481 名前:海を見ていたようです 1/5 :2013/10/10(木) 21:23:15 ID:Ntd.hJ.o0

 誰もが、通り過ぎてしまうような、坂の上。逆に、誰も通らないかもしれない、閑静な通り。

 そこに一軒、ぽつんと建っている、二階建てのレストラン。


 室内の、隅のテーブルに、ぼぅっと座っている、僕。 


 もう、何十年も前の、話。ここは、恋人達の、憩いの場だった。

 知っている人は、もういないかもしれない。都会には、若者向けのカフェが出来たから。

 大きなレストランも、たくさん建った。遊園地だけではない、見て回る場所も増えた。


( ^ω^)


 人の声が聞こえない、静かな空間。

 店内には、甘く柔らかい歌声が、流れている。

482 名前:海を見ていたようです 2/5 :2013/10/10(木) 21:24:00 ID:Ntd.hJ.o0

 橙色のイルカが、グラスの上で跳ねている。

 厚い尾鰭を外に、半身を翠色の海に浸からせて

 海を隔てて見える主と、口付けするのを待っている。


 知っている人は、もういないかもしれない。この場所でしか見られないと、思うから。

 それに、今はもっと、素敵なイルカが見られる。イルカだけではない、造形美が多くなった。


( ^ω^)


 歌声が紡ぐ言葉は、儚く切ない、泡のよう。

 静かな空間に、優しく響き渡っている。

483 名前:海を見ていたようです 3/5 :2013/10/10(木) 21:24:43 ID:Ntd.hJ.o0

 何十年も前の、話。翠色の海を、透かして見た向こうに、貨物船が見えた。

 透明な翠に、揺れる空。透かして見た向こうの景色に、もう一つ。


ξ* ー )ξ


 頬を赤く染めて、微笑みかけている、君の顔。

 僕の、遠い記憶の中で、いつまでも微笑んでいる、君の横顔。

 胸に消えないで、残り続ける、淡い想い。


( ^ω^)

484 名前:海を見ていたようです 4/5 :2013/10/10(木) 21:28:22 ID:Ntd.hJ.o0

 口付けたイルカの、僅かな酸味と甘味。

 過ぎた月日を思うには、なんだか刺激が強すぎて。


( ;ω;)

485 名前:海を見ていたようです 5/5 :2013/10/10(木) 21:29:11 ID:Ntd.hJ.o0

 透かして見た向こうには、もう、貨物船は見えないけれど。

 ぼやけた視界に映る、海の翠は、あの頃と変わらないまま。


 ぽたりぽたりと、頬を伝った雫は、紙ナプキンに、丸い跡を残していった。


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