- 959 名前:名も無きAAのようです :2012/12/15(土) 23:54:38 ID:ZSPrVFJI0
暗い体育館は、熱気に包まれてなんとも言えない雰囲気を放っている。
高校の文化祭、それも最終日となれば、そりゃあ人だって集まるし、目立つ企画に来る。
俺は異様な興奮を放つ全校生徒を一瞥して、荷物を持って4段ほどの階段を上る。
色のあせた木目調のエレキベース。
裏にはベタベタと様々なバンドのステッカーを貼られていて節操もクソもあったもんじゃない。
しかし、表側――ピックガードにはただ一枚しかない。
小うるさい女に無理やり貼らされたそのステッカーは、
真っ白なピックガードの中、申し訳なさそうに端でその存在を主張している。
シールドをつないでワンフレーズ弾くと、後ろで客がざわめき始めるのが聞こえる。
ちらほらとクスクス笑いが聞こえるのは決して気のせいではないだろう。
待ってろ待ってろ。
もう少ししたら、違う意味で笑いが止まんない様な音を聴かせてやるからさ。
- 960 名前:名も無きAAのようです :2012/12/15(土) 23:55:22 ID:ZSPrVFJI0
一通りの準備と音出しを終えて振り返る。
「小うるさい女」が緊張した面持ちでステージに上ってくるのが見えた。
おいおい。そんな調子じゃあできる事も出来なくなっちまうぜ。
「なんだぁ?不安なのか?」
そう軽口を投げると、ソイツは折りたたまれた譜面台をフルスイングして返してくる。
どうやらキャッチボールよりトスバッティングがお好みのようだ。
舌打ちを残して少女はステージの下手側へ。
慣れた様子でスタンドを立てるとその上にキーボードを乗せた
――と言うと怒られるのだ、シンセサイザーが正しいらしい。
シールドを繋ぎ、アンプの音量を見て、さっきの俺と似たような動作をしているのをボーっと見ていると、
もう一人、ステージに上がる人影を眼の端にとらえる
にやけ面のソイツはくるくるとスティックを回しながらステージ中心のドラムセットへ。
ペダルを取り付け、座ると祈るように目を瞑ってスティックを振り下ろす。
スネアが、たん、と鳴る。
続いてバスドラムが、どん、と響く。
- 961 名前:名も無きAAのようです :2012/12/15(土) 23:56:08 ID:ZSPrVFJI0
そいつは納得したように頷き、軽い8ビートで慣らす。
左右に首を振って、粒の揃ったフィルを鳴らす。
その間もソイツの顔はにやけている。
「楽しいかい?」
俺もにやにやしながら聞いてやると、たん、とスネアドラムの乾いた甘い音が返ってきた。
なんとも言えない高揚感に包まれながら目線を客席に戻す。
さっきまでのざわめきは一層その音を大きくして、俺たちを荒く歓迎する
ステージ上の2人の顔を見ると、同時に小さく頷く。
それを見た俺は、右手を上げる。
――その瞬間、ライトが俺らの視界を真っ白にした。
緊張はもうない。
後ろから両手のドラムスティックを打つ音が4つ聞こえると、もう考える必要はない。
体の底から湧きあがってくる、得も言われぬ高揚感に身を任せるだけだ。
3つの音が、体育館を席捲する。
俺らは、自信たっぷりに音を鳴らしてやる。
ここにいる全員の耳をこじ開けて、無理やりにでも音をたたきこんでやるんだ。
連中の五感すべてを俺らの音で支配してやるために、楽器を掻き鳴らすんだ。
- 962 名前:名も無きAAのようです :2012/12/15(土) 23:58:03 ID:ZSPrVFJI0
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( ゚∀゚)「さぁ、ロックしようぜ!」
これは、嫌われ者の後輩たちと、クズな俺の不器用な音楽の物語
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- 963 名前:名も無きAAのようです :2012/12/15(土) 23:58:51 ID:ZSPrVFJI0
( ゚∀゚)y-~嫌われ者ロケンロー!のようです。
いつか後悔
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