見た。 へちょかった。 コイツラ
筒子の染め手ならいけるかもしれないが、メンバーが『拒絶』な時点で手が読まれる打ち方はできない。
モララーやネーヨちゃんなら振り込まないよううまく立ち回るだけになるかもしれないが、ショボンはゼッタイになにかをやってくる。
『ワタナベはこの局ではどう足掻いても筒子がやってこなくなる』だったり。
『山のなかにある筒子は実は自分のぜんぶ牌だった』とか。
ばれないイカサマでボクの攻め手を妨害してくるだろう。
それでボクが手のひら還して手を変えようとしたら、ロン。 はっきりとわかんだよね。
ホンイツにチンイツは無理。
ほかにこの手で狙えそうなのは、せいぜいリーチかけての三色くらい。
山からなにか牌を失敬するのも手といえば手なのだけど、それをするとショボンにイカサマがばれるかもしれない。
もし、ボクが失敬した牌がショボンの当たり牌だった、
加えてショボンが『その牌は二順後にツモる』なんて『現実』を適応させていたとすると、『現実』は『異常』られる。
もっとも、そうしたとして、困るのはあいつも一緒なんだけど。
死なばもろとも、な感じで道連れにされちゃあたまらないというのを考えると、これはリスキーだ。
山から牌を失敬するのは、厳しい。
――じゃあ、ボクはどうやって勝てばいいのさ!
とりあえず、ボクはショボンが【ご都合主義】を展開させているのを読んで、奴の言う『現実』を真逆なものにさせておいた。
もし奴が自分に有利になるような展開を仕組んでいたとしたら、これでショボンは脱落確定。
もし奴がなにもスキルを使っていなかったとしても、スキルを使ったら脱落するし
スキルを使わないショボンは敵じゃないし、一番ローリスクハイリターンだ。
やったねナベちゃん!
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- 571 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:43:05 ID:nXO.fptE0
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残るは、モララーとネーヨちゃん。
モララーはモララーで、やっぱりマークはしとかないとだめだ。
麻雀においては【ご都合主義】の劣化だとは言え、チートアイテムには違いない。
しかし、モララーにはボクの【手のひら還し】は通じない。
『俺はここにいる』という例の『嘘』の鎧をかぶれば、
それをそのうち脱ぐことで、その間に受けていた自分への制約を全部取り払える。
たとえば、ボクが、モララーの言うイカサマのための『嘘』を「嘘」に還してやったとしても、
そのあとにモララーが『嘘』の鎧を脱げば、ボクの妨害は全くの無駄になってしまう。
しかも、これはただの懸念じゃなくて、ほんとうに起こりうる可能性がおそろしく高い。
モララーは、『真実』を病的なまでに忌み嫌うのだ。
あるがままの、ありのままの、ありていの自分でなにかに臨むはずがない。
だとすると、ある意味においてはボクはショボン以上にモララーに妨害をしておかなければならない。
でも、妨害しても、たぶん意味がない。 どころか、もっと別のなにかが『異常』られてしまうかもしれない。
心の声を聞こうにも、モララーは心に常に嘘の鎧を着せている男だ、読めるものはせいぜい今晩のおかずの話くらいだろう。
対モララーに関しては、妨害よりも先にボクがアガることが要求される。
幸い、対モララーだけを考えるなら、ボクがいくら山から牌を失敬したところで問題らしき問題は見られない。
奴の【常識破り】は相手のスキルを解除するスキルじゃないんだから、ボクの【手のひら還し】を『嘘』にすることはできない。
それに、ショボンと違ってモララーの場合スキルの対象となるのはボク自身なのだから、
ボクが膜みたいに『反転』を機能させておくと、それだけで充分モララー対策にはなる。
どちらかと言えば、こいつが自分自身に『嘘』を吐くのが怖い。
『俺は世界で一番のラッキーボーイだ』なんて言っただけで、ショボン以上に都合よく牌が集まるかもしれない。
これに関しては、ボクからは妨害できない。 やつがツモるたびに、
その牌とボクの持っているゴミ牌とを入れ替えてやることくらいでしか。
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- 572 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:44:39 ID:nXO.fptE0
