544 名前:名も無きAAのようです :2013/07/30(火) 21:37:03 ID:bTfJuveg0
 ただひたすら、ありふれた話だ。

人間を憎む魔王が町を潰し、国を支配し、魔物はやりたい放題に暴れまわる。

魔王のいる世界と、これから先の未来に絶望した人々は、希望を求めた。

【魔物を倒し、魔王を殺してくれる勇者】という希望を。

…人々から土地を奪い、財産を奪い、愛する者を奪った魔王とて、
誰かの胸の奥に隠れた希望をも奪うことはできなかったようだ。

【希望】を願う祈りは雲を突き抜け、天まで届き、それはやがて神の知るところとなる。

545 名前:名も無きAAのようです :2013/07/30(火) 21:47:43 ID:bTfJuveg0
魔王率いる魔族に虐げられている人間を、哀れに思ったのかどうか───それは、まさに神のみぞ知るのだろう。

とにかく、人々の望みは叶えられたのだ。
【魔王を倒す希望】が、天から与えられたのである。

……数百年前の、とある日の話だ。
魔王の支配の影響が少ない田舎の集落で、一人の青年が空から垂れ下がる鎖を発見した。
触れてみると鎖は青年の首に巻き付き、力を込めてもどういう訳か外れない。

だが、その鎖は青年に力を与えてくれたのだ。
魔物を苦もなく斬る腕力を。
どれだけ走っても疲れない体力を。
傷ついた体を癒す、魔法を。

546 名前:名も無きAAのようです :2013/07/30(火) 21:58:04 ID:bTfJuveg0
この力があれば、魔王を倒せるかもしれない。

青年は居ても立ってもいられず、魔王を倒しに旅に出た。
立ち寄った町や国で困っている人を助け、そうしているうちに、仲間が出来ていった。

そうして彼は、憎き魔王と対峙するに至ったのである。
天の力を得た青年と、恐ろしい力を振るう魔王との戦いは三日に渡って続いたという。

魔王の一瞬の隙をついた青年が、最後の力を振り絞って魔王に剣を突き刺した。
そこで魔王は死に、精魂尽き果てた青年も、この世を去った。

勇敢な青年は勇者と呼ばれ、後の世まで崇められた。

──そう、書物には記されている。

547 名前:名も無きAAのようです :2013/07/30(火) 22:11:44 ID:bTfJuveg0

物語は、青年が生きていた時代が伝説と呼ばれる頃まで進む。

───魔王が消えたはずの世界に、再び勇者が現れた。

(;^ω^)「魔王は死んだはずだお?それなのにどうして、勇者が現れるんだお?」

ξ ゚⊿゚)ξ「簡単よ。魔王が復活しようとしてるんでしょ」

 これは、【  】ツンの物語である。

548 名前:名も無きAAのようです :2013/07/30(火) 22:20:43 ID:bTfJuveg0
だが、

( ^ω^)「あれ、今の魔方陣、確か書物で見たような…」

その力は、

(;^ω^)「魔物が地中に引きずり込まれて行ったお…。魔法って恐ろしいお…」

…………

('A`)「旅、やめた方がいいような気がするんだ…」

本当に、

川 ゚ -゚)「ここら辺に魔物は出なかったはずだ」

本当に、

( ・∀・)「その魔方陣は…」

天から授かった力なのか?

549 名前:名も無きAAのようです :2013/07/30(火) 22:25:40 ID:bTfJuveg0

ξ ⊿ )ξ「今の話、本当なの?」

 【勇者】ツンの旅の終着点で、彼女はとある人物の魂に触れることになる。

从 ゚∀从「──あぁ、本当だ」

 伝説の時代に魔王を倒して死んだという、件の青年である。
青年は、ゆっくりと真実を語りだした。

550 名前:名も無きAAのようです :2013/07/30(火) 22:44:01 ID:bTfJuveg0

自分は本当に、魔王を倒すための力を授かった。

書物では勇者が魔王に勝利したとあるが、実際は、致命傷を与え、魔王を取り逃がしてしまった。

自分は戦いの傷が元で死亡。
旅の仲間は魔物たちに襲われ、数人を残してほぼ殺された。

逃げた魔王は、復活の機を伺っている。

適当に選んだ人間に、魔王自らの力を込めた鎖を与え、あたかも【勇者】の力を得たと思わせ、自分の元へ向かわせるんだ。
出来るだけ、強く鍛えさせた上で、ね。

……【勇者】の最期?
あぁ、動けない魔王に取り込まれて、それで終わりだ。

いなかったはずの場所に魔物が現れたのは、お前に力を付けさせるため。

魔物を斬らせて、腕力をつけさせるため。
たくさんの魔物の群れから逃げ切る体力をつけさせるため。
魔法を使わせ、お前の魔法力を上げさせるため。

旅路の果てで力を付けた勇者を取り込んで、復活の糧とするーすべて、魔王の手のひらの上だ。

551 名前:名も無きAAのようです :2013/07/30(火) 22:54:11 ID:bTfJuveg0

ξ ⊿ )ξ「じゃあ、私のしてきた事は…」

从 ゚∀从「……魔王復活のための、手助け…だな」

【勇者】ツンに、未来はない。
【勇 】ツンに、希望はない。
【  】ツンに、残されたものは絶望だけだ。

从 ゚∀从「お前はもう助からない」

【  】ツンの絶望をも、魔王が取り込んで糧とする。

从 ゚∀从「勇者なんか、いやしなかったんだよ」

从 ゚∀从「悪かったな、魔王を殺せなくて。俺も、勇者にはなれなかったんだ」

青年は自嘲気味に笑った。
ツンは、何も答えなかった。

552 名前:名も無きAAのようです :2013/07/30(火) 23:01:48 ID:bTfJuveg0
そして────


「嫌……取り込まれておしまい、なんて、そんなの、嫌よ…」

【  】ツンの、

「ツン!!頑張るんだお!!なんとか戦って、魔王から離れるんだお!!」

【 王】ツンの旅路の結末が、

「もう……ダメ…………」

【魔王】に、取り込まれていった。

/ ,' 3「久しく、この世界に戻った気分だな」

 人々を苦しめた魔王の復活である。

553 名前:名も無きAAのようです :2013/07/30(火) 23:08:23 ID:bTfJuveg0

それからどうなったかは、分からない。

少なくとも、この話が残っている以上は、ツンか、もしくは旅の仲間が生きて戻ってきたということになるだろう。

今のこの世界に、魔王はいない。
本当に消えたのか、またどこかに身を隠して復活の機を伺っているのかは、誰も知らないのだ。


勇者と魔王の境界線ξ   )ξ
8月4日公開


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