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从'ー'从「(きっちいなぁ〜〜)」
だいたいの方針が定まってきたところで、置いておいたネーヨちゃん対策を考えた。
ネーヨちゃんの場合、物理法則を無視した「ゼロ秒行動」で堂々とイカサマをしてくるかもしれないが、
まあ、日頃の酒に対する執着や拘りを麻雀にも見せていたのを見ると、ネーヨちゃんに限ってはイカサマはないだろう。
ネーヨちゃんにはあらゆる妨害が効かないが、妨害をする必要のない打ち方をしてくれるのであれば問題ない。
それよりも、ネーヨちゃんの場合、このメンツのなかで一番強そうだからなあ。
見るからに好きな役はダマテンチートイツって感じ。
スジ引っ掛け引っ掛けでスジに従った待ちをしてきたり。
字牌の地獄単騎から別の字牌の地獄単騎に乗り換えてきたり。
それに、教科書的な打ち方、騙すための打ち方含めて
合理的な打ち方というものを知り尽くしているだろうから、
途中でイカサマをすることで妙な打ち方になったら、それを指摘されるかもしれない。
というより、今回の麻雀におけるネーヨちゃんの方針はソレだろう。
从'ー'从「(まじきっちいわぁ〜〜)」
从'ー'从「(これだから、年寄りクソジジィは。 ボクみたいなぴっちぴち女子○生のほうがゼッタイいいっての)」
(´・ω・`)「さあ、切ったよ。 ツモってくれ」
从'ー'从「およよ〜?」
ここにきて、ボクは未だに自分の方針が決まっていないことに気がついた。
それはそうと、なんでこのしょぼくれはこんな牌切ってんの?
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- 573 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:45:43 ID:nXO.fptE0
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◆
僕は牌を手前の淵に当て、歪だった十四牌を整列させた。
左手を端に当て、右手の親指を右端から左端まで擦らせる。
そのまま牌を起こす。
目に飛び込んできたのは、平生の僕が持つにはありえない牌の羅列である。
つながっていない、独立した牌が多く、聴牌まで持っていくのにあと何手いるかわからない。
平生ならば、この配り終えた段階で僕はアガっている。
そういう現実なんだから℃d方ない、そう言って金を荒稼ぎしたこともある。
だが、今回は違った。
「カモ」になるなにも知らない凡人どもとは違って、
目の前にいるのは、こちらのことを知り尽くしている連中だ。
僕が圧勝するという『現実』に見向きもせず、駄々をこねる連中。
当然、持っているスキルが使えるのであれば、先ほどのような水掛け論じみたスキル合戦がはじまる。
それではゲームにならない、ということで、スキルを含めたイカサマの禁止が発令されたのだ。
僕としては、初手がどうの、攻め方守り方がどうのよりも、こちらのほうが重要なのだ。
ここで、馬鹿正直にイカサマ――はいいとしても、スキルを封印する馬鹿はいない。
要はばれなければ、使っていい≠ニいうルールなのだ。
ならば、如何にしてこいつらの目を欺きつつ、僕に有利な『現実』をつくりだせばいいのか。
それが何よりも重大な問題で、そして唯一の問題である。
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- 574 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:47:21 ID:nXO.fptE0
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理牌はしない。
今まではする必要がなかったし、今もする必要がない。
敵に情報を与える理牌なんて、するだけでお粗末だ。
理牌をするメリットは、せいぜい適当な並べ方をして相手を欺く程度。
こんなもの、並べ替えるまでもなく、ぱっと見ただけでどんな牌がきているのかわかる。
(´・ω・`)「(……みごとにばらばらだな)」
どうやら、【ご都合主義】を展開させなかっただけで、ここまで悪い手が舞い込んでくるようだ。
ほんとうは、今まで「現実」を変えずに麻雀を打ったことがなかっただけなのだが。
しかし、やはり今回は、配牌の段階ではスキルを使うことはできなかった。
スキルのない、正々堂々の勝負。
それはつまり、現実的で具体的な打ち方が要求される、ということだ。
もし最初からツモ切りをしていたら、【ご都合主義】を使ったことがばれるだろう。
また、ツモ切りでなくともツモってすぐに牌を切れば、それはそれでツモの内容を操作した、という推測に繋がる。
コイツラ
僕も『拒絶』も、麻雀に関しては素人ではない筈だ。
だから、ある程度のはやさなら疑われはしないだろう。
だが、僕は別だ。
僕の【ご都合主義】は、ある意味においては最強の、ジョーカーだ。
麻雀というゲームにおいて、「すべてを自分の思い通りにする」というスキルほど強いイカサマのツールはない。
僕の場合、既定事実を変える以外にも、未来の進行を変えることもできる。
ツモの内容を変えずとも、ほかの三人が鳴くような展開をスキルで強要させることで、僕が望む牌を呼び込める。
しょぼい、あまりにもしょぼい初手だが、ここから五順目でリーチをかけ、そのまま一発で振り込ませることくらいならばできる。
しかし、この『拒絶』の面子を前に、五順目なんてラグはあまりにも遅すぎる。
思えば、「イカサマにおいて最強」なのは僕だけではないのだ。
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- 575 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:49:19 ID:nXO.fptE0
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ワタナベも、モララーも、ネーヨでさえ「誰にもばれずにイカサマができる」。
ワタナベは、先ほど僕に見せ付けてきたように、牌の入れ替え。
初手で全ての牌がばらばら、という事態に陥っても、それを天和の手に変えることができる。
逆に言うと、ワタナベのイカサマはその程度のものなのだが、問題はイカサマの手段ではなかった。
彼女のスキルは、「対象を選ばない」。 クルワセ
僕のように牌や展開に限定されたスキルではなく、彼女は相手のスキルさえ『異常』ることができる。
たとえば、僕が望みの牌をツモれるような『現実』を仕込んだとしても、
その『現実』を『絵空事』に戻して――還して≠ュるのだ。
僕が誰にもばれずに『現実』を操作できたと安堵している間に、ワタナベがイカサマをする可能性は、充分高い。
――いや、そもそも、彼女に限らない。
僕はいわば、この三人の皆から、マークされているのだ。
たとえ僕のスキルがばれやすいものだからといって、展開をも抑制し調整することができる以上、
ほかの誰よりも【ご都合主義】が一番強力であるのには変わらない。
配牌前に『僕以外のみんなは罰ゲームが怖いからとスキルを使わなくなる』
なんて【ご都合主義】な展開を強要させることすらできるのだから。
もちろん、一度その『現実』を適用させられてしまえば僕の圧勝は免れなくなるのだから、これもマークされていただろう。
ワタナベが、そんな『現実』を『絵空事』に還したか。
モララーは、『俺はショボンの言う「現実」を甘受する』なんて『嘘』の鎧をかぶって凌いだか。
ネーヨなんて、「んなもん、知らねえよ」なんて一言で一蹴してきたかもしれない。
実際のところ、僕は一つ目、ワタナベのカウンターが怖かったため、そのような『現実』はつくっていない。
そんな、マークされやすいところで<Xキルを使うと、僕が負けるのは目に見える。
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- 576 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:51:30 ID:nXO.fptE0
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皆が【ご都合主義】をどう対策してくるか。
それに関しては、未知数だ、だからこそこいつらが予測し得る場面でのスキルの発動は封印された≠燗ッ然となる。
いや、イカサマ禁止のルールが採用された時点で既に封印されていた、とも見ることができる。
しかし、そんな封印を『拒絶』できる『現実』を、一つだけ、もう適用させておいた。
『僕にとって都合のいい予測不可能な展開が、そのうちに起こる』。
この『現実』ならば、ワタナベの妨害を受けようとも、いくらでも対策がとれるのだ。
もし、『現実』の内容を真逆のベクトルに『反転』させられたなら。
僕が適応させておいた『現実』は『僕にとって都合の悪い予測可能な展開が、すぐに起こる』となる。
もし実際にそうなったとしても、それは「予測可能」なのだから、いくらでも対処のしようがある。
そして、もし実際にそうなったら、ワタナベは僕のイカサマを警戒してスキルを使ってきたということになるのだから、
彼女がこの一局に対してスキルを使ってくるという可能性は非常に高くなることになる。
つまり、そうなっただけで、僕はワタナベに対して優位に立てることになるのだ。
一つだけ、ばれようにもばれることのできない『現実』をつくった。
あとは、ほか三人のイカサマの手口とその対策を考えなければならない。
ワタナベのすり替えは――なんとでも対策がつく。
この卓に僕が就いているだけで、ワタナベはすり替えが封印されているも同然だ。
『ワタナベはすり替える牌を間違えてしまう』なんて展開をつくれば、一発。
もっとも、この『現実』でさえ『反転』させられてしまいそうなものだがね。
もしワタナベが『反転』を常時機能させていたことがわかったら、
彼女にとってメリットとなるような『現実』を一つ適用させるだけで彼女は落ちる。
二順目からベタオリの開始、なんてまぬけな光景を見ることができるかもしれない。
しかも、もしそうなっても国士無双とかチャンタを狙っているとしか思われない――つまり僕の干渉はばれないだろうし、一石二鳥だ。
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- 577 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:52:37 ID:nXO.fptE0
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(´・ω・`)「(皆が牌を立てて三秒……そろそろ切るか)」
僕がこの局でとるべき戦法。
それはずばり、牽制≠セ。
一見イカサマをすると思わせられるような打ち方をして、動揺を誘う。
あわよくば、乗り遅れないためにと便乗してスキルを使ってくる奴が出てくるかもしれない。
もしそうなれば、『そいつのイカサマがあっさりとばれる』展開にして終わりだ。
この術をとることができる以上、便乗はつまり危険な行為となるから誰もしてこないだろうが。
ここで長考をするのはタブーだ。
どんな手にするか、ではなく、どんなイカサマをするのか≠考えているのか、と思われるに違いないからだ。
この一局を勝つための最優先事項は、「疑われない」こと。
疑惑の目を他家にそらすことで、安全にイカサマをして、ちゃっかりアガったりなんてできる。
かといって、素直に定石どおりに手を進めるわけにはいかない。
最速でも五順はいる配牌なのだ、その隙、僕の見抜けないうちに誰かにイカサマでアガられてしまうかもしれない。
せめて三連荘は続けないと話にならない。 だとすると、教科書麻雀もイカサマも長考もできなくなる。
こんな状況でできる有効な一打は、コレ≠オかなかった。
僕は涼しげな顔で、ドラの乗っている筒子の五を切った。
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- 578 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:53:09 ID:nXO.fptE0
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◆
( ´ー`)「(初手三向聴……わるかねえな)」
腹減った。
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- 579 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:55:32 ID:nXO.fptE0
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◆
( ・∀・)「初手ウーピンねえ」
(´・ω・`)「おや、鳴くかい?」
( ・∀・)「俺は基本鳴かない主義でね。 さあ、ワタナベだぞ」
从'ー'从「ふええ〜〜」
これは予想外の一手だった。
ショボンのことだから、ウーピンの暗刻でも握ってそうなものだったけど。
また一方で、ボクの十三牌のうち八個が筒子であるというのもボクを驚かせた一因だ。
筒子で一、二、三、四と一個飛んで六がある。
とにかく、ここで鳴いて一、二、三の順子にして染め手にする、なんてできなくもない。
そうすると、手が早くなる。 ほかのみんなが加速しはじめる頃にアガれたりもできる。
――なーんて思ったかショボン! へいへい、聴こえてるう?
おそらく、これはショボンが『現実』を操作したのだ。
配る段階でボクの手元に筒子が多く来るようにした上で、初手がドラのウーピン。
ボクに鳴かせ染め手を狙わせることで、後々ボクに筒子が来なくなるように操作する。
なるほど、その手は思いつかなかった。
純粋に麻雀面における心理戦を強いてくるとは思わなかった。
まして、イカサマ禁止の緊迫したゲーム、この一戦目は様子見としての要素が強い。
その隙を衝いて早アガりするのはある意味では理に適ってる。
その二択を、ボクに強要してきたのだろう。
ですけど残念。 この一局はベタオリすることに決めているのですよ、ショボンさん。
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- 580 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:56:19 ID:nXO.fptE0
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(´・ω・`)「おや? ツモらないのかい? チー?」
从'ー'从「んこ!」
ショボンの持つスキルも厄介だが、一番厄介なのは誰よりも捻くれたこの性格かもしれない。
ひょっとするとこのゲーム、こいつにだけは負けちゃうかもね。
从'ー'从「はいはいツモりましたぁ、ナベちゃん! だけどクソツモだったから切る!」
( ・∀・)「そういうのはツモを見てから言ってくれよ…」
( ´ー`)「指の感覚でわかんだろうよ」
( ・∀・)「触ってないから言ってんだよ…」
( ´ー`)「感じるものがあったんだろうよ」
ツモった牌と配牌のなかの筒子の九とを【手のひら還し】で入れ替えながら、ボクはそれを切った。
それを見てモララーは鳴いた。
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- 581 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 21:59:21 ID:nXO.fptE0
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◆
从'ー'从「鳴かねえ主義なんじゃねえのかよう!」
( ・∀・)「うっそでぇぇ〜〜〜〜っす!!」
おそらく、ショボンとワタナベは、ってか俺以外のみんなは、配牌時にはなにもスキルを発動していない。
こいつらは二人とも、自分が警戒されまくっていることを自覚し、それに縛られている。
俺も当然警戒されているのだろうが、俺がこの皮をかぶっている限り、こいつらの妨害を受けることはない。
で、俺の方針は最初から決まっていた。 二つ、二つだ。
一つが、ホンロウと見せかけたトイトイ。
もう一つが、俺のイカサマを見抜いてきたところをハメる。
クズだった俺の初手がいい感じになるような『嘘』をついて、牌をそろえる。
筒子の九に索子の一に、萬子の九に。
で、こいつらを鳴いたあとはローワンとスーソウのシャボ待ち。 いいねえ、さいっこうだねえ、相手を欺くって。
たぶんイカサマはばれないと思うけど、ばれたらばれたで即座にそのイカサマを隠すための『嘘』を吐く、もしくは暴く。
そうすることで、俺をサマ呼ばわりした奴を蹴落として、即牛乳だ。
ここでイカサマを証明するために自分の牌とかを見せてきたら、満貫払いのおまけつき。
俺は、誰と戦うにしても、なにで戦うにしても、ノーガードにして攻め一筋だ。
【常識破り】こそがオーバーパワーなのを、とくと見せてやろうじゃないの。
もっとも、一番警戒すべきなのは旦那だ。
おそらく、旦那は小細工なしで強い。
俺らが「旦那はスキルを使わない」と思って警戒を欠いている隙にイカサマしてくる可能性だって無きにしも非ず、だが、
俺の方針のうち前者は、ふっつーの戦法だ。 簡単に見抜かれて、ヤオチュー牌で待ちを組んでくる可能性もある。
旦那がアガる目安は、たぶん五順。
五順以内に、俺はアガる。
マーク筆頭のショボンを親からおろして、俺の快進撃がスタートするのだ。
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- 582 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 22:00:03 ID:nXO.fptE0
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◆
( ´ー`)「(……ホンロウかな?)」
( ´ー`)「(後づけできねえんだし……たぶんホンロウだな?)」
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- 583 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 22:00:44 ID:nXO.fptE0
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◆
(゚、゚トソン「………。」
( ´ー`)「ま、のんびりやろうや」 コト
(´・ω・`)「そういや、賭けはどうするんだい? ピンピンかな?」 コト
从'ー'从「わーい、おにんにんがビンビ……」 サッ
( ・∀・)「あ、ポン」
从'ー'从「はぁ!? てめえブッコロすぞ!!」
(゚、゚トソン
時々、思うことがある。
「人外」同然の『拒絶』というのは、自分たちが思っている以上に、実は人間的なんじゃないか、と。
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- 584 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 22:01:48 ID:nXO.fptE0
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人間の持てる最悪の感情、拒絶。
それの具現化として《拒絶能力》を握り、その代償として人間的な感情が破壊され、
人外なる戦闘力と人外なる思考回路を抱き、人外としての暮らしを強いられる。
精神障害者以上に精神障害者で、妖怪以上に人外。
生きているも死んでいるも同然で、しかし生きているからこそ病的なまでに「満たされること」を求めてしまう。
避けようのない目の前の使命、生きるための義務のためだけに心を削って。
生まれつき目の不自由な人が空の青さを認知できないのと一緒で、
精神の回路が狂ってしまった『拒絶』が人並みの幸福だとか、人情味だとか、そんなものを得られる筈がない。
それは、なんらかの現実や因果や真実が生み出した、いわば悲劇で、ただ自分の運命を呪うしかなくなるのだ。
神のいたずら、というものがほんとうにあったとしたら、
『拒絶』とは神が悪ふざけをしたことで生まれた、哀れな被害者だ。
同情するにできない、「可哀想な」人間たち、それが『拒絶』だと思っていた。
でも。
今、目の前で戯れている四人は、
(´・ω・`)「これは」
( ・∀・)「ぽん」
从'ー'从「あってめえ!!!」
確かに、「人間」をしていた。
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- 585 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 22:02:54 ID:nXO.fptE0
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感情の歪みがやがて現実だの、因果だのそんなものまでをも歪ませてしまうようになった彼らだけど。
それでもやっぱり、豊かな、穏やかな感情は持っていて、
でもその感情体を上から拒絶の膜で覆われているだけなのかもしれない。
その霧を取り払えば、ひょっとすると、
ふつうの人間以上に泣いて、笑って、怒って、幸せを感じたりするのかもしれない。
もし、彼ら『拒絶』がふつうの人間として互いに知り合っていたら。
まわりの人間が羨むほど、憎いほど、仲のいい関係になっていただろう。
結束も、絆も、愛情も、なにも介されていない筈なのに、どうしてそう見えてしまうのだろうか。
感情が欠如することで生まれた凹凸が、そのほかの『拒絶』のそれにうまく噛みあうのだろうか。
だから、結束だとか、そんな建前的なものよりもよっぽど頑丈なのだろうか。
そのうち、ただの『能力者』を殺すだけでは飽き足りなくなるだろう。
そこらの『能力者』なんかよりもずっと強い――彼らを「満たす」ことのできる人が現れないと、
『拒絶』はきっと、もっと大きなもの――いや。 きっと、この星を破壊するだろう。
ただ惰性的、いや、惰性以下で、死同等の苦痛とともに生きるよりは、
星を破壊するというこの上ない「ストレス解消」に手を出すほうが、のちのことも考えなくて済むし、きっと、楽だ。
そうなる前に、もし、この世に彼らを満足させられるほどの『能力者』がいたなら。
彼らが暴走する前に、その暴走を止める意味合いをもって、やってきてほしい。
たとえ、そんな『能力者』と戦うことによって、この平穏が崩れてしまうことになるとしても。
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- 586 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 22:03:39 ID:nXO.fptE0
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(゚、゚トソン「…ん?」
無意識のうちに俯いていた。
彼らの声と無機質な牌の音とで満ちていた店内に、新たな音が舞い込んできた。
断末魔のような、木の扉があげる音。
扉上部につけたチャイムが鳴らす音。
そして、外部の世界から流れ込んでくる、雨の音。
まさか、この時間帯に来客か。
そう思ったけど、やってきたのは――いや。
帰ってきた≠フは、アニジャさんだった。
( ´_ゝ`)「……ふう」
(゚、゚トソン「おかえりなさい。 どうしたのです」
( ´_ゝ`)「雨が降ってきたからな。 今夜は朝までいることにするよ」
(゚、゚トソン「雨……珍しい」
( ´_ゝ`)「なに、ただの『不運』だ」
(゚、゚トソン「アンラッキー……」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「あ」
.
- 587 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 22:04:21 ID:nXO.fptE0
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( ´_ゝ`)「なんだ、麻雀やってるのか」
从'ー'从「ファック!! てめえ、ホンロウじゃなかったのかよ!!」
( ・∀・)「ん?? なんのこと?」
( ´_ゝ`)「あとで誰か代わってくれ」
(´・ω・`)「終わったら、ね」
( ´_ゝ`)「おう」
アニジャさんが引き返してカウンター席に就こうとする。
その間に、彼らは二局目をはじめようとしていた。
牌を卓真ん中にできた穴に押し入れ、スイッチを押して。
私は嫌な予感しかしなかった。
アニジャさんが席に腰を下ろす前に、私は耳打ちをした。
(゚、゚トソン「あ、あの……アニジャさん?」
( ´_ゝ`)「?」
(゚、゚トソン「もうちょっと、風に当たろうとか思わないですか?」
( ´_ゝ`)「いや……だって、雨が……って、なんで?」
(゚、゚トソン「だ、だって……」
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- 588 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 22:05:04 ID:nXO.fptE0
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私が四人のほうを見ると、アニジャさんも見た。
段取りがスムーズに進んでいるようで、もうみんな、牌を切り始めていた。
一見すると、ただ和やかに麻雀を楽しんでいるだけのように見えただろう。
だが、先ほどの局とは、まるで空気が違っていた。
まず、モララーが口を小さく開いたのだ。 「なんだこれ」、と。
その顔には、焦燥かなにかが張り巡らされていた。
( ´_ゝ`)「…?」
(゚、゚トソン「い、いまならまだ、間にあ…」
从'ー'从「……は? なんで裏めるん?」 コト
( ´ー`)「………チッ」 コト
( ・∀・)「あー、これ萎える。 白二連続」 コト
(´・ω・`)「…………、………」 コト
( ´_ゝ`)「なにか?」
(゚、゚トソン「いや、だから、その……」
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- 589 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 22:05:43 ID:nXO.fptE0
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从'ー'从「ファック! ……いや、まじで死ね」 コト
( ´ー`)「……………チッ」 コト
( ・∀・)「白三連続……?」 コト
(´・ω・`)「………どういうことだ……。」 ボソッ
( ´_ゝ`)「よくわからんが……不穏な空気っぽいから、そうするよ」
(゚、゚トソン「あ、もう遅いかも…」
( ´_ゝ`)「え?」
从'ー'从「……………死ね」 コト
( ´ー`)「…………………チッ」 コト
( ・∀・)「今度は發…?」 コト
(´・ω・`)「………なに?」 コト
( ´_ゝ`)
( ´_ゝ`)「……もしかして」
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- 590 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 22:06:37 ID:nXO.fptE0
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その後、牌をとっては一秒せずに切るという流れが繰り返された。
アニジャさんも、私の言いたいことを理解したのか、口数がなくなった。
黙って、後ろめたい気持ちのまま、その四人のやり取りを見る。
やがて、その後ろめたさは最高潮まで達した。
ついに、狂しくなってきたのだ。
从゚ワ゚从「うひゃひゃひゃひゃ!! 切ってなかったら純正九連! うひゃひゃ!!」
从。ム。从「うっひゃひゃひゃひゃおろろおえっぷげろしゃぶりん!!! ひゃひゃひゃ!!!」
( ・∀・)
( ・∀・)「………河で大三元ができてる………」
(´゚ω゚`)「――――あああああアアアアアアアアアアアアア!!?」
(´゚ω゚`)「おい、酒エエ!! 酒だせ、おらあああああッ!!!」
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- 591 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 22:08:54 ID:nXO.fptE0
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アンラッキー
――― 【 7 7 1 】。 アンラッキー
この麻雀にどうしようもない 『 不 運 』 が降りかかった―――
( ´_ゝ`)
( ´_ゝ`)「………ただの『不運』……?」
(゚、゚トソン「おそらく……麻雀に『不運』が起こった、んでしょうね。
. ネーヨさん、モララーにも『不運』が起こってるから………」
( ´_ゝ`)「トソン。 俺、たまには雨にも打たれることにす――」
( ・∀・)「待て」
( ´_ゝ`)「――るのは、遅かったなあ……。」
从;ー;从「てめえだけはまじでブッコロす!!!」
(´゚ω゚`)「おらあああああケツ出せ、ケツ!!」
从;ー;从「ボクの! ボクのチューレン還せやこの野郎おおおあああああ!」
(´゚ω゚`)「―――! 『予測可能な悪い展開』って、テッメエのことかあああああ!!」
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- 592 名前: ◆wPvTfIHSQ6 :2013/08/04(日) 22:09:39 ID:nXO.fptE0
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(゚、゚トソン「アニジャ……さん?」
( ´_ゝ`)
( ´_ゝ`)「………『不運』だ……。」
そう言い残した直後、アニジャは、まあ、みんなにぼこぼこにされた。
それでも生き長らえたのは、私が彼の生命力だとか防御力を高めてあげたから。
……だったら、いいなあ。
◆マイナス一話 「拒絶の雀が鳴くようです」
おしまい
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